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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】含フッ素共重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/26 20060101AFI20230411BHJP
   C08F 210/06 20060101ALI20230411BHJP
   C08F 214/18 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08F214/26
C08F210/06
C08F214/18
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020549471
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038322
(87)【国際公開番号】W WO2020067492
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018184229
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 智子
(72)【発明者】
【氏名】巨勢 丈裕
(72)【発明者】
【氏名】服部 裕紀子
(72)【発明者】
【氏名】米田 利一
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-160616(JP,A)
【文献】特表2013-545860(JP,A)
【文献】特開平05-222130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/26
C08F 210/06
C08F 214/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位と下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に基づく単位とを有する含フッ素共重合体、又はフッ化ビニリデンに基づく単位と下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に基づく単位とを有する含フッ素共重合体であって、
かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する、含フッ素共重合体。
CF =CFOCF CF OCF CF OCF CF ・・・式1-1
CF =CFOCF CF OCF OCF OCF ・・・式1-2
【請求項2】
テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位と下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に基づく単位とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する含フッ素共重合体である、請求項1に記載の含フッ素共重合体。
CF =CFOCF CF OCF CF OCF CF ・・・式1-1
CF =CFOCF CF OCF OCF OCF ・・・式1-2
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記化合物に基づく単位の合計モル数に対して、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位の割合が、35~65モル%であり、前記プロピレンに基づく単位の割合が、20~50モル%であり、前化合物に基づく単位の割合が、2~15モル%であり、
前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記化合物に基づく単位の合計質量に対して、前記化合物に基づく単位の割合が、10~50質量%である、請求項1又は2に記載の含フッ素共重合体。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記化合物に基づく単位の合計モル数に対する前記化合物に基づく単位の割合X1モル%と、前記含フッ素共重合体のガラス転移温度Y1℃とが、Y1/X1≦-0.8を満足する、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体。
【請求項5】
2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体に基づく単位をさらに有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体。
【請求項6】
フッ化ビニリデンに基づく単位と下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に基づく単位とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する含フッ素共重合体である、請求項1に記載の含フッ素共重合体。
CF =CFOCF CF OCF CF OCF CF ・・・式1-1
CF =CFOCF CF OCF OCF OCF ・・・式1-2
【請求項7】
さらに他の単量体に基づく単位を有する、請求項6に記載の含フッ素共重合体。
【請求項8】
前記フッ化ビニリデンに基づく単位及び前化合物に基づく単位の合計モル数に対して、前記フッ化ビニリデンに基づく単位の割合が、86~96モル%であり、前記化合物に基づく単位の割合が、4~14モル%であり、
前記フッ化ビニリデンに基づく単位及び前記化合物に基づく単位の合計質量に対して、前記化合物に基づく単位の割合が、10~50質量%である、請求項6に記載の含フッ素共重合体。
【請求項9】
前記フッ化ビニリデンに基づく単位、前記化合物に基づく単位及び他の単量体に基づく単位を含む場合は前記他の単量体に基づく単位の合計モル数に対する前記化合物に基づく単位の割合X2モル%と、前記含フッ素共重合体のガラス転移温度Y2℃と、前記含フッ素共重合体の構成単位のうち前記化合物に基づく単位以外の単位を有する含フッ素共重合体のガラス転移温度Y3℃とが、(Y2-Y3)/X2≦-0.8を満足する、請求項6~8のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体。
【請求項10】
前記他の単量体が、ヘキサフルオロプロピレンである、請求項7又は9に記載の含フッ素共重合体。
【請求項11】
前記他の単量体が、2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体である、請求項7又は9に記載の含フッ素共重合体。
【請求項12】
貯蔵せん断弾性率G’が、10~800kPaである、請求項1~11のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体。
【請求項13】
前記含フッ素共重合体の質量に対して、ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が、0.01~5.00質量%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の含フッ素共重合体。
【請求項14】
テトラフルオロエチレンとプロピレンと下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む単量体成分、又はフッ化ビニリデンと下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む単量体成分、を重合する含フッ素共重合体の製造方法であって、
重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる、含フッ素共重合体の製造方法。
CF =CFOCF CF OCF CF OCF CF ・・・式1-1
CF =CFOCF CF OCF OCF OCF ・・・式1-2
【請求項15】
フッ化ビニリデンと下式1-1で表される化合物及び下式1-2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と他の単量体とを含む単量体成分を重合する含フッ素共重合体の製造方法であって、
重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる含フッ素共重合体の製造方法。
CF =CFOCF CF OCF CF OCF CF ・・・式1-1
CF =CFOCF CF OCF OCF OCF ・・・式1-2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、耐熱性、耐薬品性、耐油性、耐候性等に優れるため、汎用ゴムを適用できない過酷な環境下での用途に適している。
フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデンに基づく単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを有する共重合体(FKM)、テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位とを有する共重合体(FEPM)が知られている。
フッ素ゴムを低温下で使用するために、フッ素ゴムの低温におけるゴム物性(以下、低温特性とも記す。)を改良することが求められている。
【0003】
低温特性が改良されたFEPMとしては、下記のものが提案されている。
テトラフルオロエチレンに基づく単位を50モル%以上60モル%未満、プロピレンに基づく単位を10モル%以上40モル%未満、CH=CHO(CH(CFF(ただし、mは2であり、nは5又は6である。)に基づく単位を10モル%以上40モル%未満含み、ガラス転移温度が-30~-7℃である含フッ素共重合体(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5407180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ素ゴムは、機械特性(引張強度、高温下での圧縮永久歪特性等)等を向上させるために、通常、フッ素ゴムに架橋剤、架橋助剤等を配合した組成物を架橋した架橋物として用いられる。しかし、特許文献1に記載の含フッ素共重合体は、ヨウ素原子等の架橋性部位を有しないため、架橋性に課題がある。
【0006】
含フッ素共重合体の架橋性を向上させるためには、含フッ素共重合体を構成する単量体の重合時にヨウ素原子を有する連鎖移動剤を用いて、含フッ素共重合体にヨウ素原子を導入することが考えられる。しかし、特許文献1に記載の含フッ素共重合体を構成する単量体の重合時にヨウ素原子を有する連鎖移動剤を用いると、CH=CHO(CH(CFFが共重合しにくい。そのため、得られる含フッ素共重合体の低温特性が不充分となる。
【0007】
本発明は、フッ素ゴムとして低温特性及び架橋性に優れる含フッ素共重合体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位と下式1で表される化合物に基づく単位とを有する含フッ素共重合体、又はフッ化ビニリデンに基づく単位と下式1で表される化合物に基づく単位とを有する含フッ素共重合体であって、
かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する、含フッ素共重合体。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
<2>テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位と下式1で表される化合物に基づく単位とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する含フッ素共重合体である、前記<1>に記載の含フッ素共重合体。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
<3>前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位の割合が、35~65モル%であり、前記プロピレンに基づく単位の割合が、20~50モル%であり、前記式1で表される化合物に基づく単位の割合が、2~15モル%であり、
前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計質量に対して、前記式1で表される化合物に基づく単位の割合が、10~50質量%である、前記<1>又は<2>に記載の含フッ素共重合体。
<4>前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対する前記式1で表される化合物に基づく単位の割合X1モル%と、前記含フッ素共重合体のガラス転移温度Y1℃とが、Y1/X1≦-0.8を満足する、前記<1>~<3>のいずれかに記載の含フッ素共重合体。
<5>2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体に基づく単位をさらに有する、<1>~<4>のいずれかに記載の含フッ素共重合体。
<6>フッ化ビニリデンに基づく単位と下式1で表される化合物に基づく単位とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する含フッ素共重合体である、前記<1>に記載の含フッ素共重合体。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
<7>さらに他の単量体に基づく単位を有する、前記<6>に記載の含フッ素共重合体。
<8>前記フッ化ビニリデンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して、前記フッ化ビニリデンに基づく単位の割合が、86~96モル%であり、前記式1で表される化合物に基づく単位の割合が、4~14モル%であり、
前記フッ化ビニリデンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計質量に対して、前記式1で表される化合物に基づく単位の割合が、10~50質量%である、前記<6>に記載の含フッ素共重合体。
<9>前記フッ化ビニリデンに基づく単位、前記式1で表される化合物に基づく単位及び前記他の単量体に基づく単位を含む場合は他の単量体に基づく単位の合計モル数に対する前記式1で表される化合物に基づく単位の割合X2モル%と、前記含フッ素共重合体のガラス転移温度Y2℃と、前記含フッ素共重合体の構成単位のうち前記式1で表される化合物に基づく単位以外の単位を有する含フッ素共重合体のガラス転移温度Y3℃とが、(Y2-Y3)/X2≦-0.8を満足する、前記<6>~<8>のいずれかに記載の含フッ素共重合体。
<10>前記他の単量体が、ヘキサフルオロプロピレンである、前記<7>又は<9>に記載の含フッ素共重合体。
<11>前記他の単量体が、2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体である、前記<7>又は<9>に記載の含フッ素共重合体。
<12>貯蔵せん断弾性率G’が、10~800kPaである、前記<1>~<11>のいずれかに記載の含フッ素共重合体。
<13>前記含フッ素共重合体の質量に対して、ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が、0.01~5.00質量%である、前記<1>~<12>のいずれかに記載の含フッ素共重合体。
<14>テトラフルオロエチレンとプロピレンと下式1で表される化合物とを含む単量体成分、又はフッ化ビニリデンと下式1で表される化合物とを含む単量体成分、を重合する含フッ素共重合体の製造方法であって、
重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる、含フッ素共重合体の製造方法。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
<15>テトラフルオロエチレンとプロピレンと下式1で表される化合物とを含む単量体成分を重合する含フッ素共重合体の製造方法であって、
重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる含フッ素共重合体の製造方法である、前記<13>に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
<16>フッ化ビニリデンと下式1で表される化合物とを含む単量体成分を重合する含フッ素共重合体の製造方法であって、
重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる含フッ素共重合体の製造方法である、前記<14>に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
<17>フッ化ビニリデンと下式1で表される化合物と他の単量体とを含む単量体成分を重合する含フッ素共重合体の製造方法であって、
重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる含フッ素共重合体の製造方法である、前記<16>に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の含フッ素共重合体は、フッ素ゴムとして低温特性及び架橋性に優れる。
本発明の含フッ素共重合体の製造方法によれば、フッ素ゴムとして低温特性及び架橋性に優れる含フッ素共重合体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「単量体」とは、重合性不飽和結合を有する化合物を意味する。重合性不飽和結合としては、炭素原子間の二重結合、三重結合が例示される。
「単量体に基づく単位」とは、単量体1分子が重合することで直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。単量体に基づく単位を「単量体単位」とも記す。
「分子鎖の末端」とは、主鎖の末端及び分岐鎖の末端の両方を含む概念である。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素-炭素原子間に1個存在する酸素原子である。
「貯蔵せん断弾性率G’」は、ASTM D5289及びASTM D6204にしたがい、温度100℃、振幅0.5°、振動数50回/分で測定した値である。
「ガラス転移温度」は、JIS K 6240:2011(対応国際規格ISO 22768:2006)に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)で求めた中間点ガラス転移温度である。
【0011】
(共重合体1)
本発明の含フッ素共重合体の第1の態様(以下、「共重合体1」とも記す。)は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)とプロピレンに基づく単位(以下、「P単位」とも記す。)と式1で表わされる化合物1に基づく単位(以下、「化合物1単位」とも記す。)とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する。
【0012】
共重合体1が下式1で表される化合物1単位を有すれば、共重合体1の低温特性に優れる。
CF=CFO(Rf1O)f2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0013】
f1のペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。Rf2のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
f2の炭素数は、1~3の整数が好ましい。nは、1~3の整数が好ましい。
f1の炭素数、Rf2の炭素数及びnが前記範囲内であれば、共重合体1の生産性が向上し、共重合体1の低温特性に優れる。
【0014】
化合物1としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
CF=CFOCFCFOCFOCFOCF(以下、「C7-PEVE」とも記す。)、
CF=CFOCFCFOCFCFOCFCF(以下、「EEAVE」とも記す。)、
CF=CFOCFCFOCFCFOCFCFOCFCF
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCF(以下、「PHVE」とも記す。)、
CF=CFOCFCFOCF
CF=CFOCFCFCFOCF
CF=CFOCFCFOCFCF
CF=CFOCFOCF
CF=CFOCFOCFCF
CF=CFOCFOCFCFOCF
CF=CFO(CFCF(CF)O)CFCFCF
CF=CFOCFOCFOCF
【0015】
化合物1としては、共重合体1の生産性が向上し、共重合体1の低温特性に優れる点から、C7-PEVE、EEAVE又はPHVEが好ましい。
化合物1は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物1は、対応するアルコールを原料として、国際公開第00/56694号に記載の方法で製造できる。
【0016】
共重合体1は、TFE、プロピレン及び化合物1以外の単量体(以下、「他の単量体」とも記す。)に基づく単位を有してもよい。
他の単量体としては、例えば、2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体(以下、「DV」とも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロピレン、ペルフルオロシクロブテン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(ペルフルオロアルキル)エチレン(CH=CHCF、CH=CHCFCF、CH=CHCFCFCF、CH=CHCFCFCFCF、CH=CHCFCFCFCFCF等)、α-オレフィン(エチレン、イソブチレン、ペンテン等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル等)、臭素原子及びヨウ素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ニトリル基を有する単量体(CF=CFO(CFCN、ペルフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)等)が挙げられる。
【0017】
臭素原子及びヨウ素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体としては、下記式2で表わされる化合物(以下、「化合物2」とも記す)、式3で表わされる化合物(以下、「化合物3」とも記す)が好ましい。
CR=CR ・・・式2
CR-R-CR ・・・式3
ただし、化合物2及び化合物3は、1つ以上の臭素原子又はヨウ素原子を有する。
、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
は、アルキル基、エーテル性酸素を有するアルキル基、フルオロアルキル基、又はエーテル性酸素を有するフルオロアルキル基である。Rは、臭素原子又はヨウ素原子を有してもよい。Rは、直鎖状でもよく、分岐状であってもよい。
は、1つ以上の重合性不飽和結合を有する基である。重合性不飽和結合は、アルキル基、エーテル性酸素を有するアルキル基、フルオロアルキル基、エーテル性酸素を有するフルオロアルキル基と結合していてもよい。Rは、臭素原子又はヨウ素原子を有してもよい。Rは、直鎖状でもよく、分岐状であってもよい。
【0018】
化合物2、化合物3として、具体的には、下記の化合物が挙げられる。
ヨードエチレン、4-ヨード-3,3,4,4-テトラフルオロ-1-ブテン、2-ヨード-1,1,2,2-テトラフルオロ-1-ビニロキシエタン、2-ヨードエチルビニルエーテル、アリルヨージド、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヨード-1-(ペルフルオロビニロキシ)プロパン、3,3,4,5,5,5-ヘキサフルオロ-4-ヨードペンテン、ヨードトリフルオロエチレン、2-ヨードペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、CF=CFOCF(CF)CFOCFCFCHI、CF=CFOCFCFCHI、CH=CHCFCFI。
ブロモトリフルオロエチレン、4-ブロモ-3,3,4,4-テトラフルオロブテン-1(以下、「BTFB」とも記す。)、臭化ビニル,1-ブロモ-2,2-ジフルオロエチレン、ペルフルオロアリルブロミド、4-ブロモ-1,1,2-トリフルオロブテン-1、4-ブロモ-1,1,3,3,4,4-ヘキサフルオロブテン、4-ブロモ-3-クロロ-1,1,3,4,4-ペンタフルオロブテン、6-ブロモ-5,5,6,6-テトラフルオロヘキセン、4-ブロモペルフルオロブテン-1、3,3-ジフルオロアリルブロミド、2-ブロモ-ペルフルオロエチルペルフルオロビニルエーテル、CF=CFOCFCFCFOCFCFBr、CFBrCFO-CF=CF、CHOCF=CFBr、CFCHOCF=CFBr。
3-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1。
化合物2としては、BTFBが好ましい。
【0019】
他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の単量体としては、DV又はPAVEが好ましく、DVがより好ましい。
共重合体1がDVに基づく単位(以下、「DV単位」とも記す。)を有すると、共重合体1の架橋性、共重合体1の架橋物の機械特性がさらに優れる。
【0020】
DVにおける重合性不飽和結合としては、炭素-炭素原子間の二重結合、三重結合等が挙げられ、二重結合が好ましい。DVにおける重合性不飽和結合の数は、2~6個が好ましく、2又は3個がより好ましく、2個がさらに好ましい。
DVとしては、式4で表わされる化合物(以下、「化合物4」とも記す)、式5で表わされる化合物(以下、「化合物5」とも記す)及び式6で表わされる化合物(以下、「化合物6」とも記す)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
CR=CR-R-CR10=CR1112 ・・・式4
CR1314=CR15-OC(O)-R16-C(O)O-CR17=CR1819 ・・・式5
CR2021=CR22-C(O)O-CH=CH ・・・式6
【0021】
、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R17、R18、R19及びR22はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又はメチル基である。
及びR16はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキレン基、エーテル性酸素原子を有する炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又はエーテル性酸素原子を有する炭素数1~10のフルオロアルキレン基である。
20及びR21はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又はエーテル性酸素原子を有する炭素数1~10のアルキル基である。
【0022】
化合物4としては、炭素数1~10のアルキレン基又はフルオロアルキレン基の両末端の各々に、エーテル性酸素原子を介在して又は介さずに、ビニル基、アリル基及びブテニル基から独立して選ばれる基が結合した化合物が挙げられる。エーテル性酸素原子が介在する場合の例として、ジビニルエーテル、アリルビニルエーテル、ブテニルビニルエーテル、フルオロ(ジビニルエーテル)、フルオロ(アリルビニルエーテル)、フルオロ(ブテニルビニルエーテル)が挙げられる。
【0023】
化合物4は、共重合体1の架橋性及び共重合体1の架橋物の耐熱性を高める点から、R、R、R、R10、R11及びR12がそれぞれ独立にフッ素原子又は水素原子であることが好ましく、R、R、R、R10、R11及びR12のすべてがフッ素原子であることがより好ましい。
のアルキレン基又はフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。Rの炭素数は、2~8が好ましく、3~7がより好ましく、3~6がさらに好ましく、3~5が特に好ましい。Rにおけるエーテル性酸素原子の数は、0~3個が好ましく、1又は2個がより好ましい。Rがこれらの好ましい形態であると、共重合体1の架橋物の機械特性がさらに優れる。
としては、共重合体1の架橋物の耐熱性、着色抑制の点から、フルオロアルキレン基が好ましく、ペルフルオロアルキレン基がより好ましい。
【0024】
化合物4としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
CH=CHO(CHOCH=CH
CF=CFO(CFOCF=CF(以下、「DVE-3」とも記す。)、
CF=CFO(CFOCF=CF(以下、「DVE-4」とも記す。)、
CH=CH(CFCH=CH
【0025】
化合物5としては、例えば、ジビニルエステル、アリルビニルエステル、ブテニルビニルエステルが挙げられる。
化合物5は、R13、R14、R15、R17、R18及びR19が水素原子であることが好ましい。
16としては、Rと同様の基が挙げられる。R16の炭素数の好ましい範囲もRと同様である。R16におけるエーテル性酸素原子の数は、0又は1個が好ましく、0個がより好ましい。
化合物5としては、例えば、アジピン酸ジビニルが挙げられる。
【0026】
化合物6は、R21及びR22が水素原子であることが好ましい。
化合物6としては、例えば、クロトン酸ビニル、メタクリル酸ビニルが挙げられ、クロトン酸ビニルが好ましい。
DVとしては、共重合体1の架橋物の機械特性を維持しつつ架橋性がさらに優れる点から、DVE-3又はDVE-4が好ましい。
DVは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
PAVEとしては、例えば、式7で表わされる化合物(以下、「化合物7」とも記す)が挙げられる。
CF=CFORf3 ・・・式7
ただし、Rf3は炭素原子数1~10のペルフルオロアルキル基である。
f3のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。Rf3の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
化合物7としては、例えば、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)が挙げられる。
PAVEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
TFE単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、35~65モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましく、45~55モル%がさらに好ましい。
P単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、20~50モル%が好ましく、30~47モル%がより好ましく、40~45モル%がさらに好ましい。
TFE単位及びP単位の割合が前記範囲内であれば、共重合体1の機械特性、耐熱性、耐薬品性(耐アルカリ性等)、耐油性及び耐候性がさらに優れる。
【0029】
化合物1単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、2~15モル%が好ましく、3~13モル%がより好ましく、5~12モル%がさらに好ましい。
化合物1単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計質量に対して、10~50質量%が好ましく、8~45質量%がより好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。
化合物1単位の割合がモル及び質量ともに前記範囲の下限値以上であれば、共重合体1の低温特性がさらに優れる。化合物1単位の割合がモル及び質量ともに前記範囲の上限値以下であれば、機械特性及び生産性に優れる。
【0030】
TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数は、共重合体1を構成する全単位に対して、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、70~100モル%がさらに好ましい。
共重合体1がDV単位を有する場合、DV単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、0.1~1.0モル%が好ましく、0.15~0.8モル%がより好ましく、0.2~0.6モル%がさらに好ましい。DV単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、共重合体1の架橋性に優れ、共重合体1の架橋物の機械特性(引張強度、高温下での圧縮永久歪等)がさらに優れる。DV単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、共重合体1の架橋物の優れた物性を維持しつつ、高温下で折り曲げ等の応力が加えられた場合の割れが抑えられる。
【0031】
共重合体1がヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有すれば、共重合体1の架橋性に優れる。ヨウ素原子又は臭素原子は、共重合体1の分子鎖の末端に結合していることが好ましい。
ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合は、共重合体1の質量に対して、0.01~5.00質量%が好ましく、0.03~2.00質量%がより好ましく、0.05~1.00質量%がさらに好ましい。ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が前記範囲内であれば、共重合体1の架橋性及び機械特性がさらに優れる。
【0032】
共重合体1のガラス転移温度(以下、「Tg」)は、共重合体1の低温特性の目安となる。共重合体1のTgは、-3℃以下が好ましく、-5℃以下がより好ましく、-10℃以下がさらに好ましい。共重合体1のTgが前記範囲の上限値以下であれば、共重合体1の低温特性がさらに優れる。共重合体1のTgは低ければ低いほどよく、下限値は特に限定されないが、加工性及び機械特性の点から、共重合体1のTgは-50℃以上が好ましい。
【0033】
TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対する化合物1単位の割合(X1モル%)と、共重合体1のTg(Y1℃)とが、Y1/X1≦-0.8を満足することが好ましく、Y1/X1≦-1.0を満足することがより好ましく、Y1/X1≦-1.5を満足することがさらに好ましい。
通常のFEPM(TFEとプロピレンとの共重合体、TFE単位:プロピレン単位=56:44)のTgがほぼ0℃であることから、Y1/X1≦-0.8を満足するということは、通常のFEPMに化合物1単位を1モル%導入すれば、得られる共重合体1のTgが通常のFEPMに比べ0.8℃以上低下することを意味する。すなわち、化合物1が、1モル%の導入で共重合体1のTgを0.8℃以上低下させるような効果的な化合物であることを意味する。このような化合物1としては、C7-PEVE、EEAVE又はPHVEが挙げられる。
【0034】
共重合体1の貯蔵せん断弾性率G’は、10~800kPaが好ましく、50~600kPaがより好ましく、80~500kPaがさらに好ましい。貯蔵せん断弾性率G’が大きい方が、重合体の分子量が大きく、分子鎖の絡み合いの密度も高いことを示す。共重合体1の貯蔵せん断弾性率G’が前記範囲内であれば、加工性、機械特性(引張強度等)がさらに優れる。
【0035】
(共重合体2)
本発明の含フッ素共重合体の第2の態様(以下、「共重合体2」とも記す。)は、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」とも記す。)に基づく単位(以下、「VdF単位」とも記す。)と化合物1単位とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する。
【0036】
共重合体2が化合物1単位を有すれば、共重合体1の低温特性に優れる。
化合物1としては、共重合体1における化合物1と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0037】
共重合体2は、VdF及び化合物1以外の単量体(以下、「他の単量体」とも記す。)に基づく単位を有してもよい。
他の単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、DV、クロロトリフルオロエチレン、TFE、フッ化ビニル、エチレン、エチリデンノルボルネン、クロトン酸ビニル、化合物2、化合物3、ニトリル基を有する単量体が挙げられる。他の単量体は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0038】
他の単量体としては、HFP、DVが好ましい。
共重合体2がHFP単位を有すると、重合体2の耐熱性、耐薬品性がより優れる。
共重合体2がDV単位を有すると、共重合体2の架橋性、共重合体2の架橋物の機械特性(引張強度、高温下での圧縮永久歪特性等)がさらに優れる。
DVとしては、共重合体1におけるDVと同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0039】
VdF単位の割合は、VdF単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、86~96モル%が好ましく、87~95モル%がより好ましく、88~94モル%がさらに好ましい。
共重合体2が他の単量体単位を有する場合、VdF単位の割合は、VdF単位、化合物1単位及び他の単量体単位の合計モル数に対して、52~93モル%が好ましく、55~87モル%がより好ましく、58~80モル%がさらに好ましい。
VdF単位の割合が前記範囲内であれば、共重合体2の機械特性、耐熱性、耐薬品性(耐アルカリ性等)、耐油性及び耐候性がさらに優れる。
【0040】
化合物1単位の割合は、VdF単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、4~14モル%が好ましく、5~13モル%がより好ましく、6~12モル%がさらに好ましい。
化合物1単位の割合は、VdF単位及び化合物1単位の合計質量に対して、10~50質量%が好ましく、8~45質量%がより好ましく5~40質量%がさらに好ましい。
共重合体2が他の単量体単位を有する場合、化合物1単位の割合は、VdF単位、化合物1単位及び他の単量体単位の合計モル数に対して、2~15モル%が好ましく、3~13モル%がより好ましく、5~12モル%がさらに好ましい。
共重合体2が他の単量体単位を有する場合、化合物1単位の割合は、VdF単位、化合物1単位及び他の単量体単位の合計質量に対して、5~50質量%が好ましく、8~45質量%がより好ましく10~40質量%がさらに好ましい。
化合物1単位の割合がモル及び質量ともに前記範囲の下限値以上であれば、共重合体2の低温特性がさらに優れる。化合物1単位の割合がモル及び質量ともに前記範囲の上限値以下であれば、機械特性及び生産性に優れる。
共重合体2が他の単量体単位を有する場合、他の単量体単位の割合は、VdF単位、化合物1単位及び他の単量体単位の合計モル数に対して、0.10~40モル%が好ましく、0.15~36モル%がより好ましく、0.20~32モル%がさらに好ましい。
HFP単位が上記他の単量体単位である場合、HFP単位の割合は、VdF単位、化合物1単位及びHFP単位の合計モル数に対して、5~40モル%が好ましく、10~36モル%がより好ましく、15~32モル%がさらに好ましい。
HFP単位の割合が前記範囲内であれば、共重合体2の機械特性、耐熱性、耐薬品性(耐アルカリ性等)、耐油性及び耐候性がさらに優れる。
DV単位が上記他の単量体単位である場合、DV単位の割合は、VdF単位、化合物1単位及びDV単位の合計モル数に対して、0.10~1.0モル%が好ましく、0.15~0.8モル%がより好ましく、0.20~0.6モル%がさらに好ましい。
DV単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、共重合体2の架橋性に優れ、共重合体2の架橋物の機械特性(引張強度、高温下での圧縮永久歪等)がさらに優れる。DV単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、共重合体2の架橋物の優れた物性を維持しつつ、高温下で折り曲げ等の応力が加えられた場合の割れが抑えられる。
【0041】
VdF単位及び化合物1単位の合計モル数は、共重合体2を構成する全単位に対して、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、70~100モル%がさらに好ましい。
共重合体2がHFP単位またはDV単位を有する場合、HFP単位またはDV単位、VdF単位及び化合物1単位の合計モル数は、共重合体2を構成する全単位に対して、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、70~100モル%がさらに好ましい。
【0042】
共重合体2がヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有すれば、共重合体2の架橋性に優れる。ヨウ素原子又は臭素原子は、共重合体2の分子鎖の末端に結合していることが好ましい。
ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合は、共重合体2の質量に対して、0.01~5.00質量%が好ましく、0.03~2.00質量%がより好ましく、0.05~1.00質量%がさらに好ましい。ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が前記範囲内であれば、共重合体2の架橋性及び機械特性がさらに優れる。
【0043】
共重合体2のガラス転移温度(以下、「Tg」)は、共重合体2の低温特性の目安となる。共重合体2のTgは、-11℃以下が好ましく、-13℃以下がより好ましく、-18℃以下がさらに好ましい。共重合体2のTgが前記範囲の上限値以下であれば、共重合体2の低温特性がさらに優れる。共重合体2のTgは低ければ低いほどよく、下限値は特に限定されないが、加工性及び機械特性の点から、共重合体2のTgは-58℃以上が好ましい。
【0044】
VdF単位、化合物1単位及び他の単量体単位を含む場合は他の単量体単位の合計モル数に対する化合物1単位の割合(X2モル%)と、共重合体2のTg(Y2℃)と、共重合体2の構成単位のうち化合物1に基づく単位以外の単位を有する含フッ素共重合体(以下、「共重合体3」と記す。)のガラス転移温度Y3とが、(Y2-Y3)/X2≦-0.8を満足することが好ましく、(Y2-Y3)/X2≦-1.0を満足することがより好ましく、(Y2-Y3)/X2≦-1.5を満足することがさらに好ましい。
(Y2-Y3)/X2≦-0.8を満足するということは、共重合体3に化合物1単位を1モル%導入すれば、得られる共重合体2のTgが通常のFKMに比べ0.8℃以上低下することを意味する。すなわち、化合物1が、1モル%の導入で共重合体2のTgを0.8℃以上低下させるような効果的な化合物であることを意味する。このような化合物1としては、C7-PEVE、EEAVE又はPHVEが挙げられる。
【0045】
共重合体2の貯蔵せん断弾性率G’は、10~800kPaが好ましく、25~550kPaがより好ましく、30~450kPaがさらに好ましい。貯蔵せん断弾性率G’が大きい方が、重合体の分子量が大きく、分子鎖の絡み合いの密度も高いことを示す。共重合体2の貯蔵せん断弾性率G’が前記範囲内であれば、加工性、機械特性がさらに優れる。
【0046】
(含フッ素共重合体の製造方法)
本発明の含フッ素共重合体は、例えば、単量体成分を重合するに際し、重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる方法で製造できる。
単量体成分は、共重合体1を製造する場合は、TFEとプロピレンと化合物1とを含み、共重合体2を製造する場合は、VdFと化合物1とを含む。
【0047】
単量体成分を重合するに際し、重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる方法によれば、含フッ素共重合体にヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を導入できる。
【0048】
ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体としては、共重合体1の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0049】
ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤としては、例えば、式8で表わされる化合物(以下、「化合物8」とも記す)、式9で表わされる化合物(以下、「化合物9」とも記す)、式10で表わされる化合物(以下、「化合物10」とも記す)が挙げられる。
f4 ・・・式8
f5IBr ・・・式9
f6Br ・・・式10
ただし、Rf4、Rf5及びRf6は、炭素数1~16のフルオロアルキレン基又は芳香環を有する骨格である。
f4、Rf5及びRf6のフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。Rf4、Rf5及びRf6としては、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
化合物8としては、例えば、1,2-ジヨードペルフルオロエタン、1,3-ジヨードペルフルオロプロパン、1,4-ジヨードペルフルオロブタン(以下、「C4DI」とも記す。)、1,5-ジヨードペルフルオロペンタン、1,6-ジヨードペルフルオロヘキサン、1,8-ジヨードペルフルオロクタン、1,3-ジヨード-2-クロロペルフルオロプロパン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロペルフルオロペンタン、1,12-ジヨードペルフルオロドデカン、1,16-ジヨードペルフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、ベンゼンの(2-ヨードエチル)置換体が挙げられ、C4DIが好ましい。
化合物9としては、例えば、1-ヨード-4-ブロモペルフルオロブタン、1-ヨード-6-ブロモペルフルオロヘキサン、1-ヨード-8-ブロモペルフルオロクタン、1-ブロモ-2-ヨードペルフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードペルフルオロプロパン、2-ブロモ-3-ヨードペルフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体が挙げられる。
化合物10としては、例えば、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、ベンゼンの(2-ブロモエチル)置換体が挙げられる。
化合物8、9、10以外のヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤としては、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方を一つだけ有する化合物が挙げられ、例えば、2-ヨードペルフルオロプロパンが挙げられる。
【0050】
ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤の合計の量は、共重合体1又は共重合体2の質量に対するヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が上述した範囲内となるように適宜調整する。
【0051】
含フッ素共重合体の製造方法では、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を開始することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、水溶性開始剤及びレドックス系開始剤が好ましい。
水溶性開始剤としては、例えば、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等)、有機系開始剤(ジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩等)が挙げられる。
【0052】
レドックス系開始剤としては、例えば、還元剤と上述した過硫酸塩との組み合わせが挙げられる。
還元剤としては、例えば、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸塩が挙げられる。
レドックス系開始剤は、還元剤及び過硫酸塩に加えて第三成分として、少量の鉄、第一鉄塩等の鉄塩、硫酸銀等の銀塩を含むことが好ましい。鉄塩の中でも、水溶性鉄塩(硫酸第一鉄等)が好ましい。
レドックス系開始剤に加えて、キレート剤を用いることも好ましい。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の量は、単量体成分の100質量部に対して、0.0001~3質量部が好ましく、0.001~1質量部がより好ましい。
【0053】
重合方法としては、例えば、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法が挙げられ、分子量及び共重合組成を調整しやすく、生産性に優れる点から、乳化剤の存在下、水性媒体中で単量体成分を重合する乳化重合法が好ましい。
【0054】
水性媒体としては、水、又は水溶性有機溶媒を含む水が好ましく、水溶性有機溶媒を含む水がより好ましい。
水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブチルアルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールが挙げられる。
【0055】
水性媒体のpHは、7~14が好ましく、7~11がより好ましく、7.5~11がさらに好ましく、8~10.5が特に好ましい。
pHの調整には、pH緩衝剤を用いることが好ましい。pH緩衝剤としては、例えば、リン酸塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等)が挙げられる。
【0056】
乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤が挙げられ、ラテックスの機械的及び化学的安定性がさらに優れる点から、アニオン性乳化剤又はカチオン性乳化剤が好ましく、アニオン性乳化剤がより好ましい。
アニオン性乳化剤としては、例えば、炭化水素系乳化剤(ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、含フッ素アルカン酸塩(ペルフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム等)、含フッ素エーテルカルボン酸化合物が挙げられる。
乳化剤としては、フッ素原子を有する乳化剤が好ましく、含フッ素アルカン酸塩又は含フッ素エーテルカルボン酸化合物がより好ましく、含フッ素エーテルカルボン酸化合物がさらに好ましい。
【0057】
含フッ素エーテルカルボン酸化合物としては、例えば、式11で表わされる化合物(以下、「化合物11」とも記す)が挙げられる。
f6ORf7COOA ・・・式11
ただし、Rf6は、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基であり、Rf7は、フルオロアルキレン基、又はエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基であり、Aは、水素原子、アルカリ金属に分類される原子又はNHである。Rf7は炭素数1~3のペルフルオロアルキル基の分岐鎖を有してもよい。Rf7の炭素数は、1~12が好ましく、1~8がより好ましい。
【0058】
含フッ素エーテルカルボン酸化合物としては、式12で表わされる化合物(以下、「化合物12」とも記す)が好ましい。
F(CFO(CF(X)CFO)CF(X)COOA ・・・式12
ただし、Xは、フッ素原子又は炭素数1~3のペルフルオロアルキル基であり、Aは、水素原子、アルカリ金属に分類される原子又はNHであり、pは1~10の整数であり、qは0~3の整数である。
【0059】
化合物11又は化合物12としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
OCFC(O)ONH
OCFC(O)ONH
11OCFC(O)ONH
CFOCFCFOCFC(O)ONH
OCFCFOCFC(O)ONH
OCF(CF)C(O)ONH
OCF(CF)C(O)ONH
OCF(CF)C(O)ONH
CFOCF(CF)CFOCF(CF)C(O)ONH
OCF(CF)CFOCF(CF)C(O)ONH
CFO(CFOCFHCFC(O)ONH
CFO(CFOCFC(O)ONH
CFO(CFO(CFC(O)ONH
O(CFO(CFC(O)ONH
CFO(CFOCF(CF)C(O)ONH
O(CFOCF(CF)C(O)ONH
CFOCFOCFOCFC(O)ONH
乳化剤の量は、水性媒体の100質量部に対して、0.01~15質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.1~3質量部がさらに好ましい。
【0060】
乳化重合法により含フッ素共重合体を含むラテックスが得られる。含フッ素共重合体は、凝集させてラテックスから分離できる。
凝集方法としては、例えば、金属塩を添加して塩析する方法、塩酸等の無機酸を添加する方法、機械的剪断による方法、凍結又は解凍による方法が挙げられる。
【0061】
重合温度は、10~70℃が好ましく、12~60℃がより好ましく、15~50℃がさらに好ましい。重合温度が前記範囲の下限値以上であれば、重合性が高く、重合速度の面で生産性に優れる。重合温度が前記範囲の上限値以下であれば、含フッ素共重合体にヨウ素原子や臭素原子が充分に導入され、含フッ素共重合体の架橋性がさらに優れる。また、含フッ素共重合体の分子量が充分に上がり、貯蔵せん断弾性率G’が充分に高くなり、含フッ素共重合体の加工性がさらに優れる。
【0062】
重合圧力は、3.0MPaG以下が好ましく、0.3~2.8MPaGがより好ましく、0.5~2.5MPaGがさらに好ましい。重合圧力が前記範囲の下限値以上であれば、含フッ素共重合体の分子量が充分に上がり、貯蔵せん断弾性率G’が充分に高くなり、含フッ素共重合体の加工性がさらに優れる。重合圧力が前記範囲の上限値以下であれば、含フッ素共重合体に化合物1が充分に導入され、含フッ素共重合体の低温特性がさらに優れる。
【0063】
重合速度は、1~500g/L・時間が好ましく、2~300g/L・時間がより好ましく、3~200g/L・時間がさらに好ましい。重合速度が前記範囲の下限値以上であれば、実用的な生産性に優れる。重合速度が前記範囲の上限値以下であれば、含フッ素共重合体の分子量が低下しにくく、架橋性がさらに優れる。
重合時間は、0.5~50時間が好ましく、1~30時間がより好ましく、2~20時間がさらに好ましい。
【0064】
(作用機序)
以上説明した本発明の含フッ素共重合体にあっては、化合物1単位を有するため、低温特性に優れる。また、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有するため、架橋性に優れる。
特許文献1に記載の含フッ素共重合体を構成する単量体の重合時にヨウ素原子を有する連鎖移動剤を用いると、CH=CHO(CH(CFFが共重合しにくい。そのため、得られる含フッ素共重合体の低温特性が不充分となる。一方、本発明の含フッ素共重合体の製造方法にあっては、CH=CHO(CH(CFFの代わりに化合物1を用いている。そのため、単量体成分の重合時にヨウ素原子を有する連鎖移動剤等を用いても、化合物1が共重合しやすく、得られる含フッ素共重合体の低温特性に優れる。
【0065】
(用途)
本発明の含フッ素共重合体は、機械特性等を向上させるために、通常、含フッ素共重合体に架橋剤、架橋助剤等を配合した組成物を架橋した架橋物として用いられる。
組成物は、架橋剤、架橋助剤、その他の添加剤等を混合し、混練して調製される。混練には、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押し出し機等の混練装置が用いられる。
【0066】
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルペルオキシド(ジtert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン-3等)、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルオキシマレイン酸、tert-ブチルペルオキシソプロピルカーボネートが挙げられる。有機過酸化物としては、ジアルキルペルオキシドが好ましい。
有機過酸化物の含有量は、含フッ素共重合体の100質量部に対し、0.3~10質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。有機過酸化物の含有量が前記範囲内であれば、架橋速度が適切な値となり、架橋物の引張強度と伸びとのバランスに優れる。
【0067】
架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルトリメリテート、m-フェニレンジアミンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラアリルテレフタールアミド、ビニル基含有シロキサンオリゴマー(ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等)が挙げられる。架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート又はトリメタクリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
架橋助剤の含有量は、含フッ素共重合体の100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。架橋助剤の量が前記範囲内であれば、架橋速度が適切な値となり、架橋物の引張強度と伸びとのバランスに優れる。
【0068】
組成物に金属酸化物を配合してもよい。金属酸化物としては、2価金属の酸化物が好ましい。2価金属の酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛又は酸化鉛が好ましい。
金属酸化物の含有量は、含フッ素共重合体の100質量部に対し、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。組成物に金属酸化物を配合すれば含フッ素共重合体の架橋性がさらに向上する。
【0069】
その他の添加剤としては、例えば、充填材、受酸剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、加工助剤、滑剤、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、補強剤、加硫促進剤が挙げられる。
その他の添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
組成物には、目的に応じて、含フッ素共重合体以外の他の高分子材料を配合してもよい。他の高分子材料としては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、TFE単位とエチレン単位(以下、「E単位」とも記す。)とからなる2元系共重合体、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、含フッ素エラストマー(VdF単位を有し、化合物1単位を有しない共重合体、TFE単位とP単位とを有し、化合物1単位を有しない共重合体、TFE単位とVdF単位とを有し、化合物1単位を有しない共重合体、TFE単位とPAVE単位とを有し、化合物1単位を有しない共重合体等)、炭化水素系エラストマー(E単位とP単位と非共役ジエン単位とを有する共重合体等)が挙げられる。組成物にフッ素樹脂を配合すると、成形性及び機械特性がさらに向上する。組成物に炭化水素系エラストマーを配合すると、架橋性がさらに向上する。
【0071】
組成物は、加熱プレス等の方法で成形と同時に架橋してもよく、あらかじめ成形した後に架橋してもよい。
成形方法としては、例えば、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ディッピング、コーティングが挙げられる。
架橋条件は、成形方法や架橋物の形状を考慮して、加熱プレス架橋、スチーム架橋、熱風架橋、被鉛架橋等の種々の条件が採用される。架橋温度は、例えば100~400℃である。架橋時間は、例えば数秒~24時間である。
架橋物の機械特性及び圧縮永久歪の向上ならびにその他の特性の安定化を目的として、二次架橋を施してもよい。二次架橋の架橋温度は、例えば100~300℃である。二次架橋の架橋時間は、例えば30分~48時間である。
【0072】
成形した組成物を放射線照射で架橋してもよい。照射する放射線としては、例えば、電子線、紫外線が挙げられる。電子線照射における照射量は、0.1~30Mradが好ましく、1~20Mradがより好ましい。
【実施例
【0073】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
例1~は実施例であり、例6~8は参考例であり、例9~12は比較例である。
【0074】
(共重合組成)
含フッ素共重合体を構成する各単位の割合は、19F-NMR分析及び13C-NMR分析で求めた。
【0075】
(ヨウ素原子の割合)
含フッ素共重合体から、厚さ0.45mm、5cm角のシートを100℃のプレス成型により作製した。シートについて、蛍光X線分析法(XRF法)によって、測定面直径30mmにて測定した。さらに、KI標準液を薄膜FP法で定量し、得られた検量線からヨウ素濃度を補正し、フッ素重合体中のヨウ素原子の割合(質量%)を決定した。検出限界は0.1である。
【0076】
(Tg)
含フッ素共重合体のTgは、熱分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、DSC)を用い、昇温速度10℃/分で昇温して求めた。
【0077】
(貯蔵せん断弾性率G’)
ASTM D 6204に準じて、Rubber Process Analyzer(アルファテクノロジー社製、RPA2000)を用いて、サンプル量:8g、温度:100℃、振幅:0.5°の条件下で振動数を1回/分から2000回/分まで変化させてトルクを測定した際の、50回/分におけるトルクの値を含フッ素共重合体の貯蔵せん断弾性率G’とした。
【0078】
(略号)
C4DI:1,4-ジヨードペルフルオロブタン。
DVE-3:CF=CFO(CFOCF=CF
EEA:CFCFOCFCFOCFCOONH
ロンガリット:水酸化ナトリウムでpHが10.0に調整されたヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム2水和物の2.5質量%水溶液。
【0079】
含フッ素共重合体の低温特性を改善する単量体(以下、「LT-monomer」とも記す。)として、下記の化合物を用いた。
C7-PEVE:CF=CFOCFCFOCFOCFOCF
EEAVE:CF=CFOCFCFOCFCFOCFCF
PHVE:CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCF
FAVE-6:CH=CHOCHCH(CFF。
【0080】
(例1)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス鋼製の耐圧反応器の内部を脱気した後、反応器にイオン交換水の1450g、リン酸水素二ナトリウム12水和物の60g、水酸化ナトリウムの0.9g、tert-ブチルアルコールの198g、EEAの30質量%水溶液の81g及び過硫酸アンモニウムの7.5gを加えた。さらに、イオン交換水の200gにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物の0.4g、硫酸第一鉄7水和物の0.3gを溶解させた水溶液及びC7-PEVEの387gを反応器に加えた。このときの反応器内の水性媒体のpHは9.0であった。
次いで、25℃でTFE/P=88/12のモル比の単量体混合ガスを、反応器の内圧が2.17MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、C4DIの4.0gを添加した。その後、ロンガリットを反応器に添加し、重合反応を開始させた。重合反応開始以降も、高圧ポンプを用いて、ロンガリットを連続的に反応器に添加した。
重合反応開始以降、TFE/P=56/44のモル比の単量体混合ガスを圧入し、圧入量が420gになった時点で、ロンガリットの添加を停止した。TFE/Pの単量体混合ガスの圧入量の総量が450gとなった時点で、反応器の内温を10℃まで冷却して重合反応を停止し、ラテックスを得た。重合開始から重合停止までのロンガリットの添加量は133gであった。重合時間は4.5時間であった。
得られたラテックスに塩化カルシウムの5質量%水溶液を添加して、ラテックスを凝集させ、例1の含フッ素共重合体を析出させた。析出した例1の含フッ素共重合体をろ過し、回収した後、イオン交換水で洗浄し、100℃のオーブンで15時間乾燥させ、白色の例1の含フッ素共重合体の702gを得た。結果を表1に示す。
【0081】
(例2)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス鋼製の耐圧反応器の内部を脱気した後、反応器にイオン交換水の1330g、リン酸水素二ナトリウム12水和物の60g、水酸化ナトリウムの0.9g、tert-ブチルアルコールの198g、EEAの30質量%水溶液の242g及び過硫酸アンモニウムの7.5gを加えた。さらに、イオン交換水の200gにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物の0.4g、硫酸第一鉄7水和物の0.3gを溶解させた水溶液及びC7-PEVEの152gを反応器に加えた。
次いで、25℃でTFE/P=88/12のモル比の単量体混合ガスを、反応器の内圧が1.00MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、C4DIの2.6g、DVE-3の6.75gを添加した。その後、ロンガリットを反応器に添加し、重合反応を開始させた。重合反応開始以降も、高圧ポンプを用いて、ロンガリットを連続的に反応器に添加した。
重合反応開始以降、TFE/P=56/44のモル比の単量体混合ガスを圧入し、圧入量が200gになった時点で、ロンガリットの添加を停止した。TFE/Pの単量体混合ガスの圧入量の総量が230gとなった時点で、反応器の内温を10℃まで冷却して重合反応を停止し、ラテックスを得た。重合開始から重合停止までのロンガリットの添加量は151gであった。重合時間は4時間であった。
得られたラテックスに塩化カルシウムの5質量%水溶液を添加して、ラテックスを凝集させ、例2の含フッ素共重合体を析出させた。析出した例2の含フッ素共重合体をろ過し、回収した後、イオン交換水で洗浄し、100℃のオーブンで15時間乾燥させ、白色の例2の含フッ素共重合体の339gを得た。結果を表1に示す。
【0082】
(例3、4、6、7)
LT-monomerの種類、原料の仕込み量及び重合条件を表1又は表2に示すように変更した以外は、例1と同様にして含フッ素共重合体を得た。結果を表1又は表2に示す。
【0083】
(例5、8)
LT-monomerの種類、原料の仕込み量及び重合条件を表2に示すように変更した以外は、例2と同様にして含フッ素共重合体を得た。結果を表2に示す。
【0084】
(例9)
LT-monomerを添加せず、原料の仕込み量及び重合条件を表3に示すように変更した以外は、例1と同様にして含フッ素共重合体を得た。結果を表3に示す。
【0085】
(例10)
特許文献1の実施例1に記載の方法にしたがって含フッ素共重合体を得た。結果を表3に示す。
【0086】
(例11)
C4DIを添加せず、LT-monomerの種類、原料の仕込み量及び重合条件を表3に示すように変更した以外は、例1と同様にして含フッ素共重合体を得た。結果を表3に示す。
【0087】
(例12)
LT-monomerの種類、原料の仕込み量及び重合条件を表3に示すように変更した以外は、例1と同様にして含フッ素共重合体を得た。結果を表3に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
例1~8は、TFE単位とP単位と化合物1単位とを有するため、低温特性に優れていた。また、ヨウ素原子を重合体中に有するため、架橋性に優れるものとなる。
例9は、通常の二元系のFEPMであり、低温特性が不充分であった。
例10は、特許文献1に記載の含フッ素共重合体であり、低温特性に優れるものの、ヨウ素原子を有しないため、架橋性に劣るものとなる。
例11は、例10の重合方法を変更した例である。Tgが2つ観測され、2種類の含フッ素共重合体の混合物になっていた。重合停止後、ラテックスで得られず、全凝集してしまい、ラテックスが不安定であった。
例12は、特許文献1に記載の含フッ素共重合体にヨウ素原子を導入しようとした例である。ヨウ素原子の割合は検出限界以下であった。また、FAVE-6の導入率が上がらず、低温特性の改善も見られなかった。
【0092】
上記例1で得られた含フッ素共重合体の100gにMTカーボン(Cancarb社製、商品名:Thermax N990)の20g、架橋剤(化薬ヌーリオン社製、商品名:パーカドックス14)の1.2g、架橋助剤(三菱ケミカル社製、商品名:TAIC)の5g、ステアリン酸カルシウム(富士フィルム和光純薬社製)の1gを添加し、二本ロールで混練して組成物を得た。この組成物を170℃で20分間熱プレスして100mm×100mm×1mmのシート状に成形した(一次架橋)。更に、200℃のギアオーブン中で4時間加熱し、二次架橋してなる架橋物(架橋ゴムシート)を得た。作成した各架橋ゴムシートから第4号ダンベルで試料を3枚打ち抜き、引張強度、引張伸びを測定した。引張強度、引張伸びはJIS K6251(2010年)に準拠して23℃にて測定した。結果を表4に示す。
例3、例5で得られた含フッ素共重合体についても、上記例1の共重合体と同様に架橋物を得て、引張強度、引張伸びを測定した。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の含フッ素共重合体は、複合シール材、O-リング、シート、ガスケット、オイルシール、ダイヤフラム、V-リング、パッキン等の材料として有用である。また、本発明の含フッ素共重合体の用途としては、例えば、石油掘削用シール部材、耐熱性耐薬品性シール材、耐熱性耐油性シール材、耐寒シール材、電線被覆材、ホース・チューブ材、半導体装置用シール材、耐蝕性ゴム塗料、耐ウレア系グリース用シール材が挙げられる。
なお、2018年9月28日に出願された日本特許出願2018-184229号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。