(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】ガラス板の製造装置、及びガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 18/06 20060101AFI20230328BHJP
【FI】
C03B18/06
(21)【出願番号】P 2019192088
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】富田 成明
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 哲史
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特公昭50-013291(JP,B1)
【文献】特開2016-135717(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073352(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106495451(CN,A)
【文献】中国実用新案第206418007(CN,U)
【文献】特開2014-193796(JP,A)
【文献】特開2018-193284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 18/00-18/22
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック製の回転部材と、前記回転部材を回転させる回転軸と、前記回転軸の内部に形成される冷媒流路とを有し、前記回転部材の外周にて帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえ、前記ガラスリボンの長手方向に前記ガラスリボンを送り出すロールと、
前記回転部材の外周を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記加熱機構は、レーザ光線を前記回転部材の外周に照射する照射器を含むことを特徴とする、ガラス板の製造装置。
【請求項2】
前記回転部材は、前記回転軸の回転中心線に対して線対称な円錐状のテーパ面を含み、
前記レーザ光線の前記テーパ面に対する入射角は、0°~15°である、請求項1に記載のガラス板の製造装置。
【請求項3】
前記テーパ面は、前記ガラスリボンの幅方向外側に向けて先細り状である、請求項2に記載のガラス板の製造装置。
【請求項4】
セラミック製の回転部材と、前記回転部材を回転させる回転軸と、前記回転軸の内部に形成される冷媒流路とを有し、前記回転部材の外周にて帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえ、前記ガラスリボンの長手方向に前記ガラスリボンを送り出すロールと、
前記回転部材の外周を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記加熱機構は、前記回転部材の外周に対向配置される発熱体と、前記発熱体を支持する支持部材とを有することを特徴とする、ガラス板の製造装置。
【請求項5】
前記支持部材は、水平に配置される水平部を含み、
前記発熱体は、前記水平部に取り付けられる、請求項4に記載のガラス板の製造装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記回転軸を回転自在に支持する軸受部と、前記軸受部と前記水平部とを連結するアーム部とを含む、請求項5に記載のガラス板の製造装置。
【請求項7】
前記支持部材は、前記水平部と前記アーム部とを締結するボルトを更に含み、
前記ボルトは、前記アーム部の貫通穴を通り、前記水平部のねじ穴にねじ込まれる、請求項6に記載のガラス板の製造装置。
【請求項8】
前記支持部材の少なくとも一部は、炭素鋼又は合金鋼で形成される金属部材であり、
前記金属部材の表面には、Cr、CrN、SiC又はSi
3N
4の保護膜が形成される、請求項4~7のいずれか一項に記載のガラス板の製造装置。
【請求項9】
前記発熱体の材質は、SiC又はPtである、請求項4~8のいずれか一項に記載のガラス板の製造装置。
【請求項10】
セラミック製の回転部材と、前記回転部材を回転させる回転軸と、前記回転軸の内部に形成される冷媒流路とを有し、前記回転部材の外周にて帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえ、前記ガラスリボンの長手方向に前記ガラスリボンを送り出すロールと、
前記回転部材の外周を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記加熱機構は、前記回転部材の表面に形成される発熱線を有することを特徴とする、ガラス板の製造装置。
【請求項11】
前記回転部材は、前記回転部材の回転中心線に対して垂直な平坦面を有し、
前記発熱線は、前記回転部材の前記平坦面に形成される、請求項10に記載のガラス板の製造装置。
【請求項12】
前記回転部材は、前記回転部材の回転中心線に対して垂直な平坦面と、前記平坦面に形成される凹部とを有し、
前記発熱線は、前記回転部材の前記凹部に埋め込まれる、請求項10に記載のガラス板の製造装置。
【請求項13】
前記平坦面は、前記ガラスリボンの幅方向内側に向けた面、及び前記ガラスリボンの幅方向外側に向けた面の少なくとも一方である、請求項11又は12に記載のガラス板の製造装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の製造装置を用い、ガラス板を製造するガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス板の製造装置、及びガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の製造装置は、成形炉と、成形炉の内部にて帯板状のガラスリボンの幅方向の収縮を抑制するロールとを備える。ロールは、ガラスリボンの幅方向両側に複数対配置され、ガラスリボンに対し幅方向に張力を与える。ロールは、円盤状の回転部材と、回転部材を回転させる回転軸とを有する。
【0003】
回転部材は、その外周にて、ガラスリボンの幅方向端部を押さえ、ガラスリボンの長手方向にガラスリボンを送り出す。ガラスリボンは、成形炉の内部で、移動しながら、徐々に冷却される。回転部材は、通常、金属で形成され、外周に、ガラスリボンと接触する歯車状の凹凸を有する。金属は、耐熱性が低く、高温強度(例えば500℃以上の強度)も充分ではないので、回転部材の内部には冷媒流路が形成される。冷媒は、回転部材の熱を外部に搬送し、回転部材の温度上昇を抑制する。
【0004】
成形炉内のガラスリボンは、下流方向に移動するにつれ温度が低くなるが、それとともにガラスリボンが硬化する。そうすると、回転部材のガラスリボンに対するグリップ力が充分に得られなくなる。
【0005】
そこで、特許文献1では、セラミック製の回転部材が提案されている。セラミックは金属に比べて耐熱性に優れるので、回転部材の内部には冷媒流路が形成されない。それゆえ、回転部材を介してガラスリボンが冷却されるのを防止でき、回転部材のガラスリボンに対するグリップ力の低下を抑制できる。なお、セラミック製の回転部材は、グリップ力を得るのに、外周に、歯車状の凹凸を有しなくてよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セラミック製の回転部材であっても、硬化したガラスリボンに対し、十分なグリップ力を得られないことがあった。
【0008】
本開示の一態様は、回転部材のガラスリボンに対するグリップ力を向上できる、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係るガラス板の製造装置は、
セラミック製の回転部材と、前記回転部材を回転させる回転軸と、前記回転軸の内部に形成される冷媒流路とを有し、前記回転部材の外周にて帯板状のガラスリボンの幅方向端部を押さえ、前記ガラスリボンの長手方向に前記ガラスリボンを送り出すロールと、
前記回転部材の外周を加熱する加熱機構と、
を備え、
前記加熱機構は、レーザ光線を前記回転部材の外周に照射する照射器を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、回転部材のガラスリボンに対するグリップ力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るガラス板の製造装置のうちの成形装置を示す鉛直断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の成形装置の下部構造を示す平面断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の成形装置の一部を示す鉛直断面図である。
【
図4】
図4は、第1変形例に係る成形装置の一部を示す鉛直断面図である。
【
図5】
図5は、第2変形例に係る成形装置の一部を示す鉛直断面図である。
【
図6】
図6は、第3変形例に係る成形装置の一部を示す鉛直断面図である。
【
図7B】
図7Bは、発熱線と電極の別の一例を示す斜視図である。
【
図7C】
図7Cは、発熱線と電極の更に別の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0013】
各図面において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに垂直な方向であって、X軸方向及びY軸方向は水平方向、Z軸方向は鉛直方向である。ガラスリボンの成形方法がフロート法である場合、X軸方向がガラスリボンの移動方向、Y軸方向がガラスリボンの幅方向である。
【0014】
明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0015】
(一実施形態に係るガラス板の製造装置及びガラス板の製造方法)
図1~3を参照して、一実施形態に係るガラス板の製造装置及びガラス板の製造方法について説明する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、ガラス板の製造装置は、成形装置1を有する。成形装置1は、溶融ガラスを帯板状に成形し、ガラスリボンGを得る。成形装置1は、例えば、フロート法でガラスリボンGを得る。フロート法は、溶融スズ等の溶融金属Mの液面の上に溶融ガラスを連続的に供給し、供給した溶融ガラスを溶融金属Mの液面の上でX軸方向負側からX軸方向正側に流動させながら、帯板状に成形する。ガラスリボンGは、成形装置1から取り出された後、徐冷装置で徐冷され、続いて、加工装置で切断される。徐冷装置及び加工装置は、一般的なものであるので、図示を省略する。加工後に、製品として、ガラス板が得られる。
【0017】
ガラス板は、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO2:50%~75%、Al2O3:0.1%~24%、B2O3:0%~12%、MgO:0%~10%、CaO:0%~14.5%、SrO:0%~24%、BaO:0%~13.5%、Na2O:0%~20%、K2O:0%~20%、ZrO2:0%~5%、MgO+CaO+SrO+BaO:5%~29.5%、Na2O+K2O:0%~20%を含有する。
【0018】
ガラス板のガラスの種類は、ガラス板の用途に応じて選択される。ガラス板の用途は、特に限定されないが、例えば液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)である。ガラス板の用途がFPDである場合、ガラス板のガラスの種類は無アルカリガラスである。無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物(Na2O、K2O、Li2O等)を実質的に含有しないガラスである。無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物の含有量の合量が0.1質量%以下でよい。
【0019】
無アルカリガラスは、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO2:50%~70%(好ましくは50%~66%)、Al2O3:10.5%~24%、B2O3:0%~12%、MgO:0%~10%(好ましくは0%~8%)、CaO:0%~14.5%、SrO:0%~24%、BaO:0%~13.5%、ZrO2:0%~5%、MgO+CaO+SrO+BaO:8%~29.5%(好ましくは9%~29.5%)を含有する。
【0020】
無アルカリガラスは、高い歪点と高い溶解性とを両立する場合、好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、SiO2:58%~66%、Al2O3:15%~22%、B2O3:5%~12%、MgO:0%~8%、CaO:0%~9%、SrO:3%~12.5%、BaO:0%~2%、MgO+CaO+SrO+BaO:9%~18%を含有する。
【0021】
無アルカリガラスは、特に高い歪点を得たい場合、好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、SiO2:54%~73%、Al2O3:10.5%~22.5%、B2O3:0%~5.5%、MgO:0%~10%、CaO:0%~9%、SrO:0%~16%、BaO:0%~2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO:8%~26%を含有する。
【0022】
ガラス板の厚みは、ガラス板の用途に応じて選択される。ガラス板の用途がFPDである場合、ガラス板の厚みは好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下、さらにより好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.1mm以下である。
【0023】
成形装置1は、
図1に示すように、成形炉2を備える。成形炉2は、溶融金属Mを収容する浴槽20、浴槽20の上方に設けられる天井21、及び浴槽20と天井21との間の隙間を塞ぐ側壁22を有する。天井21にはガス供給穴23が設けられる。ガス供給穴23は、溶融金属Mの上方空間に還元性ガスを供給し、溶融金属Mの酸化を防止する。還元性ガスは、例えば、水素ガスを1体積%~15体積%、窒素ガスを85体積%~99体積%含む。
【0024】
成形装置1は、成形炉2の内部にて、ガラスリボンGを加熱するヒータ3を備える。ヒータ3は、例えば、天井21のガス供給穴23に挿し通され、溶融金属M及びガラスリボンGの上方にて、X軸方向及びY軸方向に行列状に配置される。ヒータ3の出力は、X軸方向負側からX軸方向正側に向かうほど、ガラスリボンGの温度が低くなるように制御される。また、ヒータ3の出力は、ガラスリボンGの厚みがY軸方向に均一になるように制御される。
【0025】
成形装置1は、成形炉2の内部にて、帯板状のガラスリボンGの幅方向端部を押さえ、ガラスリボンGの長手方向にガラスリボンGを送り出すロール5を備える。ガラスリボンGは、X軸方向に移動しながら、徐々に冷却され、固くなる。ロール5は、ガラスリボンGの幅方向両側に複数対設けられ、ガラスリボンGの幅方向の収縮を抑制する。ガラスリボンGの厚みを平衡厚みよりも薄くできる。
【0026】
ロール5は、
図2に示すように、少なくとも成形域A1にてガラスリボンGの幅方向端部を押さえ、好ましくは成形域A1と低温域の両方にてガラスリボンGの幅方向端部を押さえる。成形域A1は、ガラスリボンGの粘度が10
4.5dPa・s~10
7.5dPa・sの領域である。低温域は、成形域A1よりも低温の領域であり、ガラスリボンGの粘度が10
7.5dPa・s超~10
7.65dPa・sの粘度範囲の領域である。混合域は、成形域A1の下流域と低温域の全てを含み、ガラスリボンGの粘度が10
6.7dPa・s~10
7.65dPa・sの領域である。また、ロール5は、後述する加熱機構7によって回転部材51の外周が加熱されるので、ガラスリボンGの粘度が10
7.65dPa・s超の領域である徐冷域A2にてガラスリボンGの幅方向端部を押さえる。これらの粘度は、ガラスリボンGの幅方向中心にて測定する。
【0027】
無アルカリガラスの粘度と温度との関係は、例えば、下記の通りである。成形域A1の粘度104.5dPa・s~107.5dPa・sは、温度946℃~1200℃に相当する。また、低温域の粘度107.5超dPa・s~107.65dPa・sは、温度937℃以上946℃未満に相当する。また、混合域の粘度106.7dPa・s~107.65dPa・sは、温度937℃~1000℃に相当する。更に、徐冷域A2の粘度107.65dPa・s超は、温度937℃未満に相当する。これらの温度は、ガラスリボンGの幅方向中心にて測定する。
【0028】
図3に示す構造のロール5は、混合域、低温域又は徐冷域A2にて用いられる。例えば、回転部材が金属製であるロールは成形域A1(混合域を除く)に、回転部材51がセラミック製であるロール5は混合域及び徐冷域A2にて用いられる。
【0029】
ロール5は、回転部材51と、回転軸52と、冷媒流路53とを有する。回転部材51は、例えば円盤状であって、その外周にて、ガラスリボンGの幅方向端部を押さえ、ガラスリボンGの長手方向にガラスリボンGを送り出す。回転軸52は、駆動装置6(
図1参照)によって回転駆動され、回転部材51を回転させる。回転軸52は金属で形成され、金属の耐熱性は低いので、回転軸52の内部に冷媒流路53が形成される。
【0030】
回転部材51は、セラミック製である。セラミックは、金属に比べて耐熱性に優れるので、回転部材51の内部には冷媒流路が形成されない。それゆえ、冷媒が回転部材51を介してガラスリボンGを冷却するのを防止できる。混合域、特に低温域にて、グリップ力の低下を抑制できる。
【0031】
回転部材51のセラミックの種類は、特に限定されないが、例えば、窒化ケイ素(Si3N4)質セラミック等である。窒化ケイ素は、溶融金属Mの飛沫や溶融金属Mの蒸気に対する耐性が高く、溶融金属Mが付着しにくく、また、高温強度やクリープ特性に優れている。窒化ケイ素質セラミックは、無アルカリガラスとの反応性が低い点でも優れている。
【0032】
窒化ケイ素質セラミックは、窒化ケイ素の粉末と、焼結助剤の粉末とを含む混合粉末で作製した成形体を焼結した焼結体であってよい。焼結方法としては、常圧焼結法、加圧焼結法(ホットプレス焼結、ガス圧焼結を含む)等がある。焼結助剤としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)から選ばれる少なくとも1種類が用いられる。
【0033】
窒化ケイ素質セラミックは、アルミニウム(Al)の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.1質量%未満、マグネシウム(Mg)の含有量が0.7質量%以下、好ましくは0.7質量%未満、チタン(Ti)の含有量が0.9質量%以下、好ましくは0.9質量%未満である。Al含有量、Mg含有量及びTi含有量が上記の範囲であると、回転部材51とガラスリボンGとの反応性が低く、また、回転部材51とガラスリボンGとがくっつき難く、良好な耐久性が得られる。Al含有量、Mg含有量及びTi含有量は、それぞれ、0質量%であってもよい。
【0034】
窒化ケイ素質セラミックは、ジルコニウム(Zr)の含有量が3.5質量%以下、好ましくは3.5質量%未満、イットリウム(Y)の含有量が0.5質量%以上、好ましくは0.5質量%超、10質量%以下、好ましくは10質量%未満であってもよい。ZrやYは、AlやMg、Tiに比べて、ガラスリボンGと相互拡散し難い成分であるので、上記の範囲で含有されてよい。上記の範囲で含有されることによって、窒化ケイ素粉末の焼結を促進することができる。Zrは任意成分であって、Zr含有量は0質量%であってもよい。
【0035】
なお、本実施形態の窒化ケイ素質セラミックは、常圧焼結法又は加圧焼結法により得られる焼結体であるが、反応焼結法により得られる焼結体であってもよい。反応焼結法は、金属ケイ素(Si)の粉末で成形された成形体を窒素雰囲気中で加熱する方法である。反応焼結法は、焼結助剤を使用しないので、高純度の焼結体が得られ、焼結体のガラスリボンGに対する耐久性を向上できる。
【0036】
回転部材51の外周は、
図3に示すように、全周にわたって断面形状が径方向外方に凸の湾曲状であってもよい。前記凸の湾曲状の曲率半径は、例えば、1mm~100mmである。
【0037】
回転軸52は、
図1に示すように、側壁22の開口を貫通し、成形炉2の外の駆動装置6と接続される。駆動装置6は、例えばモータと減速機とを含み、回転軸52を回転させる。回転軸52は、回転部材51の中央部の貫通孔に挿通される。
【0038】
回転軸52は、金属で形成される。金属の耐熱性は低いので、回転軸52の内部には冷媒流路53が形成される。冷媒流路53を流れる冷媒は、水等であり、回転軸52の熱を外部に搬送し、回転軸52の温度上昇を抑制する。
【0039】
図3に示すように、回転軸52の途中には、フランジ54が形成される。フランジ54は、回転軸52と一体に形成され、金属で形成される。それゆえ、フランジ54の内部には、回転軸52の内部から冷媒が供給される。フランジ54には、回転軸52に対して平行な同期軸55が設けられる。同期軸55は、回転部材51の貫通穴に挿し通され、回転部材51を回転軸52と同期して回転させる。
【0040】
回転軸52は、先端にねじ軸を有する。そのねじ軸には、第1ナット56が取り付けられる。第1ナット56は、回転部材51をフランジ54とは反対側から押さえる。また、同期軸55は、先端にねじ軸を有する。そのねじ軸には、第2ナット57が取り付けられる。第2ナット57は、回転部材51をフランジ54とは反対側から押さえる。
【0041】
回転軸52及びフランジ54の金属は、例えば炭素鋼又は合金鋼で形成される。炭素鋼は、例えば、日本工業規格(JIS G4051-2016)に記載のS10C、S15C、S20C又はS25C等である。合金鋼は、例えば、日本工業規格(JIS G4053-2016)に記載のSCr420、SCM415等である。
【0042】
金属の表面には、保護膜が形成されてもよい。保護膜は、例えば、Cr、CrN、SiC又はSi3N4で形成され、金属の腐食を抑制する。Cr膜は、例えばメッキ法で形成される。一方、CrN膜、SiC膜及びSi3N4膜は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成される。
【0043】
なお、回転軸52及びフランジ54は、溶接部分を含んだ構成としてもよい。この場合、溶接部分の耐熱性は特に低いので、冷媒により充分に冷却する必要がある。
【0044】
図1に示すように、成形装置1は、回転部材51の外周を加熱する加熱機構7を更に備える。回転部材51は、その外周にて、ガラスリボンGの幅方向端部を押さえ、ガラスリボンGの長手方向にガラスリボンGを送り出す。加熱機構7が回転部材51の外周を加熱するので、回転部材51がガラスリボンGに対して食い込み易く、グリップ力が向上する。
【0045】
加熱機構7は、光源で発振されたレーザ光線Lを、回転部材51の外周に照射する照射器71を含む。照射器71は、レンズ又はミラー等の光学部品を含む。照射器71は、成形炉2の側壁22等に取り付けられる。照射器71は、溶融金属Mの真上に配置されないので、溶融金属Mの蒸気にほとんど曝されない。従って、照射器71の劣化を抑制できる。なお、照射器71は、側壁22の外部に設けられてもよい。
【0046】
レーザ光線Lは、回転部材51の外周にて吸収され、熱に変換され、回転部材51の外周を加熱する。回転部材51の材質が窒化ケイ素質であると、窒化ケイ素の熱伝導率は低いので、回転部材51の径方向への熱移動を抑制できる。従って、回転部材51の外周の加熱効率と、回転軸52の冷却効率とが良い。
【0047】
レーザ光線Lにより、回転部材51の外周が加熱されると、回転部材51がガラスリボンGと接触する部分の温度が上昇し、ガラスリボンGに対するグリップ力が向上する。従って、硬化したガラスリボンGに対し幅方向に張力を与え、ガラスリボンGの幅方向の収縮を抑制することができる。これにより、収縮による変形が低減されるため、ガラスリボンGの平坦度が向上する。
【0048】
加熱後の回転部材51の外周の温度は、成形炉2内の雰囲気の温度よりも、例えば、1℃~200℃高い。この温度差は、好ましくは1℃~100℃、より好ましくは5℃~70℃、さらに好ましくは10℃~50℃である。また、加熱後の回転部材51の外周の温度は、例えば、600℃~1000℃の範囲、好ましくは650℃~850℃の範囲に設定することができる。
【0049】
レーザ光線Lの波長は、例えば10nm~10600nmである。レーザ光線Lの本数は、
図1及び
図3では1本であるが、複数本であってもよい。複数本のレーザ光線Lが同時に照射されてもよい。レーザ光線Lの発振方式は、連続発振でもよいし、パルス発振でもよい。
【0050】
レーザ光線Lの光源は、例えばCO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ又はYVO4レーザである。CO2レーザの波長は、10600nmである。YAGレーザの波長は、266nm、355nm又は1064nmである。エキシマレーザの波長は、157nm、193nm、248nm、308nm又は351nmである。YVO4レーザの波長は、914nm、1064nm又は1342nmである。
【0051】
図3に示すように、回転部材51は、円錐状のテーパ面58を含む。テーパ面58は、回転軸52の回転中心線Rに対して線対称である。従って、回転軸52の回転中に、レーザ光線Lのテーパ面58に対する入射角θを一定に維持できる。
【0052】
入射角θは、例えば0°~15°、好ましくは0°~10°である。レーザ光線Lが常にテーパ面58に対して略垂直に入射するので、単位面積当たりのエネルギー密度が高く、加熱効率が良い。また、テーパ面58での乱反射を防止でき、特定の方向に反射光を誘導できる。
【0053】
テーパ面58は、レーザ光線Lの反射率を低減すべく、仕上げの際の研磨度を落とすこと、ブラスト加工等によって粗面化されてよい。テーパ面58の算術平均粗さRaは、例えば0.1nm~50μm、好ましくは500nm~30μmである。算術平均粗さRaは、日本工業規格(JIS B0601-2013)に準拠して測定する。
【0054】
テーパ面58は、ガラスリボンGの幅方向外側(
図3ではY軸方向正側)に向けて先細り状である。Y軸方向に間隔をおいて配置される一対の側壁22のうち、近い方の側壁22からレーザ光線Lを照射できる。照射器71と回転部材51との距離が近いので、回転部材51に対するレーザ光線Lの照射が容易である。なお、テーパ面58は、例えば研削により形成することができる。
【0055】
(第1変形例に係る成形装置)
次に、
図4を参照して、第1変形例に係る成形装置について説明する。以下、本変形例と上記実施形態との相違点について主に説明する。
【0056】
本変形例の加熱機構7は、回転部材51の外周に対向配置される発熱体72と、発熱体72を支持する支持部材73とを有する。発熱体72は、電力の供給によって発熱する。電力は、直流と交流のいずれでもよい。発熱体72の材質は、カンタル(kanthal)又はニクロム(nichrome)でもよいが、耐久性の観点から、好ましくはSiC又はPtである。支持部材73は、発熱体72と回転部材51の間隔を一定に保つ。
【0057】
本変形例の発熱体72は、回転部材51の外周に対向配置され、回転部材51に接触しない。発熱体72は回転部材51と共に回転しないので、発熱体72への給電が容易である。発熱体72は回転部材51に接触しないので、発熱体72の熱は熱輻射によって回転部材51の外周に伝わる。回転部材51の外周がガラスリボンGに対して食い込み易く、グリップ力が向上する。回転部材51の材質が窒化ケイ素質であると、窒化ケイ素の熱伝導率は低いので、回転部材51の径方向への熱移動を抑制できる。従って、回転部材51の外周の加熱効率と、回転軸52の冷却効率とが良い。
【0058】
支持部材73は、水平に配置される水平部74を含む。発熱体72は、水平部74の一端に取り付けられる。水平部74の材質は、特に限定されないが、例えば窒化ケイ素質であってよい。窒化ケイ素の熱伝導率は低いので、熱伝導による放熱を防止できる。
【0059】
支持部材73は、回転軸52を回転自在に支持する軸受部75と、軸受部75と水平部74とを連結するアーム部76とを更に含む。軸受部75は、例えばすべり軸受であり、回転軸52が挿し通される貫通穴を有する。軸受部75は、回転軸52と共に回転しない。アーム部76は、斜め上に延びてもよいが、
図4に示すように真上に延びてよい。
【0060】
本変形例によれば、回転軸52と発熱体72とが支持部材73によって連結される。それゆえ、回転部材51の配置を修正すべく、回転軸52を移動させると、回転軸52に追従して発熱体72も移動する。従って、回転軸52を移動させる度に回転部材51に対する発熱体72の位置を修正する手間を省ける。
【0061】
支持部材73は、軸受部75及びアーム部76の回転を防止する回転防止部77を更に含む。回転防止部77の一端は、軸受部75に取り付けられてもよいが、
図4に示すようにアーム部76に取り付けられてよい。回転防止部77の他端は、成形炉2の側壁22(
図1参照)に取り付けられる。なお、回転防止部77の他端は、回転軸52の周囲に設けられるハウジング(不図示)に取り付けられてよい。回転防止部77の材質は、セラミック及び金属のいずれでもよい。回転防止部77の内部には、導電線用の穴が形成されてもよい。導電線は、発熱体72に対して電力を供給するものである。
【0062】
支持部材73は、水平部74とアーム部76とを締結するボルト78を更に含む。ボルト78は、アーム部76の貫通穴を通り、水平部74のねじ穴にねじ込まれる。水平部74とアーム部76とが分割されるので、メンテナンス性が良く、また、コストが安い。
【0063】
支持部材73の全てがセラミックであってもよいが、支持部材73の少なくとも一部が金属部材であってもよい。具体的には、水平部74、軸受部75、アーム部76及び回転防止部77のうちの少なくとも一つが、金属部材であってよい。
【0064】
金属部材は、例えば炭素鋼又は合金鋼で形成される。炭素鋼は、例えば、日本工業規格(JIS G4051-2016)に記載のS10C、S15C、S20C又はS25C等である。合金鋼は、例えば、日本工業規格(JIS G4053-2016)に記載のSCr420、SCM415等である。
【0065】
ところで、金属は、セラミックに比べて、加工性に優れる反面、耐食性に劣る。成形炉2の内部では、溶融金属Mの蒸気が天井21(
図1参照)で凝縮し、凝縮した液滴が金属部材に落下し得る。その結果、金属部材が腐食し得る。そこで、金属部材の表面には、保護膜79(
図4では回転防止部77の保護膜)が形成されてもよい。保護膜79は、例えば、Cr、CrN、SiC又はSi
3N
4で形成され、金属部材の腐食を抑制する。Cr膜は、例えばメッキ法で形成される。一方、CrN膜、SiC膜及びSi
3N
4膜は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成される。
【0066】
また、金属は、セラミックに比べて、耐熱性に劣る。そこで、金属部材の内部には、冷媒流路が形成されてよい。冷媒は、金属部材の熱を外部に搬送し、金属部材の温度上昇を抑制する。
【0067】
なお、
図4の支持部材73は、水平部74の代わりに傾斜部を有してもよい。傾斜部は、アーム部76から水平方向に対して斜め上又は斜め下に延びる態様であってもよい。
【0068】
また、
図4の回転部材51は、上記実施形態と同様に、円錐状のテーパ面58(
図3参照)を含んでもよい。この場合、回転部材51の外周の加熱効率を高めるため、発熱体72はテーパ面に対向配置されることが好ましい。
【0069】
(第2変形例に係る成形装置)
次に、
図5を参照して、第2変形例に係る成形装置について説明する。以下、本変形例と上記第1変形例との相違点について主に説明する。
【0070】
本変形例の支持部材73は、水平に配置される水平部74のみを含む。発熱体72は、水平部74の一端に取り付けられる。水平部74の他端は、成形炉2の側壁22(
図1参照)に取り付けられる。
【0071】
本変形例の支持部材73は、上記第1変形例の支持部材73とは異なり、回転軸52と発熱体72とを連結しない。それゆえ、ロール5と加熱機構7のうちの片方のみを、成形炉2の外部に取り出し、メンテナンスすることが可能である。
【0072】
本変形例の水平部74は、セラミック製の第1分割部741と、金属製の第2分割部742とに分割される。発熱体72は、セラミック製の第1分割部741に取り付けられる。第1分割部741の材質は、特に限定されないが、例えば窒化ケイ素質であってよい。窒化ケイ素の熱伝導率は低いので、熱伝導による放熱を防止できる。第2分割部742は金属製であるので、内部に冷媒流路が形成される。
【0073】
なお、上記第1変形例においても、
図4の水平部74がセラミック製の第1分割部と、金属製の第2分割部とに分割されてもよい。第2分割部は、ボルト78等でアーム部76に取り付けられる。
【0074】
また、
図5の支持部材73は、水平部74の代わりに傾斜部を有してもよい。傾斜部は、成形炉2の側壁22(
図1参照)から水平方向に対して斜め上又は斜め下に延びる態様であってもよい。
【0075】
また、
図5の回転部材51は、上記実施形態と同様に、円錐状のテーパ面58(
図3参照)を含んでもよい。この場合、回転部材51の外周の加熱効率を高めるため、発熱体72はテーパ面に対向配置されることが好ましい。
【0076】
(第3変形例に係る成形装置)
次に、
図6、
図7A~7Cを参照して、第3変形例に係る成形装置について説明する。以下、本変形例と上記実施形態との相違点について主に説明する。
【0077】
加熱機構7は、回転部材51の表面に形成される発熱線81を有する。発熱線81は、電力の供給によって発熱する。電力は、直流と交流のいずれでもよい。発熱線81の材質は、カンタル(kanthal)又はニクロム(nichrome)でもよいが、耐久性の観点から、好ましくはSiC又はPtである。
【0078】
本変形例の発熱線81は回転部材51の表面に接触するので、発熱線81の熱は熱伝導によって回転部材51の外周に伝わる。回転部材51の外周がガラスリボンGに対して食い込み易く、グリップ力が向上する。発熱線81と回転部材51との間に隙間がないので、伝熱効率が気流の乱れで変動し難く、温度制御性が良い。
【0079】
回転部材51は、回転部材51の回転中心線Rに対して垂直な2つの平坦面511、512を有する。1つの平坦面511は、ガラスリボンGの幅方向内側に向けた面である。平坦面511には凹部513が形成される。残り1つの平坦面512は、ガラスリボンGの幅方向外側に向けた面である。
【0080】
発熱線81は、平坦面511の凹部513に埋め込まれる。また、発熱線81は、平坦面512に形成される。なお、凹部513は、2つの平坦面511、512のどちらに形成されてもよく、また、どちらにも形成されなくてもよい。発熱線81は、
図6では回転部材51の両側に形成されるが、片側にのみ形成されてもよい。
【0081】
ところで、本変形例の発熱線81は、回転部材51の表面に形成されるので、回転部材51と共に回転する。そこで、加熱機構7は、発熱線81に電力を供給する電極として、
図7A及び
図7Cに示すブラシ電極82、又は
図7Bに示すローラ電極83を有する。発熱線81は、回転部材51の回転中に常に電力を受給すべく、回転軸52の回転中心線Rを中心とする円環状に形成される。
【0082】
以上、本開示に係るガラス板の製造装置及びガラス板の製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0083】
例えば、上記実施形態及び上記変形例の成形装置1は、フロート法でガラスリボンGを得るが、フュージョン法でガラスリボンを得てもよい。フュージョン法は、樋の溝に溶融ガラスを連続的に供給し、樋の左右両側にあふれ出た溶融ガラスを、樋の左右両側面に沿って流下させ、樋の下縁で合流させ、帯板状に成形する。フュージョン法のロールは、鉛直方向にガラスリボンを送り出す。
【符号の説明】
【0084】
1 成形装置
2 成形炉
20 浴槽
21 天井
22 側壁
3 ヒータ
5 ロール
51 回転部材
52 回転軸
53 冷媒流路
58 テーパ面
7 加熱機構
71 照射器
72 発熱体
73 支持部材
74 水平部
75 軸受部
76 アーム部
78 ボルト
79 保護膜
81 発熱線
82 ブラシ電極
83 ローラ電極
G ガラスリボン
M 溶融金属