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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】炊飯補助具及び炊飯用容器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
A47J27/00 101E
A47J27/00 101B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019022510
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020127686
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(73)【特許権者】
【識別番号】307003168
【氏名又は名称】ダイカテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101948
【弁理士】
【氏名又は名称】柳澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】大西 賢治
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 美子
(72)【発明者】
【氏名】高井 靖拡
【審査官】八木 敬太
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-033575(JP,A)
【文献】特開2016-125762(JP,A)
【文献】登録実用新案第3006057(JP,U)
【文献】特開2010-172561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸が形成され、炊飯の際に炊飯用容器に入れて用いることを特徴とする炊飯補助具。
【請求項2】
平板状あるいは円弧状の金属板であることを特徴とする請求項1に記載の炊飯補助具。
【請求項3】
金属の網状であることを特徴とする請求項1に記載の炊飯補助具。
【請求項4】
内面の少なくとも一部に、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸が形成されていることを特徴とする炊飯用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯の際に用いる炊飯補助具及び炊飯用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、炊飯のために鍋や釜などの炊飯用容器が利用されているが、おいしいご飯を炊くために炊飯用容器に対する技術開発が行われている。特に電気炊飯器においては様々な改良が施されており、炊飯器に収容する内釜に対しても様々な工夫が施されている。
【0003】
例えば特許文献1~4では、炊飯器の内釜の内面底部に凹凸を形成し、伝熱効率を向上させている。これらの凹凸は数mm~数cm程度であり、最も小さい凹凸が記載されている特許文献3でも径が0.05mm以上である。電気炊飯器では消費電力に制約を受けるため、内釜の凹凸により表面積を増大させ、あるいは内釜に薄肉部を設けて熱の伝達を促進させ、内部の湯の沸騰状態を促進して対流させている。
【0004】
また、食味のよいご飯を炊くためには技術を要したり高価な電気炊飯器が必要であったりしている。例えば安価な電気炊飯器などでも食味のよいご飯を炊くことができれば、消費者にとっては好ましいことである。あるいは、ある炊飯器で標準的に炊けるご飯の食味を変更したい場合、設定を変更できる高級機でないとなかなか難しいなどの問題がある。
【0005】
一方、技術分野としては全く異なるが、粉体の付着を防ぐ技術として特許文献5に「F研磨」として記載されている方法がある。従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、特許文献5に記載されている方法を用いると、研磨加工でありながらも所定の凹凸を形成することができる。またこの研磨加工技術を用いた熱交換器について特許文献6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平09-140565号公報
【文献】特開2003-070632号公報
【文献】特開2014-023925号公報
【文献】特開2016-172045号公報
【文献】特許第4064438号公報
【文献】特許第6390053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食した際に、米粒が立ち、ほどよく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができる炊飯用容器と、そのような米飯を、一般の炊飯用容器を用いても炊くことができる炊飯補助具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1に記載の発明は、表面の少なくとも一部に、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸が形成され、炊飯の際に炊飯用容器に入れて用いることを特徴とする炊飯補助具である。
【0009】
本願請求項2に記載の発明は、本願請求項1に記載の発明における炊飯補助具が、平板状あるいは円弧状の金属板であることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項3に記載の発明は、本願請求項1に記載の発明における炊飯補助具が、金属の網状であることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項4に記載の発明は、内面の少なくとも一部に、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸が形成されていることを特徴とする炊飯用容器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、米粒が立ち、ほどよく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができるという効果がある。さらに、本発明の炊飯補助具を用いることによって、一般の炊飯用容器を用いても、そのような米飯を炊くことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の炊飯補助具の実施の一形態を示す斜視図である。
図2】本発明の炊飯補助具の実施の一形態における使用形態の一例の説明図である。
図3】F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。
図4】本発明の炊飯補助具の実施の一形態における官能試験の一例の説明図である。
図5】米飯の圧縮試験結果の一例を示すグラフである。
図6】本発明の炊飯補助具の実施の一形態の変形例を示す斜視図である。
図7】本発明の炊飯用容器の実施の一形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の炊飯補助具の実施の一形態を示す斜視図、図2は、同じく使用形態の一例の説明図である。図中、1は金属板、2は凹凸、11は炊飯用容器、12は米、13は水である。金属板1は、ここでは一例として、円筒状の金属パイプを中心軸に沿って半分に切断した半円筒形状をしている。そして、その表面の少なくとも一部には、所定の凹凸2が形成されている。ここでは金属板1の両面に凹凸2を形成したものとして図示している。凹凸2としては、例えば、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の略均一な凹凸が形成されているとよい。また、凹凸2の凸部及び凹部が延在する方向は、中心軸に沿った方向あるいはその方向から角度を有する方向、円周に沿った方向あるいはその方向から角度を有する方向など、どのような方向のスジ状の凹凸でもよい。また、複数の方向の凹凸が交差するように形成されていてもよい。もちろん、ランダムに形成される凹凸であってもよい。さらに、凹凸2は金属板1の片面に施すほか、一部にのみ凹凸2を施すものであってもよい。この凹凸2の一例については測定結果を用いて後述する。
【0015】
このような凹凸2を形成した金属板1を、一般に炊飯器などで使用されている鍋や釜などの炊飯用容器11に米12及び水13などとともに入れて炊飯すればよい。使用形態の一例を図2に断面図で示している。この使用形態の一例では、金属板1の凹面が炊飯用容器11の中心に向くように、2つの金属板1を向かい合わせて米12中に差し込んでいる。このとき、底面に金属板1を置いた状態では断面の半円形状により金属板1は自立することができる。なお、金属板1が炊飯用容器11の底面に触れている必要はなく、よって底面からの熱が金属板1に直接的に伝達される必要はない。図2においても、金属板1は炊飯用容器11の底面には接していない例を示している。なお、金属板1の凹凸2は、少なくとも一部が水13に浸かっているようにする。
【0016】
このようにして金属板1を米12及び水13とともに炊飯用容器11に入れて炊飯することにより、後述する実験例でも示しているように、従来に比べて米粒が立ち、ほどよく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができる。炊飯器を変更したり、炊飯器の設定を変更しなくても、本発明の炊飯補助具の一例を使用することによって、上述のような食感の米飯を炊くことができる。また、凹凸2を金属板1に加工したものであることから、洗剤などで清掃すれば繰り返して使用することができる。
【0017】
凹凸2を形成する加工法は特定の方法に限られるものではないが、ここでは一例として、上述の特許文献5、6に「F研磨」として記載されている方法を使用して凹凸2を形成し、後述する実験例などを行っている。上述のように、このF研磨は金属面への粉体の付着を防止する技術として特許文献1に記載されているが、食品に対する応用については考えられてこなかった。特許文献5,6に記載されているF研磨は、研磨作業を進めても鋭利さが失われないダイヤモンド等の硬質研磨粒子を紙または布に貼り付けた研磨材を使用して金属表面を研磨処理するものである。研磨粒子の公称精粗度に応じてランク分けしており、表面仕上げの状態が粗い順に「F-2」(#60)、「F-1」(#120)、「F0」(#240)、「F1」(#320)、「F2」(#400)、「F3」(#500)、「F4」(#600)、「F5」(#800)、「F6」(#1000)などと称することとする。
【0018】
従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、上述のF研磨は、研磨加工でありながら、所定の凹凸を形成する加工方法である。従来から凹凸を残す研磨加工も行われているが、残った凹凸はどのような状態であるかが分からず、再現性は無い。本発明では、金属板1の面に対して、どのような凹凸であるかが分かっている凹凸2を形成する。この凹凸2を形成するための一つの方法として、上述のF研磨を利用することができる。さらに、上述のF研磨加工を行うと、それまで存在していた凹凸は排除され、研磨によって凹凸が形成されることから、安定した状態の凹凸2が形成されることになる。
【0019】
上述のF研磨によって形成された凹凸2について、フーリエ変換を用いた波数解析を試みた。この解析によって、凹凸2の特徴を定量化し、具体的に、どのような間隔の凹凸がどのくらい高低差があるのかを数値で表すことができる。F研磨のいくつかのランクのF研磨による鋼板表面の凹凸形状について、次式(1)
X(k)=Σn=0 N-1x(n)・exp(-2πknj/N) …(1)
に従い離散フーリエ変換を行い、凹凸の波長(凹凸ピッチ)成分Lと波高成分Hの関係を解析した。比較参考のために、鏡面仕上げを行った場合についてもフーリエ解析を行い、F研磨との比較を行った。なお(1)式において、x(n)は、鋼板表面を探針センサで所定の長さ(距離)方向に走査した場合に、所定のサンプリング間隔の点で探針センサにより計測される高さ方向の値(表面の凹凸を表す)、すなわち、総サンプリング数N中のn番目のディジタルサンプリング値である。また、kは、単位長当たりの波数(空間周波数)f[回/μm]に対応する値であり(k=0,1,2,…,N-1)、全計測距離をD[μm]とすると、k=fDで表される。
【0020】
つまり、X(k)は、単位長当たり波数対応値kに対するフーリエ変換後の信号強度を表すベクトルであり、このベクトルの絶対値(長さ)が波の凹凸に比例する。従って、値kに対する変換後信号強度X(k)に対して、凹凸形状の波高Hは2|X(k)|/Nで表され、波高Hと波長Lの比(「波高対波長比」あるいは「波高比」という)H/Lは
H/L=2|X(k)|/NL …(2)
で表される。
【0021】
図3は、F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。上述の波高対波長比を波長ごとに示すと、一例として図3に示すような結果が得られた。図3には、F研磨のランクがF-2、F-1、F0、F1、F4、F5、F6の場合と、鏡面仕上げを行った場合について、数カ所で測定した結果の平均を示している。
【0022】
図3に示した解析結果を参照すると、波長Lが1μm以下の範囲で各グラフに明確な違いが現れている。この波長Lが1μm以下の範囲で見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べて波高対波長比の値として大きな値を示している。より具体的には、波長Lが1μm以下の範囲における波高対波長比の値は、鏡面仕上げを行った場合には0.0001以下であるのに対して、F研磨を行った場合には、ランクがF6、F5、F4では0.0001から0.0006程度、F1の場合には0.0006から0.001程度、F0の場合には0.001から0.002程度、F-1の場合には0.005から0.008程度、F-2の場合には0.008から0.015程度であった。
【0023】
また、図3に示した解析結果によれば、例えば波長Lが1μm以下の範囲で見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べてグラフの振幅が小さい。この振幅は、各波長における平均値から2~3割程度である。従って、F研磨によってほぼ均一な凹凸が安定して形成されていることが分かる。例えば、一般的な研磨技術であるバフ研磨で図3に示した鏡面仕上げを行った場合、波高対波長比は2桁程度のばらつきが存在しており、凹凸が安定して形成されていないことが分かる。なお、未研磨の面や元の凹凸を残した面においては、測定する箇所によって解析結果が異なっており、またばらつきが大きく,図2に示すような揃った凹凸が存在していないことが分かった。
【0024】
もちろん、F研磨の場合にも、それぞれの凹凸にはばらつきがあるものの、面として見ると周波数特性が揃った凹凸が形成されており、このような周波数特性の凹凸が安定して再現されている。このことは、金属板1の表面に所定の凹凸2が安定して再現されていることを示している。
【0025】
図4は、本発明の炊飯補助具の実施の一形態における官能試験の一例の説明図である。ここでは、上述したF研磨のランクがF-2により金属板1の表面を研磨して凹凸2を形成し、炊飯補助具を作成した。この炊飯補助具をF研磨品として示している。また、比較のため、形状は図1と同様の金属板1を鏡面仕上げしたものを用意し、これを鏡面品として示している。さらに、いずれも使用しない場合を「不使用」として試験を行った。なお、F研磨品及び鏡面品は、直径6cm、高さ4cmの半円筒形状のものを使用した。
【0026】
試験は、市販の電気炊飯器(タイガー魔法瓶株式会社製IH炊飯ジャーJKO-G550T)を用い、無洗米320g、水道水460g(2合相当)を無洗米モードで炊飯し、炊き上がった米飯の官能試験を行った。なお、F研磨品及び鏡面品を使用する場合には、図2に使用形態の一例を示したように、炊飯器の内釜の壁面に接触せず、2つを離間させて配置して炊飯した。
【0027】
官能試験は、炊飯補助具を使用せずに炊飯した場合(「不使用」)を3とし、より好ましい場合は5、より好ましくない場合を1として、「つや」、「うまみ」、「粘り」、「分散」、「食感」について評価した。「つや」は、炊飯した米粒の白さや輝きを観察して評価した。「うまみ」は、口に含んで数回咀嚼し、ご飯としてのうまみを評価した。「粘り」は、口に含んで数回咀嚼し、ご飯を噛んで離すときの歯や口腔の感覚について評価した。「分散」は、口に含んだ際の、口の中でのほぐれ具合や粒離れについて評価した。「食感」は、口に含んで数回咀嚼し、歯ごたえが適切か、あるいは硬すぎたり柔らかすぎたりしているかを評価した。
【0028】
官能試験の結果、図4に示すように、「つや」、「分散」、「食感」の項目でF研磨品が最も好ましいという結果が得られた。また、「うまみ」については多少劣る結果であるものの、ほぼ不使用の場合と同等の結果が得られた。「粘り」については鏡面品が最も粘りが強いという結果となったが、粘りが強い分だけ米粒が結着して塊となり、「分散」の評価が下がったものと推測される。総合すると、F研磨品は、粘りが鏡面品ほどでないことから米粒同士が結着しすぎず、程よい粘りであり、「分散」が高評価であることから食した際に米粒が離れて塊にならずにほろほろと程よく分散し、「食感」として好評価が得られたと言える。また、「食感」の試験の際には、米粒がよりしっかりとして好ましいとの評価が得られた。
【0029】
図5は、米飯の圧縮試験結果の一例を示すグラフである。上述した官能試験でF研磨品では程よい粘りと、程よく分散する食味を有する米飯を炊くことができることが分かった。上述の官能試験ではF研磨のランクがF-2の場合について試験し、鏡面の場合よりも好成績を得たが、どの程度の凹凸を形成すれば好ましい食味の米飯が得られるのかを知るため、米飯の圧縮試験を試みた。粘りが強く米粒同士が結着すると圧縮時に荷重を要することから、鏡面品では荷重が大きく、F研磨品では荷重が小さいことが想定される。
【0030】
圧縮試験では、炊飯時の条件を統一するため、一度に複数のF研磨ランクでの炊飯ができる方法として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の芦田かなえ氏の方法を採用して行った。まず、内径38mm、高さ68mmのアルミ缶を7個用意し、そのうちの5個の内壁面に、それぞれF研磨のランクがF-2、F0、F3、F5の加工及び鏡面加工を施した。これら5個ともう1個のアルミ缶のそれぞれに、無洗米10gと水14.4gを入れて亀甲状に並べ、その中心に、もう1つのアルミ缶に水14.4gのみを入れて配置し、全体を針金で固定した。
【0031】
一方、官能試験で使用した市販の電気炊飯器の内釜に水75gを入れ、内釜の底に金網を設置して、アルミ缶の集合体を金網の上に置いた。この状態で30分静置後、無洗米モードで炊飯した。炊き上がり直後に通電を停止し、10分間静置した。その後、炊飯器からアルミ缶を取り出し、それぞれ、テクスチャーアナライザーTA-XT Plus(英弘精機株式会社製)を用いて20mm径治具を使用し、40%まで圧縮した際の25%圧縮時に要した荷重(g)を測定した。複数回の炊飯及び測定を行い、それぞれの平均荷重を図5に示している。
【0032】
この試験の結果、F研磨のランクがF5の場合には鏡面の場合よりも荷重の値が大きくなり、F3の場合は鏡面の場合よりやや小さい値となり、F0、F-2の場合には鏡面の場合に比べて荷重の値は小さくなった。この結果から、F研磨のランクがF0、F-2において荷重が小さく、程よい粘りで程よく分散する食味を有する米飯が得られることが分かった。またこの結果と、図3に示したグラフから、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸が形成されているとよいことが分かった。
【0033】
なお、圧縮時の荷重が小さくなる場合として、炊飯された米粒自体が柔らかいことも考えられる。しかし、上述の官能試験の際に、「食感」として、米粒がよりしっかりとして好ましいとの評価を得ており、この官能試験の結果を考慮すると、圧縮時の荷重が小さいのは米粒が柔らかいのではなく、米飯全体が程よく分散することによるものと判断できる。
【0034】
このように、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸が形成された炊飯補助具を用いることによって、高額な炊飯器や高級な米を用いなくても、1粒ずつの米粒がしっかりとした、いわゆる米粒が立った米飯を炊くことができるとともに、程よい粘りを有していながらほどよく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができる。
【0035】
図6は、本発明の炊飯補助具の実施の一形態の変形例を示す斜視図である。図中、3は金網である。図6(A)に示した例では、金属板1を平板として、その片面あるいは両面に上述の凹凸2を形成したものである。使用する際には、米及び水を炊飯用容器に投入後、米の上部に金属板1を載置し、炊飯補助具を使用しない場合と同様に炊飯すればよい。これによって、米粒が立ち、程よい粘りで程よく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができる。
【0036】
実際に、縦25mm、横75mmの金属板1の両面に、F研磨のランクがF-2の加工を施した炊飯補助具を用い、市販の電気炊飯器で炊飯したところ、上述の官能試験の結果と同様に、粒が立ち、程よく分散する米飯を炊くことができた。
【0037】
このとき、金属板1は電気炊飯器の内釜の口径と比べて小さく、内釜の面には接触していない。また、炊飯の前後で金属板1の位置はあまり変わっていなかった。このことから、特許文献6で扱っているような外部からの熱伝導を促進したものではなく、炊飯の際に加えている水の改質や、炊飯の過程において生じる気泡や対流に変化を生じさせたと推定することができる。もちろん、図1に示した形状であっても同様に考えられる。なお、上述のような所定の凹凸2によって水の改質が図られることは、発明者らによって確かめられている。また、水が沸騰する際の気泡が細かくなることも、発明者らによって確かめられている。
【0038】
図6(B)には金網3に上述の凹凸を形成した例を示している。なお、凹凸については図示できないため省略している。この場合も、図6(A)に示した金属板1と同様に、炊飯用容器に米と水を入れ、米の上に金網3を載置して炊飯すればよい。
【0039】
もちろん、このほかの形状であってもよい。例えば、図1に示した例では断面が半円形状であったが、その変形として、断面がコの字状やU字状、V字状、WやM字状、波形などであってもよい。また、カップ状の形状として、炊飯の際に同時に他の調理ができるような形状としてもよい。あるいは、球状や箱形などや、4複数枚のフィン状の突起を有する構成など、形状は限定されない。いずれにしても、表面の一部又は全部に、上述のように、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の揃った凹凸を形成すればよい。このような炊飯補助具を使用する際には、図2に示したように米の中に入れてもよいし、米の上に載置したり、炊飯用容器の底に載置してもよい。複数の炊飯補助具を用いて良いことは言うまでもない。炊飯の際に予め炊飯補助具を米及び水などとともに炊飯用容器に投入し、炊飯すれば、米粒が立ってほどよく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができる。
【0040】
上述した炊飯補助具の実施の一形態及びこれらの変形例において、上述の所定の凹凸2を形成する方法の一例としてF研磨を用いる例を示した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば他の研磨あるいは研削の加工技術や、レーザー加工、精密機械加工、ヘアライン加工、ショットブラスト加工を含むブラスト加工、微粒子ピーニング加工を含むショットピーニング加工、エッチング加工など、他の加工方法を用いて、上述した特性を有する所定の凹凸を形成できる加工方法であれば適用することができる。
【0041】
また、上述の例では金属板1に凹凸2を形成する例を示しているが、凹凸2を形成する部材の材質についても、ステンレスやアルミニウムのほか、チタンや銅、スズなどの種々の金属や、合金などであってもよい。あるいは、ガラスや樹脂、陶器など、炊飯の際の熱に耐えられ、上述のような所定の凹凸2を設ける加工が施せる材質であれば、種々の材質の部材を用いてよい。さらには、例えば型に所定の凹凸を形成しておき、その型を用いて金属や樹脂などにより成形したり、型を用いて後加工を施してもよく、成形後の面に所定の凹凸2が形成されていれば本発明に含まれることは言うまでもない。
【0042】
図7は、本発明の炊飯用容器の実施の一形態を示す概略図である。図中、4は炊飯用容器である。上述の炊飯補助具は、既存の炊飯用容器に米、水とともに投入して用いるものであるが、炊飯用容器自体に所定の凹凸を施してもよい。より具体的には、鍋や釜などの炊飯用容器4の内面の少なくとも一部に、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.001以上の凹凸2を形成する。この凹凸2は、例えば、炊飯用容器4の内側面に上下方向(開口部と内底面を結ぶ方向)に延在する凹凸として形成したり、円周方向に延在する凹凸としたり、スパイラル状の凹凸にするなど、どのような方向のスジ状の凹凸でもよい。また、内底面についても、同心円状の凹凸や、放射状の凹凸など、種々のスジ状の凹凸であってよい。いずれの場合も、スジ状の凹凸に限らず、ランダムに形成される凹凸であってもよい。もちろん、凹凸2は内側面や内底面の全体に施すほか、内側面については中に入れる米や水が触れやすい内底面から所定の高さまでとしたり、内底面についても一部のみに設けるなど、一部に所定の凹凸を施すものであってもよい。この凹凸2を形成する方法については上述の炊飯補助具の場合と同様であり、F研磨による方法のほか、種々の加工方法や成型方法を用いることができる。
【0043】
炊飯用容器4は、アルミニウムやステンレス、鉄などの金属が多く使用されるが、例えば近年の電気炊飯器の内釜のように、積層構造をなしていたり、陶器など様々な材料を用いている場合であってもよい。なお、表面にコーディングが施されている場合、炊飯用容器4の内側においてコーティング表面に上述のような凹凸2を形成できればよい。もちろん、電気炊飯器に限らず、様々な炊飯器に使用する内釜であってもよいし、鍋や釜のような直火で用いる炊飯用容器であってよい。また、電子レンジなどで使用可能なシリコンなどの樹脂製であってもよい。従って炊飯用容器4の材質は、使用形態などに応じ、上述のような所定の凹凸2を形成できる材料であれば、種々の材料を用いることができる。
【0044】
炊飯用容器4の形状は限定されるものではなく、種々の使用形態に応じて様々な変形が可能である。上述の米飯の圧縮試験の際に用いた、F研磨加工を施したアルミ缶は、この炊飯用容器の一つの変形例である。圧縮試験の際の炊飯方法は特殊であるものの、上述のような所定の凹凸2を形成することによって、ほどよく分散する米飯が炊けることが分かる。また、食感についても炊飯補助具の場合と同様であることから、本発明の炊飯用容器の実施の一形態においても、粒が立ってほどよく分散する、好ましい食感を有する米飯を炊くことができる。もちろん、上述した炊飯補助具を併用してよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
1…金属板、2…凹凸、3…金網、4,11…炊飯用容器、12…米、13…水。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7