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特許7262212成膜装置、成膜方法および電子デバイスを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法および電子デバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230414BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230414BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230414BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C23C14/24 C
C23C14/24 J
C23C14/24 B
H05B33/14 A
H05B33/10
G09F9/00 338
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018221606
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2019218623
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0068493
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住谷 利治
(72)【発明者】
【氏名】相澤 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】深澤 悠
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-239070(JP,A)
【文献】特開2011-080136(JP,A)
【文献】特開2003-313657(JP,A)
【文献】特開2006-249575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H05B 33/10
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される3つ以上の蒸発源を含み、
前記3つ以上の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記3つ以上の蒸発源は、前記3つ以上の蒸発源のうちの任意の3つの蒸発源の各回転中心が前記面内において三角形状を成すように配置され、
前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記複数のるつぼは、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼを含み、
前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記蒸着用るつぼは、前記面内において前記基板の回転中心軸から同一の距離に配置され
前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記回転中心は、前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする同一の円上に配置され、
前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記蒸着用るつぼは、前記円よりも内側に配置され、
前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記予備加熱用るつぼは、前記基板の回転半径よりも外側で、且つ、前記円よりも外側に配置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記蒸着位置は、該位置に位置するるつぼが前記基板に向かって蒸着材料を供給する位置であり、
前記予備加熱位置は、該位置に位置するるつぼが前記蒸発源の回転によって前記蒸着位置に移動する前に予熱される位置であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、
前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源と
を含み、
前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように前記基板の回転中心軸を基準に前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分よりも外側で前記第1円よりも内側に配置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、
前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置されることを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼは、前記第1円よりも内側に配置されることを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記各第1蒸発源の前記各予備加熱用るつぼは、前記第1円よりも外側に配置されることを特徴とする請求項又は請求項に記載の成膜装置。
【請求項7】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、
前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、
前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、
前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、
前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、
前記第2蒸発源の前記蒸着用るつぼは、前記基板の回転中心軸を基準に前記第2蒸発源の回転中心よりも内側に配置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、
前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、
前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心
とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、
前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、
前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、
前記第2蒸発源の前記予備加熱用るつぼは、前記基板の回転中心軸を基準に前記第2蒸発源の回転中心よりも外側に配置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、
前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、
前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、
前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、
前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、
前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼおよび前記第2蒸発源の前記蒸着用るつぼは、前記基板の回転半径よりも外側に配置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、
前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、
前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、
前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、
前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、
前記各第1蒸発源の前記各予備加熱用るつぼおよび前記第2蒸発源の前記予備加熱用る
つぼは、前記基板の回転半径よりも外側に配置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼおよび前記第2蒸発源の前記蒸着用るつぼは、前記基板の回転中心軸から同一の距離に配置されることを特徴とする請求項7~請求項10のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記蒸着位置は、該位置に位置するるつぼが前記基板に向かって蒸着材料を供給する位置であり、
前記予備加熱位置は、該位置に位置するるつぼが前記各蒸発源の回転によって前記蒸着位置に移動される前に予熱される位置であることを特徴とする請求項~請求項11のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記成膜装置は複数のコーナー部を有する多角形の成膜装置であり、前記複数の第1蒸発源は、上面から見たとき、前記多角形の成膜装置の各コーナー部に対応して前記各第1蒸発源が配置されることを特徴とする請求項~請求項12のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記成膜装置は四つのコーナー部を有する成膜装置であり、前記複数の第1蒸発源は、上面から見たとき、前記成膜装置の各コーナー部に対応して四つの第1蒸発源が矩形状の四つの角部に対応する位置に配置されることを特徴とする請求項13に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記成膜装置は四つのコーナー部を有する多角形の成膜装置であり、前記複数の第1蒸発源は、上面から見たとき、前記多角形の成膜装置の各コーナー部に対応して四つの第1蒸発源が矩形状の四つの角部に対応する位置に配置され、前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼが長方形状の四つの角部に対応する位置に配置されることを特徴とする請求項~請求項12のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項16】
回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、
前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、
前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、
前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、
前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され
前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、
前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、
前記成膜装置は四つのコーナー部を有する多角形の成膜装置であり、前記複数の第1蒸発源は、上面から見たとき、前記多角形の成膜装置の各コーナー部に対応して四つの第1蒸発源が矩形状の四つの角部に対応する位置に配置され、前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼが長方形状の四つの角部に対応する位置に配置され、
前記第2蒸発源は、上面から見たとき、前記矩形状に配置される四つの第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記長方形状の長辺に沿って配置さ
れることを特徴とする成膜装置。
【請求項17】
前記四つの第1蒸発源は、隣接する各第1蒸発源が互いに反対方向に回転することを特徴とする請求項14~請求項16のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項18】
更に、前記基板の成膜面と前記複数の蒸発源が配置される前記面との間の領域において、前記第1円よりも外側に設置される蒸発レートセンサーを含む請求項~請求項17のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項19】
前記第2蒸発源は、前記各第1蒸発源よりも直径が小さい蒸発源であることを特徴とする請求項3~請求項18のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項20】
請求項1~請求項19のいずれか1項に記載の成膜装置を用いて、有機EL表示素子の電極層を形成する成膜方法。
【請求項21】
請求項20に記載の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法および電子デバイスを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネル表示装置として有機EL表示装置が脚光を浴びている。有機EL表示装置は自発光ディスプレイであり、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニタ、テレビ、スマートフォンに代表される各種の携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイを速いスピードで代替している。また、自動車用ディスプレイ等にも、その応用分野を広げている。
【0003】
有機EL表示装置の素子は、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された基本構造を持つ。有機ELディスプレイ素子の有機物層と金属電極層は、真空チャンバー内で蒸着材料が収容された蒸発源を加熱し、蒸着材料を蒸発させて、画素パターンが形成されたマスクを介して基板に成膜することで製造される。
【0004】
特に、金属電極層を基板に成膜するための蒸発源700は図7に示すように、複数のるつぼ710~770が円周上に配置され、複数のるつぼ710~770のうちで実際に成膜に使われるるつぼ710が蒸着位置に回転移動して基板に対して蒸着材料を蒸発させる。このような回転型の多点蒸発源をリボルバとも呼ぶ。一方、成膜対象の基板のサイズが大型化することにつれ、成膜速度などを高めるため、成膜装置内に複数の蒸発源を配置する必要が出てきている。
【0005】
ところが、このように複数の蒸発源を配置する場合には、蒸発源の配置によっては基板に対する各蒸発源の蒸発特性に差が生じ得る可能性があり、また、成膜装置の大型化につながる恐れもあるが、このような蒸発源の蒸発特性の差や、成膜装置内のスペース利用効率を十分に考慮して複数の蒸発源を効果的に配置する技術は提案されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点を考慮して、成膜装置内のスペース利用効率を高めて成膜装置の大型化を抑制できるように複数の蒸発源を効果的に配置した成膜装置、この成膜装置を用いた成膜方法および電子デバイスを製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、成膜装置内のスペース利用効率の向上とともに、基板に対する良好な成膜、および各蒸発源からの熱輻射の変動が基板に及ぼす影響を低減できる成膜装置、この成膜装置を用いた成膜方法および電子デバイスを製造する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される3つ以上の蒸発源を含み、前記3つ以上の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記3つ以上の蒸発源は、前記3つ以上の蒸発源のうちの任意の3つの蒸発源の各回転中心が前記面内において三角形状を成すように配置され、前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記複数のるつぼは、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼを含み、前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記蒸着用るつぼは、前記面内において前記基板の回転中心軸から同一の距離に配置され、前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記回転中心は、前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする同一の円上に配置され、前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記蒸着用るつぼは、前記円よりも内側に配置され、前記3つ以上の蒸発源のそれぞれの前記予備加熱用るつぼは、前記基板の回転半径よりも外側で、且つ、前記円よりも外側に配置されることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、
前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように前記基板の回転中心軸を基準に前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分よりも外側で前記第1円よりも内側に配置されることを特徴とする。
本発明の第3態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、前記第2蒸発源の前記蒸着用るつぼは、前記基板の回転中心軸を基準に前記第2蒸発源の回転中心よりも内側に配置されることを特徴とする。
本発明の第4態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、前記第2蒸発源の前記予備加熱用るつぼは、前記基板の回転中心軸を基準に前記第2蒸発源の回転中心よりも外側に配置されることを特徴とする。
本発明の第5態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼおよび前記第
2蒸発源の前記蒸着用るつぼは、前記基板の回転半径よりも外側に配置されることを特徴とする。
本発明の第6態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、前記各第1蒸発源の前記各予備加熱用るつぼおよび前記第2蒸発源の前記予備加熱用るつぼは、前記基板の回転半径よりも外側に配置されることを特徴とする。
本発明の第7態様による成膜装置は、回転する基板の成膜面に蒸着材料を蒸発させて蒸着する成膜装置であって、前記基板の成膜面と対向する面内に配置される複数の蒸発源を含み、前記複数の蒸発源のそれぞれは、回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼを有し、前記回転軸を回転中心として回転可能であり、前記複数の蒸発源は、複数の第1るつぼを有する複数の第1蒸発源と、前記各第1蒸発源が有する前記複数の第1るつぼの数よりも少ない数の第2るつぼを有する第2蒸発源とを含み、前記複数の第1蒸発源は、各回転中心が前記面内において前記基板の回転中心軸を中心とする第1円上に配置され、前記第2蒸発源は、前記複数の第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記第2蒸発源の回転中心が前記隣接する二つの第1蒸発源の回転中心を結ぶ線分と同一直線上に位置しないように配置され、前記各第1蒸発源の前記第1るつぼおよび前記第2蒸発源の第2るつぼは、それぞれ、蒸着位置に位置する蒸着用るつぼと、予備加熱位置に位置する予備加熱用るつぼとを含み、前記第1蒸発源および前記第2蒸発源のそれぞれにおいて、前記各蒸着用るつぼは、前記各予備加熱用るつぼよりも前記基板の回転中心軸から近い位置に配置され、前記成膜装置は四つのコーナー部を有する多角形の成膜装置であり、前記複数の第1蒸発源は、上面から見たとき、前記多角形の成膜装置の各コーナー部に対応して四つの第1蒸発源が矩形状の四つの角部に対応する位置に配置され、前記各第1蒸発源の前記各蒸着用るつぼが長方形状の四つの角部に対応する位置に配置され、前記第2蒸発源は、上面から見たとき、前記矩形状に配置される四つの第1蒸発源のうち隣接する二つの第1蒸発源の間に配置され、かつ、前記長方形状の長辺に沿って配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成膜装置内のスペース利用効率を高めて成膜装置の大型化を抑制することができ、また、基板に対する良好な成膜、および各蒸発源からの熱輻射の変動が基板に及ぼす影響を効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、電子デバイス製造装置の一部の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施例による成膜装置の模式図である。
図3図3は、本発明の一実施例による成膜装置内での基板と複数の蒸発源との配置関係を説明するための上面図である。
図4図4は、本発明の一実施例による成膜装置において、各蒸発源の蒸着用るつぼと予備加熱用るつぼの基板に対する相対的な配置関係を示した断面図である。
図5図5は、本発明の他の実施例による成膜装置内での基板と複数の蒸発源との配置関係を説明するための上面図である。
図6図6は、本発明の有機EL装置の概略図である。
図7図7は、回転型の多点蒸発源(リボルバ)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は、本発明の好ましい構成を例示的に示すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明において、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理の流れ、製造条件、大きさ、材質、形状等は、特に特定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれに限定しようとする趣旨ではない。
【0013】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一例を示す模式図である。
図1の電子デバイスの製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、フルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に有機EL表示素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。
【0014】
電子デバイスの製造装置は、一般的に図1に示すように、複数のクラスタ装置1を含み、各クラスタ装置1は、基板10に対する処理(例えば、成膜)が行われる複数の成膜室11と、使用前後のマスクが収納される複数のマスクストックチャンバー12と、その中
央に配置される搬送室13を具備する。
【0015】
搬送室13内には、複数の成膜室11の間で基板10を搬送し、成膜室11とマスクストックチャンバー12との間でマスクを搬送する搬送ロボット14が設置される。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板10を保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0016】
各成膜室11には、成膜装置(蒸着装置とも呼ぶ)が設置される。成膜装置では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板10上に蒸着される。搬送ロボット14との基板10の受け渡し、基板10とマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板10の固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動的に行われる。
【0017】
マスクストックチャンバー12には、成膜室11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜室11からマスクストックチャンバー12のカセットに搬送し、マスクストックチャンバー12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜室11に搬送する。
【0018】
クラスタ装置1には、基板10の流れ方向において上流側からの基板10を当該クラスタ装置1に伝達するパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板10を下流側の他のクラスタ装置1に伝えるためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板10を受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜室11の一つ(例えば、成膜室11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板10を複数の成膜室11の一つ(例えば、成膜室11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0019】
バッファー室16とパス室15との間には、基板の向きを変える旋回室17が設置される。これにより、上流側のクラスタ装置1と下流側のクラスタ装置1で基板10の向きが同一となり、基板処理が容易になる。
【0020】
本実施例では、図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類のチャンバーを有してもよく、チャンバー間の配置が変わってもよい。
【0021】
以下、成膜室11に設けられる成膜装置の構成について説明する。
<成膜装置>
図2は、成膜装置、特に、金属電極層を形成するのに使われる金属性蒸着材料の成膜装置2の構成を模式的に示す断面図である。
【0022】
成膜装置2は真空チャンバー20を具備する。真空チャンバー20の内部は真空などの減圧雰囲気、或いは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される。真空チャンバー20の内部の上部には、基板保持ユニット21とマスク台22とが設けられ、真空チャンバー20の内部の下部には蒸発源23が設置される。
基板保持ユニット21は、搬送室13の搬送ロボット14から受け取った基板10を保持及び搬送する手段で、基板ホルダとも呼ぶ。
フレーム状のマスク台22は、基板保持ユニット21の下側に設置され、マスク台22上にはマスク222が載置される。マスク222は、基板10上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有する。
【0023】
成膜時には、基板保持ユニット21がマスク台22に対して相対的に下降し(或いはマスク台22が基板保持ユニット21に向かって上昇し)、基板保持ユニット21によって保持された基板10がマスク222上に置かれた後、真空チャンバー20の上部(外部)から導入された回転シャフト27によって、基板保持ユニット21及びマスク台22を回転させることで、マスク222及びマスク222の上に置かれた基板10を回転させる。これは基板10上に金属性蒸着材料が均一な厚さで成膜できるようにするためである。
【0024】
図2には示していないが、真空チャンバー20の上面の外部(大気側)には、回転シャフト27を回転駆動するためのアクチュエータを含む駆動機構が設置される。また、マスク台22の下側には基板シャッタ(不図示)を設けることができる。基板シャッタは、基板10に対する成膜時以外においては基板10を覆っており、蒸発源23から蒸発された蒸着材料が基板10に堆積することを抑止する。
【0025】
真空チャンバー20の内部の下部には、基板10に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ231とるつぼ231を加熱するためのヒータ(不図示)とを含む蒸発源23、蒸発源シャッタ25、蒸発レートセンサー26などが設置される。
【0026】
金属性蒸着材料の成膜装置2の蒸発源23は真空チャンバーの底面に複数設置され、各蒸発源23は複数のるつぼ231を含む。各蒸発源23は回転駆動機構(不図示)によって回転することで、複数のるつぼ231の位置を順に移動させ、このるつぼの位置移動によってあらかじめ定められた蒸着位置に移動してきたるつぼから蒸着材料を順に蒸発させて基板10に堆積させる回転型の多点蒸発源(リボルバ)である。
各蒸発源23の詳細構造および複数の蒸発源23の配置構成については後述する。
【0027】
基板10への蒸着材料の移動経路を遮蔽または開放を制御するために、蒸発源23の上部に蒸発源シャッタ25が設置されてもよい。これにより、蒸着位置のるつぼから蒸発した蒸着材料が基板10に堆積することが、必要に応じて(例えば、成膜開始前の準備工程など)一時的に抑止される。蒸発源シャッタ25が回転移動して蒸着位置のるつぼの上方を開放することにより、蒸着位置のるつぼからの蒸着材料が基板10に向かって飛散し、基板10への成膜が開始される。
蒸発レートセンサー26は蒸発源23のるつぼ231から蒸着材料が蒸発されるレートをモニタリングする装置である。蒸発レートセンサー26の配置位置の詳細については後述する。
【0028】
<蒸発源の配置>
図3を参照して、本発明の実施例による回転型の多点蒸発源(リボルバ)の構造および複数の蒸発源の配置構成について説明する。
図3は、成膜装置2内での基板10と複数の蒸発源23との配置関係を説明するための上面図である。
【0029】
前述のように、成膜装置2の真空チャンバー内の上部には、成膜時、回転シャフト27によって駆動されて回転する基板10が配置される。成膜装置2の真空チャンバー内の下部には、基板10と対向して、基板10の成膜面と対向する面内に複数(3個以上)の蒸発源23が配置される。本実施例では、成膜装置2の上面から見たとき(平面視で)、多角形の成膜装置2の各コーナー部に対応して四つの蒸発源23が矩形状D1の四つの角部に対応する位置に配置されている。
【0030】
各蒸発源23は、上述のように、成膜時回転(自転)によって複数のるつぼ231の位置を順に移動させて、るつぼごとに蒸着材料を蒸発させる回転型の多点蒸発源(リボルバ
)であり、それぞれの回転軸を中心に放射状に配置された複数のるつぼ231を有している。一方、四つの各蒸発源23は、図示のように、隣接する蒸発源23が互いに反対方向に回転(自転)し、それぞれのるつぼを順次移動させて成膜を行う。各蒸発源23の回転方向は特にこれに限定されない。
【0031】
各蒸発源23に設置されるるつぼ231の数は特に制限されず、各蒸発源23のるつぼの数は同じであってもよいし、異なってもよい。本実施例では、各蒸発源23が七つのるつぼ231を有する例を示している。
【0032】
各蒸発源23において七つのるつぼ231のうちの一つのるつぼ232は、成膜時、蒸着位置に位置する。蒸着位置とは、該位置に位置するるつぼが基板10に向かって蒸着材料を蒸発させて供給する位置をいう。つまり、各蒸発源23は、成膜時、蒸着位置に位置するるつぼ232(以下、「蒸着用るつぼ」ともいう)をヒータによって高温(例えば、1300℃)に加熱して該当るつぼ232内に収納された蒸着材料を蒸発させて基板10に堆積させる。
【0033】
蒸着位置のるつぼ232内の蒸着材料が消耗すれば、蒸発源23を回転駆動して、蒸着位置に位置するるつぼ232を蒸着後位置に移動させ、予備加熱位置に位置するるつぼ233を蒸着位置232に回転移動させる。
【0034】
予備加熱位置は次回(例えば、蒸着位置のるつぼ232内の蒸着材料が消耗したとき)において蒸着位置に移動するるつぼを予熱しておく位置である。以下、予備加熱位置に位置するるつぼ233を「予備加熱用るつぼ」とも称する。このように、次回において蒸着位置に移動するるつぼ233をあらかじめ加熱しておくことで、予備加熱位置に位置するるつぼ233が蒸着位置に移動した後に当該るつぼを加熱するのにかかる時間を減らすことができ、成膜時間を短縮することができる。
【0035】
蒸着位置と予備加熱位置は、当該位置に配置されたるつぼが互いに熱干渉による影響を受けないように離間している。本実施例では蒸着用るつぼ232と予備加熱用るつぼ233との間に他のるつぼを配置している。
【0036】
各蒸発源23のすべてのるつぼ231の蒸着材料が消耗するまで蒸発源23を回転させながら蒸着を行い、すべての蒸着材料が消耗すれば、成膜装置2の動作を止めて、るつぼ231内に蒸着材料を充填する。
【0037】
以下、蒸発源23を成膜装置2内に複数配置する構造について詳しく説明する。
図3に示すように、複数(本実施例では4個)の蒸発源23は、そのうちの任意の3つの蒸発源23のそれぞれの回転中心が同一直線上に位置しないように配置される。言い換えれば、任意に選択される3つの蒸発源23の各回転中心軸間の距離をa、b、cとすると、a+b>cの関係を満たすように(すなわち、三角形状を成すように)、複数の蒸発源23が配置される。より具体的には、複数の蒸発源23は、各蒸発源23の回転中心が蒸発源23の配置面内における基板10の回転中心軸Oを中心とする一つの同心円C1上に位置するように配置される。
【0038】
よって、複数配置される蒸発源23においてどの3つの蒸発源23も一直線上には位置していないので、蒸発源23間の距離を増加させずに成膜装置2内に複数の蒸発源23を効果的に配置することができ、成膜装置2内のスペース利用効率を高めることができる。
【0039】
また、このような複数の蒸発源23の配置の下で、各蒸発源23の蒸着用るつぼ232は、上記蒸発源23の回転中心を結ぶ円C1よりも内側に配置される。より具体的には、
各蒸発源23の蒸着用るつぼ232は、上記蒸発源23の回転中心を結ぶ円C1よりも内側に、かつ、基板10の回転中心軸Oからの距離が実質的に同一の同心円C2上に位置するように配置される。
このように、複数の蒸発源23において、成膜時に蒸着材料を実際に供給する各蒸着用るつぼ232が基板10に対して実質的に同一距離に位置することによって、蒸発源23間の蒸発特性の差を抑制することができる。
【0040】
また、前述のような複数の蒸発源23の配置の下で、各蒸発源23の予備加熱用るつぼ233は、上記蒸発源23の回転中心を結ぶ円C1よりも外側に配置される。つまり、基板10の中心から近い距離に蒸着用るつぼ232が位置し、より遠い距離に予備加熱用るつぼ233が位置するように、各蒸発源23内における複数のるつぼ231の配置関係が構成されている。図4は、このような各蒸発源23における蒸着用るつぼ232と予備加熱用るつぼ233の基板10に対する相対的な配置関係を模式的に示した断面図である。より具体的には、蒸発源23のそれぞれの予備加熱用るつぼ233は、基板10の回転半径よりも外側に位置するように配置される。すなわち、いずれの蒸発源23の予備加熱用るつぼ233も基板10と重ならない位置に配置されている。
【0041】
予備加熱用るつぼ233は、成膜時に実質的な蒸着には関与しないが、予熱に必要な程度の高い温度で維持されるため、るつぼから輻射される熱が基板10に影響を及ぼす可能性がある。基板10の下部に複数の蒸発源23が配置される場合は、各蒸発源23において予備加熱用るつぼ233から輻射される熱が基板10に及ぼす影響の大きさに差がある可能性もある。
本発明の実施例では、各蒸発源23において、成膜時に実質的な蒸着に関与しない予備加熱用るつぼ233を基板10の回転半径より外側に位置するように配置することによって、各蒸発源23からの熱輻射の変動が基板10に及ぼす影響を低減することができる。
【0042】
図2を参照して前述したように、基板10の成膜面と複数の蒸発源23との間の領域には各蒸発源23の蒸着用るつぼ232から蒸発される蒸着材料のレートをモニタリングするための蒸発レートセンサー26を設置することができる。この蒸発レートセンサー26は、成膜時に基板10への成膜に影響を及ぼさないようにするため、蒸発源23の上方において蒸発源23の回転中心を結ぶ円C1より外側の位置に設置することが好ましい。
【0043】
以上のように、本実施例によると、成膜装置内のスペース利用効率を高めて装置の大型化を抑制することができ、基板10に対する良好な成膜および各蒸発源23からの熱輻射の変動が基板10に及ぼす影響を低減することができる。
【0044】
図5は、本発明の他の実施例による回転型の多点蒸発源(リボルバ)の配置構成を示す。
本実施例は、上記実施例の構成に加え、少ない数のるつぼ241を有する小径の蒸発源24を追加で配置した構成である。蒸発源24は、蒸発源23よりも直径が小さい。具体的には、図5に示すように、回転軸(自転軸)を中心に五つのるつぼ241が放射状に配置された小径の蒸発源24を、隣接する二つの大径の蒸発源23の間に配置している。
【0045】
蒸着材料の種類や蒸発量などの制御のために、必要に応じて、るつぼの数が異なる大径の蒸発源23と小径の蒸発源24を一緒に成膜装置2内に配置する場合がある。
本実施例は、この場合でも、前述の実施例と同様に、成膜装置内のスペース利用効率を高めるとともに良好な成膜および各蒸発源からの熱輻射の変動の抑制を可能にする蒸発源の配置構成を提案する。
【0046】
具体的には、大径の蒸発源23(以下、「第1蒸発源」という)は、前述の実施例と同
様に、多角形の成膜装置2の各コーナー部に対応して四つの蒸発源23の回転中心が基板10の回転中心軸Oを中心とする一つの同心円C1上に位置するように矩形状の四つの角部に対応する位置に配置される。図5に示すように、第1蒸発源23の各蒸着用るつぼ232が長方形状D2の四つの角部に対応する位置に配置される。また、図5に示すように、蒸発源24が、隣接する2つの第1蒸発源23の間であって、かつ、長方形状D2の長辺に沿って配置される。
【0047】
また、各第1蒸発源23において、蒸着用るつぼ232は、第1蒸発源23の回転中心を結ぶ円C1よりも内側に、かつ、基板10の回転中心軸Oからの距離が実質的に同一の円C2上に位置するように配置される。図5に示す例では、また、各第1蒸発源23において、予備加熱用るつぼ233は、蒸発源23の回転中心を結ぶ円C1よりも外側に、より具体的には基板10の回転半径の外側に位置するように配置される。
【0048】
小径の蒸発源24(以下、「第2蒸発源」という)は、隣接する2つの第1蒸発源23の間、具体的には第2蒸発源24の回転中心が隣接する2つの第1蒸発源23の回転中心を結ぶ線分Lと同一直線上に位置しないように配置される。より具体的には、第2蒸発源24は、その回転中心が基板10の回転中心軸Oを基準に線分Lよりも外側、かつ、円C1よりも内側に位置するように配置される。
【0049】
よって、第2蒸発源24を挟んで隣接する二つの第1蒸発源23間の間隔を狭く設定することができ、また、追加で配置される第2蒸発源24をできるだけ成膜装置2の内側に位置させることができるので、成膜装置2内部の空間利用効率を一層高めることができる。なお、図5に示すように、第2蒸発源24が有する複数のるつぼ241の数は、第1蒸発源23が有する複数のるつぼ231の数よりも少ない。
【0050】
また、第2蒸発源24における蒸着用るつぼ242と予備加熱用るつぼ243は、第1蒸発源23のそれと同様に配置することができる。
つまり、第2蒸発源24において、蒸着用るつぼ242は予備加熱用るつぼ243よりも基板10の回転中心軸Oから近い位置に配置される。具体的には、蒸着用るつぼ242は第2蒸発源24の回転中心よりも内側に配置され、予備加熱用るつぼ243は第2蒸発源24の回転中心よりも外側に配置される。
【0051】
更に、第2蒸発源24をできるだけ成膜装置2の内側に位置させることにおいては、このような第2蒸発源24の蒸着用るつぼ242と予備加熱用るつぼ243の配置条件および隣接する第1蒸発源23との配置関係も考慮し、次のように配置する。
つまり、第2蒸発源24は、その蒸着用るつぼ242が、基板10の回転中心軸Oからの距離が第1蒸発源23の各蒸着用るつぼ232と同一距離に位置するように(円C2上に位置するように)し、それと共に、その予備加熱用るつぼ243は、第1蒸発源23の各予備加熱用るつぼ233と同様に基板10の回転半径よりも外側に位置するように配置することが好ましい。
これによって、成膜装置内のスペース利用効率を高めながらも、良好な成膜および蒸発源(特に、予備加熱用るつぼ)からの熱輻射の変動による基板10への影響を低減することができる。
【0052】
<電子デバイスの製造方法>
次に、前述した実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0053】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図6(a)は有機EL表示装置50の全体図、図6(b)は1画素の断面構造を示している。
【0054】
図6(a)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置50の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの組合せにより画素52が構成されている。画素52は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0055】
図6(b)は、図6(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、発光層56R、56G、56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2電極(陰極)58と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層55、発光層56R、56G、56B、電子輸送層57が有機層に相当する。また、本実施形態では、発光層56Rは赤色を発する有機EL層、発光層56Gは緑色を発する有機EL層、発光層56Bは青色を発する有機EL層である。発光層56R、56G、56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極54と第2電極58とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0056】
有機EL層を発光素子単位に形成するためには、マスクを介して成膜する方法が用いられる。近年、表示装置の高精細化が進んでおり、有機EL層の形成には開口の幅が数十μmのマスクが用いられる。
【0057】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極54が形成された基板53を準備する。
【0058】
第1電極54が形成された基板53の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極54が形成された部分に開口部が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0059】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板53を保持し、正孔輸送層55を、表示領域の第1電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層55は表示領域51よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0060】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板53をマスクの上に載置し、基板53の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層56Rを成膜する。
【0061】
発光層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層56Gを成膜
し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層56Bを成膜する。発光層56R、56G、56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の発光層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0062】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜装置に移動し、第2電極58を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層60を成膜して、有機EL表示装置50が完成する。
【0063】
絶縁層59がパターニングされた基板53を成膜装置に搬入してから保護層60の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0064】
以上、本発明を実施するための形態を具体的に説明したが、前述の実施例は本発明の一つの例であり、本発明はこれらの実施例の構成に限定されず、本技術的思想の範囲内で適切に変形することができる。例えば、成膜装置内に配置される複数の蒸発源の数や各蒸発源(大径の蒸発源及び/又は小径の蒸発源)内に具備される複数のるつぼの数などは、設計に応じて適宜変更できる。例えば、大径の蒸発源23と小径の蒸発源24を共に配置する前述した他の実施例においては、図5において破線で示したように、成膜装置2内の対向する位置に他の小径の第2蒸発源24を更に配置することもできる。また、前述の実施例においては、各蒸発源の蒸着用るつぼは基板10の中心から同一距離の円C2上に配置されると説明したが、ここでの同一とは厳密な意味での数学的同一だけでなく、蒸着材料の種類などの設計条件によって多少のオフセットを付与することも含む。
【符号の説明】
【0065】
1:クラスタ装置
2:成膜装置
11:成膜室
20:真空チャンバー
21:基板保持ユニット
22:マスク台
23:第1蒸発源(大径)
24:第2蒸発源(小径)
25:蒸発源シャッタ
26:蒸発レートセンサー
231,241:るつぼ
232,242:蒸着用るつぼ(蒸着位置)
233,243:予備加熱用るつぼ(予備加熱位置)
50:有機EL表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7