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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】アレイ及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230413BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230413BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12N11/04
C12N5/10
C09J201/00
C12N1/04
C12N15/09 200
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019560862
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2018041720
(87)【国際公開番号】W WO2019123886
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】62/610,160
(32)【優先日】2017-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託研究「エネルギー・環境新技術先導プログラム/生物機能によって大幅な省エネルギー又は創エネルギーを実現する新規デバイス創出のための革新的基盤技術開発/生体機能を直接利用したバイオハイブリッドセンサの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼江 悠加
(72)【発明者】
【氏名】島 亜衣
(72)【発明者】
【氏名】長田 翔伍
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-077229(JP,A)
【文献】特開2014-136128(JP,A)
【文献】特開2012-172055(JP,A)
【文献】特開2006-047043(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178427(WO,A1)
【文献】特開2011-178843(JP,A)
【文献】特開2003-028868(JP,A)
【文献】特開2014-176308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0015952(US,A1)
【文献】特開2019-073665(JP,A)
【文献】Nature Materials,2013年,Vol.12, No.6,pp.584-590
【文献】small,2009年,Vol.5, No.11,pp.1264-1268
【文献】Nature,2014年,Vol.505,pp.382-385, METHODS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 5/00
C12N 11/00
C09J 201/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向が互いに平行になるように接して配置された複数の管と、
前記複数の管の少なくとも1つの内部に配置された対象物質と、を含み、
前記複数の管はアニオン性ハイドロゲルで構成されており、前記複数の管同士が接する面は、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着されており、
前記アニオン性ハイドロゲルがアルギン酸ハイドロゲルであり、
前記カチオン性水溶性ポリマーがカチオン性官能基を有するポリマーであり、
前記カチオン性官能基が第2級又は第3級アミノ基である、アレイ。
【請求項2】
前記複数の管のうち、一部の管は内部に対象物質を含み、残部の管は対象物質を含まない、請求項1に記載のアレイ。
【請求項3】
前記対象物質が細胞である、請求項1又は2に記載のアレイ。
【請求項4】
前記細胞が化学物質に応答する細胞を含む、請求項3に記載のアレイ。
【請求項5】
前記複数の管のうち、隣接する2個の管の内部に細胞が配置され、前記2個の管の周囲の管が細胞を含まない、請求項3又は4に記載のアレイ。
【請求項6】
請求項5に記載のアレイを培地中でインキュベートする工程を含み、その結果、前記隣接する2個の管の内部に配置された細胞がそれぞれ増殖して互いに接触し、接触面を形成する、細胞培養方法。
【請求項7】
非凍結状態の細胞を生きたまま輸送する方法であって、
請求項3~5のいずれか一項に記載のアレイ及び培地を収容した容器を輸送する工程を含む方法。
【請求項8】
アレイの製造方法であって、
アニオン性ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に対象物質を含むファイバを、軸方向が互いに平行になるように複数個接触させて配置し、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着して、ファイバのバンドルを得る工程と、
前記バンドルを支持材に包埋する工程と、
前記バンドルを前記支持材とともに切断して切片を得る工程と、を含み、
前記切片がアレイであり、
前記アニオン性ハイドロゲルがアルギン酸ハイドロゲルであり、
前記カチオン性水溶性ポリマーがカチオン性官能基を有するポリマーであり、
前記カチオン性官能基が第2級又は第3級アミノ基であり、
前記支持材の貯蔵弾性率を損失弾性率で割った商(貯蔵弾性率/損失弾性率)が10より大きく、且つ前記貯蔵弾性率が100kPa以下である、製造方法。
【請求項9】
前記ファイバは、アルギン酸ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に、漏斗型デバイスを通して対象物質を入れる工程により製造される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記対象物質が細胞である、請求項8又は9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ及びその使用に関する。より詳細には、本発明は、アレイ、細胞培養方法、非凍結状態の細胞を生きたまま輸送する方法、及び、アレイの製造方法に関する。本願は、2017年12月23日に、米国に仮出願された米国特許第62/610,160号明細書に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アレイは、基板上に対象物質を配置したものである。例えば、細胞アレイ、DNAアレイ、タンパク質アレイ等が知られている。例えば、特許文献1には、試験化合物のスクリーニング、毒物学アッセイ、単一細胞分化研究、細胞機能研究等に細胞アレイを利用することが記載されている。特許文献1にはまた、化学修飾されたガラススライドの上面に複数の独立したスポットがスポットされ、各スポットがマトリックス底面層及びマトリックス表面層を含み、マトリックス表面層が細胞を含む、細胞アレイが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-513160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の細胞アレイは、製造工程において細胞をスポットする必要がある。このため、例えば、複数種類の細胞からなる細胞アレイを作製する場合に、1つのスポットに異種細胞が混合する場合がある。また、スフェロイド等の細胞凝集塊のアレイを作製する場合、スフェロイドができるまでに長時間を必要とする。本発明は、新たなアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を含む。
[1]軸方向が互いに平行になるように接して配置された複数の管と、前記複数の管の少なくとも1つの内部に配置された対象物質と、を含み、前記複数の管はアニオン性ハイドロゲルで構成されており、前記複数の管同士が接する面は、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着されている、アレイ。
[2]前記複数の管のうち、一部の管は内部に対象物質を含み、残部の管は対象物質を含まない、[1]に記載のアレイ。
[3]前記対象物質が細胞である、[1]又は[2]に記載のアレイ。
[4]前記細胞が化学物質に応答する細胞を含む、[3]に記載のアレイ。
[5]前記複数の管のうち、隣接する2個の管の内部に細胞が配置され、前記2個の管の周囲の管が細胞を含まない、[3]又は[4]に記載のアレイ。
[6][5]に記載のアレイを培地中でインキュベートする工程を含み、その結果、前記隣接する2個の管の内部に配置された細胞がそれぞれ増殖して互いに接触し、接触面を形成する、細胞培養方法。
[7]非凍結状態の細胞を生きたまま輸送する方法であって、[3]~[5]のいずれかに記載のアレイ及び培地を収容した容器を輸送する工程を含む方法。
[8]アレイの製造方法であって、アニオン性ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に対象物質を含むファイバを、軸方向が互いに平行になるように複数個接触させて配置し、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着して、ファイバのバンドルを得る工程と、前記バンドルを支持材に包埋する工程と、前記バンドルを前記支持材とともに切断して切片を得る工程と、を含み、前記切片がアレイである、製造方法。
[9]前記支持材の貯蔵弾性率を損失弾性率で割った商(貯蔵弾性率/損失弾性率)が10より大きく、且つ前記貯蔵弾性率が100kPa以下である、[8]に記載の製造方法。
[10]前記ファイバは、アニオン性ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に、漏斗型デバイスを通して対象物質を入れる工程により製造される、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]前記対象物質が細胞である、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新たなアレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】アレイの構造の一例を示す模式図である。
図2】ファイバの製造方法の一例を説明する模式図である。
図3】アレイの製造方法の一例を説明する模式図である。
図4】実験例1の結果を示すグラフである。
図5】実験例2において、蛍光ビーズアレイを蛍光顕微鏡で観察した写真である。
図6】実験例2において、蛍光ビーズアレイを蛍光顕微鏡で観察した写真である。
図7】(a)は、実験例2において細胞アレイ中の生細胞を検出した結果を示す写真である。(b)は、実験例2において細胞アレイ中の死細胞を検出した結果を示す写真である。(c)は、実験例2において細胞アレイ中の核を検出した結果を示す写真である。(d)は、(a)~(c)をマージした写真である。
図8】(a)は、実験例3においてカルシウムプローブの蛍光を撮影した蛍光顕微鏡写真である。(b)は、実験例3においてムスカリンの添加後のカルシウムプローブの蛍光強度を経時的に測定した結果を示すグラフである。
図9】(a)は、実験例4において輸送前の細胞アレイを観察した顕微鏡写真である。(b)は、実験例4において輸送後の細胞アレイを観察した顕微鏡写真である。(c)は、、実験例4において輸送後の生細胞を検出した結果を示す写真である。(d)は、実験例4において輸送後の死細胞を検出した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0009】
[アレイ]
1実施形態において、本発明は、軸方向が互いに平行になるように接して配置された複数の管と、前記複数の管の少なくとも1つの内部に配置された対象物質と、を含み、前記複数の管はアニオン性ハイドロゲルで構成されており、前記複数の管同士が接する面は、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着されている、アレイを提供する。
【0010】
対象物質としては、特に限定されず、動物細胞、植物細胞、微生物等の細胞、DNA、RNA、タンパク質等の生体分子、生体由来の組織片、低分子化合物等の化合物等が挙げられる。
【0011】
化合物としては例えば医薬が挙げられる。化合物はライブラリであってもよい。例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。
【0012】
例えば、対象物質がDNAである場合、本実施形態のアレイをDNAアレイとして利用することができる。同様に、対象物質がタンパク質である場合、本実施形態のアレイをタンパク質アレイとして利用することができる。以下、対象物質が細胞であるアレイを特に「細胞アレイ」という場合がある。
【0013】
例えば、3次元細胞構造であるスフェロイド等の細胞凝集塊は2次元培養細胞に比べてより生体に近いことから、薬剤スクリーニングや毒性試験等において今後更に使用されることが期待されている。本実施形態のアレイは、細胞凝集塊アレイとして利用することができ、生体模倣性の高い3次元組織アレイであるといえる。後述するように、本実施形態のアレイは、化学物質センサ、細胞の輸送手段、効率的な薬剤スクリーニング系等として利用することができ、また、野外等細胞培養が困難な場所での細胞試験等に利用することもできる。
【0014】
図1は、本実施形態のアレイの構造を示す模式図である。図1に示すように、アレイ100は、軸方向が互いに平行になるように接して配置された複数の管120と、前記複数の管120の少なくとも1つの内部に配置された対象物質110と、を含み、前記複数の管120はアニオン性ハイドロゲルで構成されており、前記複数の管120同士が接する面130は、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着されている。本明細書において、管の軸方向とは、管の中心軸に沿った方向を意味する。
【0015】
対象物質が細胞である場合、細胞に酸素や栄養分を供給する観点から、アレイの厚さは800μm以下であることが好ましく、200μm程度であることがより好ましい。
【0016】
ハイドロゲルとは、多量の水を含んだ3次元の網目構造体である。本実施形態のアレイにおいて、アニオン性ハイドロゲルとしては、アルギン酸ハイドロゲルを好適に用いることができる。アルギン酸ハイドロゲルとは、アルギン酸と二価の金属イオン(カルシウムイオンやバリウムイオン等)とが塩を形成して得られるハイドロゲルを意味する。
【0017】
アニオン性ハイドロゲルは、水、培地、緩衝液等の水系溶媒中において水和するため、水系溶媒中でアニオン性ハイドロゲル同士の接着状態を保つことは困難である。これに対し、発明者らは、以前に、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子(以下、「CNP」という場合がある。)を含む接着剤で、アニオン性ハイドロゲル同士を接着することができることを見出した。CNPで接着したアニオン性ハイドロゲルは、水系溶媒中でも安定に接着状態を維持することができる。また、CNPは細胞に対する毒性がほとんどない。CNPを含む接着剤については後述する。
【0018】
本実施形態のアレイが含む対象物質の種類は任意であり、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、本実施形態のアレイは、複数の管のすべてに対象物質を含んでいてもよい。あるいは、複数の管のうち、一部の管は内部に対象物質を含み、残部の管は対象物質を含まなくてもよい。対象物質を含む管と対象物質を含まない管の配置を制御することにより、対象物質の配置を任意に制御することができる。例えば、図1のアレイの例では、対象物質は格子状に配置されていないが、対象物質を含む管と対象物質を含まない管の配置を制御することにより、対象物質を格子状に配置することができる。
【0019】
本実施形態のアレイにおいて、対象物質が細胞であってもよい。また、細胞の少なくとも一部が化学物質に応答する細胞であってもよい。細胞を用いた化学物質センサはその感度の高さと選択性の高さから有用である。近年、遺伝子導入技術の発達により、細胞膜表面に任意の化学物質に対する受容体を発現させることが可能になり、細胞を用いた化学物質センサへの注目は更に高まっている。
【0020】
実施例において後述するように、例えば、ムスカリン性アセチルコリン受容体を発現させた細胞を配置した細胞アレイにムスカリンを反応させ、細胞内部へのカルシウムの流入を検出することができる。
【0021】
本実施形態のアレイは、複数の管のうち、隣接する2個の管の内部に細胞が配置され、前記2個の管の周囲の管が細胞を含まないものであってもよい。このようなアレイを培地中でインキュベートすると、隣接する2個の管の内部に配置された細胞がそれぞれ増殖して管からはみ出した細胞塊として成長し、互いに接触して接触面を形成する。内部に細胞が配置された、隣接する2個の管の組は、他の組と十分離れている限り、アレイ内に複数存在していてもよい。すなわち、本実施形態のアレイは、内部にそれぞれ細胞が配置された、隣接する2個の管のアレイであってもよい。
【0022】
生体の発生において、異なる種類の幹細胞同士が接触面を形成し、相互作用により器官を形成する場合があることが知られている。このような発生をインビトロで再現することは困難であるが、このようなアレイを用いることにより、異なる細胞同士に接触面を形成させ、解析することが可能である。
【0023】
したがって、1実施形態において、本発明は、複数の管のうち、隣接する2個の管の内部に細胞が配置され、前記2個の管の周囲の管が細胞を含まないアレイを培地中でインキュベートする工程を含み、その結果、前記隣接する2個の管の内部に配置された細胞がそれぞれ増殖して互いに接触し、接触面を形成する、細胞培養方法を提供する。
【0024】
(細胞)
本実施形態のアレイが細胞を含む場合、細胞としては、特に限定されず、例えば、細胞株、初代細胞、遺伝子改変細胞、induced pluripotent stem cells(iPS細胞)、embryonic stem cells(ES細胞)、組織幹細胞、幹細胞から分化誘導した細胞、これら細胞から形成された細胞塊(スフェロイド)、生体から分離された組織片等が挙げられる。
【0025】
(CNPを含む接着剤)
カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子(以下、「CNP」という場合がある。)を含む接着剤について説明する。ナノ粒子とは、平均粒子径が1μm未満である粒子をいう。CNPの平均粒子径は、1~100nmであることが好ましく、5~70nmであることがより好ましく、20~50nmであることがさらに好ましい。平均粒子径が上記範囲であることにより、アニオン性ハイドロゲルをより強固に接着できる傾向にある。また、可視光を通すことができ、接着剤の存在部位を透明にすることができる。
【0026】
また、CNPの表面の電荷は、例えば10~50mV程度であることが好ましい。
【0027】
CNPは、表面を被覆するカチオン性水溶性ポリマーと、コアとからなる。カチオン性水溶性ポリマーは、カチオン性官能基を有するポリマーであればよい。カチオン性官能基としては、例えば、第1級~第4級アミノ基、グアニジン基等が挙げられ、これらに限定されない。
【0028】
カチオン性水溶性ポリマーは、上記カチオン性官能基を有するモノマー(カチオン性モノマー)を重合させて得られる重合体である。カチオン性モノマーとしては、例えば、ビニルアミン、アリルアミン、エチレンイミン、3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)-(メタ)アクリルアミド、3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)-(メタ)アクリレート、アミノスチレン、2-(N,N-ジメチルアミノエチル)-(メタ)アクリルアミド、2-(N,N-ジメチルアミノエチル)-(メタ)アクリレート、及びそれらの塩、並びに、ハロゲン化ジアリルジアルキルアンモニウム等が挙げられる。これらのカチオン性モノマーは、1種を単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
カチオン性水溶性ポリマーは、上記カチオン性モノマーと、他のモノマーとを共重合させたポリマーであってもよい。他のモノマーとしては、親水性モノマーであってもよく、配合割合によっては、疎水性モノマーであってもよい。
【0030】
親水性モノマーとしては、水系溶媒中で中性のものであればよく、例えば、ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
疎水性モノマーとしては、例えば、以下の(i)~(v)に示すものが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
(i)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;
(ii)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸エステル類;
(iii)スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族オレフィン;
(iv)酢酸ビニル等のビニルエステル;
(v)アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のビニルニトリル。
【0032】
カチオン性水溶性ポリマーは、中でも、エチレンイミンを重合させて得られるポリエチレンイミン又はその塩であることが好ましい。ポリエチレンイミンは、エチレンイミンを公知の方法で開環重合して得られる重合体である。また、ポリエチレンイミンの塩は、ポリエチレンイミン中のアミノ基の一部又は全部が酸で中和されたものである。中和に使用する酸は、無機酸であってもよく、有機酸であってもよい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸等が挙げられる。
【0033】
CNPにおいて、コアを構成する材料は、疎水性ポリマーであることが好ましい。疎水性ポリマーであることにより、後述に示す製造方法により球状のCNPを含むエマルションを簡便に製造することができる。疎水性ポリマーは、疎水性モノマーを重合させて得られる重合体である。疎水性モノマーは、25℃での水への溶解度が10g/dL以下のものであればよく、具体的には、カチオン性水溶性ポリマー構成材料に含むことができる疎水性モノマーとして上述したものが挙げられる。
【0034】
また、疎水性ポリマーは、上記疎水性モノマーと架橋性モノマーとを共重合させたポリマーであってもよい。架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラアリルエタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
疎水性ポリマーは、中でも、スチレンを重合させて得られるポリスチレンであることが好ましい。
【0036】
CNPは、上述したカチオン性モノマーと疎水性モノマーとを水系溶媒中でラジカル重合開始剤の存在下において乳化重合させることで得ることができる。乳化重合において、上記疎水性モノマーの質量に対するカチオン性モノマーの配合量は、0.5~30質量%以下であることが好ましく、0.5~15質量%以下であることがより好ましく、0.5~5質量%以下であることがさらに好ましい。カチオン性モノマーの配合量が上記下限値以上であることにより、より安定して水系溶媒に分散したCNPを得ることができる。一方、カチオン性モノマーの配合量が上記上限値以下であることにより、適度に正の電荷を帯びたCNPを得やすい傾向にある。
【0037】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、以下の(i)~(v)に示すものが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
(i)2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物;
(ii)2,2’-アゾビス(2-アミ ジノプロパン)又はその塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)又はそのアルカリ金属塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]又はその塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエトル)プロピオンアミド]等の水溶性アゾ化合物;
(iii)ベンゾイルオキシパーオキサイド、ジターシャリイブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;
(iv)過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;
(v):上記(iv)と還元性物質(亜硫酸ナトリウム、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノ安息香酸等)とを組み合わせたレドックス開始剤
【0038】
ラジカル重合開始剤は、中でも、上記(ii)に示すものであることが好ましく、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]若しくはその塩酸塩、又は、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエトル)プロピオンアミド]であることが好ましい。
【0039】
乳化重合において、上記疎水性モノマーの質量に対するラジカル重合開始剤の配合量は、例えば0.001~2質量%以下とすることができる。また、乳化重合において用いられる水系溶媒としては、水を主成分とするものであればよく、例えば、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水等が挙げられる。
【0040】
また、乳化重合としては、ソープフリー乳化重合と呼ばれる低分子の乳化剤を使用しない方法であることが好ましい。この方法では、カチオン性水溶性ポリマーと、疎水性ポリマーとの親水性及び疎水性のバランスをとることにより、ポリマーが水系溶媒中で微粒子を形成するため、簡便にCNPを得ることができる。
【0041】
乳化重合において、重合系全体の質量に対するカチオン性水溶性ポリマー及び疎水性ポリマーの合計配合量は、通常、1~70質量%以下であり、10~60質量%以下であることが好ましく、20~60質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
また、CNPを製造する系としては、例えばバッチ式重合系、連続チューブ式重合系、半連続重合系等の方法が挙げられる。バッチ式重合系の場合、原料を仕込む手順としては以下の(i)~(iii)に示すもの等が挙げられ、これらに限定されない。
(i)カチオン性モノマー、疎水性モノマー及びラジカル重合開始剤を一括して反応槽に仕込んで重合を行う方法;
(ii)カチオン性モノマー、疎水性モノマー及びラジカル重合開始剤をそれぞれ個別に滴下しつつ重合する方法;
(iii)疎水性モノマー及びラジカル重合開始剤の混合物を(カチオン性モノマー)を含む水中に滴下しつつ重合する方法
【0043】
重合温度と時間は、モノマーの重合性、並びに、開始剤の分解温度及び半減期等により選択される。重合温度は、通常30~130℃とすることができ、50~100℃であることが好ましい。重合時間は、通常1~10時間とすることができる。
【0044】
CNPを含む接着剤は、粉末状であってもよく、液体状であってもよい。また、CNPを含む接着剤は、CNP以外に、CNPのカチオン性を損なわない程度に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、安定剤、増粘剤、防腐剤等が挙げられる。
【0045】
CNPを含む接着剤が液体状である場合、例えば、水系溶媒を含んでいてもよい。水系溶媒としては、特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝効果のある生理食塩水等が挙げられる。前記緩衝効果のある生理食塩水としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、HEPES緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0046】
また、水系溶媒以外に、水溶性の有機溶剤を含んでいていてもよい。水溶性の有機溶剤としては、例えば、低級アルコール、アセトン、ジオキサン、エチレングリコール等が挙げられる。前記低級アルコールとしては、炭素数1~3の1価のアルコールであればよく、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0047】
[非凍結状態の細胞を生きたまま輸送する方法]
1実施形態において、本発明は、非凍結状態の細胞を生きたまま輸送する方法であって、上述した細胞アレイ及び培地を収容した容器を輸送する工程を含む方法を提供する。実施例において後述するように、本実施形態の方法により、非凍結状態の細胞を生きたまま輸送することができる。
【0048】
輸送期間中、細胞アレイは基板上に固定されていることが好ましい。基板は、ガラスであってもよく、樹脂であってもよく、金属等であってもよいが、顕微鏡で観察しやすい観点から、透明なガラス又は樹脂が扱いやすい。細胞アレイの基板上への固定には、上述したCNPを利用することができる。
【0049】
輸送期間中、細胞アレイ及び培地を収容した容器を断熱材等で包み、細胞アレイ及び培地の温度を、33~36℃に保つことが好ましい。また、細胞アレイ及び培地を収容した容器とともにCOガス発生剤を同包し、CO濃度を細胞培養環境に保つことが好ましい。少なくとも2日間の輸送については、細胞を生きたまま且つ細胞の機能を保ったまま輸送できることが確認されている。
【0050】
[アレイの製造方法]
1実施形態において、本発明は、アレイの製造方法であって、アニオン性ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に対象物質を含むファイバを、軸方向が互いに平行になるように複数個接触させて配置し、カチオン性水溶性ポリマーで表面が被覆されたナノ粒子を含む接着剤で接着して、ファイバのバンドルを得る工程と、前記バンドルを支持材に包埋する工程と、前記バンドルを前記支持材とともに切断して切片を得る工程と、を含み、前記切片がアレイである、製造方法を提供する。本実施形態の製造方法により、上述したアレイを製造することができる。
【0051】
(ファイバ)
まず、対象物質を含むファイバの製造方法を説明する。ファイバは、アニオン性ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に対象物質を含む繊維状の構造体である。アニオン性ハイドロゲルについては上述したものと同様である。また、対象物質も特に限定されず、上述したものと同様である。
【0052】
ファイバの製造方法は特に限定されないが、例えば、図2に示すような二重の同軸マイクロ流体装置(coaxial microfluidic device)を用いることにより簡便に製造することができる。2つの流体を同軸となるようにコア部及びシェル部に分けて射出することができるマイクロ流体装置は、例えば、Wonje Jeong, et al., Hydrodynamic microfabrication via "on the fly" photopolymerization of microscale fibers and tubes, Lab Chip, 2004, 4, 576-580 のFig.1にも具体的に説明されている。
【0053】
図2は、ファイバ300の製造方法の一例を説明する模式図である。ここでは、対象物質が細胞であり、コア部の材料に培地、細胞及び細胞外マトリックスの混合液(以下、「細胞混合液」という。)を用い、シェル部の材料に架橋前のアルギン酸ナトリウム溶液を用いた場合について説明する。細胞外マトリックスとしては、マトリゲル、コラーゲンゲル等を利用することができる。
【0054】
まず、マイクロ流体装置200の導入口210から、細胞混合液を導入して射出する。また、マイクロ流体装置200の導入口220から、架橋前のアルギン酸ナトリウム溶液を導入して射出する。また、マイクロ流体装置200の導入口230から、塩化カルシウム溶液を導入して射出する。すると、シェル部のアルギン酸ナトリウム溶液がゲル化し、コア部310が細胞を含むハイドロゲルであり、シェル部320がアルギン酸ハイドロゲルであるファイバを製造することができる。
【0055】
導入口210及び220における溶液の射出速度は特に限定されないが、マイクロ流体装置200の口径が50μm~2mm程度である場合には、10~500μL/分程度であってもよい。導入口210及び220における溶液の射出速度を調節することにより、コア部の直径及びシェル部の被覆厚みを適宜調節できる。導入口230における溶液の射出速度は特に限定されないが、例えば1~10mL/分程度であってもよい。
【0056】
また、対象物質を含まないハイドロゲルファイバを製造する場合には、上述した細胞混合液の代わりに対象物質を含まないハイドロゲルを用いればよい。また、対象物質が細胞以外の物質である場合、コア部の材料として、当該対象物質及び当該対象物質に適したハイドロゲル材料の混合物を用いればよい。
【0057】
ファイバの製造方法は上述したものに限られない。例えば、ファイバに含ませる対象物質が貴重で少量しか用意できない場合がある。このような場合には、アニオン性ハイドロゲルで構成されたチューブの内部に、漏斗型デバイスを通して対象物質を入れる工程により、ファイバを製造することが有効である。これにより、ファイバの作製に必要な対象物質の量を減らすことができる。
【0058】
(ファイバのバンドル)
図3は、本実施形態の製造方法を説明する模式図である。まず、ファイバのバンドルを製造する。図3に示すように、まず、上述したファイバ300を、軸方向が互いに平行になるように複数個接触させて配置する。続いて、上述したCNPを含む接着剤で接着してファイバ300のバンドル400を得る。
【0059】
ここで、一部の管が内部に対象物質を含み、残部の管は対象物質を含まないアレイを製造する場合には、一部のファイバ300の代わりに対象物質を含まないハイドロゲルファイバを用いてバンドル400を製造すればよい。
【0060】
(支持材)
続いて、ファイバのバンドル400を支持材500に包埋する。バンドル400を直接切断しても、うまくアレイを切り出すことができない。バンドル400を支持材500に包埋し、支持材とともに切断することにより、バンドル400を構成するファイバを、軸線方向に対して垂直に切断することが可能になる。また、対象物質を含む層を確実に切断し、アレイを得ることが可能になる。
【0061】
支持材500の貯蔵弾性率を損失弾性率で割った商(貯蔵弾性率/損失弾性率)は、10より大きく、且つ前記貯蔵弾性率が100kPa以下であることが好ましい。
【0062】
実施例において後述するように、支持材500の貯蔵弾性率を損失弾性率で割った商(貯蔵弾性率/損失弾性率)が10より大きく、且つ前記貯蔵弾性率が100kPa以下である場合に、アレイを正確に切り出すことができる傾向にある。
【0063】
支持材500の貯蔵弾性率及び損失弾性率は、市販のレオメーターを用いて動的粘弾性試験を行い、1Hzで測定された値を用いるとよい。
【0064】
(アレイの切り出し)
続いて、バンドル400を支持材500とともに切断して切片を得る。例えば、ミクロトーム用のブレード610を2枚重ねたカッター600を、支持材500の切断線510に沿って押し当て、バンドル400を支持材500とともに切断することにより、切片が得られる。この切片がアレイである。カッター600において、2枚のブレード610の間の距離が200μmである場合、アレイの厚さは200μmとなる。
【実施例
【0065】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0066】
[実験例1]
(支持材の検討)
上述したように、ファイバのバンドルを切断する時には支持材に包埋する必要がある。本実験例では、支持材の検討を行った。支持材としては、アルギン酸ハイドロゲルを使用した。
【0067】
アルギン酸ハイドロゲルの材料であるグルコン酸の割合、マンヌロン酸の割合、アルギン酸ナトリウムの濃度、カルシウムイオンの濃度を変化させて、GEL1~5の5種類のアルギン酸ハイドロゲルを作製して支持材とし、ファイバのバンドルを包埋した。
【0068】
続いて、レオメーター(型式「MCR302」、アントンパール社)を用いて、各支持材の動的粘弾性試験を行い、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G’’)を1Hzで測定した。図4は、各支持材の貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G’’)の測定結果を示すグラフである。
【0069】
また、各支持材に包埋したファイバのバンドルを切断し、アレイを切り出した。その結果、GEL1~3を支持材に用いた場合には、アレイを切り出すことができることが明らかとなった。一方、GEL4、5を支持材に用いた場合には、アレイを切り出すことができなかった。
【0070】
以上の結果から、支持材の貯蔵弾性率(G’)を損失弾性率(G’’)で割った商が10より大きく(G’/G’’>10)、且つ貯蔵弾性率(G’)が100kPa以下(G’≦100kPa)である場合に、アレイを正確に切り出すことができることが明らかとなった。
【0071】
[実験例2]
(アレイの作製)
《蛍光ビーズアレイ》
まず、対象物質として蛍光ビーズを使用して蛍光ビーズアレイの作製を試みた。蛍光ビーズとして、FluoSpheres Carboxylate-modified microspheres red、yellow-green、blue(いずれもサーモフィッシャーサイエンティフィック社)を使用した。
【0072】
続いて、各蛍光ビーズを含むファイバを作製した。続いて、作製したファイバを、上述したCNPを含む接着剤で接着してバンドルを作製した。続いて、バンドルを支持材に包埋し、2枚重ねたミクロトーム用のブレードで切断し、蛍光ビーズアレイを得た。
【0073】
図5は、作製した蛍光ビーズアレイを蛍光顕微鏡で観察した写真である。その結果、顕微鏡で観察可能な蛍光ビーズアレイを作製できたことが確認された。
【0074】
また、図6は、同様の方法で作製した複数の蛍光ビーズアレイを蛍光顕微鏡で観察した写真である。図6中、左下には、蛍光ビーズアレイの1つを拡大した写真を示す。その結果、本実験例の方法により、均一な蛍光ビーズアレイを多数作製できることが確認された。
【0075】
《細胞アレイ》
続いて、対象物質として細胞を使用して細胞アレイの作製を試みた。蛍光ビーズの代わりにヒト胎児腎由来の細胞株であるHEK293T細胞を使用した以外は上記と同様にして、細胞アレイを作製した。続いて、作製した細胞アレイ中の細胞が生きているか否かを検討した。具体的には、細胞アレイを、生細胞染色試薬である、カルセインAM(タカラバイオ株式会社)、死細胞染色試薬であるエチジウムブロマイド(タカラバイオ株式会社)、及び、核を染色する試薬であるHoechst33342(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0076】
図7(a)~(d)は、細胞アレイを蛍光顕微鏡で観察した写真である。図7(a)は生細胞を検出した結果を示す写真である。図7(b)は死細胞を検出した結果を示す写真である。図7(c)は核を検出した結果を示す写真である。図7(d)は図7(a)~(c)をマージした写真である。その結果、細胞アレイ中の細胞が生きていることが確認された。
【0077】
[実験例3]
(細胞を用いた化学物質センサ)
細胞アレイ中の細胞にムスカリン受容体を発現させ、ムスカリンに対する応答性を検討した。
【0078】
具体的には、まず、実験の2日前に、ヒト胎児腎由来の細胞株であるHEK293T細胞に、ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体(ムスカリン受容体)の発現ベクターを導入し、一過性に発現させた。続いて、この細胞を用いて細胞アレイを作製した。
【0079】
続いて、この細胞アレイの培地に100mMムスカリンを添加し、細胞へのカルシウムイオンの流入を測定した。細胞へのカルシウムイオンの流入は、カルシウムプローブであるFluo-8,AM(AAT Bioquest社)を培地に添加し、その蛍光を蛍光顕微鏡で観察することにより検出した。
【0080】
図8(a)は培地に添加したムスカリンに反応して、カルシウムプローブが蛍光を発している様子を撮影した蛍光顕微鏡写真である。図8(b)は、ムスカリンの添加後のカルシウムプローブの蛍光強度を経時的に測定した結果を示すグラフである。
【0081】
その結果、ムスカリン受容体を発現させた細胞がムスカリンに応答する様子を観察できることが確認された。この結果は、細胞アレイを化学物質センサとして利用できることを示す。
【0082】
[実験例4]
(細胞の輸送)
細胞アレイの形態で、細胞を生きたまま輸送できるか否かを検討した。具体的には、まず、上述したCNPを含む接着剤で細胞アレイをガラス基板に固定し、培地とともに6ウェルプレートに収容した。続いて、6ウェルプレートをCOガス発生剤(商品名「カルチャーパル」、コスモバイオ株式会社)とともに市販の保温輸送用ボックス(サンプラテック社)に入れて梱包した。この保温輸送用ボックスは、外気温が25℃の条件で、内部の温度を33~36℃に150時間以上維持することができる。
【0083】
続いて、保温輸送用ボックスを宅配便で輸送し、神奈川県と京都府の間を往復した。2日間の輸送の後、細胞アレイの状態を評価した。
【0084】
具体的には、輸送後の細胞アレイを、生細胞染色試薬である、カルセインAM(タカラバイオ株式会社)及び死細胞染色試薬であるエチジウムブロマイド(タカラバイオ株式会社)で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0085】
図9(a)~(d)は、細胞アレイを顕微鏡で観察した写真である。図9(a)は輸送前の細胞アレイを観察した顕微鏡写真である。図9(b)は輸送後の細胞アレイを観察した顕微鏡写真である。図9(c)は輸送後の生細胞を検出した結果を示す写真である。図9(d)は輸送後の死細胞を検出した結果を示す写真である。
【0086】
その結果、輸送後も細胞アレイの位置関係が維持されていることが確認された。また、輸送後もほとんどの細胞が生存していることが確認された。
【0087】
また、同様の実験を、ムスカリン受容体安定発現細胞で作製した細胞アレイで行った結果、輸送後にムスカリンに対する応答性を維持していることが確認された。
【0088】
以上の結果は、細胞アレイの形態で輸送することにより、非凍結状態の細胞を生きたまま且つ細胞の機能を保ったまま輸送することができることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、新たなアレイを提供することができる。
【符号の説明】
【0090】
100…アレイ、120…管、110…対象物質、130…面、200…マイクロ流体装置、210,220,230…導入口、310…コア部、320…シェル部、300…ファイバ、400…バンドル、500…支持材、510…切断線、610…ブレード、600…カッター。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9