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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】根系採取方法及び根系採取装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019126610
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2021010335
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】吉留 克彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 えりか
(72)【発明者】
【氏名】野見山 綾介
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 葵
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-193872(JP,A)
【文献】特開平04-092012(JP,A)
【文献】特開2018-033343(JP,A)
【文献】ごきげん店長,苗を定植する方法,水耕栽培Q&A,日本,2011年05月06日,[2022年11月24日検索],インターネット<URL:http://q-and-a.gokigen-yasai.com/?eid=46>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00 - 2/38
A01G 5/00 - 7/06
A01G 9/00 - 9/08
A01G 9/28
A01G 17/00 - 17/02
A01G 17/18
A01G 20/00 - 22/67
A01G 24/00 - 24/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポットで栽培している植物の根を採取する根系採取方法であって、
前記植物を栽培している前記ポットに潅水し、
潅水させた前記ポットに振動を与えることで前記ポット内の土壌を液状化させ、
前記植物に線材の一端を取り付け、
前記線材の他端に荷重を付加し、
前記植物の前記根から前記土壌が離れることで前記植物を前記線材で吊り上げる
ことを特徴とする根系採取方法。
【請求項2】
前記振動は上下方向であることを特徴とする請求項1に記載の根系採取方法。
【請求項3】
前記振動を与えている前記ポットの底部から水を供給することで、前記土壌を前記ポットの上部から流出させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の根系採取方法。
【請求項4】
前記ポットに供給する前記水を、前記ポット内で旋回させる方向に吐出する
ことを特徴とする請求項3に記載の根系採取方法。
【請求項5】
前記ポットから流出する前記土壌を前記水とともに貯留する
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の根系採取方法。
【請求項6】
ポットで栽培している植物の根を採取する根系採取装置であって、
前記ポットを載置する固定台と、
振動を発生させる振動源と、
前記振動源で発生させた前記振動を前記固定台に伝達する振動伝達部材と
を備え、
前記振動を与えることで前記ポット内の土壌を液状化させる
ことを特徴とする根系採取装置。
【請求項7】
ポットで栽培している植物の根を採取する根系採取装置であって、
前記ポットを載置する固定台と、
振動を発生させる振動源と、
前記振動源で発生させた前記振動を前記固定台に伝達する振動伝達部材と
を備え、
底部に注水口を有する前記ポットを用い、
前記注水口に装着するホース接続部材を備え、
前記ホース接続部材の一端には水を供給するホースを接続し、
前記ホース接続部材の他端には吐出口を有し、
前記ホースから供給される前記水を前記吐出口から吐出させることで、前記水を前記ポット内に供給する
ことを特徴とする根系採取装置。
【請求項8】
前記ホース接続部材を前記注水口に装着した状態では、前記吐出口から吐出される前記水が前記ポットの内周面に沿う流れとなる
ことを特徴とする請求項7に記載の根系採取装置。
【請求項9】
前記固定台の下方位置に配置する水受けを備えた
ことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の根系採取装置。
【請求項10】
前記植物に一端を取り付ける線材と、
前記線材を吊り下げる線材吊り下げ部材と、
前記線材の他端に取り付ける錘と
を備えた
ことを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の根系採取装置。
【請求項11】
前記振動源を取り付ける第1支持部材と、
前記第1支持部材を支持する第2支持部材と、
前記第2支持部材を支持する第3支持部材と
を備え、
前記第2支持部材には、前記第1支持部材からの荷重を受ける位置に第1緩衝材を設け、
前記第3支持部材には、前記第2支持部材からの荷重を受ける位置に第2緩衝材を設け、
前記第1支持部材及び前記第2支持部材には、前記第2支持部材に対する前記第1支持部材の位置ずれを規制するずれ規制部材を設けた
ことを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の根系採取装置。
【請求項12】
前記第1緩衝材には貫通孔を形成し、
前記第1支持部材には、
前記第1緩衝材に載置する脚部と、
前記脚部から下方に延出させた棒部と
を有し、
前記棒部を前記貫通孔に挿通し、
前記棒部に前記振動源を吊り下げ、
前記貫通孔と前記棒部とで前記ずれ規制部材を構成する
ことを特徴とする請求項11に記載の根系採取装置。
【請求項13】
前記固定台が、
前記ポットの下部に取り付ける下部固定部材と、
前記ポットの上部に取り付ける上部固定部材と
を備え、
前記下部固定部材の下面に、筒状の前記振動伝達部材を設け、
前記振動源に有する振動軸を前記振動伝達部材に固定具を用いて固定する
ことを特徴とする請求項6から請求項12のいずれか1項に記載の根系採取装置。
【請求項14】
前記下部固定部材が、
前記ポットの底面を受ける下部底面受け部材と、
前記ポットの下部外周面の外周に位置させる下部外周壁部材と、
前記下部外周壁部材の外方に設けた複数の下部係合部材と
を有し、
前記上部固定部材が、
前記ポットの上端に当接させる上端面当接部材と、
前記ポットの上部外周面の外周に位置させる上部外周壁部材と、
前記上部外周壁部材の外方に設けた複数の上部係合部材と
を有し、
前記下部係合部材と前記上部係合部材とにゴムバンド又はワイヤーを引っ掛けることで前記ポットを前記固定台に固定する
ことを特徴とする請求項13に記載の根系採取装置。
【請求項15】
植物の根を採取する根系採取装置であって、
前記植物を前記根に付着している土壌とともに入れる袋体を保持する固定台と、
振動を発生させる振動源と、
前記振動源で発生させた前記振動を前記固定台に伝達する振動伝達部材と
を備え、
前記振動を与えることで、前記植物を栽培しているポット内の土壌を液状化させる
ことを特徴とする根系採取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の根を採取する根系採取方法、及びこの採取方法に適した根系採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
根は植物の生長に必要な養分の吸収を担う器官であり、根系の調査は植物の生育特性等を評価するために重要な項目の一つである。特に根の先端に近いほど養分吸収量が多いと言われており(非特許文献1)、養分吸収における細根の役割は大きいと考えられる。しかし、細根はその重要性が示唆されているにもかかわらず、採取が困難であることから、採取が比較的容易な主根や一次根のような太い根に比べて調査対象としづらいという問題があった。
ワグネルポットで栽培した植物の細根を採取する方法として、ポット内の土からピンセットを用いて細根を拾い上げる方法や、根鉢に水をかけて根圏の土壌を洗い流す方法などがある。
図9に、水道水を掛け流しながら根を洗い出す従来法を示す。
図9(a)及び図9(b)に示すように、ポット内の根を土壌ととともに容器に取り出し、図9(c)及び図9(d)に示すように、水を掛けながら根から土壌を取り除き、図9(e)に示すように、土壌を除いた根株を取り除いた後に、図9(f)に示すように、ちぎれた根を拾い上げる。
なお、植物を栽培する根箱とピンボードを用いた根系採取装置及び根系採取方法は、特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-42574号公報
【0004】
【文献】Stewardら,1942;Taiz and Zeiger,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図9に示す従来法では、例えばイチゴ苗では、1株当たり4時間程度の作業時間を要し、作業者の熟練度による精度の差や水流による細根の流亡も問題となっている。
そのため、作業に当たる人によらず一定の精度でかつ迅速に細根も含めた根系全体を採取する方法の開発が望まれている。
【0006】
そこで本発明は、土壌を液状化することで特に細い根を切ることなく、根から土壌を分離しやすくし、従来の手作業と比較して根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい根系採取方法及び根系採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の根系採取方法は、ポット1で栽培している植物3の根を採取する根系採取方法であって、前記植物3を栽培している前記ポット1に潅水し、潅水させた前記ポット1に振動を与えることで前記ポット1内の土壌4を液状化させ、前記植物3に線材51の一端を取り付け、前記線材51の他端に荷重を付加し、前記植物3の前記根から前記土壌4が離れることで前記植物3を前記線材51で吊り上げることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の根系採取方法において、前記振動は上下方向であることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の根系採取方法において、振動を与えている前記ポット1の底部から水を供給することで、前記土壌4を前記ポット1の上部から流出させることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の根系採取方法において、前記ポット1に供給する前記水を、前記ポット1内で旋回させる方向に吐出することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項3又は請求項4に記載の根系採取方法において、前記ポット1から流出する前記土壌4を前記水とともに貯留することを特徴とする。
請求項6記載の本発明の根系採取装置は、ポット1で栽培している植物3の根を採取する根系採取装置であって、前記ポット1を載置する固定台10と、振動を発生させる振動源20と、前記振動源20で発生させた前記振動を前記固定台10に伝達する振動伝達部材30とを備え、前記振動を与えることで前記ポット1内の土壌4を液状化させることを特徴とする。
請求項7記載の本発明の根系採取装置は、ポット1で栽培している植物3の根を採取する根系採取装置であって、前記ポット1を載置する固定台10と、振動を発生させる振動源20と、前記振動源20で発生させた前記振動を前記固定台10に伝達する振動伝達部材30とを備え、底部に注水口2を有する前記ポット1を用い、前記注水口2に装着するホース接続部材60を備え、前記ホース接続部材60の一端には水を供給するホース2を接続し、前記ホース接続部材60の他端には吐出口61を有し、前記ホース2から供給される前記水を前記吐出口61から吐出させることで、前記水を前記ポット1内に供給することを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の根系採取装置において、前記ホース接続部材60を前記注水口2に装着した状態では、前記吐出口61から吐出される前記水が前記ポット1の内周面1bに沿う流れとなることを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の根系採取装置において、前記固定台10の下方位置に配置する水受け40を備えたことを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の根系採取装置において、前記植物3に一端を取り付ける線材と、前記線材を吊り下げる線材吊り下げ部材52と、前記線材の他端に取り付ける錘53とを備えたことを特徴とする。
請求項11記載の本発明は、請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の根系採取装置において、前記振動源20を取り付ける第1支持部材71と、前記第1支持部材71を支持する第2支持部材72と、前記第2支持部材72を支持する第3支持部材70とを備え、前記第2支持部材72には、前記第1支持部材71からの荷重を受ける位置に第1緩衝材74を設け、前記第3支持部材70には、前記第2支持部材72からの荷重を受ける位置に第2緩衝材75を設け、前記第1支持部材71及び前記第2支持部材72には、前記第2支持部材72に対する前記第1支持部材71の位置ずれを規制するずれ規制部材80を設けたことを特徴とする。
請求項12記載の本発明は、請求項11に記載の根系採取装置において、前記第1緩衝材74には貫通孔74aを形成し、前記第1支持部材71には、前記第1緩衝材74に載置する脚部71aと、前記脚部71aから下方に延出させた71bとを有し、前記71bを前記貫通孔74aに挿通し、前記71bに前記振動源20を吊り下げ、前記貫通孔74aと前記71bとで前記ずれ規制部材80を構成することを特徴とする。
請求項13記載の本発明は、請求項6から請求項12のいずれか1項に記載の根系採取装置において、前記固定台10が、前記ポット1の下部に取り付ける下部固定部材11と、前記ポット1の上部に取り付ける上部固定部材12とを備え、前記下部固定部材11の下面に、筒状の前記振動伝達部材30を設け、前記振動源20に有する振動軸を前記振動伝達部材30に固定具31を用いて固定することを特徴とする。
請求項14記載の本発明は、請求項13に記載の根系採取装置において、前記下部固定部材11が、前記ポット1の底面を受ける下部底面受け部材11aと、前記ポット1の下部外周面の外周に位置させる下部外周壁部材11bと、前記下部外周壁部材11bの外方に設けた複数の下部係合部材11cとを有し、前記上部固定部材12が、前記ポット1の上端に当接させる上端面当接部材12aと、前記ポット1の上部外周面の外周に位置させる上部外周壁部材12bと、前記上部外周壁部材12bの外方に設けた複数の上部係合部材12cとを有し、前記下部係合部材11cと前記上部係合部材12cとにゴムバンド13又はワイヤーを引っ掛けることで前記ポット1を前記固定台10に固定することを特徴とする。
請求項15記載の本発明の根系採取装置は、植物3の根を採取する根系採取装置であって、前記植物3を前記根に付着している土壌4とともに入れる90を保持する固定台10と、振動を発生させる振動源20と、前記振動源20で発生させた前記振動を前記固定台10に伝達する振動伝達部材30とを備え、前記振動を与えることで、前記植物3を栽培しているポット1内の土壌4を液状化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の根系採取方法によれば、土壌を液状化することで特に細い根を切ることなく、根から土壌を分離しやすくし、従来の手作業と比較して根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい。
また本発明の根系採取装置によれば、振動を固定台に載置するポットに伝えることができるため、ポット内の加水した土壌を液状化することができ、特に細い根を切ることなく根系採取を行うことができる。
また本発明の根系採取装置によれば、振動を固定台に伝えることができるため、袋体内の加水した土壌を液状化することができ、特に細い根を切ることなく根系採取を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例による根系採取装置を示す外観写真
図2】本実施例による根系採取装置のホース接続部材を示す写真
図3】本実施例による根系採取装置の水受けを示す写真
図4】本実施例による根系採取装置を用いた根系採取方法を示す写真
図5】本実施例による根系採取装置に適した振動発生装置を示す写真
図6】本実施例による根系採取装置に適したポット用固定台を示す写真
図7図1の要部を拡大した写真であり、植物引き上げ装置を示す写真
図8】本発明の他の実施例による根系採取方法を示す写真
図9】水道水を掛け流しながら根を洗い出す従来法を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施の形態による根系採取方法は、植物を栽培しているポットに潅水し、潅水させたポットに振動を与えることでポット内の土壌を液状化させ、植物に線材の一端を取り付け、線材の他端に荷重を付加し、植物の根から土壌が離れることで植物を線材で吊り上げるものである。本実施の形態によれば、土壌を液状化することで特に細い根を切ることなく、根から土壌を分離しやすくし、従来の手作業と比較して根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい。また、根から土壌が分離することで植物が吊り上げられるため、土壌分離作業の終了タイミングを明確にすることができ、手作業による個人差を無くすこともできる。
【0011】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による根系採取方法において、振動は上下方向としたものである。本実施の形態によれば、ポット全体をより効率的に液状化することができる。
【0012】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による根系採取方法において、振動を与えているポットの底部から水を供給することで、土壌をポットの上部から流出させるものである。本実施の形態によれば、液状化によって根から分離した土壌を流出させることで、更に根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい。
【0013】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による根系採取方法において、ポットに供給する水を、ポット内で旋回させる方向に吐出するものである。本実施の形態によれば、ポット内から土壌を均一に分離流出させることができる。
【0014】
本発明の第5の実施の形態は、第3又は第4の実施の形態による根系採取方法において、ポットから流出する土壌を水とともに貯留するものである。本実施の形態によれば、切れて流出する根の有無を確認でき、たとえ切れた根があったとしても回収することができるため、根系採取作業の信頼性と精度を高めることができる。
【0015】
本発明の第6の実施の形態による根系採取装置は、ポットを載置する固定台と、振動を発生させる振動源と、振動源で発生させた振動を固定台に伝達する振動伝達部材とを備え、振動を与えることでポット内の土壌を液状化させるものである。本実施の形態によれば、振動を固定台に載置するポットに伝えることができるため、ポット内の加水した土壌を液状化することができ、特に細い根を切ることなく根系採取を行うことができる。
【0016】
本発明の第7の実施の形態による根系採取装置は、ポットを載置する固定台と、振動を発生させる振動源と、振動源で発生させた振動を固定台に伝達する振動伝達部材とを備え、底部に注水口を有するポットを用い、注水口に装着するホース接続部材を備え、ホース接続部材の一端には水を供給するホースを接続し、ホース接続部材の他端には吐出口を有し、ホースから供給される水を吐出口から吐出させることで、水をポット内に供給するものである。本実施の形態によれば、ポットの底部から水を供給することで、液状化させた土壌をポットから流出させることができる。
【0017】
本発明の第8の実施の形態は、第7の実施の形態による根系採取装置において、ホース接続部材を注水口に装着した状態では、吐出口から吐出される水がポットの内周面に沿う流れとなるものである。本実施の形態によれば、水の吐出圧によってポット内で水を旋回させることができ、ポット内から土壌を均一に分離流出させることができる。
【0018】
本発明の第9の実施の形態は、第6から第8のいずれかの実施の形態による根系採取装置において、固定台の下方位置に配置する水受けを備えたものである。本実施の形態によれば、水受けによってポットから流出する土壌を水とともに貯留することができ、切れて流出する根の有無を確認でき、たとえ切れた根があったとしても回収することができる。
【0019】
本発明の第10の実施の形態は、第6から第9のいずれかの実施の形態による根系採取装置において、植物に一端を取り付ける線材と、線材を吊り下げる線材吊り下げ部材と、線材の他端に取り付ける錘とを備えたものである。本実施の形態によれば、植物の根から土壌が離れることで植物を吊り上げることができ、土壌分離作業の終了タイミングを明確にすることができ、手作業による個人差を無くすこともできる。
【0020】
本発明の第11の実施の形態は、第6から第10のいずれかの実施の形態による根系採取装置において、振動源を取り付ける第1支持部材と、第1支持部材を支持する第2支持部材と、第2支持部材を支持する第3支持部材とを備え、第2支持部材には、第1支持部材からの荷重を受ける位置に第1緩衝材を設け、第3支持部材には、第2支持部材からの荷重を受ける位置に第2緩衝材を設け、第1支持部材及び第2支持部材には、第2支持部材に対する第1支持部材の位置ずれを規制するずれ規制部材を設けたものである。本実施の形態によれば、振動源とともに振動する第1支持部材を第1緩衝材で受けることで、第2支持部材に伝わる振動を低減でき、第2支持部材を第2緩衝材で受けることで、第3支持部材に伝わる振動を低減でき、ずれ規制部材によって第2支持部材に対する第1支持部材の位置ずれを規制することができる。
【0021】
本発明の第12の実施の形態は、第11の実施の形態による根系採取装置において、第1緩衝材には貫通孔を形成し、第1支持部材には、第1緩衝材に載置する脚部と、脚部から下方に延出させた棒部とを有し、棒部を貫通孔に挿通し、棒部に振動源を吊り下げ、貫通孔と棒部とでずれ規制部材を構成するものである。本実施の形態によれば、振動源を吊り下げる棒部をずれ規制部材として用いることができる。
【0022】
本発明の第13の実施の形態は、第6から第12のいずれかの実施の形態による根系採取装置において、固定台が、ポットの下部に取り付ける下部固定部材と、ポットの上部に取り付ける上部固定部材とを備え、下部固定部材の下面に、筒状の振動伝達部材を設け、振動源に有する振動軸を振動伝達部材に固定具を用いて固定するものである。本実施の形態によれば、下部固定部材と上部固定部材によってポットを挟み込むことでポットを固定台に強固に固定でき、振動伝達部材からの振動を確実にポットに伝えることができる。
【0023】
本発明の第14の実施の形態は、第13の実施の形態による根系採取装置において、下部固定部材が、ポットの底面を受ける下部底面受け部材と、ポットの下部外周面の外周に位置させる下部外周壁部材と、下部外周壁部材の外方に設けた複数の下部係合部材とを有し、上部固定部材が、ポットの上端に当接させる上端面当接部材と、ポットの上部外周面の外周に位置させる上部外周壁部材と、上部外周壁部材の外方に設けた複数の上部係合部材とを有し、下部係合部材と上部係合部材とにゴムバンド又はワイヤーを引っ掛けることでポットを固定台に固定するものである。本実施の形態によれば、下部固定部材と上部固定部材によってポットを挟み込むことでポットを固定台に強固に取り付けることができる。
【0024】
本発明の第15の実施の形態による根系採取装置は、植物を根に付着している土壌とともに入れる袋体を保持する固定台と、振動を発生させる振動源と、振動源で発生させた振動を固定台に伝達する振動伝達部材とを備え、振動を与えることで、植物を栽培しているポット内の土壌を液状化させるものである。本実施の形態によれば、振動を固定台に伝えることができるため、袋体内の加水した土壌を液状化することができ、特に細い根を切ることなく根系採取を行うことができる。
【実施例
【0025】
以下本発明の一実施例による根系採取装置について説明する。
図1は本実施例による根系採取装置を示す外観写真である。
本実施例による根系採取装置は、ポット1を載置する固定台10と、振動を発生させる振動源20と、振動源20で発生させた上下方向の振動を固定台10に伝達する振動伝達部材30と、固定台10の下方位置に配置する水受け40と、植物引き上げ装置50を備え、ポット1で栽培している植物の根を採取する。
本実施例による根系採取装置は、底部に注水口1aを有するポット1を用い、注水口1aに装着するホース接続部材60を備えている。底部に注水口1aを有するポット1には、ワグネルポットを用いることができる。
【0026】
図2は本実施例による根系採取装置のホース接続部材を示す写真である。
ホース接続部材60の一端には水を供給するホース2を接続し、ホース接続部材60の他端には吐出口61を有している。ホース接続部材60は、ホース2から供給される水を吐出口61から吐出させることで、水をポット1内に供給する。
ホース接続部材60を注水口1aに装着した状態では、吐出口61から吐出される水がポット1の内周面1bに沿う流れとなる。水の吐出圧によってポット1内で水を旋回させることができ、ポット1内から土壌を均一に分離流出させることができる。
【0027】
図3は本実施例による根系採取装置の水受けを示す写真である。
水受け40は、受面41と、受面41の外周の一部に形成される流出口42と、流出口42を除く受面41の外周に形成される外壁面43と、受面41に形成される開口部44の外周に形成される内壁面45と、受面41の裏面に形成される取付部46とから構成される。
水受け40は、振動源20の上方に流出口42が低い位置となるように傾斜して配置され、開口部44には、図1に示す振動伝達部材30が配置される。
水受け40を設けることで、ポット1から流出する土壌を水とともに貯留することができ、切れて流出する根の有無を確認でき、たとえ切れた根があったとしても回収することができる。
【0028】
図4は本実施例による根系採取装置を用いた根系採取方法を示す写真である。
図4は、ポットで栽培している植物の根を採取する根系採取方法を示している。
図4(a)では、植物3を栽培しているポット1に潅水し、潅水させたポット1に上下方向の振動を与えている。このように、潅水させたポット1に上下方向の振動を与えることでポット1内の土壌4を液状化させることができる。そして、土壌4を液状化することで特に細い根を切ることなく、根から土壌4を分離しやすくし、従来の手作業と比較して根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい。
図4(b)では、振動を与えているポット1の底部から水を供給している。このように、ポット1に水を供給しながら振動を与えることで、土壌4をポット1の上部から流出させることができる。そして、液状化によって根から分離した土壌4を流出させることで、更に根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい。
なお、ポット1に供給する水は、図2に示すように、ポット1内で旋回させる方向に吐出しているため、ポット1内から土壌4を均一に分離流出させることができる。
また、水受け40を用いてポット1から流出する土壌4を水とともに貯留することで、切れて流出する根の有無を確認でき、たとえ切れた根があったとしても回収することができるため、根系採取作業の信頼性と精度を高めることができる。
【0029】
図5は本実施例による根系採取装置に適した振動発生装置を示す写真である。
図5(a)及び図5(b)に示すように、振動発生装置は、振動を発生させる振動源20と、振動源20で発生させた振動を固定台10(図1参照)に伝達する振動伝達部材30(図1参照)と、振動源20を取り付ける支持部材70とを備えている。
図5(c)及び図5(d)に示すように、支持部材70は、振動源20を取り付ける第1支持部材71と、第1支持部材71を支持する第2支持部材72と、第2支持部材72を支持する第3支持部材73とからなる。
また、第2支持部材72には、第1支持部材71からの荷重を受ける位置に第1緩衝材74を設け、第3支持部材73には、第2支持部材72からの荷重を受ける位置に第2緩衝材75を設けている。
第1支持部材71は、第1緩衝材74に載置する脚部71aと、脚部71aから下方に延出させた棒部71bとを有している。第1支持部材71は、4つの脚部71aの中心に、振動源20の振動軸21を上方に突出させる開口71cを形成し、4つの脚部71aを連結する第1支持フレーム71dを有している。
第2支持部材72は、脚部71aを受ける脚部受け72aと、4つの脚部受け72aを連結する第2支持フレーム72bとを有している。第1緩衝材74は脚部受け72aに配置される。
図5(e)に示すように、第1緩衝材74には貫通孔74aを形成している。
棒部71bは貫通孔74aに挿通され、図5(f)に示すように、棒部71bに振動源20を吊り下げる。
第3支持部材73は、第2支持部材72を受ける受けフレーム73aと、受けフレーム73aを所定高さに保持し、振動源20の外周に配置される基台フレーム73bとを有している。
図5(g)に示すように、第3支持部材73の下端には、アジャスター機能を備えた第3緩衝材76を設けている。
なお、ずれ規制部材80は、貫通孔74aと棒部71bとで構成している。このように、振動源20を吊り下げる棒部71bをずれ規制部材80として用いることができる。
本実施例によれば、振動源20とともに振動する第1支持部材71を第1緩衝材74で受けることで、第2支持部材72に伝わる振動を低減でき、第2支持部材72を第2緩衝材75で受けることで、第3支持部材73に伝わる振動を低減でき、更に第3支持部材73の下端に第3緩衝材76を設けることで、振動発生装置の振動を低減できる。
また、本実施例によれば、ずれ規制部材80によって第2支持部材72に対する第1支持部材71の位置ずれを規制することができる。
【0030】
図6は本実施例による根系採取装置に適したポット用固定台を示す写真である。
固定台10は、ポット1の下部に取り付ける下部固定部材11と、ポット1の上部に取り付ける上部固定部材12とを備えている。
下部固定部材11の下面には、筒状の振動伝達部材30を設けている。
振動源20に有する振動軸21(図5参照)は、振動伝達部材30に固定具31を用いて固定する。
下部固定部材11は、ポット1の底面を受ける下部底面受け部材11aと、ポット1の下部外周面の外周に位置させる下部外周壁部材11bと、下部外周壁部材11bの外方に設けた複数の下部係合部材11cとを有している。
下部底面受け部材11aと振動伝達部材30との間には、円盤状の防水板32を設けている。
上部固定部材12は、ポット1の上端に当接させる上端面当接部材12aと、ポット1の上部外周面の外周に位置させる上部外周壁部材12bと、上部外周壁部材12bの外方に設けた複数の上部係合部材12cとを有している。
図6(c)及び図6(d)に示すように、下部係合部材11cと上部係合部材12cとにゴムバンド13を引っ掛けることでポット1を固定台10に固定する。
ゴムバンド13のように、弾性力を有する長尺部材が好ましいが、金属製や樹脂製のワイヤーを用いることもできる。
本実施例によれば、下部固定部材11と上部固定部材12によってポット1を挟み込むことでポット1を固定台10に強固に固定でき、振動伝達部材30からの上下方向の振動を確実にポット1に伝えることができる。
【0031】
図7図1の要部を拡大した写真であり、植物引き上げ装置を示している。
植物引き上げ装置50は、植物に一端を取り付ける線材51と、線材51を吊り下げる線材吊り下げ部材52と、線材51の他端に取り付ける錘53とを備えている。
線材51の一端にはクリップ54を備えており、クリップ54で植物の株元を挟み込む。
線材吊り下げ部材52は、複数のローラー52aと、これらのローラー52aを支持するフレーム52bとからなる。
線材51の一端側には、ストッパー55を設けている。
本実施例の植物引き上げ装置50は、線材51の一端にクリップ54を用いて植物を取り付け、線材51の他端に錘53により荷重を付加しているので、植物の根から土壌が離れることで、植物が錘53より軽くなると、植物が吊り上げられる。吊り上げ動作は、ストッパー55がローラー52aに当接することで停止する。
本実施例によれば、根から土壌が分離することで植物が吊り上げられるため、土壌分離作業の終了タイミングを明確にすることができ、手作業による個人差を無くすこともできる。
【0032】
図8は本発明の他の実施例による根系採取方法を示す写真である。
本実施例では、植物を根に付着している土壌とともに袋体90に入れ、袋体90に潅水し、潅水させた袋体90内の土壌に上下方向の振動を与えることで土壌を液状化させている。
空中ポットレストレー(8穴 12.0cm)に砂利及び籾殻を混合したイチゴ栽培用倍土によってイチゴ苗を栽培し、定植後1ヶ月のイチゴ苗を実験に用いた。
図8(a)は、空中ポットレストレーから取り出したイチゴ苗の状態を示している。
図8(a)に示す土壌付きの株を、図8(b)に示すように、袋体90内に入れ、袋体90に潅水した。なお、袋体90にはポリ袋を用いている。このように、袋体90には、ポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂を原材料とする袋を用いることができる。
本実施例による根系採取方法では、植物を根に付着している土壌とともに入れる袋体90を保持する固定台10(図1参照)と、振動を発生させる振動源20(図1参照)と、振動源20で発生させた上下方向の振動を固定台10に伝達する振動伝達部材30(図1参照)とを備えた根系採取装置を用いる。本実施例では、ポット1は固定台10の一部を構成する。
本実施例によれば、上下方向の振動を固定台10に伝えることができるため、袋体90内の加水した土壌を液状化することができ、振動中に、根をポット1の内壁に押し当て、更には根中心部の土壌を揉み出すことで、10分から15分程度でほぼ根を洗い出すことができた。
図8(c)及び図8(d)は、本実施例による根系採取方法を30分程度行った後の状態を示す写真であり、図8(c)は一方側の写真、図8(d)は他方側の写真である。
本実施例によれば、作業者の熟練度によらず、大部分の根を株からちぎれることなく採集でき、袋体90内で作業が完結するため、根が流出する懸念も生じない。
このように、本実施例によれば、土壌を液状化することで特に細い根を切ることなく、根から土壌を分離しやすくし、従来の手作業と比較して根系採取作業を短時間で容易に行えるとともに個人差が生じにくい。
なお、本実施例のように、潅水させたポット1に上下方向の振動を与えることで、ポット1内の土壌4全体を効率的に液状化させることができるが、振動の方向は必ずしも上下方向でなくても、例えば水平方向の振動であっても粒径による土壌状態や植物の種類によっては根から土壌を分離でき、又はポット1を所定角度回転させることで複数方向の水平方向の振動を与えることで根から土壌を分離でき、振動方向は上下方向に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の根系採取方法によれば、ポットで栽培している植物だけでなく、圃場で栽培している植物に対しても根系採取を可能とし、また本発明の根系採取方法に適した振動発生装置は、目的に合わせた専用の台を取り付けることで様々な対象物に振動を与えることができ、また本発明の根系採取方法に適したポット用固定台を用いることで、植物を栽培するポットが大きく重い場合に、ポットを破損することなく移動できる。
【符号の説明】
【0034】
1 ポット
1a 注水口
1b 内周面
2 ホース
3 植物
4 土壌
10 固定台
11 下部固定部材
11a 下部底面受け部材
11b 下部外周壁部材
11c 下部係合部材
12 上部固定部材
12a 上端面当接部材
12b 上部外周壁部材
12c 上部係合部材
13 ゴムバンド
20 振動源
21 振動軸
30 振動伝達部材
31 固定具
32 防水板
40 水受け
41 受面
42 流出口
43 外壁面
44 開口部
45 内壁面
46 取付部
50 植物引き上げ装置
51 線材
52 線材吊り下げ部材
52a ローラー
52b フレーム
53 錘
54 クリップ
55 ストッパー
60 ホース接続部材
61 吐出口
70 支持部材
71 第1支持部材
71a 脚部
71b 棒部
71c 開口
71d 第1支持フレーム
72 第2支持部材
72a 脚部受け
72b 第2支持フレーム
73 第3支持部材
73a 受けフレーム
73b 基台フレーム
74 第1緩衝材
74a 貫通孔
75 第2緩衝材
76 第3緩衝材
80 ずれ規制部材
90 袋体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9