(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離組成物
(51)【国際特許分類】
   B01D  53/14        20060101AFI20230328BHJP        
   C01B  32/50        20170101ALI20230328BHJP        
【FI】
B01D53/14 210 
C01B32/50 
(21)【出願番号】P 2019058055
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原  靖
【審査官】太田  一平
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509280(JP,A)      
【文献】特開2013-013854(JP,A)      
【文献】特開2020-069414(JP,A)      
【文献】米国特許出願公開第2013/0269526(US,A1)    
【文献】特開2017-104776(JP,A)      
【文献】特開平11-057465(JP,A)      
【文献】特開2003-010631(JP,A)      
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D    53/14  -  53/18
C01B    32/00  -  32/991
B01D    53/34  -  53/73
B01D    53/74  -  53/85
B01D    53/92
B01D    53/96
B01D    53/02  -  53/12
B01J    20/00  -  20/28
B01J    20/30  -  20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
            N-(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン及び/又はN,N’’-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン、水
、並びにリン酸及び/又はリン酸塩からな
り、水の濃度が30~95重量%である二酸化炭素分離組成物。
【請求項2】
            N-(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン及び/又はN,N’’-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン、水、並びに亜鉛(II)化合物及び/又は銅(II)化合物
からなり、水の濃度が30~95重量%である二酸化炭素分離組成物。
【請求項3】
            N-(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン及び/又はN,N’’-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン、水、並びにアミノ基数6のペンタエチレンヘキサミンよりアミノ基数が多いアミンが主成分のポリエチレンポリアミン混合物からなり、水の濃度が30~95重量%である二酸化炭素分離組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、二酸化炭素分離液に関する。
【背景技術】
【0002】
  近年、地球温暖化問題のため、二酸化炭素の分離・回収が注目されており、多くの二酸化炭素吸収液の開発がなされている。
【0003】
  二酸化炭素の吸収液として、アミンの水溶液、特にモノエタノールアミン水溶液が最も一般的である。モノエタノールアミンは、安価で工業的に入手しやすいが、低温で吸収した二酸化炭素を120℃以上の高温にしないと放出しないという特性がある。そして、二酸化炭素放出温度を水の沸点以上にすると、水の高い潜熱、比熱のため、二酸化炭素の回収に多くのエネルギーを要することになる。
【0004】
  そのため、モノエタノールアミンより二酸化炭素放散温度が低く、二酸化炭素回収エネルギーの低いアミンの開発がなされている。例えば、アミノメチルプロパノール(例えば、特許文献1参照)、エチルアミノエタノール(例えば、特許文献2参照)、イソプロピルアミノエタノール(例えば、特許文献3参照)が提案されている。これらは、いずれもアミノ基を嵩高い置換基で保護することにより、二酸化炭素-アミン間の強固な結合の生成を阻害し、二酸化炭素の放散エネルギーを低下させることができるものであるが、低分子アミンであるため沸点が低く、蒸発による損失が大きい。また、工業的に使用するには価格が高い。高沸点のアミンとしてN-メチルジエタノールアミン(例えば、特許文献4参照)も知られているが、二酸化炭素の吸収量、放散量が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
               【文献】特開平06-343858号公報
               【文献】特開平08-089756号公報
               【文献】特開2007-217344公報
               【文献】国際公開第99/051326号パンフレット
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温で二酸化炭素を放散するアミンを使用した二酸化炭素分離組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
  本発明者は、二酸化炭素を吸収、放散するアミンについて鋭意検討した結果、ジエチレントリアミンに酸化プロピレンを付加したアミンの水溶液が、ジエチレントリアミンをそのまま使用した場合に比べて、吸収した二酸化炭素を高効率で放散することができるという新規な事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
  すなわち、本発明は、以下に示すとおりの二酸化炭素分離組成物である。
【0009】
  [1]ジエチレントリアミンに酸化プロピレンを付加したアミン及び水からなる二酸化炭素分離組成物。
【0010】
  [2]ジエチレントリアミンに酸化プロピレンを付加したアミンが、N-(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン及び/又はN,N’’-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミンである上記[1]に記載の二酸化炭素分離組成物。
【0011】
  [3]水の濃度が30~95重量%である上記[1]又は[2]に記載の二酸化炭素分離組成物。
【0012】
  [4]さらにリン酸及び/又はリン酸塩を含んでなる上記[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素分離組成物。
【0013】
  [5]さらに亜鉛(II)化合物及び/又は銅(II)化合物を含んでなる上記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素分離組成物。
【0014】
  [6]さらにアミノ基数5以上のポリエチレンポリアミンを含んでなる上記[1]~[5]のいずれかに記載の二酸化炭素分離組成物。
【0015】
  以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
  本発明の二酸化炭素分離組成物の必須成分は、ジエチレントリアミンに酸化プロピレンを付加したアミン及び水である。
【0017】
  本発明の二酸化炭素分離組成物において使用するジエチレントリアミンは、アミノ基数3のポリエチレンポリアミンであり、単一化合物として工業的に容易に入手できる。ジエチレントリアミンも二酸化炭素を吸収し、加熱によって二酸化炭素を放散することができるが、その放散効率は低く、二酸化炭素の分離には高エネルギーを要する。そこで、ジエチレントリアミンの分離性能を向上させるために酸化プロピレンを付加することにより、二酸化炭素の放散効率が高くなることを見出した。
【0018】
  本発明の二酸化炭素分離組成物において、ジエチレントリアミンに付加する酸化プロピレンに特に制限はなく、工業的に広く流通しているものを使用することができる。
【0019】
  本発明の二酸化炭素分離組成物において、酸化プロピレンのジエチレントリアミンへの付加方法にも特に制限はない。混合して加熱する方法、酸触媒を使用する方法など一般に知られている付加方法を使用することができる。加熱する方法では、N-(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン及び/又はN,N’’-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミンなどの2級アルコールが生成し、酸触媒を使用する方法では、1級と2級アルコールが生成する。酸触媒を使用した場合、残存する酸は二酸化炭素の吸収を阻害するため除去することが好ましい。
【0020】
  本発明の二酸化炭素分離組成物は水溶液として使用する。水はジエチレントリアミンに酸化プロピレンを付加したアミンの溶媒として、また二酸化炭素を炭酸塩にするために必要である。水を使用しない、又は水が不十分であると、ジエチレントリアミンに酸化プロピレンを付加したアミンが二酸化炭素と反応した時に、液が粘調になったり、固化したりして、装置閉塞などのトラブルが生じやすくなる。また、アミンと二酸化炭素がカルバミン酸塩を形成し、二酸化炭素の放散エネルギーが高くなる。
【0021】
  本発明の二酸化炭素分離組成物の水の濃度は30~95重量%が好ましく、さらに好ましくは50~90重量%である。濃度が30重量%未満であると液が粘調になり、装置トラブルが生じやすくなり、95重量%を超えると二酸化炭素の吸収量が工業的でないほど少なくなる傾向にある。
【0022】
  本発明の二酸化炭素分離組成物には、リン酸及び/又はリン酸塩を添加することができる。リン酸には、オルトリン酸、ピロリン酸(二リン酸)、メタリン酸(ポリリン酸)などがあるが、いずれの形態を使用しても良い。またリン酸塩は、アミン、アンモニアとのアンモニウム塩、リチウム、ナトリウム、カリウムなどとのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどとのアルカリ土金属塩、アルミニウム塩、チタニウム塩、鉄塩、ニッケル塩などがあるが、いずれを使用しても一向に差し支えない。リン酸及び/又はリン酸塩を使用することにより、二酸化炭素の放散が促進される。また、石炭火力発電など、排ガス中に金属成分を含む排ガスを処理する場合には、排ガス中に含まれる種々の金属成分の捕捉が促進される。
【0023】
  本発明の二酸化炭素分離組成物には、亜鉛(II)化合物、銅(II)化合物を添加することができる。亜鉛(II)化合物は、亜鉛(II)塩、亜鉛(II)酸化物、亜鉛(II)水酸化物であり、フッ化亜鉛(II)、塩化亜鉛(II)、臭化亜鉛(II)、ヨウ化亜鉛(II)などのハロゲン化亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、硫化亜鉛(II)、炭酸亜鉛(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化亜鉛(II)、ギ酸亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)などの有機酸亜鉛(II)が例示される。銅(II)化合物は、銅(II)塩、銅(II)酸化物、銅(II)水酸化物であり、フッ化銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)などのハロゲン化銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、硫化銅(II)、炭酸銅(II)、酸化銅(II)、水酸化銅(II)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(II)などの有機酸銅(II)が例示される。これらの亜鉛(II)化合物、銅(II)化合物はアミン類と共に使用することができる。使用するアミン類は、エチレンアミン類、エタノールアミン類が好ましい。
【0024】
  本発明の二酸化炭素分離組成物には、アミノ基数5以上のポリエチレンポリアミンを添加することができる。ポリエチレンポリアミンとは、複数のエチレン鎖を有し、しかもそのエチレン鎖の両端にアミノ基を有するアミンの総称である。本発明の二酸化炭素分離組成物において、ポリエチレンポリアミンのアミノ基数が多いほど吸収した二酸化炭素を高効率で放散することができるが、特にアミノ基数5以上のポリエチレンポリアミンが有効である。アミノ基数5以上のポリエチレンポリアミンは、二酸化炭素を放散しにくい1級アミノ基の比率が少ない。アミノ基を5以上有するポリエチレンポリアミンを例示すると、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミンなどが挙げられる。これらのポリエチレンポリアミンは単一化合物としては工業的に入手することが困難であり、蒸留では分離困難な異性体などの混合物として一般に流通している。テトラエチレンペンタミンは、直鎖状のテトラエチレンペンタミン、分岐したN,N-ビス(2-アミノエチル)ジエチレントリアミン、ピペラジン環を含むN-(3,6-ジアザヘキシル)-N’-(3-アザプロピル)ピペラジン、N-(3,6,9-トリアザノニル)ピペラジンのアミノ基数5の4種のアミン混合物として流通している。ペンタエチレンヘキサミン以上の沸点のポリエチレンポリアミンはさらに多くのアミンの混合物となっているが、本発明の二酸化炭素分離組成物においては、混合物として使用しても一向に差し支えない。また、他の留分のポリエチレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミンとペンタエチレンヘキサミンを混合して使用しても一向に差し支えない。
【0025】
  本発明の二酸化炭素分離組成物には、他のよく知られたアミン、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、イソプロピルアミノエタノールなどを添加しても良い。また、アルコール類やエチレングリコール、グリセリンなどのポリオール、ポリエチレングリコールなどを添加しても良い。
【0026】
  本発明の二酸化炭素分離組成物は、化学吸収法として広く知られた二酸化炭素分離方法に適用することができる。化学吸収法は二酸化炭素分離組成物と二酸化炭素を含む気体を接触させ、二酸化炭素を選択的に吸収させた後、高温又は減圧することにより二酸化炭素を放散させる。一般には二酸化炭素を放散させる温度は100℃以上であるが、本発明の二酸化炭素分離組成物を使用した場合には、100℃以下の温度でも二酸化炭素を放散させることができる。
【発明の効果】
【0027】
  本発明の二酸化炭素分離組成物は、吸収した二酸化炭素を高効率で放散することができるため、低エネルギーで二酸化炭素を分離することができ、工業的に極めて有用である。
【実施例】
【0028】
  本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
【0029】
  MEA:モノエタノールアミン
  DETA:ジエチレントリアミン(東ソー株式会社製)
  PO:酸化プロピレン
  DETA-PO:N-(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン
  DETA-2PO:N,N’’-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン
  P8:アミノ基数6のペンタエチレンヘキサミンよりアミノ基数が多いアミンが主成分のポリエチレンポリアミン混合物(東ソー株式会社製)
  ZnCu:塩化亜鉛(II)、塩化銅(II)、DETAをモル比で1:1:8で混合した触媒
  実施例1(DETA-POの合成)
  コンデンサー、温度計を取り付けた3口フラスコに、DETAを100g入れ、60℃に加熱、撹拌しながらPO  56.3gを2時間かけて滴下した。その後、95℃に昇温し、1時間加熱してDETA-POを合成した。
【0030】
  実施例2(DETA-2POの合成)
  コンデンサー、温度計を取り付けた3口フラスコに、DETA-POを52.1g入れ、60℃に加熱、撹拌しながらPO  18.8gを2時間かけて滴下した。その後、95℃に昇温し、1時間加熱してDETA-2POを合成した。
【0031】
  実施例3
  DETA-PO  30gに純水70gを加えた二酸化炭素吸収液100gを調製した。これを40℃に設定した吸収塔の上部からポンプで供給し、下方から500mL/分で40%二酸化炭素-窒素混合ガスを供給し、二酸化炭素を吸収させた。吸収液は二酸化炭素を吸収しなくなるまで吸収塔上部にリサイクルした。二酸化炭素の吸収量は、吸収液1kgあたり52.5Lだった。これを90℃に加熱した放散塔に供給したところ、吸収液1kgあたり17.0Lの二酸化炭素を放散した。結果を表1に記した。
【0032】
  実施例4~7、比較例1~2
  表1記載のアミン、添加物からなる二酸化炭素吸収液を調製し、実施例3と同様の方法で二酸化炭素の吸収性能、放散性能を評価した。結果は表1に記した。
【0033】