IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAエレクトロニクス株式会社の特許一覧

特許7262234マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法
<>
  • 特許-マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20230414BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20230414BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20230414BHJP
   H01F 1/37 20060101ALI20230414BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230414BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
H01F1/11
H01F1/113
H01F1/34 180
H01F1/37
H05K9/00 M
C01G49/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019016006
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020123701
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山地 秀宜
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌大
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/163079(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052483(WO,A1)
【文献】特開2007-250823(JP,A)
【文献】特開2008-243972(JP,A)
【文献】特開2010-285334(JP,A)
【文献】特開平10-320744(JP,A)
【文献】特開2001-060314(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101698608(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103342552(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/11-1/113、1/34-1/37、41/02
C01G 49/00-49/08
C04B 35/26-35/40
G11B 5/62-5/82
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上、x=1.0~2.2)で示され、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)が5μm以下であり且つX線回折測定により求めた結晶子径Dxが90~120nmであることを特徴とする、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項2】
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末のBET比表面積が2m/g以下であることを特徴とする、請求項1に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項3】
前記BET比表面積と前記体積基準の累積50%粒径(D50)との積が5μm・m/g以下であることを特徴とする、請求項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項4】
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布において最も頻度の高い粒径であるピーク粒径が3μm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項5】
組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上、x=1.0~2.2)で示されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の原料となる粉末を混合し、造粒成形して得られた成形体を焼成し、得られた焼成体を粉砕して、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造する方法において、上面に開口部を有し且つ側面の上部に外部と連通する切り欠き部が形成された焼成用容器を複数用意し、各々の焼成用容器内に前記成形体を充填し、下側の焼成用容器の上面を塞ぐように焼成用容器を複数段に積み重ねた後、焼成炉内で焼成することを特徴とする、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記焼成用容器を4段以上に積み重ねることを特徴とする、請求項5に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記原料となる粉末が、Sr塩粉末と、Fe粉末と、Al粉末と、BaCl粉末であることを特徴とする、請求項5または6に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記焼成の温度が1150~1400℃であることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
前記焼成体の粉砕が、粗粉砕した後に湿式粉砕することによって行われることを特徴とする、請求項5乃至8のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項10】
前記焼成炉の内容積(L)に対する前記成形体中のClの質量(g)が0.25g/L以上であることを特徴とする、請求項5乃至9のいすれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末と樹脂を含むことを特徴とする、電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関し、特に、電波吸収体などの材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の高度化に伴い、携帯電話、無線LAN、衛星放送、高度道路交通システム、自動料金徴収システム(ETC)、走行支援道路システム(AHS)などの種々の用途でGHz帯域の電波が使用されている。このような高周波帯域で電波の利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、その対策の一つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射や侵入を防いでいる。
【0003】
特に昨今では、自動運転支援システムの研究が盛んになり、76GHz帯域の電波(ミリ波)を利用して車間距離などの情報を検知する車載レーダーの開発が進められ、これに伴って、76GHz付近で優れた電波吸収能を発揮する素材が求められている。
【0004】
このような電波吸収能を発揮する素材として、組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x=1.0~2.2)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-250823号公報(段落番号0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、今後、76GHz帯域の電波(ミリ波)の利用形態が多様化すると、特許文献1の電波吸収体用磁性粉体を材料として使用した電波吸収体でも、電波吸収能が十分でない場合も考えられ、さらに電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末が望まれている。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、76GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上、x=1.0~2.2)で示されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)を5μm以下にし且つX線回折測定により求めた結晶子径Dxを90nm以上にすることにより、76GHz帯域のミリ波の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末は、組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上、x=1.0~2.2)で示され、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)が5μm以下であり且つX線回折測定により求めた結晶子径Dxが90nm以上であることを特徴とする。
【0010】
このマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末のBET比表面積は2m/g以下であるのが好ましい。また、BET比表面積と体積基準の累積50%粒径(D50)との積は5μm・m/g以下であるのが好ましい。さらに、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布において最も頻度の高い粒径であるピーク粒径は3μm以下であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上、x=1.0~2.2)で示されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の原料となる粉末を混合し、造粒成形して得られた成形体を焼成し、得られた焼成体を粉砕して、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造する方法において、上面に開口部を有し且つ側面の上部に外部と連通する切り欠き部が形成された焼成用容器を複数用意し、各々の焼成用容器内に上記の成形体を充填し、下側の焼成用容器の上面を塞ぐように焼成用容器を複数段に積み重ねた後、焼成炉内で焼成することを特徴とする。
【0012】
このマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法において、焼成用容器を4段以上に積み重ねるのが好ましい。また、原料となる粉末が、Sr塩粉末と、Fe粉末と、Al粉末と、BaCl粉末であるのが好ましい。また、焼成の温度が1150~1400℃であるのが好ましい。さらに、焼成体の粉砕が、粗粉砕した後に湿式粉砕することによって行われるのが好ましい。また、焼成炉の内容積(L)に対する成形体中のClの質量(g)が0.25g/L以上であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による電波吸収体は、上記のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末と樹脂を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、76GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法の実施の形態において焼成用容器(焼成サヤ)を積み重ねて焼成炉内に配置した状態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の実施の形態は、組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上(好ましくはSrおよびBaの少なくとも1種)、x=1.0~2.2(好ましくは1.3~2.0))で示され、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)が5μm以下であり且つX線回折測定により求めた結晶子径Dxが90nm以上である。
【0017】
このように組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上、x=1.0~2.2)で示されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)を5μm以下(好ましくは1~5μm、さらに好ましくは2~4μm)にし且つX線回折測定により求めた結晶子径Dxを90nm以上(好ましくは90~180nm、さらに好ましくは100~120nm)にすれば、76GHz帯域のミリ波の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造することができる。また、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)を5μm以下にすれば、その磁性粉末を使用した電波吸収体シートの薄層化を図ることもできる。
【0018】
このマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末のBET比表面積は、2m/g以下であるのが好ましく、0.5~2m/gであるのがさらに好ましい。また、BET比表面積と体積基準の累積50%粒径(D50)との積(BET×D50)は5μm・m/g以下であるのが好ましく、4.5μm・m/g以下であるのがさらに好ましく、1.0~4.2μm・m/gであるのが最も好ましい。この積(BET×D50)が5μm・m/g以下であれば、磁性粉末の保磁力Hcを高く維持しながら、磁性粉末を使用した電波吸収体シートの透過減衰量を高く(電波吸収能を高く)することができる。また、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布において(最も頻度の高い粒径である)ピーク粒径が3μm以下であるのが好ましく、2.5μm以下であるのがさらに好ましく、1~2.5μmであるのが最も好ましい。
【0019】
上述したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の実施の形態は、本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造することができる。
【0020】
本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の製造方法の実施の形態では、組成式AFe(12-x)Al19(但し、AはSr、Ba、CaおよびPbからなる群から選ばれる1種以上(好ましくはSrおよびBaの少なくとも1種)、x=1.0~2.2(好ましくは1.3~2.0))で示されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の原料となる粉末(好ましくは、Sr塩粉末と、Fe粉末と、Al粉末と、BaCl(またはBaCl・2HO)粉末)を混合し、造粒成形して得られた(好ましくはペレット状の)成形体を焼成し、得られた焼成体を粉砕(好ましくはハンマーミルなどによる衝撃粉砕などによる粗粉砕した後に湿式粉砕)して、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造する方法において、上面に開口部を有し且つ側面の上部に外部と連通する切り欠き部が形成された焼成用容器を複数用意し、各々の焼成用容器内に成形体を充填し、下側の焼成用容器の上面を塞ぐように焼成用容器を複数段に積み重ねた後、焼成炉内において(好ましくは1150~1400℃で)焼成する。なお、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の原料となる粉末中のBaCl(またはBaCl・2HO)粉末の含有量は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の結晶成長の観点から、(BaCl・2HO粉末の場合はBaCl換算で)0.1質量%以上であるのが好ましい。一方、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の原料となる粉末中のBaCl(またはBaCl・2HO)粉末の含有量が高過ぎると、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末中にClが残存して好ましくないので、その含有量は20質量%以下であるのが好ましく、0.5~10質量%であるのがさらに好ましい。
【0021】
このように上面に開口部を有し且つ側面の上部に外部と連通する切り欠き部(図1に示す切り欠き部10a)が形成された焼成用容器(図1に示す焼成サヤ(焼成皿)10を複数(好ましくは4つ以上、さらに好ましくは4~20個、図1に示す実施の形態では5つ)用意し、各々の焼成用容器内に成形体を充填し、下側の焼成用容器の上面を塞ぐように焼成用容器を複数段(好ましくは4段以上、図1に示す実施の形態では5段)に積み重ねて、(好ましくは最上部の焼成用容器の上面の開口部を蓋(図1に示す蓋12)で塞いで)焼成炉(図1に示す焼成炉20)内で焼成(多段焼き)すれば、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積50%粒径(D50)が5μm以下で且つX線回折測定により求めた結晶子径Dxが90nm以上であるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造することができ、76GHz帯域のミリ波の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造することができる。なお、焼成用容器の切り欠き部は、図1に示す実施の形態では、側面の上部の略中央部に形成された略矩形の切り欠き部であるが、そのような形状の切り欠き部に限らず、焼成用容器の底面まで達する形状でなければ、様々な形状の切り欠き部にすることができる。また、焼成用容器の側面の全体の面積に対する切り欠き部の面積の割合は、76GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造するために、3~35%であるのが好ましく、10~25%であるのがさらに好ましい。
【0022】
このように原料粉末の成形体を(上部が閉鎖され且つ密閉されていない)多段の焼成用容器内で焼成すれば、原料粉末の成形体を充填した1つの焼成用容器だけを焼成炉内に配置して焼成(1段焼き)する場合と比べて、焼成炉の内容積に対する成形体中のBaClの量が多く(例えば、成形体を充填した焼成用容器を5つ積み重ねればBaClの量は5倍に)なるので、焼成温度で成形体から気化するBaClの量が多くなって、成形体が接触する焼成炉内の気体中のCl濃度が高くなり、気化と液化とは平衡反応であるので、焼成炉内の気体中のCl濃度が高くなれば、固体のBaClがそれ以上気化(揮発)し難くなり、揮発せずに(それぞれの焼成用容器に充填された)成形体中に残存するBaClの量も多くなり、このBaClが成形体中において溶液(フラックス)として有効に機能して、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の結晶が成長して結晶子径Dxが大きくなると考えられる。特に、上面に開口部を有し且つ側面の上部に外部と連通する切り欠き部が形成された下側の焼成用容器の上面を塞ぐように焼成用容器を複数段に積み重ねることにより、BaClが成形体中において溶液(フラックス)として有効に機能していると考えられる。なお、焼成炉内の気体中のCl濃度を高くするために、焼成炉の内容積(L)に対する原料粉末の成形体中のClの質量(g)は、0.25g/L以上であるのが好ましいが、成形体が接触する焼成炉内の気体中のCl濃度が高過ぎるとマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末中にClが残存して好ましくないことを考慮すると、0.3~2.5g/Lであるのがさらに好ましく、0.45~1.8g/Lであるのが最も好ましい。また、最上部の焼成用容器の上面の開口部を蓋(図1に示す蓋12)で塞いで焼成炉内で焼成すれば、最上部の焼成用容器内の成形体が晒される環境が、下側の焼成用容器内の成形体が晒される環境とほぼ同じ環境になり、最上部の焼成用容器内の焼成体からも、下側の焼成用容器内の焼成体から得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末と同様の特性のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を製造することができる。
【0023】
また、上述した実施の形態のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を樹脂と混練することにより、電波吸収体を製造することができる。この電波吸収体は、用途に応じて様々な形状にすることができるが、シート状の電波吸収体(電波吸収体シート)を作製する場合には、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を樹脂と混練して得られる電波吸収体素材(混練物)を圧延ロールなどにより所望の厚さ(好ましくは0.1~4mm、さらに好ましくは0.2~2.5mm)に圧延すればよい。また、電波吸収体素材(混練物)中のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末の含有量は、76GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体を得るために、70~95質量%であるのが好ましい。また、電波吸収体素材(混練物)中の樹脂の含有量は、電波吸収体素材(混練物)中にマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末を十分に分散させるために、5~30質量%であるのが好ましい。また、電波吸収体素材(混練物)中のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末と樹脂の合計の含有量は99質量%以上であるのが好ましい。
【実施例
【0024】
以下、本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
まず、原料粉末として469gのSrCO(純度99質量%)と279gのAl(純度99.9質量%)と2658gのFe(純度99質量%)と93gのBaCl・2HO(純度99質量%)を秤量し、この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のBaCl・2HOの質量割合は2.7質量%である。このようにして得られた混合粉末をペレット状に造粒成形して成形体を得た後、(幅:310mm、高さ:100mm、内部の底面積:300mm×300mm=900cm、内容積:300mm×300mm×100mm=9000cm、4つの側面の上部の中央部に形成された略矩形の切欠き部の面積:210mm×30mm×4=252cmの)焼成サヤ(焼成用容器)を5つ用意し、得られた成形体2kgを各々の焼成サヤに充填し、これらの焼成サヤを図1に示すように(内容積191Lの)箱型焼成炉内に5段に積み重ねて(最上部の焼成サヤを蓋で塞いで)入れ、大気中において1273℃(焼成温度)で4時間保持して焼成した。この焼成により得られた焼成体をハンマーミルで粗粉砕した後、得られた粗粉を(溶媒として水を使用して)アトライターにより10分間湿式粉砕し、得られたスラリーを固液分離し、得られたケーキを乾燥させ、解砕して磁性粉末を得た。なお、本実施例および以下に説明する実施例2では、5つの焼成サヤに充填した成形体中のClの質量は134.1gであり、焼成炉の内容積(L)に対する成形体中のClの質量(g)は0.70g/Lである。
【0026】
このようにして得られた磁性粉末について、BET比表面積および粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行って結晶子径Dxを求めた。
【0027】
磁性粉末のBET比表面積は、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb model-1210)を用いて、BET1点法で測定した。その結果、磁性粉末のBET比表面積は1.49m/gであった。
【0028】
磁性粉末の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子株式会社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))を使用して、分散圧1.7barで乾式分散させて測定し、平均粒径として体積基準の累積50%粒子径(D50)を求めたところ、2.69μmであった。また、最も頻度の高い粒径をピーク粒径とすると、ピーク粒径は2.2μmであった。また、BET比表面積と体積基準の累積50%粒子径(D50)との積は3.99μm・m/gであった。
【0029】
磁性粉末のX線回折測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製の水平型多目的X線回折装置Ultima IV)を使用して、線源をCuKα線、管電圧を40kV、管電流を40mA、測定範囲を2θ=10°~75°として、粉末X線回折法(XRD)により行った。このX線回折測定の結果、得られた磁性粉末は、マグネトプランバイト型六方晶フェライトであることが確認された。また、得られた磁性粉末は、原料の仕込み量の割合から、組成式SrFe(12-x)Al19(x=1.71、Srの一部がBaに置換)で表されると推定される。この結果は、以下に説明する実施例2および比較例1~3でも同様であった。
【0030】
磁性粉末の結晶子径Dxは、Scherrerの式(Dx=Kλ/βcosθ)によって求めた。この式中、Dxは結晶子径の大きさ(オングストローム)、λは測定X線の波長(オングストローム)、βは結晶子の大きさによる回折線の広がり(rad)(半価幅を用いて表す)、θは回折角のブラッグ角(rad)、KはScherrer定数(K=0.94とした)である。なお、計算には(114)面(回折角2θ=34.0~34.8°)のピークデータを使用した。その結果、磁性粉末の(114)面における結晶子径Dxは107.7nmであった。
【0031】
また、磁性粉末の磁気特性として、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業株式会社製のVSM-7P)を使用して、印加磁場1193kA/m(15kOe)でB-H曲線を測定し、保磁力Hc、飽和磁化σs、角形比SQの評価を行った。その結果、保磁力Hcは3654Oe、飽和磁化σsは32.5emu/g、角形比SQは0.624であった。
【0032】
また、得られた磁性粉末をその含有量が80質量%となるように高分子基材としてのニトリルゴム(NBR、JRS製のN215SL)と混練して電波吸収体素材(混練物)を作製し、この電波吸収体素材を圧延ロールにより厚さ2mmに圧延して、電波吸収体シートを得た。
【0033】
得られた電波吸収体シートについて、自由空間測定装置(キーコム株式会社製)とベクトルネットワークアナライザ(アンリツ株式会社製のME7838A)を使用して、自由空間法による電磁吸収特性として、S21パラメータによって透過する電磁波の強度を測定した。その結果、電磁吸収体シートのピーク周波数は77.3GHzであり、透過減衰量は28.0d
Bであった。
【0034】
[実施例2]
焼成温度を1284℃にした以外は、実施例1と同様の方法により、磁性粉末を作製し、BET比表面積および粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行って結晶子径Dxを求めた。その結果、磁性粉末のBET比表面積は1.43m/g、体積基準の累積50%粒子径(D50)は2.49μm、BET比表面積と体積基準の累積50%粒子径(D50)との積は3.57μm・m/g、ピーク粒径は2.2μmであり、結晶子径Dxは113.5nmであった。また、実施例1と同様の方法により、磁性粉末の磁気特性を評価したところ、保磁力Hcは3673Oe、飽和磁化σsは32.8emu/g、角形比SQは0.625であった。
【0035】
また、この磁性粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、電波吸収体シートを作製し、電磁吸収体シートのピーク周波数と透過減衰量を求めたところ、ピーク周波数は76.7GHzであり、透過減衰量は30.0dBであった。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様の方法により得られた成形体を1つの焼成サヤに充填し、その1つの焼成サヤの上部を蓋で塞がずに箱型焼成炉内に入れ、焼成温度を1150℃にした以外は、実施例1と同様の方法により、磁性粉末を作製した。なお、本比較例および以下に説明する比較例2および3では、焼成サヤに充填した成形体中のClの質量は26.8gであり、焼成炉の内容積(L)に対する成形体中のClの質量(g)は0.14g/Lである。
【0037】
また、この磁性粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積および粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行って結晶子径Dxを求めた。その結果、磁性粉末のBET比表面積は2.43m/g、体積基準の累積50%粒子径(D50)は2.54μm、BET比表面積と体積基準の累積50%粒子径(D50)との積は6.17μm・m/g、ピーク粒径は2.1μmであり、結晶子径Dxは82.7nmであった。また、実施例1と同様の方法により、磁性粉末の磁気特性を評価したところ、保磁力Hcは4365Oe、飽和磁化σsは33.8emu/g、角形比SQは0.623であった。
【0038】
また、この磁性粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、電波吸収体シートを作製し、電磁吸収体シートのピーク周波数と透過減衰量を求めたところ、ピーク周波数は74.4GHzであり、透過減衰量は19.6dBであった。
【0039】
[比較例2]
焼成温度を1200℃にした以外は、比較例1と同様の方法により、磁性粉末を作製し、BET比表面積および粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行って結晶子径Dxを求めた。その結果、磁性粉末のBET比表面積は2.08m/g、体積基準の累積50%粒子径(D50)は3.22μm、BET比表面積と体積基準の累積50%粒子径(D50)との積は6.70μm・m/g、ピーク粒径は2.4μmであり、結晶子径Dxは83.3nmであった。また、実施例1と同様の方法により、磁性粉末の磁気特性を評価したところ、保磁力Hcは4121Oe、飽和磁化σsは33.8emu/g、角形比SQは0.632であった。
【0040】
また、この磁性粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、電波吸収体シートを作製し、電磁吸収体シートのピーク周波数と透過減衰量を求めたところ、ピーク周波数は75.0GHzであり、透過減衰量は18.9dBであった。
【0041】
[比較例3]
焼成温度を1273℃にした以外は、比較例1と同様の方法により、磁性粉末を作製し、BET比表面積および粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行って結晶子径Dxを求めた。その結果、磁性粉末のBET比表面積は1.70m/g、体積基準の累積50%粒子径(D50)は6.27μm、BET比表面積と体積基準の累積50%粒子径(D50)との積は10.67μm・m/g、ピーク粒径は4.4μmであり、結晶子径Dxは95.4nmであった。また、実施例1と同様の方法により、磁性粉末の磁気特性を評価したところ、保磁力Hcは2849Oe、飽和磁化σsは34.4emu/g、角形比SQは0.634であった。
【0042】
また、この磁性粉末を用いて、実施例1と同様の方法により、電波吸収体シートを作製し、電磁吸収体シートのピーク周波数と透過減衰量を求めたところ、ピーク周波数は75.7GHzであり、透過減衰量は17.3dBであった。
【0043】
これらの実施例および比較例で得られた磁性粉末の製造条件および特性と電波吸収体シートの特性を表1~表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉末は、76GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体シートの作製に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 焼成サヤ
10a 切り欠き部
12 蓋
20 箱型焼成炉
図1