(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/54 20060101AFI20230414BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20230414BHJP
H05K 3/14 20060101ALI20230414BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20230414BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20230414BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C23C16/54
C23C16/44 J
H05K3/14 A
H01L21/90 P
H01L21/28 A
H01L21/285 C
(21)【出願番号】P 2019083521
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】園田 和広
(72)【発明者】
【氏名】畠中 正信
(72)【発明者】
【氏名】本田 和広
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001568(JP,A)
【文献】国際公開第2012/039107(WO,A1)
【文献】特開2011-009762(JP,A)
【文献】特開平06-104178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/54
C23C 16/44
H05K 3/14
H01L 21/768
H01L 21/28
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ロボットを備える搬送室と、搬送室に連設される少なくとも2個の処理室とを有する真空成膜装置にて、搬送室と隔絶された真空雰囲気の一の処理室にて被処理基板表面に第1金属含有膜を成膜する第1工程と、搬送ロボットにより成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出し、真空雰囲気の搬送室を経て他の処理室に搬送し、他の処理室にて搬送室と隔絶された真空雰囲気で第1金属含有膜表面に第2金属含有膜を成膜する第2工程とを含む成膜方法において、
成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出すのに先立って、搬送室を真空排気しながら不活性ガスを供給してこの搬送室を不活性ガス雰囲気に置換する置換工程を更に含
み、
前記置換工程は、搬送室が200Pa以上の所定圧力となる不活性ガス雰囲気を10分以上の所定時間維持することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記不活性ガスは8ナイン以上の純度の窒素ガスであることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ロボットを備える搬送室と、搬送室に連設される少なくとも2個の処理室とを有する真空成膜装置にて、真空雰囲気中にて被処理基板表面に第1金属含有膜と第2金属含有膜とを順次成膜するための成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、シリコンウエハ等の被処理基板表面に、銅、アルミニウムまたはチタンといった金属膜や、アルミニウムやチタンといった金属元素を含む窒化物膜または酸化物膜などの金属含有膜を真空雰囲気中で連続して成膜する工程があり、これには、次の真空成膜装置が広く利用されている(例えば特許文献1参照)。このものは、搬送ロボットを備える搬送室と、搬送室に連設される少なくとも2個の処理室とを有する。そして、搬送室と隔絶された真空雰囲気の一の処理室にて、スパッタリング法、ALD法やCVD法といった公知の成膜法により被処理基板表面に第1金属含有膜が成膜され(第1工程)、搬送ロボットにより成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出し、真空雰囲気の搬送室を経て他の処理室に搬送し、他の処理室にて搬送室と隔絶された真空雰囲気で第1金属含有膜表面に、上記と同様にして第2金属含有膜が成膜される(第2工程)。
【0003】
搬送室には、通常、大気雰囲気の被処理基板を搬入し、成膜済みの被処理基板を搬出するためにゲートバルブを介してロードロック室も連設されている。このため、ゲートバルブを開けた搬送室とロードロック室との連通時、ロードロック室から搬送室に酸素分子や水分子などが入り込み、これらの原子や分子は、搬送室が常時真空排気されていても、真空排気されずに搬送室にそのまま留まる。このような場合、成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出し、真空雰囲気の搬送室を経由して他の処理室に搬送する際に、第1金属含有膜表面が酸化する虞がある。そして、第1金属含有膜と第2金属含有膜との界面をなす第1金属含有膜表面が酸化すると、電気抵抗の上昇などの半導体デバイスの性能低下を招来するので、これを可及的に抑制する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、搬送室を経由するときの第1金属含有膜表面の酸化を可及的に抑制することができるようにした成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、搬送ロボットを備える搬送室と、搬送室に連設される少なくとも2個の処理室とを有する真空成膜装置にて、搬送室と隔絶された真空雰囲気の一の処理室にて被処理基板表面に第1金属含有膜を成膜する第1工程と、搬送ロボットにより成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出し、真空雰囲気の搬送室を経て他の処理室に搬送し、他の処理室にて搬送室と隔絶された真空雰囲気で第1金属含有膜表面に第2金属含有膜を成膜する第2工程とを含む本発明の成膜方法は、成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出すのに先立って、搬送室を真空排気しながら不活性ガスを供給してこの搬送室を不活性ガス雰囲気に置換する置換工程を更に含むことを特徴とする。この場合、前記置換工程は、搬送室が200Pa以上の所定圧力となる不活性ガス雰囲気を10分以上維持することが好ましい。なお、不活性ガス雰囲気とするときの搬送室の圧力の上限は、搬送室を真空排気するために備えられるドライポンプなどの低圧ポンプの実効排気速度等を考慮して、また、不活性ガス雰囲気を維持する時間の上限は、量産性(タクトタイム)などを考慮して適宜設定される。また、不活性ガスとしては、8ナイン以上の純度の窒素ガスを好適に用いることができる。
【0007】
以上によれば、成膜済みの被処理基板を一の処理室から取り出すのに先立って、搬送室内に、その内圧が200Pa以上となる流量で不活性ガスを導入するため、搬送室内に留まる酸素分子や水分子などが不活性ガスと共に搬送室から排出(真空排気)される。このとき、不活性ガス雰囲気を10分以上の所定時間維持すれば、搬送室に留まる酸素分子や水分子などを効果的に排出できることが確認された。これにより、搬送室を経由するときの第1金属含有膜表面の酸化を可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の成膜方法を実施する真空成膜装置を示す模式図。
【
図2】(a)及び(b)は、本発明の効果を確認する実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、被処理基板をシリコンウエハ(以下「基板Sw」という)とし、搬送ロボットを備える搬送室と、搬送室に連設される2個の処理室とを有する真空成膜装置にて、基板Sw表面に、第1金属含有膜たるAl膜と第2金属含有膜たるTiN膜とを順次成膜する場合を例に、本発明の実施形態の成膜方法について説明する。
【0010】
図1を参照して、真空成膜装置VMは、中央の搬送室Tを備え、この搬送室Tに基板Swを搬送する搬送ロボットRが配置されている。搬送ロボットRとしては、所謂フロッグレッグ式の公知のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。搬送室Tの周囲にはまた、ロードロック室Lcと、Al膜を成膜する第1処理室Pc1と、TiN膜を成膜する第2処理室Pc2とがゲートバルブGv1,Gv2,Gv3を介して夫々取り付けられている。搬送室Tには、排気管11を介して真空ポンプP1が接続されると共に、マスフローコントローラなどの流量調整弁12を介在させた不活性ガス導入管13が接続され、搬送室Tを所定圧力に真空排気し、及び、搬送室Tを真空排気しながら、搬送室Tを所定圧力の不活性ガス雰囲気にできるようにしている。不活性ガスとしては、窒素ガスの他、アルゴンやヘリウムといった希ガスが利用される。真空ポンプP1としては、搬送室Tを比較的高圧の不活性ガス雰囲気とするため、例えば数Pa程度まで真空排気可能なドライポンプ等の低真空ポンプが用いられる。
【0011】
ロードロック室Lcには、ドライポンプ等の低真空ポンプP2が接続されると共に、ベントラインVLが接続され、ロードロック室Lcを真空雰囲気と大気雰囲気とに適宜切り換えることができるようにしている。一方、第1及び第2の両処理室Pc1,Pc2には、特に図示して説明しないが、ALD法によりAl膜及びTiN膜を夫々成膜するための、ドライポンプやターボ分子ポンプ(高真空ポンプ)などで構成される真空ポンプユニット、ガス供給手段や加熱手段といった部品が備えられる。このような部品は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0012】
上記真空成膜装置VMは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段Cuを有し、制御手段Cuにより搬送ロボットRの稼動、ゲートバルブGv1~Gv3の稼働や低真空ポンプP1,P2及び真空ポンプユニットの稼働等を統括制御するようになっている。以下に、上記真空成膜装置VMを用い、基板Sw表面にAl膜とTiN膜とを順次成膜する場合を例に、本発明の成膜方法の実施形態について説明する。
【0013】
搬送室T及び両処理室Pc1,Pc2を、予め所定圧力まで真空排気する。搬送室Tは、真空排気された後、流量調整弁12を開弁して所定の流量(例えば、1000~3000sccm)で不活性ガスが導入される。このとき、その内圧が200Pa以上の所定圧力に維持されるように流量調整弁12の開度が制御され、この不活性ガス雰囲気を10分以上の所定時間維持する(置換工程)。その後、大気雰囲気のロードロック室Lcに、処理前の基板Swを収容し、ロードロック室Lcを真空排気する。このとき、搬送室T及び両処理室Pc1,Pc2は、予め所定圧力まで真空排気されている。そして、ロードロック室Lcが所定圧力に達すると、各ゲートバルブGv1,Gv2を開けて搬送ロボットRによりロードロック室Lcから基板Swを取り出し、取り出した処理前の基板Swを、搬送室Tを経て第1処理室Pc1に搬送する。このとき、搬送室Tは置換工程時の圧力が保持されている。処理前の基板Swが第1処理室Pc1に搬入されると、各ゲートバルブGv1,Gv2を閉めて、搬送室Tと第1処理室Pc1とを隔絶した後、第1処理室Pc1が所定圧力まで再度真空排気されると、ALD法により基板Swの表面にAl膜が成膜される(第1工程)。これと同時に、大気雰囲気のロードロック室Lcには、処理前の他の基板Swを収容した後、上記同様に真空排気される。なお、置換工程における圧力が200Pa未満であったり維持時間が10分未満であったりすると、後述の如く第1処理室Pc1から搬送室Tを経て第2処理室Pc2に基板Swを搬送する際に、第1工程で成膜されたAl膜の表面が酸化されるという問題がある。不活性ガス雰囲気とするときの搬送室Tの圧力の上限は、低真空ポンプP1の実効排気速度等を考慮して適宜設定され、また、不活性ガス雰囲気を維持する時間の上限は、量産性(タクトタイム)などを考慮して適宜設定される。
【0014】
次に、第1処理室Pc1でのAl膜の成膜が完了した後、ゲートバルブGv2を開けて、搬送ロボットRにより第1処理室Pc1から処理済みの基板Swを取り出し、搬送室Tを経て第2処理室Pc2に搬送する。このとき、搬送ロボットRによりロードロック室Lcから他の基板Swを取り出し、取り出した処理前の基板Swを、搬送室Tを経て第1処理室Pc1に搬送する。上記操作を繰り返して複数枚の基板Swに対して成膜が行われる。
【0015】
以上の実施形態によれば、成膜済みの基板Swを第1処理室Pc1から取り出すのに先立って、搬送室T内に、その内圧が200Pa以上となる流量で不活性ガスを導入するため、搬送室T内に留まる酸素分子や水分子などが不活性ガスと共に搬送室Tから排出(真空排気)される。このとき、不活性ガス雰囲気を10分以上維持すれば、搬送室Tに留まる酸素分子や水分子などを効果的に排出できることが確認された。これにより、搬送室Tを経由するときのAl膜表面の酸化を可及的に抑制することができる。
【0016】
次に、上記効果を確認するために、上記真空成膜装置VMを用いて次の実験を行った。即ち、発明実験では、基板Swとしてシリコンウエハを用い、ロードロック室Lcから第1処理室Vc1に基板Swを搬送し、第1処理室Vc1にて、基板Swを400℃に加熱しながら、TMA(トリメチルアルミニウム)をキャリアガス(アルゴンガス)と共に導入し(このときの第1処理室Vc1の圧力は200Pa)、ALD法によりAl膜を20nmの膜厚で成膜した。この成膜済みの基板Swを第1処理室Vc1から取り出すのに先立って(本発明実験では、第1処理室Vc1での成膜終了時刻の10分前から)、搬送室Tを真空排気しながらアルゴンガスを供給し、搬送室Tの圧力が200Paとなる不活性ガス雰囲気を10分間維持した(置換工程)。このように不活性ガス雰囲気を10分間維持した後もアルゴンガスの供給を維持し、ゲートバルブGv2,Gv3を開けて、第1処理室Pc1から成膜済みの基板Swを取り出し、搬送室Tを経由して第2処理室Pc2に搬送した。両ゲートバルブGv2,Gv3を閉じて、第2処理室Pc2にて、基板Swを400℃に加熱しながら、TiCl
4(四塩化チタン)をキャリアガス(アルゴンガス)と共に導入して(このときの処理室Pc2の圧力は200Pa)Ti層を形成する工程と、アンモニアガスを導入してTi層を窒化する工程とを1サイクルとし、このサイクルを所定回数繰り返してAl膜表面にTiN膜を10nmの膜厚で成膜した。このように基板Sw表面にAl膜とTiN膜とを順次成膜したものを発明品とし、この発明品をX線光電子分光法(XPS)により分析した結果を
図2(a)に示す。これによれば、Al膜とTiN膜との界面における酸素濃度が低く、当該界面をなすAl膜表面の酸化を十分に抑制できたことが確認された。
【0017】
次に、上記発明実験に対する比較実験として、搬送室Tを不活性ガス雰囲気に置換する置換工程を行わない点(即ち、搬送室Tは真空排気されるだけである点)を除いて、上記発明実験と同様の方法で、基板Sw表面にAl膜とTiN膜とを順次成膜したものを比較品とし、この比較品を上記X線光電子分光法により分析した結果を
図2(b)に示す。これによれば、Al膜とTiN膜との界面における酸素濃度が上記発明品よりも高く、当該界面をなすAl膜表面が酸化されていることが確認された。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、第1金属含有膜がAl膜、第2金属含有膜がTiN膜である場合を例に説明したが、これら第1及び第2の金属含有膜としては、例えばCu、Ti、W、Ta、Co、Ni等からなる金属膜(2種以上の金属からなる合金膜を含む)や、TaN、WN等の金属元素を含む窒化物膜や酸化物膜や酸窒化物膜を用いることができる。
【0019】
上記実施形態では、ALD法によりAl膜及びTiN膜を成膜する場合を例に説明したが、成膜方法はこれに限られず、例えばスパッタリング法やCVD法等の公知の成膜方法により成膜する場合にも本発明を適用することができる。第1金属含有膜(Al膜)をスパッタリング法により成膜し、スパッタガスとして置換工程で使用されるガス(アルゴンガス及び/又は窒素ガス)と同種のガスを用いる場合には、第1処理室Vc1での成膜後にスパッタガスを排気せず(つまり成膜終了直後に)ゲートバルブGv2を開けることができる。これにより、従来の搬送室Tを真空排気する場合よりもタクトタイムを向上することができる。
【0020】
上記実施形態及び発明実験では、搬送室Tにアルゴンガスを供給しているが、アルゴンガス以外の希ガスや窒素ガスを供給してもよく、アルゴンガスよりも安価な窒素ガスを好適に供給することができる。但し、窒素ガスの純度が低いと、窒素ガスに含まれる不純物によってAl膜表面が酸化される虞があることから、窒素ガスとしては8ナイン以上の高純度のものを用いることが好ましい。
【0021】
また、上記実施形態及び発明実験では、置換工程終了後も流量調整弁12を開弁してアルゴンガスの供給を維持しているが、第1処理室Pc1の処理圧力によっては、流量調整弁12を閉弁してもよい。
【符号の説明】
【0022】
Pc1…第1処理室(一の処理室)、Pc2…第2処理室(他の処理室)、R…搬送ロボット、Sw…基板(被処理基板)、T…搬送室、VM…真空成膜装置。