(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】静電チャックシステム、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230330BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20230330BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20230330BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230330BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230330BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H01L21/68 P
C23C14/50 A
C23C14/50 F
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2018240910
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0089564
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2009-0082296(KR,A)
【文献】特開2014-065959(JP,A)
【文献】特開2017-155338(JP,A)
【文献】特開2013-204129(JP,A)
【文献】特開2013-163837(JP,A)
【文献】特表2017-516294(JP,A)
【文献】特開2011-195907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C23C 14/50
C23C 14/04
H10K 50/00
H05B 33/10
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着するための静電チャックシステムであって、
前記被吸着体を吸着する吸着面と、電極部と、を有する静電チャックと、
前記被吸着体を前記静電チャックに吸着させる電圧を前記電極部
に印加する電圧印加部と、
前記静電チャックの前記吸着面の反対側に配置される磁力発生部と、
前記磁力発生部を前記静電チャックの前記吸着面に平行な平行方向を含む方向に移動させる駆動機構とを含
み、
前記電圧印加部は、前記磁力発生部の磁力によって前記被吸着体の少なくとも一部が吸引された後に、前記電圧を前記電極部に印加することを特徴とする静電チャックシステム。
【請求項2】
前記磁力発生部を前記吸着面に投影した面積が、前記吸着面の面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の静電チャックシステム。
【請求項3】
前記磁力発生部を前記吸着面に投影したときの、前記磁力発生部の前記吸着面に平行な平行方向における長さが前記吸着面の前記平行方向における長さよりも短く、
前記駆動機構
が前記磁力発生部を前記平行方向に移動させ
ながら、前記電圧印加部が前記電圧を前記電極部に印加することを特徴とする請求項1又は2に記載の静電チャックシステム。
【請求項4】
前記磁力発生部を前記吸着面に投影したときの、前記磁力発生部の前記平行方向における長さが前記吸着面の前記平行方向における長さの1/2以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の静電チャックシステム。
【請求項5】
前記平行方向は、前記静電チャックの前記吸着面の短手方向に平行であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の静電チャックシステム。
【請求項6】
前記駆動機構は、前記磁力発生部を前記平行方向に沿って前記吸着面の一つの長辺側の周縁部から他の長辺側の周縁部に向かって移動させることを特徴とする請求項5に記載の
静電チャックシステム。
【請求項7】
前記平行方向は、前記静電チャックの前記吸着面の長手方向に平行であることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の静電チャックシステム。
【請求項8】
前記駆動機構は、前記磁力発生部を前記平行方向に沿って前記吸着面の一つの短辺側の周縁部から他の短辺側の周縁部に向かって移動させることを特徴とする請求項7に記載の静電チャックシステム。
【請求項9】
前記電圧印加部は、第1被吸着体を前記静電チャックに吸着させるための第1電圧と、前記静電チャックと第2被吸着体との間に前記第1被吸着体を挟んで前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させるための第2電圧を印加することを特徴とすることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の静電チャックシステム。
【請求項10】
前記磁力発生部は、前記第2被吸着体に磁力を印加するための磁力印加位置と、前記第2被吸着体に前記磁力印加位置で印加する磁力よりも弱い磁力を印加するための退避位置との間を移動可能に設置されることを特徴とする請求項9に記載の静電チャックシステム。
【請求項11】
基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、
第1被吸着体である基板及び第2被吸着体であるマスクを吸着するための静電チャックシステムを含み、
前記静電チャックシステムは、請求項1~10のいずれか一項に記載の静電チャックシステムであることを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
被吸着体を吸着するための方法であって、
静電チャックの電極部に第1電圧を印加して
前記静電チャックの前記被吸着体を吸着する吸着面に第1被吸着体
を吸着させる第1吸着工程と、
前記静電チャックの前記吸着面の反対側に配置される磁力発生部の磁力により、前記静電チャックと第2被吸着体との間に前記第1被吸着体を配置した状態で、前記第2被吸着体の少なくとも一部
を前記第1被吸着体側に吸引する吸引工程と、
前記磁力発生部の磁力により前記第2被吸着体の少なくとも一部が吸引された後に、前記電極部に
、前記第1電圧と同じ又は異なる
、前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加しつつ、前記磁力発生部を前記静電チャックの吸着面に平行な方向を含む方向に移動させ、前記静電チャックと第2被吸着体との間に前記第1被吸着体を挟んで前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる第2吸着工程を含むことを特徴とする吸着方法。
【請求項13】
前記第2吸着工程は、前記第2被吸着体の前記吸引工程で吸引された部分を前記第1被吸着体に接触させ、前記静電チャックと第2被吸着体との間に前記第1被吸着体を挟んで前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させることを特徴とする請求項12に記載の吸着方法。
【請求項14】
前記第2吸着工程の後に、前記第2被吸着体に印加される磁力を前記吸引工程の磁力よりも低下させる磁力低下工程をさらに含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の吸着方法。
【請求項15】
前記吸引工程は、前記第2被吸着体の少なくとも一部を磁力により吸引することができる磁力印加位置に前記磁力発生部を移動させる工程を含み、
前記磁力低下工程は、前記磁力印加位置に前記磁力発生部が移動したときに前記第2被
吸着体に加えられる磁力よりも弱い磁力を加えるための退避位置に前記磁力発生部を移動させる工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の吸着方法。
【請求項16】
前記吸引工程では、前記第2被吸着体を部分的に吸引することを特徴とすることを特徴とする請求項12~15のいずれか一項に記載の吸着方法。
【請求項17】
基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
真空容器内にマスクを搬入する工程と、
前記真空容器内に基板を搬入する工程と、
静電チャックの電極部に第1電圧を印加して、前記基板を前記静電チャック
の前記基板を吸着する吸着面に吸着させる第1吸着工程と、
前記静電チャックと前記マスクとの間に前記基板を配置した状態で、前記マスクの少なくとも一部を
前記静電チャックの前記吸着面の反対側に配置される磁力発生部からの磁力により吸引する吸引工程と、
前記磁力発生部の磁力により前記マスクの少なくとも一部が吸引された後に、前記電極部に
、前記第1電圧と同じ又は異なる
、前記マスクを前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加しつつ、前記磁力発生部を前記静電チャックの吸着面に平行な方向を含む方向に移動させ、前記静電チャックと前記マスクとの間に前記基板を挟んで前記マスクを前記静電チャックに吸着させる第2吸着工程と、
前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を蒸発させて、前記マスクを介して前記基板に前記蒸着材料を成膜する工程を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項18】
前記第2吸着工程は、前記マスクの前記吸引工程で吸引された部分を前記基板に接触させ、前記静電チャックと前記マスクとの間に前記基板を挟んで前記マスクを前記静電チャックに吸着させることを特徴とする請求項17に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記第2吸着工程の後に、前記マスクに印加される磁力を前記吸引工程の磁力よりも低下させる磁力低下工程をさらに含むことを特徴とする請求項17又は18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記吸引工程は、前記マスクの少なくとも一部を磁力により吸引することができる磁力印加位置に前記磁力発生部を移動させる工程を含み、
前記磁力低下工程は、前記磁力印加位置に前記磁力発生部が移動したときに前記マスクに加えられる磁力よりも弱い磁力を加えるための退避位置に前記磁力発生部を移動させる工程を含むことを特徴とする請求項19に記載の成膜方法。
【請求項21】
前記吸引工程では、前記マスクを部分的に吸引することを特徴とする請求項17~19のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項22】
請求項17~21のいずれか一項の成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックシステム、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の蒸発源から蒸発した蒸着材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に蒸着させることで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、蒸発源は成膜装置の真空容器の下部に設けられ、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に蒸着材料が蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度が低下する一つの要因となっている。また、上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においても、基板の自重による撓みが生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【0005】
特許文献1には、静電チャックで基板及びマスクを吸着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第2007-0010723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の技術において、静電チャックで基板越しにマスクを吸着する場合、吸着後のマスクにしわが残ってしまう問題があった。
本発明は、基板やマスク等の被吸着体を良好に静電チャックに吸着することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様による静電チャックシステムは、被吸着体を吸着するための静電チャ
ックシステムであって、前記被吸着体を吸着する吸着面と、電極部と、を有する静電チャックと、前記被吸着体を前記静電チャックに吸着させる電圧を前記電極部に印加する電圧印加部と、前記静電チャックの前記吸着面の反対側に配置される磁力発生部と、前記磁力発生部を前記静電チャックの前記吸着面に平行な平行方向を含む方向に移動させる駆動機構とを含み、前記電圧印加部は、前記磁力発生部の磁力によって前記被吸着体の少なくとも一部が吸引された後に、前記電圧を前記電極部に印加することを特徴とする。
【0009】
本発明の第2態様による成膜装置は、基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、第1被吸着体である基板及び第2被吸着体であるマスクを吸着するための静電チャックシステムを含み、前記静電チャックシステムは、本発明の第1態様による静電チャックシステムであることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3態様による吸着方法は、被吸着体を吸着するための方法であって、静電チャックの電極部に第1電圧を印加して前記静電チャックの前記被吸着体を吸着する吸着面に第1被吸着体を吸着させる第1吸着工程と、前記静電チャックの前記吸着面の反対側に配置される磁力発生部の磁力により、前記静電チャックと第2被吸着体との間に前記第1被吸着体を配置した状態で、前記第2被吸着体の少なくとも一部を前記第1被吸着体側に吸引する吸引工程と、前記磁力発生部の磁力により前記第2被吸着体の少なくとも一部が吸引された後に、前記電極部に、前記第1電圧と同じ又は異なる、前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加しつつ、前記磁力発生部を前記静電チャックの吸着面に平行な方向を含む方向に移動させ、前記静電チャックと第2被吸着体との間に前記第1被吸着体を挟んで前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる第2吸着工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の第4態様による成膜方法は、基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、真空容器内にマスクを搬入する工程と、前記真空容器内に基板を搬入する段階と、静電チャックの電極部に第1電圧を印加して、前記基板を前記静電チャックの前記基板を吸着する吸着面に吸着させる第1吸着工程と、前記静電チャックと前記マスクとの間に前記基板を配置した状態で、前記マスクの少なくとも一部を前記静電チャックの前記吸着面の反対側に配置される磁力発生部からの磁力により吸引する工程と、前記磁力発生部の磁力により前記マスクの少なくとも一部が吸引された後に、前記電極部に、前記第1電圧と同じ又は異なる、前記マスクを前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加しつつ、前記磁力発生部を前記静電チャックの吸着面に平行な方向を含む方向に移動させ、前記静電チャックと前記マスクとの間に前記基板を挟んで前記マスクを前記静電チャックに吸着させる第2吸着工程と、前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を蒸発させて、前記マスクを介して前記基板に前記蒸着材料を成膜する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第5態様による電子デバイスの製造方法は、本発明の第4態様による成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、静電チャックにより基板やマスク等の被吸着体をしわが残らないように良好に吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの模式図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの模式図である。
【
図3D】
図3Dは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの模式図である。
【
図4A】
図4Aは、基板及びマスクの静電チャックへの吸着方法を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、基板及びマスクの静電チャックへの吸着方法を示す模式図である。
【
図4C】
図4Cは、基板及びマスクの静電チャックへの吸着方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成
及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に望ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択してもよく、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、蒸着材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもよい。なお、以下の説明において説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0017】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。
【0018】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置1の間を繋ぐ中継装置とを含む。
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、
図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0019】
搬送室13内には、基板SおよびマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0020】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ぶ)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0021】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクMと、使用済みのマスクMとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクMを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクMを成膜装置11に搬送する。
【0022】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に搬送するパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側
の他のクラスタ装置1に搬送するためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0023】
バッファー室16とパス室15との間には、基板Sの向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置1と下流側のクラスタ装置1で基板Sの向きが同一となり、基板処理が容易になる。
【0024】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、2つのクラスタ装置1の間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置1の上流側及び/又は下流側に設置される中継装置は、パス室15、バッファー室16、旋回室17のうち少なくとも1つを含む。
【0025】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0026】
本実施例では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有してもよく、これらの装置やチャンバー間の配置が変わってもよい。
【0027】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるように固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0028】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、蒸発源25とを含む。
【0029】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来る基板Sを受取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
【0030】
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来るマスクMを受取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0031】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ぶ。
【0032】
基板支持ユニット22の上方には、基板Sを静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)
マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックであることによって、基板Sが絶縁性基板である場合であっても、静電チャック24によって基板Sを良好に吸着することができる。例えば、静電チャック24がクーロン力タイプの静電チャックである場合には、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電荷が印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板Sなどの被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、これら間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。静電チャック24は、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。
【0033】
本実施形態では後述のように、成膜前に静電チャック24で基板S(第1被吸着体)だけでなく、マスクM(第2被吸着体)をも吸着し保持する。
即ち、本実施例では、静電チャック24の鉛直方向の下側に置かれた基板S(第1被吸着体)を静電チャック24で吸着及び保持し、その後、基板S(第1被吸着体)を挟んで静電チャック24と反対側に置かれたマスクM(第2被吸着体)を、基板S(第1被吸着体)越しに静電チャック24で吸着し保持する。特に、静電チャック24でマスクMを基板S越しに吸着する際、マスクMの一部を磁力発生部33によって引き寄せ、磁力発生部33の磁力により引き寄せられたマスクMの部分が、静電チャックによるマスクMの吸着の起点となるようにする。さらに、磁力発生部33を静電チャック24の吸着面(基板Sと対向する面)に平行な方向へ移動させることで、その方向への吸着の進行を誘導することができる。これについては、
図3および4を参照して後述する。
【0034】
本実施形態においては、基板Sは非磁性体で構成されマスクMが磁性体で構成されているため、マスクMの引き寄せ動作のために複数の磁石の一部を磁力がマスクMに作用する状態とした場合に基板Sの全体に磁気回路が形成されることがなく、磁力が作用する位置にあるマスクMの一部分を磁力によって引き寄せることができる。また、マスクMの一部分を引き寄せるために静電チャック24に印加する電圧を操作する必要がないため、すでに静電チャック24に吸着している基板Sの吸着状態に影響を及ぼすことなくマスクMの引き寄せ動作を行うことができる。さらに、磁力発生部33による吸引力は静電チャック24による静電気的な吸引力よりも遠くまで作用させることが容易であるため、マスクMの引き寄せ動作を効果的に行うことができる。
図2には示していないが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0035】
蒸発源25は、基板Sに成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸発源25は、点(point)蒸発源や線形(linear)蒸発源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
図2には示していないが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0036】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などが設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、或いはモー
タとリニアガイドなどで構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0037】
位置調整機構29は、静電チャック24のアライメントのための駆動手段である。位置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる。なお、本実施形態では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX、Y、θ方向に位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0038】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20を設置してもよい。本実施例においては、アライメント用カメラ20は、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の対角線に対応する位置または、矩形の4つのコーナー部に対応する位置に設置してもよい。
【0039】
尚、位置調整機構29は、アライメント用カメラ20によって取得した基板S(第1被吸着体)及びマスクM(第2被吸着体)の位置情報に基づいて、基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0040】
成膜装置11は、制御部(不図示)を具備する。制御部は、基板Sの搬送及びアライメント、蒸発源25の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0041】
<静電チャックシステム>
図3A~
図3Dを参照して本実施形態による静電チャックシステム30について説明する。
図3Aは、本実施形態の静電チャックシステム30の概念的なブロック図であり、
図3Bは、静電チャック24の模式的な平面図であり、
図3Cは、静電チャック24及び磁力発生部33の模式的な平面図である。
図3Dは、磁力発生部33を移動させるための磁力発生部駆動機構35の模式図である。
【0042】
本実施形態の静電チャックシステム30は、
図3Aに示すように、静電チャック24と、電位差印加部(電圧印加部)31と、電位差制御部(電圧制御部)32と、磁力発生部33と、磁力発生部駆動機構35とを含む。
電位差印加部31は、静電チャック24の電極部に静電引力を発生させるための電位差(電圧)を印加する。
【0043】
電位差制御部32は、静電チャックシステム30の吸着工程または成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電位差印加部31から電極部に加えられる電位差(電圧)の大きさ、電位差の印加開始時点、電位差の維持時間、電位差の印加順番などを制御する。電位差
制御部32は、例えば、静電チャック24の電極部に含まれる複数のサブ電極部241~249への電位差印加をサブ電極部241~249ごとに独立的に制御することができる。本実施形態では、電位差制御部32が成膜装置11の制御部とは別途設けられているが、本発明はこれに限定されず、成膜装置11の制御部に統合されてもよい。
【0044】
静電チャック24は、静電チャック24の吸着面に被吸着体(例えば、基板S、マスクM)を吸着するための静電吸着力を発生させる電極部を含み、電極部は、複数のサブ電極部241~249を含むことができる。例えば、本実施形態の静電チャック24は、
図3Bに示すように、Z方向から見た場合に静電チャック24は長方形であり、静電チャック24の長手方向(Y方向)および/または、静電チャック24の短手方向(X方向)に沿って、分割された複数のサブ電極部241~249を含む。サブ電極部241~249のそれぞれは、静電吸着力を発生させるためにプラス(第1極性)及びマイナス(第2極性)の電荷が印加される電極対34を含む。例えば、それぞれの電極対34は、プラス電荷が印加される第1電極341と、マイナス電荷が印加される第2電極342とを含む。
【0045】
第1電極341及び第2電極342は、
図3Bに図示するように、それぞれ櫛形状を有する。サブ電極部241~249のそれぞれにおいて、第1電極341の各櫛歯部は、第2電極342の各櫛歯部と対向するように、交互に配置される。このように、第1電極341及び第2電極342の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電荷が印加される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって基板Sを吸着することができる。
【0046】
本実施例においては、静電チャック24のサブ電極部241~249の第1電極341及び第2電極342が櫛形状を有すると説明したが、本発明はそれに限定されず、被吸着体との間で静電引力を発生させることができる限り、多様な形状を持つことができる。
【0047】
本実施形態の静電チャック24は、複数のサブ電極部241~249に対応する複数の吸着部を有する。
吸着部は、静電チャック24の長手方向(Y軸方向)及び短手方向(X軸方向)に分割されるように設けられるが、本発明はこれに限定されず、静電チャック24の長手方向または短手方向だけに分割されてもよい。複数の吸着部は、物理的に一つのプレートが複数の電極部を持つように構成されてもよいし、物理的に分割された複数のプレートのそれぞれが一つまたはそれ以上の電極部を持つように構成されてもよい。例えば、
図3Bに示す実施例において、複数の吸着部のそれぞれが複数のサブ電極部241~249のそれぞれに対応するように構成されてもよいし、一つの吸着部が複数のサブ電極部241~249を含むように構成されてもよい。つまり、電位差制御部32によるサブ電極部241~249への電位差の印加を制御することで、後述するように、基板Sの吸着進行方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に配置された3つのサブ電極部241、244、247が一つの吸着部を構成してもよい。複数の吸着部のそれぞれが独立的に基板Sの吸着を行うことができる限り、その具体的な物理的構造及び電気回路的構造を変更してもよい。
【0048】
(磁力発生部)
本発明の静電チャックシステム30は、静電チャック24で被吸着体、例えば、マスクMを基板S越しに吸着するとき、マスクMの吸着の起点の位置及び吸着の進行方向を制御するために、マスクMに磁力を印加する磁力発生部33を含む。磁力発生部33は、
図3Aに示すように、静電チャック24の吸着面の反対側に配置され、永久磁石または電磁石によって構成してもよい。
【0049】
磁力発生部33は、
図3Cに示すように、磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に投影したときの面積が静電チャック24の吸着面の面積よりも小さくなるように形成さ
れることが好ましい。
これにより、磁力発生部33は、マスクM全体に磁力を同時に印加するのではなく、マスクMにおける磁力発生部33の位置に対応する部分にのみ磁力を印加し、マスクMの該当部分を選択的に静電チャック24側に引き寄せる(
図4Cを参照)。即ち、マスクMの該当部分が、磁力発生部33からの磁力によって吸引されて、他の部分よりも静電チャック24に近づくように変形する。これにより、静電チャック24にマスクMの吸着のための電位差が印加されたとき、マスクMの該当部分が一番先に静電チャック24に吸着される。
【0050】
なお、ここでいう「磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に投影したときの面積」とは、磁力発生部33のうち、マスクMを基板S越しに吸着するプロセスにおいてマスクMが基板Sと接触するときにマスクMを吸引する磁力を発生させている部分を、静電チャック24の吸着面に投影したときの面積をいう。例えば、磁力発生部33は、静電チャック24の吸着面に平行な面内において区画された複数の領域に対応する複数の電磁石モジュールで構成される。このような構成において、マスクMを基板Sに接触させて、複数の領域の一部に対応する電磁石モジュールについてのみ電力を供給して磁力を発生させる場合、磁力を発生させる電磁石モジュールを静電チャック24の吸着面に投影したときの面積が、上記の面積に相当する。
【0051】
その後、磁力発生部33が吸着面に平行な方向に移動すると、マスクMの他の部分が磁力発生部33の移動に応じて順次に吸引されて静電チャック24に近づくように変形する。静電チャック24に加えられた電位差により、マスクMの他の部分が基板S越しに静電チャック24に吸着される。これにより、マスクMがその吸着の起点から磁力発生部33の移動方向に沿って順次に吸着されて、吸着の完了後、マスクMにしわが残らないようになる。
【0052】
静電チャック24の吸着面に平行な第1方向(例えば、静電チャック24の短辺方向、X方向)において、磁力発生部33の長さが、静電チャック24の吸着面の長さよりも短くなるように、磁力発生部33を形成することが好ましい。例えば、マスクMの吸着の起点の位置及び吸着の進行方向をより精密に制御することができるように、磁力発生部33の第1方向における長さを静電チャック24の吸着面の第1方向における長さの1/2以下とすることがより好ましい。なお、ここでいう磁力発生部33の第1方向における長さは、磁力発生部33の第1方向における長さが最も長い部分の長さを意味する。
静電チャック24が複数の吸着部を有する場合、磁力発生部33の第1方向における長さが、磁力発生部33の位置に対応する吸着部の第1方向における長さ以下になるようにすることが好ましい。
【0053】
静電チャック24の吸着面に平行であり、第1方向と直交する第2方向(例えば、静電チャック24の長辺方向、Y方向)において、磁力発生部33の長さが静電チャック24の吸着面の長さと実質的に同一であるか、それよりも短くなるように、磁力発生部33を形成することが好ましい。つまり、磁力発生部33の第1方向における長さが静電チャック24の吸着面の第1方向における長さよりも短い場合には、
図3Cに示すように、磁力発生部33の第2方向における長さが、静電チャック24の吸着面の第2方向における長さと実質的に同一であるか、或いは、それよりも短くすることができる。磁力発生部33の第2方向における長さが、静電チャック24の吸着面の第2方向における長さと実質的に同一である場合、第2方向において、マスクMの吸着の起点及び進行方向を制御することはできないが、前述したように、第1方向において、マスクMの吸着の起点及び進行方向を制御することができる。
【0054】
これに対して、磁力発生部33の第2方向における長さが、静電チャック24の吸着面
の第2方向における長さよりも短い場合には、第1方向だけでなく、第2方向においても、マスクMの吸着の起点及び進行方向を制御することができる。
【0055】
磁力発生部33の第1方向における長さが、静電チャック24の第1方向における吸着面の長さよりも短い構成に限定されない。
図3Cに示すように、第1方向及び第2方向のうちの少なくとも一つの方向または対角方向においてマスクMの吸着の起点及び進行を制御することができる限り、磁力発生部33は多様なサイズ及び形状を有することができる。例えば、磁力発生部33の第1方向おける長さが静電チャック24の吸着面の第1方向における長さと実質的に同じであり、磁力発生部33の第2方向における長さが静電チャック24の吸着面の第2方向における長さよりも短くてもよい。
【0056】
図3Cの(i)~(v)に示すように、磁力発生部33を、静電チャック24の吸着面に投影したとき、磁力発生部33の位置(後述する磁力印加位置または吸着の起点の位置)が静電チャック24の周縁部に対応するように、磁力発生部33が配置されてもよい。例えば、
図3Cの(i)、(ii)に示すように、磁力発生部33を、静電チャック24の長辺側の周縁部に対応する位置に配置してもよい。この場合、磁力発生部駆動機構35は、磁力発生部33を静電チャック24の短手方向(X方向)に沿って静電チャック24の吸着面の一つの長辺側の周縁部から他の長辺側の周縁部に向かって移動させてもよい。また、
図3Cの(iii)~(v)に示すように、磁力発生部33を静電チャック24の短辺側の周縁部に対応する位置に配置してもよい。この場合、磁力発生部駆動機構35は、磁力発生部33を静電チャック24の長手方向(Y方向)に沿って静電チャック24の吸着面の一つの短辺側の周縁部から他の短辺側の周縁部に向かって移動させてもよい。これにより、マスクMの吸着の起点が静電チャック24の周縁部の一部になるようにすることができる。ただし、本発明は、
図3Cの(i)~(v)に示す構成に限定されず、例えば静電チャック24の中央部に対応する位置などの、周縁部ではない他の位置に配置してもよい(例えば、
図3Cの(vi)~(viii))。
【0057】
本実施形態において、磁力発生部33は、静電チャック24の吸着面に平行な方向を含む方向に移動可能に設置される。例えば、磁力発生部33は、静電チャック24の吸着面の短辺に平行な方向(第1方向)に移動可能に設置される。
このように磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動可能に設置することにより、マスクMの吸着の進行方向をより精密に制御することができる。つまり、磁力発生部33が静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動するにつれて、マスクMにおける磁力発生部33によって吸引される部分が、静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動し、これにより、マスクMの吸着の進行方向を精密に制御することができる。
【0058】
磁力発生部33の移動方向は、静電チャック24の吸着面の短辺に平行な方向である第1方向に限定されず、静電チャック24の吸着面に平行な方向(平行方向)を含む任意の方向であってもよい。例えば、磁力発生部33が静電チャック24の吸着面の長辺に平行な方向である第2方向に移動してもよいし、静電チャック24の吸着面の対角線に平行な方向に移動してもよい。また、磁力発生部33の移動は直線的な移動に限定されず、曲線的な移動であってもよいし、移動の途中で向きを変更するような移動であってもよい。
【0059】
磁力発生部33の形状、静電チャック24の吸着面に平行な平面内における磁力発生部33の配置位置(後述する磁力印加位置または吸着の起点の位置)、および静電チャック24の吸着面に平行な平面内における移動方向を多様に組み合わせることで、マスクMの吸着の進行をより精密に制御することができる。
【0060】
例えば、磁力発生部33の第1方向における長さが、静電チャック24の吸着面の第1
方向における長さよりも短くなるように磁力発生部33が形成されて、磁力発生部33が静電チャック24の吸着面の長辺側の周縁部に配置される場合は、磁力発生部33の移動方向を第1方向と一致させることにより、マスクMが静電チャック24の吸着面の一方の長辺側の周縁部から他方の長辺側の周縁部に向かって順次吸着されるように制御することができる。
【0061】
磁力発生部33の第1方向及び第2方向におけるそれぞれの長さが、静電チャック24の吸着面の第1方向及び第2方向におけるそれぞれの長さよりも短い場合、磁力発生部33の配置位置(後述する磁力印加位置または吸着の起点の位置)と磁力発生部33の移動方向とを組み合わせて、第1方向または第2方向のいずれか、または静電チャック24の吸着面の対角方向に吸着が進行されるように制御することができる。静電チャック24の吸着面の対角方向は、静電チャック24の吸着面における対向する2つの角部の一方から他方に向かう方向である。
【0062】
磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動させるために、本実施形態の静電チャックシステム30は、磁力発生部駆動機構35を含む。例えば、
図3Dに示すように、磁力発生部駆動機構35は、モータとボールねじで構成されているが、本発明はこれに限定されず、磁力発生部33を吸着面に平行な方向に移動させることができる限り、他の手段を使用することもできる。例えば、モータとラック/ピニオンを用いて磁力発生部33を駆動してもよい。
【0063】
磁力発生部33は、マスクMに磁力を印加することができる位置である磁力印加位置と、磁力印加位置よりもマスクMから離れた退避位置との間を移動可能に設置されてもよい。磁力発生部33が磁力印加位置にある間は、マスクMの磁力発生部33の位置に対応する部分が磁力発生部33からの磁力によって磁力発生部33側、つまり、静電チャック24側に引き寄せられ、マスクMの他の部分よりも静電チャック24の下面に吸着された基板Sの下面に近づくように(つまり、マスクMの主面に垂直な方向に)変形する。これにより、磁力発生部33は、マスクMの吸着の起点を制御することができる。磁力発生部33が退避位置にある場合は、マスクMに作用する磁力が比較的弱くなり、マスクMを吸引できない程度の小さな磁力だけが作用するか、実質的に磁力が作用しなくなる。
【0064】
磁力印加位置と退避位置は、静電チャック24の吸着面に平行な方向に互いに離れるように設定することができる。例えば、磁力発生部33の退避位置は、
図3Dに示すように、磁力印加位置から第1の方向(静電チャック24の長辺方向、Y方向)において、静電チャック24の上面(吸着面の反対面)から外れた位置であってもよい。この場合、マスクMの主面に垂直な方向には磁力が実質的に作用せず、マスクMの変形が実質的に生じない。例えば、退避位置と磁力印加位置を、実質的に静電チャック24の吸着面に平行な平面上に設定することができる。
【0065】
磁力発生部33の退避位置と磁力印加位置が吸着面に平行な平面上に存在する場合、磁力発生部33を磁力印加位置と退避位置との間を移動させるための機構とマスクMの吸着方向を制御するための磁力発生部駆動機構35を一つの駆動機構として構成してもよい。
ただし、本発明はこれに限定されず、磁力発生部33の磁力印加位置と退避位置を、鉛直方向に互いに離れた位置に設定してもよい。
【0066】
<静電チャックシステムによる吸着方法>
以下、
図4A~
図4Cを参照して、静電チャック24によって基板S及びマスクMを吸着する方法について説明する。
図4Aは、静電チャック24によって基板Sを吸着する工程(第1吸着工程)を図示する。本実施形態においては、
図4Aに示すように、静電チャック24の下面に基板Sの全
面が同時に吸着するのではなく、静電チャック24の第1辺(短辺)に沿って一端から他端に向かって順次に吸着が進行する。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば、静電チャック24の対向する2つの角部の一方から他方に向かって基板Sの吸着が進行してもよい。
【0067】
静電チャック24の第1辺に沿って基板Sが順次に吸着するようにするために、複数のサブ電極部241~249に基板Sを吸着のための第1電位差を静電チャック24の第1辺に沿った方向で順次印加するように制御してもよいし、基板Sと静電チャック24との間の距離が静電チャック24の第1辺に沿って徐々に大きくなるように基板支持ユニット22の構造を変更し、複数のサブ電極部241~249に第1電位差を印加するタイミングは同時となるように制御してもよい。
【0068】
図4Aは、静電チャック24の複数のサブ電極部241~249に印加する電位差の制御によって、基板Sを静電チャック24に順次に吸着させる一例を示す。ここでは、静電チャック24の長辺方向(Y方向)に沿って配置される3つのサブ電極部241、244、247が第1吸着部41を構成し、静電チャック24の中央部の3つのサブ電極部242、245、248が第2吸着部42を構成し、残り3つのサブ電極部243、246、249が第3吸着部43を構成する。
【0069】
電位差制御部32は、静電チャック24の第1辺(短手)に沿って第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に第1電位差(ΔV1)を印加するように制御する。第1電位差(ΔV1)は、基板Sを静電チャック24に確実に吸着させるために十分な大きさの電位差に設定される。
【0070】
これにより、基板Sの静電チャック24への吸着は、基板Sの第1吸着部41に対応する側から基板Sの中央部を経て、基板Sの第3吸着部43に対応する側に向かって進行し(すなわち、X方向に基板Sの吸着が進行し)、基板Sは、基板Sの中央部にしわ(撓み)が残らず、平らな状態で静電チャック24に吸着される。これにより、静電チャック24に吸着された基板Sの撓みが低減される。
【0071】
基板Sの静電チャック24への吸着工程(第1吸着工程)が完了した後の所定の時点で、電位差制御部32は、
図4Bに示すように、静電チャック24のサブ電極部241~249に印加する電位差を、第1電位差(ΔV1)から第1電位差(ΔV1)よりも小さい第2電位差(ΔV2)に下げる。
【0072】
第2電位差(ΔV2)は、基板Sが静電チャック24に吸着した状態を維持するための吸着維持電位差であり、基板Sを静電チャック24に吸着させる際に印加した第1電位差(ΔV1)よりも低い電位差である。静電チャック24に印加する電位差が第2電位差(ΔV2)に下がっても、基板Sが一旦第1電位差(ΔV1)によって静電チャック24に吸着した後は、第1電位差(ΔV1)よりも小さい第2電位差(ΔV2)を印加しても基板Sが静電チャック24に吸着した状態を維持することができる。
【0073】
このように、静電チャック24のサブ電極部241~249に印加される電位差が第2電位差に下がった後、静電チャック24に吸着した基板Sとマスク支持ユニット23に支持されたマスクMの相対的位置を調整(アライメント)する。
【0074】
静電チャック24による基板Sの吸着の開始から基板Sのアライメントまでの工程の間は、磁力発生部33は、退避位置に保持しておいてもよい。これにより、磁力発生部33からの磁力がマスクMに実質的に作用せず、マスクMを静電チャック24に引き寄せない状態で、基板Sの吸着やアライメントを行うことができる。
【0075】
続いて、
図4Cに示すように、静電チャック24に基板Sを介してマスクMを吸着させる。つまり、静電チャック24とマスクMとの間に基板Sを挟んで、静電チャック24に吸着した基板Sの下面にマスクMを吸着させることにより、基板S越しにマスクMを静電チャック24に吸着させる。
【0076】
このため、まず、基板Sが吸着した静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かって下降させる。静電チャック24は、静電チャック24に印加された吸着保持電位差(第2電位差、ΔV2)による静電引力がマスクMに作用しない限界位置まで下降する(
図4Cの(S1))。
【0077】
静電チャック24が限界位置まで下降した状態で、磁力発生部33が退避位置から磁力印加位置に移動する。磁力発生部33が磁力印加位置に移動すると、磁力発生部33からマスクMの主面に垂直な方向に印加される磁力が十分に大きくなり、マスクMの磁力発生部33の位置に対応する部分が磁力により上方(静電チャック24側)に引き寄せられる(
図4Cの(S2))。すなわち、静電チャック24とマスクMとの間に基板Sを配置した状態で、マスクMの少なくとも一部を磁力発生部33からの磁力により基板S側に吸引する。これにより、それ以降に行われるマスクMの静電チャック24への吸着の起点が形成される。
【0078】
マスクMの磁力発生部33の位置に対応する部分が磁力によって静電チャック24側に吸引された状態で、電位差制御部32は、静電チャック24の電極部に第3電位差(ΔV3)が印加されるよう制御する。
第3電位差(ΔV3)は、第2電位差(ΔV2)よりも大きく、基板S越しにマスクMが静電誘導によって帯電できる程度の大きさであることが好ましい。これによって、マスクMが基板S越しに静電チャック24に吸着される(
図4Cの(S3))。特に、磁力発生部33によって形成されたマスクMの吸着の起点で、マスクMの磁力発生部33の位置に対応する部分が静電チャック24に最も近いため、この部分が一番先に静電チャック24に吸着される。
【0079】
ただし、本発明はこれに限定されず、第3電位差(ΔV3)は、第2電位差(ΔV2)と同じ大きさであってもよい。第3電位差(ΔV3)が第2電位差(ΔV2)と同じ大きさであっても、前述した通り、静電チャック24の限界位置までの下降及び磁力発生部33によるマスクMの吸引によって、静電チャック24または基板SとマスクMと間の相対的な距離が縮まるので、基板Sに静電誘導された分極電荷によってマスクMにも静電誘導を起こすことができ、マスクMが基板S越しに静電チャック24に吸着し得る程度の吸着力が得られる。
【0080】
第3電位差(ΔV3)は、第1電位差(ΔV1)よりも小さくてもよいし、工程時間(Tact)の短縮を考慮して第1電位差(ΔV1)と同等な程度の大きさであってもよい。
【0081】
磁力発生部33によってマスクMを吸引し、電位差制御部32によって静電チャック24のサブ電極部241~249に所定の電位差が印加された後、基板Sを吸着した静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かってさらに下降させてもよい。これにより、基板SとマスクMとの間の相対的な距離を短縮し、マスクMの吸着を促進することができる。なおこのとき、静電チャック24とともに磁力発生部33をさらに下降させてもよい。
【0082】
図4Cに図示するマスク吸着工程では、マスクMの吸着の起点が磁力発生部33によっ
て形成された後、磁力発生部33を磁力印加位置から静電チャック24の吸着面に平行な方向、例えば、第1方向に移動させる。
【0083】
磁力発生部33が静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動するにつれて、磁力発生部33の位置に対応するマスクMの部分が順次に静電チャック24に向かって吸引される。このとき、磁力発生部33の移動に合わせて、電位差制御部32は、第3電位差(ΔV3)を静電チャック24の第1辺に沿って(すなわち、第1方向に沿って)第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に印加する。
【0084】
つまり、
図4Cに示すように、磁力発生部33による吸着の起点(磁力印加位置)に対応する第1吸着部41に最初に第3電位差が印加され、次いで、磁力発生部33が磁力印加位置から第1方向に沿って移動して第2吸着部42に対応する位置に移動すると、第2吸着部42に第3電位差が印加され、磁力発生部33が第3吸着部43に対応する位置に移動すると、第3吸着部43には第3電位差が印加されるように制御される(
図4Cの(S4))。
【0085】
これにより、マスクMの静電チャック24への吸着は、マスクMの吸着の起点となる、マスクMの第1吸着部41に対応する側からマスクMの中央部を経て、マスクMの第3吸着部43に対応する側に向かって、進行し(すなわち、X方向にマスクMの吸着が進行し)、マスクMは、マスクMの中央部にしわが残らず、平らな状態で静電チャック24に吸着される(第2吸着工程)。
【0086】
しかし、本発明は、
図4Cに示す例に限定されず、例えば、第3電位差(ΔV3)を静電チャック24の全体にわたって同時に印加してもよい。即ち、すでに磁力発生部33によってマスクMの吸着の起点が形成されているので、静電チャック24の全体に同時に第3電位差が印加されても、静電チャック24に最も近いマスクMの吸着の起点で一番先に吸着が行われ、続いて、磁力発生部33が静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動するにつれて、それに対応する位置のマスクMの部分が磁力発生部33によって順次に吸引されるので、マスクMの吸着が静電チャック24の第1辺に沿って順次に行われる。
【0087】
このようにして、マスクMの全体が基板Sを介して静電チャック24の静電引力によって吸着された後に、磁力発生部33を退避位置に移動させて磁力発生部33によってマスクMの主面に垂直な方向に作用する磁力を低下させる(
図4の(S5)及び(S6))。磁力発生部33を退避位置に移動させて、マスクMに作用する磁力を低下させても、マスクMは、静電チャック24による静電引力によって安定した吸着状態を維持することができる。
【0088】
上述した本発明の一実施形態によると、マスクMを基板S越しに静電チャック24に吸着させるマスク吸着工程では、静電チャック24の吸着面よりも小さな面積を有する磁力発生部33によってマスクMの一部を吸引して、マスクMの吸着の起点を形成した後、磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動させながら、静電チャック24にマスクMの吸着のための電位差を印加することにより、形成された吸着の起点からマスクMが順次に吸着される。これにより、マスクMにしわが残らずに、マスクMを基板S越しに静電チャック24に吸着させることができる。
【0089】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態による吸着方法を用いた成膜方法について説明する。
まず、真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが載置された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入される。真空容器21内に進入した搬送ロボット14のハンドが基板Sを基板支持ユニット22
の支持部上に載置する。
【0090】
続いて、静電チャック24が基板Sに向かって下降し、基板Sに十分に近接或いは接触した後に、静電チャック24に第1電位差(ΔV1)を印加し、基板Sを吸着する。基板Sの静電チャック24への吸着が完了した後に、静電チャック24に加えられた電位差を第1電位差(ΔV2)から第2電位差(ΔV2)に下げる。静電チャック24に加えられた電位差を第2電位差(ΔV2)に下げても、以降の工程で静電チャック24による基板Sの吸着状態を維持することができる。
【0091】
静電チャック24に基板Sが吸着した状態で、基板SのマスクMに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板SをマスクMに向かって下降させる。本発明の他の実施形態においては、静電チャック24に吸着した基板Sの下降の過程で基板Sが静電チャック24から脱落することを確実に防止するために、基板Sの下降の過程が完了した後(つまり、後述するアライメント工程が開始する直前)に、静電チャック24に加える電位差を第2電位差(ΔV2)に下げてもよい。
【0092】
基板Sが計測位置まで下降すると、アライメント用カメラ20で基板SとマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板SとマスクMの相対的な位置ずれを計測する。本発明の他の実施形態では、基板SとマスクMの相対的位置の計測工程の精度をより高めるために、アライメントのための計測工程が完了した後(アライメント工程中)に、静電チャック24に加えられた電位差を第2電位差に下げてもよい。
【0093】
計測の結果、基板SのマスクMに対する相対的位置ずれが閾値を超える場合、静電チャック24に吸着された状態の基板Sを水平方向(XYθ方向)に移動させて、基板SをマスクMに対して、位置調整(アライメント)する。本発明の他の実施形態においては、このような位置調整の工程が完了した後に、静電チャック24に加えられた電位差を第2電位差(ΔV2)に下げてもよい。これによって、アライメント工程全体(相対的な位置計測や位置調整)にわたって精度をより高めることができる。
【0094】
アライメント工程の後、静電チャック24をマスクMに向かって下降させて限界位置まで移動させる。限界位置では、静電チャック24に加えられた第2電位差がマスクMを帯電させず、実質的に静電引力がマスクMに作用しない。
【0095】
このような状態で、磁力発生部33を磁力印加位置に移動させる。磁力発生部33が磁力印加位置に移動すると、磁力発生部33からマスクMに加わる磁力によってマスクMの磁力発生部33の位置に対応する部分が上方に引き寄せられる。これにより、マスクMの吸着の起点が形成される。
【0096】
この状態で、磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動させながら、静電チャック24の全体に、またはマスクMの吸着の起点に対応する部分(吸着部)から順次に、第3電位差(ΔV3)を印加して、マスクMの該当部分を基板S越しに吸着する。マスクMの吸着は、前述のマスクMの吸着の起点から順次行われ、マスクMは、しわが残らずに、静電チャック24に吸着される。なお、上述のように、マスクMの吸着の起点が形成された後に、基板Sを吸着した静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かってさらに下降させてもよい。第3電位差の印加によりマスクMの全体が吸着した後、磁力発生部33を磁力印加位置から退避位置に移動させる。
【0097】
この後、静電チャック24の電極部またはサブ電極部241~249に印加される電位差を、静電チャック24に基板SとマスクMが吸着された状態を維持することができる第4電位差(ΔV4)に下げる。これにより、成膜工程の完了後に基板SおよびマスクMを
静電チャック24から分離するのにかかる時間を短縮することができる。
続いて、蒸発源25のシャッタを開け、蒸着材料をマスクを介して基板Sに蒸着させる。
【0098】
基板Sに所望の厚さの蒸着材料を蒸着した後、静電チャック24の電極部またはサブ電極部241~249に印加される電位差を第5電位差(ΔV5)に下げて、基板SとマスクMを分離し、静電チャック24に基板Sのみが吸着した状態で、静電チャックZアクチュエータ28により、基板Sを上昇させる。
【0099】
続いて、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、静電チャック24の電極部或いはサブ電極部241~249にゼロ(0)または逆極性の電位差が印加され、静電チャック24を基板Sから分離させて、静電チャック24を上昇させる。その後、蒸着が完了した基板Sを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
【0100】
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Sの成膜面が鉛直方向の下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、本発明はこれに限定されず、基板Sが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Sの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0101】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図5(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図5(b)は1画素の断面構造を示している。
【0102】
図5(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置60の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0103】
図5(b)は、
図5(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に相当する。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0104】
図5(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層を形成することができる。
【0105】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0106】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口部が形成されるようにパターニングして絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0107】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャック24にて基板63を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0108】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャック24にて保持する。基板63とマスクとのアライメントを行い、基板63をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0109】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
電子輸送層67まで形成された基板63を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0110】
本発明によると、基板Sおよび/またはマスクMを静電チャック24によって吸着して保持するが、マスクMの吸着時、磁力発生部33によって吸着の起点を形成し、磁力発生部33を静電チャック24の吸着面に平行な方向に移動させることにより、マスクMにしわを残さずに静電チャック24にマスクMを吸着させることができる。
その後、プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0111】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0112】
前記実施例は本発明の一例であり、本発明は前記実施例の構成に限定されず、その技術思想の範囲内で適切に変形してもよい。
【符号の説明】
【0113】
24:静電チャック
30:静電チャックシステム
31:電位差印加部
32:電位差制御部
33:磁力発生部
35:磁力発生部駆動機構