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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】遷移金属複合水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230404BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230404BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230404BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019113188
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020205205
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】福井 篤
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210395(JP,A)
【文献】特開2018-032543(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057311(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106745331(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる遷移金属複合水酸化物の製造方法であって、
pH調整剤の添加により液温25℃基準におけるpHを12.0以上、14.0以下の一定値に維持しつつ、遷移金属の化合物溶液と、前記遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液を、反応槽内に連続的に供給、混合して反応液を形成することで、前記反応液中に微細な遷移金属複合水酸化物粒子を核として液中に生成させた核生成後液を形成する核生成工程と、
前記核生成後液を、液温25℃基準におけるpHを10.5以上、12.0以下の範囲における一定値に維持しつつ、前記遷移金属の化合物溶液と、遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液を、前記核生成後液に連続的に供給して前記核の周囲に前記遷移金属の複合水酸化物を析出せしめて形成した粒子を成長させる粒子成長工程を、少なくとも含む中和晶析であり、
前記核生成工程において供給する前記遷移金属の化合物溶液中に含まれる個々の遷移金属イオンの物質量をX(M)、X(M)、X(M)、・・・、X(M)(k=1、2、・・・N)とし、前記遷移金属イオンが遷移金属水酸化物となった時の価数をZ(M)、Z(M)、Z(M)、・・・Z(M)とした時、X(M)×Z(M)+X(M)×Z(M)+X(M)×Z(M)+・・・X(M)×Z(M)(K=1、2、・・・N)に相当する物質量のアルカリ金属水酸化物を、前記遷移金属の化合物溶液と前記遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液を連続的に供給、混合して反応液を形成する際に、前記pH調整剤として予め反応槽内に投入しておき、
前記遷移金属の化合物溶液と遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液の連続的な供給、混合により核生成後液のpHが低下してゆき、前記核生成後液のpHが前記粒子成長工程において維持すべき前記一定値に達した時点から、pH調整剤のアルカリ金属水溶液の供給を開始し、以後核成長工程の終了まで前記pHを10.5以上、12.0以下の範囲における一定値に維持することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる遷移金属複合水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属の化合物が、遷移金属硫酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属硝酸塩のいずれか、または少なくとも2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液が、アンモニア水であることを特徴とする請求項1または2に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属複合水酸化物が、3~7μmの平均粒径を有し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(D90-D10)/D50〕が0.55以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属複合水酸化物が、Ni、Co、Mn、添加元素Mの原子量比Ni:Co:Mn:Mが1-x-y-z:x:y:z(0.1≦x≦0.4、0.1≦y≦0.5、0≦z≦0.1、0.3≦1-x-y-z≦0.7、MはAl、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上)で表される一般式NixCoyMnz(OH)2+α(0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.4、 0.1≦z≦0.5、x+y+z=1、0≦α≦0.5)のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の遷移金属複合水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる、遷移金属複合水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの小型情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池については、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることができる。
このうちリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が取り出せる材料として注目されている。
【0005】
ところで、上記に挙げた良い性能を得るためには、均一な粒径を有する複合酸化物が適している。これは、粒度分布が広い複合酸化物を使用すると、電極内で個々の粒子に掛かる電圧が不均一となることで、サイクル劣化が生じやすくなるなどの不具合が生じるためである。したがって、粒度分布の均一な複合酸化物を製造することが必要であり、そのためには粒度分布の均一な複合水酸化物を用い、製造条件を最適化することが重要である。
また、出力には粒子の比表面積も大きく影響することから、所望する比表面積にするためには粒子径を制御することが重要である。
【0006】
たとえば特許文献1では、複合水酸化物粒子の製造段階において、主として核生成反応が生じる工程(核生成工程)と、主として粒子成長反応が生じる工程(粒子成長工程)とを明確に分離する方法が記載されている。このような方法によれば、微粒子や粗大粒子の発生を防止することができるため、適度な粒径を有し、かつ、粒度分布が狭いニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得ることができることが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1で示されるように、その工程を分離する際には、供給管内に逆流したアルカリ塩溶液とニッケルコバルトマンガン混合水溶液が反応して供給管内で水酸化物が析出し、供給管の先を詰まらせ、操業を停止する事態が発生するという問題や、pHを下げるために添加する硫酸の濃度が高い場合、短時間で下げることができるが、硫酸が入りすぎて所定のpHより低くなり、一部核が再溶解する問題や、中和熱により反応温度が高くなり、狙いpHが高振れするなど、物性制御が困難となる問題があり、一方、薄い硫酸を使用すると中和熱は抑えられるもののpHを下げる時間がかかる上、液量が多くなり、アンモニア濃度の低下やさらには希釈設備も必要となるため高コストとなる問題があった。
【0008】
さらには、核生成工程で所定のpHを維持するためにNaOHを添加すると中和反応に必要なNaOH量より余剰に入るため、硫酸の代わりに原液で粒子成長工程までpHを下げると余剰分で核生成が起こり、所望する核生成量より多くなってしまい、粒径制御が困難となってしまう問題も生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-116580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は掛かる問題点に鑑み、粒度分布が均一であり、所望する粒径のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得る工業的に安定的な操業を可能である製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る遷移金属複合水酸化物の製造方法の態様は、粒度分布が狭く単分散性であることを特徴とし、平均粒径が3~7μm、粒度分布の広がりを示す指標である〔(D90-D10)/D50〕が0.55以下であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得るために、核生成工程で晶析反応槽に添加するニッケル、コバルト、マンガン混合水溶液(以下原液と称する)の液量から計算した中和に必要なNaOHをあらかじめ添加し、原液とアンモニア水を粒子成長工程の所定のpHになるまで成り行きで添加した後にNaOHの添加を再開し、核生成工程と粒子成長工程とを合計した所定の液量まで反応させて核生成工程と粒子成長工程を連続的に行うことで、原液でpH調整する際の余剰な核生成を防止し、原液供給停止によるノズル詰まりや硫酸添加による核の再溶解、中和熱による温度上昇を無くし、簡便で安定的な操業を可能とすることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第1の発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる遷移金属複合水酸化物の製造方法であって、pH調整剤の添加により液温25℃基準におけるpHを12.0以上、14.0以下の一定値に維持しつつ、遷移金属の化合物溶液と、前記遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液を、反応槽内に連続的に供給、混合して反応液を形成することで、前記反応液中に微細な遷移金属複合水酸化物粒子を核として液中に生成させた核生成後液を形成する核生成工程と、前記核生成後液を、液温25℃基準におけるpHを10.5以上、12.0以下の範囲における一定値に維持しつつ、前記遷移金属の化合物溶液と、遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液を、前記核生成後液に連続的に供給して前記核の周囲に前記遷移金属の複合水酸化物を析出せしめて形成した粒子を成長させる粒子成長工程を、少なくとも含む中和晶析であり、前記核生成工程において供給する前記遷移金属の化合物溶液中に含まれる個々の遷移金属イオンの物質量をX(M)、X(M)、X(M)、・・・、X(M)(k=1、2、・・・N)とし、前記遷移金属イオンが遷移金属水酸化物となった時の価数をZ(M)、Z(M)、Z(M)、・・・Z(M)とした時、X(M)×Z(M)+X(M)×Z(M)+X(M)×Z(M)+・・・X(M)×Z(M)(K=1、2、・・・N)に相当する物質量のアルカリ金属水酸化物を、前記遷移金属の化合物溶液と前記遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液を連続的に供給、混合して反応液を形成する際に、前記pH調整剤として予め反応槽内に投入しておき、前記遷移金属の化合物溶液と遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液の連続的な供給、混合により核生成後液のpHが低下してゆき、前記核生成後液のpHが前記粒子成長工程において維持すべき前記一定値に達した時点から、pH調整剤のアルカリ金属水溶液の供給を開始し、以後核成長工程の終了まで前記pHを10.5以上、12.0以下の範囲における一定値に維持することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる遷移金属複合水酸化物の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明における遷移金属の化合物が、遷移金属硫酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属硝酸塩のいずれか、または少なくとも2種以上の混合物であることを特徴とする遷移金属複合水酸化物の製造方法である。
【0014】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における遷移金属と錯イオンを形成する化合物溶液が、アンモニア水であることを特徴とする遷移金属複合水酸化物の製造方法である。
【0015】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における遷移金属複合水酸化物が、3~7μmの平均粒径を有し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(D90-D10)/D50〕が0.55以下であることを特徴とする遷移金属複合水酸化物の製造方法である。
【0016】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明における遷移金属複合水酸化物が、Ni、Co、Mn、添加元素Mの原子量比Ni:Co:Mn:Mが1-x-y-z:x:y:z(0.1≦x≦0.4、0.1≦y≦0.5、0≦z≦0.1、0.3≦1-x-y-z≦0.7、MはAl、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上)で表される一般式NixCoyMnz(OH)2+α(0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.4、 0.1≦z≦0.5、x+y+z=1、0≦α≦0.5)のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であることを特徴とする遷移金属複合水酸化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、粒度分布が狭く単分散性である、所望する粒径を有するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を工業的に安定的な操業により得ることができる。
また、本発明に係るニッケルコバルトマンガン複合水酸化物由来の非水系二次電池用正極活物質を用いた二次電池は、高容量で高出力の優れた電気特性を有することから、最近の携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器、パワーツールおよびハイブリッド車もしくは電気自動車などの電源装置に搭載されている小型二次電池に対する高出力かつ良サイクル特性などといった要求を満足することが可能となり、工業上極めて有用な効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を安定的に得られる方法について詳細に検討し、その結果、所望するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得るために、核生成工程で晶析反応槽に添加する原液の液量から計算した中和に必要な量のNaOHを予め反応槽に添加しておいて、原液とアンモニア水の添加を行い、核生成工程を実施した後、原液とアンモニア水を粒子成長工程の所定のpHになるまで成り行きで添加した後に、pH調整剤のNaOHの添加を再開し、核生成工程と粒子成長工程とを合計した所定の液量まで反応させて核生成工程と粒子成長工程を連続的に行うことで晶析工程を簡便にでき、原液でpH調整する際の余剰NaOHによる核生成、硫酸による核の再溶解や中和熱による狙いpHのずれを無くし、原液の供給停止によるノズル詰まりを防止し、安定的な操業を可能とすることを見出し、本発明の完成に至った。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の遷移金属複合水酸化物は、一般式NixCoyMnz(OH)2+α(0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.4、 0.1≦z≦0.5、x+y+z=1、0≦α≦0.5)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であって、平均粒径が3~7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(D90-D10)/D50〕が0.55以下であり粒度分布が狭く単分散性であることを特徴とする。
本発明は、以上のような知見に基づき完成されたものである。
以下、本発明に係る遷移金属複合水酸化物の製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0020】
(第1工程:核生成工程)
まず、易水溶性の遷移金属塩としてニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩(いずれも硫酸塩が望ましい)を所定の割合で水に溶解してニッケル、コバルト、マンガン混合水溶液の原液を作製する。
その原液を晶析反応槽に、所定の液量の純水と、核生成で使用する原液量から計算により求めた中和に必要な量のpH調整剤の水酸化ナトリウム水溶液を装入後、アンモニア水などのアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を、所定の濃度になるよう添加し、撹拌、混合させた所定pHを示す反応液を作製する。
【0021】
ところで、中和に必要なpH調整剤の量は、以下のように計算して求める。
先ず、核生成工程において供給する遷移金属の化合物溶液中に含まれる個々の遷移金属イオンの物質量を、それぞれX(M)、X(M)、X(M)、・・・、X(M)(k=1、2、・・・N)とする。
次に、その遷移金属イオンが遷移金属水酸化物となった時の価数を、それぞれZ(M)、Z(M)、Z(M)、・・・Z(M)とする。
求めるpH調整剤の量Fは、下記(1)式で求められる。即ち、このFに相当する物質量がアルカリ金属水酸化物の必要量となる。
【0022】
【数1】
【0023】
次いで、反応液中で遷移金属複合水酸化物の核を生成させて核生成後液を形成する。その際に、pH調整剤の水酸化ナトリウム水溶液の供給はせずに、晶析反応槽内へ原液とアンモニア水のみを、次工程の粒子成長工程における設定pH値になるまで定量的に連続供給し、そのpHになった時点から水酸化ナトリウム水溶液を供給し、所定のpHに維持し、粒子成長工程に移行する。
【0024】
ここで反応槽内のpHは、反応初期の状態では液温25℃を基準として測定するpH値として12.0以上になり、中和反応で原液が消費されるまでは核生成が起こり、その後pHが低下し始め、粒子成長工程のpH値に到達し、粒子成長工程が開始される。即ち核生成工程から粒子成長工程へと連続的に移行する。
【0025】
また、反応槽内の液中アンモニア濃度は3~25g/Lの範囲内の一定値に保持する。
一定以上のアンモニア濃度が無ければ金属イオンの溶解度を一定に保持することができないため、ゲル状の核が生成されてしまう。ただし、25g/L以上の濃度では溶解度が上がりすぎ、溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成ずれが起こる。
【0026】
反応槽内の温度は35℃以上、60℃以下に設定することが望ましい。
35℃未満では温度が低くて供給する金属イオンの溶解度が充分に得られず、また60℃を越えるとアンモニアの揮発が促進されることにより錯形成するためのアンモニアが不足し、金属イオンの溶解度が減少する。
【0027】
反応槽内空間の酸素濃度はエアを吹き込む等により18%以上の大気雰囲気に制御し、反応槽内溶液中の溶存酸素濃度を4mg/L以上で晶析反応を行うことが望ましい。
この第1工程のpH値と制御時間については、目的とする複合水酸化物の平均粒径によって任意に設定することができる。
【0028】
(第2工程)
この工程では、第1工程のあとの粒子成長段階として反応槽内を、液温25℃を基準として測定するpH値として10.5~12.0に制御することを主な特徴とする。核生成時にこのpH値へ設定することで、第1工程で核生成に必要なNaOHが消費されるとpHが低下してくるため、継続して原液とアンモニア水を供給することで新たな核生成を抑制しつつ粒子成長工程に移行することができる。
【0029】
pH値が12.0より高い場合では、核発生が起こり均一な粒子とならない。
またpH値が10.5未満では、金属硫酸塩を原料として使用した場合に粒子中に残るS(イオウ)分が多くなるため望ましくない。
このpH値を変更する際には、通常、硫酸で行うところを原液の供給を継続することで行い、第1から第2工程へは、連続的に移行するものである。
【0030】
なお、所望する水酸化物粒子の特性にあわせて第2工程初期の0~30分程度の間を任意に大気雰囲気で成長させた後、窒素雰囲気に切り替えて成長反応を継続させる。この雰囲気切り替えの際には原液の送液を停止する必要があるため、純水を通液して配管及び先端ノズルを水洗し、ノズル詰まりを防止する。
【0031】
最終的に所定量の原液を通液して成長反応が終了した際には、純水を通液して配管及び先端ノズルを水洗し、ノズル詰まりを防止する。
【実施例
【0032】
以下、実施例を用いて本発明を詳述する。
【実施例1】
【0033】
(晶析工程)
・第1工程
まず、反応槽(600リットル)内に水を140リットルまで入れ、タービンタイプの撹拌羽根を使用して回転数を260rpmで撹拌しながら、温度調節制御を昇温側にして槽内温度を40℃に設定し、制御した。加えてエアを20~40L/分にて吹き込み、大気雰囲気を保った状態で25%アンモニア水を所定量加えて、液のpHを、液温25℃を基準として測定するpH値として12.6に調整し、液中アンモニア濃度を10g/Lに調節した。
【0034】
ここに、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、(金属元素モル比でNi:Co:Mn=38:32:30)を水に溶かして得た2mol/Lの水溶液(以下原液と称する)2リットルを核生成用とし、その中和に必要な25%水酸化ナトリウム水溶液を計算して得た必要量、1.28リットルと共に添加、混合して核生成工程を実施して核生成後液を得た。
【0035】
・第2工程
上記第1工程で得た核生成後液に原液と25%アンモニア水を一定の添加速度で加えていき、pHが液温25℃を基準として測定するpH値として11.6(粒子成長pH)になるよう制御pHを設定し、pH11.6になった時点でNaOHを供給し、pH値を11.6に制御したまま、22リットルの原液を通液して晶析を実施した。
【0036】
その後、配管内に残留する原液を洗浄するため、純水を約5リットル通水してからNaOHとアンモニアの供給を停止した。途中の槽内温度の変化は無く、40℃に保たれていた。
ついで、窒素ガスを流通させて反応槽内空間の酸素濃度を1%以下、反応槽内溶液中の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下にしたのち、原液、アンモニア、NaOHの供給を再開し、pH値を11.6に制御して約4時間、原液量で270リットルを通液した後に配管内に残留した原液を洗浄するため、純水を約5リットル通水してから、アンモニアの供給を停止し、さらにpH値を1.2上昇させて12.8とし、スラリー液中に含まれるNiをほぼ全量析出させた。得られた生成物を水洗、濾過、乾燥させた。
【0037】
以上に述べた方法により、Ni0.38Co0.32Mn0.30(OH)2+α(0≦α≦0.5)で表される複合水酸化物を得た。
得られた複合水酸化物の平均粒径は5.2μm、タップ密度は1.22g/ccであった。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様にして第1工程の核生成工程を実施後、原液配管内液の押し出しのため純水を約1リットル通液した。その後、第2工程の粒子成長工程で制御するpH11.6にするため、64%硫酸を添加した結果、pHがオーバーシュートにより11.4まで低下し、槽内温度が5℃ほど上昇した。そこから晶析を再開し、原液20リットルを通液する間に2℃程度低下したものの設定温度の40℃まで低下せず、見かけ上、制御pHは一定だが実pHは0.1程度変動した。窒素雰囲気に置換後は設定温度まで下がり、晶析を再開し、実施例1と同様の操作で水酸化物を得た。
得られた水酸化物の平均粒径は5.6μm、タップ密度は1.26g/ccであった。
【0039】
(比較例2)
比較例1と同様にして第2工程の粒子成長工程で制御するpHに調整するため、64%硫酸を添加した結果、槽内温度が5℃ほど上昇した。そこで、その槽内温度を下げるため、反応槽の温度調節制御を冷却側に切り替え、設定温度になるまでジャケット内に水を通液した結果、オーバーシュートにより設定温度より3℃ほど低くなった。再び温度調節制御を昇温側に切り替え、オーバーシュートを加味しながら調整し、設定温度の40℃になるまで約20分を要した。原液配管内を洗浄していなければノズルが詰まる要因となっていた。そこから晶析を再開し、原液20リットルを通液した。その後、窒素雰囲気に置換後晶析を再開し、実施例1と同様の操作で水酸化物を得た。
得られた水酸化物の平均粒径は5.3μm、タップ密度は1.20g/ccであった。