(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】伝熱管
(51)【国際特許分類】
F28F 1/42 20060101AFI20230403BHJP
F28F 13/12 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
F28F1/42 B
F28F13/12 A
(21)【出願番号】P 2020037191
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504136753
【氏名又は名称】株式会社KMCT
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏行
(72)【発明者】
【氏名】松野 友暢
(72)【発明者】
【氏名】井上 順広
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/029639(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/089957(WO,A1)
【文献】特開2012-127623(JP,A)
【文献】特開平10-078268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0096314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/00 - 99/00
F28D 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部が所定の螺旋周期で螺旋状に形成されたコルゲート管からなり、
前記コルゲート管の全長にわたる前記溝部の間に、管軸方向に沿って複数形成された凹部を備え、
前記凹部は、管外面から管内面に向かって凹むように形成されると共に、
前記凹部は、管軸方向の長さが、前記溝部の溝ピッチ幅の50~90%であ
り、
管内部を流れる流体のレイノルズ数は、2000以下であることを特徴とする伝熱管。
【請求項2】
前記凹部は、前記螺旋周期の2周期中に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の伝熱管。
【請求項3】
2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれは、同一直線上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の伝熱管。
【請求項4】
2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれは、管周方向で互いに360度離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の伝熱管。
【請求項5】
2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれは、異なる直線上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の伝熱管。
【請求項6】
2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれは、管周方向で互いに180度離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の伝熱管。
【請求項7】
2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれは、管周方向で互いに240度または120度離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の伝熱管。
【請求項8】
2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれは、管周方向で互いに270度または90度離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の伝熱管。
【請求項9】
前記凹部は、前記螺旋周期の1周期毎に形成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の伝熱管。
【請求項10】
前記凹部は、予め設定された前記螺旋周期の間隔をあけて形成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の伝熱管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管外の流体(自然冷媒、フロン冷媒、水等)の保有熱又は管外の物体(土壌熱等の固体物質等)の保有熱若しくはソーラーパネル等の輻射熱と、管内を流れる流体(水、ブライン等)とを熱交換させる伝熱管に関する。本発明は、特に、管内の流体が単相流で、低流速域での使用に適した管内単相流用伝熱管に関する。
【背景技術】
【0002】
管内単相流用伝熱管の具体的な用途としては、(a)ヒートポンプ給湯器(例えば、エコキュート(登録商標))に使用される水-冷媒熱交換器に使用される伝熱管、(b)ガス給湯器内にて使用される水-水の二重管式熱交換器に使用される伝熱管、(c)太陽熱温水器のソーラーパネル内に設置されている温水配管、(d)地中に埋め込んで使用する土壌熱-水熱交換器配管用伝熱管がある。
【0003】
管内外の流体間で熱交換させる機器は、省エネ化の取り組みがなされており、熱交換器単体での高性能化を図るとともに、熱媒体の搬送動力の低減による省エネ化が図られている。熱媒体の流体を熱交換器内に送るために、通常ポンプが使用されている。熱媒体の搬送動力の低減策としては、搬送流体の流量を低減させることにより、ポンプ運転動力を低減させる方法が採用されている。
【0004】
また、熱交換器内において、長時間かけて流体を高温にさせる機器があり、その事例として代表的なものに、ヒートポンプ給湯器がある。このヒートポンプ給湯器は、水道水の給水口より直接熱交換器内に流体である水を送り込み、熱交換器内において長時間かけて流体を高温にさせる。そのため、ヒートポンプ給湯器では、管内の水の速度が低く設定され、水の圧力もポンプ等での搬送力に比較して低く設定されている。その結果、ヒートポンプ給湯器では、管内を通過する水の速度が遅くなり、管内のレイノルズ数は2000以下で使用されることが多い。この低レイノルズ数領域では、管内の水は層流域になり、層流域での熱伝達率は、乱流状態と比較して低下する。そのため、使用する伝熱管自体の性能を向上させることにより、対応せざるを得ない。
【0005】
現状使用されている代表的な伝熱管としては、特許文献1、2に記載されたコルゲート管がある。コルゲート管は、管の内面及び外面に深い凹凸を形成するコルゲート溝をらせん状に備えるものである。なお、特許文献2においては、コルゲート溝の他に、コルゲート溝間に管内面に突出する突起が形成されている。そして、コルゲート管においては、このコルゲート溝として形成された凹凸および突起により、管内の流体が層流域にて流れる場合でも乱流の形成を促進して熱伝達率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-218486号公報
【文献】WO2008/029639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、管内に流体を流したときに特許文献1、2のコルゲート管では、コルゲート溝間の管内壁面近傍に溝間を対流する副流が形成される。この副流は、コルゲート溝のピッチが小さいため、管中央部を流れる主流とは合流せずに、管内壁面近傍に留まって速度境界層および温度境界層となりやすい。この境界層は、流体間の熱交換を阻害するという問題点がある。また、特許文献2ではコルゲート溝間に突起が形成されているが、この突起もコルゲート溝のピッチ幅に対して小さいため、副流は突起に衝突せずに対流しやすい。そのため、特許文献2では、主流と副流を合流させるような流れを突起で形成しにくく、境界層の形成を抑制できない。特に、コルゲート管内の流体の流速が低流速域であると、境界層の形成が顕著なものとなる。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、管内の流体の流速が低流速域であっても、境界層の形成が抑制でき、熱伝達率を向上させることができる伝熱管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る伝熱管は、溝部が所定の螺旋周期で螺旋状に形成されたコルゲート管からなり、前記コルゲート管の全長にわたる前記溝部の間に、管軸方向に沿って複数形成された凹部を備え、前記凹部は、管外面から管内面に向かって凹むように形成されると共に、前記凹部は、管軸方向の長さが、前記溝部の溝ピッチ幅の50~90%であり、管内部を流れる流体のレイノルズ数は、2000以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る伝熱管によれば、溝部の間に所定の長さの凹部が形成されるため、溝部に沿って流れる2次流としての副流が、管内壁面から突出する凹部に衝突して3次流としての反流が形成される。この3次流が、1次流に2次流を合流させるように働くため、管内壁面に境界層が形成されることが抑制される。その結果、流体間の熱交換が阻害されないため、伝熱管の熱伝達率が向上する。
【0011】
本発明に係る伝熱管は、前記凹部が、前記螺旋周期の2周期中に複数形成されていることが好ましい。
本発明に係る伝熱管によれば、螺旋周期の2周期中に複数の凹部が形成されるため、管内面に形成される凹部の数が増加する。それにより、凹部によって形成される3次流の形成が促進される。その結果、3次流によって2次流が1次流にさらに合流し易くなり、伝熱管の熱伝達率がさらに向上する。
【0012】
本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれが、同一直線上に形成されていることが好ましい。
また、本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれが、管周方向で互いに360度離れた位置に形成されていることが好ましい。
本発明に係る伝熱管によれば、複数の凹部が同一直線上に形成され、すなわち、360度離れた位置に形成されるため、1周期毎に管周方向の同一位置に凹部が形成される。その結果、伝熱管の製造において凹部の形成が容易となり、製造コストが低下する。
【0013】
本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれが、異なる直線上に形成されていることが好ましい。
また、本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれが、管周方向で互いに180度離れた位置に形成されていることが好ましい。
また、本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれが、管周方向で互いに240度または120度離れた位置に形成されていることが好ましい。
また、本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている前記凹部のそれぞれが、管周方向で互いに270度または90度離れた位置に形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る伝熱管によれば、2周期中に複数形成されている凹部が異なる直線上に形成されている。また、その凹部のそれぞれが管周方向で互いに所定角度離れた位置に形成されている。それにより、管全長にわたって形成される凹部のそれぞれが、管軸に直交する管側面視において互いに所定角度離れた位置に形成される。そして、管内面に形成される凹部の配置が、管周方向で均等になる。その結果、凹部によって形成される3次流によって、2次流が1次流にさらに合流し易くなり、伝熱管の熱伝達率がさらに向上する。
【0015】
本発明に係る伝熱管は、前記凹部が、前記螺旋周期の1周期毎に形成されていることが好ましい。
本発明に係る伝熱管によれば、凹部が螺旋周期の1周期毎に形成されているため、管内面に形成される凹部の数が増加する。それにより、凹部によって形成される3次流の形成が促進される。その結果、3次流によって2次流が1次流にさらに合流し易くなり、伝熱管の熱伝達率がさらに向上する。
【0016】
本発明に係る伝熱管は、前記凹部が、予め設定された前記螺旋周期の間隔をあけて形成されていることが好ましい。
本発明に係る伝熱管によれば、螺旋周期の所定間隔をあけて凹部が形成されているため、管内面に形成される凹部の配置が、管周方向で均等になる。その結果、凹部によって形成される3次流によって、2次流が1次流にさらに合流し易くなり、伝熱管の熱伝達率がさらに向上する。
本発明に係る伝熱管は、管内部を流れる流体のレイノルズ数が2000以下の場合、流体を供給するポンプの圧力を低下させることができ、ポンプ運転動力が低減する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る伝熱管は、境界層の形成が抑制でき、熱伝達率が向上する。また、本発明に係る伝熱管は、低流速域で好適であるため、流体を供給するポンプの運転動力を低下させることができ、省エネ化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態の係る伝熱管の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線での管側面視における断面図である。
【
図3】
図1のIII-III線での断面図であって、管内部の流体の流れを模式的に示すものである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る伝熱管の構成を示す正面図である。
【
図5A】
図4のVA-VA線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図5B】
図4のVB-VB線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る伝熱管の構成を示す正面図であって、伝熱管の背面側に形成された凹部は簡略化して示すものである。
【
図7A】
図6のVIIA-VIIA線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図7B】
図6のVIIB-VIIB線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図7C】
図6のVIIC-VIIC線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る伝熱管の他の構成を示す正面図であって、伝熱管の背面側に形成された凹部は簡略化して示すものである。
【
図9A】
図8のIXA-IXA線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図9B】
図8のIXB-IXB線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図9C】
図8のIXC-IXC線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図10】本発明の第4実施形態に係る伝熱管の構成を示す正面図であって、伝熱管の背面側に形成された凹部は簡略化して示すものである。
【
図11】
図10のXIA-XIA線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図11B】
図10のXIB-XIB線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図11C】
図10のXIC-XIC線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図11D】
図10のXID-XID線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図12】本発明の第4実施形態に係る伝熱管の他の構成を示す正面図である。
【
図13A】
図12のXIIIA-XIIIA線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図13B】
図12のXIIIB-XIIIB線であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図13C】
図12のXIIIC-XIIIC線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図13D】
図12のXIIID-XIIID線での断面図であって、管側面視における凹部の配置を溝部等の記載は省略して示すものである。
【
図14】伝熱管の熱伝達率を測定する試験装置を模式的に示す模式図である。
【
図15】レイノルズ数Reと熱伝達率Nuとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る伝熱管ついて、具体的に説明する。
伝熱管は、管内の流体、好ましくは単相流流体と、管外の熱媒体との間で熱交換を行うものである。伝熱管の管内には、水及びブライン等の単相流流体が流れる。一方、管外の熱媒体は、本発明の伝熱管を使用する分野により異なる。本発明の伝熱管の使用分野が、ヒートポンプ給湯器のように水-冷媒熱交換器の場合には、管外面に自然冷媒又はフロン冷媒が流れる。そして、使用分野が、ガス給湯器のように水-水熱交換器に使用される二重管式熱交換器の場合は、管外にも水等の単相流流体が流れる。また、他の技術分野においても、例えば、太陽熱温水器のソーラーパネルの温水配管に本発明の伝熱管を使用する場合は、太陽が出す輻射線等の電磁波が管外面に吸収されて生じる輻射熱が伝熱管に作用する。また、本発明の伝熱管を地中に埋め込んで、土壌と管外面とが接触する水-土壌熱交換器の分野に伝熱管を使用する場合は、土壌に蓄積された熱と管外面との間で熱交換が生じる。なお、管内を流れる単相流流体の流速を表すレイノズル数は、2000以下が好ましい。レイノズル数が2000以下であると、管内に供給される流体の流量が低減され、流体を供給するポンプ運転動力を低減できるため、機器の省電力化が図れる。
【0020】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る伝熱管について、図面を参照して説明する。
図1~
図3に示すように、伝熱管1は、管外面から管内面に向かって凹むように溝部3が所定の螺旋周期で螺旋状に形成されたコルゲート管2からなり、コルゲート管2の全長にわたる螺旋状の溝部3の間に、管軸方向に沿って複数形成された凹部4を備え、凹部4は管外面から管内面に向かって凹むように形成されている。そして、伝熱管1は、凹部4の管軸方向の長さLdが、溝部3の溝ピッチ幅Pcに対する割合で特定されている。また、伝熱管1は、凹部4が、溝部3の螺旋周期の1周期毎に形成され、2周期中に複数形成されている。また、伝熱管1は、2周期中に複数形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の同一直線上に形成されている。また、伝熱管1は、凹部4が予め設定された螺旋周期の間隔をあけて形成されている。
【0021】
例えば、伝熱管1は、凹部4が螺旋周期の2周期中に2個形成され、1周期毎に1個の凹部4が形成されている。また、伝熱管1は、2周期中に2個形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な1つの直線上に形成されている。また、伝熱管1は、凹部4のそれぞれが管周方向で互いに360度離れた位置に形成されている。また、伝熱管1は、凹部4が螺旋周期の1周期の間隔をあけて管周方向に形成されている。
【0022】
伝熱管1の各構成について、具体的に説明する
(コルゲート管)
コルゲート管2は、管本体部の管外面に螺旋状の溝部3が形成されたものである。そして、管本体部の材質は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレス、チタン等の熱が伝導する金属材料からなり、特に、銅または銅合金のような熱伝導率が良好なものであれば、なお好適である。また、コルゲート管2の管本体部の寸法は、伝熱管の使用分野によって適宜設定されるが、例えば、管外径は6~20mm、管内径は5~19mmである。
【0023】
(溝部)
溝部3は、管本体部である平滑管の外面に、先端が先鋭な工具を押し当て、この状態で、例えば、管を回転させつつ管軸方向に工具を移動させることによって、管全長で螺旋状に1本形成された溝である。
図2、
図3に示すように、溝部3の形成によって、コルゲート管2の管内壁面には突起が形成され、この突起に沿って管内壁面の近傍を螺旋状に流れる流体の副流F2が生成される。
【0024】
溝部3の溝ピッチ幅Pcは、15~25mmであることが好ましい。溝ピッチ幅Pcが15mm以上であると、副流F2が衝突して流体の反流F31を生成する所定長さ以上の凹部4を溝部3の間に形成できる。また、溝ピッチ幅Pcが25mm以下であると、凹部4によって管中心部を流れる流体の主流F1の乱流化が促進されることがなく、圧力損失を抑制することができる。
【0025】
溝部3の溝深さDcは、0.6~1.2mmであることが好ましい。溝深さDcが0.6mm以上であると、副流F2の生成が促進される。また、溝深さDcが1.2mm以下であると、溝部3によって管中心部の主流F1の乱流化が促進されることがなく、圧力損失を抑制することができる。
【0026】
なお、溝部3は、1本の螺旋状の条により形成されている。この場合,溝ねじれ角θは、管外径、溝ピッチ幅Pc、条数が決まれば一義的に決まる。例えば、この溝ねじれ角θは48~65度である。また、溝部3の溝幅Wcは、例えば、1.7~5.5mmである。
【0027】
(凹部)
凹部4は、コルゲート管2の外面の所定位置に、先端が先鋭な工具を押し当てることによって形成される。
図2、
図3に示すように、凹部4の形成によって、コルゲート管2の管内壁面には突起が形成される。
【0028】
図1に示すように、凹部4の管軸方向の長さLdは、溝ピッチ幅Pcの50~90%とする。凹部4の長さLdが溝ピッチ幅Pcの50%以上であると、副流F2が凹部4に衝突して反流F31を生成するため、前記した反流F31~F34による流体の撹拌によって主流F1に副流F2が合流して、境界層が生成されなくなる。また、凹部4の長さLdが溝ピッチ幅Pcの90%以下であると、凹部4によって主流F1の乱流化が促進されることがなく、圧力損失を抑制することができる。
【0029】
図2に示すように、凹部4の管径方向の深さDdは、管外径の6~20%であることが好ましい。凹部4の深さDdが管外径の6%以上であると、副流F2が凹部4に衝突しやすく、反流F31~F34が生成しやすい。また、凹部4の深さDdが管外径の20%以下であると、凹部4によって主流F1の乱流化が促進されることがなく、圧力損失を抑制しやすい。
【0030】
なお、凹部4の管周方向の幅Wdは、凹部4の形成作業のしやすさ、主流F1の乱流促進を抑制できる大きさであること等を考慮して、適宜設定される。例えば、凹部4の幅Wdは管周長さの11~26%であることが好ましい。
【0031】
図3に示すように、伝熱管1の管内面に流体が供給されると、凹部4によって形成される突起に、管内壁面近傍を螺旋状に流れる流体の副流F2が衝突して、管中心部を流れる流体の主流F1とは反対方向に流れる流体の反流F31が生成される。反流F31は、凹部4の底面に沿って流れ、溝部3に衝突して、溝部3に沿って副流F2とは反対方向に流れる反流F32となる。反流F32は、管内壁面に衝突して、管内壁面に沿って反流F31とは反対方向に流れる反流F33となる。反流F33は、溝部3に衝突して、溝部3に沿って反流F32とは反対方向に流れる反流F34となる。反流F34は、再び凹部4によって形成される突起に衝突して反流F31となる。このように凹部4によって形成される突起によって、反流F31~F34が繰り返し生成されることによって、管内壁面近傍の流体が撹拌され、主流F1に副流F2が合流する。その結果、管内壁面近傍に境界層が生成されなくなり、流体間の熱交換が向上するため、伝熱管1の熱伝達率が高くなる。
【0032】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る伝熱管について、図面を参照して説明する。
図4~
図5Bに示すように、本発明の第2実施形態に係る伝熱管1Aは、溝部3の螺旋周期の2周期中に複数形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な2つの直線上に形成されていること以外は、第1実施形態1の伝熱管1(
図1参照)と同一構成を備える。
【0033】
例えば、伝熱管1Aは、凹部4が螺旋周期の2周期中に4個形成され、1周期毎に2個の凹部4が形成されている。また、伝熱管1Aは、2周期中に4個形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な2つの直線上に形成されている。また、伝熱管1Aは、2周期中に形成されている凹部4のそれぞれが、管周方向で互いに180度離れた位置に形成されている。また、伝熱管1Aは、凹部4が螺旋周期の1/2周期の間隔をあけて管周方向に形成されている。また、伝熱管1Aは、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4のそれぞれが、管側面視において管周方向で互いに180度離れた位置に形成されている。
【0034】
伝熱管1Aは、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4が、管側面視において管周を均等に2分割する位置に形成されている。伝熱管1Aは、図示しないが、複数形成されている凹部4が、管側面視において管周を不均等に分割する2箇所に形成されていてもよい。例えば、伝熱管1Aは、2箇所目の凹部4が、1箇所目の凹部4から管周方向に90度離れた位置に形成されていてもよい。
【0035】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る伝熱管について、図面を参照して説明する。
図6~
図7Cに示すように、本発明の第3実施形態に係る伝熱管1Bは、溝部3の螺旋周期の2周期中に複数形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な3つの直線上に形成されていること以外は、第2実施形態の伝熱管1A(
図4~
図5B参照)と同一構成を備える。
【0036】
例えば、伝熱管1Bは、凹部4が螺旋周期の2周期中に3個形成され、1周期毎に1個または2個の凹部4が形成されている。また、伝熱管1Bは、2周期中に3個形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な3つの直線上に形成されている。また、伝熱管1Bは、2周期中に形成されている凹部4のそれぞれが螺旋進行方向(図では時計方向)において、管周方向で互いに240度離れた位置に形成されている。また、伝熱管1Bは、凹部4が螺旋周期の2/3周期の間隔をあけて管周方向に形成されている。また、伝熱管1Bは、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4のそれぞれが、管側面視において管周方向で互いに120度離れた位置に形成されている。
【0037】
また、本発明の第3実施形態に係る伝熱管の他の構成について、図面を参照して説明する。
図8~
図9Cに示すように、他の構成の伝熱管1Cは、溝部3の螺旋周期の2周期中に複数形成された凹部4のそれぞれが、螺旋進行方向(図では時計方向)において、管周方向で互いに120度離れた位置に形成されていること以外は、第3実施形態の伝熱管1B(
図6~
図7C参照)と同一構成を備える。
【0038】
例えば、伝熱管1Cは、凹部4が螺旋周期の2周期中に6個形成され、1周期毎に3個の凹部4が形成されている。また、伝熱管1Cは、凹部4が螺旋周期の1/3周期の間隔をあけて管周方向に形成されている。また、伝熱管1Cでも、伝熱管1Bと同様に、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4のそれぞれが、管側面視において管周方向で互いに120度離れた位置に形成されている。
【0039】
伝熱管1A、1Bは、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4が、管側面視において管周を均等に3分割する位置に形成されている。伝熱管1A、1Bは、図示しないが、複数形成されている凹部4が、管側面視において管周を不均等に分割する3箇所に形成されていてもよい。例えば、伝熱管1A、1Bは、2箇所目の凹部4が1箇所目の凹部4から螺旋進行方向において管周方向に90度離れた位置に形成され、3箇所目の凹部4が2箇所目の凹部4から螺旋進行方向において管周方向に120度離れた位置に形成されていてもよい。
【0040】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態に係る伝熱管について、図面を参照して説明する。
図10~
図11Dに示すように、本発明の第4実施形態に係る伝熱管1Dは、溝部3の螺旋周期の2周期中に複数形成された凹部4のそれぞれが、螺旋進行方向において管周方向で互いに270度離れた位置に形成されていること以外は、第3実施形態の伝熱管1B(
図6~
図7C参照)と同一構成を備える。
【0041】
例えば、伝熱管1Dは、凹部4が螺旋周期の2周期中に3個形成され、1周期毎に1個または2個の凹部4が形成されている。また、伝熱管1Dは、2周期中に3個形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な3つの直線上に形成されている。また、伝熱管1Dは、凹部4のそれぞれが、螺旋進行方向において管周方向で互いに270度離れた位置に形成されている。
【0042】
また、伝熱管1Dは、凹部4が螺旋周期の3周期中に4個形成され、3周期中に4個形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な4つの直線上に形成されている。また、伝熱管1Dは、凹部4のそれぞれが、螺旋進行方向において管周方向で互いに270度離れた位置に形成されている。
【0043】
また、伝熱管1Dは、凹部4が螺旋周期の3/4周期の間隔をあけて管周方向に形成されている。そして、伝熱管1Dは、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4のそれぞれが、管側面視において管周方向で互いに90度離れた位置に形成されている。
【0044】
また、本発明の第4実施形態に係る伝熱管の他の構成について、図面を参照して説明する。
図12~
図13Dに示すように、他の構成の伝熱管1Eは、溝部3の螺旋周期の2周期中に複数形成された凹部4のそれぞれの長さ方向が管正面視の管軸に対して平行な4つの直線上に形成されていること、凹部4のそれぞれが螺旋進行方向(図では時計方向)において管周方向で互いに90度離れた位置に形成されていること以外は、第4実施形態の伝熱管1D(
図10~
図11D参照)と同一構成を備える。
【0045】
例えば、伝熱管1Eは、凹部4が螺旋周期の2周期中に8個形成され、1周期毎に4個の凹部4が形成されている。また、伝熱管1Eは、螺旋周期の2周期中に8個形成された凹部4のそれぞれが、螺旋進行方向(図では時計方向)において、管周方向で互いに90度離れた位置に形成されている。また、伝熱管1Eは、凹部4が螺旋周期の1/4周期の間隔をあけて管周方向に形成されている。また、伝熱管1Eでも、伝熱管1Dと同様に、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4のそれぞれが、管側面視において管周方向で互いに90度離れた位置に形成されている。
【0046】
伝熱管1D、1Eは、コルゲート管2の全長にわたって複数形成されている凹部4が、管側面視において管周を均等に4分割する位置に形成されている。伝熱管1D、1Eは、図示しないが、複数形成されている凹部4が、管側面視において管周を不均等に分割する4箇所に形成されていてもよい。例えば、伝熱管1D、1Eは、2箇所目の凹部4が1箇所目の凹部4から螺旋進行方向において管周方向に45度離れた位置に形成され、2、3、4箇所目の凹部4が管周方向で互いに90度離れた位置に形成されていてもよい。
【0047】
<変形例>
本発明に係る伝熱管は、図示しないが、以下のような構成であってもよい。
本発明に係る伝熱管は、同一の長さLdを有する凹部4を複数形成しているが、長さLdが他の凹部4と比べて長い凹部4と、長さLdが他の凹部4と比べて短い凹部4とを混合して複数形成してもよい。
【0048】
本発明に係る伝熱管は、複数の凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な直線上に形成されている。伝熱管は、凹部4のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に対して平行な直線から管周方向に傾斜して形成された凹部4であってもよい。
【0049】
本発明に係る伝熱管は、溝部3の螺旋周期の1周期毎に少なくとも1個の凹部4を形成して、複数周期にわたって連続して形成されているが、凹部4を形成しない周期を含めて複数周期にわたって凹部4を不連続に形成してもよい。
【0050】
本発明に係る伝熱管は、2周期中に複数形成されている凹部のそれぞれの長さ方向が、管正面視の管軸に平行な5つ以上の直線上に形成されていてもよい。
【0051】
本発明に係る伝熱管は、コルゲート管2に複数の溝部を形成してもよい。複数の溝部は、主溝部である溝部3と、溝部3による副流F2(
図3参照)の形成を補助するように働く補助溝部とからなる。補助溝部は、管外面から管内面に向かって凹むように、管全長にわたって螺旋状に形成される。そして、補助溝部は、溝部3と交差するように形成してもよいし、溝部3と交差しないように形成してもよい。補助溝部の溝ピッチ幅Pc、溝深さDc、溝ねじれ角θ、溝幅Wcは、溝部3と同じであってもよいし、溝部3と異なってもよい。また、補助溝部の螺旋巻き方向は、管側面視において、溝部3と同方向であってもよいし、逆方向であってもよい。そして、補助溝部は、凹部4と交差するように形成してもよいし、凹部4と交差しないように形成してもよい。なお、複数の溝部をコルゲート管2に形成した場合であっても、凹部4の管軸方向の長さは、溝部3の溝ピッチ幅Pcに対する割合で特定される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の効果を実証するために、本発明の範囲に入る実施例と、本発明の範囲から外れる比較例とについて説明する。
【0053】
まず、伝熱管の熱伝達率を測定する試験方法について説明する。
図14はこの試験装置を示す模式図である。本試験装置においては、加熱側及び給湯側の双方に水を媒体として使用した。熱交換槽13内には加熱水が貯留されており、この加熱水は、加熱水タンク21から、配管22aを介して供給され、配管22bを介して、加熱水タンク21に戻される。熱交換槽13内には、伝熱管1が水平に配置されており、この伝熱管1内には、給湯水タンク11から、給湯水が、配管12aを介して供給され、伝熱管1を通流した後、配管12bを介して、給湯水タンク11に戻される。加熱水タンク21は、加熱水の温度が、恒温循環装置24により、一定温度(32℃,37℃又は42℃)になるように、制御される。また、給湯水タンク11は、給湯水の温度が、恒温循環装置18により、20℃に一定に制御される。
【0054】
給湯水は混合器20a、20bを介して、伝熱管1に出入りするが、この伝熱管1への給湯水の出入口温度は、この伝熱管の出入口に設置した混合器20a、20bにおいて、白金測温抵抗体を使用して、測定することができる。給湯水の流量は、バルブ25により、一定流量になるように、段階的に調節する。また、熱交換槽13内の伝熱管1の平均温度は、温度変化に伴う電気抵抗値の変化により測定することができる。そして、この伝熱管1の出入口に設置した圧力タップの圧力を配管16により差圧変換器17に導き、差圧変換器17を、50kPa,10kPa,又は1kPaに切り替えて測定する。なお、熱交換槽13内は撹拌器14により撹拌され、給湯水タンク11内は撹拌器19により撹拌され、加熱水タンク21内は撹拌器23により撹拌されて、水の温度の均一化が図られている。
【0055】
冷却水の熱交換量Qsは、給湯水流量をW、定圧比熱をcp、給湯出口温度をTsout、給湯入口温度をTsinとして、下式(1)により求めることができる。また、熱伝達係数αiは、熱流束をqi、電圧降下により求めた管平均温度をTwi、管の熱伝導を考慮して修正した管内壁面温度をTwm、給湯水の出入口温度の算術平均温度をTsmとして、下式(2)により求めることができる。但し、qi、Twi、Tsmは、夫々下式(3)、(4)、(5)により求めることができる。なお、Lは有効伝熱長さ,diは最大内径、doは外径、λは銅の熱伝達率、δは肉厚を表す。そして、伝熱管1の熱伝達率の指標である管内ヌッセルト数Nuiは、下式(6)により求まる。また、そのときの伝熱管1の管内を流れる流体の流速の指標であるレイノルズ数Reは、下式(7)により求まる。但し、ρは給湯水の密度、viは給湯水の流速、μは給湯水の粘性係数である。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
(実施例)
実施例の伝熱管として、
図1~
図3に示す伝熱管1を準備した。伝熱管1の各部の寸法は、以下の通りとした。
コルゲート管2の管外径:12.5mm
コルゲート管2の管内径:11.4mm
溝部3の条数:1つ
溝部3の溝ねじれ角θ:54度
溝部3の溝深さDc:0.9mm
溝部3の溝ピッチ幅Pc:20mm
凹部4の長さLd:15.5mm
凹部4の幅Wd:5.5mm
凹部4の深さDd:1.869mm
実施例の伝熱管1について、管内を流れる流体の流速(レイノズル数Re)と、熱伝達率(ヌッセルト数Nu)との関係を前記試験方法で測定した。その結果を
図15に示す。
【0064】
(比較例)
比較例の伝熱管として、凹部4が形成されていないこと以外は実施例と同様の伝熱管を準備した。比較例の伝熱管について、レイノズル数Reとヌッセルト数Nuとの関係を実施例と同様にして測定した。その結果を
図15に示す。
【0065】
図15に示すように、実施例の伝熱管は、低レイノルズ数域において、比較例の伝熱管に比べて熱伝達率が高いという結果が得られた。特に、2000以下の低レイノルズ数域において、実施例の伝熱管は、比較例の伝熱管に比べて熱伝達率が高いという結果が得られた。
【符号の説明】
【0066】
1、1A、1B、1C、1D、1E 伝熱管
2 コルゲート管
3 溝部
4 凹部
Pc 溝ピッチ幅
Wc 溝幅
Dc 溝深さ
θ 溝ねじれ角
Ld 長さ
Wd 幅
Dd 深さ
F1 主流
F2 副流
F31、F32、F33、F34 反流