IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 株式会社JMCの特許一覧

特許7251746カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル
<>
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図1
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図2
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図3
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図4
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図5
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図6
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図7
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図8
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図9
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図10
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図11
  • 特許-カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】カテーテル・シミュレータ、及び、カテーテル・シミュレータ用の心臓モデル
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/34 20060101AFI20230328BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20230328BHJP
   A61N 1/372 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
G09B23/34
G09B9/00 Z
A61N1/372
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021560099
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009161
(87)【国際公開番号】W WO2021182436
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2020042024
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療機器開発推進研究事業「症例別術前シミュレート型心臓カテーテルシミュレーターの開発研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502359183
【氏名又は名称】株式会社JMC
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡山 慶太
(72)【発明者】
【氏名】坂田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大知
(72)【発明者】
【氏名】稲田 誠
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-150571(JP,A)
【文献】特開2018-153626(JP,A)
【文献】特開2017-40906(JP,A)
【文献】特開2016-57451(JP,A)
【文献】特開2014-170075(JP,A)
【文献】特表2014-501584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079711(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0147768(US,A1)
【文献】山本 匡,[総特集]最新鋭ハイブリッド手術室と効率的使用法,月刊新医療 ,第46巻 第8号,株式会社エム・イー振興協会,2019年08月01日,pp. 22-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
17/00-19/26
23/00-29/14
A61N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一つ以上の腔を有する本体と、前記本体に連続して、カテーテルが挿入可能な模擬血管通路と、前記本体の内部に着脱可能に設置され、前記カテーテルが係止可能な柔軟部を備えたホルダと、を有することを特徴とする心臓モデル。
【請求項2】
前記柔軟部の表面に、凹凸を備えることを特徴とする請求項1に記載の心臓モデル。
【請求項3】
前記柔軟部を備えたホルダは、前記本体内部に設けられる心室中隔の位置に設置可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の心臓モデル。
【請求項4】
前記腔は、右心房と、前記心室中隔によって区分けされる右心室と左心室と、を備えており、
前記右心房には前記模擬血管通路を構成する上大静脈または下大静脈、あるいはその両方が連通しており、
前記心室中隔には、前記柔軟部が右心室内に露出するように、前記ホルダを着脱可能に嵌合させる開口が形成されており、
前記本体の外殻には、前記ホルダを前記心室中隔の開口に設置可能にするホルダ着脱用の開口部が形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の心臓モデル。
【請求項5】
前記柔軟部は、前記ホルダに取着され、前記心室中隔の開口よりも大きな面積を有することを特徴とする請求項4に記載の心臓モデル。
【請求項6】
前記本体の外殻には、前記左心室側に開口すると共に、外部に突出する流入口が形成されており、
前記右心室から連通する肺動脈を設け、前記肺動脈には、左心室に開口する液体連通部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の心臓モデル。
【請求項7】
前記本体の外殻には、前記左心室側に開口すると共に、外部に突出する流入口が形成されており、
前記右心室から連通する肺動脈を設け、前記肺動脈には、大動脈との間に液体連通部が形成されていることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項8】
リードレスペースメーカを設置する手術のシミュレーションを行なう際に用いられ、弾力性のある材料によって形成された心臓モデルであって、
内部に右心房、右心室を有する本体と、前記本体に設けられ、リードレスペースメーカを保持したカテーテルが挿入可能な模擬血管通路と、前記本体の内部に着脱可能に設置され、前記リードレスペースメーカの係止部が係止可能な柔軟部を備えたホルダと、を有することを特徴とする心臓モデル。
【請求項9】
前記柔軟部の表面に、前記リードレスペースメーカの形状と対応するように、凹所、窪み、突起のいずれか1つ以上が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の心臓モデル。
【請求項10】
前記柔軟部の表面に突起を形成する場合、前記突起は、前記ホルダ底面に対し、仰角が90度以下となるように形成されることを特徴とする請求項9に記載の心臓モデル。
【請求項11】
前記柔軟部の表面に突起を形成する場合、前記突起は、内側の凹所を囲む形で配置されることを特徴とする請求項9又は10に記載の心臓モデル。
【請求項12】
前記柔軟部の表面に凹所を形成する場合、一つ以上の窪みを伴うことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項13】
心筋生検手技のシミュレーションを行なう際に用いられ、弾力性のある材料によって形成された心臓モデルであって、
内部に右心房、右心室を有する本体と、前記本体に設けられ、生検鉗子ならびに生検鉗子の通路となるシースが挿入可能な模擬血管通路と、前記本体の内部に着脱可能に設置され、前記シースならびに生検鉗子の先端部が係止可能な柔軟部を備えたホルダと、を有することを特徴とする心臓モデル。
【請求項14】
前記ホルダは、柔軟部が右心室側に向くように装着可能である、ことを特徴とする請求項4から13のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項15】
前記柔軟部は、前記ホルダに取着され、心臓モデル本体よりも柔らかい素材であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項16】
前記柔軟部は、前記ホルダに取着された中空性の素材であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項17】
前記ホルダには、摘みが形成されていることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項18】
前記ホルダには、液体が通過できる孔が形成されていることを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項19】
前記本体の外殻には、前記模擬血管通路以外に、外部に開口する流入口が形成されている、ことを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項20】
前記本体の外殻には、内部に挿入されるカテーテルの動きを視認可能にする開口領域を形成するための切り取りラインが付されていることを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載の心臓モデル。
【請求項21】
前記切り取りラインは右心室に付されていることを特徴とする請求項20に記載の心臓モデル。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか1項に記載の心臓モデルを、液体を満たした状態で収容可能にする収容部を具備した容器と、前記容器に設けられ、前記心臓モデルを保持する接続部と、前記容器に設けられ、カテーテルを挿入可能な導入部と、を有するカテーテル・シミュレータであって、
前記容器は、前記模擬血管通路が前記導入部に接続されるように前記心臓モデルを保持する保持部を備え、
前記接続部によって保持された心臓モデルに対して、カテーテルによってリードレスペースメーカの所定部位への設置の練習が行なえることを特徴とするカテーテル・シミュレータ。
【請求項23】
請求項1から21のいずれか1項に記載の心臓モデルを、液体を満たした状態で収容可能にする収容部を具備した容器と、前記容器に設けられ、前記心臓モデルを保持する接続部と、前記容器に設けられ、カテーテルを挿入可能な導入部と、を有するカテーテル・シミュレータであって、
前記容器は、前記模擬血管通路が前記導入部に接続されるように前記心臓モデルを保持する保持部を備え、
前記接続部によって保持された心臓モデルに対して、心筋生検鉗子によって心筋生検手技の練習が行なえることを特徴とするカテーテル・シミュレータ。
【請求項24】
前記容器内に満たされた液体を循環させるポンプを備えており、
前記ポンプは、前記容器内に液体を満たした状態で保持された前記心臓モデルの内部空間に対して、拍動流を付与することを特徴とする請求項22又は23に記載のカテーテル・シミュレータ。
【請求項25】
前記容器内に満たされた液体を循環させるポンプを備えており、
前記ポンプは、前記本体の外殻には、前記模擬血管通路以外に、外部に開口する流入口が形成されており、流出口の外部を環流する流れによって、前記本体内の液体が外部に排出される流れを生じさせる、ことを特徴とする請求項22又は23に記載のカテーテル・シミュレータ。
【請求項26】
請求項4から7のいずれか1項に記載の心臓モデルを、液体を満たした状態で収容可能にする収容部を具備した容器と、前記容器に設けられ、前記心臓モデルを保持する接続部と、前記容器に設けられ、カテーテルを挿入可能な導入部と、を有するカテーテル・シミュレータであって、
前記容器内に満たされた液体を循環させるポンプを備えており、
前記本体の外殻には、前記左心室に開口すると共に、外部に突出する流入口が形成されており、
前記右心室から連通する肺動脈を設け、前記肺動脈には、左心室または大動脈に開口する液体連通部が形成され、
前記ポンプにより付与された拍動流が左心室内から大動脈方向に流れを生じることにより、液体連通部から肺動脈への流れを生じることで、前記右心室内の液体が心臓モデル外に排出される、ことを特徴とするカテーテル・シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル・シミュレータ、及びこのカテーテル・シミュレータに用いられる心臓モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不整脈等の心疾患のある患者に対し、体内にペースメーカを設置する手術を行なうことが知られている。従来のペースメーカは、バッテリー、電気回路が内蔵された本体と、本体から導出するリード(導線)とを備えている。このようなペースメーカを人体に設置するに際しては、本体を皮下に埋め込み、本体から延びるリードを静脈に挿入して心臓に到達させる植込み方法が採用されている。ペースメーカを設置して電気的な刺激を心臓に与えることで、不整脈における調律の異常を補整することが可能となる。
【0003】
上記したようなペースメーカは、皮膚に皮下ポケットを形成して本体を設置することから、本体や静脈に留置したリードが原因で、感染症や各種の合併症を引き起こす可能性がある。このため、最近では、本体を小型化して、心臓内に留置することが可能な小型のペースメーカ(リードレスペースメーカ)が用いられるようになっている。例えば、メドトロニック株式会社は、容積が1cc程度の円筒状の本体に、電気回路、電極、バッテリーを組み込んだ小型のリードレスペースメーカ(MICRA;登録商標)を製造、販売している。このリードレスペースメーカは、従来のように、患者の皮膚を切開する形で植込むのではなく、カテーテルによって本体を心臓内(右心室)に直接搬送して設置される。
【0004】
上記したカテーテルは、先端にリードレスペースメーカを保持した保持部(デバイスカップ)を備えており、主に、カテーテルを足の付け根の下大静脈から挿入し、デバイスカップを、右心房を介して右心室に搬送し、左心室との間の心室中隔にリードレスペースメーカの本体を係止する手技が採用されている。具体的には、本体の先端側には、4本のフック状に形成された弾性を有するタイン(係止部)が設けられており、このタインをカテーテルの手元のハンドルを操作して、心筋(心室中隔)に一定の押圧力で押し付け押圧力を解除することでタインを心筋に食い込ませ、本体を固定するようにしている。
【0005】
上記したようなカテーテルを用いたリードレスペースメーカの植え込み手術においては、穿孔と呼ばれる心臓の壁に穴があるなどの合併症が知られており、死亡例も報告されている。そのため、手技に関して、操作技術の習得や上達を図るために、シミュレータによって訓練できることが望ましいと考えられるが、現時点では、リードレスペースメーカのカテーテル手技を訓練するためのシミュレータは提案されていない。本発明者らは、先の特許出願(特許文献1)において、各種の心疾患に対するカテーテル手技の向上が図れるように、心疾患の種類に応じた複数の心臓モデルと、各心臓モデルを保持する容器と、容器に水流を循環させるポンプとを備えたシミュレータを提案している。このシミュレータは、小さい容器に水を溜めて心臓モデルを浮遊させ、前記ポンプで心臓内に流れを作ることで拍動流を生じさせ、浮遊している心臓モデルに対してカテーテルを挿入、操作することで、実際の各種心臓病に対する手術と同様な手技を練習できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】PCT/JP2016/057000号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているシミュレータは、実際の心疾患に対して行われる手術の技量を向上する上で効果的であるものの、上記したようなリードレスペースメーカを心臓内に設置する手技については練習を行なうことができない。すなわち、従来のシミュレータは、リードレスペースメーカを心臓内に設置する手術を意図しておらず、このような手術に関しても、手技の向上が図れるような心臓モデル、及び、シミュレータを提供することが望ましい。
【0008】
本発明は、上記した実情に着目してなされたものであり、リードレスペースメーカを心臓内に設置するカテーテル操作訓練を簡便に行うことを可能にする心臓モデル、及び、そのような心臓モデルを設置するカテーテル・シミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る心臓モデルは、内部に一つ以上の腔を有する本体と、前記本体に連続して、カテーテルが挿入可能な模擬血管通路と、前記本体の内部に着脱可能に設置され、前記カテーテルが係止可能な柔軟部を備えたホルダと、を有することを特徴とする。
また、本発明に係る心臓モデルは、リードレスペースメーカを設置する手術のシミュレーションを行なう際に用いられ、弾力性のある材料によって形成されており、内部に右心房、右心室を有する本体と、前記本体に設けられ、リードレスペースメーカを保持したカテーテルが挿入可能な模擬血管通路と、前記本体の内部に着脱可能に設置され、前記リードレスペースメーカの係止部が係止可能な柔軟部を備えたホルダと、を有することを特徴とする。
また、本発明に係る心臓モデルは、心筋生検手技のシミュレーションを行なう際に用いられ、弾力性のある材料によって形成されており、内部に右心房、右心室を有する本体と、前記本体に設けられ、生検鉗子ならびに生検鉗子の通路となるシースが挿入可能な模擬血管通路と、前記本体の内部に着脱可能に設置され、前記シースならびに生検鉗子の先端部が係止可能な柔軟部を備えたホルダと、を有することを特徴とする。
【0010】
上記した構成の心臓モデルは、ドライな環境下に設置して、或いは、水等の液体が満たされた環境内で浮遊した状態に設置して、各種の心臓に関する手術を練習することが可能である。本発明は、このようなカテーテル手術を行なえるシミュレータを提供することを目的としており、上記した構成の心臓モデルを、液体を満たした状態で収容可能にする収容部を具備した容器と、前記容器に設けられ、前記心臓モデルを保持する接続部と、前記容器に設けられ、カテーテルを挿入可能な導入部と、を有し、前記容器は、前記模擬血管通路が前記導入部に接続されるように前記心臓モデルを保持する保持部を備え、前記接続部によって保持された心臓モデルに対して、カテーテル操作の練習が行なえることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の心臓モデル、及び、カテーテル・シミュレータによれば、リードレスペースメーカを、心臓内に設置する手術を簡便な構成で練習することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るカテーテル・シミュレータの一実施形態を示す図。
図2図1に示したカテーテル・シミュレータの容器に、本発明に係る心臓モデルを設置した状態を示す図。
図3図1に示したカテーテル・シミュレータの容器を示す図。
図4】本発明に係る心臓モデルの一例を示す図。
図5図4に示した心臓モデルの内部の概略構成を模式的に示す図。
図6】心臓モデル内に着脱可能に装着されるホルダを示す図であり、(a)はホルダ単体を示す図、(b)はホルダとホルダに装着される柔軟部を示す図。
図7図6に示したホルダが装着される前の状態の心臓モデルを示す図。
図8図6に示したホルダが装着された心臓モデルを示す図。
図9】(a)は柔軟部の第1の変形例を示す図、(b)はペースメーカが挿入される状況を示した模式図、(c)は柔軟部の第2の変形例を示す図。
図10】(a)は柔軟部の第3の変形例を示す図、(b)はペースメーカが挿入される状況を示した模式図。
図11】リードレスペースメーカの一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は設置時の状態を示す図。
図12】心臓モデル内に設置されたホルダの柔軟部に対してカテーテルのアクセス経路、及び、リードレスペースメーカが係止された状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るカテーテル・シミュレータ、及び、それに用いられる心臓モデルの一実施形態を示す図である。カテーテル・シミュレータ1は、心臓モデル100を収容する容器10と、容器10内に水等の液体Wを満たした状態で液体を循環させるポンプ(拍動流生成ポンプ)50とを備えている。前記容器10は、設置の安定化を図るために、基台60上に移動できないように設置されている。
【0014】
本実施形形態に係るカテーテル・シミュレータ1は、設置される心臓モデル内に液体を循環させて、実際の心臓と同等な血液による拍動流が生成できるように、ポンプ50を備えている。前記ポンプ50は、容器10内に満たされた液体に対して、拍動流を生じさせるように間欠的に駆動されるよう構成されている。具体的には、想定し得る人体の拍動を考慮すると、心拍数20~200bpm(beat per minute)であれば十分である。実際の心臓手術では、心拍数が40~100bpm程度の範囲で行なわれることが殆どと考えられるため、ポンプ50の能力としては、毎分20~200回の拍動流を心臓モデルに送り込める仕様であれば良く、少なくとも毎分40~150回の拍動流を心臓モデルに送り込めるものであれば効果的なシミュレーションを行うことが可能となる。
なお、カテーテル操作をシミュレーションする上では、前記ポンプ50は、必ず必要な要素ではない。例えば、容器10内に液体を満たした状態、容器内に心臓モデルを保持した状態でも、カテーテル操作を練習することは可能である。
【0015】
上述したように、本発明者らは、心臓モデルとして、四腔型モデル、冠動脈モデル、TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)モデルを、先の出願であるPCT/JP2016/057000号で提案している。これらの心臓モデルは、実際の人体の心臓に近い弾力性を有する材料、例えばPVA(ポリビニルアルコール)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコンやこれらに類する材料、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で或いは複数組み合わせたもの等で形成されており、人体の臓器に近い触手感覚にてカテーテル操作を練習するようにしている。
【0016】
本発明に係る心臓モデル100は、上記した公知の心臓モデルでは練習することができないリードレスペースメーカの設置に関する手技、心筋生検等、カテーテルを用いて心筋組織を採取する手技等を練習できる専用の形態として構成されている。好ましくは、上記した心臓モデルと同様な材料によって形成され、シミュレーションの際、現実に近いカテーテル操作時の感触を得ることができるようにしている。この場合、心臓モデル100の色彩については、現実の心臓と同じような色彩で内部が視認できないようにして、トレーニング者がX線を照射してモニタを観察しながらシミュレーションできるようにしてもよい。或いは、透明又は半透明の色彩にして、トレーニング者が挿入されるカテーテル、ガイドワイヤ、その他のデバイスの動きを、直接、目視によって観察しながらシミュレーションできるようにしてもよい。なお、トレーニング者が視認できる材料で心臓モデルを形成しても、心臓モデルが目視できないように、容器10にカバー等を被せることで、X線による透視によって、カテーテルの挙動をモニタ上のみで把握することも可能である。
【0017】
本発明の心臓モデル100は、人工的な継ぎ目を有さず、一体的に形成されることが好ましい。これにより、継ぎ目によって人体には見られない液体の流れ(血流)が発生することを防止できる。また、カテーテル挿入時に、継ぎ目によって視界が遮断されることを防止できる効果に加え、X線透視下での不自然な陰影の出現を生じないようにすることができる。
上述したような性質を満たす材料を用いて心臓モデルを形成する方法として、例えば、本出願人が発明した光学的造形法(日本特許第5236103号)を用いることが可能である。前記造形法を用いると、人体臓器の撮影データ(心臓CTデータ)に基づいて、患者毎の高精度な心臓モデルを比較的低コストで短期間のうちに形成できる。このため、トレーニング者は、実際の手術に先立って、患者固有の心臓モデルを作製して、カテーテル操作を模擬訓練することが可能となる。また、検査や手術の前に、患者に最適なカテーテルや各種のデバイスを選択検討する等、実際のカテーテル操作前の事前準備としても、本発明に係るカテーテル・シミュレータを活用することが可能となる。
【0018】
上記した光学的造形法によって心臓モデル100を形成した場合、人体に近い状態が再現できるため、心臓モデルの表面は平滑でなく、人体同様に軽微な凹凸が含まれる。この場合、上述したような透明または半透明の材料によって形成した場合であっても、前記凹凸面に可視光が乱反射するため、視認性が低下してしまうことがある。この場合には、心臓モデルの形成後に、同一の材料を表面にコーティングして前記凹凸面を平滑化することで乱反射を低減し、視認性を改善することが出来る。
【0019】
また、本実施形態の心臓モデル100、及びそれを用いるカテーテル・シミュレータ1は、前記ポンプ50によって容器10内に液体を循環させ、心臓モデルの内部に拍動流を流すようにしている。これにより、弾力性のある本体が膨張と伸縮を繰り返して、実際の心臓の血流のように液体が流れることが可能となる。このように液体を循環させることで、造影剤を利用したシミュレーションでは、造影剤が心臓内部に滞留することを抑制して、カテーテルやリードレスペースメーカの挙動をモニタで把握することが可能となる。
【0020】
次に、図1に加え、図2及び図3を参照して、心臓モデル100が設置されるカテーテル・シミュレータの容器10の構成、及び、心臓モデル100について説明する。
【0021】
なお、以下の実施形態で説明する容器10、及び、心臓モデル100は、リードレスペースメーカの設置に関する手技が効果的に練習できるように、心臓モデルの本体の内部に、右心房、右心室、左心房、左心室を備えた四腔型となったものを例示する。しかし、心臓モデルには、必ずしも四腔が設けられている必要はなく、一つ以上の腔が設けられていればよい。
【0022】
本実施形態の容器10は、四面の側壁11~14及び底面15によって水、電解水などの液体Wを収容する収容部10aを備えている。前記側壁11には、収容部10aに液体を満たした状態で心臓モデル100の一端側を接続して保持可能な接続部11a,11bが収容部内に突出するように設けられている。また、側壁13には、心臓モデル100の他端側を接続して保持可能な接続部13aが収容部内に突出するように設けられている。すなわち、接続部11a,11b,13aは、円筒状に構成されて収容部内に突出しており、その部分に心臓モデル100の管状部(模擬血管通路等を構成する)を差し込むことで、心臓モデル100は、液体が満たされた容器内に浮遊した状態で保持される。なお、接続部11a,13aは、外部からカテーテルが導入される導入部としての機能を兼ね備えている。すなわち、接続部11a,13aには、同軸上で容器外に突出する導入部11a´,13a´が一体化されており、各導入部にカテーテルの導入管21,23が接続されるようになっている。この場合、導入管21,23は、容器10の外部側の先端部に、カテーテル導入端子を有している。各導入端子は、導入管21,23に満たされた液体が外部へ漏洩しないような機能(弁機能)を有すると共に、トレーニング者がカテーテルを導入管21,23へ導入し、かつそこから引抜きができる構造を有している。
【0023】
本実施形態では、心臓モデル100の本体100Aに、模擬血管通路として実際の心臓と同様、右心房と連通する上大静脈101、下大静脈102が本体100Aから突出するように形成されている。そして、これらの上大静脈101及び下大静脈102を、それぞれ前記接続部11a,13aに対して嵌め込むことで心臓モデル100を収容部内に浮遊するように保持可能となっている。この場合、心臓モデルとしては、実際の心臓と同様、本体100Aに、左心室と連通する大動脈(模擬血管通路)103を形成しておいてもよい。前記容器の10側壁11に、さらに接続部11cを内部に突出するように設けておき、ここに大動脈103を嵌め込んで接続することで、心臓モデル100をより安定して保持することが可能となる。また、接続部11cに、上記した接続部11a,13aと同様、導入部11c´を形成し、この部分にカテーテルの導入管25を接続できるようにしてもよい。
【0024】
前記接続部11bは、収容部内の液体を循環させて、保持される心臓モデル100の内部に拍動流を生成すためのものであり、接続部11bには、心臓モデル100の本体100Aの心尖部に突出形成された流入口150が接続されるようになっている。この流入口150は、実際の心臓には存在しない要素であり、接続部11bと同一軸上で外部に突出する流入管11b´に、ポンプ50から液体を供給する流入管51が接続されることで、本体100Aの内部空間(左心室側の空間)に拍動流を流す機能を備えている。
【0025】
また、前記側壁11には、前記収容部10a内の液体をポンプ50側に排出する排出口11dが形成されている。この排出口11dには、同一軸上で外部に突出する排出管11d´が設けられている。この排出管11d´に、ポンプ50側へ液体を流す流出管52が接続されることで、収容部10a内の液体は、ポンプ50を介して循環するようになっている。
【0026】
前記側壁11~14及び前記底面15は、液体及び心臓モデルを安定的に収容可能な強度を有する材料によって形成されており、容器10については、液体及び心臓モデルを安定的に収容できる形状に形成されていればよい。また、容器を構成する側壁11~14及び底面15の材料は透明性を有することが好ましい。側壁や底面が透明性を有することで、シミュレーションの際、容器10内に設置された心臓モデルや、容器10の外部から挿入するカテーテル等の挙動を目視によって観察することが可能となる。このような強度を有し、透明性のある材料としては、例えばアクリル、ポリカーボネート、PET、ポリスチレン等が挙げられる。
【0027】
なお、トレーニング者が視認できる材料で前記容器10を形成した場合でも、カメラを設置してモニタ等に表示したり、或いは、X線による透視をしてモニタ等に表示するようにしてもよい。このような構成によれば、カテーテルの挙動をモニタ上のみで把握するシミュレーションを実施でき、より現実に近い状態を実現することも可能である。また、訓練の段階や内容に応じて、目視認識、モニタ表示確認、X線撮像の使用を選択できる。
【0028】
前記容器10の上方は開口しており、ここに開閉可能な蓋を配設してもよい。これにより、収容部10aに液体を充填する作業、心臓モデルを液体内に設置する作業等、訓練の準備や後始末をする際に、容器上面の開口を介して効率的に作業することができる。また、蓋を透明にすることで塵埃の侵入を防ぐことができる。さらに、蓋を液面と密着させることにより、液面の揺れによる視認性の低下を防ぐことも可能である。
【0029】
前記接続部11a,13aは、心臓モデルを支持する機能以外に、カテーテルの導入部としての機能を備えると共に、それぞれ、カテーテルが挿通される連通孔が形成されている。上記したように、各接続部11a,13aと同軸上で外部に突出する導入部11a´,13a´には、トレーニング者によって操作されるカテーテルを容器10の外部から導入する導入管21,23がそれぞれ接続される。これらの導入管21,23は、容器10の外側で操作可能な接続機構を備えている。接続機構は、例えば、導入管21,23を導入部11a´,13a´に差し込んで操作部材(ナット等)27を回転すると、前記導入管21,23を固定・解放できる構造となっており、前記導入管の脱着操作が容易に行えるようになっている。
【0030】
なお、前記接続部11cに大動脈を嵌め込んで接続できるようにした場合、前記接続部11a,13aと同様、カテーテルの導入部としての機能を備える構成としてもよい。また、上記したように、本実施形態の心臓モデル100内には、流入口150を介してポンプ50から液体が供給され、収容部内の液体は、排出管11d´及び流出管52を介してポンプ50側へ戻されるようになっており、心臓モデル100内に拍動流が流れる構成となっている。
【0031】
前記接続部11b(流入管11b´)、及び、前記排出口11d(排出管11d´)に、開閉用バルブ(図示せず)を設けておくことが好ましい。この閉塞用バルブは、シミュレーション終了後に、前記容器10からポンプ50を取外す際、閉塞することで、前記収容部10a内の液体が前記容器10の外部に漏れ出ることを防ぐ機能を有する。
【0032】
実際のシミュレーションにおいては、収容部10aに液体Wを充填し、心臓モデル100を液体中に浮遊した状態で設置する。心臓モデル100が浮遊状態になることで、トレーニング者がカテーテル操作時に、より現実に近い感触が得られるようになる。なお、側壁に、内部に突出する前記接続部を設けることなく、例えば、専用ホルダを容器の底面に設置しておき、心臓モデル100を下から支えるようにして液体中に保持するようにしてもよい。
【0033】
前記容器10に収容する要素は、人体の心臓と同じ大きさの心臓モデル、及びそれを浮遊させるだけの液体だけで済むため、前記容器10は小型化可能となる。本実施形態における前記容器10の外形寸法は、20cm×20cm×15cm程度となっており、前記容器に充填が必要な液体(水)の量はおおよそ3L~6L程度で済む。前記容器10を小型化すると、シミュレーションの実施場所のスペースの無駄を省くことができ、前記容器10及び前記容器10を用いたカテーテル・シミュレータの収納性、運搬性が向上できる。また、前記容器の収容部10aに充填する水量が6L程度で済むことから、水道が利用不可な場所であっても、タンク等で水を運搬することでシミュレーションを実施可能となり、実施場所の選択肢が広がる。さらに、水が充填された容器の重量は、トレーニング者が一人で取扱いが可能な程度に軽量であるため、補助者の制約なしに、シミュレーションの準備や片づけをすることも行えるようになる。
【0034】
なお、上記したカテーテル・シミュレータ1、及び、その容器10は、主に、以下のようなリードレスペースメーカの設置に関する手技を練習するのに適した構造としたが、容器については、先の出願で開示された各種の心臓モデルを設置できる容器を利用することも可能である。
【0035】
次に、図4及び図5を参照して、本実施形態に係る心臓モデル100の構成について説明する。
本実施形態の心臓モデル100は、リードレスペースメーカを一般的に行われている手術と同様、カテーテルによって下大静脈からアプローチし、左心室と右心室との間の心室中隔の右心室側に設置することを考慮して形成されている。
【0036】
心臓モデル100は、人体の心臓と同じ形態の本体100Aを備えており、本体100Aの内部には、実際の心臓と同様、右心房110a、右心室110b、及び、左心房111a、左心室111bが形成されている。前記右心房110aからは大静脈(上大静脈101、下大静脈102)が伸びており、前記右心室110bからは肺動脈104が伸びている。前記下大静脈102は、前記容器10に形成された接続部11a(導入部11a´)に接続されてカテーテルの導入口となる。また、上大静脈101は、前記容器10に形成された接続部13aに接続される。
【0037】
実際の人体では、下大静脈102は、鼠径部を走行する大腿静脈に至っており、鼠径部(足の付け根)から導入されるカテーテルの導入路となる。また、上大静脈101は、首の付け根を走行する内頸静脈に至っている。この場合、上大静脈101、及び、それを接続する接続部13aについても、カテーテルの導入路としてもよい。すなわち、リードレスペースメーカの構成によっては、上大静脈101からのアプローチも考えられるため、上大静脈101をカテーテルが挿入される模擬血管通路としてもよい。
【0038】
上述したように、本実施形態では、本体100Aの外殻100A´の心尖部(左心室側の下端部)に、実際の心臓には存在しない流入口150が形成されており、容器10の接続部11bと接続することで、心臓モデル100を安定して浮遊した状態で保持し、かつ、内部に拍動流が流れるようにしている。なお、このように拍動流を流す構成では、右心室110bから連通する肺動脈104に、左心室111bに開口する液体連通部104aを形成しておくのがよい。
【0039】
前記本体100Aには、実際の心臓と同様、左心室111bから大動脈103が伸びている。この大動脈103は、長さを長くして前記容器10の接続部11cに接続してもよいし、容器の収容部内に開口させる構成であってもよい。或いは、前記肺動脈104に、大動脈103との間で液体が連通するように、液体連通部(図示せず)を形成しておいてもよい。また、本体100Aには、実際の心臓と同様、左心房111aから肺静脈106が伸びている。前記肺動脈104及び肺静脈106は、容器の収容部内に開口している。なお、実際の心臓には、右心房110aと右心室110bとの間に三尖弁、右心室と110bと肺動脈104との間に肺動脈弁、左心房111aと左心室111bとの間に僧帽弁、左心室111bと大動脈103との間に大動脈弁が存在しているが、本実施形態の本体100Aは、これらの弁を省略して形成されている。また、これらの弁を省略して本体を形成した場合、一体となった空洞を左心房・左心室、及び、右心房・右心室と見立てた構造にする等、腔の配設構造については適宜変形することが可能である。
【0040】
上記したように、リードレスペースメーカは、カテーテルによって、下大静脈102、右心房110a及び右心室110bを経由して搬送される。実際の設置位置となる心室中隔130には、後述するリードレスペースメーカの係止部(タイン)が係止可能な着脱式のホルダが設置されている。
【0041】
以下、図5から図8を参照して、着脱式のホルダの構成、作用、及び、設置態様について説明する。
上記したように、心臓モデルは、PVA、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコンやこれらに類する材料、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で或いは複数組み合わせたもの等で形成されている。このため、カテーテルの通過性の観点から、その表面は滑らかに仕上げられており、カテーテルによってリードレスペースメーカを所定の位置に搬送しても、係止部を固定する(心室中壁に係止部を差し込んで固定する)ことはできない。
これに対し、実際の心臓は、表面部分が柔軟性を持ち、かつ凹凸状になっており、リードレスペースメーカは、搬送された部分で滑ることなく、係止部を差し込んで固定(留置)することが可能となっている。
【0042】
本発明では、上記した素材で形成されている心臓モデル100の構成要素の内、実際にリードレスペースメーカが係止される部分(カテーテル手技を行なう際に、操作対象となる部分)のみを交換可能にすると共に、リードレスペースメーカの係止部を係止することができる素材にすることを特徴とする。すなわち、心臓モデルの形成材料とは異なる素材で、リードレスペースメーカの係止部が係止できるような表面構造(ここでは柔軟部と称する)を備えたホルダ200を、所定の部分に着脱可能に設置できるように構成している。
【0043】
本実施形態のホルダ200は、柔軟性のある素材で形成された心臓モデルの本体100Aよりも硬度が高い素材(硬質樹脂等)で形成されており、所定の部位に対して、変形等することなく容易に着脱できるように構成されている。具体的には、心室中隔130の設置領域に開口130aを形成しておき、ホルダ200は、形成した開口130aと同じ形状に形成されている。また、本体100Aの外殻100A´には、ホルダ200を心室中隔130の開口130aに対して着脱できるように、ホルダ着脱用の開口部100aが形成されている(図7はホルダ200を取り外した状態、図8はホルダ200を装着した状態を示しており、本実施形態の開口部100aは、右心室110b側の外殻100A´に形成されている)。なお、ホルダ200には、開口130aに対する着脱操作が容易に行えるように、摘み200aを形成しておくことが好ましい。摘み200aを把持して、ホルダ200を開口部100aから左心室111b内に挿入し、開口130aに対してホルダの着脱操作が容易に行なえるようになる。
【0044】
前記ホルダ200は、心室中隔130の開口130aに嵌まり込んだ際、右心室側に大きく突出しないように板状に形成されている。ホルダ200は、別体で、柔らかい素材201(以下、このような柔らかい素材を表面に配した部位を柔軟部201と称する)を保持している。この素材201は、心臓モデルの本体100Aよりもさらに柔らかい材料で形成することが好ましい。前記柔軟部201には、リードレスペースメーカの係止部が固定されることから、前記ホルダ200は、柔軟部201が右心室側に向くように装着される。このため、柔軟部201は、リードレスペースメーカの係止部が固定できるように、表面に十分な柔軟性を備えた材料であれば、その素材については特に限定されることはない。この場合、柔軟部201は、カテーテルが係止し易いように、表面に凹凸(凹凸とは、滑らかでなく、ざらついている等、粗面化した状態を意味する)を備えた素材であることが好ましい。また、X線透視下で造影剤を注入した際においても違和感がなく、実際の手術と同様な操作感が得られることが好ましい。さらに、柔軟部201は、開口よりも大きな面積を有していることが好ましい。
【0045】
本実施形態の柔軟部201は、リードレスペースメーカの係止部が引っ掛かり易く、係止部が心組織に噛み合って固定される状況を正確にシミュレーションできるように、中空性の素材で構成されている。すなわち、全体が中空性の素材で構成されることで、表面領域には、多孔質の微小な穴が多数存在し、これが柔軟性と表面の凹凸を生み出している。具体的に、このような中空性の素材としては、例えば、多孔質性のスポンジを用いることが可能である。このような素材で形成される柔軟部201は、ホルダ200に形成された凹部200bに接着、圧入等によって固定することが可能である。このため、繰り返しの練習によって柔軟部201の表面部分が損傷しても、柔軟部201そのものを容易に交換することが可能となり、必要に応じて、異なる素材の柔軟部を用いることも可能となる。
【0046】
前記柔軟部201の表面には、リードレスペースメーカを接近させた際、表面で滑りや変位が生じることなく、実際の手術と同様な感覚が得られるように、リードレスペースメーカの形状と対応するような凹所201aを形成しておくことが好ましい。この場合、凹所201aは、上記したような素材で構成される柔軟部201の表面部分を窪ませることで形成することができ、それにより、実際の心臓の表面状態と同様、リードレスペースメーカが必要以上に滑る、または跳ねる動きを抑制することができ、実際の手術に則した係止部の固定操作を練習することが可能となる。
【0047】
リードレスペースメーカが係止し易いように、図6で示した柔軟部201の表面には、凹所201aを形成したが、凹所の形成の仕方については、種々変形することが可能である。例えば、図9(a)に示す第1の変形例では、凹所201aの挿入奥側の周囲に、凹所に伴って一つ以上(図では4カ所)の窪み201bを形成している。このような窪み201bは、図9(b)で示すように、リードレスペースメーカ300がカテーテルによって搬送されてくると、その先端部分が入り込むことで、リードレスペースメーカ300が滑ったり、跳ねるような動きが効果的に抑制され、実際の手術に則した係止部の固定操作を練習することが可能となる。
【0048】
図9(c)に示す第2変形例では、凹所201aに加え、突起201dを形成した例を示している。突起201dは、上記した凹所201aを囲むように形成されており、このような突起を形成することで、リードレスペースメーカの変動が規制され、凹所201aからリードレスペースメーカがずれ難くすることが可能となる。また、このような突起を形成する場合、その突起201dは、ホルダの底面(柔軟部の表面)に対して、その仰角が90度以下(リードレスペースメーカが入り込む凹所201aを上側から覆うように傾斜する)となるように形成されることが好ましい。このように傾斜する突起201dを形成することで、リードレスペースメーカを所定部位に接近させた際、実際の心臓の表面状態と同様、リードレスペースメーカが必要以上に滑る、または跳ねる動きを効果的に抑制することができ、実際の手術に則した係止部の固定操作を練習することが可能となる。
【0049】
前記突起201dは、凹所を伴うことなく形成してもよい。例えば、図10(a)に示す第3変形例では、柔軟部201の表面に、リードレスペースメーカが挿入されてくる方向に沿って、突起201eを複数形成している(図では3カ所)。挿入されてくるリードレスペースメーカは、図10(b)に示すように、突起201e間に係止することが可能であり、このように、突起201eが複数個形成されることで、挿入されるリードレスペースメーカは複数の位置に係止することが可能となる。この場合、突起201e間には、凹所を形成しても良く、突起に沿ってリードレスペースメーカが沿うような凹所や窪みを適宜、形成してもよい。すなわち、突起については、リードレスペースメーカが入り込むように形成された凹所を囲む形で配置されることが好ましい。また、突起の形状は、カテーテルの出入りする場所を除いた凹所を囲む形態であることが好ましく、人体における肉中を再現し、カテーテルの形状、更には、リードレスペースメーカの先端の形状に合わせて筋状に配置されてもよい。このような突起201d(201e)、更には、凹所201aや窪み201bを柔軟部201の表面に設けておくことで、リードレスペースメーカを所定部位に接近させた際、実際の心臓の表面状態と同様、リードレスペースメーカが必要以上に滑る、または跳ねる動きを抑制することができ、実際の手術に則した係止部の固定操作を練習することが可能となる。
なお、前記凹所、窪み、突起を形成する場合、いずれか1つ以上、柔軟部の表面に形成しておけば良く、凹所、窪み、突起は、その形状、形成個数、配置態様等、適宜変形することが可能である。また、凹凸部の表面形状そのもので、リードレスペースメーカが係止し易い形状にしてもよい。
【0050】
また、ホルダ200には、液体が通過できる孔(開口)を形成しておいてもよい。このような開口200hは、例えば、図6で示すように、柔軟部201が取着される面に多数形成しておけば、心臓モデルの本体内で液体を流れや易くすることができる(本実施形態では、左心室と右心室との間で流体が流れ易くなって、造影剤を用いた場合等の滞留が防止できる)。
【0051】
図11は、上記した心臓モデル100に用いられるリードレスペースメーカの構成を示す図である。本実施形態で用いられるリードレスペースメーカ300は、メドトロニック株式会社製のMICRA(登録商標)と称されるものであり、全長が25.9mm、直径が6.7mmで容積が1cc程度の円筒状に構成された本体300A内に、電気回路、電極、バッテリーが組み込まれている。また、本体300Aの先端には、周方向に沿って略90度間隔で係止部となるタイン301が形成されている。
【0052】
このように構成されたリードレスペースメーカ300は、専用のデリバリーカテーテルシステム(図示せず)の先端に設けられたデバイスカップ305内に収容され、脚部の付け根から下大静脈に挿入され右心房を介して右心室内に搬送される。右心室110b内では、手元のハンドルを操作して、先端のデバイスカップ305を心室中隔の所定位置(本実施形態では、図12に示すように、ホルダ200の柔軟部201の凹所201a部分)に位置付けながら、内部に収容されたリードレスペースメーカ300の本体300Aを柔軟部201に押し付け、タイン301の少なくとも2つの係止が確認されることで、リードレスペースメーカ300の設置を練習することができる。この場合、本体300Aに引張力を加え、タイン301が外向きに変形すれば、変形したタインは柔軟部201に噛み合っていることが確認でき、そのままのフック形状であれば、そのタインは柔軟部201に噛み合っていないことが確認できる。
【0053】
上記した心臓モデル100及びカテーテル・シミュレータ1によれば、リードレスペースメーカ300の右心室内への留置手術を的確に訓練することが可能となる。この場合、心臓モデル100を透明の容器10に浮遊させて視認しながら訓練を行なうことができ、更には、容器10にカバーを被せて造影剤を流してモニタを見ながら訓練を行なうことができる。また、本実施形態では、図5図12で示したように、心臓モデル100の本体100Aに流入口150を設けると共に、右心室110bから連通する肺動脈104に、左心室111bに開口する液体連通部104aを形成したことで、本体の内部に矢印で示すような液体の流れが生起され、実際の心臓と同じような血液の流れを生じさせることが可能となる。さらに、造影剤を用いた場合、心臓内部の液体の流れによって本体100Aの内部に造影剤を滞留させることもない。なお、同様の目的で、前記肺動脈104と大動脈103との間に液体連通部を形成してもよい。
【0054】
上記したように、心臓モデル100を透明状、或いは、半透明状の材料で形成することで、リードレスペースメーカの動きを確認しながら練習することが可能であるが、場合によっては、より視認し易い状況で練習したいことも考えられる。このため、図4に示すように、本体100Aの外殻100A´に、内部に挿入されるカテーテルの動きが視認可能となるように、開口領域を形成するための切り取りライン100bを付しておくことが好ましい。ユーザは、必要に応じて切り取りライン100bに沿って外殻100A´を切り取ることで、本体の内部が視認できるようになり、シミュレーションを行っている際にリードレスペースメーカ300の動きを把握し易くなる。
【0055】
以上のように、上述したカテーテル・シミュレータ1及び心臓モデル100によれば、リードレスペースメーカの設置に関する手術を簡便に練習することができる。また、上記の例では、容器10内に、液体を満たした環境下で練習するようにしたが、容器10に液体を満たすことなく、ドライな環境下でカテーテルの操作を練習することも可能である。また、リードレスペースメーカの構成、心臓内への設置個所によっては、心臓モデルの本体内にアプローチする経路(使用される模擬血管路)や係止方法(カテーテルの操作方法)が変更されることも考えられるが、それに応じてカテーテルが係止可能な柔軟部201を有するホルダ200の設置個所も適宜、変更することが可能である。例えば、本体100Aの外殻100A´に直接、ホルダ200を着脱する開口を形成してもよい。
【0056】
さらに、上記した容器10の接続部及び導入部の配設位置等については、適宜変形することが可能であり、容器内に設置される心臓モデルの本体内に液体を流入させる流入口の形成位置についても適宜変形することが可能である。例えば、液体の流入に関しては、右心房110aや右心室110bなど、本体の外殻に、模擬血管通路以外の部分に流入口を形成してもよく、模擬血管通路に開口を形成して液体を容器内に排出させるように構成してもよい。
【0057】
以上、カテーテル手技として、リードレスペースメーカの留置について説明したが、従来から使用されている一時ペーシングカテーテルにおいても、本モデルを用いることで同様にトレーニングを行うことが可能である。
【0058】
次に、上記した心臓モデル100、及び、カテーテル・シミュレータ1を利用してトレーニングすることが可能な心筋生検手技について説明する。
【0059】
心筋生検は、カテーテルを用いて経皮的に心筋組織を採取する検査方法であり、原因不明の心機能低下や心筋症患者、あるいは心臓移植後の患者に対して、組織学的診断を行うには避けては通れない検査となっている。昨今は採取した組織から遺伝子診断を行うことにも応用され、心疾患患者の診断、治療方針の決定に大きく寄与している。検査においては、1%前後の確率で右室穿孔が起こるという報告もあり、心タンポナーデから死亡に至った例も報告されている。したがって、心筋生検は極めて有用である検査である反面、リスクを伴う検査であり、手技を行う術者には高い技術が求められる。
【0060】
一方で、日本循環器学会の報告によると、国内における件数は2015年時点で7,000件あまりと、CAG(冠動脈造影検査)の50万件、PCI(冠動脈形成術)の25万件と比較しても明らかに少ない件数となっている。この数字は、すなわち医師ひとり当たりの経験する症例数が少ない手技であることを意味しており、比較的リスクが高い検査であるとされているにもかかわらず、それを実施する医師が経験を積む機会が少ないというミスマッチが生まれている。
【0061】
心筋生検の多くの手技においては、内頚静脈から上大静脈を経由して、または大腿静脈から下大静脈を経由して、カテーテルを右心室内に挿入し、その中を通す形で心筋生検鉗子を右心室内へ送達させる。
【0062】
上述した実施形態のリードレスペースメーカの埋め込み手技とよく似ているが、大きな差異は、リードレスペースメーカの設置手技では、リードレスペースメーカを心室中隔(ホルダ200が設置される部分)に植え込むのに対し、心筋生検においては、右室側から心室中隔に心筋生検を送達させ、心室中隔から心筋組織を採取するという点である。
【0063】
したがって、リードレスペースメーカの場合と同じ心臓モデルを利用してトレーニングすることが可能であるが、リードレスペースメーカのように、係止部を固定する必要がなく、むしろ、一部が適度な大きさで離断される必要がある。
【0064】
これを実現するためには、上記したホルダ200に固定される柔軟部201は、多孔質性のスポンジ、または心筋生検鉗子で掴むことのできる軟性の樹脂で構成されていることが好ましい。ただし、X線透視下で造影剤を注入した際においても違和感がなく、さらに、実際の手術と同様な操作感が得られるように、心臓モデル本体よりも柔らかい素材で形成されていることが好ましい。
【0065】
臨床現場においては、X透視下で手技が行われ、トレーニングにおいては、手技中のカテーテルの挙動が確認できるよう、透明な心臓であることが好ましく、さらに心室中隔の体側に位置する自由壁は開口していることが好ましい。
【0066】
これらの事由から、心臓本体、ならびにホルダ200、ホルダに装着される柔軟部201は、X線透過性の高い素材であることが好ましい。また、心筋生検の手技において最も重要な合併症は穿孔であり、トレーニングの際に正しい位置から組織の採取が行えたかどうかが確認できることが好ましい。このため、前記柔軟部201は前記心臓本体と一目でみて違いがわかる素材、すなわち、色が異なる素材で形成されることが好ましい。心臓本体は前述のように透明であることが好ましいため、前記柔軟部においては、例えば赤色など、訓練するものまたは指導者にとってわかりやすい色であることが好ましい。
【0067】
心筋生検手技に際しては、先端がJ型をしたシースを用いて心筋生検鉗子先端部が心室中隔に対し垂直方向になるよう操作するが、実際の臨床においては、心筋生検鉗子が必ずしも心室中隔に対して垂直になるわけではなく、やや斜めになっていることも少なくない。このため、柔軟部201は、滑りにくい素材で形成されていることが好ましい。
【0068】
臨床現場においては、時間的制約の中でトレーニングを行うため、シミュレータにおいては速やかに準備が可能であることと、1回の手技が終わった後、次の手技に移るまでの時間を極力短くすることが求められる。以上のように、本シミュレータでは、ホルダ部を取り換えることで複数のトレーニングを効率よく行うことができ、短時間で準備が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 カテーテル・シミュレータ
10 容器
50 ポンプ
100 心臓モデル
100A 本体
100A´ 外殻
100a 開口部
100b 切り取りライン
101 上大静脈
102 下大静脈
104 肺動脈
110a 右心房
110b 右心室
111a 左心房
111b 左心室
130 心室中隔
130a 開口
200 ホルダ
200a 摘み
201 柔軟部
201a 凹所
201b 窪み
201d,201e 突起
300 リードレスペースメーカ
300A 本体
301 タイン(係止部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12