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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】レーザ描画用積層体及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/382 20140101AFI20230411BHJP
   B41M 5/26 20060101ALI20230411BHJP
   B42D 25/387 20140101ALI20230411BHJP
   B42D 25/41 20140101ALI20230411BHJP
   B42D 25/45 20140101ALI20230411BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230411BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
B42D25/382
B41M5/26
B42D25/387
B42D25/41
B42D25/45
B32B7/023
B32B9/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020057000
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154597
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】金子 智一
(72)【発明者】
【氏名】小林 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】新免 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸山 博
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-127240(JP,A)
【文献】特開2019-214392(JP,A)
【文献】特開2005-205882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/382
B41M 5/26
B42D 25/387
B42D 25/328
B42D 25/41
B32B 7/023
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線領域の波長のレーザ光により発色する材料を含有する基材層と、
前記基材層上に積層された赤外線領域の波長のレーザ光により発色する材料を含有するレーザ発色層を少なくとも有し、
前記紫外線領域の波長のレーザ光により前記基材層に形成された第一の画像と、前記赤外線領域の波長のレーザ光により前記レーザ発色層に前記第一の画像と少なくとも一部が重畳、隣接又は近接して形成された第二の画像から成る情報画像を有することを特徴とするレーザ描画用積層体。
【請求項2】
前記紫外線領域の波長のレーザ光により発色する前記基材層の材料が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1記載のレーザ描画用積層体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の前記レーザ描画用積層体の作製方法であって、
前記基材層上に前記レーザ発色層を積層し、前記基材層に第一のレーザである紫外線レーザ光の焦点を合わせて前記第一の画像を作製する第一の画像作製工程と、
前記レーザ発色層の前記第一の画像と重畳、隣接又は近接する位置に、第二のレーザである赤外線レーザ光の焦点を合わせて前記第二の画像を形成して前記情報画像を作製する情報画像作製工程を少なくとも備えることを特徴とするレーザ描画用積層体の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一の画像と第二の画像に分割した情報画像を形成した積層体であり、基材層にUVレーザにより形成した第一の画像と、基材層に積層したレーザ発色層にIRレーザにより形成した第二の画像を形成したレーザ描画用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
本格的カード時代の到来により、日常生活において様々な種類のカードが用いられている。例えば、プラスチック基材層表面に特定情報等が印刷されたカード、テレフォンカード等の磁気カード、あるいはICメモリを内蔵したクレジットカードに代表されるICカード、プラスチック基材層に個人情報等を印刷したデータページを使用したパスポートなど、身分証明等の用途で顔写真等の画像が印刷されたものもある。
【0003】
このような各種カードの改ざんを防止する手法としては、レーザ発色層上に形成した印刷層を有し、当該レーザ発色層にレーザ光を照射して形成した発色画像を有する積層体がある。
【0004】
前述のレーザ発色層に形成した発色画像と印刷層を形成する一例としては、レーザ発色性基材層と不可視インキを用いた改ざん防止層を設けて、レーザ発色性基材層にレーザ光を照射して個人認証情報を記録するのと同時に、改ざん防止層にも同一の個人認証情報を記録することにより、改ざんされた際に検知しやすくする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-038168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、レーザ発色層上に不可視インキを付与した印刷層を形成した技術であり、レーザ発色層上から印刷層を剥離して印刷層の組成を分析し、改ざんした印刷層を再度積層して偽造されるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、積層体の各層内の発色位置を異ならせることで、改ざん困難なレーザ描画用積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、紫外線領域の波長のレーザ光により発色する材料を含有する基材層と、基材層上に積層された赤外線領域の波長のレーザ光により発色する材料を含有するレーザ発色層を少なくとも有し、紫外線領域の波長のレーザ光により基材層に形成された第一の画像と、赤外線領域の波長のレーザ光によりレーザ発色層に第一の画像と少なくとも一部が重畳、隣接又は近接して形成された第二の画像から成る情報画像を有することを特徴とするレーザ描画用積層体である。
【0009】
また、本発明は、紫外線領域の波長のレーザ光により発色する基材層の材料が二酸化チタンであることを特徴とするレーザ描画用積層体である。
【0010】
また、本発明は、レーザ描画用積層体の作製方法であって、基材層上にレーザ発色層を積層し、基材層に第一のレーザである紫外線レーザ光の焦点を合わせて第一の画像を作製する第一の画像作製工程と、レーザ発色層の第一の画像と重畳、隣接又は近接する位置に、第二のレーザである赤外線レーザ光の焦点を合わせて第二の画像を作製して情報画像を作製する情報画像作製工程を少なくとも備えることを特徴とするレーザ描画用積層体の作製方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、積層体の各層内の発色位置を異ならせることで、改ざん困難なレーザ描画用積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のレーザ描画用積層体を示す一例図。
図2】本発明のレーザ描画用積層体の第一の画像を示す一例図。
図3】本発明のレーザ描画用積層体の第二の画像を示す一例図。
図4】本発明のレーザ描画用積層体の情報画像の作成を示す一例図。
図5】本発明のレーザ描画用積層体の作製方法のフロー図。
図6】本発明のレーザ描画用積層体の他の形態を示す一例図。
図7】本発明のレーザ描画用積層体の他の形態を示す一例図。
図8】本発明のレーザ描画用積層体の他の形態を示す一例図。
図9】本発明のレーザ描画用積層体の他の形態を示す一例図。
図10】本発明のレーザ描画用積層体の画像データの作成を示す一例図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0014】
(第一の実施形態)
(レーザ描画用積層体)
図1に、本発明のレーザ描画用積層体(A1)を示す。本第一の実施形態は、レーザ描画用積層体(A1)をカードとして形成した例である。図1(a)は、レーザ描画用積層体(A1)の平面図であり、第一の画像(1)と第二の画像(3)により情報画像(5)を形成した一例である。図1(b)は、レーザ描画用積層体(A1)のAA´断面図であり、図1(b)に示すように、レーザ描画用積層体(A1)は、基材層(2)に形成された顔画像である第一の画像(1)と、基材層(2)上に積層されたレーザ発色層(4)に形成された文字情報である第二の画像(3)を有し、第一の画像(1)と第二の画像(3)により情報画像(5)が形成される。
【0015】
(基材層)
基材層(2)は、350~370nmの紫外線領域に吸収波長域を有し、黒色系に発色する紫外線吸収材料を含有する熱可塑性樹脂層又はインキ層により形成されてなる。紫外線吸収材料としては、例えばサリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、トリアジン系の有機系化合物、カーボンナノチューブ、酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、酸化チタン化合物、酸化セリウム、二酸化チタン微粒子を酸化鉄で複合化処理してなるハイブリッド無機粉体および酸化セリウム微粒子の表面を非結晶性シリカでコーティングしてなるハイブリッド無機粉体等の公知の材料を使用することができる。
【0016】
紫外線吸収材料を含有する樹脂層としては、前述紫外線吸収材料を含有するポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートを使用することができる。紫外線吸収材料を含有するインキ層としては、酸化亜鉛、二酸化チタン(白色チタン)、酸化セリウム等の粉末又は顔料をワニス等に分散させたインキをスクリーン印刷、グラビア印刷及び凹版印刷等により紙又は紫外線吸収特性を有さない熱可塑性樹脂シート等に付与して形成したものが挙げられる。
【0017】
なお、基材層(2)の色彩は、後述する第一の画像(1)の発色性に影響を与えなければ特に限定されず、透明、白色又はその他の有色の色彩であってもよい。なお、紫外線吸収による発色性を考慮した場合に、好ましくは、二酸化チタン(白色チタン)を含有する白色のポリカーボネート(PC)等の熱可塑性樹脂シート、二酸化チタン(白色チタン)を含有する白色インキである。
【0018】
基材層(2)の厚さは、0.03mm以上0.4mm以下である。0.03mm未満の場合は、コシが弱く、自らの摩擦で発生する静電気により1枚ずつ取り扱うことが難しくなり、工業的な生産が困難になる。0.4mmを超えた場合は、積層体(A1)が厚くなり過ぎ、カードとして取り扱い性が低下する。なお、後述するレーザ発色層(4)の厚さも、基材層(2)の厚さと同様である。
【0019】
(第一の画像)
図2に、基材層(2)に形成された第一の画像(1)の平面図と断面図を示す。図2(b)は、基材層(2)として二酸化チタン(白色チタン)を含有する白色のポリカーボネートを用い、紫外線レーザ(以下、「UVレーザ」という。)により350~370nmの紫外線を照射して、黒色系の第一の画像(1)を基材層(2)の表層に形成した例である。また、第一の画像(1)は、UVレーザの焦点を調整することによって、図2(c)に示すように、基材層(2)の表層から裏層にかけて形成してもよく、図2(d)に示すように下層又は図2(e)に示すように中間に形成してもよい。あるいは、図2(f)に示すように、紙等の基体(9)上に紫外線吸収インキを印刷又は塗工により形成した基材層(2)にUVレーザを照射して第一の画像(1)を形成してもよい。
【0020】
なお、本第一の実施の形態では、第一の画像(1)を顔画像、第二の画像を(3)を文字情報として形成しているが、双方の画像とも、顔画像、文字や数値、記号、マーク、図形等で組み合わせて形成してもよい。
【0021】
第一の画像(1)の色彩は、黒色系である。黒色系とは、黒色系の色相であればよく、黒色だけでなく、黒色に近い灰色、黒色に近い茶色等の色相も含むものである。なお、第一の画像(1)は、基材層(2)の表層又は表層から裏層にかけて形成する場合は、黒色系に発色する樹脂シートにUVレーザを照射して形成する。基材層(2)が紙の場合は、公知の紫外線照射により黒色系に発色するインキを基材層(2)上に付与してUVレーザを照射して形成する。
【0022】
(レーザ発色層)
レーザ発色層(4)は、700nm~1000nmの赤外線を吸収する赤外線吸収材料を含有し、透明性を有する熱可塑性樹脂層又はインキ層であれば特に限定されず、単層又は複数の熱可塑性樹脂シートを積層して構成してもよい。レーザ発色層(4)に透明性が求められるのは、基材層(2)に形成された第一の画像(1)と第二の画像(3)を重ね合わせて視認できるようにするためである。
【0023】
赤外線吸収材料を含有する熱可塑性樹脂層としては、カーボン、五酸化二燐(P )を主成分とし、酸化鉄、酸化銅のいずれか又は双方を含んだガラス系粉等の黒色系に発色する赤外線吸収特性を含有するポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シート又は透明性のレーザ発色シートを使用することができる。赤外線吸収材料を含有するインキ層としては、五酸化二燐(P )を主成分とし、酸化鉄、酸化銅のいずれか又は双方を含んだガラス系粉等の粉末又は赤外線吸収顔料をワニス等に分散させたインキをスクリーン印刷、グラビア印刷及び凹版印刷等により赤外線吸収特性を有さない透明フィルム等の熱可塑性樹脂シートに付与して形成したものが挙げられる。
【0024】
(第二の画像)
図3に、レーザ発色層(4)に形成された第二の画像(3)の平面図と断面図を示す。第二の画像(3)の色彩は、第一の画像(1)と同様に黒色系である。図3(b)は、レーザ発色層(4)として透明性を有する赤外レーザ発色シートを用い、赤外線レーザ(以下、「IRレーザ」という。)により700nm~1000nmの赤外線を照射して、レーザ発色層(4)の表層に黒色系の第二の画像(3)を形成した例である。第二の画像(3)は、図3(c)に示すように、レーザ発色層(4)の表層から裏層にかけて形成してもよく、図3(d)に示すように、レーザ発色層(4)の中層に形成してもよい。また、図3(e)に示すように、表層、中層又は下層を組み合わせて形成してもよい。あるいは、図3(f)に示すように、紙等の基体(9)上に前述の黒色系に発色する赤外線吸収インキを印刷又は塗工により形成したレーザ発色層(4)が設けられ、レーザ発色層(4)にIRレーザを照射して第二の画像(3)を形成してもよい。
【0025】
(情報画像)
本第一の実施形態では、図1に示すように情報画像(5)は、第一の画像(1)と第二の画像(3)が一部重複して成るが、情報画像(5)は、第一の画像(1)と第二の画像(3)の少なくとも一部を近接又は隣接して形成してもよい。近接又は隣接する構成は後述するが、本発明において、近接及び隣接とは、第一の画像(1)と第二の画像(3)の一端が接しているものを隣接、第一の画像(1)と第二の画像(3)の一端が接していないものを近接という。
【0026】
また、情報画像(5)は、互いに関連性のある情報(顔画像と氏名等)をそれぞれ第一の画像(1)と第二の画像(3)として組み合わせてもよく、一つの情報(顔画像等)を分割して第一の画像(1)と第二の画像(3)として組み合わせてもよい。あるいは、情報(顔画像と氏名等)として形成した第一の画像(1)に関連性のない情報(文字、記号又は図形等)を第二の画像(3)とし、第二の画像(3)の一部を第一の画像(1)に重畳させて割り印のように形成してもよい。
【0027】
情報画像(5)は、図4(a)に示すように、基材層(2)上にレーザ発色層(4)に熱圧着又は接着等により積層した後、図4(b)に示すように、第一のレーザ(6)としてUVレーザの焦点を基材層(2)に合わせて照射して第一の画像(1)を形成する。次に、図4(c)に示すように、第二のレーザ(7)としてIRレーザの焦点をレーザ発色層(4)に合わせて照射して、第二の画像(3)と第一の画像(1)の一部が重畳、近接又は隣接して形成する。
【0028】
(作製方法)
次に、レーザ描画用積層体(A1)の作製方法について、図5により説明する。本発明のレーザ描画用積層体(A1)の作製方法は、第一の画像作製工程(S1)と、情報画像作製工程(S2)を少なくとも有する。
【0029】
第一の画像作製工程(S1)は、第一の画像(1)を形成する基となる第一の画像データを画像処理機器により作成又は外部から入力し、第一の画像データを得る。次に、基材層(2)上にレーザ発色層(4)を熱溶着により積層してあらかじめ一体化させた後、基材層(2)に第一のレーザ(6)として、UVレーザの焦点を合わせて照射し、第一の画像データを基に第一の画像(1)を作製する。UVレーザは、基材層(2)を発色させる限りにおいて、公知のUVレーザである半導体レーザを使用することができる。
【0030】
なお、基材層(2)上にレーザ発色層(4)を熱圧着により溶着することは、公知の熱硬化性樹脂板等の製造における熱圧成型と同様である。具体的には、ジュラルミン、ステンレス等の金属製の平滑な金属板を使用し、金属板の温度を熱板によりレーザ発色層(4)を形成する熱可塑性樹脂の軟化点以上である約100~200℃程度に加熱し、約10~100kgf/cm程度の圧力を、熱可塑性樹脂の溶融特性に応じた時間により加え、基材層(2)上にレーザ発色層(4)を熱溶着して積層される。
【0031】
第一のレーザ(6)の光源の平均出力P(単位:W)は、特に限定されないが、例えば0.5~30W、好ましくは1~20Wである。平均出力Pは、レーザ出力条件の出力%により設定することができる。例えば、最大出力30Wレーザにおいて、出力30%に設定すると、平均出力Pは9Wとなる。この数値範囲内とすることで、発色濃度と生産コストとの両立を図りやすくなる。また、第一のレーザ(6)の光源がパルスレーザである場合、その繰り返し周波数は、特に限定されないが、1~400kHz、より好ましくは50~100kHzである。この数値範囲内とすることで、印字濃度と生産コストとの両立を図りやすくなる。
【0032】
第一の画像(1)を作製する速度は、生産性や所望する発色濃度などにより適宜調整すればよい。例えば、レーザのスポットの移動速度が0.5~10m/s、好ましくは1~6m/sである。この数値範囲内とすることで、工業的な生産性(描画スピード)と発色濃度向上の両立をより図りやすくなる。
【0033】
(情報画像作製工程)
情報画像作製工程(S2)は、第二の画像(3)を形成する基となる第二の画像データを画像処理機器により作成又は外部から入力し、第二の画像データを得る。次に、レーザ発色層(4)に第二のレーザ(7)として、IRレーザの焦点を合わせて照射して、第二の画像データを基に黒色系の第二の画像(3)を第一の画像(1)に重畳、近接又は隣接する位置に形成する。IRレーザは、レーザ発色層(4)を発色させる限りにおいて、公知のIRレーザを使用することができる。例えば、IRレーザとしては、例えば、CO2レーザ、ファイバーレーザ、YAGレーザ、近赤外レーザ、半導体レーザ等を用いることができる。
【0034】
なお、IRレーザの出力、照射速度等の条件については、前述の第一の画像(1)を形成する場合と同じであるため省略する。
【0035】
(第二の実施形態)
次に、第二の実施形態として、第一の画像(1)と第二の画像(3)を隣接して形成した情報画像(5)を有するレーザ描画用積層体(A2)について、図6により説明する。なお、第一の実施形態と同様な記載は省略し、異なる箇所のみ説明する。
【0036】
図6(a)に示すように、情報画像(5´)は、顔画像をBB´を中心に第一の画像(1´)と第二の画像(3´)に分割して形成した一例であり、図6(b)の断面図に示すように、情報画像(5´)は、基材層(2´)に形成された第一の画像(1´)と、レーザ発色層(4´)に形成された第二の画像(3´)が隣接して形成される。なお、発明の便宜上、第一の画像(1´)と第二の画像(3´)を異なる画線により形成しているが、実際には第一の画像(1´)と第二の画像(3´)は、双方とも黒色系であるため区分けして視認することはできない。
【0037】
本第二の実施の形態では、図6(c)に示すように、情報画像(5´)をBB´を中心として第一の画像(1´)と第二の画像(3´)を等間隔(P1)の二つに分割して形成しているが、等間隔に限定しなくてもよく、三つ以上に分割してもよい。
【0038】
例えば、図7(a)に示すように、情報画像(5´)である顔画像をAA´及びBB´を中心に第一の画像(1´)と第二の画像(3´)を四つに分解してもよい。また、図7(b)に示すように、基材層(2´)の層内の異なる位置に第一の画像(1´)と、レーザ発色層(4´)の層内の異なる位置に第二の画像(3´)を隣接してもよい。
【0039】
(第三の実施形態)
次に、図8に示すように、第三の実施形態として、基材層(2´´)とレーザ発色層(4´´)の間に透明性中間層(8)を積層した形態であって、パララックスバリア方式により情報画像(5´´)が立体的に視認できるレーザ描画用積層体(A3)の構成について説明する。なお、説明の便宜上、第一の実施形態と第二の実施形態が重複する部分は省略し、異なる箇所のみ説明する。
【0040】
図8(a)及び図8(b)に示すように、第三の実施形態のレーザ描画用積層体(A3)は、第一の基材(2´´)の第一の画像(1´´)とレーザ発色層(4´´)の第二の画像(3´´)が同一の図柄、かつ、少なくとも一部が積層され、第一の画像(1´´)の中心を基準として、第二の画像(3´´)が距離(T)をずらして形成することによって、一方の目が正反射光を視認し、他方の目が拡散反射光を視認する観察条件で観察すると、第一の画像(1´´)と第二の画像(3´´)により情報画像(5´´)が立体画像として視認することができる。
【0041】
また、図8(a)では、発明の説明の便宜上、ずらした距離(T)を明確にするため第一の画像(1´´)を点線により示しているが、実際には、ずらした距離(T)がわずかであることから、第一の画像(1´´)と第二の画像(3´´)により合成された一つの情報画像(5´´)として視認される。なお、距離(T)については、後述する。
【0042】
次に、図9により、第一の画像(1´´)と第二の画像(3´´)のずらした距離(T)の関係について説明する。図9に示すように、第二の画像(3´´)は、第一の基材層(2´´)に形成された第一の画像(1´´)の中心(Z1)を基準として、第二の画像(3´´)の中心(Z2)の距離(T)をずらしてレーザ発色層(4´´)に形成するか、図示していないが、第一の画像(1´´)と第二の画像(3´´)の配列ピッチを距離(T)ずらして形成する。
【0043】
パララックスバリア方式の原理から、第一の画像(1´´)と第二の画像(3´´) のずらし距離(T)は、透明性中間層(8)の厚さによるが、1mmから3mmずらすことで立体視が可能であり、所望とする奥行き感に合わせてずらし距離(T)を調整すればよい。なお、ずらし距離(T)が1mm未満の場合は、情報画像(5´´)の変化が小さいことから立体視し難くなる。3mmを超えた場合は、情報画像(5´´)の視認性が低下する。
【0044】
また、透明性中間層(8)は、透明性を有する熱可塑性樹脂層であれば特に限定されず、単層又は複数の熱可塑性樹脂層を積層して構成される。透明性中間層(8)を形成する熱可塑性樹脂層としては、ポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートを使用することができる。
【0045】
本発明のレーザ描画用積層体(A1、A2、A3)は、基材層(2、2´、2´´)とレーザ発色層(4、4´、4´´)の層内の異なる位置に第一の画像(1、1´、1´´)と第二の画像(3、3´、3´´)を複数の層に情報を分離して形成することができるため、単一のレーザ発色層を使用した場合に比べて改ざん防止効果が向上する。
【0046】
(実施例)
本発明の実施例について、前述の実施の形態と同様に図を用いて説明をする。なお、本発明の内容は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0047】
本実施例は、製造例として、図6に示すレーザ描画用積層体(A2)を基材層(2´)として白色樹脂シート、レーザ発色層(4´)として赤外レーザ発色シートを積層して形成したものである。
【0048】
情報画像(5´)を形成するため、図10に示すように人物像の基画像データ(10)を画像処理機器によりBB´を中心に等間隔(P1)に分割した第一の画像データ(10-1)と第二の画像データ(10-2)を作成した。
【0049】
基材層(2´)は、二酸化チタン(白色チタン)を含有する白色系のポリカーボネート(厚さ0.10mm)を使用し、レーザ発色層(4´)は、透明性の赤外レーザ発色シート(厚さ0.40mm)を使用した。
【0050】
次に、基材層(2)上にレーザ発色層(4´)を積層し、SD型成形プレス機(株式会社ダンベル社製「SDOP-1042-2HC-AT-WC1V-PG3」)を使用して、160℃から185℃まで、30秒、2.5MPaの機械設定で熱圧着を行い、熱溶着後50℃まで冷却してブランク積層体(図示せず。)を作製した。
【0051】
冷却後のブランク積層体に対し、第一のレーザ(6)として波長355nmのUVレーザを使用して、第一の画像データ(10-1)により基材層(2´)の表層に黒色系の第一の画像(1´)を作製した。
【0052】
次に、レーザ発色層(4´)の第一の画像(1´)と重畳する位置の表層に、波長1064nmの赤外レーザ(キーエンス製レーザーマーカー「3Axis YVOLaserMarker MD-V9900」)を使用して、第二の画像データ(10-2)によりレーザ発色層(4´)に黒色系の第二の画像(3´)を作製した。
【0053】
実施例1の情報画像(5´)を観察したところ、第一の画像(1´)と第二の画像(3´)が合成された黒色系の顔画像を確認することができた。
【0054】
次に、実施例1のレーザ描画用積層体(A2)のレーザ発色層(4´)である赤外レーザ発色シートのはく離について、テンシロン万能試験機を使用して、JIS X6305-1(ISO/IEC 10373-1)に準拠したはく離試験を行った。
【0055】
テンシロン万能試験機を用いて、レーザ発色層(4´)をクランプにより挟みながら鉛直方向に対して、300mm/minの速度で引っ張ることによりT型はく離試験を行い、情報画像(5´)の破壊の有無を目視により確認した。
【0056】
はく離試験の結果、情報画像(5´)からレーザ発色層(4´)に形成された第二の画像(3´)がはがれ、第一の画像(1´)のみが基材層(2´)に残ることによって、情報画像(5´)が破壊されたことを確認した。
【符号の説明】
【0057】
A1、A2、A3 レーザ描画用積層体
1、 1´、1´´ 第一の画像
2、2´、2´´ 基材層
3、3´、3´´ 第二の画像
4、4´、4´´ レーザ発色層
5、5´、5´´ 情報画像
6 第一のレーザ
7 第二のレーザ
8 透明性中間層
9 基体
10 基画像データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10