(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 289/00 20060101AFI20230328BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20230328BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20230328BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230328BHJP
C08F 2/24 20060101ALN20230328BHJP
C08F 265/06 20060101ALN20230328BHJP
【FI】
C08F289/00
C08F290/06
C08L51/00
C08L101/00
C08F2/24
C08F265/06
(21)【出願番号】P 2019000767
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222837(JP,A)
【文献】特開平11-049961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F,C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片方の末端または両方の末端にラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)との共重合体(A)に
、芳香族ビニルおよびシアン化ビニル
の混合物であるビニル単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)。
【請求項2】
ポリオルガノシロキサン(Aa)の分子構造が直鎖状である請求項1に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項3】
ポリオルガノシロキサン(Aa)の官能基当量が500g/mol以上である請求項1または2に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項4】
共重合体(A)が、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物の共重合体であり、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物の合計100質量%中にポリオルガノシロキサン(Aa)を0.1~20質量%、(メタ)アクリル酸エステル(Ab)を10~99.9質量%含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項5】
共重合体(A)は、体積平均粒子径が100~1000nmで、ゲル含有率が80%以上、アセトン膨潤度が300~1200%である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項6】
共重合体(A)10~90質量%と
、芳香族ビニルおよびシアン化ビニル
の混合物であるビニル単量体90~10質量%をグラフト重合して得られる、グラフト率10~90%で、体積平均粒子径100~1200nmのグラフト共重合体である(ただし、共重合体(A)とビニル単量体との合計で100質量%)請求項1ないし5のいずれか1項に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
グラフト共重合体(B)と、他の熱可塑性樹脂との合計100質量部に対してグラフト共重合体(B)を20~80質量部含む請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項10】
片方の末端または両方の末端にラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)との共重合体(A)に
、芳香族ビニルおよびシアン化ビニル
の混合物であるビニル単量体をグラフト重合してグラフト共重合体(B)を製造する
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体(B)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れ、耐衝撃性等の機械特性、成形外観にバランスよく優れる熱可塑性樹脂成形品を提供し得るグラフト共重合体に関する。本発明はまた、このグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、自動車分野、電気・電子機器分野、プリンター等のOA機器をはじめとする多くの分野で使用されている。その中でも、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミド共重合樹脂等に、これらの樹脂と相溶性を付与させるような単量体をゴム質重合体にグラフト重合して得られるグラフト共重合体を配合したABS樹脂、ASA樹脂等に代表される材料は、耐衝撃性、流動性に優れることから広く使用されてきた。
【0003】
これらの中でも、ゴム質重合体に飽和ゴムである(メタ)アクリル酸エステルゴム等の成分を用いたASA樹脂は、良好な耐候性を付与し得るという特徴を有する。
しかし、ASA樹脂は、ABS樹脂に比べて耐衝撃性が劣るという欠点がある。
【0004】
そこで、耐衝撃性を改良するために、粒子径の異なる(メタ)アクリル酸エステルゴムを併用したASA樹脂が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、このASA樹脂でも、耐衝撃性の改良効果は十分ではなく、要求される耐衝撃性を発現させるためには、ゴム成分の配合割合を増やす必要があり、ゴム成分の配合割合を増やすことで剛性が低下してしまい、近年の厳しいニーズに十分応え得るものではなかった。
【0005】
また、耐衝撃性に優れるポリオルガノシロキサンゴムに(メタ)アクリル酸エステルゴムを被覆することで耐衝撃性を向上させる方法も提案されている(特許文献2)。
しかし、この方法で得られる生成物中には、屈折率の低いポリオルガノシロキサンゴムが含有されるため、成形品の外観が低下してしまう。
【0006】
成形外観の低下を抑制するために、用いるポリオルガノシロキサンゴムの粒径を100nm以下にする方法も提案されている(特許文献3)。しかし、この場合、耐衝撃性を発現させるために、ゴム成分の配合割合を増やさなければならず、耐衝撃性と剛性のバランスに劣るものとなる。
【0007】
また、成形外観を向上させる方法として、屈折率の高い分子側鎖にフェニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いる方法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、この方法で用いるポリオルガノシロキサンは柔軟性が低いために、耐衝撃性の向上効果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-214734号公報
【文献】特開昭64-79257号公報
【文献】特開平5-279434号公報
【文献】国際公開2017/073294号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、成形性に優れ、耐衝撃性等の機械特性、成形外観にバランスよく優れる熱可塑性樹脂成形品を提供し得るグラフト共重合体と、そのグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)を用いて得られるグラフト共重合体(B)により、上記目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] 片方の末端または両方の末端にラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)との共重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種のビニル単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)。
【0012】
[2] ポリオルガノシロキサン(Aa)の分子構造が直鎖状である[1]に記載のグラフト共重合体(B)。
【0013】
[3] ポリオルガノシロキサン(Aa)の官能基当量が500g/mol以上である[1]または[2]に記載のグラフト共重合体(B)。
【0014】
[4] 共重合体(A)が、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物の共重合体であり、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物の合計100質量%中にポリオルガノシロキサン(Aa)を0.1~20質量%、(メタ)アクリル酸エステル(Ab)を10~99.9質量%含む[1]ないし[3]のいずれかに記載のグラフト共重合体(B)。
【0015】
[5] 共重合体(A)は、体積平均粒子径が100~1000nmで、ゲル含有率が80%以上、アセトン膨潤度が300~1200%である[1]ないし[4]のいずれかに記載のグラフト共重合体(B)。
【0016】
[6] 共重合体(A)10~90質量%と、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種のビニル単量体90~10質量%をグラフト重合して得られる、グラフト率10~90%で、体積平均粒子径100~1200nmのグラフト共重合体である(ただし、共重合体(A)とビニル単量体との合計で100質量%)[1]ないし[5]のいずれかに記載のグラフト共重合体(B)。
【0017】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載のグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
[8] グラフト共重合体(B)と、他の熱可塑性樹脂との合計100質量部に対してグラフト共重合体(B)を20~80質量部含む[7]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0019】
[9] [7]または[8]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0020】
[10] 片方の末端または両方の末端にラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサン(Aa)と、(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質と、乳化剤と、水とを含む混合物からミニエマルションを形成した後、重合してポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)との共重合体(A)を製造する共重合体(A)の製造方法。
【0021】
[11] [10]に記載の共重合体(A)の製造方法で製造された共重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種のビニル単量体をグラフト重合してグラフト共重合体(B)を製造するグラフト共重合体(B)の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のグラフト共重合体(B)によれば、耐衝撃性、引張特性等の機械特性、発色性、光沢といった成形外観にバランスよく優れた熱可塑性樹脂成形品を、良好な成形性のもとに提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
なお、本明細書において「単位」とは、重合前の単量体化合物(モノマー)に由来する構造部分をさし、例えば、「ポリオルガノシロキサン(Aa)単位」とは「ポリオルガノシロキサン(Aa)に由来して共重合体(A)中に含まれる構造部分」をさす。また、「(メタ)アクリル酸エステル(Ab)単位」とは「(メタ)アクリル酸エステル(Ab)に由来して共重合体(A)中に含まれる構造部分」をさす。重合体中の各単量体単位の含有割合は、当該重合体の製造に用いた単量体混合物中の該単量体の含有割合に該当する。
また、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方または双方を意味する。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
また、「成形品」とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものを意味する。
【0025】
[共重合体(A)]
まず、本発明に係る共重合体(A)(以下、「本発明の共重合体(A)」と称す場合がある。)について説明する。
【0026】
本発明の共重合体(A)は、後述する特定のポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)の共重合体である。
【0027】
本発明の共重合体(A)は、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)および疎水性物質、好ましくは更に乳化剤を含む原料混合物、より好ましくは、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)、疎水性物質、開始剤、乳化剤、および水を含む原料混合物からプレエマルションを調製する工程と、得られたプレエマルションを重合する工程とを含むミニエマルション重合により製造される。
【0028】
以下に、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)、疎水性物質、開始剤、乳化剤、および水を含む原料混合物からプレエマルション(ミニエマルション)を調製し、得られたプレエマルションを重合するミニエマルション重合により、本発明の共重合体(A)を製造する方法について説明する。なお、上記原料混合物は、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)以外に、必要に応じて用いられるこれらと共重合可能なその他のビニル化合物を含んでいてもよい。
【0029】
ミニエマルション重合では、まず、超音波発振機などを利用して強い剪断力をかけることによって、100~1000nm程度のモノマー油滴を調製する。この際、乳化剤分子はモノマー油滴表面に優先的に吸着し、水媒体中にはフリーの乳化剤やミセルがほとんど存在しなくなる。したがって、理想的なミニエマルション系の重合では、モノマーラジカルが水相と油相に分配されることはなく、モノマー油滴が粒子の核になって重合が進行する。その結果、形成されたモノマー油滴はそのままポリマー粒子に変換され、均質なポリマーナノ粒子を得ることが可能となる。
【0030】
これに対して、一般的な乳化重合で調製したポリマー粒子では、モノマー油滴からミセルへモノマーが移行して反応が進行するため、疎水性の異なるモノマーを複数含有するとミセルへの移行しやすさが異なり、均質なポリマーを形成できない。
【0031】
<ミニエマルション重合>
本発明の共重合体(A)を製造するミニエマルション重合は、これに限定されるものではないが、例えば、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)、疎水性物質、および乳化剤、好ましくは更に開始剤、水を混合する工程、得られた混合物に剪断力を付与してプレエマルション(ミニエマルション)を調製する工程、ならびにこのプレエマルションを重合開始温度まで加熱して重合させる工程を含む。
【0032】
ミニエマルション化の工程では、重合用モノマーと乳化剤とを混合した後、例えば、超音波照射による剪断工程を実施することにより、前記剪断力によりモノマーが引きちぎられ、乳化剤に覆われたモノマー微小油滴が形成される。その後、開始剤の重合開始温度まで加熱することにより、モノマー微小油滴をそのまま重合し、高分子微粒子が得られる。
【0033】
ミニエマルションを形成させるための剪断力を加える方法は公知の任意の方法を用いることができる。ミニエマルションを形成できる高剪断装置としては、これらに限定されるものではないが、例えば、高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置等がある。高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置としては、例えば、SPX Corporation APV社製「圧力式ホモジナイザー」、三和エンジニアリング(株)製「ホモゲナイザー」、三丸機械工業(株)製「高圧式ホモジナイザー」、イズミフードマシナリー(株)製「ホモゲナイザー」、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」等が挙げられる。超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置としては、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」や(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が挙げられる。
【0034】
<水>
本発明において、ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~58質量%程度となるように、水以外の混合物100質量部に対して75~1900質量部程度とすることが好ましい。この水の使用量はより好ましくは80~1000質量部程度、さらに好ましくは90~500質量部程度である。
【0035】
<ポリオルガノシロキサン(Aa)>
ポリオルガノシロキサン(Aa)は、シリコーンを骨格とする高分子量単量体である。本発明で用いるポリオルガノシロキサン(Aa)は、片方の末端または両方の末端にラジカル重合性基を有する。ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニルベンジル基、ビニルエーテル基、ビニルアルキルシリル基、ビニルケトン基およびイソプロペニル基などが挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル(Ab)との反応性の観点から、(メタ)アクリロイル基、すなわち、アクリロイル基およびメタクリロイル基が好ましく、本発明で用いるポリオルガノシロキサン(Aa)としては、少なくとも一つの末端にメタクリロイル基を有するポリオルガノシロキサン(すなわち、メタクリル変性のポリオルガノシロキサン)が、得られる成形品の耐衝撃性が良好であることからより好ましく、両末端にメタクリロイル基を有するポリオルガノシロキサン(両末端メタクリル変性のポリオルガノシロキサン)が特に好ましい。
【0036】
また、ポリオルガノシロキサン(Aa)の分子構造は実質的に直鎖状が好ましいが、分子鎖の一部が分岐していてもよい。ポリオルガノシロキサン(Aa)が直鎖状である場合、ポリオルガノシロキサン(Aa)の両末端とは、その直鎖の両末端をさし、ポリオルガノシロキサン(Aa)の分子鎖の一部が分岐している場合、ポリオルガノシロキサン(Aa)の両末端とは、分子鎖の末端部をさす。
なお、本発明において、分子構造が実質的に直鎖状とは、ポリオルガノシロキサン(Aa)のケイ素-酸素結合が1本の直鎖状に連結していることを指す。
【0037】
ポリオルガノシロキサン(Aa)としては、これに限定されるものではないが、例えば、分子鎖両末端が3-アクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端が3-メタクリリックアミドプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端が3-メタクリリックアミドプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリメチルフェニルシロキサン、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたメチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリジフェニルシロキサン、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたメチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖されたポリ(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルシロキサン、分子鎖両末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖された(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等の分子鎖両末端に(メタ)アクリロイル系ラジカル重合性基を有するポリジオルガノシロキサン;一方の分子鎖末端が3-アクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がジメチルヒドロキシシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリリックアミドプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリメチルフェニルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリジフェニルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクリロキシプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリ(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルシロキサン、一方の分子鎖末端が3-メタクロシキプロピルジメチルシロキシ基で封鎖され、他方の分子鎖末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等の分子鎖片末端のみに(メタ)アクリロイル系ラジカル重合性基を有するポリジオルガノシロキサンが挙げられる。
【0038】
ポリオルガノシロキサン(Aa)の官能基当量、即ち、ポリオルガノシロキサン(Aa)の分子量を1分子当たりのラジカル重合性基価で除した値、は好ましくは500g/mol以上であり、より好ましくは800~10,000g/mol、さらに好ましくは1,500~8,000g/molである。ポリオルガノシロキサン(Aa)の官能基当量が上記下限以上であれば成形品の耐衝撃性が良好であり、上記上限以下であれば成形品の外観が良好であり、本発明に好適である。
ポリオルガノシロキサン(Aa)の官能基当量は、ケイ素核磁気共鳴スペクトル(29Si-NMR)分析とプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)分析の結果から算出することができる。
【0039】
本発明で用いるポリオルガノシロキサン(Aa)は、公知の方法によって製造できる。ポリオルガノシロキサン(Aa)の製造方法としては、例えば、リチウムトリアルキルシラノレートを開始剤とし、環状シロキサンをアニオン重合することによりリビングポリマーを得、さらにγ-メタクリロキシプロピルジメチルモノクロロシランを反応させてポリオルガノシロキサン(Aa)を得る方法(特開昭59-78236号公報)、または末端シラノール基含有シリコーンと有機ケイ素化合物との縮合物としてポリオルガノシロキサン(Aa)を得る方法(特開昭58-167606号公報)が挙げられる。
【0040】
ポリオルガノシロキサン(Aa)は、例えば、信越化学工業(株)製「X-22-164A」、「X-22-164B」、「X-22-164C」、「X-22-164E」、「X-22-2245」、「X-22-174ASX」、「X-22-174BX」、「KF-2012」、「X-22-2426」などの市販品からも入手可能である。
【0041】
これらのポリオルガノシロキサン(Aa)は、1種を単独で用いてもよく、ラジカル重合性基および分子鎖の種類や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
本発明の共重合体(A)の製造に際しては、ポリオルガノシロキサン(Aa)は、ポリオルガノシロキサン(Aa)、後述する(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられる後述のその他のビニル化合物の合計100質量%中のポリオルガノシロキサン(Aa)の含有量が0.1~20質量%、特に0.5~10質量%、とりわけ1~5質量%となるように、即ち、得られる共重合体(A)を構成する全単量体単位中のポリオルガノシロキサン(Aa)単位の含有割合が0.1~20質量%、特に0.5~10質量%、とりわけ1~5質量%となるように用いることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(Aa)の使用量が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れたものとなる。
【0043】
<(メタ)アクリル酸エステル(Ab)>
本発明の共重合体(A)を構成する(メタ)アクリル酸エステル(Ab)としては、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1~11の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が向上することから、これらの(メタ)アクリル酸エステル(Ab)の中でも、(メタ)アクリル酸n-ブチル、特にアクリル酸n-ブチルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステル(Ab)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の共重合体(A)の製造に際しては、(メタ)アクリル酸エステル(Ab)は、上述のポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられる後述のその他のビニル化合物の合計100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル(Ab)の含有量が10~99.9質量%、特に50~99.5質量%、とりわけ70~99質量%となるように、即ち、得られる共重合体(A)を構成する全単量体単位中のポリオルガノシロキサン(Aa)単位の含有割合が、10~99.9質量%、特に50~99.5質量%、とりわけ70~99質量%となるように用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル(Ab)の使用量が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に優れたものとなる。
【0045】
<その他のビニル化合物>
本発明の共重合体(A)の製造に際しては、必要に応じてポリオルガノシロキサン(Aa)および(メタ)アクリル酸エステル(Ab)以外に、これらと共重合可能なその他のビニル化合物を用いてもよい。必要に応じて用いられるその他のビニル化合物としては、ポリオルガノシロキサン(Aa)、(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と共重合可能であれば特に限定されない。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-またはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等の芳香族ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド類や、無水マレイン酸、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリブチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリカーボネードジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリウレタンジオールジ(メタ)アクリレート等、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンや、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリル酸アリル等のアリル化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
共重合体(A)の製造にその他のビニル化合物を用いる場合、その他のビニル化合物の使用量は特に制限はないが、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)とその他のビニル化合物の合計100質量%に対するその他のビニル化合物の割合が0~89.9質量%、特に0.1~50質量%、とりわけ0.3~30質量%、即ち、得られる共重合体(A)を構成する全単量体単位中のその他のビニル化合物単位の含有割合が0~89.9質量%、特に0.1~50質量%、とりわけ0.3~30質量%となるように用いることが好ましい。
【0047】
<疎水性物質>
本発明では、ミニエマルションを形成させる際に、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質を用いることが好ましい。この特定の疎水性炭化水素基を有する疎水性物質を用いることで、ミニエマルションの製造安定性を向上させることができる。
【0048】
本発明で用いる疎水性物質の疎水性の程度は、1-オクタノールに対する濃度〔c1〕と水に対する濃度〔c2〕の比〔c1/c2〕で表される分配係数〔P〕の対数〔logP〕値で表すことができ、本発明で用いる疎水性物質の分配係数〔P〕の対数〔logP〕値は6.0以上、特に7.0以上あることが好ましい。
【0049】
分配係数〔P〕の対数〔logP〕値が6以上ある疎水性物質としては、重合不可能な疎水性化合物として、例えば炭素数12以上の炭化水素類、炭素数12以上のアルコール類、疎水性モノマーとして、例えば、炭素数14~30のアルコールのビニルエステル、炭素数14~30のアルコールのビニルエーテル、炭素数15~30(好ましくは炭素数15~22)のカルボン酸ビニルエステル、炭素数20~40のp-アルキルスチレン、疎水性の連鎖移動剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
本発明で用いる疎水性物質としては、具体的には、例えば、テトラデカン(logP:6.3)、ペンタデカン(logP:7.7)、ヘキサデカン(logP:8.3)、ヘプタデカン(logP:8.8)、オクタデカン(logP:9.3)、イコサン(logP:10.4)、流動パラフィン(logP>6.0)、流動イソパラフィン(logP>6.0)、パラフィンワックス(logP>6.0)、ポリエチレンワックス(logP>6.0)、オリーブ油(logP>6.0)、セチルアルコール(logP:6.7)、ステアリルアルコール(logP:8.2)、アクリル酸ステアリル(logP:7.7)、メタクリル酸ステアリル(logP:9.6)等が挙げられる。
【0051】
これらの疎水性物質を用いることにより、オストワルド熟成による粒径の不均一性の増大を抑制し、単分散な共重合体(A)を合成することが可能となる。
【0052】
疎水性物質の添加量は、ポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物の合計100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、さらに好ましくは1~3質量部である。
【0053】
<乳化剤>
本発明の共重合体(A)を製造する際に用いる乳化剤としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれるアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
乳化剤の添加量としては前述のポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物との合計100質量部に対して0.01~1.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0055】
<開始剤>
開始剤とは、前述のポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物がラジカル重合するためのラジカル重合開始剤であり、例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。
【0057】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0058】
有機過酸化物としては、例えばペルオキシエステル化合物が挙げられ、その具体例としては、α,α’-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシド)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジイソノナノイルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジメチルビス(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルペルオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸t-ブチル、ジベンゾイルペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシドおよびt-ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0059】
レドックス系開始剤としては、有機過酸化物と硫酸第一鉄、キレート剤および還元剤を組み合わせたものが好ましい。例えば、クメンヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、およびデキストロースからなるものや、t-ブチルヒドロペルオキシド、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)、硫酸第一鉄、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0060】
開始剤としては、これらのうち、特に有機過酸化物が好ましい。
【0061】
開始剤の添加量は、前述のポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物との合計100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。
【0062】
なお、開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0063】
<ゴム成分>
本発明の共重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に他のゴム成分が存在する複合ゴムからなる共重合体(A)を所望の性能を損なわない程度で製造してもよい。この場合、他のゴム成分としては、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサン(Aa)以外のポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらのゴム成分の存在下でポリオルガノシロキサン(Aa)と(メタ)アクリル酸エステル(Ab)を重合することで、例えばポリブタジエン等のジエン系ゴムなどを複合してなるジエン/ポリオルガノシロキサン/(メタ)アクリル酸エステル系複合ゴムからなる共重合体(A)が得られる。尚、本発明に係る複合ゴムはこれらに限定されるものではなく、また、複合させるゴム成分は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
<添加剤>
本発明の共重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に、必要に応じて添加剤を添加していてもよい。この場合、添加剤としては、例えばポリスチレンやポリ(メタ)アクリル酸エステル、無機物質(シリカ、ジルコニア、マイカ、ワラストナイト、タルク等)、フィラー(ガラス繊維、炭素繊維等)、滑材、顔料(カーボンブラック、酸化チタン等)、染料、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられ、得られる熱可塑性樹脂組成物や成形品の物性を損なわない範囲において配合することができる。
【0065】
<反応条件>
上記のプレエマルションを調製する工程は通常常温(10~50℃程度)で行われ、ミニエマルション重合の工程は40~100℃で30~600分程度行われる。
【0066】
<粒子径>
本発明の共重合体(A)の粒子径は、特に制限はないが、好ましくは体積平均粒子径で100~1000nm、より好ましくは250~600nmであり、粒子径のピークが単一でも複数であってもよい。
【0067】
さらには、ピークの分布幅がd50(累積カーブが50%となる点の粒子径(nm))の好ましくは0.8倍以下、より好ましくは0.6倍以下、さらに好ましくは0.5倍以下であると、この共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物の流動性、得られる成形品の耐衝撃性のバランスが良好となる。この分布幅は、d84(累積カーブが84%となる点の粒子径(nm))からd16(累積カーブが16%となる点の粒子径(nm))を引いた値を用いることができる。即ち、d50、d84、d16は以下の関係を満たすことが好ましい。
好ましくは(d84-d16)≦0.8×d50
より好ましくは(d84-d16)≦0.6×d50
さらに好ましくは(d84-d16)≦0.5×d50
【0068】
なお、本発明の共重合体(A)の粒子径の測定方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0069】
<ゲル含有率>
本発明の共重合体(A)のゲル含有率は、80%以上、特に85%以上、とりわけ90~100%であることが好ましい。ここで、ゲル含有率とは、次のようにして求められる値である。
【0070】
共重合体(A)のラテックスを凝固、乾燥させて、ポリマーを得、このポリマーを約1g精秤(W0)し、これを約50gのアセトン中に温度23℃で48時間浸漬して、ポリマーを膨潤させた後、アセトンをデカンテーションにて除き、ここで、膨潤したポリマーを精秤(WS)した後、80℃で24時間減圧乾燥して、ポリマーが吸収したアセトンを蒸発、除去し、再び、精秤(Wd)して、次式によりゲル含有率を算出する。
ゲル含有率(%)=Wd/W0×100
ここで、Wdは乾燥したポリマーの質量であり、W0はアセトンに浸漬する前のポリマーの質量である。
【0071】
ゲル含有率が80%以上の共重合体(A)であれば、この共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に優れたものとなる。
【0072】
<アセトン膨潤度>
本発明の共重合体(A)は、好ましくは300~1200%、より好ましくは500~1000%、さらに好ましくは700~900%の範囲のアセトンによる膨潤度を有する。ここで、アセトンによる膨潤度とは、次のようにして求められる値である。
【0073】
即ち、上記のゲル含有率の測定におけると同様の操作を行い、次式によりアセトン膨潤度を算出する。
アセトン膨潤度(%)=(WS-Wd)/Wd×100
ここで、WSは膨潤したポリマーの質量であり、Wdは乾燥したポリマーの質量である。
【0074】
アセトン膨潤度が上記範囲内である共重合体(A)であれば、この共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、成形外観に優れたものとなる。
【0075】
[グラフト共重合体(B)]
本発明のグラフト共重合体(B)は、本発明の共重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種の単量体(以下、「グラフト単量体成分」と称す場合がある。)をグラフト重合させてグラフト層を形成したものである。
なお、グラフト単量体成分は、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニル以外のその他のビニル化合物を含んでいてもよい。
【0076】
グラフト共重合体(B)のグラフト層のグラフト率は以下の方法により算出され、後掲の実施例でもこの方法でグラフト率を求めた。
【0077】
<グラフト率の算出>
グラフト共重合体(B)2.5gにアセトン80mLを加え65℃の湯浴で3時間還流し、アセトン可溶分の抽出を行う。残留したアセトン不溶物を遠心分離により分離し、乾燥した後質量を測定する。得られたグラフト共重合体(B)中のアセトン不溶物の質量と、該グラフト共重合体(B)の製造に用いた共重合体(A)の質量から、次の式を用いて、グラフト率を算出する。
【0078】
【0079】
本発明のグラフト共重合体(B)のグラフト率は10~90%、特に30~85%が好ましい。グラフト共重合体(B)のグラフト率が上記範囲内であれば、良好な耐衝撃性、成形外観の成形品を得ることができる。
【0080】
本発明の共重合体(A)にグラフト重合させる(メタ)アクリル酸エステルとしては、本発明の共重合体(A)の製造に用いる(メタ)アクリル酸エステルとして例示したものの1種または2種以上を用いることができる。また、芳香族ビニル、シアン化ビニルとしては、本発明の共重合体(A)の製造において、必要に応じて用いられるその他のビニル化合物としてそれぞれ例示した芳香族ビニル、シアン化ビニルの1種または2種以上を用いることができる。
【0081】
なお、グラフト共重合体(B)を構成するグラフト層には、前述の(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル以外のその他のビニル化合物が含まれていてもよい。その他のビニル化合物としては、本発明の共重合体(A)の製造において、必要に応じて用いられるその他のビニル化合物として例示したもののうちの、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル以外のビニル化合物の1種または2種以上が挙げられる。
【0082】
グラフト共重合体(B)のグラフト層を形成するグラフト単量体成分として、芳香族ビニル、好ましくはスチレンと、シアン化ビニル、好ましくはアクリロニトリルの混合物を使用すると、得られるグラフト共重合体(B)の熱安定性が優れたものとなるため好ましい。この場合、スチレン等の芳香族ビニルとアクリロニトリル等のシアン化ビニルとの割合は、芳香族ビニル50~90質量%に対してシアン化ビニル10~50質量%であることが好ましい(ただし、芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計で100質量%とする)。
【0083】
グラフト共重合体(B)のグラフト層は、共重合体(A)10~90質量%に対して、グラフト単量体成分90~10質量%を乳化グラフト重合させて得られるものであると、このグラフト共重合体(B)を用いて得られる熱可塑性樹脂成形品の外観が優れるため好ましい(ただし、共重合体(A)とグラフト単量体成分との合計で100質量%とする。)。この割合は、さらに好ましくは、共重合体(A)30~70質量%で、グラフト単量体成分70~30質量%である。
【0084】
共重合体(A)へのグラフト単量体成分のグラフト重合方法としては、ミニエマルション重合により得られた共重合体(A)のラテックスにグラフト単量体成分を添加し、1段又は多段で重合する方法が挙げられる。多段で重合する場合には、共重合体(A)のゴムラテックスの存在下で、ビニル単量体を分割添加又は連続添加して重合することが好ましい。このような重合方法により良好な重合安定性が得られ、且つ所望の粒子径および粒子径分布を有するラテックスを安定に得ることができる。このグラフト重合に用いる重合開始剤としては、前述の本発明の共重合体(A)の製造方法におけるミニエマルション重合に用いるラジカル重合開始剤と同様のものが挙げられる。
【0085】
共重合体(A)にグラフト単量体成分を重合する際には、共重合体(A)のラテックスを安定化させ、得られるグラフト共重合体(B)の平均粒子径を制御するために、乳化剤を添加することができる。ここで用いる乳化剤としては、特に限定しないが、前述の本発明の共重合体(A)の製造方法におけるミニエマルション重合に用いる乳化剤と同様のものが挙げられ、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が好ましい。共重合体(A)にグラフト単量体成分をグラフト重合させる際の乳化剤の使用量としては、特に限定しないが、得られるグラフト共重合体(B)100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましい。
【0086】
乳化重合で得られたグラフト共重合体(B)のラテックスから、グラフト共重合体(B)を回収する方法としては、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。
グラフト共重合体(B)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体(B)を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体(B)を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体(B)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体(B)を粉体または粒子として回収する。
【0087】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。
【0088】
前述の好ましい体積平均粒子径および粒子径分布の共重合体(A)を用いて上述のようにして製造される本発明のグラフト共重合体(B)の体積平均粒子径は、好ましくは100~1200nm、より好ましくは300~800nmである。
【0089】
なお、本発明のグラフト共重合体(B)の粒子径の測定方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0090】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した本発明のグラフト共重合体(B)を含有し、通常、本発明のグラフト共重合体(B)と他の熱可塑性樹脂とを混合してなる。本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部中のグラフト共重合体(B)の含有量は、20~80質量部が好ましく、25~60質量部がより好ましい。上記範囲内であれば、流動性(成形性)と、成形品の耐衝撃性、剛性、その他の物性バランスが良好となる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤を含有していてもよい。
【0091】
他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-N-フェニルマレイミド共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン複合体などの1種または2種以上が挙げられる。これらのうち、耐衝撃性と流動性の観点から、アクリロニトリル-スチレン共重合体が好ましい。
【0092】
添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、前述の通り、本発明の共重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に添加してもよい。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B)と、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤とをV型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物を押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより製造される。
各成分の混合順序には特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0094】
[成形品]
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性、剛性、成形外観に優れる。
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0096】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、耐衝撃性、低温耐衝撃性等の機械特性、成形外観に優れることから、車両内外装部品、OA機器、建材などに好適である。
【0097】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品の工業的用途例としては、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等が挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0099】
[体積平均粒子径の測定]
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-10)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-10)の体積平均粒子径や分布幅は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて動的光散乱法より求めた。
【0100】
[凝塊物量の測定]
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-10)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-10)のラテックスを100メッシュの金網で濾過し、100メッシュの金網に残った凝塊物を乾燥させて秤量し、各々、共重合体(A-1)~(A-10)、グラフト共重合体(B-1)~(B-10)に対する割合(質量%)を求めた。凝塊物量が少ないほど、共重合体(A-1)~(A-10)、グラフト共重合体(B-1)~(B-10)ラテックスの製造安定性が良好である。
【0101】
[ポリオルガノシロキサン(Aa)]
共重合体(A-1)~(A-8),(A-10)の製造には、以下に記載する市販のポリオルガノシロキサン(Aa-1)~(Aa-6),(Aa-8)と、以下の製造例1,2で製造されたオルガノポリシロキサン(Aa-7),(Aa-9)を用いた。
【0102】
ポリオルガノシロキサン(Aa-1):信越化学工業(株)製「X-22-164AS」
ポリオルガノシロキサン(Aa-2):信越化学工業(株)製「X-22-164A」
ポリオルガノシロキサン(Aa-3):信越化学工業(株)製「X-22-164B」
ポリオルガノシロキサン(Aa-4):信越化学工業(株)製「X-22-164C」
ポリオルガノシロキサン(Aa-5):信越化学工業(株)製「X-22-164E」
ポリオルガノシロキサン(Aa-6):信越化学工業(株)製「KF-2012」
ポリオルガノシロキサン(Aa-8):信越化学工業(株)製「KF-96-100cs」
【0103】
<製造例1:オルガノポリシロキサン(Aa-7)の製造>
撹拌装置、温度計、滴下ロート、還流冷却器を取り付けた4つ口フラスコに、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(8部)、環状オルガノシロキサン混合物(DMC(商品名)、信越シリコーン(株)製)(92部)、メタンスルホン酸(1.4部)を仕込み、85~90℃に加熱し、8時間重合を行った。反応終了後、炭酸水素ナトリウム(1.7部)を加え、120~130℃で3時間加熱した。次いで、2Torrの減圧下、120~130℃で揮発分を留去した後、濾過し、側鎖にメタクリロイル基を有するオルガノポリシロキサン(Aa-7)を得た。
【0104】
<製造例2:ポリオルガノシロキサン(Aa-9)の製造>
環状オルガノシロキサン混合物(DMC(商品名)、信越シリコーン(株)製)91.0部及び3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン8.0部、テトラメトキシシラン1.0部を混合し、オルガノシロキサン混合物100部を得た。得られたオルガノシロキサン混合物にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.68部を溶解した純水313部を添加し、ホモミキサーにて10000rpmで5分間攪拌した後、30MPaの圧力でホモジナイザーに2回通し、安定な予備混合エマルションを得た。
別に、温度計、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸14部及び純水92部を添加し、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。調製したドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を85℃に加熱した状態で、得られた予備混合エマルション全量を8時間に亘って滴下した。滴下終了後、温度を2時間維持し冷却した。次いで、得られた反応物を5%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、側鎖にメタクリル基を含有したポリオルガノシロキサン(Aa-9)のラテックス(固形分22.0%)を得た。
【0105】
ポリオルガノシロキサン(Aa-1)~(Aa-9)の詳細を下記表1にまとめる。
【0106】
【0107】
[共重合体(A)の製造と評価]
<合成例I-1:共重合体(A-1)の製造>
以下の配合で共重合体(A-1)を製造した。
〔配合〕
アクリル酸n-ブチル(BA) 97部
メタクリル酸アリル(AMA) 1部
ポリオルガノシロキサン(Aa-1) 2部
流動パラフィン(LP) 2部
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 0.2部
ジラウロイルペルオキシド(LPO) 0.6部
蒸留水 400部
【0108】
容器にアクリル酸n-ブチル(LogP=1.9)、流動パラフィン(LogP>6.0)、メタクリル酸アリル(LogP=1.5)、ポリオルガノシロキサン(Aa-1)、ジラウロイルペルオキシド、蒸留水、アルケニルコハク酸ジカリウムを仕込み、常温下、(株)SMT製「ハイフレックスディスパーサー HG92」を用いて9000rpmで5分撹拌を行うことで混合物を得た。得られた混合物を三丸機械工業(株)製「高圧式ホモジナイザー H3-1D」を用いて、圧力20MPa、流量135L/Hrで2回処理することでプレエマルションを得た。得られたプレエマルションの体積平均粒子径は400nmであった。
【0109】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、得られたプレエマルションを仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、ラジカル重合を開始した。アクリル酸エステル成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。30分間75℃で維持し、アクリル酸エステル成分の重合を完結させた。製造に要した時間は70分であり、固形分18.5%、体積平均粒子径400nmの共重合体(A-1)のラテックスを得た。得られた共重合体(A-1)のゲル含有率は99%、アセトン膨潤度は800%で、凝塊物量は0.01%であった。
【0110】
<合成例I-2~I-6、比較合成例I-1~3:共重合体(A-2)~(A-9)の製造>
用いたポリオルガノシロキサン(Aa)の種類を表2に示す通り変更したこと以外は、合成例I-1と同様にして、それぞれ共重合体(A-2)~(A-8)のラテックスを得た。比較合成例I-3ではポリオルガノシロキサン(Aa)を使用せず、アクリル酸n-ブチル(BA)とメタクリル酸アリル(AMA)を表2に示す配合量としたこと以外は同様にして共重合体(A-9)のラテックスを得た。
【0111】
<比較合成例I-4:共重合体(A-10)の製造>
以下の配合で共重合体(A-10)を製造した。
〔配合〕
アクリル酸n-ブチル(BA) 97部
メタクリル酸アリル(AMA) 1部
ポリオルガノシロキサンラテックス(Aa-9) 2部(固形分として)
t-ブチルハイドロペルオキシド 0.25部
硫酸第一鉄 0.0002部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.33部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 1部
蒸留水 393部
【0112】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた窒素置換された反応器にポリオルガノシロキサンラテックス(Aa-9)2.0部(固形分として)、蒸留水93部、アルケニコハク酸ジカリウム0.05部、アクリル酸n-ブチル4.70部、メタクリル酸アリル0.1部、t-ブチルハイドロペルオキシド0.05部を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加し60分間反応させた。その後、蒸留水300部、アルケルコハク酸ジカリウム0.95部、アクリル酸n-ブチル92.3部、メタクリル酸アリル0.9部、t-ブチルハイドロペルオキシド0.2部の混合液をポンプで420分間にわたって滴下した。滴下終了後30分間75℃で維持し、アクリレート成分の重合を完結させて共重合体(A-10)のラテックスを得た。製造に要した時間は600分であり、得られたラテックス中の共重合体(A-10)の固形分は19.1%、凝塊物量0.20%、体積平均粒子径は400nmであった。
得られた共重合体(A-10)のゲル含有率は78%、アセトン膨潤度は1300%であった。
【0113】
共重合体(A-1)~(A-10)の評価結果を表2にまとめて示す。
【表2】
【0114】
[グラフト共重合体(B)の製造と評価]
<合成例II-1:グラフト共重合体(B-1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、以下の配合で原料を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を75℃まで昇温した。
〔配合〕
水(共重合体(A-1)ラテックス中の水を含む) 230部
共重合体(A-1)ラテックス 50部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 0.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄七水塩 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
【0115】
次いで、アクリロニトリル(AN)、スチレン(ST)、t-ブチルハイドロペルオキシドを以下の配合で含む混合液を100分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
〔配合〕
アクリロニトリル(AN) 12.5部
スチレン(ST) 37.5部
t-ブチルハイドロペルオキシド 0.2部
【0116】
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後冷却して、グラフト共重合体(B-1)のラテックスを得た。得られたラテックス中のグラフト共重合体(B-1)の固形分は29.7%、凝塊物量は0.01%、体積平均粒子径は500nm、グラフト率は55%であった。
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(B-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(B-1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(B-1)を得た。
【0117】
<合成例II-2~II-6、比較合成例II-1~II-4:グラフト共重合体(B-2)~(B-10)の製造>
共重合体(A-1)のラテックスの代りに、共重合体(A-2)~(A-10)のラテックスをそれぞれ用いたこと以外は、合成例II-1と同様にして、それぞれグラフト共重合体(B-2)~(B-10)を得た。
【0118】
各グラフト共重合体(B-1)~(B-10)の粒子径、凝集物量、グラフト率を表3にまとめて示す。
【0119】
【0120】
[AN-ST系熱可塑性樹脂組成物の製造と評価]
<実施例1~6、比較例1~4:熱可塑性樹脂組成物の製造>
グラフト共重合体(B-1)~(B-10)と、懸濁重合法によって製造したアクリロニトリル(AN)-スチレン(ST)共重合体(テクノUMG(株)製「UMG AXS レジン S102N」)とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練してペレット1を得た。
またペレット1の100部とカーボンブラック0.8部とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練して黒色ペレット2を得た。
【0121】
<試験片の作製>
上記熱可塑性樹脂組成物のペレット1を用い、各々、4オンス射出成形機(日本製鋼所(株)製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で成形して、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの棒状の成形体1を得た。
また、同様にして、熱可塑性樹脂組成物の黒色ペレット2をシリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で射出成形して、長さ100mm、幅100mm、厚み3mmの板状の成形体2を得た。
【0122】
<評価>
(シャルピー衝撃値の測定)
ISO 179-1:2013年度版に準拠し、試験温度23℃及び-30℃の条件で、それぞれの成形体1(タイプB1、ノッチ有:形状A シングルノッチ)のシャルピー衝撃強度(打撃方向:エッジワイズ)を測定した。シャルピー衝撃強度が高いほど、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0123】
(メルトボリュームレート(MVR)の測定)
ISO 1133規格に従い、220℃-98Nの条件でペレット1のMVRを測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の成形性の目安となる。
【0124】
(引張強度・伸びの測定)
成形体1について、JIS K7161-1:2014に準じて、引張試験機(株式会社島津製作所製AGS-X)を用いて測定した。なお、引張強度が大きいほど、成形品が固いことを意味し、引張伸びが大きいほど、成形品が応力に対して粘り強い(割れにくい)ことを意味する。
【0125】
(発色性の評価)
成形体2について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*を測定した。測定されたL*を「L*(ma)」とする。L*が低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度L*」とは、JIS Z 8729において採用されているL*a*b*表色系における色彩値のうちの明度の値(L*)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
【0126】
(表面光沢の測定)
スガ試験機株式会社製の「デジタル変角光沢計UGV-5D」を用い、JIS K 7105に準拠して、入射角60°、反射角60°における成形体2の表面の反射率(%)を測定した。反射率が高いほど表面外観に優れることを意味する。
【0127】
実施例1~6および比較例1~4の結果を表4に示す。
【0128】
【0129】
各実施例および比較例の結果から、次のことが明らかとなった。
本発明の共重合体(A-1)~(A-6)を用いたグラフト共重合体(B-1)~(B-6)は、表3に示される通り、凝塊物が少なく、このグラフト共重合体(B-1)~(B-6)を用いた実施例1~6の熱可塑性樹脂組成物は、表4に示される通り、耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、引張特性、発色性、光沢に優れるものであることがわかる。
【0130】
一方、本発明の範囲外のポリオルガノシロキサン(Aa)を用いて製造された共重合体(A-7),(A-8)、(A-10)を用いたグラフト共重合体(B-7),(B-8),(B-10)を配合した比較例1,2,4の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、低温耐衝撃性、引張特性、発色性、光沢のいずれかに劣る。
【0131】
また、ポリオルガノシロキサン(Aa)を用いていない共重合体(A-9)を用いたグラフト共重合体(B-9)を配合した比較例3の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、低温耐衝撃性、引張特性に劣る。
【0132】
[その他の熱可塑性樹脂組成物の製造と評価]
<実施例7,8>
AN-ST共重合体の代りにポリカーボネート樹脂(三菱ケミカル社製「ユーピロン S-2000」)又はアクリル樹脂(三菱ケミカル社製「アクリペット VH5」)を用い、実施例4と同様に熱可塑性樹脂組成物の製造と評価を行い、結果を表5に示した。
【0133】
【0134】
実施例7,8から明らかなように、本発明のグラフト共重合体(B)は、種々の熱可塑性樹脂と混合することができ、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂と混合した場合も、得られる熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、成形性、耐衝撃性、低温耐衝撃性、引張特性、発色性、光沢に優れるものである。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は成形性に優れ、また、その成形品は、耐衝撃性、低温耐衝撃性、引張強度、引張伸び、発色性、光沢が良好なものである。この成形性、耐衝撃性、低温耐衝撃性、引張特性、発色性、光沢のバランスは、従来の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品に比べて非常に優れているので、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、各種工業用材料としての利用価値が極めて高い。