(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】赤外線吸収微粒子分散粉、赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク、および偽造防止インク、並びに偽造防止用印刷物
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20230411BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20230411BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20230411BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20230411BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230411BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D17/00
C09D11/00
C09C1/00
C09K3/00 105
B41M3/14
(21)【出願番号】P 2019532588
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2018027456
(87)【国際公開番号】W WO2019021992
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017142902
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-210987(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055570(WO,A1)
【文献】特開2008-291109(JP,A)
【文献】特開2004-168842(JP,A)
【文献】特開2000-096034(JP,A)
【文献】特開2009-114326(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104854(WO,A1)
【文献】特開2015-117357(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121801(WO,A1)
【文献】特開2008-024902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C
C09D
C09K
B41M
B42D
C01B
C01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、内部に赤外線吸収微粒子が分散している固体媒体からなる粒子によって構成されている赤外線吸収微粒子分散粉であって、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記され、六方晶の結晶構造を含む赤外線吸収微粒子であり、
前記赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上200nm以下であり、
前記固体媒質が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、のいずれかから選択される樹脂であることを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉。
【請求項2】
平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、内部に赤外線吸収微粒子が分散している固体媒体からなる粒子によって構成されている赤外線吸収微粒子分散粉であって、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記される赤外線吸収微粒子であり、
前記赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上200nm以下であり、
前記固体媒質が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、のいずれかから選択される樹脂であることを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉。
【請求項3】
平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、内部に赤外線吸収微粒子が分散している固体媒体からなる粒子によって構成されている赤外線吸収微粒子分散粉であって、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式XBm(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、Bはホウ素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字、3≦m≦20)で表記される赤外線吸収微粒子であり、
前記赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上200nm以下であり、
前記固体媒質が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、のいずれかから選択される樹脂であることを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉。
【請求項4】
前記固体媒質が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、フッ素樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または
前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、のいずれかから選択される樹脂であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉と、溶媒とを含むことを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉と、有機バインダーまたはエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物から選択される1種以上とを含むことを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉と、有機バインダーまたはエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物から選択される1種以上とを含むことを特徴とする、偽造防止インク。
【請求項8】
さらに溶媒を含み、当該溶媒が水、有機溶媒、植物油や植物油由来等の化合物、石油系溶媒から選択される1種類以上であることを特徴とする、請求項7に記載の偽造防止インク。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉を含有することを特徴とする、偽造防止用印刷物。
【請求項10】
赤外線吸収微粒子と、
アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基から選択される1種以上の官能基を有する、界面活性剤および/またはカップリング剤と、
ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂から選択される1種以上の樹脂を溶解している溶媒とを、混合して、前記赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上200nm以下である赤外線吸収微粒子分散液を得た後、
前記赤外線吸収微粒子分散液から前記溶媒を除去して、
平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、内部に赤外線吸収微粒子が分散している固体媒体からなる粒子によって構成されている赤外線吸収微粒子分散粉を得ることを特徴とする赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好で、且つ赤外線領域の光を吸収し、耐薬品性に優れる赤外線吸収微粒子分散粉、赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク、および偽造防止インク、並びに偽造防止用印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる赤外線吸収技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、無機物である導電性微粒子を用いた赤外線吸収技術は、その他の技術と比較して赤外線吸収特性に優れ、低コストである上、電波透過性が有り、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0003】
例えば特許文献1には、酸化錫微粉末の赤外線吸収特性を応用した技術が記載され、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明樹脂や、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明合成樹脂をシートまたはフィルムに成形したものを、透明合成樹脂基材に積層してなる赤外線吸収性合成樹脂成形品が提案されている。
【0004】
特許文献2には、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの混合物の赤外線吸収特性を応用した技術が記載され、これらが媒体中に分散させた中間層を挟み込んだ合わせガラスが提案されている。
【0005】
また、出願人は特許文献3にて、窒化チタン微粒子やホウ化ランタン微粒子の赤外線吸収特性を応用した技術を提案しており、これらのうちの少なくとも1種を、溶媒中や媒体中に分散させた選択透過膜用塗布液や選択透過膜を開示している。
【0006】
しかしながら出願人の検討によると、特許文献1~3に開示されている赤外線吸収性合成樹脂成形品等の赤外線吸収構造体は、いずれも高い可視光透過率が求められたときの赤外線吸収特性が十分でなく、赤外線吸収構造体としての機能が十分でないという問題点が存在した。例えば、特許文献1~3に開示されている赤外線吸収構造体の持つ赤外線吸収特性の具体的な数値の例として、JIS R 3106 1998に基づいて算出される可視光透過率(本発明において、単に「可視光透過率」と記載する場合がある。)が70%のとき、同じくJIS R 3106 1998に基づいて算出される日射透過率(本発明において、単に「日射透過率」と記載する場合がある。)は、50%を超えてしまっていた。
【0007】
そこで、出願人は特許文献4にて、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を赤外線吸収微粒子として応用した技術を提案し、当該赤外線吸収微粒子の製造方法と、当該複合タングステン酸化物が六方晶、正方晶、または立方晶の結晶構造を有する赤外線吸収微粒子のいずれか1種類以上を含み、前記赤外線吸収材料微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線吸収分散体を開示した。
【0008】
特許文献4に開示したように、前記一般式MxWyOzで表される赤外線吸収微粒子を含む赤外線吸収微粒子分散体は高い赤外線吸収特性を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は50%を下回るまでに改善された。とりわけM元素としてCsやRb、Tlなど特定の元素から選択される少なくとも1種類を採用し、結晶構造を六方晶とした赤外線吸収微粒子を用いた赤外線吸収微粒子分散体は卓越した赤外線吸収特性を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は37%を下回るまでに改善された。
【0009】
さらに、出願人は特許文献5にて、特許文献4で開示した一般式MxWyOzで表される赤外線吸収微粒子を含む偽造防止インク用組成物、それを溶媒中に分散させた偽造防止インク、それを用いて作製した偽造防止用印刷物を提供した。当該偽造防止インクを用いて作製した印刷物は、その印刷面に赤外線レーザーを照射すると特定波長のみ吸収されるため、反射若しくは透過光を読み取ることで真贋の判定が可能で、預貯金の通帳や身分証明書、クレジットカード、キャッシュカード、小切手、航空券、道路通行券、乗車券、プリペードカード、商品券、証券等の有価印刷物の偽造防止効果が高いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平2-136230号公報
【文献】特開平8-259279号公報
【文献】特開平11-181336号公報
【文献】国際公開第2005/037932号
【文献】特開2015-117353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら出願人のさらなる検討によると、上述した従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子においては耐薬品性が十分ではない場合があった。具体的には、従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子を樹脂等に分散した分散体を、例えば高温のアルカリ溶液に浸漬させると当該複合タングステン酸化物微粒子がアルカリ溶液に溶解し、赤外線吸収機能が消失する場合があるという問題があった。
【0012】
本発明は、上述の状況の下で成されたものであり、その解決しようとする課題は、可視光領域で透明性があり、優れた赤外線吸収特性を有し、さらに耐薬品性に優れる赤外線吸収微粒子分散粉、赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク、および偽造防止インク、並びに偽造防止用印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った。
そして、所定の分散粉を構成する固体媒体からなる粒子の内部に、赤外線吸収微粒子を分散させて、赤外線吸収微粒子分散粉の形とすることにより、当該赤外線吸収微粒子の耐薬品性を向上させることが出来るという知見を得た。当該知見を基に、本発明者らはさらに研究を進め、当該分散粉を構成する固体媒体からなる粒子の平均粒子径を1μm以上にすると、当該耐薬品性が顕著に向上するという画期的な知見を得た。そして、当該赤外線吸収微粒子が平均粒子径1μm以上の固体媒体からなる粒子内に分散している粉体粒子によって構成される赤外線吸収微粒子分散粉を用いた、赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク、および偽造防止インク、並びに偽造防止用印刷物にも想到し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
平均粒子径が1μm以上であり、内部に赤外線吸収微粒子が分散している固体媒体からなる粒子によって構成されていることを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉である。
第2の発明は、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される赤外線吸収微粒子であることを特徴とする、第1の発明に記載の赤外線吸収微粒子分散粉である。
第3の発明は、
前記赤外線吸収微粒子が、六方晶の結晶構造を含むことを特徴とする、第1または第2の発明に記載の赤外線吸収微粒子分散粉である。
第4の発明は、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記される赤外線吸収微粒子であることを特徴とする、第1の発明に記載の赤外線吸収微粒子分散粉である。
第5の発明は、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式XBm(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、Bはホウ素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字、3≦m≦20)で表記される赤外線吸収微粒子であることを特徴とする、第1の発明に記載の赤外線吸収微粒子分散粉である。
第6の発明は、
前記固体媒体が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、または前期樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または前期樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、のいずれかから選択される樹脂であることを特徴とする、第1から第5の発明のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉である。
第7発明は、
前記固体媒体が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、フッ素樹脂という樹脂群から選択される1種の樹脂、または前期樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または前期樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体、のいずれかから選択される樹脂であることを特徴とする、第1から第6の発明のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉である。
第8の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉と、溶媒とを含むことを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液である。
第9の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉と、有機バインダーまたはエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物から選択される1種以上とを含むことを特徴とする、赤外線吸収微粒子分散粉含有インクである。
第10の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉と、有機バインダーまたはエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物から選択される1種以上とを含むことを特徴とする、偽造防止インクである。
第11の発明は、
さらに溶媒を含み、当該溶媒が水、有機溶媒、植物油や植物油由来等の化合物、石油系溶媒から選択される1種類以上であることを特徴とする、第10の発明に記載の偽造防止インクである。
第12の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散粉を含有することを特徴とする、偽造防止用印刷物である。
第13の発明は、
赤外線吸収微粒子と、
アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基から選択される1種以上の官能基を有する、界面活性剤および/またはカップリング剤と、
ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂から選択される1種以上の樹脂を溶解している溶媒とを、混合して、前記赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上800nm以下である赤外線吸収微粒子分散液を得た後、
前記赤外線吸収微粒子分散液から前記溶媒を除去して、赤外線吸収微粒子分散粉を得ることを特徴とする赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた耐薬品性を示す赤外線吸収微粒子分散粉を得ることが出来、さらに当該優れた耐薬品性を示す赤外線吸収微粒子分散粉を用いた、可視光領域で透明性があり優れた赤外線吸収特性を有し、優れた耐薬品性を示す赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク、および偽造防止インク、並びに偽造防止用印刷物を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、後述する本発明に係る赤外線吸収微粒子と添加剤とが、樹脂等の固体媒体からなる粒子中に分散している粉体粒子によって構成されているものであり、当該粉体粒子の平均粒子径が1μm以上のものである。そして、当該赤外線吸収微粒子分散粉は、赤外線吸収微粒子が樹脂等の固体媒体からなる粒子中に分散しているので、優れた耐薬品性を示す。
そして、当該赤外線吸収微粒子分散粉を、所定の溶媒等に分散させた赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液(本発明において「分散粉含有分散液」と記載する場合がある。)、赤外線吸収微粒子分散粉含有インク(本発明において「赤外線吸収インク」と記載する場合がある。)、偽造防止インク、当該偽造防止インクを用いた偽造防止用印刷物も同様の耐薬品性を示し、赤外線領域に吸収を発揮し且つ可視光領域の光の吸収が少ないという光学的特性を示すものである。
【0017】
一方、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、後述する本発明に係る赤外線吸収微粒子、所定の溶媒、液状樹脂等、および適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を混合したものを、媒体攪拌ミルで粉砕、分散させて得られた赤外線吸収微粒子分散液から、当該溶媒を除去することで得ることが出来る。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について[1]赤外線吸収微粒子分散粉とその製造方法、[2]赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液(分散粉含有分散液)および赤外線吸収微粒子分散粉含有インク(赤外線吸収インク)、[3]偽造防止インクおよび偽造防止用印刷物、の順で説明する。
【0019】
[1]赤外線吸収微粒子分散粉とその製造方法
上述したように、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、平均粒子径が1μm以上であり、内部に赤外線吸収微粒子が分散している固体媒体からなる粒子によって構成されているものである。
以下、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉とその製造方法について、(1)赤外線吸収微粒子分散粉の性状、(2)赤外線吸収微粒子分散粉の構成成分、(3)赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法、(4)赤外線吸収微粒子分散粉の使用方法および用途、の順に説明する。
【0020】
(1)赤外線吸収微粒子分散粉の性状
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、その平均粒子径が1μm以上のものである。そして、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉においては、赤外線吸収微粒子が耐薬品性の高い樹脂等の固体媒体からなる粒子中に分散しているので、優れた耐薬品性を示し、赤外線領域に吸収を持ち、且つ可視光領域の光の吸収が少ないものである。そして、当該赤外線吸収微粒子分散粉を所定の溶媒等に分散させることで、後述する分散粉含有分散液、赤外線吸収インク、偽造防止インク等を得ることが出来るものである。
【0021】
ここで、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径が1μm以上であれば、分散粒子径が800nm以下である本発明に係る赤外線吸収微粒子が、十分な厚さの樹脂で覆われる。この為、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉が、例えば高温のアルカリ液や酸に浸漬されても、本発明に係る赤外線吸収微粒子が溶解されることがなく、所定の光学的特性を担保することが出来るものである。
【0022】
上述の観点から、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径は1μm以上1000μm以下であることが好ましい。一方、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を、後述する赤外線吸収インクや偽造防止インクに用いるのであれば、可視光領域での透明性を担保する観点から赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径は1μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上10μm以下であることが更に好ましい。
【0023】
尚、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法を原理としたマイクロトラック・ベル株式会社マイクロトラック(登録商標)等により、体積累積粒度のメジアン値として測定することができる。赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径の測定では、水などの赤外線吸収微粒子分散粉を溶解しない溶媒に分散して測定することができる。測定の際には、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどの分散剤を少量添加することもできる。
【0024】
(2)赤外線吸収微粒子分散粉の構成成分
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、後述する、本発明に係る赤外線吸収微粒子、樹脂、分散剤、所望によりその他の添加剤を所定溶媒に分散させた赤外線吸収微粒子分散液から、当該所定溶媒を除去して得られるものである。
以下、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の構成成分について(i)本発明に係る赤外線吸収微粒子、(ii)固体媒体、の順に説明する。
【0025】
(i)本発明に係る赤外線吸収微粒子
本発明に係る赤外線吸収微粒子について(A)一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物系赤外線吸収微粒子、(B)一般式WyOzで表記される酸化タングステン系赤外線吸収微粒子、(C)本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系赤外線吸収微粒子の構造、(D)本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系赤外線吸収微粒子の合成方法、(E)一般式XBmで表記されるホウ化物系赤外線吸収微粒子、(F)本発明に係るホウ化物系赤外線吸収微粒子の合成方法、(G)複合タングステン酸化物系赤外線吸収微粒子、酸化タングステン系赤外線吸収微粒子、およびホウ化物系赤外線吸収微粒子の混合使用、の順に説明する。
【0026】
(A)一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物系赤外線吸収微粒子
一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される赤外線吸収微粒子や、一般式WyOz(2.2≦z/y≦2.999)で表記される赤外線吸収微粒子は、本発明に係る赤外線吸収微粒子として好ましい。
【0027】
当該一般式MxWyOzで示される赤外線吸収微粒子について、さらに説明する。
一般式MxWyOzで示される赤外線吸収微粒子中における、M元素の種類、x、y、zの値、およびその結晶構造は、当該赤外線吸収微粒子の自由電子密度と密接な関係があり、赤外線吸収特性に大きな影響を及ぼす。
【0028】
一般に、三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため赤外線吸収特性が低い。
ここで本発明者らは、当該タングステン酸化物へM元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素)を添加して複合タングステン酸化物とする構成に想到した。当該構成により、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の赤外線吸収材料として有効なものとなる。且つ、当該複合タングステン酸化物は化学的に安定な状態を保ち、耐候性に優れた赤外線吸収材料として有効なものとなる、ことを知見したものである。さらに、M元素としては、Cs、Rb、K、Tl,Ba、Cu、Al、Mn、Inが好ましいこと、なかでも、M元素がCs、Rbであると、当該複合タングステン酸化物が六方晶構造を取り易くなり、可視光線を透過し赤外線を吸収し遮蔽することから、後述する理由により特に好ましいことも知見したものである。
【0029】
ここで、M元素の添加量を示すxの値についての、本発明者らの知見を説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線吸収特性を得ることが出来る。そして、M元素の添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収特性も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン微粒子に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0030】
次に、酸素量の制御を示すzの値についての本発明者らの知見を説明する。
一般式MxWyOzで示される赤外線吸収微粒子において、z/yの値は2.0<z/y≦3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0であり、さらに好ましくは2.6≦z/y≦3.0、最も好ましくは2.7≦z/y≦3.0である。このz/yの値が2.0以上であれば、当該複合タングステン酸化物中に目的以外の化合物であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線遮蔽材料として適用できるためである。一方、このz/yの値が3.0以下であれば当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線遮蔽材料となる。
【0031】
(B)一般式WyOzで表記される酸化タングステン系赤外線吸収微粒子
一般式WyOzで示される赤外線吸収微粒子について説明する。
一般式WyOz中のタングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3以下であり、さらには、当該タングステン酸化物をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999であることが好ましい。このz/yの値が、2.2以上であれば、当該タングステン酸化物中に目的以外であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線吸収材料として適用できるからである。
一方、このz/yの値が、2.999以下であれば、当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線吸収材料となる。
【0032】
また、当該タングステン酸化物を微粒子化したタングステン酸化物微粒子において、一般式WyOzとしたとき2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、赤外線領域の吸収特性も良いので、赤外線吸収材料として好ましい。
【0033】
(C)本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系赤外線吸収微粒子の構造
本発明に係る赤外線吸収微粒子は、六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるが、いずれの構造をとるときも赤外線遮蔽材料として有効である。しかしながら、当該赤外線吸収微粒子がとる結晶構造によって、赤外線領域の吸収位置が変化する傾向がある。即ち、赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、六方晶のときは正方晶のときよりも、さらに長波長側へ移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。
以上の知見から、可視光領域の光をより透過させ、赤外線領域の光をより遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。赤外線吸収微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
即ち、赤外線吸収微粒子において、六方晶のタングステンブロンズであれば、優れた光学的特性が発揮される。また、赤外線吸収微粒子が、マグネリ相と呼ばれるWO2.72と同様の単斜晶の結晶構造をとっている場合や、斜方晶の結晶構造をとっている場合も、赤外線吸収に優れ、近外線遮蔽材料として有効なことがある。
【0034】
以上の知見より、六方晶の結晶構造を有する赤外線吸収微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは更に好ましくは0.29≦x/y≦0.39である。理論的にはz/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0035】
赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、800nm以下1nm以上であることが好ましく、さらに好ましくは、分散粒子径は、200nm以下1nm以上である。赤外線吸収微粒子の分散粒子径が、200nm以下であることが好ましいことは、赤外線吸収微粒子分散液中の赤外線吸収微粒子においても同様である。これは、分散粒子径が200nm以下であれば優れた可視光透明性を確保でき、赤外線吸収微粒子を用いることによる色調の変化が小さくなり、最終的に得られる偽造防止用印刷物の調色が容易となるからである。一方、当該赤外線吸収微粒子の赤外線吸収特性の観点から、分散粒子径は1nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm以上である。
【0036】
(D)本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系赤外線吸収微粒子の合成方法
本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系微粒子の合成方法について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系微粒子は固相反応法により製造することが出来る。以下、(a)固相反応法に用いる原料、(b)固相反応法における焼成とその条件、の順に説明する。
【0037】
(a)固相反応法に用いる原料
本発明に係る一般式MxWyOzで示される赤外線吸収微粒子を固相反応法で合成する際には、原料としてタングステン化合物およびM元素化合物を用いる。
タングステン化合物は、タングステン酸(H2WO4)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後、溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、より好ましい実施形態である一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Baから選択される1種類以上の元素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で示される赤外線吸収微粒子の原料の製造に用いるM元素化合物には、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0038】
また、本発明に係る複合タングステン酸化物系並びに酸化タングステン系微粒子は、Si、Al、Zrから選ばれる1種以上の不純物元素を含有する化合物(本発明において「不純物元素化合物」と記載する場合がある。)を原料として含んでもよい。当該不純物元素化合物は、後の焼成工程において複合タングステン化合物と反応せず、複合タングステン酸化物の結晶成長を抑制して、結晶の粗大化を防ぐ働きをするものである。不純物元素を含む化合物としては、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましく、粒径が500nm以下のコロイダルシリカやコロイダルアルミナが特に好ましい。
【0039】
上記タングステン化合物と、上記M元素化合物を含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0<z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。不純物元素化合物を原料として含有する場合は、不純物元素化合物が0.5質量%以下になるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる。
【0040】
また、前記一般式WyOzで示される赤外線吸収微粒子の場合は、出発原料であるタングステン化合物は、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0041】
(b)固相反応法における焼成とその条件
当該湿式混合で製造したM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下、1段階で焼成する。このとき、焼成温度は赤外線吸収微粒子が結晶化し始める温度に近いことが好ましい。具体的には焼成温度が1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、800℃以下500℃以上の温度範囲がさらに好ましい。この焼成温度の制御により、結晶性の良い赤外線吸収微粒子を得られるようになる。
尤も、当該複合タングステン酸化物の合成において、前記タングステン化合物に替えて、三酸化タングステンを用いても良い。
【0042】
また、前記一般式WyOzで示される、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、三酸化タングステン、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると、各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述したタングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子を得ることができる。
【0043】
(E)一般式XBmで表記されるホウ化物系赤外線吸収微粒子
本発明に係るホウ化物系赤外線吸収微粒子は、一般式XBm(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、Bはホウ素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表されるホウ化物粒子である。
【0044】
本発明に係るホウ化物粒子は、上述のように一般式XBmで表されるホウ化物の粒子とすることができる。
【0045】
上述の一般式XBmで表される本発明に係るホウ化物粒子において、金属元素(X)に対するホウ素(B)の元素比(モル比)(B/X)を示すmの値は、特に限定されるものではないが、3≦m≦20であることが好ましい。
【0046】
一般式XBmで表されるホウ化物粒子を構成するホウ化物としては、例えばXB4、XB6、XB12等が挙げられる。しかし、波長1000nm付近における近赤外領域の光の透過率を選択的に効率よく低下させる観点から、本発明に係るホウ化物粒子は、XB4、またはXB6が主体となっていることが好ましく、一部にXB12を含んでいてもよい。
【0047】
このため、上記一般式XBmにおける、金属元素(X)に対するホウ素(B)の元素比(B/X)であるmの値は、4.0≦m≦6.2であることがより好ましい。
【0048】
なお、前記(B/X)の値が4.0以上の場合、XBや、XB2等の生成を抑制することができ、理由は明らかではないが、日射遮蔽特性を向上させることができる。また、上記(B/X)の値が6.2以下の場合には、特に日射遮蔽特性に優れた六ホウ化物の含有割合を増加させることが出来、日射遮蔽特性が向上するため好ましい。
【0049】
上述したホウ化物の中でもXB6は、特に近赤外線の吸収能が高いことから、本発明に係るホウ化物粒子はXB6が主体になっていることが好ましい。
【0050】
このため、一般式XBmで表される本発明に係るホウ化物粒子において、金属元素(X)に対するホウ素(B)の元素比(B/X)であるmの値は、5.8≦m≦6.2であることがさらに好ましい。
【0051】
なお、ホウ化物粒子を製造した場合、得られるホウ化物粒子を含む粉体は、単一の組成のホウ化物の粒子のみから構成されるものではなく、複数の組成のホウ化物を含む粒子とすることができる。具体的には、例えばXB4、XB6、XB12等のホウ化物の混合物の粒子とすることができる。
【0052】
従って、例えば、代表的なホウ化物粒子である六ホウ化物の粒子についてX線回折の測定を行った場合、X線回折の分析上は単一相であっても、実際には微量に他相を含んでいると考えられる。
【0053】
そこで、本発明に係るホウ化物粒子の一般式XBmにおけるmの値は、例えば、得られたホウ化物粒子を含む粉体をICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)等により化学分析した場合における、X元素1原子に対するホウ素(B)の原子数比とすることができる。
【0054】
一方、本発明に係るホウ化物粒子の金属元素(X)は、特に限定されるものではなく、例えばY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素とすることができる。
【0055】
ただし、ランタンの六ホウ化物である、六ホウ化ランタンは特に近赤外線の吸収能が高い。そこで、本発明に係るホウ化物粒子は、六ホウ化ランタン粒子を含むことが好ましい。
【0056】
ここで、六ホウ化物粒子等のホウ化物粒子は、暗い青紫等に着色した粉末であるが、粒径が可視光波長に比べて十分小さくなるように粉砕し、所定の膜中に分散した状態においては、当該膜に可視光透過性が生じる。同時に、当該膜に赤外線遮蔽機能が発現し赤外線遮蔽膜となる。
【0057】
当該ホウ化物粒子に赤外線遮蔽機能が発現する理由については詳細に解明されていない。しかし、これらのホウ化物材料は自由電子を比較的多く保有し、4f-5d間のバンド間遷移や、電子-電子、電子-フォノン相互作用による吸収が近赤外領域に存在することに由来すると考えられる。
【0058】
本発明らの検討によると、これらのホウ化物粒子を十分細かくかつ均一に分散させた赤外線遮蔽膜では、膜の透過率が、波長400nm以上700nm以下の領域内に極大値をもち、かつ波長700nm以上1800nm以下の領域に極小値をもつことが確認される。可視光の波長が380nm以上780nm以下であり、視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の日射光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0059】
本発明に係るホウ化物粒子の平均分散粒子径は100nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましい。なお、ここでいう平均分散粒子径とは動的光散乱法に基づく粒径測定装置により測定することができる。
【0060】
ホウ化物粒子の平均分散粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上であることが好ましい。これは、ホウ化物粒子の平均分散粒子径が1nm以上であれば、工業的製造が容易だからである。
【0061】
(F)本発明に係るホウ化物系赤外線吸収微粒子の合成方法
ホウ化物粒子の製造方法としては、得られるホウ化物粒子が一般式XBm(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素)で表されるものを製造できる方法であれば、特に限定されない。
【0062】
本発明に係るホウ化物粒子の製造方法の一構成例として、例えば、炭素または炭化ホウ素を還元剤として用いた固相反応法が挙げられる。
【0063】
以下、金属元素としてランタンを用いた場合を例に、ホウ化物粒子の製造方法について説明する。
例えば、金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子は、ホウ素源と、還元剤と、ランタン源との混合物を焼成することによって製造できる。
【0064】
具体的には、例えば、ホウ素源および還元剤として炭化ホウ素を、ランタン源として酸化ランタンを用いて、ホウ化ランタン粒子を製造する場合、まず炭化ホウ素と、酸化ランタンとの原料混合物を調製する。次いで、当該原料混合物を不活性雰囲気中で1500℃以上の温度で焼成すると、炭化ホウ素中の炭素によってランタン酸化物が還元され、一酸化炭素および二酸化炭素が発生して炭素は除去される。さらに、残ったランタンとホウ素からホウ化ランタンが得られる。
【0065】
なお、炭化ホウ素由来の炭素は、一酸化炭素及び二酸化炭素として完全に除去されるのではなく、一部がホウ化ランタン粒子中に残留して不純物炭素となる。そのため、原料中の炭化ホウ素の割合を抑制することで、得られるホウ化ランタン粒子中の不純物炭素濃度を抑制することが出来好ましい。
【0066】
上述したように、得られるホウ化物粒子を含む粉体は、単一の組成のホウ化物の粒子のみから構成されるものではなく、LaB4、LaB6、LaB12等との混合物の粒子となる。従って、得られるホウ化物粒子を含む粉体についてX線回折の測定を行った場合、X線回折結果の分析上、ホウ化物について単一相であっても、実際には微量に他相を含んでいると考えられる。
【0067】
ここで、上述のように金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子を製造する場合、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比B/Laの値は、特に限定されるものではないが、3.0以上20.0以下であることが好ましい。
【0068】
特に、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタン元素の元素比B/Laが4.0以上の場合、LaB、LaB2等の生成を抑制できる。また、理由は明らかではないが、日射遮蔽特性を向上することが出来好ましい。
【0069】
一方、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比B/Laの値が6.2以下の場合、ホウ化物粒子以外に酸化ホウ素粒子が生成することが抑制される。酸化ホウ素粒子は吸湿性があるため、ホウ化物粒子を含む粉体中における酸化ホウ素粒子量を低減することで、ホウ化物粒子を含む粉体の耐湿性が向上し、日射遮蔽特性の経時劣化が抑制され好ましい。
【0070】
このため、原料のホウ素源中のホウ素、およびランタン源中のランタンの元素比B/Laの値を6.2以下として酸化ホウ素粒子の生成を抑制することが好ましい。また、元素比B/Laの値が6.2以下の場合には、特に日射遮蔽特性に優れた六ホウ化物の含有割合を増加させることができ、日射遮蔽特性が向上するため好ましい。
【0071】
さらに不純物炭素濃度を低減するためには、可能な限り原料中の炭化ホウ素の割合を低下させることが有効である。そこで、例えばB/Laの値を6.2以下としてホウ化ランタンの粒子を生成することで、より確実に不純物炭素濃度が0.2質量%以下のホウ化ランタンの粒子を含む粉体が得られ好ましい。
【0072】
以上説明したように、金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子を製造する場合、ホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比(モル比)B/Laの値は4.0以上6.2以下とすることがより好ましい。原料の組成を上記範囲とすることで、得られるホウ化ランタンの粒子を含む粉体中の不純物濃度を低く抑制すると同時に、高い日射遮蔽特性を示すホウ化ランタン粒子を含有する粉体を得ることが出来好ましい。
【0073】
また、得られるホウ化ランタンの粒子は、LaB6が主体になっていることが好ましい。これは、LaB6は特に近赤外線の吸収能が高いからである。
【0074】
このため、原料のホウ素源中のホウ素、および、ランタン源中のランタン元素の元素比B/Laの値は、5.8以上6.2以下であることがさらに好ましい。
【0075】
なお、ここでは、ホウ素源及び還元剤として炭化ホウ素を、ランタン源として酸化ランタンを用いて、ホウ化ランタン粒子を製造する場合を例に説明したが、係る形態に限定されるものではない。例えばホウ素源としてホウ素や酸化ホウ素を、還元剤として炭素を、ランタン源として酸化ランタンをそれぞれ用いることもできる。この場合、生成物中に、余剰の炭素や、酸素などの不純物が残留しないように、予備試験等を行い、各成分の混合比率を選択することが好ましい。
【0076】
以上、金属元素としてランタンを用いた場合を例に、ホウ化物粒子の製造方法について説明した。
そして、製造するホウ化物粒子に含有させたい金属元素Xに応じて、酸化ランタンに替えて金属元素Xを含む化合物を用いることもできる。金属元素Xを含む化合物としては例えば、金属元素Xの水酸化物、金属元素Xの水和物、金属元素Xの酸化物から選択された1種類以上が挙げられる。当該金属元素Xを含む化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば金属元素Xを含む化合物を含有する溶液と、アルカリ溶液とを撹拌しながら反応させて沈殿物を生成し、当該沈殿物から得ることができる。
【0077】
上述のように、酸化ランタンに替えて金属元素Xを含む化合物を用いる場合においても、生成物中に、余剰の炭素や、酸素が残留しないように、予備試験等を行い、各成分の混合比率を選択することが好ましい。例えば、ホウ素源中のホウ素、および金属元素X源中の金属元素Xの元素比を、上述したホウ素源中のホウ素、およびランタン源中のランタン元素の元素比と同様の比とすることもできる。
【0078】
得られたホウ化物粒子は、例えば湿式粉砕等を行うことで、所望の平均分散粒子径を有するホウ化物粒子とすることができる。
【0079】
(G)複合タングステン酸化物系赤外線吸収微粒子、酸化タングステン系赤外線吸収微粒子、およびホウ化物系赤外線吸収微粒子の混合使用
上述した、一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物系赤外線吸収微粒子、一般式WyOzで表記される酸化タングステン系赤外線吸収微粒子、および一般式XBmで表記されるホウ化物系赤外線吸収微粒子はそれぞれ単独で使用してもよいが、これらの赤外線吸収微粒子から選択される2種類以上の赤外線吸収微粒子を混合して使用することも好ましい構成である。
これらの赤外線吸収微粒子における赤外線吸収プロファイルの形は互いに異なるので、これらを適宜混合使用することにより、所望の赤外線吸収プロファイルの形を得られる場合があるからである。
混合方法は公知の方法を用いれば良い。
【0080】
(ii)固体媒体
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を構成する固体媒体としては、各種の樹脂が好ましく用いられる。これらの樹脂は後述する所定の溶媒に溶解し、上述した合成方法で得られた本発明に係る赤外線吸収微粒子や分散剤等と混合物を形成し、後述する赤外線吸収微粒子分散液 となる。
固体媒体として好ましい樹脂の具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、フッ素樹脂は特に耐薬品性が高く、好ましい。
【0081】
(3)赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法
上述したように、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を製造する際は、まず赤外線吸収微粒子分散液を製造し、そこから溶媒を除去する。
以下、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法について(A)赤外線吸収微粒子分散液、(B)赤外線吸収微粒子分散液の製造方法、(C)溶媒の除去、(D)異なる赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法、の順に説明する。
【0082】
(A)赤外線吸収微粒子分散液
赤外線吸収微粒子分散液を構成する成分は、上述した合成方法で得られた本発明に係る赤外線吸収微粒子と、前記所定の溶媒に溶解する固体媒体(樹脂)と、所定の溶媒とを含み、さらに、分散剤、所定の固体媒体を構成する高分子の単量体、または、これらの混合物である。そして、これらの構成成分の適量を、媒体攪拌ミルを用いて粉砕し、溶媒中に分散させたものである。以下、(i)分散剤、(ii)その他の添加剤、(iii)溶媒、(iv)赤外線吸収微粒子分散液の性状、の順に説明する。
【0083】
(i)分散剤
上述した赤外線吸収微粒子分散液中において、本発明に係る赤外線吸収微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避するために、各種の界面活性剤、カップリング剤等を分散剤として添加するものである。
当該界面活性剤、カップリング剤等の分散剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、赤外線吸収微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、赤外線遮蔽膜中においても本発明に係る赤外線吸収微粒子を均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。また、高分子分散剤は、赤外線吸収微粒子分散粉において、樹脂等の固体媒体が発揮する効果をすることもできる。
【0084】
市販の分散剤としては、ソルスパース(登録商標)9000、12000、17000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、35100、54000、250(日本ルーブリゾール株式会社製)、EFKA(登録商標)4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、6220、6225、6700、6780、6782、8503(エフカアディディブズ社製)、アジスパー(登録商標)PA111、PB821、PB822、PN411、フェイメックスL-12(味の素ファインテクノ株式会社製)、DisperBYK(登録商標)101、102、106、108、111、116、130、140、142、145、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、192、193、2000、2001、2020、2025、2050、2070、2155、2164、220S、300、306、320、322、325、330、340、350、377、378、380N、410、425、430(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、ディスパロン(登録商標)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-725、DA-705、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L(楠本化成株式会社製)、アルフォン(登録商標)UC-3000、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070(東亞合成株式会社製)が、挙げられる。
【0085】
(ii)その他の添加剤
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。また、公知の紫外線吸収剤や有機物の公知の赤外線遮蔽材やリン系の着色防止剤を添加してもよい。また、高分子の単量体を重合させる触媒等を含有してもよい。
【0086】
(iii)溶媒
赤外線吸収微粒子分散液を製造する為に用いられる溶媒は特に限定されるものではなく、添加された固体媒体(樹脂)への溶解性や、固体媒体を構成する高分子の単量体への溶解性などに合わせて適宜選択すればよい。例えば、水や有機溶媒である。
尚、詳細は後述するが、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉中の残留溶剤量は、所定量以下であることが好ましい。
【0087】
ここで、有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。
具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3-メチル-メトキシ-プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどが使用可能である。
【0088】
そして、これらの有機溶媒中でも、沸点120℃以下の有機溶媒を用いることが赤外線吸収微粒子分散粉を製造する際に好ましく、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチルなどが好ましい。
尤も、沸点120℃を超える有機溶媒を用いても、赤外線吸収微粒子分散液の有機溶媒を沸点120℃以下の有機溶媒と置換することで、赤外線吸収微粒子分散粉の製造に対応させることができる。
【0089】
以上説明した溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの液状溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
【0090】
(iv)赤外線吸収微粒子分散液の性状
赤外線吸収微粒子分散液へは、さらに、プラスチック用の液状可塑剤、カップリング剤、界面活性剤等を、加えることも出来る。
ここで、当該赤外線吸収微粒子分散液 中において、赤外線吸収微粒子の分散状態は良好で、その分散粒子径が1~800nmであることを特徴とする。
【0091】
赤外線吸収微粒子分散液中における、本発明に係る赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1~800nmであれば、後述する、本発明に係る分散粉含有分散液、赤外線吸収インク、偽造防止インク等において、幾何学散乱またはミー散乱によって波長380nm~780nmの可視光線領域の光が散乱されることがないので、曇り(ヘイズ)が減少し、可視光透過率の増加を図ることが出来るので好ましい。さらに、レイリー散乱領域では、分散粒子径の減少に伴い散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、散乱が低減し透明性が向上する。そこで、分散粒子径が200nm以下となると散乱光は非常に少なくなり、ヘイズを抑制できるため、より透明性が増すことになり好ましい。
【0092】
尚、赤外線吸収微粒子の分散粒子径とは、溶媒中に分散している赤外線吸収微粒子の単体粒子や、当該赤外線吸収微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を意味するものであり、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000やマイクロトラック・ベル株式会社製ナノトラック(登録商標)等を用いて測定することができる。
【0093】
そして、当該赤外線吸収微粒子分散液に含有されている赤外線吸収微粒子の含有量は0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0094】
(B)赤外線吸収微粒子分散液の製造方法
本発明に係る赤外線吸収微粒子の赤外線吸収微粒子分散液への分散方法は、当該微粒子を分散液中において、凝集させることなく均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該分散方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散させることは、所望とする分散粒子径に要する時間が短いことから好ましい。
媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によって、赤外線吸収微粒子の分散液中への分散と同時に、赤外線吸収微粒子同士の衝突や媒体メディアの該微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、赤外線吸収微粒子をより微粒子化して分散させることができる(即ち、粉砕・分散処理される。)。
【0095】
本発明に係る赤外線吸収微粒子を可塑剤へ分散させる際、所望により、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶剤を添加することも好ましい構成である。
120℃以下の沸点を有する有機溶剤として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。尤も、沸点が120℃以下で赤外線吸収機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。
【0096】
(C)溶媒の除去
上述した赤外線吸収微粒子分散液から溶媒を除去することで、赤外線吸収微粒子が耐薬品性の高い樹脂等の固体媒体からなる粒子中に分散している粉体粒子によって構成されているものであり、当該粉体粒子の平均粒子径が1μm以上のものである本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を得ることができる。
この溶媒除去の際、赤外線吸収微粒子分散液から溶媒を除去する方法としては、赤外線吸収微粒子分散液を減圧乾燥することが好ましい。具体的には、赤外線吸収微粒子分散液を撹拌しながら減圧乾燥し、赤外線吸収微粒子含有組成物と溶媒成分とを分離すればよい。乾燥工程の減圧の際の圧力値は適宜選択される。
【0097】
当該減圧乾燥法を用いることで、赤外線吸収微粒子分散液からの溶媒の除去効率が向上するとともに、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉が長時間高温に曝されることがないので、当該分散粉中に分散している赤外線吸収微粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに赤外線吸収微粒子分散粉の生産性も上がり、蒸発した溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0098】
当該乾燥工程後に得られた本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉において、残留する有機溶媒は5質量%以下であることが好ましい。残留する有機溶媒が5質量%以下であれば、当該赤外線吸収微粒子分散粉を、赤外線吸収インクや偽造防止インク等へ加工した際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
【0099】
乾燥工程に用いる設備としては、加熱および減圧が可能で、当該分散粉の混合や回収がし易いという観点から、真空流動乾燥機、振動流動乾燥機、ドラム乾燥機等が好ましいが、これらに限定されない。
例えば、ドラム乾燥機を用いた乾燥工程では、赤外線吸収微粒子が固体媒体中に分散している小片が得られ、当該小片に機械的な粉砕処理を加えることで、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を得ることが出来る。
【0100】
(D)異なる赤外線吸収微粒子分散粉の製造方法
また、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉の異なる好ましい製造方法として、上述した赤外線吸収微粒子分散液を、上述した所定の固体媒体(樹脂)と混練し、当該固体媒体中に本発明に係る赤外線吸収微粒子が分散した分散体を作製する。そして当該分散体へ機械的な粉砕を加え、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を得ることも出来る。
さらには、固体媒体としてエポキシ樹脂やウレタン樹脂などの熱硬化型樹脂を用いる赤外線吸収微粒子分散粉を製造する際は、当該樹脂を含有する上述した赤外線吸収微粒子分散液を製造し、当該赤外線吸収微粒子分散液を減圧された加熱雰囲気に噴霧しても良い。当該噴霧により、赤外線吸収微粒子の生成と溶媒の除去と樹脂の硬化とが同時に行われ、固体媒体として熱硬化型樹脂を用いた赤外線吸収微粒子分散粉を得ることが出来る。
【0101】
(4)赤外線吸収微粒子分散粉の使用方法および用途
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、後述する赤外線吸収インクや偽造防止インク等に用いることが出来る。これに加えて、窓や建材さらには建築物の外壁等の建築資材や農林水産業の資材等に塗布されるなどして屋外に曝されても、本発明に係る赤外線吸収微粒子が樹脂で覆われているので、赤外線吸収微粒子分散粉の内部に水などが浸透し難く、水によりアルカリや酸が導かれないので、赤外線吸収微粒子が溶解することがなく、耐薬品性や光学的特性を担保することが出来る。
この結果、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉に含まれる赤外線吸収粒子は、赤外線を吸収し、吸収した赤外線を熱に変換する。赤外線を吸収した赤外線吸収粒子は、変換した熱で、周囲を温める。また、赤外線吸収粒子が赤外線を吸収するので、結果的に赤外線を遮蔽することが出来る。
【0102】
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉は、上述したように耐薬品性に優れ、アルカリや酸などの薬液、さらには、酸性雨等の耐環境にも耐えることができる。その為、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を、衣類等の繊維、屋外の窓や建築物の外壁等の建築資材、農林水産業の資材に塗布する、または、練り込むなどして組み込むことで、赤外線吸収による赤外線遮蔽や赤外線吸収による光熱変換などに活用することもできる。
【0103】
[2]赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液(分散粉含有分散液)および赤外線吸収微粒子分散粉含有インク(赤外線吸収インク)
本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を、上述した建築資材、農林水産業の資材、被印刷資材等の所望の基材へ塗布等して使用する際、分散粉含有分散液や赤外線吸収インクとして使用することが便宜である。そこで、(1)赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液(分散粉含有分散液)(2)赤外線吸収微粒子分散粉含有インク(赤外線吸収インク)、の順に説明する。
【0104】
(1)赤外線吸収微粒子分散粉含有分散液(分散粉含有分散液)
本発明に係る分散粉含有分散液は、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散粉と、当該近赤外線吸収微粒子分散粉を溶解しない溶媒とを含有するものである。
分散粉含有分散液に用いられる溶媒は特に限定されるものではなく、赤外線吸収微粒子分散粉を溶解しないことと、当該分散粉含有分散液の塗布条件、塗布環境、および、適宜添加される無機バインダーや樹脂バインダーなどに合わせて適宜選択すればよい。例えば、液状溶媒は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、樹脂用の液状可塑剤、高分子単量体、または、これらの混合物などである。
本発明に係る分散粉含有分散液について(A)溶媒、(B)分散剤、(C)バインダー、その他の添加剤、(D)分散方法、の順に説明する。
【0105】
(A)溶媒
本発明に係る分散粉含有分散液に用いられる溶媒としては、有機溶媒、油脂、媒体樹脂用の液状可塑剤、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物、高分子単量体、等が使用出来る。これらの液状溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの液状溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
【0106】
有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3-メチル-メトキシ-プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどが使用可能である。
【0107】
油脂としては、植物油脂または植物由来油脂が好ましい。植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることができ、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)等を挙げることができる。
【0108】
媒体樹脂用の液状可塑剤としては、有機酸エステル系やリン酸エステル系等に代表される、公知の液状可塑剤を用いることができる。
例えば一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられ、いずれも室温で液状であるものが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0109】
多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、上記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。
【0110】
高分子単量体とは重合等により高分子を形成する単量体であるが、本発明で用いる好ましい高分子単量体としては、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体やスチレン樹脂単量体などが挙げられる。
【0111】
(B)分散剤
本発明に係る分散粉含有分散液中における赤外線吸収微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避するために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加も好ましい。当該分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、赤外線吸収微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、赤外線遮蔽膜中においても本発明に係る赤外線吸収微粒子を均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
【0112】
このような分散剤の市販品として、ソルスパース(登録商標)9000、12000、17000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、35100、54000、250(日本ルーブリゾール株式会社製)、EFKA(登録商標)4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、6220、6225、6700、6780、6782、8503(エフカアディディブズ社製)、アジスパー(登録商標)PA111、PB821、PB822、PN411、フェイメックスL-12(味の素ファインテクノ株式会社製)、DisperBYK(登録商標)101、102、106、108、111、116、130、140、142、145、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、192、193、2000、2001、2020、2025、2050、2070、2155、2164、220S、300、306、320、322、325、330、340、350、377、378、380N、410、425、430(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、ディスパロン(登録商標)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-725、DA-705、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L(楠本化成株式会社製)、アルフォン(登録商標)UC-3000、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070(東亞合成株式会社製)が挙げられる。
【0113】
(C)バインダー、その他の添加剤
本発明に係る分散粉含有分散液には、適宜、樹脂バインダーから選ばれる1種以上を含有させることができる。当該分散粉含有分散液に含有させる樹脂バインダーの種類は特に限定されるものではないが、樹脂バインダーとしては、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが適用できる。
【0114】
また、分散粉含有分散液の色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。また、公知の紫外線吸収剤や有機物の公知の赤外線遮蔽材やリン系の着色防止剤を添加してもよい。
【0115】
(D)分散方法
上述した赤外線吸収微粒子分散粉等を溶媒へ分散させて、本発明に係る分散粉含有分散液を得る為の分散方法は、当該赤外線吸収微粒子分散粉を、凝集させることなく均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該分散方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散させることは、所望とする分散粒子径に要する時間が短いことから好ましい。
ただし、媒体メディア(ビーズ、ボール、オタワサンド)を用いるビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散は適度なものとする。この結果、分散粉含有分散液中において、候耐薬品性の樹脂が溶解したり、分散粉が微粒化したりして、耐薬品性が担保出来なくなる事態を回避できる。
【0116】
赤外線吸収微粒子分散粉を可塑剤へ分散させる際、所望により、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶剤を添加することも好ましい構成である。
120℃以下の沸点を有する有機溶剤として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。尤も、沸点が120℃以下で赤外線吸収機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。
【0117】
(2)赤外線吸収微粒子分散粉含有インク(赤外線吸収インク)
本発明に係る赤外線吸収インクは、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散粉と、有機バインダー又はエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物から選択される1種以上とを含有するものである。
ここで、有機バインダーとは、上述の分散粉含有分散液に使用できる溶媒に溶解する樹脂である。また、エネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物とは紫外線硬化樹脂や電子線硬化樹脂や熱硬化樹脂の未硬化物である。エネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物を用いる場合は、硬化剤や硬化促進剤などを添加することができる。
【0118】
赤外線吸収インクは、分散粉含有分散液に添加できる溶媒を加えることができる。添加できる溶媒は、有機バインダー又はエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物と分離しないことが求められる。
赤外線吸収インクは、分散粉含有分散液と同様に色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。
赤外線吸収インクは、上述した分散粉含有分散液と同様な分散方法で製造することができる。
【0119】
赤外線吸収インクは適宜な方法により、衣類等の繊維、屋外の窓や建築物の外壁等の建築資材、農林水産業の資材に塗布したり、または、練り込む等して組み込むことで、赤外線吸収による赤外線遮蔽や赤外線吸収による光熱変換などに活用することができる。
【0120】
[3]偽造防止インクおよび偽造防止用印刷物
本発明に係る偽造防止インクは、上述した赤外線吸収微粒子分散粉を、溶媒、所望の有機バインダーや、エネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物、適宜添加される、重合開始剤、さらに顔料、染料から選択される1種以上、さらに所望の各種添加剤と混合したものである。また、本発明に係る偽造防止インクを、所望の被印刷基材に印刷することで、偽造防止用印刷物を得ることができる。また、エネルギー線で硬化する偽造防止インクを得たい場合は、エネルギー線の照射を受けて液状の未硬化物が硬化する有機バインダーを用いる。
そこで、偽造防止インクおよび偽造防止用印刷物について、(1)偽造防止インク(2)偽造防止用印刷物、の順に説明する。
【0121】
(1)偽造防止インク
本発明に係る偽造防止インクは、可視光領域の吸収が少なく、且つ赤外線領域に吸収をもつため、その印刷面に赤外線レーザーを照射したとき特定の波長を吸収する。従って、この偽造防止インクを被印刷基材の片面又は両面に印刷した印刷物は、特定波長の赤外線を照射してその反射若しくは透過を読み取ることによって、反射量又は透過量の違いから、印刷物の真贋を判定することができる。さらに、耐薬品性に優れるため、例えば該印刷物が洗濯機の中で高温のアルカリ性の洗剤液と混合されても、赤外線吸収微粒子が溶解せずに偽造防止としての機能が保持される。
【0122】
また、本発明に係る偽造防止インクは、本発明に係る赤外線吸収微粒子分散粉を含有する。その結果、可視光領域に透過率のピークを持つため着色が少なく、同時に赤外線領域に透過率のボトム(吸収ピーク)がある。この為、本発明に係る偽造防止インク用組成物を印刷した印刷物から、その情報を赤外線センサーで読み取ることにより、その情報を用いて印刷物の真贋を判定することが可能である。
本発明に係る偽造防止インクについて、(A)偽造防止インクの成分、(B)偽造防止インクの製造方法、の順に説明する。
【0123】
(A)偽造防止インクの成分
偽造防止インクには、赤外線を透過する着色顔料を含ませることも出来る。このような着色顔料を含むことによって、人の目に感じる可視光領域では着色顔料と同等の色を呈するが、赤外線領域では特徴的な吸収を持つ着色した偽造防止インクおよびその偽造防止用印刷物を得ることができる。尚、この着色した偽造防止インクは、可視光領域における吸収が少ないため、着色顔料の色調は保持される。また当該着色顔料として、蛍光材料やパール顔料などを添加しても良い。
【0124】
また例えば、赤外線を透過する着色顔料として黒色顔料を混合した偽造防止インクは、黒色顔料のみを含む黒色インクと比較すると、人の目には同等の黒色として認識されるが、赤外線を照射して比較すると異なる透過プロファイルを有することが読み取れる。従って、この黒色の偽造防止インクを用いた印刷物、例えばバーコード印刷した印刷物は、近赤外吸収材料を含まない通常の黒色インクをダミーとして印刷することで、更に複雑で高度な偽造防止が可能となる。
【0125】
また、本発明の偽造防止インクを被印刷基材の片面又は両面に印刷した印刷物の印刷膜上に、黒色顔料その他の赤外線と透過する着色顔料を用いた着色インクを塗布又は印刷して偽造防止用印刷物とすることもできる。この偽造防止用印刷物は、人の目には黒又はその他に着色されて認識されるが、その同じ領域に赤外線でのみ読み取れる文字や記号等が隠れて印刷されているため、赤外線を照射することによって印刷物の真贋を判定することができる。
【0126】
このような着色顔料としては、赤外線を透過する黒色顔料が好ましい。また、黒色顔料の好ましい具体例としては、Cu-Fe-Mn、Cu-Cr、Cu-Cr-Mn、Cu-Cr-Mn-Ni、Cu-Cr-Fe、Co-Cr-Fe等の複合酸化物、あるいはチタンブラック、窒化チタン、酸窒化チタン、暗色アゾ顔料、ペリレンブラック顔料、アニリンブラック顔料、カーボンブラックを挙げることができる。偽造防止インク中における黒色顔料の分散粒子径は、赤外線吸収微粒子と同様に800nm以下、さらには200nm以下が好ましい。その理由は、上述した赤外線吸収微粒子の場合と同様である。
【0127】
また、黒色顔料の分散粒子径を小さくすることで色調に深みが現れ、意匠的に好まれやすい。さらに、微細な印刷を必要とする場合は、着色顔料の分散粒子径を小さくすることで光の散乱が少なくなるため、印刷パターンの輪郭が明瞭になり好ましい。
【0128】
また、本発明に係る偽造防止インクは、必要に応じて、グラビアインク、スクリーンインク、オフセットインク、溶融熱転写インク、凹版インク、インクジェットインク、フレキソインク等、印刷方法に応じた一般的な配合とすることが可能であり、また、可塑剤、酸化剤防止剤、増粘剤、ワックス等の添加剤を含ませることができる。
【0129】
(B)偽造防止インクの製造方法
本発明に係る偽造防止インクは、赤外線吸収微粒子分散粉および必要に応じて着色顔料を、溶媒中に分散させることで製造される。
このとき、赤外線吸収微粒子分散粉の耐薬品性を維持するため、分散粉中の高耐薬品性の樹脂を溶解させることなく、また、分散粉を微粒化させることなく、溶媒中へ均一に分散させることが求められる。そこで、溶媒としては、上述したように、水、エタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン、植物油や植物油由来等の化合物、石油系溶媒から選択される1種類以上からなる溶媒が好ましく用いられる。
【0130】
植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。
植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。
石油系溶媒としては、アニリン点の高いアイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)などが用いられる。
【0131】
これらの溶媒は、偽造防止インクの使用目的に応じて選択することが可能である。なかでも、植物油や植物油由来の化合物が好ましい。これは、植物油や植物油由来の化合物は、印刷設備のゴム部品を浸食しないからである。また、植物油や植物油由来の化合物の代わりに石油系溶媒を使用する場合は、印刷設備のゴム部品を浸食しないようなアニリン点の高いものが好ましい。
当該溶媒へ、赤外線吸収微粒子および必要に応じて着色顔料を分散させる方法としては、特に限定されないが、超音波や媒体撹拌ミル等を使用すれば、ある程度粒子をほぐして微細化することができるので好ましい。もちろん、あらかじめ作成した分散粉含有分散液、赤外線吸収インクを偽造防止インクに加工してもよい。
【0132】
赤外線吸収微粒子分散粉を、溶媒やエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物へ分散して偽造防止インクを得る方法は、当該微粒子分散粉を溶媒中において、分散粉中の候耐薬品性の樹脂を溶解させることなく、また、分散粉を微粒化させることなく、分散粉を均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該分散方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。ただし、媒体メディア(ビーズ、ボール、オタワサンド)を用いるビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散は適度なものとする。この結果、分散粉含有分散液中において、候耐薬品性の樹脂が溶解したり、分散粉が微粒化したりして、耐薬品性が担保出来なくなる事態を回避できる。
【0133】
(2)偽造防止用印刷物
本発明に係る偽造防止インクを、被印刷基材の表面に通常の方法により塗布又は印刷することにより、偽造防止用印刷物を得ることができる。その場合、本発明に係る偽造防止インクは、溶媒を蒸発などにより除去して被印刷基材の表面に固着させたり、エネルギー線の照射によってエネルギー線で硬化する樹脂の液状の未硬化物を硬化させて被印刷基材に固着させたりすることで偽造防止用印刷物を形成する。
【0134】
また、上述した本発明に係る偽造防止インクがバインダーを含まない場合には、被印刷基材に塗布又は印刷し、溶媒を蒸発させることで印刷膜が得られる。ただし、この場合には、印刷膜の剥離や微粒子の脱落を防止するため、当該印刷膜の上へ、透明樹脂からなるカバー層を設けることが好ましい。
【0135】
本発明に係る偽造防止用印刷物中における赤外線吸収微粒子の含有量は、目的とする用途に応じて変更可能であるが、通常は0.05g/m2以上が好ましい。0.05g/m2以上の含有量があれば赤外線領域の吸収が顕著に表れ、偽造防止印刷物として機能する。また、含有量の上限は特に限定されないが、5g/m2以下であれば可視光領域の光を大幅に吸収してしまうことがないため、透明性を維持する観点から好ましい。尚、上記赤外線吸収微粒子の含有量は、全てのフィラーが印刷面に入射する光線に対して同等に作用するため、被印刷膜の1m2当たりの含有量で評価することができる。
【0136】
偽造防止インクを印刷するための被印刷基材は、目的とする用途にあったものを使用すればよく、紙の他に、樹脂とパルプの混合物、樹脂フィルム等を用いることができる。また、シール上に本発明に係る偽造防止インクで印刷し、このシールを被印刷基材に貼付してもかまわない。
【0137】
このようにして作製した本発明に係る偽造防止用印刷物は、コピー等では複製が不可能であって、目視判定によらず、赤外線を照射し且つその反射又は透過を検出することによって機械的に確実に、真贋の判定を行うことができる。しかも、赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物または/およびタングステン酸化物という無機微粒子を用い、これを印刷法により被印刷基材に適用するため、耐候性と耐光性に優れ、安価な偽造防止用印刷物を提供することができる。さらに、耐薬品性に優れるため、例えば該印刷物が洗濯機の中で高温のアルカリ性の洗剤液と混合されても、赤外線吸収微粒子が溶解せずに偽造防止としての機能が保持される。
【実施例】
【0138】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、実施例および比較例における分散液の分散粒子径は、動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS-8000)により測定した平均値をもって示した。また、実施例および比較例における分散粉の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法に基づく粒子径分布測定装置であるマイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックHRAを用い、体積累積粒度のメジアン値として測定した。
また、実施例および比較例における印刷膜の光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製U-4100)を用いて測定し、可視光透過率と日射透過率とはJISR3106に従って算出した。
【0139】
[実施例1]
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)7.43kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)34.57kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥した(WとCsとのモル比が1:0.33相当である。)。当該乾燥物を、N2ガスをキャリア-とした5体積%H2ガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した、その後、当該供給ガスをN2ガスのみに切り替えて、室温まで降温してCsタングステン酸化物粒子を得た。
【0140】
当該Csタングステン酸化物粒子20質量部と、トルエン75重量部と、ポリアクリレート系高分子樹脂(以下、本実施例、比較例において「樹脂a」と記載する。)5重量部とを混合し、30kgのスラリーを調製した。このスラリーをビーズと共に媒体攪拌ミルに投入し、10時間粉砕分散処理を行った。尚、媒体攪拌ミルは横型円筒形のアニュラータイプ(アシザワ株式会社製)を使用し、ベッセル内壁とローター(回転攪拌部)の材質はジルコニアとした。また、ビーズには、直径0.1mmのYSZ(Yttria-Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア)製のビーズを使用した。ローターの回転速度は14rpm/秒とし、スラリー流量3kg/minにて粉砕分散処理を行い、実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散液を得た。
【0141】
実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散液の分散粒子径を、動的光散乱法に基づく粒径測定装置を用いて測定したところ70nmであった。尚、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドはトルエンを用いて測定し、溶媒屈折率は1.50とした。
【0142】
実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散液へさらに樹脂aを添加し、樹脂aと赤外線吸収微粒子(Csタングステン酸化物微粒子)との重量比[樹脂a/赤外線吸収微粒子]が4となるように調整した。得られた調整液からドラム乾燥機を用いてトルエンを除去し、当該ドラム乾燥機の容器内面に、樹脂中に赤外線吸収微粒子が分散している小片を生成させると共に、当該小片状の樹脂へ機械的な粉砕を加え、実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉を得た。
得られた実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径を測定したところ5.3μmであった。
【0143】
実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉50gと、紫外線硬化樹脂UV3701(東亞合成(株)製)50gとをよく混合し、実施例1に係る偽造防止インクを得た。
【0144】
被印刷基材として厚さ50μmの透明PETフィルムを使用し、その表面へ実施例1に係る偽造防止インクをバーコーターにより成膜した。この膜に高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させ、実施例1に係る偽造防止インクの印刷膜を得た。
【0145】
得られた実施例1に係る印刷膜の光学特性を測定したところ、可視光領域の波長550nmの光の透過率は66%であり、波長1000nmの光の透過率は4%、波長1500nmの光の透過率は1%であった。
【0146】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤0.3質量%、水酸化ナトリウム1質量%、純水98.7質量%の混合溶液を温度70℃に保持した。
実施例1に係る印刷膜を、当該混合溶液へ30分間浸漬した。浸漬後における実施例1に係る印刷膜の光学特性を測定したところ、可視光領域の波長550nmの光の透過率は69%であり、波長1000nmの光の透過率は5%、波長1500nmの光の透過率は2%であり、赤外線吸収特性が保持されていることを確認した。
【0147】
[実施例2]
6塩化タングステンをエタノールに少量ずつ溶解し溶液を得た。この溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、W18O49(WO2.72)のタングステン酸化物粒子を作製した。このWO2.72は、X線回折による結晶相の同定の結果、W18O49の結晶相が観察された。
【0148】
このWO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、樹脂a5重量部を混合し、実施例1と同様の分散処理を行い、分散粒子径70nmの実施例2に係る赤外線吸収微粒子分散液を得た。
【0149】
実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散液の代わりに実施例2に係る赤外線吸収微粒子分散系を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、実施例2に係る赤外線吸収微粒子分散粉、偽造防止インク、偽造防止用印刷膜を得た。
実施例2に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径は4.7μmであった。実施例2に係る赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉、偽造防止用印刷膜に対して、実施例1と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1および2に示す。
【0150】
[実施例3]
ホウ素源及び還元剤として炭化ホウ素(B4C)、ランタン源として酸化ランタンを用い、これらをランタンとホウ素の元素比であるB/Laの値が5.90となるように秤量、混合した。その後、アルゴン雰囲気中、1600±50℃の温度条件で6時間焼成し、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
次に、作製した六ホウ化ランタン粒子含有粉末10重量部、トルエン80重量部、樹脂a10重量部の割合となるように秤量、混合し、実施例1と同様の分散処理を行い、分散粒子径80nmの実施例3に係る赤外線吸収微粒子分散液を得た。
実施例3に係る赤外線吸収微粒子分散液へさらに樹脂aを添加し、樹脂aと赤外線吸収微粒子(六ホウ化ランタン粒子)との重量比[樹脂a/赤外線吸収微粒子]の値が7となるように調整した。それ以外は実施例1と同様の操作をすることで、実施例3に係る赤外線吸収微粒子分散粉、偽造防止インク、偽造防止用印刷膜を得た。
実施例3に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径は6.5μmであった。実施例3に係る赤外線吸収微粒子分散液、赤外線吸収微粒子分散粉、偽造防止用印刷膜に対して、実施例1と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1および2に示す。
【0151】
[比較例1]
実施例1に係る赤外線吸収微粒子分散液へさらに樹脂aを添加し、樹脂aと赤外線吸収微粒子(Csタングステン酸化物微粒子)との重量比[樹脂a/赤外線吸収微粒子]が4となるように調整した。得られた調整液から真空擂潰機(株式会社石川工場製)を用いてトルエンを除去しながら解砕処理を施し、比較例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉を得た。
得られた比較例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径を測定したところ0.7μmであった。
【0152】
比較例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉50gを、紫外線硬化樹脂UV3701(東亞合成(株)製)50gとよく混合し比較例1に係る偽造防止インクを得た。
【0153】
被印刷基材として厚さ50μmの透明PETフィルムを使用し、その表面へ比較例1に係る偽造防止インクをバーコーターにより成膜した。この膜に高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させ、比較例1に係る偽造防止インクの印刷膜を得た。
【0154】
得られた比較例1に係る印刷膜の光学特性を測定したところ、可視光領域の波長550nmの光の透過率は71%であり、波長1000nmの光の透過率は4%、波長1500nmの光の透過率は1%であった。
【0155】
中性洗剤1重量部、水酸化ナトリウム1重量部、純水98重量部の混合溶液を温度70℃に保持した。
比較例1に係る印刷膜を、当該混合溶液へ30分間浸漬した。浸漬後における比較例1に係る印刷膜の光学特性を測定したところ、可視光領域の波長550nmの光の透過率は88%であり、波長1000nmの光の透過率は89%、波長1500nmの光の透過率は88%であり、赤外線吸収特性が消失していることを確認した。
当該製造条件と評価結果を表1および2に示す。
【0156】
[比較例2]
実施例3に係る赤外線吸収微粒子分散液へさらに樹脂aを添加し、樹脂aと赤外線吸収微粒子(六ホウ化ランタン粒子)との重量比[樹脂a/赤外線吸収微粒子]の値が7となるように調整した。得られた調整液から真空擂潰機(株式会社石川工場製)を用いてトルエンを除去しながら解砕処理を施し、比較例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉を得た。
得られた比較例2に係る赤外線吸収微粒子分散粉の平均粒子径を測定したところ0.7μmであった。
【0157】
比較例1に係る赤外線吸収微粒子分散粉の代わりに比較例2に係る赤外線吸収微粒子分散粉を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作をすることで、比較例2に係る偽造防止インク、偽造防止用印刷膜を得た。
比較例2に係る偽造防止用印刷膜に対して、比較例1と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1および2に示す。
【0158】