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特許7259941研磨ヘッド、研磨装置および半導体ウェーハの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】研磨ヘッド、研磨装置および半導体ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20230411BHJP
   B24B 37/005 20120101ALI20230411BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
B24B37/30 E
B24B37/30 D
B24B37/005 A
H01L21/304 621D
H01L21/304 622K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021511115
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051501
(87)【国際公開番号】W WO2020202682
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019072485
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕生
(72)【発明者】
【氏名】寺川 良也
(72)【発明者】
【氏名】木原 誉之
(72)【発明者】
【氏名】太田 広樹
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-110407(JP,A)
【文献】特開2018-183820(JP,A)
【文献】特開2018-032714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/30
B24B 37/005
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する第一のリング状部材と、
前記第一のリング状部材の上面側開口部を閉塞する板状部材と、
前記第一のリング状部材の下面側開口部を閉塞するメンブレンと、
前記メンブレンの下面に貼り合わされたバックパッドと、
前記バックパッドの下方に位置し、研磨対象のワークを保持する開口部を有する第二のリング状部材と、
を有し、
前記第一のリング状部材の開口部が前記板状部材と前記メンブレンとにより閉塞されて形成された空間部は、中央領域と、該中央領域と仕切りによって仕切られた外周領域と、を有し、
前記空間部の高さは、気体を導入していない状態の値として、3.5mm以上5.5mm以下であり、かつ
第二のリング状部材の開口部の中心に向かう方向を内側、他方を外側と呼ぶと、第二のリング状部材の内周端は、前記空間部の外周領域の外周端より内側に位置する、研磨ヘッド。
【請求項2】
前記バックパッドが、前記メンブレンの下面の外周部と前記第二のリング状部材円環状上面との間に介在している、請求項1に記載の研磨ヘッド。
【請求項3】
前記中央領域に気体を導入する導入路と、
前記外周領域に気体を導入する導入路と、
を有する、請求項1または2に記載の研磨ヘッド。
【請求項4】
前記第二のリング状部材の円環状上面において、内周端から外周側に向かう幅8mm以上25mm以下の領域が、前記空間部の外周領域の下方に位置する、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨ヘッド。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の研磨ヘッドと、
研磨パッドと、
前記研磨パッドを支持する定盤と、
を有する研磨装置。
【請求項6】
請求項に記載の研磨装置により、研磨対象のウェーハの表面を研磨して研磨面を形成することを含む、半導体ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年4月5日出願の日本特願2019-72485号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、研磨ヘッド、研磨装置および半導体ウェーハの、製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体ウェーハ等のワークの表面を研磨する装置には、ワークの片面を研磨する片面研磨装置と、ワークの両面を研磨する両面研磨装置とがある。片面研磨装置では、通常、研磨ヘッドに保持されたワークの研磨対象表面を、定盤に貼り付けられた研磨パッドに押し付けながら、研磨ヘッドと定盤とをそれぞれ回転させて、ワークの研磨対象表面と研磨パッドとを摺接させる。こうして摺接する研磨対象表面と研磨パッドとの間に研磨剤を供給することにより、ワークの研磨対象表面を研磨することができる。
【0004】
上記のような片面研磨装置において、研磨ヘッドに保持されたワークを研磨パッドに押し付ける方法としては、ラバーチャック方式が知られている(特開2008-110407号公報(その全記載は、ここに特に開示として援用される)参照)。
【発明の概要】
【0005】
ラバーチャック方式の研磨ヘッドでは、メンブレン(特開2008-110407号公報ではラバー膜)の背面の空間に空気等の気体を導入することによってメンブレンを膨らませることにより、メンブレンの下方に位置するバックパッド(特開2008-110407号公報ではバッキングパッド)を介して、ワークを押圧することができる。
【0006】
上記のようなラバーチャック方式の研磨ヘッドを使用する従来の片面研磨装置では、ワークの研磨対象表面において、外周部の研磨量制御が困難であることが課題であった。これに対し、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を容易に制御することができれば、ワークの研磨対象表面において外周部の研磨量を容易に制御することが可能になる。
【0007】
本発明の一態様は、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を容易に制御可能な研磨ヘッドを提供する。
【0008】
本発明の一態様は、
開口部を有する第一のリング状部材と、
上記第一のリング状部材の上面側開口部を閉塞する板状部材と、
上記第一のリング状部材の下面側開口部を閉塞するメンブレンと、
上記メンブレンの下面に貼り合わされたバックパッドと、
上記バックパッドの下方に位置し、研磨対象のワークを保持する開口部を有する第二のリング状部材と、
を有し、
上記第一のリング状部材の開口部が上記板状部材と上記メンブレンとにより閉塞されて形成された空間部は、中央領域と、この中央領域と仕切りによって仕切られた外周領域と、を有し、かつ
上記外周領域の外周端の鉛直下方に、上記第二のリング状部材の内周端部領域が位置する、研磨ヘッド、
に関する。
【0009】
上記研磨ヘッドでは、上記空間部に気体を導入することによりメンブレンを膨らませて、第二のリング状部材の開口部に保持されたワークの研磨対象表面に研磨面圧力を加えることができる。空間部の外周端の鉛直下方にワークの研磨対象表面の外周部が位置する研磨ヘッドでは、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力が、研磨パッドの材質の違い、摩耗による部材の厚み変化等の各種要因の影響を受け易いと考えられる。このことが、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力の制御を困難にすると考えられる。これに対し、上記研磨ヘッドでは、空間部の外周端の鉛直下方には、その開口部にワークを保持する第二のリング状部材の内周端部領域が位置している。更に、上記研磨ヘッドは、空間部が、中央領域と仕切りで仕切られた独立した空間である外周領域を有する。したがって、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を、空間部の外周領域に導入する気体の量を中央領域に導入する気体の量とは独立に調整することにより、様々に制御することができる。こうして上記研磨ヘッドによれば、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を容易に制御することができる。
【0010】
一態様では、上記研磨ヘッドにおいて、上記バックパッドは、上記メンブレンの下面の外周部と上記第二のリング状部材円環状上面との間に介在していることができる。
【0011】
一態様では、上記研磨ヘッドは、上記中央領域に気体を導入する導入路と、上記外周領域に気体を導入する導入路と、を有することができる。
【0012】
本発明の一態様は、
上記研磨ヘッドと、
研磨パッドと、
上記研磨パッドを支持する定盤と、
を有する研磨装置、
に関する。
【0013】
本発明の一態様は、上記研磨装置により、研磨対象のウェーハの表面を研磨して研磨面を形成することを含む半導体ウェーハの製造方法に関する。
【0014】
本発明の一態様にかかる上記研磨ヘッドによれば、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を容易に制御することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる研磨ヘッドを有する研磨装置、およびこの研磨装置を用いる半導体ウェーハの製造方法も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一態様にかかる研磨ヘッドの一例を示す概略断面図である。
図2図1に示す研磨ヘッドの一部拡大図である。
図3】空間部と第二のリング状部材との位置関係の一例を示す上面図である。
図4A】板状部材の一例を示す概略断面図である。
図4B】板状部材の一例を示す概略断面図である。
図5A】研磨ヘッドの空間部の中央領域と外周領域とを仕切る仕切りの断面形状例を示す。
図5B】研磨ヘッドの空間部の中央領域と外周領域とを仕切る仕切りの断面形状例を示す。
図5C】研磨ヘッドの空間部の中央領域と外周領域とを仕切る仕切りの断面形状例を示す。
図5D】研磨ヘッドの空間部の中央領域と外周領域とを仕切る仕切りの断面形状例を示す。
図5E】研磨ヘッドの空間部の中央領域と外周領域とを仕切る仕切りの断面形状例を示す。
図5F】研磨ヘッドの空間部の中央領域と外周領域とを仕切る仕切りの断面形状例を示す。
図6】研磨ヘッドの空間部からメンブレンに加えられる圧力に関する説明図である。
図7】研磨装置の一例を示す概略断面図である。
図8】比較例1においてワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである。
図9】比較例1におけるワークの研磨対象表面の面内の研磨量分布を示すグラフである。
図10】実施例1において外周部制御圧力Peを変化させた場合にワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである。
図11】実施例1におけるワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである(バックパッドの厚さ・バックパッドの圧縮弾性率を変更し、外周部制御圧力Peを9kPaとしたとき)。
図12】実施例1におけるワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである(バックパッドの厚さ・バックパッドの圧縮弾性率を変更し、外周部制御圧力Peを11kPaとしたとき)。
図13】実施例1におけるワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである(研磨パッドの厚さ・研磨パッドの圧縮弾性率を変更し、外周部制御圧力Peを9kPaとしたとき)。
図14】実施例1におけるワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである(研磨パッドの厚さ・研磨パッドの圧縮弾性率を変更し、外周部制御圧力Peを11kPaとしたとき)。
図15】実施例2において第二のリング状部材(リテーナー)の厚さを変化させた場合にワークの研磨対象表面の最外周部に加わる研磨面圧力を示すグラフである。
図16】実施例3において第二のリング状部材の摩耗前後にワークの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである。
図17】従来の研磨ヘッドの一例を示す概略断面図である。
図18図17に示す研磨ヘッドの一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[研磨ヘッド]
本発明の一態様にかかる研磨ヘッドは、開口部を有する第一のリング状部材と、上記第一のリング状部材の上面側開口部を閉塞する板状部材と、上記第一のリング状部材の下面側開口部を閉塞するメンブレンと、上記メンブレンの下面に貼り合わされたバックパッドと、上記バックパッドの下方に位置し、研磨対象のワークを保持する開口部を有する第二のリング状部材と、を有する。更に、上記第一のリング状部材の開口部が上記板状部材と上記メンブレンとにより閉塞されて形成された空間部は、中央領域と、この中央領域と仕切りによって仕切られた外周領域と、を有し、かつ上記外周領域の外周端の鉛直下方に、上記第二のリング状部材の内周端部領域が位置する。
以下に、上記研磨ヘッドについて、更に詳細に説明する。本発明および本明細書において、「下面」、「下方」、「上面」等の表記は、研磨ヘッドが研磨処理を行う状態に置かれたときの「下面」、「下方」、「上面」等を意味する。以下では、図面に基づき本発明を説明するが、図面に示す態様は例示であって、かかる態様に本発明は限定されない。また、図中、同一の部分には同一の符号を付している。
【0017】
図17は、従来の研磨ヘッドの一例を示す概略断面図である。図17中、研磨ヘッド30は、ヘッド本体31に、剛性リング32が接続されている。剛性リング32の下面は、メンブレン34で覆われている。更に、メンブレン34の下面にはバックパッド35が貼り合わされている。メンブレン34の背面側には、剛性リング32の開口部が中板36とメンブレン34によって閉塞されることにより、空間部37が形成されている。この空間部37に気体導入路38から空気等の気体を導入してメンブレン34を膨らませることにより、バックパッド35を介して、リテーナリング33の開口部に保持されたワークWを押圧することができる。押圧されたワークWは、定盤42上に貼り合わされた研磨パッド41に押し付けられる。研磨ヘッド30および定盤42をそれぞれ回転機構(図示せず)により回転させることにより、ワークの研磨対象表面w1と研磨パッドとを摺接させる。
【0018】
図18は、図17に示す研磨ヘッドの一部拡大図である。図17に示されているように内径が同じ剛性リング32とリテーナリング33が同心円状に配置されているため、リテーナリング33の内周端部領域は、図18に示されているように、空間部37の外周端の鉛直下方には位置していない。このような構成の研磨ヘッドでは、空間部37に気体を導入してメンブレン34を膨らませて空間部の下方に圧力を加える場合、空間部37の外周端の鉛直下方付近に位置するワークの研磨対象表面の外周部での研磨面圧力の制御は困難である。
【0019】
図1は、本発明の一態様にかかる研磨ヘッドの一例を示す概略断面図である。図1中、研磨ヘッド10は、ヘッド本体11に、第一のリング状部材12が接続されている。第一のリング状部材12の下面は、メンブレン14で覆われている。更に、メンブレン14の下面にはバックパッド15が貼り合わされている。メンブレン14は、仕切り19を有する。これにより、第一のリング状部材12の開口部が板状部材16とメンブレン14によって閉塞されることにより、メンブレン14の背面に、中央領域17Aと中央領域17Aと仕切り19により仕切られた外周領域17Bとを有する空間部が形成される。気体導入路18Aから中央領域17Aに気体を導入し、気体導入路18Aとは独立に気体導入量を制御可能な気体導入路18Bから外周領域17Bに気体を導入することにより、メンブレン14を膨らませてバックパッド15を介してワークWを押圧することができる。
【0020】
図2は、図1に示す研磨ヘッドの一部拡大図である。第二のリング状部材13は、その開口部にワークWを保持する。空間部の外周領域17Bの外周端の鉛直下方には、第二のリング状部材13の内周端部領域が位置している。内周端部領域とは、内周端とその周辺の部分を意味する。即ち、第二のリング状部材13の開口部の中心に向かう方向を内側、他方を外側と呼ぶと、第二のリング状部材13の内周端は、空間部の外周領域17Bの外周端より内側に位置している。また、仕切り19は、第二のリング状部材13の内周端より内側に位置している。図3は、空間部と第二のリング状部材13との位置関係の一例を示す上面図である。
更に、研磨ヘッド10は、中央領域17Aと仕切りで仕切られて独立した空間である外周領域17Bを有する。例えば、気体導入路18Aから中央領域17Aに導入する気体の量と気体導入路18Bから外周領域17Bに導入する気体の量を変えることにより、外周領域17Bの下方のワークWの研磨対象表面w1の外周部に加わる研磨面圧力を、中央領域17Aの下方のワークWの研磨対象表面w1の中央部に加わる研磨面圧力とは独立に制御することとができる。
上記研磨ヘッドは、以上の構成を有することにより、ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を容易に制御することができる。
【0021】
次に、上記研磨ヘッドを構成する各部について、更に説明する。
【0022】
第一のリング状部材12としては、片面研磨装置の研磨ヘッドに通常使用されるステンレス鋼材(SUS)等の剛性材料製の環状リングを使用することができる。第一のリング状部材12が取り付けられるヘッド本体11としては、片面研磨装置の研磨ヘッドに通常使用されるもの(例えばSUS製のヘッド本体)を用いることができる。第一のリング状部材12は、ボルト止め等の公知の方法によってヘッド本体11に取り付けることができる。
【0023】
第一のリング状部材12の下面側開口部は、メンブレン14によって覆われて閉塞される。メンブレンが膨らんだ際に位置ずれを起こすことを防ぐ観点からは、第一のリング状部材の円環状下面もメンブレンによって覆われることが好ましい。また、第一のリング状部材の円環状下面もメンブレンによって覆われることは、第一のリング状部材の開口部に研磨剤が混入することを抑制する観点からも好ましい。メンブレン14は、接着剤の使用等の公知の方法によって第一のリング状部材12の円環状下面と貼り合わせることができる。また、メンブレン14を、図1および図2に示す態様のように、第一のリング状部材の側面にわたるように貼り合わせることも好ましい。こうして第一のリング状部材12の下面側開口部が閉塞される。更に、第一のリング状部材12の上面側開口部は、板状部材16によって閉塞される。こうして第一のリング状部材12の開口部が閉塞されて空間部が形成される。一態様では、空間部の高さ(換言すると、板状部材16の下面とメンブレン14の上面との距離)は、メンブレンを膨らませるために空間部に気体を導入していない状態の値として3.5~5.5mm程度であることが、ワークWの研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を、より一層精度よく制御可能とする観点から好ましい。空間部の高さは、例えば、後述する仕切りのサイズによって調整できる。メンブレン14としては、ゴム等の弾性を有する材料製の膜を使用することができる。ゴムとしては、例えばフッ素ゴムを挙げることができる。メンブレン14の厚さは、特に限定されないが、例えば0.5~2mm程度であることができる。板状部材16は、例えば円盤状の板であることができ、ボルト止め等の公知の方法によってヘッド本体11に取り付けることができる。板状部材16には、空間部の中央領域に気体を導入するための気体導入路18Aの一部をなす貫通孔および空間部の外周領域に気体を導入するための気体導入路18Bの一部をなす貫通孔が設けられている。図1には、空間部の中央領域に気体を導入するための気体導入路と外周領域へ気体を導入するための気体導入路がそれぞれ1つ設けられた態様を示したが、任意の位置に2つ以上設けることも可能であり、各気体導入路の数および位置は図面に示す態様に限定されるものではない。
【0024】
メンブレン14は、仕切り19を有する。第一のリング状部材12の開口部が板状部材16とメンブレン14によって閉塞されて形成される空間部は、この仕切り19によって、中央領域17Aと外周領域17Bとに区切られる。一例として、例えばリング状部材(仕切り19)を板状部材16に設けた円環状の溝に差し込むことによって、仕切り19を板状部材16に取り付けることができる。板状部材16の一例としては、図4Aおよび図4Bに示すように、凹部を有する第一の板状部材16Aとその凹部に配置された第二の板状部材16Bから構成され、円環状の溝Gを有するものを挙げることができる。第二の板状部材16Bは、ボルト止め等の公知の方法によって第一の板状部材16Aに取り付けることができる。円環状の溝Gには、例えば後述するL字型等の断面形状を有する仕切りを差し込むための窪みgを、仕切りの形状に応じて任意の位置に設けることもできる。
【0025】
図5A図5Fに、仕切り19の断面形状例を示す。図中、点線部は板状部材16との接続部を示し、矢印は第一のリング状部材12の中心方向を示す。仕切り19は、一態様では、図5Aおよび図5Bに示すように、L字型の断面形状を有することができる。他の一態様では、仕切り19は、図5Cに示すように、I字型の断面形状を有することができる。また他の一態様では、仕切り19は、図5Dおよび図5Eに示すように、V字型部を含む断面形状を有することができる。他の一態様では、仕切り19は、図5Fに示すように、T字型の断面形状を有することができる。仕切り19は、例えば樹脂、金属等を所望の形状に成形して作製することができる。仕切り19は、空間部に気体が導入されて圧力が加えられる際にその形状を維持できる強度を示すことができる厚さを有することが好ましく、その厚さは、例えば0.5~1.5mm程度とすることができる。
【0026】
仕切り19とメンブレン14とを別個の部材として作製し、両部材を接着剤等で固定する方法も取り得るが、仕切り19は、メンブレン14と一体成型されていることが好ましい。これは、以下の理由による。仕切り19とメンブレン14との間に隙間が生じると、仕切り19により仕切られた中央領域17Aと外周領域17Bとの間で通気が生じ得る。これに対し、仕切り19とメンブレン14とが一体成型された1つの部材であれば、そのような通気が生じることなく、仕切り19によって中央領域17Aと外周領域17Bとを仕切ることができる。また、別個の部材として作製された仕切り19とメンブレン14とを周方向で均一に貼り付けることは容易ではなく、貼り付け状態が不均一な場合にはワークに加わる圧力の均一性が低下する可能性がある。または、接着剤によりメンブレンに隆起が生じた場合には、隆起部分と他の部分とでは、研磨面圧が異なる可能性がある。以上の観点から、仕切り19がメンブレン14と一体成型されていることは好ましい。仕切り19としては、図5Aおよび図5Bに示すようにL字型の断面形状を有するものや、図5Cに示すようにI字型の断面形状を有するもののように比較的単純な形状のものは、仕切り19がメンブレン14と一体成型されているか否かにかかわらず成型が容易である。
【0027】
図6は、空間部からメンブレンに加えられる圧力に関する説明図である。上記研磨ヘッドでは、第一のリング状部材の開口部が閉塞されて形成される空間部が、中央領域17Aと外周領域17Bとに仕切られている。中央領域17Aに気体が導入されてメンブレン14の中央部が膨らむことでメンブレン14の中央部に加わる圧力を中央部制御圧力Pc、外周領域17Bに気体が導入されてメンブレン14の外周部が膨らむことでメンブレン14の外周部に加わる圧力を外周部制御圧力Peと呼ぶと、PcおよびPeの大きさは、空間部の各領域への気体導入量によって、それぞれ独立に制御することができる。PcおよびPeは、研磨対象のワークの硬さや研磨パッドの材質、使用する研磨剤の種類等に応じて決定すればよい。
【0028】
メンブレン14の下面には、バックパッド15が貼り合わされる。バックパッド15は、接着剤の使用等の公知の方法によってメンブレン14の下面と貼り合わせることができる。メンブレン14の下面の外周部と第二のリング状部材13の円環状上面とが直接接することも可能であるが、バックパッド15の剥離やうねりの発生を抑制する観点からは、バックパッド15がメンブレン14の下面の外周部と第二のリング状部材の円環状上面とに挟まれて、バックパッド15がメンブレン14の下面の外周部と第二のリング状部材と13の円環状上面との間に介在していることが好ましい。バックパッド15としては、例えば発泡ポリウレタン等の、水を含むと水の表面張力により吸着性を示す材料製の円盤状の板を用いることができる。これにより、水を含んだバックパッド15にワークWを保持させることができる。
【0029】
第二のリング状部材13は、その開口部にワークWを保持するための部材であり、リテーナー、リテーナリング等とも呼ばれる。第二のリング状部材13は、例えばガラスエポキシ製のリング状部材であることができる。第二のリング状部材13は、接着剤の使用等の公知の方法によってバックパッド15と貼り合わせることができる。上記研磨ヘッドでは、第一のリング状部材12の開口部が閉塞されて形成される空間部の外周領域の外周端の鉛直下方に、第二のリング状部材の内周端部領域(詳しくは、第二のリング状部材の円環状上面の内周側領域)が位置する。これにより、空間部の外周端の鉛直下方にワークWの研磨対象表面w1の外周部を位置させることなく、ワークWの研磨対象表面w1を研磨することができる。例えば、第一のリング状部材の内径より小さな内径を有する第二のリング状部材を、第一のリング状部材と同心円状に配置することにより、第二のリング状部材の内周端部領域を、第一のリング状部材の開口部が閉塞されて形成される空間部の外周端の鉛直下方に配置することができる。ワークの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力の制御をより容易に行う観点からは、第二のリング状部材の円環状上面において、内周端から外周側に向かう幅(図1中の「d」)8~25mm程度の領域が、空間部の外周領域17Bの下方に位置することが好ましい。第二のリング状部材13の厚さは、研磨対象のワークWの厚さに応じて決定すればよい。また、第二のリング状部材13の開口部の直径も、研磨対象のワークWの直径に応じて決定すればよい。第二のリング状部材13は、研磨ヘッドのリテーナリングに通常使用される材料製のリング状部材であることができる。
【0030】
ところで、第二のリング状部材13は、通常、研磨時に研磨パッド41と摺接する。第二のリング状部材には、研磨時にヘッド本体11に圧力制御機構(図示せず)により任意に加えられる圧力や第二のリング状部材の自重によって圧力が加わるため、研磨パッド41との摺接によって研磨されて摩耗し、厚さが減少する場合がある。第二のリング状部材13の厚さが薄くなるほど、ワークWの研磨対象表面w1の外周部に加わる研磨面圧力は増加する傾向がある。そこで、第二のリング状部材13の厚さが減少した場合には、空間部の外周領域17Bへの気体導入量を減らして外周部制御圧力Peを小さくすることにより、第二のリング状部材13の厚さ減少によってワークWの研磨対象表面w1の外周部が過研磨されることを抑制することができる。
【0031】
以上説明した本発明の一態様にかかる研磨ヘッドを備えた片面研磨装置によって研磨されるワークWとしては、シリコンウェーハ等の各種半導体ウェーハを挙げることができる。
【0032】
[研磨装置および半導体ウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、上記研磨ヘッドと、研磨パッドと、上記研磨パッドを支持する定盤と、を有する研磨装置に関する。
また、本発明の一態様は、上記研磨装置により、研磨対象のウェーハの表面を研磨して研磨面を形成することを含む半導体ウェーハの製造方法に関する。
【0033】
図7は、本発明の一態様にかかる研磨装置の一例を示す概略断面図である。研磨ヘッド10および定盤42を、それぞれ回転機構(図示せず)により回転させながら、ワークWの研磨対象表面と定盤42上に貼り合わされた研磨パッド41とを摺接させる。研磨剤供給機構60から排出される研磨剤61が、ワークWの研磨対象表面と研磨パッド41との間に供給され、ワークWの研磨対象表面が研磨される。研磨剤としては、CMP(chemical Mechanical Polishing)に通常使用される研磨スラリーを用いることができる。上記研磨装置は、本発明の一態様にかかる研磨ヘッドを備える点以外は通常の片面研磨装置と同様の構成を有することができる。また、上記半導体ウェーハの製造方法については、本発明の研磨装置を用いて研磨対象のウェーハの表面を研磨して研磨面を形成することを含む点以外は、研磨面を有する半導体ウェーハの製造方法に関する公知技術を適用することができる。研磨対象のウェーハは、例えばシリコンウェーハ(好ましくは単結晶シリコンウェーハ)であることができる。例えば、シリコンウェーハは、以下の方法により作製できる。チョクラルスキー法により単結晶インゴットを引き上げ、作製されたインゴットをカットしてブロックを得る。得られたブロックをスライスしてウェーハとする。このウェーハに各種加工を施すことにより、シリコンウェーハを作製することができる。上記加工としては、面取り加工、平坦化加工(ラップ、研削、研磨)等を挙げることができる。上記研磨装置は、これらのウェーハ加工の最終工程である仕上げ研磨工程に好適に使用することができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の研磨面圧力は、ダッソー・システムズ社製ABAQUSを使用し、圧力計算(有限要素法)により求めた算出値である。以下に記載の図中、「a.u.」は、任意単位(arbitrary unit)を示す。
【0035】
[比較例1]
図17に示す構成を有する研磨ヘッドを備えた片面研磨装置において、直径300mmのシリコンウェーハ(ワーク)の研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を、図8に示す。比較例1で使用した研磨ヘッドは、空間部37が単一空間であるため、気体導入路38から空間部に気体が導入されてメンブレン34が膨らむことによりワークWの研磨対象表面w1に加わる研磨面圧力は、面内各部でほぼ同じである。
図9中の例1と例2は、同様の片面研磨装置を使用して空間部への気体導入量を変えた点以外は同一条件で研磨を行った場合のウェーハの研磨対象表面の面内の研磨量分布を示すグラフである。例1の研磨面圧力は10kPaであり、例2の研磨面圧力は20kPaである。研磨量は、Preston式により算出した。後述の研磨量も同様である。図9に示されている結果は、比較例1で使用した片面研磨装置では、空間部の外周端の鉛直下方に位置する研磨対象表面の外周部での研磨量の制御が困難であることを示している。その結果、図9に示されているように、比較例1で使用した片面研磨装置では、空間部への気体導入量の調整によって研磨対象表面の外周部の研磨量を中央部の研磨量に近づけることは困難であった。
【0036】
[実施例1]
図10は、図3に示す構成を有する研磨ヘッドを備えた片面研磨装置において、直径300mmのシリコンウェーハ(ワーク)の研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである。第一のリング状部材12の開口部が閉塞されて形成された空間部の外周領域17Bに気体導入路18Bから導入する気体の量を変えることにより、外周部制御圧力Peを様々に変化させることができる。
【0037】
図11~14は、中央部制御圧力Pcを10kPaとし、外周領域17Bに気体導入路18Bから導入する気体の量を変えることにより外周部制御圧力Peを9kPaまたは11kPaとし、予め設定した基準条件と、基準条件とはバックパッドの厚さ、バックパッドの圧縮弾性率、研磨パッドの厚さまたは研磨パッドの圧縮弾性率が異なる場合について、直径300mmのシリコンウェーハ(ワーク)の研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである。図11~14に示すグラフから、実施例1で使用した研磨ヘッドによれば、バックパッドや研磨パッドの厚さや材質(圧縮弾性率)が異なる場合にも、ウェーハの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を制御可能であることが確認できる。
【0038】
[実施例2]
図15は、第二のリング状部材(リテーナー)の厚さおよび外周部制御圧力Peを変更した圧力計算から求めた、直径300mmのシリコンウェーハ(ワーク)の研磨対象表面の最外周部(ウェーハ中心からの距離:149mm)に加わる研磨面圧力を示している。
第二のリング状部材(リテーナー)の厚さが変化しても、外周部制御圧力Peを変えることによりウェーハの研磨対象表面の外周部に加わる研磨面圧力を制御できることが、図15に示す結果から確認できる。
【0039】
[実施例3]
図16は、第二のリング状部材(リテーナー)が研磨パッドとの摺接により研磨されて摩耗し厚さが820mmから770mmに減少したときに、摩耗後も外周部制御圧力Peを12kPaのまま変更しない場合および10kPaに変更した場合の、直径300mmのシリコンウェーハ(ワーク)の研磨対象表面に加わる研磨面圧力の面内分布を示すグラフである。摩耗前はPeを12kPaとすることで研磨面圧力を面内で10kPa程度に維持することができるが、摩耗後もPeを12kPaのまま変更しないと、研磨面圧力は研磨対象表面の外周部で1kPa以上(Preston式を用いた研磨量換算で14nm以上)増加してしまう。これに対し、摩耗後にPeを10kPaに変更することで研磨面圧力を面内で10kPa程度に維持することができることが、図16に示す結果から確認できる。
【0040】
本発明の一態様は、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハの技術分野において有用である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18