(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】太陽光発電システム分布推定装置、太陽光発電システム分布推定方法及び太陽光発電出力予測装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230406BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230406BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
H02J3/00 170
G06Q50/06
H02J3/38 130
(21)【出願番号】P 2018152396
(22)【出願日】2018-08-13
【審査請求日】2021-06-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比護 貴之
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-142790(JP,A)
【文献】特開2016-197948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-10/10
G06Q 30/00-30/08
G06Q 50/00-50/20
G06Q 50/26-99/00
G16Z 99/00
H01L 31/04-31/06
H02J 3/00-5/00
H02J 13/00
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の太陽光発電システムが配置された所定地域における、実際に需要家が消費した需要である真の需要を表す真の需要の回帰モデルを、気温に応じた第1の回帰係数及び曜日に応じた第2の回帰係数を用いて生成する第1生成部と、
複数の前記太陽光発電システムのPV出力を表すPV出力の回帰モデルを、システム出力係数を表す
回帰係数であり、日時に依らず共通、又は、特定時間毎に共通の第3の回帰係数を用いて生成する第2生成部と、
前記太陽光発電システム以外の発電機による前記所定地域における発電量を求める発電量取得部と、
前記真の需要の回帰モデル、前記PV出力の回帰モデル及び前記発電量を基に、前記第3の回帰係数が0以上且つ前記所定地域の各地点における前記第3の回帰係数の合計が所定値以下となる制約を設けて、前記第1の回帰係数、前記第2の回帰係数及び前記第3の回帰係数を調整することで、前記所定地域の各地点における前記システム出力係数を算出し、前記所定地域における前記システム出力係数の分布を推定する推定部と
を備えたことを特徴とする太陽光発電システム分布推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記PV出力と前記発電量との加算結果と前記真の需要との差が最小となるように前記システム出力係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の太陽光発電システム分布推定装置。
【請求項3】
複数の太陽光発電システムが配置された所定地域における、実際に需要家が消費した需要である真の需要を表す真の需要の回帰モデルを、気温に応じた第1の回帰係数及び曜日に応じた第2の回帰係数を用いて生成し、
複数の前記太陽光発電システムのPV出力を表すPV出力の回帰モデルを、システム出力係数を表す
回帰係数であり、日時に依らず共通、又は、特定の期間毎に共通の第3の回帰係数を用いて生成し、
前記太陽光発電システム以外の発電機による前記所定地域における発電量を求め、
前記真の需要の回帰モデル、前記PV出力の回帰モデル及び前記発電量を基に、前記第3の回帰係数が0以上且つ前記所定地域の各地点における前記第3の回帰係数の合計が所定値以下となる制約を設けて、前記第1の回帰係数、前記第2の回帰係数及び前記第3の回帰係数を調整することで、前記所定地域の各地点における前記システム出力係数を算出し、
算出された前記システム出力係数を基に、前記所定地域における前記システム出力係数の分布を推定する
ことを特徴とする太陽光発電システムの分布推定方法。
【請求項4】
複数の太陽光発電システムが配置された所定地域における、実際に需要家が消費した需要である真の需要を表す真の需要の回帰モデルを、気温に応じた第1の回帰係数及び曜日に応じた第2の回帰係数を用いて生成し、
複数の前記太陽光発電システムのPV出力を表すPV出力の回帰モデルを、システム出力係数を表す
回帰係数であり、日時に依らず共通、又は、特定の期間毎に共通の第3の回帰係数を用いて生成し、
前記太陽光発電システム以外の発電機による前記所定地域における発電量を求め、
前記真の需要の回帰モデル、前記PV出力の回帰モデル及び前記発電量を基に、前記第3の回帰係数が0以上且つ前記所定地域の各地点における前記第3の回帰係数の合計が所定値以下となる制約を設けて、前記第1の回帰係数、前記第2の回帰係数及び前記第3の回帰係数を調整することで、前記所定地域の各地点における前記システム出力係数を算出し、
算出された前記システム出力係数を基に、前記所定地域における前記システム出力係数の分布を推定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする太陽光発電システムの分布推定方法。
【請求項5】
複数の太陽光発電システムが配置された所定地域における、実際に需要家が消費した需要である真の需要を表す真の需要の回帰モデルを、気温に応じた第1の回帰係数及び曜日に応じた第2の回帰係数を用いて生成する第1生成部と、
複数の前記太陽光発電システムのPV出力を表すPV出力の回帰モデルを、システム出力係数を表す
回帰係数であり、日時に依らず共通、又は、特定の期間毎に共通の第3の回帰係数を用いて生成する第2生成部と、
前記太陽光発電システム以外の発電機による前記所定地域における発電量を求める発電力取得部と、
前記真の需要の回帰モデル、前記PV出力の回帰モデル及び前記発電量を基に、前記第3の回帰係数が0以上且つ前記所定地域の各地点における前記第3の回帰係数の合計が所定値以下となる制約を設けて、前記第1の回帰係数、前記第2の回帰係数及び前記第3の回帰係数を調整することで、前記所定地域の各地点における前記システム出力係数を算出し、前記所定地域における前記システム出力係数の分布を推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記所定地域における前記システム出力係数の分布を基に、前記所定地域におけるPV出力予測値を算出するPV出力予測部と
を備えたことを特徴とする太陽光発電出力予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電システム分布推定装置、太陽光発電システム分布推定方法及び太陽光発電出力予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素社会の実現やエネルギーの効率的な利用に向け、太陽光発電(PV:Photovoltaic)は、クリーンなエネルギーとして注目されている。このことから、地球環境負荷低減に向けて太陽光発電システムの導入拡大が見込まれる。
【0003】
一般に、太陽光発電システムは、連系された電力系統に対して、天候条件によって変動する発電量をそのまま出力する。そのため、太陽光発電システムの規模が大きくなると、発電電力変動にともない、電力系統が不安定となるおそれがある。以下では、太陽光発電システムの出力をPV出力という。従来、PV出力を事前に予測し、予測値を用いて需要制御を行い、太陽光発電システムが連系される電力系統全体の安定化を図ることが行われている。
【0004】
そして、近年、太陽光発電(PV:Photovoltaic)システムの出力変動を事前に予測するために、数時間先から翌日、あるいは週間の日射強度の予測技術が整備されつつある。一般的に用いられる日射予測値の空間解像度は1km程度と高い。このような空間解像度の高い日射データからある地域における太陽光発電システムの出力を予測する場合、システム出力係数の空間分布を利用した「ある地域のPV出力=Σiシステム出力係数i×日射i」といった式が用いられる。ここで、iは地点を表す添え字であり、日射iは地点iの日射強度を表す。日射強度の単位は、w/m2である。システム出力係数の空間分布とは、予測対象の地域内の各地点でのシステム出力係数である。
【0005】
システム出力係数とは、PV出力=システム出力係数×日射と表される係数であり、ある地点に設置された太陽光発電システムの容量と、その発電効率とを反映した値である。システム出力係数は、太陽光発電システムの性能を示す指標として用いられる。この計算で使用する各地点でのシステム出力係数の値を知るには、各地点に設置された太陽光発電システム毎にPV出力を計測することが好ましい。
【0006】
なお、太陽光発電システムの発電量を予測する技術として、現在発電量から算出した現在傾斜面日射量及び推定遮蔽率を用いて設置地域の気象統計データに基づいて予測遮蔽率を算出して最終的に発電量の予測値を算出する従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、1kmといった高い空間解像度で各地点におけるシステム出力係数のデータを直接計測器から取得するには、膨大なコストを要する。
【0009】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、低コストで太陽光発電システムの空間分布の推定精度を向上させる太陽光発電システム分布推定装置、太陽光発電システム分布推定方法、太陽光発電システム分布推定プログラム及び太陽光発電出力予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の開示する太陽光発電システム分布推定装置、太陽光発電システム分布推定方法、太陽光発電システム分布推定プログラム及び太陽光発電出力予測装置は、一つの態様において、以下の各部を備える。第1生成部は、複数の太陽光発電システムが配置された所定地域における、実際に需要家が消費した需要である真の需要を表す真の需要回帰モデルを、気温に応じた第1の回帰係数及び曜日に応じた第2の回帰係数を用いて生成する。第2生成部は、複数の前記太陽光発電システムのPV出力を表すPV出力回帰モデルを、システム出力係数を表す回帰係数であり、日時に依らず共通、又は、特定の期間毎に共通の第3の回帰係数を用いて生成する。発電量取得部は、前記太陽光発電システム以外の発電機による前記所定地域における発電量を求める。推定部は、前記真の需要回帰モデル、前記PV出力回帰モデル及び前記発電量を基に、前記第3の回帰係数が0以上且つ前記所定地域の各地点における前記第3の回帰係数の合計が所定値以下となる制約を設けて、前記第1の回帰係数、前記第2の回帰係数及び前記第3の回帰係数を調整することで、前記所定地域の各地点における前記システム出力係数を算出し、前記所定地域における前記システム出力係数の分布を推定する。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、本発明は、低コストで太陽光発電システムの空間分布の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、太陽光発電システム分布推定装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、太陽光発電システムの分布を推定の対象とする対象地域を説明するための図である。
【
図3】
図3は、気温データに対応付けられた情報を表す図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る太陽光発電システム分布推定装置によるシステム出力係数の空間分布の推定処理のフローチャートである。
【
図5】
図5は、交差検証法を用いたλ
PVの決定手順の概念図である。
【
図6】
図6は、過去データの学習データ及びテストデータへの分割方法を表す図である。
【
図7】
図7は、対象地域における予め想定したシステム出力係数の分布を表す図である。
【
図8】
図8は、実施例1に係る太陽光発電システム分布装置により推定された対象地域におけるシステム出力係数の分布を表す図である。
【
図9】
図9は、PV出力の推定値と、PV出力の真値及び真の需要の関係を表す図である。
【
図10】
図10は、目的関数を最小化する計算を高速化する処理のフローチャートである。
【
図11】
図11は、目的関数を最小化する計算を高速化する計算方法の概要を説明するための図である。
【
図12】
図12は、実施例4に係る太陽光発電出力予測装置のブロック図である。
【
図13】
図13は、太陽光発電システム分布推定装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本願の開示する太陽光発電システム分布推定装置、太陽光発電システム分布推定方法、太陽光発電システム分布推定プログラム及び太陽光発電出力予測装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する太陽光発電システム分布推定装置、太陽光発電システム分布推定方法、太陽光発電システム分布推定プログラム及び太陽光発電出力予測装置が限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は、太陽光発電システム分布推定装置のブロック図である。太陽光発電システム分布推定装置100は、
図1に示すように、データ格納部101、真の需要回帰モデル生成部102、PV出力回帰モデル生成部103、残余需要取得部104、システム出力係数算出部105、分布推定部106及び報知部107を有する。
【0015】
データ格納部101は、太陽光発電システムの分布を推定の対象とする対象地域における気温や日射強度を含む過去の特定の日時での過去データを格納する。この対象地域が、「所定地域」の一例にあたる。太陽光発電システムの分布を推定の対象とする対象地域は、例えば、
図2に示す地域P0で表される。
図2は、太陽光発電システムの分布を推定の対象とする対象地域を説明するための図である。
【0016】
図2に示ように、地域P0は、日射データの空間解像度に合わせた各地点に分割される。例えば、地域P0は、1辺が1kmの領域である地点P1に分割される。地域P1は、それぞれにおける日射データの取得が可能である。すなわち、この場合の日射データの空間解像度は、1kmである。地域P0が100km×100kmの範囲であれば、地域P0は、10000個の地点P1に分割される。以下では、対象地域である地域P0に含まれる地域P1の総数をK個とし、各地域P1の位置を地点k(k=1,・・・,K)として表す。
【0017】
データ格納部101は、対象地域の代表地点における過去の気温及び各地点kにおける過去の日射強度を含む過去データを格納する。データ格納部101は、複数の過去データを各過去データが計測された日時に対応させて保持する。
【0018】
さらに、データ格納部101は、各日時における対象地域に対して太陽光発電システム以外の発電機から供給された電力の計測値を格納する。太陽光発電システム以外の発電機とは、例えば、風力、水力、火力及び原子力などを用いた発電機である。
【0019】
真の需要回帰モデル生成部102は、過去データをデータ格納部101から取得する。そして、真の需要回帰モデル生成部102は、過去データそれぞれに通し番号を振る。例えば、真の需要回帰モデル生成部102は、日時の古い順に通し番号を振る。以下では、過去データに振った通し番号をi(i=1,2,・・・)とする。
【0020】
さらに、真の需要回帰モデル生成部102は、各過去データの日時から季節及び時間帯の情報を取得する。また、真の需要回帰モデル生成部102は、過去データの日時から過去データが取得された曜日を求める。そして、真の需要回帰モデル生成部102は、
図3の表201に示すように、過去データに含まれる気温データと、日時、通し番号、季節、時間帯及び曜日とを対応付ける。
図3は、気温データに対応付けられた情報を表す図である。表201では、通し番号が22、30及び234に対応する情報を記載し、その他の番号に対応する情報の表記は省略した。
【0021】
表201では、季節を表す記号をmとし、時間帯を表す記号をhとした。本実施例では、真の需要回帰モデル生成部102は、12ヶ月表記を用いて季節を表し、24時間表記を用いて時間帯を表す。さらに、表201に示すように、真の需要回帰モデル生成部102は、気温データを説明変数X気温とする。さらに、真の需要回帰モデル生成部102は、各気温データの曜日を表すデータを付加する。ここでは、真の需要回帰モデル生成部102は、説明変数X曜日wの値により各日付の曜日を表す。説明変数X曜日wにおけるWは曜日変数であり、W=1~7のそれぞれが月曜日~日曜日にあたる。例えば、過去データが取得された曜日が月曜日であれば、真の需要回帰モデル生成部102は、説明変数X曜日
1を1とし、説明変数X曜日
2~X曜日
7を0とする。
【0022】
次に、真の需要回帰モデル生成部102は、気温データ201に含まれる情報を用いて、例えば、次の数式(1)で表される真の需要の回帰モデルを生成する。
【0023】
【0024】
ここで、真の需要iは、i番目の過去データが収集された日時における真の需要である。そして、miは、i番目の過去データの季節を表す。また、hiは、i番目の過去データの時間帯を表す。βは回帰係数を表し、その中でも回帰係数β気温
mi,hiは季節miの時間帯hiにおける気温の回帰係数を表し、回帰係数β曜日
mi,hiは季節miの時間帯hiにおける曜日wの回帰係数を表す。回帰係数β気温
mi,hiが、「第1の回帰係数」の一例にあたる。また、回帰係数β曜日
mi,hiが、「第2の回帰係数」の一例にあたる。さらに、説明変数X気温
iは、i番目の過去データにおける気温を表す。また、説明変数X曜日
i,wは、i番目の過去データにおける曜日を表す。すなわち、説明変数X曜日
i,wは、i番目の過去データにおける曜日が月曜であれば、X曜日
i,1は1であり、X曜日
i,2~X曜日
i,7は0のダミー変数(カテゴリカル変数)となる。
【0025】
ここで、本実施例では、真の需要回帰モデル生成部102は、気温及び曜日を考慮して真の需要の回帰モデルを作成したが、需要に影響を与える要因であれば他の情報を用いてもよい。例えば、真の需要回帰モデル生成部102は、真の需要の回帰モデルに、休日や祝日を考慮するための説明変数や、気温を2乗した説明変数などを用いてもよい。他にも、真の需要回帰モデル生成部102は、需要予測研究において提案される他の様々な需要の回帰モデルを用いることもできる。この真の需要回帰モデル生成部102が、「第1生成部」の一例にあたる。
【0026】
PV出力回帰モデル生成部103は、過去データをデータ格納部101から取得する。次に、PV出力回帰モデル生成部103は、真の需要回帰モデル生成部102と同様のアルゴリズムで過去データそれぞれに通し番号を振る。すなわち、真の需要回帰モデル生成部102及びPV出力回帰モデル生成部103は、過去データの日時に関して同じ番号であるiを振る。ここで、本実施例では、真の需要回帰モデル生成部102及びPV出力回帰モデル生成部103のそれぞれが、番号を振ったが、例えば、一方が振った番号を他方が取得してもよいし、データ格納部101に格納された時点で、各過去データに番号を振ってもよい。その後、データ格納部101は、過去データから過去の地点kのそれぞれにおける日射強度を取得する。
【0027】
次に、PV出力回帰モデル生成部103は、取得した日射強度を用いて、例えば、次の数式(2)で表される真のPV出力の回帰モデルを生成する。
【0028】
【0029】
ここで、kは、上述したように対象地域における各地点を表す添え字である。そして、説明変数X日射
i,kは、i番目の過去データにおける地点kの日射強度である。また、回帰係数βPV
kは、地点kにおけるシステム出力を表す。この回帰係数βPV
kが、「第3の回帰係数」の一例にあたる。補正i,kは、地点kにおける太陽光発電システムの気温による発電効率が変化や経年劣化によりi番目の過去データ補正するための定数である。太陽光発電システムの気温による発電効率が変化や経年劣化を考慮しない場合、PV出力回帰モデル生成部103は、補正i,k=1とする。Kは上述したように、対象地域における日射データを取得した地点kの総数を表す。
【0030】
なお、日射強度を観測する地点は限られるが、衛星画像などを用いることで、PV出力回帰モデル生成部103は、1kmなどの高解像度で日射実績の推定値を計算できる。そこで、PV出力回帰モデル生成部103は、地点kの全てにおいて日射強度の観測が行われない場合、日射強度の説明変数には日射観測値に加えて算出した推定値を用いる。
【0031】
ここで、PV出力回帰モデル生成部103が生成するPV出力の回帰モデルは、回帰係数βPV
kが日時iに依らずに共通する。これは以下の理由による。日射データの空間解像度が高いため、過去データの数に比べてKが大きな値となり、回帰係数βPV
kの推定のための過去データの数が十分ではない状態となる。そこで、少ない過去データからでも高精度に推定するために、時間帯や季節に対して回帰係数βPV
kを共通化することで、推定精度を向上させた。ここで、本実施例におけるPV出力の回帰モデルは、全ての時間帯及び季節に対して回帰係数βPV
kを共通化したが、共通化の範囲はこれに限らず、例えば、特定の時間帯及び季節に対して回帰係数βPV
kを共通化してもよい。このPV出力回帰モデル生成部103が、「第2生成部」の一例にあたる。
【0032】
残余需要取得部104は、各日時における対象地域に対して太陽光発電システム以外の発電機から供給された電力の計測値をデータ格納部101から取得する。そして、残余需要取得部104は、各日時における各発電機から供給された電力の計測値を合計して、真の需要からPV出力を除いた需要のおおよその値にあたる残余需要を算出する。この残余需要取得部104が、「発電量取得部」の一例にあたる。そして、残余需要が、「発電量」の一例にあたる。
【0033】
システム出力係数算出部105は、真の需要の回帰モデルを真の需要回帰モデル生成部102から取得する。また、システム出力係数算出部105は、PV出力の回帰モデルをPV出力回帰モデル生成部103から取得する。さらに、システム出力係数算出部105は、各過去データを取得した日時に対応する残余需要の情報を残余需要取得部104から取得する。
【0034】
そして、システム出力係数算出部105は、次の数式(3)で表される目的関数を生成する。
【0035】
【0036】
ここで、回帰モデルの誤差は、真の需要と、PV出力と残余需要との合計との差であり、真の需要からPV出力と残余需要との合計を減算した値の絶対値で表される。すなわち、回帰モデルの誤差は、次の数式(4)で表される。
【0037】
【0038】
そして、システム出力係数算出部105は、数式(3)で表される目的関数を最小化するように回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを決定する。すなわち、システム出力係数算出部105は、数式(4)で表される回帰モデルの誤差を最小化するように回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを決定する。この場合、目的関数の最小化は線形計画問題となるので、システム出力係数算出部105は、線形計画ソルバを用いることで、厳密解を求めることができる。
【0039】
次に、システム出力係数算出部105は、決定した回帰係数βPV
kを各地点kにおけるシステム出力係数とする。その後、システム出力係数算出部105は、各地点kにおけるシステム出力係数を分布推定部106へ出力する。
【0040】
分布推定部106は、各地点kにおけるシステム出力係数の入力をシステム出力係数算出部105から受ける。そして、分布推定部106は、算出したシステム出力係数を対象地域の各地点kに配置して、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布を求める。ここで、対象地域上に配置されたシステム出力係数は、対象地域における太陽光発電システムの配置位置及び各太陽光発電システムのPV出力を表すということもできる。分布推定部106は、求めた対象地域におけるシステム出力係数の空間分布の情報を報知部107へ出力する。このシステム出力係数算出部105及び分布推定部106が、「推定部」の一例にあたる。
【0041】
報知部107は、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布の情報の入力を分布推定部016から受ける。そして、報知部107は、発電所などの電力事業者へメッセージを送るなどして、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布を報知する。
【0042】
電気事業者は、太陽光発電システム分布推定装置100から取得した対象地域におけるシステム出力係数の空間分布の情報を用いて、対象地域における数時間先から翌日、あるいは1週間先といった将来の日射予測値を対象地域におけるPV出力へ変換しPV出力予測値を求める。そして、電気事業者は、求めたPV出力予測値にしたがって、火力発電機などの各発電機及び揚水発電機などのエネルギー貯蔵施設を適切に制御することで、電力系統の経済的な運用を実現することができる。
【0043】
次に、
図4を参照して、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置100によるシステム出力係数の空間分布の推定処理の流れについて説明する。
図4は、実施例1に係る太陽光発電システム分布推定装置によるシステム出力係数の空間分布の推定処理のフローチャートである。
【0044】
真の需要回帰モデル生成部102は、過去データに含まれる気温データをデータ格納部101から取得する。次に、真の需要回帰モデル生成部102は、気温データに含まれる情報を用いて、数式(1)で表される真の需要の回帰モデルを生成する(ステップS11)。
【0045】
PV出力回帰モデル生成部103は、過去データに含まれる日射強度をデータ格納部101から取得する。次に、PV出力回帰モデル生成部103は、取得した日射強度を用いて、次の数式(2)で表されるPV出力の回帰モデルを生成する(ステップS12)。
【0046】
残余需要取得部104は、各日時における対象地域に対して太陽光発電システム以外の発電機から供給された電力の計測値をデータ格納部101から取得する。そして、残余需要取得部104は、各日時における各発電機から供給された電力の計測値を合計して残余需要を算出する(ステップS13)。
【0047】
システム出力係数算出部105は、真の需要の回帰モデルを真の需要回帰モデル生成部102から取得する。また、システム出力係数算出部105は、PV出力の回帰モデルをPV出力回帰モデル生成部103から取得する。さらに、システム出力係数算出部105は、各過去データを取得した日時に対応する残余需要の情報を残余需要取得部104から取得する。そして、システム出力係数算出部105は、数式(3)で表される目的関数を生成する(ステップS14)。
【0048】
次に、システム出力係数算出部105は、数式(3)で表される目的関数を最小化するように回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを決定する。次に、システム出力係数算出部105は、決定した回帰係数βPV
kを各地点kにおけるシステム出力係数とする(ステップS15)。その後、システム出力係数算出部105は、各地点kにおけるシステム出力係数を分布推定部106へ出力する。
【0049】
分布推定部106は、各地点kにおけるシステム出力係数の入力をシステム出力係数算出部105から受ける。そして、分布推定部106は、算出したシステム出力係数を対象地域の各地点kに配置して、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布を推定する(ステップS16)。分布推定部106は、求めた対象地域におけるシステム出力係数の空間分布の情報を報知部107へ出力する。
【0050】
報知部107は、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布の情報の入力を分布推定部016から受ける。そして、報知部107は、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布を電気事業者などへ報知する(ステップS17)。
【0051】
以上に説明したように、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置は、過去データを基に生成した真の需要の回帰モデル、PV出力の回帰モデル及び残余需要を用いて、回帰モデルの誤差が最小となる回帰係数を求め、その中のシステム出力係数にあたる回帰係数を用いて、システム出力係数の分布を推定する。これにより、高い空間解像度を有する日射データに合わせたシステム出力係数を測定設備を設けることなく、高い空間解像度を有するシステム出力係数のデータを取得することができる。すなわち、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置を用いることで、高い空間解像度を有するシステム出力係数の空間分布を低コストで精度よく推定できる。さらに、この推定結果を用いることで将来の日射予測値からPV出力予測値を算出でき、算出したPV出力予測値を基に発電機やエネルギー貯蔵装置を適切に制御することで、経済的な電力系統の運用を実現することができる。
【0052】
(変形例)
実施例1では、システム出力係数算出部105は、真の需要からPV出力と残余需要の合計を減算した値の絶対値を回帰モデルの誤差として用いた。しかし、回帰モデルの誤差は他の値を使用することも可能である。
【0053】
例えば、システム出力係数算出部105は、次の数式(5)で表される2乗誤差を回帰モデルの誤差として使用してもよい。
【0054】
【0055】
この場合、目的関数の最小化は二次計画問題となるため、システム出力係数算出部105は、二次計画ソルバを用いることで、厳密解を求めることができる。
【0056】
以上に説明したように、目的関数として2乗誤差を用いた場合にも、実施例1と同様に高い空間解像度を有するシステム出力係数の空間分布を低コストで精度よく推定することができる。
【実施例2】
【0057】
次に、実施例2について説明する。本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置は、回帰係数の推定精度を向上させるために、回帰係数に制約条件を課すことが実施例1と異なる。本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置も
図1のブロック図で表される。以下の説明では、実施例1と同様の各部の動作については説明を省略する。
【0058】
システム出力係数算出部105は、数式(3)で表される目的関数を用いて回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを決定する際に、回帰係数βPV
kに次の制約条件を課す。
【0059】
まず、第1の制約条件として、システム出力係数算出部105は、PV出力が必ず正の値を取ることから、回帰係数βPV
kが0以上(0≦βPV
k)という制約条件を課す。
【0060】
また、第2の制約条件として、システム出力係数算出部105は、エリア全体のシステム出力係数について上限値λPVを指定する。言い換えれば、システム出力係数算出部105は、対象地域の各地点におけるシステム出力係数の合計が、所定値である上限値λPV以下のとなるように制約を設ける。すなわち、システム出力係数算出部105は、次の数式(6)を第2の制約条件とする。
【0061】
【0062】
ここで、システム出力係数算出部105は、過去データに基づき交差検証法(交差検定法)でλ
PVを決定する。以下で、交差検証法によるλ
PVの決定方法を具体的に説明する。
図5は、交差検証法を用いたλ
PVの決定手順の概念図である。
【0063】
まず、システム出力係数算出部105は、λPVの候補値を複数決める(ステップS101)。例えば、システム出力係数算出部105は、100個程度のλPVの候補値を決定する。
【0064】
次に、システム出力係数算出部105は、過去データをデータ格納部101から取得する。そして、システム出力係数算出部105は、過去データを学習データとテストデータとに分割する(ステップS102)。システム出力係数算出部105は、例えば、
図6の分割データ301のように分割する。分割データ301の全体は、過去データ全体にあたる。
図6は、過去データの学習データ及びテストデータへの分割方法を表す図である。
【0065】
次に、システム出力係数算出部105は、分割データに含まれる学習データに対して回帰モデルの誤差を最小化するように回帰モデルのフィッティングを行い、回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを含む回帰係数βを決める(ステップS103)。
【0066】
次に、システム出力係数算出部105は、算出した回帰係数βのテストデータに対する回帰モデルの誤差を、λPVの候補値の評価値とする(ステップS104)。
【0067】
システム出力係数算出部105は、過去データの分割状態を、例えば
図6の分割データ302及び303のように順次変更して、ステップS101~S104によるλ
PVの候補値の評価を複数回行う。そして、システム出力係数算出部105は、得られた複数の評価値の平均値をλ
PVの各候補値の評価値とする。その後、システム出力係数算出部105は、評価値が最良となる候補値をエリア全体のシステム出力係数について上限値λ
PVとする。
【0068】
その後、システム出力係数算出部105は、第1の制約条件及び算出した値を上限値λPVとした第2の制約条件を用いて、数式(3)で表される目的関数を最小化する回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを決定する。
【0069】
ここで、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置100によるシステム出力係数の推定の精度について説明する。ここでは、日射実績データとして、衛星画像に基づく関東地域の日射実績の推定値を用いた。日射実績は1時間平均の日射強度とする。真の需要データは、東京電力予報データを用いた。気温実績は、気象庁がウェブで公開する東京地点の物を用いた。なお、2016年4月1日から2017年2月31日までの期間のうち、9~15時のデータを使用した。
【0070】
さらに、対象地域は、関東地域の中心付近の東西140km、南北140kmの範囲とした場合で説明する。この範囲で、ランダムに10地点を選択し、そこに太陽光発電システムが設置されたと仮定する。この10地点のシステム出力係数の値は同じで、且つ、対象期間の各時間帯において全PV出力が真の需要を超えない範囲で最も大きな値として、10地点のシステム出力係数を2796kW/W/m2と設定した。それ以外の地点はシステム出力係数をゼロとする。想定したシステム出力係数と日射実績データからPV出力が想定され、真の需要から想定したPV出力を差し引くことで残余需要が想定される。
【0071】
以上のデータに対して、太陽光発電システム分布推定装置100のシステム出力係数算出部105は、真の需要及びPV出力の回帰モデルをフィッティングさせる。この際に、システム出力係数算出部105は、第1の制約条件及び第2の制約条件の双方を用いて目的関数の最小化を行う。特に、ここでは、システム出力係数算出部105は、第2の制約条件のλPVを交差検証法で求めて、λPV=3268kW/W/m2と決定した。
【0072】
図7は、対象地域における予め想定したシステム出力係数の分布を表す図である。また、
図8は、実施例1に係る太陽光発電システム分布装置により推定された対象地域におけるシステム出力係数の分布を表す図である。
図7及び8の縦軸は南北方向を表し、横軸は東西方向を表す。そして、
図7及び8は140km×140kmの対象範囲を表す。
図7及び8における黒い点がシステム出力係数を表す。言い換えれば、
図7及び8における黒い点は、その位置で特定の対象地域における太陽光発電システムの設置地点を表し、黒い点の濃淡が各太陽光発電システムのPV出力の大きさを表す。
【0073】
上述した条件での太陽光発電システム分布推定装置100による推定結果が、
図8で表される。
図7で表される対象地域における想定したシステム出力係数の分布と、
図8で表される対象地域における推定されたシステム出力係数の分布とは、点の位置及び濃淡において類似性が確認される。すなわち、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置100は、システム出力係数の分布を精度よく推定できているといえる。
【0074】
さらに、
図9を参照して、
図7及び8の対象地域全体のPV出力の推定値と、PV出力の真値及び真の需要の関係について説明する。
図9は、PV出力の推定値と、PV出力の真値及び真の需要の関係を表す図である。
図9は、縦軸で電力を表し、横軸で時刻を表す。
【0075】
図9におけるグラフ211は、対象地域全体のPV出力の推定値を表す。また、グラフ212は、対象地域全体のPV出力の真値を表す。また、グラフ213は、対象地域全体の真の需要を表す。グラフ211及び212に示すように、対象地域全体での変化を見ても、PV出力の推定値とPV出力の新値は、互いに類似し且つほぼ同じように変化している。また、
図9のグラフ213で示す真の需要と同様に、対象期間内での真の需要を取得し、全期間における13時のPV出力の推定誤差をMAPE(Mean Absolute Percentage Error)で評価したところ、16%となった。
【0076】
以上に説明したように、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置は、回帰係数βPV
kに対して制約条件を与えて、目的関数から回帰係数β気温
mi,hi、回帰係数β曜日
mi,hi及び回帰係数βPV
kを決定する。これにより、より回帰係数の推定精度が向上し、高い空間解像度を有するシステム出力係数の空間分布の推定精度をより向上させることができる。
【0077】
ここで、本実施例に係る太陽光発電システム分布装置は、第1の制約条件及び第2の制約条件の双方を用いて回帰係数βPV
kの決定を行ったが、システム出力係数の空間分布の推定において望む精度が得られるのであれば、いずれか一方の制約条件を用いて回帰係数βPV
kの決定を行ってもよい。
【0078】
また、本実施例では、システム出力係数算出部105がλPVを算出したが、λPVは、経験に基づき管理者が設定してもよい。
【実施例3】
【0079】
次に、実施例3について説明する。目的関数は、各地点kに応じた値を含む関数である。そのため、地点kの総数Kが大きくなると、目的関数を最小化する計算が長時間化する。そこで、本実施例に係る太陽光発電システムは、実施例1における目的関数の最小化計算を高速化してより短時間で近似解を求める。本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置も
図1のブロック図で表される。以下の説明では、実施例1と同様の各部の動作については説明を省略する。
図10は、目的関数を最小化する計算を高速化する処理のフローチャートである。
【0080】
システム出力係数算出部105は、各地点kについて回帰係数βPV
iの暫定値β’PV
iを初期化する(ステップS201)。暫定値β’PV
iはどのような値でもよく、例えば、システム出力係数算出部105は、暫定値β’PV
iを全て0とする。
【0081】
次に、システム出力係数算出部105は、1~Kの中から複数の数を選ぶ。例えば、システム出力係数算出部105は、1~Kの中から100個の数字をランダムに選択する。そして、システム出力係数算出部105は、選んだ数の集合を集合S1とする(ステップS202)。
【0082】
次に、システム出力係数算出部105は、暫定値β’PV
iが0でない添え字kの集合を集合S2とする(ステップS203)。
【0083】
次に、システム出力係数算出部105は、集合S1及びS2の和集合をSとする。そして、システム出力係数算出部105は、1~Kのうち和集合Sに含まれない数kについて、暫定値β’PV
iで回帰係数βPV
iを固定し、残りの回帰係数を、目的関数の最小化により決定する(ステップS204)。
【0084】
次に、システム出力係数算出部105は、回帰係数βPV
iのそれぞれの暫定値β’PV
iを、決定した回帰係数βPV
iの値に更新する(ステップS205)。
【0085】
次に、システム出力係数算出部105は、収束条件を満たすか否かを判定する(ステップS206)。収束条件とは、例えば、ステップS202~205を予め決められた回数繰り返すといった条件である。
【0086】
収束条件を満たさない場合(ステップS206:否定)、システム出力係数算出部105は、ステップS202へ戻る。
【0087】
これに対して、収束条件を満たす場合(ステップS206:肯定)、システム出力係数算出部105は、回帰係数βPV
iの値を、その時点でのそれぞれの暫定値β’PV
iに決定する(ステップS207)。
【0088】
ここで、
図11を参照して、本実施例においてシステム出力係数算出部105が実行する計算方法について説明する。
図11は、目的関数を最小化する計算を高速化する計算方法の概要を説明するための図である。実際の対象領域の各地点kの多くで、PV出力が発生しない。そこで、この計算方法は、回帰係数β
PV
iが多くのkについて0となることを利用した。
【0089】
システム出力係数算出部105は、例えば、回帰係数群401の中のゼロの値をとる一部の回帰係数β
PV
iを固定する。この固定された回帰係数β
PV
iは、
図11における集合S0にあたる。そして、システム出力係数算出部105は、固定した回帰係数β
PV
iである集合S0以外の回帰係数、すなわち、ゼロ以外の値を有する集合S2とゼロを含む所定数の集合S1との和集合Sの回帰係数を目的関数の最小化により決定する。これにより、回帰係数群402に示すように、集合S1と集合S2との和集合Sのうち、非ゼロの係数の一部がゼロになり、集合S1に含まれる係数の一部が非ゼロになる。システム出力係数算出部105は、ゼロとなる回帰係数β
PV
iを除外しつつ計算を繰り返す。すなわち、システム出力係数算出部105は、回帰係数群401のうちゼロの値を取る一部の回帰係数β
PV
iを固定し、固定された回帰係数β
PV
i以外の回帰係数β
PV
iを変化させて目的関数の最小化を行う処理を繰り返すことで、PV出力と発電量とを加算結果と真の需要との差が最小となるシステム出力係数を算出する。この場合、システム出力係数算出部105は、集合S1と集合S2の和集合Sに含まれる回帰係数β
PV
iを目的関数の最小化で変動させるため、全ての回帰係数β
PV
iを対象とする場合に比べて計算量を削減することができる。
【0090】
以上に説明したように、本実施例に係る太陽光発電システム分布推定装置は、目的関数を最小化する計算を高速化することができる。すなわち、システム出力係数の空間分布の推定を容易にすることができ、推定にかかる時間を短縮することができる。
【実施例4】
【0091】
図12は、実施例4に係る太陽光発電出力予測装置のブロック図である。本実施例に係る太陽光発電出力予測装置は、実施例1~3で求めたシステム出力係数の空間分布を用いて将来のPV出力を予測する。本実施例に係る太陽光発電出力予測装置110は、PV出力予測部108を有する。
図12における
図1と同様の符号を有する各部は同様の機能を有する。以下の説明では、実施例1と同様の各部の機能については説明を省略する。
【0092】
PV出力予測部108は、対象地域におけるシステム出力係数の空間分布の情報を分布推定部106から取得する。そして、PV出力予測部108は、外部の装置から、数時間先から翌日、あるいは1週間先までの対象地域の各地点kにおける日射予測データを取得する。次に、PV出力予測部108は、システム出力係数の空間分布の情報を用いて、取得した日射予測データをPV出力へ変換し、対象地域におけるPV予測値を算出する。そして、PV出力予測部108は、算出したPV予測値を、電気事業者などへ通知する。
【0093】
以上に説明したように、本実施例に係る太陽光発電出力予測装置は、過去データから対象地域におけるシステム出力係数の空間分布を推定し、推定したシステム出力係数の空間分布を用いて対象地域の将来のPV予測値を求める。電気事業者は、本実施例に係る太陽光発電出力予測装置が算出したPV予測値に応じて、発電機やエネルギー貯蔵装置を適切に制御することができる。このように、本実施例に係る太陽光発電出力予測装置は、電力系統の経済的な運用に寄与することができる。
【0094】
(ハードウェア構成)
図13は、太陽光発電システム分布推定装置のハードウェア構成図である。太陽光発電システム分布推定装置100は、例えば
図13に示すように、CPU(Central Processing Unit)91、メモリ92、ネットワークインタフェース93及びハードディスク94を有する。CPU91は、バスを介してメモリ92、ネットワークインタフェース93及びハードディスク94と接続される。
【0095】
ハードディスク94は、
図1に例示したデータ格納部101の機能を実現する。さらに、ハードディスク94は、
図1に例示した真の需要回帰モデル生成部102、PV出力回帰モデル生成部103、残余需要取得部104、システム出力係数算出部105、分布推定部106及び報知部107の機能を実現するためのプログラムを含む各種プログラムを格納する。
【0096】
CPU91は、ハードディスク94から各種プログラムを読み出し、メモリ92上に展開して実行する。これにより、CPU91は、
図1に例示した真の需要回帰モデル生成部102、PV出力回帰モデル生成部103、残余需要取得部104、システム出力係数算出部105、分布推定部106及び報知部107の機能を実現する。
【0097】
また、ネットワークインタフェース93は、外部の装置と通信を行うためのインタフェースである。報知部107による外部装置へのシステム出力係数の空間分布の情報の報知は、ネットワークインタフェース93を介して行われる。
【0098】
また、
図13では、太陽光発電システム分布推定装置100のハードウェア構成を記載したが、実施例4に係る太陽光発電出力予測装置110も同様のハードウェアにより実現することができる。その場合、ハードディスク94は、PV出力予測部108の機能を実現するためのプログラムを格納する。そして、CPU91は、ハードディスク94から各種プログラムを読み出し、メモリ92上に展開して実行する。これにより、CPU91は、
図12に例示した真の需要回帰モデル生成部102、PV出力回帰モデル生成部103、残余需要取得部104、システム出力係数算出部105、分布推定部106及びPV出力予測部108の機能を実現する。
【符号の説明】
【0099】
100 太陽光発電システム分布推定装置
101 データ格納部
102 真の需要回帰モデル生成部
103 PV出力回帰モデル生成部
104 残余需要取得部
105 システム出力係数算出部
106 分布推定部
107 報知部
108 PV出力予測部