(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】半導体装置、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/822 20060101AFI20230411BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20230411BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20230411BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20230411BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20230411BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20230411BHJP
H01L 21/76 20060101ALI20230411BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
H01L27/04 H
H01L29/91 B
H01L29/91 D
H01L29/91 L
H01L29/06 301D
H01L21/76 N
H01L21/265 Z
H01L21/265 F
H01L21/265 602A
(21)【出願番号】P 2019069320
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】東 真砂彦
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-157636(JP,A)
【文献】特開2006-324412(JP,A)
【文献】特開2009-188178(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0104781(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 21/329
H01L 21/76
H01L 21/265
H01L 21/822
H01L 27/04
H01L 29/06
H01L 29/861
H01L 29/868
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型又はN型である第1の導電型を有する半導体基板の表面において、前記第1の導電型を有する高濃度第1導電型不純物領域、前記第1の導電型とは逆の導電型である第2の導電型を有する高濃度第2導電型不純物領域、及び前記高濃度第1導電型不純物領域と前記高濃度第2導電型不純物領域とに挟まれた素子分離領域を含む、PN接合を利用したダイオード素子と、
前記半導体基板における前記高濃度第2導電型不純物領域の下方に前記高濃度第2導電型不純物領域と離間した前記第2の導電型を有する浮遊層と、
を備え
、
前記ダイオード素子が、静電気放電に対して半導体集積回路の内部回路を保護する保護ダイオードである半導体装置。
【請求項2】
前記第1の導電型がP型であり、前記第2の導電型がN型である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
P型又はN型である第1の導電型を有する半導体基板の表面において、前記第1の導電型を有する高濃度第1導電型不純物領域、前記第1の導電型とは逆の導電型である第2の導電型を有する高濃度第2導電型不純物領域、及び前記高濃度第1導電型不純物領域と前記高濃度第2導電型不純物領域とに挟まれた素子分離領域を含む、PN接合を利用したダイオード素子と、
前記半導体基板における前記高濃度第2導電型不純物領域の下方に前記高濃度第2導電型不純物領域と離間した前記第2の導電型を有する浮遊層と、
前記高濃度第2導電型不純物領域と前記浮遊層との間に、前記第1の導電型を有する第1導電型ウエルと、
を備え、
前記高濃度第2導電型不純物領域と前記第1導電型ウエルとの間に前記PN接合が形成された半導体装置。
【請求項4】
P型又はN型である第1の導電型を有する半導体基板の表面において、前記第1の導電型を有する高濃度第1導電型不純物領域、前記第1の導電型とは逆の導電型である第2の導電型を有する高濃度第2導電型不純物領域、及び前記高濃度第1導電型不純物領域と前記高濃度第2導電型不純物領域とに挟まれた素子分離領域を含む、PN接合を利用したダイオード素子と、
前記半導体基板における前記高濃度第2導電型不純物領域の下方に前記高濃度第2導電型不純物領域と離間した前記第2の導電型を有する浮遊層と、
を備えた半導体装置を製造する方法であって、
前記第1の導電型を有する半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板に前記素子分離領域を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第2導電型不純物領域となる部分を含む領域に対し、第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第1の不純物注入、第1の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第2の不純物注入、及び第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第3の不純物注入のうち、前記第2の不純物注入と、前記第1の不純物注入及び前記第3の不純物注入の少なくとも一方の不純物注入とを、前記不純物注入の番号順に行うことにより、前記浮遊層を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第2導電型不純物領域となる部分に第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入することにより、前記高濃度第2導電型不純物領域を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第1導電型不純物領域となる部分に第1の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入することにより、前記高濃度第1導電型不純物領域を形成する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記浮遊層を形成する工程において、前記第1の不純物注入及び前記第3の不純物注入の少なくとも一方の不純物注入として、前記第3の不純物注入のみを行う請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記浮遊層を形成する工程において、前記第1の不純物注入及び前記第3の不純物注入の少なくとも一方の不純物注入として、前記第1の不純物注入のみを行う請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記浮遊層を形成する工程における前記不純物注入の一部または全部を、前記ダイオード素子以外の領域の不純物注入と兼ねて行う請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1の導電型がP型であり、前記第2の導電型がN型である請求項4~請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばドライバ用半導体集積回路等の半導体装置の信号入力端子には、通常、静電気放電(ESD:Electro-Static-Discharge)による意図しない過大な入力電圧・電流から内部回路を保護するための保護ダイオードが設けられている。
保護ダイオードとしては、例えば、P型基板上に形成したP型ウェルの表面にN型不純物を注入して形成したPN接合ダイオードが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護ダイオードに関し、
図8には従来構造の平面図の一例、
図9には従来構造の断面図の一例がそれぞれ示されている。なお、
図8および
図9に示す例では、平面構造として、一辺20μmの素子を示し、断面構造については、深さ10μmより深い位置のシリコン基板を省略して記載している。
P型のシリコン基板101の表面近傍の全面にP型ウェル104が形成され、幅1μmから3μm程度のシリコン酸化膜による素子分離領域102(STI:Shallow Trench Isolation)を挟んで表面に高濃度N型活性化層105と高濃度P型活性化層106が隣接して形成されている。高濃度N型活性化層105とP型ウェル104間に形成された接合が保護ダイオードを構成するPN接合ダイオードとなる。
高濃度N型活性化層105と高濃度P型活性化層106とは、それぞれカソード電極、アノード電極として機能する。高濃度N型活性化層105と高濃度P型活性化層106はシリコン酸化膜による層間絶縁膜107を挟んで形成された独立したアルミ配線109に、コンタクト108を通して導通される。本構造の保護ダイオードを半導体集積回路の入出力部とグランド間に挿入するに当たり、グランド側をアノード端子、入出力側をカソード端子に接続する。
このように接続された保護ダイオードに対しては、過大な正電位の入力電圧に耐えられる逆方向破壊耐圧が必要とされる。同時に、過大な負電位の入力電圧に伴う順方向電流にも耐えられる順方向破壊電流が必要となる。さらに半導体集積回路の微細化に伴い、素子面積の縮小化も要求される。
【0005】
しかしながら、
図8、
図9に示すような上記構造を有する半導体装置では、順方向電流電圧特性及び順方向破壊電流の低下抑制、並びに素子面積の拡大抑制を維持しつつ、逆方向破壊耐圧を向上させることは困難である。
【0006】
本開示は、順方向電流電圧特性及び順方向破壊電流の低下並びに素子面積の拡大が抑制されるとともに、逆方向破壊耐圧を向上させることがきる半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る半導体装置は、P型又はN型である第1の導電型を有する半導体基板の表面において、前記第1の導電型を有する高濃度第1導電型不純物領域、前記第1の導電型とは逆の導電型である第2の導電型を有する高濃度第2導電型不純物領域、及び前記高濃度第1導電型不純物領域と前記高濃度第2導電型不純物領域とに挟まれた素子分離領域を含む、PN接合を利用したダイオード素子と、
前記半導体基板における前記高濃度第2導電型不純物領域の下方に前記高濃度第2導電型不純物領域と離間した前記第2の導電型を有する浮遊層と、
を備えた半導体装置である。
【0008】
また、本開示に係る半導体装置の製造方法は、
前記本開示に係る半導体装置を製造する方法であって、
前記第1の導電型を有する半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板に前記素子分離領域を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第2導電型不純物領域となる部分を含む領域に対し、第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第1の不純物注入、第1の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第2の不純物注入、及び第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第3の不純物注入のうち、前記第2の不純物注入と、前記第1の不純物注入及び前記第3の不純物注入の少なくとも一方の不純物注入とを、前記不純物注入の番号順に行うことにより、前記浮遊層を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第2導電型不純物領域となる部分に第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入することにより、前記高濃度第2導電型不純物領域を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第1導電型不純物領域となる部分に第1の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入することにより、前記高濃度第1導電型不純物領域を形成する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、順方向電流電圧特性及び順方向破壊電流の低下並びに素子面積の拡大が抑制されるとともに、逆方向破壊耐圧を向上させることがきる半導体装置およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る半導体装置の一例を示す概略断面図である。
【
図2A】本開示の第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【
図2B】本開示の第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【
図3A】本開示の第1実施形態に係る実施例として製造した半導体装置のTLP法による順方向電流電圧特性を示す図である。
【
図3B】本開示の第1実施形態に係る実施例として製造した半導体装置のTLP法による逆方向電流電圧特性を示す図である。
【
図4】本開示の第2実施形態に係る半導体装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5A】本開示の第2実施形態に係る実施例として製造した半導体装置のTLP法による順方向電流電圧特性を示す図である。
【
図5B】本開示の第2実施形態に係る実施例として製造した半導体装置のTLP法による逆方向電流電圧特性を示す図である。
【
図6】本開示の第3実施形態に係る半導体装置の一例を示す概略断面図である。
【
図7A】本開示の第3実施形態に係る実施例として製造した半導体装置のTLP法による順方向電流電圧特性を示す図である。
【
図7B】本開示の第3実施形態に係る実施例として製造した半導体装置のTLP法による逆方向電流電圧特性を示す図である。
【
図8】従来の保護ダイオードの構造の一例を示す概略平面図である。
【
図9】従来の保護ダイオードの断面構造の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本開示に係る半導体装置は、P型又はN型である第1の導電型を有する半導体基板の表面において、前記第1の導電型を有する高濃度第1導電型不純物領域、前記第1の導電型とは逆の導電型である第2の導電型を有する高濃度第2導電型不純物領域、及び前記高濃度第1導電型不純物領域と前記高濃度第2導電型不純物領域とに挟まれた素子分離領域を含む、PN接合を利用したダイオード素子と、前記半導体基板における前記高濃度第2導電型不純物領域の下方に前記高濃度第2導電型不純物領域と離間した前記第2の導電型を有する浮遊層と、を備える。
【0013】
第1の導電型を有する半導体基板と第1の導電型を有する高濃度第1導電型不純物領域は、それぞれ第1の導電型の不純物が含まれており、高濃度第1導電型不純物領域には、半導体基板よりも第1の導電型の不純物が高い濃度で含まれている。
第2の導電型を有する高濃度第2導電型不純物領域と第2の導電型を有する浮遊層は、それぞれ第2の導電型の不純物が含まれている。浮遊層は、平面視において高濃度第2導電型不純物領域と重複し、半導体基板における高濃度第2導電型不純物領域よりも深い領域にダイオード素子と電気的に接続せずに存在する層である。浮遊層における第2の導電型の不純物濃度は、高濃度第2導電型不純物領域における第2の導電型の不純物濃度よりも低いことが好ましい。
また、素子分離領域は、高濃度第1導電型不純物領域と高濃度第2導電型不純物領域との間に挟まれた領域であり、酸化膜、窒化膜等の絶縁性の材料によって構成されている。
【0014】
本開示に係る半導体装置によれば、上記浮遊層を有することで、ダイオード素子が、例えばESDによる過大な入力電圧・電流に対して半導体装置の内部回路を保護する保護ダイオードとして機能することができ、信頼性の高い半導体装置となる。
【0015】
前記第1の導電型、第2の導電型は、一方がP型、他方がN型であればよいが、製造容易性の観点から、第1の導電型がP型であり、第2の導電型がN型であることが好ましい。
また、前記ダイオード素子が、静電気放電等による過大な入力電圧・電流に対し、半導体集積回路の内部回路を保護する保護ダイオードであることが好ましい。
【0016】
本開示に係る半導体装置の製造方法は特に限定されないが、
前記第1の導電型を有する半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板に前記素子分離領域を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第2導電型不純物領域となる部分を含む領域に対し、第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第1の不純物注入、第1の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第2の不純物注入、及び第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入する第3の不純物注入のうち、前記第2の不純物注入と、前記第1の不純物注入及び前記第3の不純物注入の少なくとも一方の不純物注入とを、前記不純物注入の番号順に行うことにより、前記浮遊層を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第2導電型不純物領域となる部分に第2の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入することにより、前記高濃度第2導電型不純物領域を形成する工程と、
前記半導体基板の前記高濃度第1導電型不純物領域となる部分に第1の導電型の不純物を1回または複数回イオン注入することにより、前記高濃度第1導電型不純物領域を形成する工程と、を含む半導体装置の製造方法によって好適に製造することができる。
【0017】
前記浮遊層を形成する工程において、前記第1の不純物注入及び前記第3の不純物注入の両方を行ってもよいが、製造工程の簡略化のため、第3の不純物注入のみを行ってもよいし、第1の不純物注入のみを行ってもよい。
また、製造工程の簡略化のため、前記浮遊層を形成する工程における前記不純物注入の一部または全部を、前記ダイオード素子以外の領域の不純物注入と兼ねて行ってもよい。
【0018】
逆方向破壊耐圧不足によるESD破壊が見られる従来の半導体装置に対し、本開示では、例えば入出力保護ダイオードの素子面積、形成工程、順方向電流電圧特性、順方向破壊電流に影響を及ぼすことなく逆方向破壊耐圧を向上させることが可能となり、その結果、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
以下、本開示に係る半導体装置及びその製造方法について、3つの実施形態を例に具体的に説明する。
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本開示の第1実施形態に係る半導体装置の断面を概略的に示している。第1実施形態に係る半導体装置は、第1の導電型がP型であり、第2の導電型がN型となっている。P型シリコン基板1の表面に、高濃度P型活性化層6(高濃度第1導電型不純物領域)、高濃度N型活性化層5(高濃度第2導電型不純物領域)、高濃度P型活性化層6と高濃度N型活性化層5とに挟まれた素子分離領域2を含む、PN接合を利用したダイオード素子とともに、高濃度N型活性化層5の下方に高濃度N型活性化層と離間した(すなわち、P型シリコン基板1の一部を挟んで形成された)N型浮遊層3を備えている。
第1実施形態に係る半導体装置は、上記のようにPN接合の下方にN型浮遊層を有していることで、ダイオード素子が、例えばESDによる過大な入力電圧・電流に対して半導体装置の内部回路を保護する保護ダイオードとして機能し、信頼性の高い半導体装置となる。
また、第1実施形態に係る半導体装置は、さらに、P型ウェル4、層間絶縁膜7、コンタクト8、アルミ配線9を備えているが、第1実施形態に係る半導体装置を平面視した場合、
図8と同様の構成を有し、素子面積の増加が抑制されている。
【0020】
第1実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図2A、
図2Bは、それぞれ第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を順に示している。
【0021】
(半導体基板1の準備)
まず、第1の導電型の半導体基板を準備する。半導体基板はP型でもN型でもよいが、製造容易性の観点から、P型の半導体基板であることが好ましい。また、半導体基板として、化合物半導体基板でもよいが、製造コスト、入手容易性などの観点から、シリコン基板が好ましい。以下、ボロン等の不純物を含むP型シリコン基板を用いる場合について説明する。
【0022】
(素子分離領域2の形成)
ボロン等の不純物を含むP型シリコン基板1の表面に熱酸化法により0.02μm程度のシリコン酸化膜(図示せず)を形成した後、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により全面に0.2μm程度のシリコン窒化膜(図示せず)を形成する。
引き続きフォトリソグラフィ・エッチング法により所望の領域のシリコン窒化膜とシリコン酸化膜を除去し、シリコン基板1表面に深さ1μm程度の溝を形成することで、素子分離領域2とする。
【0023】
その後熱酸化法により0.02μm程度のシリコン酸化膜(図示せず)を形成し、エネルギー2000keV、ドーズ量1×1013cm-2程度までの1回、または複数回の第1のリンのイオン注入(第1のイオン注入)を、表面が高濃度N型活性化層5となる領域に行う。引き続き1100℃程度の熱処理を行うことで、P型シリコン基板1の表面(表層部)の一部をN型領域10に変換する。このN型領域10は、後述する工程を経て、高濃度N型活性化層5となる領域、高濃度N型活性化層5よりも下方(深い位置)においてN型浮遊層3となる領域、高濃度N型活性化層5とN型浮遊層3との間でP型となる領域、及び素子分離領域の下方でP型ウエルの一部を構成する領域に分けられる。
【0024】
さらにCVD法とCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を順次適用することで素子分離領域2をシリコン酸化膜で埋める。
その後、素子分離領域2以外に残ったシリコン窒化膜とシリコン酸化膜を除去する(
図2A参照)。
【0025】
(P型ウェル領域4、高濃度N型不純物領域5、高濃度P型不純物領域6、N型浮遊層3の形成)
引き続きシリコン基板1表面に熱酸化法により0.02μm程度のシリコン酸化膜(図示せず)を形成し、エネルギー500keV、ドーズ量1×1013cm-2程度までの1回、または複数回のボロンのイオン注入(第2のイオン注入)を対象となるダイオード領域全面に行い、さらに、エネルギー2000keV、ドーズ量1×1013cm-2程度までの1回、または複数回の第2のリンのイオン注入(第3のイオン注入)を、表面が高濃度N型活性化層5となる領域に行う。
【0026】
さらに、高濃度N型活性化層5となる領域表面にリンおよびヒ素のイオン注入(第4のイオン注入)、高濃度P型活性化層6となる領域表面にボロンのイオン注入(第5のイオン注入)を行う。その後、1000℃程度の熱処理を行うことでP型ウェル領域4、高濃度N型不純物領域5、高濃度P型不純物領域6が形成される(
図2B参照)。
図2Bに示した通り、P型ウェル領域4を形成することで、高濃度N型活性化層5の下方に、半導体基板1の一部を介してN型浮遊層3が形成される。深さにより、P型ウェル4を形成するボロンの濃度がリンの濃度よりも高い領域が形成されるためである。
図2Bでは高濃度N型活性化層5とN型浮遊層3の間の深さにおいて、ボロンの濃度がリンの濃度よりも高くなっている。
【0027】
(層間絶縁膜7、コンタクト8、アルミ配線9の形成)
その後、公知の方法により、層間絶縁膜7、コンタクト8、アルミ配線9を順次形成し、さらに必要に応じて素子、回路等を形成又は接続する。これにより、第1実施形態に係る半導体装置又は第1実施形態に係る半導体装置を備えた電子部品を製造することができる。
【0028】
第1実施形態に係る半導体装置における基本的な動作は、公知の半導体装置と同様である。高濃度N型活性化層5とP型ウェル4間に形成された接合が保護ダイオードを構成するPN接合ダイオードとなる。高濃度N型活性化層5と高濃度P型活性化層6とは、それぞれカソード電極、アノード電極として機能する。それらはシリコン酸化膜による層間絶縁膜7を挟んで形成された独立したアルミ配線9に、コンタクト8を通して導通される。本構造の保護ダイオードを半導体集積回路の入出力部とグランド間に挿入するに当たり、グランド側をアノード端子、入出力側をカソード端子に接続する。
【0029】
ESDに対する素子の耐性は通常TLP(Transmission Line Pulse)法により評価される。この評価では、逆方向破壊耐圧が高い程、実際のESDによる破壊耐圧も高く、順方向破壊電流が高い程、実際のESDによる破壊電流も高いことが知られている。
第1実施形態に係る半導体装置の実施例として、TLP法による一連の評価結果を
図3A,
図3Bに示す。
図3AにはTLP法による順方向電流電圧特性を示す。■、▲、◆はそれぞれ第1実施形態の実施例による電流電圧特性、従来技術(
図8及び
図9に示す構成を有する半導体装置)による電流電圧特性、第1実施形態の実施例による各条件の電流電圧特性評価後のリーク電流特性を示す。順方向破壊電流は、破壊により前記リーク電流が急激に増加する直前の電流値で規定する。
図3BにはTLP法による逆方向電流電圧特性を示す。■、▲はそれぞれ第1実施形態の実施例による電流電圧特性、従来技術による電流電圧特性を示す。逆方向破壊耐圧は、破壊により電流値が急激に増加する直前の電圧値で規定する。
【0030】
第1実施形態では順方向電流電圧特性は従来技術と同等であり、順方向破壊電流も-6.4Aと従来技術の-6.4Aと同等であるのに対し、逆方向電流電圧特性から得られる逆方向破壊耐圧のみが従来技術の70.5Vに対して87.8Vであり、17.3V(24.5%)向上していることが分かる。第1実施形態により逆方向破壊耐圧が向上するのは、高濃度N型活性化層5とP型ウェル4間の接合から伸長した空乏層がN型浮遊層3に達し、さらにそこを起点として空乏層が延びる結果、電界が緩和し、雪崩降伏現象により発生するキャリアが減少するため、格子温度の上昇が抑えられることによると考えられる。
一方、第1実施形態により順方向破壊電流が従来技術と同等であるのは、順方向の印加時にはPN接合の空乏層がN型浮遊層3に達しないため、N型浮遊層3に依らず、従来技術によるPN接合ダイオードと同様に電流経路が高濃度N型活性化層5とP型ウェル4間の接合から高濃度P型活性化層6へ至るためであると考えられる。
【0031】
さらに第1実施形態においては、N型浮遊層3を形成するためのイオン注入位置がフォトリソグラフィ時の合わせずれ等によって多少異なったり、熱処理条件の変動によりN型浮遊層3の広がりが多少異なっても、P型ウェル4があるためにN型浮遊層3と高濃度P型活性化層6との間隔を常に一定以上とすることができる。このため製造時のばらつきに対する特性の変動量を抑えることが可能となる。
【0032】
<第2実施形態>
図4に本開示の第2実施形態に係る半導体装置の断面を示す。第2実施形態に係る半導体装置を平面視した場合、
図8と同様の構成を有し、素子面積の増加が抑制される。また、第1実施形態と同様、PN接合の下方にN型浮遊層を有する。
【0033】
第2実施形態に係る半導体装置における基本的な動作は、公知の半導体装置と同様である。高濃度N型活性化層5とP型ウェル4間に形成された接合が保護ダイオードを構成するPN接合ダイオードとなる。高濃度N型活性化層5と高濃度P型活性化層6とは、それぞれカソード電極、アノード電極として機能する。それらはシリコン酸化膜による層間絶縁膜7を挟んで形成された独立したアルミ配線9に、コンタクトを通して導通される。本構造の保護ダイオードを半導体集積回路の入出力部とグランド間に挿入するに当たり、グランド側をアノード端子、入出力側をカソード端子に接続する。
【0034】
第2実施形態に係る半導体装置は、基本的に第1実施形態と同様の効果が得られる。
第2実施形態に係る半導体装置の実施例として、TLP法による一連の評価結果を
図5A,
図5Bに示す。
図5AにはTLP法による順方向電流電圧特性を示す。■、▲、◆はそれぞれ第2実施形態の実施例による電流電圧特性、従来技術による電流電圧特性、第2実施形態の実施例による各条件の電流電圧特性評価後のリーク電流特性を示す。
図5BにはTLP法による逆方向電流電圧特性を示す。■、▲はそれぞれ第2実施形態の実施例による電流電圧特性、従来技術による電流電圧特性を示す。
第2実施形態では順方向電流電圧特性は従来技術と同等であり、順方向破壊電流も-6.5Aと従来技術の-6.4Aと同等であるのに対し、逆方向電流電圧特性から得られる逆方向破壊耐圧のみが従来技術の70.5Vに対して83.5Vであり、13.0V(18.4%)向上していることが分かる。この理由は第1実施形態に示した理由と同様である。
【0035】
第2実施形態の半導体装置の製造方法は、第1実施形態の半導体装置の製造方法に示した第1のリンのイオン注入(第1のイオン注入)、および第2のリンのイオン注入(第3のイオン注入)のうち、第2のリンのイオン注入(第3のイオン注入)のみを行う。
第2実施形態では、製造方法において、第1実施形態で示した第1のリンのイオン注入(第1のイオン注入)を行わないので、工程の簡略化を行うことが可能となる。
また、
図4から明らかなように、
図1で示した第1実施形態に比べて高濃度N型活性化層5とその下方のN型浮遊層3の間隔が開いているので、イオン注入条件や熱処理条件の変動ばらつきに対して両者の連結に対する余裕が取れる利点がある。
【0036】
<第3実施形態>
図6に本開示の第3実施形態に係る半導体装置の断面を示す。第3実施形態に係る半導体装置を平面視した場合、
図8と同様の構成を有し、素子面積の増加が抑制される。第1実施形態と同様、PN接合の下方にN型浮遊層3を有する。
第3実施形態に係る半導体装置における基本的な動作は、公知の半導体装置と同様である。高濃度N型活性化層5とP型ウェル4間に形成された接合が保護ダイオードを構成するPN接合ダイオードとなる。高濃度N型活性化層5と高濃度P型活性化層6とは、それぞれカソード電極、アノード電極として機能する。それらはシリコン酸化膜による層間絶縁膜7を挟んで形成された独立したアルミ配線9に、コンタクトを通して導通される。本構造の保護ダイオードを半導体集積回路の入出力部とグランド間に挿入するに当たり、グランド側をアノード端子、入出力側をカソード端子に接続する。
【0037】
基本的に第1、第2実施形態と同様の効果が得られる。
第3実施形態に係る半導体装置の実施例として、TLP法による一連の評価結果を
図7A、
図7Bに示す。
図7AにはTLP法による順方向電流電圧特性を示す。■、▲、◆はそれぞれ第3実施形態の実施例による電流電圧特性、従来技術による電流電圧特性、第3実施形態の実施例による各条件の電流電圧特性評価後のリーク電流特性を示す。
図7BにはTLP法による逆方向電流電圧特性を示す。■、▲はそれぞれ第3実施形態の実施例による電流電圧特性、従来技術による電流電圧特性を示す。
第3実施形態では順方向電流電圧特性は従来技術と同等であり、順方向破壊電流も-6.4Aと従来技術の-6.4Aと同等であるのに対し、逆方向電流電圧特性から得られる逆方向破壊耐圧のみが従来技術の70.5Vに対して79.0Vであり、8.5V(12.1%)向上していることが分かる。この理由は第1実施形態に示した理由と同様である。
【0038】
第3実施形態の半導体装置の製造方法は、第1実施形態の半導体装置の製造方法に示した第1のリンのイオン注入(第1のイオン注入)、および第2のリンのイオン注入(第3のイオン注入)のうち、第1のリンのイオン注入(第1のイオン注入)のみを行う。
第3実施形態では、製造方法において、第1実施形態で示した第2のリンのイオン注入(第3のイオン注入)を行わないので、工程の簡略化を行うことが可能となる。
また、
図6から明らかなように、第3実施形態では、
図1、
図4で示した第1、第2実施形態に比べて高濃度N型活性化層5とその下方のN型浮遊層3の間隔が開いているので、イオン注入条件や熱処理条件の変動ばらつきに対して両者の連結に対する余裕が取れる利点がある。
【0039】
第1から第3の各実施形態で示したN型浮遊層3を形成するための第1のリンのイオン注入および第2のリンのイオン注入のどちらか一方、あるいは両方は、同一集積回路内のそれぞれ異なる領域で用いられる2種類のN型ウェルの形成工程の一方、あるいは両方と同一とすることが可能である。この場合、N型浮遊層3の形成は従来技術に対してレイアウトの変更のみにより対処すればよく、工程は従来技術と同一となることから、工程の増加を伴わずに逆方向破壊耐圧を向上させることが可能となる。
同様にN型浮遊層3を形成するための全面に行うボロンのイオン注入は、同一集積回路内のP型ウェル4の形成工程と同一とすることが可能である。
【0040】
また第1から第3の各実施形態に対し、N型、P型を入れ替えて素子を作製することでも同様な効果が期待できる。ただしP型基板を用いる場合、リンのイオン注入とその後の熱処理により形成したN型ウェル内の表面に形成された高濃度P型活性化層の下方に、P型浮遊層を形成する必要がある。この場合、PNダイオードを半導体集積回路の入出力部と電源間に挿入するに当たり、入出力側をアノード端子、電源側をカソード端子に接続する。
【0041】
上記各実施形態の説明又は図面に示す実施形態における数値、材料、形状、成膜方法などは例示であり、本開示に係る半導体装置及びその製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。本開示おける効果を奏する範囲内において、材料、厚み、形状、製法などを適宜変更することができる。
また、本開示に係る半導体装置におけるダイオード素子の用途は限定されず、ESDによる過大な入力電圧・電流に対して半導体装置の内部回路を保護する保護ダイオードに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 P型シリコン基板
2 素子分離領域
3 N型浮遊層
4 P型ウェル
5 高濃度N型不純物領域(高濃度N型活性化層)
6 高濃度P型不純物領域(高濃度P型活性化層)
7 層間絶縁膜
8 コンタクト
9 アルミ配線