(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】干渉計、フーリエ変換分光装置及び成分分析装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20230331BHJP
G01B 9/02 20220101ALI20230331BHJP
G01N 21/35 20140101ALI20230331BHJP
【FI】
G01J3/45
G01B9/02
G01N21/35
(21)【出願番号】P 2019528412
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2018021192
(87)【国際公開番号】W WO2019008964
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2019-11-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2017130410
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】古川 祐光
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】松本 隆彦
【審判官】上田 泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-13054(JP,A)
【文献】特開平6-221993(JP,A)
【文献】特開2015-194359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0194558(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00- 3/51
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01B 9/00- 9/029
G01B 11/00-11/30
G02B 5/30
G02B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された光のうち所定の偏光を通過させる第1偏光素子と、
前記第1偏光素子の後段に配置され、前記第1偏光素子から出射された光の入射方向を回転軸として回転可能に配置された複屈折結晶と、
前記複屈折結晶の後段に配置され、前記複屈折結晶から出射された光のうち所定の偏光を通過させる第2偏光素子と、
前記第2偏光素子の後段に配置され、前記第2偏光素子から出射された光を電気信号に変換する受光素子と、
前記複屈折結晶を前記回転軸の周りに回転させる駆動機構と、
を備え、
前記第1偏光素子、前記複屈折結晶、前記第2偏光素子及び前記受光素子は、直線的に配置され、
前記駆動機構は、前記複屈折結晶
を等角速度で回転
させる、
干渉計。
【請求項2】
前記第1偏光素子は、前記入射された光のうち第1方向の直線偏光を通過させ、
前記第2偏光素子は、前記複屈折結晶から出射された光のうち第2方向の直線偏光を通過させ、
前記第1方向と前記第2方向は、同じ方向又は直交する方向である、
請求項1に記載の干渉計。
【請求項3】
前記第2偏光素子は、前記複屈折結晶から出射された光のうち2種類の偏光を分離して異なる方向に出射し、
前記受光素子は、前記第2偏光素子により分離された2種類の偏光のうち一方を受光する第1素子と、他方を受光する第2素子とを含む、
請求項1に記載の干渉計。
【請求項4】
前記第1偏光素子は、前記入射された光のうち第1方向の直線偏光を通過させ、
前記第2偏光素子は、前記複屈折結晶から出射された光のうち第2方向の直線偏光と第3方向の直線偏光を分離して異なる方向に出射し、
前記第1方向と前記第2方向は、同じ方向又は直交する方向であり、
前記第1方向と前記第3方向は、同じ方向又は直交する方向であり、
前記第2方向と前記第3方向は、直交する方向である、
請求項3に記載の干渉計。
【請求項5】
前記第1偏光素子と前記複屈折結晶の間に配置され、前記第1偏光素子から出射された光のうち2種類の偏光を分離して同じ方向に出射する第3偏光素子をさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の干渉計。
【請求項6】
前記受光素子は、シングルチャンネルセンサを一列に並べたラインセンサ又はシングルチャンネルセンサをマトリクス状に並べたエリアセンサを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の干渉計。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の干渉計と、
前記電気信号をフーリエ変換する変換部と、
を備えるフーリエ変換分光装置。
【請求項8】
請求項7に記載のフーリエ変換分光装置と、
フーリエ変換された前記電気信号に基づいて、成分分析を行う分析部と、
を備える成分分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計、フーリエ変換分光装置及び成分分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フーリエ変換分光法は、マイケルソン型干渉計によって干渉光を得て、干渉光をフーリエ変換することで行われている。マイケルソン型干渉計は、入射光をビームスプリッタで2つの経路に分割し、それぞれの経路に設置したミラーで光を反射してビームスプリッタに返して、2つの経路の光路差によって干渉光を得る。
【0003】
例えば下記特許文献1には、反射ミラーを直線運動及び反転運動させて往復させる移動機構と、移動機構を反射ミラーの移動速に応じて制御する第1フィードバック制御部と、移動機構を反射ミラーの位置に応じて制御する第2フィードバック制御部とを有し、反射ミラーの直線運動の場合に、第1フィードバック制御部によって移動機構を制御し、反射ミラーの反転運動の場合に、第2フィードバック制御部によって移動機構を制御する干渉計が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5947193号公報
【文献】国際公開第2012/140980号
【文献】特開2008-128654号公報
【文献】特開2016-142527号公報
【文献】特開2015-194359号公報
【文献】特開2010-66280号公報
【文献】特開2005-250144号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】D.Malacara and O.Harris、「Interferometric Measurement of Angles」、Applied Optics、第9巻、1970年、p.1630-1633
【文献】T.Okamoto,S.Kawata and S.Minami、「Fourier transform spectrometer with a self-scanning photodiode array」、Applied Optics、第23巻、1984年、p.269-273
【文献】M.Hashimoto and S.Kawata、「Multichannel Fourier-transform infrared spectrometer」、Applied Optics、第31巻、1992年、p.6096-6101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のマイケルソン型干渉計は、例えば特許文献1に記載のように、2枚のミラーのうち一方を往復運動させて、光路差を変化させることで時間的に干渉光を形成する。ここで、移動するミラーの角度は、ミラーの駆動や、外部から加えられる振動によって僅かに傾くおそれがあるが、ミラーの角度が僅かでも傾くと干渉光が得られなくなる。
【0007】
そのため、従来のマイケルソン型干渉計は、重量のある定盤上に構成したり、室内等の振動が少ない環境で用いたりして振動を抑え、ナノメートル精度でミラーの駆動を行っている。特許文献1~4では、マイケルソン型干渉計について、2枚のミラーの角度を一定に保つ技術や、ミラーの駆動を安定させる技術、ミラーの位置を精密に検出する技術について様々な改良が提案されている。しかしながら、これらの技術は、コストの増大や装置の大型化を招くことがあった。
【0008】
マイケルソン型干渉計の欠点を克服すべく、非特許文献1~3では、空間的に干渉光を形成するマルチチャンネル干渉計が提案されている。マイケルソン型干渉計では干渉光を時間的に形成するのに対して、マルチチャンネル干渉計は、ウォラストンプリズムやサバール板を用いて空間的に干渉光を形成する。ただし、マルチチャンネル干渉計は、ミラーを移動させて光路差をつくるものではないため、マイケルソン型干渉計よりも耐振性が高いものの、空間的に広がった干渉光を光検出器で捉えなければ十分な分解能が達成できず、光検出器の大きさによって分解能が制限される。
【0009】
そこで、本発明は、耐振性が高く、安価で小型であり、分解能が高い干渉計、フーリエ変換分光装置及び成分分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る干渉計は、入射された光のうち所定の偏光を通過させる第1偏光素子と、第1偏光素子の後段に配置され、第1偏光素子から出射された光の入射方向を回転軸として回転可能に配置された複屈折結晶と、複屈折結晶の後段に配置され、複屈折結晶から出射された光のうち所定の偏光を通過させる第2偏光素子と、第2偏光素子の後段に配置され、第2偏光素子から出射された光を電気信号に変換する受光素子と、前記複屈折結晶を前記回転軸の周りに回転させる駆動機構と、を備え、第1偏光素子、複屈折結晶、第2偏光素子及び受光素子は、直線的に配置され、前記駆動機構は、前記複屈折結晶を等角速度で回転させる。
【0011】
この態様によれば、第1偏光素子、複屈折結晶、第2偏光素子及び受光素子で干渉計を構成することで、安価で小型とすることができ、これらの素子が直線的に配置されることで、耐振性を向上させることができる。また、回転可能に配置された複屈折結晶により干渉光を時間的に形成することで、十分に高い分解能を得ることができる。
【0012】
上記態様において、第1偏光素子は、入射された光のうち第1方向の直線偏光を通過させ、第2偏光素子は、複屈折結晶から出射された光のうち第2方向の直線偏光を通過させ、第1方向と第2方向は、同じ方向又は直交する方向であってもよい。
【0013】
この態様によれば、複屈折結晶により位相差を与えられた光を効率的に干渉させることができ、入射光を効率的に用いて明るい干渉光を得ることができる。
【0014】
上記態様において、第2偏光素子は、複屈折結晶から出射された光のうち2種類の偏光を分離して異なる方向に出射し、受光素子は、第2偏光素子により分離された2種類の偏光のうち一方を受光する第1素子と、他方を受光する第2素子とを含んでもよい。
【0015】
この態様によれば、それぞれ逆向きにピークを持った2種類の干渉光が得られ、差分を取ることで、ノイズを低減し、干渉のピークを明確にすることができる。
【0016】
上記態様において、第1偏光素子は、入射された光のうち第1方向の直線偏光を通過させ、第2偏光素子は、複屈折結晶から出射された光のうち第2方向の直線偏光と第3方向の直線偏光を分離して異なる方向に出射し、第1方向と第2方向は、同じ方向又は直交する方向であり、第1方向と第3方向は、同じ方向又は直交する方向であり、第2方向と第3方向は、直交する方向であってもよい。
【0017】
この態様によれば、複屈折結晶により位相差を与えられた光を効率的に干渉させることができ、入射光を効率的に用いて逆向きにピークを持った2種類の明るい干渉光を得ることができ、差分を取ることで、ノイズを低減し、干渉のピークを明確にすることができる。
【0018】
上記態様において、第1偏光素子と複屈折結晶の間に配置され、第1偏光素子から出射された光のうち2種類の偏光を分離して同じ方向に出射する第3偏光素子をさらに備えてもよい。
【0019】
この態様によれば、入射光をスリットで絞らずに複屈折結晶に入射させることができ、入射光を効率的に用いて明るい干渉光を得ることができる。
【0020】
上記態様において、受光素子は、シングルチャンネルセンサを一列に並べたラインセンサ又はシングルチャンネルセンサをマトリクス状に並べたエリアセンサを含んでもよい。
【0021】
この態様によれば、時間的に形成される干渉を、空間的に並列して測定することができ、測定時間が短縮されるとともに、空間的な分光情報を測定することもできる。
【0022】
本発明の他の態様に係るフーリエ変換分光装置は、上記態様の干渉計と、電気信号をフーリエ変換する変換部と、を備える。
【0023】
この態様によれば、耐振性が高く、安価で小型であり、分解能が高い干渉計を備えることで、持ち運んで使用することのできる、スペクトル分解能の高いフーリエ変換分光装置が得られる。
【0024】
本発明の他の態様に係る成分分析装置は、上記態様のフーリエ変換分光装置と、フーリエ変換された電気信号に基づいて、成分分析を行う分析部と、を備える。
【0025】
この態様によれば、耐振性が高く、安価で小型であり、分解能が高いフーリエ変換分光装置を備えることで、持ち運んで使用することのできる成分分析装置が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、耐振性が高く、安価で小型であり、分解能が高い干渉計、フーリエ変換分光装置及び成分分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る成分分析装置の構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る干渉計の構成図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る干渉計により得られるスペクトルと、従来のマルチチャンネル干渉計により得られるスペクトルを示すグラフである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る干渉計の構成図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る干渉計により得られる干渉光を示す図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る干渉計の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0029】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る成分分析装置100の構成図である。本実施形態に係る成分分析装置100は、フーリエ変換分光装置200と、フーリエ変換された電気信号に基づいて、成分分析を行う分析部30と、を備える。フーリエ変換分光装置200は、干渉計10と、電気信号をフーリエ変換する変換部20と、を備える。干渉計10は、試料300で反射された光又は試料300を透過した光について干渉光を形成して、干渉光を受光素子で受光し、電気信号として出力する。成分分析装置100は、干渉計10によって干渉光を形成し、フーリエ変換分光装置200の変換部20によって干渉光の電気信号をフーリエ変換してスペクトル分解し、分析部30によって試料300に含まれる化学的成分を分析する。
【0030】
本実施形態に係る成分分析装置100において、試料300に照射する光は、赤外線である。もっとも、試料300に照射する光は、近赤外線であってもよいし、可視光や紫外線等任意の波長の光であってよい。また、試料300は、気体、液体及び固体のいずれであってもよく、例えば有機化合物であってよい。試料300は、合成されたものでなくて、例えば農産物等の天然物であってもよい。成分分析装置100は、試料300として天然物を対象として、天然物に含まれる化学成分を分析することとしてもよい。もっとも、試料300は、どのような対象であってもよい。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態に係る干渉計10の構成図である。干渉計10は、スリット11、第1レンズ12、第1偏光素子13、複屈折結晶14、第2偏光素子15、第2レンズ16及び受光素子17を備える。
【0032】
スリット11は、干渉計10に入射する入射光INを絞る。スリット11は、例えばピンホールであってよい。第1レンズ12は、スリット11から出射された光を平行光に変換する凸レンズであってよい。
【0033】
第1偏光素子13は、入射された光のうち所定の偏光を通過させる。第1偏光素子13は、入射された光のうち第1方向の直線偏光を通過させる素子であってよい。ここで、第1方向は、第1偏光素子13の表面に沿った任意の方向であってよい。例えば、干渉計10が水平面に置かれ、第1方向が水平面に対して垂直方向(0°方向)である場合、第1偏光素子13を通過した光は、水平面に対して45°方向の直線偏光である第1偏光P1と、水平面に対して-45°方向の直線偏光である第2偏光P2とを同じ強度で含む。
【0034】
複屈折結晶14は、第1偏光素子13の後段に配置され、第1偏光素子13から出射された光の入射方向を回転軸として回転可能に配置される。ここで、第1偏光素子13から出射された光の入射方向とは、第1偏光素子13を通過した第1偏光P1及び第2偏光P2が入射する方向であり、第1偏光素子13の表面と直交する方向である。複屈折結晶14は、一定の角速度ωで回転されて、入射する第1偏光P1及び第2偏光P2に対して、角度に応じた位相差を与える。本例では、第2偏光P2は、第1偏光P1に対して、δだけ位相が遅れている。
【0035】
複屈折結晶14は、一軸性結晶であってよく、試料300に照射する光の波長に応じて異なる材料で形成してよい。例えば、可視光領域では方解石(CaCO3)を用いることができ、近赤外領域ではYVO4を用いることができ、赤外領域ではGaSeを用いることができる。複屈折結晶14を形成する材料は、複屈折の特性だけではなく、入手の容易さや加工のしやすさ、扱いやすさ、価格等を考慮して選択するべきものである。複屈折結晶14の材料としては、上述のもの以外に、クォーツやTiO2、CdSe等を用いることもできる。
【0036】
第2偏光素子15は、複屈折結晶14の後段に配置され、複屈折結晶14から出射された光のうち所定の偏光を通過させる。第2偏光素子15は、複屈折結晶14から出射された光のうち第2方向の直線偏光を通過させる素子であってよく、第1方向と第2方向は、同じ方向又は直交する方向であってよい。例えば、第1方向が0°方向の場合、第2方向は、0°方向又は90°方向であってよい。これにより、45°方向の直線偏光である第1偏光P1の一部と、-45°方向の直線偏光であり、位相遅れδを有する第2偏光P2の一部とが第2偏光素子15を通過することとなり、位相遅れδに応じた干渉光が形成される。第1方向と第2方向を同じ方向又は直交する方向とすることにより、複屈折結晶14により位相差を与えられた光を効率的に干渉させることができ、入射光を効率的に用いて明るい干渉光を得ることができる。
【0037】
第2レンズ16は、第2偏光素子15を通過した光を集光して、受光素子17に対して出射光OUTを出射する。受光素子17は、第2偏光素子15の後段に配置され、出射光OUTを電気信号に変換する。受光素子17は、複屈折結晶14が一軸性結晶の場合、複屈折結晶14が4分の1回転する間、継続的に露光されてよい。受光素子17により出力される電気信号は、変換部20によってフーリエ変換され、スペクトル分解される。
【0038】
本実施形態に係る干渉計10では、複屈折結晶14を一軸性結晶で構成する場合、複屈折結晶14を4分の1回転させる毎に、干渉光が形成される。すなわち、複屈折結晶14を1回転させる毎に、干渉光が4回形成される。ここで、複屈折結晶14は、一方向に等角速度で回転させればよい。また、複屈折結晶14を回転させる際に複屈折結晶14の端面が僅かに傾くことがあり得るが、仮に端面が数度程度傾いたとしても、干渉光の形成に影響は無い。そのため、本実施形態に係る干渉計10では、複屈折結晶14を回転させるために高精度な制御は求められず、従来のマイケルソン型干渉計のように精密な制御を必要としないため、駆動機構が簡単でよく、駆動機構を安価に構成することができる。
【0039】
本実施形態に係る干渉計10では、第1偏光素子13、複屈折結晶14、第2偏光素子15及び受光素子17は、直線的に配置される。ここで、直線的に配置とは、それぞれの光学素子に対して光が入射する方向がほとんど揃っていることを意味する。言い換えると、直線的に配置とは、それぞれの光学素子の光軸がほとんど一致することを意味する。なお、光軸とは、複屈折結晶14の光学軸を意味するものではなく、光学素子において、素子を通過する光束の代表となる仮想的な光線をいう。複数の光学素子が直線的に配置されていない場合の一例は、ある光学素子に対して光が入射する方向と、他の光学素子に対して光が入射する方向が直交する場合である。第1偏光素子13、複屈折結晶14、第2偏光素子15及び受光素子17が、直線的に配置されることで、干渉計10に多少の振動が加えられえた場合であっても、全ての素子が光の入射方向に対して同じ方向に振動することとなり、素子が直線的に配置されない場合と比較して振動による位置ずれ等の影響が低減される。
【0040】
図3は、本発明の第1実施形態に係る干渉計10により得られるスペクトルAと、従来のマルチチャンネル干渉計により得られるスペクトルBを示すグラフである。同図は、本実施形態に係る干渉計10によって試料300に照射された赤外線を干渉させ、変換部20によってスペクトルAを得た場合と、同じ試料300に同じ波長の赤外線を照射して従来のマルチチャンネル干渉計によって干渉させ、スペクトルBを得た場合とを示している。同図に示すグラフの横軸は、波数を示しており、単位が[1/cm]であり、縦軸は、無次元化されたエネルギーを示す。
【0041】
本実施形態に係る干渉計10により得られるスペクトルAは、複数の鋭いピークを示しており、試料300によって特定の波長の光が吸収されていることを明確に示している。一方で、従来のマルチチャンネル干渉計により得られるスペクトルBは、なだらかな凹凸を示しているものの、鋭いピークは得られておらず、吸収波長を特定するには不十分な分解能しか得られていない。従来のマルチチャンネル干渉計は、1024個程度の受光素子によって空間的に干渉光を形成するため、試料300に照射する光が赤外領域となると、干渉光の一部しか受光素子によって受光できず、サンプリング点数が不十分となり、十分な分解能が得られない。
【0042】
このように、本実施形態に係る干渉計10によれば、第1偏光素子13、複屈折結晶14、第2偏光素子15及び受光素子17で干渉計10を構成することで、安価で小型な干渉計10とすることができ、これらの素子が直線的に配置されることで、耐振性を向上させることができる。また、回転可能に配置された複屈折結晶14により干渉光を時間的に形成することができ、十分に高い分解能を得ることができる。さらに、本実施形態に係るフーリエ変換分光装置200によれば、耐振性が高く、安価で小型であり、分解能が高い干渉計10を備えることで、持ち運んで使用することのできる、スペクトル分解能の高いフーリエ変換分光装置が得られる。本実施形態に係る成分分析装置100によれば、耐振性が高く、安価で小型であり、分解能が高いフーリエ変換分光装置200を備えることで、持ち運んで使用することのできる成分分析装置が得られる。
【0043】
なお、分光分析では広い波長領域が必要となることが多いが、複屈折結晶14の波長分散の影響で、測定波長全域にわたり、波数に対してリニアなスペクトル分布が得られないこともある。そのような場合には、複屈折結晶14の波長分散を考慮して、測定結果を補正することとしてもよい。補正は、複数の既知の波長を有するレーザ光源又は既知の波長フィルターを通した白色光源等を用いてスペクトル分布をあらかじめ測定して、複屈折結晶14の波長分散の影響を相殺するための補正量をフーリエ変換分光装置200に記憶し、当該補正量に基づいて行うこととしてもよい。
【0044】
また、試料300として農産物を対象とする場合、本実施形態に係る成分分析装置100によれば、携帯可能な成分分析装置100によって、農産物の非破壊成分分析が可能となり、農産物に含まれる化学成分の変化を定量的に把握することができるため、農産物の育成状況を精度良く測定することができる。
【0045】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る干渉計10aの構成図である。本実施形態に係る干渉計10aは、第1実施形態に係る干渉計10と比較して、第2偏光素子がウォラストンプリズム(Wollaston prism)18で構成され、受光素子として第1素子17aと第2素子17bを含む点で相違する。それら以外の構成について、第2実施形態に係る干渉計10aは、第1実施形態に係る干渉計10と同様の構成を有する。以下では、主に相違点について説明する。なお、本実施形態に係る干渉計10aにおいても、第1偏光素子13、複屈折結晶14、ウォラストンプリズム18、第1素子17a及び第2素子17bは、直線的に配置される。もっとも、第1素子17a及び第2素子17bは、受光面を僅かに傾けて配置されてもよい。
【0046】
本実施形態に係る干渉計10aの第2偏光素子は、複屈折結晶14から出射された光のうち2種類の偏光を分離して異なる方向に出射するウォラストンプリズム18で構成される。ウォラストンプリズム18には、複屈折結晶14によって位相差δを与えられた第1偏光P1と第2偏光P2が入射される。ウォラストンプリズム18は、第1偏光P1及び第2偏光に含まれる2種類の偏光を、第1素子17aと第2素子17bにそれぞれ分離して出射する。第1素子17aは、ウォラストンプリズム18により分離された2種類の偏光のうち一方を受光し、第2素子17bは、ウォラストンプリズム18により分離された2種類の偏光のうち他方を受光する。
【0047】
第1偏光素子13は、入射された光のうち第1方向の直線偏光を通過させ、第2偏光素子であるウォラストンプリズム18は、複屈折結晶14から出射された光のうち第2方向の直線偏光と第3方向の直線偏光を分離して異なる方向に出射する。ここで、第1方向と第2方向は、同じ方向又は直交する方向であり、第1方向と第3方向は、同じ方向又は直交する方向であり、第2方向と第3方向は、直交する方向である。例えば、干渉計10aが水平面に置かれ、第1方向が水平面に対して0°方向の場合、第2方向は、水平面に対して0°方向であってよく、第3方向は、水平面に対して90°方向(水平面に沿った方向)であってよい。このような構成によって、水平面に対して45°方向の直線偏光である第1偏光P1のうち水平面に対して0°方向の直線偏光と、水平面に対して-45°方向の直線偏光であり、位相遅れδを有する第2偏光P2のうち水平面に対して0°方向の直線偏光とがウォラストンプリズム18によって第1素子17a側に第1出射光OUT1として出射され、水平面に対して45°方向の直線偏光である第1偏光P1のうち水平面に対して90°方向の直線偏光と、水平面に対して-45°方向の直線偏光であり、位相遅れδを有する第2偏光P2のうち水平面に対して90°方向の直線偏光とがウォラストンプリズム18によって第2素子17b側に第2出射光OUT2として出射されて、第1素子17a及び第2素子17bによってそれぞれ位相遅れδに応じた干渉光が測定される。なお、第1方向が水平面に対して0°方向の場合、第2方向は、水平面に対して90°方向であってもよく、第3方向は、水平面に対して0°方向であってもよい。
【0048】
図5は、本発明の第2実施形態に係る干渉計10aにより得られる干渉光を示す図である。同図の上側のグラフは、第1素子17aによって受光される第1出射光OUT1及び第2素子17bによって受光される第2出射光OUT2を示している。また、下側のグラフは、第1出射光OUT1と第2出射光OUT2の差分データDIFFを示している。
【0049】
同図に示すように、第1出射光OUT1と第2出射光OUT2は、互いにピークが逆向きに表れる波形となっている。そのため、第1出射光OUT1と第2出射光OUT2の差分データDIFFでは、それぞれのピークが互いに強め合い、第1出射光OUT1と第2出射光OUT2に含まれるノイズは相殺することなる。このように、第2偏光素子としてウォラストンプリズム18を用いることで、それぞれ逆向きにピークを持った2種類の干渉光を得ることができ、第1素子17a及び第2素子17bでそれぞれ干渉光を受光し、差分を取ることで、ノイズを低減し、干渉のピークを明確にすることができる。
【0050】
本実施形態に係る干渉計10aによれば、複屈折結晶14により位相差を与えられた光を効率的に干渉させることができ、入射光を効率的に用いて逆向きにピークを持った2種類の明るい干渉光を得ることができ、差分を取ることで、ノイズを低減し、干渉のピークを明確にすることができる。
【0051】
[第3実施形態]
図6は、本発明の第3実施形態に係る干渉計10bの構成図である。本実施形態に係る干渉計10bは、第1実施形態に係る干渉計10と比較して、スリット11を備えず、第3偏光素子19を備える点で相違する。それら以外の構成について、第3実施形態に係る干渉計10bは、第1実施形態に係る干渉計10と同様の構成を有する。以下では、主に相違点について説明する。
【0052】
第3偏光素子19は、第1偏光素子13と複屈折結晶14の間に配置され、第1偏光素子13から出射された光のうち2種類の偏光を分離して同じ方向に出射する。第3偏光素子19は、例えばサバール板(Savart plate)であってよい。第3偏光素子19は、干渉計10bが水平面に置かれる場合、第1偏光素子13から出射された、水平面に対して0°方向の直線偏光のうち、水平面に対して45°方向の直線偏光である第1偏光P1と、水平面に対して-45°方向の直線偏光である第2偏光P2とを分離して出射するものであってよい。
【0053】
本実施形態に係る干渉計10bによれば、入射光をスリットで絞らずに複屈折結晶14に入射させることができ、入射光を効率的に用いて明るい干渉光を得ることができる。
【0054】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【0055】
例えば、受光素子17は、シングルチャンネルセンサを一列に並べたラインセンサ又はシングルチャンネルセンサをマトリクス状に並べたエリアセンサを含んでよい。ラインセンサやエリアセンサを用いることで、時間的に形成される干渉を、空間的に並列して測定することができ、測定時間が短縮されるとともに、空間的な分光情報を測定することもできる。また、時間的に形成される干渉だけでなく、空間的に形成される干渉をも測定することができ、受光面積や信号対雑音比を増加させることができるため、より分解能の高い測定ができる。
【0056】
また、いずれの実施形態に係る干渉計を用いる場合であっても、変換部20によって干渉光の電気信号をフーリエ変換し、分析部30によって成分分析を行うことができ、小型で持ち運び可能な成分分析装置100を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…干渉計、11…スリット、12…第1レンズ、13…第1偏光素子、14…複屈折結晶、15…第2偏光素子、16…第2レンズ、17…受光素子、18…ウォラストンプリズム、19…第3偏光素子、20…変換部、30…分析部、100…成分分析装置、200…フーリエ変換分光装置、300…試料