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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】金属膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/448 20060101AFI20230413BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20230413BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C23C16/448
H01L21/285 C
H01L21/285 301
H01L21/28 301R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019159947
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021038428
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】宇野 和行
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050357(JP,A)
【文献】特開2005-053849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
H01L 21/285
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に金属膜を形成する金属膜形成方法であって、
前記金属膜の原料を含有する原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、
前記原料溶液を霧化又は液滴化してミストを発生させるミスト化工程と、
前記ミストにキャリアガスを供給するキャリアガス供給工程と、
前記キャリアガスによって前記ミストを前記基体へ供給するミスト供給工程と、
前記ミストを熱反応させて、前記基体上に前記金属膜を積層する金属膜形成工程とを含み、
前記原料溶液調製工程は、水に前記金属膜の原料となる金属単体又は金属化合物を混合し、さらにジケトン類を含む溶液を混合し、透明で沈殿物が確認されない混合溶液を得るステップを含むことを特徴とする金属膜形成方法。
【請求項2】
前記原料溶液調製工程は、さらにアンモニア又はアンモニア水を混合するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属膜形成方法。
【請求項3】
前記金属単体又は金属化合物として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)およびアルミニウム(Al)から選ばれる1種以上の元素を含有するものとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属膜形成方法。
【請求項4】
前記熱反応の温度を、200℃~650℃とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項5】
前記ミスト化工程において、前記ミストを超音波を用いて発生させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に金属膜を工業的有利に形成できる金属膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属膜を形成する方法として、蒸着やスパッタリング法が用いられている。蒸着には、電子ビームや高周波を用いる真空蒸着法等がよく用いられており、また、スパッタリング法としては、直流電源または交流電源を用いて、プラズマを発生させ、ついで、プラズマを用いてアノードの金属をスパッタし、カソードに金属を堆積させる手法などがよく用いられている。しかしながら、蒸着やスパッタリング法は、真空プロセスが必要であり、そのため、コストがかかり、大型化・量産化にも課題があった。
【0003】
また、金属膜を形成する方法としては、塗布方法などもよく知られている。塗布方法としては、金属ペーストを塗布し、乾燥後、焼成する手法などが用いられている。しかしながら、このような塗布方法では、焼成に650℃以上の高温が必要であり、金属膜の形成方法として必ずしも満足のいくものではなかった。なお、有機金属気相成長法なども知られているが、塗布方法と同様、高温プロセスが必要であり、また、密着性も必ずしも十分に得られるものではなかった。
【0004】
これに対し、特許文献1においてはミストCVD法による金属膜の製造方法が開示されている。この方法は、上記のような真空や高温が必要なく、コスト的に優位な方法である。しかしながら、ミストCVD法は予め原料金属を溶液中に溶解しておく必要がある。原料金属によってはイオン化傾向の違いなどから溶解が困難な物質もあり、原料溶液中への金属の分散性に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-50347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにミストCVD法により金属膜を成膜するには、原料溶液に金属を溶解しておく必要があるが、物質によっては溶解が困難なものがあり、原料溶液中への分散性に問題があって、得られる膜質は良好とはいえなかった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、原料溶液中への金属の分散性を改善することで、高品質な金属膜を安価に形成することができる金属膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、基体上に金属膜を形成する金属膜形成方法であって、前記金属膜の原料を含有する原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、前記原料溶液を霧化又は液滴化してミストを発生させるミスト化工程と、前記ミストにキャリアガスを供給するキャリアガス供給工程と、前記キャリアガスによって前記ミストを前記基体へ供給するミスト供給工程と、前記ミストを熱反応させて、前記基体上に前記金属膜を積層する金属膜形成工程とを含み、前記原料溶液調製工程は、水に前記金属膜の原料となる金属単体又は金属化合物を混合し、さらにジケトン類を含む溶液を混合するステップを含むことを特徴とする金属膜形成方法を提供する。
【0009】
これにより、従来では溶解が困難であった金属材料(金属膜の原料となる金属単体又は金属化合物)を溶解することが可能となり、原料溶液中への金属の分散性が改善して、より効率よく高品質な金属膜を安価に形成して成膜することができる。均質で、結晶性、密着性に優れた良好な金属膜を成膜することができる。
【0010】
このとき、前記原料溶液調製工程は、さらにアンモニア又はアンモニア水を混合するステップを含む金属膜形成方法とすることができる。
【0011】
これにより、金属材料の溶解が促進され、より一層、効率よく均質な金属膜を形成することができる。
【0012】
また、前記金属単体又は金属化合物として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)およびアルミニウム(Al)から選ばれる1種以上の元素を含有するものとする金属膜形成方法とすることができる。
【0013】
本発明は、特に上記のような金属の膜を形成するときに対して有効である。
【0014】
また、前記熱反応の温度を、200℃~650℃とする金属膜形成方法とすることができる。
【0015】
これにより、より確実に、良質な金属膜を形成することができる。
【0016】
また、前記ミスト化工程において、前記ミストを超音波を用いて発生させる金属膜形成方法とすることができる。
【0017】
このようにすれば、結晶性および密着性に優れた厚膜の金属膜を形成するのに、より有効である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の金属膜形成方法は、ミストCVD法における原料溶液への金属の分散性を改善することができ、より効率よく均質な金属膜を安価に形成して成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る金属膜形成方法に用いる成膜装置の一例を示す概略構成図である。
図2】成膜装置におけるミスト化部の一例を説明する図である。
図3】実施例における本発明に係る金属膜形成方法により成膜したIr膜のXRDデータである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、基体上に金属膜を形成する金属膜形成方法であって、前記金属膜の原料を含有する原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、前記原料溶液を霧化又は液滴化してミストを発生させるミスト化工程と、前記ミストにキャリアガスを供給するキャリアガス供給工程と、前記キャリアガスによって前記ミストを前記基体へ供給するミスト供給工程と、前記ミストを熱反応させて、前記基体上に前記金属膜を積層する金属膜形成工程とを含み、前記原料溶液調製工程は、水に前記金属膜の原料となる金属単体又は金属化合物を混合し、さらにジケトン類を含む溶液を混合するステップを含むことを特徴とする金属膜形成方法により、良質な金属膜を成膜できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0022】
図1に、本発明に係る金属膜形成方法に使用可能な成膜装置101の一例を示す。成膜装置101は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部120と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部130と、ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部140と、ミスト化部120と成膜部140とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される搬送部109とを有する。また、成膜装置101は、成膜装置101の全体又は一部を制御する制御部(図示なし)を備えることによって、その動作が制御されてもよい。
【0023】
なお、ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0024】
(原料溶液)
原料溶液(水溶液)104aは、基体上に形成する金属膜の原料を含有している。少なくとも、水に金属材料(金属膜の原料となる金属単体又は金属化合物)が混合されたもの(金属溶液)に、さらにジケトン類を含む溶液が混合されて調製されたものであればよい。
【0025】
(ミスト化部)
ミスト化部120では、調整した原料溶液104aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液104aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0026】
このようなミスト化部120の一例を図2に示す。例えば、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられており、超音波振動子106と発振器116とが接続されている。そして、発振器116を作動させると、超音波振動子106が振動し、水105aを介して、ミスト発生源104内に超音波が伝播し、原料溶液104aがミスト化するように構成されている。
【0027】
(搬送部)
搬送部109は、ミスト化部120と成膜部140とを接続する。搬送部109を介して、ミスト化部120のミスト発生源104から成膜部140の成膜室107へと、キャリアガスによってミストが搬送される。搬送部109は、例えば、供給管109aとすることができる。供給管109aとしては、例えば石英管や樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0028】
(成膜部)
成膜部140では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基体110の表面の一部又は全部に成膜を行う。成膜部140は、例えば、成膜室107を備え、成膜室107内には基体110が設置されており、該基体110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。また、成膜室107には、基体110へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口112が設けられてもよい。
【0029】
また、本発明においては、基体110を成膜室107の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基体110を成膜室107の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
【0030】
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は200~650℃の範囲であり、好ましくは300℃~600℃の範囲であり、より好ましくは400℃~550℃の範囲とすることができる。
【0031】
熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0032】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aを有し、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガス(以下、「主キャリアガス」という)の流量を調節するための流量調節弁103aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bや、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bを備えることもできる。
【0033】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。
【0034】
本発明においては、キャリアガスの流量Qは、キャリアガスの総流量を指す。上記の例では、キャリアガス源102aから送り出される主キャリアガスの流量と、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量の総量を、キャリアガスの流量Qとする。
【0035】
キャリアガスの流量Qは成膜室や基体の大きさによって適宜決められるが、通例0.01~60L/分であり、好ましくは1~40L/分である。
【0036】
(金属膜形成方法)
次に、本発明に係る金属膜形成方法の一例を説明する。本発明の方法では、大きく分けて、原料溶液調製工程、ミスト化工程、キャリアガス供給工程、ミスト供給工程、金属膜形成工程を含んでいる。
【0037】
(原料溶液調製工程)
原料溶液104aは、水に金属材料(金属膜の原料となる金属単体もしくは金属化合物)を混合し(金属溶液)、さらにジケトン類を含む溶液を混合することで調製される。原料溶液調整工程は、少なくとも上記のような溶液混合のステップを含んでいる。
原料溶液104aに混合される上記金属材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)およびアルミニウム(Al)から選ばれる1種以上の金属元素を含有するものであるのが好ましい。
【0038】
金属単体をそのままもしくは粉体化させるなどして水中に分散させる。または金属化合物として、金属錯体または金属塩にして、水中に溶解または分散させることにより調整することができる。
上記の金属化合物としては、それぞれの金属についての有機金属錯体(例:アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体)やハロゲン化物(フッ化、塩化、臭化、又はヨウ化物)としてもよい。また、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などのハロゲン化水素、次亜塩素酸、亜塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸等のハロゲンオキソ酸、蟻酸、硝酸、等の酸を混合してもよい。
【0039】
上述したように本発明においては、原料溶液104aとして、上記金属溶液にさらにジケトン類を含む溶液を混合する。ジケトン類とは例えば、ジアセチル、アセチルアセトン、2,5―ヘキサンジオン、ジメドン、などが挙げられ、いずれでも構わない。これにより、金属の溶解が促進され、金属の原料溶液中への分散性が著しく向上する。
【0040】
また、原料溶液調製工程は、アンモニアもしくはアンモニア水をさらに混合するステップを含むことができ、これにより、原料溶液中の水素イオン濃度を減少(pHを増加)させてもよい。これにより、金属の溶解がさらに促進される。
【0041】
これらの混合は、金属が溶解できればよく、混合の順序は任意である。すなわち、例えば、金属溶液にジケトン水溶液、アンモニアを順次混合してもよいし、金属溶液およびジケトン-アンモニア混合水溶液をそれぞれ予め用意しておき、該金属溶液に該ジケトン-アンモニア混合溶液を混合するなど、いずれでもかまわない。
【0042】
このようにして調製した原料溶液104aをミスト化部120のミスト発生源104内に収容し、基体110をホットプレート108上に直接又は成膜室107の壁を介して設置し、ホットプレート108を作動させる。
【0043】
(ミスト化工程、キャリアガス供給工程、ミスト供給工程)
次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節し、キャリアガス流量Qを制御する。
【0044】
ミスト化工程では、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化させてミストを生成する。キャリアガス供給工程では、発生したミストに対して主キャリアガスや希釈用キャリアガスがミスト発生源104内や搬送部109a内で供給され、ミストをキャリアガスにより搬送する。そして、ミスト供給工程では、ミストがキャリアガスによってミスト化部120から搬送部109を経て成膜部140へ搬送され、成膜室107内の基体110に導入される。
【0045】
上記ミスト化工程は、超音波を用いて、金属を含む原料溶液を霧化してミストを発生させる。霧化・液滴化のミスト化手段は、超音波を用いる霧化手段であれば特に好ましいが、限定されない。公知の手段であってよい。本工程において、超音波を用いて霧化することが、結晶性および密着性に優れた厚膜の金属膜を成膜するのに特に好ましい。なお、超音波発生手段は、特に限定されず、超音波振動子を用いる公知の手段であってよい。
【0046】
上記キャリアガス供給工程では、キャリアガスをミストに供給する。上述したようにキャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。
【0047】
上記ミスト供給工程では、キャリアガスによってミストを基体へ供給する。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、上述したように0.01~60L/分であるのが好ましく、1~40L/分であるのがより好ましい。
【0048】
なお上記基体は、金属膜を支持できるものであれば特に限定されない。基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、炭酸カルシウム、酸化ガリウム、SiC、ZnO、GaN等が挙げられるが、これに限られるものではない。基体の形状としては、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられいずれでも構わない。特に基体が板状体の場合、その厚さは、本発明においては特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。
【0049】
本発明においては、上記基体が、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基体、またはβ-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基体であるのも好ましい。コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基体は、基体中の組成比で、コランダム構造を有する結晶物を50%以上含むものであれば、特に限定されないが、本発明においては、70%以上含むものであるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましい。コランダム構造を有する結晶を主成分とする基体としては、例えば、サファイア(例:c面サファイア基板)や、α型酸化ガリウムなどが挙げられる。β-ガリア構造を有する結晶物を主成分とする基体は、基体中の組成比で、β-ガリア構造を有する結晶物を50%以上含むものであれば、特に限定されないが、本発明においては、70%以上含むものであるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましい。β-ガリア構造を有する結晶物を主成分とする基体としては、例えばβ-Ga基板、又はGaとAlとを含みAlが0wt%より多くかつ60wt%以下である混晶体基板、公知の基板上にβ-Gaを成膜した基板、などが挙げられる。その他の基体の例としては、六方晶構造を有する基体(例:SiC基板、ZnO基板、GaN基板)などが挙げられる。六方晶構造を有する基体上には、直接または別の層(例:緩衝層)を介して、膜を形成してもよい。
【0050】
(金属膜形成工程)
金属膜形成工程では、ミストを熱反応させて、基体110の表面の一部または全部に金属膜を積層する。
この熱反応は、熱でもってミストが反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、上記熱反応の温度は、上述したように、200℃~650℃の範囲であり、好ましくは300℃~600℃の範囲であり、400℃~550℃の範囲で行うのがより好ましい。また、上記熱反応を、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス、またはフォーミングガスや水素ガス等の還元ガスの雰囲気下で行ってもよく、酸素雰囲気下でもかまわない。また、加圧下、減圧下、常圧下および大気圧下のいずれの条件で反応を行ってもよいが、本発明においては、常圧下または大気圧下で行うのが装置構成が簡略化できるので好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより設定することができるが、本発明においては、膜を厚くしても密着性に優れているので、成膜時間(好ましくは30分間以上)を長く設定するのが好ましい。
【0051】
本発明によれば、原料溶液中への金属の分散性を改善することができ、均質で、結晶性や密着性に優れた金属膜を形成することができる。しかも低コストで形成することが可能である。そして、このようにして形成された金属膜は、電気・電子部品の金属部材に好適に用いられる。
前記電気・電子部品としては、例えば、電力機器に具備された部品、電気・電子機器に具備された部品などが挙げられる。
【0052】
前記の電力機器に具備された部品としては、例えば半導体装置などが挙げられる。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)または発光ダイオードなどが挙げられる。本発明においては、前記半導体装置が、パワーデバイスであるのが好ましく、SBD、MOSFET、SIT、JFETまたはIGBTであるのが好ましく、SBD、MOSFETまたはSITであるのがより好ましい。
【0053】
前記の電気・電子機器に具備された部品としては、例えばOA機器や家電製品などの部品が挙げられ、具体的には、電線同士の接続、絶縁電線の接続、あるいは電気・電子機器と電線の接続に用いられる各種コネクター類、コンセント類、プラグ類、回路の導通と遮断を切り替えるための各種スイッチ類、回路の通電状態を制御するための各種電子素子類、および、その他電気・電子機器に内臓された各種機構部品などが挙げられる。より具体的には、例えば、コネクター、リレー、コンデンサーケース、スイッチ、トランスボビン、端子台、プリント基板、冷却ファン、バルブ類、シールド板、各種ボタン類、各種ハンドル類、各種センサー類、小型モーター部品、各種ソケット類、チューナー部品、ヒューズケース、ヒューズホルダー、ブラッシュホルダー、ブレーカー部品、電磁開閉器、偏向ヨーク、フライバックトランス、キートップ、ローラー、軸受け、ランプハウジングなどが挙げられる。かかる電気・電子部品はすべての電気・電子機器に具備されているのであるが、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、ディスプレー装置(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、および有機ELなど)、マウス、並びにプリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスクなど)のドライブ、記録媒体(ICカード、スマートメディア、メモリースティックなど)の読取装置などのOA機器類、携帯情報端末(いわゆるPDA)、携帯電話、携帯書籍(辞書類等)、携帯テレビ、光学カメラ、デジタルカメラ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、ホットプレート、音響機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、空気清浄機、および時計などの家電製品、更には、家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなどの遊技機などが好適に例示される。
【0054】
本発明の金属膜は、密着性に優れるので、電気・電子部品の金属部材として有用であるが、とりわけ電極(好ましくはパワーデバイス用の電極)として有用である。そして、このような電極は、半導体装置に有用であり、そのままで、またはさらに加工処理等を施されて、少なくとも半導体層とともに半導体装置に好適に用いられる。
【0055】
前記半導体層としては、例えば、酸化物半導体層、窒化物半導体層、ケイ素含有半導体層などが挙げられる。前記酸化物半導体層は、好ましくは、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有する酸化物半導体を主成分として含む半導体層である。前記窒化物半導体層は、好ましくは、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有する窒化物半導体を主成分として含む半導体層である。前記ケイ素含有半導体層は、好ましくは、ケイ素または炭化ケイ素を主成分として含む半導体層である。これらの半導体層はミストCVDにより、公知の方法によって成膜してもよい。この場合、本発明の金属膜成膜と同じ装置で成膜できるため、非常に効率がよい。
【0056】
本発明の金属膜は、従来の金属膜のように種々の用途に用いることができ、例えば、電極やコンタクト層として、様々な半導体装置に有用であり、とりわけ、パワーデバイスに有用である。また、前記半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができるが、本発明の金属膜は、電極として、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができる。本発明においては、縦型デバイスに用いることが好ましい。
なお、前記半導体装置は、さらに他の層(例えば絶縁体層、半絶縁体層、導体層、半導体層、緩衝層またはその他中間層等)などが含まれていてもよい。
【実施例
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0058】
(実施例)
図1に示すような成膜装置(CVD装置)101を用いて、上述の本発明の金属膜形成方法に基づいて基体上に金属膜を形成した。CVD装置101は、前述したように、下地基板等の基体(被成膜試料)110を載置し加熱するホットプレート108と、キャリアガスを供給するキャリアガス源102a、希釈用キャリアガス源102bと、キャリアガス源102a、希釈用キャリアガス源102bから送り出されるキャリアガス(主キャリアガス、希釈用キャリアガス)の流量を調節するための流量調節弁103a、103bと、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106と、石英製の成膜室107と、を備えている。成膜室107を石英で作製することにより、被成膜試料110上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0059】
(原料溶液調製工程)
<Hacac調整>
アセチルアセトンと30%アンモニア水をモル比で1:1となるよう混合した(溶液A:ジケトン類を含む溶液であり、アンモニア水と混合済み)。
<塩化イリジウム水溶液調整>
塩化イリジウムを0.02mol/Lとなるよう純水に混合し、スターラーで撹拌した(溶液B:金属溶液)。この時点では溶液Bは黒色不透明であり、完全に溶解していないとみられた。
そして、溶液Bに対し、アセチルアセトン濃度が0.06mol/Lとなるよう溶液Aを混合した。この結果、混合溶液は茶色透明となり沈殿物も確認されなかった。溶液混合により、溶解が促進されたとみられる。さらにこの混合溶液に、pHが12となるまでアンモニア水を加えた。これを原料溶液とした。
【0060】
(ミスト化工程、キャリアガス供給工程、ミスト供給工程、金属膜形成工程)
被成膜試料110として、直径4インチのc面サファイア基板をホットプレート108上に戴置して加熱し、基板温度を500℃にまで昇温させた。
次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、希釈用キャリアガス源102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの合計流量を26L/minに調節した。キャリアガスとしては、窒素ガスを用いた。
【0061】
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって原料溶液104aを微粒子化(霧化、液滴化)させて原料微粒子(ミスト)を生成した。この原料微粒子にキャリアガスを供給し、該キャリアガスによって成膜室107内に導入し、被成膜試料110の成膜面でのCVD反応によって被成膜試料110上に薄膜を形成した。成膜時間は60分とした。
【0062】
成膜した薄膜の相の同定をした。同定は、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって行った。測定は、CuKα線を用いて行った。結果を図3に示す。図3のように、金属Irのピークが確認された。
このようにして本発明により、高品質なIr膜を安価に得ることができた。
【0063】
(比較例)
上記溶液B自体を原料溶液とした以外は実施例と同じにして成膜のために各工程を行った。
しかしながら膜は得られなかった。原料溶液中での金属の分散性が悪かったためと考えられる。
【0064】
以上のように、実施例のように原料溶液にジケトン類を混合することで、原料溶液中への金属の分散性が改善し、ミストCVD法により良好な金属膜を低コストで得ることができた。一方で、ジケトン類を混合しなかった比較例ではそもそも膜を得ることができなかった。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0066】
101…成膜装置、 102a…キャリアガス源、
102b…希釈用キャリアガス源、 103a…流量調節弁、
103b…流量調節弁、 104…ミスト発生源、 104a…原料溶液、
105…容器、 105a…水、 106…超音波振動子、 107…成膜室、
108…ホットプレート、 109…搬送部、 109a…供給管、
110…基体、 112…排気口、 116…発振器、
120…ミスト化部、130…キャリアガス供給部、140…成膜部。
図1
図2
図3