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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】工作機械の監視システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20230404BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
G05B19/18 W
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019159359
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021037567
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 明博
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-178454(JP,A)
【文献】特開2018-012164(JP,A)
【文献】特開昭60-151557(JP,A)
【文献】特開2017-209743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
G05B 19/18
G05B 19/4065
B23Q 15/16、28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具と、前記工具の位置調整を行う位置制御回転機と、前記工具もしくは被削材を回転させる主軸駆動回転機とを備える工作機械の監視システムであって、
前記位置制御回転機、前記主軸駆動回転機のそれぞれの直流量を抽出可能な電気信号の検出手段と、前記電気信号の検出値をそれぞれ直流量変換して直流量を得る直流量変換手段と、前記主軸駆動回転機の温度と相関を有する前記直流量から温度情報を抽出し、前記位置制御回転機の応力と相関を有する前記直流量から応力情報を抽出する温度・応力情報抽出部と、前記温度情報及び前記応力情報に基づき、前記工具の摩耗量を推定する摩耗量推定部と、を備えることを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械の監視システムであって、
前記電気信号は、前記位置制御回転機または前記主軸駆動回転機のモータ電流、電圧のいずれか又は双方であることを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の工作機械の監視システムであって、
前記電気信号の前記直流量は、回転機の三相交流を二相変換した固定座標の情報を回転座標の情報に変換して得ることを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項4】
請求項3に記載の工作機械の監視システムであって、
検出し又は推定した回転子位相を用いて、前記固定座標の情報を前記回転座標の情報に変換することを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の工作機械の監視システムであって、
前記主軸駆動回転機の温度と相関を有する前記直流量は、検出し又は推定した回転子速度の直流量を含む複数の前記直流量であって、加工条件に応じて選択した前記直流量を用いて、前記温度情報を求めることを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項の工作機械の監視システムであって、
前記電気信号は、回転機の電流であり、前記回転機はベクトル制御を行うモータ制御部を含み、
前記主軸駆動回転機の温度と相関を有する前記直流量は、前記モータ制御部内の直流量を含む複数の直流量であって、加工条件に応じて選択した前記直流量を用いて、前記温度情報を求めることを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の工作機械の監視システムであって、
前記直流量変換手段は、3相の電気量を2相変換し、算出された2つの信号の2乗和の平方根を算出することを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の工作機械の監視システムであって、
前記温度・応力情報抽出部は、温度および応力と、直流量から抽出される特徴量との相関を示した相関情報に基づいて、直流量から温度情報、応力情報を求めるときの抽出処理内容を選択することを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項9】
請求項8に記載の工作機械の監視システムであって、
連続的に工具が被切削材を加工する場合、前記温度情報抽出のために主軸モータの前記直流量から平均値を算出し、前記応力情報を抽出するために、主分力方向モータの前記直流量の平均値の2乗値と、送り分力方向モータの前記直流量の平均値の2乗値を加算し、その加算値の平方根を算出することを特徴とする工作機械の監視システム。
【請求項10】
請求項8に記載の工作機械の監視システムであって、
断続的に工具が被切削材を加工する場合、前記温度情報抽出のために主軸モータの前記直流量から平均値を算出し、前記応力情報を抽出するために、主分力方向モータの前記直流量の標準偏差の2乗値と、送り分力方向モータの前記直流量の標準偏差の2乗値を加算し、その加算値の平方根を算出することを特徴とする工作機械の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータが搭載された工作機械の監視システムに係り、例えば切削や旋盤などを行う工作機械で使用する工具の摩耗量を推定するための工作機械の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製造業においては、作業の効率化/高速化/手戻りの防止などとともに、製造物の品質安定化が求められるようになってきている。その中で切削や旋盤加工においては、予期しない加工異常を低減するために、工具の摩耗量や摩耗状態をリアルタイムに把握するニーズが高まっている。
【0003】
特に金属積層造形品の切削加工においては、被削材の難削性が高いことが多いため、工具の摩耗状態の把握が難しく、加工異常が発生すると積層造形からやり直しする必要があるため、手戻り低減のためにも摩耗状態のリアルタイム把握は重要である。
【0004】
このようなニーズを受けて従来では、各種センサを用いて工具状態を監視する方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、主軸頭に加速度センサを設置して、センサから取得した振動情報を用いて工具の摩耗を検出する方法が提示されている。具体的には、第一の回転速度で加工した際に閾値を超えた振動周波数の中で振動が最大となる周波数を第一の周波数とし、第二の回転速度で加工した際に閾値を超えた振動周波数の中で振動が最大となる周波数を第二の周波数として、第一と第二の周波数の差によって、工具の摩耗を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-076168号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで特許文献1では、加速度センサを主軸頭に設置することが記載されているが、使用する工作機械によっては、スペースやセンサの耐環境性の問題などから、センサを所望の位置に設置できない場合もある。また、センサの設置方法(例:接着方法)に関して特別なノウハウが必要な場合もあり、単純にセンサを設置しただけでは所望の信号を取得できない可能性もある。このように、加速度センサに代表される工具や加工場所近傍に設置する必要のあるセンサを利用する場合、前記したような設置上の問題が発生する可能性がある。
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の課題を検討し、これらの課題を解決するためになされたものである。
【0008】
従って、本発明の目的とすることころは、スペースやセンサの耐環境性の問題などから、加速度センサを設置できない工作機械であっても、工具摩耗量の予測精度を高めることのできる、工作機械の監視システムを提供することにある。
【0009】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のことから本発明においては、工具と、前記工具の位置調整を行う位置制御回転機と、工具もしくは被削材を回転させる主軸駆動回転機とを備える工作機械を監視する工作機械の監視システムであって、位置制御回転機、主軸駆動回転機のそれぞれの直流量を抽出可能な電気信号の検出手段と、電気信号の検出値をそれぞれ直流量変換して直流量を得る直流量変換手段と、主軸駆動回転機の直流量から温度情報を抽出し、位置制御回転機の直流量からの応力情報を抽出する温度・応力情報抽出部と、温度情報及び前記応力情報に基づき、前記工具の摩耗量を推定する摩耗量推定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
スペースやセンサの耐環境性の問題などから、加速度センサを設置できない工作機械であっても、工具摩耗量の予測精度を高めることのできる、工作機械の監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係る工作機械の監視システムの構成例を示す図。
図2】実施例1において回転子位相が検出できない場合における直流信号変換部13の構成例を示す図。
図3】実施例1において回転子位相が検出できる場合における直流信号変換部13の構成例を示す図。
図4】実施例1において一般的なモータ制御部の構成例を示す図。
図5】実施例1において座標変換を実施せずに直流量へ変換する直流信号変換部13の構成例を示す図。
図6】実施例1において温度・応力情報抽出部14の詳細構成例を示す図。
図7】実施例1において各軸の直流量の特徴量と、被切削材における温度、応力情報との相関を示す図。
図8】実施例1において図1の摩耗量推定部15の詳細構成例を示す図。
図9】本発明の実施例2に係る工作機械の監視システムの構成例を示す図。
図10】実施例2において回転子位相が検出できない場合における直流信号変換部13の構成例を示す図。
図11】本発明の実施例3に係る工作機械の監視システムの構成例を示す図。
図12】実施例3において回転子位相が検出できない場合における直流信号変換部13の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の代表的な実施例について詳細に説明する。なお参照する図面の参照符号は、それが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0014】
本発明では、工具の摩耗量推定を工作機械の各軸の駆動部の回転機由来の電気信号を用い、この電気信号を回転機の直流量に換算して推定する。ここで電気信号とは、回転機の電流、電圧のいずれかあるいは双方である。位置制御回転機、主軸駆動回転機のそれぞれの直流量を抽出可能な電気信号は、回転機を制御するインバータと回転機とをつなぐ配線および端子にて計測する他、インバータ内に設置した電流もしくは電圧センサの利用や、インバータに実装されたコントローラからも抽出可能である。また、ベクトル制御を行う場合には、直流量をモータ制御部から得ることができる。
【0015】
実施例1では、各軸の駆動部における交流モータ相電流、さらにはモータ制御部から直流量を得ることについて説明し、実施例2では、各軸の駆動部におけるモータ線間電圧から直流量を得ることについて説明し、実施例3では、各軸の駆動部における電流、電圧の双方から直流量を得ることについて説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1においては、工作機械の各軸の駆動部における電気信号としてモータ相電流を用いた場合の工作機械の監視システムについて説明する。
【0017】
工作機械として切削および旋盤装置を想定した場合の本実施例の構成例を図1に示す。切削および旋盤装置においては、通常、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の任意の位置に工具を制御するための位置制御回転機を備えた駆動部と、工具もしくは被削材(加工を施す工作物)を回転させる主軸駆動回転機を備えた主軸駆動部とを備える。なお、主軸はスピンドル、シャフト等、工具または被削材の回転軸と同一、または連動して回転する軸である。図1の工作機械17は、X-Y面を加工する状況を例として、主軸とX軸とY軸の駆動部のみを記載している。各軸は、それぞれインバータ1と主軸モータ4で構成された主軸駆動部で回転数制御し、インバータ2とX軸モータ5で構成されたX軸駆動部、インバータ3とY軸モータ6で構成されたY軸駆動部により、位置制御が行われる。なおここでは、X、Y軸方向が工具逃げ面を構成するものとして説明を進める。
【0018】
工作機械17は複数の三相交流駆動のモータ4、5、6とインバータ1、2、3から構成されているが、本実施例では、工作機械17の監視のために主軸モータ4、X軸モータ5、Y軸モータ6から、工作機械の各軸の駆動部における電気信号として電流を取得する。電気信号の検出手段として図1に示す実施例1では、電流を取得するための電流センサ7~12をモータ4、5、6とインバータ1、2、3の間に設置し、少なくとも1つのモータに対して2相の電流を取得する。本例では、UVW相の3相のうちU相およびV相の電流を取得するものとする。また、図1ではインバータ1、2、3の外部で電流を取得する図となっているが、インバータ内に設置された電流センサの情報を用いてもよい。
【0019】
取得した電流情報は直流信号変換部13に入力され、直流量に変換される。ここで直流量とは、モータ回転周期の周波数成分が取り除かれ、負荷変動やインバータのキャリア周波数の影響がなければ、時系列データが一定値になっている信号のことを示す。逆に負荷変動があれば、負荷変動の周期と一致して電流が変動する。
【0020】
直流信号変換部13から出力された主軸、X軸、Y軸それぞれの直流量は温度・応力情報抽出部14に入力され、切削中の工具温度と応力に関係のある情報(特徴量)を抽出する。そして、前記温度情報と応力情報は摩耗量推定部15に入力され工具摩耗量を推定する。推定された摩耗量は通知装置16に入力される。ここからは、各処理ブロック13から16について詳細を説明する。
【0021】
始めに、直流信号変換部13の詳細を説明する。直流量への変換はいくつか種類があるが、それぞれを図2図3および図5を用いて説明する。特に図2図3の違いは、回転子位置が検出できる場合と、そうでない場合の直流信号変換方法の違いについて例示している。
【0022】
図2に示す直流信号変換部13では、電流位相を用いた座標変換という直流量変換処理を示している。まず、取得されたU相電流IuとV相電流IvはW相電流生成部801に入力される。これは、測定電流が2相である場合の処理であり、3相とも電流センサで取得している場合には、必要の無い処理である。W相電流生成部801では、以下の(1)式に示す処理を実施する。
[数1]
Iw=-(Iu+Iv) (1)
3相となった電流は3相2相変換部802へ入力され、以下の(2)、(3)式に示す処理を実施する。これにより、α軸とβ軸による直交2軸電流成分としてIαとIβを得る。
[数2]
Iα=(2/3){Iu-Iv/2-Iw/2} (2)
[数3]
Iβ=(1/√(3)){Iv-Iw} (3)
その後、座標変換(直流量への変換)をするために必要な位相を位相算出部807で算出する。位相算出部807は瞬時位相算出部803とPLL部(位相記憶部)804、積分部805から構成され、このうち瞬時位相算出部803では、以下の(4)式で示す処理を実施して瞬時位相θiを算出する。
[数4]
θi=tan-1(Iβ/Iα) (4)
瞬時位相θiは、PLL部804、積分部805から構成されるフィードバックループに通して最終的に積分部805において座標変換位相θiを生成する。この値は、回転子位置の推定値となる。なおこの処理過程においてPLL部804からは、直流量として電気角推定値Wiが得られている。このフィードバックループはノイズ除去の役割があるため、もし、瞬時位相θiのノイズが気にならない場合には、前記したフィードバックループを通さなくても良い。
【0023】
そして座標変換部806には、3相2相変換部802で求めたα軸とβ軸による直交2軸電流成分Iα、Iβと、位相算出部807で求めた座標変換位相θiが入力され、座標変換を実行する。座標変換は以下の(5)(6)式で示す処理である。
[数5]
Ia=Iα・cos(θi)+Iβ・sin(θi) (5)
[数6]
Iz=-Iα・sin(θi)+Iβ・cos(θi) (6)
この座標変換は、固定座標系における電流(交流)を回転座標系における電流(直流)に変換したものということができる。また座標変換後の電流Iaはベクトル制御におけるq軸電流(トルク電流)Iq、電流Izはベクトル制御におけるd軸電流(励磁電流)Idにそれぞれ相当するものということができる。
【0024】
算出された回転座標系における直流値Ia、Iz、および位相算出部807から出力された電気角(回転子速度)推定値Wiは直流量であり、以後の分析で必要な直流量をセレクタ808で選択する。選択方法としては、例えば、事前に用意した「加工温度や応力vs直流量」の相関情報809を用いて、現状の加工条件に一致する行に記載された選択信号を選ぶ方法が考えられる。また、図4では、選択信号をシステム内で自動的に抽出する方法を記載しているが、相関情報809を用いて人手でセレクタ809への選択信号を決定しても良い。
【0025】
なお相関情報809における加工条件とは、例えば被切削材の物性、機器の構成並びに仕様などであり、これらの加工条件に応じていずれの直流量を採用するのがよいか定められる。この時に選択される直流量は、複数の直流量のいずれか、あるいは組み合わされた複数の直流量である。
【0026】
図2では、回転子位相が検出できない場合に電流位相を用いた直流信号変換部13の構成例を示したが、図3にはモータ回転子位相が分かる(検出できる)場合の例を示している。一般的にモータ回転子位相はインバータのコントローラ内部でしか分からないため、図1の直流信号変換部13(図3の処理)はインバータのコントローラに実装されているものとする。
【0027】
図3においてW相電流生成部801と3相2相変換部802は、既に説明した図2のこれらと同じ処理を実施している。
【0028】
図3の座標変換部806では、図2の座標変換部806における電流を用いて求めた座標変換位相θiに代えて、直接検知した回転子位相情報θrを用いて、(7)(8)式を実行し、d軸電流(励磁電流)Id、q軸電流(トルク電流)Iqを求める。
[数7]
Id=Iα・cos(θr)+Iβ・sin(θr) (7)
[数8]
Iq=-Iα・sin(θr)+Iβ・cos(θr) (8)
また微分回路604において、直接検知した回転子位相情報θrを微分処理して、回転子速度Wrを得る。
【0029】
図3に示す上記処理により算出され、セレクタ808において利用可能な直流量は、演算により求めた励磁電流Id、トルク電流Iq、および回転子位置情報θrを微分した回転子速度Wrである。これに対し、さらに図3の実施例では、インバータのコントローラ内部に実装されているため、励磁電流Id、トルク電流Iqおよび回転子速度Wrはモータ制御にも利用されており、モータ制御では励磁電流Idなどの直流量を用いて処理が行われるため、モータ制御部606で算出された信号の中にも直流量が存在する。このため図3の実施例によれば、セレクタ808において利用可能な直流量は、さらにモータ制御部606で算出された信号の中の直流量も利用可能である。
【0030】
図4に一般的なモータ制御部の構成例を示す。図4に示す一般的なモータ制御部は、設定された速度指令と計測された回転子速度Wr(あるいは推定された回転子速度Wi)からトルク指令作成部1102においてトルク指令を作成し、さらに電流指令作成部1103において電流指令に変換し、電圧指令作成部1104において電流指令とベクトル制御における励磁電流Id、トルク電流Iqを帰還信号とする制御により電圧指令を決定するカスケード制御系統を構成している。
【0031】
ここまでの範囲における各部の値は全て直流量である。このため図3に示す方式によれば、励磁電流Id、トルク電流Iqおよび回転子速度Wrに加えて、モータ制御部の直流量も使用できる。なお図4において1106は、図3の3相2相変換部802、座標変換部806に対応している。また電圧指令作成部1104において定めた電圧指令は2相3相変換部1105において3相に逆変換され、インバータの各相の電圧を制御する。
【0032】
最後に、実施例1において座標変換を実施せずに直流量へ変換する直流信号変換部13の構成例について図5を用いて説明する。W相電流生成部801と3相2相変換部802は、既に説明したものと同じ処理である。算出されたIα、Iβは絶対値演算部103において、以下の(9)式に示す処理を実施する。
[数9]
√(Iβ+Iα) (9)
この方法は、3相の電気量を2相変換し、算出された2つの信号の2乗和の平方根を算出したものであり、波形の振幅の変化のみを抽出しているため、モータ回転周期の周波数成分が取り除かれた直流量として扱うことができる。
【0033】
図1に戻り、図1の直流信号変換部13では、主軸、X軸、Y軸の各駆動部における3相交流を用いて、各軸の直流量を検出している。このため、直流信号変換部13からは主軸直流量、X軸直流量、Y軸直流量が出力されている。
【0034】
次に、温度・応力情報抽出部14の詳細について、図6を用いて説明する。図6には、工具が連続的に被切削材を加工する(連続切削)場合の直流量の処理方法を示している。図では、主軸、X軸、Y軸のそれぞれにおいて、相関情報809を用いて選択した直流量に対して平均値回路302、304、306で平均値を取る処理を示している。これは、各直流量の特徴量と温度や応力との相関関係から決定している処理である。回転軸を含む主軸の直流量の特徴量は被切削材における温度情報との相関があり、回転軸を含まないX軸、およびY軸の直流量の特徴量は被切削材における応力情報との相関が高いことを利用する。
【0035】
相関関係の例を図7に示す。図7の左には連続切削時の切削温度と切削速度の相関が高いこと、さらに図7の右には主軸直流量の平均値と切削速度に相関が高いことを示している。つまりこの関係から、主軸直流値の平均値が切削温度の代替情報として使用できるという関係が導ける。
【0036】
なお図示していないが、Y軸、X軸の直流量の特徴量と被切削材における応力情報との間にも、同様の相関があり、これらの関係から、Y軸、X軸直流値の平均値が切削時の応力の代替情報として使用できるという関係が導ける。
【0037】
温度及び応力についてのこれらの関係は、事前に実験などを行って導くもしくは、シミュレーションにより導く方法がある。シミュレーションに関して具体的には、切削やFSW(摩擦攪拌接合)の加工温度を解析するために用いられる熱伝方程式や有限要素法などが組み込まれたシミュレーションから各加工条件の温度変化を計算し、その計算結果から導いた被削材の剛性変化を各軸のモータ負荷とした場合、どのモータ直流値の特徴量が温度変化、応力変化と関連するかを確認する。
【0038】
具体的には図6に示すように、導いた複数の相関関係を相関情報809としてまとめ、各相関情報の中から現状の加工条件に一致する行に記載された処理を選ぶ方法が考えられる。なお各軸の相関情報809は個別に設定されていてもよい。また図6では、加工条件入力から選択信号出力までを監視システム内で実施する記載をしているが、相関情報809を用いて人手で処理内容を決定する方法をとっても良い。
【0039】
ここまでは連続切削について説明したが、断続的に被切削材を加工する場合には、主軸直流値の平均値を温度情報とする点は同じであるが、応力情報の算出において、X軸およびY軸直流量の振幅成分を抽出するのがよい。なお、直流量の振幅成分とは、例えば最大値や、最大値―最小値、標準偏差などが挙げられる。
【0040】
次に、図1の摩耗量推定部15の詳細構成例を、図8を用いて説明する。摩耗量演算部15では、算出した温度情報と応力情報を含む数式を利用して摩耗量を推定する。摩耗量推定部501では、例えば(10)式を用いることが考えられる。この時、(10)式の各係数は、事前に決定しておくものとする。ただし、A、B、Cは加工条件から決まる係数、pxは主分力方向モータの応力情報、pyは送り分力方向モータの応力情報、Tは温度情報である。
[数10]
W=A・√(B・px+py)・exp(C/T) (10)
ここで、連続的に工具が被切削材を加工する場合に(10)式を適用するときには、温度情報抽出のために主軸モータの直流量から平均値を算出し、応力情報を抽出するために、主分力方向モータの直流量の平均値をpxとしてその2乗値と、送り分力方向モータの直流量の平均値をpyとしてその2乗値を加算し、その加算値の平方根を算出するのがよい。
【0041】
また断続的に工具が被切削材を加工する場合に(10)式を適用するときには、温度情報抽出のために主軸モータの直流量から平均値を算出し、応力情報を抽出するために、主分力方向モータの直流量の標準偏差をpxとしてその2乗値と、送り分力方向モータの直流量の標準偏差をpyとしてその2乗値を加算し、その加算値の平方根を算出するのがよい。
【0042】
なお(10)式は、一例であり、応力と切削温度の項を含む式であれば何を用いても良い。
【0043】
最後に、図1の通知装置16の説明を行う。通知装置16は、例えば、摩耗量の推定値をそのまま画面に表示するものでも良いし、摩耗量推定値がある値以上であればアラーム音を発する、パトランプを点灯する、画面上に警告などの文字を表示するものでも良い。また、摩耗量の値などを、工作機械を制御するNC制御装置などに入力する、または摩耗量に応じて工作機械の動作指令を作成し、その値をNC制御装置に入力するものであっても良い。
【0044】
このように、実施例1を用いれば、設置の容易な電流センサの情報のみで、工具の摩耗量を正確に推定できるため、作業の効率化/手戻りの防止、製造物の品質安定化に貢献することができる。
【実施例2】
【0045】
実施例1では、工具の摩耗量推定を工作機械の各軸の駆動部における電気信号として、相電流を用いて推定したが、実施例2においては、電気信号としてモータ線間電圧を用いた場合のもうひとつの工作機械の監視システムについて説明する。なお、本実施例において、実施例1と同じ機能ブロックについては、説明を省略する。
【0046】
実施例2に係る工作機械の監視システムの構成例図を図9に示す。特に本実施例と実施例1の違いは、電気信号の検出手段として電圧センサ27~32を用いる点と直流信号変換部13であり、その他の処理ブロックは同じ処理内容である。電圧センサ27~32は例えば差動プローブを用い、最低2線間の電圧を測定し、直流信号変換部13へ入力する。本例では、UV間およびVW間の電圧を測定している。
【0047】
直流信号変換部13では、図10に示す通り、相電圧変換部901において線間電圧を以下の(11)~(13)式を用いて、3つの相電圧に変換する。
[数11]
Vu=(2/3)・{Vuv+Vvw/2} (11)
[数12]
Vw=-(2/3)・{Vvw+Vuv/2} (12)
[数13]
Vv=-(Vu+Vw) (13)
図10に示した相電圧変換部901以降の処理内容は、記号IがVに置き換わっただけであり、実施例1で説明した処理と同じである。なお、図3で示したモータ回転子の位相を用いた直流変換は本実施例では適用できないが、図5に示した直流変換手法は、W相電流生成部801を相電圧変換部901に置き換え、記号IをVとして置き換えれば、本実施例においても適用可能である。
【0048】
このように、実施例2を用いれば、電流センサを設置できない場合でも、センサを容易に設置し、工具の摩耗量を正確に推定できるため、作業の効率化/手戻りの防止、製造物の品質安定化に貢献することができる。
【実施例3】
【0049】
実施例1では電気信号として電流、実施例2では電気信号として電圧を入力として摩耗量を推定する手法を示したが、実施例3においては、電気信号としてモータ相電流とモータ線間電圧の両方を用いた場合のもうひとつの工作機械の監視システムについて説明する。なお、本実施例において、実施例1および実施例2と同じ機能ブロックについては、説明を省略する。
【0050】
本実施例の構成図を図11に示す。特に本実施例と実施例1の違いは、電気信号の検出手段として電流センサと電圧センサを両方用いている点と直流信号変換部13であり、その他の処理ブロックは同じ処理内容である。本実施例では、電圧センサ27~32と電流センサ7~12を同時に用いて、それぞれでセンシングした信号を直流信号変換部13に入力する。
【0051】
直流信号変換部13の詳細を図12に示す。実施例1および実施例2との違いの1つ目は、位相算出部907から算出した電圧位相θvを用いて、Iα、Iβを座標変換部806IでIa、Izに変換し、位相算出部907から算出した電圧位相θvを用いて、Vα、Vβを座標変換部806VでVa、Vzに変換している点である。さらに違いの2つ目は、Iα、Iβ、Vα、Vβ、Wvを用いて、有効電力Pおよび無効電力Q、モータトルクTを計算する点である。新たに計算した値は、すべて直流値であり、有効電力Pおよび無効電力Q、モータトルクTそれぞれの計算方法は、(14)から(16)式に示すとおりである。
[数14]
P=3/2・(Iα・Vα+Iβ・Vβ) (14)
[数15]
Q=3/2・(-Iα・Vβ+Iβ・Vα) (15)
[数16]
T=P/Wv (16)
図12に記載の前述以外の処理ブロックは実施例1、2にて説明済みである。なお、図3および図5に示した直流変換処理は本実施例では適用できない。
【0052】
このように実施例3を用いれば、電流センサと電圧センサを両方用いることで、摩耗量予測に使用できる直流量を増やすことができ、実施例1、2より温度や応力に相関の強い特徴量を抽出できる可能性が高まる。それにより、工具の摩耗量を正確に推定できるため、作業の効率化/手戻りの防止、製造物の品質安定化に貢献することができる。
【0053】
以上述べた本発明によれば、スペースやセンサの耐環境性の問題などから、加速度センサを設置できない工作機械であっても、工具摩耗量の予測精度を高めることのできる、工作機械の監視システムを提供することができる。
【0054】
ここで本発明の実施例による効果についてさらに詳細に述べるならば、その効果の1つ目は、本発明では、モータの直流量から工具摩耗量を予測出来ることから、工作機械に設置するセンサを、電流もしくは電圧センサとすることができることである。これにより、センサの設置位置の自由度を高めることができ、スペースやセンサの耐環境性の問題などから、加速度センサを設置できない工作機械であっても、工具摩耗量の予測精度を、容易に高めることができる。具体的には、工作機械の電気配線は、工具などが設置されている加工スペースからは離れた環境が良くアクセスしやすい場所にあるため、工具近傍に設置する必要のあるセンサに比べて設置制約が少なくできる。さらに、電流や電圧センサは設置方法が単純(電流センサであればセンサ部に配線を通す、電圧センサであれば配線が固定されているネジ止め部分に設置する)であり、所望の信号を取得するための特別なノウハウは必要としない。
【0055】
そして2つ目の効果として、電流や電圧センサから取得した情報より、加工中の温度に関わる情報も取得することが出来るため、工具摩耗量の予測精度を高めることも可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1:主軸用インバータ
2:X軸用インバータ
3:Y軸用インバータ
4:主軸モータ
5:X軸モータ
6:Y軸モータ
7、8、9、10、11、12:電流センサ
13:直流信号変換部
14:温度・応力情報抽出部
15:摩耗量推定部
16:通知装置
17:工作機械
27、28、29、30、31、32:電圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12