(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】オフセット印刷用金属微粒子インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/03 20140101AFI20230407BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20230407BHJP
B41M 1/34 20060101ALI20230407BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20230407BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20230407BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20230407BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230407BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20230407BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
C09D11/03
B41M1/30 D
B41M1/34
C09D11/033
C09D11/037
C09D11/52
H01B1/22 A
H01B5/14 A
H05K3/12 630Z
(21)【出願番号】P 2017196822
(22)【出願日】2017-10-10
【審査請求日】2020-07-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮太
(72)【発明者】
【氏名】千手 康弘
(72)【発明者】
【氏名】矢次 健一
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】亀ヶ谷 明久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/075929(WO,A1)
【文献】特開2012-207049(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一級アミン化合物と、
カルボン酸と、
極性溶媒と、
銀微粒子と、
を含有し、且つ、前記カルボン酸が、リシノール酸、N-(tert-ブトキシカルボニル)-6-アミノヘキサン酸、[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸又は12-ヒドロキシステアリン酸であり、
且つ、前記第一級アミン化合物が少なくともN,N-ジメチルエチレンジアミンまたは3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンから選ばれる1つ以上であることを特徴とする
凸版反転印刷用銀微粒子インク。
【請求項2】
請求項1記載のカルボン酸を、銀微粒子の質量に対して0.5質量%以上含有する請求項1記載の
凸版反転印刷用銀微粒子インク。
【請求項3】
シリコーンゴム製ブランケットを使用する凸版反転印刷で使用される請求項1または2記載の
凸版反転印刷用銀微粒子インク。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項記載の
凸版反転印刷用銀微粒子インクを用いて形成される導電膜又は導電パターン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜トランジスタ、有機薄膜太陽電池等、有機電子デバイスにおいて、形成される配線、電極等に用いる事を目的とした導電性のオフセット印刷用金属微粒子インクである。本発明は、オフセット印刷による精密パターンの形成において発生する連続印刷によるブランケットゴムの膨潤、金属微粒子による変色、及び、剥離値の増加による転写不良を抑制可能なインク組成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの軽量化、薄膜化に加えて、フレキシブル、ストレッチャブルな基板に回路を形成するため、半導体材料、導電性材料、絶縁材料を印刷することで電子デバイスを作製するプリンテッドエレクトロニクス技術が注目されている。
【0003】
プリンテッドエレクトロニクス技術による配線部分、電極部分の形成には、ナノサイズ、マイクロサイズの金属微粒子が用いられる。この金属微粒子をインク化することで、配線部分、電極部分を印刷により簡便に形成することが可能となる。
【0004】
高精細な配線部分、電極部分を印刷により作製する方法としてはオフセット印刷法が知られている。オフセット印刷法は、一般にブランケットと呼ばれるシリコーンゴム等からなる離型性を有する転写部材を介して基材上に画像を形成する。
【0005】
ブランケットには一般的にシリコーンゴムが用いられるが、シリコーンゴムを用いる場合、濡れ性が非常に低く、ハジキによる膜厚ムラ、ピンホールなどの問題が生じやすい。
この問題は、シリコーンゴムよりも表面自由エネルギーの小さい低極性の有機溶剤をインクの溶媒に用い、ブランケット表面への濡れ性を確保することで解決可能である。
しかしながら、低極性溶媒は、ブランケットを膨潤させてしまうため、印刷精度の低下、転写不良、異物混入、又は交換による生産性能の低下を引き起こす(特許文献1)。
ブランケットゴムの膨潤を抑制する方法としては、ブランケットを熱風で乾燥させる方法(特許文献1)や溶剤吸収体を用いる方法(特許文献2)が知られているが、いずれの方法も上記問題を根本的に解決できる方法ではなく、設備投資の必要性や連続生産性の観点から課題がある。
【0006】
その他、インクに使用する溶媒を極性溶媒とすることによりブランケットゴムの膨潤を抑制させる方法は知られているが、高精細な印刷においてブランケットの膨潤を抑制することのみでは、連続的に、且つ、安定して印刷物を作製することは困難である。
【0007】
通常、シリコーンゴムからなるブランケットには、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂を架橋させる際に生じる低分子量のシリコーンオイルが含まれている。シリコーンブランケットは、この低分子量のシリコーンオイルが表面に徐々に染み出すいわゆるブリーディングを生じる。このブリーディングにより、インクに対する良好な離型性が付与され、インクの基材への100%転写性が確保されていることが、すでに知られている(特許文献3)。連続的に印刷を行うと、ブランケット中の低分子量のシリコーンオイルが減少し、ブランケットゴムの離型性は印刷枚数と共に低下する。すなわちブランケットゴムの剥離値を上昇させてしまう。結果、インクの基材への転写性が損なわれ、100%転写が困難となり、欠陥が生じる。したがって、極性溶媒のみをインクの溶媒として用いた場合であっても連続印刷性を確保することは困難となる。
この問題については、離型剤としてシリコーンオイルを添加することで良好な転写性を維持する方法が報告されている(特許文献4)。
【0008】
しかしながら、ナノサイズの金属微粒子を含むインクを用いた場合においては、上記シリコーンオイルの減少に加えて、金属微粒子自体がブランケット内部に含浸してしまう新たな問題を生じさせる。金属微粒子のブランケットへの含浸は、ブランケット表面を褐色に変色させ、ブランケット最表面の金属微粒子の存在による剥離値の著しい上昇を発生させる。剥離値の上昇は、インクをブランケット表面から基材の表面に再転写させる工程において、ブランケット上のインクが基材の表面に完全に転写されずにブランケット表面に残る転写不良を発生させてしまう。したがって、オフセット印刷法を用いて連続印刷することができない。また、この問題はインク中に離型剤としてシリコーンオイルを添加した場合であっても解決することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-188015号公報
【文献】特開2010-180356号公報
【文献】特開2011-42114号公報
【文献】WO2008/111484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、金属微粒子を含有するオフセット印刷用インクを用いてオフセット印刷を実施する場合に発生する、シリコーンブランケットへの金属微粒子の含浸に伴うブランケットゴムの剥離値の上昇を抑制すること、及び、連続印刷可能なオフセット印刷用金属微粒子インクを開発すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、極性溶媒のオフセット印刷用金属微粒子インクにおいて、シリコーンブランケットゴムの溶解度パラメーター(SP値)(17.6)以上のSP値を有するカルボン酸、チオール又はリン酸エステルを金属微粒子の保護剤として用いることにより、オフセット印刷時に金属微粒子のブランケットへの含浸に起因するブランケットゴムの変色を抑制し、ブランケットゴムの剥離値上昇を抑制可能であることを見出した。当該保護剤種の特定及びその量を定めることにより、高精細のパターンを連続的に形成可能なオフセット印刷用金属微粒子インクを提供可能であることを見出した。
また、併用する第一級アミン化合物においてもSP値を17.6以上、かつ、分散液中のアミン量を金属微粒子の質量に対して20質量%以下に調整することで、ブランケットゴムの膨潤をさらに抑制し、かつ、金属微粒子の含浸もさらに抑制可能であることを見出した。
本発明では、これらインクを作製し、実際にオフセット印刷機を用いて連続印刷試験を行うことにより、本発明に係るオフセット印刷用金属微粒子インクが優れた連続印刷性能を発揮できることを見出した。本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明は、
(1)第一級アミン化合物と、
カルボン酸、チオール又はリン酸エステルから選択される1以上の化合物と、
極性溶媒と、
金属微粒子と、
を含有し、且つ、前記カルボン酸、チオール又はリン酸エステルのSP値が17.6以上であることを特徴とするオフセット印刷用金属微粒子インク。
【0013】
(2)(1)記載のカルボン酸、チオール又はリン酸エステルを、金属微粒子の質量に対して0.5質量%以上含有する請求項1記載のオフセット印刷用金属微粒子インク。
【0014】
(3)(1)記載のカルボン酸が、水酸基又は炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸であって、分子量が600g/mol以下である請求項1記載のオフセット印刷用金属微粒子インク。
【0015】
(4)(1)記載のカルボン酸が、オレイン酸、リシノール酸、N-(tert-ブトキシカルボニル)-6-アミノヘキサン酸、[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸又は12-ヒドロキシステアリン酸である請求項1記載のオフセット印刷用金属微粒子インク。
【0016】
(5)(1)記載の第一級アミン化合物のSP値が17.6以上であって、
第一級アミン化合物が、金属微粒子の質量に対して20質量%以下である請求項1記載のオフセット印刷用金属微粒子インク。
【0017】
(6)(1)記載の金属微粒子が銀であるオフセット印刷用金属微粒子インク。
【0018】
(7)オフセット印刷がグラビアオフセット印刷又は凸版反転印刷であることを特徴とする印刷用金属微粒子インク。
【0019】
(8)上記オフセット印刷用金属微粒子インクを用いて形成される導電膜又は導電パターンを提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のオフセット印刷用金属微粒子インクによれば、シリコーンブランケットゴムを使用するオフセット印刷において、連続印刷を行ってもブランケットゴム中への金属微粒子の含浸を抑制することができ、ブランケットゴムの変色及び剥離値の上昇を抑制することができる。これにより、ブランケットゴムの寿命を延ばし、耐刷性を向上することができる。
本発明のオフセット印刷用金属微粒子を用いることによって、ブランケットゴムの剥離値を上昇させることなく、精細な印刷形状を維持したまま300枚以上の連続印刷を行うことができ、連続印刷性を向上することができる。
これにより、導電膜又は精細な導電パターンを連続的に、かつ、簡便に、種種の基材に形成することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】凸版反転印刷による印刷枚数あたりの剥離値の変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
(金属微粒子粒子の合成)
【0024】
本明細書において、「沸点」は、1気圧での沸点を意味する。
【0025】
溶解度パラメーター(SP値)の推算方法として、化合物の物性から推算する方法と化合物の分子構造から推算する方法が知られている。物性値からSP値を推算する方法として、蒸発潜熱から求める方法、Hildebrand Ruleによる方法(J.Hildebrand,R.Scott:”The Solubility of Non-electrolytes”,3rd Ed.,p.119-133,Reinhold Publishing Corp.(1949))、表面張力による方法、溶解度の値から求める方法、屈折率から求める方法等が知られている。分子構造からSP値を推算する方法として、Smallの計算方法、Rheineck及びLinの計算方法、KrevelenとHoftyzerの計算方法、Fedorsの計算方法(R.F.Fedors:Polym.Eng.Sci.,14〔2〕,147-154(1974))、Hansenの計算方法(C.M.Hansen:J.Paint Tech.,39〔505〕,104-117(1967))、Hoy(H.L.Hoy:J.Paint Tech.,42〔540〕,76-118(1970))の計算方法が知られている。
【0026】
本発明において使用した溶解度パラメーター(SP値)は、特に記述が無い限り、分子構造から比較的簡便に計算できるFedorsの推算方法を用いて計算した(R.F.Fedors:Polym.Eng.Sci.,14〔2〕,147-154(1974))。また、SP値の単位は特に記述が無い限りMPa1/2としている。
【0027】
本実施形態に係るオフセット印刷用金属微粒子インクに使用する金属微粒子は、第一級アミン化合物と、金属化合物とを混合して錯化合物を生成させる工程(第一工程)と、錯化合物を加熱して分解させて金属微粒子を生成する工程(第二工程)と、金属微粒子を含む反応生成物から不要物を除去する精製工程(第三工程)と、精製工程で得られた金属微粒子の再分散・インク化工程(第四工程)を備える熱分解法によって合成した。
【0028】
本発明の金属微粒子の合成方法としては、熱分解法を採用したが、金属微粒子表面を第一級アミン化合物及びSP値が17.6以上のカルボン酸、チオール又はリン酸エステルにより保護することができれば、任意の方法を採用することができる。例えば、湿式法として熱分解法のほかに化学還元法、電気化学法を採用することもできる。乾式法としてガス中蒸発法、スパッタ法を採用することもできる。
【0029】
熱分解法を採用する場合、錯化合物を生成させる工程(第一工程)では、金属化合物を完全に錯化できるアミン化合物を用いることが好ましい。また、反応性の観点から、体積当りのアミン官能基又はアミノ基濃度が高いアミン化合物が好ましく、炭素数が8以下のアミン化合物を含むことが好ましい。本工程において、第一級アミン化合物であれば、単体で用いても、二種以上の化合物を混合して用いても良い。
【0030】
熱分解法を採用する場合、錯化合物を加熱して分解させて金属微粒子を形成する工程(第二工程)では、金属コロイド粒子同士の衝突を防止することによって分散安定化する観点から、生成した金属微粒子表面を効果的に被覆できるアミン化合物を用いることが好ましい。また、粒子間の接触による凝集体の形成を低減するため、炭素数が6以上の長鎖構造又は分岐構造を有するアミン化合物を含有することが好ましい。本工程においても、第一級アミン化合物であれば、単体で用いても、二種以上の化合物を混合して用いても良い。
【0031】
熱分解法を採用する場合、錯化合物を生成させる工程(第一工程)と錯化合物を加熱して分解させて金属微粒子を形成する工程(第二工程)は連続して行うものであるため、第二工程を行う前に、第一工程で生成した錯化合物には、第二工程で有用なアミン化合物が共存している必要がある。第一工程において有用なアミン化合物だけで第一工程を開始した場合であっても、第二工程を開始する前に第二工程において有用なアミン化合物を添加することができる。また、第一工程を開始する時に、第一工程において有用なアミン化合物と第二工程において有用なアミン化合物を併用することもできる。第一工程において有用なアミン化合物と第二工程において有用なアミン化合物として同一種の化合物を利用できる場合には、アミン化合物として一種のみ利用しても良い。
【0032】
以下に、熱分解法を用いて金属微粒子を合成する場合の詳細な方法について説明する。
【0033】
(第一工程:錯化合物を生成させる工程)
錯化合物を生成させる第一工程においては、アミン化合物と銀化合物とを混合することにより、両者間の錯化合物が生成する。アミン混合液に含まれるアミンの総量は、金属化合物中の金属の化学量論量以上であることが好ましい。錯化合物とならない金属化合物が残留すると、金属ナノ粒子の均一かつ安定的な分散が阻害される可能性があるためである。
【0034】
アミン混合液と金属化合物との錯化合物の形成反応は、用いるアミン化合物と金属化合物によって反応性が変化するため調整が必要であるが、アミン混合液と金属化合物とを含む混合液を30℃から50℃程度で5分から3時間程度撹拌することにより行うことができる。反応温度を高めることによって反応時間を短縮することができるが、第二工程の熱分解開始温度と十分な温度差を設けることによって、予期しない分解反応を避ける観点から反応温度は50℃以下が好ましい。反応系、特にアミン化合物の化学変化や引火を避けるために、二酸化炭素や水分の混入を避けることが好ましく、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、又は、乾燥空気雰囲気下で反応させることができる。
【0035】
Hansenの3次元溶解度パラメーターは、SPを分散力、水素結合及び極性のベクトルに分割し、それぞれσD、σH、σPとして表すもので、SP値は以下の式で示すように総和的な尺度と考えられている(C.M.Hansen:Encyclopedia of Chem.Technol.,Supplment vol.,p.889(1971)。
【0036】
本発明におけるブランケットに使用されているシリコーンゴムの膨潤度をこの3次元溶解度パラメーターで表すと、σDが7.0~9.0、σHが0~6.0、σPが0~2.0であることが知られている。また、この数値のほぼ中間の値がシリコーンゴムの3次元溶解パラメーターとなると記述されている(A.Beerbower,J.R.Dickey:ASLE Trans.,12,1(1969)、辻野 孝:日ゴム協誌,52,10(1979))。
【0037】
上記σD、σH、σPの値からシリコーンゴムのSP値は、17.6MPa1/2と見積もられた。
【0038】
本発明において使用することができる第一級アミン化合物は、金属粒子表面を保護し、極性溶媒に分散可能であれば特に制限されるものではない。また、使用する第一級アミン化合物の量は特に限定されるものではない。ただし、シリコーンゴム製ブランケットゴムの膨潤を抑制するためには、シリコーンゴムのSP値17.6以上の第一級アミン化合物を保護剤として用いるほうがより好ましい。
【0039】
第一級アミン化合物として、SP値が17.6以上の物としては、例えば、2-メトキシエチルアミン(18.6)、2-エトキシエチルアミン(18.4)、2-イソプロポキシエチルアミン(17.9)、3-メトキシプロピルアミン(18.4)、3-エトキシプロピルアミン(18.3)、3-イソプロポキシプロピルアミン(17.9)、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(17.7)等を例示することができる。
【0040】
第一級アミン化合物としては、第一級アミンの他に第二級又は第三級アミノ基等を有するジアミンであっても用いることができる。SP値が17.6以上の物としては、例えば、N-メチルエチレンジアミン(20.0)、N-エチルエチレンジアミン(19.6)、N-イソプロピルエチレンジアミン(19.0)、N-メチル-1,3-プロパンジアミン(19.6)、3-イソプロピルアミノプロピルアミン(18.8)、N,N-ジメチルエチレンジアミン(18.2)、N,N-ジエチルエチレンジアミン(18.0)、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(18.1)、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン(18.0)、N-(3-アミノプロピル)モルホリン(20.8)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-ジアミノブタン(19.9)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,5-ジアミノペンタン(19.8)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,6-ジアミノヘキサン(19.6)等を例示することができる。
【0041】
この他に、本発明の効果を損なわない範囲であれば、アミン類として第二級アミン化合物、又は、第三級アミン化合物も併用することができる。
【0042】
本発明の金属微粒子の金属種としては、その金属が1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミジノ基から選択される窒素含有官能基と化学的に結合できるものであれば制限されず、例えば、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、スズ、クロム、鉛、タングステン等を用いることができる。また、金属種は、一種類であっても、二種類以上の混合物、または合金であっても良い。
【0043】
また、熱分解法を採用する場合には、アミン化合物と反応して錯化合物を形成可能な金属化合物を用いることができる。例えば、カルボン酸塩、塩化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。これらの中でも、特に、シュウ酸塩、蟻酸塩が好ましい。シュウ酸塩、蟻酸塩は、カルボン酸イオンが加熱により分解し、銀イオンを還元すると同時に二酸化炭素として揮発するため、不純物が残留しにくいためである。
【0044】
(第二工程:錯化合物を加熱して分解させて金属微粒子を形成する工程)
次の工程(第二工程)においては、先の工程で生成した錯化合物を加熱して分解させることにより金属微粒子を形成する。加熱により錯化合物を分解させる際の温度は、用いるアミン化合物と金属化合物によって変動するため調整が必要であるが、金属化合物を分解して金属を生成させ、また、生成する金属微粒子からのアミン化合物の脱離を防ぐ観点から、70℃から150℃の範囲で5分から2時間程度反応させることが好ましい。特に、低温で電極を形成するために、低沸点のアミン化合物を用いる場合には、本工程における反応温度がアミン化合物の沸点を超えないようにすることが、熱分解反応の進行に伴う発熱による突沸を避ける観点から好ましい。また、気化したアミン化合物の引火を防止するため、低酸素濃度条件で反応させることが好ましい。
【0045】
第二工程では、シュウ酸金属塩アミン錯体の熱分解に起因する発熱が生じるため、反応スケールを拡大した時に反応熱を制御できない可能性が考えられる。したがって、金属のモル量m1に対するアミンのモル量m2の比率(m2/m1)を、例えば、5~20の範囲になるようにアミン溶液を過剰に加えることにより、シュウ酸塩の熱分解時に発生する反応熱をアミン溶液に吸収させることができ、突沸を防止することができる。
【0046】
錯化合物の加熱分解後の反応液は、例えば、金属種が銀の場合には褐色懸濁液となる。この懸濁液から、デカンテーション等の分離操作により、目的とする金属微粒子を得ることができる。
【0047】
(第三工程:金属微粒子を含む反応生成物から不要物を除去する精製工程)
金属微粒子を含む反応生成物から不要物を除去する精製工程として、第二工程で得られる金属微粒子をデカンテーションにより洗浄する。デカンテーションを行う際は、目的の金属微粒子が十分な分散性を示さないヘキサンやアルコール等の有機溶媒を用いることが好ましい。分散安定性を確保するためには、インク中にアミンが十分残存しているほうが好ましいが、分散液中の過剰なアミンは、オフセット印刷時にブランケットを膨潤させ、ブランケット印刷時の耐刷性を低下させてしまう。したがって、連続印刷可能なオフセット印刷用金属微粒子インクを作製する場合には、デカンテーション後の分散液中の残存アミン量を金属微粒子の質量に対し20%以下とすることが望ましい。分散液中の保護剤濃度は、熱重量分析により概算することができる。上述した本実施形態に係る製造方法によれば、洗浄後においても100nm以下の平均粒径を有する金属微粒子を得ることができる。
また、第三工程においては、金属微粒子を含む反応生成物から不要物を除去すればよく、デカンテーション以外の方法を採用することもできる。
【0048】
(第四工程:金属微粒子の再分散・インク化)
第三工程をえることにより作製された第一級アミン化合物を含む金属微粒子に極性溶剤を加えることにより、極性溶媒に分散した金属微粒子(金属微粒子分散体)を得ることができる。
第三工程により作製された第一級アミン化合物を含む金属微粒子は、表面が保護剤に被覆された金属微粒子である。得られた金属微粒子は、その保護剤の化学的性質を反映し、特定範囲内の相互作用を与える溶剤中に良好に分散すると考えられる。
当該アミン化合物を選択して使用することにより、アミン化合物に被覆された微粒子表面の極性を高めることができ、極性溶媒中に均一かつ安定的に分散させることが可能となる。
【0049】
極性溶媒としては、メタノール、エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、アミルアルコール、tert-アミルアルコール、ペンタノール、2-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、2-ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ヘプタノール、オクタノール、2-ブチル-1-オクタノール、ノナノール、デカノール、4-メチル-2-ペンタノール、ネオペンチルグリコール、プロピオニトリル、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、イソブチレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、2,5-ヘキサンジオール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、イソアミルアルコール、イソオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、フルフリルアルコール、ターピネオール、フェノール、2-フェノキシエタノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、モノオレイン、2,3-ブタンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、アクリロニトリル、プロピオニトリル、n-ブチロニトリル、イソブチロニトリル、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、プロピオラクトン、炭酸-2,3-ブチレン、炭酸エチレン、炭酸1,2-エチレン、炭酸ジメチル、炭酸エチレン、マロン酸ジメチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、サリチル酸メチル、二酢酸エチレングリコール、ε-カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ホルムアミド、ピロリジン、1-メチル-2-ピロリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ナフタレンを用いることができる。前記極性溶媒は、単独または二種以上を用いることもできる。
【0050】
また、SP値が17.6以上のカルボン酸、チオール又はリン酸エステルを加えることにより、金属微粒子表面が上記カルボン酸等により保護された本発明に係るオフセット印刷用金属微粒子インクを得ることができる。
添加したカルボン酸等は金属微粒子表面を保護している第一級アミン化合物の一部が当該保護剤と置換すると考えられ、さらに金属微粒子表面の極性を高めることができる。金属微粒子表面の高い極性は、極性溶媒中に金属微粒子を均一かつ安定的に分散させることができる。この高極性の金属微粒子表面により、金属微粒子自身がブランケット内部に含浸されず、連続印刷においてブランケットゴムの剥離値の上昇を抑制することができる。
【0051】
添加するカルボン酸は、SP値が17.6以上のカルボン酸であれば特に限定されるものではない。例えば、カルボン酸として、蟻酸(31.2)、酢酸(22.9)、プロピオン酸(21.9)、酪酸(21.2)、吉草酸(20.7)、カプロン酸(20.3)、エナント酸(20.0)、カプリル酸(19.8)、ペラルゴン酸(19.6)、カプリン酸(19.4)、ラウリン酸(19.2)、ミリスチン酸(19.0)、パルミチン酸(18.8)、マルガリン酸(18.8)、ステアリン酸(18.7)、ベヘン酸(18.5)、オレイン酸(17.9)、パルミトオレイン酸(18.0)、エイコセン酸(17.9)、エルカ酸(17.9)、ネルボン酸(17.8)、リシノール酸(21.3)、シュウ酸(31.2)、マロン酸(28.8)、コハク酸(27.1)、グルタル酸(25.8)、アジピン酸(24.9)、ピメリン酸(24.2)、スベリン酸(23.6)、アゼライン酸(23.1)、セバシン酸(22.6)、ジグリコール酸(27.2)、マレイン酸(27.6)、イタコン酸(26.8)、安息香酸(24.5)、N-オレイルサルコシン(19.7)、N-カルボベンゾキシ-4-アミノ酪酸(23.8)、p-クマル酸(27.4)、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(27.1)、3-ヒドロキシミリスチン酸(22.0)、2-ヒドロキシパルミチン酸(21.6)、2-ヒドロキシイコサン酸(20.9)、2-ヒドロキシドコサン酸(20.6)、2-ヒドロキシトリコサン酸(20.5)、2-ヒドロキシテトラコサン酸(20.4)、3-ヒドロキシカプロン酸(26.0)、3-ヒドロキシオクタン酸(24.5)、3-ヒドロキシノナン酸(23.9)、3-ヒドロキシデカン酸(23.4)、3-ヒドロキシウンデカン酸(23.0)、3-ヒドロキシドデカン酸(22.6)、3-ヒドロキシトリデカン酸(22.3)、3-ヒドロキシテトラデカン酸(22.0)、3-ヒドロキシヘキサデカン酸(21.6)、3-ヒドロキシヘプタデカン酸(21.4)、3-ヒドロキシオクタデカン酸(21.2)、15-ヒドロキシペンタデカン酸(21.9)、17-ヒドロキシヘプタデカン酸(22.2)、15-ヒドロキシペンタデカン酸(21.9)、17-ヒドロキシヘプタデカン酸(21.5)、ラウロイルサルコシン(20.3)、6-アミノヘキサン酸(22.5)、2-ベンゾイル安息香酸(24.5)、12-ヒドロキシステアリン酸(21.2)、12-ヒドロキシペンタデカン酸(21.6)、2-ヒドロキシパルミチン酸(21.6)、3-ヒドロキシデカン酸(23.0)、15-ヒドロキシペンタデカン酸(21.9)、ラウロイルサルコシン(22.4)、6-アミノヘキサン酸(22.5)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-6-アミノヘキサン酸(21.5)、[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(20.9)、N-カルボベンゾキシ-β-アラニン(24.3)等を例示することができる。また、多量体を形成する化合物であれば、これらの二量体及び三量体から六量体までの多量体を用いても良い。二量体または三量体以上の多量体を用いる場合であっても、本発明の効果を損なわない範囲であれば分子量が制限されることはないが、導電性確保の観点から分子量が600g/mol以下の範囲で用いることが好ましい。また、1又は2以上のカルボン酸を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0052】
添加するチオールは、SP値が17.6以上のチオールであれば特に限定されるものではない。例えば、チオールとしては、ベンゼンチオール(21.6)、3-フルオロベンゼンチオール(20.8)、3-クロロベンゼンチオール(21.7)、ペンタクロロベンゼンチオール(21.8)、3-メトキシベンゼンチオール(20.0)等を例示列挙することができる。また、1又は2以上のチオールを任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0053】
添加するリン酸エステル類は、SP値が17.6以上のリン酸エステルであれば特に限定されるものではなく、1又は2以上のリン酸エステルを任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0054】
上記カルボン酸、チオール又はリン酸エステルは、二種以上を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。また、カルボン酸、チオール又はリン酸エステルの添加時期は、金属微粒子表面が上記カルボン酸等により保護されれば特に制限されることはない。例えば、第一工程時(錯化合物を生成させる工程)、第二工程時(錯化合物を加熱して分解させて金属微粒子を形成する工程)又は第三工程時(金属微粒子を含む反応生成物から不要物を除去する精製工程)において当該カルボン酸等を添加する事も可能であるし、各工程で1または2以上に分割して加えることもできる。
【0055】
カルボン酸等の添加量としては特に限定されるものではないが、金属微粒子の質量に対して40質量%以下の範囲で使用することが好ましく、焼結後の導電性を考慮すると金属微粒子の質量に対して10質量%以下の範囲で使用することがより好ましい。
【0056】
本発明のオフセット印刷用金属微粒子インクは、ブランケットゴムを使用する種種の印刷方法に対して好適に用いることができる。例えば、パッド印刷、スクリーンオフセット印刷、フレキソ印刷、平版オフセット印刷、水無平版オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、凸版反転印刷、パッド印刷、およびこれらの組合せからなる群から選択される印刷方法においてインクとして使用することができる。種種のオフセット印刷法の中でもより狭い線幅かつ平滑な薄膜形成を実現させる場合には、凸版反転印刷又はグラビアオフセット印刷を好適に用いることができる
【0057】
本発明のオフセット印刷用金属微粒子をインクは、インク中の金属微粒子濃度を各印刷方法に最適な濃度にして用いることができる。インク中の金属微粒子濃度を上げる場合には、再分散時の極性溶媒量を減らすことにより容易に高濃度のオフセット印刷用金属微粒子インクを作製することができ、再分散時の極性溶媒量を増やすことにより容易に低濃度のオフセット印刷用金属微粒子インクを作製することができる。例えば、グラビアオフセット印刷の場合は金属微粒子をインクの質量に対して50~90質量%にして用いることができる。凸版反転印刷の場合は金属微粒子をインクの質量に対して5~40質量%にして用いることができる
【0058】
本発明のオフセット印刷用金属微粒子インクには、本発明の効果を損なわせない範囲において、必要に応じて、樹脂等のバインダー成分、乾燥防止剤、消泡剤、基材への密着付与剤、酸化防止剤、皮膜形成促進のための各種触媒、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤の様な各種界面活性剤、レベリング剤、離型促進剤等を印刷助剤として添加できる。
【0059】
本発明のオフセット印刷用金属微粒子インクは、分散安定性に優れ、薄膜電極のような画像の形成にも好適に用いることができる。さらに、低温での焼成が可能であることから、樹脂基板、紙基板等の耐熱性の低い基板の上に本実施形態のオフセット印刷用金属微粒子インクを塗布又は印刷して配線を形成することもできる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。ここで「%」は、特に指定がない限り「質量%」である。
【0061】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
金属微粒子分散体を粒子径分布測定装置(MicrotracBEL製UPA-EX)で動的光散乱測定を行い、得られた散乱光の周波数から粒子径分布を算出して、体積平均粒径値を基準値として用いた。
【0062】
〔小角X線測定による平均一次粒子径の測定〕
金属微粒子分散体を小角X線測定装置(リガク製SmartLab)で極小角X線散乱(USAXS)測定を行い、得られた散乱曲線から平均一次粒子径を算出した
【0063】
〔焼結膜の作製方法と体積抵抗率の測定〕
0.7mm厚の無アルカリガラス基板(40mm×50mm)上に金属微粒子分散体をスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間恒温・乾燥器(クリーンオーブンDE411ヤマト科学製)で焼結することにより焼結膜を得た。焼結膜の膜厚は、100nmとなるようにスピンコート時の回転数を調整した。体積抵抗率は、四端子測定法の低抵抗率計ロレスターEP(三菱化学株式会社製)にて測定した。試験片の導電性膜(焼結膜)の膜厚から体積抵抗率を求めた。なお、体積抵抗率は、例えば、2.0×10-5Ω・cmを「2.0E-5Ω・cm」と記載する方法により示した。
【0064】
〔凸版反転印刷法によるインクの耐刷性評価〕
(凸版反転印刷)
本発明のオフセット印刷用金属微粒子インクの耐刷性を評価するために、凸版反転印刷法によるインク評価をおこなった。転写部材であるブランケットには、シリコーンゴム製のブランケットゴム(厚さ0.2mm)(金陽社製)を使用した。ブランケットへのインクの塗布は、ガラス製のスリットコーターを利用した。インクの膜厚は、120℃の焼結後に100nmになるように調整した。ブランケットへの塗布後、ブランケット上でインクを1分間乾燥させた。乾燥後、凸版による版抜き工程及び基材への転写工程を得ることにより画像を得た。印刷は、3分に1回のタクトで行った。印刷は、300枚実施した。基材は、PETフィルムを使用した。印刷時のブランケットから基材へのインクの転写性、印刷画像の形状及びブランケットゴムの着色度合いを評価し、表2にまとめた。
【0065】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
オフセット印刷用金属微粒子インクの耐刷性の評価は、印刷後のブランケット表面の剥離値を測定することにより実施した。剥離値試験は、セロハン粘着テープ(ニチバン社製 CT-18 4.01N/10mm)による90°剥離試験によりJIS規格 Z0237(2000)「粘着テープ・粘着シート試験方法」に一部準拠して行った。ブランケット表面にセロハン粘着テープを100mm張り、面に対して90°の角度で、5mm/sの速度で引き剥がした。このとき、ブランケットからテープを引き剥がすために必要な力を剥離値(N/10mm)として記録し、表1にまとめた。剥離試験は、20枚印刷ごとに実施した。各インクを使用した際のブランケット表面の剥離値の変化を記録した。剥離試験は、各2回行い、その平均値を採用した。
【0066】
(実施例1)
(銀微粒子の合成)
アルゴンガス雰囲気下で1Lフラスコに、N,N-ジメチルエチレンジアミン(東京化成工業社製)153.2g(1.738mol)、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(東京化成工業社製)325.6g(1.738mol)を添加後、この混合液の内温が30℃になるまでオイルバスで加熱攪拌した。加熱攪拌下、シュウ酸銀(松田産業社製)35.2g(0.116mol)を添加して、内温が40℃になるまで加熱攪拌した。1時間加熱攪拌を維持した後、フラスコ上部を開放し、オイルバスを95℃まで昇温した。シュウ酸銀とアミンの熱分解により反応液が90-97℃まで上昇することを確認後、フラスコをオイルバスから外し、アルゴンガス雰囲気下で反応液の内温が40℃以下になるまで冷却し、銀微粒子分散体を得た。
【0067】
(銀微粒子のデカンテーション)
過剰なアミンを銀微粒子分散体から除去するために、N-ヘキサン(関東化学社製)によりデカンテーションを実施し、銀微粒子分散体を洗浄した。デカンテーション後、銀微粒子分散体約22gを得た。
【0068】
(オフセット印刷用銀微粒子インクの作製)
得られた銀微粒子分散体に銀に対して2.0質量%の濃度になるように、リシノール酸(東京化成工業社製)を加えた1-ブタノール(関東化学社製)混合液を銀濃度が20質量%になるように添加した。0.5時間程度攪拌することで、褐色の銀微粒子分散体約100gを得た。分散体のレベリング性を上げるために、フッ素系のレベリング剤をインクに対して1質量%未満加えた。
【0069】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
動的光散乱測定により算出された体積平均粒子径は、17nmと見積もられた。
【0070】
〔小角X線測定による平均一次粒子径の測定〕
USAXS測定により算出された平均一次粒子径は、18nmと見積もられた。
【0071】
〔焼結膜の体積抵抗率の測定〕
作製した金属微粒子分散体をガラス基材上にスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間、恒温乾燥器で焼結することにより焼結膜を得た。測定により得られた抵抗値及び焼結膜厚より見積もられた体積抵抗率は、2.5E-5Ω・cmであった。
【0072】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0073】
(実施例2)
(銀微粒子の合成)
実施例1記載の銀微粒子分散体の合成方法により、銀微粒子分散体を得た。
【0074】
(銀微粒子のデカンテーション)
実施例1記載の銀微粒子分散体のデカンテーションにより、銀微粒子分散体を得た。
【0075】
(オフセット印刷用銀微粒子インクの作製)
得られた銀微粒子分散体に銀に対して5.0質量%の濃度になるように、リシノール酸を加えた1-ブタノール混合液を、銀濃度が20質量%になるように添加した。0.5時間程度攪拌することで、褐色の銀微粒子分散体約100gを得た。分散体のレベリング性を上げるために、フッ素系のレベリング剤をインクに対して1質量%未満加えた。
【0076】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
動的光散乱測定により算出された体積平均粒子径は、17nmと見積もられた。
【0077】
〔小角X線測定による平均一次粒子径の測定〕
USAXS測定により算出された平均一次粒子径は、18nmと見積もられた。
【0078】
〔焼結膜の体積抵抗率の測定〕
作製した金属微粒子分散体をガラス基材上にスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間、恒温乾燥器で焼結することにより焼結膜を得た。測定により得られた抵抗値及び焼結膜厚より見積もられた体積抵抗率は、3.2E-4Ω・cmであった。
【0079】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0080】
(実施例3)
(銀微粒子の合成)
実施例1記載の銀微粒子分散体の合成方法により、銀微粒子分散体を得た。
【0081】
(銀微粒子のデカンテーション)
実施例1記載の銀微粒子分散体のデカンテーションにより、銀微粒子分散体を得た。
【0082】
(オフセット印刷用銀微粒子インクの作製)
得られた銀微粒子分散体に銀に対して1.0質量%の濃度になるように、12-ヒドロキシステアリン酸を加えた1-ブタノール混合液を、銀濃度が20質量%になるように添加した。0.5時間程度攪拌することで、褐色の銀微粒子分散体約100gを得た。分散体のレベリング性を上げるために、フッ素系のレベリング剤をインクに対して1質量%未満加えた。
【0083】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
動的光散乱測定により算出された体積平均粒子径は、14nmと見積もられた。
【0084】
〔焼結膜の体積抵抗率の測定〕
作製した金属微粒子分散体をガラス基材上にスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間、恒温乾燥器で焼結することにより焼結膜を得た。測定により得られた抵抗値及び焼結膜厚より見積もられた体積抵抗率は、4.7E-4Ω・cmであった。
【0085】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0086】
(実施例4)
(銀微粒子の合成)
比較例1に使用した銀微粒子分散体は、WO2015/075929号公報記載の実施例の[サンプル1]に記載されている方法を参考に作製した。
【0087】
具体的には、n-オクチルアミン(東京化成工業社製)14.7g(114mmol)と、N,N-ジブチルエチレンジアミン(東京化成工業社製)13.1g(76mmol)と、オレイルアミン(東京化成工業社製)2.68g(10mmol)と、オレイン酸(東京化成工業)0.43g(1.51mmol)と、を混合し、アミン混合液を調製した。
【0088】
一方、シュウ酸(関東化学社製)水溶液と硝酸銀(関東化学社製)水溶液とを混合して、シュウ酸銀を合成した。
【0089】
アミン混合液にシュウ酸銀15gを加え、得られた反応液を30℃で約15分間撹拌し、白色の銀錯化合物を得た。さらに、反応液を110℃で約10分間撹拌した。数分間の二酸化炭素の発泡の後、青褐色の銀微粒子が分散した懸濁液を得た。
【0090】
(銀微粒子のデカンテーション)
懸濁液にメタノール(関東化学社製)を100mL加えて遠心分離し、上澄み液を除去し、銀微粒子の沈殿物を回収した。
【0091】
(オフセット印刷用銀微粒子インクの作製)
得られた銀微粒子に、1-ブタノール(東京化成工業社製)を加えて、銀濃度が50質量%となるように、銀微粒子分散体を希釈した。分散体のレベリング性を上げるために、フッ素系のレベリング剤をインクに対して1質量%未満加えた。
【0092】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
動的光散乱測定により算出された粒子径分布より、体積平均粒径値は3.4nmと見積もられた。
【0093】
〔焼結膜の体積抵抗率の測定〕
作製した金属微粒子分散体をガラス基材上にスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間恒温・乾燥器で焼結することにより焼結膜を得た。測定により得られた抵抗値及び焼結膜厚より見積もられた体積抵抗率は、6.0E+
1Ω・cmであった。
【0094】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0095】
(比較例1)
(銀微粒子分散体の合成)
実施例1記載の銀微粒子分散体の合成方法により、銀微粒子分散体を得た。
【0096】
(銀微粒子分散体のデカンテーション)
実施例1記載の銀微粒子分散体のデカンテーションにより、銀微粒子分散体を得た。
【0097】
(オフセット印刷用銀微粒子インクの作製)
得られた銀微粒子分散体に銀に対して1-ブタノール混合液を、銀濃度が20質量%になるように添加した。0.5時間程度攪拌することで、褐色の銀微粒子分散体約100gを得た。分散体のレベリング性を上げるために、フッ素系のレベリング剤をインクに対して1質量%未満加えた。
【0098】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
動的光散乱測定により算出された粒子径分布より、体積平均粒径値は15nmと見積もられた。
【0099】
〔小角X線測定による平均一次粒子径の測定〕
USAXS測定により算出された平均一次粒子径は、17nmと見積もられた。
【0100】
〔焼結膜の体積抵抗率の測定〕
作製した金属微粒子分散体をガラス基材上にスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間恒温・乾燥器で焼結することにより焼結膜を得た。測定により得られた抵抗値及び焼結膜厚より見積もられた体積抵抗率は、3.9E-6Ω・cmであった。
【0101】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0102】
(比較例2)
(銀微粒子の合成)
比較例1に使用した銀微粒子分散体は、WO2015/075929号公報記載の実施例の[サンプル1]に記載されている方法を参考に作製した。
【0103】
具体的には、n-オクチルアミン(東京化成工業社製)114mmolと、N、N-ジブチルエチレンジアミン(東京化成工業社製)76mmolと、オレイルアミン(東京化成工業社製)10mmolと、を混合し、アミン混合液を調製した。
【0104】
一方、シュウ酸(関東化学社製)水溶液と硝酸銀(関東化学社製)水溶液とを混合して、シュウ酸銀を合成した。
【0105】
アミン混合液にシュウ酸銀15gを加え、得られた反応液を30℃で約15分間撹拌したところ、白色の銀錯化合物が生成した。さらに、反応液を110℃で約10分間撹拌したところ、数分間の二酸化炭素の発泡の後、青褐色の銀微粒子が分散した懸濁液が得られた。
【0106】
(銀微粒子のデカンテーション)
懸濁液にメタノール(関東化学社製)を100mL加えて遠心分離し、上澄み液を除去し、銀微粒子の沈殿物を回収した。
【0107】
(オフセット印刷用銀微粒子インクの作製)
この銀微粒子に、1-ブタノール(東京化成工業社製)を加えて、銀濃度が50質量%となるように、銀微粒子分散体を希釈した。分散体のレベリング性を上げるために、フッ素系のレベリング剤をインクに対して1質量%未満加えた。
【0108】
〔ヘテロダイン法による粒子径分布の測定〕
動的光散乱測定により算出された粒子径分布より、体積平均粒径値は4.9nmと見積もられた。
【0109】
〔焼結膜の体積抵抗率の測定〕
作製した金属微粒子分散体をガラス基材上にスピンコートすることにより塗布膜を作製した。得られた塗布膜を120℃で30分間恒温・乾燥器で焼結することにより焼結膜を得た。測定により得られた抵抗値及び焼結膜厚より見積もられた体積抵抗率は、7.9E-5Ω・cmであった。
【0110】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0111】
(比較例3)
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
(凸版反転印刷)
比較例3として、金属微粒子インクを使用せずに、ブランケットを凸版及び基材に押し当てた。ブランケットを版及び基材に押し当てることによるブランケット表面の剥離値の変化を測定した。版は、毎回アセトンで洗浄した。基材は、毎回新しいものと交換して実施した。
【0112】
〔ブランケットゴムの剥離値評価〕
ブランケットゴムの剥離値試験結果を表1及び表2にまとめた。
【0113】
表2において、評価の基準は次のとおりである。
転写性について、
○:ブランケット上にインク残がなく、100%基材にインクが転写されたことを示している。転写良好な状態。
△:転写工程後、ブランケット上にインク残がわずかに発生している状態。転写不良な状態。
×:転写工程後、ブランケット上にインクが残留している状態。転写不可能な状態。
画像の形状性について、
○:版のデザインが忠実に再現されており、良好な状態。
△:画像にカケ、非画像部分への印刷等、欠陥が生じている状態。
×:画像が形成されず、印刷不可能な状態。
シリコーンブランケットゴムの着色状態について、
○:無色透明を維持しており、最初の状態から変化がみられない状態。
△:。
×:画像が形成されず、印刷不可能な状態。
を示している。
【0114】
【0115】
【表2】
表1において、比較例3ではインクを塗布せずに印刷を繰り返した。このとき、印刷枚数80枚で剥離値は最初の2倍以上(0.23N/10mm)に上昇し、300枚印刷時には剥離値が4倍以上(0.42N/10mm)に上昇した。シリコーンブランケットには、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂を架橋させる際に生じる低分子量のシリコーンオイルが含まれている。シリコーンブランケットは、この低分子量のシリコーンオイルが表面に徐々に染み出すいわゆるブリーディングを生じることで、インクに対する良好な離型性が付与されることがすでに知られている。ブリーディングが継続的に発生することで、良好な離型性が維持される。しかしながら、本実験では短タクトでの繰り返しの印刷によってブランケット表面のシリコーンオイルが除去されてしまったために、インクを塗布していないにもかかわらず剥離値が上昇したものと考えられる。
【0116】
実施例1では、300枚印刷後においても剥離値の上昇が抑えられており、0.2N/10mmに留まった。また、表2に示した印刷性評価では、印刷300枚枚目において、良好な転写性及び画像形状を示した。また、シリコーンブランケット内部への金属微粒子の含浸に起因する着色も200枚目まで観測されなかった。
【0117】
実施例2では、リシノール酸濃度が金属に対して5質量%含まれるインクを使用した。当該インクを用いた際には、300枚印刷後においても剥離値の上昇は観測されず、最初の剥離値と同じ値を示した。これは、ブランケットゴムの膨潤によるシリコーンオイルの過剰な溶出が抑制されたことに加えて、リシノール酸がシリコーンオイルの代わりに表面に残留し、良好な離型性を維持しているためと示唆される。また、表2に示した印刷性評価では、印刷300枚目において、良好な転写性及び画像形状を示した。また、ブランケットゴムの着色も300枚目まで観測されなかった。当該インクがオフセット印刷において良好な耐刷性を有することを示した。ブランケット表面に残っているリシノール酸がインクによるブランケットゴムの膨潤を抑制すると共に、金属微粒子の含浸を抑制したと示唆される。
【0118】
実施例3及び4では、カルボン酸として、12-ヒドロキシステアリン酸又はオレイン酸を使用したインクを用いた。300枚印刷後においても剥離値の上昇が抑えられており、0.2~0.3N/10mmに留まった。また、表2に示した印刷性評価において、比較例1及び2と比較して、ブランケットゴムの着色も抑制され、良好な転写性及び画像形状を示した。
【0119】
比較例1は、実施例1、2及び3と同一のアミンを使用しているが、カルボン酸を含有しないオフセット印刷用銀微粒子インクである。当該インクを用いた場合においては、300枚目印刷時の剥離値は0.60N/10mmを示し、リシノール酸又は12-ヒドロキシステアリン酸を加えた場合よりも高い剥離値を示した。また、表2に示した印刷性評価において、50枚目にはブランケットゴムの着色が観測され、100枚目には良好な画像は得られなかった。
【0120】
比較例2は、実施例4と同一のアミンを使用しているが、カルボン酸を含有しないオフセット印刷用銀微粒子インクである。当該インクを用いた場合においては、300枚目印刷時の剥離値は0.75N/10mmを示し、オレイン酸を加えた場合よりも高い剥離値を示した。また、表2に示した印刷性評価において、50枚目にはブランケットゴムの着色が観測され、良好な画像は得られなかった。これら結果は、インク中にカルボン酸を加えることにより、カルボン酸が金属微粒子の保護剤として作用し、金属微粒子表面の極性が高まったことによると考えられる。これにより、ブランケットへの金属微粒子の含浸が抑制され、ブランケットゴムの着色が抑制されたと推察される。したがって、剥離値の上昇が抑えられ、連続印刷時の耐刷性が向上したと示唆される。
【0121】
本発明のオフセット印刷用金属微粒子インクは、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、設計変更を施すことができる。