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特許7259834積層体及びその製造方法、ならびに成形体及びその製造方法
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  • 特許-積層体及びその製造方法、ならびに成形体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法、ならびに成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20230411BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20230411BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20230411BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230411BHJP
   C09D 201/04 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
B05D7/24 301A
B05D7/24 302L
B05D7/24 302R
B05D7/24 302T
B05D7/24 302U
B05D7/24 302V
B05D7/24 302X
C08J5/00 CEW
C08J5/00 CEZ
C08J5/00 CFD
C08J5/00 CFG
C09D5/03
C09D201/00
C09D201/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020501044
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006612
(87)【国際公開番号】W WO2019163913
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018030922
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018102664
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018166293
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 紀生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134865(JP,A)
【文献】特開2015-096577(JP,A)
【文献】特開2015-034289(JP,A)
【文献】特開2015-086364(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098776(WO,A1)
【文献】特開2013-067100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 7/24
C09D 5/03
C09D 201/04
C09D 201/00
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に設けられた被膜とを有する積層体を製造する方法であり、
前記基材の表面に下記粉体組成物を溶射法又は粉体塗装法によって塗布して下記フッ素樹脂の体積と下記非フッ素樹脂の体積との合計に対して、一方の樹脂の体積の割合が99~60体積%であり、かかる体積割合の高い樹脂中に他方の樹脂が粒子として分散しており、かかる他方の樹脂の平均分散粒子径が10~100μmである被膜を形成する、積層体の製造方法。
粉体組成物:
下記フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が1080μmであるフッ素樹脂パウダーと、
下記非フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が80μmである非フッ素樹脂パウダーとを含む粉体組成物であり、
前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~1体積%であり、
前記粉体組成物の体積に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計が80体積%以上である粉体組成物。
フッ素樹脂:
カルボニル基含有基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:
ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及び液晶ポリマーからなる群から選ばれる樹脂。
【請求項2】
前記基材が、金属からなる、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対する前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~51体積%であり、前記フッ素樹脂の融点が260~320℃である、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
下記粉体組成物を圧縮成形して下記フッ素樹脂の体積と下記非フッ素樹脂の体積との合計に対して、一方の樹脂の体積の割合が99~60体積%であり、かかる体積割合の高い樹脂中に他方の樹脂が粒子として分散しており、かかる他方の樹脂の平均分散粒子径が10~100μmである成形体を得る、成形体の製造方法。
粉体組成物:
下記フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が1080μmであるフッ素樹脂パウダーと、
下記非フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が80μmである非フッ素樹脂パウダーとを含む粉体組成物であり、
前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~1体積%であり、
前記粉体組成物の体積に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計が80体積%以上である粉体組成物。
フッ素樹脂:
カルボニル基含有基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:
ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及び液晶ポリマーからなる群から選ばれる樹脂。
【請求項5】
前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対する前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~51体積%であり、前記フッ素樹脂の融点が260~320℃である、請求項に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法、ならびに成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂パウダーを用いて基材の表面に被膜を形成することが知られている(特許文献1)。しかし、フッ素樹脂パウダーを用いて形成された被膜は、耐摩耗性が不充分である。また、基材に対して接着性に優れるフッ素樹脂パウダーを用いて被膜を形成する際に被膜が発泡しやすい。
【0003】
フッ素樹脂の成形体の耐摩耗性を向上させる方法としては、フッ素樹脂にエンジニアプラスチックを配合し、溶融混練した樹脂組成物を成形する方法が提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/111102号
【文献】特許第4661205号公報
【文献】国際公開第2013/125468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フッ素樹脂にエンジニアプラスチックを配合し、溶融混練した混練物を粉砕する際に、樹脂組成物がフィルブリル化してしまう。そのため、フッ素樹脂及びエンジニアプラスチックを含む樹脂組成物からなるパウダーを製造することは困難である。
【0006】
また、フッ素樹脂にエンジニアプラスチックを配合し、溶融混練した樹脂組成物を成形して得られた成形体においては、成形体中に分散したエンジニアプラスチックの分散粒子径が小さいため、エンジニアプラスチックによる耐摩耗性の向上効果が充分に発揮されない。
【0007】
本発明は、フッ素樹脂パウダーを用いて耐摩耗性に優れる被膜を形成でき、かつフッ素樹脂パウダーを用いて被膜を形成する際の発泡が抑えられる積層体の製造方法、耐摩耗性に優れ、かつ発泡が抑えられた、フッ素樹脂を含む被膜を有する積層体、フッ素樹脂パウダーを用いて耐摩耗性に優れる成形体を形成でき、かつフッ素樹脂パウダーを用いて成形体を形成する際の発泡が抑えられる成形体の製造方法、及び耐摩耗性に優れ、かつ発泡が抑えられた、フッ素樹脂を含む成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>基材と、前記基材の表面に設けられた被膜とを有する積層体を製造する方法であり、前記基材の表面に下記粉体組成物を塗布して前記被膜を形成する、積層体の製造方法。
粉体組成物:下記フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が0.01~100μmであるフッ素樹脂パウダーと、下記非フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が0.01~100μmである非フッ素樹脂パウダーとを含む粉体組成物であり、前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~1体積%であり、前記粉体組成物の体積に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計が80体積%以上である粉体組成物。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー及び硬化性樹脂の硬化物からなる群から選ばれる樹脂。
<2>前記フッ素樹脂パウダーのD50が、10~80μmであり、前記非フッ素樹脂パウダーのD50が、1~80μmである、<1>の積層体の製造方法。
<3>前記基材が、金属からなる、<1>又は<2>の積層体の製造方法。
<4>溶射法又は粉体塗装法によって前記基材の表面に前記粉体組成物を塗布する、<1>~<3>のいずれかの積層体の製造方法。
<5>前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対する前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~51体積%であり、前記フッ素樹脂の融点が260~320℃である、<1>~<4>のいずれかの積層体の製造方法。
【0009】
<6>基材と、前記基材の表面に設けられた被膜とを有し、前記被膜が、下記フッ素樹脂及び下記非フッ素樹脂を含み、前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計に対して、前記フッ素樹脂の体積の割合が99~1体積%であり、前記被膜の体積に対して、前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計が80体積%以上である、積層体。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー及び硬化性樹脂の硬化物からなる群から選ばれる樹脂。
<7>前記基材が金属からなる、<6>の積層体。
<8>前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計に対する前記フッ素樹脂の体積の割合が99~51体積%であり、前記フッ素樹脂の融点が260~320℃である、<6>又は<7>の積層体。
<9>前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計に対して、一方の樹脂の体積の割合が99~60体積%であり、かかる体積割合の高い樹脂中に他方の樹脂が粒子として分散しており、かかる他方の樹脂の平均分散粒子径が10~100μmである、<6>又は<7>の積層体。
【0010】
<10>下記粉体組成物を圧縮成形する、成形体の製造方法。
粉体組成物:下記フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が0.01~100μmであるフッ素樹脂パウダーと、下記非フッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなり、D50が0.01~100μmである非フッ素樹脂パウダーとを含む粉体組成物であり、前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~1体積%であり、前記粉体組成物の体積に対して、前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計が80体積%以上である粉体組成物。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー及び硬化性樹脂の硬化物からなる群から選ばれる樹脂。
<11>前記フッ素樹脂パウダーのD50が、10~80μmであり、前記非フッ素樹脂パウダーのD50が、1~80μmである、<10>の成形体の製造方法。
<12>前記フッ素樹脂パウダーの体積と前記非フッ素樹脂パウダーの体積との合計に対する前記フッ素樹脂パウダーの体積の割合が99~51体積%であり、前記フッ素樹脂の融点が260~320℃である、<10>又は<11>の成形体の製造方法。
【0011】
<13>下記フッ素樹脂及び下記非フッ素樹脂を含む成形体であり、前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計に対して、前記フッ素樹脂の体積の割合が99~1体積%であり、前記成形体の体積に対して、前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計が80体積%以上である、成形体。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー及び硬化性樹脂の硬化物からなる群から選ばれる樹脂。
<14>前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計に対する前記フッ素樹脂の体積の割合が99~51体積%であり、前記フッ素樹脂の融点が260~320℃である、<13>の成形体。
<15>前記フッ素樹脂の体積と前記非フッ素樹脂の体積との合計に対して、一方の樹脂の体積の割合が99~60体積%であり、かかる体積割合の高い樹脂中に他方の樹脂が粒子として分散しており、かかる他方の樹脂の平均分散粒子径が10~100μmである、<13>の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層体の製造方法によれば、フッ素樹脂パウダーを用いて耐摩耗性に優れる被膜を形成でき、かつフッ素樹脂パウダーを用いて被膜を形成する際の発泡が抑えられる。
本発明の積層体は、耐摩耗性に優れ、かつ発泡が抑えられた、フッ素樹脂を含む被膜を有する。
本発明の成形体の製造方法によれば、フッ素樹脂パウダーを用いて耐摩耗性に優れる成形体を形成でき、かつフッ素樹脂パウダーを用いて成形体を形成する際の発泡が抑えられる。
本発明の成形体は、耐摩耗性に優れ、かつ発泡が抑えられた、フッ素樹脂を含む成形体である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の積層体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における用語の意味及び定義は以下の通りである。
「溶融成形可能」であるとは、溶融流動性を示すことを意味する。
「溶融流動性を示す」とは、荷重49Nの条件下、樹脂の融点よりも20℃以上高い温度において、MFRが0.1~1000g/10分となる温度が存在することを意味する。
「MFR」は、JIS K 7210-1:2014(対応国際規格ISO 1133-1:2011)に規定されるメルトマスフローレイトである。
「融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度を意味する。
樹脂パウダーの「D50」は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
積層体の被膜及び成形体中に分散している樹脂粒子の「平均分散粒子径」は、以下のように求める。
積層体の被膜又は成形体の断面又は表面を走査型電子顕微鏡(FE-SEM)等の顕微鏡により観察し、顕微鏡像内に存在するn個(n=20以上)の分散粒子の画像を撮影し、ソフトウェアを用いて二値化して分散粒子の面積を求め、分散粒子の面積を円とした場合の直径を分散粒子径とし、その平均値を平均分散粒子径とする。
「酸無水物残基」とは、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基を意味する。
「(メタ)アクリレート」はアクリレートとメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリロイルオキシ」基はアクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基の総称であり、「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミドとメタクリルアミドの総称である。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、単量体に基づく単位を、単に、単量体単位とも記す。
図1における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0015】
本発明における「カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、溶融成形可能であるフッ素樹脂」を、以下、「フッ素樹脂A」ともいう。また、フッ素樹脂Aが有する、上記官能基を、以下、「接着性官能基」と記す。
同様に、本発明における「ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー及び硬化性樹脂の硬化物からなる群から選ばれる樹脂」を、以下、「樹脂B」ともいう。
【0016】
本発明における「フッ素樹脂Aを主成分とする樹脂材料からなり、D50が0.01~100μmであるフッ素樹脂Aのパウダー」を「フッ素樹脂パウダーX」ともいう。フッ素樹脂パウダーXにおける「フッ素樹脂Aを主成分とする樹脂材料」を「樹脂材料I」と記す。
同様に、本発明における「樹脂Bを主成分とする樹脂材料からなり、D50が0.01~100μmである樹脂Bのパウダー」を「樹脂パウダーY」ともいう。樹脂パウダーYにおける「樹脂Bを主成分とする樹脂材料」を「樹脂材料II」と記す。
【0017】
<積層体>
図1は、本発明の積層体の一例を示す断面図である。
積層体10は、基材12と、基材12の表面に設けられた被膜14とを有する。
【0018】
基材としては、被膜を後述する溶射法又は粉体塗装法で形成しやすい点から、金属からなるものが好ましい。金属としては、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、鉛、特殊鋼、ステンレス、銅、マグネシウム、黄銅等が挙げられる。基材の材質は、積層体の用途等に応じて適宜選択すればよい。基材は、例示した金属の2種以上を含むものであってもよい。基材の形状、サイズ等は、特に限定はされない。
【0019】
被膜は、フッ素樹脂A及び樹脂Bを含む。
被膜は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフッ素樹脂A及び樹脂B以外の成分を含んでいてもよい。また、皮膜は、2種以上のフッ素樹脂Aを含んでいてもよく、2種以上の樹脂Bを含んでいてもよい。
【0020】
被膜におけるフッ素樹脂Aの体積の割合は、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、99~1体積%である。フッ素樹脂Aの体積の割合が99体積%以下であれば、被膜の耐摩耗性に優れる。また、被膜における発泡が抑えられる。フッ素樹脂Aの体積の割合が1体積%以上であれば、被膜の摺動特性に優れる。
【0021】
被膜におけるフッ素樹脂Aの体積の割合は、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、99~51体積%であることが好ましく、99~60体積%であることがより好ましく、99~70体積%であることがさらに好ましい。フッ素樹脂Aの体積の割合が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の耐摩耗性に優れる。フッ素樹脂Aの体積の割合が前記範囲の下限値以上であれば、被膜におけるフッ素樹脂Aによる低摩擦性、耐薬品性等の特性が充分に発揮される。
なお、フッ素樹脂Aにより被膜が低摩擦性になると、耐摩耗性も向上することもあると考えられる。また、前記範囲内において、樹脂Bの体積の割合が増えると、基材と被膜との接着性が向上しやすい。
【0022】
さらに、被膜における樹脂Bによる耐摩耗性等の特性を充分に発揮させたい場合は、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、フッ素樹脂Aの体積の割合を1~51体積%とすることが好ましく、1~40体積%とすることがより好ましく、1~30体積%とすることがさらに好ましい。
【0023】
被膜の体積に対して、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計は、80体積%以上であり、85体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計が前記範囲の下限値以上であれば、被膜においてフッ素樹脂Aによる特性が充分に発揮されつつ、被膜の耐摩耗性に優れる。
【0024】
被膜におけるフッ素樹脂の体積の割合がフッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して99~60体積%である場合、被膜中に分散している樹脂Bの平均分散粒子径は、10~100μmであり、15~100μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。この場合、フッ素樹脂の体積の割合は99~70体積%であることがより好ましい。樹脂Bの平均分散粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、被膜の塗工性に優れる。樹脂Bの平均分散粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の外観に優れる。
また、被膜における樹脂Bの体積の割合がフッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して99~60体積%である場合、被膜中に分散しているフッ素樹脂Aの平均分散粒子径は、10~100μmであり、15~100μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。この場合、樹脂Bの体積の割合は99~70体積%であることがより好ましい。フッ素樹脂Aの平均分散粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、被膜の外観に優れる。フッ素樹脂Aの平均分散粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の塗工性に優れる。
【0025】
被膜の厚さは、1~3000μmが好ましく、5~2500μmがより好ましく、10~2000μmがさらに好ましい。被膜の厚さは、積層体に要求される特性等に応じて、適宜設定すればよい。
例えば、フッ素樹脂パウダーXや樹脂パウダーYのD50を0.01~10μmとする場合は、被膜の厚さは10~50μmが好ましい。
また、フッ素樹脂パウダーXのD50を10~80μmとし、樹脂パウダーYのD50を1~80μmとする場合は、被膜の厚さは20~2000μmが好ましく、50~1000μmがより好ましく、100~500μmが更に好ましい。
なお、積層体の製造において粉体組成物の塗布及び焼成を繰り返す場合は、前記範囲は得られた各被膜の合計の厚さである。
【0026】
本発明の積層体は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の層を有していてもよい。
他の層としては、フッ素樹脂A及び樹脂Bのいずれか一方のみを含む樹脂層、フッ素樹脂A及び樹脂Bの両方を含まない樹脂層等が挙げられる。
【0027】
(フッ素樹脂A)
フッ素樹脂Aは、接着性官能基を有する。接着性官能基は、基材と被膜との接着性が優れる点から、フッ素樹脂Aの主鎖の末端基及び主鎖のペンダント基の少なくとも一方として存在することが好ましい。フッ素樹脂Aが有する接着性官能基は、2種以上であってもよい。
【0028】
フッ素樹脂Aは、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、接着性官能基として少なくともカルボニル基含有基を有することが好ましい。
カルボニル基含有基としては、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基、ポリフルオロアルコキシカルボニル基、脂肪酸残基等が挙げられる。カルボニル基含有基としては、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基及び酸無水物残基が好ましく、カルボキシ基及び酸無水物残基がより好ましい。
【0029】
炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基における炭化水素基としては、炭素数2~8のアルキレン基等が挙げられる。アルキレン基の炭素数は、カルボニル基を構成する炭素を含まない状態での炭素数である。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
ハロホルミル基は、-C(=O)-X(ただし、Xはハロゲン原子である。)で表される。ハロホルミル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であることがより好ましい。
【0030】
フッ素樹脂Aの融点は、260~320℃が好ましく、280~320℃がより好ましく、295~315℃がさらに好ましく、295~310℃が特に好ましい。フッ素樹脂Aの融点が前記範囲の下限値以上であれば、被膜の耐熱性に優れる。フッ素樹脂Aの融点が前記範囲の上限値以下であれば、フッ素樹脂Aの溶融成形性に優れる。
フッ素樹脂Aの融点は、フッ素樹脂Aを構成する単位の種類や割合、フッ素樹脂Aの分子量等によって調整できる。例えば、TFE単位の割合が多くなるほど、融点が上がる傾向がある。
【0031】
フッ素樹脂Aの融点よりも20℃以上高い温度におけるフッ素樹脂AのMFRは、0.1~1000g/10分が好ましく、0.5~100g/10分がより好ましく、1~30g/10分がさらに好ましく、5~20g/10分が特に好ましい。測定温度は、融点よりも50℃以上高い温度が好ましく、50~80℃高い温度がより好ましい。例えば、実施例で用いた含フッ素共重合体(A1-1)は融点300℃で測定温度は372℃であり、融点よりも72℃高い温度である。
MFRが前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂Aの溶融成形性に優れ、被膜の外観に優れる。MFRが前記範囲の上限値以下であれば、被膜の機械的強度に優れる。
MFRは、フッ素樹脂Aの分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が小さく、MFRが小さいと分子量が大きいことを示す。
フッ素樹脂AのMFRは、フッ素樹脂Aの製造条件によって調整できる。例えば、単量体の重合時に重合時間を短縮するとMFRが大きくなる傾向がある。
【0032】
フッ素樹脂Aとしては、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、接着性官能基を有する単位(以下、「接着性官能基含有単位」とも記す。)と、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位とを有する含フッ素共重合体(以下、「共重合体A1」と記す。)が好ましい。
共重合体A1は、接着性官能基含有単位及びTFE単位以外の他の単位を有していてもよい。
【0033】
接着性官能基含有単位としては、接着性官能基含有単量体に基づく単位が好ましい。
接着性官能基含有単量体が有する接着性官能基は、1個であっても2個以上であってもよい。2個以上の接着性官能基を有する場合、2個以上の接着性官能基は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
接着性官能基含有単量体としては、接着性官能基を1つ有し、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有する化合物が好ましい。
【0034】
接着性官能基含有単量体としては、カルボニル基含有基を有する単量体、ヒドロキシ基含有単量体、エポキシ基含有単量体、イソシアネート基含有単量体等が挙げられる。接着性官能基含有単量体としては、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、カルボニル基含有基を有する単量体が好ましい。
カルボニル基含有基を有する単量体としては、酸無水物残基含有環状単量体、カルボキシ基含有単量体、ビニルエステル、(メタ)アクリレート、CF=CFORf1CO(ただし、Rf1は、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、Xは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。)等が挙げられる。
【0035】
酸無水物残基含有環状単量体としては、不飽和ジカルボン酸無水物等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水イタコン酸(以下、「IAH」とも記す。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」とも記す。)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸。以下、「NAH」ともいう。)、無水マレイン酸等が挙げられる。
カルボキシ基含有単量体としては、不飽和ジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、マレイン酸等)、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)等が挙げられる。
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニル等が挙げられる。
(メタ)アクリレートとしては、(ポリフルオロアルキル)アクリレート、(ポリフルオロアルキル)メタクリレート等が挙げられる。
【0036】
カルボニル基含有基を有する単量体としては、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、酸無水物残基含有環状単量体が好ましく、IAH、CAH及びNAHがより好ましい。IAH、CAH及びNAHからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いると、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11-193312号公報参照)を用いることなく、酸無水物残基を有する共重合体A1を容易に製造できる。カルボニル基含有基を有する単量体としては、被膜中での共重合体A1と樹脂Bとの密着性に優れる点から、NAHが特に好ましい。
【0037】
ヒドロキシ基含有単量体としては、ヒドロキシ基含有ビニルエステル、ヒドロキシ基含有ビニルエーテル、ヒドロキシ基含有アリルエーテル、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、クロトン酸ヒドロキシエチル、アリルアルコール等が挙げられる。
エポキシ基含有単量体としては、不飽和グリシジルエーテル(アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等)、不飽和グリシジルエステル(アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等)等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アミノ基含有単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
イソシアネート基含有単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
接着性官能基含有単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0038】
接着性官能基含有単位及びTFE単位以外の他の単位としては、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)に基づく単位、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)に基づく単位、接着性官能基含有単量体、TFE、PAVE及びHFP以外の単量体に基づく単位等が挙げられる。
【0039】
PAVEとしては、CF=CFORf2(ただし、Rf2は、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基、又は炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。)が挙げられる。
f2におけるペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rf2の炭素数は、1~3が好ましい。
CF=CFORf2としては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFF等が挙げられ、PPVEが好ましい。
PAVEは、2種以上を併用してもよい。
【0040】
他の単量体としては、他の含フッ素単量体(ただし、接着性官能基含有単量体、TFE、PAVE及びHFPを除く。)、他の非含フッ素単量体(ただし、接着性官能基含有単量体を除く。)等が挙げられる。
【0041】
他の含フッ素単量体としては、TFE及びHFPを除くフルオロオレフィン(フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」とも記す。)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」とも記す。)等)、CF=CFORf3SO(ただし、Rf3は、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、Xはハロゲン原子又はヒドロキシ基である。)、CF=CF(CFOCF=CF(ただし、pは1又は2である。)、CH=CX(CF(ただし、Xは水素原子又はフッ素原子であり、qは2~10の整数であり、Xは水素原子又はフッ素原子である。)、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)等が挙げられる。他の含フッ素単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0042】
他の含フッ素単量体としては、VdF、CTFE及びCH=CX(CFが好ましい。
CH=CX(CFとしては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH等が挙げられ、CH=CH(CFF及びCH=CH(CFFが好ましい。
【0043】
他の非含フッ素単量体としては、炭素数3以下のオレフィン(エチレン、プロピレン等)等が挙げられ、エチレン及びプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。他の非含フッ素単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の単量体として、他の含フッ素単量体と他の非含フッ素単量体とを併用してもよい。
【0044】
共重合体A1は、主鎖末端基として接着性官能基を有していてもよい。主鎖末端基としての接着性官能基としては、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、カルボキシ基、フルオロホルミル基、酸無水物残基、ヒドロキシ基が好ましい。主鎖末端基としての接着性官能基は、共重合体A1の製造時に用いられる、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を適宜選定して導入できる。
【0045】
共重合体A1としては、被膜の耐熱性に優れる点から、下記共重合体A11及び下記共重合体A12が好ましく、共重合体A11が特に好ましい。
共重合体A11:接着性官能基含有単位と、TFE単位と、PAVE単位とを有する含フッ素共重合体。
共重合体A12:接着性官能基含有単位と、TFE単位と、HFP単位とを有する含フッ素共重合体。
【0046】
共重合体A11は、必要に応じてHFP単位及び他の単量体単位の少なくとも一方をさらに有してもよい。すなわち、共重合体A11は、接着性官能基含有単位とTFE単位とPAVE単位とからなる共重合体であってもよく、接着性官能基含有単位とTFE単位とPAVE単位とHFP単位とからなる共重合体であってもよく、接着性官能基含有単位とTFE単位とPAVE単位と他の単量体単位とからなる共重合体であってもよく、接着性官能基含有単位とTFE単位とPAVE単位とHFP単位と他の単量体単位とからなる共重合体であってもよい。
【0047】
共重合体A11としては、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、カルボニル基含有基を有する単量体に基づく単位とTFE単位とPAVE単位とを有する共重合体が好ましく、酸無水物残基含有環状単量体に基づく単位とTFE単位とPAVE単位とを有する共重合体が特に好ましい。共重合体A11の好ましい具体例としては、下記のものが挙げられる。
TFE単位とPPVE単位とNAH単位とを有する共重合体、
TFE単位とPPVE単位とIAH単位とを有する共重合体、
TFE単位とPPVE単位とCAH単位とを有する共重合体。
【0048】
共重合体A11における接着性官能基含有単位の割合は、共重合体A11を構成する全単位に対して、0.01~3モル%が好ましく、0.03~2モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。接着性官能基含有単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、被膜中での共重合体A11と樹脂Bとの密着性に優れ、また基材と被膜との接着性がさらに優れる。接着性官能基含有単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の耐熱性、色目等に優れる。
【0049】
共重合体A11におけるTFE単位の割合は、共重合体A11を構成する全単位に対して、90~99.89モル%が好ましく、95~99.47モル%がより好ましく、96~98.95モル%がさらに好ましい。TFE単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、共重合体A11の電気特性(低誘電率等)、耐熱性、耐薬品性等に優れる。TFE単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、共重合体A11の溶融成形性等に優れる。
【0050】
共重合体A11におけるPAVE単位の割合は、共重合体A11を構成する全単位に対して、0.1~9.99モル%が好ましく、0.5~9.97モル%がより好ましく、1~9.95モル%がさらに好ましい。PAVE単位の割合が前記範囲内であれば、共重合体A11の溶融成形性に優れる。
共重合体A11における接着性官能基含有単位、TFE単位及びPAVE単位の合計は、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。接着性官能基含有単位、TFE単位及びPAVE単位の合計の上限値は、100モル%である。
【0051】
共重合体A12は、必要に応じてPAVE単位及び他の単量体単位の少なくとも一方をさらに有してもよい。すなわち、共重合体A12は、接着性官能基含有単位とTFE単位とHFP単位とからなる共重合体であってもよく、接着性官能基含有単位とTFE単位とHFP単位とPAVE単位とからなる共重合体であってもよく、接着性官能基含有単位とTFE単位とHFP単位と他の単量体単位とからなる共重合体であってもよく、接着性官能基含有単位とTFE単位とHFP単位とPAVE単位と他の単量体単位とからなる共重合体であってもよい。
【0052】
共重合体A12としては、基材と被膜との接着性がさらに優れる点から、カルボニル基含有基を有する単量体に基づく単位とTFE単位とHFP単位とを有する共重合体が好ましく、酸無水物残基含有環状単量体に基づく単位とTFE単位とHFP単位とを有する共重合体が特に好ましい。共重合体A12の好ましい具体例としては、下記のものが挙げられる。
TFE単位とHFP単位とNAH単位とを有する共重合体、
TFE単位とHFP単位とIAH単位とを有する共重合体、
TFE単位とHFP単位とCAH単位とを有する共重合体。
【0053】
共重合体A12における接着性官能基含有単位の割合は、共重合体A12を構成する全単位に対して、0.01~3モル%が好ましく、0.02~2モル%がより好ましく、0.05~1.5モル%がさらに好ましい。接着性官能基含有単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、被膜中での共重合体A12と樹脂Bとの密着性に優れ、また基材と被膜との接着性がさらに優れる。接着性官能基含有単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の耐熱性、色目等に優れる。
【0054】
共重合体A12におけるTFE単位の割合は、共重合体A12を構成する全単位に対して、90~99.89モル%が好ましく、91~98モル%がより好ましく、92~96モル%がさらに好ましい。TFE単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、共重合体A12の電気特性(低誘電率等)、耐熱性、耐薬品性等に優れる。TFE単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、共重合体A12の溶融成形性等に優れる。
【0055】
共重合体A12におけるHFP単位の割合は、共重合体A12を構成する全単位に対して、0.1~9.99モル%が好ましく、1~9モル%がより好ましく、2~8モル%がさらに好ましい。HFP単位の割合が前記範囲内であれば、共重合体A12の溶融成形性に優れる。
共重合体A12における接着性官能基含有単位、TFE単位及びHFP単位の合計は、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。接着性官能基含有単位、TFE単位及びHFP単位の合計の上限値は、100モル%である。
【0056】
共重合体A1における各単位の割合は、溶融核磁気共鳴(NMR)分析等のNMR分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析等によって求めることができる。例えば、特開2007-314720号公報に記載のように、赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、共重合体A1を構成する全単位中の接着性官能基含有単位の割合(モル%)を求めることができる。
【0057】
共重合体A1の製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
・接着性官能基含有単量体及びTFE、必要に応じてPAVE、FEP、他の単量体を重合させる方法。
・熱により分解して接着性官能基を生成する官能基を有する単位とTFE単位とを有する共重合体を加熱し、接着性官能基を生成する官能基を熱分解して、接着性官能基(例えばカルボキシ基)を生成させる方法。
・TFE単位を有する共重合体に、接着性官能基を有する単量体をグラフト重合する方法。
共重合体A1の製造方法としては、接着性官能基含有単量体及びTFE、必要に応じてPAVE、FEP、他の単量体を重合させる方法が好ましい。
【0058】
重合方法としては、ラジカル重合開始剤を用いる重合方法が好ましい。
重合時には、共重合体A1の分子量や溶融粘度を制御するために、連鎖移動剤を用いてもよい。
ラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一方に、接着性官能基を有する化合物を用いてもよい。接着性官能基を有する化合物を用いることによって、共重合体A1の主鎖末端に接着性官能基を導入できる。
【0059】
重合法としては、塊状重合法、有機溶媒を用いる溶液重合法、水性媒体と必要に応じて適当な有機溶媒とを用いる懸濁重合法、水性媒体と乳化剤とを用いる乳化重合法が挙げられ、溶液重合が好ましい。
溶液重合で用いる有機溶媒としては、ペルフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル等が挙げられる。
【0060】
重合温度は、0~100℃が好ましく、20~90℃がより好ましい。
重合圧力は、0.1~10MPaが好ましく、0.5~3MPaがより好ましい。
重合時間は、1~30時間が好ましい。
接着性官能基含有単量体として酸無水物残基含有環状単量体を用いる場合、重合中の酸無水物残基含有環状単量体の割合は、全単量体に対して、0.01~5モル%が好ましく、0.1~3モル%がより好ましく、0.1~2モル%がさらに好ましい。酸無水物残基含有環状単量体の割合が前記範囲内であれば、重合速度が適度である。酸無水物残基含有環状単量体の割合が高すぎると、重合速度が低下する傾向がある。酸無水物残基含有環状単量体が重合で消費されるにしたがって、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給し、酸無水物残基含有環状単量体の割合を前記範囲内に維持することが好ましい。
【0061】
(樹脂B)
樹脂Bは、ポリアリールケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー及び硬化性樹脂の硬化物からなる群から選ばれる樹脂である。
これらの樹脂(硬化性樹脂の硬化物以外)は、フッ素樹脂Aと非相溶性の樹脂であり、フッ素樹脂Aのパウダーと樹脂Bのパウダーの混合物をそれら樹脂の融点以上に加熱して溶融した場合であっても、冷却するとそれら樹脂は分離し均一な混合樹脂とはならない。特に、両樹脂パウダーの配合割合の差が大きくなると配合割合の少ない樹脂が粒子となり、海島構造を有する混合樹脂となる。海島構造の海を構成する樹脂の体積割合は、両樹脂のフッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、99~60体積%であることが好ましく、99~70体積%であることがより好ましい。
なお、樹脂Bが硬化性樹脂の硬化物である場合は、樹脂Bはパウダー粒子のままフッ素樹脂Aと共存する。
【0062】
ポリアリールケトンは、分子内に芳香環、エーテル結合及びケトン結合を有するものである。ポリアリールケトンとしては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」とも記す。)、ポリエーテルケトンケトン(以下、「PEKK」とも記す。)等が挙げられる。ポリアリールケトンとしては、被膜成形性、基材との接着性、入手性の点から、PEEK、PEKKが好ましい。PEEKとPEKKは用途、目的に応じて適宜選択されるが、PEEKを使用した場合には耐摩耗性に優れ、PEKKを用いた場合にはより、表面平滑性にすぐれた被膜を得ることができる。
【0063】
熱可塑性ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを重縮合する際にイミド基以外の熱的な安定な官能基、芳香族原子団を導入してイミド基の割合を低下させたものである。
【0064】
ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジイソシアネートとを重縮合して得られたもの、芳香族酸無水物と芳香族ジイソシアネートとを重縮合して得られたもの等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。芳香族酸無水物としては、無水トリメリット酸等が挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、オルソトリレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0065】
ポリエーテルイミドは、分子内にイミド結合とエーテル結合を有するものである。ポリエーテルイミドとしては、2,2-ビス{4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}プロパン二無水物とm-フェニレンジアミンとを重縮合して得られたもの等が挙げられる。
【0066】
ポリアリーレンスルフィドとしては、-A-S-(ただし、Aはアリーレン基である。)で表される単位を有するものが挙げられる。ポリアリーレンスルフィド中の-A-S-単位の割合は70モル%以上が好ましい。アリーレン基としては、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、アルキル置換フェニレン基、フェニル置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基、アミノ置換フェニレン基、アミド置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルホン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ビフェニレンエーテル基等が挙げられる。ポリアリーレンスルフィドは、架橋型であってもよく、リニア型であってもよい。
【0067】
ポリアリレートとしては、ビスフェノールA等の二価フェノールとテレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とを重縮合して得られたもの等が挙げられる。
ポリスルホンとしては、ビスフェノールAと4,4’-ジクロロジフェニルスルホンとを重縮合して得られたもの等が挙げられる。
ポリエーテルスルホンとしては、ジハロゲノジフェニルスルホンとビスフェノールとを重縮合して得られたもの等が挙げられる。
【0068】
液晶ポリマーとしては、パラオキシ安息香酸-ポリエチレンテレフタレート共重合体、ヒドロキシナフトエ酸-パラオキシ安息香酸共重合体、ビフェノール-安息香酸-パラオキシ安息香酸等の液晶ポリエステル等が挙げられる。
【0069】
硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。熱硬化性ポリイミドの硬化物としては、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸及びその無水物の少なくとも一方とを重縮合して得られたポリイミド前駆体を主成分とするワニスを熱処理したものが挙げられる。
なお、本発明においては、これら硬化性樹脂を硬化したものを樹脂Bとして用いる。硬化前である硬化性樹脂を樹脂Bとして用いても、硬度が低く、耐摩耗性の向上に寄与しない。
【0070】
樹脂Bが硬化性樹脂の硬化物以外である場合、融点は、200℃以上が好ましく、210~400℃がより好ましい。樹脂Bの融点が前記下限値以上であれば被膜の耐熱性が向上する。上限値以下であれば樹脂Bの溶融成形性に優れる。
樹脂Bの比重は、1.1以上が好ましく、1.20~2.0がより好ましく、1.3~2.0がさらに好ましい。樹脂Bの比重が前記下限値以上であれば被膜が耐摩耗性に優れる。上限値以下であればフッ素樹脂Aと均一に混合しやすい。
【0071】
樹脂Bを有機溶剤に溶解して樹脂溶液とし、フッ素樹脂Aのパウダーと混合する場合、フッ素樹脂Aのパウダーが沈降して被膜表面に存在せず、低摩擦性、耐薬品性等のフッ素樹脂の効果を発揮しなくなりやすい。
本発明の製造方法は、樹脂Bもパウダー状とすることで、樹脂Bとフッ素樹脂Aそれぞれの効果を発揮させることができる。
【0072】
(他の成分)
被膜が含んでもよい他の成分としては、紫外線吸収剤、顔料、光安定剤、つや消し剤、界面活性剤、レベリング剤、表面調整剤、脱ガス剤、充填材、熱安定剤、増粘剤、分散剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、防汚剤、低汚染化処理剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤のいずれの紫外線吸収剤も用いることができる。
顔料としては、光輝顔料、防錆顔料、着色顔料及び体質顔料が好ましい。
充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ガラス繊維粉砕粒子、炭素繊維粉砕粒子、有機粒子、無機粒子等があげられる。
【0073】
<粉体組成物>
本発明の積層体の製造方法又は本発明の成形体の製造方法に用いられる粉体組成物は、フッ素樹脂パウダーXと樹脂パウダーYとを含む。
粉体組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフッ素樹脂パウダーX及び樹脂パウダーY以外の他のパウダーを含んでいてもよい。
粉体組成物は、フッ素樹脂パウダーX、樹脂パウダーY、必要に応じて他のパウダーを、所定の体積比となるように混合することによって調製できる。
【0074】
粉体組成物におけるフッ素樹脂パウダーXの体積の割合は、フッ素樹脂パウダーXの体積と樹脂パウダーYの体積との合計に対して、99~1体積%である。フッ素樹脂パウダーXの体積の割合が99体積%以下であれば、被膜の耐摩耗性に優れる。また、被膜を形成する際の発泡が抑えられる。フッ素樹脂パウダーXの体積の割合が1体積%以上であれば、被膜の摺動特性に優れる。
【0075】
粉体組成物におけるフッ素樹脂パウダーXの体積の割合は、フッ素樹脂パウダーXの体積と樹脂パウダーYの体積との合計に対して、99~51体積%であることが好ましく、99~60体積%であることがより好ましく、99~70体積%であることがさらに好ましい。フッ素樹脂パウダーXの体積の割合が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の耐摩耗性に優れる。フッ素樹脂パウダーXの体積の割合が前記範囲の下限値以上でああれば、被膜におけるフッ素樹脂Aによる低摩擦性、耐薬品性等の特性が充分に発揮される。また、前記範囲内において、樹脂パウダーYの体積の割合が増えると、基材と被膜との接着性が向上しやすい。
【0076】
なお、被膜における樹脂Bによる耐摩耗性等の特性を充分に発揮させたい場合は、フッ素樹脂パウダーXの体積と樹脂パウダーYの体積との合計に対して、フッ素樹脂パウダーXの体積の割合を1~51体積%とすることが好ましく、1~40体積%とすることがより好ましく、1~30体積%とすることがさらに好ましい。
【0077】
粉体組成物の体積に対して、フッ素樹脂パウダーXの体積と樹脂パウダーYの体積との合計は、80体積%以上であり、85体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。フッ素樹脂パウダーXの体積と樹脂パウダーYの体積との合計が前記範囲の下限値以上であれば、被膜においてフッ素樹脂Aによる特性が充分に発揮されつつ、被膜の耐摩耗性に優れる。
【0078】
(フッ素樹脂パウダーX)
フッ素樹脂パウダーXは、フッ素樹脂Aを主成分とする樹脂材料Iからなる。
フッ素樹脂Aを主成分とする樹脂材料Iとは、樹脂材料I中のフッ素樹脂Aの割合が80質量%以上であることを意味する。フッ素樹脂Aの割合は、樹脂材料Iに対して85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。フッ素樹脂Aが主成分であれば、被膜においてフッ素樹脂Aによる特性が充分に発揮される。
【0079】
樹脂材料Iに含まれるフッ素樹脂Aは、2種以上であってもよい。
樹脂材料Iは、樹脂Bを含まないことが好ましい。フッ素樹脂A及び樹脂Bを含む樹脂材料は粉砕の際にフィルブリル化しやすいため、樹脂パウダーを製造しにくい。
樹脂材料Iは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフッ素樹脂A以外の成分(ただし、樹脂Bを除く。)をさらに含んでいてもよい。
【0080】
フッ素樹脂パウダーXは、2種以上の樹脂粒子を含むパウダーであってもよい。例えば、第1の樹脂材料Iからなる樹脂粒子と第1の樹脂材料Iとは異なる第2の樹脂材料Iからなる樹脂粒子とを含むフッ素樹脂パウダーであってもよい。第1の樹脂材料Iと第2の樹脂材料Iとは、例えば、フッ素樹脂Aの種類が異なる、フッ素樹脂Aの含有割合が異なる、フッ素樹脂A以外の成分が異なる、等の組成が異なる材料である。
また、フッ素樹脂パウダーXは、2種以上のフッ素樹脂パウダーXを含んでいてもよい。例えば、樹脂材料Iが同一の場合、別々に製造したD50が異なるフッ素樹脂パウダーXの混合物であってもよい。
【0081】
フッ素樹脂パウダーXのD50は、0.01~100μmであり、10~80μmが好ましく、20~50μmがより好ましい。フッ素樹脂パウダーXのD50が前記範囲の下限値以上であれば、被膜の成形性に優れる。フッ素樹脂パウダーXのD50が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の外観に優れる。
【0082】
フッ素樹脂パウダーXは、例えば、下記の方法によって製造できる。
・溶液重合法、懸濁重合法又は乳化重合法によってフッ素樹脂Aを得て、有機溶媒又は水性媒体を除去して粒状のフッ素樹脂Aを回収し、必要に応じて粒状のフッ素樹脂Aを粉砕し、必要に応じて粉砕物を分級する方法。
・フッ素樹脂Aを、必要に応じてフッ素樹脂Aと他の成分とを、溶融混練し、混練物を粉砕し、必要に応じて粉砕物を分級する方法。
【0083】
(樹脂パウダーY)
樹脂パウダーYは、樹脂Bを主成分とする樹脂材料IIからなる。
樹脂Bを主成分とする樹脂材料IIとは、樹脂材料II中の樹脂Bの割合が80質量%以上であることを意味する。樹脂Bの割合は、樹脂材料IIに対して85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。樹脂Bが主成分であれば、被膜の耐摩耗性に優れる。また、被膜における発泡が抑えられる。
【0084】
樹脂材料IIに含まれる樹脂Bは、2種以上であってもよい。
樹脂材料IIは、フッ素樹脂Aを含まないことが好ましい。フッ素樹脂A及び樹脂Bを含む樹脂材料は粉砕の際にフィルブリル化しやすいため、樹脂パウダーを製造しにくい。
樹脂材料IIは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて樹脂B以外の成分(ただし、フッ素樹脂Aを除く。)をさらに含んでいてもよい。
【0085】
樹脂パウダーYは、2種以上の樹脂粒子を含むパウダーであってもよい。例えば、第1の樹脂材料IIからなる樹脂粒子と第1の樹脂材料IIとは異なる第2の樹脂材料IIからなる樹脂粒子とを含む樹脂パウダーYであってもよい。第1の樹脂材料IIと第2の樹脂材料IIとは、例えば、樹脂Bの種類が異なる、樹脂Bの含有割合が異なる、樹脂B以外の成分が異なる、等の組成が異なる材料である。
また、樹脂パウダーYは、2種以上の樹脂パウダーYを含んでいてもよい。例えば、樹脂材料IIが同一の場合、別々に製造したD50が異なる樹脂パウダーYの混合物であってもよい。
【0086】
樹脂パウダーYのD50は、0.01~100μmであり、1~80μmが好ましく、5~50μmがより好ましい、樹脂パウダーYのD50が前記範囲の下限値以上であれば、被膜の耐摩耗性に優れる。また、被膜における発泡が抑えられる。樹脂パウダーYのD50が前記範囲の上限値以下であれば、被膜の外観に優れる。特に、樹脂パウダーYのD50がフッ素樹脂パウダーXのD50よりも小さいと、表面平滑性の面から好ましい。
【0087】
樹脂パウダーYは、例えば、下記の方法によって製造できる。
・溶液重合法、懸濁重合法又は乳化重合法によって樹脂Bを得て、有機溶媒又は水性媒体を除去して粒状の樹脂Bを回収し、必要に応じて粒状の樹脂Bを粉砕し、必要に応じて粉砕物を分級する方法。
・樹脂Bを、必要に応じて樹脂Bと他の成分とを、溶融混練し、混練物を粉砕し、必要に応じて粉砕物を分級する方法。
・硬化性樹脂を、必要に応じて硬化性樹脂と他の成分との混合物を、硬化させて硬化物とし、硬化物を粉砕し、必要に応じて粉砕物を分級する方法。
【0088】
(他のパウダー)
粉体組成物が含んでもよい他のパウダーとしては、フッ素樹脂A以外のフッ素樹脂を主成分とするフッ素樹脂パウダー、樹脂B以外の非フッ素樹脂を主成分とする非フッ素樹脂パウダー、金属パウダー、無機化合物パウダー等が挙げられる。
【0089】
粉体組成物はフッ素樹脂パウダーXと樹脂パウダーYを混合することにより得られる。混合方法は公知の方法が使用できる。
混合時の温度は、フッ素樹脂及び樹脂Bのいずれの融点よりも低い温度が好ましい。前記温度範囲であることにより、混合時に樹脂が溶解せず、均一に混合できる。
【0090】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、基材の表面に粉体組成物を塗布して被膜を形成する方法である。
【0091】
塗布方法としては、溶射法、粉体塗装法、溶媒を用いた分散液での塗工等が挙げられ、装置の簡便性の点から、溶射法又は粉体塗装法が好ましく、粉体塗装法が特に好ましい。
【0092】
粉体塗装法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、ロトライニング、吹付法、スプレー法等が挙げられ、装置の簡便性の点から、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法が好ましい。
【0093】
焼成は、粉体組成物の塗布と同時であってもよく、粉体組成物の塗布の後であってもよく、粉体組成物の塗布及び焼成を繰り返してもよい。
焼成温度は、フッ素樹脂Aの融点以上が好ましく、180~400℃がより好ましく、200~395℃がさらに好ましく、320~390℃が更に好ましい。焼成温度がフッ素樹脂Aの融点以上であることにより、被膜が耐摩耗性に優れる。
中でも、焼成温度がフッ素樹脂Aの融点以上であり、かつ樹脂Bのガラス転移温度もしくは融点以上であると、被膜の外観が優れることから好ましい。
焼成時間は、1~80分間が好ましく、2~60分間がより好ましい。
塗布及び焼成の回数は、1~40回が好ましく、1~30回がより好ましく、1~20回が更に好ましい。
複数回の焼成を行う場合、焼成時間と焼成回数については、目標とする厚みによって適宜選択される。例えば、1回の塗装厚みが20~80μm程度となる場合には、焼成時間は1~20分が好ましく、3~15分が好ましい。
加熱した基材に粉体組成物を塗布、吹付することや、加熱した基材を粉体組成物中に浸漬させること、またロトライニング法により被膜を形成させることもできるが、その際の基材の温度としては、180~400℃がより好ましく、200~395℃がさらに好ましく、320~390℃が更に好ましい。
【0094】
被膜を形成した後に、アニール処理を行うことにより、被膜の耐摩耗性をさらに改良することができる。アニール処理の温度は260~300℃が好ましく、270~290℃がより好ましい。アニール処理の時間は1~48時間が好ましく、12~36時間がより好ましく、20~30時間が更に好ましい。
【0095】
<成形体>
本発明の成形体は、フッ素樹脂A及び樹脂Bを含む。また、成形体は、2種以上のフッ素樹脂Aを含んでいてもよく、2種以上の樹脂Bを含んでいてもよい。
本発明の成形体は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフッ素樹脂A及び樹脂B以外の他の成分を含んでいてもよい。
本発明の成形体の形状、サイズ等は、特に限定はされない。
【0096】
フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、フッ素樹脂Aの体積の割合が99~1体積%である。フッ素樹脂Aの体積の割合が99体積%以下であれば、成形体の耐摩耗性に優れる。また、成形体における発泡が抑えられる。フッ素樹脂Aの体積の割合が1体積%以上であれば、成形体においてフッ素樹脂Aによる特性が充分に発揮される。
【0097】
成形体におけるフッ素樹脂Aの体積の割合は、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、99~51体積%であることが好ましく、99~60体積%であることがより好ましく、99~70体積%であることがさらに好ましい。フッ素樹脂Aの体積の割合が前記範囲の上限値以下であれば、成形体の耐摩耗性に優れる。フッ素樹脂Aの体積の割合が前記範囲の下限値以上であれば、成形体におけるフッ素樹脂Aによる低摩擦性、耐薬品性等の特性が十分に発揮される。
【0098】
なお、成形体における樹脂Bによる耐摩耗性等の特性を充分に発揮させたい場合は、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して、フッ素樹脂Aの体積の割合を1~51体積%とすることが好ましく、1~40体積%とすることがより好ましく、1~30体積%とすることがさらに好ましい。
【0099】
成形体の体積に対して、フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計は、80体積%以上であり、85体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。フッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計が前記範囲の下限値以上であれば、成形体においてフッ素樹脂Aによる特性が充分に発揮されつつ、成形体の耐摩耗性に優れる。
【0100】
成形体におけるフッ素樹脂の体積の割合がフッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して99~60体積%である場合、成形体中に分散している樹脂Bの平均分散粒子径は、10~100μmであり、15~100μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。この場合、フッ素樹脂の体積の割合は99~70体積%であることがより好ましい。樹脂Bの平均分散粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、成形体の耐摩耗性に優れる。樹脂Bの平均分散粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、成形体の外観に優れる。
また、成形体における樹脂Bの体積の割合がフッ素樹脂Aの体積と樹脂Bの体積との合計に対して99~60体積%である場合、成形体中に分散しているフッ素樹脂Aの平均分散粒子径は、10~100μmであり、15~100μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。この場合、樹脂Bの体積の割合は99~70体積%であることがより好ましい。フッ素樹脂Aの平均分散粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、成形体の外観に優れる。フッ素樹脂Aの平均分散粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、成形体の耐摩耗性に優れる。
【0101】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体の製造方法は、粉体組成物を圧縮成形する方法である。
圧縮成形としては、粉体組成物を金型のキャビティに入れ、金型を加熱しながら金型で粉体組成物を加圧する方法が挙げられる。
加熱温度は、フッ素樹脂Aの融点以上が好ましく、180~400℃がより好ましく、200~360℃がさらに好ましい。
圧力は、1~50Paが好ましく、5~20Paがより好ましい。
加圧時間は、1~80分間が好ましく、2~60分間がより好ましい。
【実施例
【0102】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例2、3、5、6、8~13、15~18、20~24、26~43は実施例であり、例1、4、7、14、19、25、44は比較例である。
【0103】
(含フッ素共重合体における各単位の割合)
NAH単位の割合は、赤外吸収スペクトル分析によって求めた。NAH単位以外の単位の割合は、溶融NMR分析及びフッ素含有量分析によって求めた。
【0104】
(赤外吸収スペクトル分析)
含フッ素共重合体をプレス成形して厚さ200μmのフィルムを得た。フィルムを赤外分光法によって分析して赤外吸収スペクトルを得た。赤外吸収スペクトルにおいて、含フッ素共重合体中のNAH単位の吸収ピークは1778cm-1に現れる。この吸収ピークの吸光度を測定し、NAHのモル吸光係数20810mol-1・L・cm-1を用いて、含フッ素共重合体におけるNAH単位の割合を求めた。
【0105】
(融点)
示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、DSC-7020)を用い、含フッ素共重合体を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度(℃)を融点とした。
【0106】
(MFR)
メルトインデクサー(テクノセブン社製)を用い、372℃、49N荷重下で、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間に流出する含フッ素共重合体の質量(g)を測定してMFRとした。
【0107】
(含フッ素共重合体のD50)
上から順に、2.000メッシュ篩(目開き2.400mm)、1.410メッシュ篩(目開き1.705mm)、1.000メッシュ篩(目開き1.205mm)、0.710メッシュ篩(目開き0.855mm)、0.500メッシュ篩(目開き0.605mm)、0.250メッシュ篩(目開き0.375mm)、0.149メッシュ篩(目開き0.100mm)、受け皿を重ねた。一番上の篩に含フッ素共重合体を入れ、30分間振とう器で篩分けした。各篩の上に残った含フッ素共重合体の質量を測定し、各目開き値に対する通過質量の累計をグラフに表し、通過質量の累計が50%となる粒子径を求め、これを含フッ素共重合体のD50とした。
【0108】
(樹脂パウダーのD50)
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用い、樹脂パウダーを水中に分散させ、粒度分布を測定し、樹脂パウダーのD50を算出した。
(樹脂粒子の平均分散粒子径)
前記積層体の被膜及び成形体中に分散している樹脂粒子の「平均分散粒子径」の測定法に従い、測定した。
【0109】
(被膜の外観)
積層体の被膜を目視で観察し、下記基準にて評価した。
○(良) :被膜に発泡が見られない。
×(不良):被膜に発泡が見られる。
【0110】
(耐摩耗性試験1)
試験片の被膜について、テーバー摩耗試験機(安田精機製作所社製、TABER TYPE ABRASION TESTER)を用い、摩耗輪:H22、荷重:1000g(9.8N)、回転数:60回転/分、温度:23℃、湿度:50%RHの条件で摩耗試験を実施した。1000回転後の被膜の質量変化を測定し、体積に換算して被膜の摩耗量とした(摩耗量1)。
(耐摩耗性試験2、動摩擦係数)
試験片の被膜について、オリエンテック社製摩擦摩耗試験機を用いてJIS K-7218に準拠した松原式摩擦測定法(円筒平面型 オーリング型)にて試験を実施した。室温にて、試験片に相手材であるリング(材質:S45Cs(1.5S)、接触面積:2cm2)を圧力:0.69MPa、回転速度:0.5m/sec、試験時間:30分の条件で接触させ、試験片の摩耗量(摩耗量2)、動摩擦係数を測定した。
耐摩耗性試験1と耐摩耗性試験2は、想定する用途によって使い分けられる。なお、本実施例、比較例においては耐摩耗性試験2の方が耐摩耗性の傾向が見えやすい。
(表面平滑性)
試験片の被膜について、小坂研究所製表面粗さ測定器SE-30Hを用いて、表面平滑性(Ra)を測定した。
(剥離強度測定)
試験片の被膜について、表面に、カッターナイフを用いて10mm間隔の切り込みを入れ、被膜層の一部を剥離した後、引張り試験機(エーアンドデイ製 TENSILON UTM4L)のチャックに固定し、引張り速度50mm/分で90度剥離したときの剥離強度(N/cm)を測定した。
【0111】
(フッ素樹脂A)
国際公開第2016/017801号を参照して含フッ素共重合体(A1-1)を製造した。
含フッ素共重合体(A1-1)における各単位の割合は、NAH単位/TFE単位/PPVE単位=0.1/97.9/2.0(モル%)であった。含フッ素共重合体(A1-1)の融点は300℃であり、比重は2.13、MFRは17.6g/10分であった。含フッ素共重合体(A1-1)のD50は1554μmであった。
【0112】
(フッ素樹脂パウダーX)
ローターミル(フリッチュ社製、ロータースピードミルP-14)を用い、回転数1300rpmの条件で粒状の含フッ素共重合体(A1-1)を粉砕した。得られた粉砕物を篩にかけ、篩サイズ0.5mmを通過したものを回収してフッ素樹脂パウダーX-1を得た。フッ素樹脂パウダー(X-1)のD50は22.08μm、比重は2.13であった。
【0113】
(樹脂パウダーY)
樹脂パウダー(Y-1):VICTREX社製、PEEK 150FP、D50:50μm、比重:1.3。
樹脂パウダー(Y-2):ダイセルエボニック社製、PEEK,ベスタキープ2000 UFP20、D50:20μm、比重:1.3。
樹脂パウダー(Y-3):住友化学社製 PES スミカエクセル5003MP、D50:45μm、比重1.37。
樹脂パウダー(Y-4):住友化学社製 PES スミカエクセル4100MP、D50:25μm、比重1.37。
樹脂パウダー(Y―5):ソルベイ社製 PPS Ryton V-1 D50:30μm 比重1.35。
樹脂パウダー(Y-6):SABIC社製 PEI ULTEM1000F3SP-1000 D50:50μm 比重1.27。
樹脂パウダー(Y-7)
アルケマ社製 PEKK樹脂KEPSTAN 6002を、アズワン社製冷凍粉砕機TPH-01により粉砕し、PEKKからなる樹脂パウダー(Y-7)を得た。樹脂パウダー(Y-7)のD50:34μm、比重は1.27であった。
【0114】
(例2、3)
表1に示す配合(体積%)で、チャック付きポリ袋にフッ素樹脂パウダーXを計量し、次いで樹脂パウダーYを計量し、予備混合した。配合(体積%)の計算には、上記の比重を用いた。
全量をジューサーミキサーへ投入し、25℃で30秒間撹拌して粉体組成物を得た。
【0115】
縦125mm、横125mm、厚さ1mmのアルミニウム板(JIS A 5052)の表面に、コロナ帯電式粉体静電塗装機(旭サナック社製、XR3-100DFM)を用い、粉体組成物を静電塗装した。粉体組成物付きのアルミニウム板を精密熱風恒温槽(東上熱学社製)中に吊り下げて330℃で10分間焼成した。静電塗装及び焼成を5回繰り返し、厚さ300μmの試験片を得た。被膜の外観及び耐摩耗性試験1(摩耗量1)の結果を表1に示す。
【0116】
(例5、6、8、9)
焼成温度を変更した以外は、例2、3と同様にして試験片を得た。被膜の外観及び耐摩耗性試験1の結果を表1に示す。
【0117】
(例1、4、7)
粉体組成物の代わりにフッ素樹脂パウダー(X-1)のみを用いた以外は例2、5、8と同様にして試験片を得た。被膜の外観及び摩耗試験の結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
(例10~12)
樹脂パウダー(Y-2)、(Y-3)を用いた以外は例2、3と同様にして試験片を得た。被膜の外観および耐摩耗性試験1の結果を表2に示す。
(例13)
例12で作製した試験片を、丸屋神奈川製 熱風循環乾燥炉MKO-825中に静置して285℃で24時間アニール処理をした。得られた試験片の外観および耐摩耗性試験1の結果を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
(例14~18)
例1、例2と同様に試験片を作製し、耐摩耗性試験2にて摩耗量(摩耗量2)、動摩擦係数を測定し、表面平滑性を測定した。結果を表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
(例19~21)
縦40mm、横150mm、厚さ2mmのSUS304ステンレス鋼板の表面を、60メッシュのアルミナ粒子を用いて、表面粗さRa=5~10μmとなるようサンドブラスト処理した後、エタノールで清浄化し、基材を作製した。フッ素樹脂パウダー(X-1)、樹脂パウダー(Y-2)を表3に示す割合で混合し粉体組成物を得た。コロナ帯電式粉体静電塗装機(旭サナック社製、XR3-100DFM)を用い、粉体組成物を基材に静電塗装した。粉体組成物付きの基材を精密熱風恒温槽(東上熱学社製)中に吊り下げて、例19については340℃で6分間、例20、21については360℃で6分間焼成した。静電塗装及び焼成を5回繰り返し、試験片を得た。得られた試験片の剥離強度を測定した。結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
(例22~24)
表5に示す配合で例2と同様に試験片を作製し、摩耗量2、動摩擦係数を測定した。結果を表5に示す。
(例25、26)
表5に示す配合で、焼成温度を360℃とした以外は例2と同様に試験片を作製し、摩耗量2、動摩擦係数を測定した。結果を表5に示す。
【0126】
【表5】
【0127】
(例27、28)
例19~21と同様に基材を作製した。フッ素樹脂パウダー(X-1)、樹脂パウダー(Y-2)を表6に示す割合で混合し粉体組成物を得た。コロナ帯電式粉体静電塗装機(旭サナック社製、XR3-100DFM)を用い、粉体組成物を基材に第1層として静電塗装した。粉体組成物付きの基材を精密熱風恒温槽(東上熱学社製)中に吊り下げて、340℃で10分間焼成した。ついで、第2層としてフッ素樹脂パウダー(X-1)または、市販フッ素樹脂パウダーMP-102(Dupont社製)を同様に静電塗装し、340℃で5分間焼成した。第2層の静電塗装及び焼成を3回繰り返し、試験片を得た。試験片は、ステンレス鋼板/第1層/第2層の構成になっている。得られた試験片の、ステンレス鋼板と第1層との間の剥離強度を測定した。結果を表6に示す。
【0128】
【表6】
【0129】
(例29~32)
例19~21と同様に基材を作製した。フッ素樹脂パウダー(X-1)と樹脂パウダー(Y-5)、(Y-6)を表7に示す割合で混合し、粉体組成物を得た。焼成温度、時間、回数を表7に示す条件に変更した他は、例19~21と同様の操作を行い、試験片を得た。得られた試験片について、塗膜の外観、および剥離強度を測定した。結果を表7に示す。
【0130】
【表7】
【0131】
(例33~35)
例19~21と同様に基材を作製した。フッ素樹脂パウダー(X-1)と樹脂パウダー(Y-7)を表8に示す割合で混合し、粉体組成物を得た。焼成温度、時間、回数を表8に示す条件に変更した他は、例19~21と同様の操作を行い、試験片を得た。得られた試験片について塗膜の外観、および剥離強度を測定した。結果を表8に示す。
【0132】
【表8】
【0133】
例(37~43)
表9に示す配合で、焼成温度を340℃に変更した他は例2と同様に試験片を作製し、摩耗量2、動摩擦係数を測定した。結果を表9に示す。
【0134】
【表9】
【0135】
(例44)
未硬化のエポキシ樹脂である、三菱ケミカル社製エポキシ樹脂1007を冷凍粉砕し、平均粒径28μmのエポキシ樹脂からなる粉体を得た。
例2の樹脂パウダー(Y-1)の代わりに前記エポキシ樹脂からなる粉体を用いた他は例2と同様に粉体組成物を得た。前記粉体組成物を例2と同様に被膜形成したが、被膜の摩耗量(mm3)(摩耗量1)は14.2であり、例1と比べて耐摩耗性の改善は見られなかった。
【0136】
表1から、樹脂パウダーYを含まない例1は耐摩耗性が低く、例4、例7に至っては塗膜に発泡が見られ耐摩耗性の測定もできなかったことがわかった。これに対して、例2、3、5、6、8、9は被膜の外観、耐摩耗性、いずれも優れることがわかった。
表2から、例12と例13の比較から、アニール処理により、耐摩耗性が更に向上することがわかった。
表3、表9から、樹脂Bの種類を変更しても、耐摩耗性向上や低摩耗性向上の効果は変わらないことが確認できた。
なお、表3の例15~18から、樹脂パウダーYのD50が小さい方がより表面平滑性が優れることがわかった。
表4から、樹脂Bを含まない例19は、樹脂Bを含む例20、21に比べて剥離強度が低く、接着性が低いことがわかった。
また、樹脂Bの量が増えることにより、接着性がより高くなることもわかった。
表5から、フッ素樹脂Aを含まない例25は、フッ素樹脂Aを含む例22~24、26に比べて動摩擦係数が高く低摩擦性に劣るとともに、耐摩耗性も劣ることがわかった。
表6から、本発明の積層体の被膜は、その上に第2層を設けても、基材との接着性が良好であることがわかった。
表7、8から、焼成の条件を変えても、剥離強度が高く、接着性に優れる積層体が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の製造方法で得られた積層体は、建築用外装部材(アルミニウムコンポジットパネル、カーテンウォール用アルミニウムパネル、カーテンウォール用アルミニウムフレーム、アルミニウムウィンドウフレーム)、半導体の製造工程部品、食品の製造工程部品、摺動部品(自動車、航空機等輸送機器用摺動部品、家電用摺動部品、産業機械用摺動部品)、軸受部品、熱交換器等として有用である。
なお、2018年02月23日に出願された日本特許出願2018-030922号、2018年05月29日に出願された日本特許出願2018-102664号及び2018年09月05日に出願された日本特許出願2018-166293号の明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0138】
10 積層体、
12 基材、
14 被膜。
図1