(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/74 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
D06M11/74
(21)【出願番号】P 2019545068
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035116
(87)【国際公開番号】W WO2019065517
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017189156
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591244199
【氏名又は名称】廣瀬製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509006303
【氏名又は名称】豊通マテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】山岸 智子
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
(72)【発明者】
【氏名】西内 友也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 成彰
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189932(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0006133(KR,A)
【文献】特開2016-190772(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105898981(CN,A)
【文献】特開2017-133042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
D06M10/00-11/84
16/00
19/00-23/18
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS L 0222:2001で定義される不織布である繊維状基材と、該繊維状基材を構成する繊維に対して付着したカーボンナノチューブとを含み、
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを主成分として含有し、さらに、
前記単層カーボンナノチューブのBET比表面積が600m
2/g以上である、
シート。
【請求項2】
密度が0.20g/cm
3以上0.80g/cm
3以下である、請求項
1に記載のシート。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの目付量が10g/m
2以上である、請求項1
又は2の何れかに記載のシート。
【請求項4】
導電率が30S/cm以上である、請求項1~
3の何れかに記載のシート。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載のシートの製造方法であって、
BET比表面積が600m
2/g以上の単層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブを、分散媒に分散してカーボンナノチューブ分散液を調製するカーボンナノチューブ分散液調製工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液に対して、前記繊維状基材を接触させて一次シートを得る接触工程と、
前記一次シートから前記分散媒を除去する分散媒除去工程と、
を含む、シートの製造方法。
【請求項6】
前記接触工程で用いる前記カーボンナノチューブ分散液が、結着剤を含有しない、請求項
5に記載のシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート及びその製造方法に関するものである。特に、本発明は、カーボンナノチューブを含むシート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量であるとともに、導電性及び機械的特性等に優れる材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)が注目されている。しかし、CNT等の繊維状炭素ナノ構造体は直径がナノメートルサイズの微細な構造体であるため、単体では、取り扱い性や加工性が必ずしも良くない。そこで、例えば、複数本のCNTを基材に対して付与してシート状に成形して、当該シートを種々の用途に適用することが提案されている。かかるシートの用途としては、例えば、電磁波吸収用途が挙げられる。具体的なシートとしては、例えば特許文献1では、繊維状構造体表面上に多層カーボンナノチューブ及びバインダー等を含む層を形成してなる、シートが開示されている。また、例えば特許文献2では、基材上に多層カーボンナノチューブ及び樹脂成分を含む塗工液を塗工して形成されたシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/093600号
【文献】特開2012-174833号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような従来から提案されてきたシートは、導電性を一層高めるという点、及び、シートからのカーボンナノチューブの脱落を十分に抑えるという点において、改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブが脱落し難い、カーボンナノチューブを含むシートを提供することを目的とする。
また、本発明は、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブが脱落し難い、カーボンナノチューブを含むシートを、良好に製造することが可能なシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、単層カーボンナノチューブを主成分として含有するカーボンナノチューブを繊維に対して付着させることにより形成したシートが、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブを良好に保持しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシートは、繊維状基材と、該繊維状基材を構成する繊維に対して付着したカーボンナノチューブとを含み、前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを主成分として含有することを特徴とする。このようなシートは、導電性に優れるとともに、シートからカーボンナノチューブが脱落し難い。
また、本発明において「カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを主成分として含有する」とは、シート中に含有されるカーボンナノチューブの全質量を100質量%として、単層カーボンナノチューブの質量の占める割合が50質量%超であることを意味する。
【0008】
ここで、本発明のシートにおいて、前記単層カーボンナノチューブのBET比表面積が、600m2/g以上であることが好ましい。単層カーボンナノチューブのBET比表面積が、600m2/g以上であれば、シートの導電性を一層向上させるとともに、シートからカーボンナノチューブが脱落することを一層効果的に抑制することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0009】
また、本発明のシートが、結着材(バインダー)を非含有であることが好ましい。シートが結着材を非含有であれば、シートの導電性を一層向上させることができる。
【0010】
また、本発明のシートにおいて、密度が0.20g/cm3以上0.80g/cm3以下であることが好ましい。密度が上記範囲内であるシートは、導電性に一層優れるとともに、いわゆるバッキーペーパーに比べて密度が低いので、例えば金属粒子等の担持がしやすくなる。なお、本発明において、シートの密度は、単位体積当たりのシートの質量を意味する。そして、シートの密度は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
また、本発明のシートにおいて、前記カーボンナノチューブの目付量が10g/m2以上であることが好ましい。カーボンナノチューブの目付量が上記下限値以上であれば、シートの導電性を一層向上させるとともに、シートの機械的強度を高めることができる。
なお、本発明において、カーボンナノチューブの目付量は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
また、本発明のシートは、導電率が30S/cm以上であることが好ましい。なお、本発明において、シートの「導電率」は、JIS K 7194:1994に従って、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
さらにまた、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシートの製造方法は、上述した何れかのシートの製造方法であって、BET比表面積が600m2/g以上の単層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブを、分散媒に分散してカーボンナノチューブ分散液を調製するカーボンナノチューブ分散液調製工程と、前記カーボンナノチューブ分散液に対して、前記繊維状基材を接触させて一次シートを得る接触工程と、前記一次シートから前記分散媒を除去する分散媒除去工程と、を含むことを特徴とする。本発明のシートの製造方法では、BET比表面積が600m2/g以上の単層カーボンナノチューブ用いて調製した分散液を用いてシートを製造するため、上述した何れかの本発明のシートを良好に製造することができる。
【0014】
また、本発明のシートの製造方法において、前記接触工程で用いる前記カーボンナノチューブ分散液が、結着剤を含有しないことが好ましい。結着材を含有しないカーボンナノチューブ分散液を接触工程で用いて繊維状基材と接触させることによりシートを製造することで、得られるシートの導電性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブが脱落し難い、カーボンナノチューブを含むシートを提供することができる。
また、本発明によれば、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブが脱落し難い、カーボンナノチューブを含むシートを、良好に製造することが可能なシートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のシートは、繊維状基材と、該繊維状基材を構成する繊維に対して付着したカーボンナノチューブとを含み、カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを主成分として含有することを特徴とする。そして、本発明のシートは、任意で、結着材、カーボンナノチューブ以外の炭素系材料、及びシート製造時に使用した添加剤等のその他の成分を含有していても良い。なお、本明細書において、繊維状基材を構成する繊維に対して、カーボンナノチューブが「付着」するとは、単に、繊維状基材上にカーボンナノチューブからなる層が隣接して形成された状態を意味するのではなく、繊維状基材の構成単位である繊維上に、カーボンナノチューブが付着し、或いは絡みついて存在する状態を意味する。そして、本発明のシートにて、繊維状基材の表面に位置する繊維のみならず、繊維状基材の内部に位置する繊維に対して、カーボンナノチューブが付着した状態となっていることが好ましい。かかる構造によれば、シートの一方の表面側から、他方の表面側に連通する導電ネットワークが良好に形成されることで、シートの導電性が一層向上するからである。
【0017】
本発明のシートを構成しうる繊維状基材を構成する繊維としては、特に限定されることなく、有機繊維が挙げられる。有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリエチレンビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びこれら変性物等のポリマーよりなる合成繊維;綿、麻、ウール、及び絹等の天然繊維が挙げられる。合成繊維を形成するポリマーとしては、一種を単独で、或いは複数種を混合して用いることができる。中でも、繊維状基材を構成する繊維としては、合成繊維が好ましく、その中でも、ポリエチレンテレフタレート、及び、ポリビニルアルコールのアセタール化物であるビニロンがより好ましい。そして、本発明の繊維状基材は、これらの繊維により構成されうる織布又は不織布でありうる。中でも、本発明の繊維状基材は不織布であることが好ましい。なお、本明細書において、「不織布」とは、JIS L 0222:2001にて定義されているように、「繊維シート、ウェブ又はバットで、繊維が一方向又はランダムに配向しており、交絡、及び/又は融着、及び/又は接着によって繊維間が結合されたもの」を指し、ただし、紙、織物、編物、タフト及び縮じゅうフェルトを除くものを指す。
【0018】
本発明のシートを構成しうる繊維状基材は、通気度が、5cc/cm2/s以上であることが好ましく、500cc/cm2/s以下であってもよい。さらに、繊維状基材の通気度は、10cc/cm2/s以上300cc/cm2/s以下であることがより好ましい。通気度が上記下限値以上である繊維状基材を用いることで、繊維状基材の内部にCNTを侵入させ易くして、良好な導電ネットワークが形成されることを促進することができ、シートの導電性を一層高めることができる。また、通気度が上記上限値以下である繊維状基材を用いることで、繊維状基材の内部に侵入させたCNTがシートから脱落することを抑制しつつ、良好な導電ネットワークが形成されることを促進することができ、シートの導電性を一層高めることができる。
【0019】
本発明のシートに含まれるカーボンナノチューブ(CNT)は、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)を主成分として含有する。CNTに含まれうる単層CNT以外の成分としては、多層カーボンナノチューブ(多層CNT)が挙げられる。ここで、CNTの質量全体に占める単層CNTの比率は、50質量%超であることが必要であり、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であっても良い。なお、CNTが多層CNTを含む場合には、多層CNTの層数が5層以下であることが好ましい。
【0020】
ここで、本発明のシートが、単層CNTを主成分として含有するCNTを、繊維状基材を構成する繊維に対して付着させてなることで、良好な導電性を達成するとともに、CNTを脱落させ難くすることができる理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。まず、単層CNTは、多層CNTと比較して、それ自体の導電性が高い。このため、かかる単層CNTがシートに含まれるCNTの主成分であれば、従来の多層CNTを主成分とするCNTを含むシートに比べて、導電性を高めることができる。更に、単層CNTは、単層CNT相互間、及び、多層CNTや繊維状基材等の他の対象物との間で相互作用し易い。かかる相互作用が生じる結果、繊維状基材によりCNTを強固に保持することが可能となる。さらに、意外なことに、本発明者らの検討により、本発明のシートに含まれるCNTが、単層CNTを主成分とすることで、シート厚みの均一性を高めることが可能となることが明らかとなった。
【0021】
以下、CNTの好適な属性について説明するが、かかる属性は、本発明のシートを製造する際に用いる材料としてのCNT、及び本発明のシートに含まれるCNTの双方について当てはまることが好ましい。より具体的には、少なくともBET比表面積及び平均直径等については、原則として、後述するシートの製造方法に含まれる各種処理を経た後であっても、材料としてのCNTが呈していたBET比表面積の値を下回ることは無い。
【0022】
CNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTは、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物及びキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0023】
また、CNTは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。
【0024】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0025】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有するCNTは、CNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、CNTに多数の開口が形成されていることを示しており、その結果として、かかるCNTを用いて分散液を調製した場合に、分散液中においてCNTが凝集しにくくなり、均質且つCNTが脱落し難いシートを得ることができる。
【0026】
なお、CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。t-プロットの屈曲点がかかる範囲内にあるCNTは、かかるCNTを用いて分散液を調製した場合に、分散液中においてCNTがさらに凝集しにくくなる。その結果、かかる分散液を用いた場合に、一層均質且つCNTが脱落し難いシートを得ることができる。
ここで、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0027】
更に、CNTは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。S2/S1の値がかかる範囲内であるCNTは、かかるCNTを用いて分散液を調製した場合に、分散液中においてCNTがさらに凝集しにくくなる。その結果、一層均質且つCNTが脱落し難いシートを得ることができる。
【0028】
ここで、CNTの全比表面積S1及び内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0029】
そして、CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、及び、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0030】
また、CNTは、BET比表面積が、600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることがより好ましく、2000m2/g以下であることが好ましく、1800m2/g以下であることがより好ましく、1600m2/g以下であることがさらに好ましい。BET比表面積が上記範囲内であれば、カーボンナノチューブがシートから脱落することを一層効果的に抑制することができる。その理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。まず、BET比表面積が上記下限値以上であるCNTを用いることで、CNTと繊維状基材との間、及びCNT相互間において適度な相互吸着作用を発揮させることで、カーボンナノチューブがシートから脱落することを一層効果的に抑制することができると推察される。また、BET比表面積が高いCNTは、長さが短い、或いは、「切れ目」が多い等、脱落し易い性質を有するCNTであることが想定されるが、BET比表面積が上記上限値以下であるCNTを用いることで、これらの脱落し易い性質を有するCNTがシートに含まれることを抑制して、結果的にカーボンナノチューブがシートから脱落することを一層効果的に抑制することができると推察される。
【0031】
CNTの平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
また、CNTは、平均長さが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることがさらに好ましい。
平均直径及び/又は平均長さが上記範囲内であるCNTは、かかるCNTを用いて分散液を調製した場合に、分散液中においてCNTがさらに凝集しにくくなり、一層均質且つCNTが脱落し難いシートを得ることができる。
【0032】
更に、CNTは、通常、アスペクト比(長さ/直径)が10超である。
なお、CNTの平均直径、平均長さ及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択したCNT100本の直径及び長さを測定することにより求めることができる。
【0033】
本発明のシートの導電性を一層向上させる観点から、本発明のシートは、結着材を非含有であることが好ましい。仮に、本発明のシートが結着材を含む場合には、かかる結着材は、例えば、ポリエステル系樹脂等の既知の接着性樹脂等であり得る。
【0034】
また、本発明のシートは、当該シートの製造時に使用した添加剤等を含みうる。かかる添加剤としては、例えば、シートの製造時にCNTを分散する目的で用いられうる分散剤が挙げられる。なお、分散剤は、シートの製造工程にて除去されることが好ましく、本発明のシートは、分散剤を非含有であることが好ましい。
【0035】
本発明のシートは、密度が、0.20g/cm3以上であることが好ましく、0.45g/cm3以上であることがより好ましく、0.80g/cm3以下であることが好ましく、0.75g/cm3以下であることがより好ましい。本発明のシートの密度が上記下限値以上であれば、シートの導電性を一層向上させることができる。また、密度が上記上限値以下であれば、シートが過度に「目詰め」された状態となることを回避することができる。これにより、シートに所望の機能を付与するための機能性材料を担持させて用いる用途に、好適に使用することが可能となる。より具体的には、機能性材料として、例えば、錫、白金、金、パラジウム等の金属、酸化シリコン、酸化リチウム、及びチタン酸リチウム等の金属酸化物などよりなる粒子を、本発明のシートに含まれる空隙内に良好に担持することができる。なお、かかる粒子の粒子径は特に限定されることなく、例えば、5μm以下でありうる。
【0036】
シートの密度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。また、シートの密度は、繊維状基材及びカーボンナノチューブを含むシートの全質量に基づいて算出されうる密度である。言い換えれば、シートの密度は、使用する繊維状基材の種類、及び後述するカーボンナノチューブの目付量を調節することにより制御することができる。
【0037】
また、本発明のシートは、カーボンナノチューブの目付量が10g/m2以上であることが好ましい。カーボンナノチューブの目付量が上記下限値以上であれば、シートの導電性を一層向上させることができる。なお、カーボンナノチューブの目付量は、例えば、100g/m2以下であり得る。なお、目付量の制御方法については、シートの製造方法と関連して後述する。
【0038】
さらにまた、本発明のシートは、導電率が30S/cm以上であることが好ましく、35S/cm以上であることがより好ましい。導電率が30S/cm以上であるシートは、十分な導電性を呈することができ、例えば、電磁波吸収材料として好適に使用することができる。なお、導電率は抵抗率の逆数である。そして、シートの導電率は、例えば、シートにおけるカーボンナノチューブの目付量や用いるカーボンナノチューブの種類を変更することによって制御することができる。
【0039】
本発明のシートは、本発明のシート製造方法に従って良好に作製することができる。本発明のシート製造方法は、BET比表面積が600m2/g以上の単層CNTを含むCNTを、分散媒に分散してCNT分散液を調製するCNT分散液調製工程と、CNT分散液に対して、繊維状基材を接触させて一次シートを得る接触工程と、一次シートから分散媒を除去する分散媒除去工程と、を含みうる。本発明のシート製造方法にて、BET比表面積が600m2/g以上の単層CNTを含むCNTを用いてCNT分散液を調製し、かかるCNT分散液を繊維状基材に適用することでシートを形成することで、導電性が高く、且つCNTの耐脱落性の高いシートを良好に作製することができる。以下、各工程について詳述する。なお、本発明のシートは、かかるシート製造方法によってのみ製造が可能なものではなく、上述したような必須の構成及び好適な構成を備え得るシートを作製することが可能である限りにおいて、様々なシート製造方法によって製造されうる。例えば、上述したような繊維に対して、CNTを付着させる処理を施した後に、かかる繊維を用いて、繊維状基材を形成することで、上述したような必須の構成及び好適な構成を備え得るシートを作製することも可能である。
【0040】
CNT分散液調製工程では、BET比表面積が600m2/g以上の単層CNTを含むCNTを、分散媒に分散してCNT分散液を調製する。使用し得る単層CNT、及びその他のCNTとしては、上述したような単層CNT、及び多層CNTを用いることができる。CNTは、単層CNTを主成分として含有していても良い。分散媒としては、特に限定されることなく、水、イソプロパノール、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、エチレングリコール、メチルイソブチルケトン及びブチルアルコールを用いることができる。中でも、分散媒としては水を用いることが好ましい。
【0041】
CNT分散液調製工程では、CNT分散液を調製するに当たり、CNT分散液中におけるCNTの分散性を向上させるために、添加剤として分散剤を配合することができる。分散剤としては、特に限定されることなく、例えば、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の既知の界面活性剤や、分散剤として機能し得る合成高分子又は天然高分子を用いることができる。分散剤の添加量は一般的な範囲とすることができる。
【0042】
そして、CNT分散液調製工程では、上記のような界面活性剤を配合した分散媒に対してCNTを添加し、粗分散液を得てから、得られた粗分散液を国際公開第2014/115560号に開示されたような、キャビテーション効果が得られる分散方法、及び/又は、解砕効果が得られる分散方法を適用することで、CNTの分散性の良好なCNT分散液を得ることができる。なお、分散方法はかかる2つの方法に限定されるものではなく、攪拌子を用いて直接攪拌する方法を適用することももちろん可能である。
【0043】
任意で、上述したような、結着材、カーボンナノチューブ以外の炭素系材料、及び添加剤等のその他の成分をCNT分散液に配合し得るが、添加する場合には、例えば、粗分散液に対してこれらの任意成分を添加し得る。なお、上述したように、得られるシートの導電性を向上させる観点から、CNT分散液には結着材を配合しないことが好ましい。
【0044】
なお、CNT分散液調製工程における分散時間は、例えば、1分以上20分以内とすることができる。
【0045】
接触工程では、CNT分散液に対して、繊維状基材を接触させて、繊維状基材上にCNTが付着又は保持されてなる一次シートを得る。接触方法としては、CNT分散液に対して繊維状基材の少なくとも片面、好ましくは両面、を接触させることができる限りにおいて特に限定されることなく、例えば、CNT分散液に対して繊維状基材を含浸する方法、及び繊維状基材上にCNT分散液を塗布する方法等が挙げられる。接触工程に要する時間や温度等の条件は特に限定されることなく、所望のCNT目付量等に応じて任意に設定することができる。なお、接触工程で用いるCNT分散液は、結着材を含有しないことが好ましい。即ち、上述のように、分散液調製工程でCNT分散液に対して結着材を配合しないばかりではなく、さらに、分散液調製工程の直後から接触工程の直前までの間の何れのタイミングにおいても、CNT分散液に対して結着材を配合しないことが好ましい。
【0046】
分散媒除去工程では、一次シートから分散媒を除去する。分散媒の除去方法は特に限定されることなく、任意の除去方法を適用することができる。ここで、一次シートに含まれうるCNTの中には、繊維状基材表面と直接的又は間接的に相互作用することで繊維状基材中に保持されたCNTが存在する一方で、繊維状基材中に残留した分散媒中に浮遊するCNTが存在し得る。繊維状基材に対する定着性は、当然前者のCNTの方が後者のCNTよりも高い。分散媒除去工程では、分散媒と共に後者のCNTも除去されうる。或いは、分散媒除去工程において分散媒が除去される結果、後者のCNTを、繊維状基材及び繊維状基材に対して定着性の高いCNTの少なくとも一方に対して相互作用させることが可能となり得る。なお、分散媒除去工程における時間や温度等の条件は、使用した分散媒の種類や繊維状基材の性状に応じて、任意に設定することができる。
【0047】
そして、分散媒除去工程の後に、任意で、洗浄工程を実施することができる。かかる洗浄工程を実施することで、CNT分散液が任意成分である分散剤を含有する場合にはかかる分散剤をシートから除去することができる。また、洗浄工程を任意の条件下で実施することで、目付量を所望の量に調節することができる。更には、洗浄工程を実施することで、繊維状基材に対して定着性の低いCNTを除去することで、得られるシートに残留するCNTの繊維状基材に対する定着性を高めて、シートからCNTが脱落することを効果的に抑制することができる。
洗浄には、特に限定されることなく、イソプロピルアルコール等の既知の有機溶媒や、分散液の調製時に使用可能な分散媒として列挙した各種溶媒を用いることができる。中でも、水を用いることが好ましい。洗浄方法は、特に限定されることなく、例えば、繊維状基材のCNT付着面と分散媒とを接触させる方法が挙げられる。
また、洗浄回数や洗浄温度等の条件は、繊維状基材の性状、及び所望のCNT目付量等に応じて定めることができる。
【0048】
その後、乾燥工程を実施して、一次シートを乾燥させて、本発明のシートを得ることができる。乾燥方法は、特に限定されることなく、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温~200℃、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、1時間以上48時間以内である。
【0049】
そして、上述のようにして得られた本発明のシートは、導電性に優れるとともに、CNTが脱離し難い。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において、CNTのBET比表面積、CNTの目付量、シートの密度、シートの導電性、及び耐粉落ち性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0051】
<BET比表面積>
実施例、比較例で用いた材料としてのCNTのBET比表面積は、全自動比表面積測定装置((株)マウンテック製、製品名「Macsorb(登録商標)HM model-1210」)を用いて測定した。
【0052】
<CNTの目付量>
実施例、比較例で製造したシートを5cm×5cm(面積:25cm2)に切り出し、試験片を得た。そして、試験片の質量Ws(g)を秤量して、かかるシートの製造に用いた繊維状基材の質量Wf(g)を減算して得た全CNT付着量WCNT(g)を、試験片の面積で除し、試験片1m2あたりの付着量(g)として算出した。
【0053】
<シートの密度>
実施例、比較例で製造したシートを5cm×5cmに切り出し試験片を得て、マイクロメータにより厚みを測定して、各試験片の体積(cm3)を算出した。そして、上記<CNTの目付量>と同様にして算出した試験片の質量Ws(g)を試験片の体積(cm3)で除して、シートの密度(g/cm3)を算出した。
【0054】
<シートの導電性>
実施例、比較例で製造したシートの導電性は、低抵抗用の抵抗率計(三菱化学アナリティック社製、「ロレスタ(登録商標)GX」)を用いて、JIS K 7194:1994に従って、シートの片面上にプローブを配置して行う4探針法を実施することで、導電率を算出した。
【0055】
<耐粉落ち性>
実施例、比較例で製造したシートの耐粉落ち性は、シートの上端を平坦な台上にテープにて固定し、その上に50gの重りを載せた白色ガーゼを滑らせ、白色ガーゼの表面を目視にて観察して、以下の基準に従って評価した。耐粉落ち性の評価が良好なシートは、CNTが脱落し難いことを意味する。
A:白色ガーゼへの黒色粉末(即ち、CNT)の付着が見られない。
B:白色ガーゼへの黒色粉末(即ち、CNT)の付着が見られる。
【0056】
<シート厚みの均一性>
実施例、比較例で製造したシートについて、シートの5箇所の厚みを測定し、そのばらつき(3σ)を求めた。そして、以下の基準に従ってシート厚みの均一性を評価した。
A:-0.05≦3σ≦0.05
B:3σ<-0.05、又は、0.05<3σ
【0057】
(実施例1)
<カーボンナノチューブ分散液の調製>
分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)を、分散媒として水を用いて、SDBS1質量%水溶液500mLを調製した。ここに、単層CNTとしてのSGCNT(ゼオンナノテクノロジー社製、「ZEONANO(登録商標)SG101、BET比表面積:1,050m2/g、平均直径:3.3nm、平均長さ:400μm、t-プロットは上に凸(屈曲点の位置:0.6nm)、内部比表面積S2/全比表面積S1:0.24)を1.0g加え、分散剤としてSDBSを含有する粗分散液を得た。この単層CNTを含む粗分散液を、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)に充填し、100MPaの圧力で粗分散液の分散処理を行った。具体的には、背圧を負荷しつつ、粗分散液にせん断力を与えてCNTを分散させ、濃度0.2質量%のSGCNT分散液を得た。なお、分散処理は、高圧ホモジナイザーから流出した分散液を再び高圧ホモジナイザーに返送しつつ、10分間実施した。
<接触工程~洗浄工程>
上述のようにして得られた0.2質量%SGCNT分散液中に、5cm×5cmの繊維状基材としてのビニロン不織布(廣瀬製紙(株)社製、品番:VN1036、通気度:40cc/cm2/s)を含浸し、常温で3時間乾燥した。得られたビニロン不織布をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄した後に、更に純水で洗浄した。
<乾燥工程>
上記洗浄工程を経て得られた一次シート(SGCNTを含むビニロン不織布)を温度80℃で24時間にわたり真空乾燥し、繊維状基材であるビニロン不織布を構成するビニロン繊維に対して、単層CNTであるSGCNTが付着してなるシートを得た。得られたシートについて、上記方法に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
繊維状基材として、ビニロン不織布に代えてPET不織布(廣瀬製紙(株)社製、品番:05TH‐36、通気度:20cc/cm2/s)を用いた以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートについて、上記方法に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
シートの作製にあたり、接触工程及び洗浄工程における条件を変更した以外は、実施例2と同様にして、シートを得た。得られたシートについて、上記方法に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
単層CNTに代えて、多層CNT(Nanocyl社製、「NC7000」、BET比表面積:290m2/g、平均直径:9.5nm、平均長さ:1.5μm、t-プロットはフラット)を1.0g添加した以外は実施例2と同様にして、シートを得た。得られたシートについて、上記方法に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1から、繊維状基材を構成する繊維に対して単層カーボンナノチューブが付着してなる実施例1~3に係るシートは、導電率及び耐粉落性を高いレベルで両立可能であったことが分かる。一方、繊維状基材上に多層CNTが付着してなる比較例1に係るシートは、導電率が低く、粉落ちし易く、さらに、厚みが不均一であったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブが脱落し難い、カーボンナノチューブを含むシートを得ることができる。
また、本発明によれば、導電性に優れるとともに、カーボンナノチューブが脱落し難い、カーボンナノチューブを含むシートを、良好に製造することが可能なシートの製造方法を提供することができる。