(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】スパッタリング装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230405BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C23C14/34 J
C23C14/34 C
C23C14/34 S
H01L21/363
(21)【出願番号】P 2019010246
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小林 大士
(72)【発明者】
【氏名】大野 幸亮
(72)【発明者】
【氏名】宜保 学
(72)【発明者】
【氏名】大久保 祐夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 真
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/077298(WO,A1)
【文献】特開2012-184479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に等間隔で並設される、同等の矩形の輪郭を持つ複数枚のターゲットで構成されるターゲットユニットと、ターゲットユニットに対向する被処理基板と当該ターゲットユニットとをその並設方向に所定のストロークで相対往復動させる駆動手段とを備えるスパッタリング装置において、
ターゲットユニットのうち並設方向両端に位置するものを夫々第1のターゲット、並設方向内側で第1のターゲットに隣接するものを夫々第2のターゲットとし、被処理基板とターゲットユニットとが往復動の中点に位置する状態で当該被処理基板の並設方向の両端に第2のターゲットが夫々対向するようにターゲットユニットを構成するターゲットの枚数が設定され、
駆動手段は、ターゲット幅と互いに隣接するターゲット間の距離との和をターゲットピッチとすると、ターゲットピッチの0.5倍以上、1倍以下で往復動のストロークが設定され
、被処理基板とターゲットユニットとが往復動のいずれか一方の折り返し位置にあるとき、いずれか他方の折り返し位置側の当該被処理基板の一端が第2のターゲットに対向するように構成されることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタリング装置を用い、真空雰囲気の真空チャンバ内に希ガス、または希ガスと反応ガスとを導入し、ターゲットユニットの各ターゲットに電力投入して被処理基板のターゲットユニットとの対向面に、スパッタリングにより所定の薄膜を成膜する成膜方法において、
前記第1及び第2のターゲットを除いてターゲットユニットを構成するものを第3のターゲット、第3のターゲットに投入する電力を定常電力とし、
前記ターゲットユニットに対して被処理基板がいずれか一方の折り返し位置にあるとき、当該一方の折り返し位置側の第2のターゲットに定常電力、第1のターゲットに定常電力よりも高い所定電力を夫々投入することを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
前記ターゲットユニットに対して被処理基板がいずれか一方の折り返し位置にあるとき、いずれか他方の折り返し位置側の第1及び第2の各ターゲットに定常電力よりも高い所定電力を投入することを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記被処理基板と前記ターゲットユニットとが相対移動する間、全ターゲットに定常電力を投入することを特徴とする請求項2または請求項3記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置及びこのスパッタリング装置を用いて反応性スパッタリングにより成膜する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理基板の表面に所定の薄膜を成膜する方法の一つとしてスパッタリング法があり、FPD製造用のガラス基板のように、面積の大きい被処理基板に対して所定の薄膜を成膜するために多く利用されている。このようなスパッタリング装置として、真空チャンバ内に等間隔で並設される、同等の矩形の輪郭を持つ複数枚のターゲットで構成されるターゲットユニットを備えるものが例えば特許文献1で知られている。この従来例のものでは、真空チャンバ内でターゲットユニットに対向する位置に被処理基板を搬送し、ターゲットユニットの各ターゲットをスパッタリングして成膜する間、各ターゲット相互間の領域からはスパッタ粒子が放出されない。このため、被処理基板表面に成膜された薄膜が、ターゲットの並設方向に沿って薄膜の膜厚分布が波打つように(即ち、同一の周期で膜厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように)不均一になる。このことから、成膜中、ターゲットユニットと被処理基板とをその並設方向に所定のストロークで相対往復動させ、膜厚分布が波打つ程度を低減させることが一般に知られている。
【0003】
また、上記従来例のものでは、ターゲットユニットの各ターゲット相互間の領域では、被処理基板と各ターゲットとの間の空間に形成されるプラズマの密度が小さくなっているため、このプラズマ密度の小さい領域のプラズマを通過して被処理基板に付着する膜の結晶状態等が他の領域(すなわちプラズマ密度の大きい領域)に対して相違し、その結果として、膜質(抵抗値や光学特性など)の不均一が発生するが、上記のように、成膜中、ターゲットユニットと被処理基板とをその並設方向に所定のストロークで相対往復動させることで、膜質分布の不均一も改善することが可能である。
【0004】
上記従来例のものでは、被処理基板とターゲットユニットとが往復動の中点に位置する状態で、被処理基板の並設方向両端部に対して対向するターゲットが、並設方向両端に位置するターゲットになるようにターゲット枚数が設定されている。ここで、上記の如く、ターゲット枚数を設定し、ターゲットユニットと被処理基板とをその並設方向に所定のストロークで相対往復動させると、被処理基板の並設方向両端部が並設方向両端に位置するターゲットの外側の端部(外端)に近くなるため、被処理基板の並設方向両端部に成膜される薄膜の膜厚が局所的に薄くなって(所謂膜だれが生じて)しまい、膜厚分布の波打つ程度を低減することができたとしても、この被処理基板両端部における膜だれによって膜厚分布が不均一となる。このような場合、並設方向両端に位置するターゲットに対して、当該ターゲットよりも並設方向内側に位置するターゲットに投入される定常電力よりも高い電力(例えば、定常電力の1.2倍の電力)を投入すれば、所謂膜だれは抑制することができる。然し、これでは、並設方向両端に位置するターゲットへ投入される電力の方が、並設方向内側に位置するターゲットへ投入される電力よりも常に大きくなるため、並設方向両端に位置するターゲットの方がスパッタ量が増え、ターゲットを使用できる期間(所謂ターゲットライフ)が極端に短くなってしまう。そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、被処理基板に対向配置されるターゲットユニットの並設条件と、ターゲットユニットに対して被処理基板を相対往復動させる際の往復動の条件を調整することで、膜質分布の不均一性を改善できることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、波打つ膜厚分布や被処理基板端部における膜だれを効果的に抑制する際に、並設方向両端部のターゲットのターゲットライフを悪化させることなく、膜厚分布および膜質分布の均一性良く成膜できるスパッタリング装置及び成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に等間隔で並設される、同等の矩形の輪郭を持つ複数枚のターゲットで構成されるターゲットユニットと、ターゲットユニットに対向する被処理基板と当該ターゲットユニットとをその並設方向に所定のストロークで相対往復動させる駆動手段とを備える本発明のスパッタリング装置は、ターゲットユニットのうち並設方向両端に位置するものを夫々第1のターゲット、並設方向内側で第1のターゲットに隣接するものを夫々第2のターゲットとし、被処理基板とターゲットユニットとが往復動の中点に位置する状態で当該被処理基板の並設方向の両端に第2のターゲットが夫々対向するようにターゲットユニットを構成するターゲットの枚数が設定され、駆動手段は、ターゲット幅と互いに隣接するターゲット間の距離との和をターゲットピッチとすると、ターゲットピッチの0.5倍以上、1倍以下で往復動のストロークが設定され、被処理基板とターゲットユニットとが往復動のいずれか一方の折り返し位置にあるとき、いずれか他方の折り返し位置側の当該被処理基板の一端が第2のターゲットに対向するように構成されることを特徴とする。尚、本発明において、同等の矩形の輪郭を持つ複数枚のターゲットには、各ターゲットの厚さが相互に異なる場合を含むものとする。
【0008】
この場合、第2のターゲットの並設方向外方にさらに第1のターゲットがあることで、波打つ膜厚分布や被処理基板端部における膜だれを効果的に抑制するといった機能は損なわれない。因みに、後述の実験では、例えば、相対的往復動のストロークをターゲットピッチの0.5倍に設定することで、膜質(シート抵抗値)の均一性を±15.2%に改善でき、また、ストロークをターゲットピッチの0.75倍に設定することで、膜質分布の均一性を±10.7%に改善できることが確認された。
【0009】
上記スパッタリング装置を用い、真空雰囲気の真空チャンバ内に希ガス、または希ガスと反応ガスとを導入し、ターゲットユニットの各ターゲットに電力投入して被処理基板のターゲットユニットとの対向面に、スパッタリングにより所定の薄膜を成膜する本発明の成膜方法は、前記第1及び第2のターゲットを除いてターゲットユニットを構成するものを第3のターゲット、第3のターゲットに投入する電力を定常電力とし、前記ターゲットユニットに対して被処理基板がいずれか一方の折り返し位置にあるとき、当該一方の折り返し位置側の第2のターゲットに定常電力、第1のターゲットに定常電力よりも高い所定電力を投入することを特徴とする。
【0010】
以上によれば、上記スパッタリング装置を用いて反応性スパッタリングにより薄膜を成膜する場合に、折り返し位置で第2のターゲットに投入する電力を定常電力したため、被処理基板の端部の膜厚が厚くなり過ぎることを防止することができる。その結果、膜だれを抑制しつつ、膜厚分布の悪化を防止することができる。また、第2のターゲットのスパッタリングされる量も低減されるため、ターゲットライフの悪化を抑制することができる。
【0011】
本発明においては、前記ターゲットユニットに対して被処理基板がいずれか一方の折り返し位置にあるとき、いずれか他方の折り返し位置側の第1及び第2の各ターゲットに定常電力よりも高い所定電力を投入すれば、膜だれをより一層抑制でき、膜厚分布の均一性を更に向上できる。
【0012】
ところで、前記被処理基板と前記ターゲットユニットとが相対移動する間に、第1及び第2の各ターゲットへの投入する電力を切り替えると、その電力制御が複雑になる場合がある。そこで、本発明においては、前記被処理基板と前記ターゲットユニットとが相対移動する間、全ターゲットに定常電力を投入し、折り返し位置にあるときに第1及び第2の各ターゲットへの投入電力を切り替えるようにすれば、投入電力の制御を簡単にでき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態のスパッタリング方法を実施するスパッタリング装置の構成を説明する模式断面図。
【
図2】(a)~(c)は、本発明の実施形態のスパッタリング方法を説明する模式図。
【
図3】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
【
図4】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、被処理基板Sを平面視矩形のガラス基板とし、この被処理基板Sの一方の面に薄膜を成膜するものを例に本発明の実施形態のスパッタリング装置を説明する。
【0015】
図1を参照して、SMは、本発明の実施形態のスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは、真空処理室10を画成する真空チャンバ1を備える。真空処理室10内は、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段Pを用いて真空引きして所定の真空度に維持できる。以下においては、真空処理室10にて後述のターゲットと被処理基板Sとが対向し、ターゲットから被処理基板Sに向かう方向を「上」、被処理基板Sからターゲットに向かう方向を「下」、ターゲットの並設方向をX方向(
図1中、左右方向)として説明する。
【0016】
真空処理室10内の上部には、被処理基板Sをその下面(成膜面)を開放して保持するホルダ2が設けられている。ホルダ2は、モータやエアーシリンダ等の駆動手段3の駆動軸31に連結され、スパッタリング中、被処理基板Sを左右方向に往復動できるようにしている。
【0017】
真空処理室10内の下部には、ターゲットユニット4が設けられている。ターゲットユニット4は、被処理基板Sに平行な同一平面内で左右方向に等間隔で並設される、同等の矩形の輪郭を持つ複数枚(本実施形態では8枚)のターゲット41a~41hを有する。各ターゲット41a~41hは、被処理基板Sの表面に成膜しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択される材料(例えば、金属、合金、誘電体等)で作製されている。各ターゲット41a~41hの下面には、スパッタリング中、ターゲット41a~41hを冷却する例えばCu製のバッキングプレート42がインジウムやスズなどのボンディング材(図示せず)を介して接合されている。各ターゲット41a~41h及び各バッキングプレート42は単一の支持板43で夫々支持され、支持板43には、ターゲット41a~41hの周囲をそれぞれ囲うシールド板44が立設され、シールド板44が成膜時にアノードとしての役割を果たすと共に、プラズマのターゲット41a~41hの下方への回り込みを防止する。各ターゲット41a~41hは、真空チャンバ1外に配置されるスパッタ電源(DC電源や高周波電源)45a~45hに各バッキングプレート42を介して夫々接続され、各バッキングプレート42及び各ターゲット41a~41hに負の電位を持った所定電力が夫々投入できるようになっている。
【0018】
また、各ターゲット41a~41hの下方には、磁石ユニット5が夫々配置されている。各磁石ユニット5は、各ターゲット41a~41hに平行に設けられた磁性材料製の支持板51を有する。支持板51には、その中央部で線状に配置される中央磁石52と、支持板51の外周に沿って配置される周辺磁石53とが上側の極性をかえて設けられている。この場合、中央磁石52及び周辺磁石53の体積及び材質は、各ターゲット41a~41hの上方に、釣り合った閉ループのトンネル状の磁束が所望の強さで形成されるように設計、選択されている。これにより、各ターゲット41a~41hの被処理基板S側に、漏洩磁場を作用させることが可能となる。各磁石ユニット5は、モータやエアーシリンダ等の駆動手段6の駆動軸61に夫々一体に連結されており、各磁石ユニット5を一体に往復動できるようにしている。尚、各磁石ユニット5は往復動させなくてもよい。
【0019】
駆動手段3,6を駆動することにより、被処理基板Sに対して各ターゲット41a~41hが対向する位置を変化させることが可能となると共に、各ターゲット41a~41h内においてスパッタレートが高くなる磁束の位置が変化し、各ターゲット41a~41hの全面に亘って均等に侵食領域が得られる。
【0020】
真空チャンバ1には、アルゴン等の希ガス、または希ガスと反応ガスからなるスパッタガスを真空処理室10に導入するガス導入手段7が設けられている。ガス導入手段7は、例えば真空チャンバ1の側壁に取付けられたガス管71を有し、このガス管71は分岐され、分岐された各ガス管がマスフローコントローラ72a,72bを介してガス源73a,73bに夫々連通している。そして、スパッタリング装置SMは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた図示省略の制御手段を有し、後述する各スパッタ電源45a~45hの制御のほか、駆動手段3,6、マスフローコントローラ72a,72bや真空排気手段Pの稼働が統括制御される。
【0021】
次に、上記スパッタリング装置SMを用い、
図2も参照して、被処理基板Sたるガラス基板の表面に反応性スパッタリングによりITO(酸化インジウムスズ)膜を成膜する場合を例に、本実施形態の成膜方法を説明する。
【0022】
図2(a)に示すように、被処理基板Sをホルダ2にセットし、被処理基板Sとターゲットユニット4とを往復動の中点(センター位置)に配置する。この状態では、被処理基板Sの並設方向の両端S1,S2に対向して第2のターゲット41b,41gが夫々位置し、これら第2のターゲット41b,41gの並設方向外側に第1のターゲット41a,41hが位置する。これら第1のターゲット41a,41h及び第2のターゲット41b,41gを除いてターゲットユニット4を構成するターゲット41c~41fを第3のターゲットとする。そして、真空排気手段Pにより真空引きされた真空処理室10内に、ガス導入手段7を介して希ガス(例えばアルゴンガス)及び反応ガス(例えばH
2Oガス、H
2ガス、O
2ガス等から選択される少なくとも1種)を所定流量で夫々導入し、各ターゲット41a~41hに対しスパッタ電源45a~45hから夫々同一の電力(以下「定常電力」という)を投入する。定常電力は、5kW~15kWの範囲内に設定することができる。これにより、被処理基板Sと各ターゲット41a~41hとの間の空間にプラズマが形成され、プラズマ中で電離したイオンを各ターゲット41a~41hに向けて加速させて衝撃させ、各ターゲット41a~41hの表面からスパッタ粒子が被処理基板Sに向かって飛散して被処理基板S表面にITO膜が成膜される。
【0023】
ここで、上記の如く、各ターゲット41a~41h相互の間のシールド板44が存する領域からスパッタ粒子は放出されない。このため、ターゲットユニット4に対して被処理基板Sが静止した状態で位置していると、成膜した薄膜の当該被処理基板Sの並設方向に沿う膜厚分布をみると、波打つように、つまり、同一の周期で膜厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように不均一になる。そこで、スパッタリング中、駆動手段3を駆動し、被処理基板Sを所定のストロークStで往復動させることで、被処理基板Sとターゲットユニット4とを並設方向に所定のストロークStで相対往復動させることができる。尚、相対往復動する間、希ガス及び反応ガスは継続して供給する。
【0024】
図2(b)に示すように、被処理基板Sを左方向にストロークStの半分(1/2St)だけ移動して左側の折り返し位置に移動する。本実施形態では、ストロークStをターゲットピッチDp(ターゲット幅Dwと互いに隣接するターゲット間の距離Dsとの和)の0.5倍以上、1倍以下に設定する。左側の折り返し位置では、ストロークStをターゲットピッチDpの約0.5倍に設定した場合には、
図2(b)に示す如く、被処理基板Sの左端S1が左側の第1のターゲット41aと第2のターゲット41bとの間に対向すると共に、被処理基板Sの右端S2が右側の第2のターゲット41gと対向する。また、ストロークStをターゲットピッチDpの約0.75倍に設定した場合には、図示省略するが、被処理基板Sの左端S1が左側の第1のターゲット41aと対向し、被処理基板Sの右端S2が右側の第2のターゲット41gと対向する。このとき、左側の第2のターゲット41bに対して定常電力を投入すると共に、左側の第1のターゲット41aに対して定常電力よりも高い電力を投入する。これと併せて、右側の第1及び第2の各ターゲット41h,41gに対して定常電力よりも高い電力を投入することで、膜だれを効果的に抑制することができる。
【0025】
ここで、左側の第1のターゲット41aと、右側の第1及び第2の各ターゲット41h,41gとに対して、定常電力の1.1倍の電力を投入すれば膜だれを抑制でき、従来例の如く定常電力の1.2倍の電力を投入する場合に比べて投入電力を低くすることができる。
【0026】
ところで、左側の第2のターゲット41bに対しても定常電力よりも高い電力を投入すると、被処理基板Sの左端S1の内側の部分へのスパッタ粒子の供給が過剰になり、当該部分の膜厚が厚くなり、その結果として、膜厚分布が悪化する虞がある。本実施形態では、左側の第2のターゲット41bに対して定常電力を投入することで、膜厚分布の悪化を防止することができるとともに、第2のターゲット41bのターゲットライフの悪化を抑制する。尚、第3のターゲット41c~41fに対しては定常電力が連続して投入される。
【0027】
上記左側の折り返し位置にて所定時間(例えば、5~20sec)スパッタリングし、その後、被処理基板Sを右方向にストロークStの半分(1/2St)だけ移動し、
図2(a)に示す状態(センター位置)に戻る。更に、被処理基板Sを右方向にストロークStの半分(1/2St)だけ移動し、
図2(c)に示すように、被処理基板Sを右側の折り返し位置に移動する。つまり、
図2(b)に示される左側の折り返し位置から
図2(c)に示される右側の折り返し位置までストロークStだけ移動する(移動時間は、例えば、2~15sec)。このようにストロークStだけ移動する間、全ターゲット41a~41hに対する投入電力を定常電力とする。
【0028】
右側の折り返し位置では、ストロークStをターゲットピッチDpの約0.5倍に設定した場合には、
図2(c)に示す如く、被処理基板Sの右端S2が右側の第1のターゲット41hと第2のターゲット41gとの間に対向すると共に、被処理基板Sの左端S1が左側の第2のターゲット41bに対向する。また、ストロークStをターゲットピッチDpの約0.75倍に設定した場合には、図示省略するが、被処理基板Sの右端S2が右側の第1のターゲット41hと対向し、被処理基板Sの左端S1が左側の第2のターゲット41bと対向する。このとき、右側の第2のターゲット41gに対して定常電力を投入すると共に、右側の第1のターゲット41hに対して定常電力よりも高い電力を投入する。これと併せて、左側の第1及び第2の各ターゲット41a,41bに対して定常電力よりも高い電力を投入することで、膜だれを効果的に抑制することができる。
【0029】
ここで、右側の第1のターゲット41hと、左側の第1及び第2の各ターゲット41a,41bとに対して、定常電力の1.1倍の電力を投入すれば膜だれを抑制でき、従来例の如く定常電力の1.2倍の電力を投入する場合に比べて投入電力を低くすることができる。これにより、
図2(b)に示す左側の折り返し位置にて投入電力を低くできることと相俟って、第1及び第2の各ターゲットのライフを長くすることができ、有利である。
【0030】
上記右側の折り返し位置にて所定時間(例えば、2~25sec)スパッタリングすると、その後、被処理基板Sを左方向にストロークStだけ移動し、
図2(a)に示す状態(センター位置)を経由して
図2(b)に示す状態(左側の折り返し位置)に戻る。このようにストロークStだけ移動する間、全ターゲット41a~41hに対する投入電力を定常電力とする。
【0031】
以上の動作を繰り返し、所定の成膜時間が経過すると、即ち、被処理基板Sの下面に所望の膜厚でITO膜が成膜されると、希ガス及び反応ガスの導入と電力投入とを停止して、被処理基板Sを真空チャンバ1から搬出する。
【0032】
本実施形態によれば、ストロークStをターゲットピッチDpの0.5倍以上、1倍以下に設定することで、スパッタリングによりITO膜を形成する場合に、膜厚および膜質分布の均一性良く成膜できる。この場合、第2のターゲット41b,41gの並設方向外方にさらに第1のターゲット41a,41hがあることで、波打つ膜厚分布や被処理基板端部における膜だれを効果的に抑制するといった機能は損なわれない。
【0033】
また、ターゲットユニット4に対して被処理基板Sが左側または右側の折り返し位置にあるとき、左側または右側の第2のターゲット41b,41gに定常電力を投入するため、被処理基板Sの左端S1または右端S2の内側の部分の膜厚が厚くなることを防止でき、膜厚分布の悪化を防止することができる。また、第2のターゲット41b,41gのスパッタされる量も低減されるため、ターゲットライフの悪化を抑制することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態においては、被処理基板Sを移動させているが、ターゲットユニット4を移動させてもよい。この場合、支持板43に、モータやエアーシリンダ等の駆動手段の駆動軸を連結すれば、スパッタリング中、ターゲットユニット4を左右方向に往復動できる。
【0035】
上記実施形態では、8枚のターゲット41a~41hを並設する場合を例に説明したが、被処理基板Sとターゲットユニット4とが往復動の中点に位置する状態で被処理基板Sの並設方向の両端S1,S2に第2のターゲットが夫々対向するようにターゲット枚数を設定すれば、本発明を適用することができる。
【0036】
上記実施形態では、被処理基板Sを相対移動する間、全ターゲットに定常電力を投入しているが、相対移動する間に第1及び第2のターゲットに対する投入電力を切り替えるようにしてもよいが、これでは、投入電力の制御が複雑になってしまう。上記実施形態の如く折り返し位置に移動したときに投入電力を切り替えることで、投入電力の制御を簡単にでき、有利である。
【0037】
以上の効果を確認するため、上記スパッタリング装置SMを用い、以下の実験を行った。本実験では、被処理基板Sとして並設方向の幅が1500mmであるガラス基板を用い、ターゲットユニット4を8枚のターゲット41a~41hで構成し、各ターゲットとして酸化インジウムスズ(ITO)製でそのターゲット幅Dwが200mmである平面視矩形のものを用い、これら8枚のターゲット41a~41hをターゲットピッチDp:270mm(このとき、ターゲット間の距離(間隔)Dsは70mm)で並設した。そして、ストロークStを135mm(ターゲットピッチDpの0.5倍)に設定した。各ターゲット41a~41hと被処理基板Sとの間の距離は210mmに設定した。
【0038】
図2(b)に示す左側の折り返し位置に被処理基板Sを移動し、真空処理室10内の圧力が0.3Paに保持されるように、Arガスを120sccm、H
2Oガスを5sccm導入し、各ターゲットに電力投入してプラズマを生成し、所定時間(12sec)成膜した。このとき、左側の第1のターゲット41a、右側の第1及び第2の各ターゲット41h,41gには定常電力の1.1倍の電力を投入し、左側の第2のターゲット41b及び第3のターゲット41c~41fには定常電力(9kW)を投入した。所定時間経過後、被処理基板Sを
図2(c)に示す右側の折り返し位置まで移動した(移動時間は6sec)。尚、被処理基板Sの移動中、全ターゲット41a~41hに対して定常電力を投入した。右側の折り返し位置にて、所定時間(12sec)成膜した。このとき、右側の第1のターゲット41h、左側の第1及び第2のターゲット41a,41bには定常電力の1.1倍の電力を投入し、右側の第2のターゲット41g及び第3のターゲット41c~41fには定常電力を投入した。所定時間経過後、被処理基板Sを左側の折り返し位置に移動した(移動時間は6sec)。以上を1サイクル(計36sec)とし、被処理基板Sの表面にITO膜を成膜した。成膜したITO膜の並設方向の膜厚を測定した結果を、発明実験として
図3に示す。発明実験によれば、波打つ膜厚分布を効果的に抑制することができ、しかも、被処理基板端部における膜だれを効果的に抑制することが確認された。その上、成膜したITO膜の基板面内56点のシート抵抗値を測定し、基板面内におけるシート抵抗値の分布を計測した結果、±15.2%であり、膜質分布の不均一性を改善できることが確認された。また、ストロークStを200mm(ターゲットピッチDpの約0.75倍)、270mm(ターゲットピッチDpの1倍)に設定した点を除いて上記条件で夫々成膜し、その成膜したITO膜の基板面内56点のシート抵抗値を夫々測定し、基板面内におけるシート抵抗値の分布を夫々計測した結果、
図4に示すように、±10.7%、±12.0%であることが確認された。
図4に併せて示すように、ストロークStをターゲットピッチDpの1倍よりも大きい1.25倍に設定すると、基板面内におけるシート抵抗値の分布が±18.5%となり、膜厚分布の不均一性が改善されないことが確認された。以上より、ストロークStをターゲットピッチDpの0.5倍以上、1倍以下に設定することで、膜質分布の不均一性を更に改善できることが判った。
【0039】
ここで、膜質分布はターゲットユニットを構成する各ターゲットと被処理基板との間の空間に形成されるプラズマの密度に影響を受ける。このプラズマの密度分布はターゲットユニットの周辺構造との間で電位的バランスをとるため偏りを持ちやすい。このため、膜質分布の不均一性を改善するためには、往復動のストロークStをターゲットピッチDpの0.5倍よりも大きく設定したほうが、改善の効果がよりよく発現すると考えられる。
【0040】
また、比較例として、左側の折り返し位置にて第2のターゲット41bにも定常電力の1.1倍の電力を投入し、右側の折り返し位置にて第2のターゲット41gにも定常電力の1.1倍の電力を投入する点を除いて上記発明実験と同様の条件で成膜したものを比較実験として
図3に示す。比較実験によれば、被処理基板Sの端部の膜厚が厚くなり、膜厚分布が悪化することが確認された。これより、発明実験により膜厚分布の悪化を抑制できることが判った。
【0041】
上記実施形態では、反応性スパッタリングにより被処理基板の表面にITO膜を成膜する場合を例に説明したが、本発明はこれに限られず、被処理基板の表面にアルミニウム、銅等の金属やこれらの合金等の金属膜をスパッタリングにより成膜する場合にも適用することができ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。従って、金属膜のスパッタリングにおいても、プラズマの分布の偏りを解消することができるため、被処理基板に付看する金属膜の結晶状態等の分布が改善され、反射率等の光学特性の分布を改善することが可能となる。
【0042】
また、上記実験では、被処理基板Sが左側の折り返し位置にて成膜した後、被処理基板Sが右側の折り返し位置まで移動しここで成膜し、さらに左側の折り返し位置まで移動する期間を1サイクルとし、1サイクルの間で求める膜厚の膜を形成したが、これに限られず、2サイクル以上で成膜を行ってもよいし、左側の折り返し位置で成膜の後右側の折り返し位置で成膜し、そこで成膜を終了してもよい。これら往復動は、必要な膜厚によって調整される。
【符号の説明】
【0043】
Dp…ターゲットピッチ、SM…スパッタリング装置、S…被処理基板、St…ストローク、1…真空チャンバ、10…真空処理室、3…駆動手段、4…ターゲットユニット、41a~41h…ターゲット、41a,41h…第1のターゲット、41b,41g…第2のターゲット、41c~41f…第3のターゲット。