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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】コバルトイオン吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20230403BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20230403BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230403BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230403BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230403BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
B01J20/06 C
G21F9/12 501D
B01J20/30
B01J20/28 Z
C02F1/28 E
C02F1/28 B
C02F1/28 F
C01G23/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019089756
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020185505
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】石岡 英憲
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚文
(72)【発明者】
【氏名】橋本 展幸
(72)【発明者】
【氏名】安藤 綾香
(72)【発明者】
【氏名】吉見 智子
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163954(WO,A1)
【文献】特開昭62-063899(JP,A)
【文献】特開2015-188795(JP,A)
【文献】特開2016-195981(JP,A)
【文献】特開平01-258737(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050270(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00- 20/28、20/30- 30/34
C02F 1/28
G21F 9/00- 9/36
C01G 1/00- 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-x O・2TiO ・nH O(式中、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物からなるコバルトイオン吸着主剤100質量部に対して、非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子からなる結合材を0.3質量部以上8.0質量部以下含有し、粒径が100μm以上1000μm以下であることを特徴とする粒子状のコバルトイオン吸着材。
【請求項2】
前記二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径が0.5μm以上3.0μm以下である請求項1に記載のコバルトイオン吸着材。
【請求項3】
前記金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子の平均短軸長が0.01μm以上0.30μm以下である請求項1又は請求項2に記載のコバルトイオン吸着材。
【請求項4】
前記金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子が、形状異方性を有しており、平均長軸長を平均短軸長で除した軸比が3以上100以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコバルトイオン吸着材。
【請求項5】
化学式がKO・2TiOで表される二チタン酸カリウムを水和させて、カリウムイオン(K)とプロトン(H)とをカチオン交換させて、化学式がK2-xO・2TiO・nHO(式中、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物を得ること、及び
結合材として非水溶性で形状異方性を有する金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を、二チタン酸水素カリウム水和物100質量部に対して0.3質量部以上8.0質量部以下となるように添加して造粒すること
を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
【請求項6】
(1)チタン源及びカリウム源を混合し、
(2)得られる混合物を焼成して二チタン酸カリウムを得て、
(3)二チタン酸カリウムを水と接触させてスラリーとし、二チタン酸カリウムを水和させると共にカリウムイオンとプロトンとのカチオン交換を生じさせ、二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xO・2TiO・nHO、ただしxは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)を得て、
(4)得られる二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xO・2TiO・nHO、ただしxは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)をスラリー中で湿式粉砕して、
(5)スラリーに、結合材である非水溶性の金属又は金属水酸化物の微粒子を、二チタン酸水素カリウム水和物100質量部に対して0.3質量部以上8.0質量部以下となるように添加し、撹拌、混合して、
(6)スラリーから二チタン酸水素カリウム水和物及び結合材粒子を含むろ過ケーキを固液分離し、
(7)当該ろ過ケーキを造粒し、
(8)造粒により得た粒子を60℃以上150℃以下の温度で1時間以上24時間以下の条件で乾燥し、
(9)乾燥した造粒粒子を解砕し、整粒して、100μm以上1000μm以下の粒径範囲を有する粒子状のコバルトイオン吸着材とする
工程を含む、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を含有する水溶液中から放射性コバルトイオンを除去する際に用いることができる、コバルトイオンの吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、福島第一原子力発電所の事故に伴い、放射性物質を含んだ汚染水の処理が問題となっている。放射性物質は化学的に無効化することは不可能であるため、放射性物質を含んだ汚染水を処理するには、イオン吸着材(以下、「吸着材」と記す)を用いて放射性物質を吸着し、回収する方法が効果的である。汚染水中には海水や雨水が混入し、様々な物質が溶解しているため、吸着材は放射性物質を選択的に吸着する必要がある。
【0003】
汚染水に含まれる主要な放射性物質はストロンチウム-90(90Sr)及びセシウム-137(137Cs)である。これらについては放射性ストロンチウムの吸着材として、種々のチタン酸アルカリ金属を使用することが提案されている。
【0004】
一方で、事故の処理が長引くに従い、汚染水中の放射性コバルトの処理が新たに課題となっている。コバルト-60(60Co)は、コバルト-59(59Co)の中性子捕獲により生成する核分裂生成物である。原子炉周辺では高温のためコバルト-59が配管から少量ずつ水中に溶出し、周囲の放射性物質の影響でコバルト-60に変化する。コバルト-60は、ベータ崩壊をしてニッケル-60になり、崩壊生成物のニッケル-60がガンマ崩壊をして1.17MeVと1.33MeVのガンマ線を放出する。これらのガンマ線は透過率が強く、エネルギー量も大きいため、強い被爆線源となっている。
福島第一原子力発電所の事故現場でも、汚染水にコバルト-60が混入している。吸着材を使用して汚染水中のストロンチウム-90やセシウム-137を回収した後も、汚染水中にコバルト-60が残留するため、汚染水の処理が完了しない。
【0005】
特許文献1では、化学式がMTiで表されるチタン酸塩を用いた、コバルトを含有する被処理水の処理装置及び処理方法が記載されている。
特許文献1にはチタン酸塩粉末を一次粒子として造粒体を生成することが記載されており、その際、粘土鉱物に代表されるバインダーを、チタン酸塩1.0質量部に対して0.1~0.5質量部添加することが好ましいと記載されている。特許文献1に記載の吸着材には、コバルト-60の吸着に寄与しない粘度鉱物やケイ酸塩化合物といった物質が多量に含まれることになり、単位体積あたりの吸着容量が小さくなる。また、吸着材の強度を得るために造粒後に焼成を行うことが好ましいと記載されており、製造に係わるエネルギーコストが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-070929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、吸着容量が大きく、微粉が発生しにくく、放射性コバルトイオン含有液の除染に好適な、コバルトイオン吸着材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、化学式がK2-x
・2TiO・nHO(式中、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物をコバルトイオン吸着の主剤とし、これに結合材として非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を添加、混合し、さらにこれらの混合物を造粒、乾燥することによって、コバルトイオンの吸着性能に優れ、微粉が発生しにくく、水処理材としての取り扱い性に優れる、放射性コバルトイオン含有液の除染に好適なコバルトイオン吸着材が得られることを見出した。
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
二チタン酸水素カリウム水和物からなるコバルトイオン吸着主剤100質量部に対して、非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子からなる結合材を0.3質量部以上8.0質量部以下含有し、粒径が100μm以上1000μm以下であることを特徴とする粒子状のコバルトイオン吸着材。
[態様2]
前記二チタン酸水素カリウム水和物が化学式がK2-xO・2TiO・nHO(式中、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物であり、二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径が0.5μm以上3.0μm以下である態様1に記載のコバルトイオン吸着材。
[態様3]
前記金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子の平均短軸長が0.01μm以上0.30μm以下である態様1又は態様2に記載のコバルトイオン吸着材。
[態様4]
前記金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子が、形状異方性を有しており、平均長軸長を平均短軸長で除した軸比が3以上100以下である、態様1から態様3のいずれか1項に記載のコバルトイオン吸着材。
[態様5]
化学式がKO・2TiOで表される二チタン酸カリウムを水和させて、カリウムイオン(K)とプロトン(H)とをカチオン交換させて、化学式がK2-xO・2TiO・nHO(式中、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物を得ること、及び
結合材として非水溶性で形状異方性を有する金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を、二チタン酸水素カリウム水和物100質量部に対して0.3質量部以上8.0質量部以下となるように添加して造粒すること
を含む、態様1から態様4のいずれか1項に記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
[態様6]
(1)チタン源及びカリウム源を混合し、
(2)得られる混合物を焼成して二チタン酸カリウムを得て、
(3)二チタン酸カリウムを水と接触させてスラリーとし、二チタン酸カリウムを水和させると共にカリウムイオンとプロトンとのカチオン交換を生じさせ、二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xO・2TiO・nHO、ただしxは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)を得て、
(4)得られる二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xO・2TiO・nHO、ただしxは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)をスラリー中で湿式粉砕して、
(5)スラリーに、結合材である非水溶性の金属又は金属水酸化物の微粒子を、二チタン酸水素カリウム水和物100質量部に対して0.3質量部以上8.0質量部以下となるように添加し、撹拌、混合して、
(6)スラリーから二チタン酸水素カリウム水和物及び結合材粒子を含むろ過ケーキを固液分離し、
(7)当該ろ過ケーキを造粒し、
(8)造粒により得た粒子を60℃以上150℃以下の温度で1時間以上24時間以下の条件で乾燥し、
(9)乾燥した造粒粒子を解砕し、整粒して、100μm以上1000μm以下の粒径範囲を有する粒子状のコバルトイオン吸着材とする
工程を含む、態様5に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、化学式がK2-xO・2TiO・nHOで表される二チタン酸水素カリウム水和物を吸着主剤として、これに結合材として非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を、吸着主剤100質量部に対して0.3質量部以上8.0質量部以下となるように添加、混合し、さらにこれらの混合物を造粒、乾燥することにより、吸着主剤の吸着性能を損なうことなく機械的強度を向上させ、微粉の発生を防ぐことができる。優れた吸着容量を有することで交換の頻度を減らし、実質稼働率を向上させることができると共に、交換作業時の被曝量を低減することができる。また、微粉粒子による吸着塔ストレーナー及び吸着材の間の水流路の閉塞が生じないため、差圧の上昇が抑制される。また、放射性物質を含有した微粉が吸着材を充填した容器から外環境へ漏洩することも抑制することができる。
【0011】
なお、本コバルトイオン吸着材で放射性コバルト含有水を除染する際に、ストロンチウム-90に代表される、放射性コバルト以外の放射性物質を同時に吸着しても構わない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではなく、本発明はその要旨を超えない範囲において、以下の実施形態に開示される各要素を種々変更して実施することができる。
【0013】
本発明のコバルトイオン吸着材は、コバルトイオン吸着の主剤である二チタン酸水素カリウム水和物と、結合材である非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を含有することを特徴とする。二チタン酸水素カリウム水和物は、化学式がK2-xO・2TiO・nHO(ただし、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表されるものが好ましい。
【0014】
本発明においてコバルトイオン吸着の主剤として用いる二チタン酸カリウム水和物は、二チタン酸カリウムを水和させて、カリウムイオンとプロトンとをカチオン交換させることにより得ることができ、一般に化学式K2-xO・2TiO・nHOを有する。ここで、xが1.8よりも大きくなるとTiO三角両錘体からなる層のへき開が起こりやすくなり、チタン酸水素カリウム水和物結晶の強度そのものが低下してしまい、結合材を添加してもコバルトイオン吸着材の機械的強度を向上させることが難しくなる。また、xが0.1よりも小さいと吸着性能が劣化することから、xは0.1以上1.8以下が好ましい。xが0.1以上1.8以下で、層間距離が拡がった状態であれば、コバルトイオン吸着性能が発現される。水和の状態すなわちnの値は限定されないが、通常はnは0よりも大きく2以下である。
【0015】
本発明で用いる化学式がK2-xO・2TiO・nHO(ただし、xは0.1以上1.8以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物は、造粒前の湿式粉砕後のスラリー中でのメディアン径が0.50μm以上3.00μm以下であることが望ましい。メディアン径が0.50μm以上であれば、結合材である非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子との粒径の差が小さ過ぎず、結合材による造粒体の強度向上効果が得られる。また、メディアン径が3.00μm以下であれば、粒
子同士の接触箇所や近接箇所に形成される微細構造が少なくならず、結合材による造粒体の強度向上効果が得られる。
【0016】
二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径は、以下の方法で測定することができる:マイクロトラック・ベル株式会社製レーザー光回折散乱式粒度分析計マイクロトラックMT3300を測定に用いる。分散媒としてイオン交換水を使用し、スラリーを調製する。スラリーの濃度は、測定装置において、回折光強度及び散乱光強度が適正範囲となるように調整する。スラリーを測定装置に付設した自動試料循環器の超音波分散槽に適量滴下した後に、超音波分散を出力40Wで300秒行う。その後、イオン交換水の屈折率を1.33、測定対象粒子の光透過性を吸収、計測時間を30秒としてメディアン径(d50)を2回測定し、それらの平均値を二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径(d50)とする。
【0017】
本発明において結合材として用いる金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子は、非水溶性の粒子である。非水溶性とは、水に対する溶解度が小さく、粒子を常温常圧の水と混合した際に水中に溶解せずに形状を保持するものをいう。また、前記金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子は、形状異方性の粒子であることが好ましい。形状異方性とは、球状のように形状が各方向において一定となるものや、あるいは立方体状や八面体状のように形状が各方向において一定に近いものではなく、ある軸が他の軸よりも長い又は短いというように、方向によって形状が異なることをいう。形状異方性には、例えば、針状、薄板状、紡錘状、扇状、短冊状などの形状が含まれる。結合材の微粒子が形状異方性であると、結合材を含有するコバルトイオン吸着材の水中強度がさらに向上する。
【0018】
結合材として用いる微粒子は、一般にコバルトイオンの吸着主剤である二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径よりも小さい平均短軸長を有しており、平均短軸長が0.010μm以上0.300μm以下であることが好ましく、平均長軸長を平均短軸長で除した軸比が3以上100以下であることが望ましい。平均短軸長又は軸比が上記の範囲を逸脱すると強度向上効果が得にくくなり、あるいはコバルトイオンの吸着性能が低下することがある。
【0019】
金属酸化物又は金属水酸化物(結合材)の微粒子の平均短軸長及び軸比は、以下の方法で測定することができる:
各結合材の透過型電子顕微鏡写真より50個以上の粒子についてCarl Zeiss社製Particle Size Analyzerを用いて短軸長及び長軸長を計測し、平均短軸長と平均長軸長を求める。平均長軸長を平均短軸長で除して軸比を算出する。
【0020】
本発明の粒子状のコバルトイオン吸着材は、(1)チタン源及びカリウム源を混合し、(2)得られる混合物を焼成して二チタン酸カリウムを得て、(3)二チタン酸カリウムを水と接触させてスラリーとし(泥奬化)、二チタン酸カリウムを水和させると共にカリウムイオンとプロトンとのカチオン交換を生じさせ、二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xO・2TiO・nHO、ただしxは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)を得て、(4)得られる二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xO・2TiO・nHO、ただしxは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)をスラリー中で湿式粉砕して、(5)このスラリーに結合材となる非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を添加し、撹拌、混合して、(6)スラリーから二チタン酸水素カリウム水和物及び結合材を含むろ過ケーキを固液分離し、(7)当該ろ過ケーキを造粒し、(8)乾燥した造粒粒子を解砕し、整粒して、100μm以上1000μm以下の粒径範囲を有するコバルトイオン吸着材とすることにより製造することができる。
【0021】
化学式がK2-xO・2TiO・nHO(ただし、xは0.1以上1.8以下
、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物は、イルメナイト鉱石を硫酸法にて溶解し、得られたメタチタン酸スラリーに炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム、酸化カリウム等のカリウム源を混合して、乾燥、焼成し、得られた二チタン酸カリウム(KO・2TiO)を水と混合して、水和及びカリウムイオン(K)とプロトン(H)とのカチオン交換反応を生じさせることにより得ることができる。
【0022】
二チタン酸水素カリウム水和物に、結合材として非水溶性の金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を加えることで、吸着主剤である二チタン酸水素カリウム水和物のコバルトイオンの吸着性能を低下させることなく、機械的強度に優れた吸着材粒子を得ることができる。
【0023】
以下、本発明のコバルトイオン吸着材の製造方法を工程別に説明する。
[原料]
本発明で用いるチタン源としては、二酸化チタン、亜酸化チタン、オルトチタン酸又はその塩、メタチタン酸又はその塩、水酸化チタンなどを、単独あるいは2種類以上を組合せて用いることができる。特にメタチタン酸を好適に用いることができる。メタチタン酸は、イルメナイト等のチタン鉱石を硫酸にて溶解し、加水分解後にスラリーとして得られるため、焼成物よりも安価である。さらに、メタチタン酸は焼成物より微細であるため、カリウム源との混合性及び反応性にも優れている。
【0024】
カリウム源としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、シュウ酸カリウムなどを単独あるいは2種類以上を組合せて用いることができる。カリウム源としては、焼成反応において溶融するものが好ましく、特に炭酸塩が好ましい。炭酸カリウムは、チタン源との焼成反応において、溶融あるいは分解し、反応が起きやすく、また分解した後も化学的に不活性な二酸化炭素が発生する以外は副生成物が発生しないので好ましい。
【0025】
結合材源としては、水に不溶(非水溶性)な金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子であれば特に制約なく用いることができ、コストや入手の容易さ、あるいは生体及び環境への影響等を考慮して選択すればよい。代表的な金属酸化物又は金属水酸化物としては、酸化鉄、オキシ水酸化鉄、酸化チタン、オキシ水酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。酸化鉄には、三酸化二鉄、四酸化三鉄等が含まれ、また、マグネシウムフェライトや亜鉛フェライトのようなフェライトも含まれる。これらの金属酸化物又は金属水酸化物は、天然あるいは工業的に製造され潤沢に供給されていて入手が容易であり、加えて生体や環境に対する影響も少ないので好ましい。
【0026】
[混合]
チタン源とカリウム源の混合割合としては、1モルのTiに対してKは0.95モル以上1.25モル以下の割合が好ましい。1モルのTiに対するKの割合が0.95モルよりも小さい場合は四チタン酸カリウム等の不純物の量が多くなることがあり、1モルのTiに対するKの割合が1.25モルよりも大きい場合は余剰のカリウムがチタン酸カリウムを生成することなく残存する可能性がある。いずれの場合もカチオン交換容量が小さくなり、コバルトイオンの吸着容量が低下する。なお、本願において、粒子の組成分析には、誘導結合プラズマ質量分析計ICP-Mass(アジレント・テクノロジー株式会社製Agilent 7700x ICP-MS)にて測定した値を用いる。チタン源とカリウム源の混合は、両原料共に固体を用いる乾式混合、又は一方の原料或いは両原料共に泥漿(スラリー)或いは水溶液を用いる湿式混合で行うことができる。
【0027】
乾式混合する場合は、得られた混合物をそのまま焼成することができる。湿式混合する場合は、チタン源とカリウム源の混合スラリーを適切な方法で乾燥した後、焼成する。混
合スラリーの乾燥を容易にかつ効率よく行うために、乾燥の前に造粒してもよい。スラリーからの造粒方法は、通常の造粒方法、例えば粘度の高いスラリーを有孔板から押し出す方法などを制限なく用いることができる。乾燥装置の形式や乾燥の熱源は特に限定されないが、乾燥する時間が長くなると水溶性のカリウムが水の移動に伴ってバルクの内部からバルクの表面に移動することにより、Ti/Kモル比に偏りを生じるため、乾燥する時間が短い噴霧乾燥法が好ましい。
【0028】
[焼成]
チタン源とカリウム源の原料混合物を焼成することによって二チタン酸カリウムを得る。焼成温度及び焼成時間に特に制約はないが、700℃以上850℃以下の範囲の温度で1時間以上24時間以下保持することが好ましい。昇温速度及び降温速度は特に制約は無いが、通常、3℃/分以上8℃/分以下とすることが好ましい。
【0029】
[解砕及び泥奬化]
得られた焼成物の泥漿(スラリー)化及び次工程の湿式粉砕を容易にするために、焼成物を解砕することが好ましい。解砕は、通常の解砕手段、例えば、らいかい機、エッジランナー式粉砕機、ハンマー式粉砕機、気流式粉砕機、高速撹拌型解砕機、双ロール式ミル等を用いて行うことができる。焼成物を解砕した後、解砕物に水を加えて泥漿(スラリー)化する。泥漿(スラリー)化により、二チタン酸カリウムにおいて、水和及びカリウムイオンとプロトンとのカチオン交換が生じ、K2-xO・2TiO・nHO(ただし、xは0.1以上1.8以下、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物となる。
【0030】
[湿式粉砕]
上記の解砕及び泥漿化で得られた泥漿(スラリー)を湿式粉砕する。ただし、過剰の湿式粉砕を行うと、微粉化が進行し過ぎて、最終物である吸着材の機械的強度が低下するため、適度の湿式粉砕を行う。湿式粉砕後のスラリーにおける二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径は、0.50μm以上3.00μm以下が好ましい。湿式粉砕は、ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどの通常の湿式粉砕方法を制限なく用いることができる。湿式粉砕の条件は、スラリー中の二チタン酸水素カリウム水和物の性状や湿式粉砕後の処理条件に応じて適宜選択することができる。
【0031】
[結合材混合]
上記の湿式粉砕で得た泥漿(スラリー)に結合材となる金属酸化物又は金属水酸化物の微粒子を添加して撹拌し、二チタン酸水素カリウム水和物と混合する。金属酸化物又は金属水酸化物は固形(乾燥状態)で添加するか、予め水と撹拌、混合して泥漿(スラリー)状態で添加してもよい。あるいは、金属酸化物又は金属水酸化物が強く凝集していて簡便な撹拌では二チタン酸水素カリウム水和物と均一に混合しづらいのであれば、上記の二チタン酸水素カリウム水和物の解砕及び泥漿化工程において金属酸化物又は金属水酸化物を添加して、湿式粉砕工程で二チタン酸水素カリウム水和物と共に湿式粉砕してもよい。
【0032】
[ろ過]
湿式粉砕した泥漿(スラリー)を適切なろ過装置を用いて固液分離する。ろ過装置に特に制限はなく、通常のろ過装置、例えば減圧ろ過装置、プレス式ろ過装置などを用いることができる。造粒の容易さを勘案すると、ろ過ケーキの含水率は35wt%以上50wt%以下とすることが好適である。
【0033】
[造粒]
得られたろ過ケーキを造粒する。造粒方法としては、ろ過ケーキを直接押出造粒してもよいし(湿式造粒)、ろ過ケーキを乾燥した後、塊状乾燥物を粉砕して整粒してもよい(
乾式造粒)。押出造粒装置としては、スクリュー型押出造粒機、ロール型押出造粒機、ブレード型押出造粒機、自己成形型押出造粒機等を用いることができる。
【0034】
[乾燥]
乾式造粒の際のろ過ケーキの乾燥時、又は湿式造粒した造粒体の乾燥時に用いる乾燥装置及びその熱源には特に制約はないが、60℃以上150℃以下の温度で1時間以上24時間以下の時間をかけて行うことが好ましい。加熱によって生成物の層間距離が減少する。層間距離はイオン交換能に影響する。従って、温度管理は厳密に行うことが好ましい。
【0035】
[解砕及び整粒]
乾式造粒した造粒体又は湿式造粒後に乾燥した造粒体を解砕し、必要に応じて分級装置を用いて、粒径100μm以上1000μm以下、より好ましくは150μm以上600μm以下となるように整粒して、コバルトイオン吸着材を得る。整粒後の粒径が上記範囲内であれば、吸着塔などへの充填体積を好適範囲に維持することができ、吸着塔を閉塞するおそれも少ない。
【実施例
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。以下に挙げる例は、単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。[合成例:二チタン酸カリウムの合成]
酸化チタン換算で14.75kgのTiを含むメタチタン酸スラリーに、炭酸カリウム(旭硝子製)15.75kgを溶解して、原料混合物スラリーを調製した。原料混合物スラリーを噴霧乾燥し、チタン源とカリウム源を含む混合乾燥物を得た。
【0037】
得られた混合乾燥物2kgをこう鉢2個に各1kgずつ充填し、電気炉にて設定温度770℃で6時間焼成した。得られた焼成物を、ハンマー式ミルを用いて解砕した。得られた粉末をX線回折装置(株式会社リガク製RINT-TTRIII)で同定したところ、化学式がKO・2TiOで表される二チタン酸カリウムのピークと一致した。また、走査型電子顕微鏡を用いて測定した粉末の一次粒子の平均粒子径は1.0μm、二次粒子の平均粒子径は15μmであった。
【0038】
[実施例1:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径(d50)は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.1であった。
【0039】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比10の針状形状を有するα型オキシ水酸化鉄2gを添加し、撹拌、混合した。
次に減圧ろ過法でスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0040】
[実施例2:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0041】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比10の針状形状を有するα型オキシ水酸化鉄20gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により100μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径100μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0042】
[実施例3:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末3000gと分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム15gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.55μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは0.1であった。
【0043】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比10の針状形状を有するα型オキシ水酸化鉄15gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により100μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径100μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0044】
[実施例4:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末100gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は2.56μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.8であった。
【0045】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比10の針状形状を有するα型オキシ水酸化鉄7gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0046】
[実施例5:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.0であった。
【0047】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比30の針状形状を有するγ型オキシ水酸化鉄2gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒した。得られた造粒物の3質量%分の水を噴霧した後、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により150μm以上300μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径150μm以上300μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0048】
[実施例6:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末1200gを水2Lに添加して(水戻し)、
スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.69μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは0.6であった。
【0049】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比30の針状形状を有するγ型オキシ水酸化鉄60gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒した。得られた造粒物の3質量%分の水を噴霧した後、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上1000μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上1000μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0050】
[実施例7:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0051】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長は0.025μm、軸比は4の紡錘状形状を有するルチル型二酸化チタン20gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により100μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径100μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0052】
[実施例8:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを1回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は1.53μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0053】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長は0.035μm、軸比は3の短冊状形状を有するオキシ水酸化チタン12gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0054】
[実施例9:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.1であった。
【0055】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長は0.070μm、軸比は10の針状形状を有するα型三酸化二鉄4gを添加し、撹拌、混合した。
次に減圧ろ過法でスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0056】
[実施例10:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.1であった。
【0057】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.200μm、軸比80の薄板状形状を有する四酸化三鉄20gを添加し、撹拌、混合した。
次に減圧ろ過法でスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0058】
[実施例11:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.1であった。
【0059】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.200μm、軸比5の針状形状を有する化学式がMgFeで表されるマグネシウムフェライト12gを添加し、撹拌、混合した。
次に減圧ろ過法でスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0060】
[比較例1:コバルトイオン吸着材の製造(結合材不使用)]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.1であった。
【0061】
次に減圧ろ過法でスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0062】
[比較例2:コバルトイオン吸着材の製造(結合材不使用)]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0063】
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0064】
[比較例3:コバルトイオン吸着材の製造(結合材不使用)]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.0であった。
【0065】
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒した。得られた造粒物の3重量%分の水を噴霧した後、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により150μm以上300μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径150μm以上300μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0066】
[比較例4:コバルトイオン吸着材の製造(結合材不使用)]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末1200gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.69μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは0.6であった。
【0067】
次に、減圧ろ過によりスラリーをろ過して、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0068】
[比較例5:コバルトイオン吸着材の製造(結合材不使用)]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを1回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は1.53μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0069】
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過及び洗浄し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により150μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径150μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0070】
[比較例6:二チタン酸カリウム粒子の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末をそのまま解砕した。さらに、篩にて150μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径150μm以上600μm以下の範囲の粒子を得た。
【0071】
[比較例7:二チタン酸カリウムと結合材とを含む粒子の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末200g、結合材として平均短軸長1.250μm、軸比1.1の天然ゼオライトを60g、造粒助剤としてポリビニルアルコール6gを混合した後、水60gを徐々に添加しながら転動造粒を行った。化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは0.1であった。造粒物を設定温度110℃で12時間乾燥した後、篩にて300μm以上1000μm以下の粒径範囲に整粒した。整粒した粉末を電気炉にて設定温度630℃で5時間焼成を行った。焼成後に再度篩にて300μm以上1000μm以下の粒径範囲に整粒し、粒径300μm以上1000μm以下の範囲の粒子を得た。
【0072】
[比較例8:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、ス
ラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0073】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比10の針状形状を有するα型オキシ水酸化鉄0.4gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0074】
[比較例9:コバルトイオン吸着材の製造]
合成例で得られた二チタン酸カリウム粉末400gを水2Lに添加して(水戻し)、スラリーを調製した(泥奬化)。このスラリーを2回湿式粉砕した。湿式粉砕後の二チタン酸水素カリウム水和物のd50は0.98μmであり、化学式K2-xO・2TiO・nHOで表した場合のxは1.2であった。
【0075】
湿式粉砕後のスラリーに平均短軸長0.070μm、軸比10の針状形状を有するα型オキシ水酸化鉄60gを添加し、撹拌、混合した。
次に、プレス式ろ過機を用いてスラリーをろ過し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキを押出成型機を用いて造粒し、設定温度110℃で15時間乾燥した後、解砕し、篩により300μm以上600μm以下の粒径範囲に整粒して、粒径300μm以上600μm以下の範囲のコバルトイオン吸着材を得た。
【0076】
[組成分析]
被検試料のチタン及びカリウムの含有量は誘導結合プラズマ質量分析計ICP-Mass(アジレント・テクノロジー株式会社製Agilent 7700x ICP-MS)で測定した。当該含有量よりカリウムとチタンのモル比を求め、このモル比より化学式がK2-xO・2TiO・nHOのxを以下の式により算出した。
x = 2-2×a
a:K/Tiモル比。
【0077】
[メディアン径(d50)測定]
メディアン径(d50)はマイクロトラック・ベル株式会社製レーザー光回折散乱式粒度分析計マイクロトラックMT3300で測定した。分散媒にはイオン交換水を使用した。湿式粉砕スラリーを測定装置に付設した自動試料循環器の超音波分散槽に適量滴下した後に、超音波分散を出力40Wで300秒行った。この後に、各計測パラメーターは、イオン交換水の屈折率を1.33、測定対象粒子の光透過性を吸収、計測時間を30秒としてメディアン径(d50)を2回測定して、それらの平均値を湿式粉砕スラリー中の二チタン酸水素カリウム水和物のメディアン径(d50)とした。
【0078】
[平均短軸長及び軸比の測定]
各結合材の透過型電子顕微鏡写真より50個以上の粒子についてCarl Zeiss社製Particle Size Analyzerを用いて短軸長及び長軸長を計測し、平均短軸長と平均長軸長を求めた。さらに平均長軸長を平均短軸長で除して軸比を算出した。
【0079】
[一次粒子脱落性の評価]
各実施例及び各比較例の吸着材粒子を各10g計量し、それぞれをビーカーに投入後、イオン交換水990gを添加して軽く撹拌した後、東亜ディーケーケー株式会社製ポータ
ブル濁度計TB-31型を使用して、上澄みの濁度を計測して一次粒子脱落性を評価した。濁度はカオリン濃度換算値とした(カオリン1000mg/Lを1000度とし、カオリン100mg/Lを100度とする)。
【0080】
[コバルトイオン吸着性能の評価]
実施例1から実施例11、及び比較例1から比較例9で製造した粒子状コバルトイオン吸着材をそれぞれ内径15.96mmの円筒状カラムに容積で20mL、層高で100mmになるように充填した。並塩3g/kg、コバルト1mg/kg、マグネシウムが5mg/kg、セシウムが1mg/kgになるように調製した模擬汚染水をそれぞれのカラムに6.5mL/minの流量(通水線流速2m/h、空間速度20h-1)で通水し、出口水を定期的に採取して、アジレント・テクノロジー株式会社製Agilent 7700x ICP-MSを用いて、出口水中のコバルト濃度を測定した。模擬汚染水の液温は25℃以上27℃以下に保った。結果を表1に示す。表1において、Bed Volume(以下「B.V.」と記す)は吸着材の体積に対して何倍量の模擬汚染水を通水したのかを示す。また、破過B.V.は、カラム出口のコバルトの濃度をカラム入口のコバルトの濃度で除した値が3%を超越した時点のB.V.を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、実施例1から実施例11は、結合材を添加しない比較例1から比較例6より
濁度が小さく、一次粒子が脱落しにくいことがわかる。なおかつ実施例1から実施例11は結合材を有しない比較例1から比較例5と概略同程度のコバルトイオン吸着性能を保持していることがわかる。比較例6はカラム内で吸着材粒子が崩壊したため、水溶液の流下が困難となり、破過B.V.は計測不能であった。
【0083】
なお、表1に記す評価の条件で測定した濁度が50度を超越すると、使用時に濾し器の閉塞による円滑な汚染水処理を妨げ、使用時あるいは使用後の吸着材交換作業において剥落粒子の環境への拡散を防止する措置が必要となりコストが増大するため実用には向かない。また、この条件で測定した破過B.V.が12000(m/m)より小さいと吸着材の交換頻度が増えて吸着装置の実効処理能力が低下し、交換作業時の被爆リスクが増大するため、やはり実用には向かない。いずれの比較例も濁度または破過B.V.が前記に該当するため、吸着材として実用的であるとはいえない。一方、実施例1乃至11は、いずれも濁度が50度よりも十分に小さく、かつ、破過B.V.が12000(m/m)以上であるため、吸着材として実用的であるといえる。
【0084】
本願発明の吸着材は、吸着容量が大きいことから交換頻度を少なくさせることができ、また使用時の一次粒子剥落が少ないことから微粉の発生量が少なく、コバルト含有水処理装置を閉塞させにくい。本願発明の吸着材のこうした特徴は、特に放射性コバルトイオンの除去に用いる際に有効であるといえる。