(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】ゲル材料
(51)【国際特許分類】
C08J 3/075 20060101AFI20230414BHJP
C08F 220/30 20060101ALI20230414BHJP
C08F 212/14 20060101ALI20230414BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230414BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230414BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C08J3/075 CER
C08F220/30 ZBP
C08F212/14
A61L27/16
A61L27/52
A61L27/40
(21)【出願番号】P 2019548757
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033428
(87)【国際公開番号】W WO2020045387
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018159783
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グン 剣萍
(72)【発明者】
【氏名】黒川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】郭 宏磊
(72)【発明者】
【氏名】松田 昂大
(72)【発明者】
【氏名】余 承涛
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-531737(JP,A)
【文献】特公昭48-007259(JP,B1)
【文献】特表2005-526879(JP,A)
【文献】特表2006-503118(JP,A)
【文献】特開平01-210605(JP,A)
【文献】特開2004-292648(JP,A)
【文献】SHINTARO MORISADA ET AL,Temperature-swing adsorption of aromatic compounds in water using polyampholyte gel,ADSORPTION,2008年03月28日,VOL.14, NO.4/5,621-628
【文献】TAO LIN SUN ET AL,Physical hydrogels composed of polyampholytes demonstrate high toughness and viscoelasticity,NATURE MATERIALS,2013年07月28日,VOL.12, NO.10,932-937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28; 99/00
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
A61L 15/00- 33/18
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
G02B 1/00- 1/18
G02C 1/00- 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)のモノマーに由来する繰り返し単位を有し、
含水率が20質量%以上95質量%以下、かつ
引張弾性率が9MPa以上1000MPa以下、
引張破断伸度が50%以上5000%以下、
モノマー組成物中の各モノマー成分のモル数の合計の濃度(Cm、単位モル/L)が
1.5~2.5、
前記(A)のモノマーに由来する繰り返し単位と前記(B)のモノマーに由来する繰り返し単位の比率(モル/モル)が49/51~57/43、
であるゲル材料。
(A)
下記式(1)で表されるアニオン性モノマー。
【化1】
[式中X
1
は、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基からなる群から選ばれた基を表し、
Z
1
は、スルホ基、及びカルボキシ基からなる群から選ばれた基の塩を表し、
L
1
及びL
2
は、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~5のアルキレン基を表し、
Y
1
及びY
2
は直接結合であり、
R
1
は、炭素数1~5のアルキル基を表し、
R
2
~R
4
は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~10のアルキル基、及びフェニル基からなる群から選ばれた基を表し、
mは0~4の整数を表す。]
(B)下記式(2)で表されるカチオン性モノマー
【化2】
[式中X
3
は、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基からなる群から選ばれた基を表し、
Z
3
は、第4級アンモニウム塩を表し、
L
3
及びL
4
は、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~5のアルキレン基を表し、
Y
3
及びY
4
は直接結合を表し、
R
5
は、炭素数1~5のアルキル基を表し、
R
6
~R
8
は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~10のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選ばれた基を表し、
nは0~4の整数を表す。]
【請求項2】
60℃以上250℃以下の範囲のいずれかの温度において熱成型可能である請求項1に記載のゲル材料。
【請求項3】
上記(A)及び(B)のモノマーに由来する繰り返し単位を含む共重合ポリマーを含む請求項1又は2に記載のゲル材料。
【請求項4】
前記(A)がベンジル(メタ)アクリレート系アニオン性モノマー、ベンジル(メタ)アクリルアミド系アニオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリレート系アニオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリルアミド系アニオン性モノマー、及びスチレン系アニオン性モノマーからなる群から選ばれたアニオン性モノマーである請求項1~3のいずれか1項に記載のゲル材料。
【請求項5】
前記(B)がベンジル(メタ)アクリレート系カチオン性モノマー、ベンジル(メタ)アクリルアミド系カチオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリレート系カチオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリルアミド系カチオン性モノマー、及びスチレン系カチオン性モノマーからなる群から選ばれたカチオン性モノマーである請求項1~3のいずれか1項に記載のゲル材料。
【請求項6】
前記(A)がスチレンスルホン
酸の塩である請求項1~
5のいずれか1項に記載のゲル材料。
【請求項7】
前記(B)がジアルキルアミノアルキルスチレ
ンの塩である請求項1~
6のいずれか1項に記載のゲル材料。
【請求項8】
前記(B)が(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドである請求項
7記載のゲル材料。
【請求項9】
光学的に透明である請求項1~
8のいずれか1項に記載のゲル材料。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のゲル材料からなる医療用ゲル材料。
【請求項11】
請求項
10に記載の医療用ゲル材料からなる眼科用ゲル材料。
【請求項12】
請求項
11に記載の眼科用ゲル材料からなる眼用レンズ用ゲル材料。
【請求項13】
請求項10に記載の医療用ゲル材料を含む医療デバイス。
【請求項14】
眼用レンズである請求項
13に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル材料は、高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に液体を吸収して膨潤した構造を有する材料であり、特に液体が水であるものをハイドロゲル材料という。
【0003】
ゲル材料は、柔軟性や液体保持性等に優れるという特性を有することから注目を集めている有用な素材であり、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連などの多岐にわたる分野に対する利用が期待されている。
【0004】
ゲル材料としては共有結合によって架橋された高分子が一般的であるが、イオン結合、静電相互作用、疎水性相互作用等の物理的相互作用で架橋された高分子も知られている。非特許文献1~3にはイオン結合で架橋されたゲル材料(イオン結合ゲル材料)が開示されている。また、非特許文献4には、共有結合で架橋されたゲル吸着体が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature Materials, 12, 932 (2013)
【文献】Nature Materials, Supplementary Information, DOI: 10.1038/NMAT3713 (2013)
【文献】Macromolecules, 50, 2923 (2017)
【文献】Adsorption, 14, 621 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲル材料の課題として、機械物性の向上が挙げられる。すなわち、ゲル材料は内部に液体を保持しているため液体が可塑剤となり機械物性が不十分、すなわち軟らかい(引張弾性率が小さい)という課題があった。
【0007】
例えば、非特許文献1~3に開示されたイオン結合ゲル材料は、引張弾性率が低く軟らかいという点で依然として改善の余地があった。
【0008】
本発明は、前記の課題を解決し、高含水率で機械物性に優れたゲル材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下のものを提供する。
(1)下記(A)及び(B)のモノマーに由来する繰り返し単位を有し、
含水率が20質量%以上95質量%以下、かつ
引張弾性率が9MPa以上1000MPa以下、
引張破断伸度が50%以上5000%以下、
であるゲル材料。
(A)重合性炭素炭素多重結合及び芳香環を有するアニオン性モノマー
(B)重合性炭素炭素多重結合及び芳香環を有するカチオン性モノマー
(2)60℃以上250℃以下の範囲のいずれかの温度において熱成型可能である(1)に記載のゲル材料。
(3)上記(A)及び(B)のモノマーに由来する繰り返し単位を含む共重合ポリマーを含む(1)又は(2)のいずれか1項に記載のゲル材料。
(4)前記(A)が下記式(1)で表されるアニオン性モノマーである(1)~(3)のいずれか1項に記載のゲル材料。
【0010】
【0011】
[式中X1は、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基からなる群から選ばれた基を表し、
Z1は、スルホ基、及びカルボキシ基からなる群から選ばれた基、またはその塩を表し、
L1及びL2は、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、
Y1は、直接結合、又はO、S、及びN―R2からなる群から選ばれた基を表し、
Y2は、直接結合、またはO、S、N―R3、OCO、およびN-R4COからなる群から選ばれた基を表し、
R1は、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ハロゲノ基、及び水酸基からなる群から選ばれた基を表し、
R2~R4は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~10のアルキル基、及びフェニル基からなる群から選ばれた基を表し、
mは0~4の整数を表す。]
【0012】
(5)前記L1及びL2が、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~5のアルキレン基であり、
前記Y1及びY2が直接結合であり、
前記R1が炭素数1~5のアルキル基である、(4)記載のゲル材料。
(6)前記(B)が下記式(2)で表されるカチオン性モノマーである(1)~(5)のいずれか1項に記載のゲル材料。
【0013】
【0014】
[式中X3は、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基からなる群から選ばれた基を表し、
Z3は、アミノ基、又はその塩を表し、
L3及びL4は、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、
Y3は、直接結合、またはO、S、およびN―R6からなる群から選ばれた基を表し、
Y4は、直接結合、またはO、S、N―R7、OCO、およびN-R8COからなる群から選ばれた基を表し、
R5は、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ハロゲノ基、および水酸基からなる群から選ばれた基を表し、
R6~R8は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~10のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選ばれた基を表し、
nは0~4の整数を表す。]
【0015】
(7)前記Z3が第4級アンモニウム塩であり、
前記L3及びL4が、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~5のアルキレン基であり、
前記Y3及びY4が直接結合であり、
前記R5が、炭素数1~5のアルキル基である、(6)記載のゲル材料。
【0016】
(8)前記(A)がベンジル(メタ)アクリレート系アニオン性モノマー、ベンジル(メタ)アクリルアミド系アニオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリレート系アニオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリルアミド系アニオン性モノマー、及びスチレン系アニオン性モノマーからなる群から選ばれたアニオン性モノマーである(1)~(3)のいずれか1項に記載のゲル材料。
【0017】
(9)前記(B)がベンジル(メタ)アクリレート系カチオン性モノマー、ベンジル(メタ)アクリルアミド系カチオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリレート系カチオン性モノマー、フェニル(メタ)アクリルアミド系カチオン性モノマー、及びスチレン系カチオン性モノマーからなる群から選ばれたカチオン性モノマーである(1)~(3)のいずれか1項に記載のゲル材料。
【0018】
(10)前記(A)がスチレンスルホン酸又はその塩である(1)~(9)のいずれか1項に記載のゲル材料。
(11)前記(B)がジアルキルアミノアルキルスチレン又はその塩である(1)~(10)のいずれか1項に記載のゲル材料。
(12)前記(B)が(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドである(11)記載のゲル材料。
(13)光学的に透明である(1)~(12)のいずれか1項に記載のゲル材料。
(14)(1)~(13)のいずれか1項に記載のゲル材料からなる医療用ゲル材料。
(15)(14)に記載の医療用ゲル材料からなる眼科用ゲル材料。
(16)(15)に記載の眼科用ゲル材料からなる眼用レンズ用ゲル材料。
(17)(14)に記載の医療用ゲル材料を含む医療デバイス。
(18)眼用レンズである(17)に記載の医療デバイス。
【発明の効果】
【0019】
本発明のゲル材料は、高い含水率を持ちながら、引張弾性率が高くて硬いという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】下記実施例及び比較例において測定した、体積膨潤率(Qv)および含水率(Qw)の測定結果を示す図である。
【
図2】下記実施例及び比較例において測定した、引張破断応力(σb)および引張弾性率(E)の測定結果を示す図である。
【
図3】下記実施例及び比較例において測定した、体積膨潤率(Qv)および含水率(Qw)の測定結果を示す図である。
【
図4】下記実施例及び比較例において測定した、引張伸度と応力の関係を示す図である。
【
図5】下記実施例及び比較例において測定した、引張試験の結果を示す図である。
【
図6】下記実施例において行った、熱成型性の評価方法を説明する図である。
【
図7】下記実施例及び比較例において測定した、可視光線吸収スペクトル測定の結果を示す図である。
【
図8】下記実施例2のシートを人形型にカットして60℃の水中に2ヶ月間保管し、室温に戻してサイズを比較した図である。
【
図9】下記実施例2のシートを60℃の水中に1週間、1ヶ月間、および2ヶ月間保管した後、室温に戻して引張試験を実施した結果を示す図である。
【
図10】下記比較例13のシートの動的粘弾性を測定した結果を示す図である。
【
図11】下記比較例14のシートの動的粘弾性を測定した結果を示す図である。
【
図12】下記実施例5のシートの動的粘弾性を測定した結果を示す図である。
【
図13】下記実施例6のシートの動的粘弾性を測定した結果を示す図である。
【
図14】下記実施例7のシートの動的粘弾性を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のゲル材料は、含水性と適度な硬さ(弾性率)を有し、強靱で破損しにくいことから、例えば、人工軟骨、人工皮膚、人工筋肉、人工乳房、人工関節、人工角膜、人工血管などの人工器官用材料、生体内に導入されて輸液、気体輸送、排液等を行うチューブや回路、内部に治療器具や観察器具を包摂して生体内に導入されるチューブ、血液浄化フィルター、生体表面を被覆して生体表面を保護または治療する被覆材、薬剤等を包摂して生体内に導入される担体、といった医療デバイス;細胞培養シート、組織再生用足場材料といったバイオテクノロジー用デバイス;メガネレンズ、強角膜レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、角膜インプラントなどの眼用レンズ;保湿シート、保湿材といった農業/ガーデニングデバイス;濾過デバイス;生物付着防止材料、タンパク質付着防止材料、脂質付着防止剤量といった防汚材料;顔用バック等の美容デバイス;芳香剤用基材、トイレタリー用品などに用いられるゲル体;防振材料;電池、発電デバイス、電解デバイス等に用いられる電解質材料;アクチュエーター;衝撃吸収構造体;工業用保護フィルム;圧電素子などのエネルギー関連材料;印刷材料等である。
【0022】
本明細書中の各種物性値は、特段の断りがない場合は、試料の含水状態における値である。
本明細書において含水状態とは、試料の平衡含水状態である。含水状態は試料を室温(24℃)の純水に24時間以上浸漬することで得られる。含水状態における物性値の測定は、試験片を純水から取り出した後、可及的速やかに表面の水分をきれいな布で軽く拭き取った後、可及的速やかに実施される。物性値の測定は、特に断りがない場合は室温(24℃)で行われる。
【0023】
本発明において乾燥状態とは、含水状態の試料を真空乾燥機で40℃、16時間以上真空乾燥を行った状態を意味する。乾燥状態での物性値の測定は、試験片を乾燥装置から可及的速やかに取り出した後、可及的速やかに実施される。物性値の測定は、特に断りがない場合は室温(24℃)で行われる。
【0024】
本発明において含水率とは、試料の含水状態の質量(M1)、及び乾燥状態の質量(M2)を測定し、次式により算出した値を指す。
含水率(%)=(M1-M2)/M1×100
【0025】
本明細書において、生体とは、主としてヒトを含む脊椎動物の生体を意味する。
【0026】
本発明に用いられるゲル材料は、含水率が20質量%以上95質量%以下の範囲内である。含水率が20質量%以上であれば生体へのなじみが良いために好ましい。含水率が低すぎると、表面の濡れ性が不足したり、生体粘膜の表面への貼り付きが生じたりするために好ましくない。含水率が高すぎるとゲル材料の乾燥に伴う形状変化が大きいために好ましくない。含水率の下限値は25質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、35質量%がさらに好ましく、40質量%がさらにより好ましい。含水率の上限値は90質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましく、65質量%がさらにより好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。
【0027】
本発明のゲル材料は、9MPa以上1000MPa以下の引張弾性率を有する。引張弾性率が9MPa以上であれば、生体への適用を考えた場合、十分硬い材料であり、種々のデバイス用の構造材料として好適である。引張弾性率が1000MPa以下であれば、硬すぎて生体が不快に感じたり傷ついたりすることが少なく、種々のデバイス用の構造材料として好適である。引張弾性率の下限値は10MPaが好ましく、20MPaがより好ましく、30MPaがさらに好ましく、50MPaがよりいっそう好ましい。引張弾性率の上限値は500MPaが好ましく、300MPaがより好ましく、200MPaがさらに好ましく、100MPaがよりいっそう好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。なお、本明細書中の引張弾性率は、特段の断りがない場合は、含水状態における引張弾性率である。
【0028】
本発明のゲル材料は、50%以上5000%以下の引張破断伸度を有する。引張破断伸度が50%以下であれば、当該ゲル材料の破損が起こやすくなるので好ましくなく、引張破断伸度が5000%以上であれば、当該ゲル材料の変形が起こりやすくなる傾向があり好ましくない。引張破断伸度の下限値は80%が好ましく、100%がより好ましく、200%がさらに好ましく、300%がよりいっそう好ましい。引張破断伸度の上限値は3000%が好ましく、2000%がより好ましく、1000%がさらに好ましく、800%がよりいっそう好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。なお、本明細書中の引張破断伸度は、特段の断りがない場合は、含水状態における引張破断伸度である。
【0029】
ある局面において、本発明のゲル材料は熱成型可能であることが好ましい。ゲル材料は三次元的な網目構造を有するが故に、いったんゲル材料が形成されると別の形に成型しなおすことは一般に困難であるが、物理的相互作用は共有結合よりも低温で解離するので、物理的相互作用で架橋されたゲル材料は熱成型が可能となる可能性がある。本発明のゲル材料は、物理的相互作用であるイオン結合で架橋されて三次元的な網目構造を形成している。本発明のゲル材料は、共有結合による架橋を、熱成型性発現の妨げにならない程度の少ない量だけ有するか、あるいは全く有さないことが好ましく、全く有さないことがより好ましい。
【0030】
本発明のゲル材料は、60℃以上250℃以下の範囲のいずれかの温度において熱成型可能であることが好ましい。ここで、熱成型可能とは、ゲル材料を所定温度の水中において別の形状に変形させた後に室温の水中に戻し、当該ゲル材料を含水状態に戻した時に、当該ゲル材料が外部応力を加え続けなくても所望の形状(ただし元の形状とは異なる)を保つことができることを意味する。ただし、熱成型後のゲル材料は、本発明で規定する物性要件を満たす必要がある。したがって、例えば、熱成型の過程で不可逆的に内部の液体が失われて、熱成型後には本発明で規定する含水率とならないような場合は、熱成型可能とはみなさない。また、例えば、含水状態に戻す前は別形状に成型されていても、含水状態に戻すと元の形状に戻るような場合も熱成型可能とはみなさない。熱成型温度は、60℃以上200℃以下の範囲のいずれかの温度が好ましく、65℃以上150℃以下の範囲のいずれかの温度がより好ましく、65℃以上100℃以下の範囲のいずれかの温度がさらに好ましく、70℃以上95℃以下の範囲のいずれかの温度がよりいっそう好ましい。温度範囲の上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。熱成型温度が100℃を超える場合は、当該熱成型は耐圧容器の中で行うことができる。
【0031】
本発明のゲル材料は、熱成型可能であるためには、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率が40℃および70℃において特定の範囲にあることが好ましい。本発明のゲル材料の動的粘弾性測定は、含水状態の試料を用いて実施される。前記貯蔵弾性率は、40℃において、9MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましい。また、前記貯蔵弾性率は、40℃において、1000MPa以下が好ましく、100MPa以下がより好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。さらに、本発明のゲル材料の前記貯蔵弾性率は、70℃において、0.1MPa以下が好ましく、0.08MPa以下がより好ましく、0.06MPa以下がさらに好ましい。前記貯蔵弾性率は、70℃において、0.001MPa以上が好ましく、0.003MPa以上がより好ましく、0.005MPa以上がさらに好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。
【0032】
本発明のゲル材料は、光学的に透明であることが好ましい。光学的に透明であれば、ゲル材料で隔てられた反対側の状況を肉眼で把握しやすいために好ましい。光学的に透明なゲル材料は、医療デバイス、特に眼科用医療デバイス、中でも眼用レンズに好適に使用できる。
【0033】
本発明のゲル材料は、可視光線透過率が波長400nm~800nmの全領域において70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。可視光線透過率は、厚さ1.3~1.5mmの含水状態のシートを用いて測定される。
【0034】
本発明のゲル材料は下記(A)および(B)のモノマーに由来する繰り返し単位を有する。
(A)重合性炭素炭素多重結合および芳香環を有するアニオン性モノマー
(B)重合性炭素炭素多重結合および芳香環を有するカチオン性モノマー
前記(A)および(B)のモノマーは、それぞれ1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
本明細書で用いる(メタ)という用語は、任意であるメチル置換を示す。したがって、例えば「(メタ)アクリレート」という用語はメタクリレートとアクリレートの両方を表す。「(メタ)アクリルアミド」、「(メタ)アクリロイル」等の用語も同様である。
【0036】
本明細書で用いる「(メタ)アクリレート」という用語は、(メタ)アクリル酸エステルを表す。
【0037】
本明細書で用いる「モノマー」という用語は、重合性炭素炭素多重結合を1つ以上有する化合物を表す。
【0038】
本明細書で用いる「モノマー組成物」という用語は、重合に供する前のモノマー、重合開始剤、溶媒等の混合物を指す。
【0039】
本明細書中の「繰り返し単位」について説明する。本発明において、「繰り返し単位」は、モノマーを重合したときに、重合反応によりモノマーの重合性炭素炭素多重結合が変化して生じる、該モノマーの構造に対応した高分子中の繰り返し構造の一単位を表す。
【0040】
前記(A)および(B)のモノマーは重合性炭素炭素多重結合を有する。重合性炭素炭素多重結合を含む基の具体例としては、エチニル基、プロパルギル基、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、シアノアクリロイル基、イタコン酸基、マレイン酸基、フマル酸基等を挙げることができる。これらの中で重合の容易さという観点では、スチリル基と(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0041】
前記(A)および(B)のモノマーは芳香環を有する。芳香環の好適な具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラフェン環、ピレン環、ペリレン環、フルオレン環、フラン環、チオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環等を挙げることができる。これらの中でモノマー入手の容易さという観点では、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環が好ましく、ベンゼン環が最も好ましい。
【0042】
前記(A)のモノマーはアニオン性モノマーであり、アニオン性基を有する。アニオン性基の具体例としては、スルホン酸基、硫酸基、カルボキシ基、ホスホン酸基、りん酸基を挙げることができる。これらの中でアニオンの強さという観点では、スルホン酸基、硫酸基、カルボキシ基が好ましく、中でもスルホン酸基が好ましい。これらのアニオン性基は対応する塩であってもよい。塩としては金属塩が好ましく、アルカリ金属塩が好適である。
【0043】
前記(A)のアニオン性モノマーとしては、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0044】
【0045】
[式中X1は、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基からなる群から選ばれた基を表し、
Z1は、スルホ基、及びカルボキシ基からなる群から選ばれた基、またはその塩を表し、
L1及びL2は、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~10のアルキレン基を表し、
Y1は、直接結合、又はO、S、及びN―R2からなる群から選ばれた基を表し、
Y2は、直接結合、またはO、S、N―R3、OCO、およびN-R4COからなる群から選ばれた基を表し、
R1は、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ハロゲノ基、及び水酸基からなる群から選ばれた基を表し、
R2~R4は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~10のアルキル基、及びフェニル基からなる群から選ばれた基を表し、
mは0~4の整数を表す。]
X1は、好ましくはビニル基である。
Z1は、好ましくはスルホ基またはその塩である。
L1は、直接結合、または炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、直接結合、または炭素数1~2のアルキレン基がより好ましく、直接結合がさらに好ましい。
L2は、直接結合、または炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、直接結合、またはメチレン基がより好ましく、直接結合がさらに好ましい。
Y1は、直接結合、または、O、およびN―R2からなる群から選ばれた基が好ましく、直接結合、またはOがより好ましく、直接結合がさらに好ましい。
Y2は、直接結合、またはOCOが好ましく、直接結合がより好ましい。
R1は、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、およびプロピル基からなる群から選ばれた基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
R2~R4は、それぞれ独立に、水素、および炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素、メチル基、エチル基、およびプロピル基からなる群から選ばれた基がより好ましく、水素がさらに好ましい。
mは、0または1が好ましく、0がより好ましい。
【0046】
前記式(1)において、前記L1及びL2が、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~5のアルキレン基であり、前記Y1及びY2が直接結合であり、前記R1が炭素数1~5のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0047】
前記(A)のモノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、ビニル安息香酸、ビニルトルエンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、カルボキシメチルスチレン、スルホメチルスチレン、ビニルベンジル硫酸、スルホメチルビニルナフタレン、スルホキシメチルビニルナフタレン、フタル酸 2-メタクリロイルオキシエチル、およびこれらの塩が好ましく、スチレンスルホン酸およびその塩が最も好ましい。
【0048】
前記(B)のモノマーはカチオン性モノマーであり、カチオン性基を有する。カチオン性基の具体例としては、アミノ基、ホスフィン基を挙げることがでる。カチオンの強さという観点では、アミノ基が好ましい。アミノ基は1つ又は2つの有機基で置換されていてもよく、その場合の有機基は炭素数1~5のアルキルが好ましい。これらのカチオン性基は対応する塩であってもよい。アミノ基の塩である場合、第4級アンモニウム塩も好適である。
【0049】
前記(B)のカチオン性モノマーとしては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0050】
【0051】
[式中X3は、(メタ)アクリロイル基、及びビニル基からなる群から選ばれた基を表し、
Z3は、アミノ基、又はその塩を表し、
Y3は、直接結合、またはO、S、およびN―R6からなる群から選ばれた基を表し、
Y4は、直接結合、またはO、S、N―R7、OCO、およびN-R8COからなる群から選ばれた基を表し、
R5は、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ハロゲノ基、および水酸基からなる群から選ばれた基を表し、
R6~R8は、それぞれ独立に水素、炭素数1~10のアルキル基、およびフェニル基からなる群から選ばれた基を表し、
nは0~4の整数を表す。]
X3は、(メタ)アクリロイル基、およびビニル基からなる群から選ばれた基を表すが、好ましくはビニル基である。
Z3は、アミノ基、またはその塩を表す。アミノ基は1つあるいは2つの有機基で置換されていてもよく、その場合の有機基は炭素数1~5のアルキルが好ましく、炭素数1~3のアルキルがより好ましく、メチル基がさらに好ましい。アミノ基は対応する塩であってもよく、第4級アンモニウム塩も好適である。
L3およびL4は、それぞれ独立に、直接結合、または炭素数1~10のアルキレン基を表す。L1としては、直接結合、または炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、直接結合、または炭素数1~2のアルキレン基がより好ましく、直接結合がさらに好ましい。L2としては、直接結合、または炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、直接結合、またはメチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
Y3は、直接結合、またはO、およびN―R6からなる群から選ばれた基が好ましく、直接結合、またはOがより好ましく、直接結合がさらに好ましい。
Y4は、直接結合、またはOCOが好ましく、直接結合がより好ましい。
R5は、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、およびプロピル基からなる群から選ばれた基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
R6~R8は、それぞれ独立に、水素、および炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素、メチル基、エチル基、およびプロピル基からなる群から選ばれた基がより好ましく、水素がさらに好ましい。
nは、0または1が好ましく、0がより好ましい。
【0052】
前記式(2)において、前記Z3が第4級アンモニウム塩であり、前記L3及びL4が、それぞれ独立に、直接結合、又は炭素数1~5のアルキレン基であり、前記Y3及びY4が直接結合であり、前記R5が、炭素数1~5のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0053】
前記(B)のモノマーの具体例としては、アミノスチレン、アルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノスチレン、アミノアルキルスチレン、アルキルアミノアルキルスチレン、ジアルキルアミノアルキルスチレン、およびこれらの塩が好ましい。ここで、各アルキル基は炭素数1~5のアルキル基が好ましい。1分子中に複数のアルキル基が存在する場合は、それぞれが異なるアルキル基であってもよい。アルキル基としては、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。ジアルキルアミノアルキルスチレンおよびその塩は好ましく、より好ましい具体例は、ビニルベンジルジメチルアミンおよびビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩である。
【0054】
前記(A)のモノマーに由来する繰り返し単位と前記(B)のモノマーに由来する繰り返し単位の比率(モル/モル)は、高弾性率のゲル材料が得られやすいという点で、35/65~75/25の範囲が好ましく、40/60~65/35の範囲がより好ましく、45/55~60/40の範囲がさらに好ましく、49/51~57/43の範囲がよりいっそう好ましい。
【0055】
本発明のゲル材料は、前記(A)および(B)以外のモノマー〔以下(C)とする〕に由来する繰返し単位を有していてもよい。(C)のモノマーに由来する繰返し単位を有することでゲル材料の物性を調整することができる。
【0056】
前記(C)のモノマーは、重合性炭素炭素多重結合を有するものであるが、重合性炭素炭素多重結合を含む基の具体例としては、エチニル基、プロパルギル基、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、シアノアクリロイル基、イタコン酸基、マレイン酸基、フマル酸基等を挙げることができる。これらの中で重合の容易さという観点では、スチリル基と(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0057】
前記(C)のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルカルボン酸エステル類、N-ビニルカルボン酸アミド類、N-ビニルラクタム類、マレイン酸、マレイン酸エステル類、マレイミド類、イタコン酸、イタコン酸エステル類、スチレン類が挙げられる。
【0058】
前記(C)のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ネオペンチル、メタクリル酸ネオペンチル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸セチル、メタクリル酸セチルなどのアルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルなとの炭素数6~12のシクロアルキル基を有するシクロアルキル(メタ)アクリレート;アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジルなどのアラルキル基の炭素数が7~12の(メタ)アクリル酸アリールエステル;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチルなどのヒドロキシアルキル基の炭素数が2~6の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチルなどのアルコキシアルキル基の炭素数が2~8の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;アクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸エチルカルビトールなどのアルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルカルビトール;N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド、N-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-オクチルアクリルアミド、N-オクチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミドなどのアルキル基の炭素数が1~12のアルキル(メタ)アクリルアミド:N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミドなどのアルコキシ基の炭素数が1~6のアルコキシ(メタ)アクリルアミド;アクリロイルモルホリン、メタクリルリロイルモルホリンなどの(メタ)アクリロイルモルホリン;ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンジメタクリルアミドなどのジアセトン(メタ)アクリルアミド;スチレン、メチルスチレンなどのスチレン系モノマー;イタコン酸メチル、イタコン酸エチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外のアルキル基の炭素数が1~4の脂肪酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタムなどの窒素原子含有モノマー;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、メタクリルアミドメチルスルホン酸などのスルホン酸類;エチレンオキサイド変性リン酸アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸メタクリレートなどのアルキレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート;N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-メタクリルリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジエチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-メタクリルリロイルオキシエチル-N,N-ジエチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-メタクリルリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジエチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-メタクリルリロイルオキシエチル-N,N-ジエチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-メタクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-アクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-メタクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-メタクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-アクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタイン、N-メタクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアンモニウム-β-N-エチルカルボキシベタインなどのベタイン系モノマーなどが挙げられる。これらのモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
前記(C)のモノマーは、水またはアルコールへの溶解性を有するものが好ましい。
【0060】
機械強度に優れたゲル材料を得る観点から、前記(C)のモノマー由来の繰り返し単位の含有量は、ゲル材料の乾燥質量に対して、好ましくは
50質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましく30質量%以下、よりいっそう好ましくは20質量%以下である。下限値は0質量%であるが、ゲル材料の物性を調整するという観点からは、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上がよりいっそう好ましい。下限値と上限値とはどれとどれを組み合わせてもよい。
【0061】
本発明のゲル材料は、重合性炭素炭素多重結合を2つ以上有する多官能モノマー(架橋モノマー)由来の繰り返し単位を含んでもよい。
【0062】
架橋モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個有する(メタ)アクリルアミド化合物;重合性炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個または3個有する芳香族化合物;(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個または3個有する(メタ)アクリレート化合物;アリル基を2個以上、好ましくは2個または3個有する化合物等が好適である。これらの中で(メタ)アクリロイル基を2個以上有する(メタ)アクリルアミド化合物は、ゲル材料が脆くなるなど機械物性に悪影響を及ぼす場合がある。その観点では、重合性炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個または3個有する芳香族化合物;(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個または3個有する(メタ)アクリレート化合物が好ましく、中でも(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個または3個有する(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
【0063】
架橋モノマーの好適な例としては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミドなどのアルキレン基の炭素数が1~4のアルキレンビス(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個有する(メタ)アクリルアミド化合物;ジビニルベンゼン、ジアリルベンゼンなどの重合性炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個または3個有する芳香族化合物;エチレンジアクリレート、エチレンジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジアクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個または3個有する(メタ)アクリレート化合物;ジアリルアミン、トリアリルアミンなどが挙げられる。架橋モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0064】
ある局面において、本発明のゲル材料は、熱変形等が起こらず高い耐熱性を有することが求められる。高い耐熱性を有することで、高温下での使用が可能になったり、医療デバイスの蒸気滅菌(代表的には121℃)が適用できる利点がある。
【0065】
本発明のゲル材料は、架橋モノマー由来の繰り返し単位を含む場合は、高い耐熱性を有するようになるために好ましい。架橋モノマー由来の繰り返し単位の含有量は、ゲル材料の乾燥質量に対して、0.01~25質量%が好ましい。下限値としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましく、及び5質量%がさらにより好ましい。上限値としては、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましく、10質量%がさらにより好ましい。下限値と上限値とはどれとどれを組み合わせてもよい。
【0066】
本発明のゲル材料が熱成型可能であるためには、架橋モノマー由来の繰り返し単位を含まないことが好ましい。
【0067】
本発明のゲル材料は、(1)前記(A)のアニオン性モノマーに由来する繰り返し単位と前記(B)のカチオン性モノマーに由来する繰り返し単位とを含む共重合ポリマー、又は(2)前記(A)のアニオン性モノマーに由来する繰り返し単位を含むポリマーと、前記(B)のカチオン性モノマーに由来する繰り返し単位を含むポリマーとの混合物から主として成り、(1)の共重合ポリマーを含むものが好ましい。なお、ここで、共重合は、ランダム共重合、ブロック共重合、分岐共重合のいずれであってもよい。各ポリマーは、上記した(C)のモノマーに由来する繰り返し単位をさらに含んでいてもよい。ここで、「主として成る」とは、ゲル材料を構成する全ポリマー中、当該ポリマーの割合が50質量%超であることを意味し、この割合は、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。本発明のゲル材料は、本発明の効果を阻害しない範囲内で他のポリマーを含んでいてもよい。他のポリマーの例としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN,N-ジメチルアクリルアミド、及びポリ(N-メチル-N-ビニルアセトアミド)等のアミド系ポリマー;ポリスチレン、及びポリビニルナフタレン等のスチレン系ポリマー;ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリメトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリフェニル(メタ)アクリレート、及びポリベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系ポリマー;ポリグルタミン酸等のポリアミノ酸やポリペプチド;プルラン、ヒアルロン酸、アルギン酸、セルロース類等の各種多糖類及びその誘導体;ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の各種ポリエステル類;各種ポリウレタン類;ポリエチレンオキシド等のポリエーテル類;を挙げることができる。これらの他のポリマーの割合は、本発明の効果を阻害しない範囲であり、通常、50質量%未満、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、最も好ましくは0質量%(すなわち含まない)である。
【0068】
本発明のゲル材料は、モノマー組成物を重合させて得ることができる。
【0069】
モノマー組成物には、溶媒を加えることができる。 溶媒としては、水および有機溶媒が好ましく、水、親水性有機溶媒、および水と親水性有機溶媒の混合物がより好ましく、水が最も好ましい。親水性有機溶媒とは20℃の水に1質量%以上の濃度で溶解する有機溶媒である。溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
親水性有機溶媒の好適な例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの炭素数が1~4の1価の脂肪族アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコールなどの脂肪族多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライムなどのエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどのアミド;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのイオウ含有有機溶媒;酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの親水性有機溶媒のなかでは、柔軟性に優れるとともに高機械的強度を有する水性ゲルを得る観点から、炭素数が1~4の1価の脂肪族アルコールおよびジメチルスルホキシドが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびジメチルスルホキシドがより好ましく、イソプロピルアルコールおよびジメチルスルホキシドがさらに好ましい。
【0071】
ゲル材料のモノマー組成物の濃度は、モノマー組成物中の各モノマー成分のモル数の合計の濃度(Cm、単位モル/L)の下限値が0.4が好ましく、1.0がより好ましく、1.5がさらに好ましく、2.0がよりいっそう好ましい。モノマー組成物は無溶媒であってもよいが、溶媒を加える場合、Cmの上限値は5が好ましく、4がより好ましく、3がさらに好ましく、2.5がよりいっそう好ましい。下限値と上限値とはどれとどれを組み合わせてもよい。
【0072】
以下、モル/LをMと表記する場合がある。
【0073】
モノマー組成物には、分子量を調整するために連鎖移動剤を加えてもよい。連鎖移動剤の好適な例としては、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、メチル2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオネート、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3-アジド-1-プロパノールエステル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸ペンタフルオロフェニルエステル、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのメルカプタン基含有化合物、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の好適な量は、通常、モノマー組成物中の各モノマー成分の合計質量100質量部あたり0.01~10質量部である。
【0074】
モノマー組成物には、重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。
【0075】
熱重合開始剤として好適な例は、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられるこれらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
重合開始剤として熱重合開始剤を用いる場合、当該熱重合開始剤の量は、モノマー組成物中の各モノマー成分の合計質量100質量部あたり、通常、0.01~20質量部程度であることが好ましい。
【0077】
光重合開始剤の好適な例としては、2-オキソグルタル酸、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-メチル[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ベンゾフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル1-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
重合開始剤として光重合開始剤を用いる場合、当該光重合開始剤の量は、モノマー組成物中の各モノマー成分の合計質量100質量部あたり、通常、0.01~20質量部程度であることが好ましい。
【0079】
モノマー組成物の重合反応温度は、50~120℃程度である。また、モノマー成分の重合反応時間は、重合反応温度などによっても異なるが、通常、3~20時間程度である。
【0080】
重合は多段階であってもよい。例えば、第一段階で前記(A)のモノマーを含み前記(B)のモノマーは含まないモノマー組成物を重合してポリマーを得る。第二段階では、前記(B)のモノマーを含み前記(A)のモノマーは含まないモノマー組成物と第一段階で得られたポリマーとを混合した後重合して本発明のゲル材料を得る。第二段階では、ポリマーにモノマー組成物を含浸させてもよい。また、前記(A)のモノマーと前記(B)のモノマーを入れ替えて順番を変えてもかまわない。
【0081】
別の例を挙げる。前記(A)のモノマーを含み前記(B)のモノマーは含まないモノマー組成物を重合してポリマー(a)を得る。別途、前記(B)のモノマーを含み前記(A)のモノマーは含まないモノマー組成物を重合してポリマー(b)を得る。その後、ポリマー(a)とポリマー(b)を混合して本発明のゲル材料を得る。
【0082】
前記モノマー組成物を所望の内部形状を有する成形型(モールド)内に入れて重合させて、当該モールドの内部形状に対応した形状を有するゲル材料を得ることができる。また、モノマー組成物を基材上に流延した場合には、例えば、厚さが50μm~5mm程度のフィルム状ないしシート状のゲル材料を得ることができる。また、ゲル材料を塊状、棒状、あるいは板状に成型してから、スライス加工、切削加工、あるいは旋盤加工などによって所望の形状に仕上げる方法も好適である。
【0083】
得られたゲル材料は、残存するモノマーやオリゴマー、重合溶媒などの溶出可能な不要成分を除去するため、溶媒(洗浄溶媒)で洗浄することが好ましい。洗浄溶媒は、水、親水性有機溶媒、および水と親水性有機溶媒の混合物が好適である。洗浄溶媒に用いられる親水性有機溶媒の好適な例は、前述のものと同様である。洗浄溶媒としては、水、アルコール類、水とアルコール類の混合物が好ましい。より好ましくは、水、および、イソプロピルアルコールと水の混合物である。
【0084】
ゲル材料の洗浄は、ゲル材料を洗浄溶媒中に浸漬し、必要に応じて洗浄溶媒を流動させることで行うことが一般的である。
【0085】
洗浄温度は、室温~120℃の範囲、洗浄時間は1分間~1ヶ月間の範囲がそれぞれ好ましい。
【0086】
前記モノマー組成物には、本発明のゲル材料の目的を阻害しない範囲内で、抗菌剤、防腐剤、着色剤、紫外線吸収剤、香料、可塑剤、酸化防止剤などの添加剤が適量で含まれていてもよい。
【0087】
本発明のゲル材料には、必要により、繊維、織布、不織布、樹脂シート、樹脂フィルムなどの補強材が設けられていてもよい。
【0088】
本発明のゲル材料は、医療デバイスに特に好適であり、人工角膜、眼用レンズ、シャント、涙点プラグ、涙道カテーテルなどの眼科用デバイスとして好適である。中でも、メガネレンズ、強角膜レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、角膜インプラントなどの眼用レンズには好適であり、強角膜レンズ、ハードコンタクトレンズ、およびハイブリッドコンタクトレンズには特に好適である。ここでハイブリッドコンタクトレンズとは、硬い材料と軟らかい材料を組み合わせて構成されたコンタクトレンズであり、代表的な構成としては、中心部が硬い材料、周辺部が軟らかい材料からなるものである。ハイブリッドコンタクトレンズの別の代表的な構成としては、多層構造からなり、眼球に触れる面が軟らかい材料からなる層であり、それ以外に硬い材料からなる層を有するものである。本発明のゲル材料は含水していることから透水性があり、厚さ方向に涙液の交換が起こりうるので、装用時に眼の中での動きが小さく涙液交換が起こりにくい強角膜レンズ、およびハイブリッドコンタクトレンズには特に好適である。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0090】
〔シートの作製〕
ゲル材料のシートを以下の方法で作製した。
【0091】
ゲル材料は、アニオン性モノマーであるp-スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)、およびカチオン性モノマーである(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド(VBTA)の一段階ランダム共重合で得た。所定量のNaSS、VBTA、および紫外線重合開始剤である2-オキソグルタル酸(モノマーの合計モル数に対して0.2モル%)を所定量の水に均一に溶解させてモノマー組成物を調製した。厚さが3mmで一辺の長さが10cmのガラス板2枚をシリコーンゴムをシールとして隔てたモールドを用意した。目的に応じてシリコーンゴムの厚さを調整することによって、得られるシートの厚さを調整した。モノマー組成物をモールドの内部に充填した。紫外線照射機〔UVP(株)製、品番:95-0042-12〕を用いて照度4mW/cm2、波長365nmの紫外線を10時間照射して重合を行った。得られたシートを大過剰量の純水に浸漬し、室温で2週間放置して、ゲル材料(PNV)の含水量を平衡化するとともに、溶出可能な重合残存物を洗い出した。
【0092】
以後、下記の略号を用いることがある。
Cm:モノマー組成物中の全モノマーの濃度(M)
f:モノマー組成物中のNaSSのモル数/モノマー組成物中の全モノマーのモル数
以後、各条件で調製したPNVサンプルを PNV-Cm-f のような略号で表す場合がある。
【0093】
〔体積膨潤率の測定〕
厚さ2mmのシリコーンゴムを用いてゲル材料のシートを作製した。重合直後のゲル材料のシートの中心部分(約5cm×約5cm)を切り出した。シートの特定の1辺の長さをノギスで正確に測定した。このシートを大過剰量の純水に浸漬し、室温で2週間放置して、ゲル材料の含水量を平衡化するとともに、溶出可能な重合残存物を洗い出した。得られたシートの特定の1辺の長さをノギスで正確に測定した。(平衡化後のシートの辺の長さ)と(重合直後のゲルの辺の長さ)の比の3乗を体積膨潤率とした。
【0094】
〔含水率の測定〕
厚さ2mmのシリコーンゴムを用いて作製した含水状態のゲル材料シート(約2.5cm×約2.5cm、2枚)の質量(M1)を測定し、その後、このシートを乾燥状態にして質量(M2)を測定した。測定には精密天秤を使用した。
【0095】
〔引張試験〕
厚さ2mmのシリコーンゴムを用いて作製したゲル材料のシートを、JIS K6251で規定されたダンベル7号型(測定部の長さ12mm、幅2mm)に打ち抜き、専用のチャックでORIENTEC社製万能試験機 TENSILON RTC-1310Aに固定し、速度100mm/minで引張試験を行った。引張破断応力を「引張破断時の力/元の断面積」という式により、また、引張破断伸度を「引張破断時の長さ/元の長さ」という式により求めた。また、引張応力―歪曲線の初期の直線部の傾きを引張弾性率とした。なお、試料がコンタクトレンズの場合は、幅3mmの短冊状に切り出したものを用いて同様に引張試験を実施することができる。
【0096】
〔水の静止接触角測定〕
DropMaster300接触角計(協和界面科学株式会社)を用いて測定した。疎水化したシリンジを用いて、ゲル材料のシート(含水状態)の表面に2.0μLの水滴を慎重に置いた。水滴は同一試料上の異なる場所に5つ以上置いて、それぞれの接触角を測定し、平均値を求めた。
【0097】
〔示差走査熱量分析(DSC)〕
DSC分析はEXSTAR X-DSC700(EXSTAR,Japan)を用いて行った。ゲル材料のシート(含水状態)から切り出した試料(5.0-8.0mg)を、まず、降温速度50℃/分で-80℃に冷却した。試料を-80℃で10分間保持した後加熱して昇温速度5℃/分で30℃まで昇温した。
【0098】
〔広角X線回折(WAXD)〕
WAXDパターンはbeamline BL16B1[Shanghai Synchrotron Radiation Facility(SSRF)]で波長0.124nmのX線を用いて測定した。X線回析装置 RU-200(リガク製)を用い、以下の条件で測定した。
X線源:CuKα線(Niフィルター)
温度:25℃
出力:40kV-200mA
試料-検出器間距離:137mm
測定範囲:2θ=7°~40°
スキャン速度:2°/min
試料(含水状態):厚さ1.35mm
試料(乾燥状態):粉末
【0099】
〔可視光線透過率〕
ゲル材料のシート(含水状態、厚さ1.35mm)の透明性を評価した。UV-1800紫外可視分光光度計(島津製作所製)を用い、24℃で測定した。測定は800nm~400nmの波長範囲で実施した。
【0100】
〔動的粘弾性評価〕
ARESレオメータ(TAインスツルメント製)を用いて測定した。ゲル材料シート(含水状態、厚さ約1.3mm)を直径15mmの円板にカットして測定試料とした。シアノアクリレート系接着剤“アロンアルファ”(コニシ製)を用いて試料をプレートに接着し、試料を水で取り囲んで水和した状態を維持した。温度スイープ試験は、周波数範囲:0.1Hz~100Hz、剪断歪み:10%の条件で行った。周波数スイープ試験は、周波数範囲:0℃~90℃、温度範囲:0℃~88℃の条件で行った。
【0101】
実施例1~7、および比較例1~14
前記〔シートの作製〕に記載の方法に従い、表1記載のCmおよびfにてゲル材料のシートを作製した。
【0102】
【0103】
〔PNV-2.5-fの体積膨潤率と含水率の評価〕
実施例1~4および比較例1~9に関して、体積膨潤率(Qv)および含水率(Qw)を評価した。結果を
図1に示した。
【0104】
〔PNV-2.5-fの引張破断応力と引張弾性率の評価〕
実施例1~4および比較例1~9に関して、引張破断応力(σb)および引張弾性率(E)を評価した。結果を
図2に示した。
【0105】
〔PNV-Cm-0.52の体積膨潤率と含水率の評価〕
実施例5~7および比較例10~14に関して、体積膨潤率(Qv)および含水率(Qw)を評価した。結果を
図3に示した。なお、比較例10~12(Cm0.05~0.3)においてはCmが小さすぎて重合後もゲル材料が形成されていなかった。
【0106】
〔PNV-Cm-0.52の引張試験〕
実施例5~7および比較例13~14に関して、引張試験を行った。
【0107】
引張伸度と応力の関係を
図4に示した。図中の曲線に添えてある0.5~2.5の数字はCm(M)である。
【0108】
引張試験の結果を
図5に示した。
図5の横軸はCmを表す。グラフの縦棒は3本が1組になっているが、それぞれ左から、引張破断伸度(E)、引張破断応力(σb)、および引張破断仕事(Wextf)を表す。
【0109】
引張破断仕事は応力-歪曲線の応力値を歪みゼロから破断まで積分することにより算出した。すなわち、引張破断仕事は応力-歪曲線と横軸により囲まれた面積に相当する。
【0110】
〔PNV-2.5-0.52の熱成型性の評価〕
PNV-2.5-0.52の熱成型性を下記の手順で確認した。
【0111】
厚さ2mmのシリコーンゴムを用いて作製した実施例2のシートをカットして、幅1cm、長さ10cmの短冊にした[
図6(i)]。 短冊を80℃の水中に1分間浸漬した後短冊をねじり、室温の水中に浸漬した[
図6(ii)]。短冊はねじった状態で形状が固定され熱成型性があることが分かった。このねじれた短冊は500gの重りを吊すことができた[
図6(iii)]。ねじれた短冊を80℃の水中に1分間浸漬すると形状が元に戻り、その後室温の水中に浸漬した[
図6(iv)]。この短冊を80℃の水中に1分間浸漬した後フック状に曲げ、室温の水中に浸漬した[
図6(v)]。短冊はフック形状に固定された。得られたフックは200gの重りを吊すことができた[
図6(vi)]。
【0112】
〔PNV-2.5-0.52の各種特性の評価〕
PNV-2.5-0.52(実施例2)の評価を行った。
【0113】
シート(含水状態)の表面における水の静止接触角は55゜であり、表面の濡れ性が認められた。
【0114】
含水率は55.2%であった。DSC分析による評価では、当該ゲル材料中の水の内、28%が自由水、72%が不凍水または中間水であった。
【0115】
広角X線回折測定の結果、含水状態でも乾燥状態でも結晶性は認められなかった。
【0116】
可視光線透過率測定の結果、当該ゲル材料シートの可視光線透過率は全域にわたって82%以上であり、無色透明であった(
図7)。
【0117】
〔PNV-2.5-0.52の熱安定性の評価〕
PNV-2.5-0.52(実施例2)の熱安定性の評価を行った。
【0118】
実施例2のシートを人形型にカットして60℃の水中に2ヶ月間保管した。室温に戻してサイズを比較したところ保管前と変化がなかった(
図8)。
【0119】
実施例2のシートを60℃の水中に1週間、1ヶ月間、および2ヶ月間保管した。室温に戻して引張試験を実施した(
図9)。
図9の横軸は保管期間を表す。グラフの縦棒は3本が1組になっているが、それぞれ左から、引張破断伸度(E)、引張破断応力(σb)、および引張破断仕事(Wextf)を表す。いずれの物性値も保管前の値と比較して大きな変化はなく、熱安定性に優れていることが分かった。
【0120】
〔PNV-Cm-0.52の動的粘弾性測定〕
比較例13、比較例14、および実施例5~7で得られた含水状態のシートの動的粘弾性を測定した。結果を
図10(Cm=0.5)、
図11(Cm=1.0)、
図12(Cm=1.5)、
図13(Cm=2.0)、および
図14(Cm=2.5)に示した。なお、
図10~14において、G’は貯蔵弾性率、G”は損失弾性率、Tanδは損失正接をそれぞれ表す。