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特許7258205リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
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  • 特許-リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池 図1
  • 特許-リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230407BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230407BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230407BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230407BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230407BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230407BHJP
   H01M 4/133 20100101ALN20230407BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALN20230407BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/133
H01M10/0567
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022089633
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-06-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】河野 佑軌
(72)【発明者】
【氏名】植野 杏香
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105449272(CN,A)
【文献】国際公開第2020/026853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566-10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む、リチウムイオン電池用電極であって、
R-SO (1)
[式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。]
当該電極が正極活物質層を有し、前記正極活物質層が、正極活物質として、LNi(1-x-y)Co(但し、0≦x≦0.40、0≦y≦0.40、かつ0.90≦z≦1.20であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、リチウムイオン電池用電極。
【請求項2】
下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む、リチウムイオン電池用電極であって、
R-SO (1)
[式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。]
当該電極が、対向配置された正極及び負極と、電解液と、を備える、リチウムイオン電池の負極として用いられるものであり、
前記正極が正極活物質層を有し、前記正極活物質層が、正極活物質として、LNi(1-x-y)Co(但し、0≦x≦0.40、0≦y≦0.40、かつ0.90≦z≦1.20であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、リチウムイオン電池用電極。
【請求項3】
前記スルホン酸化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用電極。
(R-SO [Ni]2+ (2)
[式(2)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。]
【請求項4】
Rが、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
対向配置された正極及び負極と、電解液と、を備え、
前記正極又は前記負極のうち少なくとも一方が、下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含み、
前記正極が正極活物質層を有し、前記正極活物質層が、正極活物質として、LNi(1-x-y)Co(但し、0≦x≦0.40、0≦y≦0.40、かつ0.90≦z≦1.20であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、リチウムイオン電池。
R-SO (1)
[式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。]
【請求項6】
前記スルホン酸化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項に記載のリチウムイオン電池。
(R-SO [Ni]2+ (2)
[式(2)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池においては、充放電を繰り返した場合、電極表面での電解液の分解によりリチウム損失が発生し、その結果、電池の容量が低下する傾向がある。そのため、電極表面での電解液の分解を防ぐ方法として、電極表面上に被膜を形成する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、サイクル特性及び保存特性を改善するために、特定のスルホン酸リチウム塩を負極スラリーに添加して分散し、このスラリーを塗布し、乾燥することによって、負極活物質の表面にスルホン酸リチウム塩が付着することが記載されている。また、特許文献2には、保存後の電池抵抗を低減するために、電解質としてのLiPF及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)と、添加剤としてトリフルオロメチルスルホン酸リチウムとを含む非水電解液を使用した電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2014/119375号
【文献】国際公開2020/026853号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高温でリチウムイオン電池の充放電を繰り返した際に、高い容量を維持することが可能な、リチウムイオン電池用電極に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む、リチウムイオン電池用電極に関する。
R-SO (1)
式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。
【0006】
本発明の別の一側面は、対向配置された正極及び負極と、電解液と、を備え、正極又は負極のうち少なくとも一方が、下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む、リチウムイオン電池に関する。
R-SO (1)
式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、高温でリチウムイオン電池の充放電を繰り返したときに、高い容量を維持することが可能な、リチウムイオン電池用電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リチウムイオン電池用電極の一例を示す断面図である。
図2】リチウムイオン電池の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のいくつかの実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0010】
図1は、リチウムイオン電池用電極の一例を模式的に示す断面図である。図1に示されるリチウムイオン電池用電極10は、集電体11と活物質層12とを備えている。活物質層12は、図1に示されるように、集電体11の片面上に設けられていてもよく、集電体11の両面上に設けられていてもよい。
【0011】
リチウムイオン電池用電極10の一例は、下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む。
R-SO (1)
式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。
【0012】
リチウムイオン電池用電極10が、式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む場合、当該スルホン酸化合物を含まない場合と比べ、リチウムイオン電池用電極10を用いて作製したリチウムイオン電池において、リチウムイオン電池用電極10の表面における電解液の分解が抑制され得る。このことが、リチウムイオン電池の充放電を繰り返したときの、抵抗の上昇の抑制、及び高い容量の維持に寄与すると考えられる。
【0013】
Rとしてのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基は、非置換であってもよく、1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0014】
フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基の炭素数は、1、2、3、4、又は5である。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、及びトリフルオロメチル基が挙げられる。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基は、電池抵抗を低減する観点から、メチル基、エチル基、又はt-ブチル基であることが好ましい。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基がフッ素原子で置換されていてもよいメチル基である場合、電池抵抗をより低減することができる。
【0015】
フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基の炭素数は、2、3、4、又は5である。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、及び1、1―ジフルオロ-1-プロペニル基が挙げられる。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基は、フッ素原子で置換されていてもよいビニル基であることが好ましい。
【0016】
フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基の炭素数は、2、3、4、又は5である。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基の例としては、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、及び3-ブチニル基が挙げられる。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基は、フッ素原子で置換されていてもよい2-プロピニル基であることが好ましい。
【0017】
フッ素原子で置換されていてもよいアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、ペンタフルオロフェニル基、キシリル基、及びナフチル基が挙げられる。
【0018】
Niカチオンは、2価、3価、又は4価のNiカチオンであってもよい。リチウムイオン電池の充放電を繰り返したときの、抵抗の上昇及び容量の低下を更に抑える観点から、Niカチオンは、2価のNiカチオンであってもよい。
【0019】
スルホン酸化合物は、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
(R-SO [Ni]2+ (2)
式(2)中のRは、上記式(1)中のRと同義である。
【0020】
上記式(2)で表される化合物の例としては、メタンスルホン酸ニッケル(II)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)、エタンスルホン酸ニッケル(II)、プロパンスルホン酸ニッケル(II)、ペンタンスルホン酸ニッケル(II)、ビニルスルホン酸ニッケル(II)、アリルスルホン酸ニッケル(II)、プロピニルスルホン酸ニッケル(II)、ベンゼンスルホン酸ニッケル(II)、及びペンタフルオロベンゼンスルホン酸ニッケル(II)が挙げられる。
【0021】
上述したスルホン酸化合物は、リチウムイオン電池用電極10の表面に付着していてもよい。より具体的には、上述したスルホン酸化合物は、活物質層12の表面に付着していてもよい。
【0022】
スルホン酸化合物を活物質層12の表面に付着させる方法としては、例えば、上述したスルホン酸化合物を含む溶液に、リチウムイオン電池用電極を含侵させる工程を含む方法が挙げられる。含侵させる時間は、例えば、48時間未満、又は24時間未満であってもよく、1時間以上であってもよい。また、電極を含侵させる溶液の温度は、例えば、室温(25℃)~40℃であってもよい。スルホン酸化合物を含む溶液は、リチウムイオン電池における電解液であってもよい。
【0023】
リチウムイオン電池においては、初期の充放電時に、電極表面で電気化学反応が起こり、活物質層等の表面上に固体電解質界面(SEI)と呼ばれる被膜(以下、「SEI被膜」ともいう)が形成されることが知られている。リチウムイオン電池用電極10は、SEI被膜を有していてもよく、より具体的には、活物質層12の表面上に形成されたSEI被膜を有していてもよい。これらの場合、上述したスルホン酸化合物は、SEI被膜に含まれていてもよい。
【0024】
リチウムイオン電池用電極10は、リチウムイオン電池に用いられる電極であり、正極であってもよく、負極であってもよい。リチウムイオン電池用電極10がリチウムイオン電池用正極である場合、集電体11は、正極集電体であり、活物質層12は、正極活物質層である。また、リチウムイオン電池用電極10がリチウムイオン電池用負極である場合、集電体11は、負極集電体であり、活物質層12は、負極活物質層である。
【0025】
正極集電体は、電子伝導性を有する材料を含んでいてもよい。電子伝導性を有する材料の例としては、カーボン、チタン、クロム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、アルミニウム等の導電性物質、及び導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス)が挙げられる。正極集電体の材料は、電子伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性に優れる観点から、カーボン、アルミニウム、又はステンレスであってもよく、コストの観点から、アルミニウムであることが好ましい。
【0026】
正極集電体は、箔(箔状)であってもよい。正極集電体が箔である場合、更なる高容量化を図る観点から、正極集電体は、その表面にプライマー層を有していてもよい。
【0027】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質は、リチウム含有複合酸化物であることが好ましい。リチウム含有複合酸化物の例としては、LiMnO、LiFeO、LiMn、LiFeSiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi(1-x-y)Co(但し、0≦x≦0.40、0≦y≦0.40、かつ0.90≦z≦1.20であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)、LiFePO、及びLi (1-x)(但し、0≦x≦0.1、かつ0.97≦z≦1.20であり、Mは、Mn、Ni、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)が挙げられる。電池の更なる高容量化を図る観点から、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1又はLiNi(1-x-y)Co(但し、0≦x≦0.40、0≦y≦0.40、かつ0.90≦z≦1.20であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)であることが好ましい。
【0028】
負極集電体は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、及びステンレス等の金属を含んでいてもよい。加工容易性及びコストの観点から、負極集電体は銅を含んでいてもよい。負極集電体は、箔(箔状)であってもよい。負極集電体は、その表面が粗面化処理されていてもよい。
【0029】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、例えば、リチウムを吸蔵、放出することができる材料である。負極活物質の例としては、黒鉛及び非晶質炭素等の炭素材料、並びに、酸化インジウム、酸化シリコン、酸化スズ、チタン酸リチウム、酸化亜鉛及び酸化リチウム等の酸化物材料が挙げられる。また、負極活物質は、リチウム金属、又はリチウムと合金を形成することができる金属材料であってもよい。リチウムと合金を形成することができる金属の例は、Cu、Sn、Si、Co、Mn、Fe、Sb、及びAgを含む。負極活物質が、これらの金属とリチウムとを含む2種又は3種の金属を含む合金を含んでもよい。これらの例示された負極活物質は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0030】
高エネルギー密度化の観点から、負極活物質が、黒鉛及び非晶質炭素等の炭素材料と、Si、Si合金、及びSi酸化物等から選ばれるSi系の活物質とを含んでもよい。この場合、炭素材料とSi系の活物質との合計質量に対するSi系の活物質の質量の比は、0.5質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上であってもよく、95質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下であってもよい。
【0031】
正極活物質層及び負極活物質層は、結着剤を更に含んでいてもよい。結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩、ポリビニルアルコール、アクリル酸-ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、およびこれらの共重合体が挙げられる。正極活物質層及び負極活物質層は、互いに同一の又は互いに異なる結着剤を含んでいてもよい。正極活物質層が結着剤を含む場合、正極活物質層に含まれる結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であることが好ましい。負極活物質層が結着剤を含む場合、負極活物質層に含まれる結着剤は、サイクル特性に更に優れる観点から、SBR、CMC、ポリアクリル酸、又はこれらを含む共重合体であってもよい。
【0032】
リチウムイオン電池の一例は、対向配置された正極及び負極と、電解液と、を備え、正極又は負極のうち少なくとも一方が、上述したスルホン酸化合物を含む。正極及び負極は、上述したリチウムイオン電池用電極であってもよい。
【0033】
図2は、リチウムイオン電池の一例を模式的に示す断面図である。図2に示されるリチウムイオン電池1は、交互に積層された負極4及び正極9と、負極4と正極9との間に配置された電解液5と、電解液5中に設けられたセパレータ6と、を備える。リチウムイオン電池1は、7層の負極4及び6層の正極9を備えているが、図2において、繰り返される構造の一部は省略されている。負極4は、負極集電体3と負極集電体3の両側に設けられた負極活物質層2とを有する。正極9は、正極集電体8と正極集電体8の両側に設けられた正極活物質層7とを有する。正極9は、上述した正極集電体と正極活物質層とを備えるリチウムイオン電池用正極である。また、負極4は、上述した負極集電体と負極活物質層とを含むリチウムイオン電池用負極である。
【0034】
電解液5は、具体的には、非水溶媒と、電解質と、を含有する。電解液5は、非水電解液であることが好ましい。
【0035】
非水溶媒は、電解液5の粘度を低く抑える観点から、非プロトン性溶媒であることが好ましい。非プロトン性溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステル、ラクトン、ラクタム、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン、ニトリル及びこれらのハロゲン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。非プロトン性溶媒は、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを含んでもよく、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの組み合わせを含むことが好ましい。
【0036】
環状カーボネートの例としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、及び炭酸フルオロエチレンが挙げられる。鎖状カーボネートの例としては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、及び炭酸エチルメチルが挙げられる。脂肪族カルボン酸エステルの例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、及びトリメチル酢酸メチルが挙げられる。ラクトンの例としては、γ-ブチロラクトンが挙げられる。ラクタムの例としては、ε-カプロラクタム、及びN-メチルピロリドンが挙げられる。環状エーテルの例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、及び1,3-ジオキソランが挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジエトキシエタン、及びエトキシメトキシエタンが挙げられる。スルホンの例としては、スルホランが挙げられる。ニトリルの例としては、アセトニトリルが挙げられる。ハロゲン誘導体の例としては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンが挙げられる。非水溶媒は、これらから選ばれる1種又は2種以上の化合物を含んでもよい。
【0037】
電解液5における非水溶媒の含有量は、電解液5の全質量を基準として、例えば70~99質量%である。
【0038】
電解質は、リチウムイオンのイオン源となるリチウム塩であってもよい。電解質は、LiAlCl、LiBF、LiPF、LiClO、LiTFSI(リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド)、LiFSI(リチウムビスフルオロスルホンイミド)、LiAsF及びLiSbFからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム塩(第1のリチウム塩)を含んでもよい。解離度が高く電解液のイオン伝導度を高めることができ、更に耐酸化還元特性により長期間の使用による蓄電デバイスの性能劣化を抑制する作用がある等の観点から、電解質が、LiBF、LiPF又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0039】
電解質がLiBF、LiPF又はこれらの組み合わせである場合に、非水溶媒が環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含んでいてもよい。好ましくは、LiBF及び/又はLiPFと、炭酸エチレン及び炭酸ジエチルとを組み合わせる。
【0040】
電解液5における電解質の濃度は、電解液5の全体積を基準として、0.1mol/L以上であることが好ましく、2.0mol/L以下であることが好ましい。電解液5の全体積を基準とした電解質の濃度が0.1mol/L以上であると、電解液5の良好な導電性が得られやすく、2.0mol/L以下であると、電解液5の粘度上昇を抑制して、イオンの移動度を特に容易に確保することができる。同様の観点から、電解質の濃度が、電解液5の全体積を基準として0.5mol/L以上であることがより好ましく、1.5mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0041】
電解液5が、上記したリチウム塩(第1のリチウム塩)と、第1のリチウム塩とは異なる1種以上の第2のリチウム塩とを含んでもよい。第2のリチウム塩の例としては、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート(LiTFOP)、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート(LiDFOP)、テトラフルオロホウ酸リチウム、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、及びLiPOF等のリン酸骨格を有するリチウム塩、並びに、リチウムトリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ボレート、リチウムペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホスフェート、リチウムメチルサルフェート、リチウムエチルサルフェート、リチウム2,2,2-トリフルオロエチルサルフェート、及びフルオロスルホン酸リチウム等のS(=O)基を有するリチウム塩が挙げられる。第2のリチウム塩は、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート、リチウムメチルサルフェート、リチウムエチルサルフェート、及びフルオロスルホン酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上のリチウム塩を含んでもよい。
【0042】
電解液5における第2のリチウム塩の濃度は、電解液5の全体積を基準として、1.0mol/L以下であってもよい。第2のリチウム塩の濃度が1.0mol/L以下であると、電解液5の粘度が上昇しにくいため、イオンの移動度を充分に確保できる。同様の観点から、第2のリチウム塩の濃度は0.8mol/L以下、又は0.5mol/L以下であってもよい。
【0043】
電解液5は、添加剤として、上述したスルホン酸化合物を含んでいてもよい。電解液5がスルホン酸化合物を含む場合、正極9及び/又は負極4(リチウムイオン電池用電極)を電解液5に含侵させることにより、正極9が有する正極活物質層7、及び/又は、負極4が有する負極活物質層2の表面上に、スルホン酸化合物を付着させることができる。また、正極活物質層7及び/又は負極活物質層2の表面上にスルホン酸化合物を付着させた後、リチウムイオン電池1の充放電が行われ、正極活物質層7及び/又は負極活物質層2の表面上にSEI被膜が形成されると、形成されたSEI被膜にスルホン酸化合物が含まれ得る。当該スルホン酸化合物は、正極活物質層7又は負極活物質層2のどちらかの表面上にのみ付着していてもよいが、より抵抗を抑制する観点から正極活物質層7及び負極活物質層2の表面上に付着していることが好ましい。
【0044】
電解液5におけるスルホン酸化合物の濃度は、電解液5全量を基準として、0.05mmol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mmol/L以上であり、さらに好ましくは0.2mmol/L以上である。また、電解液5におけるスルホン酸化合物の濃度は、電解液5全量を基準として、1.0mol/L以下であってもよい。
【0045】
電解液5は、添加剤として、スルホニル基(>S(=O))を有する、式(1)のスルホン酸化合物とは異なる化合物を含んでいてもよい。このスルホニル基を有する化合物の例としては、1,3-プロパンサルトン、1-プロペン1,3-スルトン、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-2,2-ジオキシド、2-(メタンスルホニル)エチルメタンスルホネート、2-(メタンスルホニル)エチルエタンスルホネート、2-(メタンスルホニル)エチルビニルスルホネート、2-(メタンスルホニル)エチルフェニルスルホネート、3-トリフルオロメタンスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-メタンスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-ビニルスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-メタリルスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、ベンゼンスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-メタンスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド-2エン、4-メタンスルホニルテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-メタンスルホニルオキシテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-ビニルスルホニルオキシテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-メタリルスルホニルオキシテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、ベンゼンスルホニルオキシテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-メタンスルホニルオキシテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド-2エン、4-メタンスルホニルオキシテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、及びメチレンメタンジスルホン酸エステルが挙げられる。これらの化合物は単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。電解液5がスルホニル基を有する化合物を含む場合、リチウムイオン電池1が充放電されると、正極活物質層7及び/又は負極活物質層2の表面上での電気化学反応の結果、スルホニル基を有する化合物に由来するスルホン酸アニオンとNiカチオンとを含む上述のスルホン酸化合物が生成することがある。その場合、スルホン酸化合物を含むSEI被膜が形成され得る。当該スルホン酸化合物は、正極活物質層7又は負極活物質層2のどちらかの表面上にのみ付着していてもよいが、より抵抗を抑制する観点から正極活物質層7及び負極活物質層2の表面上に付着していることが好ましい。
【0046】
電解液5におけるスルホニル基を有する化合物の濃度は、特に制限されないが、経済的な観点から、電解液5の全質量を基準として、0.005質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上である。また、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
【0047】
電解液5は、上述したスルホン酸化合物及びスルホニル基を有する化合物とは異なる、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤の例としては、上述したスルホン酸化合物及びスルホニル基を有する化合物以外の硫黄原子を含む化合物、負極保護剤、正極保護剤、難燃剤、過充電防止剤、環状カーボネート化合物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、アセチレン-1,2-ジイル基(-C≡C-)を有する化合物、リン酸エステル化合物、酸無水物、環状ホスファゼン化合物、ホウ素原子を含む化合物、及びケイ素原子を含む化合物が挙げられる。
【0048】
スルホン酸化合物及びスルホニル基を有する化合物以外の硫黄原子を含む化合物の例としては、1,3,2-ジオキサチオラン-2-オキシド、及び1,3,2-ジオキサチアン-2-オキシドが挙げられる。
【0049】
環状カーボネート化合物の例としては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランス若しくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(DFEC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)が挙げられる。環状カーボネート化合物が、VC、FEC、VEC又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0050】
ニトリル化合物の例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル等のモノニトリル化合物、及び、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、セバコニトリル等のジニトリル化合物が挙げられる。ニトリル化合物が、スクシノニトリル、アジポニトリル又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0051】
イソシアネート化合物の例としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチルアクリレート、及び2-イソシアナトエチルメタクリレートが挙げられる。
【0052】
アセチレン-1,2-ジイル基(-C≡C-)を有する化合物の例としては、2-プロピニルメチルカーボネート、酢酸-2-プロピニル、ギ酸-2-プロピニル、メタクリル酸-2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オキサレート、メチル-2-プロピニルオキサレート、エチル-2-プロピニルオキサレート、グルタル酸ジ(2-プロピニル)、及び2-ブチン-1,4-ジイルジホルメートが挙げられる。
【0053】
リン酸エステル化合物の例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)2,2-ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2-ジフルオロエチル)2,2,2-トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)2,2,2-トリフルオロエチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)メチル、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル)、メチレンビスホスホン酸メチル、メチレンビスホスホン酸エチル、エチレンビスホスホン酸メチル、エチレンビスホスホン酸エチル、ブチレンビスホスホン酸メチル、ブチレンビスホスホン酸エチル、メチル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、エチル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、メチル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、エチル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、メチル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、エチル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、メチル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、エチル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、ピロリン酸メチル、及びピロリン酸エチルが挙げられる。
【0054】
酸無水物の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、3-アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、及び無水イタコン酸が挙げられる。
【0055】
環状ホスファゼン化合物の例としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、及びエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼンが挙げられる。
【0056】
ホウ素原子を含む化合物の例としては、ボロキシン、トリメチルボロキシン、トリメトキシボロキシン、トリエチルボロキシン、トリエトキシボロキシン、トリイソプロピルボロキシン、トリイソプロポキシボロキシン、トリn-プロピルボロキシン、トリn-プロポキシボロキシン、トリn-ブチルボロキシン、トリn-ブチロキシボロキシン、トリフェニルボロキシン、トリフェノキシボロキシン、トリシクロヘキシルボロキシン、及びトリシクロヘキソキシボロキシンが挙げられる。
【0057】
ケイ素原子を含む化合物の例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサエチルシクロトリシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリメチルフルオロシラン、トリエチルフルオロシラン、トリプロピルフルオロシラン、フェニルジメチルフルオロシラン、トリフェニルフルオロシラン、ビニルジメチルフルオロシラン、ビニルジエチルフルオロシラン、ビニルジフェニルフルオロシラン、トリメトキシフルオロシラン、トリエトキシフルオロシラン、ジメチルジフルオロシラン、ジエチルジフルオロシラン、ジビニルジフルオロシラン、エチルビニルジフルオロシラン、メチルトリフルオロシラン、エチルトリフルオロシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3-ジエチルテトラメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、テトラメトキシシラン、ビス(トリメチルシリル)パーオキサイド、酢酸トリメチルシリル、酢酸トリエチルシリル、プロピオン酸トリメチルシリル、メタクリル酸トリメチルシリル、トリフルオロ酢酸トリメチルシリル、トリス(トリメチルシロキシ)ボロン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、及びトリス(トリメチルシリル)ホスファイトが挙げられる。
【0058】
セパレータ6は、例えば、多孔質フィルム又は不織布であってもよい。セパレータ6は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びフッ素樹脂等から選ばれる樹脂を含んでいてもよく、高分子電解質を含んでいてもよい。セパレータ6は、単層であってもよく、複数の層を有していてもよい。
【0059】
リチウムイオン電池を構成する各部材の形状、厚み等の具体的な形態は、当業者であれば適宜設定することができる。リチウムイオン電池の構成は、図2の実施形態に限られず、適宜変更が可能である。
【実施例
【0060】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。
【0061】
1.リチウムイオン電池の作製
<実施例1>
電池要素の作製
リチウム含有複合酸化物を含む正極シート(株式会社八山製)、及び、黒鉛を含む負極シート(株式会社八山製)を準備した。正極シートは、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ20μm)と、その両面上に形成された、正極活物質層とを有していた。正極活物質層は、正極活物質としてのリチウム含有複合酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)、導電性付与剤としてのカーボンブラック(CB)及びカーボン(KS)、並びに結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含んでいた。これらの質量比は、リチウム含有複合酸化物:CB:KS:PVDF=92:2.5:2.5:3であった。負極シートは、負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)と、その片面上に形成された負極活物質層とを有していた。負極活物質層は、負極活物質としての黒鉛(Gr)、並びに結着剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)を含んでいた。これらの質量比は、Gr:CMC:SBR=98:1:1であった。負極シート及び正極シートを、プロピレンからなるセパレータを介して交互に積層し、電極として7層の負極シート及び6層の正極シートの合計13層を有する電池要素を作製した。
【0062】
非水電解液の作製
炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(EMC)とをEC:EMC=30:70の体積組成比で含む混合非水溶媒(キシダ化学株式会社製)に対して、電解質としてLiPFを溶解し、濃度1mol/LのLiPF溶液を得た。このLiPF溶液に対して、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)(東京化成工業株式会社製)を加え、非水電解液を作製した。トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)の濃度は、非水電解液全量を基準として0.4mmol/Lであった。
【0063】
リチウムイオン電池の作製
上記方法により作製した電池要素を、アルミニウム(厚さ40μm)とその両面を被覆する樹脂層とを有するラミネートフィルムから形成された袋に、正極シート及び負極シートの端部が袋から突き出るように挿入した。さらに、上記方法により作製した非水電解液を袋に加え、室温(27℃)で5時間静置することにより電極を非水電解液に含侵させて、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)が付着した正極活物質層又は負極活物質層を含む電極(正極シート及び負極シート)を有するリチウムイオン電池を得た。
【0064】
<実施例2>
非水電解液の作製の際、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)に代えてベンゼンスルホン酸ニッケル(II)(東京化成工業株式会社製)を、非水電解液全量を基準としたときの濃度が0.14mmol/Lとなるように加えたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を得た。
【0065】
<比較例1>
非水電解液の作製の際、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)を加えないこと以外は実施例1と同様にして、非水電解液を作製し、リチウムイオン電池を得た。
【0066】
<比較例2>
非水電解液の作製の際、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)に代えてトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(Aldrich社製)を、非水電解液全量を基準としたときの濃度が0.4mmol/Lとなるように加えたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を得た。
【0067】
<比較例3>
非水電解液におけるトリフルオロメタンスルホン酸リチウムの濃度を、非水電解液全量を基準として、0.14mmol/Lとしたこと以外は比較例2と同様にして、比較例2と同様にして、リチウムイオン電池を得た。
【0068】
2.評価
実施例および比較例で得られたリチウムイオン電池を、25℃において、0.1Cに相当する電流で1時間充電した後、25℃で10時間保持した。その後0.1Cに相当する電流で5時間充電を行い、45℃において24時間保持した。次いで、25℃において、0.1Cに相当する電流で3Vまで放電した後、ガス抜きを実施した。続いて、0.2Cに相当する電流で4.2Vまで充電し、0.2Cに相当する電流で3Vまで放電する操作を3サイクル繰り返し、0.5Cに相当する電流で4.2Vまで充電し、0.5Cに相当する電流で3.0Vまで放電する操作を3サイクル繰り返し、1Cに相当する電流で4.2Vまで充電し、1Cに相当する電流で3.0Vまで放電する操作を3サイクル繰り返す操作を順に行うことによりエージングし、電池を安定させた。その後、初期充放電として、2.0Cに相当する電流で充放電を行った。初期充放電において観測される放電容量を「初期容量」とした。
【0069】
(初期DCRの測定)
初期充放電後のリチウムイオン電池を初期容量の50%の容量まで充電し、次いで-10℃において0.2Cに相当する電流で放電し、電池電圧の変化を観察した。その後、10分間の休止を入れながら、放電における電流(放電レート)を0.5C、1.0C、及び2.0Cに変化させて充電及び放電を繰り返したときの電圧の変化を読み取り、その値からDCR(Ω)を「初期DCR(Ω)」として算出した。DCRは電池の抵抗値に相当する値であり、DCR値が低いほど、電池の出力特性が高いといえる。
【0070】
(サイクル後DCR及び放電容量維持率の測定)
続いて、初期DCRの測定を実施した各実施例および比較例のリチウムイオン電池について、45℃条件下、充電レートを2C、放電レートを2C、充電終止電圧を4.2V、及び、放電終止電圧を3.0Vとした充放電サイクルを400サイクル繰り返す充放電サイクル試験を行った。400サイクル時の放電容量を「サイクル後容量」とした。
【0071】
さらに、充放電サイクル試験後に、サイクル後容量の50%容量を充電し、放電することを繰り返す上記(初期DCRの測定)と同様の方法によりDCRを測定し、その値を「サイクル後DCR(Ω)」とした。
【0072】
表1に、各実施例及び比較例に係るリチウムイオン電池の、初期DCR、サイクル後DCRおよび放電容量維持率を示す。なお、表1中の「放電容量維持率」は、下記式により求められる値である。
「放電容量維持率」={(サイクル後容量)/(初期容量)}×100
【0073】
【表1】
【0074】
表1のとおり、式(1)で示されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含む化合物を含む電極を用いた、実施例1及び実施例2では、リチウムイオン電池の高温でのサイクル試験において高い容量が維持されていた。また、比較例1と比べて、高温でのサイクル試験後の抵抗値の上昇が抑制されることも確認された。
【符号の説明】
【0075】
10…リチウムイオン電池用電極、11…集電体、12…活物質層、1…リチウムイオン電池、2…負極活物質層、3…負極集電体、4…負極、5…電解液、6…セパレータ、7…正極活物質層、8…正極集電体、9…正極。
【要約】
【課題】本発明は、高温でリチウムイオン電池の充放電を繰り返した際に、高い容量を維持することが可能な、リチウムイオン電池用電極に関する。
【解決手段】下記式(1)で表されるスルホン酸アニオンと、Niカチオンと、を含むスルホン酸化合物を含む、リチウムイオン電池用電極が開示される。
R-SO (1)
[式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルケニル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数2~5のアルキニル基、又はフッ素原子で置換されていてもよいアリール基を示す。]
【選択図】図1
図1
図2