(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】信号処理回路及び固体撮像素子
(51)【国際特許分類】
H04N 25/772 20230101AFI20230403BHJP
H04N 25/53 20230101ALI20230403BHJP
【FI】
H04N25/772
H04N25/53
(21)【出願番号】P 2019021849
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
【審査官】西谷 憲人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/155442(WO,A1)
【文献】特開2018-198388(JP,A)
【文献】特開2019-004225(JP,A)
【文献】特開2003-009006(JP,A)
【文献】特開2010-213251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 25/772
H04N 25/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の電荷量に対応してパルスを発生するパルス発生回路と、
前記パルスをカウントするカウンタ回路とを備えた、信号処理回路において、
前記電荷量の検出動作を行う所定時間を、複数の期間に区分し、区分された各期間の前記カウンタ回路の出力信号を、前記所定時間の終了後に一括して出力することを特徴とする、信号処理回路。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理回路において、
前記カウンタ回路を複数bitカウンタからなる複数のブロックで構成し、前記期間ごとに異なる前記ブロックを選択して前記パルスをカウントすることを特徴とする、信号処理回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の信号処理回路において、
前記カウンタ回路は、複数bitカウンタからなる複数のブロックと、前記ブロックを選択する複数のスイッチとを備え、前記スイッチを制御信号で制御して、各期間に動作する前記ブロックを選択することを特徴とする、信号処理回路。
【請求項4】
光電変換素子と、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の信号処理回路とを、各画素に備えた固体撮像素子であって、
前記電荷量の検出動作を行う所定時間は、1フレーム期間であることを特徴とする固体撮像素子。
【請求項5】
請求項
4に記載の固体撮像素子において、
各画素は、1フレーム期間の区分のパターンを記憶したメモリを備えており、前記メモリに記憶した前記パターンに基づいて、1フレーム期間を1又は複数の期間に区分することを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項6】
請求項4
又は5に記載の固体撮像素子において、
1フレーム期間の区分のパターンの異なる画素を、規則的に配置したことを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項7】
請求項4
又は5に記載の固体撮像素子において、
1フレーム期間の区分のパターンの異なる画素を、非周期的に配置したことを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項8】
請求項4
又は5に記載の固体撮像素子において、
前記固体撮像素子の出力画像の動きの特徴量を抽出し、動きの大きい第1の画素は、1フレーム期間を短い期間に区分し、動きの小さい第2の画素は、1フレーム期間を前記第1の画素よりも長い期間に区分することを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項9】
請求項4乃至
8のいずれか一項に記載の固体撮像素子において、
各画素を構成する回路要素を異なる基板に形成し、前記基板を3次元積層したことを特徴とする、固体撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理回路及び固体撮像素子に関し、特に、固体撮像素子(イメージセンサ)の各画素において光電変換した信号電荷をアナログ/デジタル(A/D)変換する信号処理回路と、それを利用した固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの固体撮像素子の高フレームレート、広ダイナミックレンジ、高S/N(Signal/Noise)化を目的として、画素ごとに露光時間・読み出し速度・位相を制御可能な、時空間の露光制御を行うイメージセンサが提案されている(非特許文献1)。画素ごとに異なる露光時間・位相で撮影して、再構成のための信号処理を行うことで、画像のノイズと動きぼけを除去し、高フレームレート、広ダイナミックレンジ、高S/Nな画像が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】山崎智裕 他、「時空間の露光制御機能を持つイメージセンサと画質向上のための撮像・処理方式」、映像情報メディア学会誌、(2015年)、Vol.69、No.3、pp.J106-J112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のイメージセンサでは、画素ごとに異なる露光時間・位相で撮影するために、画素ごとに読み出しタイミングが異なる。そのため、行デコーダ、列デコーダ、行走査制御回路、列走査制御回路で画素のリセットや読み出しを画素ごとに個別に行っているが、通常のイメージセンサで採用されている、行/列走査回路(シフトレジスタ)で1フレームごとに画素の信号を順次読み出す方式に比べて、画素の走査が複雑で、デコーダ等の回路規模が大きくなり、読み出しの時間が長くなるという問題がある。また、露光時間の短い画素ほど、回数を多く読み出す必要があるため、画素アレイの走査ごとに読み出される総画素数が異なり、再構成の信号処理が複雑になるという問題があった。
【0005】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、複雑な走査回路を必要とせずに露光時間の異なる画素の信号読み出し処理が可能な信号処理回路及び固体撮像素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係る信号処理回路は、検出対象の電荷量に対応してパルスを発生するパルス発生回路と、前記パルスをカウントするカウンタ回路とを備えた、信号処理回路において、前記電荷量の検出動作を行う所定時間を、複数の期間に区分し、区分された各期間の前記カウンタ回路の出力信号を、前記所定時間の終了後に一括して出力することを特徴とする。
【0007】
また、前記信号処理回路は、前記カウンタ回路を複数bitカウンタからなる複数のブロックで構成し、前記期間ごとに異なる前記ブロックを選択して前記パルスをカウントすることが望ましい。
【0008】
また、前記信号処理回路は、前記カウンタ回路が、複数bitカウンタからなる複数のブロックと、前記ブロックを選択する複数のスイッチとを備え、前記スイッチを制御信号で制御して、各期間に動作する前記ブロックを選択することが望ましい。
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る固体撮像素子は、光電変換素子と、前記の信号処理回路とを、各画素に備えた固体撮像素子であって、前記電荷量の検出動作を行う所定時間は、1フレーム期間であることを特徴とする。
【0011】
また、前記固体撮像素子は、各画素が、1フレーム期間の区分のパターンを記憶したメモリを備えており、前記メモリに記憶した前記パターンに基づいて、1フレーム期間を1又は複数の期間に区分することが望ましい。
【0012】
また、前記固体撮像素子は、1フレーム期間の区分のパターンの異なる画素を、規則的に配置したことが望ましい。
【0013】
また、前記固体撮像素子は、1フレーム期間の区分のパターンの異なる画素を、非周期的に配置したことが望ましい。
【0014】
また、前記固体撮像素子は、前記固体撮像素子の出力画像の動きの特徴量を抽出し、動きの大きい第1の画素は、1フレーム期間を短い期間に区分し、動きの小さい第2の画素は、1フレーム期間を前記第1の画素よりも長い期間に区分することが望ましい。
【0015】
また、前記固体撮像素子は、各画素を構成する回路要素を異なる基板に形成し、前記基板を3次元積層したことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明における信号処理回路及び固体撮像素子によれば、複雑な走査回路を必要とせずに露光時間の異なる画素の信号読み出し処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の信号処理回路の一例を示す図である。
【
図2】フォトダイオード電圧とパルス出力のタイミングチャートである。
【
図3】信号処理回路のカウンタ回路の一例を示す図である。
【
図4】露光時間パターンの一実施形態を示す図である。
【
図5】長時間露光(L)をする画素のカウンタ回路の回路図の例である。
【
図6】中時間露光(M)をする画素のカウンタ回路の回路図の例である。
【
図7】短時間露光(S)をする画素のカウンタ回路の回路図の例である。
【
図8】本発明の固体撮像素子の一例を示す図である。
【
図9】画素のスイッチ制御の構成の一例を示す図である。
【
図10】画素のスイッチ制御の構成の別の例を示す図である。
【
図11】本発明の固体撮像素子の実装構造の一例を示す図である。
【
図12】露光時間パターンの他の実施形態を示す図である。
【
図13】適応的に各画素の露光時間パターンを設定する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明の信号処理回路の一例を
図1に示す。
図1の信号処理回路は、固体撮像素子の1画素に対応しており、1ビット型A/D変換回路(1bit ADC)を構成している。
図1の信号処理回路とその動作を、以下に説明する。
【0020】
図1の信号処理回路は、フォトダイオード(PD)10の電圧検出ノード11と、リセットトランジスタ(T
R)20と、インバータ回路(インバータ・チェーン)30と、カウンタ回路40とにより構成される。このうち、電圧検出ノード11とリセットトランジスタ(T
R)20とインバータ回路30は、光電変換された電荷量(検出対象の電荷量)に対応してパルスを発生するパルス発生回路を構成する。以下、各構成要素について説明する。
【0021】
フォトダイオード(PD)10は、光電変換素子として機能し、その電圧検出ノード11は、光がフォトダイオード10に入射することにより生成された電荷(又は光電流)により、電位(VPD)が変化する。なお、電圧検出ノード11は、フォトダイオード(PD)10の電極をそのまま利用することもできるが、電荷蓄積用のコンデンサ(図示せず)の電極を電圧検出ノード11とし、光電変換によりフォトダイオード(PD)10で生成された電荷をコンデンサに転送して、電圧検出をしてもよい。電圧検出ノード11の電圧(VPD)は、インバータ回路30に入力される。
【0022】
リセットトランジスタ(TR)20は、インバータ回路30の出力電圧(VOUT)で制御され、オン(導通)することにより、電圧検出ノード11(フォトダイオード10の電極)にリセット電圧(VRST)を印加する。このように、リセットトランジスタ(TR)20は、リセット手段として機能する。
【0023】
インバータ回路30は、反転回路であるインバータ(Inv1、Inv2,・・・Inv2n+1)が奇数段接続された多段反転回路である。各インバータは、例えばCMOSインバータで構成される。フォトダイオード10の電圧検出ノード11の電位VPDが初段のインバータ(Inv1)に入力される。インバータ回路(インバータチェーン)30の初段はインバータInv1に代えて、コンパレータとしてもよい。インバータ回路30の出力は、パルス発生回路の出力(VOUT)として、カウンタ回路40に入力されるとともに、リセットトランジスタ20のゲート電極に印加される。
【0024】
カウンタ回路40は、パルス発生回路の出力(VOUT)のパルス数をカウントする。カウンタ回路40の詳細は後述する。本発明のカウンタ回路40は、1フレーム期間ごとに確定したビット値を読み出して、リセットされる。
【0025】
次に、
図1の信号処理回路のパルス発生回路の動作を、
図2のフォトダイオード電圧(電圧検出ノード電圧)とパルス出力のタイミングチャートを用いて説明する。
【0026】
(1)フォトダイオード10のリセットが解除された時点から説明する。すなわち、フォトダイオード10の電圧検出ノード11の電位V
PDがリセット(V
RST)された状態で、初段のインバータ(Inv1)の入力がHighで出力がLow、2段目のインバータ(Inv2)の出力がHigh、最終段のインバータ(Inv2n+1)の出力、すなわちインバータ回路30の出力(V
OUT)がLowであり、リセットトランジスタ(T
R)20がオフ(OFF)状態になっているとする。これは、
図2のタイミングチャートの時間軸の最初の状態であり、これを初期化状態とする。
【0027】
(2)フォトダイオード10に光が入射すると、光電変換により生成した電子がフォトダイオード10内に蓄積して、フォトダイオード10の電極(電圧検出ノード)11の電位が下がる。
【0028】
(3)フォトダイオード10の電圧検出ノード11の電圧(VPD)が初段のインバータ(Inv1)の反転しきい値電圧(VTH)に達するとインバータ(Inv1)の出力がHighに反転する。インバータは奇数段(2n+1段)接続されており、順次出力が反転して伝達され、最終段のインバータ(Inv2n+1)の出力(インバータ回路30の出力)、すなわち、パルス発生回路の出力(VOUT)がHighとなる。なお、インバータが1段ではなく2n+1段接続されているのは、複数段のインバータによる遅延を利用して、回路動作を安定化するためである。
【0029】
(4)インバータ回路30の出力(VOUT)がHighになると、リセットトランジスタ20がオン(ON)状態になり、フォトダイオード10の電極にリセット電圧(VRST)が印加され、フォトダイオード10(及び電圧検出ノード11)が再度リセットされる。
【0030】
(5)フォトダイオード10がリセットされると、初段のインバータ(Inv1)の入力がHigh、インバータ回路の出力(VOUT)がLowになり、(1)に戻る。こうして、出力(VOUT)にパルスが生じる。
【0031】
(6)その後、上記(1)~(5)が繰り返され、インバータ回路(インバータ・チェーン)30の出力がHighとLowを繰り返す。したがって、インバータ回路30(すなわち、パルス発生回路)から繰り返しパルスが出力される。フォトダイオード10へ入射する光量が多ければ光電変換された電荷量が多くなり、フォトダイオード10の電圧検出ノード11の電位変化が速くなって、インバータ回路30の反転タイミングが速くなる。したがって、画像の露光時間内にパルス発生回路の出力(VOUT)には光量に比例した数のパルスが発生する。
【0032】
カウンタ回路40では、露光時間に発生したパルスをカウント(積算)する。本発明のカウンタ回路40は、様々な露光時間に対応することができ、1フレーム期間終了後に、カウンタ回路40の出力信号を全て読み出し、カウントをリセットする。
【0033】
このように、信号電荷量に比例するパルスのカウント値(ビット値)を出力するアナログ/デジタル変換回路が構成される。この1ビット型A/D変換回路(1bit ADC)の信号処理回路は、フォトダイオード(PD)の直近でA/D変換を行うため信号伝達時の雑音の影響を受けにくく、また、入力可能な光量が、従来の固体撮像素子のようにフォトダイオード(PD)の蓄積容量で制限されないため、ダイナミックレンジが拡大できるなどの特長がある。
【0034】
本発明は、画素ごとに異なる露光時間・位相での撮影を可能とするため、各画素の信号処理回路(特に、カウンタ回路40)を、様々な露光時間に対応して動作させる。また、その露光時間を可変とする。
【0035】
図3に、信号処理回路のカウンタ回路40の一例を示す。
図3は、
図1のインバータ回路30の出力端子(V
OUT端子)よりも右側を記載している。複数の1bitカウンタが接続された構成で、ここでは32個の1bitカウンタ(カウンタ1~カウンタ32)を用いている。各カウンタ1~32はパルスをカウントして各ビット値を出力する。1つのカウンタを経るとパルス数が半分になり、直列に接続して、最大32ビットのカウンタ回路を構成することができる。1bitカウンタは、例えばフリップフロップ等で構成することができる。
【0036】
本実施形態では、32個のカウンタを8個ごとのブロックに、すなわち、8bitカウンタのブロックとして区切る形でスイッチSW1~SW7が設けられており、後述するように、露光時間を変化させるためスイッチをON、OFFする制御を行う。なお、このカウンタとスイッチの配置は一例であり、カウンタ回路40は、1フレーム期間に発生するパルス数に応じてさらにカウンタを多段に設置してもよく、また、スイッチで区切られた各ブロック(複数bitカウンタを構成)のカウンタの数も適宜設定可能である。
【0037】
図3のカウンタ回路40を用いて、1フレーム期間、すなわち電荷量の検出動作を行う所定時間を複数の期間に区分(分割)することができ、画素ごとに、長時間露光(L)、中時間露光(M)、短時間露光(S)の3種類の露光時間のパターンを設定することができる。
【0038】
図4に、露光時間パターンの一実施形態を示す。
図4では、各露光時間のパターンにおけるスイッチ状態として、ONとなるスイッチ名を示している。記載していないスイッチはすべてOFFとする。ここで、フレーム周期(例えば1/30秒)をTとする。長時間露光(L)では、フレーム期間全体で同じスイッチ状態であり、1フレーム期間を1つの区分の期間としている(「一つの期間に区分」ということがある。)。中時間露光(M)ではフレーム周期の半分ごとにスイッチ状態が変わり、1フレーム期間を2つの期間に区分している。短時間露光(S)ではフレーム周期の1/4ごとにスイッチ状態が変わり、1フレーム期間を4つの期間に区分する。なお、本実施形態では露光時間の最大区分数(すなわち、カウンタのブロック数)は4であるが、カウンタ数やスイッチの数を増やすことによりブロック数を増やせば、露光時間のパターンの種類も増加する。
【0039】
本発明の信号処理回路は、様々なパターンで1フレーム期間を複数の期間に区分(分割)して信号電荷の検出を行ったとしても、区分された各期間の出力信号(各カウンタのビット値)の読み出しは、1フレーム期間終了後に一括で行うことができる。すなわち、1フレーム期間の露光時間のパターンにかかわらず、例えば
図3の32個のカウンタ出力を32bit連続して出力するか、又は複数の信号読み出し線を利用して32個のカウンタ出力を並列的に連続して出力することができる。これにより、従来からのXY走査により画素を選択し、その画素の出力bitをまとめて(一括して)読み出すことができる。
【0040】
図5は、長時間露光(L)をする画素のカウンタ回路40の回路図(接続状態)の例である。32個のカウンタが直列に接続されることで、32bitのカウンタを構成している。1フレーム期間に発生したパルス数を計数し、32bitの信号を得る。1フレーム期間終了後に32bitの信号を出力し、その後、カウンタ値をリセットする。
【0041】
図6は、中時間露光(M)をする画素のカウンタ回路40の回路図(接続状態)の例である。
図6(a)は1フレーム期間の前半(0~T/2)、
図6(b)は1フレーム期間の後半(T/2~T)の状態である。
図6(a)では、カウンタ1~16のカウンタが直列に接続されることで、16bitのカウンタを構成しており、1フレーム期間の前半(T/2)に発生したパルス数を計数し、16bit信号を得る。
図6(b)では、カウンタ17~32のカウンタが直列に接続されることで、16bitのカウンタを構成しており、1フレーム期間の後半(T/2)に発生したパルス数を計数し、16bitの信号を得る。1フレーム期間終了後に中時間露光2回×16bit(合計32bit)の信号を出力し、その後、カウンタ値をリセットする。
【0042】
図7は、短時間露光(S)をする画素のカウンタ回路40の回路図(接続状態)の例である。
図7(a)はフレーム期間の初めの1/4(0~T/4)、
図7(b)は次の1/4期間(T/4~T/2)の状態である。
図7(a)では、スイッチSW1のみがONとなり、カウンタ1~8の8個のカウンタが直列に接続されることで、8bitのカウンタを構成しており、1フレーム期間の1/4(T/4)に発生したパルス数を計数し、8bitの信号を得る。
図7(b)では、スイッチSW2のみがONとなり、カウンタ9~16の8個のカウンタが直列に接続されることで、8bitのカウンタを構成しており、1フレーム期間の1/4(T/4)に発生したパルス数を計数し、8bitの信号を得る。
【0043】
以下、図示しないが、次の1/4期間(T/2~3T/4)は、スイッチSW3のみがONとなり、カウンタ17~24の8個のカウンタが直列に接続されることで、8bitのカウンタを構成し、1フレーム期間の1/4(T/4)に発生したパルス数を計数して、8bitの信号を得る。同様に、次の1/4期間(3T/4~T)は、スイッチSW4のみがONとなり、カウンタ25~32の8個のカウンタが直列に接続されることで、8bitのカウンタを構成し、1フレーム期間の1/4(T/4)に発生したパルス数を計数して、8bitの信号を得る。1フレーム期間終了後に短時間露光4回×8bit(合計32bit)の信号を一括して出力し、その後、カウンタ値をリセットする。
【0044】
すなわち、本発明の信号処理回路のカウンタ回路40は、複数bitカウンタ(8bitカウンタ)からなる複数(4個)のブロックと、複数のスイッチSW1~SW7とを備え、スイッチを制御信号で制御して、1フレーム期間を区分した各期間に動作するブロックを選択する。また、カウンタ出力は1フレーム期間終了後に一括して出力する。
【0045】
図8に、本発明の固体撮像素子の一例を示す。
図8の固体撮像素子100の各画素50には、前述の信号処理回路が用いられている。また、各画素に記載されたL,M,Sの記号は、
図4で説明した露光時間のパターンを示している。なお、
図8では、露光時間パターンの異なる各種の画素を規則的に配置しているが、この配置は不規則なものであってもよい。
【0046】
画素アレイの周囲に行/列走査のための垂直シフトレジスタ60及び水平シフトレジスタ70が配置されており、1フレーム期間終了後にXYアドレス方式で各画素のカウンタ値を読み出す。すなわち、垂直シフトレジスタ60により行走査線61を順次走査し、行ごとに各画素50のカウンタ回路40のbit出力を読み出し線71に出力し、次いで、水平シフトレジスタ70により列走査を行って、各画素50の32bitの出力を順次読み出すことができる。なお、各画素50の出力を伝送する信号線は、図中では1本の線で示されているが、必要に応じて複数の信号線を用いて出力bitを並列的に読み出してもよい。
【0047】
その後のカウンタ値のリセットについては、読み出しと同じようにXYアドレス方式で順次行っても良いが、走査をしないで、全画素同時にリセットを行っても良い。露光時間や位相が走査によって画素ごとに異なってしまうことを避けるため、後者のリセット方法のほうが望ましい。
【0048】
このように、本発明の固体撮像素子は、画素ごとに露光時間が異なるにもかかわらず、従来と同じ走査回路を用いて、各画素のbit出力を同時に読み出すことができる。
【0049】
画素の露光時間のパターン(L,M,S)は例えば
図8のように周期的に配置されていても良いし、エリアごとに異なる露光時間としても良いし、ランダムに配置しても良い。非周期的配置にすることにより、空間的符号化露光を行うことができる。固体撮像素子外部のPC(personal computer)やプロセッサなどの信号処理装置で、各画素の露光時間のパターン(L,M,S)の配置情報を用いて、高フレームレート、広ダイナミックレンジ、高S/Nな画像を得るための、32bitの信号を再構成する信号処理を行うことができる。
【0050】
図9に、画素のスイッチ制御の構成の一例を示す。
図9の画素50は、一画素ごとに1ビット型A/D変換回路(ADC)51と、メモリ52と、スイッチ(SW)制御部53を備えている。ADC51は、
図1乃至
図3で説明した信号処理回路(1ビット型A/D変換回路)と同じ構成を有している。
【0051】
メモリ52は、各画素の露光時間のパターン(L,M,S)を記憶する。メモリ52にはDRAM(Dynamic Random Access Memory)又はSRAM(Static Random Access Memory)などを用いることができる。
【0052】
スイッチ(SW)制御部53は、ADC51のカウンタ回路40の各スイッチSWをON/OFFするロジック回路を構成しており、スイッチ制御(SW制御)信号を出力する。スイッチ制御部53は、メモリ52に保持している露光時間のパターン(1フレーム期間の区分のパターン)を読み出し、パターンに基づいて、
図4に示すシーケンスに従って、1フレームに複数回のスイッチ制御を行い、カウンタ回路40を制御する。
【0053】
図10は、画素のスイッチ制御の構成の別の例である。
図10の画素50は、画素内に1ビット型A/D変換回路(ADC)51と、メモリ52とを備えているが、スイッチ(SW)制御部54は、画素外に設けている。
【0054】
SW制御部54は、
図9のように画素ごとに配置しても良いが、全画素共通でも良いため、画素面積の増大を避けるため
図10のように画素の外に、例えば全画素で1つ、或いは、複数画素ごと又は行ごとに1つなどとして、SW制御部54を配置し、複数画素を制御することができる。なお、SW制御部54を2次元平面上で画素間共有すると配線数が多くなるため、3次元集積化技術を用いて画素の真下にSW制御部54を配置することが望ましい。
【0055】
図11は、本発明の固体撮像素子の実装構造の一例を示す図である。
図11の固体撮像素子100は、画素を構成する各回路要素を異なる基板に形成し、それを3次元積層したものである。
【0056】
図11において、固体撮像素子100は、光電変換層(受光層)110と、パルス発生回路層120と、カウンタ回路層130と、制御信号供給層140とから、構成されている。各層は、画素単位で分割されており(図では例えば16分割)、分割されたそれぞれの区画は縦方向に接続され(接続配線は図示せず)、全体で固体撮像素子100が構成されている。
【0057】
すなわち、光電変換素子(フォトダイオード)10を最上層の受光層110に形成し、リセット手段20及びインバータ回路30を2層目のパルス発生回路層120に形成し、カウンタ回路40をカウンタ回路層130に形成する。そして、スイッチ制御信号供給回路(メモリ52、SW制御部53,54)や走査回路等を最下層の制御信号供給層140に形成して、各回路を縦方向に接続し、例えば最下層140から出力を取り出すことができる。
【0058】
このように、カウンタ回路やスイッチ制御信号供給回路を1bit ADCとは別の基板に形成して3次元積層して、画素ごとに3次元的に配線することで、高精細な固体撮像素子を実現できる。
【0059】
図12に、露光時間のパターンの他の実施形態を示す。
図4と同様に、各露光時間のパターンにおけるスイッチ状態として、ONとなるスイッチ名を示している。本発明の固体撮像素子の画素は、
図12のように、一画素に、露光時間の異なる複数のパターンを混在させること(1フレーム期間を異なる長さの期間に区分すること)も可能である。特に、2行目は、1つの画素を1フレーム期間中に、短時間露光(S)-中時間露光(M’)-短時間露光(S)を行う例である。中時間露光(M’)は、1行目に記載した中時間露光(M)と比べて位相(露光のタイミング)が異なっている。このように同じ時間であっても異なる位相で露光することができ、再構成の信号処理によって高フレームレート、広ダイナミックレンジ、高S/N化に寄与する。3行目は、中長時間露光(ML)と短時間露光(S)を行う例であり、中長時間露光(ML)は1フレームの3/4(3T/4)の露光に対応する。さらに、カウンタ及びスイッチの数を増やすことにより、露光時間のパターンの種類を増加させることができる。
【0060】
このように、画素ごとに異なる露光時間のパターン(1フレーム期間の区分のパターン)を設定し、これらの画素を、例えば
図8のように配置して、固体撮像素子を構成することができる。また、
図12に示された露光時間パターンの画素と、
図4に示された露光時間パターンの画素を、混在させて用いることも可能である。
【0061】
露光時間のパターン(L,M,S)は全期間固定としても良いし、動的に変更することも可能である。
図13は、適応的に各画素の露光時間のパターンを設定する例である。
【0062】
固体撮像素子100の出力画像をPC(personal computer)、マイクロプロセッサ、FPGA(field-programmable gate array)などで構成された画像処理部200に入力し、画像処理部200で動きベクトルなどの画像の動きの特徴量を抽出する。例えば、画像の中心の領域の動きが大きく、その近傍の領域が中程度、さらにその周辺の領域の動きが小さいという場合に、その動きを検出した画素の配置情報にしたがって、動きを3段階に分けて大きい順に、短時間露光(S)、中時間露光(M)、長時間露光(L)のパターンを各画素50に設定し、画素メモリに書き込む。この書き込み動作は1フレームごとに行うこともできるし、複数フレームごとに行っても良い。
【0063】
なお、3段階に分けることは一例であって、2段階に分けてもよい。すなわち、少なくとも動きの大きい画素(第1の画素)は1フレーム期間を多数の短い期間に区分して短時間露光とし、動きの小さい画素(第2の画素)は1フレーム期間を1又は少数に区分して長時間露光とすればよい。このような露光時間の設定によって、動きのある部分の画素50を高速に動作させて効率的に動解像度を高めることができる。画像処理部200はPC等の固体撮像素子100の外部装置に限らず、3次元集積技術を用いて画素エリアの真下に集積して固体撮像素子100と一体化することも考えられる。
【0064】
本発明の信号処理回路によれば、画素ごとに異なる露光時間のパターンを設定しても、短時間露光~長時間露光の出力信号がすべて画素内に保持されており、各画素のbit数が例えば32bitで統一されているため、1フレーム期間に複数回読み出す必要はなく、1回でまとめて出力できる。このため、通常の固体撮像素子で用いられている走査回路を用いることができるとともに、読み出し時間を最短にできる。通常の固体撮像素子と同じく全画素を読み出すため、フレームごとのデータ量が一定であり、再構成の信号処理が容易となる。
【0065】
なお、本発明の信号処理回路の利用方法として、画素ごとに異なる露光時間のパターンとしなくても、例えば全画素を短時間露光(S)で動作させることで、1フレームに1回の全画素読み出しで、複数回の露光による信号が得られることとなる。従来、短時間露光を行うためには、1フレームに複数回全画素読み出しをする必要があったが、全画素読み出しの時間が増えることによって、露光時間が短縮してしまう。これに対して、本方式では、通常の固体撮像素子と同じく、1フレームに1回の全画素読み出しとなるため、露光時間を確保することができる。
【0066】
本発明の信号処理回路では、短時間露光になるほど、カウンタの割り当てbitが減るため、高速性とbit深度(階調)がトレードオフの関係にある。このため、短時間露光でカウンタを分割しても十分なbit深度が得られるように、あらかじめカウンタの数を設定しておくことが望ましい。平面的にカウンタの数を増やすことで画素サイズが大きくなるが、3次元集積化技術を用いて、カウンタを複数の層に分割して上下の層を画素ごとに接続する方法により、画素の微細・高集積化が可能となる。あるいは、高速性とbit深度がトレードオフの関係にあっても、画素ごとに異なる露光時間のパターンを設定して、再構成の信号処理を行う方法によれば、高速性またはbit深度の優れた画素の信号で、その他の画素の信号を補完することになるため、固体撮像素子全体としてトレードオフを解消できるという効果もある。
【0067】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 フォトダイオード
11 電圧検出ノード
20 リセットトランジスタ
30 インバータ回路
40 カウンタ回路
50 画素
51 1ビット型A/D変換回路
52 メモリ
53、54 スイッチ制御部
60 垂直シフトレジスタ
61 行走査線
70 水平シフトレジスタ
71 読み出し線
100 固体撮像素子
110 光電変換層
120 パルス発生回路層
130 カウンタ回路層
140 制御信号供給層
200 画像処理部