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特許7258347複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20230410BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019130588
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021015069
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構(研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業ニーズ対応タイプ)「セラミックスの高機能化と製造プロセス革新/ナノブロック高次秩序化による配向性ナノ構造体の開発と表面ドーピングによる高機能化委託研究」に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】チェ ピルギュ
(72)【発明者】
【氏名】原 伸生
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-515786(JP,A)
【文献】特開平10-062373(JP,A)
【文献】特開2005-214626(JP,A)
【文献】特開2001-318069(JP,A)
【文献】特開2016-017760(JP,A)
【文献】特開2018-179581(JP,A)
【文献】特開2020-106445(JP,A)
【文献】Pil Gyu Choi et al., Fabrication and H2-Sensing properties of SnO2 Nanosheet Gas Sensors,ACS Omega,2018年,Vol.3, pp.14592-14596
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する基板上に、酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体と、前記集合体に接する細孔構造体を備え、前記細孔構造体は、直径0.01~1000nmの細孔を有し
前記集合体は、前記ナノシート片が層状に存在する中央シート部と、前記中央シート部の両面に存在する周辺部とを備え、
前記中央シート部は、前記周辺部よりも前記ナノシート片の集合密度が高いことを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
電極を有する基板上に、酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体と、前記集合体に接する細孔構造体を備え、前記細孔構造体は、直径0.01~1000nmの細孔を有し
前記ナノシート片の面内サイズ/厚さが10~50であることを特徴とする複合構造体。
【請求項3】
前記細孔構造体が有する細孔の直径が0.1~100nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記細孔構造体が有する細孔の直径が0.2nm~6nmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記ナノシート片は、酸化スズからなることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記細孔構造体は、金属有機構造体、ゼオライト、メソ多孔体、メソポーラス材料、マクロポーラス多孔体、層状化合物、粘土鉱物、金属錯体、多孔性有機シリカハイブリッド材料、イオン結晶、ナノシート液晶、コロイド鋳型材料およびコロイド結晶からなる群より選択される1種以上からなることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記細孔構造体は、前記金属有機構造体からなることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
前記細孔構造体は、ZIF-8であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項9】
前記基板の主成分がSiOであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の複合構造体を用いることを特徴とするセンサ。
【請求項11】
ガス検出用センサであることを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
前記細孔よりも小さい分子サイズのガスを優先的に検知することを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項13】
分子サイズの増加に伴って応答が減少することを特徴とする請求項1または1に記載のセンサ。
【請求項14】
エチレン、プロピレン、ブテンまたはノナナールを検知することを特徴とする請求項1から1のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項15】
電極を有する基板を、酸化物前駆体を含有する第1の液体に浸漬させて、該酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体を作製する第1の浸漬工程と、
前記集合体が形成された前記電極を有する基板を、細孔構造体前駆体を含有する第2の液体に浸漬させて、前記集合体の表面に細孔構造体を作製する第2の浸漬工程を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項16】
前記第1の液体が酸化スズ前駆体を含有するフッ化スズ含有溶液であり、前記第2の液体が金属有機構造体を含有する亜鉛含有溶液であることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサに関し、特に水素やエチレン、プロピレン、ブテン、ノナナール等のガスを検知するガスセンサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
広範囲の産業利用が期待されている、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ等のセンサ、電池材料、人工光合成材料等において、高い特性を発現させるための微細構造制御が求められている。これらのデバイスは、微細な内部構造や表面構造の制御に加えて、感応部あるいは反応場となる構造体内部や構造体表面での反応が重要となっている。
【0003】
ガスセンサにおいては、検知対象とする特定のガスに対して高い応答性を示し、他のガス分子には低い応答性を示すことができるセンサが求められており、そのための、微細構造の制御が重要となっている。
【0004】
本出願人は、特許文献1において、酸化スズ含有ナノシートを用いた表面積が大きい特徴を有するガスセンサを提案した。このガスセンサは、基板と、基板に設けられた少なくとも一対の電極と、酸化スズ含有ナノシートを有する。酸化スズ含有ナノシートは、基板に対して空隙を介して配置されるブリッジ構造の内側部を備えている。また、酸化スズ含有ナノシートは、酸化スズからなる複数のナノシート片が集合してなる中央シート部と、中央シート部の少なくとも一部の両面に付着し、中央シート部の複数のナノシート片の集合密度よりも低い集合密度で、酸化スズからなる複数のナノシート片が集合してなる周辺部を備えている。
【0005】
特許文献1のガスセンサは、電気抵抗変化によってガスを検知する。しかしながら、このガスセンサは、分子のサイズに応じて、分子を選択的に検知する特性は示していなかった。また、分子のサイズに応じて、小型分子を選択的に検知する特性は示していなかった。
【0006】
そのため、分子のサイズに応じて分子を選択的に検知し、小型分子をも検知することのできるガスセンサの実現が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特願2018-246542(出願日:2018年12月28日)
【非特許文献】
【0008】
【文献】https://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/SAJ/Brochure/1/saj1480_mmb7.pdf
【文献】http://www.jaz-online.org/introduction/qanda.html
【文献】日本工業出版「配管技術」第54巻、9-10号、P28-34、2012年日工No.2012.08.12.20 解説 ガスケット締結体における気体分子のリークの種類、及びリーク量の模型理論(1) 旭プレス工業(株)久野 博
【文献】http://www.asahipress.co.jp/pdf/haikan_201208_201209.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、特に、分子サイズに応じて分子を選択的に検知し小型の分子に対して高い応答特性を示し、ガスセンサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記目的を達成するため、下記の複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサが提供される。
【0011】
〔1〕電極を有する基板上に、酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体と、前記集合体に接する細孔構造体を備え、前記細孔構造体は、直径0.01nm~1000nmの細孔を有していることを特徴とする複合構造体。
〔2〕上記第〔1〕の発明において、前記細孔構造体が有する細孔の直径が0.1~100nmであることを特徴とする複合構造体。
〔3〕上記第〔1〕の発明において、前記細孔構造体が有する細孔の直径が0.2~6nmであることを特徴とする複合構造体。
〔4〕上記第〔1〕から第〔3〕のいずれかの発明において、前記ナノシート片は、酸化スズからなることを特徴とする複合構造体。
〔5〕上記第〔1〕から第〔4〕のいずれかの発明において、前記細孔構造体は、金属有機構造体、ゼオライト、メソ多孔体、メソポーラス材料、マクロポーラス多孔体、層状化合物、粘土鉱物、金属錯体、多孔性有機シリカハイブリッド材料、イオン結晶、ナノシート液晶、コロイド鋳型材料およびコロイド結晶からなる群より選択される1種以上からなることを特徴とする複合構造体。
〔6〕上記第〔1〕から第〔5〕のいずれかの発明において、前記細孔構造体は、前記金属有機構造体からなることを特徴とする複合構造体。
〔7〕上記第〔1〕から第〔6〕のいずれかの発明において、前記細孔構造体は、ZIF-8であることを特徴とする複合構造体。
〔8〕上記第〔1〕から第〔7〕のいずれかの発明において、前記集合体は、前記ナノシート片が層状に存在する中央シート部と、前記中央シート部の両面に存在する周辺部とを備え、前記中央シート部は、前記周辺部よりも前記ナノシート片の集合密度が高いことを特徴とする複合構造体。
〔9〕上記第〔1〕から第〔8〕のいずれかの発明において、前記ナノシート片の面内サイズ/厚さが10~50であることを特徴とする複合構造体。
〔10〕上記第〔1〕から第〔9〕のいずれかの発明において、前記基板の主成分がSiOであることを特徴とする複合構造体。
〔11〕上記第〔1〕から第〔10〕のいずれかの発明の複合構造体を用いることを特徴とするセンサ。
〔12〕上記第〔11〕の発明において、ガス検出用センサであることを特徴とするセンサ。
〔13〕上記第〔12〕の発明において、前記細孔よりも小さい分子サイズのガスを優先的に検知することを特徴とするセンサ。
〔14〕上記第〔12〕または第〔13〕の発明において、分子サイズの増加に伴って応答が減少することを特徴とするセンサ。
〔15〕上記第〔12〕から第〔14〕のいずれかの発明において、エチレン、プロピレン、ブテンまたはノナナールを検知することを特徴とするセンサ。
〔16〕電極を有する基板を、酸化物前駆体を含有する第1の液体に浸漬させて、該酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体を作製する第1の浸漬工程と、前記集合体が形成された前記電極を有する基板を、細孔構造体前駆体を含有する第2の液体に浸漬させて、前記集合体の表面に細孔構造体を作製する第2の浸漬工程を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
〔17〕上記第〔16〕の発明において、前記第1の液体が酸化スズ前駆体を含有するフッ化スズ含有溶液であり、前記第2の液体が金属有機構造体を含有する亜鉛含有溶液であることを特徴とする複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記技術的手段および技術的手法を採用したので、特に、分子サイズに応じて分子を選択的に検知し小型の分子に対して高い応答特性を示し、ガスセンサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を用いたセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試料1の断面模式図である。
図2】試料1の表面の走査型電子顕微鏡像である。
図3図2に示した試料1の拡大像であり、基板上および電極上の試料が示されている。
図4】試料1の断面の走査型電子顕微鏡像であり、図中の右側には電極が存在する領域、図中の左側には電極が存在しない領域が示されている。
図5】試料2の表面の走査型電子顕微鏡像である。
図6】試料2の断面の走査型電子顕微鏡像であり、図中の右側には電極が存在する領域、図中の左側には電極が存在しない領域が示されている。
図7】試料2の断面の透過型電子顕微鏡像であり、円は、制限視野電子回折の評価箇所を示している。
図8図7に示した試料2の制限視野電子回折像である。
図9図7に示した試料2の拡大像であり、四角は、高速フーリエ変換の評価箇所を示している。
図10図9に示した試料2の高速フーリエ変換像であり、0.2631nmの格子間隔が示されている。これは、二酸化スズの(101)面の面間隔に帰属される。
図11図7に示した試料2の高角散乱環状暗視野像である。
図12図11に示した試料2のエネルギー分散型X線分光分析による(左上)シリコン、(右上)酸素、(左下)スズ、(右下)亜鉛の元素マッピング像である。
図13】上段は図7に示した試料2の微小角入射X線回折像であり、ZIF-8、二酸化スズ、白金に帰属される回折線が示されている。下段3段はZIF-8型の金属有機構造体、二酸化スズ、白金の標準的なX線回折パターンを示す。
図14】ZIF-8型の金属有機構造体(MOF)の構造図である。最短原子(水素)間距離は約3.16502Åであり、最長原子(亜鉛)間距離は約12.01601Åである。
図15】エチレンに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す図、ならびにエチレンの分子構造図(左)である。エチレンの分子サイズは、約3.06Åである。
図16】プロピレンに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す図、ならびにプロピレンの分子構造図(左)である。プロピレンの分子サイズは、約4.12Åである。
図17】ブテンに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す図、ならびにブテンの分子構造図(左)である。ブテンの分子サイズは、約5.43Åである。
図18】ノナナールに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す図、ならびにノナナールの分子構造図(左)である。ノナナールの分子サイズは、約12.01Åである。
図19】エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールに対する試料1の応答値を示す図である。
図20】エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールに対する試料2の応答値を示す図である。
図21】エチレンに対する試料2の応答値を基準にした際のプロピレン、ブテン、ノナナールに対する試料2の応答比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の複合構造体は、電極、配線等を設けた基板上に、酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体と、前記集合体に接する細孔構造体を備えている。
【0015】
本発明の複合構造体は、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ等のセンサ、電池材料、人工光合成材料等に用いることができ、特にガスセンサに好ましく用いることができる。
【0016】
本実施形態の複合構造体において、基板としては、典型的にはSiOを主成分とする石英ガラス基板が使用できるが、これに限定されず、用途に応じてこれまで基板として使用されてきた各種材料のものを使用することができる。基板の面内サイズ、厚さも用途に応じて適宜設定することができる。
【0017】
基板の表面にはセンサ等に用いられる電極が設けられるが、電極としては白金等の金属からなる電極が使用される。電極の形状としては、例えば、ガスセンサに用いる場合、くし形電極を使用することができる。
【0018】
本発明の複合構造体では、電極を設けた金属電極上に複数のナノシート片が集合した集合体が設けられる。ナノシート片の厚さは、例えば1~10nmであり、ナノシート片の面内サイズは、例えば5~200nmとすることができる。また、ナノシート片の面内サイズ/厚さ(アスペクト比)は、例えば10~50とすることができる。ここでの面内サイズとは、ナノシート片の厚さ方向と垂直の方向である幅および長さ方向のサイズを指す。ナノシート片の幅および長さの方向は、区別されず、同等である。
【0019】
集合体は、ナノシート片が層状に存在する中央シート部と、この中央シート部の両面に存在する周辺部とを備え、中央シート部は周辺部よりもナノシート片の集合密度が高くなっている。ここでの集合密度とは、単位体積当たりのナノシート片の個数である。
【0020】
集合体は、酸化物からなる複数のナノシート片が集合してなるが、この酸化物のナノシート片は、酸化スズナノシートとすることができ、またブリッジ型の酸化スズナノシートとすることができる。ここで「ブリッジ型」の酸化スズナノシートとは、基板に対して酸化スズナノシートが空洞を介して設けられているものをいう。
【0021】
本発明の複合構造体では、集合体に接して細孔構造体が設けられている。この細孔構造体は集合体の上面のみに設けられていてもよく、上面および下面の両方に設けられていてもよい。
【0022】
細孔構造体は、内部に細孔を備えており、ここでは、細孔とは、直径0.01~1000nm、より好ましくは0.1~100nm、さらに好ましくは0.2~6nmの細孔を指す。細孔サイズは、細孔構造体を構成する金属および有機物の周期構造により定めている。細孔構造体の細孔の直径が上記の範囲であると、分子のサイズに応じて、小型分子を選択的に検知し、小型分子の検知も行うことができ、特にガスセンサに適用して有用なものとなる。
【0023】
本実施形態では、細孔構造体として、細孔を有する様々な材料のものを用いることができ、例えば、金属有機構造体(MOF、Metal-Organic Frameworks)、ゼオライト、メソ多孔体、メソポーラス材料、マクロポーラス多孔体、層状化合物、粘土鉱物、金属錯体、多孔性有機シリカハイブリッド材料、イオン結晶、ナノシート液晶、コロイド鋳型材料およびコロイド結晶からなる群より選択される1種以上からなるものを用いることができる。
【0024】
本実施形態では、細孔構造体として、細孔の周期構造を有する金属有機構造体またはゼオライトをより好ましく用いることができる。
【0025】
金属有機構造体は、多孔性金属錯体(PCP、Porous Coordination Polymer)(PCPs、Porous Coordination Polymers)とも呼ばれる。金属有機構造体は、金属イオンと有機配位子の配位結合によって構成され、規則的な結晶構造を形成し、内部に多数の細孔を有する。金属イオンと有機配位子の組み合わせが多数存在するため、極めて多くの構造種類が報告されているが、この中から適切な種類の金属構造体を選択して使用することができる。
【0026】
後述の実施例で好ましく用いている細孔構造体は、ゼオライト型イミダゾール構造体(ZIF、Zeolitic imidazolate framework)である。ゼオライト型イミダゾール構造体とは、亜鉛と各種イミダゾール置換体から形成される金属有機構造体(MOF)の総称である。さらに詳しくは、実施例で好ましく用いている細孔構造体は、ZIF-8(Zeolitic imidazolate framework-8)である。ZIF-8は、ゼオライト型イミダゾール構造体(ZIF)の一種である。ZIF-8(Zeolitic imidazolate framework-8)は、X線回折において、5~10°、10~20°、20~30°のうち、少なくとも1本、または2本、あるいは3本以上の回折線を示す。
【0027】
金属有機構造体は、金属イオンとして、Al3+、Ti4+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Ni2+、Cu2+、Zn2+等を含むものを用いることができる。具体的には、実施例のZIF-8の他、ZIF-7、ZIF-9、ZIF-22、MMOF、SIM-1、ZIF-90、ZIF95、ZIF78、ZIF-71、ZIF-69、MIL-96、MIL-100、MIL-53、HKUST-1(Cu-BTC)、MOF-5(IRMOF-1)、MIL-47、UiO-66等を用いることができる。
【0028】
また、本発明では、細孔構造体として、上記の他、種々のゼオライト等の無機構造体や、種々の金属有機構造体等の有機無機複合構造体を用いることができる。
【0029】
細孔構造体に用いるゼオライトは、アルカリまたはアルカリ土類金属を含む含水アルミノケイ酸塩であり、細孔の周期構造を有する。一般的に、約0.2~1.0nmの細孔径を有する複数のゼオライトが知られている。
【0030】
次に、本実施形態により、集合体として酸化スズ含有シートを作製し、それに接して細孔構造体を作製した複合構造体の製造方法の例について述べる。酸化スズ含有シートの製造は、金属電極を有する基板を、酸化スズ前駆体を含有するフッ化スズ含有溶液中に浸して、金属電極を有する基板上に酸化スズ含有シートを形成する第1の浸漬工程を施すことにより行う。
【0031】
第1の浸漬工程の後、酸化スズ含有シートが形成された、金属電極を有する基板を、細孔構造体前駆体を含有する亜鉛含有溶液中に浸して、酸化スズ含有シートが形成された基板の基材表面に細孔構造体を形成する第2の浸漬工程を施し、複合構造体が作成される。
【0032】
次に、本実施形態の複合構造体をガスセンサに適用した場合の一態様について説明する。
【0033】
本態様のガスセンサに用いる複合構造体は、細孔構造体および酸化スズ含有シートを備えている。前記細孔構造体は、例えば、ZIF-8型の金属有機構造体である。この細孔構造体は、例えば、細孔のサイズが25℃等の室温においておよそ0.41nmである。前記細孔構造体は、例えば、最短原子(水素)間距離は約3.16502Åである。前記細孔構造体は、例えば、最長原子(亜鉛)間距離は約12.01601Åである。細孔構造体内の細孔のサイズは、X線回折、中性子線回折、放射光回折、小角散乱、ガス吸着等温線または、透過型電子顕微鏡像から算出する。
【0034】
本態様のガスセンサは水素、エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナール等のガスを検知することができる。
【0035】
本態様のガスセンサは、分子のサイズに応じて、大型のガス分子には低い応答性を示し、小型のガスに対して高い応答性を示す。また、本態様のガスセンサは、分子のサイズに応じて、小型分子を選択的に検知する特性を示す。
【0036】
本態様のガスセンサは、分子のサイズが小さくなるにつれて高い応答性を示し、例えば、ノナナール、ブテン、プロピレン、エチレン、水素の順に分子のサイズが小さくなるため、その順にしたがって高い応答性を示すようになる。
【0037】
また、動的分子径は、例えば、水素が0.289nmであり、メタンが0.38nmである。
【0038】
また、衝突直径は、例えば、水素が0.283nmであり、メタンが0.376nmである。
【0039】
本実施形態のガスセンサでは、動径分子径および衝突直径が上記のような値の小型の気体分子を対象とすることができ、例えば、細孔の直径が0.376nm未満である細孔構造体は、メタンを透過させない効果を持ち、細孔の直径が0.283nm未満である細孔構造体は、メタン、水素を透過させない効果を持ち、細孔の直径が0.255nm未満である細孔構造体は、メタン、水素を透過させない効果を持つ。
【0040】
ただし、気体分子よりも小さな直径を有し、室温では気体分子を通さない細孔であっても、300℃等の高温では、細孔構造体を構成する原子の熱振動のため、瞬間的に気体分子を透過するサイズへと拡大する。その際には、気体分子が細孔を透過しうる。細孔構造体内に入った気体分子は、拡散係数に従い、気体分子が多い領域より少ない領域へと拡散移動する。これらにより、細孔径よりも大きな気体分子が、細孔構造体を透過する現象が起こりうる。
【0041】
これは、温度の制御により、細孔構造体の細孔の直径を制御することが可能であることを示している。また、温度の制御により、透過する分子のサイズを制御することが可能であることを示している。
【0042】
本発明では、上記で示した二酸化スズナノシートに代えて、一酸化スズ、酸化スズ、二酸化チタン、酸化亜鉛等の種々の金属酸化物を用いることができる。
【0043】
なお、本明細書で使用している略語は、和文表記が下記の左側、英文の正式表記が括弧内の右側に記載されている。
制限視野電子回折(SAED、Selected area electron diffraction)
高速フーリエ変換(FFT、Fast Fourier Transform)
高速フーリエ変換は、評価箇所の結晶構造に関する情報を解析するために用いた。特に、結晶の面間隔の解析を行い、物質の同定および結晶方位(結晶面の積層の方位)の解析に用いた。
高角散乱環状暗視野(HAADF、high-angle annular dark-field)
高角散乱環状暗視野像では、重い原子がより明るく観察されるため、重い原子の観察が容易である特長を持つ。また、散乱断面積が小さく多重散乱がないこと、電子波の干渉効果が結像に関与していないことから、像の解釈が容易である特長を持つ。これらの特長から、高角散乱環状暗視野像の解析を行った。
エネルギー分散型X線分光分析(EDS、Energy Dispersive X -ray Spectroscopy)
微小角入射X線回折(GIXD、Grazing Incidence X-ray Diffraction)
ナノシート片の厚さ、ナノシート片の面内サイズの数値は、図3を含む複数の走査型電子顕微鏡像におけるナノシート片のサイズを測り算出した。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【0045】
(実施例1)
第1段階として、くし形の白金電極12A、12Bを具備する石英ガラス基板11上に、酸化スズナノシート13を合成し、試料1とする。第2段階として、試料1の酸化スズナノシート13の上と下にそれぞれ層状の細孔構造体15、14を合成して形成した。具体的には、細孔構造体14、15として、ZIF-8型の金属有機構造体を合成して形成した。(符号は図1参照)
【0046】
<試料1(集合体)の合成>
90℃の蒸留水1000mLに、フッ化スズ(SnF)(森田化学工業株式会社製)4.35gを溶解して5mMフッ化スズ水溶液を得た。フッ化スズを溶解する際には、強撹拌にて溶解した。幅5μmの白金電極12A、12Bが5μmごとの間隔で石英ガラス基板11の表面にくし形に設けられた白金くし形電極基板をこのフッ化スズ水溶液に浸漬し、90℃で6時間保持して試料1を得た。溶液調整、基板浸漬時の温度調整、溶液条件制御、結晶成長制御を精密に実施した。石英ガラスはSiOが主成分である。
【0047】
図2に、試料1の表面の走査型電子顕微鏡像を示す。石英ガラス基板11上および白金電極12A、12B上に、酸化スズナノシート13が均一に形成されている。
【0048】
図3に、図2に示した試料1の拡大像を示す。石英ガラス基板上および白金電極上の試料が示されている。ナノシート片の厚さは1~10nmであり、ナノシート片の面内サイズは5~200nmであった。観察される複数のナノシート片は、例えば、厚さが10nm、面内サイズが100nmで「面内サイズ/厚さ」のアスペクト比10、厚さが10nm、面内サイズが200nmでアスペクト比20、厚さが5nm、面内サイズが200nmでアスペクト比40、厚さが1nm、面内サイズが50nmでアスペクト比50であった。すなわち、ナノシート片のアスペクト比は10~50であった。これらの数値は、図3を含む複数の走査型電子顕微鏡像におけるナノシート片のサイズを測り算出した。
【0049】
図4に、試料1の断面の走査型電子顕微鏡像を示す。図中の右側には電極が存在する領域、図中の左側には電極が存在しない領域が示されている。
【0050】
試料1の合成工程により、隣接する2つの白金電極12A、12B間にまたがって酸化スズナノシート13が形成された。酸化スズナノシート13の下方は空洞16となっていた。つまり、内側部が石英ガラス基板11から浮いているブリッジ型の構造の酸化スズナノシート13が形成された。酸化スズナノシート13の下方には、フッ化スズ水溶液によって石英ガラス基板11の上部が溶解して空洞16が形成された。
【0051】
<試料2(複合構造体)の合成>
実施例1では、層状の細孔構造体として、ZIF-8を作製した。ZIF-8の形成は、次の方法で行った。前処理として、試料1を濃度0.1Mの硝酸亜鉛6水和物の水溶液に浸漬して風乾した後に、空気雰囲気中において200℃で6時間加熱を行った。次に、硝酸亜鉛6水和物1.1gを100mlの脱イオン水に溶解した硝酸亜鉛水溶液と、2-メチルイミダゾール22.7gを300mlの脱イオン水に溶解した2-メチルイミダゾール水溶液をそれぞれ調製した。硝酸亜鉛水溶液10mlと2-メチルイミダゾール水溶液30mlをそれぞれ計量して、ガラス製のサンプル瓶内で混合して、前処理を施した試料1を浸漬し、50℃において4時間、浸透した。ZIF-8を表面に形成した試料1を取り出し、メタノール洗浄を行い、乾燥した(試料2)。
【0052】
図1に試料2の断面を模式的に示す。図1に示すように、試料1の合成工程により、隣接する2つの白金電極12A、12B間にまたがって酸化スズナノシート13が形成された。酸化スズナノシート13の下方は空洞16となっていた。つまり、酸化スズナノシート13の内側部が石英ガラス基板11から浮いている、すなわちブリッジ型の構造の酸化スズナノシート13が形成された。酸化スズナノシート13の下方には、フッ化スズ水溶液によって石英ガラス基板11の上部が溶解して空洞16が形成された。さらに、試料2の合成工程により、酸化スズナノシート13の上部および下部に細孔構造体15、14が形成された。細孔構造体14、15の厚さは、下部の細孔構造体14よりも上部の構造体15が厚い。これは、酸化スズナノシート13の存在により、酸化スズナノシート13の上部に比べて、酸化スズナノシート13の下部へは、細孔構造体14、15の結晶成長のための原料供給が少なく、結晶成長が抑制されたことに起因すると考えられる。
【0053】
図5に、試料2の表面(図1の細孔構造体15の表面に相当)の走査型電子顕微鏡像を示す。基板表面の走査型電子顕微鏡像にて観察される基板に平行方向の大きさとして、約100~2000mのサイズの結晶からなる細孔構造体が示されている。特に、約500~1000mのサイズの結晶が多く観察され、これらの結晶からなる細孔構造体が示されている。
【0054】
図6に、試料2の断面の走査型電子顕微鏡像を示す。図中の右側には電極が存在する領域、図中の左側には電極が存在しない領域が示されている。酸化スズナノシート13上部に、膜厚約300~1000nmの細孔構造体15が示されている。図中の右の矢印位置での膜厚は約700nmであった。
【0055】
上述のように、試料2の細孔構造体14、15は、硝酸亜鉛水溶液10mlと2-メチルイミダゾール水溶液30mlをそれぞれ計量して、ガラス製のサンプル瓶内で混合して、前処理を施した試料1を浸漬し、50℃において4時間、浸透することで合成している。処理時間を調整することにより、細孔構造体14、15の膜厚や面内密度、結晶サイズ等を容易に制御することができる。使用した原材料の量:硝酸亜鉛水溶液10mlと2-メチルイミダゾール水溶液30mlは、細孔構造体の付着量に対して十分に多い量とした。
【0056】
例えば、4時間での合成を2回繰り返すことなどで、膜厚約700nmを2倍の膜厚約1400nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約600~2000nmとすることができる。
【0057】
また、例えば、合成時間を4時間から1/2倍の2時間とすることなどで、膜厚約700nmを1/2倍の膜厚約350nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約150~500nmとすることができる。
【0058】
また、例えば、4時間での合成を10回繰り返すことなどで、膜厚約700nmを10倍の膜厚約7000nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約3000~10000nmとすることができる。
【0059】
さらに、例えば、合成時間を4時間から1/10倍の0.4時間とすることなどで、膜厚約700nmを1/10倍の膜厚約70nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約30~100nmとすることができる。
【0060】
一方、酸化スズナノシート13下部には、膜厚約100~500nmの細孔構造体14が示されている。図中の白金電極先端付近の酸化スズナノシート13の細孔構造体14の膜厚は、約200nmであった。
【0061】
例えば、4時間での合成を2回繰り返すことなどで、膜厚約200nmを2倍の膜厚約400nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約200~1000nmとすることができる。
【0062】
また、例えば、合成時間を4時間から1/2倍の2時間とすることなどで、膜厚約200nmを1/2倍の膜厚約100nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約50~250nmとすることができる。
【0063】
また、例えば、4時間での合成を10回繰り返すことなどで、膜厚約200nmを10倍の膜厚約2000nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約1000~5000nmとすることができる。
【0064】
さらに、例えば、合成時間を4時間から1/10倍の0.4時間とすることなどで、膜厚約200nmを1/10倍の膜厚約20nmとすることができる。その際、膜厚の範囲は、膜厚約10~50nmとすることができる。
【0065】
試料1の合成工程により、隣接する2つの白金電極12A、12B間にまたがって酸化スズナノシート13が形成された。酸化スズナノシート13の下方は空洞16となっていた。つまり、内側部が石英ガラス基板11から浮いているブリッジ型の構造の酸化スズナノシート13が形成された。酸化スズナノシート13の下方には、フッ化スズ水溶液によって石英ガラス基板11の上部が溶解して空洞16が形成された。さらに、試料2の合成工程により、酸化スズ含有ナノシート13の上部および下部に、細孔構造体15、14が形成された。細孔構造体の厚さは、下部よりも上部が厚い。これは、酸化スズナノシート13の存在により、酸化スズナノシート13の上部に比べて、酸化スズナノシート13の下部へは、細孔構造体の結晶成長のための原料供給が少なく、結晶成長が抑制されたことに起因すると考えられる。
【0066】
図7に、試料2の断面の透過型電子顕微鏡像を示す。円は、制限視野電子回折の評価箇所を示している。図7に示す本実施例のブリッジ型の酸化スズナノシート13は、酸化スズからなる複数のナノシート片が層状に存在する中央シート部と、この層状の上下方向、つまり中央シート部の両面であって、酸化スズからなる複数のナノシート片が存在する周辺部を備え、中央シート部の酸化スズのナノシート片の集合密度が、周辺部の酸化スズのナノシート片の集合密度より高い。
【0067】
ブリッジ型の酸化スズナノシート13上部に、細孔構造体15が示されている。細孔構造体15の膜厚は約400~800nmであった。図中の右の矢印位置での膜厚は、約800nmであった。
【0068】
この領域の膜厚も、例えば、合成時間を1/10倍、1/2倍、2倍、10倍とすることなどで、それぞれ、膜厚約40~80nm、膜厚約200~400nm、膜厚約800~1600nm、膜厚約4000~8000nmとすることができる。
【0069】
一方、酸化スズナノシート13下部には、膜厚約50~200nmの細孔構造体14が示されている。図中の白金電極先端付近の酸化スズナノシート13下部の細孔構造体14の膜厚は、約150nmであった。
【0070】
この領域の膜厚も、例えば、合成時間を1/10倍、1/2倍、2倍、10倍とすることなどで、それぞれ、膜厚約5~20nm、膜厚約25~100nm、膜厚約100~400nm、膜厚約500~2000nmとすることができる。
【0071】
図8に、図7に示した試料2の制限視野電子回折像を示す。二酸化スズの(110)面、(101)面、(200)面に帰属される回折が示された。また、白金の(111)面に帰属される回折が示された。これらは、図7の円の内部領域に、二酸化スズ結晶および白金が存在することを示している。
【0072】
図9に、図7に示した試料2の拡大像を示す。四角は、図10に示す高速フーリエ変換の評価箇所を示している。高速フーリエ変換は、評価箇所の結晶構造に関する情報を解析するために用いた。特に、結晶の面間隔の解析を行い、物質の同定および結晶方位(結晶面の積層の方位)の解析に用いた。膜厚約2~6nmの酸化スズナノシート13が示されている。特に、膜厚約3~5nmの酸化スズナノシート13が多く示されている。高速フーリエ変換の評価箇所の四角の領域からは、膜厚約4nmの酸化スズナノシート13が示されている。
【0073】
図10に、図9に示した試料2の高速フーリエ変換像を示す。0.2631nmの格子間隔が示されている。これは、二酸化スズの(101)面の面間隔に帰属される。酸化スズナノシート13は、二酸化スズの(101)面の積層により構成されていることを示している。
【0074】
図11に、図7に示した試料2の高角散乱環状暗視野像(HAADF)を示す。
高角散乱環状暗視野像では、重い原子がより明るく観察されるため、重い原子の観察が容易である特長を持つ。また、散乱断面積が小さく多重散乱がないこと、電子波の干渉効果が結像に関与していないことから、像の解釈が容易である特長を持つ。これらの特長から、高角散乱環状暗視野像の解析を行った。図の上部から順に、酸化スズナノシート13上部の細孔構造体15、酸化スズナノシート13、酸化スズナノシート13下部の細孔構造体14、石英ガラス基板11が示されている。
【0075】
図12(左上)に、図11に示した試料2のエネルギー分散型X線分光分析によるシリコンの元素マッピング像を示す。石英ガラス基板11に多くのシリコンが含まれていることが示されている。酸化スズナノシート13の箇所から少量のシリコンが観察されている。
【0076】
図12(右上)に、図11に示した試料2のエネルギー分散型X線分光分析による酸素の元素マッピング像を示す。酸化スズナノシート13、および石英ガラス基板11に酸素が含まれていることが示されている。酸化スズナノシート13上部の細孔構造体15、および酸化スズナノシート13下部の細孔構造体15に、少量の酸素が含まれていることが示されている。
【0077】
図12(左下)に、図11に示した試料2のエネルギー分散型X線分光分析によるスズの元素マッピング像を示す。酸化スズナノシート13にスズが含まれていることが示されている。
【0078】
図12(右下)に、図11に示した試料2のエネルギー分散型X線分光分析による亜鉛の元素マッピング像を示す。酸化スズナノシート13上部の細孔構造体15、および酸化スズナノシート13下部の細孔構造体14に、亜鉛が含まれていることが示されている。酸化スズナノシート13の箇所から亜鉛が観察されている。酸化スズナノシート13の集積領域内部にも細孔構造体が形成されていることを示している。
【0079】
図13の上段に、図7に示した試料2の微小角入射X線回折像を示す。ZIF-8、二酸化スズ、白金に帰属される回折線が示されている。図13の下段3段に、ZIF-8型の金属有機構造体、二酸化スズ、白金の標準的なX線回折パターンを示す。試料2に、ZIF-8、二酸化スズ、白金が含まれていることが示されている。
【0080】
酸化スズのピークのうち、低角度側の黒菱形で示した回折線は二酸化スズの(110)面に帰属される。高角度の黒菱形で示した回折線は二酸化スズの(211)面に帰属される。その間の強い2本の回折線は、低角度側から、それぞれ、(101)面、(200)面に帰属される。これら4本の回折線は、低角度側から、(110)、(101)、(200)、(211)の順である。
【0081】
試料2に含まれる酸化スズナノシート13は、下段2段目に示される一般的な酸化スズの回折線の強度比とは異なった。特に、(101)回折線の強度が、(110)回折線の強度の1/10以下である特徴を示した。また、(101)回折線の強度が、(211)回折線の強度の1/10以下である特徴を示した。
【0082】
図14に、ZIF-8型の金属有機構造体(MOF)の構造図を示す。最短原子(水素)間距離は約3.16502Åであり、最長原子(亜鉛)間距離は約12.01601Åである。本発明で得られた細孔構造体の有する細孔径が、このモデルの細孔径と一致すると考えられる。
【0083】
図15に、エチレンに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す。1200秒間空気を流した後、1800秒間エチレンを流し、その後、1800秒間空気を流した。エチレンの濃度は50ppmであった。エチレンを導入した際にエチレンに応答して抵抗値が低下し、その後空気を導入すると抵抗値が上昇した。図15(左)に、エチレンの分子構造図を示す。エチレンの分子サイズは、約3.06Åである。
【0084】
図16に、プロピレンに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す。1200秒間空気を流した後、1800秒間プロピレンを流し、その後、1800秒間空気を流した。プロピレンの濃度は50ppmであった。プロピレンを導入した際にプロピレンに応答して抵抗値が低下し、その後空気を導入すると抵抗値が上昇した。図16(左)に、プロピレンの分子構造図を示す。プロピレンの分子サイズは、約4.12Åである。
【0085】
図17に、ブテンに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す。1200秒間空気を流した後、1800秒間ブテンを流し、その後、1800秒間空気を流した。ブテンの濃度は50ppmであった。ブテンを導入した際にブテンに応答して抵抗値が低下し、その後空気を導入すると抵抗値が上昇した。図17(左)に、ブテンの分子構造図を示す。ブテンの分子サイズは、約5.430Åである。
【0086】
図18に、ノナナールに対する試料1(中央)および試料2(右)の抵抗値変化を示す。1200秒間空気を流した後、1800秒間ノナナールを流し、その後、1800秒間空気を流した。ノナナールの濃度は0.85ppmであった。ノナナールを導入した際にノナナールに応答して抵抗値が低下し、その後空気を導入すると抵抗値が上昇した。図18(左)に、ノナナールの分子構造図を示す。ノナナールの分子サイズは、約12.01Åである。
【0087】
図19に、エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールに対する試料1の応答値を示す。
Raは空気中での抵抗値である。Rgは、エチレン、プロピレン、ブテン、またはノナナール中での抵抗値である。応答は、(Ra-Rg)/Raである。試料1においては、エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールの順に応答値が大きくなった。これは、ガスの分子量が大きくなるに従い、1分子と反応する酸素原子の数が増加することなどによると考えられる。
【0088】
図20に、エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールに対する試料2の応答値を示す。Raは空気中での抵抗値である。Rgは、エチレン、プロピレン、ブテン、またはノナナール中での抵抗値である。応答は、(Ra-Rg)/Raである。
【0089】
一方、試料2においては、エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールの順に応答値が小さくなった。これは、ガスの分子サイズが大きくなるに従い、細孔構造体を透過して二酸化スズ表面へ到達できる分子数が減少することによると考えられる。
【0090】
図21に、エチレンに対する試料2の応答値を基準にした際の、プロピレン、ブテン、ノナナールに対する試料2の応答比を示す。横軸は分子サイズである。エチレン、プロピレン、ブテン、ノナナールの順に応答比が小さくなった。これは、ガスの分子サイズが大きくなるに従い、細孔構造体を透過して二酸化スズ表面へ到達できる分子数が減少することによると考えられる。これらのことは、分子サイズに応じて分子を選択的に検知し小型の分子に対して高い応答特性を示したことを表している。本発明が、分子サイズに応じて分子を選択的に検知し小型の分子に対して高い応答特性を示し、ガスセンサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法を提供することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、分子サイズに応じて分子を選択的に検知し小型の分子に対して高い応答特性を示すガスセンサに利用することができる。また、気相中の分子だけでなく、液相中の分子を対象とした分子センサにおいても、分子サイズに応じて分子を選択的に検知し小型の分子に対して高い応答特性を示すセンサに利用することができる。ガス分離の分野において、分子サイズに応じて分子を選択的に透過させるガス分離膜として利用することができる。気相中の分子だけではく、液相中の分子分離の分野において、分子サイズに応じて分子を選択的に透過させる液相分子分離膜として利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
11 石英ガラス基板
12A、12B 白金電極
13 酸化スズナノシート
14、15 細孔構造体
16 空洞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21