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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ガラス樹脂積層体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20230410BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20230410BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C03C27/12 M
B32B17/10
B32B15/08 Q
C03C27/12 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019021816
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128314
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】内田 大輔
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-352193(JP,A)
【文献】実開平02-122041(JP,U)
【文献】国際公開第2015/156395(WO,A1)
【文献】特開2019-214492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
C03C 15/00-23/00
B32B 1/00-43/00
B60J 1/00-1/20
B60S 1/00-1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス樹脂積層体であって、
少なくとも2枚のガラス板と、
2枚の前記ガラス板の間に配置され、2枚の前記ガラス板の主面同士を接合するシリコーン樹脂層と、
前記シリコーン樹脂層に配置される金属層と、
を有し、
前記シリコーン樹脂層の表面圧縮応力が0MPa~300MPaであ
前記シリコーン樹脂層の厚さの金属層の厚さに対する比が1~5であり、
前記シリコーン樹脂層のシリコーン樹脂が付加重合型であり、
前記シリコーン樹脂層に使用するオルガノアルケニルポリシロキサンの重量平均分子量が、1000~5000000であり、
前記シリコーン樹脂層は、白金族金属系触媒を含む、
ガラス樹脂積層体。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂層の線膨張係数と前記ガラス板の線膨張係数との差が1000×10-7/℃以下である、請求項1に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項3】
前記ガラス板がソーダライムガラスである、請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項4】
2枚の前記ガラス板の板厚が同一である、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項5】
2枚の前記ガラス板の板厚が異なる、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項6】
前記金属層がメッシュ形状を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項7】
前記金属層が0.001mm~0.1mmの線径、及び5%以上60%以下の空間率を有する、請求項6に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項8】
前記金属層が前記シリコーン樹脂層の端部から突出する部分を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項9】
2枚のガラス板を準備し、
2枚の前記ガラス板の一方のガラス板の主面に金属層を配置し、
前記金属層にシリコーン樹脂を塗布し、
他方の前記ガラス板を一方の前記ガラス板に、前記シリコーン樹脂と前記金属層とを挟んで貼合し、
前記シリコーン樹脂を硬化しシリコーン樹脂層を形成する、ガラス樹脂積層体の製造方法であって、
前記シリコーン樹脂層の表面圧縮応力が0MPa~300MPaであ
前記シリコーン樹脂層の厚さの金属層の厚さに対する比が1~5であり、
前記シリコーン樹脂層のシリコーン樹脂が付加重合型であり、
前記シリコーン樹脂層に使用するオルガノアルケニルポリシロキサンの重量平均分子量が、1000~5000000であり、
前記シリコーン樹脂層は、白金族金属系触媒を含み、
前記シリコーン樹脂を、40℃~80℃で1時間~15時間、ついで、100℃~200℃で1時間~12時間の環境下に置かれることにより硬化させる、
ガラス樹脂積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス樹脂積層体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板に付着した雪、又は霜を溶かすことができる合わせガラスが知られている。例えば、特許文献1には、導電層の一方又は両方の面に樹脂層を有する中間膜を一対のガラス板の間に積層されるガラス樹脂積層体である合わせガラスが開示されている。電圧を印加することにより、合わせガラスの導電層に電流が流れ、導電層が発熱し、その熱がガラス樹脂積層体のガラス板に付着した雪、又は霜を融解する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-145069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス板に付着した雪等を短時間で融解するため、ガラス樹脂積層体の温度を200℃~250℃まで上昇させることが望まれている。しかしながら、特許文献1では樹脂層が熱可塑性樹脂で構成されるため、高温での樹脂層の耐久性が低くなり、ガラス樹脂積層体が高温において使用できない懸念がある。
【0005】
本発明は、高温度での耐久性を有するガラス樹脂積層体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガラス樹脂積層体は、少なくとも2枚のガラス板と、2枚のガラス板の間に配置され、2枚のガラス板の主面同士を接合するシリコーン樹脂層と、シリコーン樹脂層に配置される金属層と、を有する。
【0007】
本発明のガラス樹脂積層体の製造方法は、2枚のガラス板を準備し、2枚のガラス板の一方のガラス板の主面に金属層を配置し、金属層にシリコーン樹脂を塗布し、他方のガラス板を一方のガラス板に、シリコーン樹脂と金属層とを挟んで貼合し、シリコーン樹脂を硬化しシリコーン樹脂層を形成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温度での耐久性を有するガラス樹脂積層体、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ガラス樹脂積層体の斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
図3図3は、金属層の一例を示す平面図である。
図4図4は、ガラス樹脂積層体の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図である。
図5図5は、ガラス樹脂積層体の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図である。
図6図6は、ガラス樹脂積層体の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図である。
図7図7は、ガラス樹脂積層体の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面にしたがって本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態により説明される。但し、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、実施形態以外の他の実施形態を利用できる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、基本的に、同様の機能を有する同様の要素である。
【0011】
また、本明細書中で、数値範囲を“~”を用いて表す場合は、“~”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0012】
<ガラス樹脂積層体>
図1、及び図2に示されるように、ガラス樹脂積層体10は、2枚のガラス板12、14と、2枚のガラス板12、14の間に配置され、2枚のガラス板12、14の主面同士を接合するシリコーン樹脂層16と、を備える。金属層18がシリコーン樹脂層16に配置される。
【0013】
(ガラス板)
ガラス板12、14は、対向する2つの主面と、2つの主面を繋ぐ端面とを有する。ガラス板12、14は、それぞれの主面同士が対向する位置に配置される。
【0014】
それぞれのガラス板12、14は、0.1mm~10mmの板厚を有することが好ましく、1mm~10mmの板厚を有することがより好ましく、1mm~5mmの板厚を有することがさらに好ましい。ガラス板12、14の板厚が0.1mm以上であれば、ガラス板12、14が割れにくく、取り扱いやすい。また、ガラス板12、14の板厚が10mm以下であれば、熱伝導の観点から発熱時に基板表面まで熱が伝わりやすい。
【0015】
ガラス板12、14の合計板厚は、0.5mm~20mmの板厚を有することが好ましく、2mm~15mmの板厚を有することがより好ましく、3mm~10mmの板厚を有することがさらに好ましい。ガラス板12、14の合計板厚が0.5mm以上であれば、割れにくく、取り扱いやすい。また、ガラス板12、14の合計板厚が20mm以下であれば、熱伝導の観点から発熱時に基板表面まで熱が伝わりやすい。
【0016】
それぞれのガラス板12、14の板厚、及びガラス板12、14の合計板厚は、上述の範囲に限定されない。
【0017】
ガラス板12、14の熱収縮率は、小さいことが好ましい。熱収縮率の指標である50℃~350℃での線膨張係数が100×10-7/℃以下であることが好ましく、80×10-7/℃以下であることがより好ましく、50×10-7/℃以下であることがさらに好ましい。上述の範囲の線膨張係数を有するガラス板12、14は、ガラス樹脂積層体10を発熱させた際でも、反り、又は破損等の発生を抑制できる。なお、線膨張係数はJIS R3102(1995年)に準拠して測定され、示差熱膨張計により測定できる。50℃~350℃での線膨張係数の下限は特に限定されないが、30×10-7/℃以上であってよい。
【0018】
ガラス板12、14は、フロート法により製造されたものであってもよいし、フュージョン法により製造されたものであってもよい。ガラス板12、14を構成する組成に関して、特に限定されない。ガラス板12、14は、ソーダライムガラス、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、高シリカガラス、及びその他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスで構成されることが好ましい。
【0019】
ガラス板12、14に適用されるガラスは、例えば、酸化物基準のモル百分率表示でSiOを40~80%、Alを0~20%、NaOを0~22%、KOを0~10%、MgOを0~14%、CaOを0~15%含有することが好ましい。以下、各成分について説明するが、%はモル%を意味する。
【0020】
SiOは、ガラス微細構造の中で網目構造を形成する成分として知られており、ガラスを構成する主要成分である。SiOの含有量は、40%以上が好ましく、より好ましくは56%以上、さらに好ましくは66%以上、特に好ましくは68%以上である。また、SiOの含有量は、80%以下が好ましく、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは72%以下である。SiOの含有量が40%以上であるとガラスとしての安定性や耐候性の点で優位である。一方、SiOの含有量が80%以下であると溶解性及び成形性の点で優位である。
【0021】
Alは必須ではないが、ガラスの耐候性を向上させるために含有させてもよい。また、フロート成形時にボトム面からの錫の浸入を抑制する作用がある。Alを含有する場合は、0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.6%以上、さらに好ましくは0.8%以上である。また、Alの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下である。Alの含有量が0.1%以上であると、ガラスの耐候性が向上する一方、Alの含有量が20%以下であると、ガラスの粘性が高い場合でも失透温度が大きくは上昇しないため、生産ラインでの溶解、成形の点で優位である。
【0022】
SiO及びAlの含有量の合計SiO+Alは80%以下であることが好ましい。80%超では高温でのガラスの粘性が増大し、溶融が困難となるおそれがあり、好ましくは76%以下、より好ましくは74%以下である。また、SiO+Alは68%以上であることが好ましい。68%未満では圧痕が付いた時のクラック耐性が低下し、より好ましくは70%以上である。
【0023】
NaOは必須ではないが、ガラスの高温粘性と失透温度を下げ、ガラスの溶解性、成形性を向上させる成分である。NaOを含有する場合は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは12%以上である。また、NaOの含有量は、22%以下が好ましく、より好ましくは16%以下、さらに好ましくは14%以下である。NaOの含有量が0.5%以上であると、充分な溶解性、成形性が得られる。一方、NaOの含有量が22%以下であると、充分な耐候性が得られる。
【0024】
Oは必須ではないが、ガラスの高温粘性と失透温度を下げ、ガラスの溶解性、成形性を向上させる成分である。KOを含有する場合は、0.1%以上であってよく、0.5%以上であってよい。また、KOの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。KOの含有量が10%以下であると、耐候性が良好となる。
【0025】
MgOは必須ではないが、ガラスを安定化させる成分である。MgOの含有量は、2%以上が好ましく、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは6%以上である。また、MgOの含有量は、14%以下が好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である。MgOの含有量が2%以上であると、ガラスの耐薬品性が良好になる。高温での溶解性が良好になり、失透が起こり難くなる。一方、MgOの含有量が14%以下であると、失透の起こりにくさが維持され、充分なイオン交換速度が得られる。
【0026】
CaOは必須ではないが、ガラスの高温粘性を下げ、溶解性を向上させるために含有してもよい。CaOを含有する場合の量は、2%以上が好ましく、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上である。また、CaOの含有量は15%以下が好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは9%以下である。CaOの含有量が15%以下であれば、失透しにくい。
【0027】
SrOは必須ではないが、ガラスの高温粘性を下げ、失透温度を下げる目的で含有してもよい。含有する場合のSrO量は3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0028】
BaOは必須ではないが、ガラスの高温粘性を下げ、失透温度を下げる目的で含有してもよい。BaOはガラスの比重を重くする作用があるため、軽量化を意図する場合には含有しないことが好ましい。含有する場合のBaO量は3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0029】
ガラスは、その他の成分を含有してもよい。その他の成分の含有量の合計は5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、典型的には1%以下である。以下、上記その他成分について例示的に説明する。
【0030】
ZnOはガラスの高温での熔融性を向上するために、例えば2%まで含有してもよい。しかし、フロート法で製造する場合には、フロートバスで還元され製品欠点となるので含有しないことが好ましい。
【0031】
は高温での熔融性またはガラス強度の向上のために、1%未満の範囲で含有してもよい。一般的には、NaOまたはKOのアルカリ成分とBを同時に含有すると揮散が激しくなり、煉瓦を著しく浸食するので、Bは実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0032】
LiOは歪点を低くして応力緩和を起こりやすくし、その結果安定した圧縮応力を得られなくする成分であるので含有しないことが好ましく、含有する場合であってもその含有量は1%未満であることが好ましく、より好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.01%未満である。
【0033】
(シリコーン樹脂層)
シリコーン樹脂層16は、シリコーン樹脂を含んでいる。シリコーン樹脂層16はシリコーン樹脂を硬化処理することで形成される。
【0034】
シリコーン樹脂層16は、0.01mm~1mmの厚さを有することが好ましく、0.05mm~0.5mmの厚さを有することがより好ましく、0.1mm~0.3mmの厚さを有することがさらに好ましい。シリコーン樹脂層16の厚さが0.01mm以上であれば、金属層18が後述するメッシュ形状である場合に、メッシュに対し面内均一にシリコーン樹脂を含浸させることができる。また、シリコーン樹脂層16の厚さが1mm以下であれば、ガラス樹脂積層体10を発熱させる時に、熱が伝わりやすい。
【0035】
シリコーン樹脂層16の線膨張係数が1000×10-7/℃以下であることが好ましく、600×10-7/℃以下であることがより好ましく、400×10-7/℃以下であることがさらに好ましい。シリコーン樹脂層16の線膨張係数が1000×10-7/℃以下であれば、ガラス樹脂積層体10を発熱させる時に、ガラス板12、14とシリコーン樹脂層16とが剥がれにくい。また、シリコーン樹脂層16の線膨張係数の下限は特に限定されないが、1×10-7/℃以上であってよい。なお、シリコーン樹脂層16の線膨張係数はJIS K 7197(2012年)に準拠して測定され、TMAにより測定できる。
【0036】
シリコーン樹脂は、硬化機構により付加重合型、及び縮合型等に分類される。シリコーン樹脂は、いずれの硬化機構であってもシリコーン樹脂層16に適用できる。これらのなかでも付加重合型のシリコーン樹脂が好ましい。付加重合型のシリコーン樹脂は、硬化の際に、ガスを発生しないので、気泡がシリコーン樹脂層16に発生することを抑制できる。
【0037】
実施形態のシリコーン樹脂は、例えば、以下に示す特性、及び組成を有することが好ましい。
【0038】
シリコーン樹脂に使用するオルガノアルケニルポリシロキサンの分子量は、1000~5000000が好ましく、2000~3000000がより好ましく、3000~1000000がさらに好ましい。分子量は、重量平均分子量を意味し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定できる。
【0039】
シリコーン樹脂は、例えば、以下に示す組成を有することが好ましい。
【0040】
付加重合型のシリコーン樹脂は、線状のオルガノアルケニルポリシロキサンと線状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと触媒等の添加剤を含む硬化性の組成物であり、加熱により硬化して硬化シリコーン樹脂となる。本実施形態におけるシリコーン樹脂層16は、具体的には、線状のオルガノアルケニルポリシロキサンである線状オルガノポリシロキサン(a)と特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである線状オルガノポリシロキサン(b)とを含有する付加重合型のシリコーン樹脂を硬化せしめてなる硬化シリコーン樹脂の層である。一般に、他のシリコーン樹脂に比較して、付加重合型のシリコーン樹脂は硬化反応がしやすく、硬化収縮も低く好ましい。本実施形態における付加重合型のシリコーン樹脂の硬化物は、そのうちでも特に経時的変化が少なく、耐熱性が優れている。また、一般に、付加重合型のシリコーン樹脂は形態的に溶剤型、エマルジョン型、および無溶剤型の組成物が使用されている。本実施形態におけるシリコーン樹脂もまたいずれの型の組成物も使用可能である。
【0041】
線状オルガノポリシロキサン(a)と線状オルガノポリシロキサン(b)とを含有する付加重合型のシリコーン樹脂としては、公知のものを使用できる。例えば、特表2005-509711号公報(国際公開番号:WO2003/044084)やその引用文献には、紙やプラスチックフィルム上に撥水性で剥離性のシリコーン膜を形成するための付加重合型のシリコーン樹脂が記載されている。以下にシリコーン樹脂層16の形成に使用されるシリコーン樹脂について詳述する。
【0042】
<線状オルガノポリシロキサン(b)>
本実施形態におけるシリコーン樹脂は線状オルガノポリシロキサン(a)と線状オルガノポリシロキサン(b)とを含むことが好ましい。このうち、線状オルガノポリシロキサン(b)はオルガノハイドロジェンポリシロキサンの1種である。線状オルガノポリシロキサン(b)は、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子あたり少なくとも3個有する線状オルガノポリシロキサンであって、かつ前記ケイ素原子に結合した水素原子の少なくとも1個が分子末端のケイ素原子に存在している線状オルガノポリシロキサンである。
【0043】
一般に、線状のオルガノポリシロキサンの両末端の1官能性単位はM単位と呼ばれ、両末端以外の2官能性の単位はD単位と呼ばれ、n個のD単位を有する線状のオルガノポリシロキサンの構造は、M(D)Mで表される。また、各単位の平均組成を表す場合、M(D)で表されることもある。
【0044】
本実施形態における線状オルガノポリシロキサン(b)は、2個のM単位の少なくとも一方にケイ素原子に結合した水素原子が存在していることが好ましい。より好ましい線状オルガノポリシロキサン(b)は、2個のM単位のそれぞれにケイ素原子に結合した水素原子が存在し、かつn個存在するD単位の一部のD単位にもケイ素原子に結合した水素原子が存在する、線状オルガノポリシロキサンである。また、線状オルガノポリシロキサン(b)は、他の線状オルガノハイドロジェンポリシロキサンと併用することもできる。他の線状オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、M単位にケイ素原子に結合した水素原子が存在せず、D単位の一部のみにケイ素原子に結合した水素原子が存在する線状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0045】
線状オルガノポリシロキサン(b)または線状オルガノポリシロキサン(b)と他の線状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物としては、下記式(1)で表される平均組成の線状オルガノポリシロキサンが好ましい。以下、この平均組成式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンをオルガノハイドロジェンポリシロキサン(1)という。
【0046】
(Mα(Mβ(Dγ(Dδ ・・・式(1)
ただし、Mはケイ素原子に結合した水素原子が存在しないM単位、Mはケイ素原子に結合した水素原子が存在するM単位、Dはケイ素原子に結合した水素原子が存在しないD単位、およびDはケイ素原子に結合した水素原子が存在するD単位を表し、αは0以上2未満の数、βは0でない2以下の数でα+β=2、γは0を超える数、δは0以上の数でγ+δ=nである。より好ましいオルガノハイドロジェンポリシロキサン(1)は、αは0以上1未満の数、βは1以上2以下の数、γは1以上の数、δは1以上の数である。なお、国際公開第2007/018028号パンフレットに記載の式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンはβ=0の化合物である。
【0047】
線状オルガノポリシロキサン(b)は、上記式(1)において、βが1以上2以下の数である化合物であることが好ましい。より好ましい線状オルガノポリシロキサン(b)は、αが0以上1未満の数、βが1以上2以下の数、γが1以上の数、δが1以上の数である化合物である。
【0048】
単位はケイ素原子に結合した水素原子を2個または3個有してもよいが、好ましくは1個有する。D単位はケイ素原子に結合した水素原子を2個有してもよいが、好ましくは1個有する。M単位、D単位、好ましいM単位、好ましいD単位は下記式で表されるものであることが好ましい。R~Rは、それぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基もしくはフルオロアルキル基またはフェニル基を表す。R~Rは好ましくはすべてメチル基である。
【0049】
【化1】
【0050】
単位が存在する場合(δが0でない場合)、DとDの存在比であるγ/δは、分子中のケイ素原子に結合した水素原子の密度を表す指標である。この存在比(γ/δ)は、0.2~30が好ましく、特に0.5~20が好ましい。この存在比が小さすぎると硬化シリコーン樹脂中に未反応のケイ素原子に結合した水素原子の残存量が多くなることより、硬化シリコーン樹脂の経時的変化が大きくなり、また耐熱性の低下をもたらすおそれがある。また、存在比が大きすぎると、硬化シリコーン樹脂の架橋密度が低下するため、耐熱性の低下をもたらすおそれがある。
【0051】
単位とD単位の存在比を表すβ/δは、15≦(β/δ)×1000≦1500であることが好ましい。15≦(β/δ)×1000≦1000であることがより好ましく、15≦(β/δ)×1000≦500であることがさらに好ましい。(β/δ)×1000が15よりも小さいと分子量が大きくなり、あるいは官能基の立体障害が大きくなり、反応性が低下することより、耐熱性が下がるおそれがある。一方、(β/δ)×1000が1500よりも大きいと、架橋密度が小さくなるため、強度等の物性が充分な硬化シリコーン樹脂が得られないおそれが生じる。
【0052】
上記式(1)はオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるオルガノシロキサン単位の平均の組成を示すものであり、線状オルガノポリシロキサン(b)の個々の分子は、αは0または1である整数、βは1または2である整数でα+β=2、γは1以上の整数、δは0以上の整数である。
【0053】
線状オルガノポリシロキサン(b)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの個々の分子は、αが2、βが0、γは0以上の整数、δが1以上の整数であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。なお、これら分子においてDとDがいずれも多数存在する場合、DとDの配列はランダム共重合鎖構造であってもブロック共重合鎖構造であってもよい。通常は環状シロキサンの開環重合で共重合鎖が形成されることより、開環した環状シロキサンのブロックがランダムに共重合した構造を有すると考えられる。
【0054】
上述したとおり線状オルガノポリシロキサン(b)としては個々の分子が線状オルガノポリシロキサン(b)であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンばかりでなく、線状オルガノポリシロキサン(b)と他のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物(その平均組成が上記式(1)で表されるもの)であってもよい。その場合、使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの全モル数のうち、線状オルガノポリシロキサン(b)は20モル%以上含まれることが好ましい。20モル%未満であると、ケイ素原子に結合した水素原子が残存し易くなり、好ましくない。硬化シリコーン樹脂の耐熱性およびシリコーン樹脂層16の経時安定性がより優れる点で、線状オルガノポリシロキサン(b)の含有量は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。
【0055】
<線状オルガノポリシロキサン(a)>
本実施形態におけるシリコーン樹脂は、線状オルガノポリシロキサン(b)と反応する線状オルガノポリシロキサン(a)を含むことが好ましい。線状オルガノポリシロキサン(a)は、アルケニル基を1分子あたり少なくとも2個有する線状オルガノポリシロキサンである。なお、アルケニル基を有する線状オルガノポリシロキサンを、以下オルガノアルケニルポリシロキサンともいう。
【0056】
アルケニル基としては特に限定されないが、例えば、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2-プロペニル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシニル基、などが挙げられ、中でも耐熱性に優れる点から、ビニル基が好ましい。
【0057】
線状オルガノポリシロキサン(a)において、アルケニル基はM単位またはD単位に存在し、M単位とD単位の両方に存在していてもよい。硬化速度の点から、少なくともM単位に存在していることが好ましく、2個のM単位の両方に存在していることが好ましい。また、M単位のみにアルケニル基を有するオルガノアルケニルポリシロキサンは、それが高分子量になるほど1分子あたりのアルケニル基濃度が低くなり硬化シリコーン樹脂の架橋密度が低下するため、耐熱性の低下をもたらすおそれがあることより、M単位とともにD単位の一部にもアルケニル基を有していることが好ましい。
【0058】
線状オルガノポリシロキサン(a)としては、下記式(2)で表される平均組成の線状オルガノポリシロキサンが好ましい。
【0059】
(M(M(D(D ・・・式(2)
ただし、Mはアルケニル基を有しないM単位(前記M単位と同じ)、Mはケイ素原子に結合したアルケニル基を有するM単位、Dはアルケニル基を有しないD単位(前記D単位と同じ)、およびDはケイ素原子に結合したアルケニル基を有するD単位を表し、aは0~2の数、bは0~2の数でa+b=2、cは0以上の数、dは0以上の数でc+d=nである(ただし、b+dは2以上)。より好ましい式(2)で表されるオルガノアルケニルポリシロキサンは、aが0以上1未満の数、bは1以上2以下の数、cは1以上の数、dは1以上の数である。
【0060】
単位はケイ素原子に結合したアルケニル基を2個または3個有してもよいが、好ましくは1個有する。D単位はケイ素原子に結合したアルケニル基を2個有してもよいが、好ましくは1個有する。アルケニル基としてはビニル基が好ましい。M単位、D単位、好ましいM単位、好ましいD単位は下記式で表されるものであることが好ましい。R~Rは、それぞれ独立に、前記と同様に炭素数4以下のアルキル基もしくはフルオロアルキル基またはフェニル基を表す。R~Rは好ましくはすべてメチル基である。
【0061】
【化2】
【0062】
上記式(2)はオルガノアルケニルポリシロキサンにおけるオルガノシロキサン単位の平均の組成を示すものであり、線状オルガノポリシロキサン(a)の個々の分子は、aは0または1である整数、bは1または2である整数でa+b=2、cは1以上の整数、dは0以上の整数である。線状オルガノポリシロキサン(a)は1分子あたりアルケニル基を2個以上有することより、b+dが2以上である。オルガノアルケニルポリシロキサン(a)は他のオルガノアルケニルポリシロキサンとの混合物であってもよいが、通常オルガノアルケニルポリシロキサン(a)のみが使用される。ただし、オルガノアルケニルポリシロキサン(a)は2種以上のオルガノアルケニルポリシロキサン(a)混合物であってもよい。なお、異なるLa値を示す2種のオルガノアルケニルポリシロキサンを併用すると、より有利な効果が得られる。
【0063】
また、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの場合と同様に、上記式(2)はオルガノアルケニルポリシロキサンにおいてDとDがいずれも多数存在する場合、DとDの配列はランダム共重合鎖構造であってもブロック共重合鎖構造であってもよい。なお、オルガノアルケニルポリシロキサン(a)としては国際公開第2007/018028号パンフレットに記載の式(3)や同式(4)で表されるオルガノアルケニルポリシロキサンを使用できる。
【0064】
オルガノアルケニルポリシロキサン(a)の重量平均分子量Mwは、1,000≦Mw≦5,000,000の範囲にあることが好ましい。より好ましいMwは、2,000≦Mw≦3,000,000であり、さらに好ましくは、3,000≦Mw≦1,000,000である。Mwがこの範囲とすることにより、加熱硬化時に揮散することがなくなり、また、高粘度となりすぎず作業性が良好となる。
【0065】
さらに、オルガノアルケニルポリシロキサン(a)の100グラムあたりのアルケニル基の当量数Laで表して、0.001≦La≦1.0の範囲にあることが好ましい。より好ましいLaは0.0015≦La≦0.9であり、さらに好ましくは0.002≦La≦0.9である。Laをこの範囲とすることにより、硬化シリコーン樹脂の耐熱性が良好となり、また硬化シリコーン樹脂の層とガラス基板との剥離強度の経時安定性が向上する。
【0066】
シリコーン樹脂における線状オルガノポリシロキサン(a)と線状オルガノポリシロキサン(b)との含有比率は特に限定されないが、線状オルガノポリシロキサン(b)中のケイ素原子に結合した水素原子と、線状オルガノポリシロキサン(a)中の全アルケニル基のモル比(水素原子/アルケニル基)が0.7~1.05となるように調整することが好ましい。なかでも、0.8~1.0となるように含有比率を調整することが好ましい。ケイ素原子に結合した水素原子とアルケニル基のモル比が0.7未満である場合には、硬化シリコーン樹脂の架橋密度が低下するため、耐熱性等に問題が生じる可能性がある。
【0067】
ケイ素原子に結合した水素原子とアルケニル基のモル比が1.05を超える場合には、長期間放置により、積層体端部より空気中の水分徐々に浸入し、硬化シリコーン樹脂中の未反応のヒドロシリル基(Si-H基)が加水分解され、ガラス基板表面のシラノール基との間でなんらかの反応が進む懸念がある。従って、シリコーン樹脂層16中には、実質的に未反応のケイ素原子に結合した水素原子が残存していないことが好ましい。
【0068】
<その他構成成分>
本実施形態におけるシリコーン樹脂には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤が含有されていてもよい。添加剤として、通常、ケイ素原子に結合した水素原子とアルケニル基の反応を促進する触媒(付加重合用触媒)を使用することが好ましい。この触媒としては白金族金属系触媒を用いることが好ましい。白金族金属系触媒としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系などの触媒が挙げられ、特に白金系触媒として用いることが経済性、反応性の点から好ましい。白金系触媒としては、公知のものを用いることができる。具体的には、白金微粉末、白金黒、塩化第一白金酸、塩化第二白金酸などの塩化白金酸、四塩化白金、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、あるいは白金のオレフィン錯体、アルケニルシロキサン錯体、カルボニル錯体などがあげられる。
【0069】
触媒は、線状オルガノポリシロキサン(a)と線状オルガノポリシロキサン(b)との合計質量に対する質量比で、2~400ppmが好ましい。より好ましくは、5~300ppm、さらに好ましくは8~200ppmである。
【0070】
本実施形態におけるシリコーン樹脂には、さらに、触媒とともに触媒活性を調整する目的で触媒活性を抑制する作用のある活性抑制剤(反応抑制剤、遅延剤等とも呼ばれる化合物)を併用することが好ましい。活性抑制剤としては、例えば、各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられる。さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、各種シリカ、炭酸カルシウム、酸化鉄などの無機フィラーなどを含有していてもよい。
【0071】
(金属層)
金属層18は、電流を流すことができ、電流により発熱できれば、材質、及び形状は限定されない。
【0072】
金属層18の材質として、鉄、銅、黄銅、ステンレス(SUS鋼)、アルミニウム、ニッケル、タングステン、ニクロム等の金属元素単体、又は合金で代表される金属が適用される。
【0073】
金属層18は、0.001mm~0.5mmの厚さを有することが好ましく、0.01mm~0.2mmの厚さを有することがより好ましく、0.01mm~0.1mmの厚さを有することがさらに好ましい。金属層18の厚さが0.001mm以上であれば、ガラス樹脂積層体10を発熱させるために必要な配線が断線しにくい。また、金属層18の厚さが0.500mm以下であれば、金属層18が後述するメッシュ形状である場合に、金属層18にシリコーン樹脂を含浸させることができる。
【0074】
形状に関し、金属層18は、例えば、図3の平面図に示されるように、メッシュ形状を有することが好ましい。メッシュ形状の金属層18は、ガラス樹脂積層体10の可視光透過性を向上できる。ガラス樹脂積層体10の透明性が高くなり、ガラス樹脂積層体10を挟んだ反対側が容易に視認できる。
【0075】
メッシュ形状とは、複数の金属の線材20により開口22の形成された網目の形状である。開口22は、例えば、複数の線材20を編むことで形成される。なお、複数の線材20の編み方は、特に、限定されない。金属層18がメッシュ形状の場合、形成された開口22は金属層18を貫通することが好ましい。
【0076】
メッシュ形状の金属層18は、0.001mm~0.1mmの線径D(線材20の線径)、及び5%以上60%以下の空間率を有することが好ましく、0.010mm~0.05mmの線径D(線材20の線径)、及び10%~50%の空間率を有することがより好ましく、0.01mm~0.025mmの線径D(線材20の線径)、及び20%~40%の空間率を有することがさらに好ましい。上述の範囲のメッシュ形状の金属層18は、ガラス樹脂積層体10の可視光透過性を向上できる。ここで、空間率とは、金属層18の複数の金属の線材20と開口22とを合計した面積に対する金属層18の開口22の面積の割合である。
【0077】
金属層18の開口22の形状は、正方形で示されているが、特に形状は限定されず、例えば、三角形、長方形、ひし形、台形等を含む多角形、及び円、楕円等を含む曲線形状にできる。
【0078】
図1及び図2に示されるように、本実施形態のガラス樹脂積層体10は、金属層18がシリコーン樹脂層16の端部から突出する部分18A(以下、突出部分18A)を有する。突出部分18Aは、金属層18の中でシリコーン樹脂層16により被覆されていない領域である。突出部分18Aは不図示の端子に電気的に接続される。端子から電圧が突出部分18Aを介して金属層18に印加され、電流が金属層18を流れ、発熱する。金属層18に発生した熱が、ガラス樹脂積層体10のガラス板12、14の表面に付着した雪等を融解する。
【0079】
ガラス樹脂積層体10はシリコーン樹脂層16を備えているので、ガラス樹脂積層体10は200℃~250℃まで温度を上げることができ、短時間で雪等を溶解できる。
【0080】
次に、ガラス樹脂積層体10の好ましい態様について説明する。シリコーン樹脂層16の厚さTrの金属層18の厚さTmに対する比(Tr/Tm)が1~5の範囲であることが好ましく、1~3の範囲であることがより好ましく、1~2の範囲であることがさらに好ましい。比(Tr/Tm)を上述の範囲にすることにより、ガラス樹脂積層体10の反りが抑制できる。
【0081】
ガラス樹脂積層体10のガラス板12、14とシリコーン樹脂層16とでは、線膨張係数の差が大きくなる。ガラス樹脂積層体10が発熱すると、ガラス板12、14とシリコーン樹脂層16の線膨張係数の差に起因して、反りが生じる懸念がある。
【0082】
一方で、ガラス樹脂積層体10のシリコーン樹脂層16には金属層18が配置されている。金属層18はシリコーン樹脂層16より小さい線膨張係数を有するので、金属層18はシリコーン樹脂層16の熱に対する寸法変化を小さくする方向に作用する。金属層18の厚さTmのシリコーン樹脂層16の厚さTrに対する比を調整することで、シリコーン樹脂層16の見かけ上の線膨張係数を小さくできる。結果、ガラス板12、14とシリコーン樹脂層16との線膨張係数の差が小さくなり、ガラス樹脂積層体10の反りが抑制できる。
【0083】
ガラス板12、14の線膨張係数とシリコーン樹脂層16の線膨張係数との差は、1000×10-7/℃以下であることが好ましく、600×10-7/℃以下であることがより好ましく、400×10-7/℃以下であることがさらに好ましい。線膨張係数との差は、絶対値を意味する。線膨張係数の差が上述の範囲であれば、ガラス樹脂積層体10の反りが抑制できる。ガラス樹脂積層体10の反りが抑制されることにより、ガラス板12、14とシリコーン樹脂層16とが剥離しにくく、さらにガラス板12、14を額縁により支える場合に額縁からガラス板12、14が外れにくい。
【0084】
ガラス樹脂積層体10のシリコーン樹脂層16の表面圧縮応力が500MPa以下であることが好ましく、300MPa以下であることがより好ましく、100MPa以下であることがさらに好ましい。シリコーン樹脂層16の表面圧縮応力が500MPa以下であれば、ガラス板12、14の表面圧縮応力との差が小さくなり、ガラス樹脂積層体10が反りにくい。シリコーン樹脂層16の表面圧縮応力は小さいほどよく、下限は特に限定されないが、0MPa以上であってよく、1MPa以上であってよく、10MPa以上であってよい。シリコーン樹脂層16の表面圧縮応力は、薄膜応力測定装置(例えば、東朋テクノロジー社製FLX-2320-S)により測定される。
【0085】
ガラス樹脂積層体10の2枚のガラス板12、14の板厚が同一であることが好ましい。2枚のガラス板12、14を同一の板厚にすることで、シリコーン樹脂層16を挟んでガラス板12、14の間に線膨張係数の差がほとんど生じない。したがって、線膨張係数の差に起因するガラス樹脂積層体10の反りが抑制される。板厚が同一とは、完全同一、及びJIS(日本工業規格)R3202:2011で規定されている、許容差を有する板厚が同一の場合を含む。
【0086】
ガラス樹脂積層体10の2枚のガラス板12、14の板厚は異なっていてもよい。ガラス樹脂積層体10を窓として用いた際、外側に板厚の厚いガラス板12(又は14)を用いた場合、ガラス板に物が当たった時の衝撃性が向上できる。内側に板厚の厚いガラス板12(又は14)を用いた場合、耐熱性が向上できる。板厚さが異なるとは、上述した「板厚が同一」以外を意味する。
【0087】
<ガラス樹脂積層体の製造方法>
次に、ガラス樹脂積層体10の製造方法について、図4から図7に基づいて説明する。2枚のガラス板12、14を準備し、図4に示されるように、2枚のガラス板12、14の一方のガラス板14の主面に金属層18を配置する。金属層18は、ガラス板14の主面に接触させて配置してもよいし、また、ガラス板14の主面と一定の距離を離間して配置してもよい。図4では、金属層18を離間した配置が示されている。
【0088】
次に、図5に示されるように、予め調製されたシリコーン樹脂16Aが、金属層18に塗布される。シリコーン樹脂16Aは、ガラス板14の主面全体に塗布される。一方、金属層18の突出部分18Aの予定される領域には、シリコーン樹脂16Aは塗布されない。シリコーン樹脂16Aに存在する気泡を除去することが好ましい。
【0089】
次に、図6に示されるように、他方のガラス板12が、シリコーン樹脂16Aと金属層18とを挟んで一方のガラス板14に貼合される。貼合は、ガラス板12とガラス板14の一辺同士が位置合わせされ、ガラス板12とガラス板14とが平行でない、斜め配置される。貼合は、例えば、一辺を支点とし、ガラス板12をガラス板14に徐々に近づけることで行われる。このようにすることにより、気泡がシリコーン樹脂16Aから抜けやすくなる。ガラス板12とガラス板14の一辺同士が位置合せする場合、短辺同士を位置合せることは気泡を抜くことを容易にする。
【0090】
次に、図7に示されるように、シリコーン樹脂16Aを硬化し、シリコーン樹脂層16が形成される。シリコーン樹脂16Aは、例えば、40℃~80℃で1時間~15時間、ついで、100℃~200℃で1時間~12時間の環境下に置かれることにより硬化し、シリコーン樹脂層16が形成される。なお、ガラス樹脂積層体の製造方法において、必要に応じて、何れかのプロセス、又は全てのプロセスが減圧環境下で実行される。
【0091】
上述の環境下で硬化することにより、シリコーン樹脂層16は0MPa~500MPaの表面圧縮応力を達成できる。
【0092】
実施形態のガラス樹脂積層体は、雪等を融解する必要性のある場所、例えば、自動車、鉄道等の車両、飛行機、建築物、自動販売機等の屋根、壁、窓に適用できる。本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を含む。
【符号の説明】
【0093】
10・・・ガラス樹脂積層体、12、14・・・ガラス板、16・・・シリコーン樹脂層、16A・・・シリコーン樹脂、18・・・金属層、18A・・・突出部分、20・・・線材、22・・・開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7