(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】速硬性セメント用添加材、その製造方法及び当該添加材を用いた速硬性セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20230328BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20230328BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
C04B28/04
C04B22/14 B
(21)【出願番号】P 2020049279
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】上河内 貴
(72)【発明者】
【氏名】狩野 和弘
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-202911(JP,A)
【文献】特開平8-198649(JP,A)
【文献】特開平2-153850(JP,A)
【文献】特開2019-189507(JP,A)
【文献】特開2016-108238(JP,A)
【文献】特開平6-321608(JP,A)
【文献】特開2017-186237(JP,A)
【文献】特開昭63-206336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材であって、当該添加材中にf-MgOとスピネル(MgO・Al
2O
3)を含有し、f-MgOとスピネル(MgO・Al
2O
3)の合計モル数に対するf-MgOのモル比(MgO/(MgO+スピネル)(モル比))が0.30~0.95であることを特徴とする、速硬性セメント用添加材。
【請求項2】
請求項1記載の速硬性セメント用添加材において、前記C12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材中のCaO/Al
2O
3(モル比)が1.3~2.0であり、CaOとAl
2O
3との合量が80質量%以上であることを特徴とする、速硬性セメント用添加材。
【請求項3】
MgOを含むセメントクリンカ原料中に含有されるCaOとAl
2O
3のモル比を1.3~2.0とし、CaOとAl
2O
3との合量が80質量%以上となる原料を焼成し、f-MgOとスピネル(MgO・Al
2O
3)の合計モル数に対するf-MgOのモル比(MgO/(MgO+スピネル)(モル比))が0.30~0.95となるセメント用添加材を製造することを特徴とする、速硬性セメント用添加材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の速硬性セメント用添加材、ポルトランドセメント及び石膏を含有することを特徴とする、速硬性セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速硬性セメント用添加材、その製造方法及び当該添加材を用いた速硬性セメント組成物に関し、特に、任意のセメントに添加して、低温環境下において当該セメントに優れた速硬性を付与するとともに、所定の流動性を有することで施工性にも優れる、C12A7系の速硬性セメント用添加材及びその製造方法並びに当該添加材を用いた速硬性セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネルや地下空間の建設工事では、モルタルやコンクリート等のセメント混合物を、壁面や露出面に吹き付けてライニングし、壁面や露出面の崩落を防止する吹き付け施工工法が広く実施されている。
かかるコンクリート吹き付け工法においては、夏場のみならず、冬場においても、コンクリート等を調製し、それを取り扱う際に必要な最低限の可使時間(ハンドリングタイム)を確保するとともに、壁面や露出面に吹き付けた後に、コンクリート等を即時に硬化させる必要がある。
また、止水工事や緊急工事においても、モルタルやコンクリートの可使時間を確保するとともに、即時に硬化させる必要がある。
【0003】
最近、セメントクリンカを製造するにあたり、産業廃棄物をセメントクリンカ原料として再利用することが増加しており、産業廃棄物中にはMgOが含まれることが多くなっている。
かかるMgOは、セメント中に含まれると水和活性にともない、MgOが反応してMg(OH)2となり、体積膨張性を有することとなる。
したがってセメント硬化体を崩壊させることとなり、かかるMgOによる体積膨張性を抑制することが望まれている。
【0004】
MgOが含有されるカルシウムアルミネートとしては、例えば、特開平6-321608号公報(特許文献1)に、マグネシアスピネル又はマグネシアスピネルとマグネシアを固溶してなるカルシウムアルミネートを含有してなるセメント組成物が開示されている。
【0005】
また、特開平8-198649号公報(特許文献2)に、CaO原料、Al2O3原料、及びMgO原料を配合し、熱処理してなり、生成物中にはマグネシアスピネル類を含有し、生成物中の化学成分がCaO15~30重量%、Al2O360~75重量%、及びMgO3~15重量%である、カルシウムアルミネートが開示されている。
【0006】
更に、特開2007-8785号公報(特許文献3)には、MgOが2質量%以上含まれるセメントクリンカの製造方法であって、ポルトランドセメントの原料にバリウムを添加し、これらを焼成するセメントクリンカの製造方法が開示され、前記バリウムは、BaO換算で次の式;
BaO量(質量%)=A×[セメントクリンカ中のMgO量-2.0]
A≦3.8
ここでAは(BaOの式量)/(MgOの式量)である、
に基づいて含まれる、セメントクリンカの製造方法が開示されている。
【0007】
これらの従来のセメントクリンカ等は、C3SやC2Sへのf-MgO(ペリクリース)の固溶を増加させて、f-MgOの減少を図るものである。
しかし、鉱物中へのf-MgOの固溶には限界があり、産業廃棄物中に含まれるMgOの含量如何によっては、得られるセメント硬化体の崩壊を十分に抑制することができない。
また、特にカルシウムアルミネート系のセメント組成物においては、MgOの鉱物中への固溶では、C3SやC2Sだけでなく、カルシウムアルミネート系の水和活性にも影響を及ぼし、早期強度発現性の点から望ましくないとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-321608号公報
【文献】特開平8-198649号公報
【文献】特開2007-8785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決し、含有されるMgOの体積膨張を抑制でき、任意のセメントに添加することで、得られるセメント組成物に対して、低温環境下で良好な流動性を確保することができるとともに、優れた速硬性能の付与を容易に行うことができる、水和活性に優れた、C12A7系の速硬性セメント用添加材及びその製造方法を提供することである。
特に、任意のセメントに、現場等にて添加することで得られるセメント組成物が、5℃程度の低温時での初期強度発現性に優れ、またポンプ圧送がしやすい等、流動性を確保することができる、C12A7系の速硬性セメント用添加材及びその製造方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、上記本発明の速硬性セメント用添加材を含有するセメント組成物であって、低温環境下で良好な流動性を確保することができるとともに、早期強度発現性に優れた、速硬性セメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、含有されるMgOの一部をスピネル構造とし、f-MgO(ペリクレース)とスピネル(MgO・Al2O3)とが特定の範囲で含有されるようにすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の速硬性セメント用添加材は、C12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材であって、当該手添加材中にf-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)を含有し、f-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)の合計モル数に対するf-MgOのモル比(MgO/(MgO+スピネル)(モル比))が0.30~0.95であることを特徴とする、速硬性セメント用添加材である。
好適には、本発明の速硬性セメント用添加材は、前記C12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材中のCaO/Al2O3(モル比)が1.3~2.0であり、CaOとAl2O3との合量が80質量%以上であることを特徴とする、速硬性セメント用添加材である。
【0012】
本発明の速硬性セメント用添加材の製造方法は、MgOを含むセメントクリンカ原料中に含有されるCaOとAl2O3のモル比を1.3~2.0とし、CaOとAl2O3との合量が80質量%以上となる原料を焼成し、f-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)の合計モル数に対するf-MgOのモル比(MgO/(MgO+スピネル)(モル比))が0.30~0.95となるセメント用添加材を製造することを特徴とする、速硬性セメント用添加材の製造方法である。
【0013】
本発明の速硬性セメント組成物は、上記本発明の速硬性セメント用添加材、ポルトランドセメント及び石膏を含有することを特徴とする、速硬性セメント組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の速硬性セメント用添加材は、任意のセメントに混合するためのC12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材であって、任意のセメントに混合することにより、低温度環境下においても、得られるモルタル等の水和活性を向上させて、所望する優れた速硬性能を迅速に得ることができるとともに、所定の流動性を有して優れた施工性を確保することが可能となる。
従って、急硬性用途において作業現場等で有効に適用することが可能となり、更に、本発明の速硬性セメント用添加材を、所望する初期強度に応じて任意の量で簡便に調整添加することで、所望する急硬性を得る設計を行うことが容易となり、特に5℃以下での低温時での初期強度発現性に優れることとなる。
また、本発明の速硬性セメント用添加材を用いたモルタル等の、例えばポンプ圧送性が良好となる流動性を有することが可能となる。
【0015】
本発明の速硬性セメント用添加材の製造方法は、一定量の融液相生成を実質的に必要とせず、上記本発明の速硬性セメント用添加材を容易に製造することができ、また特殊な装置や設備を必要とせず、既存の設備を利用して経済的に製造することができる。
また、本発明の速硬性セメント組成物は、上記本発明の速硬性セメント用添加材をポルトランドセメントに添加することで、低温度環境下においても、得られるモルタル等の水和活性を向上させて所望する優れた速硬性能を迅速に得ることができるとともに、所定の流動性を有して優れた施工性を確保する速硬性セメント組成物とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材中に含まれるCaO/Al
2O
3(モル比)とf-MgO/(f-MgO+スピネル)(モル比)との関係を示すグラフである。
【
図2】C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材中に含まれるf-MgO/(f-MgO+スピネル)(モル比)と5℃におけるモルタル3時間強度との関係を示すグラフである。
【
図3】C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材中に含まれるf-MgO/(f-MgO+スピネル)(モル比)と5℃におけるモルタル凝結時間(時:分)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を次の形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の速硬性セメント用添加材は、C12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材であって、当該添加材中にf-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)を含有し、f-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)の合計モル数に対するf-MgOのモル比(MgO/(MgO+スピネル)(モル比))が0.30~0.95とする、速硬性セメント用添加材である。
好適には、本発明の速硬性セメント用添加材は、前記C12A7系鉱物相を主鉱物とする添加材中のCaO/Al2O3(モル比)が1.3~2.0であり、CaOとAl2O3の合量を80質量%以上で含む。
【0018】
かかる本発明の速硬性セメント用添加材を、任意の市場で入手しうるポルトランドセメントに添加して、得られるモルタル等の水和活性を早期に発現することができ、常温のみならず、低温においても早期強度発現性を優れるものとすることができ、流動性を確保することもできるものとなる。
【0019】
本発明の速硬性セメント用添加材には、カルシウムアルミネート相であるCaOとAl2O3とを主要化学成分とする材料であり、その鉱物組成はC12A7系鉱物相を主鉱物とするものであり、好ましくはC12A7系鉱物相を70質量%、より好ましくは80質量%以上で含む。
上記C12A7系鉱物相の含有量が70質量%未満であると、十分な急硬性が得られず、初期強度が低下してしまい、本発明の上記効果が得られない。
ここで、C12A7系鉱物相には、C12A7やC11A7・CaX2(Xは、F、Cl、Br等のハロゲン)が該当し、またこれらの混合相であってもよい。
また、本発明の速硬性セメント用添加材には、実質的にアーウィンは含まれないことが望ましい。「実質的に含まない」とは、原料中に含まれる不純物であるSO3により生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。
【0020】
かかる好適なC12A7系カルシウムアルミネート材中のC12A7系鉱物相の含有量は、例えば、X線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて測定することができる。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0021】
なお、本発明の速硬性セメント用添加材は、主鉱物がC12A7系であるため、望ましくはC2Sは多くとも7質量%以下であることが望ましく、実質的には含まれないことが望ましい。C2Sが7質量%を超えると、C12A7系鉱物相の含有量が減少するため、十分な急硬性が得られず、初期強度が低下してしまう場合がある。
【0022】
かかるC12A7系鉱物相を主成分とし、C3Aを実質的に含まない本発明のセメント用急硬性添加材は、更に、C2ASやC3Aも実質的に含まれないことが望ましい。
実質的に含まれないとは、これらの鉱物相が、原料中に含まれる不純物により生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。C2SとC3Aの合計含量は多くとも3質量%、それ以下であることが望ましい。
これは、カルシウムアルミネート相であるC12A7系鉱物相の含有量を上記範囲から減少させないためである。
なお、本発明のセメント用急硬性添加材は、1250~1400℃、好ましくは1300~1360℃で焼成されて調製され、C2AS、C3A、C3Sはほとんど生成されることはなく、実質的には含まれない。また、C4AFは、本発明の急硬性添加材中のFe2O3が少量であるので、ほとんど生成されず実質的に含まれない。
なお、ここで、「実質的に含まれない」とは、これらの鉱物相が、原料中に含まれる不純物であるSiやCaリッチ又はAlリッチな原料を用いることにより生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。
【0023】
また、本発明の速硬性セメント用添加材中には、f-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)とが含有される。
本発明においては、f-MgOの一部を安定鉱物であるMgO-Al2O3スピネル鉱物とするものである。
f-MgOをスピネル(MgO・Al2O3)構造とすることで、従来、セメントの水和とともに含有されるf-MgOがMg(OH)2に化学変化して体積膨張を起こしてセメント硬化体を崩壊させていたことを抑制することができる。
なお、従来は、f-MgOは固溶側に含まれていたが、本発明においてはスピネルの生成に寄与するものとなり、本発明においては、スピネルは固溶されて含まれるものではない。
【0024】
具体的には、本発明の速硬性セメント用添加材中に含まれるf-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)の含有量の関係が、MgO/(MgO+スピネル)(モル比)として0.30~0.95、好ましくは0.50~0.85、より好ましくは0.75~0.85とする。
これにより、上記本発明の効果を奏することが可能となり、特に低温環境下において、凝結時間を確保することができるとともに、初期強度発現性に優れることとなる。
【0025】
また好ましくは、本発明の速硬性セメント用添加材に含まれるCaO/Al2O3(モル比)は、1.3~2.0、より好ましくは1.5~1.86、更により好ましくは1.70~1.86であり、CaOとAl2O3との合量を80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更により好ましくは90質量%以上で含む。
このようにすることで、含まれるf-MgOとスピネル(MgO・Al2O3)の含有量の関係を有効に上記範囲とすることが可能となり、また、C12A7系鉱物相を最大限含有することが可能となり、より有効に3時間強度発現性を増加させることができる。
【0026】
本発明の速硬性セメント用添加材は、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、ドロマイト等のマグネシウム原料、必要に応じて配合する蛍石等のフッ素原料等を混合して粉砕し、または粉砕して混合し、この粉末混合物を成形して成形体を得て、これを電気炉等加熱炉等を用いて焼成し、冷却して、速硬性セメント用添加材を調製する。
なお、得られるセメント用急硬性添加材中に含まれるTiやFeの原料となるもの(例えばベンガラ等)は積極的に配合しない。得られるセメント用急硬性添加材中に含まれるTiやFeは、配合上記原料中に不純物として含有されることにより、結果として含まれる場合もあるもので、積極的に含有させるものではない。
【0027】
具体的な一例としては、本発明のセメント用急硬性添加材は、原料中のCaO/Al2O3(モル比)が1.3~2.0、好ましくは1.5~1.86、より好ましくは1.70~1.86となるように、更に原料中のCaOとAl2O3との合量が80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更により好ましくは90質量%以上となるように、原料を配合し、当該原料を粉末化して混合し、混合粉末を成型して得られた成型体を焼成することにより製造することができ、例えば1250~1400℃、好ましくは1300~1360℃の温度で十分に、例えば0.5~3時間焼成し、次いで例えば40℃/分以下、好ましくは5~30℃/分の冷却速度により冷却することにより製造することができる。
なお、好適なC12A7系カルシウムアルミネート材を調製する際には、C12A7系鉱物を70質量%以上含有するように原料を配合するようにする。
このようにして得られた本発明セメント用急硬性添加材は、上記本発明の効果を有効に発現することができ、特にf-MgOの含量及びスピネル鉱物の含量がモル比に換算して上記範囲に調整されることで、急硬性、特に5℃の低温での3時間強度に優れるものとなる。
【0028】
本発明の速硬性セメント用添加材は、粉砕して速硬性セメント用添加材粉末とし、該粉末を任意のセメント、例えば、普通ポルトランドセメント等に硫酸塩等とともに配合して速硬性セメント組成物として利用することが可能である
本発明の速硬性セメント用性添加材は、ブレーン比表面積を4500cm2/g以上に粉砕して用いることが好ましく、これは、4500cm2/g未満では、良好な急硬性が得られない場合があるからである。
また、ブレーン比表面積は、大きくしすぎると流動性に悪影響を及ぼし、粉砕時間を要して生産性が低下しコスト高になるので、5000~7000cm2/gが望ましい。
また、粉砕する際に、粉砕助剤(ジエチレングリコール、トリエタノールアミン等)を添加してもよい。
【0029】
前記本発明の速硬性セメント用添加材が配合されるセメントとしては、市販されている任意のセメントを適用することができ、例えば、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。
【0030】
また、硫酸塩としては、例えば、芒硝(硫酸ナトリウム)、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩、硫酸マグネシウム、石膏(硫酸カルシウム)などのアルカリ土類金属硫酸塩、硫酸アルミニウムなどが挙げられ、強度発現性から、石膏の使用が、あるいは石膏と芒硝の併用が好ましい。
石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、またはこれらの混合物が例示できる。
また、その他必要に応じて配合が可能な材料として消石灰が挙げられる。
【0031】
上記本発明の速硬性セメント用添加材、前記セメント、硫酸塩、必要に応じて配合される下記添加剤を混合して、速硬性セメント組成物を得ることができる。
本発明の速硬性セメント組成物と水等の混合方法は、特に限定するものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すれば良い。
また他に、凝結調整剤(リグニンスルホン酸系、オキシカルボン酸系、糖類等各種有機酸もしくは有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)や減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)等、液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を配合することができる。
【0032】
また、本発明の速硬性セメント組成物を用いて、セメントペースト、モルタル、コンクリート等を調製する際の水や骨材との混合方法は、特に限定されるものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すればよい。
【0033】
このように本発明の速硬性セメント用添加材は、任意のセメントに添加することで、例えば、低温での作業においても流動性による施工性を確保するとともに、良好な3時間強度発現性を有し、所望する急硬性を現場で得ることができ、初期強度発現性の設計を極めて容易に操作することが可能となる。
【実施例】
【0034】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例に基づき説明する。
(実施例1~5、比較例1~3)
1)C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材の調製
C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材の目標化学組成が表1となるように、CaCO3、SiO2、Al2O3、Fe2O3、MgO、TiO2、CaF2の各試薬を配合して混合粉砕することにより、各C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材用の原料を調製した。
なお、ここで、Fe2O3、TiO2は、実際に実機で本発明の速硬性セメント用添加材を製造する際に、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、ドロマイト等のマグネシウム原料、必要に応じて配合する蛍石等のフッ素原料等の原料を用いると、不純物としてFe2O3、TiO2が結果として含まれる場合もあるため(積極的に含有させるものではない)、かかる場合を想定して用いたものである。
【0035】
【0036】
上記各セメント用急硬性添加材原料を粉末化して加圧成形し、各成型体を電気炉にて、1300℃で30分間焼成し、次いで10℃/分の各冷却速度で冷却して、C12A7系鉱物相を主鉱物とする各セメント用添加材を調製した。
【0037】
2)SiO2、Al2O3、CaO、TiO2、MgO、Fe2O3、F成分含有量の測定
得られた各C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材を、蛍光X線分析装置(パナリティカル社製;Axios)を用いて、JIS R 5204に準じて分析して、含有されるSiO2、Al2O3、CaO、TiO2、MgO、Fe2O3、F成分等の含有割合を測定した。
また、測定したCaO及びAl2O3の含有量から、CaO/Al2O3(モル比)を算出した。
その結果を、表2に示す。
【0038】
3)C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材の鉱物の分析
得られた各C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材をX線回析/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、C12A7系、C3A、C2S、f-MgO及びスピネル鉱物の含有割合を測定した。
管電圧:45kV
管電流:40mA
その結果を表2に示す。
【0039】
上記測定したf-MgO及びスピネル(MgO・Al2O3)の含有量より、f-MgOの分子量は40.3、スピネル(MgO・Al2O3)分子量は142.3であるため、含有される各f-MgO及びスピネル(MgO・Al2O3)のモル数を算出して、MgO/(MgO+スピネル)(モル比)の値を表2に示す。
【0040】
【0041】
また、調製した各セメント用添加材中のCaO/Al
2O
3(モル比)とMgO/(MgO+スピネル)(モル比)との関係を
図1に示す。
【0042】
4)セメント組成物の調製
次いで、上記C12A7系鉱物相を主鉱物とする各セメント用添加材をブレーン比表面積が5200cm2/g程度に粉砕して、各セメント用添加材粉末を得た。
早強セメント(HC:住友大阪セメント株式会社製)に、各C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材粉末、無水石膏(住友大阪セメント(株)製)及びNa2SO4(ぼう硝:試薬)を下記表3に示す配合割合にて配合して各セメント組成物を調製した。
なお、セメント組成物中のC12A7系鉱物相の結晶の量が同等(20質量%)となるように早強セメント量を調整した。
【0043】
【0044】
5)モルタルの調製
上記の各セメント組成物、細骨材(砂(珪砂))、凝結調整剤(試薬;クエン酸、和光純薬工業(株)製)、水及び混和剤(花王(株)製、商品名:マイティ150)を、水/セメント組成物質量比が0.34、砂/セメント組成物質量比が1.2となるように、下記表4のように配合して均一に混練し、各モルタルを得た。
【0045】
【0046】
6)強度測定及びフロー値測定
上記で得られた各モルタルについて、5℃での3時間強度(初期強度)、フロー値及び凝結時間を、JIS R 5201に準じて測定した。ただし、凝結時間での終結時間として、終結針は直径1インチ高さ2インチの円錐形針を用い、侵入深さが1.5mmになったときの時間を凝結(終結)時間とした。
その結果も上記表2に示す。
【0047】
なお、上記各セメント用添加材中のMgO/(MgO+スピネル)(モル比)とモルタル強度との関係を
図2に、また、上記各セメント用添加材中のMgO/(MgO+スピネル)(モル比)と凝結時間(時:分)との関係を
図3に示す。
【0048】
上記表2、
図2及び
図3より、実施例1~5は、C12A7系鉱物相を主鉱物とするセメント用添加材中に含まれるMgO/(MgO+スピネル)(モル比)の値が0.3~0.9の範囲となる実施例1~5は、MgO/(MgO+スピネル)(モル比)の値が0.3~0.9の範囲外となる比較例1~3と比較して、セメントに上記各セメント用添加材を後添加することで、得られるモルタルの5℃での3時間早期強度発現性に優れ、またフロー値も十分な値を有しており、低温時においても高い急硬性を有し、初期強度発現性に優れ、十分な流動性を有し、更に十分な作業時間を確保できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の速硬性セメント用添加材を、任意のセメントに添加することで、低温においても所望する急硬性を設計することが容易となり、トンネルや地下空間の建設工事や土木工事、止水工事、壁面等への吹き付け工事、緊急性を有する道路等の補修工事等、また土壌改良材として、所定のハンドリングタイムを確保しつつ、可使時間経過後には速やかに強度発現することが要求される作業箇所へ有用に適用することができる。