(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】リアクトルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20230404BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230404BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230404BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20230404BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20230404BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H01F37/00 C
H01F37/00 M
H01F37/00 A
H01F37/00 R
H01F41/02 E
H01F27/28 K
H01F27/30 160
H01F27/255
H01F17/06 F
H01F17/06 A
(21)【出願番号】P 2018229671
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】芦谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亨
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-052945(JP,A)
【文献】特開2001-068364(JP,A)
【文献】実開平04-093116(JP,U)
【文献】特開2013-254929(JP,A)
【文献】実開平02-021721(JP,U)
【文献】実開昭60-185310(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 41/02
H01F 27/28
H01F 27/30
H01F 27/255
H01F 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割コアを組み合わせた環状磁心と、前記分割コアを内包し環状に組み合わされたコアケースと、前記コアケースに巻き付けられた平角導線縦巻きコイルとを備えたリアクトルであって、
前記平角導線縦巻きコイルは、コイルの一端から他端の間に、隣り合う平角導線の間隔が狭い幅狭部と広い幅広部とを備え、前記幅広部が前記分割コアの組み合わせ部に位置し、
前記幅広部では前記環状磁心の内周面側においてのみ平角導線が前記組み合わせ部を跨
ぎ、前記環状磁心の内周面側において前記平角導線が前記組み合わせ部を斜めに跨いでいるリアクトル。
【請求項2】
請求項1に記載のリアクトルであって、
前記分割コアはそれぞれ前記組み合わせ部となる端面に面取り部を有し、前記面取り部が少なくとも前記環状磁心の内周面側にあるリアクトル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリアクトルであって、
前記環状磁心の内周面側において平角導線が前記組み合わせ部を跨ぐ回数が1であるリアクトル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のリアクトルであって、
平角導線縦巻きコイルはその両端側において平角導線がいずれの組み合わせ部も跨がないリアクトル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のリアクトルであって、
前記組み合わせ部は環状磁心の中心に対して略180度の回転対称に位置するリアクトル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のリアクトルであって、
前記平角導線縦巻きコイルは隣り合う平角導線の間隔がコイル中間部で最も幅広であるリアクトル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のリアクトルであって、
前記分割コアのそれぞれがFe基非晶質軟磁性合金の偏平粉を使用した圧粉磁心であって、前記環状磁心の周方向に磁化が容易なリアクトル。
【請求項8】
平角導線を縦巻きした平角導線縦巻きコイルを用意する工程と、
前記平角導線縦巻きコイルの両端から分割コアを内持するコアケースを挿入し組み合わせ、前記分割コアで環状磁心を形成するとともに、前記コアケースに平角導線縦巻きコイルを装着する工程と、
前記環状磁心の内周面側においてのみ前記平角導線が前記分割コアの組み合わせ部を跨ぐように、前記分割コアの組み合わせ部に対応する位置で、前記平角導線縦巻きコイルの隣り合う平角導線の間隔を前記環状磁心の周方向に広げ変形させて幅広部を形成する工程、または予め前記平角導線縦巻きコイルの隣り合う平角導線の間隔を広げ変形させた幅広部を、前記分割コアの組み合わせ部に位置させる工程
と、を有し、
前記幅広部では前記環状磁心の内周面側においてのみ平角導線が前記組み合わせ部を跨ぎ、前記環状磁心の内周面側において前記平角導線が前記組み合わせ部を斜めに跨いでいるリアクトルの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のリアクトルの製造方法であって、
前記平角導線縦巻きコイルの幅広部にあらわれるコアケースに平角導線縦巻きコイルの移動を規制するコイル移動規制部材を取り付ける工程を有するリアクトルの製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載のリアクトルの製造方法であって、
前記平角導線縦巻きコイルの幅広部で平角導線とコアケースとを接着する工程を有するリアクトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などのコンバータ回路、平滑回路、アクティブ回路に用いられるリアクトルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速に普及しつつあるハイブリッド車や電気自動車には大出力の電気モータが設けられており、この駆動に用いる電力変換装置にはリアクトルが用いられる。リアクトルは、一般的な構成形態として、環状磁心と、それに巻装されるコイルを含み、高電圧・大電流に対応して、平角導線を筒状に巻回して形成された占積率の高い平角導線縦巻きコイル(エッジワイズコイルとも呼ばれる)を使用する場合がある。
【0003】
平角導線を巻くためには大きな変形力を作用させる必要があり、環状磁心に直接巻回するのは困難で有る。そのため特許文献1から3に記載されるように、平角導線を直線状に伸びる筒状の平角導線縦巻きコイルとし、環状磁心を分割コアで構成して、平角導線縦巻きコイルの両端から分割コアを通して組み合わせて結合することが行われる。例えば特許文献1では、平角導線縦巻きコイルに分割コアを挿入し、分割コアを互いに締め付けて環状に組み付け、平角導線縦巻きコイルの巻線間隔を広げている。それによって、環状磁心の略全周に亘って平角導線縦巻きコイルが配置されたリアクトルとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-56511号公報
【文献】中国特許出願公開第105825998号明細書
【文献】中国特許出願公開第104269242号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分割コアを組み合わせて構成される環状磁心は周方向に組み合わせ部を有する。組み合わせ部は磁路のつなぎ目であって、平角導線縦巻きコイルにより発生する磁束が通りにくい部分でもある。そのため、その周囲に磁束の漏れが発生し易い。一般にコイルは抵抗損失によって発熱するが、漏れ磁束もコイル発熱を増す要因となっている。組み合わせ部の周囲の平角導線に漏れ磁束が入ると渦電流損失を生じコイルが発熱する。著しい発熱はリアクトルの機能低下や熱損傷を招くため、別に冷却手段を設けるなど熱対策を講じて冷却効果を高めることが必要となる、リアクトルの大型化やコストの増加を招いてしまう。また、漏れ磁束の影響を減じるように、環状磁心とコイルとの間隔を離して渦電流損失を低減する方法があるが、この場合もリアクトルの大型化を招き、特には環状磁心の内周側の領域は限定されるので、漏れ磁束の影響を受けない程度に間隔を設けるのは困難であった。
【0006】
そこで本発明では、分割コアで構成される環状磁心の組み合わせ部での漏れ磁束の影響を低減したリアクトルとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、分割コアを組み合わせた環状磁心と、前記分割コアのそれぞれを内包し環状に組み合わされたコアケースと、前記コアケースに巻き付けられた平角導線縦巻きコイルと、を備えたリアクトルであって、前記平角導線縦巻きコイルは、コイルの一端から他端の間に、隣り合う平角導線の間隔が狭い幅狭分と広い幅広部とを備え、前記幅広部が前記分割コアの組み合わせ部に位置し、前記幅広部では前記環状磁心の内周面側においてのみ平角導線が前記組み合わせ部を跨ぐリアクトルである。
【0008】
本発明においては、前記分割コアはそれぞれ前記組み合わせ部となる端面に面取り部を有し、前記面取り部が少なくとも前記環状磁心の内周面側にあるのが好ましい。
【0009】
本発明においては、前記環状磁心の内周面側において平角導線が前記組み合わせ部を跨ぐ回数が1であるのが好ましい。
【0010】
本発明においては、平角導線縦巻きコイルの両端側において平角導線がいずれの組み合わせ部も跨がないのが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記組み合わせ部は環状磁心の中心に対して略180度の回転対称に位置するのが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記平角導線縦巻きコイルは隣り合う平角導線の間隔がコイル中間部で最も幅広であるのが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記分割コアのそれぞれがFe基非晶質軟磁性合金の偏平粉を使用した圧粉磁心であって、前記環状磁心の周方向に磁化が容易であるのが好ましい。
【0014】
第2の発明は、平角導線を縦巻きした平角導線縦巻きコイルを用意する工程と、前記平角導線縦巻きコイルの両端から分割コアを内持するコアケースを挿入し組み合わせ、前記分割コアで環状磁心を形成するとともに、前記コアケースに前記平角導線縦巻きコイルを装着する工程と、前記環状磁心の内周面側においてのみ前記平角導線が前記分割コアの組み合わせ部を跨ぐように、前記分割コアの組み合わせ部に対応する位置で、前記平角導線縦巻きコイルの隣り合う平角導線の間隔を前記環状磁心の周方向に広げて変形させ幅広部を形成する工程、または予め前記平角導線縦巻きコイルの隣り合う平角導線の間隔を広げ変形させた幅広部を、前記分割コアの組み合わせ部に位置させる工程とを有するリアクトルの製造方法ある。
【0015】
本発明においては、前記平角導線縦巻きコイルの幅広部にあらわれるコアケースに平角導線縦巻きコイルの移動を規制するコイル移動規制部材を取り付ける工程を有するリアクトルの製造方法。
【0016】
また本発明においては、前記平角導線縦巻きコイルの幅広部で平角導線とコアケースとを接着する工程を有するのもリアクトルの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環状磁心を構成する分割コアの組み合わせ部での漏れ磁束の影響を低減したリアクトルとその製造方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施例に係るリアクトルの正面図である。
【
図2】本発明の一実施例に係るリアクトルの斜視図である。
【
図3】本発明の一実施例に係るリアクトルの製造方法を説明するための、端子台を除くリアクトルの分解斜視図である。
【
図4】平角導線縦巻きコイルの幅広部形成前のリアクトルの正面図である。
【
図5】平角導線縦巻きコイルの幅広部形成後のリアクトルの正面図である。
【
図6】分割コアの組み合わせ部と平角導線との関係を説明するための図である。
【
図7】本発明の一実施例に係るリアクトルに使用する環状磁心の平面図である。
【
図8】本発明の一実施例に係るリアクトルに使用する分割コアの斜視図である。
【
図9】本発明の一実施例に係るリアクトルに使用するコアケースの分解斜視図である。
【
図10】本発明の一実施例に係るリアクトルにおける分割コアを内持するコアケースの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るリアクトルについて具体的に説明する。図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。また説明において示される寸法形状、図面を参照して説明する構成部材の相対的な位置関係等は、特に断わりのない限りは、それらの説明、図面等のみに限定されない。さらに説明においては、同一の名称、符号については同一又は同質の部材を示していて、図示していても詳細説明を省略する場合がある。
【0020】
図1は本発明の一実施例に係るリアクトルの正面図であり、
図2はその斜視図である。また
図3から
図5は本発明の一実施例に係るリアクトルの作製方法を説明するための図であって、
図3は平角導線縦巻きコイルに分割コアを内持するコアケースを挿入する工程を説明するための図である。
図4は平角導線縦巻きコイルを通されたコアケースを環状に組み合わせ、平角導線縦巻きコイルを略全周に亘って展開した状態を示す正面図である。
図5は平角導線縦巻きコイルのコイル中間部において、平角導線の間隔を幅広に拡張した状態を示す平面図である。
【0021】
図示したように本実施形態のリアクトル1は、環状磁心を構成する分割コア(図示せず)と、その分割コアのそれぞれを内包し環状に組み合わせ可能なコアケース20と、環状に組み合ったコアケース20の外方に巻き付けられた平角導線縦巻きコイル30を備えている。図示した例では、回路基板への実装を容易にするようにリアクトル1を実装するための金属ピン52が立てられた端子台50にリアクトル1が立設し接着固定されている。平角導線縦巻きコイル30の端部32側は端子台50の貫通孔を通って、端子台の下側(金属ピン52側)に引き出されている。このような態様を含め、本発明のリアクトルは、分割コア5、コアケース20、平角導線縦巻きコイル30の基本構成に加えて、他の機能部材を付加した場合を含むものである。
【0022】
図示したリアクトル1では、そのz方向の上方側に平角導線縦巻きコイル30の中間部(コイルの一端から他端の間の中間部)で平角導線の間隔が広げられた幅広部33を備えていて、平角導線縦巻きコイル30の端部側はリアクトル1の下方側に引き出されている。なお、コイルの一端から幅広部の間と幅広部からコイルの他端の間は、平角導線の間隔が狭い幅狭部となっている。コアケース20内にある環状磁心はコアケースの形状に沿った形状を有しており、一組の円弧状の分割コアの周方向の端部を組み合わせて構成される。例えば中心角が略180度の円弧状の分割コアを組み合わせた環状磁心では、環状磁心の中心に対して180度の回転対称の二箇所に分割コアの組み合わせ部を有する。分割コアの組み合わせ部(以下、単に「組み合わせ部」ともいう)は環状磁心を単独で確認すれば、表面にて線状に確認される。詳細は後述するが、図示したリアクトル1で使用される環状磁心も180度の回転対称の二箇所に組み合わせ部を有していて、一方の組み合わせ部に対応する部分に平角導線縦巻きコイル30の幅広部33が設けられていて、コイル中間部の平角導線の間隔が最も幅広となっている。なおコイル中間部とは、数学的な中間に限定されず、その前後の領域を含む部分を言う。
【0023】
また、他方の分割コアの組み合わせ部は、
図1の端子52側となり、コイルの一端と他端との間となる。このコイルの一端と他端との間も間隔が空いている。このため、他方の分割コアの組み合わせ部を跨ぐ平角導線は存在しない。
【0024】
なお、分割コアの組み合わせ部は、コアケースの内部となるので直接は確認できないが、分割コアの組み合わせ部とコアケースの組み合わせ部は同じ箇所に存在しているので、コアケースの組み合わせ部を確認することにより、分割コアの組み合わせ部を確認することができる。またコアケースの一部に開口を設けて、そこから分割コアの組み合わせ部を直接確認するようにしても良い。その場合は、確認の後、絶縁樹脂等で開口を閉じて環状磁心と平角導線縦巻きコイルとの間の絶縁を確保するのが望ましい。
【0025】
平角導線縦巻きコイル30は、所定の厚みと幅を有し、エナメルで絶縁被覆された連続する一本の平角導線を同じ巻径で所定のターン数で巻回して構成されている。平角導線の断面寸法や巻数は限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。平角導線縦巻きコイル30の空芯部分はコアケース20を挿入可能な寸法形状となっていて、図示した例では矩形の空間となっている。コアケース20に巻き付けられた状態で平角導線縦巻きコイル30の平角導線の間隔を広げる場合、コアケース20の円弧状の外形や径方向の厚みによる制限で、平角導線縦巻きコイル30を変形可能な方向は実質的に周方向に限定される。また予め平角導線の間隔を広げた幅広部を作る場合もコアケース20の挿入を考慮して平角導線縦巻きコイル30を変形させることが必要となる。どちらの場合でも、幅広部においてコアケース20をy方向に見て現れる平角導線で画定される領域は、コアケース20の外周面側から内周面側に向かって縮小する扇型となる。
【0026】
図示したリアクトル1では、環状磁心10の内周面側において平角導線が組み合わせ部8を斜めに跨いでいる。ここで平角導線が組み合わせ部を跨ぐとは、
図6に示すように、コアケース20の内周面に近接する平角導線31と分割コア5の組み合わせ部8との重なりを見るとき、平角導線が環状磁心の表面にて線状に確認される組み合わせ部8と交差する状態を言う。本発明によれば環状磁心の内周面側でのみ、平角導線31が組み合わせ部8を跨ぐように構成出来る。組み合わせ部を跨ぐ平角導線を少なくすることによって、組み合わせ部での漏れ磁束の影響を低減することが出来る。好ましくは、環状磁心10の内周面側において平角導線が組み合わせ部8を跨ぐ回数は1である。
【0027】
下側の組み合わせ部の近傍には平角導線縦巻きコイル30の端部側が位置する。
図1に示したように平角導線縦巻きコイル30の端部側の平角導線を下方の組み合わせ部から離れた位置で引き出し、組み合わせ部を跨がせないようにするのが好ましい。
【0028】
図7に分割コアを組み合わせて構成される環状磁心の平面図を示し、
図8に
図7の環状磁心に使用する分割コアの斜視図を示す。分割コア5の周方向の端面6どうしを対面させて組み合わせ、円環状の環状磁心10とする。図示した分割コア5は中心角が略180度の円弧状であるが、それに限定されず、平角導線縦巻きコイル30の巻き付けや、幅広部33の形成に支障が生じない範囲で異同があってもかまわない。一部を直線状としたアルファベットのU字状としても良く、それを組み合わせた環状磁心10は扁平楕円状となる。同じ形状の分割コア5を組み合わせると環状磁心10の中心に対して回転対称に組み合わせ部8が形成される。なお、環状磁心10を構成する分割コア5の数は3以上であっても良いが、組み合わせ数に応じて組み合わせ部8が増加し、平角導線縦巻きコイル30の巻線間隔が密である場合には、組み合わせ部8に応じた幅広部33を設けるのが困難となるため、組み合わせ数を2とするのが好ましい。また中心角の角度が異なる分割コア5を組み合わせて環状磁心10を構成しても良い。
【0029】
図示した分割コア5の端面6には、環状磁心10の内周面11及び外周面12となる側に曲面状に丸く面取り(R面取り)が施されている。分割コア5の端面6に面取りを形成することで、漏れ磁束が面取り部から漏れだす距離が抑えられる。環状磁心10の内周面側では平角導線に入る漏れ磁束が減少し、渦電流損失の発生を抑制して、コイル発熱を一層効果的に防ぐことが出来る。特には、環状磁心10の組み合わせ部8にギャップを設ける場合に面取りを施すのが好ましい。面取りは、端面6の角稜を落として斜面状とするような、例えばC面取りであっても良い。
【0030】
分割コア5には、Mn系やNi系のソフトフェライトで形成されたフェライト磁心や、純鉄、Fe-Si合金、Fe-Cr合金、Fe-Cr-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Al-Si合金、Fe-Al-Cr合金、Fe-Al-Cr-Si合金、Fe-Ni合金、Fe-M-B系合金等の結晶質もしくは非晶質の軟磁性合金の粉末で構成される圧粉磁心を用いるのが好ましい。軟磁性合金の粉末は、水アトマイズ、ガスアトマイズ等のアトマイズ法により得られるアトマイズ粉や、それを偏平加工した偏平粉、あるいは薄帯状に鋳造された合金を粉砕して得られる偏平粉であるのが好ましい。アトマイズ粉であれば平均粒径(メジアン径D50)が3μm以上80μm以下であるのが好ましい。偏平粉であれば、その厚さが10μmから50μmであって、厚さ方向に垂直な方向での粒径が厚さの2倍超から6倍以下であるのが好ましい。軟磁性合金の粉末は、異なる組成の粉末や、形状の異なる粉末(例えば、アトマイズ粉と偏平粉等)を混合したり、更に成形密度を向上するようにCu、SnあるいはAl等の非磁性の金属粉を混合したりしたものでも良い。中でも飽和磁束密度が1.2Tを超えるFe基非晶質軟磁性合金の粉末であるのが好ましい。また薄帯を粉砕して得られる偏平粉であれば、形状異方性を有する圧粉磁心とすることが出来るので好ましい。
【0031】
偏平粉を使用した圧粉磁心とした分割コア5について説明する。
図8にて矢印で示した加圧方向Pは圧縮成形での加圧方向を示している。一般的な圧縮成形では固定型と可動型とを含む金型を使用する。固定型の上下に固定型の開口部を塞ぐ一対の可動型が配置され、固定型の開口部と、そこに通された下側の可動型とで区画されたキャビティーに軟磁性合金の粉末を含む造粒粉が充填され、上下の可動型が互いに近付く方向(
図8のP方向)に摺動して、キャビティー内の造粒粉が圧縮成形され分割コア5が成形される。造粒粉は、軟磁性合金の粉末とアクリル樹脂やエポキシ樹脂等の有機バインダーや、水ガラス等の無機バインダーを含み、例えば40~150μmの平均粒径(メジアン径D50)の粉末としてスプレードライヤー等の噴霧乾燥機により得られる。造粒粉を使用することで成形の際のキャビティーへの給粉性(粉の流動性)が高く、分割コア5の成形密度を上げることが出来る、成形圧力は、典型的には0.5GPa以上、かつ2GPa以下の圧力で、数秒程度の保持時間で成形できる。バインダーの含有量や必要な成形体強度によって圧力及び保持時間は適宜設定される。
【0032】
円弧状の分割コア5の場合、固定型には各隅部にRの付いたアルファベットのC字型の貫通穴が形成されていて、可動型は前記C字型の貫通穴に対応して、各角部にRの付いたC字型をなす多角柱となっている。このような形態によれば、分割コア5の周方向の端面6と内周面11側、外周面12側との間に面取りを形成するのが容易である。環状磁心10の軸方向となる分割コア5の端面7側には面取りを形成する場合は、加圧方向を変えて複雑な多段成形や、成形後に機械加工等が必要となるが、本発明においては平角導線が端面7側にて組み合わせ部8を跨がないので漏れ磁束の影響を受け難く、内周面側の様に積極的に面取りを形成する必要が無い。
【0033】
また、偏平の軟磁性合金の粉末は、その厚さ方向が加圧方向Pに揃う傾向がある。分割コア5の端面7を可動型による押圧面とすることで、分割コア5は加圧方向Pと直交する面内で磁化が容易となり易く、もって環状磁心10を周方向に磁化が容易な、形状磁気異方性をもったものとすることが出来る。
【0034】
図9は本発明の一実施例に係るリアクトルに使用するコアケースの分解斜視図であり、
図10は第1ケース部材に分割コアを収めた状態を示す平面図である。コアケース20は第1ケース部材21と第2ケース部材22の2つのケース部材から構成されている。分割コアを配置する第1ケース部材21はC字状の有底空間25を有し、その底部から一体的に上側に延びる外側壁部26及び内側壁部27によって画定される形態を有する。第1ケース部材21の周方向の一方の端部側には有底空間25側が段差状に窪んだ受容部23と、周方向の他方の端部側には外周側が段差状に窪んだ突片部24が形成されている。第2ケース部材22は第1ケース部材21の有底空間25を閉じるものでC字板状に形成されている。第2ケース部材22の一方の端部側には図面上側が段差状に窪んだ受容部28と、他方の端部側には下側が段差状に窪んだ突片部29が形成されている。このような構成によって、同一形状のコアケース20を使用して環状に組み合わせることができるので、部品点数を減じて製造コストを低下させることができる。
【0035】
またコアケース20は絶縁樹脂で構成される。その材質は。絶縁性、機械強度、耐薬品性、耐熱性、耐湿性及び成形性を有する樹脂であれば良い。PPS(Poly Phenylene Sulfide:ポリフェニレンサルファイド)樹脂、液晶ポリマー、PET(Polyethylene Terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(Poly Butylene Terephthalate:ポリブチレンテレフタレート)樹脂、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene:アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂等が好ましく、それらを射出成形法等の公知の方法で成形したものを用いることができる。
【0036】
分割コア5を内持するコアケース20は、
図10に示すように第1ケース部材21の有底空間に分割コア5を収めて、更に第2ケース部材22によって閉じて形成される。コアケース20の両端側は開口していて、そこから分割コア5の端面6が現れる。分割コア5の端面6はコアケース20の周方向の端部23からほぼ均等に引き下がった位置にある。
【0037】
次にリアクトル1の作製方法を説明する。
図3に示したように、平角導線を用いた直管状の平角導線縦巻きコイル30と分割コア5を内持する一対のコアケース20を準備し、コイルの両端側からその空芯部分に一対のコアケース20を挿入する。コアケース20の周囲に沿わせて平角導線縦巻きコイル30を被せていくように変形させながら挿入を進め、コアケース20の端部の突片部を受容部に嵌入することでコアケース20を環状に組み合わせる。この状態で
図4に示すような、コアケース20の外方の略全周に亘って平角導線縦巻きコイル30が巻き付いた状態となる。
【0038】
コアケース20の組み合わせを、突片部と受容部とで行うことにより、組み合わせ位置が正確に決められ、かつそれを容易に行うことができて、分割コア5の組み合わせを、ばらつきが少なく高精度に行うことができる。また、一対の分割コア5の端面間に、樹脂フィルム、セラミックや油紙等の絶縁スペーサーを挿入して磁気ギャップを構成する場合があっても、同じコアケース20を用いることが出来る。絶縁スペーサーは分割コア5の端面とエポキシ樹脂で接着しても良い。
【0039】
コアケース20内にはシリコーン樹脂が充填材として注入されていて、それによってコアケース20と分割コア5とが仮固定されている。シリコーン樹脂が常温放置で硬化するまでの間は、コアケース20内の分割コア5は周方向に移動可能でとなっている。そのため、コアケース20内の分割コア5の位置に多少のずれがあっても、コアケース20を環状に組み合わせの際に分割コア5の端面どうしが近接あるいは当接するように移動して、精度よく組み合わせることが出来る。
【0040】
コアケース20の外方の略全周に亘って平角導線縦巻きコイル30が巻き付いた状態から、環状磁心10の組み合わせ部8に対応する位置に
図5に示すような幅広部33を形成する。コアケース20の表面には組み合わせで生じた筋状の組み合わせ部が形成されているので、それを目安に平角導線縦巻きコイル30の隣り合う平角導線の間隔を環状磁心10の周方向に広げて変形させる。コアケース20に充填されたエポキシ樹脂を硬化させてコアケース20内で分割コア5が固定された状態とし、コアケース20どうしをエポキシ樹脂等の接着手段で固定してリアクトル1とする。この様な構成によって、環状磁心10の内周面側においてのみ平角導線が環状磁心10の組み合わせ部8を跨ぐリアクトル1とすることが出来る。
【0041】
なお、予め平角導線縦巻きコイル30の隣り合う平角導線の間隔を広げ変形させて幅広部33を形成しておいても良い。その場合には、コアケース20の組み合わせ部を目安に、環状磁心10の組み合わせ部8に幅広部33を位置させればよい。
【0042】
組立の後にコイルが移動して幅広部33に位置ずれが生じないように、クリップ等のコイル移動規制部材を取り付けても良いし、平角導線縦巻きコイルの幅広部で平角導線とコアケースとを接着して固定しても良い。
【0043】
本発明は上述の説明の内容に限定されるものではなく、同じ技術思想の範囲内であれば、適宜改変可能である。本発明のリアクトルによれば、分割コアで構成される環状磁心の組み合わせ部での漏れ磁束の影響を低減することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 リアクトル
5 分割コア
10 環状磁心
20 コアケース
30 平角導線縦巻きコイル