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特許7253154白華抑制方法,白華抑制剤、及び、セメント製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】白華抑制方法,白華抑制剤、及び、セメント製品
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/62 20060101AFI20230330BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230330BHJP
   B28B 11/04 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C04B41/62
B05D7/00 D
B28B11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021080325
(22)【出願日】2021-05-11
(62)【分割の表示】P 2017070548の分割
【原出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2021112921
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中上 明久
(72)【発明者】
【氏名】上原 伸郎
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-009088(JP,B1)
【文献】特表2009-514995(JP,A)
【文献】特開昭59-164661(JP,A)
【文献】特公昭53-006662(JP,B2)
【文献】特開昭58-091774(JP,A)
【文献】特開平05-185755(JP,A)
【文献】特開昭56-129689(JP,A)
【文献】食品機械用潤滑剤の利用動向 ,食品と開発 9月号 ,Vol.39 No.9,牧野 順一 CMPジャパン株式会社,p.33-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/00-11/24
C04B 2/00-32/02
40/00-40/06
103/00-111/94
41/60-41/72
C09D5/00,B05D7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含むセメント組成物と水とが混練されてなるセメント混練物を成形することで形成されたセメント成形体に白華が生じるのを抑制する白華抑制方法であって、
前記セメント成形体の表面に、植物油、及び、鉱物油からなる群から選択される少なくとも一種の油及び水を含む白華抑制剤を付着させる白華抑制剤付着工程を備えており、
白華抑制剤付着工程では、セメント成形体の表面の単位面積当たりに、前記油が0.03kg/m以上0.25kg/m以下、水が0.1kg/m以上0.4kg/m以下となるように、0.2kg/m 以上0.5kg/m 以下の白華抑制剤を付着させ
前記白華抑制剤は、前記油を20質量%以上含有する白華抑制方法。
【請求項2】
前記セメント成形体は、前記セメント混練物が型枠内で成形されることで形成されるものであり、
前記白華抑制剤付着工程では、セメント成形体から前記型枠を取り外した後であって、且つ、セメント混練物を形成した後60分以内に、前記白華抑制剤をセメント成形体の表面に付着させる請求項1に記載の白華抑制方法。
【請求項3】
セメントを含むセメント組成物と水とが混練されてなるセメント混練物が成形されてなるセメント製品の製造方法であって、
植物油、及び、鉱物油からなる群から選択される少なくとも一種の油及び水を含む白華抑制剤(但し、界面活性剤、シリコン樹脂油状液及び流動パラフィンを含むものを除く)表面に付着させる白華抑制剤付着工程を備えており、
付着時において、セメント製品の表面の単位面積当たりに、前記油が0.03kg/m以上0.25kg/m以下、水が0.1kg/m以上0.4kg/m以下となるように表面に0.2kg/m 以上0.5kg/m 以下の白華抑制剤付着させ、
前記白華抑制剤は、前記油を20質量%以上含有するセメント製品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物が成形されてなるセメント成形体の白華を抑制するための白華抑制方法に関する。また、本発明は、斯かる白華抑制方法で使用される白華抑制剤に関する。また、本発明は、白華が抑制されたセメント製品に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントを含むセメント組成物は、水と混練された後、型枠などを用いて成形されることで、セメント成形体を形成することができる。斯かるセメント成形体の表面には、面状又は斑点状の白色析出物が沈着することがある。斯かる白色析出物の沈着は、一般的に白華(エフロレッセンス)と言われるものである。斯かる白華は、セメント成形体中の白華成分がセメント成形体中の水に溶解してセメント成形体の表面に移動し、大気中の炭酸ガスと反応することで生じるものである。白華成分としては、水酸化カルシウム、アルカリ化合物又は炭酸化合物等が挙げられる。
【0003】
白華には、セメント成形体中に残る水に溶解した白華成分に起因する一次白華と、セメント成形体の表面から侵入した水に溶解した白華成分に起因する二次白華とがある。一次白華の例としては、セメントの水和反応によって生じるカルシウムイオンに起因するものが知られている。具体的には、セメントの水和反応によって水酸化カルシウムが水に溶解することでカルシウムイオンが生じる。そして、該カルシウムイオンがセメント成形体の表面で大気中の炭酸ガスと反応することで、炭酸カルシウムや水酸化カルシウムが生成する。そして、セメント成形体の表面が乾燥することによって、生成した炭酸カルシウムや水酸化カルシウムの結晶がセメント成形体の表面に析出し、白華が生じることになる。
【0004】
セメント成形体に白華が生じても、セメント成形体の強度低下や環境面での問題などを引き起こすことはないが、セメント成形体の美的外観を損なうため、好ましくない。特に、顔料等で着色された着色セメント組成物を用いて成形されたセメント成形体では、白華が目立つため、白華によって美的外観が著しく損なわれる。
【0005】
そこで、セメント成形体に白華が生じるのを抑制する方法が種々提案されている。例えば、セメント成形体中に白華を抑制する成分を含有させる方法が知られている。例えば、シリコーン系の白華抑制剤を含有させる方法や、白華成分と反応する物質(具体的には、高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等)を含有させる方法が知られている。
【0006】
さらに、セメント成形体の表面を処理することによって、白華が生じるのを抑制する方法も知られている。例えば、セメント成形体の表面を二酸化炭素で処理することで、該表面を炭酸化し、それ以降の表面の炭酸化を抑制することで白華が生じるのを抑制する方法が提案されている(特許文献1参照)。又は、セメント組成物と水とを混合して超音波を照射することによって、白華を生じ難くする方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-217281号公報
【文献】特開平9-70811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のように、白華を抑制する成分を含有させる方法では、白華抑制効果が充分ではない。また、二酸化炭素や超音波で処理する方法では、専用の設備が必要であると共に、白華の抑制を簡易に行うことができないため、白華の抑制を効率的に行うことができない。
【0009】
そこで、本発明は、セメント成形体に白華が生じるのを簡易に抑制することができる白華抑制方法を提供することを課題とする。また、斯かる白華抑制方法で使用される白華抑制剤を提供することを課題とする。加えて、白華が抑制されたセメント製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る白華抑制方法は、セメントを含むセメント組成物と水とが混練されてなるセメント混練物を成形することで形成されたセメント成形体に白華が生じるのを抑制する白華抑制方法であって、前記セメント成形体の表面に、油及び水を含む白華抑制剤を付着させる白華抑制剤付着工程を備えており、白華抑制剤付着工程では、セメント成形体の表面の単位面積当たりに、油が0.03kg/m以上0.25kg/m以下、水が0.05kg/m以上0.4kg/m以下となるように白華抑制剤を付着させる。
【0011】
斯かる構成によれば、セメント成形体の表面に、油を含む白華抑制剤を付着させることで、セメント成形体の表面に白華が生じるのを抑制することができる。また、セメント成形体の表面に白華抑制剤を付着させるという簡便な工程によって、白華が抑制されるため、従来よりも簡便に白華が生じるのを抑制することができる。
【0012】
前記白華抑制剤は、前記油を10質量%以上含有してもよい。
【0013】
斯かる構成によれば、白華抑制剤が油を上記の範囲で含有することで、白華が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0014】
前記セメント成形体は、前記セメント混練物が型枠内で成形されることで形成されるものであり、前記白華抑制剤付着工程では、セメント成形体から前記型枠を取り外した後であって、且つ、セメント混練物を形成した後60分以内に、前記白華抑制剤をセメント成形体の表面に付着させてもよい。
【0015】
斯かる構成によれば、セメント混練物を形成した後60分以内に、前記白華抑制剤をセメント成形体の表面に付着させることで、セメントと水との水和反応が進行しすぎない段階で、セメント成形体の表面に白華抑制剤を付着させることができる。このため、白華が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0016】
前記油は、植物油、及び、鉱物油からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0017】
本発明に係る白華抑制剤は、セメントを含むセメント組成物と水とが混練されてなるセメント混練物を成形することで形成されたセメント成形体に白華が生じるのを抑制するべく、セメント成形体の表面に付着される白華抑制剤であって、油及び水を含んでおり、セメント成形体の表面の単位面積当たりに、油が0.03kg/m以上0.25kg/m以下、水が0.05kg/m以上0.4kg/m以下となるようにセメント成形体の表面に付着される。
【0018】
本発明に係るセメント製品は、セメントを含むセメント組成物と水とが混練されてなるセメント混練物が成形されてなるセメント製品であって、油及び水を含む白華抑制剤が表面に付着しており、セメント製品の表面の単位面積当たりに、油が0.03kg/m以上0.25kg/m以下、水が0.05kg/m以上0.4kg/m以下となるように表面に白華抑制剤が付着している。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、セメント成形体に白華が生じるのを簡易に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0021】
本発明に係る白華抑制方法は、セメントを含むセメント組成物と水とが混練されてなるセメント混練物を成形することで形成されたセメント成形体に白華が生じるのを抑制するものである。具体的には、前記セメント成形体の表面に、白華抑制剤を付着させる白華抑制剤付着工程を備える。
【0022】
前記白華抑制剤は、油を含むものである。該油の含有量としては、特に限定されるものではなく、例えば、10質量%以上であることが好ましい。また、該油の含有量としては、100質量%以下であってもよい(即ち、白華抑制剤の全体が油のみから構成されてもよい)。また、白華抑制剤は、油と、該油を分散させる分散媒体とから構成されてもよい。斯かる場合には、白華抑制剤中の油の含有量としては、10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0023】
前記油とは、疎水性の物質であって、常温で液体であるもの(液体油)をいう。また、前記油としては、特に限定されるものではなく、例えば、植物油、及び、鉱物油からなる群から選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0024】
前記植物油としては、例えば、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、落花生油、トウモロコシ油、キャノーラ油、ココナッツ脂、アマニ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、及び、ア-モンド油、ピーナッツ油等が挙げられる。
【0025】
前記鉱物油としては、地下資源由来の炭化水素化合物を主成分として含む油が挙げられる。例えば、ガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油、又は、不純物を取り除いて成分を均質化した化学合成油等が挙げられる。
【0026】
前記分散媒体としては、特に限定されるものではないが、油が均一に分散するものであることが好ましく、例えば、水等を用いることができる。
【0027】
上記のような白華抑制剤を付着させる(白華抑制剤付着工程の対象となる)セメント成形体としては、一定の形状を保持できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、未硬化のセメント成形体に対して白華抑制剤付着工程を行うことができる。未硬化のセメント成形体とは、セメントの水和反応がセメント成形体の全体で完了していないものであってもよく、セメント成形体の一部分で水和反応が完了していないものであってもよい。
【0028】
セメント成形体を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、振動締固め方式、遠心力締固め方式、及び、即時脱型方式が挙げられる。振動締固め方式は、比較的軟らかいセメント混練物を型枠に充填しながら振動機を用いて締固め、その後養生することによってセメント成形体を得るものである。遠心力締固め式は、遠心力によってセメント混練物から水分を除去し、その後養生することによって、水セメント比が比較的低いセメント成形体を得るものである。即時脱型方式は、水の含有量が極めて低くなるように、水セメント比を調整したセメント混練物を型枠に充填し、振動で締め固めした後、直ちに脱型して養生することによってセメント成形体を得るものである。
【0029】
本発明に係る白華抑制方法において、白華がより効果的に抑制されるセメント成形体としては、水分量が比較的少ない(所謂、固練りの)セメント混練物を用いて形成されたセメント成形体が挙げられる。具体的には、スランプ試験を行った際に測定値が0cmとなるセメント混練物を用いて形成されたセメント成形体が挙げられる。このようなセメント成形体は、即時脱型方式によって形成することができる。また、このようなセメント成形体は、単位体積当たりの水含有量が低いため、内部から表層に水可溶成分を移動させる自由水が少ない。従って、セメント成形体の表層を白華抑制剤で処理することで、白華を抑制することが可能となる。白華抑制剤の使用量を低減し、生産コストの低減を図ることができる。
【0030】
セメント成形体の原料となるセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、アルミナセメント、ジェットセメント等が挙げられる。
【0031】
また、セメント成形体の原料となるセメント組成物は、骨材を含むものであってもよい。例えば、セメント成形体がコンクリートの成形体である場合には、細骨材と粗骨材とを含有し、セメント成形体がモルタルの成形体である場合には、粗骨材を含有せずに細骨材を含有する。
【0032】
前記細骨材としては、山砂、海砂、川砂、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケル細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材、フェロクロム細骨材、人工軽量細骨材、再生細骨材等が挙げられる。上記粗骨材としては、山砂利、海砂利、川砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、人工軽量粗骨材、再生粗骨材等が挙げられる。
【0033】
また、セメント成形体の原料となる水としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等が挙げられる。また、斯かる水としては、セメントの水和反応等に悪影響を及ぼす有機物、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が含まれない、又はそれらの含有量が微量であることが好ましい。
【0034】
また、セメント成形体の原料となるセメント組成物には、必要に応じて、添加物が含まれてもよい。添加物としては、例えば、収縮低減剤、減水剤、消泡剤、流動化剤、凝結促進剤、凝結遅延剤等の化学混和剤、合成樹脂粉末、合成樹脂繊維、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、石灰石微粉末、膨張材、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等を例示することができる。また、セメント組成物には、顔料や塗料等の着色成分が含有されてもよい。
【0035】
前記白華抑制剤付着工程においてセメント成形体の表面に白華抑制剤を付着させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、白華抑制剤をセメント成形体の表面に塗布又は散布する方法が挙げられる。白華抑制剤の塗布又は散布の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ローラ方式、噴霧方式、又は、はけ方式などの公知の方式(装置)を用いることができる。
【0036】
白華抑制剤付着工程を開始する時間(具体的には、白華抑制剤の塗布又は散布を開始する時間)としては、特に限定されるものではなく、例えば、セメント成形体を形成する型枠をセメント成形体から取り外した後であって、且つ、セメント混練物を形成した後(即ち、混練後)60分以内であることが好ましい。混練後60分以内であることで、セメント成形体中で生じるセメントと水との水和反応が進行しすぎない段階で、白華抑制剤をセメント成形体の表面に付着させることができるため、白華を効果的に抑制することが可能となる。
【0037】
セメント成形体の表面の単位面積当たりの白華抑制剤の塗布量又は散布量としては、特に限定されるものではなく、例えば、0.1kg/m以上1kg/m以下であることが好ましく、0.2kg/m以上0.5kg/m以下であることがより好ましい。0.2kg/m以上であることで、セメント成形体の表面にムラ無く白華抑制剤を付着させることができる。また、0.5kg/m以下であることで、白華抑制剤中の水(分散媒体)の影響によって白華の抑制効果が低下するのを防止することができると共に、白華抑制剤中の油の色によってセメント成形体が着色されてしまうのを防止することができる。
【0038】
また、白華抑制剤付着工程では、セメント成形体の表面の単位面積当たりに付着(具体的には、塗布又は散布)される油の量としては、特に限定されるものではなく、例えば、0.02kg/m以上1kg/m以下であることが好ましく、0.03kg/m以上0.25kg/m以下であることがより好ましい。0.03kg/m以上であることで、セメント成形体の表面にムラ無く油を付着させることができる。また、0.25kg/m以下であることで、油の色によってセメント成形体が着色されてしまうのを防止することができる。
【0039】
また、白華抑制剤付着工程では、セメント成形体の表面の単位面積当たりに付着(具体的には、塗布又は散布)される水(白華抑制剤の分散媒体としての水)の量としては、特に限定されるものではなく、例えば、0kg/m以上0.8kg/m以下であることが好ましく、0.1kg/m以上0.5kg/m以下であることがより好ましい。これにより、セメント成形体の表面にムラ無く白華抑制剤を付着させることができると共に、白華抑制剤中の水(分散媒体)の影響によって白華の抑制効果が低下するのを防止することができる。
【0040】
上記のように白華抑制剤が表面に付着したセメント成形体(具体的には、コンクリートやモルタルの成形体)は、道路、橋、トンネル、ビル等のコンクリート含有部分やモルタル含有部分、インターロッキングブロック、建築用空洞ブロック、化粧ブロック、平板、普通ブロック、土留ブロック、タイル下地等の様々な製品、及び、これらの半製品(製造途中の製品)として使用することができる。
【0041】
以上のように、本発明に係る白華抑制方法、白華抑制剤、及び、セメント製品によれば、セメント成形体に白華が生じるのを簡易に抑制することができる。
【0042】
即ち、セメント成形体の表面に、油を含む白華抑制剤を付着させることで、セメント成形体の表面に白華が生じるのを抑制することができる。また、セメント成形体の表面に白華抑制剤を付着させるという簡便な工程によって、白華が抑制されるため、従来よりも簡便に白華が生じるのを抑制することができる。
【0043】
また、白華抑制剤付着工程では、セメント成形体の表面の単位面積当たりに前記油が上記の範囲となるように白華抑制剤が付着されることで、白華が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0044】
また、白華抑制剤が油を上記の範囲で含有することで、白華が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0045】
また、セメント混練物を形成した後60分以内に、前記白華抑制剤をセメント成形体の表面に付着させることで、セメントと水との水和反応が進行しすぎない段階で、セメント成形体の表面に白華抑制剤を付着させることができる。このため、白華が生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0046】
なお、本発明に係る白華抑制方法、白華抑制剤、及び、セメント製品は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、他の各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【実施例
【0047】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0048】
<使用材料>
・植物油(大豆油):「製品名:SMD-70(SMD Products Company社製)」
・鉱物油:「製品名:パネロールE-10(株式会社ダイセキ社製)」
・水:上水道水
・セメント:「普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)」
・細骨材:珪砂
・顔料:「製品名:バイフェロックス 赤(株式会社尾関社製)」
【0049】
1.試験1
<白華抑制剤の作製>
上記の油と水とを混合して白華抑制剤を作製した。白華抑制剤中の油の含有量は、下記表1に示す。
【0050】
<セメント成形体の作製>
セメント100質量部、細骨材360質量部、顔料10質量部、水30質量部を混練してセメント混練物を形成し、該セメント混練物を型枠に充填して成形することでセメント成形体を作製した。セメント成形体の作製は、即時脱型方式で行った。
【0051】
<試験体の作製>
セメント成形体から型枠を取り外した後(以下、脱型後とも記す)、セメント成形体の表面に白華抑制剤を霧吹きで吹き付けることで(白華抑制剤付着工程)、セメント成形体の表面に白華抑制剤が付着した試験体を作製した。セメント混練物が形成された直後(混練後)から白華抑制剤の吹き付けを開始するまでの時間(即ち、白華抑制剤付着工程を開始する時間であって、以下では、吹き付け開始時間とも記す)については、下記表1に示す。また、セメント成形体の表面の単位面積当たりの白華抑制剤の付着量についても、下記表1に示す。
【0052】
<白華の評価1>
得られた試験体を恒温槽(温度5℃、湿度88%)内に7日間放置し、白華の発生を目視で観察した。白華抑制の評価は、白華の発生がないか極微量であるものを「○」、白華の発生が顕著であるものを「×」として評価した。評価結果は、下記表1に示す。
【0053】
2.試験2
<白華抑制剤、セメント成形体、及び、試験体の作製>
試験1と同様に、白華抑制剤、及び、セメント成形体を作製した。また、試験1と同様に、得られたセメント成形体に対して、吹き付け開始時間を0分として、白華抑制剤付着工程を行い、試験体を作製した。白華抑制剤中の油の含有量、及び、白華抑制剤の付着量、及び、油の付着量については、下記表2に示す。
【0054】
<白華の評価2>
得られた試験体に対して、色彩色差計(コニカミノルタ株式会社製、品名:CR-400)を用いて、L*,a*,b*を測定した。また、得られた試験体を恒温槽(温度5℃、湿度88%)内に7日間放置した後、前記色彩色差計を用いて、L*,a*,b*を測定した。そして、恒温槽内に放置する前後におけるL*,a*,b*の差(ΔL*,Δa*,Δb*)と、下記の(1)式とから色差ΔE*abを算出した。白華の評価としては、目視により白華の発生がないか極微量であるものを「○」、白華の発生が僅かであるものを「△」、白華の発生が顕著であるものを「×」として評価した。また、白華の評価が「○」であり、且つ、色差ΔE*abが1.5以下であるものを「◎」、白華の評価が「○」又は「△」であり、且つ、色差ΔE*abが1.5を超えるものを「○」、白華の評価が「×」であるものを「×」として総合評価を行った。各評価結果は、下記表2に示す。なお、L*,a*,b*は、CIE1976(L*a*b*)表色系と呼ばれるものであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。

ΔE*ab={(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)0.5…(1)

【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
<まとめ>
表1,2を見ると、各実施例の方が比較例1および参考例1~8よりも白華の発生が抑制されることが認められる。つまり、本発明のように、油と水とを含む白華抑制剤をセメント成形体の表面に付着させることで、5℃という比較的低い温度環境に曝された場合であっても白華の発生を抑制することができる。
【0058】
また、表1の実施例4,5と比較例1とを比較すると、各実施例の方が白華の発生が抑制されることが認められる。つまり、混練後60分以内に白華抑制剤付着工程を行うことで、白華の発生を効果的に抑制することができる。
【0059】
表2を見ると、白華抑制剤の付着量を0.1kg/m以上1kg/m以下とすることで、白華の発生が抑制されることが認められる。また、白華抑制剤の付着量を0.2kg/m以上0.5kg/m以下とすることで、白華の発生がより効果的に抑制されることが認められる。
【0060】
また、表2を見ると、油(植物油)の付着量を0.02kg/m以上1kg/m以下とすることで、白華の発生が抑制されることが認められる。特に、油(植物油)の付着量を0.03kg/m以上0.25kg/m以下とすることで、白華の発生がより抑制されることが認められる。
【0061】
また、表2を見ると、水の付着量を0kg/m以上0.8kg/m以下とすることで、白華の発生が抑制されることが認められる。特に、水の付着量を0.1kg/m以上0.5kg/m以下とすることで、白華の発生がより抑制されることが認められる。
【0062】
以上より、油(植物油)の付着量を0.02kg/m以上1kg/m以下とし、水の付着量を0kg/m以上0.8kg/m以下とすることで、白華の発生が効果的に抑制されることが認められる。