(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】Aピラー用ガラス板
(51)【国際特許分類】
B60J 1/10 20060101AFI20230413BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20230413BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20230413BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20230413BHJP
B60J 1/20 20060101ALI20230413BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20230413BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
B60J1/10 A
B60J1/00 H
B60J1/10 C
B60J1/02 J
B62D25/04 A
B60J1/20 C
B62D21/00
C03C27/12 D
(21)【出願番号】P 2020529053
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026721
(87)【国際公開番号】W WO2020009203
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018129307
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019083047
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】石岡 英樹
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0248525(US,A1)
【文献】特開昭64-022680(JP,A)
【文献】特開2011-037709(JP,A)
【文献】特開2017-124746(JP,A)
【文献】特開2012-101999(JP,A)
【文献】国際公開第2007/081025(WO,A1)
【文献】特開2008-279946(JP,A)
【文献】特開2017-186229(JP,A)
【文献】特開2006-273057(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103587384(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/10
B60J 1/00
B60J 1/02
B62D 25/04
B60J 1/20
B62D 21/00
C03C 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のAピラーに、前記Aピラーの長手方向に沿って形成された開口部に装着され、
前記長手方向に沿う稜線部を有し、前記稜線部に直交する幅方向の断面形状が、車外側に向かって突出する湾曲形状であり、かつ前記幅方向の断面形状において、前記幅方向の両端の裾野部は、前記稜線部よりも、大きい曲率半径を有
し、
前記幅方向の断面形状において、前記裾野部の前記幅方向の両端から前記稜線部に向かう20mmの範囲は、300mm以上の曲率半径を有し、
前記稜線部の方向の上端部から下端部に向けて、前記稜線部の前記上端部から1/4、2/4、及び3/4の位置の前記幅方向の断面形状において、隣り合う断面形状における曲率半径の最小値の差が30%以下である、Aピラー用ガラス板。
【請求項2】
前記車両のAピラーの開口部が平面視で四角形又は略四角形である、請求項1に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項3】
前記Aピラー用ガラス板が平面視で四角形又は略四角形である、請求項1
又は2に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項4】
前記幅方向の寸法の最大値が、前記幅方向の寸法の最小値の200%以下である、請求項1から
3のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項5】
前記車両のAピラーの前記開口部に前記Aピラー用ガラス板が装着された状態において、
前記Aピラー用ガラス板の上下方向の中央よりも下側の部分の断面形状であって、前記稜線部の方向の断面形状が、車内側に向かって突出する曲面形状を有する、請求項1から
4のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項6】
前記Aピラー用ガラス板は、可視光線透過率が70%以上の透明部と、前記透明部を包囲する有色の不透明部と、を有する、請求項1から
5のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項7】
前記Aピラー用ガラス板は強化ガラスである、請求項1から
6のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項8】
前記Aピラー用ガラス板は、車内側面もしくは車外側面のいずれか一方に樹脂製フィルムを有する、請求項
7に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項9】
前記Aピラー用ガラス板は、2枚のガラス板と、前記2枚のガラス板の間に配置された70%以上の可視光線透過率を有する中間膜と、を有する合わせガラスである請求項1から
8のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項10】
前記中間膜は、ポリビニルブチラールである請求項
9に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項11】
前記中間膜は、高硬度層と低硬度層とを積層した遮音機能膜である請求項
9に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項12】
前記Aピラー用ガラス板の車外側面の少なくとも一部に、フッ素、又はシリコーンを主成分とする撥水膜を有する、請求項1から
11のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項13】
前記Aピラー用ガラス板の外周に、樹脂製のモールが備えられている請求項1から
12のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項14】
前記車両のAピラーの前記開口部に前記Aピラー用ガラス板が装着された状態において、
前記Aピラー用ガラス板に対面する車両の正面前方から前記Aピラー用ガラス板を見た際、及び前記Aピラー用ガラス板に対面する車両の側方から前記Aピラー用ガラス板を見た際に、ともに前記透明部の領域の30%以上を視認可能な形状を有する、請求項
6に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項15】
前記Aピラー用ガラス板は2本の長辺を有し、前記各長辺の長さに対し、前記長辺の80%以上が前記Aピラーと接着剤を介して直接もしくは間接的に接着される請求項1から
14のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項16】
前記車両への取り付け角度が、水平方向に対し15度以上60度以下である、請求項1から
15のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【請求項17】
前記Aピラー用ガラス板の車内側面の少なくとも一部に、防曇機能を有するコーティング層を有する、請求項1から
16のいずれか1項に記載のAピラー用ガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Aピラー用ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、ボディとルーフとを連結し、居住空間を確保して、ルーフを支えるための複数本のピラーを有する。各ピラーの間には窓ガラスが存在する。ピラーの名称は車両の前方から後方に向けてAピラー、Bピラー、Cピラー及びDピラーといったようにアルファベット順で呼称される。Aピラーはフロントピラーとも呼ばれ、ウインドシールドを支える左右両端の支柱であり、Aピラーは前方からの衝突時などの衝撃に耐え、乗員の生存空間を確保する重要な役割を有する。
【0003】
しかしながら、Aピラーは運転者にとって左右前方の視界の一部を遮ってしまうことが問題である。特許文献1には、Aピラーが視界を遮ることを抑制するため、Aピラーにガラス板を装着することによりAピラーに透明部を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Aピラーに装着されるAピラー用ガラス板によって透明部を設ける場合、Aピラー用ガラス板をAピラーに確実に固定する必要がある。また、Aピラー用ガラス板によって、余計な空気抵抗が発生しないようにする必要がある。
【0006】
しかしながら、Aピラー用ガラス板をどのような形状に設計すべきか、従前は詳細な検討はなされていない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、Aピラーに確実に固定でき、余計な空気抵抗を発生させないAピラー用ガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のAピラー用ガラス板は、車両のAピラーに前記Aピラーの長手方向に沿って形成された開口部に装着され、前記長手方向に沿う稜線部を有し、前記稜線部に直交する幅方向の断面形状が、車外側に向かって突出する湾曲形状であり、かつ前記幅方向の断面形状において、前記幅方向の両端の裾野部は、前記稜線部よりも、大きい曲率半径を有し、前記幅方向の断面形状において、前記裾野部の前記幅方向の両端から前記稜線部に向かう20mmの範囲は、300mm以上の曲率半径を有し、前記稜線部の方向の上端部から下端部に向けて、前記稜線部の前記上端部から1/4、2/4、及び3/4の位置の前記幅方向の断面形状において、隣り合う断面形状における曲率半径の最小値の差が30%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Aピラーに確実に固定でき、余計な空気抵抗の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、AピラーにAピラー用ガラス板を装着した車両の要部斜視図である。
【
図2】
図2は、Aピラー用ガラス板の概略構成図である。
【
図4】
図4は、Aピラー用ガラス板の下辺の部分拡大図である。
【
図5】
図5は、Aピラー用ガラス板の曲率半径の最小値の差を説明するための説明図である。
【
図6】
図6は、Aピラー用ガラス板の透明部と不透明部を説明するための説明図である。
【
図8】
図8は、
図1のVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図9】
図9は、樹脂製フィルムを備えるAピラー用ガラス板の断面図である。
【
図10】
図10は、合わせガラスで構成されるAピラー用ガラス板の断面図である。
【
図11】
図11は、合わせガラスで構成されるAピラー用ガラス板の端部の部分断面図である。
【
図12】
図12は、外周に樹脂製のモールを備えるAピラー用ガラス板の部分断面図である。
【
図13】
図13は、接着剤の付与範囲を説明するためのAピラー用ガラス板の概略構成図である。
【
図14】
図14は、AピラーにAピラー用ガラス板を装着した別の車両の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面にしたがって本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態により説明される。但し、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施形態以外の他の実施形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。以下、図面を参照して発明を実施するための形態を説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
本明細書において、「上」、「下」、「前」、「後」、「右」、「左」、「内」及び「外」は、Aピラー用ガラス板が車両のAピラーに装着された際の方向、位置を表わす。
【0013】
図1は、車両のAピラーにAピラー用ガラス板が備えられた車両の要部斜視図である。
図1に示されるように、車両10は、車両10の前側に配置され上下方向に延びる左右一対のAピラー12と、Aピラー12に支持されるルーフ14とを備える。
図1に示すAピラー12は車両の前方から見て右側のAピラーである。車両の前側から後側に斜めに傾けられて配置されている一対のAピラー12と、ルーフ14とにより、開口部16が形成される。開口部16には、ウインドシールド18が装着される。ウインドシールド18の上側の端部がルーフ14により支持され、ウインドシールド18の左右側の端部がAピラー12により支持される。車両10は、Aピラー12より後側に場合によりフロントベンチガラス19さらにサイドウインドガラス20、及びサイドウインドガラス20を昇降可能に支持するフロントドア22を備える。ウインドシールド18は、透明部18Aと、透明部18Aの周囲に設けられた有色の不透明部18Bとを含んでいる。有色の不透明部18Bは、黒色の、いわゆる「黒セラ」と称される遮蔽層であってもよい。
【0014】
Aピラー12には、長手方向に沿って矩形の開口部12Aが形成されていてもよい。Aピラー12とは、ウインドシールド18の左右側の端部を支持し、かつフロントドア22より前側のピラーを意味する。Aピラー12は車両10の左右に各々配置される。左右各々のAピラー12は、限定されず1本以上の支柱で構成されていてもよい。長手方向とは、Aピラー12の延びる方向である。開口部12Aは矩形状であって、左右方向に比較して上下方向が長い形状を有していてもよい。本明細書において、矩形とは四角形、及び略四角形を意味し、矩形を構成する辺は、直線状及び曲線状であってもよい。また、矩形の角部の角度は90°に限らず、30°から120°の範囲であればよい。矩形の角部は、円弧形状であってもよい。そのため、矩形を、四角形、略四角形、四辺形、略四辺形と言ってもよい。
【0015】
Aピラー12の開口部12Aを覆うように、Aピラー用ガラス板30がAピラー12に装着される。Aピラー用ガラス板30は、70%以上の可視光線透過率を有する。開口部12A、及びAピラー用ガラス板30は、運転者に対して、車両前方の視認性を確保する。Aピラー12の開口部12Aは大きい程、運転者の視認性は向上する。Aピラー用ガラス板30は、後述するように透明部38と不透明部40とを含んでいる。
【0016】
次に、
図2から
図13を参照して、Aピラー用ガラス板30を説明する。
図2はAピラー用ガラス板30の概略斜視図であり、
図3は、III-III線に沿う断面図である。Aピラー用ガラス板30は、長手方向に沿う稜線部32を有する。Aピラー用ガラス板30の稜線部32に直交する幅方向の断面形状は、車外側に突出する湾曲形状である。幅方向の断面形状において、幅方向の両端の裾野部34は、稜線部32よりも、大きい曲率半径を有する(
図3参照)。
【0017】
一般的に、Aピラー12の固定部は平坦面で構成される。Aピラー用ガラス板30の両端の裾野部34の曲率半径を大きくすることにより、裾野部34の形状が固定部の形状に近づく。Aピラー12の固定部とAピラー用ガラス板30とを対向させた際、隙間を一定にできる。一定の隙間は、接着剤の厚みを均一にし、接着強度のバラツキを低減する。Aピラー12の固定部とAピラー用ガラス板30との固定がより確実になる。
【0018】
また、Aピラー用ガラス板30の両端の裾野部34の曲率半径を大きくすることにより、Aピラー12とAピラー用ガラス板30との段差が小さくなる。小さな段差は、空気抵抗の発生を抑制する。これにより、燃費が向上し、また、風切音が小さくなり車両10の静粛性に寄与する。
【0019】
長手方向とは、Aピラー用ガラス板30において、長さの長い方向を意味し、
図3であれば右斜目に延びた方向である。Aピラー用ガラス板30の外周を構成する4つの辺の中で、長手方向に延びる対向する2辺が長辺を構成する。長手方向に沿う稜線部32とは、Aピラー用ガラス板30の車外側の面を上側にして平面の上に設置した場合に、その平面に対し高い部分hを長手方向に結んだ領域である。したがって、長手方向に沿う稜線部32は、Aピラー用ガラス板30の長手方向に延びる。湾曲形状とは、曲面で構成される形状である。但し、一部に直線で構成される部分を含んでもよい。
【0020】
裾野部34は、Aピラー用ガラス板30の幅方向において、端部35から20mmの範囲を含む、稜線部32までの間の領域である。稜線部32及び裾野部34の曲率半径は、例えば、株式会社小坂研究所製 多関節型三次元測定機ベクトロンVMC5500により測定できる。稜線部32の曲率半径は、100mm以上500mm以下であることが好ましく、150mm以上300mm以下であることがより好ましい。
【0021】
また、
図3に示されるように、裾野部34のAピラー用ガラス板30の幅方向の両端から稜線部32に向かう20mmの範囲L
1は、300mm以上の曲率半径であることが好ましく、400mm以上であることがより好ましく、500mm以上であることがさらに好ましい。裾野部34の20mmの範囲L
1は、一般的に接着剤が付与される範囲とほぼ一致する。
【0022】
Aピラー用ガラス板30は、例えばフロート法などにより平板形状に成形されガラス板を、重力成形又はプレス成形などにより湾曲形状にすることにより、作製される。Aピラー用ガラス板30を製作するためのガラス板は、無機ガラスであってもよい。ガラス板はソーダライムガラスでもよいし、アルミノシリケートガラスであってもよいし、無アルカリガラスであってもよい。ガラス板がソーダライムガラスである場合、グリーンガラスであってもよいし、クリアガラスであってもよい。Aピラー用ガラス板30がソーダライムガラスである場合、ウインドシールド18のガラス板と同じ組成のガラスであることが、一体感を奏し意匠性の点で好ましい。Aピラー用ガラス板30がソーダライムガラスである場合、サイドウインドガラス20のガラス板と同じ組成のガラスであることが、一体感を奏し意匠性の点で好ましい。Aピラー用ガラス板30がソーダライムガラスである場合、フロントベンチガラス19のガラス板と同じ組成のガラスであることが、一体感を奏し意匠性の点で好ましい。
【0023】
Aピラー用ガラス板30は、1枚の強化ガラスの場合、2mm以上5mm以下の板厚を有することが好ましく、2.8mm以上4mm以下の板厚を有することがより好ましい。Aピラー用ガラス板30は、2枚以上のガラス板からなる合わせガラスの場合、ガラス板は各々0.3mm以上3mm以下の板厚を有することが好ましく、1mm以上2.5mm以下の板厚を有することがより好ましい。Aピラー用ガラス板30は、2枚以上のガラス板からなる合わせガラスの場合、各ガラス板の板厚は同じでも、異なっていてもよい。各ガラス板の板厚が異なる場合、車外側に位置するガラス板を厚くし、車内側に位置するガラス板を薄くすることが、対飛び石性と軽量化の点から好ましい。Aピラー用ガラス板30は、その端部が面取り処理されていてもよい。尚、強化ガラス、合わせガラスについての詳細は後述する。
【0024】
Aピラー用ガラス板30は、Aピラー12の形状に合わせて、例えば、平面視において、矩形の形状を有していてもよい。平面視とは、Aピラー用ガラス板30の車外側の面を上側にして平面の上に設置した場合において、上側からAピラー用ガラス板30を見た場合を意味する。
【0025】
本明細書において、矩形とは四角形、及び略四角形を意味し、矩形を構成する辺は、直線状及び曲線状であってもよい。また、矩形の角部の角度は90°に限らず、30°から120°の範囲であればよい。矩形の角部は、円弧形状であってもよい。そのため、矩形を、四角形、略四角形、四辺形、略四辺形と言ってもよい。
【0026】
Aピラー用ガラス板30の幅方向の寸法の最大値が、幅方向の寸法の最小値の200%以下であることが好ましい。
図2では、Aピラー用ガラス板30の幅方向の寸法の最大値L
2(下部)が、幅方向の寸法の最小値L
3(上部)の200%以下、すなわち(L
2/L
3)×100≦200(%)であることが好ましい。(L
2/L
3)×100(%)値は、より好ましくは150%以下であり、さらに好ましくは120%以下である。上述のL
3に対するL
2の比は、車両10のAピラー12の意匠性を大きく変更することなく、Aピラー用ガラス板30をAピラー12に装着すること可能にする。
【0027】
最大値L2は、稜線部32に直交する直線状の仮想線の中で、Aピラー用ガラス板30の対向する端部までの距離が最も長い箇所の長さを意味する。最小値L3は、稜線部32に直交する仮想線の中で、Aピラー用ガラス板30の対向する端部までの距離が最も短い箇所の長さを意味する。
【0028】
図2、及び
図4に示されるように、Aピラー用ガラス板30の上下方向の中央よりも下側の部分の稜線部32の方向の断面形状は、車内側に向かって突出する曲面形状(曲面形状部36)を有することが好ましい。Aピラー用ガラス板30の下側の部分の曲面形状部36により、車両10のボンネットに対しスムーズにつながるデザインになるため、意匠的な違和感を解消できる。そのため、意匠性が向上する。
【0029】
図5に示されるように、Aピラー用ガラス板30は、稜線部32の方向の上端部から下端部に向けて、稜線部32の上端部から1/4、2/4、及び3/4の位置の幅方向の断面形状は、隣り合う断面形状の曲率半径の最小値の差が30%以下であることが好ましい。曲率半径の最小値の差を30%以下にすることは、透視歪、及び反射歪みがAピラー用ガラス板30に発生することを抑制する。1/4の位置での最小曲率半径をR
1とし、2/4の位置での最小曲率半径をR
2とし、3/4の位置での最小曲率半径をR
3とする場合、0.7R
1<R
2<1.3R
3の関係であることが好ましい。曲率半径の最小値の差は小さい方が好ましいが、意匠の観点から曲率半径の最小値の差が適宜決定される場合がある。
【0030】
次に、Aピラー用ガラス板30の透明部38、及び不透明部40を説明する。
図6、及び
図7に示されるように、Aピラー用ガラス板30は、可視光線透過率が70%以上の透明部38と、透明部38を包囲する有色の不透明部40と、を有することが好ましい。有色の不透明部40は、黒色の、いわゆる「黒セラ」と称される遮蔽層であってもよい。不透明部40が黒セラの場合、黒セラ印刷用インクをガラス面に塗布し、黒セラ印刷用インクを焼き付けることにより形成できる。不透明部40は、Aピラー用ガラス板30とAピラー12(不図示)の固定部とを接合する接着部が紫外線により劣化することを抑制する。また、不透明部40は、車両の内装が車外から視認されることを防止する。Aピラー用ガラス板30の透明部38は、有色の不透明部40の形成されていない領域を意味する。
【0031】
図8は、
図6に示されるAピラー用ガラス板30をAピラー12に装着した場合の、
図1のVIII-VIII線に沿う断面図である。
図8に示されるように、Aピラー用ガラス板30が、Aピラー12の固定部12Bに、接着剤(不図示)により直接固定される。Aピラー用ガラス板30はAピラー12の開口部12Aを覆う。
【0032】
Aピラー12の固定部12Bは、ほぼ平坦面である。Aピラー用ガラス板30の裾野部34の曲率半径が大きく、固定部12Bと裾野部34との隙間は、ほぼ一定の距離になる。Aピラー用ガラス板30は、接着剤を均一の厚みにでき、接着強度のバラツキを低減できる。また、Aピラー用ガラス板30は、Aピラー12との段差を小さくし、空気抵抗を低減する。
【0033】
Aピラー用ガラス板30は、車両のAピラー12の開口部12Aに装着された状態で、Aピラー用ガラス板30と対面する車両10の正面前方からAピラー用ガラス板30を見た際、透明部38の領域の70%以上を視認可能な形状を有する。また、Aピラー用ガラス板30は、車両のAピラー12の開口部12Aに装着された状態で、Aピラー用ガラス板30と対面する車両10の側方からAピラー用ガラス板30を見た際、透明部38の領域の70%以上を視認可能な形状を有する。
【0034】
透明部38の領域は、Aピラー用ガラス板30の不透明部40を除く表面積STで代表される。正面前方からAピラー用ガラス板30を見た際の透明部38の領域は、透明部38の領域の投影面積SFで代表される。側方からAピラー用ガラス板30を見た際の透明部38の領域は、透明部38の領域の投影面積SSで代表される。
【0035】
図8に示されるAピラー用ガラス板30は、(S
F/S
T)×100≧30(%)、及び(S
S/S
T)×100≧30(%)を満たすことが好ましく、(S
F/S
T)×100≧50(%)、及び(S
S/S
T)×100≧50(%)を満たすことがより好ましい。Aピラー用ガラス板30が、ウインドシールド18とサイドウインドガラス20とを繋ぐように、湾曲している。Aピラー用ガラス板30は、運転者に視認性を確保する。
【0036】
Aピラー用ガラス板30は強化ガラスであってもよい。強化ガラスは、ガラス表面に圧縮応力層を有し、ガラス内部に引っ張り応力層を有するガラスである。強化ガラスとしては、化学強化ガラス、又は風冷強化ガラスであることが好ましい。
図9は、Aピラー用ガラス板30が強化ガラスの場合の断面図を示す。
図9に示されるように、例えば、Aピラー用ガラス板30は、車内側面であって、不透明部40を除く領域に樹脂製フィルム50を設けることができる。樹脂製フィルム50は、Aピラー用ガラス板30が破損した際の破片の飛散を防止できる。樹脂製フィルム50は、例えば、ポリエチレン樹脂系、ポリエステル樹脂系の透明な樹脂製フィルムを用いることができる。
図9において、樹脂製フィルム50をAピラー用ガラス板30の車内側面に設けた場合を例示したが、車内側面もしくは車外側面のいずれか一方にあればよい。したがって、樹脂製フィルム50は、Aピラー用ガラス板30の車外側面に設けることもできる。
【0037】
Aピラー用ガラス板30は、合わせガラスであってもよい。
図10は、Aピラー用ガラス板30が合わせガラスの場合の断面図を示す。
図10に示すように、Aピラー用ガラス板30は、車外側に配置される第1のガラス板42、及び車内側に配置される第2のガラス板44の2枚のガラス板と、第1のガラス板42と第2のガラス板44との間に配置され中間膜46と、を備える。中間膜46は、第1のガラス板42と第2のガラス板44とが接合する。中間膜46は、70%以上の可視光線透過率を有することが好ましい。
【0038】
中間膜46は、例えばポリビニルブチラール(poly vinyl butyral:PVB)、又はエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(Ethylene-Vinylacetate copolymer:EVA)などを、用いることができる。これらのうち、合わせガラスの接着性、耐貫通性の観点から、中間膜46はPVBが好ましい。
【0039】
第1のガラス板42と第2のガラス板44とは、長手方向に沿う稜線部32を有している。稜線部32に直交する幅方向の断面形状が、車外側に向かって突出する湾曲形状であり、かつ幅方向の両端の裾野部34は、稜線部32よりも、大きい曲率半径を有する。
【0040】
図11は、合わせガラスで構成されるAピラー用ガラス板30の端部の部分断面図である。
図11に示されるように、中間膜48は、2層の高硬度層48Aと、高硬度層48Aより硬度の小さい1層の低硬度層48Bとを積層して構成される。低硬度層48Bは、2層の高硬度層48Aの間に配置される。低硬度層48Bを2層の高硬度層48Aで挟み込むことにより、中間膜48は遮音性を有する遮音機能膜になる。ここで、硬度はショア硬度である。
【0041】
例えば、中間膜48は、高硬度層48AとしてPVB、低硬度層48Bとして高硬度層48Aより硬度の小さいPVBにより構成できる。PVBの硬度は添加する可塑剤の量で調整できる。但し、合わせガラスに適している限り、高硬度層48A、及び低硬度層48Bの樹脂の種類は限定されない。
【0042】
上述のAピラー用ガラス板30は、車外側面の少なくとも一部に、フッ素、又はシリコーンを主成分とする撥水膜(不図示)を有することが好ましい。撥水膜は、Aピラー用ガラス板30の撥水性を向上し、雨天時の視認性が向上できる。Aピラー用ガラス板30はフロントワイパーで水滴の払拭が出来ないため、該構成が有効となる。
【0043】
上述のAピラー用ガラス板30は、親水機能、防曇機能等を付与するコーティング層を有してもよい。Aピラー用ガラス板30の上部の車内側面には車両10Aの曇り止めのためのデフォッガからの送風が当たりにくいため、曇りが発生しやすい恐れがある。そのため、Aピラー用ガラス板30が防曇機能を有するコーティング層を有することが好ましい。Aピラー用ガラス板30の全体が防曇機能を有するコーティング層を有する必要は無く、デフォッガからの送風が当たりにくい部分、例えば、Aピラー用ガラス板30の高さ方向を基準にして上部1/2より上の部分、あるいは上部1/3より上の部分がコーティング層を有することが好ましい。また、合わせガラスの場合、第1のガラス板42、第2のガラス板44の対向面には、低放射性コーティング、赤外線遮光コーティング、導電性コーティング等、通常、金属層を含むコーティング層を有してもよい。
【0044】
中間膜48は、熱可塑性樹脂、可塑剤の他に、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有してもよい。
【0045】
中間膜48は、車両の乗員の太陽光による眩しさを低減する、いわゆるシェードバンド層を含んでいてもよい。シェードバンド層はAピラー用ガラス板30が車両に取り付けられた時に上辺となる辺の周縁部に設けられる。
【0046】
Aピラー用ガラス板30が合わせガラスの場合、第1のガラス板42、第2のガラス板44の間には、中間膜48以外の機能フィルムが設けられてもよい。機能フィルムは、例えば、中間膜48が層構造を成し、該層間に配置される。機能フィルムは、赤外線反射フィルム、調光フィルム、発熱フィルム、ディスプレイであってもよい。調光フィルムとしては、PDLCフォルム、SPDフィルム、ゲストホスト液晶フィルム、エレクトロクロミック、サーモイクロミック等が好適に使用できる。また、発熱フィルムとしては、導電線がプリントされたフィルム、導電膜が成膜されたフィルム等が好適に使用できる。尚、発熱フィルムの代わりに複数の導電線そのものが配置されてもよい。ディスプレイとしては、OLED、液晶等が好適に使用できる。
【0047】
Aピラー用ガラス板30は、その外周に樹脂製のモールを設けることができる。
図12は、外周に樹脂製のモール60を備えるAピラー用ガラス板30の部分断面図である。Aピラー用ガラス板30とモール60とは接着剤(不図示)により接着される。モール60は、Aピラー用ガラス板30の車内側面と接触する車内側部60Aと、Aピラー用ガラス板30の端面と接触する端面部60Bと、端面部60Bを根元とする突出部60Cと、を有する。
図12のモール60は、いわゆる二面モールである。突出部60Cが弾性変形し、Aピラー12と密着する。突出部60Cが良好な防水性を確保する。
【0048】
モール60は、ガスケット、モジュール、ウェザーストリップ、あるいはシールゴム等を総称したものである。モール60を形成するための樹脂材料としては、軟質ポリ塩化ビニルが一般に用いられるが、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等のエラストマー類、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル、塩素化ポリエチレン、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(Ethylene Propylene Diene Monomer:EPDM)、その他のゴム材料でもよい。さらには必要に応じてこれらの材料を2種以上用いて混合したものを用いてもよい。
【0049】
Aピラー用ガラス板30とモール60とを接着する接着剤としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フェノール系、アクリル系、エポキシ系、シアノアクリレート系、ゴム系等の少なくとも1種又は2種以上の混合物であり、そのまま用いてもよいし、溶剤に溶かしてもよいし、水に分散させたいわゆるエマルジョンとして用いてもよい。
【0050】
図12に示されるように、Aピラー用ガラス板30の車内側の面と、Aピラー12の固定部12Bとの間には、支持部材62が配置される。Aピラー用ガラス板30と固定部12Bとがモール60を介して、接着剤64により接着される。Aピラー用ガラス板30と固定部12Bとは間接的に接着される。
【0051】
次に、接着剤64を付与する範囲について説明する。
図13は、Aピラー用ガラス板30の概略構成図である。Aピラー用ガラス板30は対向する2本の長辺31、33を備える。長辺31はL
4の長さを有し、長辺33はL
5の長さを有する。接着剤64(不図示)は、長辺31の長さL
4の80%以上、及び長辺33の長さL
5の80%以上の範囲に付与することが好ましく、90%以上がより好ましい。長辺31、33の80%以上に付与される接着剤64は、Aピラー用ガラス板30とAピラー12との接着力をより強固にすることができる。接着剤64としては、ウレタン系接着剤等を使用することができる。
【0052】
図14は、
図1とは、別の車両10AのAピラー12にAピラー用ガラス板30が備えられた車両10Aの要部斜視図である。
図1と同様の構成には同様の符号を付して説明を省略する。
図14では、
図1と異なり、サイドウインドガラス20の側のAピラー12が車外から視認されないよう構成されている。この構成は、車両10Aの意匠性の観点で好ましい。
【0053】
Aピラー用ガラス板30は、車両10Aへの取り付け角度が水平方向に対し15度以上60度以下であることが好ましく、20度以上50度以下であることがより好ましく、25度以上45度以下であることが更に好ましい。水平方向とは、地面に平行な面を指す。Aピラー12とウインドシールド18とは外観上の一体感の奏するためほぼ同じ取り付け角度であることが好ましい。そのため、Aピラー12に装着されるAピラー用ガラス板30の車両10Aの取り付け角度は上記範囲であることが好ましい。
【0054】
なお、2018年7月6日に出願された日本特許出願2018-129307号および2019年4月24日に出願された日本特許出願2019-083047号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0055】
10、10A…車両、12…Aピラー、12A…開口部、12B…固定部、14…ルーフ、16…開口部、18…ウインドシールド、18A…透明部、18B…不透明部、19…フロントベンチガラス、20…サイドウインドガラス、22…フロントドア、30…Aピラー用ガラス板、31…長辺、32…稜線部、33…長辺、34…裾野部、35…端部、36…曲面形状部、38…透明部、40…不透明部、42…第1のガラス板、44…第2のガラス板、46…中間膜、48…中間膜、48A…高硬度層、48B…低硬度層、50…樹脂製フィルム、60…モール、60A…車内側部、60B…端面部、60C…突出部、62…支持部材、64…接着剤