(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】化学強化ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20230411BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20230411BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20230411BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20230411BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20230411BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
(21)【出願番号】P 2022100497
(22)【出願日】2022-06-22
(62)【分割の表示】P 2019511262の分割
【原出願日】2018-04-03
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017076106
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018018508
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】今北 健二
(72)【発明者】
【氏名】村山 優
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 出
(72)【発明者】
【氏名】金原 一樹
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501101(JP,A)
【文献】特表2013-536155(JP,A)
【文献】特表2017-506207(JP,A)
【文献】特表2019-513663(JP,A)
【文献】特開2017-100929(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047679(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さt[μm]を有し、
ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルを、0<x<3t/8の領域において誤差最少2乗法により下記関数(I)を用いて、圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義して、近似した場合に、
A
1[MPa]が600以上、
A
2[MPa]が150以上、
B
1[μm]が6以下、
B
2[μm]がt[μm]の10%以上、
C[MPa]が-50以下であり、
且つA
1/B
1[MPa/μm]が100以上である化学強化ガラスであって、
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を50~80%、Al
2O
3を4~30%、B
2O
3を0~15%、P
2O
5を0~15%、MgOを0~20%、CaOを0~20%、SrOを0~10%、BaOを0~10%、ZnOを0~10%、TiO
2を0~10%、ZrO
2を0~10%、Li
2Oを3~20%、Na
2Oを0~20%、K
2Oを0~20%を含有する、化学強化ガラス。
A
1erfc(x/B
1)+A
2erfc(x/B
2)+C…(I)
[関数(I)においてerfcは相補誤差関数であり、A
1>A
2かつB
1<B
2である
。]
【請求項2】
B
2[μm]がt[μm]の20%以上である請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
B
2[μm]がt[μm]の40%以下である請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
A
2[MPa]が200以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
A
2[MPa/μm]が300以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
C[MPa]が-70以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
B
1[μm]が5.0以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
B
1[μm]が3.5以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
A
1[MPa]が700以上である請求項1~8のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
A
1[MPa]が800以上である請求項1~9のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項11】
圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が50個以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項12】
振り子式衝撃試験装置を用いて、ダイヤモンド圧子をガラス表面に衝突させる試験において、ガラスの破砕確率が50%となるときのダイヤモンド圧子の運動エネルギーが80mJ以上である請求項1~11のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項13】
曲げ強度が500MPa以上である請求項1~12のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項14】
厚さtが0.3mm以上2mm以下である請求項1~13のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項15】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を50~73%、Al
2O
3を7~30%、B
2O
3を2~10%、P
2O
5を0~3%、MgOを0~8%、CaOを0~3%、SrOを0~2%、BaOを0~1%、ZnOを0~1%、TiO
2を0~0.25%、ZrO
2を0~2%、Li
2Oを3~20%、Na
2Oを0~20%、K
2Oを0~20%含有する請求項1~14のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項16】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、Al
2O
3を10~30%含有する請求項1~15のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項17】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、MgOを0~5%含有する請求項1~16のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項18】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、CaOを0~0.2%含有する請求項1~17のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項19】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、Li
2Oを7~11%含有する請求項1~18のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項20】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、Na
2Oを4~20%含有する請求項1~19のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項21】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、K
2Oを0.5~20%含有する請求項1~20のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項22】
カバーガラス用ガラス基板である請求項1~21のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項23】
A
2/B
2[MPa/μm]が2.5以下である請求項1~22のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項24】
A
1/B
1[MPa/μm]が150以上である請求項1~23のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項25】
A
1/B
1[MPa/μm]が220以上である請求項1~24のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器のディスプレイ装置の保護ならびに美観を高めるために、化学強化ガラスからなるカバーガラスが用いられている。化学強化ガラスは、ガラスの強度を高めるために、ガラス表面にイオン交換による表面層を形成したガラスである。表面層は、少なくともガラス表面側に存在しイオン交換による圧縮応力が発生している圧縮応力層を含み、ガラス内部側に該圧縮応力層に隣接して存在し引張応力が発生している引張応力層を含む。化学強化ガラスの強度は、ガラス表面からの深さを変数とする圧縮応力値(以降応力プロファイルと記載)に強く依存する。
【0003】
カバーガラス用化学強化ガラスには、砂やアスファルト等の平面上に落下した際に割れないことが求められる。化学強化ガラスが砂やアスファルト上に落下して割れる際には、砂やアスファルト上に存在する突起物がガラスに刺さりガラス表面より深い場所が割れの起点となるため、圧縮応力層深さ(DOL)が深くなる程、割れにくくなる傾向がある。
【0004】
また、カバーガラス用化学強化ガラスには、外力によって撓んだ際に割れないことが求められる。撓みにより化学強化ガラスが割れる際には、割れの起点はガラスの表面であるため、ガラス表面における圧縮応力(値)(CS)が高くなる程、割れにくくなる傾向がある。
【0005】
例えば特許文献1では、2段階の化学強化処理を利用したガラス物品が記載されている。比較的K濃度の低いKNO3/NaNO3混合塩を第1段目の化学強化に、比較的K濃度の高いKNO3/NaNO3混合塩を第2段目の強化に用いることで、深いDOLと高いCSの両立する方法を提案したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許公開第2015/0259244号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のガラス物品では、化学強化ガラスの強度が不足する場合があった。これは、表面圧縮応力及び圧縮応力層深さが不十分であることなどが原因と考えられる。一方で、ガラス表面における圧縮応力との均衡を保つために、化学強化ガラス内部には内部引張応力(CT)が発生し、CSやDOLが大きいほどCTが大きくなる。CTが大きい化学強化ガラスが割れるときには、破片数が多い激しい割れ方となり、破片が飛散する危険性が大きくなる。そのため、圧縮応力の総量は一定の値以下であることが望ましい。したがって、本発明は、圧縮応力値の総量を一定の値以下にしつつ、従来と比較して高い表面圧縮応力及び深い圧縮応力層深さを有する化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ガラス表面側に現れる応力分布パターン1(以下、パターン1とも略す)と、ガラス内部側に現れる応力分布パターン2(以下、パターン2とも略す)との2段階の応力分布パターンを有する化学強化ガラスにおいて、パターン1の圧縮応力層深さを浅く、パターン2の圧縮応力値を小さくすることによって、圧縮応力値の総量を一定の値以下にしつつ、高い表面圧縮応力及び深い圧縮応力層深さが達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記<1>~<7>に関するものである。
<1>厚さt[μm]を有し、ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルを、0<x<3t/8の領域において誤差最少2乗法により下記関数(I)を用いて、圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義して、近似した場合に、A1[MPa]が600以上、A2[MPa]が50以上、B1[μm]が6以下、B2[μm]がt[μm]の10%以上、C[MPa]が-30以下であり、且つA1/B1[MPa/μm]が100以上である化学強化ガラス。
A1erfc(x/B1)+A2erfc(x/B2)+C…(I)
[関数(I)においてerfcは相補誤差関数であり、A1>A2かつB1<B2である。]
<2>B2[μm]がt[μm]の20%以上である<1>に記載の化学強化ガラス。
<3>A2[MPa]が150以上、且つA2/B2[MPa/μm]が4以下である<1>または<2>に記載の化学強化ガラス。
<4>C[MPa]が-70以下である<1>~<3>のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
<5>厚さtが0.3mm以上2mm以下である、<1>~<4>のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
<6>母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を50~80%、Al2O3を4~30%、B2O3を0~15%、P2O5を0~15%、MgOを0~20%、CaOを0~20%、SrOを0~10%、BaOを0~10%、ZnOを0~10%、TiO2を0~10%、ZrO2を0~10%、Li2Oを3~20%、Na2Oを0~20%、K2Oを0~20%を含有する<1>~<5>のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
<7>カバーガラス用ガラス基板である<1>~<6>のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化学強化ガラスは、従来と比較して、高い表面圧縮応力と深い圧縮応力層深さを併せ持ち、且つ圧縮応力の総量が一定の値以下であり、高い強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例の化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
図1の実線は表1の例5に記載の化学強化ガラスの応力プロファイル、点線は表1の例15に記載の化学強化ガラスの応力プロファイルである。
【
図2】
図2は、ガラス表面側の応力分布パターン1の深さ(B
1)と最表面の圧縮応力(CS)との相関関係を示す図である。
図2中のB
1及びCSは、表1の例1~19に記載されている値のプロットであり、白三角のプロットは比較例(例13~例19)、黒丸のプロットは実施例(例1~例12)である。
【
図3】
図3は、実施例(例20)の化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
【
図4】
図4は、実施例(例21)の化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
【
図5】
図5は、実施例(例22)の化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
【
図6】
図6は、実施例(例23)の化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
【
図7】
図7は、実施例(例24)の化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の化学強化ガラスについて詳細に説明する。また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「~」は、同様の意味をもって使用される。
【0013】
本発明の化学強化ガラスは、厚さt[μm]を有し、ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルを、特に0<x<3t/8の領域において誤差最少2乗法により下記関数(I)を用いて、圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義して、近似した場合に、以下の(1)~(6)を全て満たす化学強化ガラスである。
A1erfc(x/B1)+A2erfc(x/B2)+C…(I)
[関数(I)において、erfcは補誤差関数であり、A1>A2かつB1<B2である。]
(1)A1[MPa]が600以上
(2)A2[MPa]が50以上
(3)B1[μm]が6以下
(4)B2[μm]がt[μm]の10%以上
(5)C[MPa]が-30以下
(6)A1/B1[MPa/μm]が100以上
【0014】
本発明の化学強化ガラスは、表面に化学強化処理によって形成された圧縮応力層を有する。化学強化処理では、ガラスの表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成させる。具体的には、ガラス転移点以下の温度でのイオン交換により、ガラス板表面付近に存在するイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0015】
第1段目の化学強化処理の後に、第1段目の条件(塩の種類、時間等)とは異なる条件で第2段目の化学強化処理を行う2段階の化学強化処理(以下、2段階強化ともいう)により得られる化学強化ガラスは、ガラス表面側の応力分布パターン1と、ガラス内部側の応力分布パターン2との2段階の応力分布パターンを有する。
図1にそのような化学強化ガラスの応力分布パターンの例を示す。
【0016】
ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルについて、ガラス表面側の応力分布パターンaについては下記関数(a)で、ガラス内部側の応力分布パターンbについては下記関数(b)で、圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義して、それぞれ近似することができる。
A1erfc(x/B1)+C1…(a)A2erfc(x/B2)+C2…(b)
[関数(a)及び(b)において、erfcは相補誤差関数であり、A1>A2かつB1<B2である。]
【0017】
A
1は応力分布パターン1の圧縮応力の大きさを表すパラメータ、B
1は、応力分布パターン1の圧縮応力層の深さを表すパラメータ、A
2は応力分布パターン2の圧縮応力の大きさを表すパラメータ、B
2は応力分布パターン2の圧縮応力の深さを表すパラメータである。C
1とC
2の和は、内部の引っ張り応力の大きさに、A
1、A
2、C
1、C
2の和は最表面の圧縮応力(CS)に対応する。本発明者らは、このような2段階の応力分布パターンを有する化学強化ガラスについて、研究を進め、
図2に示すように、ガラス表面側のパターン1の圧縮応力層の深さ(B
1)が小さいほど、最表面の圧縮応力(CS)が大きくなる傾向があることを見出した。
【0018】
さらに本発明者らは、厚さt[μm]を有し、前記関数(a)及び(b)を用いた前記関数(I)を用いて、ガラス表面からの深さx[μm]での応力値[MPa]のプロファイルを0<x<3t/8の領域において誤差最少2乗法により、圧縮応力を正、引っ張り応力を負と定義して、近似した場合に、下記(1)~(6)の条件を全て満たす化学強化ガラスは、従来と比較して、高い表面圧縮応力と深い圧縮応力層深さを併せ持ち、且つ圧縮応力の総量を一定の値以下とすることが可能であり、高い強度を有することを見出した。
(1)A1[MPa]が600以上
(2)A2[MPa]が50以上
(3)B1[μm]が6以下
(4)B2[μm]がt[μm]の10%以上
(5)C[MPa]が-30以下
(6)A1/B1[MPa/μm]が100以上
【0019】
前記(1)について、A1[MPa]は600以上であり、好ましくは700以上、より好ましくは750以上、さらに好ましくは800以上である。A1[MPa]が600以上であることにより、撓みや曲げに対する高い強度が得られる。A1[MPa]の上限は特に制限されないが、圧縮応力が大きくなると、それに応じて生じる内部引張応力が大きくなる傾向がり、内部引張応力が大きくなるとガラス表面に生じた傷が内部にまで達したときに激しく破壊する危険が大きくなる。そこで、破壊時の安全性を高めるために、好ましくは1000以下であり、より好ましくは950以下であり、さらに好ましくは920以下である。
【0020】
前記(2)について、A2[MPa/μm]は50以上であり、より好ましくは100以上、さらに好ましくは150以上、特に好ましくは200以上である。A2[MPa/μm]が50以上であることにより、砂上に落下させた際など、鋭角物加傷による割れ耐性が向上する。A2の上限は特に制限されないが、破壊時の安全性を高めるために、好ましくは600以下であり、より好ましくは500以下、さらに好ましくは400以下である。
【0021】
前記(3)について、B1[μm]は6以下であり、好ましくは5.5以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.5以下である。B1[μm]が6以下であることにより、圧縮応力の積分値を小さく抑えつつ、CSを向上させることが可能になる。B1[μm]の下限は特に制限されないが、ガラス表面に存在する傷の深さや表面粗さよりも十分大きいことが好ましいので、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは1.0以上である。
【0022】
前記(4)について、B2[μm]はt[μm]の10%以上であり、好ましくは20%以上であり、より好ましくは21%以上であり、さらに好ましくは22%以上であり、特に好ましくは23%以上である。B2[μm]がt[μm]の10%以上であることにより、砂上に落下させた際など、鋭角物加傷による割れ耐性が向上する。t[μm]に対するB2[μm]の比率の上限は特に制限されないが、圧縮応力値の積分値を一定の値以下にしなければならないことから、好ましくは40%以下であり、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは33%以下である。
【0023】
前記(5)について、Cは-30以下である。Cはガラス内部の引っ張り応力に関係する定数であり、Cが-30よりも大きい場合には、ガラス表層の圧縮応力値を十分高くするのが難しい。Cは好ましくは-50以下であり、さらに好ましくは、-70以下、さらに好ましくは-80以下である。また、Cは-150以上であることが好ましく、より好ましくは-140以上であり、さらに好ましくは-130以上である。Cが-150以上であることにより、ガラスが破壊した時に破片数が多い激しい割れ方となるのを防ぎ、破片が飛散する危険性を低減することができる。
【0024】
前記(6)について、A1/B1[MPa/μm]は100以上であり、好ましくは150以上であり、より好ましくは180以上であり、さらに好ましくは220以上である。A1/B1[MPa/μm]が100以上であることにより、圧縮応力値の積分値を低く抑えつつCSを上げることができる。A1/B1[MPa/μm]の上限は特に制限されないが、A1、B1の好ましい範囲をそれぞれ考慮すると、好ましくは2000以下であり、より好ましくは1500以下であり、さらに好ましくは900以下である。
【0025】
本発明の化学強化ガラスは、A2[MPa/μm]が好ましくは150以上、より好ましくは175以上、さらに好ましくは200以上であり、特に好ましくは250以上であり、且つA2/B2[MPa/μm]が好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3以下であり、特に好ましくは2.5以下であることが好ましい。A2[MPa/μm]が150以上、且つA2/B2[MPa/μm]が4以下であることにより、砂上に落下させた際など、鋭角物加傷による割れ耐性がより向上する。A2/B2[MPa/μm]の下限は特に制限されないが、A2、B2の好ましい範囲をそれぞれ考慮すると、好ましくは0.9以上であり、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.1以上である。
【0026】
A1、B1、A2、B2は、化学強化処理の条件やガラスの組成等を調整することにより、調整することができる。
【0027】
ただし、本発明の化学強化ガラスの製造においては、ガラス表面側の応力分布パターン1を形成するための圧縮応力層深さを浅く、ガラス内部側の応力分布パターン2を形成するための圧縮応力層深さを深くすることが好ましいため、パターン1を形成するためのイオン交換速度を遅くして、パターン2を形成するためのイオン交換速度を早くすることが好ましい。
【0028】
従来の化学強化ガラスは、パターン1、パターン2のいずれもガラス中のナトリウムイオンと強化塩中のカリウムイオンとのイオン交換によって形成されることが一般的であり、イオン交換速度はもっぱら化学強化温度によって制御されていた。
【0029】
しかし、化学強化温度の制御によりイオン交換速度を制御する方法には、強化塩の融点と分解温度の制約によって、化学強化温度をある一定の温度の間でしか制御することができないという場合がある。すなわち、化学強化温度が低すぎると、強化塩が溶融しにくいので化学強化が困難となり、化学強化温度が高すぎると、強化塩が徐々に熱分解するので、安定した化学強化ガラスの生産が困難となる場合がある。
【0030】
そこで、本発明者らは、化学強化温度の制御に加えて、好ましい特定のガラス組成を有するガラスを用いることで、好ましい応力分布パターンが容易に得られ、本発明の課題である、圧縮応力値の総量を一定の値以下にしつつ、高い表面圧縮応力及び深い圧縮応力層深さを達成できることを見出した。好ましいガラス組成については後に説明する。
【0031】
表面圧縮応力(値)(CS)[MPa]は表面応力計(例えば、折原製作所製の表面応力計FSM-6000等)により測定される値である。
【0032】
本発明の化学強化ガラスは、表面圧縮応力値(CS)が600MPa以上であることが好ましい。化学強化ガラスのCSが600MPa以上であれば、スマートフォンやタブレットPCのカバーガラスとして、良好な強度を有するので好ましい。化学強化ガラスのCSは、より好ましくは700MPa以上、さらに好ましくは800MPa以上であり、特に好ましくは850MPa以上であり、最も好ましくは900MPa以上である。
【0033】
一方、化学強化ガラスのCSの上限は特に限定されるものではないが、CSが大きくなると内部引張応力が大きくなる傾向があり、それによって激しく破壊するおそれがあるので破壊時の安全上の観点からは、例えば2000MPa以下であり、好ましくは1700MPa以下であり、より好ましくは1500MPa以下であり、さらに好ましくは1300MPa以下である。
【0034】
なお、化学強化ガラスのCSは、化学強化処理の条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0035】
また、本発明の化学強化ガラスにおいては、圧縮応力層深さ(DOL)が70μm以上であることが好ましい。DOLが70μm以上であると、砂上に落下させた際など、鋭角物加傷による割れ耐性が向上する。DOLは、化学強化ガラスの強度を高くするために好ましくは60μm以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、90μm以上、100μm以上、110μm以上、120μm以上、130μm以上、140μm以上である。
【0036】
一方、DOLの上限は特に限定されるものではないが、圧縮応力値の積算値を低く抑えるために、例えば200μm以下であり、好ましくは180μm以下であり、さらに好ましくは170μm以下であり、特に好ましくは160μm以下である。
【0037】
なお、DOLは、化学強化処理の条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0038】
本明細書において、DOLは応力プロファイル中で応力がゼロになる部分のガラス表面からの深さである。DOLは、ガラスの断面を薄片化し、該薄片化サンプルを複屈折イメージングシステムによって解析することによって見積もることができる。複屈折イメージングシステムとしては、例えば、株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio-IM等がある。また、散乱光光弾性を利用してDOLを見積もることもできる。この方法では、ガラスの表面から光を入射し、その散乱光の偏光を解析することによってDOLを見積もることができる。
【0039】
本発明の化学強化ガラスは、対面角の圧子角度が90°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf~10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が100個以下であることが好ましい。当該圧子圧入試験による破壊試験における破片の数(破砕数)が100個以下であれば、万が一破壊したとしても、高い安全性を確保することができる。当該破砕数は、より好ましくは50個以下であり、さらに好ましくは20個以下であり、特に好ましくは10個以下である。
【0040】
本発明の化学強化ガラスは、振り子式衝撃試験装置を用いて、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:160°)をガラス表面に衝突させる試験において、ガラスの破砕確率が50%となるときのダイヤモンド圧子の運動エネルギー(以下破壊エネルギーと記載する)が80mJ以上であることが好ましい。ダイヤモンド圧子を用いた振り子式衝撃試験において、破壊エネルギーが80mJ以上であれば、砂やアスファルト等、突起物を有する平面に落とした際に、ガラスが割れにくい。破壊エネルギーは、より好ましくは、100mJ以上、さらに好ましくは120mJ以上である。
【0041】
本発明の化学強化ガラスは、曲げ強度が500MPa以上であることが好ましい。曲げ強度が500MPa以上あれば、日常生活において想定される撓みに対して、十分な強度を得ることができる。例えば、大理石等の突起物を有さない平面に落とした場合、ガラスは撓みによって割れることが知られているが、曲げ強度が500MPa以上あるガラスは、突起物を有さない平面に落とした場合に、実用上十分な強度を持つ。
【0042】
本発明の化学強化ガラスは、以下の方法で求められる加傷後の曲げ強度が150MPa以上であることが好ましい。スマートフォン落下時にカバーガラス表面に生じる引張応力の大きさは150MPa程度であり、当該曲げ強度が150MPa以上であれば、鋭角物による加傷が起きた後でも落下による発生応力による破壊を防ぐことができる。加傷後の曲げ強度は、好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは250MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。
【0043】
加傷後の曲げ強度は、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値σa(曲げ強度、単位:MPa)をいう。
【0044】
つづいて、本発明における、化学強化ガラスの母組成について説明する。本明細書において、化学強化ガラスの母組成とは、化学強化前のガラス(以下、母ガラスということがある、また化学強化用ガラスということがある)の組成をいう。ここで、化学強化ガラスの引張応力を有する部分(以下、引張応力部分ともいう)はイオン交換されていない部分であると考えられる。そこで、化学強化ガラスの引張応力部分は、母ガラスと同じ組成を有しており、引張応力部分の組成を母組成とみることができる。
【0045】
以下において、化学強化ガラスの母組成について説明する。なお、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表されたものとする。
【0046】
ガラスの組成は、ICP発光分析等の湿式分析法により測定できる。ガラスの溶融過程で特に揮散しやすい成分を多く含まない場合には、ガラス原料の配合比から計算で求めることも可能である。
【0047】
本発明の化学強化用ガラス用の組成(本発明の化学強化ガラスの母組成)としては、例えば、SiO2を50~80%、Al2O3を4~30%、B2O3を0~15%、P2O5を0~15%、MgOを0~20%、CaOを0~20%、SrOを0~10%、BaOを0~10%、ZnOを0~10%、TiO2を0~10%、ZrO2を0~10%、Li2Oを3~20%、Na2Oを0~20%、K2Oを0~20%を含有するものが好ましい。
【0048】
また、例えば、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を50~80%、Al2O3を4~30%、B2O3を0~15%、P2O5を0~15%、MgOを0~20%、CaOを0~20%、SrOを0~10%、BaOを0~10%、ZnOを0~10%、TiO2を0~10%、ZrO2を0~10%、Li2Oを3~20%、Na2Oを0~20%、K2Oを0~20%、Y2O3を0.1~5%含有するものが好ましい。
【0049】
前記組成のガラスであれば、ガラス表面側の応力分布パターン1を形成するために、イオン交換速度の遅いNaとKとのイオン交換を、ガラス内部側の応力分布パターン2を形成するために、イオン交換速度の早いNaとLiとのイオン交換を用いることによって、パターン1の圧縮応力層深さを浅く、パターン2の圧縮応力層深さを深くすることが容易となる。化学強化処理については後述する。
【0050】
具体的には、例えば、以下のガラスが挙げられる。
(a)SiO2を69~71%、Al2O3を7~9%、B2O3を0~1%、P2O5を0~1%、Li2Oを7.5~9%、Na2Oを4~6%、K2Oを0~2%、MgOを6~8%、CaOを0~1%、SrOを0~1%、BaOを0~1%、ZnOを0~1%、TiO2を0~1%、ZrO2を0~2%を含有するガラス
(b)SiO2を62~69%、Al2O3を8~12%、B2O3を0~1%、P2O5を0~1%、Li2Oを8~12%、Na2Oを4~6%、K2Oを0~2%、MgOを3~8%、CaOを0~1%、SrOを0~1%、BaOを0~1%、ZnOを0~1%、TiO2を0~1%、ZrO2を0~2%、Y2O3を0.1~5%含有するガラス
【0051】
SiO2はガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる成分である。SiO2の含有量は50%以上であることが好ましい。SiO2の含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、56%以上、62%以上、65%以上、67%以上、68%以上、69%以上である。
【0052】
SiO2の含有量は溶融性が低下することを防ぐために80%以下が好ましく、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは73%以下、特に好ましくは72%以下、最も好ましくは71%以下である。ただしY2O3を0.1%以上含有する場合は、74%以下が好ましく、69%以下がより好ましく、67%以下がさらに好ましい。
【0053】
Al2O3は化学強化ガラスが割れた際の破片数を少なくする成分である。破片数が少なければ、破壊した時に破片が飛び散りにくい。また、Al2O3は化学強化の際のイオン交換性能を向上させ、強化後の表面圧縮応力を大きくするために有効な成分であり、ガラスのTgを高くし、ヤング率を高くする成分でもある。
【0054】
Al2O3の含有量は、4%以上が好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、4.5%以上、5.0%以上、5.5%以上、6.0%以上、6.5%以上、7.0%以上である。ただしY2O3を0.1%以上含有する場合は、好ましくは8%以上、より好ましくは、8.5%以上、さらに好ましくは9.5%以上、特に好ましくは10%以上である。
【0055】
また、Al2O3の含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは12%以下、特に好ましくは10%以下、最も好ましくは9%以下である。Y2O3を0.1%以上含有する場合は、20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、16%以下がさらに好ましく、14%以下が特に好ましく、12%以下がさらに好ましい。Al2O3の含有量を30%以下とすることにより、ガラスの耐酸性が低下するのを抑制し、失透温度が高くなるのを防ぎ、ガラスの粘性が増大するのを抑制して溶融性を向上することができる。
【0056】
B2O3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分である。B2O3は必須ではないが、B2O3を含有させる場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。
【0057】
また、B2O3の含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下である。B2O3の含有量を15%以下とすることにより、溶融時に脈理が発生し化学強化用ガラスの品質が低下するのを防ぐことができる。また、耐酸性を高くするためにはB2O3を含有しないことが好ましい。
【0058】
P2O5は、はイオン交換性能及びチッピング耐性を向上させる成分である。P2O5は含有させなくてもよいが、P2O5を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。
【0059】
また、P2O5の含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下である。P2O5の含有量を15%以下とすることにより、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を少なくし、また耐酸性の低下を抑制することができる。耐酸性を高くするためにはP2O5を含有しないことが好ましい。
【0060】
MgOは、化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる成分であり、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分であり、含有させてもよい。MgOを含有させる場合の含有量は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上である。
【0061】
また、MgOの含有量は20%以下が好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、18%以下、15%以下、13%以下、12%以下、10%以下、11%以下、8%以下である。MgOの含有量を20%以下とすることにより、化学強化用ガラスが溶融時に失透するのを防ぐことができる。
【0062】
CaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0063】
また、CaOの含有量は20%以下であることが好ましく、より好ましくは14%以下であり、さらには、以下、段階的に、10%以下、8%以下、3%以下、1%以下が好ましい。CaOの含有量を20%以下とすることにより、イオン交換性能が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0064】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分であり、含有させてもよい。含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上である。
【0065】
また、SrOの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。SrOの含有量を10%以下とすることにより、イオン交換性能が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0066】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上である。
【0067】
また、BaOの含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。BaOの含有量を10%以下とすることにより、イオン交換性能が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0068】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。
【0069】
また、ZnOの含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1%以下である。ZnO含有量を10%以下とすることにより、ガラスの耐候性が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0070】
TiO2は、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分であり、含有させてもよい。TiO2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上である。
【0071】
また、TiO2の含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは0.25%以下である。TiO2の含有量を10%以下とすることにより溶融時に失透しにくくなり、化学強化ガラスの品質が低下するのを防ぐことができる。
【0072】
ZrO2は、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、化学強化用ガラスが破壊した時の破片数を減らす効果があり、含有させてもよい。ZrO2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。
【0073】
また、ZrO2の含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下であり、最も好ましくは2%以下である。ZrO2の含有量を10%以下とすることにより、溶融時に失透しにくくなり、化学強化ガラスの品質が低下するのを防ぐことができる。
【0074】
Li2Oは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分である。Li2Oの含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは6%以上、特に好ましくは7%以上、典型的には7.5%以上である。Y2O3を0.1%以上含有する場合は、Li2Oの含有量は、1%以上であり、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上、特に好ましくは9%以上、最も好ましくは9.5%以上である。Li2Oの含有量を3%以上とすることにより、深いDOLを達成することが可能になる。
【0075】
また、ガラス溶融時の失透成長速度を抑制するためにLi2Oの含有量は20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは12%以下、特に好ましくは11%以下、最も好ましくは9%以下である。Y2O3を0.1%以上含有する場合は、Li2Oの含有量は、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは12%以下、最も好ましくは11%以下である。Li2Oの含有量を20%以下とすることにより、ガラスの耐酸性が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0076】
Na2Oはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。Na2Oを含有させる場合の含有量は1%以上であると好ましい。Na2Oの含有量は、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上である。
【0077】
また、Na2Oの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下、最も好ましくは6%以下である。Na2Oの含有量を20%以下とすることにより、ガラスの耐酸性が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0078】
K2Oは、イオン交換性能を向上させる等のために含有させてもよい。K2Oを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは2.5%以上である。
【0079】
また、K2Oの含有量は20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下であり、最も好ましくは2%以下である。K2Oの含有量が20%以下であると、化学強化ガラスが破壊した時の破片数が増大するのを防ぐことができる。
【0080】
Y2O3、La2O3、Nb2O5は、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らす成分であり、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。
【0081】
ガラスを所望の形状に成形する際の失透を抑制するためには、Y2O3を0.1%以上含有することが好ましい。Y2O3の含有量は、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、特に好ましくは0.8%以上、典型的には1%以上である。
【0082】
また、Y2O3、La2O3、Nb2O5の含有量は、それぞれ6%以下であると溶融時にガラスが失透しにくくなるので好ましい。Y2O3、La2O3、Nb2O5の含有量はより好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下であり、特に好ましくは3%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
【0083】
Ta2O5、Gd2O3は、化学強化ガラスが破壊した時の破片数を減らすために少量含有してもよいが、屈折率や反射率が高くなるので1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0084】
さらに、ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、TiO2、CeO2、Er2O3、Nd2O3等が好適なものとして挙げられる。
【0085】
着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で7%以下の範囲が好ましい。着色成分の含有量を7%以下とすることにより、ガラスが失透しやすくなるのを抑制することができる。着色成分の含有量は、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。ガラスの可視光透過率を優先させる場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0086】
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満であることを指す。
【0087】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。As2O3は含有しないことが好ましい。Sb2O3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0088】
また、本発明の化学強化ガラスは、ナトリウムイオン、銀イオン、カリウムイオン、セシウムイオン及びルビジウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種を表面に有することが好ましい。このことにより、表面に圧縮応力が誘起されガラスが高強度化される。また、銀イオンを表面に有することで、抗菌性を付与することができる。
【0089】
また、本発明においては、化学強化ガラスの母組成を有し、下記条件で徐冷した厚さ1mmのガラス板に対して、KNO3、NaNO3、又はKNO3とNaNO3との混合塩からなる400℃の溶融塩を用いて1時間のイオン交換処理を行ったときに、DOLが50μm以上となるような化学強化ガラスの母組成を選択することが好ましい。ここで、徐冷は、ガラス転移点より30℃~50℃高い温度T℃から、(T-300)℃まで0.5℃/分の冷却速度で行うものとする。
【0090】
さらに、本発明においては、化学強化ガラスの母組成を有し、下記条件で徐冷した厚さ1mmのガラス板に対して、KNO3、NaNO3、又はKNO3とNaNO3との混合塩からなる425℃の溶融塩により、1時間のイオン交換処理を行ったときに、DOLが70μm以上となるような化学強化ガラスの母組成を選択することが好ましい。ここで、徐冷は、ガラス転移点より30℃~50℃高い温度T℃から、(T-300)℃まで0.5℃/分の冷却速度で行うものとする。
【0091】
このような母組成であると、イオン交換速度が速く、短時間で化学強化することができる。
【0092】
本発明の化学強化ガラスの厚さ(t)は、化学強化により顕著な強度向上を可能にするとの観点から、2mm以下であることが好ましく、より好ましくは、以下段階的に、1.5mm以下、1mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度向上の効果を得る観点からは、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは0.6mm以上である。
【0093】
なお、本発明の化学強化ガラスは、適用される製品や用途等に応じて、板状以外の形状、たとえば、外周の厚みが異なる縁取り形状などを有していてもよい。また、上記ガラス板は、2つの主面と、これらに隣接して板厚を形成する端面とを有し、2つの主面は互いに平行な平坦面を形成していてもよい。ただし、ガラス板の形態はこれに限定されず、例えば2つの主面は互いに平行でなくともよく、また、2つの主面の一方又は両方の全部又は一部が曲面であってもよい。より具体的には、ガラス板は、例えば、反りの無い平板状のガラス板であってもよく、また、湾曲した表面を有する曲面ガラス板であってもよい。
【0094】
本発明の化学強化ガラスは、例えば、以下のようにして製造することができる。なお、下記の製造方法は、板状の化学強化ガラスを製造する場合の例である。
【0095】
まず、後述する化学強化処理に供するガラス(化学強化用ガラス)を用意する。例えば、ガラスの各成分の原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、従来公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。
【0096】
ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、すなわち、フュージョン法及びダウンドロー法も好ましい。
【0097】
その後、成形したガラスを必要に応じて研削及び研磨処理して、ガラス基板を形成する。なお、ガラス基板を所定の形状及びサイズに切断したり、ガラス基板の面取り加工を行う場合、後述する化学強化処理を施す前に、ガラス基板の切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0098】
そして、形成したガラス基板に化学強化処理を施した後、洗浄及び乾燥することにより、本発明の化学強化ガラスを製造することができる。
【0099】
化学強化処理においては、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に、浸漬などによってガラスを接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオンと置換される。
【0100】
特に、早いイオン交換速度で化学強化処理を行うためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換すること(Li-Na交換)が好ましい。
【0101】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、などが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
具体的には例えば、ガラス表面側の応力分布パターン1を形成するためには、溶融塩としてKNO3塩を用いることが好ましく、また、ガラス内部側の応力分布パターン2を形成するためには、溶融塩としてNaNO3塩を用いることが好ましい。また、従来の化学強化ガラスの製造においては、NaNO3とKNO3の混合塩がしばしば用いられていたが、Liを含有するガラスの化学強化には、混合せずに用いることがより好ましい。
【0103】
化学強化処理(イオン交換処理)は、例えば、360~600℃に加熱された溶融塩中に、ガラスを0.1~500時間浸漬することによって行うことができる。なお、溶融塩の加熱温度としては、350~500℃が好ましく、また、溶融塩中へのガラスの浸漬時間は、0.3~200時間であることが好ましい。
【0104】
本発明の化学強化ガラスは、異なる条件で2段階の化学強化処理を行うことにより得ることができる。例えば、第1段目の化学強化処理として、CSが相対的に低くなる条件で化学強化処理を行った後に、第2段目の化学強化処理として、CSが相対的に高くなる条件で化学強化処理を行うと、化学強化ガラスの最表面のCSを高めつつ、圧縮応力層に生じる圧縮応力の積算値(圧縮応力値の総量)を低めに抑えることができ、結果として内部引張応力(CT)を低めに抑えることができる。
【0105】
高い表面圧縮応力及び深い圧縮応力層深さを実現するためには、具体的には例えば、第1段目の化学強化によってガラス内部側の応力分布パターン2を形成した後に、第2段目の化学強化処理によってガラス表面側の応力分布パターン1を形成することが好ましい。第1段目の化学強化処理によってパターン1を形成した場合には、第2段目の化学強化処理によってパターン2を形成する際に、第1段目で形成したパターン1の形が崩れ、パターン1の圧縮応力層深さが深くなってしまう場合がある。
【0106】
本発明の化学強化ガラスを得るための条件としては、具体的には例えば、下記の2段階の化学強化処理の条件が挙げられる。
第1段目の化学強化処理:好ましくは母組成がSiO2を50~80%、Al2O3を4~30%、B2O3を0~15%、P2O5を0~15%、MgOを0~20%、CaOを0~20%、SrOを0~10%、BaOを0~10%、ZnOを0~10%、TiO2を0~10%、ZrO2を0~10%、Li2Oを3~20%、Na2Oを0~20%、K2Oを0~20%含有するガラスを、好ましくは硝酸ナトリウムを含有する溶融塩を用いて、好ましくは425~475℃で、好ましくは2~5時間イオン交換する。
第2段目の化学強化処理:第1段目の化学強化処理後のガラスを、好ましくは硝酸カリウムを含有する溶融塩を用いて、好ましくは375~450℃で、好ましくは0.5~2時間イオン交換する。
【0107】
本発明において、化学強化処理の処理条件は、上記条件に特に限定されず、ガラスの特性・組成や溶融塩の種類などを考慮して、時間及び温度等の適切な条件を選択すればよい。
【0108】
本発明の化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ(TV)、パーソナルコンピュータ(PC)、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲げ加工や成形により板状でない曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
【実施例】
【0109】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0110】
表1に示される例1~24のガラスを、以下のようにして作製、評価した。なお、例1~12および例20~24が実施例であり、例13~19が比較例である。
【0111】
(例1~14、20~24)
[化学強化ガラスの作製]
表1に酸化物基準のモル百分率表示で示すガラス組成1~5となるようにガラス板を白金るつぼ溶融にて作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして1000gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡、均質化した。
【0112】
【0113】
得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、所望の形状の板状ガラスを得た。なお、ガラスの厚さt[mm]は、表1に示されている。得られたガラスに対して、表2、3に示す2段階の化学強化処理を行うことにより、例1~14および例20~24の化学強化ガラスを得た。
図1に例5の化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。
図3~7は、それぞれ、例20~24の化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。
【0114】
[応力プロファイル]
化学強化ガラスについて、ガラス表面からx[μm]の深さの部分の応力値CSx[MPa]を測定ないし算出した。ガラスの表層から深さ30μmまでのCSxの評価には、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000、深さ30μmから深さ300μmまでのCSxの評価には散乱光光弾性を応用した折原製作所社製の測定機SLP1000を用いた。
【0115】
続いて、CSxのプロファイルを、0<x<3t/8の範囲において誤差最少2乗法により下記関数(I)を用いて近似することにより、A1、B1、A2、B2、C、A1/B1、A2/B2の値を求めた。結果を表2および3に示す。
A1erfc(x/B1)+A2erfc(x/B2)+C…(I)
[関数(I)においてerfcは相補誤差関数であり、A1>A2かつB1<B2である。]
【0116】
(例15~19)
例15~19は、特許文献1(米国特許公開第2015/0259244号明細書)に基づいて記載した結果である。それぞれ特許文献1中のSample b、Sample f、Sample g、Sample i、Sample jに該当する。特許文献1に記載されている応力値プロファイル(
図5c、9b、10b、11b、12b、13b)を画像解析ソフトで数値化し、数値化した応力値プロファイルを、関数(I)を用いて近似することにより、A
1、B
1、A
2、B
2、C、A
1/B
1、A
2/B
2の値を求めた。結果を表3に示す。また、
図1に例15の化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。
【0117】
[CS、DOL]
例1~例24の化学強化ガラスのCS、DOLを表2~3に示す。折原製作所社製の表面応力計FSM-6000及び散乱光光弾性を応用した折原製作所社製の測定機SLP1000を用いて評価した、応力値CSxがゼロになる深さをDOL、最表層におけるCSxをCSとした。
【0118】
[4点曲げ試験]
例5、例9、例13、例14で得られた化学強化ガラスについて、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより曲げ強度(単位:MPa)を測定した。結果を表2に示す。表2において空欄は未評価であることを示す。
【0119】
[振り子式衝撃試験]
例5、例9、例13、例14で得られた化学強化ガラスについて、下記条件の評価条件の下、振り子式衝撃試験装置を用いて、破壊エネルギーを測定した。結果を表2に示す。振り子の先端に、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:160°)を装着し、振り子とダイヤモンド圧子の重量の合計が300gになるよう調整した。振り子及びダイヤモンド圧子を、ある一定の角度まで持ち上げ、静止した後、放すことで、ダイヤモンド圧子の先端が、ある一定の力学的エネルギーを持って運動するよう制御した。
【0120】
振り子運動において、ダイヤモンド圧子の運動エネルギーが最大となる付近において、ガラスサンプルに対してダイヤモンド圧子が垂直に衝突するよう、ガラスサンプルを配置し、力学的エネルギーを変数として、ダイヤモンド圧子とガラスサンプルを繰り返し衝突させることにより、ガラスサンプルの破砕確率を評価した。ガラスサンプルの破砕確率が50%となるときのダイヤモンド圧子の力学的エネルギーを破壊エネルギーとして評価した。結果を表2に示す。表2において空欄は未評価であることを示す。
【0121】
【0122】
【0123】
表2および3に示すように、実施例である例1~12、20~24の化学強化ガラスは、比較例である例13~19の化学強化ガラスと比較して、高い表面圧縮応力及び深い圧縮応力層深さを併せ持つことがわかった。
【0124】
また、
図1に示すように、実施例である例5の化学強化ガラスは、ガラス表面側の応力分布パターン1の圧縮応力層深さが浅く、ガラス内部側の応力分布パターン2の圧縮応力値が小さい応力プロファイルを有し、圧縮応力値の総量を一定の値以下にしつつ、比較例である例15の化学強化ガラスと比較して、高い表面圧縮応力及び深い圧縮応力層深さを併せ持つことがわかった。
【0125】
さらに、表1に示すように、表面圧縮応力及び圧縮応力層深さの小さい例13、例14と比較して、表面圧縮応力及び圧縮応力層深さの大きい例5、例9の方が、4点曲げ強度及び振り子式衝撃試験における破壊エネルギーが大きいことがわかった。
【0126】
これらの結果は、本発明の化学強化ガラスが、従来と比較して、化学強化ガラスとしての高い強度を有していることを示している。
【0127】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2017年4月6日付けで出願された日本特許出願(特願2017-076106)および2018年2月5日付けで出願された日本特許出願(特願2018-018508)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。