(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】色素材水溶液、色素材水溶液の製造方法及び青色着色飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 5/46 20160101AFI20230411BHJP
A23L 2/58 20060101ALI20230411BHJP
C09B 67/54 20060101ALI20230411BHJP
C09B 67/44 20060101ALI20230411BHJP
C09B 61/00 20060101ALN20230411BHJP
【FI】
A23L5/46
A23L2/00 M
C09B67/54 Z
C09B67/44 A
C09B61/00 B
(21)【出願番号】P 2019558084
(86)(22)【出願日】2018-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2018041108
(87)【国際公開番号】W WO2019111615
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017236018
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018082215
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩正
(72)【発明者】
【氏名】新井 久由
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】石原 光輝
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-076867(JP,A)
【文献】特開昭62-006691(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003599(WO,A1)
【文献】COUTEAU C. et al.,Study of thermodegradation of phycocyanin from Spirulina platensis,Sciences des Aliments,2004年,Vol.24,P.399-405,要約、パラグラフ2.2、3.2、表3
【文献】CHAIKLAHAN R. et al.,Stability of phycocyanin extracted from Spirulina sp.: Influence of temperature, pH and preservative,Process Biochemistry,2012年,Vol.47, No.4,P.659-664,要約、第659頁左欄下から第11-9行、パラグラフ2.2.、
図3
【文献】KANNAUJIYA V. K. et al.,Thermokinetic stability of phycocyanin and phycoerythrin in food-grade preservatives,Journal of Applied Phycology,2016年,Vol.28, No.2,P.1063-1070,要約、第1063頁右欄第21-24行、第1064頁右欄、
図3
【文献】MISHRA S. K. et al.,Effect of preservatives for food grade C-PC from Spirulina platensis,Process Biochemistry,2008年,Vol.43, No.4,P.339-345,要約、パラグラフ2.3.、
図4、表1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを含む色素材を含有し、
620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における、水素イオン濃度(pH)3以下での、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度が0.05以下であ
り、
更に、フィコシアニン(A)1g当たり、アニオン界面活性剤を不揮発分として、15~100mmol含有することを特徴とする色素材水溶液。
【請求項2】
フィコシアニン(A)とヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)とを水に溶解させる工程を含
み、
更にアニオン界面活性剤を用いることを特徴とする、水素イオン濃度(pH)が3以下の色素材水溶液の製造方法。
【請求項3】
フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを用いる請求項
2記載の色素材水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1の色素材水溶液を含有する、青色着色飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、飲料品、医薬品、化粧品等の着色に適する色素材水溶液、その製造方法及び青色着色飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
食品用色素として、多種多様の赤色色素、黄色色素、青色色素が存在するが、近年、発癌性等の問題から合成着色料が疑問視され、より安全性が高いと思われる天然色素に対する期待が大きくなっている。しかし、天然色素には物性的に一長一短があり、特に色調的に鮮明な赤色・青色色素が少ないのが現状である。
【0003】
藻類色素のフィコシアニンは鮮明な青色色素であり、フィコエリトリンは鮮明な赤色色素である。これらの藻類色素はタンパク質結合色素である為に、特に溶液中における熱安定性に劣り、使用できる範囲が狭かった。また、色素材を含む飲料の製造工程においても、加熱殺菌工程における退色・沈殿等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色素は、あらゆる用途のいずれでも用いることを可能とするためには、酸性、中性及び塩基性(アルカリ性)のどの液性においても、高い耐熱性を有している必要がある。特にフィコシアニンは、例えば加熱殺菌を行う等の熱履歴を受けると、折角の鮮明な色が退色してしまうという欠点があった。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、酸性条件下において熱安定性に優れた色素材水溶液、その製造方法及び青色着色飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを含む色素材を含有し、620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における、水素イオン濃度指数(pH)3以下での、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度が0.05以下であることを特徴とする色素材水溶液が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の色素材水溶液、その製造方法及び青色着色飲料は、以下の特徴を有する。
【0009】
1. フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを含む色素材を含有し、
620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における、
水素イオン濃度指数(pH)3以下での、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度が0.05以下である
ことを特徴とする色素材水溶液。
【0010】
2. 更に、フィコシアニン(A)1g当たり、アニオン界面活性剤を不揮発分として、15~100mmol含有する上記1記載の色素材水溶液。
【0011】
3. フィコシアニン(A)とヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)とを水に溶解させる工程を含むことを特徴とする、水素イオン濃度指数(pH)が3以下の色素材水溶液の製造方法。
【0012】
4. フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを用いる上記3記載の色素材水溶液の製造方法。
【0013】
5. アニオン界面活性剤を用いずに、フィコシアニン凝集物を除去する工程を更に含む上記3または4記載の色素材水溶液の製造方法。
【0014】
更にアニオン界面活性剤を用いる上記3または4記載の色素材水溶液の製造方法。
【0015】
上記1の色素材水溶液を含有する、青色着色飲料。
【0016】
上記2の色素材水溶液を含有する、青色着色飲料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸性の条件下で熱安定性に優れた色素材水溶液、その製造方法及び青色着色飲料を提供できるという格別顕著な技術的効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<色素材>
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
本発明の色素材水溶液は、フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを含む色素材を含有し、620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における、水素イオン濃度指数(pH)3以下での、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度が0.05以下であるであることを特徴とする。
【0019】
(フィコシアニン)
フィコシアニン(A)とは、フィコビリ蛋白質の一種であり、フィコシアノビリンとタンパク質とを含有する、常温固体の青色色素である。それは、C-フィコシアニンであってもよく、アロフィコシアニンであってもよく、R-フィコシアニンであっても良い。フィコシアニン(A)は、例えば、藻類から任意の手段にて抽出することにより得ることができる。
【0020】
フィコシアニン(A)は、公知慣用のものがいずれも使用し得るが、例えば、藍藻や紅藻といった各種の藻類由来の藻類色素を挙げることができる。フィコシアニン(A)は、天然物であっても良いが、各種培養方法にて人工的に培養でき、入手が容易なことから、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する藍藻(以下「スピルリナ」ということがある。)のフィコビリ蛋白質を主成分として含有するスピルリナ色素であることが好ましい。フィコシアニン(A)は、それ自体、主に青色を呈するので、青色色素材として用いられている。
【0021】
「スピルリナ」からのフィコシアニンの取得方法は特に限定されるものではないが、例えば、スピルリナから緩衝液に抽出させる方法により抽出でき、一例として、文献(特開昭52-134058号公報)に記載の方法により取得できる。
【0022】
(ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸)
ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)とは、ヒドロキシ基を1つ以上含むと共にカルボキシ基を2つ以上含むカルボン酸である〔以下、カルボン酸(B)と略記する。〕。本発明において当該カルボン酸(B)の定義には、当該カルボン酸の塩は包含されない。当該カルボン酸(B)は、塩となっていない遊離のカルボキシル基を含有する化合物である。
【0023】
当該カルボン酸(B)は、常温固体でも液体のいずれであってもよく、また、フィコシアニン(A)と併用することから、それ自体が、フィコシアニン(A)と同様の色、味、匂いであるか、または無色、無味、無臭であることが好ましい。本発明の前記(A)及び(B)を酸性条件下にて使用する場合には、当該カルボン酸(B)は、酸味があっても良い。
この様なカルボン酸(B)としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等を挙げることができる。上記フィコシアニン(A)と、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)との組み合わせた際の、酸性条件下における、フィコシアニン(A)の構造安定性が増すことから、当該カルボン酸としては、中でもクエン酸(B)を用いることが好ましい。
【0024】
発明者らは、後述する実施例において示すように、当該カルボン酸(B)に、フィコシアニン(A)の熱安定性、特に酸性条件下での熱安定性を向上させる作用があることを見出した。上記作用は、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)に固有のものであり、当該カルボン酸に対応する、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸の塩で奏されるものではない。
【0025】
水(C)としては、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えば、蒸留水、イオン交換水、精製水等を用いることができる。本発明では上記カルボン酸(B)を用いるため、イオン成分を含まないかまたは極力含有しないpH7の水を用いることが好ましい。
【0026】
(成分割合について)
本発明の色素材水溶液は、フィコシアニン(A)と、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)と水(C)とを必須成分として含有するものであり、フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを含む様に調製される。なかでも、フィコシアニン(A)1g当たり、クエン酸をカルボン酸等量で50mmol~100mmolとなる様に含有させることが、酸性条件下における退色が最も小さい、特に熱安定性に優れた色素材とすることが出来る。色素材水溶液における水(C)の含有率は、特に制限されるものではないが、質量換算で、フィコシアニン(A)と、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)との合計100部当たり、水(C)は、4000~25000部となる様に用いることができる。フィコシアニン(A)とヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)とを水に溶解させる工程において、これら両者を前記した成分割合となる様に、フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)とが水に溶解されると、その水溶液のpHは3以下となる。
【0027】
水(C)に溶解している、当該カルボン酸(B)の併用割合にもよるが、フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)との合計量が多いほど、青色の濃い、濃厚な色素材水溶液となり、必要なら希釈する等して、同一色価の着色においては、より多くの被着色物の着色を行うことができるので好ましい。勿論、いったん濃厚な色素材水溶液を調製してからそれを希釈するのでなく、濃厚な色素材水溶液を経由することなく、使用用途や目的に合致した濃度となる様に、直ちに希薄な色素材水溶液を得るようにしても良い。
【0028】
(吸光度)
また本発明の色素材水溶液は、上記以外に、620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における、水素イオン濃度指数(pH)3以下での、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度が0.05以下であるという特徴も兼備する。
【0029】
尚、620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加するとは、色価が2.5~5の範囲において選択される任意の1点の色価となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加することを意味する。同様に、水素イオン濃度指数(pH)3以下での光学密度も、水素イオン濃度指数(pH)3以下の範囲において選択される任意の1点での光学密度を意味する。色価とpHは、前記した範囲で固定した条件で、従来公知の色素材水溶液と、本件発明のそれとを光学密度の点で対比を行うことにより、本件発明の色素材水溶液の優れた酸性条件下での着色の熱安定性が確認できる。
【0030】
色素材水溶液の調製に用いる当該カルボン酸(B)の種類により、選択される上記した1点の色価や1点のpHは、上記した範囲内において同一である場合も、異なる場合もあるので、用いる当該カルボン酸(B)の種類に応じて、それぞれ最適な色価やpHを定めて、吸光度による光学密度の測定を行うことが好ましい。吸光度の詳細な測定方法に関しては、後に詳述する。
【0031】
本発明においては「620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における」と定めているが、この色価2.5~5は、あくまでも水素イオン濃度指数(pH)3以下の色素材水溶液を用いて、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度を定めるための、単なる測定条件に過ぎないものである。上記した通り、濃厚な色素材水溶液だけでなく、希薄な色素材水溶液であっても良く、色価が2.5~5の範囲を逸脱した色素材水溶液が、一律的に、本発明の技術的範囲から除外されることを意味するわけではない。つまり、本発明では、色価2.5~5の範囲で光学密度を測定することを想定しており、色価2.5未満の色素材水溶液にあっては、濃縮等を行って色価2.5~5の範囲の任意の点で光学密度を測定し、一方、色価5を超える色素材水溶液にあっては、希釈等を行って色価2.5~5の範囲の任意の点で光学密度を測定し、それらが、0.05以下であれば、本発明の技術的範囲に属するものと判断できる。
【0032】
本発明においては、フィコシアニン(A)1g当たり、アニオン界面活性剤を不揮発分として、15~100mmol含有させることにより、水溶液中におけるフィコシアニン(A)の分散安定性を向上させることができると共に、熱履歴を受ける前後における色価自体の変化(色価残存率)や、色調の変化(色差)を小さく抑制することができるので好ましい。アニオン界面活性剤は、上記した併用範囲内において、上記した顕著な効果を発現する。
【0033】
この様なアニオン界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-スルホテトラデカン酸 1-メチルエステル ナトリウム、ドデシルリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0034】
色素材水溶液を用いて被着色物を着色する場合において、色素材水溶液に不溶の何らかの成分が含有されていると、色素材水溶液自体が濁った様に見え、感性的に悪印象を与えたり、被着色物に対しての一応の着色自体は行えても、部分的な着色ムラの原因になったり、被着色物が飲料等の場合では、摂取した際の舌触りが悪い等の実質的な不都合もある。フィコシアン凝集物に代表される水不溶物の存在程度は、入射光波長800nmにおける光学密度の測定により評価ができる。上記光学密度測定値(OD)が小さいほど、水不溶物の含有率が少なく、上記した欠点が小さい又は欠点がない色素材水溶液となる。
【0035】
フィコシアニン(A)と、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸の「塩」とを含む色素材水溶液を調製した場合、それ自体の水溶液の水素イオン濃度指数(pH)は中性から塩基性となる。この様な色素材水溶液は、酸性条件下で用いることを想定して酸性にした場合には、上記したフィコシアニン凝集物とみられる水不溶物が大量に発生し、水溶液がかなり濁った状態になる。このことは、フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)とを、単に固体同士で混合して耐熱性を評価するだけではわからない知見である。このことから、フィコシアニン(A)と、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸の「塩」とを含む色素材水溶液は、酸性条件下での使用に適していないことが明らかである。
【0036】
(色素材水溶液の製造方法)
質量換算で、フィコシアニン(A)と、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)と水(C)とを、上記した様な所定の成分割合にて混合し、フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)とを水(C)に溶解させることで、本発明の色素材水溶液を調製することができる。
【0037】
本発明の色素材水溶液の製造方法においては、その原料として、フィコシアニン(A)自体を用いても良いが、必要であれば、それに代えて、フィコシアニン(A)を含有する公知慣用のフィコビリ蛋白質を用いても良い。
【0038】
フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)とを水(C)に溶解させる場合には、例えば、フィコシアニン(A)の水(C)溶液を調製して、これに当該カルボン酸(B)を更に溶解させる方法、当該カルボン酸(B)の水(C)溶液を調製して、これにフィコシアニン(A)を更に溶解させる方法、フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)とを、同時に並行して水(C)に溶解させる方法等が挙げられる。
【0039】
フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)との水(C)中での接触方法は、公知の混合方法を採用でき、例えば、ジューサー、ミキサー、ミル、マイクロミキサー等の撹拌羽根による回転撹拌、液体同士の衝突、液体の合一・分割の繰り返し等の動的、静的な各種混合方法を任意に作用することができる。
【0040】
フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)との混合は、、両者を一度に混合してもよく、少しずつ混合してもよく、それぞれの水溶液を調製し、それらを水(C)に混合してもよい。
【0041】
水溶液の調製に当たって、フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)と水(C)の各温度は特に制限されるものではなく、フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)の種類に応じて、適宜設定すればよいが、一例として、いずれも0℃以上50℃以下である。前記三者の温度差は出来るだけ小さい方が、混合に当たって、凝集等の不具合は起こり難いので好ましい。
【0042】
本発明の色素材水溶液の製造方法においては、フィコシアニン(A)とヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)とを水に溶解させる工程を必須工程として実施することで、水素イオン濃度指数(pH)が3以下の色素材水溶液を製造する。この水への溶解工程を経て得られた各種濃度の色素材水溶液は、直ちに、被着色物の着色に用いることもできるが、エージング工程、例えば、5~48時間かつ温度15~30℃でのエージングを含ませることで、エージングしない場合より熱安定性を向上でき、中でも加熱前後における色価低下を抑制できる上、フィコシアニン(A)の水への分散安定性により優れた色素材水溶液の製造が可能となる。
【0043】
色素材水溶液の製造方法において、フィコシアニン(A)と、当該カルボン酸(B)の水(C)への溶解工程において、フィコシアニン凝集物を含む水不溶物がわずかではあるが生じてしまった場合は、この水不溶物を除去する工程を、前期溶解工程に引き続いて行うことが、より好ましい。濃厚な色素材水溶液をいったん調製し、それを希釈して所望の濃度の希薄な色素材水溶液を調製しても良いが、濃厚な色素材水溶液を調製する工程を経由することなく、所望の濃度の希薄な色素材水溶液を調製する方が、上記した様な凝集等の不具合は起こり難く、仮に凝集が起きてもその程度は軽微であり、水不溶物を除去する工程を省略できる、或いはより簡便で除去工程の負荷もより軽減でき生産性向上にも繋がるので好ましい。
【0044】
この様な水不溶物を除去する工程においては、例えば、デカンテーション、濾過、遠心分離等の手段を採用することができる。本発明の色素材水溶液の製造方法においては、必要であれば、上記した水不溶物が発生し難い条件において、さらに濃縮工程を必須として含めて、色素材水溶液を濃縮するようにしても良い。
【0045】
本発明では、フィコシアニン(A)と共に、当該カルボン酸(B)を、水(C)に溶解した時、何らかの相互作用によりフィコシアニン(A)の水溶液中における溶解性が向上する。詳細は不明であるが、フィコシアニン(A)表面側に当該カルボン酸(B)のカルボキシル基が選択配向し、水(C)側にヒドロキシ基(水酸基)が選択配向することで、当該ヒドロキシ基に基づいて水(C)中におけるフィコシアニン(A)の溶解性がより向上するものと推察される。一方で、非常に意外なことに、本発明者らは、前記した様な水不溶物が除去された色素材水溶液であっても、それ自体が熱安定性に優れることを見出した。
【0046】
本発明の色素材水溶液は、当該カルボン酸(B)の作用により、水不溶物の発生が効果的に抑制され、熱履歴を経てもフィコシアニン(A)が安定的に液中に均一溶解している状態を維持できる。
【0047】
本発明の色素材水溶液の製造方法では、フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)を水に含有させ、必要に応じて、これらの混合初期に発生する場合がある、上記した様な水不溶物を除去することで、酸性条件下における退色の小さい熱安定性に優れた色素材水溶液を簡便に得ることが出来る。
【0048】
尚、本発明者等の知見によれば、フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)とを水に溶解させる溶解工程において、これらのみから色素材水溶液を製造する場合には、フィコシアニン凝集物の様な水不溶物を除去する工程を更に含ませることが好ましいが、フィコシアニン(A)と当該カルボン酸(B)とを水に溶解させる溶解工程として、更にアニオン界面活性剤をそこで併用する場合には、フィコシアニン凝集物の様な水不溶物は実質的には発生せず、フィコシアニン凝集物の様な水不溶物を除去する工程を含ませる必要は無くなることから、色素材水溶液の生産性をより高めることができる。万一、何らかの原因で上記水不溶物が含まれた色素材水溶液が得られた場合には、当該水不溶物を除去する工程を経てから、そこに上記したアニオン界面活性剤を含ませることが、水不溶物の存在に基づく上記した様な不具合が無くすことができるので、好ましい。
【0049】
また、希薄な色素材水溶液を直接調製する場合には、上記した水不溶物の発生は抑制され、フィコシアニン(A)は、アニオン界面活性剤の作用により、水不溶物の除去工程を経ずとも、またエージング工程を経ずとも、熱安定性に優れ、かつフィコシアニン(A)の水への分散安定性により優れた色素材水溶液を、より生産性高く製造することが可能となる。
【0050】
(その他成分)
色素材水溶液には、不揮発分として、フィコシアニン(A)、当該カルボン酸(B)以外に、さらにこれらに該当しないその他の成分を含有してもよい。不揮発分である、その他の成分としては、例えば、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸の塩、賦形剤、防腐剤、各種ビタミン類、各種ミネラル類、各種糖類、前記藻類に由来するタンパク質系色素以外の物質、前記藻類の培地成分に由来する物質が挙げられる。
【0051】
また、本発明の色素材水溶液は、不揮発分以外として、水との混和性を有する有機溶媒を更に含有しても良い。この様な有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等を用いることができる。
【0052】
ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸の塩としては、例えば、上記にて例示した当該カルボン酸(B)の金属塩やアミン塩(以下、共役塩基という)が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等がある。ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸に含まれるカルボキシル基の少なくとも一部が上記した様な塩構造となっていれば、上記塩には該当するが、カルボキシル基の全てが上記した様な塩構造となっているものを用いることが、取扱いや原料の調達が容易である点において好ましい。
【0053】
本発明の技術的効果は、当該カルボン酸(B)に固有かつ特異な機能に基づくものであるが、この技術的効果を損なわない範囲において、当該カルボン酸(B)の共役塩基に相当する当該カルボン酸の塩(D)を、更に少量含有しても良い。当該カルボン酸の塩(D)の使用モル数は、当該カルボン酸(B)よりも小さい範囲であり、具体的には、使用モル数を基準として、当該カルボン酸の塩(D)/当該カルボン酸(B)=1/99~20/80であることが、酸性条件下における熱安定性に優れるので好ましい。当該カルボン酸(B)としてクエン酸を用い、かつその塩(C)を用いる場合は、具体的には、使用モル数を基準として、クエン酸塩(D)/クエン酸(B)=10/90~20/80であることが、酸性条件下における熱安定性に優れるので好ましい。
【0054】
例えば従来、糖、糖アルコール、及び多価アルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む色素材が知られている。従来の色素材では、これらの化合物が多量に含まれている場合があった。対して、本発明の一実施形態に係る色素材は、これらの化合物を含ませずに、当該カルボン酸(B)だけで、フィコシアニン(A)の熱安定性を良好なものとできる。トレハロースの様な糖は、本発明の色素材水溶液に含めても良いが、それによる酸性条件下における熱安定性向上への寄与は期待できない。
【0055】
色素材の不揮発分100質量%におけるフィコシアニン(A)の割合(質量%)は、公知の分析方法・測定方法により得られる。色素材の固形分100質量%における当該カルボン酸(B)の割合(質量%)は、公知の分析方法・測定方法により得られる。例えば、フィコシアニン(A)の質量は、それを水の様な溶媒に溶かした色素材水溶液の吸光度に基づき測定できる。
【0056】
一般的に知られるフィコシアニン(A)では、溶液中でのフィコシアニン(A)の極大吸収波長とフィコシアニン(A)の濃度%(w/v)との関係が知られており、色素材溶液の極大吸収波長での吸光度に基づき、フィコシアニン(A)の割合(質量%)を求めることができる。例えば、文献(Yoshikawa, N. and Belay, A. (2008)“Single-laboratory validation of a method for the determination of c-phycocyanin and allophycocyanin in Spirulina (Arthrospira) supplements and raw materials by spectrophotometry” Journal of AOAC International VOL. 91, 524-529 )で示される方法に従って、極大吸収波長の吸光度の値から試料中のC-フィコシアニン(cPC)濃度(g/L)、及びアロフィコシアニン(aPC)の濃度(g/L)を求めることができる。ここでの色素材溶液中のcPCの極大吸収波長は、620nmであり、色素材溶液中のaPCの極大吸収波長は、650nmである。スピルリナのフィコシアニンは、cPCとaPCを足したものとすることができる。
【0057】
例えば、試料中のcPCの濃度は、下記式により求められる。
cPC(mg/mL)=0.162×Abs620-0.098×Abs650
【0058】
例えば、試料中のaPCの濃度は、下記式により求められる。
aPC(mg/mL)=0.180×Abs650-0.042×Abs620
【0059】
測定波長は、試料溶液の極大吸収波長に応じて適宜定めればよい。例えば、試料溶液に含まれる色素のうち、以下のフィコシアニン(A)が主成分として含有されている場合の、測定波長は、610~630nmである。この範囲から最適の1点を定めて測定を行えば良い。
【0060】
<用途>
実施形態の色素材は、アイスクリーム、ソフトクリーム、ケーキ、ババロア、羊羹、ゼリー、ガム、グミ、チョコレート等の菓子類やパン類;そば、うどん、素麺等の麺類;豆腐、蒲鉾、はんぺん等の各種食品類;抹茶飲料、緑茶飲料、牛乳飲料、豆乳飲料、野菜飲料、果実飲料、清涼飲料水等の飲料類;錠剤等の医薬品や化粧品への添加に好適である。
【0061】
本発明の色素材水溶液によれば、例えば、濃厚な色素材水溶液を、目的とする所望の色価となる様に、必要に応じて溶媒で希釈して、或いは希薄な色素材水溶液を、目的とする所望の色価となる様に、必要に応じて濃縮して、それを更に飲料と混合することで、意図した色価の青色着色された飲料(青色着色飲料)を簡便に調製することができる。なかでも、本発明の色素材水溶液は、飲料として、それ自体が酸性を呈する、清涼飲料水や果実飲料(ジュース)において、耐熱性に優れ、加熱殺菌等の熱履歴を経ても退色が無いか、小さいという顕著な効果を奏する。清涼飲料水や果実飲料は、酸性の緩衝溶液(バッフアーと呼ぶ場合がある)となっていることも多いため、便宜的に、この酸性の緩衝溶液を被着色物である模擬飲料に見立てて、それで本発明の色素材水溶液を希釈して、加熱前後での色価の変化を観察することで、酸性条件下での退色の程度を確認することができる。
【0062】
また、本発明の色素材水溶液は、それ単独での着色に好適であるが、その他の色素材との複合形態で提供されてもよい。その他の色素材としては、ベニバナ黄、クチナシ黄、抹茶や緑茶のほか、大麦若葉、ケール、桑、笹、モロヘイヤ、クロレラ、青しそ、ブロッコリー、ほうれん草、ピーマン、明日葉等の緑色粉末が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0064】
<溶液の吸光度の計測>
溶液の吸光度は、UV/Vis分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製U-3900H)により、光路長1cmの石英セルを用いて計測した。尚、吸光度を表すAbsの表示に続く数字は、測定波長(nm)を意味するものとする。
【0065】
<含フィコシアニン青色色素材水溶液の耐熱・耐酸性評価>
以下の式によりAbs620での加熱前後における色価残存率 Abs%を算出する。このAbs%の値により、耐熱・耐酸性を評価することが出来る。
Abs% = (Abs620 after) / (Abs620 before) ×100
ここで、加熱前、加熱後の吸光度をそれぞれ、Abs before、Abs afterとする。
【0066】
[実施例1]
リナブルー G1(DICライフテック株式会社製の植物性青色色素。フィコシアニン換算量26~30質量%の範囲内の1点、クエン酸3ナトリウム5質量%、トレハロース55質量%、その他タンパク質8質量%、その他成分4質量%を含有する)25mgを、クエン酸とクエン酸塩とを所定モル割合で含む水溶液5mLに分散させ、室温(25℃)で16時間静置して溶解させた。これを25℃×9253G×10分の条件で遠心分離することにより、フィコシアン凝集物を含む水不溶分からなる沈殿を除去、上清を回収し、含フィコシアニン青色色素材(濃厚色素材水溶液)を得た。
尚、得られた濃厚色素材水溶液は、フィコシアニン1gあたりクエン酸に由来するカルボン酸90mmol(およびクエン酸の共役塩基4mmol、pH2.2)の配合比の色素材組成物であった。この濃厚色素材水溶液の色価は2.9であり、かつ、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度は0.006であった。
また、被着色物である清涼飲料水への着色を想定し、この濃厚色素材水溶液を、50mMクエン酸バッファーを用いて、上記と同じpH2.2でAbs620が約0.7となるよう希釈し、1.5mlプラスチックチューブに1ml分注し、加熱前の希釈色素材水溶液(模擬青色着色飲料)を得た。試料に対し卓上インキュベーター(アトー株式会社製WSL-2610)により70℃×30分にて加熱処理を行い、25℃×9253G×5分の条件で遠心分離し、加熱後の希釈色素材水溶液(模擬青色着色飲料)を得た。
加熱処理前後の希釈色素材水溶液(模擬青色着色飲料)について、以下の条件にて、吸光度を測定して、それから色素の酸性条件下における熱安定性の指標となる、色価残存率を求めた。
【0067】
上記に従って求められた色価残存率は、82.2%であった。
【0068】
[実施例2]
クエン酸に由来するカルボン酸20mmol(およびクエン酸の共役塩基2mmol、pH2.5)となるようにする以外は、上記実施例1と同様にして濃厚色素材水溶液を得た。この濃厚水溶液の色価は4.3であり、かつ、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度は0.005であった。さらに、12.5mMクエン酸バッファーを希釈に用いる以外は上記実施例1と同様にして希釈色素材水溶液を調製し、加熱処理を行い、色価残存率を測定したところ、色価残存率は67.5%であった。
【0069】
[実施例3]
クエン酸に由来するカルボン酸200mmol(およびクエン酸の共役塩基17mmol、pH2.5)となるようにする以外は、上記実施例1と同様にして濃厚色素材水溶液を得た。この濃厚水溶液の色価は2.7であり、かつ、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度は0.005であった。さらに、125mMクエン酸バッファーを希釈に用いる以外は上記実施例1と同様にして希釈色素材水溶液を調製し、加熱処理を行い、色価残存率を測定したところ、色価残存率は73.5%であった。
【0070】
[実施例4]
L-りんご酸に由来するカルボン酸22mmol(およびL-りんご酸の共役塩基1mmol、pH2.5)となるようにする以外は、濃厚色素材水溶液を得た。この濃厚水溶液の色価は3.0であり、かつ、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度は0.007であった。さらに、18.75mMのL-りんご酸水溶液を希釈に用いる以外は上記実施例1と同様にして上記実施例1と同様にして希釈色素材水溶液を調製し、加熱処理を行い、色価残存率を測定したところ、色価残存率は59.2%であった。
【0071】
[実施例5]
L-酒石酸に由来するカルボン酸21mmol(およびL-酒石酸の共役塩基2mmol、pH2.5)となるようにする以外は、濃厚色素材水溶液を得た。この濃厚水溶液の色価は3.4であり、かつ、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度は0.004であった。さらに、18.75mMのL-酒石酸水溶液を希釈に用いる以外は上記実施例1と同様にして上記実施例1と同様にして希釈色素材水溶液を調製し、加熱処理を行い、色価残存率を測定したところ、色価残存率は63.9%であった。
【0072】
[比較例1]
リナブルー G1と、クエン酸3ナトリウム塩を所定モル割合で含む水溶液に分散させ、室温(25℃)で16時間静置して溶解させ、含フィコシアニン青色色素材(濃厚色素材水溶液)を得た(沈殿は発生しなかったため、遠心分離は行わなかった。)。尚、得られた濃厚色素材水溶液は、色価37であり、フィコシアニン1gあたりクエン酸の共役塩基(クエン酸3ナトリウム塩)9mmol(pH 8.9、クエン酸自体を含まない)の配合比の色素材組成物であった。
この濃厚色素材水溶液に、50mMのクエン酸水溶液をpH2.5になるよう添加したところ、顕著な濁りや沈殿が発生した。この懸濁液の800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度は0.073(0.05以上)であった。
さらに、この懸濁液を実施例1と同様に遠心分離し、沈殿を除去して得られた水溶液の色価は0.82であった。この色価は、実施例における色価に比べて著しく小さい色価であり、実施例の色素材水溶液の青色の濃淡と対比して、著しく淡い(薄い)青色であった。
また、被着色物である清涼飲料水への使用を想定し、実施例1と同様に、希釈色素材水溶液(模擬青色着色飲料)を調整し、pH2.5での耐熱試験をおこない、色価残存率を求めた。色価残存率は27.3%であり、実施例1よりも著しく低かった。
【0073】
実施例1は、クエン酸優位の色素材水溶液、比較例1は、クエン酸共役塩基優位の色素材水溶液である。
これら実施例1と比較例1との対比からわかる通り、光散乱に由来する入射光800nmにおける光学密度が小さい実施例1の色素材水溶液は、濁りも少なく感性的に好印象であり、着色時における部分的な着色ムラも少なくなると目され、色価自体も大きく、それを用いて調製した青色着色飲料は、鮮明な青色を呈し、摂取した際に不快な舌触りも無い。一方、800nmにおける光学密度が大きい比較例1の色素材水溶液は、濁りが激しく感性的な悪印象であり、フィコシアニン凝集物を含む水不溶物に由来する、部分的な着色ムラが発生すると目され、色価自体も小さく、それを用いて調製した青色着色飲料は、相対的により淡い(薄い)青色を呈し、摂取した際に舌触りも悪いと目される。
しかも、加熱前後における色素材水溶液の酸性条件下での熱安定性(耐熱性)は、加熱前後の色価の変化率からわかるように、実施例1のクエン酸優位の色素材水溶液の方が、比較例1のクエン酸共役塩基優位の色素材水溶液に比べて著しく優れていることが明らかである。
さらに、クエン酸共役塩基を優位となるように用いる場合に比べて、クエン酸が優位となるように用いる場合の方が、より色価の大きな色素材水溶液を調製することが容易であり、同一色価の着色に用いる色素材水溶液の使用量を削減することもできる。
【0074】
本発明の色素材水溶液は、酸性条件下で加熱殺菌する等の熱履歴が加わっても、退色が小さく、酸性条件下における熱安定性に優れていることは、明らかである。
【0075】
実施例6
リナブルー G1を0.6%および、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)1.25%含む水溶液を調製した。これにクエン酸緩衝液(pH2.5,62.5mM)を4倍容量加えた。これによりSDSの終濃度0.25%、フィコシアニン/SDSの質量比0.144及びクエン酸の終濃度50mMとなった。
上記で得た希薄水溶液から、室温(25℃)で16時間静置することを行わず、これに25℃×9253G×10分の条件で遠心分離を加え、上清を回収し、含フィコシアニン青色色素材を得た。上記で得た希薄水溶液には、水不溶物は含有していなかったため、本来上記の遠心分離を行う必要は無いが、わずかな水不溶物を生じる下記実施例7と条件をそろえるために遠心分離の工程を行った。この色素材に対して70℃×30分間上記卓上インキュベーターにより加熱処理を行い、念のため、遠心分離(25℃×9253G×5分)した。加熱前後での吸光度を測定したところ、この試料の色価残存率は94.1%であった。
【0076】
また、L*a*b*値の算出を以下のように行った。360~780nmの吸光度を元に、CIE D65標準光源およびCIE2°等色関数によりXYZ色座標系に変換し、これをさらにL*a*b*色座標系に変換した。
加熱前後の吸光度の変化を、色空間における距離である下式により評価した。L*a*b*色空間における加熱前後での色差△Eは5.1であった。
【0077】
【0078】
実施例7
SDSの終濃度が0%となる(SDSを全く用いない)以外は上記実施例6と同様にして色素材を得た後、加熱前後での吸光度を測定したところ、この試料の色価残存率は67.1%であった。
また、L*a*b*色空間における加熱前後での色差△Eは15.1であった。
【0079】
アニオン界面活性剤を用いた実施例6の色素材水溶液は、それを用いない実施例7の色素材水溶液に比べて、フィコシアニンの水への分散安定性により優れており、エージング工程なしにもかかわらず、従来のエージングを行ったときと同等以上のより高い耐熱性水準を有しており、加熱等による熱履歴を経た後であっても、色価残存率もかなり高い上、熱履歴前後での色差もより小さく色調の変化も小さいことがわかる。アニオン界面活性剤を用いるに当たっては、実施例6の様に、適切な使用量(使用量範囲)を選択した場合に、上記した様な耐熱性において顕著な結果が得られる。
【0080】
また、実施例6における色素材水溶液は、上記実施例1で調製された様な、濃厚な色素材水溶液を経由してそれを希釈した色素材水溶液ではなく、最初から希薄な色素材水溶液であることから、いったん濃厚な色素材水溶液を調製した上で希釈して用いるといった手間は必要なかった。さらに、実施例6における色素材水溶液は、希薄な色素材水溶液であることに加えて、アニオン界面活性剤を加えることによりフィコシアニンの水への分散安定性が向上することから、濃厚な色素材水溶液で発生しうる水不溶物の発生が大幅に抑制されており、それを除去する工程に相当する遠心分離操作を行う必要がなく、色素材水溶液の生産性に優れていることがわかる。
【0081】
尚、尚、遠心分離前の色素材水溶液中に含まれる水不溶物の含有量は、実施例1~3の水溶液に比べて、実施例7の水溶液の方が、より少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の色素材水溶液は、フィコシアニン(A)1g当たり、ヒドロキシ基を1つ以上含む多価カルボン酸(B)をカルボン酸当量で20mmol~200mmolを含む色素材を含有し、620nmにおける吸光度で表される色価が2.5~5となる様に、前記(A)及び(B)両者を添加した際における、水素イオン濃度(pH)3以下での、800nmにおける光路長1cmあたりの光学密度が0.05以下であるので、酸性条件下において熱安定性に優れた色素材水溶液、その製造方法及び青色着色飲料を提供することができる。