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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】セラミック焼結体及び半導体装置用基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/119 20060101AFI20230327BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20230327BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230327BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20230327BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C04B35/119
C04B37/02 B
H05K1/03 610D
H01L23/14 C
H01L23/36 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022529894
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2021043716
(87)【国際公開番号】W WO2022118802
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020201979
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391039896
【氏名又は名称】NGKエレクトロデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】緒方 孝友
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/115868(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/114126(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/115870(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103465(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/060341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/119
C04B 37/02
H05K 1/03
H01L 23/15
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナと、
ジルコニアと、
イットリアと、
シリカ及びマグネシアを含有するガラス成分と、
を含み、
表面側にマグネシウムの濃度ピークを持つ結合層部と、前記結合層部に隣り合う内部側にマグネシウムの濃度ピークが前記結合層部よりも小さい内層部と、を備え、
前記ジルコニアの含有量が、10質量%以上15質量%以下であり、前記シリカの含有量が、0.7質量%以上1.5質量%以下である、セラミック焼結体。
【請求項2】
アルミナと、
ジルコニアと、
イットリアと、
シリカ及びマグネシアを含有するガラス成分と、
を含み、
表面側にマグネシウムの濃度ピークを持つ結合層部と、前記結合層部に隣り合う内部側にマグネシウムの濃度ピークが前記結合層部よりも小さい内層部と、を備え、
前記ジルコニアの含有量が、15質量%より高く25質量%以下であり、前記シリカの含有量が、1.5質量%以上2.0質量%以下である、セラミック焼結体。
【請求項3】
前記内層部は、少なくとも、前記結合層部の内部側に隣接する第1領域と、前記第1領域の内部側に隣接する第2領域と、を有し、
前記第2領域のマグネシウムの濃度ピークが、前記結合層部の濃度ピークよりも小さく且つ前記第1領域の濃度ピークより大きい、請求項1または2に記載のセラミック焼結体。
【請求項4】
前記マグネシアの含有量が、0.1質量%以上0.8質量%以下である、請求項1からのいずれかに記載のセラミック焼結体。
【請求項5】
電子部品を実装するための半導体装置用基板であって、
請求項1からのいずれかに記載のセラミック焼結体と、
前記セラミック焼結体に接合される銅板と、
を備えている、半導体装置用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック焼結体及び半導体装置用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタモジュールなどに用いる半導体装置用基板として、セラミック焼結体の表面に銅板を備えたDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4717960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した半導体装置用基板では、セラミック焼結体の表面に銅板が接合されるが、本発明者は、セラミック焼結体の酸素イオン導電性が高くなると、直流電圧を印加した際にセラミック焼結体と銅板との接合強度が低下し、銅板が剥がれるおそれがあることを見出した。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、銅板が接合された場合において、直流電圧を印加した際にその剥がれを抑制することができる、セラミック焼結体及び半導体装置用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック焼結体は、アルミナと、ジルコニアと、イットリアと、シリカ及びマグネシアを含有するガラス成分と、を含み、表面側にマグネシウムの濃度ピークを持つ結合層部と、前記結合層部に隣り合う内部側にマグネシウムの濃度ピークが結合層部よりも小さい内層部と、を備える。
【0007】
上記セラミック焼結体において、前記内層部は、少なくとも、前記結合層部の内部側に隣接する第1領域と、前記第1領域の内部側に隣接する第2領域と、を有し、前記第2領域のマグネシウムの濃度ピークが、前記結合層部の濃度ピークよりも小さく且つ前記第1領域の濃度ピークより大きいものとすることができる。
【0008】
上記セラミック焼結体においては、前記ジルコニアの含有量を、10質量%以上25質量%以下とすることができる。
【0009】
上記セラミック焼結体においては、前記ジルコニアの含有量が、10質量%以上15質量%以下であるとき、前記シリカの含有量を、0.7質量%以上1.5質量%以下とすることができる。
【0010】
上記セラミック焼結体においては、前記ジルコニアの含有量が、15質量%より高く25質量%以下であるとき、前記シリカの含有量を、1.5質量%以上2.0質量%以下とすることができる。
【0011】
上記セラミック焼結体においては、前記マグネシアの含有量を、0.1質量%以上0.8質量%以下とすることができる。
【0012】
本発明に係る半導体装置用基板は、電子部品を実装するための半導体装置用基板であって、上述したいずれかに記載のセラミック焼結体と、前記セラミック焼結体に接合される銅板と、を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅板が接合された場合に、直流電圧を印加した際にその剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る半導体装置用基板を有する半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
図2A】比較例1の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
図2B】実施例1の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
図3A】比較例1の表面付近のシリコン(Si)の元素分布を示す図である。
図3B】実施例1の表面付近のシリコン(Si)の元素分布を示す図である。
図4A】比較例1の表面付近のマグネシウム(Mg)の元素分布を示す図である。
図4B】実施例1の表面付近のマグネシウム(Mg)の元素分布を示す図である。
図5A図4Bにおける深さ方向のマグネシウムの濃度分布測定を説明するための図である。
図5B図5Aの方法で測定した深さ方向のマグネシウムの濃度分布である。
図6】シリカの含有量とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るセラミック焼結体及びそれを用いた半導体装置用基板の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る半導体装置用基板を有する半導体装置の断面図である。
【0016】
<1.半導体装置の概要>
本実施形態に係る半導体装置は、例えば、自動車、空調機、産業用ロボット、業務用エレベータ、家庭用電子レンジ、IH電気炊飯器、発電(風力発電、太陽光発電、燃料電池など)、電鉄、UPS(無停電電源)などの様々な電子機器においてパワーモジュールとして用いられる。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る半導体装置1は、半導体装置用基板2、第1接合材5、第2接合材5'、半導体チップ6、ボンディングワイヤ7、及びヒートシンク8を備えている。
【0018】
半導体装置用基板2は、いわゆるDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)であり、絶縁体である板状のセラミック焼結体3と、その一方の面(上面)に接合された第1銅板4と、他方の面(下面)に接合された第2銅板4'とを備える。セラミック焼結体3の詳細については、後述する。
【0019】
第1銅板4には、伝送回路が形成されている。一方、第2銅板4'は、平板状に形成されている。
【0020】
この半導体装置用基板2の上面、つまり第1銅板4の上面の一部には、第1接合材5を介して半導体チップ6が接合されている。また、ボンディングワイヤ7により、半導体チップ6と第1銅板4とが接続されている。
【0021】
一方、半導体装置用基板2の下面、つまり第2銅板4'の下面には、第2接合材5'を介してヒートシンク8が接合されている。ヒートシンク8は、公知のものであり、例えば銅などの金属によって構成することができる。
【0022】
次に、上述した半導体装置用基板2の製造方法の一例について説明する。まず、セラミック焼結体3の上面及び下面に第1及び第2銅板4,4'を配置した積層体を形成する。ここで、用いられる各銅板4,4'の表面は酸化されている。次に、この積層体を1065℃~1083℃の窒素雰囲気条件下で10分程度加熱する。これによって、セラミック焼結体3と第1及び第2銅板4,4'とが接合する界面(以下、「接合界面」と総称する。)にCu-O共晶液相が生成され、セラミック焼結体3の各面が濡れる。続いて、この積層体を冷却することによってCu-O共晶液相が固化されて、セラミック焼結体3に第1及び第2銅板4,4'が接合される。
【0023】
なお、第1銅板4に形成されている伝送回路は、例えば、サブトラクティブ法又はアディティブ法によって形成することができる。
【0024】
<2.セラミック焼結体の構成>
次に、セラミック焼結体3について詳細に説明する。セラミック焼結体3は、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、イットリア(Y23)、ガラス成分、及びこれら以外の残部を含む。ガラス成分は、シリカ(SiO2)及びマグネシア(MgO)を含む。以下、このセラミック焼結体3の構成元素の含有量について説明する。
【0025】
アルミナの含有量は、例えば、75質量%以上90質量%以下が好ましく、85質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
ジルコニアの含有量は、10質量%以上25質量%以下であることが好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。ジルコニアの含有量が10質量%以上であることにより、セラミック焼結体3の強度を向上させることができる。また、セラミック焼結体3の線熱膨張係数が過小になることを抑制でき、セラミック焼結体3と第1及び第2銅板4,4'との線熱膨張係数差を小さくできると考えられる。その結果、接合界面に生じる熱応力を小さくでき、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0027】
一方、ジルコニアの含有量を25質量%以下とすることで、銅板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制でき、接合界面にボイドが生じることを抑制できると考えられる。これは、アルミナとジルコニアの銅板接合時のCu-O共晶液相との濡れ性が違うためである。また、ジルコニアの含有量を25質量%以下とすることで、後述するように、シリカの含有量を高くすることなく、セラミック焼結体3のインピーダンスを向上することができる。
【0028】
イットリアの含有量は、0.8質量%以上1.9質量%以下とすることが好ましい。含有量を0.8質量%以上とすることで、ジルコニア結晶相のうち単斜晶相の割合が過大になることを抑制し、一方で正方晶相の割合を多くできると考えられる。その結果、セラミック焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0029】
ジルコニアの含有量に対するイットリアの含有量の割合は、4.5質量%以上7.9質量%以下であることが好ましい。これにより、ジルコニアの正方晶相の安定性を適度な状態に保つことができ、セラミック焼結体3の機械的強度の低下の抑制に寄与するものと考えられる。
【0030】
一方、イットリアの含有量を1.9質量%以下とすることによって、ジルコニア結晶相のうち立方晶の割合が過大になることを抑制し、一方で正方晶の割合を多くできると考えられる。その結果、セラミック焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0031】
次に、ガラス成分について説明する。シリカの含有量は、0.1質量%以上2.5質量%以下とすることが好ましい。シリカの含有量が、0.1質量%以上であると、後述するように、セラミック焼結体3の酸素イオン伝導性が抑制され、インピーダンスを向上することができる。一方、シリカの含有量が高くなると、セラミック焼結体3の強度が低下するおそれがあるが、これを抑制するため、シリカの含有量は2.5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
特に、ジルコニアの含有量が、10質量%以上15質量%以下であるときには、シリカの含有量は、0.7質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。また、ジルコニアの含有量が、15質量%より高く25質量%以下であるときには、シリカの含有量は、1.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。このように、ジルコニアの含有量によって、シリカの含有量を変えることで、セラミック焼結体3のインピーダンスを効果的に向上させることができる。
【0033】
マグネシアの含有量は、0.1質量%以上0.8質量%以下とすることが好ましく、0.15質量%以上0.3質量%以下であることがさらに好ましい。マグネシアの含有量を、0.1質量%以上とすることで、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミック焼結体3を焼結させられ、アルミナ粒子及びジルコニア粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミック焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。また、セラミック焼結体3中に十分な量のMgAl24結晶(以下、「スピネル結晶」という。)を生成でき、銅板接合時におけるCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0034】
一方、マグネシアの含有量を0.8質量%以下とすることによって、機械的強度が低いスピネル結晶が過剰に形成されることを抑制でき、セラミック焼結体3の機械的強度を向上できると考えられる。その結果、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0035】
ガラス成分はカルシア(CaO)を含有していてもよい。カルシアを含有する場合、カルシアの含有量は、0.03質量%以上0.35質量%以下とすることが好ましい。これによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミック焼結体3を焼結させられ、アルミナ粒子及びジルコニア粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミック焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0036】
残部の含有量は、酸化物換算で0.05質量%以下とすることが好ましい。これにより、焼成温度を過剰に高くしていないにも関わらずセラミック焼結体3が過剰に焼結してしまうことを抑制でき、セラミック焼結体3の気孔率を小さくできると考えられる。その結果、セラミック焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にセラミック焼結体3のクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0037】
本実施形態において、セラミック焼結体3の構成元素の含有量は、上記のとおり酸化物換算にて算出されるが、セラミック焼結体3の構成元素は、酸化物の形態で存在していてもよいし、酸化物の形態で存在していなくてもよい。例えば、Y、Mg及びCaのうち少なくとも1種は、酸化物の形態で存在せず、ZrO2中に固溶していてもよい。
【0038】
セラミック焼結体3の構成元素の酸化物換算での含有量は、以下のように算出される。まず、蛍光X線分析装置(XRF)、又は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付設のエネルギー分散型分析器(EDS)を用いて、セラミック焼結体3の構成元素を定性分析する。次に、この定性分析により検出された各元素につき、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析を行う。次に、この定量分析により測定された各元素の含有量を酸化物に換算する。
【0039】
ここでXRFはX-ray Fluorescence Analysis、SEMはScanning Electron Microscope、EDSはEnergy Dispersive X-ray Spectrocsopy、ICPはInductively Coupled Plasma の略称である。
【0040】
なお、残部に含まれる元素は、意図的に添加する元素であってもよいし、不可避的に混入する元素でもよい。残部に含まれる元素は特に制限されないが、例えば、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Mn(マンガン)などが挙げられる。
【0041】
<3.セラミック焼結体の製造方法>
次に、セラミック焼結体の製造方法について説明する。まず、上述した構成元素の粉体材料を調合する。次に、調合した粉体材料を、例えばボールミルなどにより粉砕混合する。
【0042】
続いて、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダー(例えば、ポリビニルブチラール)、溶剤(キシレン、トルエンなど)及び可塑剤(フタル酸ジオクチルなど)を添加してスラリー状物質を形成する。
【0043】
これに続いて、所望の成形手段(例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、ドクターブレード法、押し出し成型法など)によって、スラリー状物質を所望の形状に成形してセラミックス成形体を作製する。
【0044】
そして、セラミックス成形体を、酸素雰囲気又は大気雰囲気で焼成(1560℃~1620℃、0.7時間~1.0時間)すれば、セラミック焼結体3が完成する。
【0045】
<4.セラミック焼結体と銅板との接合強度に関する検討>
次に、セラミック焼結体3と銅板4,4'との接合強度について検討する。上述した半導体装置用基板2では、セラミック焼結体3の両面に銅板4,4'を接合しているが、セラミック焼結体3の酸素イオン導電性が高くなると、直流電圧を印加した際にセラミック焼結体3と銅板4,4'との接合強度が低下し、銅板4,4'が剥がれるおそれがある。この点について、詳細に説明する。
【0046】
まず、第1銅板4及び第2銅板4'と、セラミック焼結体3と界面には、Cu-O共晶液相の生成と固化による接合の過程においてCu-O-Alの結合が形成される。そして、例えば、第1銅板4を負極に接続し、第2銅板4'を正極に接続した上で、これらに直流電圧を印加すると、第1銅板4とセラミック焼結体3との界面付近において、Cu-O-Alの結合が還元される。これにより、第1銅板4とセラミック焼結体3との接合強度が低下する。この還元により生じた酸素イオンは、セラミック焼結体3を介して第2銅板4'へと移動する。これにより、第2銅板4'が酸素イオンによって酸化され、第2銅板4'とセラミック焼結体3との接合強度が低下する。以下、このような直流電圧を印加したときの酸素イオンの移動を挙動Aと称することとする。
【0047】
一方、交流電圧が印加されたときには、セラミック焼結体3の内部のアルミナやジルコニアの粒子間を酸素イオンはほとんど移動しないと考えられる。これは交流電圧を印加してもCu-O-Alの結合の還元による第1銅板4、第2銅板4'の剥がれが生じないためである。しかし、酸素イオンの移動が全く無いわけではないので、交流電圧を印加した際のインピーダンスを測定することでセラミック焼結体における酸素イオンの移動しやすさを評価することができる。すなわち、酸素イオンが移動しにくいとインピーダンスは高くなる。
【0048】
これに対して、本発明者は、セラミック焼結体3の内部にシリカが含有されていると、酸素イオンや電子の移動を抑制できることを見出した。すなわち、セラミック焼結体3の内部にシリカが含有されていると、シリカによって酸素イオンや電子がトラップされ、酸素イオンや電子が伝播するのが抑制されることを見出した。この場合、挙動Aが抑制されるため、直流電圧を印加してもCu-O-Alの結合の還元による第1銅板4、第2銅板4'の剥がれは生じない。
【0049】
そして、本発明者は、このような酸素イオンや電子の伝播の程度を、セラミック焼結体3のインピーダンスとして計測した。すなわち、酸素イオン伝導性が低くなるとインピーダンスが高くなる。
【0050】
インピーダンスを高くするためには、上記のように、セラミック焼結体3の内部にシリカが存在することが必要である。
【0051】
さらに、セラミック焼結体3と第1銅板4の接合界面にマグネシアが存在すると、Cu-O-Al―Mgの結合が生じ、酸素が還元されにくくなる。このため直流電圧を印加した際の挙動Aが抑制される。そのため、酸素の還元による第1銅板4の剥がれを抑制できる。
【0052】
一方、ガラス成分はセラミック焼結体3の強度を低下させる。接合界面におけるクラックはセラミック焼結体3の表面から内部へ進行することを考えると、セラミック焼結体3の表面付近にはガラス成分が少ないことが望ましい。セラミック焼結体3と第1銅板4との線熱膨張係数差により接合界面に生じる熱応力でクラックが発生することによっても第1銅板4の剥がれは生じる。
【0053】
以上の理由より、本発明者はセラミック焼結体3と第1銅板4の接合界面にマグネシウムの濃度ピークを有する結合層部を設けることで直流電圧を印加した際の第1銅板4の剥がれを抑制できることを見出した。その一方で結合層部に隣り合う内部側(深い位置)にマグネシウムの濃度ピークが結合層部よりも小さい内層部を有する構成とすることで熱応力による第1銅板4の剥がれを抑制できることを見出した。内層部のマグネシウムの濃度は、結合層部よりも小さければよく、種々の濃度ピークを有してもよく、特には限定されない。例えば、内層部のマグネシウムの濃度は概ね一定であってもよい。あるいは、内層部が、結合層部の内部側においてマグネシウムの濃度の低い第1領域と、この第1領域の内部側に隣接し、マグネシウムの濃度ピークが結合層部の濃度ピークよりも小さく且つ第1領域より大きい濃度ピークを有する第2領域と、を備えてもよい。
【実施例
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0055】
<1.シリカの添加とインピーダンスとの関係>
表1Aに示すように、主成分として以下の材料で構成される、実施例1及び比較例1に係るセラミック焼結体を準備した。具体的には、まず、表1Aに示す組成物を調合した粉体材料を、ボールミルで粉砕混合した。表1A,表1Bでは質量%をwt%と表現している。さらに実施例1の組成物の合計値がちょうど100wt%になるように換算したものを表1Bとして示した。実施例1ではシリカの添加量は1.11wt%であった。一方、比較例1ではシリカの添加量は実質的にゼロであった。
【0056】
次に、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダーとしてのポリビニルブチラールと、溶剤としてのキシレンと、可塑剤としてのフタル酸ジオクチルとを添加してスラリー状物質を形成した。
【0057】
続いて、ドクターブレード法によって、スラリー状物質をシート状に成形してセラミックス成形体を作製した。
【0058】
これに続いて、セラミックス成形体を、大気雰囲気において1570℃で0.8時間焼成してセラミック焼結体を作製した。セラミック焼結体3のサイズは、厚み0.32mm、縦39mm、横45mmであった。セラミック焼結体3の構成元素の酸化物換算での含有量を段落0038に示す方法で測定したところ、表1に示す粉体材料の調合比率とほぼ一致した。
【表1A】
【表1B】
【0059】
次に、実施例1及び比較例1のセラミック焼結体について、前述した方法でその両面に銅板を接合して電極端子とし、周波数とインピーダンスの関係を測定した。結果は、図2A及び図2Bに示すとおりである。図2Aは比較例1の結果を示し、図2Bは実施例1の結果を示している。ここで、例えば、1.E+03は1掛ける10の3乗を意味する。なお、測定方法は、交流インピーダンス測定法である。
【0060】
このとき、セラミック焼結体に1Vrmsの交流電圧を印加した場合と、100Vの直流電圧を印加した上で、さらに、1Vrmsの交流電圧を印加した場合とで、インピーダンスを測定した。図2Aに示すように、比較例1では、交流電圧のみを印加した場合(ACのみ)と、交流電圧と直流電圧とを印加した場合(AC+DC)とで、低周波におけるインピーダンスが相違している。具体的には、1.E-03~1.E-01(Hz)の周波数範囲では、交流電圧のみを印加した場合(ACのみ)よりも交流電圧と直流電圧とを印加した場合(AC+DC)の方がインピーダンスが低い。これは、上述した挙動Aの影響であり、交流電圧と直流電圧を印加した場合には、挙動Aが生じるため、酸素イオンが移動し、インピーダンスが低下していると考えられる。
【0061】
これに対して、図2Bに示すように、実施例1では、交流電圧のみを印加した場合(ACのみ)と、交流電圧と直流電圧とを印加した場合(AC+DC)とで、インピーダンスの相違がほとんどない。これは、シリカが添加されることにより、酸素イオンがトラップされるため、挙動Aが生じていないためであると考えられる。また、シリカの添加により、比較例1と比べ、全体的にインピーダンスが増大している。例えば1.E-03(Hz)において、比較例1のインピーダンスは直流電圧(DC)の有無によらず1.E+10(Ω)より小さい。一方、同じ周波数において、実施例1のインピーダンスは直流電圧(DC)の有無によらず1.E+10(Ω)より大きい。したがって、実施例1では、酸素イオン導電性が低下しており、銅板の剥がれを防止できることが分かった。
【0062】
また、実施例1と比較例1に係る、銅板とセラミック焼結体の接合界面付近の断面におけるSi(シリコン)の元素分布を測定した。結果は、図3A及び図3Bに示すとおりである。図3Aは比較例1の結果を示し、図3Bは実施例1の結果を示している。なお、この元素分布の測定は、電界放射型電子プローブマイクロアナライザにより行った。
【0063】
図3Aに示すように、比較例1では、シリカが添加されていないため、Siは検出されていない。一方、図3Bに示すように、実施例1では、シリカが添加されているため、Siが検出されている。具体的には、白い矢印で示す箇所で特にSiが多く検出されている。Siの分布に特に傾向は見られない。
【0064】
また、図3A及び図3Bと同一の場所におけるMg(マグネシウム)の元素分布についても測定した。結果は、図4A及び図4Bに示すとおりである。図4Aは比較例1の結果を示し、図4Bは実施例1の結果を示している。図4Aに示すように、比較例1では、Mgの分布に特に傾向は見られない。一方、図4Bに示すように、実施例1では、Mgはセラミック焼結体の表層付近、つまり銅板との接合界面付近に多く分布している(白い矢印参照)。さらに接合界面付近に隣り合う内部側(深い位置)にはMgが少なくなっている領域があるように見える。この領域は後述する第1領域に相当する。なお、図3Bにおける矢印と図4Bにおける白い矢印の位置は接合界面付近を除いて一致している。このことはセラミック焼結体の内部ではシリカとマグネシアを含有するガラス成分が形成されていることを示している。
【0065】
図4Bにおけるマグネシウムの分布を詳細に確認するため、次の解析を行った。図5Aは、図3B及び図4Bと同一の場所における反射電子像である。まず、図5Aに示すように銅板とセラミック焼結体を含む20μm×20μmのエリア(正方形の枠)を設定した。このエリアを256×256の小エリアに分割した。小エリアの一辺は20μmを256で割った0.078μmとなる。次に、各小エリアのマグネシウムの濃度を算出した。そのうえで図中の水平方向(X方向)の256個の小エリアでマグネシウムの濃度(質量%)を平均化した。これをX方向平均元素濃度と呼ぶ。
【0066】
図5Bは、図5Aの縦方向(Y方向)、すなわちセラミック焼結体の深さ方向を横軸としたグラフであり、各深さにおけるマグネシウムの濃度の平均値を縦軸に打点した。ここでマグネシウムの濃度の平均値とはX方向平均元素濃度を意味する。また銅やアルミニウム濃度の平均値も同様に打点した。具体的には銅やアルミニウムのX方向平均元素濃度をマグネシウムと同様に打点した。なお、このグラフの横軸は、銅板内部にある、図5Aにおける正方形の枠の左上の角を原点としている。
【0067】
ここで、セラミック焼結体において、銅の質量%の最大値の1/2に相当する横軸の位置(ここでは、3.6μm)を中心値とした場合、中心値から概ね±1.0μmの範囲を上述した結合層部と規定する。そうすると、マグネシウムの濃度ピークは結合層部の中に位置している。なお、結合層部は本質的には銅のX方向平均元素濃度が銅板からセラミック焼結体に向かって一定値からほぼゼロまで減少するY軸方向の範囲とみなされる。この範囲はアルミニウムのX方向平均元素濃度がほぼゼロから一定値まで増加するY軸方向の範囲とほぼ一致する。たとえば図5Bでは、銅のX方向平均元素濃度が一定値(約90質量%)から顕著な減少を開始するY軸上の値とアルミニウムのX方向平均元素濃度がほぼゼロから顕著な増加を開始するY軸上の値はほぼ一致している。さらに銅のX方向平均元素濃度が一定値(約90質量%)から減少してほぼゼロとなるY軸上の値とアルミニウムのX方向平均元素濃度がほぼゼロから増加してほぼ一定値(約40質量%)となるY軸上の値もほぼ一致している。このような結合層部の範囲は図5Bでは中心値から概ね±1.0μmであったが、この範囲には限られない。すなわち、結合層部の範囲は、上記のように、銅のX方向平均元素濃度が急激に変化する範囲であって、マグネシウムの濃度ピークが存在する範囲であり、接合前の銅板表面の酸化量、接合温度、セラミック焼結体の組成などにより変動してよい。
【0068】
一方、結合層部に隣り合う内部側(深い位置)の領域はマグネシウムが少なくなっているが、この層が上述した内層部に相当する。この例において、内層部は、結合層部の内部側に隣接する第1領域と、第1領域の内部側に隣接する第2領域とを有している。第2領域は、マグネシウムの濃度が、深さ方向に向かって第1領域よりも増加した後、第1領域の濃度程度まで減少する濃度ピークを有している。また、第2領域のマグネシウムの濃度ピークの大きさは結合層部における濃度ピークよりも小さい。この例では、第1領域が約3μmの厚さを有し、第2領域が約6μmの厚さを有していた。また、第2領域よりも内部側の領域では、マグネシウムの濃度が第2領域の濃度ピークよりも低かった。
【0069】
以上のように、結合層部でマグネシウムの濃度が高いと(濃度ピークが存在すると)、結合層部におけるCu-O-Al―Mgの結合が生じ、酸素が還元されにくくなる。このため直流電圧を印加した際の挙動Aが抑制される。その結果、直流電圧の印加による銅板の剥がれを抑制できる。
【0070】
次に、結合層部に隣り合う内部側にある第1領域ではマグネシウムが少なくなっている(結合層部の濃度ピークに比べて、濃度ピークが小さくなっている)。よって、この領域ではガラス成分が結合層部よりも少なくなるためセラミック焼結体の機械的強度が高まっている。セラミック焼結体のクラックは表面から内部に向かって進行することから、この第1領域により、熱応力による銅板の剥がれを防止できる。
【0071】
図3B図4Bに示すように、セラミック焼結体の内部ではシリカとマグネシアを含有するガラス成分が形成されている。よって、内層部の第2領域ではSiのX方向平均元素濃度も高くなっていると考えられる。そのため、第1銅板4を負極に接続し、第2銅板4’を正極に接続した上で、セラミック焼結体3に直流電圧を印加した際、このような第2領域はセラミック焼結体3を介して第2銅板4から第2銅板4’へ酸素イオンが移動することを抑制する。
【0072】
以上より、実施例1のセラミック焼結体は、比較例1よりも高い信頼性を有すると考えられる。すなわち直流電圧の印加や熱応力の発生に対し、銅板剥がれが生じにくい。
【0073】
実施例1におけるこのようなマグネシウムの偏析は、銅板とセラミック焼結体を接合する際、溶融したガラス成分によりマグネシウムが拡散しやすくなったために生じたものと推測される。なお、実施例1の図5Bでは、第2領域にマグネシウムの濃度ピークが結合層部の濃度ピークよりも小さく且つ第1領域の濃度ピークより大きい濃度ピークを有していたが、接合前の銅板表面の酸化量、接合温度、セラミック焼結体の組成を変化させた別の実施例では、この第2領域に上述したマグネシウムの濃度ピーク(つまり、結合層部よりも小さく且つ第1領域より大きい濃度ピーク)は見られなかったものの、実施例1と同様に、直流電圧の印加や熱応力の発生に対し、銅板剥がれが生じにくい、という効果が得られた。
なお、図5Bに示す内層部の濃度変化は一例であり、内層部が上記のような第1領域と第2領域を有する場合、各領域の厚みは上述した厚みに限定されない。但し、第1領域及び第2領域は、セラミック焼結体の表面から概ね15μm以内の領域に存在することが確認されている。また、第2領域のような濃度ピークを有さず、第1領域と概ね同じ濃度である内層部も確認されている。
【0074】
<2.シリカの含有量とインピーダンスとの関係>
次に、ジルコニアの含有量を変えたときのシリカの含有量とインピーダンスの関係を検討した。
【0075】
以下の表2及び表3に示すように、ジルコニアの含有量(wt%)とシリカの含有量(wt%)を変化させたセラミック焼結体を作製し、インピーダンス(Ω)を測定した。表中のインピーダンスは周波数0.001Hz(1.E-03Hz)における値である。これらセラミック焼結体は、ジルコニア及びシリカの含有量以外は、実施例1と概ね製造方法は同じである。また、これらの関係を図6のグラフに示した。すなわち、図6は、ジルコニアの含有量が10wt%、15wt%、22wt%のときの、シリカの含有量とインピーダンスとの関係をそれぞれ示している。なお、横軸のSiO2添加量(wt%)はシリカの含有量(wt%)と同じ意味である。
【0076】
【表2】
【表3】
【0077】
この結果からすると、ジルコニアの含有量が、10質量%以上15質量%以下であるときには、シリカの含有量が、0.7質量%以上1.5質量%以下であれば、インピーダンスが高くなっていることが分かる。一方、ジルコニアの含有量が、15質量%より高く25質量%以下であるときには、シリカの含有量が、1.5質量%以上2.0質量%以下であれば、インピーダンスが高くなっていることが分かる。交流電圧を印加した際のインピーダンスが高まっていることは酸素イオン導電性が低下したことになる。よって、直流電圧を印加した際の酸素イオン導電性も抑制できる。
【符号の説明】
【0078】
2…半導体装置用基板
3…セラミック焼結体
4,4'…銅板
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6