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特許7261441労働状態の判定用のプログラム、判定システム及び判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】労働状態の判定用のプログラム、判定システム及び判定装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20230101AFI20230413BHJP
【FI】
G06Q10/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018219051
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020086818
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27~29年度 総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)地域ICT振興型研究開発「地域医療の質向上と看護職の健康管理のためのICT技術の開発とクラウドサービス活用の実証研究」(受付番号152301001)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】矢野 理香
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 尚己
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】杉村 直孝
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一拓
【審査官】西村 直史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0258384(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0180277(US,A1)
【文献】特表2015-532165(JP,A)
【文献】特許第6418671(JP,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0052417(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段、
被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段、
被験者の1日当たりの平均睡眠時間が所定の下限から上限までの範囲内であり、且つ、被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の基準時刻より早い場合に睡眠が良好であると評価する睡眠評価取得手段、並びに、
前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする労働状態の判定用のプログラム。
【請求項2】
被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段、
被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段、
被験者の1日当たりの平均睡眠時間及び被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の範囲内であるか否かに基づいて被験者の睡眠が良好か否かを評価する睡眠評価取得手段、並びに、
前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段としてコンピュータを機能させ
前記バーンアウトリスク判定手段が、
被験者のストレスが低い場合であっても、被験者のレジリエンスが低い場合には、被験者のバーンアウトのリスクが高いと判定することを特徴とする労働状態の判定用のプログラム。
【請求項3】
被験者のストレスが低く且つ被験者のレジリエンスが高い場合であっても、被験者の睡眠が良好でない場合においては、バーンアウトのリスクが高いと判定することを特徴とする請求項2に記載の労働状態の判定用のプログラム。
【請求項4】
前記バーンアウトリスク判定手段が、
コーピングの高さ、夜勤の有無、年齢の高さ、子供の養育の有無及び配偶者の有無の少なくともいずれかに基づいて被験者のバーンアウトのリスクを段階的に判定することを特徴とする請求項2又は3に記載の労働状態の判定用のプログラム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプログラムと、
前記コンピュータと、
被験者のストレスの高さを導出するための質問項目に対する回答を入力させるストレス項目入力手段と、
被験者のレジリエンスの高さを導出するための質問項目に対する回答を入力させるレジリエンス項目入力手段と、
被験者の睡眠の状況を検出する検出手段と、を備えており、
前記ストレス評価取得手段が、前記ストレス項目入力手段による入力内容に基づいて被験者のストレスの高さを導出し、
前記レジリエンス評価取得手段が、前記レジリエンス項目入力手段による入力内容に基づいて被験者のレジリエンスの高さを導出し、
前記睡眠評価取得手段が、前記検出手段による検出結果に基づいて被験者の睡眠の良好度を導出することを特徴とする労働状態の判定システム。
【請求項6】
被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段と、
被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段と、
被験者の1日当たりの平均睡眠時間が所定の下限から上限までの範囲内であり、且つ、被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の基準時刻より早い場合に睡眠が良好であると評価する睡眠評価取得手段と、
前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段とを備えていることを特徴とする労働状態の判定装置。
【請求項7】
被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段と、
被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段と、
被験者の1日当たりの平均睡眠時間及び被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の範囲内であるか否かに基づいて被験者の睡眠が良好か否かを評価する睡眠評価取得手段と、
前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段とを備えており、
前記バーンアウトリスク判定手段が、
被験者のストレスが低い場合であっても、被験者のレジリエンスが低い場合には、被験者のバーンアウトのリスクが高いと判定することを特徴とする労働状態の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、労働状態の判定用のプログラム、判定システム及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、看護職等の労働者における離職が問題視されている。離職の要因の一つにはバーンアウト(燃え尽き症候群)があり、さまざまな研究報告がなされている。非特許文献1はその一例であり、日本の看護師におけるバーンアウト、ストレス及び離職意向について検討したものである。非特許文献1では、ストレスを含む様々な要因とバーンアウトとの関係性が議論されている。また、厚生労働省からは、労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防止することを主な目的に、労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が導入されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】大植崇(Takashi Ohue)、他2名、「日本の看護師におけるストレス、バーンアウト及び退職意向の認知モデルの検討(Examination of a cognitive model of stress, burnout, and intention to resign for Japanese nurses)」、ジャパン ジャーナル オブ ナーシング サイエンス(Japan Journal of Nursing Science)、2011、8、p.76-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
離職に繋がる重大な要因となるバーンアウトのリスクを把握することは、労働者の離職を未然に防ぐために重要な手段である。しかしながら、例えば、厚生労働省によって制度化されたストレスチェックは、質問紙を用いた労働者のストレス状況の把握に留まる。ストレスは、バーンアウトに繋がる要因の一つではあるが、その状況を把握するのみで労働者のバーンアウトのリスクを正確に把握することはできない。また、非特許文献1は、ストレス以外の要因についてもバーンアウトとの関係性を議論しているが、被験者におけるバーンアウトのリスクを直接判定することを目的としたものではない。
【0005】
本発明の目的は、労働者のバーンアウトのリスクを直接判定することが可能な労働状態の判定用のプログラム、判定システム及び判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る労働状態の判定用のプログラムは、被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段、被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段、被験者の1日当たりの平均睡眠時間が所定の下限から上限までの範囲内であり、且つ、被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の基準時刻より早い場合に睡眠が良好であると評価する睡眠評価取得手段、並びに、前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段としてコンピュータを機能させる。また、本発明の別の観点に係るプログラムは、被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段、被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段、被験者の1日当たりの平均睡眠時間及び被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の範囲内であるか否かに基づいて被験者の睡眠が良好か否かを評価する睡眠評価取得手段、並びに、前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段としてコンピュータを機能させ、前記バーンアウトリスク判定手段が、被験者のストレスが低い場合であっても、被験者のレジリエンスが低い場合には、被験者のバーンアウトのリスクが高いと判定する。
【0007】
また、本発明に係る労働状態の判定装置は、被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段と、被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段と、被験者の1日当たりの平均睡眠時間が所定の下限から上限までの範囲内であり、且つ、被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の基準時刻より場合に睡眠が良好であると評価する睡眠評価取得手段と、前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段とを備えている。また、本発明の別の観点に係る判定装置は、被験者のストレスの高さを示すストレス評価値を取得するストレス評価取得手段と、被験者のレジリエンスの高さを示すレジリエンス評価値を取得するレジリエンス評価取得手段と、被験者の1日当たりの平均睡眠時間及び被験者の日勤前日の平均就寝時刻が所定の範囲内であるか否かに基づいて被験者の睡眠が良好か否かを評価する睡眠評価取得手段と、前記ストレス評価取得手段が取得した前記ストレス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のストレスが高いか低いかを評価し、前記レジリエンス評価取得手段が取得した前記レジリエンス評価値と所定の基準値との比較に基づいて被験者のレジリエンスが高いか低いかを評価すると共に、これらの評価結果及び前記睡眠評価取得手段が取得した評価結果に少なくとも基づいて、ストレスが低く、レジリエンスが高く、且つ、睡眠が良好である場合には、被験者のバーンアウトのリスクが低いと判定するバーンアウトリスク判定手段とを備えており、前記バーンアウトリスク判定手段が、被験者のストレスが低い場合であっても、被験者のレジリエンスが低い場合には、被験者のバーンアウトのリスクが高いと判定する。さらに、本発明においては、被験者のストレスが低く且つ被験者のレジリエンスが高い場合であっても、被験者の睡眠が良好でない場合においては、バーンアウトのリスクが高いと判定することが好ましい。
【0008】
本発明に係る労働状態の判定用のプログラム又は判定装置によると、被験者のバーンアウトのリスクを直接判定することが可能である。また、本発明者らは、被験者のバーンアウトのリスクが、被験者のレジリエンス及び睡眠の状況とも強く関連することを知見した。したがって、リスク判定に当たって被験者のストレスの高さのみならず、レジリエンスの高さ及び睡眠の良好度にも基づくことにより、判定の確実性を担保できる。なお、ストレス又はレジリエンスの高低や睡眠の良好度は、例えば、評価結果を示す値と基準となる値との比較に基づいて判定される。
【0009】
また、本発明においては、前記睡眠評価手段が、被験者の1日当たりの平均睡眠時間が所定の下限から上限までの範囲内であり、且つ、被験者の日勤前日の平均就寝時刻が早い場合に睡眠が良好であると評価することが好ましい。本発明者らは、平均睡眠時間が短すぎても長すぎても睡眠の良好度が低いこと、平均就寝時刻が遅いほど睡眠の良好度が低いことを知見した。これに基づき、睡眠の良好度をバーンアウトのリスク判定に当たって考慮に入れることで、判定の確実性を担保できる。
【0010】
また、本発明においては、前記バーンアウトリスク判定手段が、被験者のストレスが低い場合であっても、被験者のレジリエンスが低い場合には、被験者のバーンアウトのリスクが高いと判定することが好ましい。本発明者らは、ストレスが低い場合であっても、レジリエンスが低い場合にはバーンアウトのリスクが高くなることを知見した。これに基づき、レジリエンスの高さに従ってバーンアウトのリスクを適切に判定できる。
【0011】
また、本発明においては、前記バーンアウトリスク判定手段が、コーピングの高さ、夜勤の有無、年齢の高さ、子供の養育の有無及び配偶者の有無の少なくともいずれかに基づいて被験者のバーンアウトのリスクを段階的に判定することが好ましい。これによると、バーンアウトのリスクに関係する様々な要素に基づいてバーンアウトのリスクを段階的に判定することが可能である。
【0012】
また、本発明に係る労働状態の判定システムは、前記プログラムと、前記コンピュータと、被験者のストレスの高さを導出するための質問項目に対する回答を入力させるストレス項目入力手段と、被験者のレジリエンスの高さを導出するための質問項目に対する回答を入力させるレジリエンス項目入力手段と、被験者の睡眠の状況を検出する検出手段と、を備えており、前記ストレス評価取得手段が、前記ストレス項目入力手段による入力内容に基づいて被験者のストレスの高さを導出し、前記レジリエンス評価取得手段が、前記レジリエンス項目入力手段による入力内容に基づいて被験者のレジリエンスの高さを導出し、前記睡眠評価取得手段が、前記検出手段による検出結果に基づいて被験者の睡眠の良好度を導出する。これによると、種々の質問項目に対する回答に基づいてストレスやレジリエンスの高さが導出される。また、睡眠の状況を検出する検出手段による検出結果に基づいて睡眠の良好度が導出される。そして、導出されたストレス及びレジリエンスの高さ並びに睡眠の良好度に基づいてバーンアウトのリスクが判定される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るバーンアウト判定システムの装置構成を示すブロック図である。
図2図1のサーバにおいて実行される判定用のアルゴリズムを示すフロー図である。
図3図2のアルゴリズムを取得する方法を示すフロー図である。
図4図2のアルゴリズムについて、2016~2017年度の実施結果の推移を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るバーンアウトリスク判定システム1(本発明における労働状態の判定システム)について、図1及び図2を参照しつつ説明する。バーンアウトリスク判定システム1は、労働者のバーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクを判定するシステムである。労働者の職種は、看護師等、夜勤が存在する職種が主に想定されるが、どのような職種が本システムの対象とされてもよい。
【0015】
バーンアウトリスク判定システム1は、図1に示すように、入力装置100、出力端末200及びサーバ300を備えている。これらの装置100~300は、インターネットNを通じて互いに接続されている。以下において、これらの装置100~300間でデータが送受信される場合には、インターネットNを通じてその送受信が実行されるものとする。これらの装置100~300のそれぞれは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、入力機器、出力機器等のハードウェアと、ROM、RAM等の記憶部に記憶されたプログラムデータ等からなるソフトウェアとを備えている。これらのハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、バーンアウトリスク判定システム1における以下に説明する機能が実現されている。
【0016】
入力装置100は、入力端末110及びウェアラブルデバイス120(検出手段)を含んでいる。入力端末110は、バーンアウトリスクを判定するための被験者の労働状況等を入力する端末であり、スマートフォン等の携帯端末が用いられてよい。入力端末110は、ディスプレイ等の出力機器や、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル等の入力機器を備えている。入力端末110は、被験者の労働状況に関する入力項目をディスプレイに表示させる。入力者は、入力端末110の入力機器を用いて各入力項目に対応する内容を入力することにより、被験者の労働状況を入力端末110に入力する。入力者は被験者自身であってもよいし、被験者とは異なる者であってもよい。入力端末110への入力内容は、サーバ300に送信され、後述の通り、サーバ300においてバーンアウトリスクの判定に用いられる。
【0017】
入力端末110における入力項目には、例えば、被験者に関する以下の項目が含まれる:ストレスの高さを示すストレススコアを算出するための項目、コーピング尺度を算出するための項目、レジリエンス尺度を算出するための項目、子供の養育の有無、夜勤の有無、配偶者の有無、及び、勤務スケジュール(各勤務日の日勤、夜勤、休暇日等の別)。なお、入力端末110がストレススコアを算出するための項目を入力させる機能は、本発明におけるストレス項目入力手段の機能に対応する。入力端末110がレジリエンス尺度を算出するための項目を入力させる機能は、本発明におけるレジリエンス項目入力手段の機能に対応する。
【0018】
ストレススコアを算出するための項目には、一例として、「職業性ストレス簡易調査票(厚生労働省)」の質問項目が使用される。具体的には、「職業性ストレス簡易調査票(厚生労働省)」の質問項目のうち、「心身のストレス反応」を評価する質問項目である下記P1~P11からなる11項目が用いられてよい。この11項目は、質問時点を基準として、当日の被験者の状態について問うものである。各項目に対しては、「とてもあてはまる」「少しあてはまる」「ややちがう」「ほとんどちがう」の4つの選択肢から1つを選択させる方法により、質問項目に関する被験者の状態を回答させる。
【0019】
[ストレススコアを算出するための項目]
P1:ひどく疲れた
P2:へとへとだ
P3:だるい
P4:気がはりつめている
P5:不安だ
P6:落ち着かない
P7:ゆううつだ
P8:何をするのも面倒だ
P9:気分が晴れない
P10:食欲がない
P11:よく眠れない
【0020】
コーピング尺度を算出するための項目には、一例として、下記Q1~Q18からなる質問項目が使用される(影山隆之,小林敏生:心の健康を支える「ストレス」との向き合い方:BSCPによるコーピング特性評価から見えること,金剛出版,2017)。各項目に対しては、「よくある」「ときどきある」「たまにある」「ほとんどない」の4つの選択肢から1つを選択させる方法により、質問項目に関する被験者の状態を回答させる。なお、コーピングとは、負荷をもたらす、又は個人の資源を超えると評定された特定の外的・内的な要求のために行われる、絶えず変化する認知的・行動的な努力であるとされる(前掲書)。コーピング尺度を算出するための他の質問項目として、「Ways of Coping Checklist(WCC)」の60項目や、「Coping Inventory for Stressful Situation(CISS)」の48項目が用いられてもよい。
【0021】
[コーピング尺度を算出するための項目]
Q1:原因を調べ解決しようとする
Q2:今までの体験を参考に考える
Q3:いまできることは何かを冷静に考えてみる
Q4:信頼できる人に解決策を相談する
Q5:関係者と話し合い、問題の解決を図る
Q6:その問題に詳しい人に教えてもらう
Q7:趣味や娯楽で気をまぎらわす
Q8:何か気持ちが落ち着くことをする
Q9:旅行・外出など活動的なことをして気分転換する
Q10:「何とかなる」と希望をもつ
Q11:その出来事のよい面を考える
Q12:これも自分にはよい経験だと思うようにする
Q13:問題の原因を誰かのせいにする
Q14:問題に関係する人を責める
Q15: 関係のない人に八つ当たりする
Q16: 問題を先送りする
Q17: いつか事態が変わるだろうと思って時が過ぎるのを待つ
Q18:何もしないでがまんする
【0022】
レジリエンス尺度を算出するための項目には、一例として、下記R1~R18からなる質問項目が使用される(尾形広行:総合病院における看護師レジリエンス尺度の作成および信頼性・妥当性の検討,精神医学,52(8),pp.785-792,2010)。
各項目に対しては、「はい」「どちらかというとはい」「どちらでもない」「どちらかというといいえ」「いいえ」の5つの選択肢から1つを選択させる方法により、質問項目に関する被験者の状態を回答させる。なお、レジリエンスとは、困難で脅威的な状態にさらされることで一時的に心理的不健康の状態に陥っても、それを乗り越え、精神的病理を示さず、よく適応している状態のことを指す概念であるとされる(平野真理:レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み‐‐二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成、パーソナリティ研究,第19巻 第2号,pp.94-106,2010)。
【0023】
[レジリエンス尺度を算出するための項目]
R1:看護職のいろいろな業務に挑戦してみたい
R2:気の合わない上司・同僚に合わせていくことは苦手だ
R3:職場以外に愛情を注ぐ対象(家族・友人など)がいる
R4:慣れない仕事をするのは好きではない
R5:臨終時や急変時にも自分を落ち着かせることができる
R6:さまざまなタイプの上司・同僚とそれなりに付き合える
R7:新しい業務や珍しい仕事が好きだ
R8:わがままを聞いてもらえる人がいない
R9: つらいことがあってもなんとか仕事になる
R10:看護の仕事への興味や患者さんへの関心が強いほうだ
R11:大きな責任を任されたらがんばろうと思う
R12:看護職として私の将来には希望がある
R13:私には看護職としての目標がある
R14:私は看護のプロとして日々努力している
R15:看護の勉強をもっとしてみたいと思う
R16:嫌いな上司・同僚とも,「仕事」とわり切って付き合っていける
R17:職場に新しい上司・同僚が入ってきてもうまくやっていける
R18:困難なことも,看護のプロとして成長に必要だと思う
R19:新しい仕事を覚えるのは簡単だ
R20:家族以外にも悩みを話せる人がいる
R21:幼い頃自分に愛情を注いでくれる人がいた
R22:「自分が今日あるのはこの人のおかげ」といえる人がいる
【0024】
ウェアラブルデバイス120は、被験者による装着が可能な装置であり、加速度計等の被験者の動きを検出する計測器を有している。ウェアラブルデバイス120は、入力端末110とBluetooth(登録商標)等の近距離通信によって通信可能である。ウェアラブルデバイス120による検出結果は入力端末110に送信される。ウェアラブルデバイス120による検出結果は、入力端末110からサーバ300に送信され、サーバ300においてバーンアウトリスクの判定に用いられる。
【0025】
出力端末200は、サーバ300から送信されるバーンアウトリスクの判定結果を、ディスプレイや印刷機器等の出力機器を通じてユーザに対して出力する。以下の表1は、バーンアウトリスクの判定結果の一例を示す。表1は、16段階の判定値を含んでいる。判定値は数が小さいほどバーンアウトのリスクが高いことを示す。判定値1~10は、バーンアウトのリスクが比較的高い「バーンアウト群」に分類される。判定値11、12、21、22及び31は、バーンアウトのリスクが中程度である「リスク群」に分類される。判定値100は、バーンアウトのリスクが比較的低い「低群」に分類される。「バーンアウト群」「リスク群」「低群」の分類の根拠については後述する。出力端末200による出力結果は、例えば、被験者の全部又は一部に関する判定値及びその分類を含んでいる。また、出力端末200による出力結果は、複数の被験者の判定値に関する統計値やグラフ等を含んでいてもよい。
【0026】
[表1]
【0027】
サーバ300は、ストレススコア算出部310(本発明におけるストレス評価取得手段)、コーピング尺度算出部320、レジリエンス尺度算出部330(本発明におけるレジリエンス評価取得手段)、睡眠状況取得部340及びリスク評価部350(本発明におけるバーンアウトリスク判定手段)を有している。なお、サーバ300をこれらの機能部として機能させるプログラムは、本発明における労働状態の判定用のプログラムに対応する。ストレススコア算出部310は、入力装置100から送信された、P1~P11の質問項目に対する入力結果に基づいてストレススコアを算出する。ストレススコアは、入力結果が「とてもあてはまる」「少しあてはまる」である質問項目には1点を、入力結果が「ややちがう」「ほとんどちがう」である質問項目には0点を付与した上で、P1~P11の質問項目全体に関して点数を合計することで、被験者ごとに算出される。
【0028】
コーピング尺度算出部320は、入力装置100から送信された、Q1~Q18の質問項目に対する入力結果に基づいてコーピング尺度を算出する(ただし、Q16、Q17及びQ18は不使用)。コーピング尺度は、問題解決の観点と情緒焦点の観点との2観点について算出される。以下、前者の観点でのコーピング尺度を「コーピング尺度(問題解決)」とし、後者の観点でのコーピング尺度を「コーピング尺度(情緒焦点)」とする。コーピング尺度(問題解決)は、入力結果に対して点数を下記の通りに付与した上で、Q1、Q2、Q3、Q4、Q5及びQ6の質問項目に関して点数を合計することで、被験者ごとに算出される。コーピング尺度(情緒焦点)は、入力結果に対して点数を下記の通りに付与した上で、Q7、Q8、Q9、Q10、Q11、Q12、Q13、Q14及びQ15の質問項目に関して点数を合計することで、被験者ごとに算出される。
【0029】
[入力結果と点数の対応]
「よくある」→4点、「ときどきある」→3点、「たまにある」→2点、「ほとんどない」→1点
【0030】
レジリエンス尺度算出部330は、入力装置100から送信された、R1~R22の質問項目に対する入力結果に基づいてレジリエンス尺度を算出する。レジリエンス尺度は、入力結果に対して点数を下記の通りに付与した上で、R1~R22の質問項目全体に関して点数を合計することで、被験者ごとに算出される。
[入力結果と点数の対応]
(R2、R4、R8の場合)「はい」→1点、「どちらかというとはい」→2点、「どちらでもない」→3点、「どちらかというといいえ」→4点、「いいえ」→5点
(R2、R4、R8以外の場合)「はい」→5点、「どちらかというとはい」→4点、「どちらでもない」→3点、「どちらかというといいえ」→2点、「いいえ」→1点
【0031】
睡眠状況取得部340は、入力装置100から送信されたウェアラブルデバイス120の検出結果等に基づき、以下の通りに被験者の睡眠状況を導出する。睡眠状況取得部340は、入力装置100から定期的にサーバ300に送信されてくるウェアラブルデバイス120による検出結果を複数日分、蓄積する。睡眠状況取得部340は、ウェアラブルデバイス120による検出結果が示す被験者の動きに基づいて被験者における睡眠の期間を把握する。例えば、所定の時間にわたって被験者の動きが所定の程度小さい期間を睡眠の期間と判定する。そして、このように把握した睡眠期間から、睡眠状況取得部340は、1日当たりの睡眠期間の長さを平均睡眠時間として算出すると共に、睡眠期間の開始時刻を就寝時刻として把握する。また、睡眠状況取得部340は、入力端末110において入力された勤務スケジュールに基づいて、被験者にとって日勤である日を把握する。そして、睡眠状況取得部340は、把握した日勤である日の前日における就寝時刻の平均を算出する。
【0032】
リスク評価部350は、ストレススコア算出部310、コーピング尺度算出部320、レジリエンス尺度算出部330及び睡眠状況取得部340が導出したストレススコア、コーピング尺度、レジリエンス尺度及び睡眠状況、並びに、入力装置100から送信された子供の養育の有無等に基づいて、バーンアウトリスクの判定値を以下のように導出する。なお、リスク評価部350は、睡眠評価部351(本発明における睡眠評価取得手段)を含んでいる。睡眠評価部351は、バーンアウトリスクの判定値の導出に当たって、後述の通り、被験者の睡眠の良好度を評価する役割を担う。
【0033】
リスク評価部350は、図2のフローチャートに従って判定値を導出する。まず、図2のステップS1において、ストレススコアの高さを判定する。ストレススコアが6以上であった場合、リスク評価部350は、子供の養育の有無を判定する(ステップS2)。子供の養育がない場合には、リスク評価部350は判定値を1とする。子供の養育がある場合には、リスク評価部350は、夜勤の有無を判定する(ステップS3)。夜勤がある場合には、リスク評価部350は判定値を2とする。夜勤がない場合には、リスク評価部350は、ストレススコアが7以上であるか否かを判定する(ステップS4)。ストレススコアが7以上である場合には、リスク評価部350は判定値を6とする。ストレススコアが6である場合には、リスク評価部350は判定値を8とする。
【0034】
ステップS1においてストレススコアが4以上且つ5以下であった場合には、リスク評価部350は、年齢が30以上であるか否かを判定する(ステップS5)。年齢が30以上であった場合には、リスク評価部350は判定値を3とする。年齢が30未満であった場合には、リスク評価部350はコーピング尺度(情緒焦点)が23以上であるか否かを判定する(ステップS6)。コーピング尺度(情緒焦点)が23以上である場合には、リスク評価部350は判定値を5とする。コーピング尺度(情緒焦点)が22以下である場合には、リスク評価部350は判定値を4とする。
【0035】
ステップS1においてストレススコアが3であった場合には、リスク評価部350は、コーピング尺度(問題解決)が15以上であるか否かを判定する(ステップS7)。コーピング尺度(問題解決)が15以上である場合には、リスク評価部350は判定値を7とする。コーピング尺度(問題解決)が14以下である場合には、リスク評価部350は、配偶者の有無を確認する(ステップS8)。配偶者がある場合には、リスク評価部350は判定値を9とする。配偶者がない場合には、リスク評価部350は次のステップS9を実行する。
【0036】
ステップS1においてストレススコアが2以下であった場合には、リスク評価部350は、レジリエンス尺度が69以下であるか否かを判定する(ステップS9)。レジリエンス尺度が69以下である場合には、リスク評価部350は判定値を10とする。レジリエンス尺度が70以上である場合には、リスク評価部350はステップS10以降を実行する。
【0037】
ステップS10以降のステップは、被験者の睡眠の良好度に基づいて判定値を導出するステップであり、睡眠評価部351が実行する。睡眠評価部351は、睡眠状況取得部340が取得した平均睡眠時間及び平均就寝時刻が示す睡眠の良好度に基づいて判定値を導出する。具体的には、睡眠評価部351は、まず、平均睡眠時間の長さを判定する(ステップS10)。平均睡眠時間が8時間以上である場合には、睡眠評価部351は、日勤前日の平均就寝時刻が25時30分(午前1時30分)以降であるか否かを判定する(ステップS11)。平均就寝時刻が25時30分以降である場合には判定値が11となり、平均就寝時刻が25時30分までである場合には12となる。平均睡眠時間が6.8時間未満である場合には、睡眠評価部351は、日勤前日の平均就寝時刻が25時30分以降であるか否かを判定する(ステップS12)。平均就寝時刻が25時30分以降である場合には判定値が13となり、平均就寝時刻が25時30分までである場合には14となる。平均睡眠時間が6.8時間以上且つ8時間未満である場合には、睡眠評価部351は、日勤前日の平均就寝時刻が25時30分以降であるか否かを判定する(ステップS13)。平均就寝時刻が25時30分以降である場合には判定値が15となり、平均就寝時刻が25時30分までである場合には100となる。このように、平均睡眠時間が6.8時間以上且つ8時間未満であると共に、平均就寝時刻が25時30分までである場合には、睡眠状況が良好であり、判定値は100となる。それ以外の場合には、睡眠状況が良好とはいえず、平均睡眠時間及び平均就寝時刻に応じて判定値が100以外の各値に決定される。
【0038】
図2のフローチャートが示すアルゴリズムの取得方法について図3に基づいて説明する。まず、病院に勤務する看護師(看護師長を除く)を対象とし、以下の調査項目に関する無記名・自記式配票調査を実施した(図3のステップS101)。
【0039】
[調査項目]
基本属性(年齢、性別、所属する病院での勤務年数、家族構成、子の養育の有無、介護の有無、年休使用)、勤務形態、ストレススコア、バーンアウト尺度、コーピング尺度
【0040】
バーンアウト尺度の調査においては、次の質問項目(久保真人:バーンアウトの心理学: 燃え尽き症候群とは,サイエンス社,2004)に対して下記5つの選択肢から1つを選択させると共に、下記の通りに各質問項目に点数を付与した。
【0041】
[バーンアウト質問項目]
T1:こんな仕事,もうやめたいと思うことがある
T2:われを忘れるほど仕事に熱中することがある
T3:こまごまと気配りすることが面倒に感じることがある
T4:この仕事は私の性分に合っていると思うことがある
T5:同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある
T6:自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある
T7:1日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある
T8:出勤前,職場に出るのが嫌になって,家にいたいと思うことがある
T9:仕事を終えて,今日は気持ちのよい日だったと思うことがある
T10:同僚や患者と,何も話したくなくなることがある
T11:仕事の結果はどうでもよいと思うことがある
T12:仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある
T13:今の仕事に,心から喜びを感じることがある
T14:今の仕事は,私にとってあまり意味がないと思うことがある
T15:仕事が楽しくて,知らないうちに時間がすぎることがある
T16:体も気持ちも疲れはてたと思うことがある
T17:われながら,仕事をうまくやり終えたと思うことがある
[回答内容及び点数]
「いつもある」→5、「しばしばある」→4、「時々ある」→3、「まれにある」→2、「ない」→1
【0042】
次に、バーンアウト尺度として以下のように情緒的消耗感を示す点数と脱人格化を示す点数とを算出し、バーンアウトの程度を評価した(ステップS102)。情緒的消耗感を示す点数は、T1、T7、T8、T12及びT16の得点を合計し、5で割る。脱人格化を示す点数は、T3、T5、T6、T10、T11及びT14の得点を合計し、6で割る。そして、バーンアウトの評価に当たっては、情緒的消耗感を示す点数及び脱人格化を示す点数がそれぞれの平均値以上かどうかに基づき、各調査対象者を高群、脱人格群、情緒群及び低群に分類した。具体的には、情緒的消耗感を示す点数及び脱人格化を示す点数の両方が平均値以上の場合には高群に、脱人格化を示す点数のみが平均値以上の場合には脱人格群に、情緒的消耗感を示す点数のみが平均値以上の場合には情緒群に、残りの場合は低群に分類した。
【0043】
次に、ステップS102で評価したバーンアウト尺度に基づき、上記調査項目の中でバーンアウトに関連する項目を抽出した(ステップS103)。具体的には、バーンアウト尺度を従属変数として、多項ロジスティック回帰分析を実施した。その結果に基づき、バーンアウトに関連する項目として、ストレススコア、コーピング尺度、子供の養育の有無、夜勤の有無、及び、配偶者の有無を上記調査項目から抽出した。
【0044】
次に、ステップS103で抽出した項目に基づいて、被験者を高群、脱人格化群、情緒群及び低群に分類するためのアルゴリズムを取得した(ステップS104)。アルゴリズムの取得に当たっては、まず、SPSS(登録商標) v23.0(IBM社)とSPSS AnswerTree(IBM社)とを使用し、ステップS103で抽出した項目と各項目における分岐条件とからなる決定木を決定した。そして、これによって得られた決定木を基本に、看護管理者及び看護管理に関する研究者へのヒアリングを参考としつつ、初版のアルゴリズムを作成した。得られたアルゴリズムは、図2に示すステップS1~S8からなる決定木とほぼ同様であった。
【0045】
次に、ステップS104で取得した初版のアルゴリズムを検証した(ステップS105)。具体的には、まず、1医療施設の看護師を被験者として入力装置100を用いた以下の調査(平成28年度)を実施した。すなわち、ストレススコア、コーピング尺度及びレジリエンス尺度を算出するための項目、子供の養育の有無、夜勤の有無、配偶者の有無、並びに、勤務スケジュールを被験者から入力端末110に入力させた。なお、睡眠状況は、ウェアラブルデバイス120による検出結果を用いず、入力端末110による入力項目として睡眠状況を追加することで取得した。また、同じ被験者に対して、上述のバーンアウト質問項目に基づくバーンアウト尺度の調査を実施した。そして、バーンアウト質問項目を使用したバーンアウト尺度の調査結果に基づき、ステップS102におけるバーンアウトの評価と同様、調査対象者を高群、脱人格群、情緒群及び低群に被験者を分類した。一方、ストレススコア、コーピング尺度、子供の養育の有無、夜勤の有無、及び、配偶者の有無に関する調査結果に基づき、ステップS104で取得した初版のアルゴリズムを適用して高群、脱人格群、情緒群及び低群への被験者の分類を実施した。そして、上述のバーンアウト質問項目を使用したバーンアウト尺度の調査結果に基づく分類結果を基準として、アルゴリズムの判定による分類結果が正しい内容を示しているかどうかを評価した。その結果、アルゴリズムの判定による分類結果が正しい内容を示していた被験者の人数における被験者全体の人数に対する割合は76.7%であった。
【0046】
次に、アルゴリズムの正確性を向上するため、レジリエンス尺度及び睡眠に関する項目を追加した図2に示すアルゴリズムを作成した(ステップS106)。ここで追加した項目は、図2のステップS9~S13に対応する。レジリエンス尺度及び睡眠に関する項目を追加したのは、ステップS104で行った調査結果によれば、レジリエンス尺度及び睡眠の状況もバーンアウトに強く関連していることが示されたためである。アルゴリズムにおけるレジリエンス尺度や睡眠状況に関する分岐条件は、調査結果から得られたレジリエンス尺度や睡眠時間の実測値に基づいて導出した。
【0047】
次に、ステップS106で作成したアルゴリズムを、ステップS105で実行した調査結果に基づいて検証した(ステップS107)。具体的には、バーンアウト質問項目に基づくバーンアウト尺度による分類結果を基準として、図2のアルゴリズムに基づいて判定された結果を、図3のステップS105と同様に評価した(平成29年度に実施)。その評価結果が表2に示されている。
【0048】
[表2]
【0049】
表2において、最も左側の欄は、表1と同様、バーンアウト群、リスク群及び低群の分類を示す。左から2番目の欄は、サーバ300が導出した判定値を示す。左から3番目の欄は、判定値に対応する被験者の人数を示す。左から4番目の欄は、判定値に対応する分類結果が正しい内容であった人数を示す。左から5番目の欄は、判定値に対応する分類結果が誤った内容であった人数を示す。左から6番目の欄は判別検出率を示し、3番目の欄の人数に対する4番目の欄の人数の割合に対応する。左から7番目の欄は分類エラー率を示し、3番目の欄の人数に対する5番目の欄の人数の割合に対応する。
【0050】
表2において、「バーンアウト群」は、バーンアウト尺度における高群、脱人格群及び情緒群を合わせた群に対応する。「リスク群」は、初版のアルゴリズムではバーンアウト尺度における低群に分類していたが、低群ではなく、バーンアウト群に比べるとバーンアウトのリスクは低いが、今後、バーンアウト群に移行する危険性のある群とした。「低群」は、バーンアウト尺度における低群に対応する。この群は、初版のアルゴリズムでもバーンアウト尺度における低群に分類していた範囲に属し、現時点ではバーンアウト状態になる可能性が低い群である。
【0051】
表2において、判定値が1~10であった場合の分類結果が正しいか否か(左から4~5番目の欄)は、バーンアウト質問項目に基づくバーンアウト尺度の調査においてバーンアウト尺度が確かに高群、脱人格群及び情緒群に分類される内容であったか否かに基づく。また、判定値が100であった場合の分類結果が正しいか否か(左から4~5番目の欄)は、バーンアウト質問項目に基づくバーンアウト尺度の調査においてバーンアウト尺度が確かに低群に分類される内容であったか否かに基づく。判定値が11~15であった場合の分類結果が正しいか否か(左から4~5番目の欄)については、バーンアウト質問項目に基づくバーンアウト尺度の調査においてバーンアウト尺度が確かに低群以外に分類される内容であったか否かに基づく。なお、判定値が11~15となる範囲については、ステップS104の初版のアルゴリズムにおいては低群と分類していた範囲であるが、上記の通り、バーンアウト群に移行する危険性のあるリスク群として分類し直した範囲である。このため、この範囲において、バーンアウト尺度に基づく分類結果(低群であること)を必ずしも正しく判定していない。
【0052】
次に、ステップS105で実施した調査(2016年度)の被験者の一部に関し、その翌年度にも、同様の内容で図2のアルゴリズムによる判定及び調査を実施した。図4は、同じ被験者の判定結果における2016~2017年度の推移を示すと共に、被験者の退職状況及び退職意向(退職希望又は退職迷い)を示す。図4において、「2016年度」の欄名の下に上下に並んだ数値は2016年度の判定結果を示し、「2017年度」の欄名の下に上下に並んだ数値は2017年度の判定結果を示す。2016年度の数値から2017年度の数値に向かう矢印は、2016年度の各判定値に対応する被験者が、2017年度ではどのように判定されたかを示す。例えば、2016年度の判定値4から2017年度の判定値1に向かう矢印は、2016年度に判定値4であった被験者における2017年度の判定値が1となったことを示す。各矢印は、線が太いほどその矢印が示す判定値の推移に対応する被験者の人数が大きいことを示す。また、2016年度の判定値又は2017年度の判定値から「退職」「退職希望」「退職迷い」に向かう矢印は、2016年度又は2017年度の各判定値に対応する被験者が実際に退職したか、退職希望又は退職迷いの退職意向を有するに至ったことを示す。図4に示すように、退職者及び退職意向者の大半は、直近の判定におけるバーンアウト群から生じ、一部がリスク群から生じている。退職者及び退職意向者は、直近の判定における低群からは生じていない。2016年度において判定値1~10(バーンアウト群)と判定された被験者の多くが2017年度にも判定値1~10(バーンアウト群)と判定されている。なお、判定値10をリスク群ではなく、バーンアウト群に分類した理由は、以上の通り、判定値1~10において退職者及び退職意向者が多いことと、2016年度に判定値1~10と判定された被験者が2017年度にも同様に判定される傾向が強いことに基づく。
【0053】
以上説明した本実施形態によると、被験者のバーンアウトのリスクを直接判定することが可能である。特に、図2に示す通り、ストレススコアが2以下の低い水準であり(ステップS1:「2以下」)、レジリエンス尺度が70以上の高い水準であり(ステップS9:「70以上」)、且つ、睡眠が良好である(ステップS13:「25:30まで」)場合に、判定値が100、つまり、リスクが低いと判定する。このように、図2のアルゴリズムは、リスク判定に当たって被験者のストレスの高さのみならず、レジリエンスの高さ及び睡眠の良好度にも基づくことにより、上記表2の判別検出率に示すように判定の確実性が担保されている。
【0054】
また、図2のアルゴリズムの通り、平均睡眠時間が6.8時間以上且つ8時間未満の場合であって、平均就寝時刻が25:30までの場合にリスクが低いと判定する。つまり、平均睡眠時間が短すぎても長すぎても睡眠の良好度が低く、また、平均就寝時刻が遅いほど睡眠の良好度が低い。このように評価した睡眠の良好度に基づくことにより、判定の確実性が担保されている。
【0055】
また、図2のアルゴリズムに示す通り、ストレスが低い場合(ストレススコアが2以下)であっても、レジリエンスが低い場合(レジリエンス尺度が69以下)には判定値が10となる(ステップS9:「69以下」)。つまり、被験者はバーンアウト群であると判定される。このように、レジリエンスの高さに従ってバーンアウトのリスクが適切に判定される。
【0056】
また、図2のアルゴリズムに示す通り、コーピングの高さ、夜勤の有無、年齢の高さ、子供の養育の有無及び配偶者の有無に基づいて被験者のバーンアウトのリスクを段階的に判定する。これによると、バーンアウトのリスクに関係する様々な要素に基づいてバーンアウトのリスクを段階的に判定することが可能となっている。
【0057】
<変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0058】
例えば、上述の実施形態に係る図2のアルゴリズムでは、平均睡眠時間及び日勤前日の平均就寝時刻に基づいて被験者の睡眠状況が評価されている。しかしながら、その他の項目に基づいて睡眠状況が評価されてもよい。例えば、睡眠時間の標準偏差や平均起床時刻等に基づいて睡眠状況が評価されてもよい。また、上述の実施形態では、平均睡眠時間が6.8時間以上且つ8時間未満であるか否かに基づいて睡眠状況が評価されている。しかし、職場環境や職種等に応じて、6.8時間や8時間以外の評価基準が用いられてもよい。例えば、6時間や7.5時間等が用いられてもよい。
【0059】
また、上述の実施形態では、ウェアラブルデバイス120を用いて被験者の睡眠状況が検出される。しかし、被験者が直接、毎日の就寝時刻や起床時刻、日勤/夜勤の別を入力装置100に入力できるようになっており、その入力内容に基づいてサーバ300等が平均睡眠時間及び日勤前日の平均就寝時刻を導出するように、本システム1が構成されていてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態においては、サーバ300の睡眠状況取得部340がウェアラブルデバイス120における検出結果に基づいて被験者の睡眠期間を把握している。しかし、入力端末110がウェアラブルデバイス120における検出結果に基づいて睡眠時間を把握してもよい。この場合、入力端末110が、把握した睡眠期間に基づいてサーバ300に就寝時刻及び起床時刻を送信してもよい。そして、サーバ300は、入力端末110から送信された就寝時刻及び起床時刻から平均睡眠時間や日勤前日の平均就寝時刻を算出する。なお、入力端末110が平均睡眠時間や日勤前日の平均就寝時刻まで算出してその算出結果をサーバ300に送信してもよい。
【0061】
また、上述の実施形態では、ストレス評価取得手段及びレジリエンス評価取得手段として、ストレススコア算出部310及びレジリエンス尺度算出部330が、入力装置100から送信された情報に基づいて、ストレススコア及びレジリエンス尺度、つまり、ストレスの高さ及びレジリエンスの高さの評価結果を算出している。しかし、ストレスの高さ及びレジリエンスの高さの評価結果を取得する手段としては、その他の態様の手段がサーバ300に設けられてもよい。例えば、他の装置において算出されたり入力されたりしたストレススコア及びレジリエンス尺度を通信ネットワークを通じて受信する手段がサーバ300に設けられてもよい。また、ストレススコア及びレジリエンス尺度を直接入力する手段がサーバ300に設けられてもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、睡眠評価取得手段として、睡眠評価部351が平均睡眠時間及び日勤前日の平均就寝時刻を算出し、睡眠の良好度を評価する。しかし、睡眠状況の評価結果を取得する手段としては、その他の態様の手段がサーバ300に設けられてもよい。例えば、他の装置において算出されたり入力されたりした平均睡眠時間及び日勤前日の平均就寝時刻を通信ネットワークを通じて受信する手段がサーバ300に設けられてもよい。また、平均睡眠時間及び日勤前日の平均就寝時刻を直接入力する手段がサーバ300に設けられてもよい。
【0063】
また、上述の実施形態に係る図2のアルゴリズムは、看護師を対象とした調査に基づいて作成されている。しかし、その他の職種の労働者を調査対象として作成されたアルゴリズムが用いられてもよい。この場合においても、ストレスの高さ、レジリエンスの高さ及び睡眠の良好度の3つの項目を含んだ決定木が用いられることで、バーンアウトのリスクを判定する確実性が向上する。また、ストレスやレジリエンスの高さを評価するための質問項目として、上述の実施形態とは異なる項目が用いられてもよい。例えば、ストレスの高さを評価するための質問項目として「CFSI:蓄積的疲労兆候インデックス(越河,1990)」が用いられてもよい。また、レジリエンスの高さを評価するための質問項目として「2次元レジリエンス尺度(平野,2010)」が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 バーンアウトリスク判定システム
100 入力装置
110 入力端末
120 ウェアラブルデバイス
200 出力端末
300 サーバ
310 ストレススコア算出部
320 コーピング尺度算出部
330 レジリエンス尺度算出部
340 睡眠状況取得部
350 リスク評価部
351 睡眠評価部
図1
図2
図3
図4