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特許7255482液晶配向剤、液晶配向膜およびこれを用いた液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜およびこれを用いた液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20230404BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019535727
(86)(22)【出願日】2018-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2018030083
(87)【国際公開番号】W WO2019031604
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2017155628
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年5月1日にホームページ(https://scifinder.cas.org)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】田尻 十南
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088801(JP,A)
【文献】特開2014-205819(JP,A)
【文献】特開2016-029447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーの少なくとも1つを含有する液晶配向剤であって;
前記ポリマーの少なくとも1つを合成するのに用いられる原料は、下記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含み、;
【化1】

前記ポリマーの少なくとも1つを合成するのに用いられる原料は、下記式(A-15)、式(B-3)、および下記式(D-2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含み、;
【化2】

前記ポリマーの少なくとも1つを合成するのに用いられる原料は、下記式(E-3)~式(E-5)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む;液晶配向剤;
【化3】

式(E-5)において、pは、1~6の整数である、
ここで、前記ポリマーはポリアミック酸、ポリイミド、部分ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、およびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1つであり;
ただし、前記ポリマーの少なくとも1つを合成するのに用いられる原料が、前記式(1-4)で表される化合物を含むときは、前記ジアミンが、式(A-15)および(B-3)で表される化合物のいずれも含まなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、前記式(D-2)で表される化合物を含まなくてもよい。
【請求項2】
前記ポリマーを1つ含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、70モル%以上であって、
前記式(A-15)および(B-3)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、1~30モル%である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記ポリマーを少なくとも2つを含有し、
前記少なくとも2つのポリマーは、ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含み;
前記ポリマー(P)を合成するのに用いられる原料は、前記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み;そして、
前記ポリマー(Q)を合成するのに用いられる原料は、前記式(A-15)、式(B-3)、および前記式(D-2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つ、ならびに、前記式(E-3)~式(E-5)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記ポリマー(P)において、前記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、70モル%以上であって;
前記ポリマー(Q)において、前記式(A-15)および(B-3)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、10~50モル%である、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記ポリマー(P)において、前記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、70モル%以上であって;
前記ポリマー(Q)において、前記式(D-2)で表される化合物の割合が、使用するテトラカルボン酸二無水物全量に対し、20~50モル%である、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記ポリマー(P)において、前記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、90モル%以上であって;
前記ポリマー(Q)において、前記式(A-15)および(B-3)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、30~50モル%である、請求項5に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記ポリマー(P)において、前記式(1-1)および式(1-4)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、90モル%以上である、請求項6に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
前記ポリマー(Q)において、前記式(E-3)~式(E-5)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、50~70モル%である、請求項4~8のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
アルケニル置換ナジイミド化合物、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物、オキサジン化合物、オキサゾリン化合物、およびエポキシ化合物からなる化合物の群から選ばれる少なくとも1つをさらに含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【請求項11】
横電界型液晶表示素子の製造に用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーの少なくとも1つを含有する液晶配向剤であって、
前記ポリマーの少なくとも1つを合成するのに用いられる原料のジアミンが、以下式(1-4):
【化4】

で示されるジアミンのみからなる、液晶配向剤。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の液晶配向剤によって形成される、液晶配向膜。
【請求項14】
請求項13に記載の液晶配向膜を有する、液晶表示素子。
【請求項15】
請求項13に記載の液晶配向膜を有する、横電界型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向膜を形成するための液晶配向剤、この液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜、そして、この液晶配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子としては、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型などの縦電界方式の液晶表示素子のほか、IPS(In-Plane Switching)型やFFS(Fringe Field Switching)型などの、対向配置された一対の基板の片側のみに電極を形成し、基板と平行方向に電界を発生する横電界方式の液晶表示素子が知られている。中でもIPS型やFFS型に代表される横電界方式の液晶表示素子は、視野角特性や色再現性に優れており、テレビ、タブレット、スマートフォンなどの様々な液晶表示素子に用いられている(特許文献1)。
【0003】
液晶表示素子に使用される構成部材の1つである液晶配向膜は、表示品位に関わる重要な部材である。近年、液晶表示素子の高品質化に伴い、液晶配向膜に求められる性能は多様化し、高度化している。特に、横電界方式の液晶表示素子においては、黒表示における視野角特性および色再現性をさらに向上させるために、液晶のプレチルト角を低く抑えることが要求されるのに加え、さらに、電圧印加後に電圧をOFFにしたあと残像を発生させない、つまり、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える液晶配向膜が求められている(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第1998/027454号
【文献】国際公開第2015/080185号
【文献】国際公開第2015/050135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2および3のように、これまで、それぞれの性能を有する液晶配向膜については提案されてきたが、本発明者は、これら2つの性能を兼ね備えた液晶配向膜を形成する液晶配向剤については提案されていないことを知見した。
【0006】
そこで、本発明は、液晶のプレチルト角を低く抑えることができ、かつ、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える液晶配向膜、および該液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤を提供することを課題とする。また、該液晶配向膜を有し、視野角特性や残像特性が良好な液晶表示素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、合成するのに用いられる原料の1つとして、下記式(1)~式(3)で表される化合物から選択される少なくとも1つを含み、かつ、下記式(A)~式(C)で表される化合物、および下記式(D)で表される化合物から選択される少なくとも1つを含むポリマーを含有する液晶配向剤が、液晶のプレチルト角を低く抑えることができ、かつ残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える液晶配向膜を形成することができることを見出した。また、該液晶配向膜を有する液晶表示素子は、視野角特性や残像特性が良好であることを見出し、本発明に至った。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
【0011】
式(1)において、mは3~8の整数であり、式(3)において、nは1~3の整数であり、式(1)~(3)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示し、式(A)において、Aは窒素、または窒素含有ヘテロ環であり、Wは独立して、炭素数1~5のアルキレンであり、任意の-CH-は、-CO-、1,4-フェニレン、または1,3-フェニレンに置き換えられてもよく、Zは水素、熱により水素原子に置き換わる保護基、または炭素数1~5のアルキルであり、aは独立して0または1であり、式(B)において、Aは独立して、窒素、または窒素含有ヘテロ環であり、WおよびWは独立して炭素数1~5のアルキレンであり、任意の-CH-は、-CO-、1,4-フェニレン、または1,3-フェニレンに置き換えられてもよく、Zは独立して水素、熱により水素原子に置き換わる保護基、または炭素数1~5のアルキルであり、aは独立して0または1であり、式(C)において、Zは2級または3級アミノ基の少なくとも1つを含有する1価の有機基であり、式(D)において、Tは1~2個の炭素-炭素二重結合または1~2個の炭素-炭素三重結合を含む二価の不飽和結合含有基であり、そして、式(1)~式(3)および式(A)~式(C)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示し、ただし、前記式(1)においてmが8のときは、前記ジアミンが、前記式(A)~式(C)で表される化合物のいずれも含まれなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、下記式(D)で表される化合物でなくてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶配向剤を使用することで、液晶のプレチルト角を低く抑えることができ、かつ残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える液晶配向膜を得ることができる。また、該液晶配向膜を有する液晶表示素子は、視野角特性や残像特性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0014】
本発明の液晶配向剤は、合成するのに用いられる原料の1つとして、下記式(1)~式(3)で表される化合物から選択される少なくとも1つを含み、かつ、下記式(A)~式(C)で表される化合物、および下記式(D)で表される化合物から選択される少なくとも1つを含むポリマー(以下、単に「ポリマー」、本発明に係る「ポリマー」と称する場合がある)を含有する液晶配向剤である。
【0015】
【化4】
【0016】
【化5】
【0017】
【化6】
【0018】
式(1)において、mは3~8の整数であり、式(3)において、nは1~3の整数であり、式(1)~(3)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示し、式(A)において、Aは窒素、または窒素含有ヘテロ環であり、Wは独立して、炭素数1~5のアルキレンであり、任意の-CH-は、-CO-、1,4-フェニレン、または1,3-フェニレンに置き換えられてもよく、Zは水素、熱により水素原子に置き換わる保護基、または炭素数1~5のアルキルであり、rは0以上の任意の整数であり、aは独立して0または1であり、式(B)において、Aは独立して、窒素、または窒素含有ヘテロ環であり、WおよびWは独立して炭素数1~5のアルキレンであり、任意の-CH-は、-CO-、1,4-フェニレン、または1,3-フェニレンに置き換えられてもよく、Zは独立して水素、熱により水素原子に置き換わる保護基、または炭素数1~5のアルキルであり、rは0以上の任意の整数であり、aは独立して0または1であり、式(C)において、Zは2級または3級アミノ基の少なくとも1つを含有する1価の有機基であり、式(D)において、Tは1~2個の炭素-炭素二重結合または1~2個の炭素-炭素三重結合を含む二価の不飽和結合含有基であり、そして、式(1)~式(3)および式(A)~式(C)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示し、ただし、前記式(1)においてmが8のときは、前記ジアミンが、前記式(A)~式(C)で表される化合物のいずれも含まれなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、前記式(D)で表される化合物でなくてもよい。かかる構成を有することによって、液晶のプレチルト角を低く抑えることができ、かつ残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶配向膜を提供することができる。
【0019】
また、本発明の実施形態において、以下の原料由来の構成単位を含むポリマーの少なくとも1つを含有する液晶配向剤であって、前記原料が、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み、前記式(A)、前記式(B)、前記式(C)および前記式(D)からなる群から選択される少なくとも1つを含み、ただし、前記式(1)においてmが8のときは、前記ジアミンが、前記式(A)~式(C)で表される化合物のいずれも含まれなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、前記式(D)で表される化合物でなくてもよい、液晶配向剤が提供される。また、当該実施形態において、前記ポリマーが、ポリアミック酸、ポリイミド、部分ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミドコポリマーおよびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1つである。ただし、前記式(1)においてmが8のときは、前記ジアミンが、前記式(A)~式(C)で表される化合物のいずれも含まれなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、前記式(D)で表される化合物でなくてもよい。本明細書中、「・・・を含む原料からの反応生成物であるポリマー」は、「原料由来の構成単位を含むポリマー」であってもよい。
【0020】
なお、本発明の実施形態において、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーの少なくとも1つを含有する液晶配向剤の製造方法であって、前記ポリマーを合成するのに用いられる原料として、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群、および前記式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つとを反応させることを有し、ここで、前記ポリマーはポリアミック酸、ポリイミド、部分ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、およびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、ただし、前記式(1)においてmが8のときは、前記ジアミンが、前記式(A)~式(C)で表される化合物のいずれも含まれなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、下記式(D)で表される化合物でなくてもよい、製造方法が提供される。
【0021】
なお、本発明の実施形態においては、本発明に係るポリマーの液晶配向剤としての使用(応用)も提供される。
【0022】
本明細書中において、前記ポリマーが有機溶剤に溶解した状態のものをワニスと称す。ワニスの製造方法には特に制限はなく、テトラカルボン酸二無水物(その誘導体を含む)およびジアミン(ジヒドラジドを含む)を含む原料の混合物を有機溶剤中で反応させたポリマーと有機溶剤との混合物を、そのままワニスとして液晶配向剤の製造に用いてもよい。また、反応混合物からポリマーを回収して、そのポリマーを有機溶剤中に再溶解したものを、ワニスとして液晶配向剤の製造に用いてもよい。本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸、ポリイミド、部分ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、およびポリアミドイミドなどの群から選択されたポリマーを有機溶剤に溶解させたワニスを主成分とする溶液であり、2種以上のワニスを用いてもよい。本発明の好ましい形態では、この液晶配向剤を基板に塗布した後、加熱等の手段により成膜してポリイミド系液晶配向膜を形成する。
【0023】
さらに詳しくは、本発明の液晶配向剤は、合成するのに用いられる原料として、式(1)~式(3)で表される化合物から選択される少なくとも1つと、かつ、前記式(A)~式(C)で表される化合物、および前記式(D)で表される化合物から選択される少なくとも1つとを反応させて得たポリマーの少なくとも1つを含み、ただし、前記式(1)においてmが8のときは、前記ジアミンが、前記式(A)~式(C)で表される化合物のいずれも含まれなくてもよく、前記テトラカルボン酸二無水物が、前記式(D)で表される化合物でなくてもよい。また、本発明の実施形態において、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーの少なくとも1つを含有する液晶配向剤であって、前記ポリマーを合成するのに用いられる原料が、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み、かつ、前記式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。また、本発明の実施形態において、液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーを1つ含有し、より具体的には、本発明の実施形態における液晶配向剤は、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み、かつ、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群、および前記式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む原料を用いたポリマーを1つ含有する(ある実施形態においては基板上に1層積層されている形態であるので「単層系」と呼ぶこともできる)。すなわち、本発明の実施形態において、前記ポリマーを1つ含有する。また、本発明の実施形態において、前記ポリマーを2つ以上含有する(ある実施形態においては基板上に2層以上積層されている形態であるので「ブレンド系」と呼ぶこともできる)。また、本発明の実施形態の液晶配向剤は、合成するのに用いられる原料として、ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含む。つまり、本発明の実施形態において、前記ポリマーを少なくとも2つを含有し、前記少なくとも2つのポリマーは、ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含み;前記ポリマー(P)を合成するのに用いられる原料は、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み;そして、前記ポリマー(Q)を合成するのに用いられる原料は、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群、および前記式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0024】
本発明において、前記ポリマーは、ポリアミック酸、ポリイミド、部分ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、およびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1つである。また、本明細書において、これらは、それらの誘導体を含む。例えば、前記ポリマーは、ポリアミック酸またはその誘導体である。
【0025】
式(1)~式(3)で表される化合物について、説明する。
【0026】
【化7】
【0027】
式(1)において、mは3~8の整数であり、より具体的には、mは、3、4、5、6、7または8である。ここで、mが8であると、特にプレチルト角を低く抑える効果を奏しうる点からも好適である。また、mが3であると、特に良好な液晶配向性を示す点からも好適である。
【0028】
式(3)において、nは1~3の整数である。
【0029】
式(1)~式(3)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示す。なお、本発明の実施形態において、環へのアミノ基の結合位置は、下記の直線性を確保するため、メタ位、パラ位であることが好ましい。
【0030】
合成するのに用いられる原料として、上記式(1)、(2)および(3)で表される化合物の少なくとも1つを用いることで、得られるポリマーの安定なコンフォメーションが、非常に直線的であるため、液晶のプレチルト角を低く抑えることができると考えられる。
【0031】
式(1)~式(3)で表される化合物の好適な具体例を以下に示す。
【0032】
【化8】
【0033】
【化9】
【0034】
【化10】
【0035】
中でも、式(1-1)、式(1-4)、式(2-1)、および式(3-1)で表される化合物が、高い液晶配向性を示し、より液晶のプレチルト角を低く抑えることができるため好ましい。特に、式(1-1)および式(1-4)の少なくとも一方であることが、有機溶媒への溶解性が優れるため好ましい。以上のように、本発明においては、前記式(1-4)で示される、ジアミンも提供される。液晶配向剤に用いられるポリマーを合成するのに用いられる原料のうちジアミン原料として前記式(1-4)で示されるジアミンを用いることで、特異的に、液晶のプレチルト角を低く抑えることができ、かつ残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える液晶配向膜を形成することができる。また、液晶配向剤に用いられるポリマーを合成するのに用いられる原料のうちジアミン原料として前記式(1-4)で示されるジアミンのみを用いることで、特異的に、液晶のプレチルト角を低く抑えることができる。よって、本発明においては、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーの少なくとも1つを含有する液晶配向剤であって、前記ジアミンが、前記式(1-4)で示されるジアミンのみからなる、液晶配向剤も提供される。なお、液晶配向剤に用いられるポリマーを合成するのに用いられる原料のうちジアミン原料として前記式(1-4)で示されるジアミンを用いる場合、酸二無水物は特に制限されない。また、前記式(1-4)で示されるジアミンの合成方法としては実施例の欄に記載される方法が一例として挙げられるが、これに制限されない。
【0036】
続いて、式(A)~式(D)で表される化合物について、説明する。
【0037】
【化11】
【0038】
【化12】
【0039】
式(A)において、Aは窒素、または窒素含有ヘテロ環であり、Wは独立して、炭素数1~5のアルキレンであり、任意の-CH-は、-CO-、1,4-フェニレン、または1,3-フェニレンに置き換えられてもよく、Zは水素、熱により水素原子に置き換わる保護基、または炭素数1~5のアルキルであり、rは0以上の任意の整数であり、aは独立して0または1である。ここで、本明細書中の窒素含有ヘテロ環は、窒素含有複素環と、窒素含有脂肪族環とを含む概念である。また、窒素含有ヘテロ環には、窒素原子の他に、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子が含まれてもよい。また、本明細書中、rの任意の整数とは、Aが窒素含有ヘテロ環である場合、縮合する環の数や、含有されている窒素原子や、ヘテロ原子の数によって変化しうる数であるため特定できないが、例えば、1~10の整数でありうる。本明細書中、「熱により水素原子に置き換わる保護基」とは、熱により水素原子に置き換わるものであれば特に制限はないが、好適には、Boc(t-ブトキシカルボニル基の略)、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等のカルバメート系保護基が挙げられる。
【0040】
式(B)において、Aは独立して、窒素、または窒素含有ヘテロ環であり、WおよびWは独立して炭素数1~5のアルキレンであり、任意の-CH-は、-CO-、1,4-フェニレン、または1,3-フェニレンに置き換えられてもよく、Zは独立して水素、熱により水素原子に置き換わる保護基、または炭素数1~5のアルキルであり、rは0以上の任意の整数であり、aは独立して0または1である。
【0041】
式(C)において、Zは2級または3級アミノ基の少なくとも1つを含有する1価の有機基である。
【0042】
式(D)において、Tは1~2個の炭素-炭素二重結合または1~2個の炭素-炭素三重結合を含む二価の不飽和結合含有基である。本発明の実施形態において、Tは炭素数6~12のアリーレン基を含む。前記式(1)においてmが8のときは、Tはアルキレン基であってもよく、当該アルキレン基の炭素数2~16であることが好ましく、2~8であることがより好ましく、4~8であることがさらに好ましい。
【0043】
また、式(1)~式(3)および式(A)~式(C)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示す。
【0044】
本発明の実施形態において、式(A)~式(C)で表される化合物は、窒素(特には、2級アミノ基、3級アミノ基)、または窒素含有ヘテロ環を有している。これらの基は、液晶配向膜中の電荷の移動を促進する基として作用し、蓄積された電荷を素早く緩和する働きを担うと考えられる。また、式(D)で表される化合物は、分子全体にわたってπ電子雲が広がっている。よって、式(A)~式(C)で表される化合物と、式(D)で表される化合物とを反応させることで、得られるポリマーは高い共役性を有するため、液晶配向膜として用いたとき、体積抵抗値を下げ、残留DCのたまりを小さくし、電荷の早い緩和に寄与すると考えられる。ただし、前記式(1)においてmが8のときは、ジアミンとして式(A)~式(D)で表される化合物は必須ではなく、プレチルト角を驚くほど下げることができる効果を奏する。また、反応させる酸二無水物にも特に制限はなく、例えば、式(D)で表される化合物であってもよいし、(AN-1)~(AN-18)のいずれかで表されるものでもよいし、その他の公知のものであってもよい。
【0045】
式(A)~式(D)で表される化合物の具体例を以下に示す。
【0046】
【化13】
【0047】
【化14】
【0048】
【化15】
【0049】
【化16】
【0050】
【化17】
【0051】
【化18】
【0052】
式(A-1)~式(A-11)において、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示す。式(B-3)において、kは1~5の整数であり、より具体的には1、2、3、4または5である。式(B-4)において、nは1~3の整数であり、より具体的には1、2または3である。
【0053】
中でも、上記式(A-12)、式(A-14)、式(A-15)、式(A-16)、式(A-17)、式(A-19)、式(B-3)、式(B-5)、式(C-2)、式(C-3)、式(D-2)、および式(D-3)の少なくとも一つが好ましい。特に、式(B-3)および式(D-2)は、残留DCのたまりを小さくし、電荷の緩和が特に速いため好ましい。また、式(A-15)は、残留DCのたまりを小さくし、電荷の緩和が速いだけでなく、電圧保持率も良好であるためより好ましい。ここで、式(B-3)においては、k=2であることがさらに好ましい。
【0054】
本発明の実施形態によれば、前記式(1)~式(3)で表される化合物が、前記式(1)~式(3)で表される化合物が、前記式(1-1)~式(1-4)、式(2-1)、式(2-2)、および、式(3-1)~式(3-6)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(A)~式(C)で表される化合物が、前記式(A-1)~式(A~20)、式(B-1)~式(B-8)、および、式(C-1)~式(C-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(D)で表される化合物が、前記式(D-1)~式(D-4)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つである。かかる実施形態によれば、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0055】
また、本発明の実施形態においては、前記式(1)~式(3)で表される化合物が、前記式(1-1)、式(1-4)、式(2-1)、および式(3-1)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(A)~式(C)で表される化合物が、前記式(A-12)、式(A-14)、式(A-15)、式(A-16)、式(A-17)、式(A-19)、式(A-20)、式(B-3)、式(B-5)、式(C-2)、および式(C-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(D)で表される化合物が、前記式(D-2)、および式(D-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つである。かかる実施形態によれば、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0056】
本発明の実施形態においては、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い、残像特性の優れた液晶表示素子を得るために、式(A)~式(C)で表される化合物の少なくとも1つと、式(D)で表される化合物の少なくとも1つとを併用することも好ましい。よって、本発明の実施形態によれば、前記ポリマーを合成するのに用いられる原料が、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み、かつ、前記式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0057】
本発明で、前記ポリマーを合成する原料として、式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと、前記式(B)で表される化合物とを含む形態においては、前記式(C)で表される化合物のジアミン全量に対する含有量を有意に低減することが好ましく、使用するジアミン全量に対し、30モル%未満であることが好ましく、20モル%未満であることがより好ましく、10モル%未満であることがさらに好ましく、5モル%未満であることがよりさらに好ましく、4モル%未満であることがよりさらに好ましく、3モル%未満であることがよりさらに好ましく、2モル%未満であることがよりさらに好ましく、1モル%未満であることがよりさらに好ましく、実質的に含ませないことがよりさらに好ましい。ここで「実質的に含ませない」とは、使用するジアミン全量に対し、0.1モル%未満であることを意味する。ここで30モル%以上含ませるとDC残像の特性が悪化する虞がある。
【0058】
本発明の実施形態において、前記ポリマーが1種含まれる場合で、前記ポリマーを合成する原料として、式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと、前記式(C)で表される化合物とを含む形態においては、前記式(A)で表される化合物および前記式(B)で表される化合物の少なくとも一方(特に、前記式(A)で表される化合物)をさらに組み合わせることが好ましい。ここで、前記式(A)で表される化合物および前記式(B)で表される化合物の少なくとも一方(特に、前記式(A)で表される化合物)を使用しない場合、配向性が悪化する虞がある。本発明の実施形態において、前記式(C)で表される化合物を入れる場合に、前記式(A)で表される化合物も併用することによって、DC残像の特性が向上する技術的効果がある。
【0059】
本発明の実施形態において、前記ポリマーが1種含まれる場合、前記ポリマーを合成する原料として、式(1-1)で表される化合物と、式(B-3)で表される化合物とを組み合わせる形態においては、式(1-1)で表される化合物の、使用するジアミン全量に対する含有量は、液晶のプレチルト角を低く抑えるために、ポリマーを合成するのに用いるジアミン全量に対し、90モル%超用いるのが好ましく、92モル%以上用いるのがより好ましく、95モル%以上用いるのがさらに好ましい。電圧保持率などの電気特性を維持しつつ、残留DCのたまりが小さくして、電荷の緩和を速くすることを重視する場合は、過度に多すぎないことが好ましく、具体的には、90モル%未満であることが好ましく、88モル%以下であることがより好ましく、86モル%以下であることがさらに好ましく、84モル%以下であることがさらに好ましく、82モル%以下であることがさらに好ましく、80モル%以下であることがさらに好ましく、78モル%以下でも、76モル%以下でも、74モル%以下でも、72モル%以下でもよい。
【0060】
本発明の実施形態において、前記ポリマーが1種含まれる場合、前記ポリマーを合成するのに用いられる原料が、式(A-12)、式(A-14)、式(A-15)、式(A-16)、式(A-17)、式(A-19)、式(B-3)、式(B-5)、式(C-2)、および式(C-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと;式(D-2)および式(D-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと;を含んで(併用して)もよい。また、本発明の実施形態によれば、前記ポリマーを合成するのに用いられる原料が、式(A-15)および式(B-3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つと;式(D-2)で表される化合物と;を含む(併用する)のがより好ましく、式(B-3)において、k=2がさらに好ましい。
【0061】
本発明の実施形態において、合成するのに用いられる原料として、前記式(1)~式(3)で表される化合物から選択される少なくとも1つと;前記式(A)~式(C)で表される化合物、および式(D)で表される化合物から選択される少なくとも1つを反応させて得たポリマーの少なくとも1つと;を含む液晶配向剤において、前記ポリマーを合成するのに用いる、式(1)~式(3)で表される化合物の使用量は、液晶のプレチルト角を低く抑えるために、ポリマーを合成するのに用いるジアミン全量(前記液晶配向剤に2種以上のポリマーが含まれる場合はその合計のジアミン全量(100モル%))に対し、27モル%以上用いるのが好ましく、28モル%以上用いるのがより好ましく、29モル%以上用いるのがさらに好ましく、30モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、31モル%以上用いることがよりさらに好ましく、32モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、33モル%以上用いることがよりさらに好ましく、34モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、35モル%以上用いることがよりさらに好ましい。また、体積抵抗を下げる目的で、99モル%以下用いることが好ましく、98モル%以下であってもよいし、96モル%以下であってもよいし、94モル%以下であってもよいし、92モル%以下であってもよいし、90モル%以下であってもよいし、88モル%以下であってもよいし、86モル%以下であってもよいし、84モル%以下であってもよいし、82モル%以下であってもよい。また、本発明の実施形態において、式(A)~式(C)で表される化合物の使用量は、電圧保持率などの電気特性を維持しつつ、残留DCのたまりが小さくして、電荷の緩和を速くするために、ポリマーを合成するのに用いるジアミン全量(前記液晶配向剤に2種以上のポリマーが含まれる場合はその合計のジアミン全量(100モル%))に対し、0モル%以上が好ましく、0モル%超がより好ましく、1モル%以上がさらに好ましく、2モル%以上がよりさらに好ましく、3モル%以上がよりさらに好ましく、4モル%以上がよりさらに好ましく、5モル%以上がよりさらに好ましく、6モル%以上がよりさらに好ましい。また、液晶配向性を向上させる目的で、50モル%未満が好ましく、46モル%以下がより好ましく、44モル%以下がさらに好ましく、42モル%以下がさらに好ましく、38モル%以下がよりさらに好ましく、36モル%以下がよりさらに好ましく、34モル%以下がよりさらに好ましく、32モル%以下がよりさらに好ましく、30モル%以下がよりさらに好ましく、28モル%以下がよりさらに好ましく、26モル%以下がよりさらに好ましく、24モル%以下がよりさらに好ましく、22モル%以下がよりさらに好ましい。
【0062】
また、本発明の実施形態において、前記ポリマーが1種含まれる場合、液晶のプレチルト角を低く抑えるために、ポリマーを合成するのに用いるジアミン全量に対し、前記式(1)~式(3)で表される化合物の割合(2種以上含まれる場合はその合計)が、使用するジアミン全量に対し、50モル%超であることが好ましく、54モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましく、60モル%超であることがよりさらに好ましく、65モル%以上であることがよりさらに好ましく、66モル%以上であることがよりさらに好ましく、67モル%以上であることがよりさらに好ましく、68モル%以上であることがよりさらに好ましく、69モル%以上であることがよりさらに好ましく、70モル%以上であることがよりさらに好ましい。また、99モル%以下であることが好ましく、98モル%以下であってもよく、96モル%以下であってもよく、94モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよく、90モル%未満であってもよい。ただし、前記式(1)においてmが8のときは、100モル%であることが好ましく、100モル%であると驚くほどプレチルト角を低くすることができる。
【0063】
また、本形態(前記ポリマーが1種含まれる場合)において、前記式(A)~式(C)で表される化合物の割合(2種以上含まれる場合はその合計)が、使用するジアミン全量に対し、0.5モル%以上であることが好ましく、0.8モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましく、4モル%以上であってもよく、6モル%以上であってもよい。また、本形態(前記ポリマーが1種含まれる場合)において、前記式(A)~式(C)で表される化合物(2種以上含まれる場合はその合計)の割合が、使用するジアミン全量に対し、液晶配向性を向上させる目的で、50モル%未満が好ましく、46モル%以下がより好ましく、44モル%以下がさらに好ましく、42モル%以下がよりさらに好ましく、40モル%以下がよりさらに好ましく、38モル%以下がよりさらに好ましく、36モル%以下がよりさらに好ましく、34モル%以下がよりさらに好ましく、32モル%以下がよりさらに好ましく、30モル%以下がよりさらに好ましく、28モル%以下がよりさらに好ましく、26モル%以下がよりさらに好ましく、24モル%以下がよりさらに好ましく、22モル%以下がよりさらに好ましい。ただし、プレチルト角を下げるためには、式(B-3)(例えば、k=2)、式(B-5)、式(B-8)、式(C-1)~式(C-3)の使用量は、40モル%以下が好ましく、40モル%未満がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましく、30モル%未満がよりさらに好ましい。特に、式(C-1)~式(C-3)の使用量は、10モル%以下がさらに好ましく、10モル%未満がよりさらに好ましい。
【0064】
よって、本形態(前記ポリマーが1種含まれる場合)において、前記式(1)~式(3)で表される化合物の割合(2種以上含まれる場合はその合計)が、使用するジアミン全量に対し、70モル%以上であって、前記式(A)~式(C)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、1~30モル%である。
【0065】
また、本実施形態において、式(D)で表される化合物が使用される場合、式(D)で表される化合物の使用量は特に制限されるものではないが、配向電圧保持率などの電気特性を維持しつつ、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和をより速くするために、ポリマーを合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物全量に対し、10モル%以上であってもよく、20モル%以上がであってもよく、30モル%以上がであってもよい。また、60モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましい。
【0066】
本発明の液晶配向剤は、ポリマー(P)およびポリマー(Q)の少なくとも2つのポリマーを含有するのが好ましい。よって、前記ポリマーを少なくとも2つを含有し、前記少なくとも2つのポリマーは、ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含み;前記ポリマー(P)を合成するのに用いられる原料は、前記式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを含み;そして、前記ポリマー(Q)を合成するのに用いられる原料は、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群、および前記式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0067】
ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含む液晶配向剤において、ポリマー(P)を合成するのに用いる原料としての、式(1)~式(3)で表される化合物の使用量(2種以上含まれる場合はその合計)は、液晶のプレチルト角を低く抑えるために、ポリマー(P)を合成するのに用いるジアミン全量に対し、50モル%超であることが好ましく、54モル%以上であることがより好ましく、56モル%以上であることがさらに好ましく、60モル%以上であることがよりさらに好ましく、70モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、75モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、80モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、82モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、84モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、85モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、86モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、87モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、88モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、89モル%以上用いるのがよりさらに好ましく、90モル%以上用いるのがよりさらに好ましい。ここで、ポリマー(P)を合成するのに用いる原料として、式(1-4)で表される化合物を、ポリマー(Q)を合成するのに用いる原料として、表面エネルギーを大きくする化合物と考えられる式(E-5)で表される化合物を用いる場合、ポリマー(P)に用いる式(1-4)で表される化合物の使用量を低減することも好ましい。また、上限については特に制限されず、100モル%であってもよいし、95モル%以下であってもよいし、85モル%以下であってもよいし、75モル%以下であってもよい。また、ポリマー(Q)を合成するのに用いる、式(A)~式(C)で表される化合物の使用量(2種以上含まれる場合はその合計)は、電圧保持率などの電気特性を維持しつつ、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和をより速くするために、ポリマーを合成するのに用いるジアミン全量に対し、0モル%超であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることがさらに好ましく、20モル%以上であることがよりさらに好ましく、25モル%以上であることがよりさらに好ましく、30モル%以上であることがよりさらに好ましい。また、液晶配向性を維持する目的で60モル%以下であることが好ましく、55モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましい。ただし、プレチルト角を下げるためには、式(B-3)(例えば、k=2)、式(B-5)、式(B-8)、式(C-1)~式(C-3)の使用量は、30モル%以下が好ましく、30モル%未満がより好ましい。また、ポリマー(Q)を合成するのに用いる、式(A)~式(C)で表される化合物の使用量は、10~50モル%が好ましく、30~50モル%がより好ましい。
【0068】
また、式(D)で表される化合物の使用量は、電圧保持率などの電気特性を維持しつつ、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和をより速くするために、ポリマー(Q)を合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物全量に対し、20~50モル%が好ましく、20~30モル%がより好ましい。
【0069】
よって、本発明の実施形態では、前記ポリマー(P)において、前記式(1)~式(3)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、70モル%以上であって;前記ポリマー(Q)において、前記式(A)~式(C)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、10~50モル%である。
【0070】
また、前記ポリマー(P)において、前記式(1)~式(3)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、90モル%以上であって;前記ポリマー(Q)において、前記式(A)~式(C)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、30~50モル%である。また、本発明の実施形態では、前記ポリマー(P)において、前記式(1)~式(3)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、70モル%以上、好ましくは90モル%以上であって;前記ポリマー(Q)において、前記式(D)で表される化合物の割合が、使用するテトラカルボン酸二無水物全量に対し、20~50モル%である。
【0071】
本発明において、ポリマーを合成するのに用いられる原料として、公知のテトラカルボン酸二無水物(その誘導体を含む)、ジアミン(ジヒドラジドを含む)をさらに使用することが出来る。
【0072】
本発明で用いられるテトラカルボン酸二無水物は、公知のテトラカルボン酸二無水物から制限されることなく選択することができる。公知のテトラカルボン酸二無水物は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、および芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。例えば、特開2016-029447号公報や特開2016-041683号公報に開示されているテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。好ましい例を以下に示す。
【0073】
【化19】
【0074】
式(AN-2)および式(AN-8)において、mは独立して1~12の整数である。
【0075】
上記テトラカルボン酸二無水物において、各特性を向上させる好ましい材料について述べる。
【0076】
液晶の配向性を向上させることを重視する場合には、式(AN-2)、式(AN-7)、および式(AN-8)で表される化合物が好ましい。
【0077】
液晶表示素子の透過率を向上させることを重視する場合には、式(AN-1)、式(AN-5)、式(AN-4)、式(AN-11)、式(AN-12)、式(AN-13)、式(AN-14)、式(AN-17)、および式(AN-18)が好ましい。
【0078】
液晶表示素子のVHR(電圧保持率)を向上させることを重視する場合には、式(AN-1)、式(AN-4)、式(AN-5)、式(AN-11)、式(AN-13)、式(AN-14)、式(AN-16)、式(AN-17)、および式(AN-18)が好ましい。
【0079】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、式(AN-3)、式(AN-6)、式(AN-7)、式(AN-9)、式(AN-10)、式(AN-11)、および式(AN-15)が好ましい。
【0080】
本発明において、ポリマーを合成するのに用いられる原料として、窒素(特には、2級アミノ基、3級アミノ基)、または窒素含有へテロ環を有するテトラカルボン酸二無水物(例えば、式(AN-3)や上記式(AN-11))を用いることにより、さらに残留DCのたまりを小さくし、緩和速度を向上させることができると考えられる。ポリマーを合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物全量に対し、1~40モル%用いるのが好ましく、1~15モル%用いるのがより好ましく、1~10モル%用いるのがさらに好ましい。
【0081】
本発明の実施形態において、式(1)~(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと、前記式(A)~式(C)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つと、を含む形態においては、テトラカルボン酸二無水物を3種以上組み合わせて用いることが好ましい。本形態においてテトラカルボン酸二無水物が2種類以下の組み合わせであると、液晶配向性が悪化する虞がある。ここで、3種以上の具体的な組み合わせの好適な例は、本願の実施例に掲げられている組み合わせの他、(AN-2)、(AN-4)および(AN-6);(AN-4)、(AN-7)および(AN-9);(AN-4)、(AN-6)および(AN-11)等がよい。かような組み合わせであることによって本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0082】
本発明の実施形態において、酸二無水物として、式(AN-8)を使用することが好ましい。また、式(1-1)と、式(B)とを組み合わせる場合においては、酸二無水物として、式(AN-8)を使用することが好ましい。かかる実施形態によれば、プレチルト角を下げ、残留DCのたまりを小さくし緩和速度を向上させ、さらに液晶配向性を上げる効果がある。本発明の実施形態において、式(1-1)で表される化合物と、式(B)で表される化合物とを組み合わせる場合であって、式(1-1)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、90モル%以上のときは、酸二無水物として、式(AN-8)を使用することが特に好ましい。かかる実施形態によれば、プレチルト角を下げ、残留DCのたまりを小さくし緩和速度を向上させ、さらに液晶配向性を上げる効果がある。
【0083】
本発明において、ポリマー(P)とポリマー(Q)の少なくとも2つのポリマーを含有する形態においては、ポリマー(P)に用いる原料として、前述の式(D)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを用いてもよい。
【0084】
ポリマー(P)に用いる化合物としては、式(AN-1)、式(AN-3)、式(AN-4)、式(AN-6)、式(AN-8)、および式(AN-9)が好ましく、式(AN-8)においては、m=4、または8がより好ましい。液晶配向性や電圧保持率などの電気特性の各特性において、良いバランスで高い特性を示すには、式(AN-4)、式(AN-6)、および式(AN-8)を併用するのが好ましく、式(AN-8)において、m=4、または8がより好ましい。
【0085】
本発明で用いられるジアミン(ジヒドラジドを含む)は、公知のジアミンおよびジヒドラジドから制限されることなく選択することができる。例えば、特開2016-029447号公報や特開2016-041683号公報に開示されているジアミンやジヒドラジドを用いることができる。好ましい例を以下に示す。
【0086】
【化20】
【0087】
【化21】
【0088】
式(DI-3)、式(DI-6)および式(DI-7)において、mは1~12の整数である。
【0089】
本発明の実施形態において、前記ポリマーを合成するのに用いられる原料として、さらに下記式(E)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0090】
【化22】
【0091】
前記式(E)において、Wは炭素数1~6のアルキレン、1,3-フェニレン、または1,4-フェニレンであり;そして、Wは独立して、単結合、-NHCO-、または-CONH-である。特に二層系(ブレンド系)の形態において式(E)で表される化合物を含むことによって相分離を効率的に起こさせることができる。また、本発明の実施形態において、前記ポリマー(Q)の合成に用いられる原料として、前記式(E)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0092】
【化23】
【0093】
式(E)において、Wは炭素数1~6のアルキレン、1,3-フェニレン、または1,4-フェニレンであり、そして、Wは独立して、単結合、-NHCO-、または-CONH-である。
【0094】
式(E)で表される化合物として、下記式(E-1)~式(E-8)を具体例として挙げることができる。すなわち、前記式(E)で表される化合物が、下記式(E-1)~式(E-8)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つである。
【0095】
【化24】
【0096】
式(E-5)、および式(E-8)において、pは、それぞれ独立して、1~6の整数である。
【0097】
また、本発明の実施形態において、前記式(1)~式(3)で表される化合物が、前記式(1-1)~式(1-4)、式(2-1)、式(2-2)、式(3-1)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(A)~式(C)で表される化合物が、前記式(A-12)、式(A-14)、式(A-15)、式(A-16)、式(A-17)、式(B-3)、式(C-2)、および式(C-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(D)で表される化合物が、前記式(D-2)、および式(D-3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(E)で表される化合物が、前記式(E-5)~式(E-7)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つである。また、本発明の実施形態において、前記式(1)~式(3)で表される化合物が、前記式(1-1)および式(1-4)から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(A)~式(C)で表される化合物が、前記式(A-15)および(B-3)から選ばれる少なくとも1つであり;前記式(D)で表される化合物が、前記式(D-2)で表される化合物であり;前記式(E)で表される化合物が、前記式(E-5)で表される化合物である。
【0098】
上記ジアミン(ジヒドラジドを含む)において、各特性を向上させる好ましい材料について述べる。
【0099】
液晶の配向性をさらに向上させることを重視する場合には、上記のジアミン(ジヒドラジドを含む)のうち、式(DI-3)、式(DI-6)、式(DI-7)、式(DI-9)、式(DI-10)、式(E-1)、および式(E-8)が好ましい。式(DI-3)、式(DI-6)、式(DI-7)、および式(E-1)がより好ましい。式(DI-3)においては、m=1、2、4または6が好ましく、m=2、4がより好ましい。式(DI-6)においては、m=2~6が好ましく、m=2または5がより好ましい。式(DI-7)においては、m=1、または2が好ましく、m=1がより好ましい。上記のジアミンは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
透過率を向上させることを重視する場合には、上記のジアミン(ジヒドラジドを含む)のうち、式(DI-1)、式(DI-3)、式(DI-8)、および式(E-8)が好ましく、(DI-1)がより好ましい。式(DI-3)において、m=1、2、4または6が好ましく、m=1または2がより好ましい。
【0101】
液晶表示素子のVHRを向上させることを重視する場合には、上記のジアミン(ジヒドラジドを含む)のうち、式(DI-1)、式(DI-3)、式(E-1)、および式(E-2)が好ましく、式(DI-1)、および式(DI-3)がより好ましい。式(DI-3)においては、m=1が好ましい。
【0102】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、液晶配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、上記のジアミン(ジヒドラジドを含む)のうち、式(DI-3)、式(DI-6)、式(DI-7)、および式(E-1)~式(E-6)が好ましく、式(DI-3)、式(DI-7)、式(E-1)、式(E-5)、および式(E-6)がより好ましい。式(DI-3)においては、m=1、2、4または6が好ましく、m=1または2がより好ましい。式(DI-6)においては、m=2~6が好ましく、m=2または5がより好ましい。式(DI-7)においては、m=1、または2が好ましく、m=1がより好ましい。式(E-5)においては、p=4が好ましい。
【0103】
本発明の実施形態において、ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含む液晶配向剤において、ポリマー(P)に用いる原料として、前述の式(A)~式(C)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを用いてもよく、ポリマー(Q)に用いる原料として、式(1)~式(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを用いてもよい。当該形態において、ポリマー(P)に用いる原料において、窒素含有ヘテロ環が、窒素含有シクロアルカンであることが好ましく、例えば、式(A-15)、式(A-16)、式(A-17)等が好ましい。
【0104】
ポリマー(P)に用いる化合物として、式(DI-3)、式(DI-5)、式(A-15)、および式(C-3)が好ましい。ここで、式(DI-3)では、m=1または4が好ましく、1がより好ましい。また、ポリマー(Q)に用いる化合物として、式(DI-3)、式(DI-5)、式(DI-6)、式(DI-9)、および式(E)で表される化合物から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。ここで、式(DI-3)では、m=1、2または4が好ましく、1または2がより好ましい。ここで、式(DI-6)では、m=2または5が好ましく、2がより好ましい。
【0105】
本発明の実施形態において、液晶のプレチルト角をより低く抑え、残留DCのたまりを小さく、緩和を速くするためには、液晶プレチルト角を低く抑える役割を担うポリマー(P)をより上層に(液晶層側に)、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える役割を担うポリマー(Q)をより下層に(基板側に)、偏析させることが重要である。ポリマー(Q)に、表面エネルギーを大きくする化合物を用いることで、2つのポリマーはより偏析しやすくなると考えられる。よって、本発明の実施形態において、液晶層を配向させるために用いられる液晶配向膜が、基板上に位置する液晶配向剤由来の塗膜からなり、当該塗膜が、ポリマー(P)およびポリマー(Q)を含み、当該ポリマー(P)が液晶層側に位置し、当該ポリマー(Q)が基板側に位置する。
【0106】
本発明の実施形態において、ポリマー(Q)に用いる原料として、表面エネルギーを大きくする化合物と考えられる、式(E)で表される化合物を用いることが好ましい。具体的な化合物としては、式(E-1)~式(E-8)が好ましく、式(E-1)、式(E-3)、式(E-4)、式(E-5)、式(E-6)がより好ましく、式(E-3)、式(E-4)、式(E-5)、式(E-6)がさらに好ましく、(E-5)、(E-6)を使用することがよりさらに好ましく、(E-5)がよりさらに好ましく、式(E-5)においては、p=4が好ましい。また、本発明の実施形態において、前記ポリマー(Q)を合成するのに用いる、式(E)で表される化合物の使用量は、前記ポリマー(Q)を合成するのに用いるジアミン全量に対し、50~70モル%が好ましい。よって、前記ポリマー(Q)において、前記式(E)で表される化合物の割合が、使用するジアミン全量に対し、50~70モル%である。
【0107】
本発明の実施形態において、各ジアミンにおいて、ジアミンに対するモノアミンの比率が40モル%以下の範囲で、ジアミンの一部がモノアミンに置き換えられていてもよい。このような置き換えによって、ポリマー(例えば、ポリアミック酸)を生成する際の重合反応のターミネーションを起こすことができ、それ以上の重合反応の進行を抑えることができる。そして、得られるポリマー(例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルもしくはポリイミド)の重量平均分子量(以下、Mwとも表記する。)を容易に制御することができ、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。モノアミンに置き換えられるジアミンは、本発明の効果が損なわれなければ、1種でも2種以上でもよい。前記モノアミンとしては、例えばアニリン、4-ヒドロキシアニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、およびn-エイコシルアミンが挙げられる。
【0108】
本発明の実施形態において、前記ポリマーは、その原料にモノイソシアネート化合物をさらに含んでいてもよい。モノイソシアネート化合物を原料に含むことによって、得られるポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の末端が修飾され、Mwが調節される。この末端修飾型のポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))を用いることにより、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。原料中のモノイソシアネート化合物の含有量は、原料中のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の総量に対して1~10モル%であることが、前記の観点から好ましい。前記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、およびナフチルイソシアネートが挙げられる。
【0109】
本発明の実施形態において、前記ポリマーは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの混合物を有機溶剤中で反応させることによって得られる。この合成反応においては、原料の選択以外に特別な条件は必要でなく、通常のポリマー(例えば、ポリアミック酸)合成における条件をそのまま適用することができる。使用できる溶剤については後述する。
【0110】
本発明の実施形態において、液晶配向剤は、前記ポリマー以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分は、1種であっても2種以上であってもよい。他の成分として、例えば後述するその他のポリマーや化合物などが挙げられる。
【0111】
その他のポリマーとしては、前記ポリマー(P)およびポリマー(Q)以外のポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、またはポリイミド(以下、“その他のポリアミック酸またはその誘導体”という。)、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらは、1種であっても2種以上であってもよい。これらのうち、その他のポリアミック酸またはその誘導体およびポリシロキサンが好ましく、その他のポリアミック酸またはその誘導体がより好ましい。
【0112】
その他のポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0113】
その他のポリアミック酸またはその誘導体は、それぞれ、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体の合成方法として下記に記載したところに準じて合成することができる。
【0114】
上述の通り、本発明の液晶配向剤の好ましい実施形態の1つは、ポリマー(P)およびポリマー(Q)の少なくとも2つのポリマーを含有する、液晶配向剤である。2つのポリマーを含む液晶配向剤を用いて塗膜(特には、薄膜)を形成する過程で、表面エネルギーが小さいポリマーは上層に、表面エネルギーの大きいポリマーは下層に分離する現象が知られている。本発明においては、液晶のプレチルト角を低く抑える役割を担うポリマー(P)を上層に、残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える役割を担うポリマー(Q)を下層に偏析させることにより、上述の2つの特性を発揮する液晶配向膜を形成することができる。本発明の実施形態において、ポリマー(P)およびポリマー(Q)の少なくとも2つのポリマーは互いに表面エネルギーが異なり、ポリマー(Q)の表面エネルギーの方が、ポリマー(P)の表面エネルギーの方より大きい。
【0115】
上記の液晶配向膜が層分離しているかの確認は、例えば、形成した膜の表面エネルギーを測定し、ポリマー(P)のみを含有する液晶配向剤によって形成された膜の表面エネルギーの値と同じか、それに近い値であることによって確認することができる。
【0116】
上記のように良好な液晶配向性および低プレチルト角特性を示すために、本発明の液晶配向剤中のポリマー(P)の含有量は、含まれるポリマー全量を100重量%としたとき20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが好ましい。また、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。ただし、ここで述べるポリマー(P)の好ましい含有量は1つの指針であり、原料に用いるテトラカルボン酸二無水物またはジアミンの組み合わせによって変動することがある。
【0117】
本発明で、前記ポリマーを1つ含有する実施形態において、ポリマーのMwは、20,000~160,000が好ましく、40,000~80,000がより好ましく、45,000~70,000がさらに好ましい。ポリマー(P)およびポリマー(Q)の少なくとも2つのポリマーにおいても、Mwは、それぞれ独立して、20,000~160,000が好ましく、40,000~80,000がより好ましい。ポリマーのMwは、実施例記載の方法によって測定することができる。ポリマーのMwは、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させる時間によって調整することができる。反応の終点は、重合反応中の反応液を少量採取して、これに含まれるポリマーのMwをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定によって求め、その測定値によって決定することができる。また、反応開始時にテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの相当量を、モノカルボン酸またはモノアミンに置き換えることにより、重合反応のターミネーションを起こさせて、Mwを制御する方法もよく知られている。
【0118】
前記ポリシロキサンとしては、特開2009-036966号公報、特開2010-185001号公報、特開2011-102963号公報、特開2011-253175号公報、特開2012-159825号公報、国際公開第2008/044644号公報、国際公開第2009/148099号公報、国際公開第2010/074261号公報、国際公開第2010/074264号公報、国際公開第2010/126108号公報、国際公開第2011/068123号公報、国際公開第2011/068127号公報、国際公開第2011/068128号公報、国際公開第2012/115157号公報、国際公開第2012/165354号公報等に開示されているポリシロキサンをさらに含有することができる。
【0119】
本発明の実施形態において、アルケニル置換ナジイミド化合物、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物、オキサジン化合物、オキサゾリン化合物、およびエポキシ化合物からなる化合物の群から選ばれる少なくとも1つをさらに含有する。
【0120】
<アルケニル置換ナジイミド化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、アルケニル置換ナジイミド化合物をさらに含有していてもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物は1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物の含有量は、上記の目的から、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0121】
アルケニル置換ナジイミド化合物は、本発明で用いられるポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))を溶解する溶剤に溶解させることができる化合物であることが好ましい。このようなアルケニル置換ナジイミド化合物として、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているアルケニル置換ナジイミド化合物を挙げることができる。好ましいアルケニル置換ナジイミド化合物としては、ビス{4-(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)フェニル}メタン、N,N’-m-キシリレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)が挙げられる。
【0122】
<ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物をさらに含有していてもよい。ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。なお、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物にはアルケニル置換ナジイミド化合物は含まれない。ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の含有量は、上記の目的から、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0123】
なお、アルケニル置換ナジイミド化合物に対するラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の比率は、液晶表示素子のイオン密度を低減し、イオン密度の経時的な増加を抑制し、さらに残像の発生を抑制するために、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物/アルケニル置換ナジイミド化合物が重量比で0.1~10であることが好ましく、0.5~5であることがより好ましい。
【0124】
好ましいラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物を挙げることができる。
【0125】
<オキサジン化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサジン化合物をさらに含有していてもよい。オキサジン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサジン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0126】
オキサジン化合物は、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))を溶解させる有機溶媒に可溶であり、加えて、開環重合性を有するオキサジン化合物が好ましい。好ましいオキサジン化合物としては、例えば、式(OX-3-1)、式(OX-3-9)で表されるオキサジン化合物や、特開2013-242526号公報等に開示されているオキサジン化合物を挙げることができる。
【0127】
【化25】
【0128】
<オキサゾリン化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサゾリン化合物をさらに含有していてもよい。オキサゾリン化合物はオキサゾリン構造を有する化合物である。オキサゾリン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサゾリン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることが好ましい。または、オキサゾリン化合物の含有量は、オキサゾリン化合物中のオキサゾリン構造をオキサゾリンに換算したときに、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対して0.1~40重量%であることが、上記の目的から好ましい。
【0129】
オキサゾリン化合物としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているオキサゾリン化合物を挙げることできる。好ましいオキサゾリン化合物としては、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンが挙げられる。
【0130】
<エポキシ化合物>
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、エポキシ化合物をさらに含有していてもよい。エポキシ化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。エポキシ化合物の含有量は、上記の目的から、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0131】
エポキシ化合物としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているエポキシ化合物を挙げることができる。好ましいエポキシ化合物としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(3,3‘,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシルが挙げられる。
【0132】
また例えば、本発明の液晶配向剤は各種添加剤をさらに含有していてもよい。各種添加剤としては、例えばポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))以外の高分子化合物、および低分子化合物が挙げられ、それぞれの目的に応じて選択して使用することができる。添加剤を含有させることで膜の硬度を高める技術的効果を有し、特にラビング処理への耐性を高め、ひいては配向膜としての信頼性を高める。添加剤を入れるとプレチルト角が高まる傾向にはあるが、本発明の実施形態においては、かような添加剤を入れてもプレチルト角を有意に低減させることができるとの効果を有する。
【0133】
例えば、前記高分子化合物としては、有機溶媒に可溶性の高分子化合物が挙げられる。このような高分子化合物を本発明の液晶配向剤に添加することは、形成される液晶配向膜の電気特性や配向性を制御する観点から好ましい。該高分子化合物としては、例えばポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエポキサイド、ポリエステルポリオール、シリコーン変性ポリウレタン、およびシリコーン変性ポリエステルが挙げられる。
【0134】
また、前記低分子化合物としては、例えば1)塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤、2)帯電防止の向上を必要とするときは帯電防止剤、3)基板との密着性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤、また、4)低温でイミド化を進行させる場合はイミド化触媒、が挙げられる。
【0135】
シランカップリング剤としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているシランカップリング剤を挙げることができる。好ましいシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。また、イミド化触媒としては、特開2013-242526号公報等に開示されているイミド化触媒を挙げることができる。
【0136】
シランカップリング剤の添加量は、通常、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の総重量の0~20重量%であり、0.1~10重量%であることが好ましい。
【0137】
イミド化触媒の添加量は、通常、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))のカルボニル基に対して0.01~5当量であり、0.05~3当量であることが好ましい。
【0138】
その他の添加剤の添加量は、その用途に応じて異なるが、通常、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の総重量の0~100重量%であり、0.1~50重量%であることが好ましい。
【0139】
また例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性や前記ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の濃度の調整の観点から、溶剤をさらに含有していてもよい。前記溶剤は、高分子成分を溶解する能力を持った溶剤であれば格別制限なく適用可能である。前記溶剤は、ポリマー(例えば、ポリアミック酸、可溶性ポリイミド等)の高分子成分の製造工程や用途面で通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて、適宜選択できる。前記溶剤は1種でも2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0140】
溶剤としては、前記ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の親溶剤や、塗布性改善を目的とした他の溶剤が挙げられる。
【0141】
ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))に対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、N-メチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン等のラクトンが挙げられる。
【0142】
塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、乳酸アルキル、3-メチル-3-メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、フェニルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、これらのアセテート類等のエステル化合物、ジイソブチルケトンなどのケトン化合物が挙げられる。
【0143】
これらの中で、前記溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジイソブチルケトンが特に好ましい。
【0144】
本発明の液晶配向剤中のポリマー(例えば、ポリアミック酸)の濃度は0.1~40重量%であることが好ましく、1~20重量%であることがより好ましく、1.5~8重量%であることがさらに好ましい。この配向剤を基板に塗布するときには、膜厚の調整のために、含有されているポリマー(例えば、ポリアミック酸)を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。
【0145】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の濃度、使用するポリマー(例えば、ポリアミック酸(その誘導体を含む))の種類、溶剤の種類と割合によって好ましい範囲が異なる。例えば、印刷機による塗布の場合、5~100mPa・sの範囲であると、十分な膜厚が得られ、印刷ムラが大きくなることを防ぐことができるため好ましく、10~80mPa・sであることがより好ましい。スピンコートによる塗布の場合は5~200mPa・s(より好ましくは10~100mPa・s)が適している。インクジェット塗布装置を用いて塗布する場合は5~50mPa・s(より好ましくは5~20mPa・s)が適している。液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE-20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。なお、本願の実施例では5~15mPa・s程度であった。
【0146】
<液晶配向膜>
本発明の実施形態によれば、前記液晶配向剤によって形成される、液晶配向膜が提供される。以下、詳細に説明する。本発明の実施形態において、液晶配向膜は、前記液晶配向剤の塗膜を加熱することによって形成される膜である。本発明の液晶配向膜は、液晶配向剤から液晶配向膜を作製する通常の方法によって得ることができる。例えば本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤の塗膜を形成する工程と、加熱乾燥する工程と、加熱焼成する工程とを経ることによって得ることができる。本発明の液晶配向膜については、必要に応じて後述の通り、加熱乾燥工程、加熱焼成工程を経て得られる膜をラビング処理して異方性を付与してもよい。または、必要に応じて、塗膜工程、加熱乾燥工程の後に光を照射して、または加熱焼成工程の後に光を照射して異方性を付与してもよい。
【0147】
塗膜は、通常の液晶配向膜の作製と同様に、液晶表示素子における基板に本発明の液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。基板には、ITO(IndiumTinOxide)、IZO(In-ZnO)、IGZO(In-Ga-ZnO)電極等の電極やカラーフィルタ等が設けられていてもよいガラス製、窒化ケイ素製、アクリル製、ポリカーボネート製、ポリイミド製等の基板が挙げられる。なお、本願の実施例ではITOを使用した。
【0148】
液晶配向剤を基板に塗布する方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても同様に適用可能である。
【0149】
前記加熱乾燥工程(予備焼成工程)は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。加熱乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の温度で実施することが好ましく、加熱焼成工程における温度に対して比較的低い温度で実施することがより好ましい。具体的には加熱乾燥温度は30℃~150℃の範囲であること、さらには50℃~120℃の範囲であることが好ましい。また、時間としても特に制限はないが、例えば、1~10分間、さらには1~5分間が好適である。
【0150】
前記加熱焼成工程は、例えば、前記ポリアミック酸またはその誘導体が脱水・閉環反応を呈するのに必要な条件で行うことができる。前記塗膜の焼成は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も本発明において同様に適用可能である。一般に100~300℃程度の温度が好ましく、120~280℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましい。また、時間としては、1分間~3時間行うことが好ましい。また、異なる温度で複数回加熱焼成することができる。異なる温度に設定された複数の加熱装置を用いてもよいし、1台の加熱装置を用いて、異なる温度に順次変化させながら行ってもよい。異なる温度で2回加熱焼成を行う場合、1回目は90~180℃、2回目は185℃以上の温度で行うのが好ましい。また、低温から高温へと温度を変化させて焼成することができる。温度を変化させて焼成を行なう場合、初期温度は90~180℃が好ましい。最終温度は185~300℃が好ましく、190~230℃がより好ましい。
【0151】
本発明の液晶配向膜の形成方法において、液晶を水平および/または垂直方向に対して一方向に配向させるために、配向膜へ異方性を付与する手段として、ラビング法や光配向法など公知の形成方法を好適に用いることができる。ラビング布の材質としては、コットン、レーヨン、ナイロン等が挙げられる。
【0152】
ラビング法を用いた本発明の実施形態において、液晶配向膜は、前記液晶配向剤を基板に塗布する工程と、前記液晶配向剤を塗布した基板を加熱乾燥して膜を作製する工程と、前記膜を加熱焼成する工程と、前記加熱焼成後の膜をラビング処理する工程とを経て形成することができる。
【0153】
ラビング処理は、通常の液晶配向膜の配向処理のためのラビング処理と同様に行うことができ、本発明の液晶配向膜において十分なリタデーションが得られる条件であればよい。好ましい条件は、毛足押し込み量0.2~0.8mmである。また、ステージ移動速度は5~250mm/secである。また、ローラー回転速度は500~2,000rpmである。
【0154】
本発明の実施形態において、液晶配向膜は、前述した工程以外の他の工程をさらに含む方法によって好適に得られる。例えば、液晶配向膜を作製するための工程の一部に、作製された膜を洗浄液で洗浄する工程を設けてもよい。無論、本発明の液晶配向膜は焼成または放射線照射後の膜を洗浄液で洗浄する工程は必須としない。また、他の工程でも必須とたしないが、必要に応じ洗浄工程を設けることができる。
【0155】
洗浄液による洗浄方法としては、ブラッシング、ジェットスプレー、蒸気洗浄または超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水(好ましくは超純水)または、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。このような洗浄方法は、本発明の液晶配向膜の形成における前記洗浄工程にも適用することができる。
【0156】
本発明の液晶配向膜の液晶配向能を高めるために、加熱焼成工程の前後、ラビング工程の前後に、熱や光によるアニール処理を用いることができる。該アニール処理において、アニール温度が30~180℃、好ましくは50~150℃である、また時間は1分~2時間が好ましく、10分~1時間がより好ましい。また、アニール処理に使用するアニール光には、UVランプ、蛍光ランプ、LEDランプなどが挙げられる。光の照射量は0.3~10J/cmであることが好ましい。
【0157】
本発明の液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10~300nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。本発明の液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
【0158】
本発明の液晶配向膜は特に大きな配向の異方性を持つことを特徴とする。このような異方性の大きさは特開2005-275364号公報等に記載の偏光IRを用いた方法で評価することができる。また以下に示すようにエリプソメトリーを用いた方法によっても評価することができる。詳しくは、分光エリプソメータによって液晶配向膜のリタデーション値を測定することができる。膜のリタデーション値はポリマー主鎖の配向度に比例して大きくなる。すなわち、大きなリタデーション値を持つものは、大きな配向度を持つ。よって、それを液晶配向膜として使用した場合、当該液晶配向膜はより大きな異方性を持つため、液晶組成物を大きく配向規制できると考えられる。
【0159】
本発明の液晶配向膜は横電界方式の液晶表示素子に好適に用いることができる。横電界方式の液晶表示素子に用いる場合、プレチルト(Pt)角が小さいほど、また液晶配向能が高いほど暗状態での黒表示レベルは高くなり、コントラストが向上する。プレチルト(Pt)角は1.5°以下が望ましく、1.2°以下がより望ましい。よって、本発明の実施形態によれば、前記液晶配向剤は、横電界型液晶表示素子の製造に用いられる。また、本発明の実施形態によれば、前記液晶配向膜を有する、横電界型液晶表示素子が提供される。
【0160】
本発明の液晶配向膜は、スマートフォン、タブレット、車載モニター、テレビ等、液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向制御に用いることができる。液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向用途以外に、光学補償材やその他すべての液晶材料の配向制御に用いることができる。また本発明の配向膜は大きな異方性を有するので、単独で光学補償材用途に使用することができる。また、本発明の実施形態によれば、前記液晶配向膜を有する、液晶表示素子が提供される。
【0161】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子について詳細に説明する。本発明は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方または両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子において、前記液晶配向膜が本発明の配向膜である液晶表示素子を提供する。
【0162】
前記電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は、基板の一方の面の全面に形成されていてもよいし、例えばパターン化されている所望の形状に形成されていてもよい。電極の前記所望の形状には、例えば櫛型またはジグザグ構造等が挙げられる。電極は、一対の基板のうちの一方の基板に形成されていてもよいし、両方の基板に形成されていてもよい。電極の形成の形態は液晶表示素子の種類に応じて異なり、例えばIPS型液晶表示素子の場合は前記一対の基板の一方に電極が配置され、その他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板または電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0163】
前記液晶層は、液晶配向膜が形成された面が対向している前記一対の基板によって液晶組成物が挟持される形で形成される。液晶層の形成では、微粒子や樹脂シート等の、前記一対の基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。
【0164】
液晶層の形成方法としては、例えば、真空注入法やODF(One Drop Fill)法を用いることができる。基板の張り合わせに用いられるシール剤としては、例えば、UV硬化型や熱硬化型のシール剤を用いることができる。シール剤の印刷には、例えば、スクリーン印刷法を用いることができる。
【0165】
液晶組成物には、特に制限はなく、誘電率異方性が正または負の各種の液晶組成物を用いることができる。誘電率異方性が正の好ましい液晶組成物には、特許第3086228号公報、特許第2635435号公報、特表平5-501735号公報、特開平8-157826号公報、特開平8-231960号公報、特開平9-241644号公報(EP885272A1)、特開平9-302346号公報(EP806466A1)、特開平8-199168号公報(EP722998A1)、特開平9-235552号公報、特開平9-255956号公報、特開平9-241643号公報(EP885271A1)、特開平10-204016号公報(EP844229A1)、特開平10-204436号公報、特開平10-231482号公報、特開2000-087040号公報、特開2001-48822号公報等に開示されている液晶組成物が挙げられる。
【0166】
前記負の誘電率異方性を有する液晶組成物の好ましい例として、特開昭57-114532号公報、特開平2-4725号公報、特開平4-224885号公報、特開平8-40953号公報、特開平8-104869号公報、特開平10-168076号公報、特開平10-168453号公報、特開平10-236989号公報、特開平10-236990号公報、特開平10-236992号公報、特開平10-236993号公報、特開平10-236994号公報、特開平10-237000号公報、特開平10-237004号公報、特開平10-237024号公報、特開平10-237035号公報、特開平10-237075号公報、特開平10-237076号公報、特開平10-237448号公報(EP967261A1)、特開平10-287874号公報、特開平10-287875号公報、特開平10-291945号公報、特開平11-029581号公報、特開平11-080049号公報、特開2000-256307号公報、特開2001-019965号公報、特開2001-072626号公報、特開2001-192657号公報、特開2010-037428号公報、国際公開第2011/024666号公報、国際公開第2010/072370号公報、特表2010-537010号公報、特開2012-077201号公報、特開2009-084362号公報等に開示されている液晶組成物が挙げられる。誘電率異方性が正または負の液晶組成物に1種以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0167】
また例えば、本発明の液晶表示素子に用いる液晶組成物は、例えば配向性を向上させる観点から、添加物をさらに添加してもよい。このような添加物は、光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤などである。好ましい光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤には、国際公開第2015/146330号公報等に開示されている化合物が挙げられる。
【0168】
PSA(polymer sustained alignment)モードの液晶表示素子に適合させるために重合可能な化合物を液晶組成物に混合することができる。重合可能な化合物の好ましい例はアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。好ましい化合物には、国際公開第2015/146330号公報等に開示されている化合物が挙げられる。
【実施例
【0169】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において用いる評価法および化合物は次の通りである。
【0170】
1.重量平均分子量(Mw)
ポリアミック酸の重量平均分子量は、2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計(Waters製)を用いてGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。得られたポリアミック酸をリン酸-DMF混合溶液(リン酸/DMF=0.6/100:重量比)で、ポリアミック酸濃度が約2重量%になるように希釈した。カラムはHSPgel RT MB-M(Waters製)を使用し、前記混合溶液を展開剤として、カラム温度50℃、流速0.40mL/minの条件で測定を行った。標準ポリスチレンは東ソー(株)製TSK標準ポリスチレンを用いた。
【0171】
2.プレチルト角(Pt角)
中央精機(株)製の液晶評価装置(OMS-CA3)にて、室温で測定した。広視野角を得るためには、1.5°以下が望ましく、1.2°以下がより望ましい。
【0172】
3.DC残像評価
30Hz、3Vの矩形波を10分間印加した後、0.3Vの直流電圧を20分間重畳した。直流電圧を0Vにした後、再び3Vの矩形波を20分間印加した。直流電圧重畳時の電荷の吸収が早いほど、非対称なAC駆動となった場合の残留DCが小さく、DC残像が発生しにくいことから、直流電圧を重畳してから20分経過するまでにフリッカー消去電圧が0.15V以下となった場合はDC残像が「○」、0.1V以下となった場合はDC残像が「◎」と定義して評価した。直流電圧を重畳してから20分経過するまでにフリッカー消去電圧が0.15V以下とならなかった場合は、DC残像が「×」と定義して評価した。
【0173】
4.電圧保持率
「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集 p78(1988)」に記載の方法で行った。測定は、周波数30Hz、波高±5Vの矩形波をセルに印加して行った。測定は60℃で行った。この値は、印加した電圧がフレーム周期後どの程度保持されているかを示す指標であり、この値が100%ならば全ての電荷が保持されていることを示す。値が99.5%以上であれば表示品位が良好な液晶表示素子となる。
【0174】
<溶剤>
NMP: N-メチル-2-ピロリドン
BC: ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
GBL: γ-ブチロラクトン。
【0175】
<添加剤>
添加剤(Ad1): 1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン
添加剤(Ad2): 3-アミノプロピルトリエトキシシラン
添加剤(Ad3): 2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン。
【0176】
[合成例1a]化合物(1-4)の合成
合成に供した試薬は市販品を精製せずにそのまま用いた。
【0177】
<第1段階>
滴下漏斗、温度計を装着した1L3つ口フラスコに、スベロイルクロリド50.0g(236.9mmol)を入れ、ジクロロメタン250mLを加えた。この溶液を5℃に冷却し、塩化アルミニウム(III)75.8g(568.6mmol、2.4eq.)を加えた。溶液を5℃に保ち30分間攪拌した後、ベンゼン38.9g(497.5mmol、2.1eq.)をジクロロメタン250mLに溶解させた溶液を滴下し加えた。滴下終了後、溶液の冷却を止め、室温まで昇温させ、この溶液をさらに12時間室温で攪拌した。この一連の反応は窒素雰囲気下で行った。反応溶液を3NHCl1500mLにあけ、有機層を回収し、その有機層を純水500mLで3回洗浄した。洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗結晶を得た。得られた粗結晶をトルエンから再結晶させ、得られた結晶を80℃で12時間真空乾燥させ、1,8-ジフェニルオクタン-1,8-ジオンを得た(収量;61.4g、収率;88%)。
【0178】
<第2段階>
滴下漏斗、温度計を装着した1L3つ口フラスコに、第1段階で得た1,8-ジフェニルオクタン-1,8-ジオン50.0g(170.0mmol)を入れ、ジクロロメタン500mLを加えた。この溶液を5℃に冷却し、四塩化チタン(IV)70.9g(374.0mmol、2.2eq.)を滴下した。この溶液を5℃に保ち1時間攪拌した後、さらにトリエチルシラン59.3g(510.0mmol、3.0eq. )を滴下した。この溶液を5℃に保ち6時間攪拌した。この一連の反応は窒素雰囲気下で行った。反応溶液を純水1Lにあけ、有機層を回収し、その有機層を飽和重曹水500mLで3回、次いで純水500mLで3回洗浄した。洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(充填剤;シリカゲル、展開溶媒;トルエン:ヘプタン=2:1)にて分離精製し、1,8-ジフェニルオクタンを得た(収量;42.6g、収率;94%)。
【0179】
<第3段階>
【0180】
【化26】
【0181】
滴下漏斗、温度計を装着した1L3つ口フラスコに、4-ニトロベンゾイルクロリド50.1g(270.2mmol、2.4eq. )を入れ、ジクロロメタン250mLを加えた。この溶液を5℃に冷却し、塩化アルミニウム(III)45.0g(337.8mmol、3.0eq. )を加えた。溶液を5℃に保ち30分間攪拌した後、第2段階で得た1,8-ジフェニルオクタン30.0g(112.6mmol)をジクロロメタン150mLに溶解させた溶液を滴下し加えた。滴下終了後、溶液の冷却を止め、室温まで昇温させ、この溶液をさらに12時間室温で攪拌した。この一連の反応は窒素雰囲気下で行った。反応溶液を3NHCl1500mLにあけ、有機層を回収し、その有機層を純水500mLで3回洗浄した。洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(充填剤;シリカゲル、展開溶媒;ジクロロメタン)にて分離精製し、化合物(1-4)-NKを得た(収量;52.1g、収率;82%)。
【0182】
<第4段階>
【0183】
【化27】
【0184】
滴下漏斗、温度計を装着した1L3つ口フラスコに、第3段階で得た化合物(1-4)-NK 50.0g(88.6mmol)を入れ、ジクロロメタン500mLを加えた。この溶液を5℃に冷却し、そこに四塩化チタン(IV)37.0g(194.9mmol、2.2eq. )を滴下した。この溶液を5℃に保ち1時間攪拌した後、そこにトリエチルシラン30.9g(265.8mmol、3.0eq.)を滴下した。この溶液を5℃に保ち、4時間攪拌した。この一連の反応は窒素雰囲気下で行った。反応溶液を純水1Lにあけ有機層を回収し、有機層を飽和重曹水500mLで3回、次いで純水500mLで3回洗浄した。洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去して粗体を得た。得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(充填剤;シリカゲル、展開溶媒;テトラヒドロフラン)にて分離精製し、化合物(1-4)-Nを得た(収量;41.7g、収率;88%)。
【0185】
<第5段階>
SUS316製3Lオートクレーブ反応管に第4段階で得た化合物(1-4)-N40.0g(74.5mmol)、5%Pd/C粉末(Eタイプ)4.0gを入れ、テトラヒドロフラン800mLを加えた。この溶液を水素雰囲気下(水素圧;0.6MPa)、60℃で18時間攪拌し、放冷後、ろ過にてPd/C粉末を取り除いた後、溶媒を減圧留去して化合物(1-4)の粗体を得た。得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(充填剤;シリカゲル、展開溶媒;テトラヒドロフラン)にて分離精製し、次いでエタノール:トルエン=2:1(容積比)の混合溶媒から再結晶させ、得られた結晶を80℃で12時間真空乾燥させ、化合物(1-4)を得た(収量;32.0g、収率;90%)。
【0186】
得られた化合物(1-4)の融点は113.3~114.7℃であった。融点はメトラートレド社製自動融点測定システムMP-70を使用して測定を行った。
【0187】
[合成例1]ワニスの合成
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mL3つ口フラスコに、式(1-1)で表される化合物4.001gを入れ、NMPを54.0g加えた。その溶液を氷冷させ液温を5℃とした後、式(AN-1)で表される化合物0.390g、式(AN-4)で表される化合物0.965g、式(AN-6)で表される化合物0.644g、およびNMP20.0gを加え、12時間室温で攪拌した。そこにBC20.0gを加え、溶質のポリマーの重量平均分子量が所望する重量平均分子量になるまで、その溶液を70℃で加熱攪拌し、固形分6wt%のワニス1を得た。このワニス1に含まれるポリマーの重量平均分子量(Mw)は60,000であった。
【0188】
[合成例2~55]
テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを変更した以外は、合成例1に準拠して、ポリマー固形分濃度が6重量%のワニス2~ワニス55を調製した。得られたワニスの組成、重量平均分子量(Mw)を表1~表5に示す。合成例1も再掲する。[ ]内はテトラカルボン酸化合物群、ジアミン化合物群の中でのそれぞれのモル比を表す。
【0189】
【表1】
【0190】
【表2】
【0191】
【表3】
【0192】
【表4】
【0193】
【表5】
【0194】
[実施例1]液晶配向剤の調製、DC残像およびプレチルト角測定用液晶セルの作製、DC残像測定、およびプレチルト角測定
攪拌翼、窒素導入管を装着した50mLナスフラスコに合成例1で合成したワニス1を3.0gおよび合成例27で合成したワニス27を7.0g秤取り、そこにNMP4.0g、GBL3.0gおよびBC3.0gを加え室温で1時間攪拌し樹脂分濃度3重量%の液晶配向剤1を得た。この液晶配向剤1をFFS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板にスピンナー法により塗布した(2,000rpm、15秒)。塗膜後80℃にて約3分間予備焼成した後、230℃にて30分間焼成処理を行い膜厚およそ100nmの液晶配向膜を形成した。得られた液晶配向膜を株式会社飯沼ゲージ製作所製のラビング処理装置を用いて、ラビング布(毛足長2.8mm:コットン)の毛足押し込み量0.40mm、ステージ移動速度を20mm/sec、ローラー回転速度を1000rpmの条件で、ラビング処理した。得られた基板を超純水にて表面を洗浄してからオーブン中120℃で30分間乾燥した。次いで、これらの液晶配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙を設けて貼り合わせた。この時、それぞれの液晶配向膜のラビング方向が平行になるようにした。これらのセルにポジ型液晶組成物Aを真空注入し、注入口を光硬化剤で封止して、セル厚4μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。
【0195】
<ポジ型液晶組成物A>
【0196】
【化28】
【0197】
物性値:NI 100.1℃; Δε 5.1; Δn 0.093; η 25.6mPa・s.
液晶セルのDC残像を測定したところ、「◎」であった。また、プレチルト角を測定したところ、値は0.7°であった。さらに、この液晶セルの電圧保持率は5V-30Hzで99.8%であった。このセルを点灯させたバックライト試験機(富士フイルム(株)製、FujiCOLOR LED Viewer Pro HR-2;輝度2,700cd/m)の上に500時間載せ、信頼性試験を行った。信頼性試験後の測定用セルの電圧保持率は99.7%であった。
【0198】
[実施例2~23および比較例1~3]
使用するワニスを変更した以外は、実施例1に準拠して、液晶セルを作成し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。使用したワニスおよび測定結果を実施例1と併せて表6に示す。ここで、ワニスPは、ポリマー(P)成分を溶剤に溶解した状態のワニス組成物である。ワニスQは、ポリマー(Q)成分を溶剤に溶解した状態のワニス組成物である。
【0199】
【表6】
【0200】
実施例1~23のすべてにおいてDC残像は「○」および「◎」であった。また、プレチルト角は1.2°以下であり、電圧保持率は99.5%以上であった。比較例1においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角が、2.3°と高かった。比較例2においては、プレチルト角は1.5°以下であり良好であったが、DC残像は「×」あった。比較例3においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角が、2.2°と高かった。
【0201】
[実施例24]
「合成例1で合成したワニス1を3.0gおよび合成例27で合成したワニス27を7.0g」を、「合成例3で合成したワニス3を10.0g」に変更した以外は、実施例1に準拠して、液晶配向剤27を得た。得られた液晶配向剤27を用いて、実施例1に記載の方法に準じ液晶セルを作製し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。液晶セルのDC残像は「○」であり、プレチルト角は0.6°であった。初期の電圧保持率は99.8%であり、信頼性試験後の測定用セルの電圧保持率は99.7%であった。
【0202】
[実施例25~45、比較例4~6および参考例1~2]
使用するワニスを変更した以外は、実施例24に準拠して、液晶セルを作成し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。使用したワニスおよび測定結果を実施例24と併せて表7に示す。
【0203】
【表7】
【0204】
実施例24~45のすべてにおいてDC残像は「○」または「◎」であった。また、プレチルト角は1.5°以下であり、電圧保持率は99.5%以上であった。比較例4においては、プレチルト角は1.5°以下であり良好であったが、DC残像は「×」あった。比較例5においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角は2.1°と高く、低プレチルト角を発現することはできなかった。比較例6においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角は2.0°と高く、低プレチルト角を発現することはできなかった。参考例1においては、DC残像は「×」あったが、プレチルト角は0.3°であり、驚くほど低かった。参考例2においても、DC残像は「×」あったが、プレチルト角は0.2°であり、驚くほど低かった。液晶配向剤にポリマーを1種含む実施形態において、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーにおける前記ジアミンが、式(1-4)のみからなる液晶配向剤は、プレチルト角を驚くほど下げることができる効果を奏することが分かった。
【0205】
[実施例46]
実施例1の「NMP4.0g、GBL3.0gおよびBC3.0g」に対して更に、添加剤(Ad1)6mgを加えたこと以外は、実施例1に準拠して、樹脂分濃度3重量%、添加剤濃度が樹脂分100重量部当たり1重量部の液晶配向剤54を得た。得られた液晶配向剤54を用いて、実施例1に記載の方法に準じ液晶セルを作製し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。液晶セルのDC残像は「◎」であり、プレチルト角は0.9°であった。初期の電圧保持率は99.8%であり、信頼性試験後の測定用セルの電圧保持率は99.6%であった。
【0206】
[実施例47~60および比較例7~9]
使用するワニスと添加剤を変更した以外は、実施例46に準拠して、液晶セルを作製し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。使用したワニス、添加剤および測定結果を実施例46と併せて表8に示す。
【0207】
【表8】
【0208】
実施例46~60のすべてにおいてDC残像は「◎」であった。また、プレチルト角は1.5°以下であり、電圧保持率は99.5%以上であった。比較例7においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角は、2.4°と高かった。比較例8においては、プレチルト角は1.5°以下であり良好であったが、DC残像は「×」であった。比較例9においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角は、2.3°と高かった。
【0209】
[実施例61]
実施例24における「NMP4.0g、GBL3.0gおよびBC3.0g」に対して更に、添加剤(Ad1)6mgを加えたこと以外は、実施例1に準拠して、樹脂分濃度3重量%、添加剤濃度が樹脂分100重量部当たり1重量部の液晶配向剤72を得た。得られた液晶配向剤72を用いて、実施例1に記載の方法に準じ液晶セルを作製し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。液晶セルのDC残像は「○」であり、プレチルト角は0.8°であった。初期の電圧保持率は99.7%であり、信頼性試験後の測定用セルの電圧保持率は99.6%であった。
【0210】
[実施例62~82、比較例10~12および参考例3~4]
使用するワニスと添加剤を変更した以外は、実施例61に準拠して、液晶セルを作製し、DC残像、プレチルト角および電圧保持率を測定した。使用したワニス、添加剤および測定結果を実施例61と併せて表9に示す。
【0211】
【表9】
【0212】
実施例61~82のすべてにおいてDC残像は「○」または「◎」であった。また、プレチルト角は1.5°以下であり、電圧保持率は99.5%以上であった。比較例10においては、プレチルト角は1.5°以下であり良好であったが、DC残像は「×」あった。比較例11においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角は2.2°と高く、低プレチルト角を発現することはできなかった。比較例12においては、DC残像は「◎」であったが、プレチルト角は2.2°と高く、低プレチルト角を発現することはできなかった。参考例3においては、DC残像は「×」あったが、プレチルト角は0.4°であり、驚くほど低かった。参考例4においても、DC残像は「×」あったが、プレチルト角は0.3°であり、驚くほど低かった。液晶配向剤にポリマーを1種含む実施形態において、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含む原料からの反応生成物であるポリマーにおける前記ジアミンが、式(1-4)のみからなる液晶配向剤は、添加剤を入れてもプレチルト角を有意に低減させることができる効果を奏することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0213】
本発明の液晶配向剤を用いれば、液晶のプレチルト角を低く抑えることができ、かつ残留DCのたまりが小さく、電荷の緩和が速い液晶表示素子を与える液晶配向膜を形成することができる。本発明の液晶配向剤は横電界型液晶表示素子に好適に適用することができる。