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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】水素充填方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
F17C13/02 301A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019229203
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021095982
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-07-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】永冨 眞司
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130218(JP,A)
【文献】特開2017-166635(JP,A)
【文献】特開2016-200267(JP,A)
【文献】特開2018-081657(JP,A)
【文献】特開2015-124830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスペンサにより供給される水素を車両に搭載された車載タンクに充填する水素充填方法であって、
前記車載タンクに充填される水素の初期圧力値を測定する初期圧力測定ステップと、
前記初期圧力値を測定した後に、前記車載タンクの容積を推定する容積推定ステップとを含み、
前記初期圧力測定ステップにおいて、前記ディスペンサから前記車載タンクへと水素を供給しながら、前記車載タンクに充填される水素の初期圧力値を測定し、
前記容積推定ステップにおいて、前記ディスペンサから前記車載タンクへの水素の供給を一旦停止した後に、
前記ディスペンサから前記車載タンクへと所定量の水素を供給したときの圧力上昇値を測定し、
前記初期圧力値及び前記圧力上昇値と、前記車載タンクの容積と関連付けられた特性条件である前記車載タンクの温度との相関を示す相関データを算出し、
前記相関データに基づいて、前記車載タンクの容積を推定し、
前記車載タンクの容積をVとし、前記圧力上昇値ΔPとし、前記初期圧力値P と前記車載タンクの温度tとの相関式から算出される係数をa,bとしたときに、
V=(ΔP/a) 1/b
a=a +a
=a 13 +a 12 +a 11 t+a 10
=a 03 +a 02 +a 01 t+a 00
b=b +b +b +b +b
=b 43 +b 42 +b 41 t+b 40
=b 33 +b 32 +b 31 t+b 30
=b 23 +b 22 +b 21 t+b 20
=b 13 +b 12 +b 11 t+b 10
=b 03 +b 02 +b 01 t+b
【表1】
≦20MPaのとき
【表2】
≧20MPaのとき
【表3】
で表される前記相関データに基づいて、前記車載タンクの容積を推定することを特徴とする水素充填方法。
【請求項2】
前記容積推定ステップの後に、前記車載タンクの容積に応じた充填条件を設定する充填条件設定ステップと、前記充填条件に基づいて前記車載タンクへの水素の充填を開始する水素充填ステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素充填方法。
【請求項3】
前記容積推定ステップの前に、前記車載タンクの容積に応じた充填条件を設定する充填条件設定ステップと、
前記容積推定ステップの後に、前記充填条件に基づいて前記車載タンクへの水素の充填を開始する水素充填ステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素充填方法。
【請求項4】
前記充填条件設定ステップにおいて設定された前記車載タンクの容積と、前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積とが不一致となる場合において、
前記水素充填ステップの実行を停止することを特徴とする請求項又はに記載の水素充填方法。
【請求項5】
前記水素充填ステップの実行を停止した場合において、
前記充填条件設定ステップにおいて設定された前記車載タンクの容積と、前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積とが不一致であることを通知することを特徴とする請求項に記載の水素充填方法。
【請求項6】
前記充填条件設定ステップにおいて設定された前記車載タンクの容積と、前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積とが不一致となる場合において、
前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積に応じた充填条件に設定を切り替えた後に、前記水素充填ステップの実行を開始することを特徴とする請求項又はに記載の水素充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の車載タンクに水素を充填する水素充填システムとして、水素ステーションが利用されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。水素ステーションでは、水素を圧縮機で昇圧(圧縮)し、この昇圧された水素を蓄圧器に一時的に貯蔵(蓄圧)する。
【0003】
水素ステーションでは、車両側のレセプタクルにディスペンサ側のノズルを差し込むことによって互いに連結した状態とし、このディスペンサ側から供給される水素を車載タンクに充填することが行われる。また、車載タンクに高圧で充填される水素は、非常に高温となることから、蓄圧器からディスペンサに供給される水素を予め冷却(プレクール)することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-500534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現状の水素充填システムでは、上述した車両側のレセプタクルとディスペンサ側のノズルとの連結構造に車両による違いがない場合がある。この場合、FCVの充填条件(充填速度、充填温度)とは異なる設定を誤って選択してしまう可能性がある。また、FCVの充填条件とは異なる設定で水素の充填を行うと、車載タンクの温度が耐熱温度を超えるなどの問題が発生してしまう。
【0006】
例えば、一般高圧ガス保安規則関連例示基準の第55条の2第5項には、70MPa以上の圧力で充填可能なノズルは、最高充填圧力が70MPa未満の車両のレセプタに接続できない構造とすることが規定されている。
【0007】
このため、70MPa以上の圧力で充填可能なノズルを有するディスペンサは、最高充填圧力が35MPaであるFCフォークリフト側のレセプタにノズルが接続できない構造となっている。この場合、FCフォークリフトの充填条件とは異なる設定を誤って選択してしまうといった問題は発生しない。
【0008】
一方、最高充填圧力が70MPaとなるFCVと、最高充填圧力が70MPa以上となるトラック及びFCバスとの間では、70MPa以上の圧力で充填可能なノズルを有するディスペンサから同一のノズルにより水素を充填することが可能である。
【0009】
この場合、トラック及びFCバスでは、FCVよりも車載タンクの容積が大きいため、FCVの充填条件と同じ設定を誤って選択してしまうと、充填速度が遅いため、水素の上昇温度が低いまま充填されてしまい、充填後に温度が上昇した際に車載タンク内の圧力が高くなる過充填が発生してしまう。また、FCVでも、トラック及びFCバスの充填条件と同じ設定を誤って選択してしまうと、車載タンクに充填された水素の温度が高くなり、車載タンクの耐圧温度を超えてしまう。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、ディスペンサにより供給される水素を車両に搭載された車載タンクに適切に充填することを可能とした水素充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 ディスペンサにより供給される水素を車両に搭載された車載タンクに充填する水素充填方法であって、
前記車載タンクに充填される水素の初期圧力値を測定する初期圧力測定ステップと、
前記初期圧力値を測定した後に、前記車載タンクの容積を推定する容積推定ステップとを含み、
前記初期圧力測定ステップにおいて、前記ディスペンサから前記車載タンクへと水素を供給しながら、前記車載タンクに充填される水素の初期圧力値を測定し、
前記容積推定ステップにおいて、前記ディスペンサから前記車載タンクへの水素の供給を一旦停止した後に、
前記ディスペンサから前記車載タンクへと所定量の水素を供給したときの圧力上昇値を測定し、
前記初期圧力値及び前記圧力上昇値と、前記車載タンクの容積と関連付けられた特性条件である前記車載タンクの温度との相関を示す相関データを算出し、
前記相関データに基づいて、前記車載タンクの容積を推定し、
前記車載タンクの容積をVとし、前記圧力上昇値をΔPとし、前記初期圧力値P と前記車載タンクの温度tとの相関式から算出される係数をa,bとしたときに、
V=(ΔP/a) 1/b
a=a +a
=a 13 +a 12 +a 11 t+a 10
=a 03 +a 02 +a 01 t+a 00
b=b +b +b +b +b
=b 43 +b 42 +b 41 t+b 40
=b 33 +b 32 +b 31 t+b 30
=b 23 +b 22 +b 21 t+b 20
=b 13 +b 12 +b 11 t+b 10
=b 03 +b 02 +b 01 t+b
【表1】
≦20MPaのとき
【表2】
≧20MPaのとき
【表3】
で表される前記相関データに基づいて、前記車載タンクの容積を推定することを特徴とする水素充填方法。
〕 前記容積推定ステップの後に、前記車載タンクの容積に応じた充填条件を設定する充填条件設定ステップと、前記充填条件に基づいて前記車載タンクへの水素の充填を開始する水素充填ステップとを含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の水素充填方法。
〕 前記容積推定ステップの前に、前記車載タンクの容積に応じた充填条件を設定する充填条件設定ステップと、
前記容積推定ステップの後に、前記充填条件に基づいて前記車載タンクへの水素の充填を開始する水素充填ステップとを含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の水素充填方法。
〕 前記充填条件設定ステップにおいて設定された前記車載タンクの容積と、前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積とが不一致となる場合において、
前記水素充填ステップの実行を停止することを特徴とする前記〔〕又は〔〕に記載の水素充填方法。
〕 前記水素充填ステップの実行を停止した場合において、
前記充填条件設定ステップにおいて設定された前記車載タンクの容積と、前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積とが不一致であることを通知することを特徴とする前記〔〕に記載の水素充填方法。
〕 前記充填条件設定ステップにおいて設定された前記車載タンクの容積と、前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積とが不一致となる場合において、
前記容積推定ステップにおいて推定された前記車載タンクの容積に応じた充填条件に設定を切り替えた後に、前記水素充填ステップの実行を開始することを特徴とする前記〔〕又は〔〕に記載の水素充填方法。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、ディスペンサにより供給される水素を車両に搭載された車載タンクに適切に充填することを可能とした水素充填方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る水素充填システムの一構成例を示す模式図である。
図2】本発明の水素充填方法による水素の充填量と充填圧力との関係を示すグラフである。
図3】実施例において車載タンクの容積を推定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(水素充填システム)
先ず、本発明の一実施形態として、例えば図1に示す水素充填システム1について説明する。なお、図1は、水素充填システム1の一構成例を示す模式図である。
【0015】
本実施形態の水素充填システム1は、図1に示すように、車両2に搭載された車載タンク3に対して水素の充填を行う水素ステーションであり、この水素ステーションにおいて本発明の水素充填方法を適用したものである。
【0016】
一方、車両2は、水素と酸素との電気化学反応によって得られる電力によりモータを駆動して走行するFCVである。車両2は、水素充填中に開放され、充填終了後に閉止される遮断弁(図示せず。)が設けられた水素の充填口となるレセプタクル4を備えている。
【0017】
本実施形態の水素充填システム1は、複数の蓄圧器20-1~20-N(Nは2以上の整数を表す。)と、複数の枝管11-1~11-Nと、複数の圧力計21-1~21-Nと、複数の遮断弁22-1~22-Nと、供給配管12と、調節弁13と、遮断弁14と、圧力計15と、ディスペンサ16と、プレクーラ17と、制御装置30とを概略備えている。
【0018】
なお、以降の説明において、複数の蓄圧器20-1~20-N、複数の枝管11-1~11-N、複数の圧力計21-1~21-N、複数の遮断弁22-1~22-Nについて、特に区別しない場合には、それぞれ蓄圧器20、枝管11、圧力計21、遮断弁22としてまとめて取り扱うものとする。
【0019】
蓄圧器20は、圧縮機(図示せず。)により圧縮された高圧の水素を蓄圧した状態で貯留する容器である。一般的に、蓄圧器20には、大型のマンガン鉱製の継ぎ目なしボンベや、カードル及び複合容器などが用いられる。なお、蓄圧器20は、高圧の水素を蓄圧することができるものであればよく、その材質や形状等については特に限定されるものではない。
【0020】
枝管11は、それぞれの蓄圧器20と接続された配管である。枝管11は、その配管内を流れる水素の圧力が高圧となることから、金属製であることが望ましいものの、その材質については特に限定されるものではない。一般的に、枝管11には、ステンレス製の鋼管が用いられる。
【0021】
圧力計21は、枝管11の蓄圧器20と遮断弁22との間にそれぞれ設けられて、蓄圧器20内の水素の圧力をそれぞれ測定する。また、各圧力計21は、制御装置30と電気的に接続されて、この制御装置30に測定値を送信する。
【0022】
遮断弁22は、枝管11にそれぞれ設けられて、蓄圧器20からの水素の供給又は遮断を切り替える開閉弁である。各遮断弁22は、制御装置30と電気的に接続されて、この制御装置30の制御に応じて開閉される。
【0023】
供給配管12は、各枝管11の下流側と接続された配管である。すなわち、各枝管11は、それぞれの下流側で結合されて、供給配管12の一端と接続されている。供給配管12は、その配管内を流れる水素の圧力が高圧となることから、金属製であることが望ましいものの、その材質については特に限定されるものではない。一般的に、供給配管12には、ステンレス製の鋼管が用いられる。
【0024】
調節弁13は、供給配管12に設けられて、その開度調節により水素の流量を調整するニードル弁である。調節弁13は、制御装置30と電気的に接続されて、この制御装置30の制御に応じて開度が調節される。
【0025】
遮断弁14は、供給配管12の調節弁13よりも下流側に設けられて、水素の供給又は遮断を切り替える開閉弁である。遮断弁14は、制御装置30と電気的に接続されて、この制御装置30の制御に応じて開閉される。
【0026】
圧力計15は、供給配管12の遮断弁14とディスペンサ16との間に設けられて、供給配管12内を流れる水素の圧力を測定する。また、圧力計15は、制御装置30と電気的に接続されて、この制御装置30に測定値を送信する。圧力計15によって測定された水素の圧力値は、車両2の車載タンク3内の圧力と略一致する。圧力計15には、例えば圧力トランスミッターが用いられている。但し、圧力計15については、圧力が測定できるものであれば、これに限定されるものではない。
【0027】
ディスペンサ16は、車両2側のレセプタクル4に対して着脱自在に連結されるノズル17と、ノズル17に接続されたホース18とを有している。
【0028】
ノズル17は、ワンタッチ着脱式のコネクタ構造を有し、車両2側のレセプタクル4に差し込むことによって、レセプタクル4と連結することが可能となっている。また、ノズル17は、充填が終了しホース18内が減圧されるまで、レセプタクル4から抜き取れない仕組みとなっている。
【0029】
ホース18は、高耐圧性の水素充填用ホースからなり、その先端にノズル17が取り付けられている。なお、ノズル17とホース18との接続部分には、軸回りに回転可能な回転ジョイントを設けてもよい。
【0030】
プレクーラ19は、供給配管12の遮断弁14よりも下流側に設けられて、水素を予め冷却(プレークール)するものである。本実施形態の水素充填システム1では、このプレクーラ19により水素を約-40℃に冷却することで、ディスペンサ16側から供給される水素を車両2の車載タンク3に急速に充填(急速充填)することが可能となっている。
【0031】
制御装置30は、各圧力計21及び圧力計15から送信された圧力の測定値を受信する。制御装置30は、受信した圧力の測定値を参照しながら、各遮断弁22及び遮断弁14を開閉する制御、並びに、調節弁13の開閉及びその開度を調節する制御を行う。
【0032】
以上のような構成を有する本実施形態の水素充填システム1では、車両2側のレセプタクル4にノズル17を差し込むことによって互いに連結した状態とする。この状態で、ディスペンサ16側から供給される水素を車両2の車載タンク3に充填することが可能となっている。
【0033】
具体的には、車両2側のレセプタクル4にディスペンサ16側のノズル17を接続した後に、FCV3側の遮断弁(図示せず。)を開放する。その後、使用する蓄圧器20に対応した遮断弁22と、調節弁13と、遮断弁14とを開放する。遮断弁22と、調節弁13と、遮断弁14とが開放されると、蓄圧器20と車両2の車載タンク3との間の差圧によって、蓄圧器20に貯留されている水素が枝管11及び供給配管12を介して車両2に供給されて車載タンク3に充填される(差圧充填という。)。
【0034】
(水素充填方法)
次に、本発明の一実施形態に係る水素充填方法について、図2に示すグラフを参照しながら説明する。なお、図2は、本発明の水素充填方法による水素の充填量と充填圧力との関係を示すグラフである。
【0035】
本実施形態の水素充填方法は、車載タンク3に充填される水素の初期圧力値を測定する初期圧力測定ステップS1と、初期圧力値を測定した後に、車載タンク3の容積を推定する容積推定ステップS2とを含む。
【0036】
本実施形態の水素充填システム1は、このような水素充填方法を実行するため、図1に示すように、車載タンク3に充填される水素の圧力を測定する圧力測定部40と、車載タンク3の温度を測定する温度測定部50と、車載タンク3の容積を推定する容積推定部60とを備えている。
【0037】
圧力測定部40は、上記圧力計15により構成されている。圧力測定部10は、圧力計15によりディスペンサ16から車載タンク3に供給される水素の圧力を測定し、その圧力の測定値(測定結果)を制御装置30に送信(供給)する。
【0038】
温度測定部50は、外部の温度(気温)を測定する温度計23により構成されている。温度測定部50は、温度計23により車載タンク3の温度として気温を測定し、その気温の測定値(測定結果)を制御装置30に送信(供給)する。
【0039】
容積推定部60は、上記制御装置30により構成されている。容積推定部60は、初期圧力測定ステップS1と、容積推定ステップS2とを実行するプログラムによって、車載タンク3の容積を推定する。
【0040】
具体的には、先ず、図2に示す初期圧力測定ステップS1において、圧力計15によりディスペンサ16から車載タンク3へと水素を供給しながら、車載タンク3に充填される水素の初期圧力値Pを測定する。
【0041】
次に、図2に示す容積推定ステップS2において、ディスペンサ16から車載タンク3への水素の供給を一旦停止する。その後、圧力計15によりディスペンサ16から車載タンク3へと所定量(例えば30g)の水素を供給したときの圧力上昇値ΔPを測定する。
【0042】
制御装置30は、圧力計15により測定された初期圧力値P及び圧力上昇値ΔPと、車載タンク3の容積と関連付けられた特性条件との相関を示す相関データを算出する。特性条件は、上述した温度計23により測定された車載タンク3の温度(気温)とする。制御装置30は、この相関データに基づいて、車載タンク3の容積を推定する。
【0043】
ここで、本実施形態における車載タンク3の容積推定方法について説明する。
本実施形態では、容積推定ステップS2において、30gの水素を供給した際の車載タンク3の容積の推定を行った。具体的には、先ず、FCV1、FCV2、FCトラック、FCバス、FCフォークリフトの各車両における物性値を下記表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
なお、表1中における「V」は容積[m]、「M」は質量[kg]、「Cp」は容器比熱[J/(kg・K)]、「A」は車載タンクの内部面積[m]、「A」は車載タンクの外部面積[m]、「α」は車載タンクの内部伝熱係数[W/(m・K)]、「α」は車載タンクの外部伝熱係数[W/(m・K)]を表す。また、車載タンクの壁は、ライナー及び炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の質量平均比熱を持つ一様の温度の媒体とする。
【0046】
次に、初期圧力値Pを0.5~70MPaとし、車載タンクの温度(気温)を-10~50℃としたときの各圧力上昇値ΔPの相関データ(以下、「圧力上昇値テーブル」という。)を算出する。その圧力上昇値テーブルを下記表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
なお、表2は、FCV1の圧力上昇値テーブルである。また、FCV2、FCトラック、FCバス、FCフォークリフトについても同様の測定を行い、その測定結果をまとめた圧力上昇値テーブルを作成する。
【0049】
各車両の圧力上昇値テーブルは、下記式(1)に示す圧力上昇値ΔPの相関式から算出する。
ΔP=a・V …(1)
【0050】
なお、式(1)中に示す「V」は、車載タンクの容積を表す。「a」は、下記式(2)示す初期圧力値P[MPa]と気温t[℃]との相関式から算出される係数である。「b」は、下記式(3)示す初期圧力値P[MPa]と気温t[℃]との相関式から算出される係数である。
【0051】
a=a+a …(2)
=a13+a12+a11t+a10
=a03+a02+a01t+a00
【0052】
b=b +b +b +b+b …(3)
=b43+b42+b41t+b40
=b33+b32+b31t+b30
=b23+b22+b21t+b20
=b13+b12+b11t+b10
=b03+b02+b01t+b00
【0053】
また、係数aを下記表3にまとめて示す。
【0054】
【表3】
【0055】
また、P≦20MPaのときの係数bを下記表4にまとめて示す。
【0056】
【表4】
【0057】
さらに、P≧20MPaのときの係数bを下記表5にまとめて示す。
【0058】
【表5】
【0059】
車載タンクの容積は、上記式(1)を変形することによって、下記(4)として求められる。
V=(ΔP/a)1/b …(4)
【0060】
係数a,bは、上記式(2),(3)に示す初期圧力値Pと気温tとの相関式から算出される。圧力上昇値ΔPは、初期圧力値Pの測定後に所定量の水素充填を行うことにより求められる。したがって、この式(4)により、車載タンク3の容積を推定することが可能である。
【0061】
なお、本実施形態では、容積推定ステップS2において、所定量として30gの水素を供給した場合を例示しているが、容積推定ステップS2における供給される水素の所定量については適宜変更することが可能である。その場合、上記と同様の方法を用いて、所定量における圧力上昇テーブルを作成した後、上記式(2),(3)を作成し、係数a及び係数bを算出し、上記式(4)に代入することによって、車載タンク3の容積Vを推定することが可能である。
【0062】
本実施形態の水素充填方法は、図2に示すように、上述した初期圧力測定ステップS1及び容積推定ステップS2の他にも、上記容積推定ステップS2の後に、車載タンク3の容積に応じた充填条件を設定する充填条件設定ステップS3と、車載タンク3の容積に応じた充填条件で車載タンク3に水素を充填する水素充填ステップS4とを含む。すなわち、この水素充填方法は、初期圧力測定ステップS1と、容積推定ステップS2と、充填条件設定ステップS3と、水素充填ステップS4とを、この順で実行するものである。
【0063】
本実施形態の水素充填システム1は、このような水素充填方法を実行するため、上記容積推定ステップS2において車載タンク3の容積を推定した後に、充填条件設定ステップS3において車載タンク3の容積に応じた充填条件を設定する。
【0064】
具体的に、充填条件設定ステップS3では、上記容積推定ステップS2において推定された車載タンク3の容積に基づいて、容積推定ステップS2後の圧力から、最終充填圧力(ターゲット圧力)と、気温から昇圧減圧率(充填スピード)とを設定して、車載タンク3に対する最適な充填条件を設定する。
【0065】
その後、水素充填ステップS4において、充填条件設定ステップS3において設定された充填条件に基づいて、ディスペンサ16において車載タンク3への水素の充填を開始し、最終充填圧力まで水素の充填を行う。
【0066】
一方、充填条件設定ステップS3については、上述した容積推定ステップS2と水素充填ステップS4との間で実施することが好ましいものの、容積推定ステップS2の前に実施することも可能である。
【0067】
具体的には、上述した初期圧力測定ステップS1と容積推定ステップS2との間で充填条件設定ステップS3を実施し、初期圧力測定ステップS1後の圧力から、最終充填圧力(ターゲット圧力)と、気温から昇圧減圧率(充填スピード)とを設定して、車載タンク3に対する最適な充填条件を設定する。
【0068】
容積推定ステップS2の前に充填条件設定ステップS3を実施した場合、ディスペンサ16は、充填条件設定ステップS3において予め設定された車載タンク3の容積と、容積推定ステップS2において推定された車載タンク3の容積とが不一致となる場合において、水素充填ステップS4の実行を停止する制御を行う。すなわち、車載タンク3への水素の充填を停止する。
【0069】
また、ディスペンサ16は、予め設定された車載タンク3の容積と、推定された車載タンク3の容積とが不一致であることを通知する。具体的な通知方法については、特に限定されないものの、例えば、ディスペンサ16の表示パネルにその旨を表示したり、ディスペンサ16のスピーカから音声等でその旨を通知したりすることが可能である。
【0070】
これにより、ディスペンサ16において、車両2の充填条件とは異なる設定を誤って選択したこと確認することが可能である。また、車両2の充填条件とは異なる設定で水素の充填を行うことを防止することが可能である。
【0071】
一方、ディスペンサ16は、予め設定された車載タンク3の容積と、推定された車載タンク3の容積とが不一致となる場合において、推定された車載タンク3の容積に応じた充填条件に設定を切り替えた後に、車載タンク3への水素の充填を開始してもよい。
【0072】
この場合、車両2に搭載された車載タンク3に応じた充填条件の設定を適切に行うことによって、ディスペンサ16により供給される水素を車両2に搭載された車載タンク3に適切に充填することが可能である。
【0073】
以上のように、本実施形態の水素充填システム1では、上述した水素充填方法を用いて、車両2に搭載された車載タンク3の容積を推定することが可能なことから、車両2に搭載された車載タンク3に応じた充填条件の設定を行うことによって、ディスペンサ16により供給される水素を車両2に搭載された車載タンク3に適切に充填することが可能である。
【0074】
また、本実施形態の水素充填システム1では、車両2に搭載された車載タンク3とは充填条件が異なる設定を誤って選択してしまうことを防止し、上述した過充填の発生を防止することが可能である。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記容積推定ステップS2では、上述した車載タンク3の容積と関連付けられた特性条件として、車載タンク3の温度(気温)を用いているが、それ以外の特性条件を用いて、初期圧力値P及び圧力上昇値ΔPと、車載タンク3の容積と関連付けられた特性条件との相関を示す相関データを算出することも可能である。
【0076】
また、上記容積推定ステップS2では、上述した容積推定方法を用いて、車載タンク3の容積を推定する場合を例示しているが、例えば、ディスペンサ16と車両2とが通信可能な場合には、車両2側から送信されるデータに基づいて、車載タンク3の容積を推定するなど、別の方法を用いることも可能である。
【0077】
また、上記充填条件設定ステップS3では、車両2とディスペンサ16とが通信することによって、車載タンク3の容積や残ガス量などの情報を取得することが可能であるが、これらの情報を取得できる場合でも、情報の信頼性を確認する観点から、上記初期圧力測定ステップS1を実施し、初期圧力値Pを測定することが一般的である。
【0078】
また、車両2と通信できない場合(車両2が通信手段を有していない場合も含む。)や車両2との通信状況にエラー等が生じ、正しい車載タンク3に関する情報が得られない場合は、車載タンク3に対して適切な充填条件を設定することができない。
【0079】
これに対して、本発明では、上記容積推定ステップS2を実施することによって、車載タンク3の容積を推定し、最適な充填条件を設定することが可能である。さらに、車両2との通信が良好であり、上記容積推定ステップS2を実施する必要がない場合でも、上記容積推定ステップS2を実施することによって、予め設定された水素の充填条件が最適であるか否かの判別を行うことができ、その信頼性をより高めることが可能である。
【実施例
【0080】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0081】
本実施例では、実際の水素ステーション(水素充填システム)において、ディスペンサにより供給される水素をFCV(車両)に搭載された車載タンク(容積:122.4L)に充填する際に、この車載タンクの容積を推定する試験を行った。
【0082】
本試験では、先ず、ディスペンサから車載タンクへと水素を供給しながら、車載タンクに充填される水素の初期圧力値Pを測定した。そして、水素の供給を一旦停止した後、ディスペンサから車載タンクへと30gの水素を供給したときの圧力上昇値ΔPを測定した。その後、上記式(4)に基づいて、車載タンクの容積を推定した。また、充填後の車載タンクの圧力と、容積の推定値との関係を測定した結果を図3に示す。なお、このときの車載タンクの温度(気温)は6~11℃であった。
【0083】
図3に示すように、容積の推定値は、何れもFCVとは異なるFCトラック、FCバス、FCフォークリフトなどに搭載される車載タンクの容積とは一致しておらず、容積の推定値の平均値は、FCVに搭載された車載タンクの容積と近い値を示した。
【0084】
これにより、水素ステーションでは、FCVに搭載された車載タンクの容積を推定することができた。また、推定された車載タンクの容積に基づいて、容積推定後の圧力から、最終充填圧力(ターゲット圧力)と、気温から昇圧減圧率(充填スピード)とを設定して、最適な充填方法を決定した。その結果、FCVの車載タンクに対して適切な充填方法により水素を充填することができた。
【0085】
したがって、FCVに搭載された車載タンクに応じた充填条件の設定を行うことによって、ディスペンサにより供給される水素をFCVに搭載された車載タンクに適切に充填することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…水素充填システム 2…車両 3…車載タンク 4…レセプタクル 11(11-1~11-N)…枝管 12…供給配管 13…調節弁 14…遮断弁 15…圧力計 16…ディスペンサ 17…ノズル 18…ホース 19…プレクーラ 20(20-1~20-N)…蓄圧器 21(21-1~21-N)…圧力計 22(22-1~22-N)…遮断弁 23…温度計 30…制御装置 40…圧力測定部 50…温度測定部 60…容積推定部
図1
図2
図3