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  • 特許-磁性部材用の難燃性粉末 図1
  • 特許-磁性部材用の難燃性粉末 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】磁性部材用の難燃性粉末
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20230406BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230406BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
H01F1/147 166
H05K9/00 M
H05K9/00 X
H01F1/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019007663
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020119932
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 滉大
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】越智 亮介
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-104765(JP,A)
【文献】特開2012-191192(JP,A)
【文献】特開2002-343618(JP,A)
【文献】特開2006-147959(JP,A)
【文献】特開2011-222897(JP,A)
【文献】特開2011-029678(JP,A)
【文献】国際公開第2008/020574(WO,A1)
【文献】特開2005-236219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147
H05K 9/00
H01F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の扁平粒子からなり、
これらの粒子の材質が、7質量%以上12質量%以下のSiを含有するFe-Si系合金であり、
上記合金におけるSiの質量含有率P(Si)と、下記数式(II)で算出される難燃性パラメータPNFとが、下記数式(I)を満たし、
その飽和磁束密度が1.3T以上である難燃性粉末。
(-0.97 × P(Si) + 13.0) < PNF≦ 10 (I)
NF= D50 × TD / ρ (II)
(上記数式(II)において、D50は上記粉末のメジアン径(μm)を表し、TDは上記粉末のタップ密度(g/cm)を表し、ρは上記粉末の真密度(g/cm)を表す。)
【請求項2】
基材ポリマーと、この基材ポリマーに分散しておりその飽和磁束密度が1.3T以上である難燃性粉末とを含んでおり、
上記難燃性粉末が、多数の扁平粒子からなり、
これらの粒子の材質が、7質量%以上12質量%以下のSiを含有し残部がFe及び不可避的不純物であるFe-Si系合金であり、
上記合金におけるSiの質量含有率P(Si)と、上記粉末における下記数式(II)で算出される難燃性パラメータPNFとが、下記数式(I)を満たす、磁性部材用のポリマー組成物。
(-0.97 × P(Si) + 13.0) < PNF≦ 10 (I)
NF= D50 × TD / ρ (II)
(上記数式(II)において、D50は上記粉末のメジアン径(μm)を表し、TDは上記粉末のタップ密度(g/cm)を表し、ρは上記粉末の真密度(g/cm)を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性部材用の難燃性粉末に関する。詳細には、電磁波吸収シート等の部材中に分散される粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、携帯電話機等の電子機器は、回路を有している。この回路に装着される電子部品から放射される電波ノイズに起因して、電子部品同士間の電波干渉、及び電子回路同士間の電波干渉が生じる。電波干渉は、電子機器の誤動作を招来する。誤作動の抑制の目的で、電子機器に電磁波吸収シートが挿入される。
【0003】
近年の情報通信では、通信速度の高速化が図られている。この高速通信には、高周波の電波が使用される。従って、高周波域での使用に適した電磁波吸収シートが、望まれている。
【0004】
電子部品の発熱は、電子機器の内部の昇温を招く。従って電磁波吸収シートには、難燃性が必要である。
【0005】
特開2001-332413公報には、金属粉末、難燃剤及び基材樹脂を含む複合磁性体が開示されている。金属粉末の材質は、Fe-Cr-Si合金である。
【0006】
特開2005-353686公報には、有機マトリクスと、このマトリクスに分散する粉末と、難燃剤とを含む電波吸収体が開示されている。粉末の材質は、Fe-Si-Cr系合金及びFe-Al-Si系合金である。
【0007】
特開2018-170330公報には、その材質がFe-Si-Cr系合金である磁性粉末、及びFe-Al-Si系合金である磁性粉末が開示されている。これらの粉末の粒子は、酸化皮膜を有する。この酸化皮膜は、難燃性に寄与しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-332413公報
【文献】特開2005-353686公報
【文献】特開2018-170330公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高周波域で磁性粉末が使用されると、磁性の共鳴現象によって透磁率が損なわれる。従ってこの粉末には、高い飽和磁束密度が要求される。従来の難燃性粉末の飽和磁束密度は、十分ではない。
【0010】
本発明の目的は、飽和磁束密度が高くかつ難燃性に優れた、磁性部材用粉末の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る磁性部材用の難燃性粉末は、多数の扁平粒子からなる。これらの粒子の材質は、7質量%以上12質量%以下のSiを含有するFe-Si系合金である。この合金におけるSiの質量含有率P(Si)と、下記数式(II)で算出される難燃性パラメータPNFとは、下記数式(I)を満たす。
(-0.97 × P(Si) + 13.0) < PNF≦ 10 (I)
NF= D50 × TD / ρ (II)
この数式(II)において、D50は粉末のメジアン径を表し、TDは粉末のタップ密度を表し、ρは粉末の真密度を表す。
【0012】
好ましくは、難燃性粉末の飽和磁束密度は、1.3T以上である。
【0013】
他の観点によれば、本発明に係る磁性部材用のポリマー組成物は、基材ポリマーと、この基材ポリマーに分散する難燃性粉末とを含む。この難燃性粉末は、多数の扁平粒子からなる。これらの粒子の材質は、7質量%以上12質量%以下のSiを含有するFe-Si系合金である。この合金におけるSiの質量含有率P(Si)と、粉末における下記数式(II)で算出される難燃性パラメータPNFとは、下記数式(I)を満たす。
(-0.97 × P(Si) + 13.0) < PNF≦ 10 (I)
NF= D50 × TD / ρ (II)
この数式(II)において、D50は粉末のメジアン径を表し、TDは粉末のタップ密度を表し、ρは粉末の真密度を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る粉末の飽和磁束密度は、大きい。しかもこの粉末は、難燃性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る難燃性粉末の粒子が示された模式的な断面図である。
図2図2は、難燃性粉末におけるSiの含有率と難燃性パラメータとの関係が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
[粒子形状]
本発明に係る難燃性粉末は、多数の粒子の集合である。図1に、1つの粒子の断面が示されている。図1において、符号Lで示されているのは粒子の長軸の長さであり、符号Tで示されているのは粒子の厚さである。長さLは、厚さTよりも大きい。換言すれば、この粒子は扁平である。
【0018】
この粉末のアスペクト比は、1.5以上100以下が好ましい。アスペクト比が1.5以上である粉末が用いられた磁性部材では、高周波域での実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ’’が十分大きい。この観点から、アスペクト比は5以上が特に好ましい。アスペクト比が100以下である粉末が用いられた磁性部材では、粉末同士が接触する箇所が抑制され、渦電流による損失が抑制される。この観点から、アスペクト比は80以下が特に好ましい。
【0019】
アスペクト比の測定には、扁平粉末の厚さ方向が観察できる樹脂埋め試料が用いられる。この試料が研磨され、研磨面が走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される。観察時の画像の倍率は、500倍である。この画像の解析では、画像データが2値化される。この解析によって各粒子のアスペクト比が測定され、これらのデータが相加平均されて、粉末のアスペクト比が算出される。なお、各粒子のアスペクト比は、2値化画像が楕円に近似されたときの「長軸の長さL/短軸の長さT」である。
【0020】
[組成]
本発明者はFeに種々の元素を添加し、難燃性及び飽和磁束密度を評価した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0021】
【表1】
【0022】
表1の結果から、Cr、Mo、W、V及びCoよりも、Si及びAlが、難燃性に寄与することが判明した。さらに、含有される原子百分率が同じ場合、AlよりもSiの方が、飽和磁束密度に寄与することが判明した。表1の結果に基づいて本発明者は、粒子の合金元素として、Siを選定した。
【0023】
粒子の材質は、Fe-Si系合金である。Siを含む粒子の表面には、その組成がSiOである酸化皮膜が生成する。この酸化皮膜は、Feと酸素との接触を抑制し、従ってFeの酸化反応を抑制する。この酸化皮膜を有する粒子を含む粉末は、難燃性に優れる。Siを含む粉末はさらに、結晶磁気異方性、磁歪定数及び保磁力が低い。これらの観点から、Siの含有率は7質量%以上が好ましく、8質量%以上が特に好ましい。Siを過剰に含む粉末の飽和磁束密度は、低い。飽和磁束密度の観点から、Siの含有率は12質量%以下が好ましく、11質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0024】
この合金のSiの残部は、好ましくは、Fe及び不可避的不純物である。
【0025】
[難燃性パラメータ]
本明細書では、下記の数式(II)により、難燃性パラメータPNFが算出される。
NF = D50 × TD / ρ (II)
この数式(II)において、D50は粉末のメジアン径を表し、TDは粉末のタップ密度を表し、ρは粉末の真密度を表す。真密度は、乾式密度計(島津製作所社製、型式アキュピック1330)で測定される。
【0026】
このパラメータPNFは、下記の数式(I)を満たす。
(-0.97 × P(Si) + 13.0) < PNF≦ 10 (I)
この数式においてP(Si)は、Fe-Si系合金におけるSiの質量含有率である。
【0027】
パラメータPNFが(-0.97 × P(Si)+ 13.0)よりも大きい粉末は、難燃性に優れる。この観点から、パラメータPNFは(-0.97 × P(Si) + 14.5)以上がより好ましく、(-0.97 × P(Si) + 15.0)以上が特に好ましい。パラメータPNFが10以下である粉末から、均質でかつ表面が平滑な磁性部材が得られうる。この観点から、パラメータPNFは8以下がより好ましく、6以下が特に好ましい。
【0028】
[飽和磁束密度Bs]
飽和磁束密度Bsが大きい粉末では、磁性の共鳴現象が高周波域で発生する。この観点から、粉末の飽和磁束密度Bsは1.3T以上が好ましく、1.4T以上がより好ましく、1.5T以上が特に好ましい。飽和磁束密度Bsは、2.0T以下が好ましい。
【0029】
飽和磁束密度Bsは、振動試料型磁力計(VSM)にて測定される。測定条件は、以下の通りである。
最大印加磁場:1204kA/m
粉末の質量:約70mg
【0030】
[保磁力Hc]
保磁力Hcが大きい粉末では、磁気共鳴周波数が高い。この観点から、粉末の保磁力Hcは,500A/m以上が好ましく、550A/m以上がより好ましく、600A/m以上が特に好ましい。保磁力Hcは、1600A/m以下が好ましい。
【0031】
保磁力は、磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な外部磁場の強さである。保磁力は、例えば、Qumano社の保磁力メータ「HC801」で測定されうる。測定時の最大印加磁場は、144kA/mである。
【0032】
[メジアン径D50]
難燃性の観点から、粉末のメジアン径D50は20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上が特に好ましい。均質でかつ表面が平滑な磁性部材が得られうるとの観点から、メジアン径D50は90μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下が特に好ましい。
【0033】
メジアン径D50は、粉末の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子直径である。メジアン径D50は、例えば、日機装社のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000」により測定される。この装置のセル内に、粉末が純水と共に流し込まれ、粒子の光散乱情報に基づいて、メジアン径D50が検出される。
【0034】
[タップ密度TD]
難燃性の観点から、粉末のタップ密度TDは0.6g/cm以上が好ましく、0.7g/cm以上がより好ましく、0.8g/cm以上が特に好ましい。均質でかつ表面が平滑な磁性部材が得られうるとの観点から、タップ密度TDは1.7g/cm以下が好ましく、1.5g/cm以下がより好ましく、1.3g/cm以下が特に好ましい。
【0035】
タップ密度TDは、「JIS Z 2512」の規定に準拠して測定される。測定では、約20gの粉末が、容積が100cmであるシリンダーに充填される。測定条件は、以下の通りである。
落下高さ:10mm
タップ回数:200
【0036】
[粉末の製造]
本発明に係る粉末は、原料粉末に扁平加工が施されることで得られる。原料粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、ディスクアトマイズ法、粉砕法等によって得られうる。ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法が、好ましい。
【0037】
ガスアトマイズ法では、原料金属が加熱されて溶解し、溶湯が得られる。この溶湯が、ノズルから流れ出る。この溶湯に、ガス(アルゴンガス、窒素ガス等)が吹き付けられる。このガスのエネルギーにより、溶湯は粉化して液滴となり、落下されつつ冷却される。この液滴が凝固し、粒子が形成される。このガスアトマイズ法では、溶湯が瞬間的に液滴化し、これと同時に冷却されるので、均一な微細組織が得られる。しかも、連続的に液滴が形成されるので、粒子間の組成差がきわめて小さい。
【0038】
ディスクアトマイズ法では、原料金属が加熱されて溶解し、溶湯が得られる。この溶湯が、ノズルから流れ出る。この溶湯が、高速で回転するディスクの上に落とされる。溶湯は急冷されて凝固し、粒子が得られる。
【0039】
この原料粉末に、扁平加工が施される。典型的な扁平加工は、アトライタによってなされる。
【0040】
分級により、原料粉末が得られうる。原料粉末には、必要に応じて熱処理が施される。扁平粉末には、必要応じて、熱処理、分級等の処理が施される。
【0041】
[磁性部材の成形]
この粉末から磁性部材が得られるには、まず粉末が、樹脂及びゴムのような基材ポリマーに混練されて、ポリマー組成物が得られる。混練には、既知の方法が採用されうる。例えば、密閉式混練機、オープンロール等により、混練がなされうる。
【0042】
次に、このポリマー組成物から、磁性部材が成形される。成形には、既知の方法が採用されうる。圧縮成形法、射出成形法、押出成形法、圧延法等により、成形がなされうる。典型的な磁性部材の形状は、シート形状である。リング状、立方体状、直方体状、円筒状等の形状が、磁性部材に採用されうる。本発明に係る粉末を含む磁性部材は、300MHz以上の周波数域における使用に、特に適している。
【0043】
基材ポリマーに、粉末と共に、種々の薬品が混練されうる。薬品として、潤滑材及びバインダーのような加工助剤が例示される。ポリマー組成物が、難燃剤を含有してもよい。粉末が難燃性に寄与するので、多量の難燃剤の添加は、不要である。
【実施例
【0044】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0045】
[実施例1]
ガスアトマイズ、分級及び湿式アトライタによる扁平加工により、下記の表2に示された組成を有する実施例1の粉末を製作した。この粉末のメジアン径D50、タップ密度TD、難燃性パラメータPNF、飽和磁束密度Bs及び保磁力Hcが、下記の表2に示されている。
【0046】
[実施例2-5及び比較例1-5]
組成を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-5及び比較例1-5の粉末を製作した。
【0047】
[難燃性の評価]
粉末が、消防法に定められる第2類第1種可燃性固体に該当するか否かを、小ガス炎着火試験により判定した。判定基準は、以下の通りである。
A:下記Bに該当しない。
B:3秒以内に着火し、かつ燃焼が継続する。
判定がAである粉末は、第1種可燃性固体でないと見なされる。判定がBである粉末は、第1種可燃性固体であると見なされる。この結果が、下記の表2に示されている。
【0048】
【表2】
【0049】
図2のグラフに示された直線L2の方程式は、
NF= -0.97 × P(Si) + 13.0
である。実施例1-5の粉末は、このグラフにおいて、直線L2よりも上に位置する。換言すれば、実施例1-5の粉末は、下記数式を具備する。
(-0.97 × P(Si) + 13.0) < PNF
【0050】
この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る粉末は、種々の磁性部材に適している。
図1
図2