(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】近赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20230411BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230411BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20230411BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20230411BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20230411BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230411BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G02B5/22
C09K3/00 105
C01G41/00 A
C08L33/04
C08K5/54
C08L83/04
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2019570722
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2019003656
(87)【国際公開番号】W WO2019155999
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018021100
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】中山 博貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094493(JP,A)
【文献】特開2016-155256(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107083101(CN,A)
【文献】特開2005-232334(JP,A)
【文献】特開2011-080003(JP,A)
【文献】特許第6269805(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0030802(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
C09K 3/00
C01G 41/00
C08L 33/04
C08K 5/54
C08L 83/04
C08K 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂中に、複合タングステン酸化物微粒子と、シラン化合物とが含まれ、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、アルカリ金属から選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.20≦x/y≦0.37、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、
前記シラン化合物が、官能基としてフェニル基を有し、
前記シラン化合物が、シリコーンレジンであり、
前記シリコーンレジンを構成するモノマー単位が、R-SiO
1.6
(但し、式中のRは、水素原子または有機基)と表記される、ことを特徴とする近赤外線吸収材料微粒子分散体。
【請求項2】
前記シリコーンレジンの重量平均分子量が、1500以上200000以下であることを特徴とする
請求項1に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体。
【請求項3】
前記複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が、1nm以上200nm以下であることを特徴とする
請求項1または2に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体。
【請求項4】
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする
請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を含むことを特徴とする
請求項1から4のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体。
【請求項6】
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする
請求項1から5のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体が、板状、フィルム状、薄膜状から選択されるいずれかに成型されたものであることを特徴とする近赤外線吸収体。
【請求項8】
請求項7に記載の近赤外線吸収体が、基材上に積層されたものであることを特徴とする近赤外線吸収物積層体。
【請求項9】
請求項7に記載の近赤外線吸収体が、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される、2枚以上の合わせ板間に存在していることを特徴とする近赤外線吸収用合わせ構造体。
【請求項10】
請求項8に記載の近赤外線吸収物積層体が、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される合わせ板と対向している、または、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される2枚以上の合わせ板間に存在していることを特徴とする近赤外線吸収用合わせ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明性を持ち近赤外線領域においては吸収性を持つ、近赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自由電子を含む材料は、太陽光線の領域周辺である波長200nmから2600nmの電磁波に対し、プラズマ振動による反射吸収応答を示すことが知られている。そして当該材料を構成する粉末の粒子を光の波長より小さい径を有する微粒子とすると、当該材料の可視光領域(波長380nmから780nm)における幾何学散乱が低減されて、可視光領域の透明性が得られることが知られている。
尚、本発明において「透明性」とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく、可視光の透過性が高いという意味で用いている。
【0003】
一方、出願人は特許文献1において、基板への成膜に際し大掛かりな製造設備を必要とせず、成膜後の高温熱処理も不要でありながら可視光線を透過し、近赤外線を効率よく遮蔽する、粒子径1nm以上800nmのタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子を固体媒体に分散した赤外線遮蔽材料微粒子分散体を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの更なる検討によると、特許文献1に記載の分散体では固体媒体中において近赤外線吸収材料微粒子が凝集し、透明性が低下してしまう場合があるという課題を知見した。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑み、従来の技術に係るタングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含む近赤外線微粒子分散体、近赤外線吸収体および近赤外線吸収用合わせ構造体よりも、優れた透明性を担保しながら高い近赤外線吸収性を発揮出来る、近赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体および近赤外線吸収用合わせ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行った。そして、アクリル樹脂は、ガラスと同等またはそれ以上に透明性に優れ、耐候性、耐薬品性、光学特性にも優れるという理由から、アクリル樹脂中における近赤外線吸収材料微粒子の凝集を抑制する観点から研究を行い、当該研究の結果、アクリル樹脂中に、複合タングステン酸化物微粒子と、シラン化合物とが、含まれている近赤外線吸収材料微粒子分散体、当該近赤外線吸収材料微粒子分散体を用いた近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体の構成に想到し、本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
アクリル樹脂中に、複合タングステン酸化物微粒子と、シラン化合物と、が含まれていることを特徴とする近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第2の発明は、
前記シラン化合物が、シランカップリング剤、アルコキシシラン化合物、シリコーンレジンから選択されるいずれか1種類以上であることを特徴とする第1の発明に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第3の発明は、
前記シラン化合物が、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、(メタ)アクリル基、ビニル基、フェニル基、イソシアネート基、イミダゾール基から選択される1種類以上の官能基を有することを特徴とする第2の発明に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第4の発明は、
前記シリコーンレジンを構成するモノマー単位が、R-SiO1.6(但し、式中のRは、水素原子または有機基)と表記されることを特徴とする第2の発明に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第5の発明は、
前記シリコーンレジンの重量平均分子量が、1500以上200000以下であることを特徴とする第2または第4の発明に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第6の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が、1nm以上200nm以下であることを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第7の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.20≦x/y≦0.37、2.2≦z/y≦3.0)で表記されることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第8の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第7の発明に記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第9の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を含むことを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第10の発明は、
前記近赤外線吸収材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする第1から第9の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体である。
第11の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収材料微粒子分散体が、板状、フィルム状、薄膜状から選択されるいずれかに成型されたものであることを特徴とする近赤外線吸収体である。
第12の発明は、
第11の発明に記載の近赤外線吸収体が、基材上に積層されたものであることを特徴とする近赤外線吸収物積層体である。
第13の発明は、
第11の発明に記載の近赤外線吸収体が、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される、2枚以上の合わせ板間に存在していることを特徴とする近赤外線吸収用合わせ構造体である。
第14の発明は、
第12の発明に記載の近赤外線吸収物積層体が、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される合わせ板と対向している、または、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される2枚以上の合わせ板間に存在していることを特徴とする近赤外線吸収用合わせ構造体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は、従来の技術に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体と比較して、透明性を担保しながら近赤外線吸収性を発揮出来、優れた光学特性を有する近赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】近赤外線吸収材料微粒子分散体における可視光透過率と日射透過率とのグラフである。
【
図2】近赤外線吸収材料微粒子分散体における可視光透過率とヘイズ値とのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は、アクリル樹脂中に、複合タングステン酸化物微粒子と、シラン化合物とを、含んでいるものである。
【0012】
上述の構成を有する本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は、所定条件に係る機械的な粉砕を施された複合タングステン酸化物微粒子が、シラン化合物を含むアクリル樹脂中において分散状態を維持しているものである。当該構成を有する本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は、樹脂材料等といった耐熱温度の低い基材材料上へ、フィルム状、薄膜状等の形状を有する近赤外線吸収体を設け、近赤外線吸収物積層体を得る等の応用が可能である。さらに、近赤外線吸収体や近赤外線吸収物積層体の製造や形成の際に大型の装置を必要としないので、製造装置が安価であるという利点がある。
【0013】
一方、本発明に係る近赤外線吸収材料は導電性材料であるが、微粒子としてアクリル樹脂のマトリックス中に分散しているので、粒子一個一個が孤立した状態で分散している。この為、本発明に係る近赤外線吸収材料は電波透過性を発揮し、各種の窓材等として汎用性を有する。
【0014】
また、本発明に係る近赤外線吸収体は、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体が、板状、フィルム状、薄膜状から選択されるいずれかの形状に形成されたものである。
また、本発明に係る近赤外線吸収物積層体は、近赤外線材料微粒子吸収体が基材上に積層されているものである。
そして、本発明に係る近赤外線吸収用合わせ構造体は、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体が近赤外線吸収体の形状をとって、板ガラス、プラスチック板、日射吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される2枚以上の合わせ板間に存在しているもの、および、近赤外線吸収物積層体と板ガラス、プラスチック板、日射吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される合わせ板を組み合わせたものである。
【0015】
以下、本発明について、1.アクリル樹脂、2.シラン化合物、3.複合タングステン酸化物微粒子、4.複合タングステン酸化物微粒子の製造方法、5.近赤外線吸収材料微粒子分散液とその製造方法、6.近赤外線吸収材料微粒子分散体とその製造方法、7.近赤外線吸収体とその製造方法、8近赤外線吸収物積層体とその製造方法、9.近赤外線吸収用合わせ構造体とその製造方法、10.まとめ、の順で詳細に説明する。
【0016】
1.アクリル樹脂
本発明に係る固体媒体であるアクリル樹脂としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートを主原料とし、必要に応じて、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリルにニトリル、メタクリロニトリルなどを共重合成分として用いた重合体または共重合体が挙げられる。さらに、多段で重合したアクリル樹脂を用いることもできる。
【0017】
2.シラン化合物
本発明に係るシラン化合物は、後述する近赤外線吸収材料微粒子とアクリル樹脂とを混合する際、同時に混合され溶融混練されることで、当該近赤外線吸収材料微粒子の解凝を促進し、さらに、当該近赤外線吸収材料微粒子のアクリル樹脂中における分散状態を担保する効果を発揮するものである。
【0018】
具体的には、後述する近赤外線吸収材料微粒子と、シラン化合物と、上述した固体媒体としてのアクリル樹脂とを均一に混合した後、溶融混練して近赤外線吸収材料微粒子分散体を得、得られた近赤外線吸収材料微粒子分散体を成型して近赤外線吸収体を得るものである。
【0019】
シラン化合物の添加量は、近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し、1質量部以上200質量部以下とすることが好ましい。
これはシラン化合物の添加量を、近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し、1質量部以上とすれば当該シラン化合物の添加効果を得る観点から好ましく、200質量部以下とすれば当該シラン化合物をアクリル樹脂中へ容易に溶融混練する観点から好ましいからである。
【0020】
シラン化合物としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、(メタ)アクリル基、ビニル基、フェニル基、イソシアネート基、イミダゾール基から選択される1種類以上の官能基を有するものが好ましい。
また、シラン化合物としては、シリコーンレジン、シランカップリング剤、アルコキシシラン化合物、から選択される1種類以上であることが好ましい。
以下、本発明に好ましく用いられるシラン化合物について、(1)シリコーンレジン、(2)シランカップリング剤、(3)アルコキシシラン化合物、の順に説明する。
【0021】
(1)シリコーンレジン
本発明に用いるシリコーンレジンは、当該シリコーンレジンを構成するモノマー単位が、一般式:R-SiO1.6(但し、式中Rは水素原子または有機基である)と、表記されるものであることが好ましい。尚、有機基とは、一般式:-CnHmと表記される炭化水素基のことである。
また、当該シリコーンレジンの重量平均分子量は、1500以上200000以下であることが好ましい。当該シリコーンレジンの重量平均分子量が1500以上あることにより、近赤外線吸収材料微粒子を十分に分散することが出来る。一方、重量平均分子量が200000以下あることによりアクリル樹脂中へ容易に含有させることが出来る。
【0022】
本発明に用いるシリコーンレジンは市販品であれば、KR-480(信越シリコーン製)、Z-6018、220FLAK、FCA-107、233FLAKE、249FLAKE、SH6018FLAKE、255FLAKE、217FLAKE(以上、東レダウコーニング製)、SILRES603、SILRES604、SILRES605、SILRES H44、SILRES SY300、SILRES REN100、SILRES SY430、SILRES IC836(以上、旭化成ワッカーシリコーン社製)、TSR160(モメンティブ社製)等、が好ましく挙げられる。
【0023】
(2)シランカップリング剤
本発明に用いるシランカップリング剤は市販品であれば、KBM-30、KBM-402、KBM-403、KBE-402、KBE-403、KBM-1043、KBM-502、KBM-503、KBE-502、KBE-503、KBM-5103、KBM-602、KBM-603、KBM-903、KBE-903、KBE-9103P、KBM-573、KBM-575(以上、信越シリコーン製)等、が好ましく挙げられる。
【0024】
(3)アルコキシシラン化合物
本発明に用いるアルコキシシラン化合物は、アルコキシシラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリ-n-ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、sec-ブチルトリイソプロポキシシラン、tert-ブチルトリメトキシシラン、tert-ブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、テキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリ(2-メトキシメチル)シラン、エチニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピトリ(3,3,3-トリフルオロエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-シアノエチルトリメトキシシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジ-n-ブトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチル-tert-ブチルジメトキシシラン、メチル-tert-ブチルジエトキシシラン、メチル-n-ヘキシルジメトキシシラン、メチルテキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、2-シアノエチルメチルジメトキシシラン、メチル-イソプロポキシジメトキシシラン、メチル-tert-ブトキシジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジ-tert-ブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルシクロヘキシルオキシシラン、トリメチルフェノキシシラン、イソプロピルジメチルエトキシシラン、tert-ブチルジメチルメトキシシラン、tert-ブチルジメチルエトキシシラン、tert-ブチルジメチルシクロヘキシルオキシシラン、tert-ブチルジメチルフェノキシシラン、ジメチルテキシルメトキシシラン、ジメチルテキシルエトキシシラン、ジメチルテキシルシクロヘキシルオキシシラン、ジメチルテキシルフェノキシシラン、シクロヘキシルジメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルシクロヘキシルオキシシラン、トリエチルフェノキシシラン、トリイソプロピルメトキシシラン、トリシクロヘキシルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン等、が挙げられる。
【0025】
本発明に用いるアルコキシシラン化合物は市販品であれば、KBM-13、KBM-22、KBM-103、KBE-13、KBE-22、KBE-103、KBM-3033、KBE-3033、KBM-3063、KBE-3063、KBE-3083、KBM-3103C、KBM-3066、KBM-7103(以上、信越シリコーン製)、Z-2306、Z-6210、Z-6265、Z-6341、Z-6366、Z-6383、Z-6582、Z-6583、Z-6586、Z-6125(以上、東レダウコーニング製)等、が好ましく挙げられる。
【0026】
3.複合タングステン酸化物微粒子
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体に用いられる、複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.20≦x/y≦0.37、2.2≦z/y≦3.0)で表記されることを特徴とする。
一般に、三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線吸収材料としては有効ではない。ここで、三酸化タングステンのタングステンに対する酸素の比率を3より低減することによって、当該タングステン酸化物中に自由電子が生成されることが知られている。
【0027】
さらに、当該タングステン酸化物へ、M元素を添加したものが、上記複合タングステン酸化物である。
当該構成を採ることで、複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効なものとなる。本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は赤外線吸収材料微粒子として、上記複合タングステン酸化物を含有しており、当該複合タングステン酸化物が近赤外線を吸収し、これを熱に変換することにより、近赤外線吸収性を備えている。
尚、当該観点より、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子は六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を含むことが好ましい。
【0028】
当該複合タングステン酸化物に対し、上述した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用することで、より効率の良い近赤外線吸収材料を得ることが出来る。具体的には、当該酸素量の制御と自由電子を生成するM元素の添加とを併用した近赤外線吸収材料の一般式を、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.001≦x/y≦1、好ましくは0.20≦x/y≦0.37の関係を満たす複合タングステン酸化物である。
【0029】
ここで、M元素を添加された前記複合タングステン酸化物における、安定性の観点から、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。
【0030】
さらに、M元素を添加された当該MxWyOzにおける安定性の観点から、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。
【0031】
加えて、近赤外線吸収材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点も考えると、前記M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものであることが、さらに好ましい。
【0032】
次に、当該MxWyOzにおいて酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。MxWyOzで表記される赤外線吸収材料においても、z/yの値により、上述したWyOzで表記される近赤外線吸収材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述したM元素の添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましい。
【0033】
ここでM元素としては、CsとRbとが最も好ましい。尤も、M元素が上記CsやRbに限定される訳ではない。M元素がCsやRb以外の元素であっても、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加M元素として存在すれば良い。
【0034】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、0.001≦x/y≦1、好ましくは0.2≦x/y≦0.5、さらに好ましくは0.20≦x/y≦0.37、最も好ましくはx/y=0.33である。これは、理論上z/y=3のとき、x/y=0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられた為である。
【0035】
ここで、本発明者らは、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収機能をより向上させることを考えて検討を重ね、含有される自由電子の量をより増加させる構成に想到した。
即ち、当該自由電子量を増加させる方策として、当該複合タングステン酸化物微粒子へ機械的な処理を加え、含まれる六方晶へ適宜な歪や変形を付与することに想到したものである。当該適宜な歪や変形を付与された六方晶においては、結晶子構造を構成する原子における電子軌道の重なり状態が変化し、自由電子の量が増加するものと考えられる。
【0036】
そこで、焼成工程により生成した複合タングステン酸化物の微粒子から近赤外線吸収材料微粒子分散液を製造する際の分散工程において、複合タングステン酸化物の微粒子を所定条件下にて粉砕することにより結晶構造へ歪や変形を付与し、自由電子量を増加させて、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収機能をさらに向上させることを研究した。
【0037】
そして、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子は、その粒子径が1nm以上200nm以下であることが好ましいが、100nm以下のものであることがさらに好ましいことを知見した。そして、より優れた近赤外線吸収特性を発揮させる観点から、当該粒子径は10nm以上100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下、最も好ましくは10nm以上40nm以下である。粒子径が10nm以上40nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮されることを知見した。
ここで、粒子径とは凝集していない個々の近赤外線吸収材料微粒子がもつ径、すなわち一次粒子径の平均値であり、後述する近赤外線吸収材料微粒子分散体に含まれる近赤外線吸収材料微粒子の平均粒子径であり、複合タングステン酸化物微粒子の凝集体の径を含むものではなく、分散粒子径とは異なるものである。
【0038】
尚、平均粒子径は近赤外線吸収材料微粒子の電子顕微鏡像から算出される。
当該赤外線吸収材料微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径は、断面加工で取り出した複合タングステン酸化物微粒子の薄片化試料の透過型電子顕微鏡像から、複合タングステン酸化物微粒子100個の1次粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで求めることが出来る。当該薄片化試料を取り出すための断面加工には、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャ、集束イオンビーム(FIB)装置等を用いることが出来る。
【0039】
さらに、複合タングステン酸化物微粒子は単結晶であることが好ましいことが知見された。
複合タングステン酸化物微粒子が単結晶であることは、透過型電子顕微鏡等による電子顕微鏡像において、各微粒子内部に結晶粒界が観察されず、一様な格子縞のみが観察されることから確認することが出来る。また、複合タングステン酸化物微粒子においてアモルファス相の体積比率が50%以下であることは、同じく透過型電子顕微鏡像において、微粒子全体に一様な格子縞が観察され、格子縞が不明瞭な箇所が殆ど観察されないことから確認することが出来る。したがって、複合タングステン酸化物微粒子において、アモルファス相の体積比率は、微粒子中の一様な格子縞が観察される領域と格子縞が不明瞭な領域との比率を観察することにより、確認することができる。
【0040】
さらに、アモルファス相は各微粒子外周部に存在する場合が多いので、各微粒子外周部に着目することで、アモルファス相の体積比率を算出可能な場合が多い。例えば、真球状の複合タングステン酸化物微粒子において、格子縞が不明瞭なアモルファス相が当該微粒子外周部に層状に存在する場合、その粒子径の10%以下の厚さであれば、当該複合タングステン酸化物微粒子におけるアモルファス相の体積比率は、50%以下である。
【0041】
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線吸収材料微粒子分散体は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0042】
さらに、「6.近赤外線吸収材料微粒子分散体とその製造方法」にて後述する近赤外線吸収材料微粒子分散体における光散乱は、近赤外線吸収材料微粒子の凝集を考慮する必要があり、分散粒子径で検討する必要がある。そして当該近赤外線吸収材料微粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することが出来る。
尚、上述した近赤外線吸収材料微粒子の分散粒子径とは、複合タングステン酸化物微粒子の凝集体の径を含む概念であり、上述した本発明に係る近赤外線吸収材料の粒子径とは異なる概念である。
まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、800nm以下の分散粒子径を有していることがさらに好ましい。これは、分散粒子径が800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することが出来るからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0043】
この粒子による散乱の低減を重視するとき、分散粒子径は好ましくは200nm以下、より好ましくは10nm以上200nm以下が良く、さらに好ましくは10nm以上100nm以下である。当該理由は、分散粒子径が小さければ、幾何学散乱若しくはミー散乱による、赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避出来るからである。すなわち、分散粒子径が200nm以下になると、上述した幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6条に比例するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が10nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0044】
上述した分散粒子径を800nm以下とすることにより、近赤外線吸収材料微粒子を媒体中に分散させた近赤外線吸収材料微粒子分散体のヘイズ値を、可視光透過率85%以下において10%以下にすることが出来る。特に、分散粒子径を100nm以下とすることにより、ヘイズを1%以下とすることが出来る。
【0045】
本発明に係る近赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、800nm以下であることが好ましい。これは、近赤外線吸収微粒子である複合タングステン酸化物の近赤外線吸収が「局在表面プラズモン共鳴」と呼ばれるナノ粒子特有の光吸収、散乱に基づいていることによる。
即ち、複合タングステン酸化物の分散粒子径が800nm以下のときに局在表面プラズモン共鳴が生じ、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体に照射される近赤外線を、近赤外線吸収微粒子が効率的に吸収し、熱エネルギーに変換しやすくなる。
分散粒子径が200nm以下であれば、局在表面プラズモン共鳴がさらに強くなり照射される近赤外線をより強力に吸収するため、より好ましい。
また、本発明に係る近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が200nm以下であれば、近赤外線吸収特性と透明性を保持することができる。
【0046】
さらに、当該微粒子を、適宜な固体媒体中または固体媒体表面に分散させて製造した近赤外線吸収体は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び科学気相法(CVD法)などの真空成膜法等の乾式法で作製した膜やCVD法やスプレー法で作製した膜と比較して、光の緩衝効果を用いずとも、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率よく吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることを知見したものである。
【0047】
4.複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
本発明に係る前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン酸化物微粒子の出発原料であるタングステン化合物と前記M元素を含有する単体または化合物とを、0.20≦x/y≦0.37の割合で混合した混合体を、還元性ガス雰囲気、もしくは、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中、または、不活性ガス雰囲気中で熱処理する固相反応法で製造することが出来る。当該熱処理を経て、所定の粒子径となるように粉砕処理等で微粒子化されて得られた複合タングステン酸化物微粒子は、十分な近赤外線吸収力を有し、近赤外線吸収材料微粒子として好ましい性質を有している。
【0048】
本発明に係る前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物には、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは、六塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上の粉末と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末とを、0.20≦x/y≦0.37の割合で混合した粉末を用いることが出来る。
【0049】
さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物が、溶液または分散液であると、各元素は容易に均一混合可能となる。
当該観点より、複合タングステン酸化物微粒子の出発原料が、六塩化タングステンのアルコール溶液またはタングステン酸アンモニウム水溶液と、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることがさらに好ましい。
同様の観点より、複合タングステン酸化物微粒子の出発原料が、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させた分散液と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末、または、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後、乾燥した粉末であることも好ましい。
【0050】
前記M元素を含有する化合物としては、M元素のタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであればよい。さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子を工業的に製造する場合に、タングステン酸化物の水和物粉末や三酸化タングステンと、M元素の炭酸塩や水酸化物とを用いると、熱処理等の段階で有害なガス等が発生することが無く、好ましい製造法である。
【0051】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物と、前記M元素を含有する化合物との混合体を用い、複合タングステン酸化物を得る熱処理条件について説明する。
まず出発原料である上記混合体を、還元性ガス雰囲気中、または、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中、または、不活性ガス雰囲気中にて熱処理する。
【0052】
熱処理条件は、還元性雰囲気中の熱処理条件として、まず、タングステン化合物出発原料とM元素を含有する単体または化合物とを混合した粉末、または、上記タングステン化合物出発原料の溶液または分散液と上記M元素を含有する化合物の溶液または分散液とを混合したのち乾燥して得られた粉末を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理することが好ましい。熱処理温度が100℃以上であれば還元反応が十分に進行し好ましい。また、850℃以下であれば還元が進行し過ぎることがなく好ましい。還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合には、還元雰囲気の組成としてのH2は、体積比で0.1%以上あることが好ましく、さらに好ましくは体積比で2%以上が良い。H2が体積比で0.1%以上であれば、効率よく還元を進めることができる。
【0053】
次いで、必要に応じて、結晶性の向上や、吸着した還元性ガスの除去のために、ここで得られた粒子を、さらに不活性ガス雰囲気中で550℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては550℃以上が好ましい。550℃以上で熱処理された複合タングステン化合物出発原料は十分な導電性を示す。また、不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。結晶性の良好な複合タングステン酸化物の作製には、以下の熱処理条件が提案できる。但し、出発原料や、目的とする化合物の種類により熱処理条件は異なるので、下記の方法に限定されない。
【0054】
結晶性の良好な複合タングステン酸化物を製造する場合には、熱処理温度は高い方が好ましく、還元温度は出発原料や還元時のH2温度によって異なるが、600℃~850℃が好ましい。さらに、その後の不活性雰囲気での熱処理温度は、700℃~1200℃が好ましい。
【0055】
これらの焼成の処理時間は温度に応じて適宜選択すればよいが、5分間以上5時間以下でよい。このようにして得られた複合タングステン酸化物粒子を、適宜な溶媒とともに、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどから選ばれる器材に投入して湿式粉砕して当該複合タングステン酸化物粒子をより微粒子化することができる。
当該熱処理により、複合タングステン酸化物において2.2≦z/y≦3.0とする。
【0056】
一方、複合タングステン酸化物の製造方法は、固相反応法に限定されない。適宜な製造条件を設定することにより、熱プラズマ法でも製造することが出来る。当該適宜に設定すべき製造条件として、例えば、熱プラズマ中に原料供給する際の供給速度、原料供給に用いるキャリアガスの流量、プラズマ領域を保持するプラズマガスの流量、および、プラズマ領域のすぐ外側を流すシースガスの流量等、が挙げられる。
以上説明した、複合タングステン酸化物や複合タングステン酸化物粒子を得る熱処理工程を、本発明に係る第1の工程と記載する場合がある。
【0057】
上記熱処理工程で得られた複合タングステン酸化物のバルク体や粒子の微粒子化は、「5.近赤外線吸収材料微粒子分散液とその製造方法」にて後述する近赤外線吸収材料微粒子分散液を経ることが好ましい。当該複合タングステン酸化物粒子を適宜な溶媒と混合し、近赤外線吸収材料微粒子の分散液を得る過程で、当該混合物を湿式粉砕して近赤外線吸収材料の微粒子化を進めながら、近赤外線吸収材料微粒子分散液を得る。当該近赤外線吸収材料微粒子分散液から近赤外線吸収材料微粒子を得るには、公知の方法で溶媒を除去すればよい。
【0058】
また、複合タングステン酸化物のバルク体や粒子の微粒子化は、ジェットミルなどを用いる乾式の微粒子化も可能である。ただし、乾式の微粒子化であっても、得られる複合タングステン酸化物の粒子へ所定の粒子径を付与出来る粉砕条件(微粒子化条件)を定めることはもちろんである。例えば、ジェットミルを用いるならば、適切な粉砕条件となる風量や処理時間となるジェットミルを選択すればよい。
以上説明した、複合タングステン酸化物や複合タングステン酸化物粒子を微粒子化して、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子を得る工程を、本発明に係る第2の工程と記載する場合がある。
【0059】
上述の第2の工程にて得られた複合タングステン酸化物微粒子である近赤外線吸収材料微粒子の表面をSi、Ti、Zr、Alから選択される一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆することは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該近赤外線吸収材料微粒子を分散した溶液中へ、上述した金属のアルコキシドを添加することで、近赤外線吸収材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0060】
5.近赤外線吸収材料微粒子分散液とその製造方法
上述したように、第1の工程にて得られた複合タングステン酸化物微粒子を、適宜な溶媒中に混合・分散したものが、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散液である。当該溶媒は特に限定されるものではなく、塗布・練り込み条件、塗布・練り込み環境、さらに、無機バインダーや樹脂バインダーを含有させたいときは、当該バインダーに合わせて適宜選択すればよい。例えば、水、エタノ-ル、プロパノ-ル、ブタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、イソブチルアルコ-ル、ジアセトンアルコ-ルなどのアルコ-ル類、メチルエ-テル、エチルエ-テル、プロピルエ-テルなどのエ-テル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類といった各種の有機溶媒が使用可能である。
【0061】
また所望により、当該分散液へ酸やアルカリを添加してpH調整をしてもよい。
さらに、当該溶媒には、樹脂のモノマーやオリゴマーを用いてもよい。
一方、分散液中における上記複合タングステン酸化物微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加も勿論可能である。
当該分散剤、界面活性剤、カップリング剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、表面処理赤外線吸収材料微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤は、さらに好ましい。
【0062】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)3000、9000、11200、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、76500等;
ビックケミー・ジャパン(株)製Disperbyk(登録商標)-101、103、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、2000、2001、2020、2025、2050、2070、2095、2150、2155、Anti-Terra(登録商標)-U、203、204、BYK(登録商標)-P104、P104S、220S、6919等;
エフカアディティブズ社製 EFKA(登録商標)-4008、4046、4047、4015、4020、4050、4055、4060、4080、4300、4330、4400、4401、4402、4403、4500、4510、4530、4550、4560、4585、4800、5220、6230、BASFジャパン(株)社製JONCRYL(登録商標)-67、678、586、611、680、682、690、819、JDX5050等;
大塚化学株式会社製のTERPLUS(登録商標)MD1000、D1180、D1330等;
三菱ケミカル社製のダイヤナール(登録商標)BR-87、116等;
東亞合成(株)製アルフォン(登録商標)UC-3000、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070等;
味の素ファインテクノ(株)製アジスパー(登録商標)PB-711、PB-821、PB-822、等を使用することが出来る。
また、市販の液状や顆粒状のアクリル樹脂やメタクリル樹脂を用いることも有益である。
【0063】
尚、当該近赤外線吸収材料微粒子分散液において、近赤外線吸収材料微粒子100重量部に対し溶媒を80重量部以上含めば、分散液としての保存性を担保し易く、その後の近赤外線吸収材料微粒子分散体を作製する際の作業性も確保出来る。
【0064】
複合タングステン酸化物微粒子の溶媒への分散方法は、微粒子を分散液中へ均一に分散する方法であって、当該複合タングステン酸化物微粒子の粒子径が800nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは10nm以上100nm以下に調製で出来るものであれば、特に限定されない。例えば、ビ-ズミル、ボ-ルミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザ-などが挙げられる。
【0065】
これらの器材を用いた機械的な分散処理工程によって、複合タングステン酸化物微粒子の溶媒中への分散と同時に複合タングステン酸化物粒子同士の衝突などにより微粒子化が進むとともに、当該複合タングステン酸化物粒子に含まれる六方晶の結晶構造へ歪や変形を付与し、当該結晶子構造を構成する原子における電子軌道の重なり状態が変化して、自由電子量の増加が進行する。
【0066】
尚、当該複合タングステン酸化物粒子の微粒子化の進行速度は、粉砕装置の装置定数により異なる。従って、予め、試験的な粉砕を実施して、複合タングステン酸化物微粒子に所定の粒子径を付与出来る粉砕装置、粉砕条件を求めておくことが肝要である。
【0067】
尚、近赤外線吸収材料微粒子分散液を経て近赤外線吸収材料微粒子の微粒子化を行い、その後、溶媒を除去して近赤外線吸収材料微粒子の分散粉を得る場合であっても、所定の粒子径を付与出来る、粉砕条件(微粒子化条件)を定めることは勿論である。当該分散粉は近赤外線吸収微粒子分散液の乾燥固化物の一種であり、上述した分散剤を含んでいる為、適宜な溶媒と混合することで、当該溶媒中に再分散させることが出来る。
【0068】
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散液の状態は、複合タングステン酸化物微粒子を溶媒中に分散した時の複合タングステン酸化物微粒子の分散状態を測定することで確認することが出来る。例えば、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子が、溶媒中において微粒子および微粒子の凝集状態として存在する液から試料をサンプリングし、市販されている種々の粒度分布計で測定することで確認することが出来る。粒度分布計としては、例えば、動的光散乱法を原理とした大塚電子(株)社製ELS-8000等の公知の測定装置を用いることが出来る。
【0069】
また、複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造は、近赤外線吸収材料微粒子分散液の溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子について、X線回折測定を行うことにより当該微粒子に含まれる結晶構造を特定することができる。
優れた近赤外線吸収特性を発揮させる観点から、近赤外線吸収微粒子の結晶子径は1nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上70nm以下である。結晶子径の測定は、粉末X線回折法(θ―2θ法)によるX線回折パターンの測定と、リートベルト法による解析とを用いる。X線回折パターンの測定には、例えばスペクトリス株式会社PANalytical製の粉末X線回折装置「X’Pert-PRO/MPD」等を用いて行うことができる。
【0070】
複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、光学特性の観点から好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下まで、十分細かいことが好ましい。さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子は均一に分散していることが好ましい。
複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が好ましくは200nm以下、より好ましくは10nm以上200nm以下、さらに好ましくは10nm以上100nm以下であれば、製造される近赤外線吸収体が、単調に透過率の減少した灰色系のものになってしまうのを回避出来るからである。
【0071】
尚、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体の分散粒子径とは、近赤外線吸収材料微粒子分散体または近赤外線吸収体中に分散した、複合タングステン酸化物微粒子の単体粒子および当該複合タングステン酸化物微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を意味する概念である。
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体における、近赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、近赤外線吸収材料微粒子分散体から断面加工で取り出した薄片化試料の透過型電子顕微鏡像より、複合タングステン酸化物微粒子100個の粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで求めることが出来る。
当該薄片化試料を取り出すための断面加工には、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャ、集束イオンビーム(FIB)装置等を用いることが出来る。尚、近赤外線吸収材料微粒子分散体または近赤外線吸収体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径とは、マトリックスである固体媒体中で分散している、近赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径の平均値である。
【0072】
一方、近赤外線吸収材料微粒子分散液において、複合タングステン酸化物微粒子が凝集して粗大な凝集体となり、当該粗大化した粒子が多数存在すると、当該粗大粒子が光散乱源となる。この結果、当該近赤外線吸収材料微粒子分散液が、近赤外線吸収膜や近赤外線吸収体となったときに曇り(ヘイズ)が大きくなり、可視光透過率が減少する原因となることがある。従って、複合タングステン酸化物微粒子の粗大粒子生成を回避することが好ましい。
【0073】
得られた近赤外線吸収材料微粒子分散液から近赤外線吸収材料微粒子を得るには、公知の方法で溶媒を除去すればよいが、近赤外線吸収材料微粒子分散液を減圧乾燥することが好ましい。具体的には、近赤外線吸収材料微粒子分散液を撹拌しながら減圧乾燥し、溶媒成分を分離すればよい。乾燥工程の減圧の際の圧力値は適宜選択される。
【0074】
当該減圧乾燥法を用いることで、近赤外線吸収材料微粒子分散液からの溶媒の除去効率が向上するとともに、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散粉が長時間高温に曝されることがないので、当該分散粉中に分散している近赤外線吸収材料微粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに近赤外線吸収材料微粒子の生産性も上がり、蒸発した溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
乾燥工程に用いる設備としては、加熱および減圧が可能で、当該分散粉の混合や回収がし易いという観点から、真空流動乾燥機、真空加熱撹拌ライカイ機、振動流動乾燥機、ドラム乾燥機等が好ましいが、これらに限定されない。
【0075】
6.近赤外線吸収材料微粒子分散体とその製造方法
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は、上記近赤外線吸収材料微粒子と、上述したシラン化合物と、アクリル樹脂とを含む。
そして、近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し、固体媒体としてのアクリル樹脂を80質量部以上含めば、近赤外線吸収材料微粒子分散体を好ましく形成できる。
当該近赤外線吸収材料微粒子を固体媒体としてのアクリル樹脂に混合して、溶融混練する際には、「2.シラン化合物」にて説明したシラン化合物を添加する。
尚、シラン化合物の添加量は、近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し、1質量部以上200質量部以下とすることが好ましい。
そして、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体は、シラン化合物を含有させた固体媒体へ、近赤外線吸収材料微粒子を溶融混練させたものである。
【0076】
さらに、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体において、添加すべき固体媒体の全量ではなく一部の適宜量加えることで、マスターバッチの形である本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体を製造することも好ましい構成である。
【0077】
マスターバッチの形である本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体を製造する場合、シラン化合物を含有させた固体媒体と近赤外線吸収材料微粒子との混合物をベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することにより、本発明に係るマスターバッチの形の赤外線吸収材料微粒子分散体を得ることができる。
マスターバッチのペレットは、最も一般的な溶融押出されたストランドをカットする方法により得ることができる。従って、その形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。かかる場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
【0078】
このように本発明に係るマスターバッチは、いずれの形態または形状を採り得るものである。尤も、後述する近赤外線吸収体を成形するときに、当該マスターバッチのペレットは、希釈に使用される固体媒体のペレットと同一の形態および形状を有していることが好ましい。
【0079】
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体中において、複合タングステン酸化物微粒子は分散状態を維持しているので、当該近赤外線吸収材料微粒子分散体は、樹脂材料等の耐熱温度の低い基材材料への適用が可能であり、近赤外線吸収体形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点がある。
【0080】
尚、近赤外線吸収材料微粒子分散体の固体媒体のマトリックス中に分散した複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径と、当該近赤外線吸収材料微粒子分散体を形成するのに用いた近赤外線吸収材料微粒子分散液中や近赤外線吸収体形成用分散液中に分散した、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径とが異なる場合がある。これは、近赤外線吸収材料微粒子分散液や近赤外線吸収体形成用分散液から、近赤外線吸収材料微粒子分散体を得る際に、当該分散液中で凝集していた複合タングステン酸化物微粒子の凝集が解される為である。
【0081】
7.近赤外線吸収体とその製造方法
本発明に係る近赤外線吸収体は、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体を、公知の方法により板状、フィルム状、薄膜状から選択されるいずれかの形状に成型したものである。一方、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体がマスターバッチの形の場合は、公知の方法で所定量の固体媒体であるアクリル樹脂媒体と混合し、公知の方法により板状、フィルム状、薄膜状から選択されるいずれかの形状に成型したものである。
【0082】
本発明に係る近赤外線吸収体は、従来の技術に係る近赤外線吸収体と比較して、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率よく吸収し、同時に可視光領域の高透過率を保持する優れた光学特性を発揮する。そして、吸収された近赤外線は熱に変換される。
本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体を用いることで、近赤外線吸収性に優れた近赤外線吸収体を得ることができる。
【0083】
ここで、本発明において近赤外線吸収性とは、近赤外線領域にある波長780nm~1200nmの光をよく吸収することを意味する概念である。
太陽光線は様々な波長から構成されているが、大きく紫外線、可視光線、赤外線に分類することが出来、中でも赤外線が約46%を占めていることが知られている。そして本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収する。
従って、近赤外線吸収性は太陽光線の透過率、すなわち日射透過率で評価することが出来る。日射透過率が低い場合には、近赤外領域の光をよく吸収していることから、近赤外線吸収性が優れていると判断出来る。
【0084】
この結果、例えば本発明の近赤外線吸収体をフィルム状にし、窓に貼った場合、室内の明るさを保持したまま、日射熱の室内への侵入を抑制することができる。
【0085】
以上、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体がマスターバッチである場合、公知の方法で所定量の固体媒体であるアクリル樹脂媒体と混合し、公知の方法により板状、フィルム状、薄膜状から選択されるいずれかの形状に成型する方法について説明したが、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子を、マスターバッチを経ずに基材である固体媒体中に分散させることも可能である。
【0086】
近赤外線吸収材料微粒子を固体媒体中に分散させるには、当該近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し1質量部以上200質量部以下のシラン化合物と共に固体媒体表面から浸透させても良いが、固体媒体であるアクリル樹脂媒体を、その溶融温度以上に温度を上げて溶融させた後、近赤外線吸収材料微粒子と、当該近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し1質量部以上200質量部以下のシラン化合物と、アクリル樹脂媒体とを混合することも好ましい。このようにして得られたものを所定の方法でフィルムや板(ボード)状に形成し、近赤外線吸収体を得ることが出来る。
さらに、アクリル樹脂媒体に近赤外線吸収材料微粒子を分散する方法として、まずアクリル樹脂と、近赤外線吸収材料微粒子分散液と、当該近赤外線吸収材料微粒子100質量部に対し1質量部以上200質量部以下のシラン化合物とを混合して混合物を得る。得られた混合物から分散溶媒を蒸発させた後、アクリル樹脂の溶融温度である260℃程度に加熱して、アクリル樹脂を溶融させ混合し冷却することでも近赤外線吸収体の作製が可能である。
【0087】
8.近赤外線吸収物積層体とその製造方法
本発明に係る近赤外線吸収物積層体は、近赤外線吸収体が、所定の基材の表面に形成されたものである。
【0088】
本発明に係る近赤外線吸収物積層体は、所定の基材の表面に近赤外線吸収体を形成することで製造することが出来る。
当該近赤外線吸収物積層体の基材としては、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0089】
9.近赤外線吸収用合わせ構造体およびその製造方法
本発明に係る近赤外線吸収用合わせ構造体の一つは、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体を用いて成形された近赤外線吸収体が、板ガラス、プラスチック板、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される2枚以上の合わせ板間に存在しているものである。
また、本発明に係る近赤外線吸収用合わせ構造体の一つは、本発明に係る近赤外線吸収物積層体が、板ガラス、プラスチック板、日射吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される合わせ板と対向したもの、または、板ガラス、プラスチック板、日射吸収機能を有する微粒子を含むプラスチック板から選択される2枚以上の合わせ板間に存在しているものである。
【0090】
本発明に係る近赤外線吸収体を用いた近赤外線吸収合わせ透明基材には、様々な形態がある。
例えば、透明基材として無機ガラスを用いた近赤外線吸収合わせ無機ガラスは、近赤外線吸収体を挟み込んで存在させた対向する複数枚の無機ガラスを、公知の方法で張り合わせ一体化することによって得られる。得られた近赤外線吸収合わせ無機ガラスは、例えば、カーポート、スタジアム、ショッピングモール、空港などの屋根材、窓材等の建材として使用することが出来る。また、自動車の窓(ルーフ、クオーターウィンドウ)、自動車のフロントガラス等としても使用出来る。
【0091】
上述した本発明に係る近赤外線吸収体や近赤外線吸収物積層体を、2枚以上の対向する透明基材の間に挟み込んだり、本発明に係る近赤外線吸収物積層体を透明基材と対向させることで、本発明に係る近赤外線吸収用合わせ構造体を製造することが出来る。
透明基材として透明樹脂を用い、上述した無機ガラスを用いた場合と同様に、板ガラス、プラスチック、近赤外線吸収機能を有する微粒子を含むプラスチックから選ばれる2枚以上の、対向する透明基材の間に近赤外線吸収膜を挟み込んだり、本発明に係る近赤外線吸収物積層体を透明基材と対向させることで、近赤外線吸収合わせ透明基材を得ることが出来る。用途は、近赤外線吸収合わせ無機ガラスと同様である。
また、用途によっては、近赤外線吸収膜単体として使用することも可能である。さらに、無機ガラスや透明樹脂等の透明基材の片面または両面に、当該近赤外線吸収膜を存在させて近赤外線吸収物積層体として使用することも、勿論可能である。
【0092】
10.まとめ
本発明に係る赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体は、従来の技術に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体、近赤外線吸収体および近赤外線吸収用合わせ構造体と比較して、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率よく吸収し、同時に可視光領域の高透過率を保持する等、優れた光学特性を発揮した。
【0093】
そして、近赤外線吸収材料微粒子がアクリル樹脂中に分散している本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体を用いて基材表面に成膜した近赤外線吸収膜は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)などの真空成膜法等の乾式法で作製した膜に比較しても、太陽光線、特に近赤外線領域の光を効率よく吸収し、同時に可視光領域の高透過率を保持する等、優れた光学特性を発揮した。
【0094】
また、本発明に係る近赤外線吸収体、近赤外線吸収物積層体および近赤外線吸収用合わせ構造体は、真空装置等の大掛かりな装置を使用することなく安価に製造可能であり、工業的に有用である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径の測定には、近赤外線吸収材料微粒子分散液から溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子分散粉を用いた。そして当該複合タングステン酸化物微粒子のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ-2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンとリートベルト法による解析とから、当該微粒子に含まれる結晶子径を測定した。
また、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子分散体における複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、近赤外線吸収材料微粒子分散体の薄片化試料の透過型電子顕微鏡(日立製作所(株)社製 HF-2200)像(2万倍)から画像解析を用いて測定した。
さらに、Csタングステン酸化物微粒子を含んだ近赤外線吸収アクリル樹脂成形体の可視光透過率および日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U-4100を用い、JIS R 3106:1988に基づいて測定した。また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HM-150Wを用い、JIS K 7136:2000に基づいて測定した。
【0096】
(実施例1)
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)7.43kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)34.57kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.33相当である。)。当該乾燥物を、N2ガスをキャリア-とした5体積%H2ガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した、その後、当該供給ガスをN2ガスのみに切り替えて、室温まで降温してCsタングステン酸化物粒子aを得た。
【0097】
当該Csタングステン酸化物粒子a15質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と記載する。)12質量%と、トルエン73質量%とを合計60g秤量した。当該秤量物を、0.3mmφZrO2ビ-ズを240g入れたペイントシェーカー(浅田鉄工社製)に装填し、24時間粉砕・分散処理することによって近赤外線吸収材料微粒子トルエン分散液(A-1液)を調製した。
A-1液における近赤外線吸収材料微粒子(Csタングステン酸化物微粒子a)の分散粒子径は72.4nmであった。
【0098】
ここで、A-1液から溶媒を除去した後の分散粉におけるCsタングステン酸化物微粒子aの結晶子径は25nmであった。
【0099】
一方、A-1液に分散剤aを20g加え、近赤外線吸収材料微粒子トルエン分散液(A-2液)を得た。
A-2液から真空加熱撹拌ライカイ機(石川製)を用いて、溶媒除去をおこない、Csタングステン酸化物微粒子分散粉bを得た。得られたCsタングステン酸化物微粒子分散粉b(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を1.6質量%と、アルコキシシラン化合物(KBM-103、信越シリコーン製)を0.32質量%と、残部のメタクリル樹脂とを混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用い260℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収体用のマスターバッチを得た。当該マスターバッチの薄片化試料から、近赤外線吸収体における分散粒子径を測定した。
【0100】
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.045質量%と、残部のメタクリル樹脂とを混合して混合物を得た。得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ1mmに成形することで、Csタングステン酸化物微粒子がアクリル樹脂全体へ均一に分散した実施例1に係る近赤外線吸収体eを得た。
当該実施例1に係る近赤外線吸収体における近赤外線吸収材料微粒子、近赤外線吸収体におけるシラン化合物およびアクリル樹脂の組成、近赤外線吸収材料微粒子の分散粒子径、近赤外線吸収体のプレート厚みを表1に記載する。
【0101】
得られた実施例1に係る近赤外線吸収体eの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率81.6%のときの日射透過率は51.6%、ヘイズ値は1.1%であった。
当該実施例1に係る近赤外線吸収体eの光学特性の測定結果を表1に記載する。
【0102】
(実施例2)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例1と同様に操作して、実施例2に係る近赤外線吸収体fを得た。
当該実施例2に係る近赤外線吸収体における近赤外線吸収材料微粒子、近赤外線吸収体におけるシラン化合物およびアクリル樹脂の組成、近赤外線吸収材料微粒子の分散粒子径、近赤外線吸収体のプレート厚みを表1に記載する。以下、実施例3~24、比較例1~4においても、同様に表1に記載する。
実施例2に係る近赤外線吸収体fの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率74.2%のときの日射透過率は39.2%、ヘイズ値は1.7%であった。
当該実施例2に係る近赤外線吸収体fの光学特性の測定結果を表1に記載する。
以下、実施例3~16においては、近赤外線吸収体における近赤外線吸収材料微粒子、近赤外線吸収体におけるシラン化合物およびアクリル樹脂の組成、近赤外線吸収材料微粒子の分散粒子径、近赤外線吸収体のプレート厚みおよび光学特性を表1に記載し、実施例17~24、比較例1~4においては、近赤外線吸収体における近赤外線吸収材料微粒子、近赤外線吸収体におけるシラン化合物およびアクリル樹脂の組成、近赤外線吸収材料微粒子の分散粒子径、近赤外線吸収体のプレート厚みおよび光学特性を表2に記載する。
【0103】
(実施例3)
前記得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合したことを除き、実施例1と同様に操作して、近赤外線吸収体gを得た。
実施例3に係る近赤外線吸収体gの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率71.2%のときの日射透過率は35.1%、ヘイズ値は1.8%であった。
【0104】
(実施例4)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例3と同様に操作して、実施例4に係る近赤外線吸収体hを得た。
実施例4に係る近赤外線吸収体hの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率58.4%のときの日射透過率は24.6%、ヘイズ値は2.7%であった。
【0105】
(実施例5)
前記得られたCsタングステン酸化物微粒子分散粉b(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を1.6質量%と、シリコーンレジン(217FLAKE;東レ・ダウ製)を0.32質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合して混合物を得た。得られた混合物を、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて260℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収体用のマスターバッチを得たことを除き、実施例1と同様に操作して、実施例5に係る近赤外線吸収体iを得た。
実施例5に係る近赤外線吸収体iの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率80.0%のときの日射透過率は49.1%、ヘイズ値は1.7%であった。
【0106】
(実施例6)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例5と同様に操作して、実施例6に係る近赤外線吸収体jを得た。
実施例6に係る近赤外線吸収体jの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率71.7%のときの日射透過率は36.7%、ヘイズ値は2.6%であった。
【0107】
(実施例7)
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094重質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合したことを除き、実施例5と同様に近赤外線吸収体kを得た。
実施例7に係る近赤外線吸収体kの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率69.5%のときの日射透過率は33.9%、ヘイズ値は2.8%であった。
【0108】
(実施例8)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例7と同様に近赤外線吸収体lを得た。
実施例8に係る近赤外線吸収体lの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率56.2%のときの日射透過率は23.4%、ヘイズ値は4.1%であった。
【0109】
(実施例9)
前記得られたCsタングステン酸化物微粒子分散粉b(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を1.6質量%と、シランカップリング剤(KBM-903、信越シリコーン製)を0.32質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合して混合物を得た。得られた混合物を、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて260℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収体用のマスターバッチを得たことを除き、実施例1と同様に操作して、実施例9に係る近赤外線吸収体mを得た。
実施例9に係る近赤外線吸収体mの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率81.2%のときの日射透過率は50.9%、ヘイズ値は2.0%であった。
【0110】
(実施例10)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例9と同様に操作して、実施例10に係る近赤外線吸収体nを得た。
実施例10に係る近赤外線吸収体nの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.5%のときの日射透過率は35.5%、ヘイズ値は3.0%であった。
【0111】
(実施例11)
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合したことを除き、実施例9と同様に近赤外線吸収体oを得た。
実施例11に係る近赤外線吸収体oの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率69.1%のときの日射透過率は33.3%、ヘイズ値は3.3%であった。
【0112】
(実施例12)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例11と同様に近赤外線吸収体pを得た。
実施例12に係る近赤外線吸収体pの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率55.4%のときの日射透過率は22.5%、ヘイズ値は4.9%であった。
【0113】
(実施例13)
前記得られたCsタングステン酸化物微粒子分散粉b(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を1.6質量%と、シランカップリング剤(KBM-5103、信越シリコーン製)を0.32質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合して混合物を得た。得られた混合物を、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて260℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収体用のマスターバッチを得たことを除き、実施例1と同様に操作して、実施例13に係る近赤外線吸収体qを得た。
実施例13に係る近赤外線吸収体qの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率80.9%のときの日射透過率は51.3%、ヘイズ値は1.8%であった。
【0114】
(実施例14)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例13と同様に操作して、実施例14に係る近赤外線吸収体rを得た。
実施例14に係る近赤外線吸収体rの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率72.0%のときの日射透過率は37.4%、ヘイズ値は2.8%であった。
【0115】
(実施例15)
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合したことを除き、実施例13と同様に近赤外線吸収体sを得た。
実施例15に係る近赤外線吸収体sの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率69.2%のときの日射透過率は33.2%、ヘイズ値は3.1%であった。
【0116】
(実施例16)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例15と同様に近赤外線吸収体tを得た。
実施例16に係る近赤外線吸収体tの光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率55.8%のときの日射透過率は23.1%、ヘイズ値は4.6%であった。
【0117】
(実施例17)
前記得られたCsタングステン酸化物微粒子分散粉b(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を1.6質量%と、アルコキシシラン(KBM-3063、信越シリコーン製)を0.32質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合して混合物を得た。得られた混合物を、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて260℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収体用のマスターバッチを得たことを除き、実施例1と同様に操作して、実施例17に係る近赤外線吸収体uを得た。
実施例17に係る近赤外線吸収ポリアクリル樹脂成形体uの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率80.5%のときの日射透過率は50.1%、ヘイズ値は1.8%であった。
【0118】
(実施例18)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例17と同様に操作して、実施例18に係る近赤外線吸収体vを得た。
実施例18に係る近赤外線吸収体vの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率70.9%のときの日射透過率は35.5%、ヘイズ値は2.9%であった。
【0119】
(実施例19)
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094質量%%と、残分のメタクリル樹脂とを混合したことを除き、実施例17と同様に近赤外線吸収体wを得た。
実施例19に係る近赤外線吸収体wの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率69.0%のときの日射透過率は33.4%、ヘイズ値は3.1%であった。
【0120】
(実施例20)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例19と同様に近赤外線吸収体xを得た。
実施例20に係る近赤外線吸収体xの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率55.2%のときの日射透過率は22.5%、ヘイズ値は4.7%であった。
【0121】
(実施例21)
前記得られたCsタングステン酸化物微粒子分散粉b(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を1.6質量%と、アルコキシシラン(KBM-7053、信越シリコーン製)を0.32質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合して混合物を得た。得られた混合物を、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を用いて260℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収体用のマスターバッチを得たことを除き、実施例1と同様に操作して、実施例21に係る近赤外線吸収体yを得た。
実施例21に係る近赤外線吸収体yの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率81.2%のときの日射透過率は51.1%、ヘイズ値は1.8%であった。
【0122】
(実施例22)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例21と同様に操作して、実施例22に係る近赤外線吸収体zを得た。
実施例22に係る近赤外線吸収体zの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率72.5%のときの日射透過率は36.5%、ヘイズ値は2.8%であった。
【0123】
(実施例23)
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094質量%と、残分のメタクリル樹脂とを混合したことを除き、実施例21と同様に近赤外線吸収体αを得た。
実施例23に係る近赤外線吸収体αの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率70.3%のときの日射透過率は34.4%、ヘイズ値は3.0%であった。
【0124】
(実施例24)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、実施例23と同様に近赤外線吸収体βを得た。
実施例24に係る近赤外線吸収体βの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率56.3%のときの日射透過率は23.5%、ヘイズ値は4.4%であった。
【0125】
(比較例1)
二軸押出機を用いて260℃で溶融混練する際に、アルコキシシラン化合物を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る近赤外線吸収体mを得た。
得られた近赤外線吸収体γの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率80.4%のときの日射透過率は51.2%、ヘイズ値は2.1%であった。
【0126】
(比較例2)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、比較例1と同様に近赤外線吸収体δを得た。
得られた近赤外線吸収体nの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率71.4%のときの日射透過率は37.4%、ヘイズ値は3.3%であった。
【0127】
(比較例3)
得られたマスターバッチ(Csタングステン酸化物微粒子Cs0.33WO3として)を0.094質量%と、メタクリル樹脂とを混合したことを除き、比較例1と同様に近赤外線吸収体εを得た。
得られた近赤外線吸収体oの光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率68.5%のときの日射透過率は33.5%、ヘイズ値は3.7%であった。
【0128】
(比較例4)
前記得られた混合物を射出成形金型に充填し、250℃でプレート状の厚さ2mmに成形したことを除き、比較例3と同様に近赤外線吸収体ζを得た。
得られた近赤外線吸収体の光学特性を測定したところ、表2に示すように、可視光透過率54.0%のときの日射透過率は22.1%、ヘイズ値は5.7%であった。
【0129】
(まとめ)
以上、説明した実施例、比較例の結果から、アルコキシシラン化合物(KBM-103、KBM-3063、KBM-7103;信越シリコーン製)を添加した実施例1~4、17~24に係る近赤外線吸収体と、シリコーンレジン(217FLAKE;東レ・ダウ製)を添加した実施例5~8に係る近赤外線吸収体と、シランカップリング剤(KBM-903、KBM-5103;信越シリコーン製)を添加した実施例9~16に係る近赤外線吸収体、および、シラン化合物を添加しない比較例1~4に係る近赤外線吸収体との光学的特性を比較した。
尚、当該光学的特性比較の便宜の為、縦軸に日射透過率、横軸に可視光透過率をとり、実施例1~4を◆でプロットし太実線で結び、実施例5~8を■でプロットし1点鎖線で結び、実施例9~12を×でプロットし長破線で結び、実施例13~16を*でプロットし2点鎖線で結び、実施例17~20を●でプロットし短破線で結び、実施例21~24を+でプロットし中破線で結び、比較例1~4を▲でプロットし細実線で結んだグラフである
図1、縦軸にヘイズ値、横軸に可視光透過率をとり、
図1と同様に、実施例1~4を◆でプロットし太実線で結び、実施例5~8を■でプロットし1点鎖線で結び、実施例9~12を×でプロットし長破線で結び、実施例13~16を*でプロットし2点鎖線で結び、実施例17~20を●でプロットし短破線で結び、実施例21~24を+でプロットし中破線で結び、比較例1~4を▲でプロットし細実線で結んだグラフである
図2を作成した。
【0130】
図1より、実施例1~4、実施例5~8、実施例9~12、実施例13~16、実施例17~20、および、実施例21~24に係る近赤外線吸収体は、比較例1~4に係る近赤外線吸収体と比較して、日射透過率が同等または低いことが判明した。さらに、
図2より、実施例1~4および実施例5~8に係る近赤外線吸収体は、比較例1~4に係る近赤外線吸収体と比較して、ヘイズ値が低いことも判明した。
以上より、実施例1~24に係る近赤外線吸収体は、比較例1~4に係る近赤外線吸収体と比較して、透明性を担保しながら近赤外線吸収性を発揮出来、優れた光学特性を有することが確認できた。
【0131】