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  • 特許-希土類系ボンド磁石の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】希土類系ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20230329BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20230329BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230329BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/08 130
B22F3/00 C
B22F3/26 H
B22F3/26 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019016047
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020123703
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】595166594
【氏名又は名称】株式会社プラセラム
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】久保 祐志
(72)【発明者】
【氏名】大津 智彦
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-027102(JP,A)
【文献】特開2010-238929(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118001(WO,A1)
【文献】特開2017-147387(JP,A)
【文献】特開2017-073479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/08
B22F 3/00
B22F 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類系急冷合金磁石粉末、エポキシ樹脂及び硬化剤を混練した混練物を圧縮して熱処理することにより得られるボンド磁石成形体に、前記硬化剤で硬化可能なエポキシ樹脂を含浸させて含浸成形体を得るエポキシ樹脂含浸工程と、
前記含浸成形体を熱処理して希土類系ボンド磁石を得る熱処理工程とを含み、
前記ボンド磁石成形体は、前記硬化剤が残存し、
前記ボンド磁石成形体及び前記含浸成形体に硬化剤は含浸させず、
前記熱処理工程では、前記ボンド磁石成形体中に残存する前記硬化剤により、前記エポキシ樹脂含浸工程により前記ボンド磁石成形体に含浸させた前記エポキシ樹脂を硬化させる希土類系ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の希土類系ボンド磁石の製造方法において、
前記含浸が真空加圧含浸であることを特徴とする希土類系ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気特性に優れ、かつ優れた強度を有する希土類系ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類系永久磁石は高い磁気特性を有しており、今日、様々な分野で使用されている。希土類系永久磁石は使用する原料粉末や製造方法により焼結磁石とボンド磁石に大きく分類されるが、希土類系ボンド磁石(以下、単にボンド磁石と称する)は、希土類系焼結磁石に比べて形状の自由度が大きく、さらに、磁石粉末同士の間に絶縁物である樹脂が存在している為、電気抵抗が高いという利点を有している。しかしながら、ボンド磁石は磁石粉末を樹脂バインダーによって結合した構造であるため、希土類系焼結磁石に比べて磁石強度が低くならざるをえず、高い磁石強度を要する用途への採用は困難であった。
【0003】
国際公開第2012/118001号(特許文献1)には、混錬時に添加する樹脂量と有機溶剤量を一定の範囲として作製したボンド磁石用コンパウンドを強圧縮することによって、高い成形体密度を有するとともに、高い磁気特性を有するボンド磁石を製造する方法が開示されている。
【0004】
特開2017-34097号(特許文献2)には、通常の圧縮ボンド磁石や特許文献1に記載の強圧縮ボンド磁石に採用可能で、高温における機械的強度に優れる成形用樹脂が開示されている。
【0005】
一方、特開平4-27102号(特許文献3)には、希土類系磁石粉末を常温で固体状のエポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を含有するバインダー1によって成形し、バインダー1を熱硬化させた成形体に対し、エポキシ樹脂と硬化剤(イミダゾール化合物)を含むバインダー2を真空含浸し、バインダー2を熱硬化させることによってボンド磁石を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/118001号
【文献】特開2017-34097号公報
【文献】特開平4-27102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のボンド磁石の磁石強度は実用的なものにとどまっており、高い磁石強度を必要とする用途への採用は通常の成形体密度のボンド磁石よりもさらに困難である。また、特許文献2に記載の樹脂を採用することによって、ある程度機械的強度は向上するものの、例えば、より高い強度が求められる高速回転するモーターなどの用途には決して十分な強度を有しているとは言えない。
【0008】
さらに、特許文献3に記載の方法によれば、強度に優れるエポキシ樹脂によって成形して熱硬化させた成形体に対し、さらに強度に優れるエポキシ樹脂を前記成形体に存在する空隙に含浸させた後、熱硬化させるため、前記空隙がエポキシ樹脂によって埋められ、磁石強度の大幅な向上が期待できる。しかしながら、含浸樹脂組成物(バインダー2)は硬化剤(イミダゾール化合物)を含んでおり、真空含浸装置の樹脂槽内で、常温でも徐々に硬化が始まってしまうためにポットライフを有しており、頻繁に含浸樹脂を入れ替えたり、真空含浸装置を清掃したりする必要があり生産効率が悪い。
【0009】
従って、本発明の目的は、高い磁石強度を有する希土類系ボンド磁石を優れた生産効率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意検討の結果、本発明者らは、希土類ボンド磁石の製造工程において、例えば、希土類系ボンド磁石を成形する際に使用する成型用エポキシ樹脂組成物に、過剰の硬化剤を含ませて硬化させ、過剰の硬化剤を残存させた状態で希土類系ボンド磁石を作製した後、さらに硬化剤を含まない樹脂組成物を含浸させ、前記残存する硬化剤によって硬化させることによって、高い磁石強度を有する希土類系ボンド磁石を優れた生産効率で製造することができることを見出し本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の希土類系ボンド磁石の製造方法は、
希土類系急冷合金磁石粉末、エポキシ樹脂及び硬化剤を混練した混練物を圧縮して熱処理することにより得られるボンド磁石成形体に、前記硬化剤で硬化可能なエポキシ樹脂を含浸させて含浸成形体を得るエポキシ樹脂含浸工程と、
前記含浸成形体を熱処理して希土類系ボンド磁石を得る熱処理工程とを含み、
前記ボンド磁石成形体は、前記硬化剤が残存し、
前記ボンド磁石成形体及び前記含浸成形体に硬化剤は含浸させず、
前記熱処理工程では、前記ボンド磁石成形体中に残存する前記硬化剤により、前記エポキシ樹脂含浸工程により前記ボンド磁石成形体に含浸させた前記エポキシ樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0012】
前記含浸は真空加圧含浸であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い磁石強度を有する希土類系ボンド磁石を優れた生産効率で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の希土類系ボンド磁石の製造方法を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は、例えば、過剰の硬化剤を含有する成形用樹脂組成物を用いて成形及び硬化したボンド磁石成形体に対し、硬化剤を含有しないエポキシ樹脂(含浸用樹脂組成物)を含浸させて熱処理することにより、ボンド磁石成形体に残存する硬化剤によって含浸させたエポキシ樹脂を硬化させることを特徴とする方法であり、磁石強度の高いボンド磁石を得ることができるとともに、硬化剤を含まない含浸用樹脂組成物はポットライフが長く、樹脂の入れ替えや樹脂槽の清掃のサイクルが長いので生産効率が良い。
【0016】
以下、図1を参照しながら本発明の希土類系ボンド磁石の製造方法を詳細に説明する。
【0017】
(1) 希土類系急冷合金粉末を準備する工程S1
まず、希土類系急冷合金粉末を準備する。本発明で使用できる希土類系急冷合金粉末に特段制限はない。例えば、所定の組成の合金の溶湯をメルトスピニング法やストリップキャスト法などのロール急冷法により急冷して作製した急冷合金薄帯を粉砕して製造したものが挙げられる。好適な希土類系急冷合金磁石粉末としては、例えば、米国特許第4802931号に記載のNd-Fe-B系急冷合金磁石粉末が挙げられる。
【0018】
(2) 成形用樹脂溶液を準備する工程S2
次に、エポキシ樹脂(成形用樹脂)及び硬化剤を配合した成形用樹脂組成物を有機溶剤等で溶解して成形用樹脂溶液を準備する。使用できる成形用樹脂組成物(エポキシ樹脂と硬化剤との組合せ)は、含まれる硬化剤が、後述の含浸用樹脂(エポキシ樹脂)も硬化できるような組合せであれば特に制限はない。成形用樹脂組成物は2種類以上のエポキシ樹脂や、硬化促進剤などを含有してもよい。このような成形用樹脂組成物としては、例えば、特許文献2記載の樹脂組成物や、DIC社製エピクロン4050、三菱ケミカル社製JER7007Pなどが挙げられる。
【0019】
エポキシ樹脂と硬化剤との配合比は、硬化剤が成形用樹脂のエポキシ樹脂と含浸用樹脂のエポキシ樹脂の双方を完全に硬化できる量を含むように設定される。すなわち、成形用樹脂組成物中のエポキシ樹脂を硬化させるのに必要な量に対して過剰の硬化剤を含み、後述の熱処理工程S5によって得られるボンド磁石成形体に硬化剤が残存するよう配合する。通常、エポキシ樹脂と硬化剤とを配合する場合、その配合比は完全にエポキシ樹脂を硬化できるよう、理論的な反応量に対してある程度過剰の硬化剤を含むように設定するため、反応に寄与しなかった硬化剤はボンド磁石内に残存する。含浸用樹脂はその含浸量がわずかであるため、通常の成形用樹脂の組成物を硬化させた後に残存する硬化剤で含浸用樹脂を十分に硬化させることができる。
【0020】
有機溶剤は、常温で気体となる揮発性の有機溶剤が好ましい。好適に使用され得る有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレンが挙げられる。安全性や取扱い性の観点から、メチルエチルケトンなどのケトン類が最も好ましい。
【0021】
成形用樹脂溶液は、上記のようにエポキシ樹脂と硬化剤とを含む成形用樹脂組成物を有機溶剤で溶解することによって準備してもよいが、エポキシ樹脂を有機溶剤で溶解したものに硬化剤を混合することで成形用樹脂溶液を得てもよく、硬化剤を有機溶剤で溶解したものにエポキシ樹脂を混合することで成形用樹脂溶液を得てもよい。さらに、エポキシ樹脂や硬化剤は、溶剤可溶型の樹脂に限定されず、水性や無溶剤型の樹脂を用いることもできる。
【0022】
(3) 希土類系ボンド磁石用コンパウンドを作製する工程S3
続いて、工程S1で準備した希土類系急冷合金粉末と工程S2で準備した成形用樹脂溶液とを混練し、有機溶剤を揮発させることにより希土類系ボンド磁石用コンパウンドを作製する。混練に使用する成形用樹脂溶液は、混練される希土類系急冷合金粉末を100質量%としたとき、0.5質量%以上5.0質量%以下のエポキシ樹脂と、3質量%以上7質量%以下の有機溶剤とを含有するのが好ましい。有機溶剤の含有量が3質量%未満であると、混練の際、樹脂が磁石粉末表面に行き渡るまでに有機溶剤が揮発してしまい、均一被覆ができない恐れがある。また、有機溶剤の割合が7質量%を超えると有機溶剤が揮発するまでに時間がかかり、生産性の面から好ましくない。このような割合で混練して、混練中に有機溶剤を揮発させることにより、個々の粉末粒子の表面が樹脂によって薄くかつ均一に被覆されたコンパウンドを作製することができる。好ましい実施形態において、コンパウンド中の樹脂は希土類系急冷合金の磁石粉末粒子を90%以上の被覆率で被覆し、その樹脂の厚さは0.1μm以上1μm以下である。このようなコンパウンドは磁石粉末粒子が高い被覆率で薄く均一に被覆されている為、磁石粉末粒子同士が接しても導通し難く、最終的に高い電気抵抗を有するボンド磁石を得ることができる。続く圧縮成形時の金型の損傷を低減するためには、コンパウンドにステアリン酸カルシウムなどの潤滑剤などを添加・混合するのが望ましい。
【0023】
(4) 圧縮成形体を作製する工程S4
次に、工程S3で得られた希土類系ボンド磁石用コンパウンドを圧縮して圧縮成形体を作製する。この圧縮成形工程では、圧縮成形体の密度が希土類系急冷合金粉末の真密度の70%以上90%以下の範囲になるように希土類系ボンド磁石用コンパウンドを圧縮するのが好ましい。このような圧縮成形体を得るためには、成形圧力は80 MPa以上2000 MPa以下の範囲であるのが好ましく、200 MPa以上1000 MPa以下の範囲であるのがより好ましい。成形圧力が80 MPa未満であると、高い磁石密度が得られにくい。また、2000 MPaを超えると、金型への負荷が大きくなりすぎるため好ましくない。圧縮成形に用いるプレス装置としては、例えば、メカ式冷間プレス機や特許文献1に記載の超高圧粉末プレス装置が挙げられる。本発明の方法は、特許文献1記載の強圧縮高密度磁石に限定されることなく、汎用の圧縮ボンド磁石にも適用可能であり、本発明の方法によって得られる希土類系ボンド磁石は高い磁石強度が必要な用途に好適に採用される。
【0024】
汎用の圧縮ボンド磁石に本発明を適用する場合には、希土類系ボンド磁石用の材料、他製造条件、含浸条件を汎用の圧縮ボンド磁石に合わせ設定すればよい。
【0025】
(5) 圧縮成形体を熱処理してボンド磁石成形体を作製する工程S5
こうして圧縮成形された圧縮成形体を熱処理することにより、成形用樹脂が硬化してなるボンド磁石成形体が得られる。熱処理条件は使用する樹脂の硬化条件に準ずればよいが、熱処理温度は、好ましくは150℃以上300℃以下であり、より好ましくは175℃以上250℃以下である。希土類系急冷合金粉末としてNd-Fe-B系急冷合金粉末を採用する場合、特に酸化され易いため、熱処理雰囲気は、10 Pa以下の減圧雰囲気中(特に、真空度1 Pa以下の真空中)、Arガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中などの非酸化性雰囲気が好ましい。同様に酸化防止の観点から、熱処理時間(前記熱処理温度での保持時間)は、好ましくは1分以上4時間以下であり、より好ましくは5分以上1時間以下である。
【0026】
前述したように、成形用樹脂組成物はエポキシ樹脂を硬化させるに対して過剰の硬化剤を含むので、圧縮成形体の熱処理によって得られたボンド磁石成形体には硬化剤が残存する。
【0027】
(6) ボンド磁石成形体に含浸用樹脂(エポキシ樹脂)を含浸させて含浸成形体を作製する工程S6
次に、エポキシ樹脂を含む含浸用樹脂組成物を有機溶剤等で溶解して含浸用樹脂溶液を準備する。この含浸用樹脂組成物は硬化剤を含まない。使用できる含浸用樹脂としては、単独では硬化しにくく、成形用樹脂に含まれる硬化剤によって硬化されるものであれば他に特に制限はないが、例えばエポキシ樹脂が使用できる。エポキシ樹脂の種類としてはグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、脂環型が挙げられる。含浸用樹脂は、特にエポキシ樹脂を含むものが好ましく、エポキシ樹脂以外の樹脂を含んでいても良い。含浸用樹脂は、有機溶剤に溶解して溶液とすることができれば常温で固体であっても良い。含浸用樹脂溶液は、水や溶剤でさらに希釈しても良い。
【0028】
続いて、工程S5で得られたボンド磁石成形体に対し、含浸用樹脂溶液を含浸させて含浸成形体を作製する。含浸の方法は、真空加圧法、真空法、加圧法、浸漬法、遠心法等を採用することができる。特に真空加圧含浸法が好ましい。これらの方法で含浸処理する際には、含浸用樹脂溶液及びボンド磁石成形体を加熱して含浸処理するのが好ましい。加熱することで含浸用樹脂溶液がボンド磁石成形体に含浸されやすくなる。
【0029】
(7) 含浸成形体を熱処理して希土類系ボンド磁石を作製する工程S7
続いて、工程S6で作製した含浸成形体を熱処理して希土類系ボンド磁石を作製する。含浸用樹脂組成物は硬化剤を含まないが、工程S5で得られたボンド磁石成形体には硬化剤が残存しているので、ボンド磁石成形体に含浸させたエポキシ樹脂は、この残存する硬化剤によって熱処理で硬化する。
【0030】
特許文献3のように硬化剤を含む含浸用樹脂組成物を使用する場合、常温でも徐々に含浸用樹脂の硬化が始まってしまう。そのため含浸用樹脂組成物にはポットライフがあり、ポットライフが短いと頻繁に樹脂の入れ替えや樹脂槽の清掃が必要になるので、ポットライフができるだけ長い樹脂を使うのが好ましいが、そのような樹脂は硬化時間が長く、かつ硬化温度も高いため、生産効率が悪く、磁気特性を劣化させる恐れがある。このように、硬化剤を含有する含浸用樹脂組成物を用いる場合は、ポットライフと、生産効率及び磁気特性劣化率の両立が難しい。
【0031】
これに対して本発明の方法においては、成形用樹脂に過剰の硬化剤を含有させて、成形用樹脂硬化後も硬化剤をボンド磁石中に残存させることにより、硬化剤を含まない含浸用樹脂を含浸させて熱処理した場合は、前記残存する硬化剤によって含浸用樹脂を硬化させることができるので、ポットライフ、生産効率、磁気特性の劣化率及び磁石強度のすべてを解決できることができる。
【0032】
熱処理条件は使用する含浸用樹脂の硬化条件に準ずればよい。希土類系急冷合金粉末としてNd-Fe-B系急冷合金粉末を採用する場合、特に酸化され易いため、熱処理雰囲気はS5工程と同様の非酸化性雰囲気、もしくはオイル中などの酸素を遮断した環境で行うのが好ましい。
【0033】
上記の工程を経て得られたボンド磁石は、成形用樹脂のみを含むボンド磁石成形体に対して磁石強度が1.2倍以上に向上している。また、上記で使用した含浸用樹脂は硬化剤を含んでいないため、硬化剤を含む含浸用樹脂に対して格段にポットライフが長く、真空含浸装置における樹脂の入れ替えや樹脂槽清掃のサイクルが長いため生産効率が高い。また、含浸用樹脂硬化の熱処理を非酸化性雰囲気中で行った場合、ボンド磁石成形体に対する磁気特性劣化率が2.0%以内である。
【0034】
工程S5と工程S6との間にボンド磁石成形体の加工工程を追加してもよい。すなわち、ボンド磁石成形体を加工し、加工後のボンド磁石成形体に対して工程S6で準備した含浸用樹脂溶液を含浸させてもよい。また、工程S7の後に加工工程を追加してもよい。すなわち、工程S7で作製したボンド磁石を加工して完成品としてもよい。また、工程S7の後に種々の表面処理を行ってもよい。このように、工程S1~工程S7は、順番は上記の順であるが、各々の工程の間、後に他の工程を追加してもよい。
【0035】
上記の実施形態では、S1工程(希土類系急冷合金粉末を準備する工程)からS7工程(含浸成形体を熱処理して希土類系ボンド磁石を作製する工程)までを説明した。ただし、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0036】
例えば、希土類系急冷合金磁石粉末、エポキシ樹脂及び硬化剤を混練した混練物を圧縮して熱処理することにより得られるボンド磁石成形体を入手し、これにエポキシ樹脂を含浸させて含浸成形体を作製し(エポキシ樹脂含浸工程)、この含浸成形体を熱処理することにより(熱処理工程)、希土類系ボンド磁石を得ることができる。
【実施例
【0037】
実施例1
希土類系急冷合金粉末として、メルトスピニング法で得られたNd-Fe-B系急冷合金粉末(マグネクエンチ社製MQP-13-9)を準備した。成形用樹脂として、DIC社製無水ビスフェノールA型エポキシ樹脂エピクロン4050、三菱ケミカル社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂JER4007P、三菱ケミカル社製硬化剤DICY7(ジシアンジアミド)を配合比45:50:5(質量比)にて準備し、これらをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、成形用樹脂溶液を作製した。MEKの量は混錬される急冷合金粉末の質量を基準として4.5質量%となるようにした。
【0038】
この成形用樹脂溶液とNd-Fe-B系急冷合金粉末とを、急冷合金粉末の質量を基準としてMEKを除く樹脂量が2.0質量%となるように混合し、溶液中のMEKが完全に揮発するまで混錬した。その後、急冷合金粉末の質量を基準として0.07質量%のステアリン酸カルシウムを混合して希土類系ボンド磁石用コンパウンドを作製した。
【0039】
こうして得られた希土類系ボンド磁石用コンパウンドに対して1000 MPaの成形圧力で圧縮成形を行うことにより圧縮成形体を作製した。この成形体に対し、真空雰囲気中で180℃の温度で2時間熱処理して、外径15.5 mm、内径9.7 mm、高さ2.6 mmのボンド磁石成形体を作製した。このボンド磁石成形体の圧環強度は184.8 N(5個の平均値)、磁力はN極240.4 mT、S極243.6 mT(それぞれ5個の平均値)であった。
【0040】
本実施例における圧環強度は、圧環強度試験機を用い、ボンド磁石成形体又はボンド磁石の径方向中央部より圧力をかけ、それらが破壊されるときの強度である。磁力はボンド磁石成形体又はボンド磁石を着磁し、日本電磁測器社製マグネットアナライザーを用いて、N極及びS極それぞれ磁石厚み方向の中央部を測定した。(すべて5個の平均値。)
【0041】
続いて含浸用樹脂溶液(エポキシ樹脂F)を作製した。含浸用樹脂溶液の配合比は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ポリプロピレングリコールジグリジシルエーテル=1:1(質量比)であった。
【0042】
この含浸用樹脂溶液を真空加圧含浸法にて、ボンド磁石成形体に含浸させて含浸成形体を作製した。続いてこの含浸成形体を表1の3つの条件で熱処理して含浸用樹脂を硬化させ、サンプルNo.1~3の希土類系ボンド磁石を作製した。これらのボンド磁石に対して、圧環強度及び磁力を測定し、ボンド磁石成形体に対する強度比及び磁力低下率を調べた。結果を表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
注(1):ボンド磁石成形体の圧環強度を100としたときの相対値
【0045】
表2から、これらのボンド磁石はボンド磁石成形体に対して圧環強度が1.2倍以上に向上していた。また磁力低下率はN極及びS極ともに2%以内であった。なお含浸用樹脂溶液(エポキシ樹脂F)は硬化剤を含んでおらず、単独では硬化しないことが確認されている。しかしながら、本実施例においてはボンド磁石成形体に含浸させたエポキシ樹脂Fが十分な硬度で硬化し、含浸前のボンド磁石成形体に対して圧環強度が1.2倍以上に向上したことから、エポキシ樹脂Fはボンド磁石成形体に残存していた硬化剤によって硬化したものと考えられる。
【0046】
実施例2
比較例の樹脂として、硬化剤を含む含浸用樹脂溶液(エポキシ樹脂C)を準備した。含浸用樹脂溶液の配合比は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル:3 or 4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸=1:1:2(質量比)であった。
【0047】
エポキシ樹脂Fを用いた含浸用樹脂溶液と、エポキシ樹脂Cを用いた含浸用樹脂溶液とを作製し、それらの粘度の時間経過による変化を比較することによってポットライフを比較した。なお、粘度は23℃条件下においてBH型粘度計により測定した。
【0048】
エポキシ樹脂Fは30日経過後も粘度が500 mP・sであり、含浸に使用できる状態であったが、エポキシ樹脂Cは5日経過後で粘度が10000 mP・sとなり含浸に使用することが難しい状態になった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、高い磁石強度を有する希土類系ボンド磁石を優れた生産効率で製造する方法を得られる。
図1