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特許7259845拡散素子、照明モジュールおよび非球面レンズの加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】拡散素子、照明モジュールおよび非球面レンズの加工方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/02 20060101AFI20230411BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20230411BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G02B3/02
G02B3/00 Z
G02B5/02 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020510942
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012947
(87)【国際公開番号】W WO2019189225
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018058867
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】小野 健介
(72)【発明者】
【氏名】浜田 剛
(72)【発明者】
【氏名】南 賢一
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】西坂 拓馬
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-38314(JP,A)
【文献】特開2007-101833(JP,A)
【文献】特開2016-170912(JP,A)
【文献】特開2012-14018(JP,A)
【文献】特開2008-26437(JP,A)
【文献】特開2005-239515(JP,A)
【文献】特開2005-283993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00- 3/14
G02B 5/00- 5/136
C03C15/00
C03C19/00
C03C23/00
F21V 3/00- 3/04
F21V13/02
F21Y115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板に前処理を施す前処理工程と、
前記前処理が施された前記ガラス基板にウェットエッチングを施すエッチング工程とを備え、
前記前処理工程は、パルスレーザー光を前記ガラス基板のある位置に照射して前記ガラス基板内部の一部領域を改質させて、少なくとも前記パルスレーザー光を照射した位置において厚さ方向に密度分布を発生させる工程を含
前記ガラス基板の非球面レンズが加工される側の面を第1面とし、前記第1面を0基準、前記パルスレーザー光の進行方向を+側としたとき、前記パルスレーザー光が、-0.290~+0.075mmの範囲内に焦点位置を有する、
非球面レンズの加工方法。
【請求項2】
前記前処理は、前記ガラス基板の面内の複数の位置において行われる、
請求項1に記載の非球面レンズの加工方法。
【請求項3】
前記ウェットエッチングは、レジストマスクを用いずに行われる、
請求項1または2に記載の非球面レンズの加工方法。
【請求項4】
前記パルスレーザー光は、対物レンズを介して前記ガラス基板に照射される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の非球面レンズの加工方法。
【請求項5】
前記ガラス基板の前記非球面レンズが加工される側の面を第1面とし、前記第1面と反対側の面を第2面としたとき、
前記パルスレーザー光は、前記ガラス基板の前記第2面側から照射される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の非球面レンズの加工方法。
【請求項6】
前記パルスレーザー光は、パルス幅が10ps以下であり、かつパワーが5.0W以上である、
請求項1~のいずれか一項に記載の非球面レンズの加工方法。
【請求項7】
前記前処理を行う位置に応じて、前記パルスレーザー光の焦点位置、照射時間およびパワーからなる群から選ばれる少なくとも一つのパラメータを変化させる、
請求項1~のいずれか一項に記載の非球面レンズの加工方法。
【請求項8】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の一方表面に直接加工された複数の凹型の非球面レンズとを備え、
前記非球面レンズは前記ガラス基板の表面の少なくとも有効領域において隙間なく配置されており、
前記非球面レンズの最大サイズが250μm以下であり、
前記非球面レンズの面精度が0.1μm以下であり、
平行光をレンズが加工された面から前記有効領域に対して入射したときの出射光束の広がり角である拡散角が全角で30°以上である、
拡散素子。
【請求項9】
前記非球面レンズの最大傾斜角が30°以上である、
請求項に記載の拡散素子。
【請求項10】
前記非球面レンズの各々は、正面視において同心円状の波紋模様を有する、
請求項8または9に記載の拡散素子。
【請求項11】
光源と、
前記光源を実装する実装基板と、
前記光源の上方に配され、拡散機能を有する窓部材とを備え、
前記窓部材が、請求項10のいずれか一項に記載の拡散素子を有する、
照明モジュール。
【請求項12】
前記窓部材は、拡散機能を発現する拡散面が下向きに備えられており、
前記光源と前記窓部材の拡散面との距離が0.3mm以下である、
請求項11に記載の照明モジュール。
【請求項13】
前記光源から放射される光の波長が800~1000nmである、
請求項11または12に記載の照明モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非球面レンズの加工方法に関する。また、本発明は、拡散素子およびそれを用いた照明モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
拡散素子は様々な光学装置に用いられている。一例として、照明装置や、3次元計測を行う計測装置が挙げられる。
【0003】
このような光学装置の中には、近赤外光や紫外光などの目に見えない光を使用するものがある。例えば、スマートフォン等において顔認証やカメラ装置の焦点合わせに用いられるリモートセンシング装置、ゲーム機等と接続されてユーザの動きを捉えるために用いられるリモートセンシング装置、車両等において周辺物体を検知するために用いられるLIDAR(Light Detecting and Ranging)装置などが挙げられる。また、植物の育成や除菌の目的で、紫外光や青紫光や青色光などの高エネルギー光を照射する照明装置などが挙げられる。
【0004】
近年、このような光学装置において、入射光の進行方向に対して大きく異なる出射角で光を照射させることが求められている。一例として、スマートフォンなどにおいてカメラ装置の焦点合わせ用途や、屋内外に設置される近赤外監視カメラにおいて周辺物体を検知する計測装置や、VR(Virtual Reality)のヘッドセットにおいて障害物や指などの周辺物体を検知する用途等に用いられる照明装置や計測装置では、カメラ装置の画角や人間の視野角に応じて、拡散角(全角)が30°以上や、50°以上といった広い角度範囲への光照射が望まれている。
【0005】
レンズの屈折作用を利用すると、入射した光をある範囲に広げて照射できる。さらに、レンズアレイを用いることで、入射光束内の光量分布を均一化して出射できる。
【0006】
非特許文献1には、マイクロレンズアレイを利用した拡散素子の一例として、波長633nmのレーザー光源に対して100°以上の発散角を実現した拡散素子の例が記載されている。非特許文献1では、ガラス基板上に均一な厚さでフォトレジスト(感光性ポリマー)を積層した上で、レーザービームの強度を走査中に変調しながら該レジストを小さな集束ビームでポイントごとに露光することにより、フォトレジストへの露光度を変化させている。その結果、深さのある連続した凹凸構造を有する表面を得ることができる。なお、特許文献1には、このような拡散素子の製造に利用されるレーザーの書き込みシステムの一例が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、実施例の拡散角は10°程度であるが、放物面形状のマイクロレンズが隙間なく配置されたマイクロレンズアレイを有する拡散素子の例が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、無機材料の拡散板およびその製造方法の一例として、透明基板上に積層されたレジストをグレースケールマスクにより露光し、その後現像して、ドライエッチングにより該レジストのパターンを透明基板の表面に転写する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献4には、非球面のマイクロレンズのレンズ曲面の作製方法の一例として、等方性エッチングと異方性エッチングとを組み合わせた方法が記載されている。当該文献に記載の方法は、レジストとマスクを介した基板にパターニングを施して初期穴を開孔し、その後レジストを介してマスクに等方性エッチング処理を施してマスクの開口部を広げる。その後、レジストを除去した上で、開口部が広げられたマスクを介して基板に対して異方性エッチング処理を施して掘り込み穴を開孔する。その後、掘り込み穴が設けられた基板に対して等方性エッチングを施し、凹部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第6410213号明細書
【文献】日本国特表2006-500621号公報
【文献】日本国特開2017-83815号公報
【文献】日本国特開2007-171858号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Michael Morris et al., “Engineered diffusers for display and illumination systems: Design, fabrivation, and applications”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
課題は、耐熱性や、紫外線を含む高エネルギー光耐性(すなわち、紫外光耐性や青紫光耐性や青色光耐性)が高いガラスで広角(例えば、全角で30%以上)の光照射を実現しようとした場合、加工の困難性から実現が困難であるか、加工精度の低さから所望の光学特性(特に、照射平面における光強度の均一性)が得られない点にある。
【0013】
レンズ面の形状が球面である球面レンズを用いて拡散角(全角)が30°以上の広角の拡散素子を作製した場合、出射光束の光量分布は中心が強く周辺が弱い不均一の光量分布となる(図19の(a)参照)。一方、レンズ面の形状が放物面などの非球面である非球面レンズを用いて同様の広角拡散素子を作製した場合、出射光束の光量分布を均一にできる(図19の(b)参照)。
【0014】
なお、マイクロレンズアレイを用いれば、アレイ構造によって入射光束内の光量の均一化が可能であるが、個々のレンズの出射光束の光量分布に不均一が生じていると、各レンズの出射光束の重ね合わせである素子からの出射光束の光量分布にも不均一が生じてしまう。この問題は、照射範囲が広角の場合はより顕著に現れる。
【0015】
このように、広い角度範囲に均一照射が可能な拡散素子を考えた場合、個々のレンズ形状は非球面が好ましい。しかし、一般に出射角の広角化に伴い、境界部分(最外周部)の傾斜が鋭角になるとともにサグ量も増加する。一例として、拡散角が30°以上となる非球面レンズを考えると、少なくとも20μm以上のサグ量が必要となる。
【0016】
なお、ドライエッチングを利用すれば、異方性エッチングが可能であることから、基材表面を非球面形状に加工できる。加工方法としては、前述のグレースケールマスクを用いてフォトレジストの非球面レンズアレイを形成した後ドライエッチングする方法や、金型を用いて樹脂インプリントを行った後ドライエッチングする方法があげられる。
【0017】
しかし、ドライエッチングは、レンズのサグ量が増加して(例えば、5μm以上)、境界部分が鋭角化すると、精度良く加工することが困難になる。一例として、ドライエッチングを利用してサグ量の大きいレンズ形状を加工した場合、鋭角でなければいけない境界部分が削れて鈍角化してしまう問題がある(図20参照)。これはレンズアレイの境界の鋭角部分においてエッチングガスによる加工レートが局所的に大きくなることによるものである。図20の(a)は所望の非球面形状を表し、図20の(b)は加工後の非球面レンズの形状を表している。なお、この場合はレンズアレイの材料は石英ガラスである。また、図20の(b)は凹レンズアレイであるが、凸レンズアレイの場合は、レンズアレイの境界の鋭角部までエッチングガスの加工が及ばないので加工レートが局所的に小さくなる。いずれの場合も、ドライエッチングは鋭角の境界部分(図20の(b)のα参照)を精度良く加工するのが困難である。
【0018】
一方、ウェットエッチングでは、エッチングが等方的に進行するため、そのまま施すだけでは球面レンズしか加工できない。
【0019】
このような加工の困難性から、個々のレンズのサグ量が20μm以上となるようなマイクロレンズアレイを作製する場合、金型を用いる方法や、屈折マイクロレンズを等価回折マイクロレンズに転換するなどのアプローチなどが多くとられている(例えば、特許文献2参照)。
【0020】
なお、非特許文献1の記載によれば、レーザーの書き込みシステムを用いると個々のレンズのサグ量が20μm以上となるような非球面のマイクロレンズアレイであっても高精度に作製できるとある。しかし、特許文献1等に記載のレーザーの書き込みシステムは、ガラス基板上に樹脂性の凹凸構造が形成されるPoG(polymer on glass)構成の拡散素子にしか適用できず、ガラス基板に直接マイクロレンズアレイを加工することはできない。なお、特許文献2にもガラス基板に直接加工する方法などは開示されておらず、やはりPoG構成を前提としていると考えられる。
【0021】
PoG構成の場合、使用環境によって耐熱性や紫外線を含む高エネルギー光耐性が問題となる。
【0022】
例えば、光学装置に対する小型化や薄型化の要望に伴い、光学装置に含まれる照明モジュールの薄型化が要求される場合がある。照明モジュールの薄型化が進むと、光源と照明モジュール内で該光源からの光を拡散させる拡散素子との距離が近くなり、拡散素子の周囲環境が高温になることが考えられる。また、光源と拡散素子との距離に関わらず、光源の高出力化に伴い、拡散素子の周囲環境が高温になることも考えられる。また、動作時の周囲環境に限らず、拡散素子と光源とを一体化したモジュールを電子基板にリフローなどで実装する場合など、装置の実装過程で拡散素子の周囲環境が高温になることも考えられる。
【0023】
また、このような照明モジュールが自動車に搭載される場合には、非常に厳しい耐環境性能が要求される。例えば、高温試験として150℃1000時間、高温高湿試験として85℃85%RH1000時間、ヒートサイクル試験として-55℃から125℃500サイクルなどが挙げられる。この場合、レンズには耐熱性のみならず、低吸湿性や照明モジュール材料との熱膨張率が略等しいことも求められる。
【0024】
さらに、使用される光は近赤外光・可視光に限られない。例えば、紫外光や青紫光や青色光を用いる場合には、それら高エネルギー光の照射に伴う光学部材の劣化による光学特性の劣化も考慮する必要がある。
【0025】
一般に、樹脂材料はガラス材料に比べて耐熱性および高エネルギー光耐性に劣り、また吸湿性も大きい。一般的なPoG構成の拡散素子の耐熱温度(Maximum Temperature)は120℃程度であるが、熱膨張率の小さい材料として知られるホウケイ酸ガラスなどであれば、耐熱温度は200℃以上にもなる。この場合の耐熱温度とは、常用使用温度のことを指す。したがって、そのような周囲環境に置かれる可能性がある場合には、樹脂材料を用いずに耐熱性や高エネルギー光耐性の高いガラス材料のみで素子が構成されることが好ましい。
【0026】
しかし、ガラス基板の表面に対して、非球面でかつサグ量の深いマイクロレンズアレイを直接加工しようとすると、次のような問題がある。すなわち、ガラス基板は、ドライエッチングレートが非常に遅く、また結晶ではないため結晶異方性エッチングが利用できない問題がある。
【0027】
例えば、特許文献3には、グレースケールマスクを利用することでガラス基板の表面を、球面以外のレンズ形状に加工する方法が記載されているが、拡散素子の拡散角(全角)に相当する半値全幅(FWHM:full width at half maximum)が最大でも10°しかない。これはレンズアレイの境界の鋭角部分においてエッチングガスによる加工レートが局所的に大きくなることによるものと思われる。また、大きい拡散角を得ようとすると、レンズの深さが深くなるため、ドライエッチング工程における加工時間が長くなり生産性の観点からも好ましくない。
【0028】
なお、特許文献4に記載の方法によれば、工程数は増えるが、ガラス基板の表面を非球面のレンズ形状に加工できる。しかし、特許文献4に記載の方法は、異方性エッチングを利用しており、材料が石英に限定されるなどの問題がある。
【0029】
さらに、ドライエッチング工程で形成した階段状の形状を、なめらかな非球面形状にするためには、ウェットエッチングの加工量を大きくする必要があり、結果として拡散角が小さくなってしまう問題がある。
【0030】
また、石英のウェットエッチング工程における加工レートは、ホウケイ酸ガラス、クラウンガラスと比較して、かなり小さいため、生産性の観点からも好ましくない。
【0031】
本発明は、そのような課題に鑑みて、ガラス基板の表面に直接、広角(例えば、拡散角(全角)が30°以上)への照射が可能な非球面レンズを精度良く加工できる非球面レンズの加工方法を提供することを目的とする。また、本発明は、広角への照射が可能で、かつ耐熱性や紫外光耐性の優れた拡散素子およびそのような拡散素子を備える照明モジュールを、高精度かつ生産性高く提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明による非球面レンズの加工方法は、ガラス基板に前処理を施す前処理工程と、前記前処理が施された前記ガラス基板にウェットエッチングを施すエッチング工程とを備え、前記前処理工程は、パルスレーザー光を前記ガラス基板のある位置に照射して前記ガラス基板内部の一部領域を改質させて、少なくとも前記パルスレーザー光を照射した位置において厚さ方向に密度分布を発生させる工程を含前記ガラス基板の前記非球面レンズが加工される側の面を第1面とし、前記第1面を0基準、前記パルスレーザー光の進行方向を+側としたとき、前記パルスレーザー光が、-0.290~+0.075mmの範囲内に焦点位置を有することを特徴とする。
【0033】
また、本発明による拡散素子は、ガラス基板と、前記ガラス基板の一方表面に直接加工された複数の凹型の非球面レンズとを備え、前記非球面レンズは前記ガラス基板の表面の少なくとも有効領域において隙間なく配置されており、前記非球面レンズの最大サイズが250μm以下であり、前記非球面レンズの面精度が0.1μm以下であり、平行光をレンズが加工された面から前記有効領域に対して入射したときの出射光束の広がり角である拡散角が全角で30°以上であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明による照明モジュールは、光源と、前記光源を実装する実装基板と、前記光源の上方に備えられる拡散機能を有する窓部材とを備え、前記窓部材が、本発明による拡散素子を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ガラス基板の表面に直接、広角拡散可能な非球面レンズを精度良く加工できる非球面レンズの加工方法を提供できる。また、本発明によれば、広角への照射が可能で、かつ耐熱性や紫外光耐性の優れた拡散素子およびそのような拡散素子を備える照明モジュールを、高精度かつ生産性高く提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、第1の実施形態にかかる非球面レンズの加工方法の例を示す説明図である。
図2図2は、エッチング工程後に得られた非球面レンズ2の断面図および上面図である。
図3図3は、エッチング過程におけるプロセス依存性を示す説明図である。
図4図4は、エッチング過程におけるプロセス依存性を示す説明図である。
図5図5は、第1の実施形態の加工方法により得られた複数の非球面レンズ2を備える拡散素子10の例A-2~A-6における配光特性の測定結果を示すグラフである。
図6図6は、第1の実施形態の加工方法により得られた複数の非球面レンズ2を備える拡散素子10の例B-1~B-6における配光特性の測定結果を示すグラフである。
図7図7の(a)は、表1で示した各例におけるレーザー焦点位置Lと拡散角および中心強度の関係を示すグラフである。図7の(b)は、表2で示した各例におけるレーザー焦点位置Lと拡散角および中心強度の関係を示すグラフである。
図8図8は、第1の実施形態の加工方法により得られた非球面レンズ2の断面形状を示すグラフである。
図9図9は、第1の実施形態の加工方法により得られた拡散素子10を用いた照明モジュール100の例を示す構成図である。
図10図10は、第2の実施形態の設計思想の概略を示す説明図である。
図11図11は、第2の実施形態にかかる非球面レンズの加工方法の例を示す説明図である。
図12図12の(a)はサンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程における加工結果の例を示すグラフ、図12の(b)はサンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程後にウェットエッチングを行って得た非球面レンズ2の断面形状を示すグラフである。
図13図13は、サンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程後にウェットエッチングを行って得た拡散素子10によって照射される光のある照射平面の光強度分布を示すグラフである。
図14図14は、例1-1の拡散素子10の上面図である。
図15図15は、例1-1のレーザー顕微鏡による観察画像である。
図16図16は、例1-5、例1-23に対する光線追跡シミュレーションによって計算された光強度分布を示すグラフである。
図17図17は、比較例1、比較例2に対する光線追跡シミュレーションによって計算された光強度分布を示すグラフである。
図18図18は、例1-5の拡散素子10を照射モジュール100に適用した場合の配光シミュレーションの計算結果を示すグラフである。
図19図19は、球面レンズと非球面レンズの出射光束の光量分布の例を示す説明図である。
図20図20は、非球面レンズの形状精度の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施形態1
以下、図面を参照して本発明の実施形態の例について説明する。図1は、本実施形態にかかる非球面レンズの加工方法の例を示す説明図である。当該方法は、例えば、拡散素子を作製するために使用される。
【0038】
図1に示す例では、まず、非球面レンズ2を加工したいガラス基板1に対して高出力のパルスレーザー光3を照射して、ガラス基板1内部の一部の領域を改質させる(図1の(a):レーザー改質工程)。パルスレーザーは短い時間の中にエネルギーを集中させることができるため、連続発振のレーザーと比較して高いピーク出力を得ることができる。
【0039】
レーザー改質工程では、レーザーから照射される強力な光による電場を利用して、ガラス基板1の媒質中に高次の非線形分極(多光子吸収、自己収束、自己位相変調等の非線形光学効果)を誘起させる。以下の式(1)は、非線形光学効果としての屈折率ηの光強度I[W/m]依存性を表す。ここで、ηは線形屈折率、γは非線形屈折率、nは非線形分極の次数を表す。また、以下では、光強度Iの単位を[W/m]とするが、より具体的には単位面積あたりのポインティングベクトルの時間平均値で与えられるものとする。
【0040】
【数1】
【0041】
強い入射光が媒質に入射されると、媒質中には入射光の電場により、線形分極に加えて、光と媒質が強く相互作用する非線形分極が誘起される。誘起される非線形分極は電場の高次の項に比例するとされている。一般に、ガラス材料のような等方的媒質中では偶数次の項は中心対称性により消滅するため、ガラス材料が内因的に有する最低次の項は三次の非線形分極となる。なお、3次の非線形分極による屈折率変化は光Kerr効果とも呼ばれる。ここで、式(1)の係数γが正のとき、ビーム中心部分の光強度が強いために、屈折率は中心部分で高くなり、凸レンズとして作用する。このような作用は、自己収束(Self-Focusing)と呼ばれる。媒質中でレーザービームが自己収束により絞り込まれると、その部分(高密度領域)において強度がさらに高くなる。強度が閾値を超えるとダメージとなるが、強度を調整することでガラス基板1内部の一部領域(例えば、図中の点線で囲んだ領域(改質領域)11等)を改質(密度変化もしくはクラックの発生)させることができる。
【0042】
密度変化が起こる原理は厳密には解明されていないが、実験を繰り返し得られたデータ、特に当該工程後のウェットエッチング工程において発現する現象(すなわち、異方性)を解析した結果、おそらく媒質中の上記高密度領域での多光子吸収過程において、密度分布が発生したものと考えられる。一般に、屈折率や吸収係数等の光学定数は、入射される光の電場強度が弱いときは定数とみなすことができるが、パルスレーザー光3を集光するケースのように、光強度が高くなる場合は、光強度に依存して変化する。このような現象は非線形光学現象と呼ばれる。非線形光学現象を利用することにより、従来の弱い光に対して透明であった物質でも、光の強度が高くなる領域において局所的に吸収を発生させることができる。光吸収が発生する箇所では、励起状態での電子衝突により生じる高圧プラズマなどの影響により局所的に高温となってガラス転移点を超え、その後(パルス光照射であるため)急冷される。このような過程により、ガラス基板1内部に密度分布が発生すると考えられる。
【0043】
本工程では、そのようなガラス基板1内部に密度分布を生じさせることができる強度および周波数をもつレーザー光をガラス基板1に照射することにより、ガラス基板1内部の一部領域を改質させる。より具体的には、ガラス基板1の厚み方向の特定の部分でレーザー強度が所定の閾値以上となるように、レーザーのパワーおよびパルス幅を調整して照射する。レーザーのパワーは、例えば、注入電力により調整すればよく、5.0W以上が好ましい。なお、パルス幅は、照射後急冷させる必要があることから、20ps以下が好ましく、10ps以下がより好ましい。また、パルス幅の下限は、特に限定されないが、例えば、1ps以上であってもよい。
【0044】
参考までに示すと、simphotek社が公開しているシミュレーションソフト(SimphoSOFT(登録商標))のデータによれば、シリカ中で自己収束が得られる最小パワーPcrは1.836λ/(4ηηγ)、約3MWとされている。図1の(a)に示すように、本実施形態では、対物レンズ31を用いて、パルスレーザー光3から高強度電場を作り出す。以下、説明のため、このようなレーザー照射により密度変化が生じた領域を、改質領域11と呼ぶ場合がある。
【0045】
本加工方法においてターゲットとして用いられるガラス基板1は、入射するパルスレーザー光3の波長に対して高い光透過性を有する必要がある。例えば、厚さ10mmにおける内部透過率が好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上である。パルスレーザー光3の波長において吸収係数の大きい材料(例えば、0.00001以上)を用いると、熱吸収に伴うガラスアブレーション過程が発生してしまい、上述したような改質効果が期待できないためである。また、非線形感受率については特に限定されないが、加工後のレンズにおいて要求される特性(例えば、使用波長に対する光透過性や耐熱性や高エネルギー光耐性等)を有することを前提とする。レーザー光3の波長は、特に限定されないが、1026nm、1064nmおよび532nm等が挙げられる。
【0046】
レーザー改質工程では、このようなパルスレーザー光3を、ガラス基板1面内において非球面レンズを加工したい位置(xy平面上の位置)に合わせて照射する。例えば、パルスレーザーを非球面レンズの光軸位置と重なるように位置合わせした上で、レーザー照射を行う。なお、本実施形態では、このようなパルスレーザー光3を、非球面レンズを形成したい面fとは反対側の面f(対向面)側から照射している。
【0047】
図1の(a)の吹き出しに、加工したい非球面レンズ2のレンズ面21と改質領域11との位置関係の概略イメージを示す。なお、当イメージはあくまで概略的なものであり、実際に加工される非球面レンズ2のレンズ面21の形状は、ガラス基板1の材質の非線形感受率、レーザー光の強度および焦点位置、並びに後段のエッチング工程におけるエッチング時間といった複合的な要素により決定される。
【0048】
このとき、レーザー光の焦点位置(線形光学により計算される焦点位置)は、レーザー光の入射面とは対向側の面fよりも外側であってもよい。すなわちガラス基板1の厚さをh、レーザー光の入射面(図中のf)と線形光学により計算されるレーザー焦点位置との距離をL(以下、単に“レーザー焦点位置L”という)とした場合、L>hであってもよい。そのような場合であっても実験の結果、ガラス基板1内に改質の効果(すなわち、ウェットエッチングの異方性)が認められた。なお、レーザー照射を行う基板の向きは上記に限定されず、凹型の非球面レンズの凹部に相当する領域内に少なくとも改質領域11を生じさせることができればよい。
【0049】
レーザー改質工程では、加工したい非球面レンズ2の数だけ、ガラス基板1の面内における当該非球面レンズ2を形成したい位置に対応させて、レーザー照射を行えばよい。このとき、非球面レンズごとにレーザー照射のプロファイル(例えば、レーザー焦点位置Lや照射時間(パルス幅やショット数)、パワー)を変化させてもよい。
【0050】
レーザーの照射位置は、ガラス基板1を可動ステージに乗せ駆動することによって調整可能であるが、この方式に限定するものではない。他の方式の例として、レーザーの光路を調整する方法があり、光路中にガルバノミラーとテレセントリックfθレンズを設置することによっても実現できる。
【0051】
レーザー改質工程が完了した後、ウェットエッチングを行う(図1の(b)~(c):エッチング工程)。エッチング工程では、所望の非球面形状となるよう予め定めておいた所定のエッチング時間分、等方性エッチング処理を行ってよい。エッチング工程では、非球面レンズ2を加工したい位置に合わせて開口を有するレジストパターンを有するマスク(レジストマスク)を形成する工程が含まれていてもよいが、仮にそのようなマスクを形成しなくても良好な非球面形状を得ることが可能である。なお、マスクは上記のような開口を有するもの以外に、有効領域外を覆うようなマスク等を形成することも可能である。
【0052】
本実施形態のエッチング工程では、等方性のエッチング処理を行うが、事前のレーザー改質工程における改質効果により、エッチングに異方性(具体的には、厚み方向のエッチング量の増加)が生じる。その結果、ガラス基板1表面を非球面形状に加工できる。図1の(d)では、エッチング工程後に得られる非球面レンズ2の例とともに、本加工方法によって得られる拡散素子10の例を示している。本例の拡散素子10は、ガラス基板1の一方の面内の少なくとも有効領域内において複数の非球面レンズ2が隙間なく加工されている。
【0053】
図2に、エッチング工程後に実際にガラス基板1表面に加工された非球面レンズ2の断面図および上面図を示す。図2に示すように、本実施形態の加工方法によれば、様々な形状の非球面レンズ2を、ガラス基板1の表面に直接加工できる。
【0054】
また、図3および図4に、エッチング過程におけるプロセス依存性(特に、レーザー焦点位置Lに対するエッチング挙動)を示す。なお、図3では、1mm厚のガラス基板1に対して、5倍の対物レンズ31を介して、パルス幅10ps、周波数75kHz、波長1026nm、パワー5.25Wのパルスレーザー光3を非球面レンズ2の形成位置に対して1shot照射してレーザー改質を行った3つの例(例A-1~A-3)に対するエッチング結果を示している。なお、例A-1~A-3では、各非球面レンズに対応する位置でのレーザー焦点位置Lをそれぞれ、+1.025、+1.050、+1.075mmとした。また、図4は、1mm厚のガラス基板1に対して、同様のパルスレーザー光を10倍の対物レンズ31を介して照射してレーザー改質を行った3つの例(例B-1~B-3)に対するエッチング結果を示している。なお、例B-1~B-3では、各非球面レンズに対応する位置でのレーザー焦点位置Lをそれぞれ、+0.75、+0.76、+0.77mmとした。なお、いずれの例も拡散角(全角)が70°近傍となるような非球面レンズを、X方向のピッチPx=100μm、Y方向のピッチPy=80μmで並べた拡散素子を設計例としている。また、ガラス基板1として、ショット社製ホウケイ酸ガラスD263Tecoを用いた。なお、当該ガラス材料の技術データは、以下の通りである。
【0055】
・面粗さ:1nmRMS未満
・視感透過率 TvD65(t=1.1mm):91.7%
・平均線形熱膨張係数:7.2×10-6-1
・ガラス転移温度Tg:557℃
・誘電定数ε(1MHz時):6.7
・D線屈折率n:1.5230
・密度ρ(40℃/h アニール条件):2.51g/cm
【0056】
なお、ガラス基板1に用いられるガラス材料は、上記のホウケイ酸ガラスに限定されるものではなく、例えば、耐熱性を備えたテンパックス、パイレックス(登録商標)や、B270iなどのクラウンガラスや、石英などでもよい。
【0057】
図3に示すように、例えば、例A-1では、約300分間の等方性エッチングで非球面レンズ2が得られた。また、例A-2,A-3では、約240~300分間の等方性エッチングで非球面レンズ2が得られた。また図4に示すように、例B-1~B-3では、約240~300分間の等方性エッチングで非球面レンズ2が得られた。
【0058】
ところで、図2図4に示す例からもわかるように、本実施形態の加工方法により得られる非球面レンズ2のレンズ面には、正面視において同心円状の多段の波紋模様を形成するわずかな段差が確認されたが、いずれも問題ないレベルであった。
【0059】
以下に、本実施形態の加工方法により得られた非球面レンズによる配光特性の測定結果をいくつか示す。
【0060】
図5の(a)~(e)は、上記の加工方法により得られた複数の非球面レンズ2を備える拡散素子10の例A-2~例A-6における配光特性の測定結果を示すグラフである。例A-2~例A-6はそれぞれ、5倍の対物レンズを介してパルスレーザー光を照射してレーザー改質させた後にエッチングをして得られた拡散素子10の例である。なお、例A-4~A-6では、各非球面レンズに対応する位置でのレーザー焦点位置Lをそれぞれ、+1.100、+1.125、+1.150mmとした。なお、他の点は例B-1~B-3と同じである。なお、図5の(a)~(e)では、所定の照射平面において、x=0の位置(中心)におけるy軸方向断面視の光強度分布を実線で示し、y=0の位置(中心)におけるx軸方向断面視の光強度分布を破線で示している。
【0061】
表1に、例A-2~例A-6の拡散角および照射面での中心強度の測定結果を示す。なお、ここで中心強度は、所定の照射面での光強度分布における最強強度(max強度)で規格化している。なお、表1には、上記の例A-2~A-6に加えてそれらと同じプロファイルのパルスレーザー光を同一箇所に2shot照射した例である例A-2’~A-6’の測定結果も併せて示している。なお、いずれの例もエッチング時間は300分とした。
【0062】
【表1】
【0063】
また、図6の(a)~(f)は、上記の加工方法により得られた複数の非球面レンズ2を備える拡散素子10の例B-1~B-6における配光特性の測定結果を示すグラフである。なお、例B-1’~B-6’はそれぞれ、10倍の対物レンズを介してパルスレーザー光を同一箇所に2shot(2パルス分)照射してレーザー改質させた後にエッチングをして得られた拡散素子10の例である。例B-1’~B-6’では、各非球面レンズに対応する位置でのレーザー焦点位置Lをそれぞれ、+0.750、+0.760、+0.770、+0.780、+0.790、+0.800mmとした。なお、他の点は例B-1~B-3と同じである。なお、図6の(a)~(f)でも、所定の照射平面において、所定の照射平面において、x=0の位置(中心)におけるy軸方向断面視の光強度分布を実線で示し、y=0の位置(中心)におけるx軸方向断面視の光強度分布を破線で示している。
【0064】
表2に、例B-1’~例B-6’の拡散角および照射面での中心強度の測定結果を示す。なお、ここで中心強度は、所定の照射面での光強度分布における最強強度(max強度)で規格化している。なお、表2には、上記の例B-1’~B-6’に加えてそれらと同じプロファイルのパルスレーザー光を1shotのみ照射した例である例B-1~B-6の測定結果も併せて示している。なお、いずれの例もエッチング時間は180分とした。
【0065】
【表2】
【0066】
また、図7の(a)、(b)に、表1および表2に示した各例におけるレーザー焦点位置Lと拡散角および中心強度の関係を示す。図7の(a)は、表1で示した各例におけるレーザー焦点位置Lと拡散角および中心強度の関係を示すグラフである。なお、図7の(a)において、点線は1shotのパルス照射によるレーザー改質を行った例A-2~A-6の測定結果であり、実線は2shotのパルス照射によるレーザー改質を行った。
例A-2’~A-6’の測定結果である。図7の(a)に示すように、レーザー焦点位置Lが大きくなる程、拡散角が狭くなる傾向がわかる。また、レーザー焦点位置Lが大きくなる程、中心強度が高くなる(すなわち図5のグラフにおける中心の窪みが浅くなる)傾向がわかる。なお、同一箇所にパルスを照射した効果は見られなかった。
【0067】
図7の(b)は、表2で示した各例におけるレーザー焦点位置Lと拡散角および中心強度の関係を示すグラフである。なお、図7の(b)において、点線は1回のパルス照射によるレーザー改質を行った例B-1~B-6の測定結果であり、実線は2回のパルス照射によるレーザー改質を行った例B-1’~B-6’の測定結果である。図7の(b)に示す例では、拡散角及び中心強度に関して、レーザー焦点位置L依存性は見られなかった。なお、本例では、同一箇所にパルスを2shot照射した効果として、中心強度においてレーザー焦点位置Lのシフト性(1shotのパルス照射の場合と比較して、より小さい値でのレーザー焦点位置Lの特性を示す傾向)が見られた。
【0068】
また、上記の加工方法により得られる複数の非球面レンズ2から構成されるマイクロレンズアレイの特徴として、ドライエッチング等の異方性エッチング処理を施して得られる複数の非球面レンズから構成されるマイクロレンズアレイと比較して、境界部(図1の(d)のα参照)の鋭角性が維持される点が挙げられる(図3、4、8等参照)。図8は、上記の加工方法により得られたある非球面レンズ2の断面形状を示すグラフである。例えば、実際のガラス基板に対して行った実験結果によれば、ドライエッチングの場合、設計時の境界部分における傾斜角(最大傾斜角)が29.1°以上になると、実際の加工後に得られたレンズの境界部分において鈍角化がみられた。一方、本加工方法によれば、最大傾斜角40~60°であっても高精度に加工できた。このように、本加工方法によれば、ウェットエッチングを用いることで、最大傾斜角が30°以上の非球面レンズも加工可能である。なお、これらの最大傾斜角は、例えば、レンズの最大サイズが250μm以下のマイクロレンズに対しても有効な数字である。例えば、図8に示す例では、各レンズのサイズが100μm程度のマイクロレンズアレイにおいて、最大傾斜角68°を実現できている。最大傾斜角は、特に限定されるものではないが、70°以下が望ましい。これは、傾斜角が70°を超えると、マイクロレンズアレイ上の反射防止膜の設計が難しくなるからである。また、マイクロレンズアレイの非球面形状の製造公差も厳しくなる。また、各レンズのサイズは、ウェットエッチングの加工公差の観点から20μm以上が望ましい。
【0069】
また、上記の加工方法により得られる非球面レンズ2の他の特徴として、階段状の初期穴等を形成した上でウェットエッチング等の等方性エッチング処理を施して得られる非球面レンズと比較して、底辺部(図1の(d)のβ参照)に平坦部が形成されないもしくは形成されても当該領域が小さい点が挙げられる(図3図4等参照)。
【0070】
このような特徴を有することから、本実施形態の加工方法を利用すれば、広範囲(例えば、拡散角が30°以上)への照射が可能であるとともに、周囲の光強度に比べて中心強度が突出して高くなるような不均一な光量分布ではなく、中心強度が比較的抑えられた拡散素子10を得ることも可能である。
【0071】
また、図9は、本実施形態の加工方法により得られた拡散素子10を用いた照明モジュール100の例を示す構成図である。本実施形態の加工方法によれば、ガラス基板1の表面に直接、放物面に近い形状で、かつ拡散角30°以上を実現可能な曲率半径Rを有する複数の非球面レンズ2を少なくとも有効領域内において隙間なく加工することができる。そのため、例えば、図9に示すような照明モジュール100の窓部材に適用すれば耐熱性に優れた窓部材とできる。窓部材が高い耐熱性を有していれば、例えば、光源5と窓部材としての拡散素子10との距離を近づけることができ、照明モジュールの低背化が可能になる。例えば、図に示す構成で、h=0.3mm、h=0.3mm、h=1mm程度であっても実現可能である。また、窓部材が高い耐熱性を有することにより、供給先で照明モジュール100をリフローでアセンブリしたい等の要望にも応えられる。
【0072】
一例として、光源5として3.5mm角のVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)アレイを有する照明モジュール100を考える。このような照明モジュール100において、拡散素子10としては、拡散角30°以上、レンズアレイのピッチが100μm程度以下(入射ビーム径1mm程度を想定)で、かつリフロー耐熱性を有することが望まれる。なお、拡散素子10は、強度分布均一化のために、コーニック係数が-1近傍であることが好ましい。本実施形態の加工方法によれば、そのような拡散素子10を容易にかつ高い加工精度で得ることができる。なお、リフロー耐熱性は通常のガラス材料であれば十分備えている。
【0073】
このとき、拡散素子10は、ガラス基板1の表面に直接、放物面形状の非球面レンズ2が複数、隙間なく加工された構成であってもよい。その場合において、各々の非球面レンズ2のレンズ形状は、以下の式(2)で示す式において、k=-1となる形状に対してフィッティングした際、形状差のRMS(root mean square)値が0.1μm以下であるとより好ましい。以下、この形状、すなわちk=-1となる形状との形状差のRMS値が0.1μm以下である形状も放物面と呼ぶ。また、以下では、このような所望の形状の非球面式との形状差のRMS値を、非球面レンズの面精度と呼ぶ場合がある。
【0074】
【数2】
【0075】
式(2)において、zはレンズのサグ量、rは光軸からの動径距離、Rは曲率半径、kはコーニック係数を表している。なお、式(2)は一般の非球面式における全ての非球面高次係数を0にしたものに相当する。この場合、コーニック係数k<-1の場合に双曲面、k=-1の場合に放物面、-1<k<0、k>0の場合に楕円面、k=0の場合に球面となる。放物面形状が所望形状の場合、各々の非球面レンズ2のレンズ形状が、式(2)において、コーニック係数がk=-1となるようなレンズ形状であればよい。
【0076】
なお、実際のレンズ形状を測定した結果、非球面係数が0でない場合には、レンズ面の形状を式(2)で示す式でフィッティングする。
【0077】
さらに、拡散素子10は、熱膨張係数が、実装基板4や枠材6と大きく異ならないのが好ましく、例えば、0~300℃で(70±10)×10-7[/K]程度が好ましい。したがって、照明モジュール100の窓部材に適用される拡散素子10のガラス基板1を選ぶ際は、上記の条件に加えて、熱膨張係数が上記範囲にあるものがより好ましい。また、照明モジュール100において、凹レンズのレンズアレイを有する拡散素子10を窓部材とする場合であって特に広角拡散板として作用させる場合は、レンズ形成面(図1でいうf)が下向き(すなわち、光入射側)になるように実装するとより好ましい。
【0078】
実施形態2
次に、本発明の第2の実施形態の例について説明する。第1の実施形態で図3および図4によりエッチング過程の一部を示したが、エッチングの結果、特に放物面に近い非球面レンズ2が得られる際には、エッチング過程中(例えば、例A-1~A-3のエッチング時間が120~180分の時点付近や、例B-1~B-3のエッチング時間が60~120分時点付近等)にエッチングによる加工形状が楔型になっているのが確認された。
【0079】
図10は、本実施形態の設計思想の概略を示す説明図である。図10の(a)には、所望の非球面形状としての放物面形状の例が示されている。今、図10の(a)に示す所望の非球面形状から等方性のエッチング加工を逆行させることを考える。図10の(b)には、そのような所望の非球面形状から等方性のエッチング加工を逆行させていく様子が示されている。すると、図10の(c)に示すように楔形の凹み部22が出来上がる。図10の(a)~(c)は、ガラス基板1の表面を、そのような楔形の凹み部22に加工することができれば、所望の非球面形状を得ることができることを表している。
【0080】
図11は、本実施形態にかかる非球面レンズの加工方法の例を示す説明図である。本実施形態の加工方法は、上述の設計思想に基づいて、ガラス基板1の表面に対して、まず所望の非球面形状から等方性のエッチング過程を逆行して得られる楔形状を有する凹み部22を加工する(図11の(a):楔形状加工工程)。ここで、凹み部22の楔形状は、V字形状のように先端が尖った形状が好ましいが、ガラス基板1の表面において開口部をなす上端が広く、下方に向かってだんだん狭くなるような形状であればいずれの形状でもよい。このとき、図11の(a)に吹き出しで示すように、凹み部22の下端をなす先端部において、基板面と略平行となる平坦部が含まれていてもよい。ただし、平坦部の幅Wbは2μm以下が好ましい。
【0081】
また、凹み部22は、その形状を式(2)でフィッティングしたときのコーニック係数k’が、最終的に加工したい非球面レンズ2のコーニック係数kの値よりも小さい値となる楔形状とするのが好ましい。ここで、非球面レンズ2のコーニック係数kは、所望の非球面レンズ2のレンズ面21の面形状を式(2)でフィッティングした後の値でもよい。一例として、所望の非球面レンズ2のレンズ面21の形状が放物面(コーニック係数k=-1)であれば、凹み部22の形状を式(2)でフィッティングしたときのコーニック係数k’が、k’<-1となるような楔形状とするのが好ましい。後段のウェットエッチングによって楔形状の傾斜よりも加工後の非球面レンズ2の傾斜が滑らかになる(鈍角化する)ためである。
【0082】
楔形状加工工程でも、ガラス基板1の表面上に加工したい非球面レンズ2の数だけ、ガラス基板1の面内において非球面レンズ2を形成したい位置に凹み部22を加工する。このとき、形成位置ごとに、対応する非球面レンズ2のレンズ面21の形状に合わせて楔形状加工時のプロファイルを変化させてもよい。
【0083】
楔形状加工工程が完了した後、ウェットエッチングを行う(図11の(b):エッチング工程)。エッチング工程では、所望の非球面形状となるよう予め定めておいた所定のエッチング時間分、等方性エッチング処理を行えばよい。
【0084】
図11の(c)では、本実施形態のエッチング工程後に得られる非球面レンズ2の例とともに、ガラス基板1の一方の面上に複数の非球面レンズ2が隙間なく加工された拡散素子10の例を示している。
【0085】
このように、本実施形態によっても様々な形状の非球面レンズ2が得られる。特に、凹み部22において所望の楔形状が得られれば、最終的に得られる非球面レンズ2についても高い形状精度が得られる。
【0086】
ガラス基板1に対する楔形状の加工方法としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0087】
・サンドブラスト加工(マイクロブラスト加工)
・ダイサーハーフカット加工
・ドライエッチング
・ドリル加工
【0088】
サンドブラスト加工を利用すると、砥粒の吹き付けによる脆性破壊原理により、微細な立体加工が可能になる。例えば、楔形状の凹み部22を形成したい位置に合わせて開口を有するレジストパターンマスクをガラス基板1の表面上に形成した後、砥粒を圧縮エアーを使用して高速で被加工物であるガラス基板1表面に噴射することにより、微細加工を行う。
【0089】
このとき、砥粒の大きさ(粒径)は、楔形状の尖度向上(先端の鋭角化)のため、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましいが、ガラス基板1の材料によってはこの限りではない。また、砥粒は小さいほど好ましいが、1μm以上が入手容易であり好ましい。
【0090】
サンドブラスト加工を利用した楔加工工程では、砥粒の大きさ以外に、加工時間(吹き付け時間)、エアー圧力、レジスト穴径、吹き付け位置(例えば、先端に集中させる等)等を調整して、所望の楔形状を得る。
【0091】
図12の(a)は、サンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程における加工結果の例を示すグラフである。図12の(a)では、ブラスト加工の加工条件を変えた5つの例C-1~C-5によるブラスト加工の結果得られた凹み部22の断面形状を表している。なお、各例の加工条件は表3の通りである。
【0092】
【表3】
【0093】
また、図12の(b)は、サンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程後にウェットエッチングを行って得た非球面レンズ2(より具体的には、ガラス基板1上で凹レンズアレイを構成する複数の非球面レンズ2)の断面形状を示すグラフである。図12の(b)に示す例では、レンズ底部で傾斜が緩くなる領域がみられるが、境界部の鋭角性は良好に保たれているのがわかる。なお、レンズ底部での傾斜が鈍角化すると、その部分に照射した光が拡散されにくいため、照射平面における中心領域の強度が他の領域と比べて高くなることが考えられる(後述の図13の(b)参照)。このような中心強度が問題となる場合には、該鈍角化を防ぐ対策として、凹み部22を形成する際に先端部の尖りが鈍らないようにすればよい。一例として、先端部に向けて噴射させる砥粒を多くするなど、砥粒の集中度を高めてもよい。
【0094】
また、図13の(a)は、サンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程後にウェットエッチングを行って得た拡散素子10に平行光を入射したときの、ある照射平面での光強度分布図であり、図13の(b)は当該照射平面における一軸方向(Y軸方向)での光強度の測定結果を示すグラフである。ここで、拡散素子10は、より具体的には、サンドブラスト加工を利用した楔形状加工工程後にウェットエッチングを行って得た複数の非球面レンズ2を有するガラス製の拡散素子10である。なお、図13の(b)に示すように、本例の拡散素子10は、中心強度が他の領域に比べて高くなってはいるが、拡散角はほぼ50°となっており、広角拡散を実現している。
【0095】
一般に、サンドブラスト加工は、加工形状の自由度が高く、拡散角の設計自由度を高くできる。例えば、サンドブラスト加工によって凹み部22を加工した場合、エッチング後の非球面レンズ2においてX方向およびY方向の拡散角(全角)が50°以上といった広角のレンズ面形状も容易に加工できる。また、例えば、縦横比(開口部の直径wに対する深さhtbの比htb/w)が2以上といったような鋭利な楔形状の凹み部22も加工できる。また、サンドブラスト加工は、擦る・削るといった物理的な工法による加工のため、加工対象物の素材が限定されないという利点がある。
【0096】
ダイサーハーフカット加工は、ダイシングブレードを利用して、ガラス基板1表面を切削する際、ガラス基板1を下面までカットせずに切れ目を入れる加工である。このようなダイシングブレードによるハーフカット技術を利用しても、楔形状の凹み部22を加工できる。
【0097】
ドライエッチングを利用した楔形状の加工方法は、例えば、グレースケールマスクを用いたドライエッチングを行うことで、楔形状を加工できる。なお、ドライエッチングで非球面レンズ2を加工すると、基板面または隣り合う非球面レンズ2との境界部付近の傾斜が鈍角になるなど形状精度が良くない。しかし、楔形状の凹み部22をまずドライエッチングで加工した上で、ウェットエッチングにより非球面レンズ2に加工することで、高い形状精度で非球面レンズ2を加工できる。
【0098】
ドリル加工は、先端が鋭利なドリルを用いてガラス基板1の表面を切削する方法である。非球面レンズの大きさによっては、ドリル加工でも楔形状の凹み部22を加工できる。
【0099】
このように、本実施形態の加工方法によっても、ガラス基板1の表面に直接、広範囲(例えば、拡散角が30°以上)への照射が可能な拡散素子10を得ることができる。また、得られた拡散素子10を、例えば、上記の図9に示すような照明モジュール100の窓部材に適用すれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0100】
なお、上記各実施形態では、レーザー改質工程を含む方法と、楔形状加工工程を含む方法とを別々の加工方法として示したが、上記2つの工程を、いずれもウェットエッチングの最中もしくは前段階でガラス基板1の表面に楔形状の凹み部22を発現させるための工程とみなすことも可能である。
【0101】
すなわち、本発明の非球面レンズの加工方法は、前処理工程とその後のエッチング工程の主に2つの工程を有し、前処理工程で、その後のエッチング工程の最中またはエッチング工程が始まる前にガラス基板1の表面に所定の楔形状の凹みを発生させるために、ガラス基板に対してレーザー改質を行うか、またはガラス基板の表面に対して化学的もしくは物理的な工法を利用して所定の楔形状の凹み部を形成することを特徴とする。また、ガラス基板の面内に複数の非球面レンズを加工する場合、前処理は、ガラス基板の面内の複数の非球面レンズの形成位置に対応する複数の位置において行われてもよい。
【実施例
【0102】
次に、実施例を用いて上記の実施形態についてより具体的に説明する。以下に示す例1-1~1-25はそれぞれ、上記の第1の実施形態の加工方法を用いて得られた拡散素子10の例である。各例の拡散素子10は、図1の(d)に示すように、ガラス基板1の一方表面に直接、複数の凹型の非球面レンズ2から構成される凹レンズアレイが加工される構成である。
【0103】
表4に、各例で異なる加工条件および作製された拡散素子10が備える1つの非球面レンズ2に対して行ったフィッティング結果を示す。
【0104】
【表4】
【0105】
各例の拡散素子10はそれぞれ、次のようにして作製した。まず、ガラス基板1として、およそ3cm角のショット社製ホウケイ酸ガラスD263Tecoで形成される厚さ1mmtの両面研磨基板を準備した。次いで、当該ガラス基板1を、XYZ方向に駆動できるステージにセットする。このとき、レーザーは、ステージに対して上側から任意の位置に照射可能である。ステージ上のガラス基板1に対して、X方向およびY方向の格子状に等間隔ピッチで照射を行った。照射に用いたレーザー光のプロファイルは、次の通りである。すなわち、波長1026nmのパルスレーザーであり、パルス幅は10ps、繰り返し周波数は75kHzである。
【0106】
上記のレーザー光を、対物レンズに入射して、ガラスの厚み方向の特定の部分のみでレーザー光の電場強度が高くなるようにした。対物レンズは、5倍または10倍のレンズを採用した。本例では、レーザー光のパワーについて、多光子吸収過程(より具体的にはそれに伴って基板1内部に密度分布が形成される過程)が発生するように、注入電力を調整した。本例のプロファイルではレーザー光の出力は5.25Wであった。各例における他の照射条件(焦点位置Lおよびレンズ倍率)は上記の表4に示すとおりである。
【0107】
このようなパルスレーザー光による照射を、ガラス基板1の非球面レンズ2の各形成位置に対して1shot照射した後、当該ガラス基板1を、5%フッ化水素酸溶液中に投入してウェットエッチングを実施した。このとき、フッ化水素酸は25℃とし、エッチング溶液の濃度分布を最小限に抑制すべく、マグネットスターラーで撹拌を行った。なお、改質前のガラス基板1に対する加工レートは、0.39μm/minであった。
【0108】
所定のエッチング時間経過後、ガラス基板1を取り出し、各例の拡散素子10を得た。レーザーが照射された箇所はガラス材料の密度が薄くなると考えられるため、ウェットエッチングの加工レートが、照射されていない箇所に比べて大きくなる。そのため、上記のような工程、すなわちガラス基板1の厚さ方向の一部領域に対して上述したような超短パルスレーザーの高密度電場を形成するレーザー改質工程を経ることで、ガラス基板1の表面に直接凹レンズアレイを作製することができる。このようにして、ガラス基板1上に直接、複数の凹型の非球面レンズ2から構成される凹レンズアレイが形成された各例の拡散素子10を得た。
【0109】
図14は、上記方法で作製された例1-1の拡散素子10の上面図である。なお、図14は、拡散素子10の凹レンズアレイが形成された面の対向面(上記の面fに相当)側から見た図である。
【0110】
得られた各例の拡散素子10の凹レンズアレイに対してレーザー顕微鏡を用いて形状測定を行った。その上で、ある1つの非球面レンズ2の対角方向(図15参照)に対して、中心を通るようにプロファイルを切り出し、上記の式(2)にてフィッティングを行った。フィッティングパラメータには、曲率半径Rとコーニック係数kの2つを用いた。また、フィッティングには最小二乗法を用いた。
【0111】
上記の表4には、加工条件とともに、各例で得られた非球面レンズ2の形状を示すフィッティング結果である曲率半径Rとコーニック係数kも併せて示している。表4に示すように、例えば、例1-5や例1-23では、コーニック係数k=-1に近い非球面レンズ2を得ることができている。
【0112】
次に、例1-5および例1-23に対して光線追跡シミュレーションを実施した。なお、比較例として、同じサイズのガラス基板1に同じ加工ピッチPxおよびPy、並びに同じ曲率半径Rをもつ球面形状(コーニック係数k=0)の凹レンズアレイを有する拡散素子を想定した。各例の設定条件およびコーニック係数は表5の通りである。
【0113】
【表5】
【0114】
各拡散素子への入射光はFWHMが0.5mm径の光線とし、波長940nm、入射ビーム形状は円形ガウシアン形状とした。また、光入射面側を拡散面(すなわち、凹レンズアレイが形成される面)とした。なお、凹レンズアレイ加工後のガラス基板1の厚みは0.3mmtとした。入射面から、100mm後方での光強度分布を、各例の曲率半径およびコーニック係数を用いて計算した。
【0115】
図16の(a)、(b)、図17の(a)、(b)はそれぞれ例1-5、例1-23、比較例1、比較例2の光線追跡シミュレーションによって計算された光強度分布を示すグラフである。例1-5および例1-23では、矩形の照射平面に対して均一照射が実現できているのがわかる。これに対して、比較例1は照射範囲が極端に狭く拡散性が発現していない。また、比較例2は、光強度分布が不均一であり、また照射範囲も4辺の中央部に対して4隅が突出した形状となっており矩形からずれている。なお、例1-5の拡散角は72°(全角)、例1-23の拡散角は53.5°(全角)であった。
【0116】
また、図18は、例1-5の拡散素子10を、面発光レーザーアレイを有する照射モジュール100(図9参照)に適用した場合の配光シミュレーションの計算結果を示すグラフである。面発光レーザーアレイ(光源5)は、エミッターが11×11配置されており、エミッター間ピッチは50μmとした。エミッターと拡散素子10との距離(図9のhに相当)は0.4mm、拡散素子10の板厚(図9のhに相当)は0.4mmtとした。また、光源の発散角はFWHMで10°とした。
【0117】
図18は、本例の照射モジュール100によって照射される光のある照射平面上の強度分布の計算結果である。なお、図18では、拡散素子10の拡散面(拡散素子10における光入射面)から10mm後方にある照射平面での強度分布を計算した。図18に示すように、強度分布のカットオフ性は平行光入射(図16の(a))に対して悪化しているもののフラットトップ分布は維持できていることがわかる。本例において拡散素子10から出射される光の発散角は73.0°(全角)であった。
【0118】
なお、上記の実施形態および実施例では、レーザー改質工程におけるレーザーの焦点位置Lを、パルスレーザー光の入射面である面fを0基準として示していたが、レーザーの焦点位置は、非球面レンズを加工する側の面fを0基準として示すことも可能である。以下、面fを0基準にすれば、ガラス基板1の厚みによらずに、形成したい非球面レンズのレンズ形状との関係を示すことができる。例えば、上記の例1-5のレーザー焦点距離L=1.075mmは、面fを基準にすれば、レーザー焦点距離+0.075mmということができる。また、例えば、上記の例1-23のレーザー焦点距離L=0.710mmは、面fを基準にレーザー焦点距離-0.290mmということができる。
【0119】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。本出願は、2018年3月26日出願の日本特許出願2018-058867に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、耐熱性や高エネルギー光耐性を必要とする環境において特に広範囲に光を照射したい用途に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 ガラス基板
11 改質領域
10 拡散素子
100 照明モジュール
2 非球面レンズ
21 レンズ面
22 凹み部
3 パルスレーザー光
31 対物レンズ
4 実装基板
5 光源
6 枠材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20