(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】強誘電性薄膜、それを用いた電子素子および強誘電性薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20230412BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20230412BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20230412BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230412BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/363
H10N30/853
C23C14/06 A
C23C14/34 R
(21)【出願番号】P 2021567693
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048846
(87)【国際公開番号】W WO2021132602
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019239114
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020031428
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020140024
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年(2019年)度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100132621
【氏名又は名称】高松 孝行
(74)【代理人】
【識別番号】100123364
【氏名又は名称】鈴木 徳子
(72)【発明者】
【氏名】上原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】秋山 守人
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】舟窪 浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 荘雄
(72)【発明者】
【氏名】安岡 慎之介
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0393355(US,A1)
【文献】特開2000-183295(JP,A)
【文献】AKIYAMA, Morito et al.,Enhancement of Piezoelectric Response in Scandium Aluminum Nitride Alloy Thin Films Prepared by Dual Reactive Cosputtering,Advanced Materials,2009年12月02日,Vol. 21,pp. 593~596
【文献】UEHARA, Masato et al.,Giant increase in piezoelectric coefficient of AlN by Mg-Nb simultaneous addition and multiple chemical states of Nb,Applied Physics Letters,2017年09月11日,Vol. 111, No. 11,pp. 112901-1~112901-4
【文献】ZHANG, Siyuan et al.,Tunable optoelectronic and ferroelectric properties in Sc-based III-nitrides,Journal of Applied Physics,2013年10月04日,Vol. 114, No. 13,pp. 133510-1~133510-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/363
H10N 30/853
C23C 14/06
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式M1
1-XM2
XNで表される強誘電性を有する強誘電性薄膜であって、
M1はAlおよびGaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はMg、Sc、YbおよびNbから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Xは0以上で、1以下の範囲にあり、
結晶構造がウルツ鉱型であり、
膜厚が1nm~300nmの範囲にあることを特徴とする強誘電性薄膜。
【請求項2】
残留分極値が50μC/cm
2以上で、200μC/cm
2以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性薄膜。
【請求項3】
残留分極値が
130μC/cm
2以上で、
150μC/cm
2以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性薄膜。
【請求項4】
残留分極値が3μC/cm
2以上で、150μC/cm
2以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性薄膜。
【請求項5】
残留分極値が
2μC/cm
2以上で、20μC/cm
2以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の強誘電性薄膜。
【請求項6】
M1はAlであり、M2はScであり、Xは0より大きく、0.219以下の範囲にあることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項7】
M1はAlであり、M2はScであり、Xは0.065以上で、0.219以下の範囲にあることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項8】
M1はAlであり、M2はScであり、Xは0.16以上で、0.219以下の範囲にあることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項9】
M1はAlであり、M2はMg
1-YNb
Yであり、Xは0以上で、1以下の範囲にあり、Yは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項10】
M1はGaであり、M2はScであり、Xは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項11】
M1はAlであり、M2はYbであり、Xは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項12】
M1はGaであり、Xが0であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項13】
次式により算出されるuが0.375以上で、0.5より小さい範囲にあることを特徴とする請求項1~12の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
(この式中、aは前記強誘電性薄膜の結晶構造におけるa軸の格子定数を示し、cはc軸の格子定数を示す。)
【請求項14】
膜厚が1nm~200nmの範囲にあることを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項15】
膜厚が1nm~100nmの範囲にあることを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項16】
膜厚が20nm~80nmの範囲にあることを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の強誘電性薄膜。
【請求項17】
請求項1~16の何れか1項に記載の強誘電性薄膜が、
使用可能上限温度が50℃~700℃の範囲にある低耐熱性基材上に設けられていることを特徴とする強誘電性薄膜。
【請求項18】
請求項1~17の何れか1項に記載の強誘電性薄膜を用いた電子素子。
【請求項19】
スパッタ法を用いて、請求項1~17の何れか1項に記載の強誘電性薄膜を製造する強誘電性薄膜の製造方法であって、
スパッタリングガスは少なくとも窒素を含み、前記スパッタリングガスに含まれる当該窒素のモル濃度が、0.667~1.0の範囲にあり、
前記スパッタリングガスの圧力が1Pa以下である
ことを特徴とする強誘電性薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性薄膜、それを用いた電子素子および強誘電性薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電体材料として、従来から、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛((Pb,La)(Zr,Ti)O3)、鉄酸ビスマス(BiFeO3)などが知られている。強誘電体(強誘電性薄膜)は、誘電体の一種で、外部に電場がなくても電気双極子が整列しており、かつ双極子の方向が電場によって変化できる物質をいう。このような強誘電体は強誘電性の他、焦電性、圧電性も有する誘電体であるので、強誘電性を利用するFeRAM(強誘電体メモリ)等として使用される他、圧電効果を利用してアクチュエータ等としても利用されている。
【0003】
このような強誘電体材料のうち、最近スカンジウムを添加した窒化アルミニウムが優れた強誘電性を有することが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Simon Fichtner , Niklas Wolff , Fabian Lofink, Lorenz Kienle, and Bernhard Wagner, J. Appl. Phys. 125, 114103(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1には、スカンジウム(Sc)を添加した窒化アルミニウム(Al1-xScxN)において、スカンジウムの濃度Xが0.22より小さい範囲では、抗電界に達する前に絶縁破壊してしまうと記載されている。
【0006】
したがって、Scの濃度Xが0.22より小さいAl1-xScxNでは、強誘電性薄膜を作製することができないという問題点があった。
【0007】
また、Al1-xScxNで構成される強誘電性薄膜は、十分な膜厚(例えば600nm以上)がなければ、十分な強誘電性を示さず、かつ実用に耐え得る安定性がないという問題点があった。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑み、高い強誘電性を有し、かつ実用に耐え得る安定性を有する強誘電性薄膜、それを用いた電子素子および強誘電性薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、上述した問題点に関して鋭意研究・開発を続けた結果、以下のような画期的な強誘電性薄膜、それを用いた電子素子および強誘電性薄膜の製造方法を見出した。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は、化学式M11-XM2XNで表され、M1はアルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)から選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はマグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イッテルビウム(Yb)およびニオブ(Nb)から選ばれる少なくとも1つの元素であり、Xは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする強誘電性薄膜にある。
【0011】
かかる第1の態様では、高い強誘電性と、高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、M1はAlであり、M2はScであり、Xは0より大きく、0.219以下の範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0013】
かかる第2の態様では、作製できないと認識されていたScの濃度よりも低い濃度であるにもかかわらず、非特許文献1に開示されているAl1-XScXNで構成された強誘電性薄膜と比較して、非常に高い強誘電性と、高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、M1はAlであり、M2はScであり、Xは0.065以上で、0.219以下の範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0015】
かかる第3の態様では、作製できないと認識されていたScの濃度よりも低い濃度であるにもかかわらず、非特許文献1に開示されているAl1-XScXNで構成された強誘電性薄膜と比較して、非常に高い強誘電性と、高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、M1はAlであり、M2はScであり、Xは0.16以上で、0.219以下の範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0017】
かかる第4の態様では、作製できないと認識されていたScの濃度よりも低い濃度であるにもかかわらず、非特許文献1に開示されているAl1-XScXNで構成された強誘電性薄膜と比較して、非常に高い強誘電性と、高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、M1はAlであり、M2はMg1-YNbYであり、Xは0以上で、1以下の範囲にあり、Yは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0019】
かかる第5の態様では、より安価で、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、M1はGaであり、M2はScであり、Xは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0021】
かかる第6の態様では、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。また、本態様は、現在の窒化ガリウム半導体やその製造プロセスとの親和性が高く、本態様の製造工程を、現在の窒化ガリウム半導体の製造プロセスに容易に組み込むことができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、M1はAlであり、M2はYbであり、Xは0以上で、1以下の範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0023】
かかる第7の態様では、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0024】
本発明の第8の態様は、M1はGaであり、Xが0であることを特徴とする第1の態様に記載の強誘電性薄膜にある。
【0025】
かかる第8の態様では、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。また、本態様は、現在の窒化ガリウム半導体やその製造プロセスとの親和性が高く、本態様の製造工程を、現在の窒化ガリウム半導体の製造プロセスに容易に組み込むことができる。
【0026】
本発明の第9の態様は、次式により算出されるuが0.375以上で、0.5より小さい範囲にあることを特徴とする第1~第8の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜にある。
【0027】
【数1】
(aは、強誘電性薄膜の結晶構造におけるa軸の格子定数を示し、cはc軸の格子定数を示す。)
【0028】
かかる第9の態様では、より高い残留分極値(Pr)を有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0029】
本発明の第10の態様は、膜厚が1nm~300nmの範囲にあることを特徴とする第1~第9の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜にある。
【0030】
かかる第10の態様では、このように薄い膜厚であっても特性が劣化せず、十分な強誘電性と、十分に高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0031】
本発明の第11の態様は、膜厚が1nm~200nmの範囲にあることを特徴とする第1~第9の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜にある。
【0032】
かかる第11の態様では、より薄い膜厚であっても特性が劣化せず、十分な強誘電性と、十分に高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0033】
本発明の第12の態様は、膜厚が1nm~100nmの範囲にあることを特徴とする第1~第9の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜にある。
【0034】
かかる第12の態様では、さらに薄い膜厚であっても特性が劣化せず、十分な強誘電性と、十分に高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0035】
本発明の第13の態様は、膜厚が20nm~80nmの範囲にあることを特徴とする第1~第9の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜にある。
【0036】
かかる第13の態様では、このように薄い膜厚であっても特性が劣化せず、十分な強誘電性と、十分に高い安定性とを有する強誘電性薄膜を提供することができる。
【0037】
本発明の第14の態様は、第1~第13の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜が、低耐熱性基材上に設けられていることを特徴とする強誘電性薄膜にある。
【0038】
ここで、低耐熱性基材とは、耐熱性が低い基材(使用可能上限温度が50℃~700℃の範囲にある材料)であれば特に限定されない。低耐熱性基材としては、例えば、ソーダ石灰ガラス(soda-lime glass)や有機基材(ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリイミド、無アルカリガラス(alkali-free glass)等が挙げられる。
【0039】
かかる第14の態様では、基板(基材)加熱温度を低温(例えば、20℃~30℃の範囲)にしても(加熱しなくても)、本発明に係る強誘電性薄膜を作製することができる。その結果、例えば、本発明に係る強誘電性薄膜を用いたフレキシブルデバイスや、ディスプレイのメモリを作製することができる。
【0040】
本発明の第15の態様は、第1~第14の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜を用いた電子素子にある。
【0041】
ここで、「電子素子」とは、強誘電性不揮発性メモリ(電界効果型強誘電体不揮発性メモリを含む)、抵抗変化型不揮発性メモリ、ピエゾ抵抗型トランジスタ、エネルギー蓄積素子、ピエゾ素子(圧電素子)、焦電素子、圧電センサーおよび電気熱量効果素子等の素子を含むものである。なお、これらの電子素子は、例えば、
図1に示すような積層構造で構成される。この図において、Mは金属(導電体)、Fは強誘電体、Sは半導体、Iは絶縁体、AFは反強誘電体である。この図から分かるように、これらの電子素子は、強誘電体層(F)が金属(導電体)層(M)、半導体層(S)、絶縁体層(I)の上に形成されて構成される。
【0042】
かかる第15の態様では、上述した強誘電性薄膜は、非常に高い強誘電性と、高い安定性とを有するので、従来よりも小型で高性能な電子素子を提供することができる。
【0043】
本発明の第16の態様は、スパッタ法を用いて、第1~第14の態様の何れか1つに記載の強誘電性薄膜を製造する強誘電性薄膜の製造方法であって、スパッタリングガスは少なくとも窒素を含み、スパッタリングガスに含まれる窒素のモル濃度が、0.667~1.0の範囲にあり、スパッタリングガスの圧力が1Pa以下であることを特徴とする強誘電性薄膜の製造方法にある。
【0044】
ここで、「スパッタリングガス」とは、スパッタ法に用いられる気体(ガス)をいい、例えば、窒素(N2)、アルゴン(Ar)のような不活性ガス等が挙げられる。
【0045】
かかる第16の態様では、高い電界をかけても絶縁破壊を起こすことなく、高い残留分極値を有する強誘電性薄膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は本発明に係る電子素子の積層構造の一例を示す概念側面図である。
【
図2】
図2は実施形態1に係る強誘電性薄膜の概略側面図である。
【
図3】
図3は実施例1~5および比較例の成分や製造方法等を示す表である。
【
図4】
図4は実施例1のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図5】
図5は実施例2のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図6】
図6は実施例3のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図7】
図7は実施例4のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図8】
図8は実施例5のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図9】
図9は実施例1~3、5、比較例6、7のPUND測定の結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は実施例および比較例に関するScの濃度Xと残留分極値(Pr)との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は実施例6~8の成分および膜厚を示す表である。
【
図13】
図13は実施例6のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図14】
図14は実施例7のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図15】
図15は実施例8のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図16】
図16は実施形態2に係る強誘電性薄膜の概略側面図である。
【
図17】
図17は実施例9~13およびその薄膜の構造を示す表である。
【
図18】
図18は実施例9のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図19】
図19は実施例10のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図20】
図20は実施例11のヒステリシスカーブを示すグラフである。
【
図21】
図21は実施例12のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図22】
図22は実施例13のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである
【
図23】
図23は実施例14~24およびその薄膜の構造を示す表である。
【
図24】
図24は実施例14のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図25】
図25は実施例15のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図26】
図26は実施例16のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図27】
図27は実施例17のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図28】
図28は実施例18のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図29】
図29は実施例19のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図30】
図30は実施例20のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図31】
図31は実施例21のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図32】
図32は実施例22のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図33】
図33は実施例23のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図34】
図34は実施例24のヒステリシスカーブ(上段)、電界強度と電流との関係(下段)を示すグラフである。
【
図36】
図36は実施例25~27を作成する際に用いたスパッタリングガスに含まれる各ガスのモル濃度を示す表である。
【
図37】
図37は各スパッタリングガスを用いて作製した強誘電性薄膜における電界強度と残留分極値(Pr)との関係を示すグラフである。
【
図38】
図38は各スパッタリングガスを用いて作製した強誘電性薄膜における電界強度とリーク電流密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る強誘電性薄膜の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
(実施形態1)
【0048】
図2は本実施形態に係る強誘電性薄膜の概略側面図である。この図に示すように、強誘電性薄膜10は、シリコン基板(Si基板)50上に、下部から上部に向かって、二酸化ケイ素層(SiO
2層)40、二酸化チタン層(TiO
2層)30、白金(111)層(Pt(111)層)20の順に積層された3層で構成された薄膜上に形成されている。ここで、Pt(111)層とは、ミラー指数が(111)の白金層をいう。
【0049】
Si基板50は特に限定されず、市販のものを用いることができる。また、その厚みも特に限定されない。
【0050】
SiO2層40もスパッタ等で形成することができるものであれば、特に限定されない。その膜厚も10nm~2000nmの範囲であれば特に限定されない。
【0051】
TiO2層30も、スパッタ等で形成することができるものであれば特に限定されない。その膜厚も2nm~100nmの範囲であれば特に限定されない。なお、TiO2層に代えて、タンタル層や酸化タンタル層、ニオブ層または酸化ニオブ層等を用いることができる。
【0052】
Pt(111)層20も、スパッタ等で形成することができるものであれば特に限定されない。その膜厚も20nm~200nmの範囲であれば特に限定されない。
【0053】
そして、Pt(111)層20の上部に形成された強誘電性薄膜10は、化学式Al1-xScxNで表されるスカンジウム(Sc)を添加した窒化アルミニウムで構成されている。ここで、XはScの濃度を示し、強誘電性薄膜10は、Xの値が0より大きく、0.219以下の範囲にあるものとなっている。
【0054】
この強誘電性薄膜10は、従来作製できないと認識されていたScの濃度Xよりも低いにもかかわらず、非特許文献1に開示されているAl1-XScXNで構成された強誘電性薄膜と比較して、非常に高い強誘電性と、高い安定性を有する。
【0055】
ここで、強誘電性薄膜10の膜厚は特に限定されないが、その膜厚は、1nm~300nmの範囲にあることが好ましい。このように薄い膜厚であっても、強誘電性薄膜10は、十分な強誘電性と、高い安定性を有する。
【0056】
また、強誘電性薄膜10の膜厚は、1nm~200nmの範囲にあることが、より好ましい。このように薄い膜厚であっても、強誘電性薄膜10は、十分な強誘電性と、十分に高い安定性を有する。
【0057】
さらに、強誘電性薄膜10の膜厚は、1nm~100nmの範囲にあることが、さらに好ましい。このように薄い膜厚であっても、強誘電性薄膜10は、十分な強誘電性と、十分に高い安定性を有する。
【0058】
強誘電性薄膜10の膜厚が20nm~80nmの範囲にあることが、特に好ましい。このように薄い膜厚であっても、強誘電性薄膜10は、十分な強誘電性と、十分に高い安定性を有する。
【0059】
そして、これらの強誘電性薄膜10を用いた電子素子は、十分な強誘電性と、十分に高い安定性を有するので、従来よりも小型で高性能なものとなる。なお、このような電子素子の構成は特に限定されず、公知の技術で作製することができる。
【0060】
次に、本実施形態に係る強誘電性薄膜10の製造方法(製造方法1)について説明する。上述したように、強誘電性薄膜10は、Si基板50上に、下部から上部に向かって、SiO2層40、TiO2層30、Pt(111)層20の順に積層された3層で構成された薄膜上に形成(成膜)されている。
【0061】
まず、Si基板50上に、SiO2層40を形成する。SiO2層40の成膜方法は特に限定されず、スパッタ法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、MBE(分子ビームエピタキシー法)、PLD(パルスレーザー堆積法)や酸化法(熱酸化、水蒸気酸化等)等の公知の技術で作製することができる。
【0062】
次に、形成されたSiO2層40上に、TiO2層30を形成する。TiO2層30の成膜方法は特に限定されず、スパッタ法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、MBE(分子ビームエピタキシー法)、PLD(パルスレーザー堆積法)や酸化法(熱酸化、水蒸酸化等)の公知の技術で作製することができる。
【0063】
さらに、形成されたTiO2層30上に、Pt(111)層20を形成する。Pt(111)層20の成膜方法は特に限定されず、スパッタ法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)の公知の技術で作製することができる。
【0064】
そして、形成されたPt(111)層20上に、化学式Al1-xScxNで表される強誘電性薄膜10を形成する。強誘電性薄膜10は、一般的なスパッタ法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、MBE(分子ビームエピタキシー法)、PLD(パルスレーザー堆積法)などを用いて作製することができる。具体的には、例えば、窒素ガス(N2)雰囲気下、またはN2およびアルゴンガス(Ar)混合雰囲気下(気体圧力は1Pa以下であればよく、0.267Pa~6.67Paが好ましい。)において、Pt(111)層20に、Scで構成されたターゲットおよびAlで構成されたターゲットを同時にスパッタ処理することにより、強誘電性薄膜10を作製することができる。なお、ターゲットとして、ScとAlが所定の比率で含まれる合金を用いてもよい。また、AlN、ScN、AlScN等のように、Sc、Al、Nが所定の比率で構成される化合物を用いてもよい。
【0065】
また、本実施形態に係る強誘電性薄膜10は、次のように、一般的な圧電体薄膜と同様に、スパッタ法や蒸着法等の製造方法を用いて、Si基板上に直接形成(成膜)することもできる(製造方法2)。
【0066】
具体的には、例えば、N2雰囲気下、またはN2およびAr混合雰囲気下(気体圧力は1Pa以下であればよく、0.10Pa~0.70Paが好ましい。)において、基板(例えばシリコン(Si)基板)にScで構成されたターゲットおよびAlで構成されたターゲットを同時にスパッタ処理することにより作製することができる。なお、ターゲットとして、ScとAlが所定の比率で含まれる合金を用いてもよい。
(実施例1~5および比較例1~10)
【0067】
スパッタ装置に、次のスパッタリングターゲット等を使用し、上述した製造方法1を用いて、比抵抗が0.02Ωcmのn型Si基板上に、厚さ50nm~200nmのSiO2層、厚さ5nm~50nmのTiO2層、厚さ50nm~200nmのPt(111)層および厚さ123nm~251nmの強誘電性薄膜を複数作製した。なお、各強誘電性薄膜に含まれるScの濃度Xは異なっている。
Scのスパッタリングターゲット材(濃度:99.99%)
Alのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
スパッタリングガス:N2(純度:99.99995%以上)
基板加熱温度:400℃~500℃
【0068】
また、上述した製造方法2を用いて、比抵抗が0.02Ωcmのn型Si基板上に、厚さ290nm~460nmの強誘電性薄膜を複数作製した。なお、各強誘電性薄膜に含まれるScの濃度Xは異なっている。
スパッタ装置:BC3263(アルバック社製)
Scのスパッタリングターゲット材(濃度:99.99%)
Alのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
スパッタリングガス:N2(純度:99.99995%以上)とAr(純度:99.9999%以上)の混合ガス(混合比 40:60)
基板加熱温度:300℃~600℃
【0069】
これらの成膜実験は、スパッタチャンバー内の気圧を10-6Pa以下の高真空になるように真空ポンプで減圧した後に行った。また、酸素等の不純物の混入をさけるため、ターゲット装着直後や各成膜実験の直前にターゲット表面の清浄処理を行った。
【0070】
そして、各強誘電性薄膜上にPt電極をそれぞれ設け、FCE-1/1A(東陽テクニカ社製)を用いて、
図3に示す各強誘電性薄膜の電界―分極特性を測定した。
【0071】
その測定結果を
図4~
図8に示す。これらの図から分かるように、実施例1~5の強誘電性薄膜は、それぞれ明瞭なヒステリシスカーブを示すことが分かった。
【0072】
さらに、実施例1~3、5、比較例6、7の各強誘電性薄膜に対し、負の電場波形を1回印加し、その後、正の電場波形を2回、負の電場波形を2回印加して分極反転成分を測定する、いわゆるPUND(Positive-Up-Negative-Down)法による測定を行った。
【0073】
その結果を
図9に示す。この図において、黒の丸マークは実施例1を、白抜きの四角マークは実施例2を、白抜きの三角マークは実施例3を、白抜きの丸マークは実施例5を、黒の逆三角のマークは比較例6を、黒の四角マークは比較例7を示す。この図に示すように、Scの濃度が低いほど残留分極値(Pr)が高い値を示すことが分かった。
【0074】
次に、これらの強誘電性薄膜のScの濃度XとPrとの関係を示すグラフを
図10に示す。ここで、黒丸マークで示したデータは、製造方法1または2で作製された強誘電性薄膜のデータを示し、黒三角マークで示したデータは、非特許文献1に記載されている数値である。
【0075】
この図に示すように、Scの濃度が0.065以上で0.219以下の範囲にある強誘電性薄膜(実施例1~5)の残留分極値(Pr)は、Scの濃度が0.27から0.49の範囲にある強誘電性薄膜(比較例1~8)と比較して、高い数値となることが分かった。
【0076】
すなわち、添加されたScの濃度Xが0.065以上で、0.219以下の範囲にある窒化アルミニウム(Al1-xScxN)は、添加されたScの濃度Xが0.27~0.49の範囲にあるものと比較して、高い残留分極値(Pr)を有することが分かった。
【0077】
さらに、
図3に示す各強誘電性薄膜の一部に関し、uとPrとの関係を示すグラフを
図11に示す。ここで、uとは、分極方向の格子定数と、窒素原子とAl等の金属原子との間の平均距離との比をいう。例えば、結晶構造がウルツ鉱型の場合には、このuは、一般的に次式により算出することができる。
【0078】
【0079】
この式中、aはa軸の格子定数を示し、cはc軸の格子定数を示す。なお、電気双極子の距離に関係するuは、分極値等の強誘電特性に強く影響すると考えられている。
【0080】
このグラフから分かるように、uが0.375以上で、0.5より小さい範囲にある強誘電性薄膜であれば、上述したように、高い残留分極値(Pr)を有することが分かった。
【0081】
なお、どのような結晶構造であったとしても、uが0.375以上で、0.5より小さい範囲にある強誘電性薄膜であれば、高い残留分極値を有するが、uが0.382以上で、0.5以下の範囲にある強誘電体薄膜であれば、高いPrを確実に有することになるので、より好ましい。また、uが0.383以上で、0.396以下の範囲にある強誘電体薄膜であれば、高いPrを、より確実に有することになるので、さらに好ましい。さらに、uが0.383以上で、0.387以下の範囲にある強誘電体薄膜であれば、高いPrを、さらに確実に有することになるので、特に好ましい。これらの関係は、本発明に含まれるすべての強誘電性薄膜で成立する。
(実施例6~8)
【0082】
本実施形態の強誘電性薄膜の膜厚が小さくても、十分な強誘電性を有することを確認するため、上述した製造方法2を用いて、膜厚がより小さい強誘電性薄膜を作製した。これらの各強誘電性薄膜上にPt電極をそれぞれ設け、FCE-1/1A(東陽テクニカ社製)を用いて、
図12に示す各強誘電性薄膜に関し、ヒステリシスカーブと、電界強度に対する電流をそれぞれ測定した。
【0083】
その結果を
図13~
図15の上段に各強誘電性薄膜のヒステリシスカーブをそれぞれ示し、
図13~
図15の下段に電界強度に対する電流のグラフをそれぞれ示す。これらの図から、実施例6~8の強誘電性薄膜が強誘電性をそれぞれ有することが分かった。
(実施形態2)
【0084】
実施形態1では、比較的高温のプロセスを用いて強誘電性薄膜を作製したが、本発明の製造方法はこれに限定されない。例えば、上述した製造方法における基板(基材)加熱温度を低温(例えば、20℃~30℃の範囲)にしても(加熱しなくても)、本発明に係る強誘電性薄膜を作製することができる。
【0085】
したがって、本発明に係る強誘電性薄膜は、耐熱性が低い基材である低耐熱性基材上にも形成(成膜)することができる。その結果、耐熱性の低い電子素子にも、本発明に係る強誘電性薄膜を用いることができる。ここで、低耐熱性基材としては、例えば、ソーダ石灰ガラス(soda-lime glass)や有機基材(ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリイミド、無アルカリガラス(alkali-free glass)等が挙げられる。
(実施例9~13)
【0086】
スパッタ装置に、次のスパッタリングターゲット等を使用し、
図16に示すように、各基材(Substrate)40A上に、厚さ50nm~200nmのITO(Indium Tin Oxide)層30A、厚さ50nm~200nmのPt(111)層20Aおよび厚さ138nm~145nmの強誘電性薄膜10Aを複数作製した。
Scのスパッタリングターゲット材(濃度:99.99%)
Alのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
スパッタリングガス:N
2(純度:99.99995%以上)
基板加熱温度:20℃~30℃
【0087】
これらの成膜実験は、上述した実施例や比較例と同様に、スパッタチャンバー内の気圧を10-6Pa以下の高真空になるように真空ポンプで減圧した後に行った。また、酸素等の不純物の混入をさけるため、ターゲット装着直後や各成膜実験の直前にターゲット表面の清浄処理を行った。
【0088】
そして、各強誘電性薄膜上にPt電極をそれぞれ設け、FCE-1/1A(東陽テクニカ社製)を用いて、
図17に示す各強誘電性薄膜に対し、電界強度を印加した。その測定結果を
図18~
図22に示す。これらの図から分かるように、各強誘電性薄膜は、明瞭なヒステリシスカーブを示すことが分かった。したがって、各強誘電性薄膜は、強誘電性をそれぞれ有することが分かった。
(他の実施形態)
【0089】
上述した実施形態では、強誘電性薄膜として、Scを添加した窒化アルミニウム(Al1-xScxN)を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の強誘電性薄膜として、例えば、Al1-X(Mg1-YNbY)XN(0≦X≦1、0≦Y≦1)が挙げられる。このような強誘電性薄膜は、より安価で、高い強誘電性と、高い安定性とを有する。
【0090】
なお、Xは、0.01以上で0.7以下の範囲が好ましく、Yは0以上で1以下の範囲が好ましい。また、Xは、0.01より大きく0.7以下の範囲がより好ましく、Yは0より大きく1.0より小さい範囲がさらに好ましい。このような範囲の強誘電性薄膜(Al1-X(Mg1-YNbY)XN)は、より安価で、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する。そして、Xは、0.57以上で0.63以下の範囲がより好ましく、Yは0.365以上で0.532以下の範囲がより好ましい。このような範囲の強誘電性薄膜(Al1-X(Mg1-YNbY)XN)は、さらに高い強誘電性と、さらに高い安定性とを有する。
【0091】
また、Al1-XYbXN(0≦X≦1)が挙げられる。このような強誘電性薄膜は、より安価で、高い強誘電性と、高い安定性とを有する。
【0092】
なお、Xは、0より大きく1より小さい範囲が好ましく、0.01以上で0.8以下の範囲がより好ましい。このような範囲の強誘電性薄膜(Al1-XYbXN)は、より安価で、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する。そして、Xは、0.25以上で0.282以下の範囲がさらに好ましい。このような範囲の強誘電性薄膜(Al1-XYbXN)は、さらに高い強誘電性と、さらに高い安定性とを有する。
【0093】
また、本発明の強誘電性薄膜として、例えば、Ga1-XScXN(0≦X≦1)が挙げられる。このような強誘電性薄膜は、高い強誘電性と、高い安定性とを有する。
【0094】
なお、Xは、0以上で1より小さい範囲が好ましく、0より大きく1より小さい範囲がより好ましく、0以上で0.50以下の範囲がさらに好ましく、0より大きく0.50以下の範囲が特に好ましい。このような範囲の強誘電性薄膜(Ga1-XScXN)は、より高い強誘電性と、より高い安定性とを有する。そして、Xは、0以上で0.41以下の範囲がより好ましく、0より大きく0.41以下の範囲が特に好ましい。このような範囲の強誘電性薄膜(Ga1-XScXN)は、さらに高い強誘電性と、さらに高い安定性とを有する。
【0095】
さらに、本発明の強誘電性薄膜として、例えば、GaNが挙げられる。このような強誘電性薄膜は、高い強誘電性と、高い安定性とを有する。
【0096】
なお、上述した強誘電性薄膜は、実施形態1と同様の製造方法を用いて、実際に作製することができる。
(実施例14~24)
【0097】
上述した成膜方法を用いて、基板(Si、Hf、Ti)上に、
図23に示す薄膜を作製した。ここで、「積層順」とは、基板上の各膜の積層順を示し、右側の層から順に左側の層が積層されていることを示す。例えば、「Al
0.37Mg
0.4Nb
0.23N/Si」は、Si基板上に、Al
0.37Mg
0.4Nb
0.23N層が成膜されていることを示す。また、「強誘電性層厚」とは対応する各層の膜厚を示す。
【0098】
そして、上述した実施例と同様に、各強誘電性薄膜上にPt電極をそれぞれ設け、FCE-1/1A(東陽テクニカ社製)を用いて、
図23に示す各強誘電性薄膜に対し、電界強度を印加した。その測定結果を
図24~
図34に示す。これらの図から分かるように、各強誘電性薄膜は、明瞭なヒステリシスカーブを示すことが分かった。したがって、各強誘電性薄膜は、強誘電性をそれぞれ有することが分かった。
【0099】
また、上述した実施形態では、スパッタ法に用いるスパッタリングガスの種類や圧力について特に限定しなかった。しかし、スパッタリングガスに含まれる窒素のモル濃度が、0.667~1.0の範囲にあり、かつスパッタリングガスの圧力が1Pa以下であれば、より高い残留分極値(Pr)を有する強誘電性薄膜を提供することができる。なお、スパッタリングガスに含まれる窒素以外のガスは、不活性ガスであれば特に限定されない。
(実施例25~27)
【0100】
スパッタ装置に、次のスパッタリングターゲット等を使用し、上述した製造方法1を用いて、比抵抗が0.02Ωcmのn型Si基板上に、厚さ50nm~200nmのSiO
2層、厚さ5nm~50nmのTiO
2層および厚さ50nm~200nmのPt(111)層上に、
図35に示す強誘電性薄膜(Al
1-xSc
xN)を3つ作製した。ただし、成膜する際に、
図36に示すように、スパッタリングガスに含まれる窒素のモル濃度とアルゴンのモル濃度のみを変えた。
【0101】
Scのスパッタリングターゲット材(濃度:99.99%)
Alのスパッタリングターゲット材(濃度:99.999%)
スパッタリングガスに用いた気体:N2(純度:99.99995%以上)、Ar(純度:99.9999%以上)
スパッタリングガスの圧力:0.667Pa
【0102】
得られた各強誘電性薄膜に対し、電界-分極特性を測定した。その結果を
図37に示す。この図において、黒丸マークは実施例25を、白抜きの菱形マークは実施例26を、黒の逆三角のマークは実施例27をそれぞれ示す。この図に示すように、スパッタリングガスに含まれる窒素のモル濃度が高いほど残留分極値(Pr)が高い値を示すことが分かった。
【0103】
次に、各強誘電性薄膜上にPt電極をそれぞれ設け、FCE-1/1A(東陽テクニカ社製)を用いて、各強誘電性薄膜に対し、直流で電界強度を印加し、その際に流れたリーク電流密度を測定した。その結果を
図38に示す。この図から分かるように、実施例27は、2.20MV/cmの電界強度を印加した際に絶縁破壊(Dielectric breakdown)が生じて、それ以上の高い電界をかけて、リーク電流密度を測定することができなかった。一方、実施例26は、2.75MV/cmよりも高い電界強度をかけると、リーク電流密度が急激に大きい値を示したが、絶縁破壊は起きなかった。同様に、実施例25は、実施例26と比較してリーク電流密度が低い値を示し、絶縁破壊は起きなかった。ここで、実施例25および実施例26の結果から、窒素のモル濃度が、0.667~1.0の範囲のスパッタリングガスを用いて作製された強誘電性薄膜は、2.20MV/cm以上の電界強度をかけても絶縁破壊が起こらないと考えられる。なお、スパッタリングガスの圧力が1Pa以下となる条件であれば、これらと同様の強誘電性薄膜が得られる。
【0104】
これらのことから、窒素のモル濃度が0.667~1.0の範囲で、かつスパッタリングガスの圧力が1Pa以下であるスパッタリングガスを用いることにより、高い電界強度をかけても絶縁破壊を起こすことなく、高い残留分極値を有する強誘電性薄膜を作製できることが分かった。
【0105】
なお、この条件を満たすスパッタリングガスを用いることにより、本明細書に記載した全ての強誘電性薄膜においても、同様に、高い電界強度をかけても絶縁破壊を起こすことなく、高い残留分極値を有する強誘電性薄膜を作製できると考えられる。
【符号の説明】
【0106】
10、10A 強誘電性薄膜
20、20A Pt(111)層
30 TiO2層
30A ITO層
40 SiO2層
40A 基材(Substrate)
50 Si基板