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特許7258224T細胞性リンパ腫の指標の検出方法、及びその利用
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  • 特許-T細胞性リンパ腫の指標の検出方法、及びその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】T細胞性リンパ腫の指標の検出方法、及びその利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230407BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230407BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230407BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230407BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230407BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/574 A ZNA
C07K16/18
A61K45/00 101
A61P43/00 105
A61P35/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022508080
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000344
(87)【国際公開番号】W WO2021186855
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020045564
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 明理
(72)【発明者】
【氏名】中村 元樹
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-510647(JP,A)
【文献】特表2011-518173(JP,A)
【文献】国際公開第2017/184082(WO,A1)
【文献】ZAIN, Jasmine,Role of Histone Deacetylase Inhibitors in the Treatment of Lymphomas and Multiple Myeloma,Hematology/Oncology Clinics of North America,2012年06月,26(3),671-704
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む、T細胞性リンパ腫の指標の検出方法。
【請求項2】
前記アセチル化チューブリンを検出する工程は、抗アセチル化チューブリン抗体を用いた免疫学的方法、又は質量分析法によってアセチル化チューブリンを検出する工程である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
抗アセチル化チューブリン抗体を備える、T細胞性リンパ腫の検査キット。
【請求項4】
薬剤が投与された被験体におけるT細胞性リンパ腫の抑制効果を評価するための指標の検出方法であって、
薬剤が投与された被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む、検出方法。
【請求項5】
被験試料がT細胞性リンパ腫に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する評価方法であって、
T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞に被験試料を接触させる工程と、
前記被験試料を接触させたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程と、を含む評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞性リンパ腫の指標の検出方法、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞性リンパ腫は、リンパ球の一種であるT細胞の癌化によって生じる。T細胞性リンパ腫が発生する部位は、リンパ系組織と、リンパ外臓器(節外臓器)との2つに大別される。リンパ系組織は、病原体(例えば、細菌、又はウイルス)の排除などの免疫機能を担当する、組織、又は臓器である。リンパ系組織の具体例としては、リンパ節、胸部付近に存在する胸腺、脾臓、及び扁桃などが挙げられる。リンパ外臓器の具体例としては、骨髄、肺、大腸、小腸、及び皮膚などが挙げられる。リンパ系組織、及びリンパ外臓器は、全身に分布しているため、T細胞性リンパ腫は、全身のあらゆる部位に発生する可能性がある。
【0003】
皮膚に発生するT細胞性リンパ腫は、皮膚T細胞性リンパ腫(Cutaneous T Cell Lymphoma:CTCL)と称される。CTCLに含まれる疾患の具体例としては、菌状息肉症、セザリー症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(例えば、未分化大細胞性リンパ腫)、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫などが挙げられる。
【0004】
T細胞性リンパ腫の診断としては、病変部の視診による診断、及び、病変部から採取された組織を用いた生体組織診断などが挙げられる。生体組織診断の具体例としては、遺伝子解析に基づく診断(特許文献1及び2参照)、及び、病変部から採取された組織中のT細胞の癌化の検査に基づく診断などが挙げられる。T細胞の癌化を検査する方法の具体例としては、癌化したT細胞のマーカー分子であるCCR4を蛍光染色する方法などが挙げられる(特許文献3参照)。また、抗CCR4抗体を用いた、CCR4陽性細胞を標的とした投薬によって、T細胞性リンパ腫を治療する研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/178432
【文献】特表2005-518790号公報
【文献】特表2013-517464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
癌細胞は、様々に変化しながら、その悪性度が変化する。癌細胞を様々な段階(例えば、早期)にて検出することができれば、癌の治療を容易にできる可能性がある。それ故に、新たなT細胞性リンパ腫の診断のための指標の検出方法の開発が求められていた。
【0007】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、新たなT細胞性リンパ腫の指標の検出方法を提供することにある。
【0008】
本発明によれば、新たなT細胞性リンパ腫の指標の検出方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、T細胞性リンパ腫にて、アセチル化チューブリンが多量に発現していることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するために、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0011】
〔1〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法は、被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む。
【0012】
〔2〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の検査キットは、抗アセチル化チューブリン抗体を備える。
【0013】
〔3〕本発明の一態様に係る検出方法は、薬剤が投与された被験体におけるT細胞性リンパ腫の抑制効果を評価するための指標の検出方法であって、薬剤が投与された被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む。
【0014】
〔4〕本発明の一態様に係る評価方法は、被験試料がT細胞性リンパ腫に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する評価方法であって、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞に被験試料を接触させる工程と、前記被験試料を接触させたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程と、を含む。
【0015】
〔5〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の治療剤は、アセチル化チューブリンの凝集を阻害する剤、及び/又は、チューブリンのアセチル化を阻害する剤を有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、新たなT細胞性リンパ腫の指標の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)~(d)は、本発明の実施形態に係るアセチル化チューブリン陽性細胞の細胞表面マーカー発現パターンを解析した像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0019】
〔1.T細胞性リンパ腫の指標の検出方法〕
本発明の一実施形態に係る「T細胞性リンパ腫の指標の検出方法」は、「T細胞性リンパ腫を診断するための指標の検出方法」であってもよく、「T細胞性リンパ腫を診断するためのデータの取得方法」であってもよく、「T細胞性リンパ腫を診断するための補助方法」であってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法は、被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む。前記T細胞性リンパ腫としては、例えば、菌状息肉症、セザリー症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(例えば、未分化大細胞性リンパ腫)、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫等が挙げられる。
【0021】
(被験体)
被験体は、特に限定されず、例えば、ヒト、及び非ヒト動物を挙げることができる。非ヒト動物は、特に限定されず、例えば、実験動物、愛玩動物、及び家畜を挙げることができ、より具体的に、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、及びウマを挙げることができる。前記被験体は、上述したヒト、又は非ヒト動物から採取された組織(例えば、皮膚組織)であってもよい。
【0022】
(T細胞)
アセチル化チューブリンが検出されるT細胞としては、特に限定されず、例えば、CD4T細胞、CCR4T細胞、CD8T細胞、CD4CCR4T細胞、CD8CCR4T細胞、及びCD4CD8CCR4T細胞を挙げることができる。なお、CD4及びCD8は、T細胞の表面抗原であり、CCR4は、T細胞に存在するケモカインレセプターである。
【0023】
悪性度の高い癌では、CCR4が高頻度にて発現していること、が知られている。それ故に、アセチル化チューブリンが検出されるT細胞は、CD4T細胞、CD8T細胞、CCR4T細胞、CD4CCR4T細胞、CD8CCR4T細胞、又はCD4CD8CCR4T細胞であり得る。アセチル化チューブリンが検出されるT細胞としてCD4T細胞、又はCD8T細胞を用いれば、初期のT細胞性リンパ腫を診断することができる。アセチル化チューブリンが検出されるT細胞としてCCR4T細胞を用いれば、後期のT細胞性リンパ腫を診断することができる。アセチル化チューブリンが検出されるT細胞としてCD4CCR4T細胞、又はCD8CCR4T細胞を用いれば、初期のT細胞性リンパ腫、及び後期のT細胞性リンパ腫の両方を診断することができる。
【0024】
上述した被験体からT細胞を採取する方法は、特に限定されず、例えば、被験体から組織(例えば、皮膚組織)の切片を採取し、当該組織中に含まれている状態にて、T細胞を採取すればよい。
【0025】
(アセチル化チューブリン)
微小管は、主としてα-チューブリン及びβ-チューブリンの重合体によって形成されている、円筒形状のタンパク質繊維である。微小管では、α-チューブリン及びβ-チューブリンの重合及び脱重合が常に生じており、当該重合及び脱重合のバランスによって、細胞の形態、及び細胞の動きが制御されている。
【0026】
微小管は、様々な修飾を受けることが知られており、当該修飾の例としてチューブリンのアセチル化が挙げられる。チューブリンのアセチル化は、チューブリンの重合を促進し、これによって、微小管の弾力性、微小管が崩壊することに対する微小管の抵抗性、及び、外部から細胞に加わる力に対する細胞の抵抗性、が増すと考えられる。
【0027】
本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法にて検出されるアセチル化チューブリンは、α-チューブリン、β-チューブリン、γ-チューブリン、δ-チューブリン、又はε-チューブリンがアセチル化されたものであり得るが、これらの中でも、α-チューブリンがアセチル化されたものであることが好ましい。当該構成であれば、精度が高いT細胞性リンパ腫の指標の検出方法を提供することができる。
【0028】
アセチル化チューブリンは、あらゆる生物種のチューブリン、あらゆるアイソフォームのチューブリン、又は、これらのチューブリンの変異体、がアセチル化されたものであってもよい。
【0029】
例えば、ヒトのα-チューブリンが、GeneBankに「アクセッションナンバー:NM 006009.4」として登録されている。アセチル化チューブリンは、以下の(1)または(2)のタンパク質がアセチル化されたものであってもよい。なお、アセチル化されるアミノ酸は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から数えて40番目のリシンであり得る:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、微小管形成活性(又は、β-チューブリンとの重合活性)を有するタンパク質。
【0030】
上述した(1)のタンパク質は、ヒトのα-チューブリン(アクセッションナンバー:NM 006009.4)に相当する。一方、上述した(2)のタンパク質は、ヒト以外の生物種のα-チューブリン、ヒト又はヒト以外の生物種のα-チューブリンのアイソフォーム、又は、これらの変異体に相当する。(2)のタンパク質としては、例えば、チューブリンα1A、チューブリンα1B、チューブリンα1C、チューブリンα2、チューブリンα3C/D、チューブリンα4A、及びチューブリンα-8鎖アソフォーム1等が挙げられる。
【0031】
本明細書において「1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、特に限定されるものではないが、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下、より好ましくは10個以下、より好ましくは9個以下、より好ましくは8個以下、より好ましくは7個以下、より好ましくは6個以下、より好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、最も好ましくは1個以下のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意図する。
【0032】
タンパク質が「微小管形成活性(又は、β-チューブリンとの重合活性)」を有するか否かは、当該タンパク質を所望の細胞内にて発現させ、当該タンパク質が微小管の構造内に取り込まれるか否かを細胞染色等の手法にて検出することによって、確認することができる。細胞染色等の方法によって、当該タンパク質が微小管の構造内に取り込まれていることを確認できれば、当該タンパク質は「微小管形成活性(又は、β-チューブリンとの重合活性)」を有すると判定することができる。
【0033】
本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法にて検出されるアセチル化チューブリンでは、アセチル化されるアミノ酸、及びアミノ酸の位置は、限定されない。例えば、ヒトのα-チューブリン(アクセッションナンバー:NM 006009.4、換言すれば、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質)では、アミノ末端から数えて第40番目に位置するリシン(K40)にて、アセチル化、及び、脱アセチル化が起こる。それ故に、本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法にて検出されるアセチル化チューブリンは、当該リシン(K40)がアセチル化されたものであることが好ましい。
【0034】
(アセチル化チューブリンの検出)
アセチル化チューブリンを検出する工程は、アセチル化チューブリンを検出することができる工程であればよく、アセチル化チューブリンを検出するための具体的な方法は限定されない。
【0035】
アセチル化チューブリンを検出する工程としては、例えば、抗アセチル化チューブリン抗体を用いた免疫学的方法、又は質量分析法によって、アセチル化チューブリンを検出する工程を挙げることができる。以下に、各方法について説明する。
【0036】
<A.免疫学的方法>
免疫学的方法は、抗アセチル化チューブリン抗体を用いてアセチル化チューブリンを検出する方法であればよく、具体的な方法は、特に限定されない。免疫学的方法としては、例えば、免疫組織染色法、免疫細胞染色法、ウエスタンブロット法、及びフローサイトメトリー法を挙げることができる。これらの免疫学的方法は公知であるので、これらの免疫学的方法の詳細については、その説明を省略する。
【0037】
抗アセチル化チューブリン抗体は、上述したアセチル化チューブリンに特異的に結合する抗体であればよく、特に限定されない。当該アセチル化チューブリン抗体としては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、及び単鎖抗体)を挙げることができる。
【0038】
モノクローナル抗体は、例えば、アセチル化チューブリンに対するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを所望の培地中にて培養して培養上清を得、必要に応じて当該培養上清を精製することによって得ることができる。ハイブリドーマは、アセチル化チューブリンを動物(例えば、マウス、ラット)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から抗体産生細胞を得、当該抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させることによって得ることができる。
【0039】
ポリクローナル抗体は、例えば、アセチル化チューブリンを動物(例えば、ウサギ)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から血清を得、必要に応じて当該血清を精製することによって得ることができる。
【0040】
Fabフラグメントは、例えば、アセチル化チューブリンに対するモノクローナル抗体をパパインによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
【0041】
F(ab’)フラグメントは、例えば、アセチル化チューブリンに対するモノクローナル抗体をペプシンによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
【0042】
単鎖抗体は、例えば、アセチル化チューブリンに対するモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域をコードする核酸と、リンカーをコードする核酸と、当該モノクローナル抗体の重鎖の可変領域をコードする核酸とを連結させた核酸構築物を含有するファージミドベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞内にて核酸構築物にコードされるポリペプチドを発現させ、必要に応じて当該ポリペプチドを精製することによって得ることができる。
【0043】
アセチル化チューブリンの検出は、抗アセチル化チューブリン抗体(一次抗体)に直接結合している標識物質、又は、抗アセチル化チューブリン抗体に結合する二次抗体に直接結合している標識物質によって生成されるシグナルを検出することによって行われ得る。また、当該標識物質によって生成されるシグナルの強度に基づき、アセチル化チューブリンの濃度を検出してもよい。
【0044】
前記標識物質としては、例えば、酵素、酵素基質、放射性同位元素、発光物質、及び蛍光色素が挙げられる。
【0045】
前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、及びグルコース-6-リン酸脱水素酵素が挙げられる。これら酵素と抗体との結合は、架橋剤(例えば、マレイミド化合物、及びN-ヒドロキシスクシンイミドエステル化合物)を用いる公知の方法により行うことができる。
【0046】
前記酵素基質としては、使用する酵素に応じて公知の物質を使用することができる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、オルトフェニレンジアミン(OPD)、又はテトラメチルベンジジン(TMB)等が用いられ、酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスファターゼp-トルイジニル塩(BCIP)の混合基質等を用いることができる。
【0047】
前記放射性同位元素としては、例えば、125I、H、35S、及び14C等の通常のラジオイムノアッセイで用いられているものが挙げられる。
【0048】
前記発光物質としては、例えば、イソルミノール、アクリジンエステル、及びルシゲニン等が挙げられる。
【0049】
前記蛍光色素としては、例えば、FITC(Fluoresceinisothiocyanate isomer-I)、HEX(6-carboxy-2',4',7',4,7,-hexafluorescein、緑色蛍光色素)、NED(黄色蛍光色素)、FAM(5-carboxyfluorescein又は6-carboxyfluorescein、青色蛍光色素)、PET(赤色蛍光色素)、VIC(緑色蛍光色素)、LIZ(オレンジ色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、ローダミン(rhodamin)、Alexa Fluor、Cy Dye、QD(Quantum Dot)、及びHiLyte Fluor等が挙げられる。
【0050】
<B.質量分析法>
質量分析法は、アセチル化によって質量が増加したチューブリンを検出できる方法であればよく、具体的な方法は、特に限定されない。質量分析法としては、例えば、イメージング質量分析法を挙げることができる。
【0051】
イメージング質量分析法とは、質量分析計による物質の同定(質量分析)と、顕微鏡による試料の観察と、を組み合わせることにより、試料の表面における標的成分の、有無及び分布を可視化する手法である。
【0052】
前記質量分析法は、任意の手法を用いて行うことができる。具体的に、前記質量分析法は、試料のイオン化と、イオン化された試料の分離と、分離された試料の検出とによって行われ得る。
【0053】
試料をイオン化する手法としては、特に限定はされないが、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption Ionisation:MALDI)、レーザー脱離イオン化法、スパッタリング(二次イオン放出)法、高速原子衝突法、エレクトロスプレーイオン化法、脱離イオンエレクトロスプレーイオン化法、走査型プローブエレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法、大気圧直接イオン化法、誘導結合プラズマ法、電子イオン化法、化学イオン化法、電界離脱法等、試料の形態に応じて、任意の手法を用いることができる。
【0054】
イオン化された試料を分離する手法としては、特に限定されないが、例えば、飛行時間型、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型等の分離手法が挙げられる。
【0055】
イオン化された試料を検出する手法としては、特に限定されないが、例えば、電子増倍管、マイクロチャンネルプレート、及びファラデーカップ等を用いた検出手法が挙げられる。
【0056】
また、前記質量分析法は、前記イオン化方法の中の任意の方法と、前記分離方法の中の任意の方法と、前記検出方法の中の任意の方法とを、適宜組み合わせた質量分析法であってもよい。具体的には、前記質量分析法としては、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)、飛行時間型質量分析法(Time of Flight Mass Spectrometry:TOF-MS)、及びMALDI-TOF-MS等が挙げられる。
【0057】
〔2.T細胞性リンパ腫の検査キット〕
本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の検査キットは、抗アセチル化チューブリン抗体を備えている。前記T細胞性リンパ腫としては、例えば、菌状息肉症、セザリー症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(例えば、未分化大細胞性リンパ腫)、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫等が挙げられる。
【0058】
本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の検査キットは、標識物質が結合している抗アセチル化チューブリン抗体を備えていてもよい。本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の検査キットは、(i)一次抗体である抗アセチル化チューブリン抗体と、(ii)当該一次抗体を検出するための、標識物質、又は、標識物質が結合している二次抗体と、を備えていてもよい。なお、抗アセチル化チューブリン抗体の詳細については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0059】
本発明に係る一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の検査キットは、上述した免疫学的方法を行うために必要な、二次抗体、発色試薬、ブロッキング試薬、バッファー、プレート、及び/又はチューブ等を備えていてもよい。
【0060】
本発明の一実施形態に係る検査キットによれば、迅速かつ簡便に、アセチル化チューブリンを検出することができる。
【0061】
〔3.T細胞性リンパ腫の抑制効果を評価するための指標の検出方法〕
本発明の一実施形態に係る検出方法は、薬剤が投与された被験体におけるT細胞性リンパ腫の抑制効果を評価するための指標の検出方法であって、薬剤が投与された被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む。当該構成によれば、被験体に投与された薬剤がT細胞性リンパ腫の治療に有効か否かを判定することができる。更に、当該判定結果から、(i)投与中の薬剤の投与を継続すること、または、(ii)投与中の薬剤の投与を中止し、別の薬剤の投与を開始すること、の選択を容易にすることができる。
【0062】
前記T細胞性リンパ腫としては、例えば、菌状息肉症、セザリー症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(例えば、未分化大細胞性リンパ腫)、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫等が挙げられる。
【0063】
本明細書において「T細胞性リンパ腫の抑制効果」とは、T細胞性リンパ腫を構成するT細胞を死滅させる効果、T細胞性リンパ腫を構成するT細胞を正常なT細胞に戻す効果、又は、T細胞性リンパ腫を構成するT細胞の悪性化を抑制する効果(例えば、悪性腫瘍マーカーの発現を、防止又は減少させる効果)を意図する。
【0064】
前記薬剤は、特に限定されず、例えば、無機化合物、及び有機化合物を挙げることができる。薬剤は、そのままの状態にて用いられてもよく、溶媒に溶解された状態にて用いられてもよい。当該溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及び水を挙げることができる。
【0065】
前記被験体は、特に限定されず、例えば、ヒト、及び非ヒト動物を挙げることができる。非ヒト動物は、特に限定されず、例えば、実験動物、愛玩動物、及び家畜を挙げることができ、より具体的に、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、及びウマを挙げることができる。前記被験体は、上述したヒト、又は非ヒト動物から採取された組織(例えば、皮膚組織)であってもよい。
【0066】
被験体からT細胞を採取する方法は、特に限定されず、例えば、被験体から組織(例えば、皮膚組織)の切片を採取し、当該組織中に含まれている状態にて、T細胞を採取すればよい。
【0067】
T細胞中のアセチル化チューブリンを検出する方法は、特に限定されず、例えば、上述した<A.免疫学的方法>の欄、又は<B.質量分析法>の欄にて説明した方法を用いればよい。
【0068】
本発明の一実施形態に係る検出方法は、薬剤が投与された被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程の後に、検出結果に基づいて、薬剤が投与された被験体におけるT細胞性リンパ腫の抑制効果を評価する工程を有していてもよい。
【0069】
評価する工程では、例えば、薬剤が投与された後の被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量と、薬剤が投与される前の被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量(対照)とを比較する。薬剤が投与された後の被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量が、薬剤が投与される前の被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量よりも減少していれば、当該薬剤の投与はT細胞性リンパ腫の抑制効果を有していると判定することができる。なお、「T細胞中のアセチル化チューブリンの量」は、「アセチル化チューブリンを発現しているT細胞の数」又は「アセチル化チューブリンを発現しているT細胞の割合」として算出されてもよい。また、前記対照に基づき、所定の閾値を設定して評価してもよい。
【0070】
〔4.物質の評価方法〕
本発明の一実施形態に係る評価方法は、被験試料がT細胞性リンパ腫に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する評価方法であって、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞に被験試料を接触させる工程と、前記被験試料を接触させたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程と、を含む。当該構成によれば、容易に、T細胞性リンパ腫の治療剤をスクリーニングすることができる。
【0071】
前記T細胞性リンパ腫としては、例えば、菌状息肉症、セザリー症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(例えば、未分化大細胞性リンパ腫)、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫等が挙げられる。
【0072】
本明細書において「T細胞性リンパ腫に対する抑制効果」とは、T細胞性リンパ腫を構成するT細胞を死滅させる効果、T細胞性リンパ腫を構成するT細胞を正常なT細胞に戻す効果、又は、T細胞性リンパ腫を構成するT細胞の悪性化を抑制する効果(例えば、悪性腫瘍マーカーの発現を、防止又は減少させる効果)を意図する。
【0073】
前記被験試料は、特に限定されず、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、微生物抽出物、及び各種細胞の培養上清を挙げることができる。被験試料は、そのままの状態にて用いられてもよく、溶媒に溶解された状態にて用いられてもよい。当該溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及び水を挙げることができる。
【0074】
前記被験体は、特に限定されず、例えば、ヒト、及び非ヒト動物を挙げることができる。非ヒト動物は、特に限定されず、例えば、実験動物、愛玩動物、及び家畜を挙げることができ、より具体的に、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、及びウマを挙げることができる。前記被験体は、上述したヒト、又は非ヒト動物から採取された組織(例えば、皮膚組織)であってもよい。
【0075】
被験体からT細胞を採取する方法は、特に限定されず、例えば、被験体から組織(例えば、皮膚組織)の切片を採取し、当該組織中に含まれている状態にて、T細胞を採取すればよい。
【0076】
T細胞に被験試料を接触させる方法は、特に限定されず、T細胞に被験試料を接触させた後、当該T細胞を、所望の時間、培養することが可能である。なお、当該培養の間、T細胞と被験試料とは接触していなくてもよいし、T細胞と被験試料とは接触していてもよい。なお、培養時間は、特に限定されず、1日~3日であってもよく、1日~7日であってもよく、7日以上であってもよい。
【0077】
T細胞中のアセチル化チューブリンを検出する方法は、特に限定されず、例えば、上述した<A.免疫学的方法>の欄、又は<B.質量分析法>の欄にて説明した方法を用いればよい。
【0078】
本発明の一実施形態に係る評価方法は、被験試料を接触させたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程の後に、検出結果に基づいて、被験試料がT細胞性リンパ腫に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する工程を有していてもよい。
【0079】
評価する工程では、例えば、被験試料を接触させた、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量と、被験試料と接触していない、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量(対照)とを比較する。被験試料を接触させた、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量が、被験試料と接触していない、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンの量よりも減少していれば、当該被験試料はT細胞性リンパ腫に対する抑制作用を有する物質であると判定することができる。なお、「T細胞中のアセチル化チューブリンの量」は、「アセチル化チューブリンを発現しているT細胞の数」又は「アセチル化チューブリンを発現しているT細胞の割合」として算出されてもよい。また、前記対照に基づき、所定の閾値を設定して評価してもよい。なお、「T細胞性リンパ腫を罹患した被験体」は、同一の被験体であってもよいし、異なる被験体であってもよいが、より正確に物質を評価するという観点から、同一の被験体であることが好ましい。
【0080】
〔5.T細胞性リンパ腫の治療剤〕
本発明の一実施形態に係るT細胞性リンパ腫の治療剤は、チューブリンの重合を阻害する剤、チューブリンのアセチル化を阻害する剤、及び/又はアセチル化チューブリンの凝集を阻害する剤を有効成分として含有する。
【0081】
前記チューブリンの重合を阻害する剤としては、例えば、ASMP-3(製品名:Ansamitocin P-3, Actinosynnema pretiosum)、Demecolcine(製品名:Colcemid)、Colchicine(製品名:Colchicine, Colchicum autumnale)、Diminisher of microtubule; 2-(1R-Isopropyl-2-hydroxyethylamino)-6-(3-aminophenylthio)-9-isopropylpurine; NG72(製品名:Diminutol)、(5S)-1-[(2S)-O-(N,N-Val-Val-N-Me-Val-Pro-Pro)-2-hydroxyisovaleryl]-2-oxo-4-methoxy-5-benzyl-3-pyrroline(製品名:Dolastatin 15)、NSC 698666(製品名:Indanocine)、10-[(3-Hydroxy-4-methoxybenzylidene)]-9(10H)-anthracenone(製品名:Tubulin Polymerization Inhibitor)、(E)-1,3-Dihydro-6-methoxy-3-(3,4,5-trimethoxybenzylidene)-1H-indol-2-one(製品名:Tubulin Polymerization Inhibitor II)、combrestatin、2-methoxyestradiol、methoxy benzenesulfonamides、vinblastine、vincristine、vinorelbine、vinfluine、dolastatins、halichondrins、hemiasterlins、及びcryptophysin 52を挙げることができる。
【0082】
前記チューブリンのアセチル化を阻害する剤としては、例えば、N-(1H-Benzotriazol-1-yl)-2,4-dichlorobenzamide;1-(2,4-Dichlorobenzoyl)-1H-benzotriazole(製品名:ITSA1)、及びalpha-tubulin N-acetyltransferase(ATAT1)の阻害剤を挙げることができる。
【0083】
本発明の一実施形態に係る治療剤に含まれる有効成分の量は、特に限定されないが、好ましくは、治療剤全体を100質量%とした場合に、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0084】
T細胞性リンパ腫の治療剤は、その治療機能を変化させない限り、他の成分を含んでいても良い。当該他の成分とは、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、抗酸化剤、高分子量重合体、充填剤、結合剤、界面活性剤、及び、安定化剤などを挙げることができる。
【0085】
前記緩衝剤としては、リン酸、リン酸塩、ホウ酸、ホウ酸塩、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、炭酸、炭酸塩、酒石酸、酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、及び、トロメタモールなどが挙げられる。前記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、及びリン酸水素二カリウムなどが挙げられる。前記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、及び、ホウ酸カリウムなどが挙げられる。前記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、及びクエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。前記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、及び、酢酸カリウムなどが挙げられる。前記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、及び、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。前記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、及び、酒石酸カリウムなどが挙げられる。
【0086】
前記pH調整剤としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、及び、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0087】
前記等張化剤としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)、及び、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトールなど)が挙げられる。
【0088】
前記防腐剤としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、及び、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0089】
前記抗酸化剤としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、及び、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0090】
前記高分子量重合体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及び、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0091】
前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油等が挙げられる。
【0092】
前記溶媒、及び可溶化剤としては、グリセリン、DMSO、DMA、N-メチルピロリドン、エタノール、ベンジルアルコール、イソプロピルアルコール、各種分子量のポリエチレングリコール(PEG300及びPEG400等)、及びプロピレングリコール等が挙げられる。
【0093】
前記界面活性剤としては、非イオン性、アニオン性、カチオン性、双性イオン性、ポリマー性、及び両性の界面活性剤が挙げられる。
【0094】
前記安定化剤としては、脂肪酸、脂肪アルコール、アルコール、長鎖脂肪酸エステル、長鎖エーテル、脂肪酸の親水性の誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、炭化水素、疎水性のポリマー、吸湿性のポリマー、及びアミド類似物が挙げられる。
【0095】
また、上述した他の成分は、1種または2種以上の成分を含んでいてもよい。
【0096】
さらに、上述した他の成分の量は、特に限定されないが、治療剤全体を100質量%とした場合に、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0097】
T細胞性リンパ腫の治療剤の投与型は、特に限定されないが、経口剤、非経口剤、及び塗布剤等が挙げられる。
【0098】
前記治療剤が適用され得る癌としては、例えば、菌状息肉症、セザリー症候群、成人T細胞白血病リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(例えば、未分化大細胞性リンパ腫)、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫等が挙げられる。
【0099】
〔6.その他〕
本発明は、以下のように構成することもできる;
〔1〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法は、被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む。
【0100】
〔2〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の指標の検出方法では、前記アセチル化チューブリンを検出する工程は、抗アセチル化チューブリン抗体を用いた免疫学的方法、又は質量分析法によってアセチル化チューブリンを検出する工程である。
【0101】
〔3〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の検査キットは、抗アセチル化チューブリン抗体を備える。
【0102】
〔4〕本発明の一態様に係る検出方法は、薬剤が投与された被験体におけるT細胞性リンパ腫の抑制効果を評価するための指標の検出方法であって、薬剤が投与された被験体から採取されたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程を含む。
【0103】
〔5〕本発明の一態様に係る評価方法は、被験試料がT細胞性リンパ腫に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する評価方法であって、T細胞性リンパ腫を罹患した被験体から採取されたT細胞に被験試料を接触させる工程と、前記被験試料を接触させたT細胞中のアセチル化チューブリンを検出する工程と、を含む。
【0104】
〔6〕本発明の一態様に係るT細胞性リンパ腫の治療剤は、アセチル化チューブリンの凝集を阻害する剤、及び/又は、チューブリンのアセチル化を阻害する剤を有効成分として含有する。
【0105】
本発明は、以下のように構成することもできる;
<1>アセチル化チューブリンの凝集を阻害する剤、及び/又は、チューブリンのアセチル化を阻害する剤を有効成分として含有するT細胞性リンパ腫の治療剤を、被験体(例えば、ヒト、または、非ヒト動物)に投与する工程を有する、T細胞性リンパ腫の治療方法。
<2>T細胞性リンパ腫の治療剤の製造のための、アセチル化チューブリンの凝集を阻害する剤、及び/又は、チューブリンのアセチル化を阻害する剤の使用。
【実施例
【0106】
本発明の一実施例について以下に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の記載に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0107】
〔発現パターン解析〕
(採取、固定)
T細胞性リンパ腫を罹患している被験体(患者)の病変部由来皮膚、及び正常部由来皮膚を採取し、パラフィン包埋サンプルとし、キシレンを用いて脱パラフィン化した。次いで、100%エタノール、95%エタノール、及び精製水に、該脱パラフィン化したサンプルをそれぞれ10分間ずつ浸漬して徐々に加水した。
【0108】
(抗原賦活化、透過処理)
その後、加水したサンプルを1mM EDTA(ethylenediamine tetra acetic acid)水溶液中で15分間煮沸し、抗原を賦活化した。次に、当該サンプルをブロッキング・透過処理剤中(10%血清及び0.1w/w%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート含有PBS(phosphate buffered saline)溶液含試薬)にて、30分間、インキュベーションすることにより、当該サンプルに対してブロッキング及び透過処理を行った。
【0109】
(免疫染色)
該サンプルにおいて、アセチル化チューブリン、ランゲリン、CCR4、及びCD4の各々を検出するために、以下の一次抗体を使用した。
・抗アセチル化チューブリン抗体〔シグマ-アルドリッチ社製、商品名:MONOCLONAL ANTI-ACETYLATED TUBULIN CLONE 6-11B-1、品番:T6793〕、
・抗ランゲリン抗体〔アブカム社製、商品名:Anti-Langerin[EPR15863]抗体、カタログナンバー:ab192027〕、
・抗CCR4抗体〔アブカム社製、商品名:Anti-CCR4 antibody、カタログナンバー:ab1669〕、
・抗CD4抗体〔プロテインテック社製、商品名:CD4 Polyclonal ANTIBODY、カタログナンバー:19068-1-AP〕。
【0110】
これらの抗体とサンプルとを、4℃にて一晩反応させた。また、これら抗体の使用濃度及び反応方法は、それぞれのプロトコルに準拠して行った。反応後、サンプルを、洗浄液A〔0.1w/w%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート含有PBS(phosphate buffered saline)溶液〕を使用して洗浄した。
【0111】
上述した一次抗体を検出するために、以下の二次抗体を使用した。
・蛍光色素標識抗ウサギIgG抗体〔アブカム社製、商品名:Goat Anti-Rabbit IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)594)、カタログナンバー:ab150080〕、
・蛍光色素標識抗ヤギIgG抗体〔アブカム社製、商品名:Donkey Anti-Goat IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)594)、カタログナンバー:ab150132〕、
・蛍光色素標識抗マウスIgG抗体〔アブカム社製、商品名:Goat Anti-Mouse IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)488、カタログナンバー:ab150113)〕。
【0112】
これらの抗体とサンプルとを、4℃にて一晩反応させた。また、これら抗体の使用濃度及び反応方法は、それぞれのプロトコルに準拠して行った。
【0113】
(核染色)
次いで、以下の核染色剤を使用して、核を染色した。
・核染色剤Hoechst 33342〔サーモフィッシャー社製、標品名:Hoechst 33342、Trihydrochloride、Trihydrate-10mg/mL Solution in Water、品番:H3570〕。
【0114】
当該核染色剤とサンプルとを、4℃にて一晩反応させた。また、使用濃度及び反応は、当該核染色剤のプロトコルに準拠して行った。
【0115】
(封入)
得られた試料は、前記洗浄液Aを用いてそれぞれ洗浄した後、以下の褪色防止用封入剤を使用して封入し、顕微鏡観察用の試料を得た。
・褪色防止用封入剤〔サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(株)製、商品名:ProLong(登録商標)Gold褪色防止用封入剤、品番:P36934〕
(顕微鏡観察)
共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて、各試料に含まれるランゲルハンス細胞、CCR4陽性細胞、及びCD4陽性細胞を検出し、アセチル化チューブリン陽性細胞における細胞表面マーカーの発現パターンを解析した。顕微鏡観察において、それぞれの蛍光を記録するために、蛍光フィルターを切り替えながら撮影、画像化した。その結果を、図1に示す。
【0116】
〔結果〕
図1において、(a)は、ランゲルハンス細胞マーカーとアセチル化チューブリン(Ac-Tub)との発現パターン、(b)は、CCR4細胞マーカーとアセチル化チューブリン(Ac-Tub)との発現パターン、(c)は、CD4細胞マーカーとアセチル化チューブリン(Ac-Tub)との発現パターン、(d)は、CD8細胞マーカーとアセチル化チューブリン(Ac-Tub)との発現パターンを、顕微鏡観察した像である。
【0117】
図1(a)に示すように、樹状細胞の一種であるランゲルハンス細胞には、アセチル化チューブリンを発現している細胞が観察されなかった。
【0118】
図1(c)及び(d)に示すように、悪性度の低いCD4T細胞及びCD8T細胞の多くにおいて、アセチル化チューブリンの発現が観察された。さらに、図1(b)に示すように、悪性度の高いCCR4T細胞では、略100%の細胞において、アセチル化チューブリンの発現が観察された。悪性度の低いCD4T細胞及びCD8T細胞と、悪性度の高いCCR4T細胞との両方においてアセチル化チューブリンの発現が観察されたことから、アセチル化チューブリンを指標とすれば、後期の悪性度の高いT細胞性リンパ腫のみならず、初期の悪性度の低いT細胞性リンパ腫をも診断できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、医療の分野において広く利用することができ、特に、T細胞性リンパ腫の指標の検出方法、検査キット、及び治療などに好適に利用することができる。
図1
【配列表】
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