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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】金属溶接部の損傷評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/44 20060101AFI20230412BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20230412BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01N29/44
G01N29/04
G01N29/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019106463
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020201057
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 山
(72)【発明者】
【氏名】張 聖徳
(72)【発明者】
【氏名】屋口 正次
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-139478(JP,A)
【文献】国際公開第2007/110900(WO,A1)
【文献】特開2007-085949(JP,A)
【文献】特開2002-031632(JP,A)
【文献】特開2002-303608(JP,A)
【文献】特開昭62-082350(JP,A)
【文献】特開昭57-039346(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0229834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01N 3/00 - G01N 3/62
G01B 17/00 - G01B 17/08
G01H 1/00 - G01H 17/00
G01M 13/00 - G01M 13/045
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶接部である検査対象部に超音波を送信すると共に前記検査対象部で反射した前記超音波を受信し、受信した反射波により前記検査対象部の損傷の状態を評価する金属溶接部の損傷評価装置であって、
超音波を送信する送信手段と、
反射波を受信する受信手段と、
前記送信手段から送信された超音波、前記受信手段で受信された超音波の波形が入力され、入力情報に基づいて前記検査対象部の損傷の状態を導出する信号解析手段とを備え、
前記信号解析手段は、
金属の非検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数、及び、前記検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数を把握する重心周波数把握機能と、
重心周波数把握機能で把握された非検査対象部重心周波数、検査対象部重心周波数に基づいて、非検査対象部重心周波数に対する検査対象部重心周波数の低下の度合である重心周波数低下度合を導出する低下度合導出機能と、
低下度合導出機能で導出された重心周波数低下度合に基づいて前記検査対象部の損傷の重心周波数面積割合を求める重心周波数面積割合導出機能とを有している
ことを特徴とする金属溶接部の損傷評価装置。
【請求項2】
金属溶接部である検査対象部に超音波を送信すると共に前記検査対象部で反射した前記超音波を受信し、受信した反射波により前記検査対象部の損傷の状態を評価する金属溶接部の損傷評価装置であって、
超音波を送信する送信手段と、
反射波を受信する受信手段と、
前記送信手段から送信された超音波、前記受信手段で受信された超音波の波形が入力され、入力情報に基づいて前記検査対象部の損傷の状態を導出する信号解析手段とを備え、
前記信号解析手段は、
送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベルを把握する散乱波ノイズ把握機能と、
散乱波ノイズ把握機能で把握された、金属の非検査対象部での非検査対象部散乱波ノイズレベルと金属の検査対象部での検査対象部散乱波ノイズレベルとの割合である散乱波ノイズレベル比を導出する散乱波ノイズレベル比導出機能と、
散乱波ノイズレベル比導出機能で導出された散乱波ノイズレベル比に基づいて前記検査対象部の損傷の散乱波面積割合を求める散乱波面積割合導出機能と、
金属の非検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数、及び、前記検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数を把握する重心周波数把握機能と、
重心周波数把握機能で把握された非検査対象部重心周波数、検査対象部重心周波数に基づいて、非検査対象部重心周波数に対する検査対象部重心周波数の低下の度合である重心周波数低下度合を導出する低下度合導出機能と、
低下度合導出機能で導出された重心周波数低下度合に基づいて前記検査対象部の損傷の重心周波数面積割合を求める重心周波数面積割合導出機能と、
散乱波面積割合導出機能で求められた前記検査対象部の損傷の散乱波面積割合、及び、重心周波数面積割合導出機能で求められた前記検査対象部の損傷の重心周波数面積割合に基づいて、前記検査対象部の損傷面積割合を設定する面積割合設定機能とを有している
ことを特徴とする金属溶接部の損傷評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の金属溶接部の損傷評価装置において、
前記信号解析手段の面積割合設定機能は、
散乱波面積割合と重心周波数面積割合の平均値を前記検査対象部の損傷面積割合とする
ことを特徴とする金属溶接部の損傷評価装置。
【請求項4】
請求項2もしくは請求項3のいずれか一項に記載の金属溶接部の損傷評価装置において、
前記信号解析手段は、
散乱波ノイズレベル比が上限値を超えた場合、上限値を用いて検査対象部の損傷の散乱波面積割合を決定し、決定された散乱波面積割合に基づいて前記検査対象部の損傷面積割合を設定する
ことを特徴とする金属溶接部の損傷評価装置。
【請求項5】
請求項2もしくは請求項3のいずれか一項に記載の金属溶接部の損傷評価装置において、
前記信号解析手段は、
重心周波数低下度合が上限値を超えた場合、上限規定値を用いて検査対象部の欠陥の重心周波数面積割合を決定し、決定された重心周波数面積割合に基づいて前記検査対象部の損傷面積割合を設定する
ことを特徴とする金属溶接部の損傷評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶接部の損傷である硬さが低下した部位(硬度低下部位)の状態を評価する(面積割合を求める)損傷評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の溶接部の非破壊検査の手法として超音波探傷による非破壊検査の手法が従来から種々知られている(例えば、特許文献1)。超音波探傷は、検査対象部である溶接部に超音波を送信すると共に溶接部の底部で反射した超音波(反射波)を受信し、受信した反射波の信号強度により欠陥の状況を評価している。
【0003】
従来から知られている超音波探傷は、金属の材質や欠陥の種類により検出精度が左右されているのが現状であった。近年、使用環境が厳しい火力発電プラント等で多く使用されている配管の組織検査において、長期使用に伴って溶接部に硬さが顕著に低下する損傷の領域(硬度低下部位の領域)が存在することが確認されている。
【0004】
このような、特殊な環境で使用される部材の溶接部の損傷(硬度低下部位)は、損傷発生メカニズムおよび損傷における超音波伝搬特性が十分に解明できている状況ではないため、検出困難であった。このため、特殊な環境で使用される部材の溶接部の損傷(硬度低下部位)であっても、超音波探傷により的確に状態が把握できることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-106130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、超音波により金属溶接部の損傷(硬度低下部位)の面積の特徴量(面積の割合)を把握し、面積の特徴量(面積の割合)により損傷(硬度低下部位)の状態を評価することができる金属溶接部の損傷評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属溶接部の損傷(硬度低下部位)評価装置は、金属溶接部である検査対象部に超音波を送信すると共に前記検査対象部の底部で反射した前記超音波を受信し、受信した反射波により前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の状態(面積割合)を評価する金属溶接部の損傷評価装置であって、
超音波を送信する送信手段と、反射波を受信する受信手段と、前記送信手段から送信された超音波、前記受信手段で受信された超音波の波形が入力され、入力情報に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の状態を導出する信号解析手段とを備え、
前記信号解析手段は、送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベル(GN)を把握する散乱波ノイズ把握機能と、散乱波ノイズ把握機能で把握された、金属の非検査対象部での非検査対象部散乱波ノイズレベル(GN1:母材)と金属の検査対象部での検査対象部散乱波ノイズレベル(GN2:溶接部)との割合である散乱波ノイズレベル比(GNR)を導出する散乱波ノイズレベル比導出機能と、散乱波ノイズレベル比導出機能で導出された散乱波ノイズレベル比(GNR)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)を求める散乱波面積割合導出機能とを有している
【0008】
これにより、送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベル(GN)に基づいて、非検査対象部(母材)と検査対象部(溶接部)の散乱波ノイズレベルの割合である散乱波ノイズレベル比(GNR)を把握し、散乱波ノイズレベル比(GNR)の大きさにより、検査対象部(溶接部)の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)を求め、散乱波面積割合(RSS1)を損傷(硬度低下部位)の面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)として、損傷(硬度低下部位)の状態を評価する。
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の金属溶接部の損傷評価装置は、
金属溶接部である検査対象部に超音波を送信すると共に前記検査対象部の底部で反射した前記超音波を受信し、受信した反射波により前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の状態(面積率)を評価する金属溶接部の損傷評価装置であって、
超音波を送信する送信手段と、反射波を受信する受信手段と、前記送信手段から送信された超音波、前記受信手段で受信された超音波の波形が入力され、入力情報に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の状態を導出する信号解析手段とを備え、
前記信号解析手段は、
金属の非検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数(母材重心周波数:fw)、及び、前記検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数(溶接部重心周波数fwcw)を把握する重心周波数把握機能と、重心周波数把握機能で把握された非検査対象部重心周波数(母材重心周波数:fw)、検査対象部重心周波数(溶接部重心周波数:fwcw)に基づいて、非検査対象部重心周波数(fw)に対する検査対象部重心周波数(fwcw)の低下の度合である重心周波数低下度合{fdwn=(fwcw-fw)/fw}を導出する低下度合導出機能と、低下度合導出機能で導出された重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)を求める重心周波数面積割合導出機能とを有している
ことを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る本発明では、非検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数(母材重心周波数:fw)、及び、金属の検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数(溶接部重心周波数:fwcw)を把握し、非検査対象部重心周波数(fw)に対する検査対象部重心周波数(fwcw)の低下の度合である重心周波数低下度合{fdwn=(fwcw-fw)/fw}を導出する。そして、重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)を求め、重心周波数面積割合(RSS2)を損傷(硬度低下部位)の面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)として、損傷(硬度低下部位)の状態を評価する。
【0011】
上記目的を達成するための請求項2に係る本発明の金属溶接部の損傷評価装置は、
金属溶接部である検査対象部に超音波を送信すると共に前記検査対象部の底部で反射した前記超音波を受信し、受信した反射波により前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の状態(面積率)を評価する金属溶接部の損傷評価装置であって、
超音波を送信する送信手段と、反射波を受信する受信手段と、前記送信手段から送信された超音波、前記受信手段で受信された超音波の波形が入力され、入力情報に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の状態を導出する信号解析手段とを備え、
前記信号解析手段は、
送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベル(GN)を把握する散乱波ノイズ把握機能と、散乱波ノイズ把握機能で把握された、金属の非検査対象部での非検査対象部散乱波ノイズレベル(GN1:母材)と金属の検査対象部での検査対象部散乱波ノイズレベル(GN2:溶接部)との割合である散乱波ノイズレベル比(GNR)を導出する散乱波ノイズレベル比導出機能と、散乱波ノイズレベル比導出機能で導出された散乱波ノイズレベル比(GNR)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)を求める散乱波面積割合導出機能と
金属の非検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数(母材重心周波数:fw)、及び、前記検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数(溶接部重心周波数fwcw)を把握する重心周波数把握機能と、
重心周波数把握機能で把握された非検査対象部重心周波数(母材重心周波数:fw)、検査対象部重心周波数(溶接部重心周波数:fwcw)に基づいて、非検査対象部重心周波数(fw)に対する検査対象部重心周波数(fwcw)の低下の度合である重心周波数低下度合{fdwn=(fwcw-fw)/fw}を導出する低下度合導出機能と、
低下度合導出機能で導出された重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)を求める重心周波数面積割合導出機能と、
散乱波面積割合導出機能で求められた前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)、及び、重心周波数面積割合導出機能で求められた前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)に基づいて、前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)を設定する面積割合設定機能とを有している
ことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベル(GN)に基づいて、非検査対象部(母材)と検査対象部(溶接部)の散乱波ノイズレベルの割合である散乱波ノイズレベル比(GNR)を把握し、散乱波ノイズレベル比(GNR)の大きさにより、検査対象部(溶接部)の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)を求める。
【0013】
一方、非検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数(母材重心周波数:fw)、及び、金属の検査対象部の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数(溶接部重心周波数:fwcw)を把握し、非検査対象部重心周波数(fw)に対する検査対象部重心周波数(fwcw)の低下の度合である重心周波数低下度合{fdwn=(fwcw-fw)/fw}を導出する。そして、重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)を求める。
【0014】
そして、散乱波面積割合導出機能で求められた検査対象部の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)、及び、重心周波数面積割合導出機能で求められた検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)に基づいて、損傷(硬度低下部位)の面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)を決定して、損傷(硬度低下部位)の状態を評価する。
【0015】
このため、超音波により金属溶接部の損傷(硬度低下部位)の面積の特徴量(割合)を把握し、面積の特徴量(割合)により損傷(硬度低下部位)の状態を評価することが可能になる。
【0016】
そして、請求項3に係る本発明の金属溶接部の損傷評価装置は、請求項2に記載の金属溶接部の損傷(硬度低下部位)評価装置において、前記信号解析手段の面積割合設定機能は、散乱波面積割合(RSS1)と重心周波数面積割合(RSS2)の平均値{(RSS1)+(RSS2)/2}を前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)面積割合(RSS)とすることを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る本発明では、散乱波面積割合(RSS1)と重心周波数面積割合(RSS2)の平均値{(RSS1)+(RSS2)/2}を検査対象部の硬度低下部位面積割合(RSS)として、損傷(硬度低下部位)の状態を評価する。
【0018】
また、請求項4に係る本発明の金属溶接部の損傷評価装置は、請求項2もしくは請求項3のいずれか一項に記載の金属溶接部の損傷(硬度低下部位)評価装置において、前記信号解析手段は、散乱波ノイズレベル比(GNR)が上限値(GNRB2)を超えた場合、上限値(GNRB2)を用いて検査対象部の損傷(硬度低下部位)の散乱波面積割合(RSS1)を決定し、決定された散乱波面積割合(RSS1)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)面積割合(RSS)を設定することを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る本発明では、散乱波ノイズレベル比(GNR)が上限値(GNRB2)を超えた場合、上限値(GNRB2)を基準に、検査対象部の損傷(硬度低下部位)面積割合(RSS)が設定される。
【0020】
また、請求項5に係る本発明の金属溶接部の損傷評価装置は、請求項2もしくは請求項3のいずれか一項に記載の金属溶接部の損傷評価装置において、前記信号解析手段は、重心周波数低下度合(fdwn)が上限値(fw2)を超えた場合、上限規定値(所定値B)を用いて検査対象部の欠陥(硬度低下部位)の重心周波数面積割合(RSS2)を決定し、決定された重心周波数面積割合(RSS2)に基づいて前記検査対象部の損傷(硬度低下部位)面積割合(RSS)を設定することを特徴とする。
【0021】
請求項5に係る本発明では、重心周波数低下度合(fdwn)が上限値(fw2)を超
えた場合、上限規定値(所定値B)を用いて検査対象部の損傷(硬度低下部位)の重心周
波数面積割合(RSS2)を決定し、決定された重心周波数面積割合(RSS2)を基準
に、検査対象部の損傷(硬度低下部位)面積割合(RSS)が設定される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属溶接部の損傷評価装置は、超音波により金属溶接部の損傷(硬度低下部位)の面積の特徴量(面積割合)を把握し、面積の特徴量(面積割合)により損傷(硬度低下部位)を評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施例に係る金属溶接部の損傷評価装置の全体の概略図である。
図2】計測状況の説明図である。
図3】本発明の一実施例に係る金属溶接部の損傷評価装置の制御ブロック図である。
図4】信号強度の経時変化の説明図である。
図5】散乱波ノイズレベル比と硬度低下部位の面積割合との関係を説明するグラフである。
図6】信号強度と周波数との関係を説明するグラフである。
図7】重心周波数低下度合と硬度低下部位の面積割合の状況との関係を説明するグラフである。
図8】評価処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には本発明の一実施例に係る金属溶接部の損傷評価装置の全体の状況を説明する概念構成、図2には計測状況の説明、図3には信号解析手段の機能を説明するブロック構成を示してある。本願発明の評価装置では、一例として、高クロム鋼の溶接部の硬さが低下する部位としての損傷(硬度低下部位)の状態を評価することができる。
【0025】
尚、以下の記載では、溶接部の欠陥、劣化により生じた溶接部の不具合等で硬さが低下した部位のことを溶接部の損傷の意味として用いており、硬さが低下した部位を硬度低下部位と定義している。
【0026】
図1図2に示すように、金属溶接部の損傷評価装置は、金属1(例えば、高クロム鋼)の非検査対象部(母材)2、及び、金属1の検査対象部(溶接部)3に超音波を発信すると共に、母材2、及び、溶接部3の底部(厚さt)で反射した超音波を受信する送受信手段(探触子:送信手段、受信手段)4を備えている。
【0027】
送受信手段4の情報は信号解析手段5に入力され、信号解析手段5では入力情報に基づいて金属1の溶接部3の損傷である硬度低下部位3aの面積の特徴量(硬度低下部位3aの面積割合)が導出される。信号解析手段5で求められた硬度低下部位の面積割合の情報は、表示手段6に表示される。
【0028】
図3に示すように、信号解析手段5は、送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベル(GN)を把握する散乱波ノイズ把握機能11と、散乱波ノイズ把握機能11で把握された、金属1の母材2での散乱波ノイズレベルである非検査対象部散乱波ノイズレベル(母材散乱波ノイズレベル:GN1)、及び、金属1の溶接部3での散乱波ノイズレベルである検査対象部散乱波ノイズレベル(溶接部散乱波ノイズレベル:GN2)の割合である、散乱波ノイズレベル比(GNR)を導出する散乱波ノイズレベル比導出機能12と、散乱波ノイズレベル比導出機能12で導出された散乱波ノイズレベル比(GNR)に基づいて溶接部3の硬度低下部位3aの面積割合(散乱波面積割合:RSS1)を求める散乱波面積割合導出機能13とを有している。
【0029】
また、信号解析手段5は、金属1の母材2の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である非検査対象部重心周波数としての母材重心周波数(fw)、及び、金属1の溶接部3の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である検査対象部重心周波数としての溶接部重心周波数(fwcw)を把握する重心周波数把握機能15と、重心周波数把握機能15で把握された母材重心周波数(fw)、溶接部重心周波数(fwcw)に基づいて、母材重心周波数(fw)に対する溶接部重心周波数(fwcw)の低下の度合である重心周波数低下度合{fdwn=(fwcw-fw)/fw}を導出する低下度合導出機能16と、低下度合導出機能16で導出された重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて溶接部3の硬度低下部位3aの面積割合(重心周波数面積割合:RSS2)を求める重心周波数面積割合導出機能17とを有している。
【0030】
散乱波面積割合導出機能13で求められた溶接部3の硬度低下部位3aの散乱波面積割合(RSS1)、及び、重心周波数面積割合導出機能17で求められた溶接部3の硬度低下部位3aの重心周波数面積割合(RSS2)に基づいて、溶接部3の硬度低下部位3aの面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)を設定する面積割合設定機能19とを有している。面積割合設定機能19で設定された損傷面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)に基づいて溶接部3の硬度低下部位3aの割合が評価される。
【0031】
このため、超音波により金属1の溶接部3の硬度低下部位3aの面積の特徴量(割合)を把握することで、硬度低下部位3aの面積の特徴量(割合)により溶接部3の損傷を評価することが可能になる。
【0032】
図4図5に基づいて散乱波ノイズ把握機能11、散乱波ノイズレベル比導出機能12、散乱波面積割合導出機能13を具体的に説明する。
【0033】
図4には超音波の信号強度の経時変化の説明を示してあり、図4(a)は母材の信号強度の変化、図4(b)は溶接部3の信号強度の変化である。図4中、TPは送信パルス(送信信号)、BWは底部で反射した超音波の信号(受信信号)、GN1は送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベルである母材散乱波ノイズレベル、GN2は送信信号と受信信号の間の時間における散乱波ノイズレベルである溶接部散乱波ノイズレベルである。また、図5には散乱波ノイズレベル比GNRと溶接部3の硬度低下部位3aの面積割合との関係を表すグラフを示してあり、例えば、予めマップ化されて記憶されている。
【0034】
散乱波ノイズ把握機能11では、図4(a)に示した信号強度の経時変化の状況に基づいて、母材散乱波ノイズレベル(GN1)が求められる。また、図4(b)に示した信号強度の経時変化の状況に基づいて、溶接部散乱波ノイズレベル(GN2)が求められる。そして、散乱波ノイズレベル比導出機能12では、散乱波ノイズ把握機能11で把握された、金属1の母材2での母材散乱波ノイズレベル(GN1)、及び、溶接部3での溶接部散乱波ノイズレベルGN2の割合である、散乱波ノイズレベル比GNRが以下の演算式(1)により導出される。
散乱波ノイズレベル比(GNR)
={溶接部散乱波ノイズレベル(GN2)}/{母材散乱波ノイズレベル(GN1)} ・・(1)
【0035】
散乱波面積割合導出機能13には図5に示したマップが記憶され、散乱波ノイズレベル比導出機能12で求められた散乱波ノイズレベル比GNRに基づいて、硬度低下部位3aの面積割合(%)が図5のマップから読み込まれる。そして、硬度低下部位3aの面積割合である散乱波面積割合RSS1が決定される。
【0036】
図4図6図7に基づいて重心周波数把握機能15、低下度合導出機能16、重心周波数面積割合導出機能17、面積割合設定機能19を具体的に説明する。
【0037】
図6には図4に示した波形の受信信号の部分に対してフーリエ変換して求めた信号強度と周波数(MHz)との関係を説明するグラフを示してあり、図6(a)は母材2の信号強度と周波数(MHz)との関係、図6(b)は溶接部3の信号強度と周波数(MHz)との関係である。また、図7には重心周波数低下度合と硬度低下部位の面積割合の状況(重心周波数面積割合×深さt)との関係を説明するグラフを示してある。
【0038】
重心周波数把握機能15では、図4に示した波形の受信信号の部分に対してフーリエ変換を行い、図6に示した波形を得る。中心周波数は、信号強度の周波数から所定の強度G低下した所に対応する周波数f及びfの平均値である。重心周波数fとして、周波数成分の積分値の重心位置に基づいて下式(2)により求める。
Σf/Σf・・・(2)
尚、f、Mは、それぞれ周波数成分、及び、それに対応する強度である。
【0039】
そして、重心周波数把握機能15では、母材2に対する重心周波数fである母材重心周波数(fw)、及び、溶接部3に対する重心周波数fである溶接部重心周波数(fwcw)を導出する。つまり、金属1の母材2の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である母材重心周波数(fw)、及び、溶接部3の底部での反射波の周波数スペクトル曲線とその横軸によって囲まれた図形の重心に対応する周波数である溶接部重心周波数(fwcw)を把握する。
【0040】
低下度合導出機能16では、重心周波数低下度合fdwnを導出する。即ち、低下度合導出機能16では、重心周波数把握機能15で導出された母材重心周波数(fw)、溶接部重心周波数(fwcw)に基づいて、母材重心周波数(fw)に対する溶接部重心周波数(fwcw)の低下の度合である重心周波数低下度合{fdwn=(fwcw-fw)/fw}を導出する。
【0041】
重心周波数面積割合導出機能17では、重心周波数面積割合(RSS2)を求める。即ち、重心周波数面積割合導出機能17では、低下度合導出機能16で導出された重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて溶接部3の硬度低下部位3aの面積割合(重心周波数面積割合:RSS2)を求める。
【0042】
重心周波数面積割合導出機能17には図7に示したマップが記憶され、重心周波数低下度合(fdwn)に対する溶接部3の重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}が読み込まれる。そして、重心周波数面積割合の状況に基づいて、硬度低下部位3aの面積割合である重心周波数面積割合(RSS2)が決定される。
【0043】
尚、深さtは、溶接部の写真図面等から直接読み込むことができる。また、図4に示した波形に基づいて求めることができる。即ち、母材2、溶接部3の材質から音速が分かり、図4を参照して底部からの反射波の時間が分かる。そして、音速と時間から深さ(厚さ)tを求めることができる。
【0044】
面積割合設定機能19では、溶接部3の硬度低下部位3aの散乱波面積割合(RSS1)、及び、溶接部3の硬度低下部位3aの重心周波数面積割合(RSS2)に基づいて、溶接部3の硬度低下部位3aの面積割合(硬度低下部位面積割合:RSS)を設定する。具体的には、散乱波面積割合(RSS1)と重心周波数面積割合(RSS2)の平均値{(RSS1)+(RSS2)/2}を溶接部3の硬度低下部位3aの硬度低下部位面積割合(RSS)としている。面積割合設定機能19で設定された硬度低下部位面積割合(RSS)に基づいて溶接部3の硬度低下部位3aの割合が評価される。
【0045】
尚、硬度低下部位面積割合(RSS)を設定する場合、散乱波面積割合(RSS1)、もしくは、重心周波数面積割合(RSS2)のいずれかに重み付けを行う処理を施す等が可能であり、散乱波面積割合(RSS1)、及び、重心周波数面積割合(RSS2)の平均値に限定されない。
【0046】
図8に基づいて硬度低下部位面積割合(RSS)を設定する処理の流れを説明する。図8には評価処理のフローチャートを示してある。
【0047】
ステップS1で散乱波ノイズレベル比(GNR)={溶接部散乱波ノイズレベル(GN2)}/{母材散乱波ノイズレベル(GN1)}が読み込まれ、ステップS2で散乱波ノイズレベル比(GNR)が下限値(GNB1)以上か否かが判断される。ステップS2で散乱波ノイズレベル比(GNR)が下限値(GNB1)を下回っていると判断された場合、ステップS3で硬度低下部位面積割合(RSS)=0として処理を終了する。
【0048】
ステップS2で散乱波ノイズレベル比(GNR)が下限値(GNB1)以上であると判断された場合、ステップS4で散乱波ノイズレベル比(GNR)が上限値(GNB2)以下であるか否かが判断される。即ち、散乱波ノイズレベル比(GNR)が下限値(GNB1)と上限値(GNB2)の間にあるか否かが判断される。
【0049】
ステップS4で散乱波ノイズレベル比(GNR)が上限値(GNB2)以下であると判断された場合、散乱波ノイズレベル比(GNR)で散乱波面積割合(RSS1)を導出する(ステップS5)。ステップS4で散乱波ノイズレベル比(GNR)が上限値(GNB2)以下ではない、即ち、上限値を超えると判断された場合、上限値(GNB2)を散乱波ノイズレベル比(GNR)として散乱波面積割合(RSS1)を導出し(ステップS6)、ステップS7で散乱波面積割合(RSS1)を硬度低下部位面積割合(RSS)として処理を終了する。
【0050】
つまり、散乱波ノイズレベル比(GNR)が上限を超えた場合、上限値(GNB2)を用いて硬度低下部位面積割合(RSS)を導出する。
【0051】
ステップS5で散乱波面積割合(RSS1)を導出した後、ステップS8で重心周波数低下度合(fdwn)を求める。ステップS9で重心周波数低下度合(fdwn)がしきい値(fw1)以上か否かが判断され、重心周波数低下度合(fdwn)がしきい値(fw1)以上であると判断された場合、ステップS10で重心周波数低下度合(fdwn)が上限値(fw2)以下か否かが判断される。
【0052】
ステップS10で重心周波数低下度合(fdwn)が上限値(fw2)以下であると判断された場合、即ち、重心周波数低下度合(fdwn)がしきい値(fw1)以上、上限値(fw2)以下であると判断された場合、ステップS11で、重心周波数低下度合(fdwn)に基づき、重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}が導出される(図7参照)。
【0053】
図7から導出された重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}に基づいて、ステップS12で重心周波数面積割合(RSS2)が演算され、ステップS13で、散乱波面積割合(RSS1)と重心周波数面積割合(RSS2)の平均値{(RSS1)+(RSS2)/2}を溶接部3の硬度低下部位3aの硬度低下部位面積割合(RSS)として処理を終了する。
【0054】
一方、ステップS9で重心周波数低下度合(fdwn)がしきい値(fw1)に満たないと判断された場合、ステップS14で重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}が所定値A(例えば、0もしくは0に近い値)とされる。また、ステップS10で重心周波数低下度合(fdwn)が上限値(fw2)以下ではないと判断された場合、ステップS15で重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}が上限規定値である所定値B(所定値A<所定値B)とされる。
【0055】
ステップS14で重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}が所定値Aに設定された後、もしくは、ステップS15で重心周波数面積割合の状況{重心周波数面積割合(RSS2)×深さt}が所定値Bに設定された後、ステップS12に移行し、所定値A、もしくは、所定値Bに基づいて、重心周波数面積割合(RSS2)が演算される。そして、ステップS13で、散乱波面積割合(RSS1)と重心周波数面積割合(RSS2)の平均値{(RSS1)+(RSS2)/2}を溶接部3の硬度低下部位3aの硬度低下部位面積割合(RSS)として処理を終了する。
【0056】
上述した金属溶接部の損傷評価装置は、超音波の散乱波ノイズレベル比(GNR)と超音波の重心周波数低下度合(fdwn)に基づいて、溶接部3の硬度低下部位面積割合(RSS)を決定し、溶接部3の硬度低下部位面積割合(RSS)により硬度低下部位の状態を評価することができる。このため、超音波により金属溶接部の損傷(硬度低下部位)の面積の特徴量(面積割合)を把握し、面積の特徴量(面積割合)により損傷(硬度低下部位)の状態を評価することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、金属溶接部の損傷評価装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 金属
2 非検査対象部(母材)
3 検査対象部(溶接部)
4 送受信手段(探触子)
5 信号解析手段
11 散乱波ノイズ把握機能
12 散乱波ノイズレベル比導出機能
13 散乱波面積割合導出機能
15 重心周波数把握機能
16 低下度合導出機能
17 重心周波数面積割合導出機能
19 面積割合設定機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8