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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】濃縮型経口組成物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20230410BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20230410BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230410BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230410BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230410BHJP
   A23L 23/10 20160101ALN20230410BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K9/00
A61K35/744
A61K35/747
A61K47/44
A61P37/04
A23L23/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018239420
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2019198314
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018091408
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-08607
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 夢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 万葉
(72)【発明者】
【氏名】望月 拓
(72)【発明者】
【氏名】坂根 久美
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 義隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 由祐
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 翼
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-058971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体で希釈して煮込むことで調理される濃縮型経口組成物であって、乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物と、油脂とを分散して含有し、かつ水分含量が5質量%以下である、濃縮型経口組成物。
【請求項2】
前記乳酸菌粉粒体組成物とは別の粉粒体を、分散して含有する、請求項1に記載の濃縮型経口組成物。
【請求項3】
前記乳酸菌粉粒体組成物を0.01~5質量%含有し、前記油脂を10~80質量%を含有する、請求項1又は2に記載の濃縮型経口組成物。
【請求項4】
前記乳酸菌粉粒体組成物と前記別の粉粒体とを合わせた配合量が、20~90質量%である、請求項2又は3に記載の濃縮型経口組成物。
【請求項5】
前記油脂が、常温固体油脂であり、前記濃縮型経口組成物が、前記常温固体油脂により固化されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の濃縮型経口組成物。
【請求項6】
増粘剤をさらに含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の濃縮型経口組成物。
【請求項7】
前記乳酸菌死菌体を構成する乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(受託番号FERM BP-08607)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の濃縮型経口組成物。
【請求項8】
油脂を含有し、乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物を含有しない原料を、品温が100℃以上になるまで加熱処理する加熱工程、及び、
前記加熱工程後の原料に、前記乳酸菌粉粒体組成物を、品温が100℃未満の温度条件で混合する添加工程、
を含むことを特徴とする、液体で希釈して煮込むことで調理される濃縮型経口組成物の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程の後で、かつ前記添加工程の前又は前記添加工程と同時に、前記乳酸菌粉粒体組成物とは別の粉粒体を加えて、原料の品温を100℃未満に冷却処理する冷却工程をさらに含む、請求項に記載の濃縮型経口組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮型経口組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌は、マクロファージを活性化させて、ナチュラルキラー細胞等を活性化するサイトカインであるインターロイキン12(IL-12)の産生を促進することが知られている(特許文献1及び2等)。特許文献1には、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の死菌体を飲食品に添加して、IL-12産生誘導活性を有する乳酸菌含有免疫賦活用組成物を製造することが記載されている。
【0003】
特許文献1には、前記乳酸菌死菌体を飲料やチョコレート等に添加すること、添加及び保存時の温度条件が記載されているが、乳酸菌死菌体をカレールウ等の濃縮型食品に添加することや、当該濃縮型食品の製造技術については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-95465号公報
【文献】国際公開第2007/138993号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カレールウ等の濃縮型食品は、水や湯で希釈し、具材を加えて煮込むことでカレーソース等に調理されるので、濃縮型食品に添加された乳酸菌死菌体が、調理後にもその活性を発揮するためには、濃縮型食品及びこれを用いて調理された料理のいずれにおいても、乳酸菌死菌体の活性が均一に維持される必要がある。したがって、本発明は、希釈して経口摂取される濃縮型経口組成物であって、製造及び調理の間に乳酸菌死菌体の活性が維持され、調理後(希釈後)にも当該活性が均一に発揮される濃縮型経口組成物、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、油脂を含有し、水分含量が5質量%以下である濃縮型経口組成物中に乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物を分散させれば、製造及び調理の間に乳酸菌死菌体の活性が維持され、調理後(希釈後)にも当該活性が均一に発揮されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す濃縮型経口組成物及びその製造方法を提供するものである。
〔1〕乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物と、油脂とを分散して含有し、かつ水分含量が5質量%以下である、濃縮型経口組成物。
〔2〕前記乳酸菌粉粒体組成物とは別の粉粒体を、分散して含有する、前記〔1〕に記載の濃縮型経口組成物。
〔3〕前記乳酸菌粉粒体組成物を0.01~5質量%含有し、前記油脂を10~80質量%を含有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の濃縮型経口組成物。
〔4〕前記乳酸菌粉粒体組成物と前記別の粉粒体とを合わせた配合量が、20~90質量%である、前記〔2〕又は〔3〕に記載の濃縮型経口組成物。
〔5〕前記油脂が、常温固体油脂であり、前記濃縮型経口組成物が、前記常温固体油脂により固化されている、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の濃縮型経口組成物。
〔6〕増粘剤をさらに含有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の濃縮型経口組成物。
〔7〕油脂を含有し、乳酸菌粉粒体組成物を含有しない原料を、100℃以上に加熱処理する加熱工程、及び、
前記加熱工程後の原料に、前記乳酸菌粉粒体組成物を、100℃以上の温度がかからない状態で混合する添加工程、
を含むことを特徴とする、濃縮型経口組成物の製造方法。
〔8〕前記加熱工程の後で、かつ前記添加工程の前又は前記添加工程と同時に、前記乳酸菌粉粒体組成物とは別の粉粒体を加えて、原料の品温を100℃未満に冷却処理する冷却工程をさらに含む、前記〔7〕に記載の濃縮型経口組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の濃縮型経口組成物は、製造及び調理の間に乳酸菌死菌体の活性が維持され、調理後(希釈後)にも当該活性が均一に発揮されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の濃縮型経口組成物は、乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物と、油脂とを分散して含有し、かつ水分含量が約5質量%以下のものである。
【0009】
(乳酸菌死菌体)
乳酸菌死菌体を構成する乳酸菌としては、乳酸を産生し得る菌であれば特に限定されないが、ラクトバチルス属に属する菌が好ましく、具体的にはラクトバチルス・アシドフィリス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ブフネリ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・デルブリュキイ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ケフィア、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・サリバリウス、又はラクトバチルス・スポロゲネス等であってもよい。より好ましくは、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタラム、特にラクトバチルス・プランタラムL-137株(平成7年11月30日より、受託番号FERM BP-08607で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている)である。
【0010】
培養した乳酸菌を死滅させる方法としては、当技術分野で通常使用される方法を特に制限されることなく採用することができ、培養物中で死滅させてもよいし、培養物から遠心分離等により分離した後に死滅させてもよい。例えば、前記乳酸菌を、加熱処理、紫外線照射処理、又はホルマリン処理等によって死滅させてもよいが、加熱処理により死滅させるのが好ましい。このようにして死滅させると、IL-12産生誘導活性がより高い状態で維持され得る。前記加熱処理の温度は、前記乳酸菌を死滅させることができる限り特に制限されないが、例えば、約65~約100℃であってもよく、好ましくは約70~約90℃、より好ましくは約75~約85℃である。また、前記加熱処理の時間も、前記乳酸菌を死滅させることができる限り特に制限されないが、例えば、約5~約90分であってもよく、好ましくは約10~約60分、より好ましくは約15~約30分である。このような範囲の条件で加熱処理すると、前記乳酸菌を効率よく死滅させることができ、かつ死菌体においてIL-12産生誘導活性を効率よく維持することができる。
【0011】
(乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物)
前記乳酸菌死菌体は、賦形剤と混合した粉粒体の形態の組成物として、本発明の濃縮型経口組成物に使用され得る。前記賦形剤としては、当技術分野で通常使用される賦形剤を特に制限されることなく採用することができるが、例えば、デキストリン、アラビアガム、ガティガム、グアーガム、ゼラチン、寒天、澱粉、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、カゼイン、カゼイン化合物、カードラン、アルギン酸類、糖類、プルラン、セルロース類、キサンタンガム、及びカルメロース塩等の水溶性賦形剤を使用してもよい。
【0012】
前記乳酸菌粉粒体組成物中の前記乳酸菌死菌体及び前記賦形剤の配合量は、特に制限されないが、例えば、前記乳酸菌粉粒体組成物の全質量に対して、前記乳酸菌死菌体が、約1~約50質量%好ましくは約1~約30質量%含まれていてもよく、前記賦形剤が、約50~約99質量%好ましくは約70~約99質量%含まれていてもよい。また、前記乳酸菌粉粒体組成物1g中の前記乳酸菌死菌体の数は、特に制限されないが、例えば、約100億~約1兆個であってもよく、好ましくは約1000億~約5000億個である。前記乳酸菌粉粒体組成物を上述したような組成となるように調製することによって、本発明の濃縮型経口組成物において前記乳酸菌死菌体の活性をより良好に維持することができ、かつ当該濃縮型経口組成物を希釈した際にも前記乳酸菌死菌体の活性をより均一に発揮させることができる。
【0013】
前記乳酸菌粉粒体組成物の粒子径は、特に制限されないが、例えば、約500μm以下であってもよく、好ましくは約400μm以下である。また、前記乳酸菌粉粒体組成物の粒子径は、例えば、約10μm以上であってもよい。
【0014】
前記濃縮型経口組成物中の前記乳酸菌粉粒体組成物の配合量は、特に制限されないが、例えば、前記濃縮型経口組成物の全質量に対して、約0.01~約5質量%であってもよく、好ましくは約0.03~約3.0質量%、さらに好ましくは約0.05~約1.5質量%である。
また、前記濃縮型経口組成物中の前記乳酸菌粉粒体組成物の配合量は、効果発現の個人差を考慮して適宜設定してもよい。例えば、成人(体重60kg)1人当たりの前記乳酸菌死菌体の摂取量が、乾燥死菌体として、約0.5~約200mg/日、より好ましくは約1~約100mg/日、さら好ましくは約2~約50mg/日となるように、前記乳酸菌粉粒体組成物の配合量を設定してもよい。
【0015】
前記乳酸菌粉粒体組成物は、他の任意成分として、砂糖、食塩等を含んでもよい。また、乳酸菌粉粒体組成物は、任意の手段で調製し得る。例えば、粉末状態の乳酸菌死菌体と賦形剤とを粉体混合したり、ペースト又は粉末状態の乳酸菌死菌体と賦形剤とを含有する水溶液を、噴霧乾燥又は真空凍結乾燥等で乾燥粉粒体化又は造粒したりすることによって調製してもよい。
【0016】
(油脂)
本発明の濃縮型経口組成物に用いられる油脂は、食用に供される天然油脂又は加工油脂などの通常の油脂であり、当技術分野で通常使用される油脂を特に制限されることなく採用することができる。前記油脂は、例えば、バター、牛脂、及び豚脂などの動物油脂、マーガリン、パーム油、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、又はこれらの硬化油脂などであってもよい。好ましくは、前記油脂は、常温固体油脂である。このような油脂を使用すると、前記濃縮型経口組成物が固化しやすくなる。
前記濃縮型経口組成物中の前記油脂の配合量は、特に制限されないが、例えば、前記濃縮型経口組成物の全質量に対して、約10~約80質量%であってもよく、好ましくは約20~約60質量%である。
【0017】
(濃縮型経口組成物)
本発明の濃縮型経口組成物では、水分含量は約5質量%以下、好ましくは約3質量%以下であり、前記乳酸菌粉粒体組成物が、前記油脂を主体とするマトリックス中に分散している状態となっている。好ましくは、前記乳酸菌粉粒体組成物は、前記油脂中に均一に分散している。このような状態に調製することで、前記濃縮型経口組成物において前記乳酸菌死菌体の活性をより良好に維持することができ、かつ当該濃縮型経口組成物を希釈した際にも前記乳酸菌死菌体の活性をより均一に発揮させることができる。前記濃縮型経口組成物は、例えば、前記油脂を主体として使用し、水及び水を含む成分を配合しないようにすることで調製してもよい。
【0018】
濃縮型とは、経口摂取する前に、水、湯、又は油等の液体で希釈する組成物の形態を意味している。例えば、本発明の濃縮型経口組成物1質量部に対して、約2~約10質量部の液体を添加して、前記濃縮型経口組成物を希釈してもよい。ある態様では、前記濃縮型経口組成物は、例えば、カレー、シチュー、若しくはスープ等の固形ルウ、ペースト状ルウ、濃縮物、顆粒、圧縮成型ルウ、又はスプレッド等の形態であってもよい。
前記濃縮型経口組成物は、固形又は高粘度であり得る。前記濃縮型経口組成物の粘度は、例えば、B型粘度計(ローターNo.2使用、25℃)で測定した場合に、約1000mPa・s以上であってもよく、好ましくは約3000mPa・s以上である。このような粘度範囲であると、前記濃縮型経口組成物中に油脂を主体とするマトリックスが良好に形成され、より硬い物性を示すので、当該濃縮型経口組成物中で乳酸菌死菌体の活性と均一な分布を維持しやすいと考えられる。
【0019】
ある態様では、本発明の濃縮型経口組成物は、前記乳酸菌粉粒体組成物とは別の粉粒体を、分散して含んでもよい。前記別の粉粒体は、特に制限されないが、例えば、小麦粉及びコーンスターチ等の各種澱粉、香辛料、調味料、並びに増粘剤等の粉粒体であってもよい。前記濃縮型経口組成物中の前記別の粉粒体の配合量は、特に制限されないが、例えば、前記乳酸菌粉粒体組成物と合わせた配合量が、前記濃縮型経口組成物の全質量に対して、約20~約90質量%であってもよく、好ましくは約40~約80質量%である。前記別の粉粒体の粒子径は、特に制限されないが、約2000μm以下であってもよく、好ましくは約1000μm以下である。また、前記澱粉及び前記別の粉粒体の粒子径は、約10μm以上であってもよい。前記別の粉粒体の配合量及び粒子径をこのような範囲に設定することによって、前記乳酸菌死菌体の活性が維持されやすくなり、また、当該活性が前記濃縮型組成物を希釈した際に均一に発揮されやすくなる。
【0020】
好ましくは、前記別の粉粒体は、小麦粉及びコーンスターチ等の各種澱粉である。前記澱粉の配合量は、特に制限されないが、例えば、前記濃縮型経口組成物の全質量に対して、約0.1~約60質量%であってもよく、好ましくは約0.5~約50質量%、より好ましくは約5~約30質量%である。
【0021】
ある場合には、前記別の粉粒体は、増粘剤である。前記増粘剤としては、当技術分野で通常使用される増粘剤を特に制限されることなく採用することができる。前記増粘剤は、例えば、小麦粉及びコーンスターチ等の各種澱粉、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、又は、カラギーナン等であってもよく、好ましくは小麦粉又はコーンスターチである。前記濃縮型経口組成物中の前記増粘剤の配合量は、特に制限されないが、例えば、前記濃縮型経口組成物の全質量に対して、約0.1~約60質量%であってもよく、好ましくは約0.5~約50質量%、より好ましくは約5~約30質量%である。また、前記増粘剤は、前記濃縮型経口組成物を希釈して得た食品等の組成物の粘度が、B型粘度計(ローターNo.2使用、25℃)で測定した場合に、約100~約20000mPa・s、好ましくは約500~約10000mPa・sとなるように配合してもよい。前記増粘剤は、前記濃縮型経口組成物を希釈して調製した食品等に好ましい粘度を与え、希釈により分散した乳酸菌死菌体が食品等の中に均一に存在する状態を保持し得るので、前記乳酸菌死菌体の活性が安定に発揮されやすくなる。
【0022】
本発明の濃縮型経口組成物には、本発明の主旨を逸脱しなり限り、任意の成分として、塩類、糖類、有機酸等、着色料及び各種具材等を適宜添加してもよい。
【0023】
(濃縮型経口組成物の製造)
本発明の濃縮型経口組成物は、当技術分野で通常使用される任意の方法によって製造されてもよい。例えば、前記濃縮型経口組成物が固形ルウである場合は、上述したような原料を使用して常法により製造することができる。具体的には、前記乳酸菌粉粒体組成物と前記油脂とを含む原料を加熱混合し、前記油脂の融点を下回る温度に冷却固化して製造することができる。前記冷却固化工程は、前記濃縮型経口組成物中に前記乳酸菌粉粒体組成物が均一に分散するように操作するのが好ましい。工業的に製造する際には、連続式の製造ライン等を採用すればよい。
【0024】
別の態様では、本発明は、濃縮型経口組成物の製造方法にも関しており、当該製造方法は、
油脂を含有し、乳酸菌粉粒体組成物を含有しない原料を、約100℃以上に加熱処理する加熱工程、及び、
前記加熱工程後の原料に、前記乳酸菌粉粒体組成物を、約100℃以上の温度がかからない状態で混合する添加工程、
を含むことを特徴としている。このような方法で前記濃縮型経口組成物を製造すれば、製造中における前記乳酸菌死菌体の活性の損失を抑えることができる。また、本発明の製造方法は、前記加熱工程の後で、かつ前記添加工程の前又は前記添加工程と同時に、前記乳酸菌粉粒体組成物とは別の粉粒体を加えて、原料の品温を約100℃未満に冷却処理する冷却工程をさらに含んでもよい。
【0025】
上述のように、前記乳酸菌粉粒体組成物を加える原料の品温を調節することで、前記乳酸菌死菌体の活性(IL-12産生誘導活性)が維持された濃縮型経口組成物を製造することが可能となる。
【実施例
【0026】
実施例1
(乳酸菌死菌体粉末)
ラクトバチルス・プランタラムL-137株加熱死菌体(以下「HK L-137」と略す。)を20質量%含有し、デキストリンを80質量%含有する粉末製剤(製品名:LP20、ハウスウェルネスフーズ株式会社)を用意した。
前記LP20は、HK L-137及びデキストリンを含有する水溶液を、噴霧乾燥して得たもので、粒子径が500μm以下であり、1g中に前記HK L-137が約2000億個含まれている。
【0027】
(固形カレールウの製造)
小麦粉20質量部及び牛脂20質量部を焙煎処理して得られた小麦粉ルウ40質量部と、カレーパウダー等の他の原料29.45質量部とを、焙煎釜において、原料の品温が約110℃になるまで加熱混合した後、食塩10質量部、グラニュー糖10質量部及びコーンスターチ10質量部を加えて混合し、原料の品温が100℃をやや下回るまで冷却した。
冷却した原料に、前記LP20を0.55質量部加えて混合を続け、得られた原料を充填機によりトレイ状容器に充填して固形カレールウ(LP20含有カレールウA)を製造した。この固形カレールウの水分含量は、約3質量%であった。
【0028】
(HK L-137のIL-12産生誘導活性)
生体における全身免疫系の応答を反映していると考えられる初代免疫細胞を、RPMI1640培地で5×106個/mlの濃度に調製し、96穴組織培養プレートに1穴あたり100μLを播種した。これに、以下の試料Xa又はXa’を、それぞれ1穴あたり100μL加え、37℃の5%炭酸ガス培養器内で24時間培養し、培養後の培養上清のIL-12濃度をELISA法で測定した。
【0029】
Xa:LP20含有カレールウAを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として100ng/mlになるように希釈した液
Xa’:LP20含有カレールウAと、当該カレールウに含有されるLP20と等量のLP20とを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として200ng/mlになるように希釈した液
【0030】
試料Xaは、LP20を100ng/mlの濃度で含むカレールウ希釈試料であり、試料Xa’は、LP20を合計で200ng/mlの濃度で含むカレールウ希釈試料である。すなわち、試料Xaと試料Xa’のLP20の濃度比は1:2であるので、試料Xaと試料Xa’のIL-12産生誘導活性の比が1:2である場合は、試料XaのIL-12産生誘導活性は固形カレールウの製造中に維持されていたと言える。結果を表1に示す。
【0031】
[表1]
IL-12濃度(ng/ml)
Xa : 0.134
Xa’: 0.284
試料Xa又は試料Xa’で誘導されたIL-12の濃度は、概ね1:2だったので、HK L-137のIL-12産生誘導活性は、固形カレールウの製造中においても維持されていたことが示された。
【0032】
実施例2(LP20の添加時の温度が低い場合)
カレーパウダー等の他の原料を27.63質量部、LP20を2.37質量部用いると共に、LP20を加える前の原料の品温を80℃まで冷却した以外は、実施例1と同様にして固形カレールウ(LP20含有カレールウB)を製造した。
以下の試料Xb及びXb’を調製し、LP20含有カレールウBのIL-12産生誘導活性を、実施例1において記載した方法により試験した。結果を表2に示す。
【0033】
Xb:LP20含有カレールウBを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として100ng/mlになるように希釈した液
Xb’:LP20含有カレールウBと、当該カレールウに含有されるLP20と等量のLP20とを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として200ng/mlになるように希釈した液
(試料Xb’中のLP20の濃度は、試料Xbの2倍。)
【0034】
[表2]
IL-12濃度(ng/ml)
Xb : 0.129
Xb’: 0.242
試料Xb又は試料Xb’で誘導されたIL-12の濃度は、概ね1:2だったので、LP20を加える際の原料の品温が実施例1よりも低い場合にも、カレールウのIL-12産生誘導活性が均一に維持されることが示された。
【0035】
実施例3(LP20の添加時の温度が高い場合)
カレーパウダー等の他の原料を27.46質量部、LP20を2.54質量部用いると共に、焙煎釜において原料の品温が約120℃になるまで加熱した後、食塩、グラニュー糖及びコーンスターチと同時にLP20を加えた以外は、実施例1と同様にして固形カレールウ(LP20含有カレールウC)を製造した。すなわち、原料の品温が約120℃である時点で、LP20を加えたことになる。
以下の試料Xc及びXc’を調製し、LP20含有カレールウCのIL-12産生誘導活性を、実施例1において記載した方法により試験した。結果を表3に示す。
【0036】
Xc:LP20含有カレールウCを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として100g/mlになるように希釈した液
Xc’:LP20含有カレールウCと、当該カレールウに含有されるLP20と等量のLP20とを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として200ng/mlになるように希釈した液
(試料Xc’中のLP20の濃度は、試料Xcの2倍。)
【0037】
[表3]
IL-12濃度(ng/ml)
Xc : 0.131
Xc’: 0.446
試料Xc及び試料Xc’のどちらでもIL-12が誘導されたが、試料Xcで誘導されたIL-12の濃度は、試料Xc’で誘導されたIL-12の濃度の半分に満たなかったので、LP20を加える際の原料の品温が低い方が、IL-12産生誘導活性が維持されやすいことが確認された。
【0038】
実施例4
(カレーソースの調理)
カレーパウダー等の他の原料を27.57質量部、LP20を2.43質量部用いた以外は、実施例1と同様にして固形カレールウを製造した。この固形カレールウを、常法により、水で煮込んでカレーソース(LP20含有カレーソースD)を調製した。LP20含有カレーソースDの粘度を、B型粘度計(ローターNo.4使用、50℃)で測定すると、約500mPa・sであった。
以下の試料Yd及びYd’を調製し、LP20含有カレーソースDのIL-12産生誘導活性を、実施例1において記載した方法により試験した。結果を表4に示す。
【0039】
Yd:LP20含有カレーソースDを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として100ng/mlになるように希釈した液
Yd’:LP20含有カレーソースDと、当該カレーソースに含有される量と等量のLP20を添加し、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として200ng/mlになるように希釈した液
(試料Yd’中のLP20の濃度は、試料Ydの2倍。)
【0040】
[表4]
IL-12濃度(ng/ml)
Yd : 0.214
Yd’:0. 436
試料Yd又は試料Yd’で誘導されたIL-12の濃度は、概ね1:2だったので、HK L-137のIL-12産生誘導活性は、固形カレールウ及びカレーソースの製造中においても維持されていたことが示された。
【0041】
実施例5
(ペースト状カレールウの製造)
小麦粉及び常温液体油脂を焙煎処理して得られた小麦粉ルウ35質量部と、カレーパウダー等の他の原料29.45質量部とを、焙煎釜において、原料の品温が約110℃になるまで加熱混合した後、食塩10質量部、グラニュー糖10質量部及びコーンスターチ15質量部を加えて混合し、原料の品温が100℃をやや下回るまで冷却した。
【0042】
冷却した原料に、LP20を0.55質量部加えて混合を続けた原料を、充填機によりパウチ状容器に充填してペースト状カレールウ(LP20含有カレールウE)を製造した。LP20含有カレールウEの粘度を、B型粘度計(ローターNo.2使用、25℃)で測定すると、約14000mPa・sであった。
以下の試料Xe及びXe’を調製し、LP20含有カレールウEのIL-12産生誘導活性を、実施例1において記載した方法により試験した。結果を表5に示す。
【0043】
Xe:LP20含有カレールウEを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として100ng/mlになるように希釈した液
Xe’:LP20含有カレールウEと、当該カレールウに含有されるLP20と等量のLP20とを、前記RPMI1640培地で、前記LP20の濃度として200ng/mlになるように希釈した液
(試料Xe’中のLP20の濃度は、試料Xeの2倍。)
【0044】
[表5]
IL-12濃度(ng/ml)
Xe : 0.134
Xe’: 0.284
試料Xe又は試料Xe’で誘導されたIL-12の濃度は、概ね1:2だったので、HK L-137のIL-12産生誘導活性は、ペースト状カレールウの製造中においても維持されていたことが示された。
【0045】
実施例6
(乳酸菌粉粒体組成物と油脂とを含有する濃縮型経口組成物)
99.45質量部の常温液体油脂にLP20を0.55質量部加えて常温で混合を続けた原料を、充填機によりパウチ状容器に充填してペースト状組成物を製造した。ペースト状組成物の粘度を、B型粘度計(ローターNo.2使用、25℃)で測定すると、約30mPa・sであった。
【0046】
製造したペースト状組成物を、RPMI1640培地で、LP20の濃度として100ng/mlになるように希釈し、当該ペースト状組成物のIL-12産生誘導活性を、実施例1において記載した方法により試験した。その結果、培地中のIL-12の濃度は、実施例5のLP20含有カレールウEのXeの値と同等の値であった。このことから、LP20と油脂とを分散して含有するペースト状組成物は、LP20のIL-12産生誘導活性が維持される組成物となることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
乳酸菌死菌体及び賦形剤を含む乳酸菌粉粒体組成物と、油脂とを分散して含有し、かつ水分含量が約5質量%以下である、濃縮型経口組成物は、調理に適用できる。したがって、乳酸菌死菌体を利用した食品開発のバリエーションを広げることが可能となる。